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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02F
管理番号 1376755
異議申立番号 異議2020-700699  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-15 
確定日 2021-07-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6669218号発明「調光ユニット、および、透明板付調光ユニット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6669218号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6669218号(以下「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成30年9月3日に出願され、令和2年3月2日にその特許権の設定登録がされ、同年3月18日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年 9月15日 : 特許異議申立人 遠藤 眞理子(以下「
申立人」という。)による特許異議の申
立て
令和2年12月 4日付け : 取消理由通知(同年12月9日発送)
令和3年 2月 5日 : 特許権者による意見書の提出
令和3年 4月22日 : 申立人による意見書の提出

第2 特許異議の申立てについて
1 本件発明
請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
高分子ネットワークが有する空隙に液晶組成物を保持する調光層、および、当該調光層を挟む一対の透明電極層を備える調光シートと、
前記調光シートよりも大きい外形を有する支持基材と、
前記支持基材上において前記調光シートの外縁に沿って延びて前記調光シートの端面を覆い、前記調光シートの外部から前記調光層の内部に向けて水分が浸入することを抑える被覆部と、
各透明電極層に1つずつ接続して、前記支持基材の外側まで延びる一対の配線部と、
各配線部と前記支持基材との間に1つずつ位置して、各配線部を前記支持基材に貼り付ける防水性粘着層と、を備え、
前記調光シートの表面と対向する平面視にて前記調光シートが前記支持基材の内側に位置した状態で、前記調光シートが前記支持基材に取り付けられている
調光ユニット。
【請求項2】
前記被覆部は、防水テープ、EVA系もしくはEMMA系のホットメルト接着剤、または、熱圧着シートから構成されている
請求項1に記載の調光ユニット。
【請求項3】
前記被覆部が第1被覆部であり、
前記調光ユニットは、前記第1被覆部から前記支持基材の表面に沿って延びる第2被覆部をさらに備える
請求項1または2に記載の調光ユニット。
【請求項4】
前記被覆部が第1被覆部であり、
前記調光ユニットは、前記第1被覆部から前記調光シートの表面に沿って延びる第3被覆部をさらに備える
請求項1?3のいずれか一項に記載の調光ユニット。
【請求項5】
前記調光シートは、前記透明電極層と電源とを接続するための配線部が接続される配線領域を有し、
前記調光ユニットは、前記調光シートに対して前記支持基材とは反対側から前記配線領域を覆う配線防水部を備える
請求項1?4のいずれか一項に記載の調光ユニット。
【請求項6】
前記支持基材における前記調光シートが取り付けられている面とは反対側の面に位置する透明粘着層をさらに備える
請求項1?5のいずれか一項に記載の調光ユニット。
【請求項7】
請求項6に記載の調光ユニットと、
透明板と、を備え、
前記調光ユニットの前記透明粘着層が前記透明板に貼り付けられている
透明板付調光ユニット。」

2 取消理由の概要
当審において、請求項1?7に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)新規性
本件特許の請求項1?7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、よって、これらの請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)進歩性
本件特許の請求項1?7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの請求項に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

甲第1号証 特開2011-227400号公報
甲第2号証 特開平2-24630号公報
甲第3号証 特開平6-186540号公報

3 取消理由通知に記載した取消理由(新規性進歩性)について
(1)各甲号証の記載
ア 甲第1号証(特開2011-227400号公報)
甲第1号証は、本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であり、図とともに以下の記載がある(下線部は当審で付加した。以下同様。)。
(ア)
「【0002】
近年、液晶フィルムや調光フィルム等の調光素子をガラス基板等で積層した調光窓が、オフィス、医療施設又は商業施設等の窓や間仕切り等に利用されている。
【0003】
本来、液晶フィルムは、フィルム基板の周縁部にシール材が配設され、内部への空気や水分等の浸入を抑制し、液晶層と空気や水分等との接触を防止していた。しかし、調光窓のように大型向けの液晶フィルムでは、一対のガラス基板間において、ガラス合わせに使用する接着剤(中間膜等)により液晶フィルムを密閉するため、部材点数、製造工程及び製造コストの削減を図り、シール材を用いない液晶フィルムも存在する。
【0004】
このシール材を用いない液晶フィルムは、中間膜により調光窓の外部からの空気や水分等の浸入は防止できるのであるが、液晶フィルムの液晶層と中間膜とが直接接触するため、中間膜に含まれる可塑剤により液晶層が侵され、液晶フィルムの周縁部近傍の液晶層が劣化するという問題が生じていた。
・・・(中略)・・・
【0010】
本発明は、前述のような課題を解決するためになされたもので、可塑剤を含む中間膜による液晶層の劣化(表示品位の低下)を防止すると共に、調光構造体を製造するうえで作業性を向上することができる封止テープ、その封止テープを用いた調光構造体及びその製造方法を提供するものである。」
(イ)
「【0014】
(本発明の第1の実施形態)
封止テープ10は、図1に示すように、帯状の基材11と、基材11の長手方向における両縁部11aに粘着剤を配設して形成される粘着部12と、粘着部12が形成される面における基材11の両縁部11a間の領域であり、基材11の長手方向に延在する基材露出部11bと、基材11の両縁部11aにある粘着部12をそれぞれ被覆する2枚の剥離材13と、を備える。
【0015】
基材11は、透明性、電気絶縁性、可撓性、強靭性、耐熱性、耐寒性又は耐化学薬品性等を有するフィルムであり、例えば、ポリエステルフィルム、特に、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate:PET)フィルムである。なお、本実施形態に係る基材11は、東レ株式会社製「ルミラー(登録商標)」を、幅6mmとして用いている。
・・・(中略)・・・
【0022】
調光構造体100は、図4(b)及び図5に示すように、少なくとも一の基板が透明性を有し、透明電極22がそれぞれ配設される絶縁性を有する一対の絶縁性基板21及び当該一対の絶縁性基板21間に挟持される調光層23を備える調光素子20と、一対の絶縁性基板21の周縁部に配設される封止テープ10と、可塑剤を含む中間膜30と、透明性及び剛性を有し、中間膜30を介して調光素子20を挟持する基板(以下、透明剛性基板40と称す)と、を備える。
【0023】
なお、封止テープ10は、剥離材13が剥離されており、基材露出部11bが一対の絶縁性基板21の周縁部における調光層23に対向して配設され、粘着部12が絶縁性基板21に対して基材11を貼着させる。
【0024】
また、本実施形態に係る透明剛性基板40は、ガラス基板を用いているが、透明性及び剛性を有する基板であれば、ガラス基板に限られるものではない。
【0025】
また、調光素子20は、一対の絶縁性基板21が互いに対向しない領域において露出する透明電極22に電気的に接続され、透明電極22に電圧を印加して調光層23の透明状態及び不透明状態を制御する図示しない外部装置(電源回路等)の配線に電気的に接続するための接続端子24を備える。
【0026】
なお、以下の説明においては、一対の絶縁性基板21として両基板とも透明性を有する絶縁性基板(透明絶縁性基板)を用い、調光層23として液晶層23aを用いた、調光素子20(液晶フィルム)について説明するが、この構造に限られるものではない。
【0027】
・・・(中略)・・・
【0035】
さらに、液晶層23aをコレステリック液晶と高分子マトリックス(透明樹脂)からなる自己保持型液晶複合体とした場合には、高分子の骨格中にコレステリック液晶がドロップレット状に分散されたPDLC(polymer dispersed liquid crystal)構造を用いることができる。なお、PDLC構造には、コレステリック液晶の連続相中に網目状の樹脂を含むPNLC(polymer network liquid crystal)構造や、ネマチック曲線配向相(nematic curvilinear aligned phase:nCap)構造等がある。
【0036】
このPDLC構造は、高分子と液晶とを相分離させる既存の方法、例えば、PIPS(Polymerization Induced Phase Separation)法、エマルジョン法、TIPS(Thermally Induced Phase Separation)法、又はSIPS(Solvent Induced Phase Separation)法等によって形成することができる。
【0037】
なお、本実施形態に係る液晶層23aは、PNLC構造であるが、前述した可塑剤による液晶層の劣化は、PNLC構造に生じる現象であり、本実施形態に係る封止テープ10は、PNLC構造の液晶層23aに特に有用である。
【0038】
接続端子24は、金属(例えば、金、銀、銅、アルミニウム、鉄)、炭素、これらを高分子中に分散させた複合体、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン系、ポリアニリン系)等で形成された端子である。なお、本実施形態に係る接続端子24は、住友スリーエム株式会社製「導電性テープ(片面粘着)、銅箔エンボス」を用い、導電性テープの一端を絶縁性基板21の端面に合わせて導電性テープの粘着面を透明電極22に貼着させ、導電性テープの他端を屈曲させて絶縁性基板21から突出させている。
【0039】
中間膜30は、合わせガラスの中間膜として、ガラス基板との接着強度及び透明性(全光線透過率)の性能を有する樹脂であり、例えば、エチレン酢酸ビニル(Ethylene vinyl acetate:EVA)共重合体樹脂をフィルム状にした感熱型接着性フィルムを用いて形成する。なお、本実施形態に係る中間膜30は、2枚の感熱型接着性フィルムの中間に調光素子20を挟持させ、一対の透明剛性基板40による合わせガラスを成形している。」
(ウ)
「【0040】
つぎに、本実施形態に係る調光構造体100の製造方法、特に、調光素子20に封止テープ10を貼着させる貼着工程について、図2乃至図5を用いて説明する。なお、調光素子20は、絶縁性基板21の周縁部にシール材を配設していない既存の液晶フィルムであり、ここでの調光素子20の製造方法の詳細な説明は省略する。
【0041】
絶縁性基板21は、図2(a)に示すように、対向する2辺の一部が切り欠かれ、ハーフカットライン21aが形成されると共に、一方の面のほぼ全領域(全面)に透明電極22が配設され、透明電極22に接続端子24である導電性テープが貼着されている。
【0042】
また、一の絶縁性基板21は、透明電極22が配設された面上に、所定の割合で混合されたコレステリック液晶と高分子マトリックス(透明樹脂)の混合液が滴下され、図2(b)に示すように、透明電極22及び接続端子24が配設された他の絶縁性基板21を互いの透明電極22が対向するように重ね合わされ、ラミネートされる。
【0043】
・・・(中略)・・・
【0048】
特に、封止テープ10の基材露出部11b(例えば、基材11の両縁部11aから等間隔の位置)をハーフカットライン21aに重畳させると共に、調光素子20の側面20bに対して内側の位置(例えば、内側1mm)から、切欠部20aを跨り、ハーフカットライン21aに沿って封止テープ10を配設させる。
【0049】
このように、封止テープ10の基材露出部11bをハーフカットライン21aに重畳させることにより、封止テープ10の粘着部12と液晶層23aとが接触することなく、可塑剤による液晶層23aの劣化を防止することができる。
【0050】
また、封止テープ10の一端が調光素子20の側面20bに対して内側の位置であることにより、封止テープ10の一端にある粘着部12と調光素子20の側面20bにある液晶層23aとが接触することなく、可塑剤による液晶層23aの劣化を防止することができる。
【0051】
なお、本実施形態においては、切欠部20aを跨り、ハーフカットライン21aに沿って封止テープ10を配設させるため、第1の貼着工程の「一の絶縁性基板21に対して」又は第2の貼着工程の「他の絶縁性基板21に対して」のいずれか一方は、「他の絶縁性基板21上の透明電極22及び接続端子24並びに一の絶縁性基板21に対して」を意味することになる。特に、第2の貼着工程の「他の絶縁性基板21に対して」を「他の絶縁性基板21上の透明電極22及び接続端子24並びに一の絶縁性基板21に対して」とし、切欠部20aを跨らず段差のない一の絶縁性基板21から先に封止テープ10を貼り付けることになり、調光構造体100を製造するうえでの作業性を向上させることができる。
【0052】
そして、封止テープ10を配設した調光素子20を裏返し、図3(b)に示すように、前述した第1の貼着工程及び第2の貼着工程と同様に、調光素子20の4辺のうち、接続端子24が突出する辺側にあるハーフカットライン21a上に封止テープ10を貼着させる。この場合に、調光素子20の表裏にある各封止テープ10は、少なくとも切欠部20aで重畳させ、切欠部20aにおけるハーフカットライン21aを表裏から被覆し、切欠部20aにおけるハーフカットライン21aにある液晶層23aと中間膜30とが接触することなく、可塑剤による液晶層23aの劣化を防止することができる。
【0053】
そして、図4(a)に示すように、前述した第1の貼着工程及び第2の貼着工程と同様に、調光素子20の4辺のうち、接続端子24が突出していない辺側に封止テープ10を貼着させる。
【0054】
この場合には、ハーフカットライン21aに沿って既に貼着されている封止テープ10(以下、端子側封止テープ10aと称す)の一端に、新たに貼着する封止テープ10(以下、非端子側封止テープ10bと称す)の基材露出部11bを重畳させると共に、非端子側封止テープ10bの両端がハーフカットライン21aの外側の位置にそれぞれ配設される。
【0055】
このように、端子側封止テープ10aの一端に非端子側封止テープ10bの基材露出部11bを重畳させることにより、非端子側封止テープ10bの粘着部12とハーフカットライン21aとの間に、端子側封止テープ10aを介在させることになり、非端子側封止テープ10bの粘着部12と液晶層23aとが接触することなく、可塑剤による液晶層23aの劣化を防止することができる。
【0056】
また、非端子側封止テープ10bの両端がハーフカットライン21aの外側の位置にそれぞれ配設されることにより、調光素子20の側面20bにある液晶層23aが非端子側封止テープ10bで被覆され、中間膜30と調光素子20の側面20bにある液晶層23aとが接触することなく、可塑剤による液晶層23aの劣化を防止することができる。」
(エ)
「【0057】
つぎに、一の透明剛性基板40上に、中間膜30となる感熱型接着性フィルム、調光素子20、中間膜30となる感熱型接着性フィルム、及び他の透明剛性基板40を順に積層して、所定の環境下(温度、気圧等)で加熱し、感熱型接着性フィルムを溶解させる。
【0058】
そして、溶解した感熱型接着性フィルムを凝固させ、一対の透明剛性基板40間に中間膜30を介して調光素子20が固着され、図4(b)及び図5に示すように、本実施形態に係る調光構造体100を得ることができる。」
(オ)図4及び図5は次のものである。
図4

