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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12C
管理番号 1376769
異議申立番号 異議2021-700465  
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-09-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-05-17 
確定日 2021-08-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第6785102号発明「低糖質ビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6785102号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6785102号の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成28年9月14日に特許出願され、令和2年10月28日に特許権の設定登録がされ、同年11月18日にその特許公報が発行され、その後、令和3年5月17日に、特許異議申立人 田中 眞喜子(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1?7に係る特許に対して、特許異議の申立てがされたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
本件の特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明7」という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
麦芽使用比率が50%以上であり、かつ、糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト飲料であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料由来の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)が25?45%であり、分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)の前記ペプチドが、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に由来するペプチドである、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
前記ペプチドの質量の比率が28?38%である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
発酵アルコール飲料である、請求項1または2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、請求項1?3のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
風味が改善された、麦芽使用比率が50%以上であり、かつ、糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト飲料の製造方法であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料由来の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)を25?45%に調整することを含んでなり、分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)の前記ペプチドが、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に由来するペプチドである、製造方法。
【請求項6】
麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを有効成分として含んでなる、麦芽使用比率が50%以上であり、かつ、糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト飲料の風味改善剤。
【請求項7】
麦芽使用比率が50%以上であり、かつ、糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト飲料の風味改善方法であって、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料由来の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)を25?45%に調整することを含んでなり、分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)の前記ペプチドが、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に由来するペプチドである、風味改善方法。」

第3 特許異議申立理由
1 新規性
異議申立理由1-1:請求項1?3,5,7に係る発明は、本件特許出願前に外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1?3,5,7に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
異議申立理由1-2:請求項6に係る発明は、日本国内において、頒布された下記の甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

2 進歩性
異議申立理由2-1:請求項1?5,7に係る発明は、日本国内において又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明および甲第2号証?甲第8号証に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?5,7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
異議申立理由2-2:請求項6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された甲第4号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3 サポート要件
異議申立理由3-1:請求項1?7に係る発明について、本件明細書の実施例では、100%の場合の例しかなく、麦芽使用比率が低いと飲み応えが低くなることや呈味が変わることが技術常識であるので、特許請求の範囲全体に渡って当業者が課題を解決できると認識できず、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
異議申立理由3-2:請求項1?7に係る発明について、本件明細書の実施例では、糖質が0.9g/100mL及び1.0g/100mLのビールテイスト飲料のみであるが、糖質低減により水っぽい、薄い香味印象となるので味の厚みが少なくなるはずであるので、特許請求の範囲全体に渡って当業者が課題を解決できると認識できず、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

異議申立理由3-3:請求項1?7に係る発明について、本件明細書の実施例では、分子量800?1500Daのペプチド濃度が1.257?1.445mg/mLにの場合の例しか示されず、ペプチド濃度が格段に低い場合に課題が解決できるか不明であり、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

異議申立理由3-4:請求項1?7に係る発明について、ペプチドは、その由来や種類に応じて活性や性質が異なるのが技術常識であるので、大麦麦芽由来のペプチドに関しての実施例だけでは、当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えているから、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

4 実施可能要件
異議申立理由4:請求項1?5,7に係る発明について、ペプチド比率の調整に関し、本件明細書のエンド型プロテアーゼでペプチド比率を調整するに際し(本件明細書【0023】)、エンド型プロテアーゼその他のタンパク質分解酵素が麦芽中に含まれているし(甲第2号証参照)、製造条件により麦芽由来のエンド型プロテアーゼその他のタンパク質分解酵素量が変動するから、飲料の調製の度にペプチド比率を確認する必要があり、過度な試行錯誤であるから、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。



甲第1号証:国際公開2014/196265号
甲第2号証:ビール酒造組合 国際技術委員会(BCOJ)編,ビールの基本技術,財団法人 日本醸造協会,2010年4月20日三版改訂,p.35
甲第3号証:特開2008-109861号公報
甲第4号証:特開2016-149975号公報
甲第5号証:近藤 平人,ビール発酵と発泡酒発酵における酵母の応答と香味形成,釀協,第100巻,第11号,2005年,p.787?795
甲第6号証:谷川 篤史,ビール造りの研究とは?,生物工学,第90巻,第5号,p.242?245
甲第7号証:岸本 徹,ビールのオフフレーバーに関する近年の知見,におい・かおり環境学会誌,44巻,1号,2013年,p.13?20
甲第8号証:特許第5675093号公報

第4 当審の判断
異議申立理由1-1、1-2(新規性)、2-1、2-2(進歩性)について

1 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証
本願の出願前電子通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報である甲第1号証には、以下の記載がある。
(1a)「[0002]
近年、消費者の健康志向や嗜好性の変化から、糖質含有量の低いビールテイスト飲料に対する消費者のニーズが高まっている。なお、ビールテイスト飲料とは、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有する発泡性飲料である。発酵原料を発酵させて得られるビールテイスト飲料の場合、発酵液中の非資化性糖の含有量を低下させることによって、最終製品であるビールテイスト飲料中の糖質含有量を低下させることができる。このため、発酵原料として、非資化性糖の含有量が少ない液糖等の使用比率を高めることによって、糖質含有量を低下させることができるが、穀物原料の使用比率が高い場合には、穀物香気やコク感を高められる一方で、糖質含有量が高くなる傾向がある。」

(1b)「[0027]
マイシェには、発酵原料やグルコアミラーゼ以外にも、必要に応じて、α-アミラーゼ、プルナラーゼ等の糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤を添加することができる。その他、本発明に係る効果を阻害しない限りにおいて、スパイスやハーブ類、果物等を添加してもよい。」

(1c)「[0041]
[実施例1]
200Lスケールの仕込設備を用いて、ビールテイスト飲料の製造を行った。まず、仕込槽に、28kgの麦芽の粉砕物、196Lの仕込水、及び麦芽粉砕物に対して20U/gのグルコアミラーゼ(天野エンザイム社製、製品名:グルクザイムNLP)を投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸した。次いで、当該麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却した。当該冷麦汁をエキス9.4質量%に調整した後、試験サンプルには、トランスグルコシダーゼ(天野エンザイム社製、製品名:トランスグルコシダーゼL)を冷麦汁に対して80U/mL添加したが、対照サンプルには何も添加しなかった。両サンプルの発酵液をそれぞれ異なる発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、8日間貯酒タンク中で熟成させてビールテイスト飲料(アルコール含有量:3.8容量%)を得た。
[0042]
得られたビールテイスト飲料について、イソマルトース、コウジビオース、及びニゲロースの含有量を測定した。測定結果を表1に示す。発酵工程においてトランスグルコシダーゼを添加した試験サンプルでは、いずれの糖類も含有量が5mg/L未満であり、トランスグルコシダーゼを添加しなかった対照サンプルよりも糖質含有量が顕著に低減していた。また、試験サンプルの糖質含有量は、0.4g/100mLであった。当該結果から、本発明に係る製造方法により、麦芽使用比率を100%とした場合であっても、糖質含有量が低く、低カロリーのビールテイスト飲料が製造できることが明らかである。」

(1d)「[0054]
4名の専門パネルにより、試験2サンプルの穀物香及びコク感についての官能検査を行った。評価は、麦芽使用比率が25%未満であり、かつ糖質含有量が0.5g/100mL未満である市販の発泡酒を2点とし、1?5点の5段階(穀物香及びコク感をほとんど感じない場合を1とし、非常に強く感じる場合を5とした。)で行った。この結果、試験2サンプルの評価は、穀物香が3.75であり、コク感も3.75であり、いずれも比較対象とした市販の発泡酒よりも高かった。特に、試験2サンプルの香味は、酵素の添加に起因するものや副原料等の原料由来の不快な香気がなく、ビールらしい良好な香味品質であった。この結果から、本発明に係る製造方法により、糖質含有量を高めることなく、麦芽使用比率を高め、穀物香及びコク感に優れたビールテイスト飲料を製造し得ることが明らかである。」

(2)甲第2号証
本願の出願前頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある。
(2a)「35頁の「第6表 糖化工程に関与する主な酵素^(1?3))」の表には、蛋白質分解酵素の[至適温度(℃)、至適pH、失活温度(℃)]として、エンドペプチターゼ群について、[45?50、5.0?8.5、60]、カルボキシペプチターゼについて、[40?60、4.8?5.6、70]、アミノペプチターゼについて、[40?50、7.0?7.2、55]、ジペプチターゼについて、[40?47、8.8、50]という値が示されている。

(2b)「○2(決定注:原文は丸数字。以下同様。)蛋白質の分解
蛋白質は高分子のままでは水に難溶性であるため,可溶性になる低分子まで分解する必要がある。蛋白質分解酵索としては,エンドペプチターゼ群(endopeptidase)とエキソペプチターゼ群(exopeptidase)としてのカルポキシベプチターゼ(carboxypeptidase),アミノペプチターゼ(aminopeptidase),ジペプチターゼ(dipeptidase)がある。
蛋白質分解により,高分子蛍白質が中低分子蛋白質,ポリペプチド,アミノ酸と低分子化されていく。高分子蛋白質は後工程の麦汁煮沸段階で熱凝固などにより取り除かれるが,一部はビールに移行し,濁りの原因となる。中低分子蛋白質は主としてビールの泡持ちに、ポリペプチドはビールの旨味,濃醇さに関与するとされている。アミノ酸は同様にビールの味に関与する他に,栄養源として発酵中の酵母代謝,ビールの香気成分に影響する。
糖化工程で分解,遊離されてくる全アミノ酸の70?80%は,酵素群の中のカルボキシペプチターゼによるものである。」(35頁左欄下から11行?右欄9行)

(3)甲第3号証
本願出願前頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。
(3a)「【0012】
本発明の課題は、発酵麦芽飲料製造用麦汁の製造方法、具体的には、麦芽使用比率の低い発泡酒等の発酵麦芽飲料製造用麦汁の製造において、麦汁中の遊離アミノ酸、起泡性タンパク質含量、及び、麦汁の濾過性等において優れた発酵麦芽飲料製造用麦汁を製造する方法を提供すること、更に、詳細には、発泡酒等の発酵麦芽飲料製造用麦汁の製造において、該麦汁の製造に用いられるプロテアーゼのエンドプロテアーゼとエキソペプチダーゼの構成を調整し、麦汁中の遊離アミノ酸の増強と起泡性タンパク質の保持、及び、麦汁の濾過性の保持とを図り、発酵麦芽飲料製造用麦汁として優れた性質を持つ発酵麦芽飲料製造用麦汁を製造する方法を提供することにある。更には、優れた性質を持つ発酵麦芽飲料製造用麦汁の製造に用いられる上記プロテアーゼの調製方法を提供することにある。」

(3b)「【0016】
(1)エンドプロテアーゼ活性を5.0U/g-大麦未満、望ましくは2.5U/g-大麦以下に低減し、LAP活性を1.5U/g-大麦以上、望ましくは3.0U/g-大麦以上、DAP活性を40.0mU/g-大麦以上、望ましくは80.0mU/g-大麦以上にする。
(2)エンドプロテアーゼ活性5.0?7.5U/g-大麦のときには、総エンド活性中の耐熱性エンドプロテアーゼの比率を2.5%未満、望ましくは1.25%以下に低減する、若しくは耐熱性エンドプロテアーゼ無添加とし、LAP活性を1.5U/g-大麦以上、望ましくは3.0U/g-大麦以上、DAP活性を40.0mU/g-大麦以上、望ましくは80.0mU/g-大麦以上にする。
(3)耐熱性エンドプロテアーゼ活性を0.1U/g-大麦未満、望ましくは0.05U/g-大麦以下に低減し、LAP活性を1.5U/g-大麦以上、望ましくは3.0U/g-大麦以上、DAP活性を40.0mU/g-大麦以上、望ましくは80.0mU/g-大麦以上にする。」

(4)甲第4号証
本願の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の記載がある。
(4a)「【請求項1】
麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とする低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料であって、分子量10?20kDa(ゲル濾過法)のペプチド濃度が0.05mg/ml以上である、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項2】
麦芽使用比率が3分の2未満である、請求項1に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。」

(4b)「【0011】
ビールテイストアルコール飲料には、炭素源、窒素源、および水などを原料として酵母により発酵させた「ビールテイストの発酵アルコール飲料」も含まれ、「ビールテイストの発酵アルコール飲料」としては、ビール、発泡酒、原料として麦または麦芽を使用しないビールテイスト発泡アルコール飲料(例えば、酒税法上、「その他の醸造酒(発泡性)(1)」に分類される醸造系新ジャンル飲料)および原料として麦芽を使用するビールや発泡酒にアルコールを添加してなる飲料(例えば、酒税法上、「リキュール(発泡性)(1)」に分類されるリキュール系新ジャンル飲料)が挙げられる。
【0012】
本明細書において「低糖質」のビールテイストアルコール飲料とは、糖質の量(糖質濃度)が通常の製法で作られた同等の比較対象の飲料に対して70%以上削減されたもの(すなわち、糖質オフ表示がなされた飲料)、あるいは糖質の量が0.5g/100ml未満(すなわち、糖質ゼロ表示がなされた飲料)であるものを意味する。このうち前者(糖質オフ表示がなされた飲料)の糖質濃度は、1.1g/100ml以下とすることができ、好ましくは0.7?1.1g/100mlの範囲である。ここで、糖質の量の測定は公知の方法に従って行うことができ、当該試料の質量から、水分、タンパク質、脂質、灰分および食物繊維量を除いて算出する方法(栄養表示基準(平成21年12月16日 消費者庁告示第9号 一部改正)参照)に従って測定することができる。
【0013】
本発明の第一の面によれば麦芽および/または未発芽の麦類を原料の一部とする低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料が提供される。本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料は麦由来の原料として少なくとも麦芽を使用するものとすることができ、その場合、麦芽使用比率は3分の2未満とすることができ、好ましくは麦芽使用比率が50%未満、さらに好ましくは25%未満である。本明細書において「麦芽使用比率」とは、醸造用水を除く全原料の質量に対する麦芽質量の割合をいう。麦芽使用比率が25%未満であるビールテイスト発酵アルコール飲料としては、麦芽使用比率が25%未満の発泡酒や、麦芽使用比率が25%未満のリキュール系新ジャンル飲料が挙げられる。」