図5

(カ)上記(ア)?(エ)の記載とともに上記図4及び図5を参照すると、透明剛性基板40の外形は,平面視で調光素子20よりも大きく、調光素子20は、平面視で、透明剛性基板40の外郭よりも内側に位置し、また、接続端子24は、一対の透明剛性基板40間の中間膜30から外部に導出されているものと見て取れる。

(キ)以上から、甲第1号証には次の発明が記載されているものと認められる(以下「甲1発明」という。)。
「調光構造体100であって、
調光構造体100は、少なくとも一の基板が透明性を有し、透明電極22がそれぞれ配設される絶縁性を有する一対の絶縁性基板21及び当該一対の絶縁性基板21間に挟持される調光層23を備える調光素子20と、一対の絶縁性基板21の周縁部に配設される封止テープ10と、可塑剤を含む中間膜30と、透明性及び剛性を有し、中間膜30を介して調光素子20を挟持する透明剛性基板40と、を備え、(段落【0022】)
封止テープ10は、基材露出部11bが一対の絶縁性基板21の周縁部における調光層23に対向して配設され、粘着部12が絶縁性基板21に対して基材11を貼着させ、(段落【0023】)
調光素子20は、一対の絶縁性基板21が互いに対向しない領域において露出する透明電極22に電気的に接続され、透明電極22に電圧を印加して調光層23の透明状態及び不透明状態を制御する外部装置(電源回路等)の配線に電気的に接続するための接続端子24を備え、(段落【0025】)
調光層23は、高分子の骨格中にコレステリック液晶がドロップレット状に分散されたPDLC(polymer dispersed liquid crystal)構造であり、(段落【0026】、【0035】?【0037】)
中間膜30は、合わせガラスの中間膜として、ガラス基板との接着強度及び透明性(全光線透過率)の性能を有する樹脂であり、例えば、エチレン酢酸ビニル(Ethylene vinyl acetate:EVA)共重合体樹脂をフィルム状にした感熱型接着性フィルムを用いて形成され、(段落【0039】)
透明剛性基板40の外形は,平面視で調光素子20よりも大きく、調光素子20は、平面視で、透明剛性基板40の外郭よりも内側に位置し、また、接続端子24は、一対の透明剛性基板40間の中間膜30から外部に導出されているものである、(上記ア(カ))
調光構造体100。」