(4c)「【0041】
実施例1:ペプチド画分のビールテイストアルコール飲料への添加と官能評価
(1)ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造
パイロットプラントでビールテイストアルコール飲料の製造を行った。50℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽15.0質量部、大麦18.7質量部、酵素製剤を投入して70分保持後65℃に昇温して130分保持してさらに78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得た。上記の麦汁調製工程に続いて、得られた麦汁にホップを投入して100℃で60?70分煮沸した後、麦汁静置を行い、トリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得た。その後、発酵前液に下面発酵酵母を添加して発酵液を調整した。この発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより主発酵を行った。さらに、主発酵後の発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより後発酵を行った。続いて、後発酵後の発酵液を、より低温で所定期間維持することにより貯蔵を行い、濾過して、清澄なビールテイストアルコール飲料(麦芽使用比率50%未満の発泡酒)を得た。
【0042】
(2)ゲル濾過分画
上記(1)で得られたビールテイストアルコール飲料を計量して凍結乾燥した。乾燥物を100mM NaCl溶液で溶解して5倍濃縮液を調製し、分画用サンプルとした。サンプルは、以下の条件にてゲル濾過分画を行った。
【0043】
カラム:Hiload Superdex 30pg 26/600(GEヘルスケア社製)
サンプル注入量: 5ml
溶離液組成:100mM NaCl
流速:2.5mL/分(流速一定)
検出波長:215nm
分取:0.29cv(カラム・ボリューム)から19.1ml(フラクション0)、その後0.35cvから5mlずつ分画(フラクション1?51)
【0044】
分画物の官能評価により、香味の特徴の違いによって、表1のようにフラクションをプレ画分、A1、A2、B、C、D、E、F、Gの9つのグループに分けた。
【0045】
【表1】


(5)甲第5号証
本願の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の記載がある。
(5a)「2. ビールと発泡酒の麦汁
いわゆるオールモルトビールと呼ばれている麦芽100%のビールから,徐々に原料中に占める麦芽の割合を下げていって25%の発泡酒とした湯合に,その麦汁の成分はどのように変化するであろうか。勿論,発酵終了後のアルコール度数は等しくなるように,麦芽以外の副原料(発泡酒ではこれが主原料になる訳だが)として米その他の政令で定める物品(多くは,コーンスターチやシロップが使用される)を発泡酒では使用し,ビール麦汁と糖濃度(原麦汁エキス分)が同じになるように調整することが多い。この場合には,麦汁に添加される酵母によって資化されアルコールに変換する炭素源(C源)はビールも発泡酒もほぼ同量ということになる。異なるのは,麦芽から麦汁中に抽出されるアミノ酸を中心とした窒素源(N源),脂肪酸,ミネラル,ビタミン等といった類のものであり,これらは麦芽比率が25%になるとオールモルトの場合と比較して1/3?1/4となる(第1図)。この量的,質的な違いが後述する酵母の働きや発酵パフォーマンス,最終製品の香味成分組成といったものに大きな影響を及ぼすことになる。」(787頁右欄下から15行?788頁左欄6行)

(6)甲第6号証
本願の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、以下の記載がある。
(6a)「ビールから温泉の匂い? 栄養源の不足と硫化水素
最後に日本特有の市場条件により研究が進んだ事例を紹介する.日本のビール類は,原料や製法の違いでいくつかの種類に分類されるのが特徴的である.酒税法では,ビール,発泡酒,その他の醸造酒(発泡性)○1, リキュール(発泡性)○1の4品目に分けられ,それぞれの品目で麦芽の使用量が決められている.その中でも,発泡酒などではビールに比べて,麦芽の使用量が少なく,糖分として麦芽の代わりに液化した糖類を使用していることが多い.
こうした発泡酒では,原料中の糖分は十分なのだが,他の栄養分,麦芽に含まれているアミノ酸などが不足する傾向がある.そのような場合.深刻な発酵性の低下や,香りや味に負の影響を与える可能性があった.特に,温泉様の匂いである硫化水素 (H_(2)S)の発生が予測された.H_(2)Sは,温泉様の他にも腐敗した卵の匂いなどに例えられるオフフレーバーであり,数μg/lでも人が感じられる閾値の低い物質である.
H_(2)Sは酵母では,側鎖に硫黄を含んだアミノ酸であるメチオニン生合成の中間代謝産物として生成される.酵母はメチオニンが不足すると硫酸イオンを膜透過性のトランスポーターによって能動的に取り込みメチオニンを合成しようとする(図6).その中間体としてH_(2)Sが生成される.1990?2000年代の発泡酒などの発売と時期を同じくして,分子生物学の技術が加速的に進む中,下面酵母のゲノムの解読,マイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子の発現解析や,代謝産物のメタボローム解析など様々な手法が行われた.その結果,下面酵母特有のH_(2)S生成機構が明らかになってきている^(6,13)).
また,麦芽の使用率が下がると,アミノ酸だけではなく,ビタミンやミネラルなどの微量な栄養素の含有量も低下し,これらの欠乏も品質に影響を与えることもある.
たとえば,筆者らは,ビールテイスト飲料製造時に微量な栄養素が製造性や香り,味にどのような影響を与えるのかを研究している中で,ビタミン類のひとつであるピリドキシン(ビタミンB_(6))が欠乏した際に,これまでのビール醸造では感じられなかった腐敗様の香りが発生することを発見した^(14)).匂い嗅ぎGC(GC-0)やGC-MSでの測定の結果,その腐敗様の香りはインドールであることがわかった.ビール製造中のインドール発生は大腸菌群などの微生物汚染が原因として知られているが,微生物汚染以外の理由で酵母が生成する事例はこれまでのビール醸造ではみられない事象であった.インドールは酵母の代謝中,トリプトファン合成の中間体として生成される(図7).・・・
なお,各企業の研究努力もあり,現在市場で販売されている製品ではH_(2)Sなどのオフフレーバーが閾値以上の多量に含まれているビール類はない.」(244頁右欄25行?245頁右欄9行)

(7)甲第7号証
本願の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証には、以下の記載がある。
(7a)「3.3 硫化水素臭
硫化水素は,発酵中に生成する良く知られたオフフレーバーであり,ビール業界ではその生成メカニズム解明に古くから取り組まれ知見が蓄えられているが,未だ不明な点も多い.硫化水素は,酵母がメチオニンやシステインといった含硫アミノ酸を合成する際に中間代謝物として生成される.図-3に示すように,酵母が含硫アミノ酸を合成する過程で菌体外の硫酸イオンが酵母細胞内に取り込まれ,亜硫酸を経て硫化水素が生成される.ビールの製造で用いられる下面酵母の方がその生成量は多い.
硫化水素の生成を抑制する方法として,麦汁の組成,酵母菌株,酵母増殖条件,発酵条件の検討などが行われている.例えば,近年市場で多く販売されている発泡酒などの麦汁中の窒素含量は,ビールに比べて少ない.麦汁中の含硫アミノ酸が少ないと,酵母細胞内でそれらのアミノ酸を積極的に合成しようと働くため,中間体である硫化水素を多く生成する.また,発酵温度を上げると酵母は硫化水素を生成しやすくなる.さらに,硫化水素および亜硫酸に着目した酵母育種も報告されている.」(15頁右欄下から4行?16頁左欄16行)

(7b)「3.5 含硫化合物によるコゲ様,ゴム様香気
発酵工程にて生成される低閾値のオフフレーバー成分群(図-2)である.濃色のビールにおいてはビールが持つ香調と類似しているためにオフフレーバーと認識されないが,軽快なピルスナータイプのビールでは,微量の濃度で存在するだけでその軽快さを損なうためにオフフレーバーとして認識される.香調に寄与する原因成分として 2-furfurylthiol(コーヒー様;閾値 2.8 μ g/L),2-mercaptoethyl acetate(ゴム様;閾値 1.6μg/L), 3-methyl-2-butene-l-thiol(コゲ様;閾値0.002 μg/L), benzyl mercaptan(ロースト様;閾値0.002 μg/L)を同定している(図-2).
2-furfurylthiolは黒麦芽にも含まれ,システインなどの含硫アミノ陵とリボース等の還元糖がメイラード反応を起こすことによって生成されるそのためビールの醸造工程においては麦汁中の糖・アミノ酸の組成,加熱された温度と時間が影響を与えている. 2-mercaptoethyl acetateはアミノ酸含量が低い発泡酒などの麦汁で,かつ緩慢ではなく短期間にラッシュな状態で発酵が進んだ場合にその濃度が上昇する傾向がある.3-methyl-2-Butene-1-thiolは後にも解説しているようにビールヘの光照射により生成してくる日光臭としてしられるが,光照射により生成される経路以外に発泡酒などのアミノ酸含有量が低い麦汁中でメチオニンが不足した場合,煮沸時のpHを低くした場合,煮沸工程で生成した熱凝固物(熱トループ)がワールプールで麦汁から除去されずに発酵タンクまで持ち込まれた場合に,その濃度が上昇する傾向がある.」(16頁右欄5?31行)

(8)甲第8号証
本願の出願前に頒布された刊行物である甲第8号証には、以下の記載がある。
(8a)「【0002】
ビールや発泡酒のような発酵麦芽飲料では、麦芽や未発芽の大麦、小麦が全原料中に占める割合を増加させることにより、味わいや飲み応えを付与することが一般的に行われている。これは、麦芽や大麦などの使用比率を上げることによって、それらに含まれるたんぱく質やアミノ酸といった旨み成分や、ビール特有の渋味やえぐみにつながる成分が増加し、味わいや飲み応えが増していると解することができる。しかし一方では、渋味やえぐみにつながる成分の増加は後味の悪化を招き、爽快感に欠ける飲みにくいものとなりがちであった。特に、麦芽使用比率が50重量%未満である発酵麦芽飲料においては、麦芽由来の糖化酵素が不足しがちであり、香味のボリューム感や味の厚みを補うために未発芽麦類等を使用することがあるものの、旨み成分のみを増やしながら後味を良好にすることは困難であった。」

2 甲号証に記載された発明
(1)甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証は、発酵原料に占める麦芽使用比率を高めた場合であっても、糖質含有量が充分に低減された発酵麦芽飲料に関する文献であって、請求項6に対応する実施例1に係る発明として、「200Lスケールの仕込設備を用いて、ビールテイスト飲料の製造を行った。・・・仕込槽に、28kgの麦芽の粉砕物、196Lの仕込水、及び麦芽粉砕物に対して20U/gのグルコアミラーゼ(天野エンザイム社製、製品名:グルクザイムNLP)を投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸した。次いで、当該麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却した。当該冷麦汁をエキス9.4質量%に調整した後、試験サンプルには、トランスグルコシダーゼ(天野エンザイム社製、製品名:トランスグルコシダーゼL)を冷麦汁に対して80U/mL添加した・・・、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、8日間貯酒タンク中で熟成させてビールテイスト飲料(アルコール含有量:3.8容量%)を得た。」との記載、及び「得られたビールテイスト飲料について、イソマルトース、コウジビオース、及びニゲロースの含有量を測定した。・・・発酵工程においてトランスグルコシダーゼを添加した試験サンプルでは、いずれの糖類も含有量が5mg/L未満であり、トランスグルコシダーゼを添加しなかった対照サンプルよりも糖質含有量が顕著に低減していた。また、試験サンプルの糖質含有量は、0.4g/100mLであった。当該結果から、本発明に係る製造方法により、麦芽使用比率を100%とした場合であっても、糖質含有量が低く、低カロリーのビールテイスト飲料が製造できることが明らかである。」との記載があるのであるから、
「仕込槽に、28kgの麦芽の粉砕物、196Lの仕込水、及び麦芽粉砕物に対して20U/gのグルコアミラーゼを投入し、常法に従って糖化液を製造し、得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸し、次いで、当該麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却し、当該冷麦汁をエキス9.4質量%に調整した後、トランスグルコシダーゼを冷麦汁に対して80U/mL添加し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、8日間貯酒タンク中で熟成させて得たイソマルトース、コウジビオース、及びニゲロースの含有量がいずれも5mg/L未満で、糖質含有量は、0.4g/100mLで、麦芽使用比率を100%であるビールテイスト飲料」に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

また、甲第1号証には、上記のとおり、実施例1のビールテイスト飲料の製造方法が記載され、摘記(1d)に穀物香及びコク感についての官能検査を行い、「本発明に係る製造方法により、糖質含有量を高めることなく、麦芽使用比率を高め、穀物香及びコク感に優れたビールテイスト飲料を製造し得ることが明らかである。」との結果を得ているのであるから、以下の発明も記載されているといえる。

「仕込槽に、28kgの麦芽の粉砕物、196Lの仕込水、及び麦芽粉砕物に対して20U/gのグルコアミラーゼを投入し、常法に従って糖化液を製造し、得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸し、次いで、当該麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却し、当該冷麦汁をエキス9.4質量%に調整した後、トランスグルコシダーゼを冷麦汁に対して80U/mL添加し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、8日間貯酒タンク中で熟成させて得たイソマルトース、コウジビオース、及びニゲロースの含有量がいずれも5mg/L未満で、糖質含有量は、0.4g/100mLで、麦芽使用比率を100%である穀物香及びコク感に優れたビールテイスト飲料を製造する方法」(以下、「甲1製造方法発明」という。)

「仕込槽に、28kgの麦芽の粉砕物、196Lの仕込水、及び麦芽粉砕物に対して20U/gのグルコアミラーゼを投入し、常法に従って糖化液を製造し、得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸し、次いで、当該麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却し、当該冷麦汁をエキス9.4質量%に調整した後、トランスグルコシダーゼを冷麦汁に対して80U/mL添加し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、8日間貯酒タンク中で熟成させて得たイソマルトース、コウジビオース、及びニゲロースの含有量がいずれも5mg/L未満で、糖質含有量は、0.4g/100mLで、麦芽使用比率を100%であるビールテイスト飲料を製造し、穀物香及びコク感に優れたビールテイスト飲料とする方法」(以下、「甲1方法発明」という。)