イ 甲第2号証(特開平2-24630号公報)
甲第2号証は、本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であり、図とともに以下の記載がある。
(ア)
「【特許請求の範囲】
(1)電極付の基板間に液晶物質を分散させた樹脂マトリックス体によるフィルム状液晶層を挟持し、電圧によってその光の透過状態を制御する液晶光学素子において、その側面を絶縁性のシール材でシールしたことを特徴とする液晶光学素子。
(2)請求項1の液晶光学素子において、その非端子側側面は少なくとも上側基板の上面から下側基板の下面までカバーするコの状の粘着材または接着材付のプラスチックフィルムでシールされ、端子側側面は硬化化合物を硬化させたシール材でシールされていることを特徴とする補強液晶光学素子。
(3)電極付の基板間に液晶物質を分散させた樹脂マトリックス体によるフィルム状液晶層を挟持し、電圧によってその光の透過状態を制御する液晶光学素子であって、基板上の電極が液晶光学素子の側方に延長された端子に接続された液晶光学素子を用い、その側面を絶縁性のシール材でシールし、その液晶光学素子よりも面積の大きな2枚の保護板の間に接着材を介して挟持し、その接着材により接着して一体化して、延長された端子の端部のみが一対の保護板の端部から露出するようにしたことを特徴とする補強液晶光学素子。」
(イ)
「[産業上の利用分野]
本発明は、電極付の基板間に液晶物質を分散させた樹脂マトリックス体によるフィルム状液晶層を挟持し、電圧の印加によりその透過率を制御する液晶光学素子、補強液晶光学素子及びその製造方法並びにそれを使用した調光装置に関するものである。
・・・(中略)・・・
[発明の解決しようとする課題]
このため、このような液晶光学素子は、そのまま使用されてもあまり問題がない、特に、その両面に保護板を積層し、ポリビニルブチラール等の接着材で接着して封止した場合には、湿気の多い環境下で使用しても問題がないと思われていた。
しかし、ポリビニルブチラール等の接着材で接着した場合に、長期的な安定性、信頼性等に問題のあることが判明してきた。」(2ページ左上欄5行?同ページ左下欄9行)
(ウ)
「本発明の液晶光学素子は、その側面が絶縁性のシール材でシールされているため、フィルム状液晶層に対する周囲環境による影響が少なくなり、信頼性が向上し、かつ、上下両基板間の接着性も向上するため、はがれも生じにくくなるという利点も有している。
特に、液晶光学素子の両面に保護板を接着して用いる場合にも、それに使用する接着材に合せガラスで実績の高いポリビニルブチラールが使用でき、フィルム状液晶層の信頼性、端子部分の露出電極の信頼性、液晶光学素子と保護板との密着性等が向上し、長期間にわたり、安定で信頼性の高いものとなる。
この場合、特に、液晶光学素子の基板上の電極が側方に延長された端子に接続されるようにし、その液晶光学素子よりも面積の大きな2枚の保護板の間に接着材を介して挟持して接着することにより、延長された端子の端部のみが一対の保護板の端部から露出するようにでき、導電接続は容易であり、調光装置側面からの外力による破損、水分侵入等を防止でき、信頼性は一段と高くなる。
また、接着材として、シート状接着材を使用する、特に熱または光により接着力が生じる接着材を使用することにより、生産プロセスが容易になり、生産性が極めて高くなる。
本発明の液晶光学素子としては、電極付の基板間に液晶物質を分散させた樹脂マトリックス体によるフィルム状液晶層を挟持し、電圧の印加によりその透過率を制御する液晶光学素子が使用できる。
この電極付の基板としては、通常透明電極付の透明基板、具体的にはITO(In_(2)O_(3)-SnO_(2))、SnO_(2)等の透明電極付のガラス、プラスチック等の透明基板が使用できる。もっとも、反射型液晶光学素子、調光鏡のような用途の場合には一方の電極を反射電極としたり、一方の基板を不透明な基板や金属基板としてもよい。さらにこの透明電極に金属の細線等の低抵抗リードを積層したり、配線したりしてもよい。
フィルム状液晶層は、液晶物質が、樹脂マトリックス中に分散した構造を有し、電圧の印加によって、その光の透過状態を制御可能なものが使用でき、透明状態と散乱状態との間で変化するもの、色の変化するもの、光の透過率が変化するもの等があり、いずれも適用できる。
これには、液晶物質がマイクロカプセルに封入されたものや、網目状の樹脂の多孔質マトリックス中に液晶物質が含浸されたような構造ものがある。」(3ページ左上欄8行?同ページ左下欄17行)
(エ)
「本発明では、この液晶光学素子の側面に絶縁性のシール材を供給し、シールを行う。
このシール材としては、加工性、信頼性の面から熱もしくは光により硬化する硬化性化合物や、粘着材もしくは接着材付のプラスチックフィルム等がある。
この単体で用いる硬化性化合物としては、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系等の樹脂がある。特に、異種物質の拡散係数の小さいものが好ましく、高い架橋密度を有するものが好ましい。
また、粘着材もしくは接着材付のプラスチックフィルムとしては、ポリエステル、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン等のプラスチックフィルムが使用でき、その粘着材もしくは接着材としてはアクリル系、ウレタン系、エポキシ系、シリコン系等の樹脂がある。この場合には、粘着材もしくは接着材の層は粘着性もしくは接着性を示す範囲内で薄くすることが好ましい。
このシールは、少なくともフィルム状液晶層の側面を覆うようにされるが、必要に応じて基板の側面、上下面、端子部分等も覆うようにされる。特に、端子部分の透明電極露出部分も覆うようにされることが電極の信頼性から見て好ましい。
また、粘着材もしくは接着材付のプラスチックフィルムを付着させた後に、さらにその上から硬化性化合物を付着させて二重構造にしてもよい。」(4ページ左下欄6行?同ページ右下欄15行)
(オ)
「本発明では、この液晶光学素子の両面に保護板を接着することが好ましいため、液晶光学素子の基板自体はプラスチックフィルム基板を使用することが好ましい。これは、両面には保護板が接着される場合には、液晶光学素子自体にはあまり剛性を要求されないこと、厚さが薄くなり積層が容易なこと及び大面積の液晶光学素子が製造しやすいためである。また、基板の端子を容易に形成できるものでもあり、大面積の液晶光学素子から必要な大きさの素子を切り出して使用することもできるためでもある。
基板間ギャップは、2?100μmにて動作することができるが、印加電圧、オン・オフ時のコントラストを配慮すれば、5?40μmに設定することが適当である。
この保護板を用いる場合の保護板としては、強度が高く、透過性が良いものが好ましく、具体的には、アクリル板、ポリカーボネート板、透明塩化ビニル板等の有機材料板、ガラス板、石英板等の無機材料板等がある。特に、大面積の素子では、耐擦傷性、耐薬品性、剛性等の点からみて、ガラス板の使用が好ましい。
もちろん、これらの保護板は、必要に応じて表面に耐擦傷性コーティング層、反射防止層、着色層、飛散防止層を設けたり、保護板自体を強化ガラス板、着色プラスチック板、積層ガラス板にしたりしてもよい。
特に、液晶光学素子として電極付のプラスチックフィルム基板間に液晶物質を分散させた樹脂マトリックス体によるフィルム状液晶層を挟持した液晶光学素子を使用し、この液晶光学素子を2枚のガラス体の間に、熱または光により接着力を発揮するシート状接着材を介して挟持し、加熱または光照射にによりそのシート状接着材を硬化させて液晶光学素子とガラス体とを接着して一体化することにより、加工時に所望のサイズに切断できるので作業性が良く、かつ合せガラス状で耐久性が高いという調光装置を容易に得ることができる。
この保護板を接着するための接着材としては熱硬化型、2液混合硬化型、光硬化型等種々の接着材が使用可能であるが、シート状接着材が積層作業が容易で生産性が良い。特に、積層作業中はベトつかなく、加熱または光照射時にはじめて接着性を生じるシート状接着材が積層作業の作業性が良く好ましい。
加熱により接着性を生じるシート状接着材としては、代表的なものとして、ポリビニルブチラールがあり、通常の合せガラスの製造と同様に、液晶光学素子と保護板とをポリビニルブチラールシートを介して積層し、減圧下で脱泡して、その後加熱加圧することにより容易に脱泡し、一体化できる。
光照射により接着性を生じるシート状接着材を使用した場合には、積層しておいた後、加圧しながら紫外線等の光を照射して接着一体化されればよい。」(4ページ右下欄16行?5ページ左下欄12行)
(カ)
「この接着に際し、保護板の面積を液晶光学素子の面積よりも大きくして、少なくとも2辺で保護板同志を直接接着するようにすることが好ましい。特に、4辺で保護板の同志を直接接着するようにすることにより、液晶光学素子と保護板相互の接着力が向上するとともに、液晶光学素子側面の保護にもなり、液晶光学素子の信頼性が向上する。
これにより、2枚の保護板をはがすような力が働いた場合にも、液晶光学素子の基板間での剥離を防止できる。
また、液晶光学素子をより大きな面積の液晶光学素子から所望のサイズに切断して使用し、液晶光学素子の側面に電気光学媒体が露出しているような場合にも、後からシールすればよいため、作業現場で容易にシールができ、信頼性の低下を生じにくい。このため、通常のガラスの施工のように工事現場で所望のサイズに切り出し、その後シールして使用することも容易にできる。
特に、保護板の接着材として、耐湿性に優れた材料を使用することにより、屋外使用や高湿度雰囲気下での使用の用途に適している。
前述のポリビニルブチラールの場合には、この保護板が直接接着される部分の幅が5?30mm程度とされることによって、接着強度、耐湿性ともに満足できる。
このように液晶光学素子を保護板の間に完全に埋め込んでしまう場合には、液晶光学素子の基板上の電極がその側方に延長された端子に接続された液晶光学素子を用い、接着して一体化した際に、延長された端子の端部のみが一対の透明板の端部から露出するようにされることにより、前述の利点を生かしつつ、駆動回路との導電接続も容易にできる。このような場合、前述のように端子部にもフィルム状液晶の側面をシールするシール材を延長して設けておくことにより、端子部分の信頼性も向上する。
具体的には、液晶光学素子の基板上の電極に線状、板状の金属片を接着、または基板に孔を開けて嵌込み接続固定して液晶光学素子の側方に取り出されていれば良い。この突起状の端子は、保護板の外まで延長されて、外部の駆動回路に接続されれば良い。」(5ページ左下欄13行?6ページ左上欄16行)
(キ)
「第3図(A)、(B)、(C)、(D)は、この第1図の液晶光学素子の非端子側の側面のシールの例を示す断面図である。
(A)は、最も簡便な構造の例であり、基板55A、55B間に挟持されたフィルム状液晶層56の側面に、硬化性化合物を硬化させたシール材57を設けたところを示している。
(B)は、本発明の好ましい例であり、基板65A、65B間に挟持されたフィルム状液晶層66の側面に、粘着材もしくは接着材67A付のプラスチックフィルム67Bを貼り付け、上側の基板65Aの上面及び下側の基板65Bの下面まで延長してコの字状に貼り付けしたところを示している。このようにすることにより、フィルム状液晶層の側面が完全にシールされ、耐久性、信頼性が向上するとともに、上下基板の剥離もしにくくなる。また、工程も粘着材付または接着材付のプラスチックフィルムのテープをコの字状に貼り付けていくのみでよいため極めて簡単であり、生産性もよい。
この方式において、接着材が硬化性化合物である場合にはよりシール性が向上する。粘着材を使用する場合には、粘着材付のプラスチックフィルムの端部に図の点線で示した67Cのようにさらに接着材を付与して2重にシールすることにより、シール性は向上する。
(C)は、両基板の接着性を向上させた例であり、基板75A、75B間に挟持されたフィルム状液晶層76の側面に、基板75A、75Bを端の部分で剥して硬化性化合物をしみ込ませ、側面に硬化性化合物を硬化させたシール材77を設けたところを示している。この例も(A)に比してはシールがより完全になり、端部でフィルム状液晶層が薄くなりやすいことによる上下基板間の電極間短絡も生じにくくなり、かつ両基板間の接着性も向上する。
(D)は、より工数はかかるが(C)よりもさらに信頼性が向上する例を示しており、基板85A、85B間に挟持されたフィルム状液晶層86の側面に、基板85A、85Bを端の部分で剥して、必要に応じて端部のフィルム状液晶層を除去し、細巾の粘着材付もしくは接着材付プラスチックフィルム87Aを挟み込み、さらに硬化性化合物を硬化させたシール材87Bを設けたところを示している。」(7ページ左上欄5行?同ページ左下欄9行)
(ク)ここで、第1図、第2図及び第3図は次のものである。