(2)甲第4号証に記載された発明
ア 甲第4号証には、摘記(4c)に「ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造
パイロットプラントでビールテイストアルコール飲料の製造を行った。50℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽15.0質量部、大麦18.7質量部、酵素製剤を投入して70分保持後65℃に昇温して130分保持してさらに78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得た。上記の麦汁調製工程に続いて、得られた麦汁にホップを投入して100℃で60?70分煮沸した後、麦汁静置を行い、トリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得た。その後、発酵前液に下面発酵酵母を添加して発酵液を調整した。この発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより主発酵を行った。さらに、主発酵後の発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより後発酵を行った。続いて、後発酵後の発酵液を、より低温で所定期間維持することにより貯蔵を行い、濾過して、清澄なビールテイストアルコール飲料(麦芽使用比率50%未満の発泡酒)を得た。」との記載があり、ゲル濾過分画として、「(2)ゲル濾過分画
上記(1)で得られたビールテイストアルコール飲料を計量して凍結乾燥した。乾燥物を100mM NaCl溶液で溶解して5倍濃縮液を調製し、分画用サンプルとした。サンプルは、以下の条件にてゲル濾過分画を行った。
【0043】
カラム:Hiload Superdex 30pg 26/600(GEヘルスケア社製)
サンプル注入量: 5ml
溶離液組成:100mM NaCl
流速:2.5mL/分(流速一定)
検出波長:215nm
分取:0.29cv(カラム・ボリューム)から19.1ml(フラクション0)、その後0.35cvから5mlずつ分画(フラクション1?51)」との記載があり、分画物の官能評価として、表1の結果とともに「【0044】
分画物の官能評価により、香味の特徴の違いによって、表1のようにフラクションをプレ画分、A1、A2、B、C、D、E、F、Gの9つのグループに分けた。」と記載されている。

したがって、甲第4号証には、請求項2に対応した実施例1に係る分画物として、

「パイロットプラントで、50℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽15.0質量部、大麦18.7質量部、酵素製剤を投入して70分保持後65℃に昇温して130分保持してさらに78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得、上記の麦汁調製工程に続いて、得られた麦汁にホップを投入して100℃で60?70分煮沸した後、麦汁静置を行い、トリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得、その後、発酵前液に下面発酵酵母を添加して発酵液を調整し、この発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより主発酵を行い、主発酵後の発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより後発酵を行い、続いて、後発酵後の発酵液を、より低温で所定期間維持することにより貯蔵を行い、濾過して、清澄なビールテイストアルコール飲料(麦芽使用比率50%未満の発泡酒)を得た後、該ビールテイストアルコール飲料を計量して凍結乾燥し、乾燥物を100mM NaCl溶液で溶解して5倍濃縮液を調製し、分画用サンプルとして、以下の条件にてゲル濾過分画を行い、
カラム:Hiload Superdex 30pg 26/600(GEヘルスケア社製)
サンプル注入量: 5ml
溶離液組成:100mM NaCl
流速:2.5mL/分(流速一定)
検出波長:215nm
分取:0.29cv(カラム・ボリューム)から19.1ml(フラクション0)、その後0.35cvから5mlずつ分画(フラクション1?51)

分画物の官能評価により、フラクションをプレ画分、A1、A2、B、C、D、E、F、Gの9つのグループに分けた画分」に係る発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているといえる。

3 対比・判断
異議申立理由1-1、異議申立理由2-1について(甲第1号証に記載された発明との対比・判断)
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「麦芽使用比率を100%である」ことは、本件特許発明1の「麦芽使用比率が50%以上であ」ることに該当し、甲1発明の「糖質濃度が1.1g/100mL未満である」ことに該当する。

したがって、本件特許発明1は、甲1発明と、
「麦芽使用比率が50%以上であり、かつ、糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト飲料。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1:本件特許発明1においては、「HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料由来の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)が25?45%であ」ることが特定されているのに対して、甲1発明においては、「飲料由来の全ペプチド」に対して「HPLC分析用ゲル濾過法で分画」することも、「分画された前記飲料由来の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)が25?45%であ」ることも特定のない点。

相違点2-1:本件特許発明1においては、「分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)の前記ペプチドが、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に由来するペプチドである」と特定されているのに対して、甲1発明においては、特定分子量のペプチドの由来について特定のない点。

イ 判断
(ア)相違点1-1について
a 甲第1号証においては、甲1発明の認定の根拠となった実施例1及び他の記載においても、「HPLC分析用ゲル濾過法で分画された」「飲料由来の全ペプチドの質量に対する」「飲料中の分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)が25?45%であ」ることに関して明記がない。

b そして、甲第1号証の摘記(1d)の[0054]の官能検査の結果から「本発明に係る製造方法により、糖質含有量を高めることなく、麦芽使用比率を高め、穀物香及びコク感に優れたビールテイスト飲料を製造し得ることが明らかである。」との記載及びその他の文献の記載を参照しても、甲1発明の「HPLC分析用ゲル濾過法で分画された」「飲料由来の全ペプチドの質量に対する」「飲料中の分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率」は不明であり、技術常識であるともいえないのであるから、甲1発明の官能検査の結果や本件特許発明のビールテイスト飲料の製造方法と甲1発明のビールテイスト飲料の製造方法に共通する部分が存在することから、「HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料由来の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)が25?45%であ」ることが記載されているに等しいとはいえない。

c したがって、相違点1-1は、実質的な相違点である。

d また、甲第2号証には、糖化工程に関与する主な酵素として、蛋白質分解酵素として、エンドペプチターゼを初めとして種々のものが示され、ポリペプチドがビールの旨み,濃醇さに関与するとされていることは記載されているものの、甲第3号証のエンドプロテアーゼに関する記載や甲第4号証のゲル濾過分画のフラクションのグループ分けの表を参照したとしても、甲第1号証の酵素剤を添加可能であるとの記載や甲第1号証の穀物香気やコク感を高めるとの記載との関係は、全く不明であり、その他の甲号証を考慮しても、甲1発明において、HPLC分析用ゲル濾過法で分画された飲料由来の全ペプチドの質量に対する特定分子量範囲のペプチドの質量の全ペプチドの質量に対する比率に着目し、「HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料由来の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)が25?45%であ」ると特定する動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲1発明において、相違点1-1は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(イ)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、前記第2の請求項1に特定したように、
「麦芽使用比率が50%以上であり、かつ、糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト飲料であって、」
「HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料由来の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)が25?45%であ」る、「分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)の前記ペプチドが、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に由来するペプチドである」
との構成を採用することで、本件明細書【0009】に記載される「糖質濃度が1.1g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料において、分子量800?1500Daのペプチド比率を特定範囲内に調整することによって、味の厚みが実現された低糖質のビールテイスト発酵アルコール飲料を提供でき、消費者の健康志向など、多様なニーズに応えることが出来る点で有利である。」という顕著な効果を奏している。

(ウ)特許異議申立人の主張について
a 特許異議申立人は、甲第1号証のビールテイスト飲料の製造方法が本件特許発明1と同様であるから、甲1発明に関し、本件特許発明1の相違点1-1に係るペプチド比率に関する特定の範囲内である蓋然性が高いとか、甲第4号証のゲル濾過分画条件及びフラクションのグループ分けが同様であるから、分子量範囲が認定できるし、量の調整は適宜なし得る旨主張しているが、甲1発明においては、ゲル濾過分画によって、特定範囲の分子量のペプチドを特定割合含ませることに関し、全く記載も示唆もなく、甲1発明のビールテイスト飲料の製造方法と本件特許発明のビールテイスト飲料の製造方法や甲第4号証のゲル濾過分画の対象と本件特許発明のゲル濾過分画条件の対象も同一ではない。
したがって、甲1発明に関し、本件特許発明1の相違点1-1に係るペプチド比率に関する特定の範囲内である蓋然性が高いとはいえないし、そもそも分画した各フラクションの分子量の記載すらない甲第4号証のゲル濾過分画の記載を考慮しても、分子量範囲が認定できとはいえないし、量の調整も適宜なし得るとはいえず、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

b 特許異議申立人は、本件特許発明1の効果について、甲第5号証?甲第7号証を提出して、麦芽の使用比率によって香味成分組成や呈味が影響を受けるので、麦芽使用比率100%,糖質0.9?1.0g/100mlでの実施例の結果からは、その他の条件の場合に同様のペプチド比率で所望の効果を奏すると理解できない旨主張している。
しかしながら、上述のとおり、相違点1-1の構成は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえないし、麦芽の使用比率によって香味成分組成や呈味が影響を受けることが知られているからといって、本件特許発明1は、上記(イ)のとおりの構成を採用することで、効果を奏することを技術的思想とする発明であって、極端な条件を想定した場合に、麦芽の使用比率によって、効果の程度に一定の変化があること自体は、本件特許発明1が新規性進歩性を欠如していることの理由にはならない。
よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

ウ 甲1発明との対比・判断のまとめ
したがって、相違点2-1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証記載の発明とはいえないし、本件特許発明1は、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証?甲第8号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものとはいえない。

(2)本件特許発明2?4について
本件特許発明2?4は、いずれも、本件特許発明1において、さらに技術的限定を加えた発明であって、少なくとも上記(1)で論じたのと同様の相違点を有する(本件特許発明2は、本件特許発明1において、ペプチドの質量の比率が28?38%であるとさらに範囲を限定したものであり、本件特許発明3は、発酵アルコール飲料であることが特定されているものの、甲1-1発明との間で実質的に新たな相違点とはならない。本件特許発明4は、さらに、「未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする」点が甲1発明との対比において、新たな追加の相違点となる。)。
したがって、甲第8号証の摘記(8a)の「麦芽使用比率が50重量%未満である発酵麦芽飲料においては、麦芽由来の糖化酵素が不足しがちであり、香味のボリューム感や味の厚みを補うために未発芽麦類等を使用することがあるものの、旨み成分のみを増やしながら後味を良好にすることは困難であった。」との記載及びその他の証拠の記載を考慮しても、上記(1)で論じたのと同様の理由により、本件特許発明2及び3は、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、本件特許発明2?4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?8号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(3)本件特許発明5について(甲1製造方法発明との対比・判断)
ア 対比
本件特許発明5と甲1製造方法発明とを対比すると、
甲1製造方法発明の「穀物香及びコク感に優れた」とは、味の厚み、つまり、本件特許明細書【0032】の「風味が改善された」の定義から、本件特許発明5の「風味を改善された」ものになるといえるので、「風味が改善された、麦芽使用比率が50%以上であり、かつ、糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト飲料の製造方法」という点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1’:本件特許発明5においては、「HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料由来の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)を25?45%に調整することを含んでな」ることが特定されているのに対して、甲1製造方法発明においては、「飲料由来の全ペプチド」に対して「HPLC分析用ゲル濾過法で分画」することも、「分画された前記飲料由来の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)が25?45%に調整することを含んでな」ることも特定のない点。

相違点2-1’:本件特許発明5においては、「分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)の前記ペプチドが、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に由来するペプチドである」と特定されているのに対して、甲1製造方法発明においては、特定分子量のペプチドの由来について特定のない点。

イ 判断
(ア)相違点1-1’の判断
前記(1)イで検討したのと同様に、相違点1-1’は、実質的な相違点である。
また、甲1発明において、相違点1-1’は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

ウ 甲1製造方法発明との対比・判断のまとめ
したがって、相違点2-1’について検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲第1号証記載の発明とはいえないし、本件特許発明5は、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証?甲第8号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものとはいえない。

(4)本件特許発明7について(甲1方法発明との対比・判断)
ア 対比
本件特許発明7と甲1方法発明とを対比すると、
甲1方法発明の「ビールテイスト飲料を製造し、穀物香及びコク感に優れたビールテイスト飲料とする方法」は、「ビールテイスト飲料」の味の厚み、つまり、本件特許明細書【0032】の「風味改善」の定義から本件特許発明7の風味を改善していることになるといえるので、「麦芽使用比率が50%以上であり、かつ、糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト飲料の風味改善方法」という点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1’’:本件特許発明5においては、「HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料由来の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)を25?45%に調整することを含んでな」ることが特定されているのに対して、甲1方法発明においては、「飲料由来の全ペプチド」に対して「HPLC分析用ゲル濾過法で分画」することも、「分画された前記飲料由来の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)が25?45%に調整することを含んでな」ることも特定のない点。

相違点2-1’’:本件特許発明7においては、「分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)の前記ペプチドが、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に由来するペプチドである」と特定されているのに対して、甲1方法発明においては、特定分子量のペプチドの由来について特定のない点。

イ 判断
(ア)相違点1-1’’の判断
前記(1)イで検討したのと同様に、相違点1-1’’は、実質的な相違点である。
また、甲1発明において、相違点1-1’’は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

ウ 甲1方法発明との対比・判断のまとめ
したがって、相違点2-1’について検討するまでもなく、本件特許発明7は、甲第1号証記載の発明とはいえないし、本件特許発明7は、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証?甲第8号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものとはいえない。