(ケ)以上から、甲第2号証には次の発明が記載されているものと認められる(以下「甲2発明」という。)。
「電極付の基板間に液晶物質を分散させた樹脂マトリックス体によるフィルム状液晶層を挟持し、電圧によってその光の透過状態を制御する液晶光学素子であって、基板上の電極が液晶光学素子の側方に延長された端子に接続された液晶光学素子を用い、その側面を絶縁性のシール材でシールし、その液晶光学素子よりも面積の大きな2枚の保護板の間に接着材を介して挟持し、その接着材により接着して一体化して、延長された端子の端部のみが一対の保護板の端部から露出するようにしたことを特徴とする補強液晶光学素子であって、
フィルム状液晶層は、液晶物質がマイクロカプセルに封入されたものや、網目状の樹脂の多孔質マトリックス中に液晶物質が含浸されたような構造のものであり、
電極付の基板としては、通常透明電極付の透明基板、具体的にはITO(In_(2)O_(3)-SnO_(2))、SnO_(2)等の透明電極付のガラス、プラスチック等の透明基板が使用でき、
シール材としては、加工性、信頼性の面から熱もしくは光により硬化する硬化性化合物や、粘着材もしくは接着材付のプラスチックフィルム等があり、
シールは、少なくともフィルム状液晶層の側面を覆うようにされるが、必要に応じて基板の側面、上下面、端子部分等も覆うようにされ、特に、端子部分の透明電極露出部分も覆うようにされ、
保護板の面積を液晶光学素子の面積よりも大きくして、少なくとも2辺で保護板同志を直接接着するようにすることが好ましく、特に、4辺で保護板の同志を直接接着するようにすることにより、液晶光学素子と保護板相互の接着力が向上するとともに、液晶光学素子側面の保護にもなり、液晶光学素子の信頼性が向上するものであり、
液晶光学素子を保護板の間に完全に埋め込んでしまう場合には、液晶光学素子の基板上の電極がその側方に延長された端子に接続された液晶光学素子を用い、接着して一体化した際に、延長された端子の端部のみが一対の透明板の端部から露出するようにされるものであり、
端子は、液晶光学素子の基板上の電極に線状、板状の金属片を接着、または基板に孔を開けて嵌込み接続固定して液晶光学素子の側方に取り出されていれば良く、この突起状の端子は、保護板の外まで延長されて、外部の駆動回路に接続されるものであり、
液晶光学素子の側面が絶縁性のシール材でシールされているため、フィルム状液晶層に対する周囲環境による影響が少なくなり、信頼性が向上し、
液晶光学素子よりも面積の大きな2枚の保護板の間に接着材を介して挟持して接着することにより、調光装置側面からの外力による破損、水分侵入等を防止でき、
保護板の接着材として、耐湿性に優れた材料を使用することにより、屋外使用や高湿度雰囲気下での使用の用途に適しているものである、
補強液晶光学素子。」

ウ 甲第3号証(特開平6-186540号公報)
甲第3号証は、本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献であり、図とともに以下の記載がある。
(ア)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 透明電極膜を設けた2枚の可撓性の透明フィルムの間に高分子分散液晶層を挟んだ構造を持ち、光の散乱と透過とを電気的に制御する調光液晶シートを、ガラス又は樹脂でできた透明板又は反射板に接着剤を介して貼り付け、調光液晶シートの周辺部を絶縁樹脂で封止する調光液晶シートの貼り付け方法。
【請求項2】 ガラス又は樹脂でできた透明板又は反射板と、透明電極膜を設けた2枚の可撓性の透明フィルムの間に高分子分散液晶層を挟んだ構造を持ち、光の散乱と透過を電気的に制御すべく前記調光液晶シートに接着剤を介して貼り付けられた調光液晶シートと、前記調光液晶シートの周辺部を封止する絶縁樹脂とを備える複層板。」
(イ)
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】あらかじめ2枚のガラス板に調光液晶シートを合わせガラスの方法で貼り合わせておき、そのガラス板を窓枠などに取り付ける従来の方法において、既存のガラス窓に調光液晶シートを貼り付けようとするときには、ガラス窓ごと取り換える必要があり、そのための工事にかかる費用や期間が大きくなるという欠点があった。
【0004】本発明は、従来のこのような欠点に鑑み、家屋などに供された既存のガラス板などに直接調光液晶シートを貼り合わせる簡便な方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、前記目的は、透明電極膜を設けた2枚の可撓性フィルムの間に高分子分散液晶層を挟んだ構造を持ち、光の散乱と透過を電気的に制御する調光液晶シートを、ガラスや樹脂などでできた透明板又は反射板に接着剤を介して貼り付け、調光液晶シートの周辺部を絶縁樹脂で封止する調光液晶シートの貼り付け方法によって達成できる。
【0006】
・・・(中略)・・・
【0007】
【作用】本発明によれば、家屋などに供された既存のガラス板などに接着剤を介して調光液晶シートを貼り付け、その後に調光液晶シートの周辺部を絶縁樹脂で封止することによって、調光液晶シートの周辺部や調光液晶シートから取り出しているリード線がガラス板にしっかりと固定され、調光液晶シートが周辺部から剥がれたり、リード線の接触不良などが起こることを防止できる。さらに、調光液晶シートの周辺部に水分が付いて、調光液晶シートがリーク不良を起こしたり、調光液晶シートが腐食したりすることを防止できる。」
(ウ)
「【0008】
【実施例】本発明の実施例を図1を参照しながら説明する。
【0009】透明導電性フィルム1、2によって挟まれた液晶材料層3が、枠4を有するガラス板5に接着剤6によって、貼り付けられている。フィルム1にはリード線7が、フィルム2にはリード線8が取り付けられている。各リード線7、8は電圧を供給するために外側に取り出されている。液晶材料層3の周辺部はテープ9が取り付けてあり、さらに絶縁樹脂10で封止されている
フィルム1、2は、透明電極膜を設けた可撓性フィルムであり、透明電極膜が液晶材料層3の両面に接するように挟み込んでいる。
【0010】
・・・(中略)・・・
【0014】液晶材料層3の液晶化合物には、ネマチック型、コレステリック型、スメクチック型などが使用される。
・・・(中略)・・・
【0017】絶縁樹脂10としては、ブチルゴム、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などが使用される。
【0018】次に、調光液晶シートの貼り付け方法について説明する。
【0019】枠4を有するガラス板5に接着剤6を塗布する。次に、接着剤6を塗布したガラス板5にフィルム1、2の間に液晶材料層3が挟まれた調光液晶シートを貼り付ける。その後に、絶縁樹脂10で調光液晶シートの周辺部を封止する。
【0020】調光液晶シートは、その側面を粘着剤のついたテープ9や樹脂であらかじめ封止して、保護するようにしてもよい。
【0021】
・・・(中略)・・・
【0023】絶縁樹脂10で調光液晶シートの周辺部を封止する方法としては、ブチルゴムを調光液晶シートの周辺部に貼り付けてもよいし、シリコーン樹脂などをハケで周辺部に塗った後、シリコーン樹脂を硬化させてもよい。
【0024】絶縁樹脂10で調光液晶シートの周辺部を封止した後、絶縁樹脂10の上を樹脂枠や金属枠で覆うようにしてもよい。
【0025】調光液晶シートを貼り付けるべきガラス板5は、アクリルやポリカーボネートなどの透明な樹脂板であってもよい。又は、鏡のような反射板でもよい。
【0026】
・・・(中略)・・・
【0028】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、調光液晶シートの周辺部や調光液晶シートから取り出しているリード線が、ガラス板にしっかりと固定され、調光液晶シートが周辺部から剥がれたり、リード線の接触不良などが起こることを防止できる。さらに、調光液晶シートの周辺部に水分が付いて、調光液晶シートがリーク不良を起こしたり、調光液晶シートが腐食したりすることを防止できる。」