(5)異議申立理由1-1、異議申立理由2-1についてのまとめ
以上のとおり、異議申立理由1-1、異議申立理由2-1については理由がない。

異議申立理由1-2、異議申立理由2-2について(甲第4号証に記載された発明との対比・判断)
(1)本件特許発明6について
ア 対比
本件特許発明6と甲4発明とを対比すると、甲4発明の「パイロットプラントで、50℃の湯100質量部に対して、大麦麦芽15.0質量部、大麦18.7質量部、酵素製剤を投入して70分保持後65℃に昇温して130分保持してさらに78℃に昇温して5分保持した後、濾過して麦汁を得、上記の麦汁調製工程に続いて、得られた麦汁にホップを投入して100℃で60?70分煮沸した後、麦汁静置を行い、トリューブを分離した後、冷却して発酵前液を得、その後、発酵前液に下面発酵酵母を添加して発酵液を調整し、この発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより主発酵を行い、主発酵後の発酵液を所定の温度で所定期間維持することにより後発酵を行い、続いて、後発酵後の発酵液を、より低温で所定期間維持することにより貯蔵を行い、濾過して、清澄なビールテイストアルコール飲料(麦芽使用比率50%未満の発泡酒)を得た後、該ビールテイストアルコール飲料を計量して凍結乾燥し、乾燥物を100mM NaCl溶液で溶解して5倍濃縮液を調製し、分画用サンプルとして、以下の条件にてゲル濾過分画を行い、
カラム:Hiload Superdex 30pg 26/600(GEヘルスケア社製)
サンプル注入量: 5ml
溶離液組成:100mM NaCl
流速:2.5mL/分(流速一定)
検出波長:215nm
分取:0.29cv(カラム・ボリューム)から19.1ml(フラクション0)、その後0.35cvから5mlずつ分画(フラクション1?51)

分画物の官能評価により、フラクションをプレ画分、A1、A2、B、C、D、E、F、Gの9つのグループに分けた画分」は、本件特許発明6の「麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを有効成分として含んでなる、麦芽使用比率が50%以上であり、かつ、糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト飲料の風味改善剤」と、「ビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる」「ペプチドを」「含んでなる、」「ビールテイスト飲料の」分画物である限りにおいて共通している。

したがって、本件特許発明6は、甲4発明と、
「ビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれるペプチドを含んでなる、ビールテイスト飲料の分画物。」の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-4:本件特許発明6においては、「麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを有効成分として含んでなる」ことが特定されているのに対して、甲4発明においては、「麦芽使用比率が50%未満のビールテイスト発酵アルコール飲料」から分画用サンプルを得ており、ゲル濾過分画はしているものの、「麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料」からのものであることも、「ビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを有効成分と」することも特定のない点。

相違点2-4:本件特許発明6においては、「麦芽使用比率が50%以上であり、かつ、糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト飲料の風味改善剤」であるのに対して、甲4発明においては、風味改善剤であることも、風味改善の対象も特定のない点。

イ 判断
(ア)相違点1-4について
a 甲第4号証においては、甲4発明の認定の根拠となった実施例1及び他の記載においても、「麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを有効成分と」することに関して明記がない。

b そして、甲第4号証の実施例1の官能評価結果をみても、麦芽使用比率が50%未満であるビールテイスト発酵アルコール飲料への添加効果(【0048】)が評価されており、その他の文献の記載を参照しても、甲4発明において、「麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを有効成分と」することが記載されているに等しいとはいえない。

c したがって、相違点1-1は、実質的な相違点である。

d また、甲第4号証には、【0011】にビールテイストの発酵アルコール飲料の種類、【0012】に糖質濃度、【0013】に麦芽使用比率に関する記載があるものの、その他の甲号証を考慮しても、甲4発明において、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドに着目し、「麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを有効成分とする」と特定する動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲4発明において、相違点1-4は、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(イ)本件特許発明6の効果について
本件特許発明6は、前記第2の請求項6に特定したように、
「麦芽使用比率が50%以上であり、かつ、糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト飲料の風味改善剤」として、「麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを有効成分として含んでなる」との構成を採用し、風味改善剤として用いることで、本件明細書【0009】に記載される「糖質濃度が1.1g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料において、分子量800?1500Daのペプチド比率を特定範囲内に調整することによって、味の厚みが実現された低糖質のビールテイスト発酵アルコール飲料を提供でき、消費者の健康志向など、多様なニーズに応えることが出来る点で有利である。」という顕著な効果を奏している。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件明細書の参考例の記載を参照して、甲第4号証のゲル濾過分画条件及びフラクションのグループ分けが同様であるから、分子量範囲(800?1500Da)が認定でき、その画分C,Dを風味改善剤として使用できることが明示されている旨主張しているが、甲4発明においては、本件特許発明6の分画対象とは異なる麦芽使用比率50%未満のビールテイスト発酵アルコール飲料ゲル濾過分画した画分であるとの記載にとどまり、上述のとおり、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを有効成分とすることの記載も示唆もないのであるから、甲第4号証の記載から、分子量範囲(800?1500Da)は認定できないし、甲4発明の画分C,Dを、本件特許発明6の対象である「麦芽使用比率が50%以上であり、かつ、糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト飲料の風味改善剤」として使用できることも記載されているとはいえない。
したがって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

ウ 甲4発明との対比・判断のまとめ
したがって、相違点2-4について検討するまでもなく、本件特許発明6は、甲第4号証記載の発明とはいえないし、本件特許発明6は、甲第4号証記載の発明から当業者が容易に発明することができるものとはいえない。

(3)異議申立理由1-2、異議申立理由2-2についてのまとめ
以上のとおり、異議申立理由1-2、異議申立理由2-2については理由がない。

4 異議申立理由1(1-1、1-2)および2(2-1、2-2)の判断のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1?3,5,7は、甲第2号証?甲第8号証の記載を参照しても、甲第1号証記載の発明とはいえないし、本件特許発明6は、甲第4号証記載の発明とはいえない。
また、本件特許発明1?5,7は、甲第1号証記載の発明及び甲第2号証?甲第8号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができるものとはいえないし、本件特許発明6は、甲第4号証記載の発明から当業者が容易に発明することができるものとはいえないので、異議申立理由1および2には、理由がない。

異議申立理由3(サポート要件)について
1 異議申立理由3について
特許異議申立人は、前記第3 3に記載のようにサポート要件について理由を述べている。

2 判断
(1)本願発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件特許発明の課題
本件特許発明の課題は、【0005】【0006】の【発明が解決しようとする課題】の記載、及び明細書全体の記載からみて、味の厚みが実現された低糖質のビールテイスト飲料、該低糖質のビールテイスト飲料の製造方法、該低糖質のビールテイスト飲料の風味改善剤及び該低糖質のビールテイスト飲料の風味改善方法を提供することにあるといえる。

(3)特許請求の範囲の記載
請求項1には、「麦芽使用比率が50%以上であり、かつ、糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト飲料であって、」
「HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料由来の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)が25?45%であ」ること、「分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)の前記ペプチドが、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に由来するペプチドである」ことが特定された物の発明が記載されている。
また、請求項2には、請求項1において、「ペプチドの質量の比率が28?38%である」ことが特定された物の発明が記載されている。
そして、請求項3には、請求項1又は2において、「発酵アルコール飲料である」ことが特定され、請求項4には、請求項1?3において、「未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする」ことが特定された物の発明が記載されている。
さらに、請求項5には、「風味が改善された、麦芽使用比率が50%以上であり、かつ、糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト飲料の製造方法であって、」「HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料由来の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)を25?45%に調整することを含んでな」ること、「分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)の前記ペプチドが、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に由来するペプチドである」ことを特定した方法の発明が記載されている。
また、請求項6には、「麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に含まれる分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドを有効成分として含んでなる」こと、「麦芽使用比率が50%以上であり、かつ、糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト飲料の風味改善剤」であること特定した物の発明が記載されている。
さらに、請求項7には、「麦芽使用比率が50%以上であり、かつ、糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト飲料の風味改善方法であって、」HPLC分析用ゲル濾過法で分画された前記飲料由来の全ペプチドの質量に対する前記飲料中の分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)のペプチドの質量の比率(百分率)を25?45%に調整することを含んでなる」こと、「分子量800?1500Da(HPLC分析用ゲル濾過法)の前記ペプチドが、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料に由来するペプチドである」ことを特定した方法の発明が記載されている。