(エ)ここで、図1は次のものであるところ、図1を参照すると、ガラス板5が、調光液晶シートよりも大きいことが見て取れる。


(オ)以上から、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
「透明電極膜を設けた2枚の可撓性の透明導電性フィルム1、2の間に高分子分散液晶層を挟んだ構造を持ち、光の散乱と透過とを電気的に制御する調光液晶シートを、ガラス又は樹脂でできた透明板又は反射板に接着剤を介して貼り付け、調光液晶シートの周辺部を絶縁樹脂で封止した複層板であって、
既存のガラス板5に接着剤を介して調光液晶シートを貼り付け、その後に調光液晶シートの周辺部を絶縁樹脂で封止することによって、調光液晶シートの周辺部や調光液晶シートから取り出しているリード線7、8がガラス板5にしっかりと固定され、調光液晶シートが周辺部から剥がれたり、リード線7、8の接触不良などが起こることを防止でき、さらに、調光液晶シートの周辺部に水分が付いて、調光液晶シートがリーク不良を起こしたり、調光液晶シートが腐食したりすることを防止できるものであり、
透明導電性フィルム1、2によって挟まれた液晶材料層3が、枠4を有するガラス板5に接着剤6によって、貼り付けられており、フィルム1にはリード線7が、フィルム2にはリード線8が取り付けられており、各リード線7、8は電圧を供給するために外側に取り出されており、液晶材料層3の周辺部はテープ9が取り付けてあり、さらに絶縁樹脂10で封止されており、
フィルム1、2は、透明電極膜を設けた可撓性フィルムであり、透明電極膜が液晶材料層3の両面に接するように挟み込んでいるものであり、
絶縁樹脂10としては、ブチルゴム、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などが使用され、
枠4を有するガラス板5に接着剤6を塗布し、接着剤6を塗布したガラス板5にフィルム1、2の間に液晶材料層3が挟まれた調光液晶シートを貼り付け、その後に、絶縁樹脂10で調光液晶シートの周辺部を封止したものであり、
ガラス板5は、調光液晶シートよりも大きいものであり、
調光液晶シートは、その側面を粘着剤のついたテープ9や樹脂であらかじめ封止して、保護するようにしてもよいものである、
複層板。」

(2)甲1発明が主引用発明の場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
a 甲1発明の「調光層23」であって「高分子の骨格中にコレステリック液晶がドロップレット状に分散されたPDLC(polymer dispersed liquid crystal)構造」のものは、本件発明1の「高分子ネットワークが有する空隙に液晶組成物を保持する調光層」に相当する。

b 甲1発明の「透明電極22がそれぞれ配設される絶縁性を有する一対の絶縁性基板21及び当該一対の絶縁性基板21間に挟持される調光層23を備える調光素子20」における、「一対の絶縁性基板21」に「それぞれ配設される」「透明電極22」は、本件発明1の「当該調光層を挟む一対の透明電極層」に相当する。

c 甲1発明の「調光素子20」は、本件発明1の「調光シート」に相当する。

d 甲1発明の「透明性及び剛性を有し、中間膜30を介して調光素子20を挟持する透明剛性基板40」であって、「透明剛性基板40の外形は,平面視で調光素子20よりも大き」いものは、本件発明1の「前記調光シートよりも大きい外形を有する支持基材」に相当する。

e 甲1発明の「一対の絶縁性基板21の周縁部に配設される封止テープ10」、及び同「封止テープ10」周囲にある「中間膜30」を合わせたものは、甲1号証の段落【0004】を参照すると「中間膜30」が水分の浸入を防止するといえるから、本件発明1の「前記支持基材上において前記調光シートの外縁に沿って延びて前記調光シートの端面を覆い、前記調光シートの外部から前記調光層の内部に向けて水分が浸入することを抑える被覆部」に相当する。

f 甲1発明の「一対の絶縁性基板21が互いに対向しない領域において露出する透明電極22に電気的に接続され、透明電極22に電圧を印加して調光層23の透明状態及び不透明状態を制御する外部装置(電源回路等)の配線に電気的に接続するための接続端子24」は、本件発明1の「各透明電極層に1つずつ接続して、前記支持基材の外側まで延びる一対の配線部」に相当する。

g 甲1発明においては、「中間膜30を介して調光素子20を挟持する透明剛性基板40」に関して「調光素子20は、平面視で、透明剛性基板40の外郭よりも内側に位置」するから、当該調光素子20に係る構成は、本件発明1の「前記調光シートの表面と対向する平面視にて前記調光シートが前記支持基材の内側に位置した状態で、前記調光シートが前記支持基材に取り付けられている」ことに相当する。

h 甲1発明の「調光構造体100」は、本件発明1の「調光ユニット」に相当する。

i 上記a?hから、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「高分子ネットワークが有する空隙に液晶組成物を保持する調光層、および、当該調光層を挟む一対の透明電極層を備える調光シートと、
前記調光シートよりも大きい外形を有する支持基材と、
前記支持基材上において前記調光シートの外縁に沿って延びて前記調光シートの端面を覆い、前記調光シートの外部から前記調光層の内部に向けて水分が浸入することを抑える被覆部と、
各透明電極層に1つずつ接続して、前記支持基材の外側まで延びる一対の配線部と、
を備え、
前記調光シートの表面と対向する平面視にて前記調光シートが前記支持基材の内側に位置した状態で、前記調光シートが前記支持基材に取り付けられている
調光ユニット。」

<相違点>
本件発明1は、「各配線部と前記支持基材との間に1つずつ位置して、各配線部を前記支持基材に貼り付ける防水性粘着層」を備えるのに対し、甲1発明は、「接続端子24は、一対の透明剛性基板40間の中間膜30から外部に導出されているものであ」る点。

(イ)判断
上記相違点について検討する。
本件発明1の「防水性粘着層」における「各配線部と前記支持基材との間に1つずつ位置し」との特定事項は、「一対の配線部」のうち一方と「支持基材」との間の位置に「1つ」の「防水性粘着層」を備え、「一対の配線部」のうち他方と「支持基材」との間の位置にもう「1つ」の「防水性粘着層」を備えていること、すなわち、「防水性粘着層」が互いに異なる2つの位置に、それぞれ「1つ」の構成要素として認識されるように備えることを意味するものと解される。
また、本件発明1は、「被覆部と、・・・防水性粘着層と、を備え」と特定しており、「被覆部」と「防水性粘着層」とを、「調光ユニット」の構成要素として並列的に列挙しているところ、「防水性粘着層」は上述のように、互いに異なる2つの位置に、それぞれ「1つ」の構成要素として認識されるように備えることを踏まえると、「被覆部」は、「1つずつ」配置された「防水性粘着層」の各々とは別の構成要素として認識されるようなものと解するのが自然である。
一方、甲1発明の「中間膜30」は、「一対の絶縁性基板21」の周縁部を覆うように設けられ、水分の浸入を防止するものであるから、上記(ア)eで示したように、少なくとも本件発明1の「前記支持基材上において前記調光シートの外縁に沿って延びて前記調光シートの端面を覆い、前記調光シートの外部から前記調光層の内部に向けて水分が浸入することを抑える被覆部」をなしている。そして、甲第1号証の記載を総合しても、当該「中間膜30」は、1つの膜状部材として「一対の透明剛性基板40」の間に介在すると解するほかなく、また、「中間膜30」のうち「接続端子24」及び「一対の透明剛性基板40」の間に介在する部分のみを、それ以外の部分とは別の構成要素とする動機付けはないというべきである。
さらに、甲1発明の「中間膜30」は、1つの膜状部材として、一方の「接続端子24」と他方の「接続端子24」に跨がるように介在しているものであって、各「接続端子24」の位置に「1つずつ」備えるようにする動機付けもない。
そうすると、甲1発明の「中間膜30」のうち「接続端子24」及び「一対の透明剛性基板40」の間に介在する部分を、本件発明1の「防水性粘着層」に相当するものということはできないし、甲第1号証の記載を総合しても、上記相違点に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想起できたとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に想到できたものとはいえない。
また、他の各甲号証(甲第2号証及び甲第3号証)を参酌しても、上記相違点に係る本件発明1の構成について記載も示唆もされておらず、甲1発明並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到できたものともいえない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書において、「本件発明1において、防水性粘着層は他の構成要素と異なる部品として規定されていない。したがって、・・・甲1発明における中間膜30の一部分が、本件発明1における防水性粘着層に該当すると認定でき、さらには、甲1発明における中間膜30の全体が、本件発明1における防水性粘着層に該当すると認定することもできる。」(37ページ第6?10行)と主張している。
しかしながら、本件発明1の「防水性粘着層」は、上記(イ)に示したように、「被覆部」とは別の構成要素として認識されるようなものとして特定されているといえるところ、甲1発明の「中間膜30」は、全体として一つの構成要素として認識されるものである。
また、申立人は特許異議申立書において、「構成要件Eでは、「各配線部と前記支持基材との間に1つずつ位置して、」と記載されている。この記載中における「1つずつ」が何らかの意味を有しているのか或いは「それぞれ」といった程度の意味なのか不明確であり、・・・この記載の意味を理解することが不可能となっている。この点、新規性進歩性判断を目的として発明の要旨を認定する場面では、不明確な記載をしたのが特許権者であることから不利益も特許権者に負担させるべきであり、特別な意味を持たないと解釈して取り扱うべきである。」(37ページ第14行?38ページ第5行)と主張している。
しかしながら、本件発明1の「防水性粘着層」に関する「各配線部と前記支持基材との間に1つずつ位置して」との事項は、上記(イ)に示したように、その文言のとおり理解できるものである。
よって、申立人の主張は採用することができない。

(エ)小括
したがって、本件発明1は、甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
また、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

イ 本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1に従属し、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1と同様の理由(上記ア参照)により、甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
また、同様に、本件発明2?7は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(3)甲2発明が主引用発明の場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
a 甲2発明の、「フィルム状液晶層」であって「網目状の樹脂の多孔質マトリックス中に液晶物質が含浸されたような構造のもの」は、本件発明1の「高分子ネットワークが有する空隙に液晶組成物を保持する調光層」に相当する。

b 甲2発明における「電極付の基板としては、通常透明電極付の透明基板、具体的にはITO(In_(2)O_(3)-SnO_(2))、SnO_(2)等の透明電極付のガラス、プラスチック等の透明基板が使用でき」、当該「電極付の基板間に液晶物質を分散させた樹脂マトリックス体によるフィルム状液晶層を挟持」するから、当該「電極付の基板」が一対あることは明らかであり、前記「透明電極付の透明基板」における「透明電極」は、本件発明1の「当該調光層を挟む一対の透明電極層」に相当する。

c 甲2発明の「液晶光学素子」は、本件発明1の「調光シート」に相当する。

d 甲2発明の「液晶光学素子よりも面積の大きな2枚の保護板」は、本件発明1の「前記調光シートよりも大きい外形を有する支持基材」に相当する。

e 甲2発明においては、「液晶光学素子の側面が絶縁性のシール材でシールされているため、フィルム状液晶層に対する周囲環境による影響が少なくなり、信頼性が向上」するものであるから、「シール」であって、「少なくともフィルム状液晶層の側面を覆うようにされるが、必要に応じて基板の側面、上下面、端子部分等も覆うように」する部分、及び「液晶光学素子よりも面積の大きな2枚の保護板の間に接着材を介して挟持し、その接着材により接着して一体化」する「接着材」であって、「液晶光学素子側面の保護にもな」る部分は、合わせて、本件発明1の「前記支持基材上において前記調光シートの外縁に沿って延びて前記調光シートの端面を覆い、前記調光シートの外部から前記調光層の内部に向けて水分が浸入することを抑える被覆部」に相当する。

f 甲2発明の「液晶光学素子の基板上の電極がその側方に延長された端子に接続された液晶光学素子を用い、接着して一体化した際に、延長された端子の端部のみが一対の透明板の端部から露出するようにされる」構成における「基板上の電極がその側方に延長された端子」は、本件発明1の「各透明電極層に1つずつ接続して、前記支持基材の外側まで延びる一対の配線部」に相当する。

g 甲2発明の「保護板の面積を液晶光学素子の面積よりも大きくして、」「特に、4辺で保護板の同志を直接接着するように」した構成は、本件発明1の「前記調光シートの表面と対向する平面視にて前記調光シートが前記支持基材の内側に位置した状態で、前記調光シートが前記支持基材に取り付けられている」ことに相当する。

h 甲2発明の「補強液晶光学素子」は、本件発明1の「調光ユニット」に相当する。

i 上記a?hから、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「高分子ネットワークが有する空隙に液晶組成物を保持する調光層、および、当該調光層を挟む一対の透明電極層を備える調光シートと、
前記調光シートよりも大きい外形を有する支持基材と、
前記支持基材上において前記調光シートの外縁に沿って延びて前記調光シートの端面を覆い、前記調光シートの外部から前記調光層の内部に向けて水分が浸入することを抑える被覆部と、
各透明電極層に1つずつ接続して、前記支持基材の外側まで延びる一対の配線部と、
を備え、
前記調光シートの表面と対向する平面視にて前記調光シートが前記支持基材の内側に位置した状態で、前記調光シートが前記支持基材に取り付けられている
調光ユニット。」

<相違点>
本件発明1は、「各配線部と前記支持基材との間に1つずつ位置して、各配線部を前記支持基材に貼り付ける防水性粘着層」を備えるのに対し、甲2発明は、「液晶光学素子よりも面積の大きな2枚の保護板の間に接着材を介して挟持し、その接着材により接着して一体化して、延長された端子の端部のみが一対の保護板の端部から露出するようにし」ており「液晶光学素子よりも面積の大きな2枚の保護板の間に接着材を介して挟持して接着することにより、調光装置側面からの外力による破損、水分侵入等を防止でき」るものである点。

(イ)判断
上記相違点について検討する。
本件発明1の「防水性粘着層」及び「被覆部」については、上記(2)ア(イ)に示したとおりである。
一方、甲2発明の「接着材」は、上記(ア)eで示したように、少なくとも本件発明1の「前記支持基材上において前記調光シートの外縁に沿って延びて前記調光シートの端面を覆い、前記調光シートの外部から前記調光層の内部に向けて水分が浸入することを抑える被覆部」をなしている。そして、甲第2号証の記載を総合しても、当該「接着材」は、1つの膜状部材として「2枚の保護板」の間に介在すると解するほかなく、また、「接着材」のうち「端子」及び「2枚の保護板」の間に介在する部分のみを、それ以外の部分とは別の構成要素とする動機付けはないというべきである。
さらに、甲2発明の「接着材」は、1つの膜状部材として、一方の「端子」と他方の「端子」に跨がるように介在しているものであって、各「端子」の位置に「1つずつ」備えるようにする動機付けもない。
そうすると、甲2発明の「接着材」のうち「端子」及び「2枚の保護板」の間に介在する部分を、本件発明1の「防水性粘着層」に相当するものということはできないし、甲第2号証の記載を総合しても、上記相違点に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想起できたとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に想到できたものとはいえない。
また、他の各甲号証(甲第1号証及び甲第3号証)を参酌しても、上記相違点に係る本件発明1の構成について記載も示唆もされておらず、甲2発明並びに甲第1号証及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到できたものともいえない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書において、「本件発明1において、防水性粘着層は他の構成要素と異なる部材や異なる部品として規定されていない。したがって、・・・甲2発明における接着材3の一部分が、本件発明1における被覆部に該当すると認定でき、さらには、甲2発明における接着材3の全体が、本件発明1における被覆部に該当すると認定することもできる。・・・甲2発明における接着材3の一部分は、本件発明1の構成要件Eにおける防水性粘着層の構成を満たしている。」(56ページ第18行?57ページ第2行)と主張している(当審注:「被覆部に該当」は、「防水性粘着層に該当」の誤記と考えられる。)。
しかしながら、申立人の主張は、上記(2)(ウ)と同様の理由により、採用することができない。

(エ)小括
したがって、本件発明1は、甲2発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
また、本件発明1は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

イ 本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1に従属し、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1と同様の理由(上記ア参照)により、甲2発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
また、同様に、本件発明2?7は、甲2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

(4)甲3発明が主引用発明の場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
a 甲3発明の、「高分子分散液晶層」と、本件発明1の「高分子ネットワークが有する空隙に液晶組成物を保持する調光層」とは、「液晶組成物を保持する調光層」である点で一致する。

b 甲3発明は「透明電極膜を設けた2枚の可撓性の透明導電性フィルム1、2の間に高分子分散液晶層を挟んだ構造を持」つから、当該「2枚の可撓性の透明導電性フィルム1、2」に「設け」られた「透明電極膜」は、本件発明1の「当該調光層を挟む一対の透明電極層」に相当する。

c 甲3発明の「調光液晶シート」は、本件発明1の「調光シート」に相当する。

d 甲3発明の「ガラス板5」であって、「調光液晶シートよりも大きいものであ」るものは、本件発明1の「前記調光シートよりも大きい外形を有する支持基材」に相当する。

e 甲3発明においては、「調光液晶シートの周辺部を絶縁樹脂で封止することによって、調光液晶シートの周辺部や調光液晶シートから取り出しているリード線がガラス板5にしっかりと固定され、調光液晶シートが周辺部から剥がれたり、リード線の接触不良などが起こることを防止でき、さらに、調光液晶シートの周辺部に水分が付いて、調光液晶シートがリーク不良を起こしたり、調光液晶シートが腐食したりすることを防止できるもの」であるから、当該「絶縁樹脂」は、本件発明1の「前記支持基材上において前記調光シートの外縁に沿って延びて前記調光シートの端面を覆い、前記調光シートの外部から前記調光層の内部に向けて水分が浸入することを抑える被覆部」に相当する。

f 甲3発明の「調光液晶シートから取り出しているリード線7、8」であって、「フィルム1にはリード線7が、フィルム2にはリード線8が取り付けられており、各リード線7、8は電圧を供給するために外側に取り出されて」いるものは、本件発明1の「各透明電極層に1つずつ接続して、前記支持基材の外側まで延びる一対の配線部」に相当する。

g 甲3発明においては、「ガラス板5に接着剤を介して調光液晶シートを貼り付け」られるところ、当該「ガラス板5は、調光液晶シートよりも大きいものであ」るから、当該構成と本件発明1の「前記調光シートの表面と対向する平面視にて前記調光シートが前記支持基材の内側に位置した状態で、前記調光シートが前記支持基材に取り付けられている」こととは、「一断面において、前記調光シートが前記支持基材の内側に位置した状態で、前記調光シートが前記支持基材に取り付けられている」点で一致する。

h 甲3発明の「複層板」は、本件発明1の「調光ユニット」に相当する。

i 上記a?hから、本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「液晶組成物を保持する調光層、および、当該調光層を挟む一対の透明電極層を備える調光シートと、
前記調光シートよりも大きい外形を有する支持基材と、
前記支持基材上において前記調光シートの外縁に沿って延びて前記調光シートの端面を覆い、前記調光シートの外部から前記調光層の内部に向けて水分が浸入することを抑える被覆部と、
各透明電極層に1つずつ接続して、前記支持基材の外側まで延びる一対の配線部と、
を備え、
一断面において、前記調光シートが前記支持基材の内側に位置した状態で、前記調光シートが前記支持基材に取り付けられている
調光ユニット。」

<相違点1>
本件発明1は「高分子ネットワークが有する空隙に液晶組成物を保持する調光層」を備えるのに対し、甲3発明は「液晶組成物を保持する調光層」は備えるものの、「液晶組成物」の「保持」が「高分子ネットワークが有する空隙」でなされるとまでは特定されていない点。

<相違点2>
本件発明1は、「前記調光シートの表面と対向する平面視にて前記調光シートが前記支持基材の内側に位置した状態で、前記調光シートが前記支持基材に取り付けられている」構成を備えるのに対し、甲3発明は、「一断面において、前記調光シートが前記支持基材の内側に位置した状態で、前記調光シートが前記支持基材に取り付けられている」構成は備えるものの、「前記調光シートの表面と対向する平面視にて前記調光シートが前記支持基材の内側に位置した状態」とまでは特定されていない点。

<相違点3>
本件発明1は、「各配線部と前記支持基材との間に1つずつ位置して、各配線部を前記支持基材に貼り付ける防水性粘着層」を備えるのに対し、甲3発明は、「調光液晶シートの周辺部を絶縁樹脂で封止することによって」、「リード線7、8がガラス板5にしっかりと固定され、調光液晶シートが周辺部から剥がれたり、リード線7、8の接触不良などが起こることを防止でき、さらに、調光液晶シートの周辺部に水分が付いて、調光液晶シートがリーク不良を起こしたり、調光液晶シートが腐食したりすることを防止できるものであ」る点。

(イ)判断
上記相違点3について検討する。
本件発明1の「防水性粘着層」及び「被覆部」については、上記(2)ア(イ)に示したとおりである。
一方、甲3発明の「絶縁樹脂」は、上記(ア)eで示したように、少なくとも本件発明1の「前記支持基材上において前記調光シートの外縁に沿って延びて前記調光シートの端面を覆い、前記調光シートの外部から前記調光層の内部に向けて水分が浸入することを抑える被覆部」をなしている。そして、甲第3号証の記載を総合しても、当該「絶縁樹脂」は、1つの部材として「調光液晶シート」の周辺部を取り囲むように封止していると解するほかなく、また、「絶縁樹脂」のうち「リード線7、8」及び「ガラス板5」の間に介在する部分のみを、それ以外の部分とは別の構成要素とする動機付けはないというべきである。
さらに、甲3発明の「絶縁樹脂」は、1つの膜状部材として、「リード線7」と「リード線8」に跨がるように介在しているものであって、「リード線7」、「リード線8」の各位置に「1つずつ」備えるようにする動機付けもない。
そうすると、甲3発明の「絶縁樹脂」のうち「リード線7、8」及び「ガラス板5」の間に介在する部分を、本件発明1の「防水性粘着層」に相当するものということはできないし、甲第3号証の記載を総合しても、上記相違点に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想起できたとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基づいて当業者が容易に想到できたものとはいえない。
また、他の各甲号証(甲第1号証及び甲第2号証)を参酌しても、上記相違点に係る本件発明1の構成について記載も示唆もされておらず、甲3発明並びに甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到できたものともいえない。

(ウ)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書において、「本件発明1において、防水性粘着層は他の構成要素と異なる部品として規定されていない。したがって、・・・甲3発明における絶縁樹脂10の一部分が本件発明1における防水性粘着層に該当すると認定でき、さらには、甲3発明における絶縁樹脂10の全体が、本件発明1における防水性粘着層に該当すると認定することもできる。したがって、・・・構成要件Eに関して両発明に相違点は存在しない。」(74ページ第24行?75ページ第5行)と主張している。
しかしながら、申立人の主張は、上記(2)(ウ)と同様の理由により、採用することができない。

(エ)小括
したがって、本件発明1は、甲3発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
また、本件発明1は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

イ 本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1に従属し、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1と同様の理由(上記ア参照)により、甲3発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
また、同様に、本件発明2?5は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第36条第6項第2号)について
(1)特許異議申立理由の要旨
取消理由通知において採用しなかった、請求項1?7に係る特許に対して申し立てられた特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。

ア 本件発明1?7では、被覆部及び防水性粘着層の技術的関連が不明確であり、これにより、被覆部及び防水性粘着層がどのように区分けされるのか不明確となっている。結果として、被覆部及び防水性粘着層を特定することができない。

イ 本件発明5?7では、配線防水部及び防水性粘着層の構造的な関係が規定されておらず、防水性粘着層及び配線防水部の技術的意味を理解することができない。

(2)判断
上記(1)アに関し、請求項1?7には、「被覆部」について、「前記支持基材上において前記調光シートの外縁に沿って延びて前記調光シートの端面を覆い、前記調光シートの外部から前記調光層の内部に向けて水分が浸入することを抑える」と特定されており、「防水性粘着層」について、「各配線部と前記支持基材との間に1つずつ位置して、各配線部を前記支持基材に貼り付ける」と特定されているから、「被覆部」とは、「調光シート」の端面をその外縁に沿って覆うように設けた部材であって、水分の透過を抑える機能を備えたものであり、「防水性粘着層」とは、一方の「配線部」と「支持基材」との間と、他方の「配線部」と「支持基材」との間の2箇所にそれぞれ設けた防水性の部材であって、当該各箇所の「配線部」と「支持基材」を貼り合わせる機能を備えたものであると理解することができる。
また、「被覆部」に関し、発明の詳細な説明には、
「【0035】
防水部50は、防水テープ、ホットメルト接着剤、および、熱圧着シートのいずれかから構成される。端面防水部51と配線防水部52とは、同一の材料から構成されてもよいし、互いに異なる材料から構成されてもよい。
・・・
【0043】
本実施形態の調光ユニット10においては、・・・調光シート20の端面20Eが端面防水部51によって覆われている。こうした構成によれば、端面20Eが露出されている形態と比較して、端面20Eから調光シート20の内部に水分が浸入することが抑えられる。・・・
【0044】
特に、本実施形態の調光シート20においては、調光層21が端面20Eまで達しているため、端面20Eから水分が入り込むと、調光層21が機能の低下を起こしやすい。したがって、端面20Eを覆う端面防水部51を設けることの有益性が高い。
本実施形態と比較される形態として、支持基材40を配置せずに、調光シート20を直接に透明板70に貼り付け、調光シート20の外周を樹脂封止した形態が挙げられる。しかしながら、エポキシ樹脂等を用いた一般的な樹脂封止は、耐湿性、すなわち、大気中の水分に対する耐性を高めるにすぎず、結露等に起因した水分に対する防水性は十分とは言えない。これに対し、本実施形態の防水部50を備える形態であれば、樹脂封止の施された調光シート20よりも、防水性を高めることができる。
・・・
【0048】
図4は、端面防水部51の第1形態を示す。第1形態の端面防水部51は、調光シート20の端面20Eを覆う第1被覆部51aと、・・・を備える。」
と記載されていることから、「被覆部」は、調光シートの端面を覆うように設けられた防水テープ等の防水性材料からなる構成要素であって、エポキシ樹脂等を用いて調光シートの外周を樹脂封止する一般的な形態に比べて、結露等による水分に対して高い防水性を奏する「端面防水部」としての技術的意味を有するものであることが把握される。
一方、「防水性粘着層」に関し、発明の詳細な説明には、
「【0043】
・・・配線部30が配線防水部52によって覆われているため、配線部30が露出されている形態と比較して、調光シート20のなかで配線部30が接続されている部分の付近から調光シート20の内部に水分が浸入することが抑えられる。
・・・
【0057】
本実施形態では、第1配線部30Aが、第1透明電極層22Aに接合した導電性接着層31Aと、導電性接着層31Aに接合したFPC32Aとを備える構成を例示している。FPC32Aは、第1配線領域SAから支持基材40に沿って支持基材40の外方まで延びている。FPC32Aのなかで支持基材40上において調光シート20の外側の領域に延びる部分は、防水性粘着層55Aを介して支持基材40の表面40Fに貼り付けられている。防水性粘着層55Aは、例えば、両面防水テープから構成される。
【0058】
第1配線防水部52Aは、調光シート20に対して支持基材40とは反対側から、第1配線領域SAと第1配線部30Aのなかで第1配線領域SAに接続している部分とを覆っている。さらに、第1配線防水部52Aは、第1配線領域SAから調光シート20の外側の領域へ延びて、第1配線部30Aのなかで支持基材40に貼り付けられている部分および防水性粘着層55Aを覆っている。
・・・
【0062】
・・・本実施形態では、第2配線部30Bが、第2透明電極層22Bに接合した導電性接着層31Bと、導電性接着層31Bに接合したFPC32Bとを備える構成を例示している。FPC32Bは、第2配線領域SBから支持基材40に沿って支持基材40の外方まで延びている。FPC32Bのなかで支持基材40上において調光シート20の外側の領域に延びる部分は、防水性粘着層55Bを介して支持基材40に貼り付けられている。防水性粘着層55Bは、防水性粘着層55Aと同様、例えば、両面防水テープから構成される。防水性粘着層55A,55Bは、配線防水部52に含まれる。
【0063】
第2配線防水部52Bは、調光シート20に対して支持基材40とは反対側から、第2配線領域SBと第2配線部30Bのなかで第2配線領域SBに接続している部分とを覆っている。さらに、第2配線防水部52Bは、第2配線領域SBから調光シート20の外側の領域へ延びて、第2配線部30Bのなかで支持基材40に貼り付けられている部分および防水性粘着層55Bを覆っている。」
と記載されていることから、「防水性粘着層」は、両面防水テープ等の防水性材料からなり、配線部に対して支持基材側に設けられて、配線部と支持部材とを貼り付けるとともに、「配線防水部」をなす部分として、調光シートにおける配線部の接続部分の付近から調光シート内部に水分が浸入することを抑えるという技術的意味を有するものであることが把握される。
このように、特許請求の範囲の記載に基づいて、「被覆部」及び「防水性粘着層」がどのような部材を意味しているのか理解することができ、さらに、そのような解釈は、発明の詳細な説明の各部材の態様とも整合していることから、当業者であれば、「被覆部」及び「防水性粘着層」の技術的関連等は十分理解できるものである。
してみると、本件発明1?7の「被覆部」と「防水性粘着層」の技術的関連や区分けが不明確であるとはいえない。

また、上記(1)イに関し、請求項5?7には「配線防水部」について、「前記調光シートに対して前記支持基材とは反対側から前記配線領域を覆う」と特定されており、当該「配線防水部」は構造的にみて、「配線領域」に対して「防水性粘着層」とは反対側に設けられるものであると理解できる。
そして、発明の詳細な説明を参酌すると、「防水性粘着層55A,55B」と、「第1配線防水部52A」、「第2配線防水部52B」は、いずれも「配線防水部52」の構成要素をなすものとして記載されているところ(【0058】、【0062】、【0063】)、「配線部30が露出されている形態と比較して、調光シート20のなかで配線部30が接続されている部分の付近から調光シート20の内部に水分が浸入することが抑えられる」(【0043】)という点において、「防水性粘着層55A,55B」と、「第1配線防水部52A」、「第2配線防水部52B」は、共通の技術的意味を有すると理解され、「防水性粘着層55A,55B」については、各配線部と支持基板の間に介在して両者を貼り合わせる機能をも有していることがわかる(【0057】、【0062】)。また、「第1配線防水部52A」、「第2配線防水部52B」は、それぞれ、「第1配線部30Aのなかで支持基材40に貼り付けられている部分および防水性粘着層55Aを覆」い(【0058】)、「第2配線部30Bのなかで支持基材40に貼り付けられている部分および防水性粘着層55Bを覆」う(【0063】)ものであるから、「防水性粘着層55A,55B」と、「第1配線防水部52A」及び「第2配線防水部52B」とは、配線部を介して互いに反対側に設けられた部分として理解される。
このように、特許請求の範囲の記載に基づいて、「防水性粘着層」及び「配線防水部」がどのような部材を意味しているのか理解することができ、さらに、そのような解釈は、発明の詳細な説明の各部材の態様とも整合していることから、当業者であれば、「防水性粘着層」及び「配線防水部」の技術的意味等は十分理解できるものである。
してみると、本件発明5?7の「防水性粘着層」と「配線防水部」について、技術的意味等が不明確であるとはいえない。

したがって、本件発明1?7は明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件を満たす。

(3)申立人の主張について
申立人は特許異議申立書において、「本件発明1乃至7において、被覆部と防水性粘着層は、異なる部品や異なる部材として別個に設けられるとは規定されていない。・・・結果として、本件発明1等において、被覆部及び防水性粘着層は、配置のみによって互いから区別されているようにも取れる。・・・しかしながら、本件明細書では、本件発明1等で規定された位置以外の位置にも被覆部が配置されている。・・・被覆部および防水性粘着層は本件発明1等に規定された領域以外にも位置することが想定されている。したがって、本件発明1で規定された配置位置によって被覆部及び防水性粘着層を区分けすることが不可能となることも容易に予想される。・・・被覆部および防水性粘着層の構造的な区分けが何ら規定されていないことから、たとえ明細書や図面の記載を考慮しても、被覆部の技術的意味および防水性粘着層の技術的意味すら理解することができなくなっている。」(23ページ第12行?25ページ第8行)、「本件発明1乃至7において、配線防水部は、防水性粘着層や被覆部等とは異なる部品や異なる部材として別個に設けられるとは規定されていない。・・・本件明細書の段落【0058】、【0063】や図8、図10によれば、・・・配線防水部52A,52Bは、配線部30A,30Bから外方に延び出た防水粘着層55A,55Bと重なっている。そして、配線防水部および防水性粘着層を区別して設ける技術的意味は、本件明細書においても、何ら明確にされておらず、結果として、配線防水部の技術的意味も不明確となっている。」(25ページ第16行?26ページ第3行)などと主張している。
しかしながら、本件発明1?7における「被覆部」と「防水性粘着層」との関係、及び、本件発明5?7における「配線防水部」と「防水性粘着層」との関係は、上記(2)や上記3(2)ア(イ)に説示したとおり理解されるものであって、不明確であるということはできない。
よって、申立人の主張は、採用することができない。

5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-07-12 
出願番号 特願2018-164738(P2018-164738)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (G02F)
P 1 651・ 537- Y (G02F)
P 1 651・ 121- Y (G02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 横井 亜矢子  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 清水 督史
野村 伸雄
登録日 2020-03-02 
登録番号 特許第6669218号(P6669218)
権利者 凸版印刷株式会社
発明の名称 調光ユニット、および、透明板付調光ユニット  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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