(4)発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書には、本件特許発明に関して、特許請求の範囲の実質的繰り返し記載を除き、【0005】【0006】の【発明が解決しようとする課題】に関係した記載、【0007】の【課題を解決するための手段】に関する記載、【0009】の発明の効果に関する記載、【0010】の参考例1,実施例1,2に関する図1?4の説明の記載、【0011】【0012】【0014】の用語技術的意味の記載、【0013】【0015】【0016】の麦芽使用比率及び糖質濃度の技術的意義及び糖質濃度の測定法の記載、【0017】?【0019】のHPLC分析用ゲル濾過法で分画された飲料由来の全ペプチド質量に対する飲料中の分子量800?1500Daのペプチド質量の比率やその技術的意義、飲料中のペプチド分子量の測定法、味の厚みの技術的意味の記載、【0020】?【0026】の本件特許発明のビールテイストアルコール飲料の製造方法の記載、【0027】【0028】のペプチド画分による特定分子量範囲の比率の調整に関する記載や特定分子量範囲のペプチドの配合による風味改善の記載、【0029】糖質の低減方法の記載、【0032】の「風味が改善された」「風味改善」の技術的意味の記載、【0033】【0034】のそれぞれ、風味改善剤、風味改善方法に関する記載がある。
さらに、実施例として、糖質濃度の具体的分析法、参考例1として、ビールテイスト飲料に好ましい香味を付与するペプチド画分の特定が行われ、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造、ゲル濾過分画、分画物の官能評価、画分のうちC又はDを添加した場合の官能評価、実施例1では、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造並びに該飲料へのペプチド添加が味の厚みに与える影響の分析が行われ、「【0063】表4および図3の結果から、糖質濃度が1.1g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料であっても、800?1500Daのペプチド比率を高めることにより「味の厚み」が向上することが確認された。」との考察結果が示されている。
さらに実施例2では、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の調製並びに分子量800?1500Daのペプチドが味の厚みおよび雑味に与える影響の分析が行われ、「【0084】
表6の結果から、糖質濃度が1.1g/100mL未満のビールテイスト発酵アルコール飲料であっても、分子量800?1500Daのペプチド比率が25%以上であると、味の厚みが実現されたビールテイスト発酵アルコール飲料を提供できることが確認された。特に、分子量800?1500Daのペプチド比率が28?38%であると、雑味を抑制しつつ、味の厚みが実現されたビールテイスト発酵アルコール飲料を提供できることが確認された。」との考察結果が示されている。

(5)判断
上記(4)のとおり、本件特許発明1の各発明特定事項に対応して、本件特許明細書には、発明特定事項の用語の意味や技術的意義の一般的記載が存在し、各特定事項間に技術的矛盾はなく、各特定事項を満たす場合に本件特許発明の効果を奏した具体的検証結果の記載も存在する(満たさない比較例の結果もある。)のであるから、本件特許発明1の構成によって、当業者であれば上記本件特許発明1の課題を解決できることを認識できるといえる。

また、本件特許発明2?7に関しても、【0017】、実施例2のペプチド比率28?38%の場合に関する記載、【0012】及び実施例の発酵アルコール飲料に関する記載、【0013】【0025】【0027】【0028】の未発芽の麦類を原料の一部とするものに関する記載、【0020】?【0029】の製造方法に関する記載、【0032】【0034】の風味改善剤や風味改善方法に関する記載も併せて考慮すれば、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2?7の構成によって、当業者であれば上記本件特許発明の課題を解決できることを認識できるといえる。

特許異議申立人は、異議申立理由3-1、3-2、3-3において、麦芽使用比率、糖質濃度、ペプチド質濃度の観点から、実施例の条件が、特許請求の範囲に特定された範囲の一部であって、呈味や味の厚みに影響するため、実施例と同様に課題解決できると認識できない旨主張している。
しかしながら、上述のとおり、発明の詳細な説明には、麦芽使用比率、糖質濃度、ペプチド濃度の記載が測定方法の記載とともになされており、麦芽使用比率、糖質濃度、ペプチド濃度の選択によって、味の厚みに一定の変化がでる可能性があったとしても、本件特許発明は、麦芽使用比率50%以上の低糖質ビールテイスト飲料においても、分画された全ペプチドに対する、分子量800?1500のペプチド含量比率を特定範囲とし、該ペプチドが、麦芽使用比率50%以上のビールテイスト発酵アルコール飲料由来であることで、味の厚みが実現された点に技術的思想があるものであり、実施例で選択された条件以外でも、その条件変化による影響の方向性も予想できるものであることも考慮すれば当業者であれば、技術常識から適切な範囲を選択でき、一定程度課題が解決できると理解できるといえる。

また、特許異議申立人は、異議申立理由3-4において、ペプチドは、その由来や種類に応じて活性や性質が異なるのが技術常識であるので、大麦麦芽由来のペプチドに関しての実施例だけでは、当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えている旨主張しているが、発明の詳細な説明には、本件特許発明のビールテイスト飲料の製造方法が、【0020】?【0031】に種々の要素に関し記載されており、【0022】?【0026】には、原料を含めたタンパク分解に関する記載もあるのであるから、当業者であれば、それらの記載及び実施例を考慮すれば、未発芽の麦類を用いた場合にも、本件特許発明の課題が解決できることを認識できるといえる。

以上のとおりであるので、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

3 異議申立理由3の判断のまとめ
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の記載について、請求項1?7に係る発明は、発明の詳細な説明の記載に記載されているといえるので、異議申立理由3には、理由がない。

異議申立理由4(実施可能要件)について
1 異議申立理由4について
特許異議申立人は、前記第3 4に記載のように実施可能要件について理由を述べている。

2 判断
異議申立理由3の(4)に示したとおり、発明の詳細な説明には記載があり、それらの記載は、特許請求の範囲に記載された本件特許発明の各特定事項に対応して、用語の技術的意味や特定事項の技術的意義、具体的実施態様、実施例が示されているのであるから、当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

特許異議申立人は、請求項1?5,7に係る発明について、ペプチド比率の調整に関し、本件明細書のエンド型プロテアーゼでペプチド比率を調整するに際し(本件明細書【0023】)、エンド型プロテアーゼその他のタンパク質分解酵素が麦芽中に含まれているし(甲第2号証参照)、製造条件により麦芽由来のエンド型プロテアーゼその他のタンパク質分解酵素量が変動するから、飲料の調製の度にペプチド比率を確認する必要があり、過度な試行錯誤であるから、本件特許は、発明の詳細な説明の記載が不備である旨主張している。
しかしながら、エンド型プロテアーゼでペプチド比率を調整するのは、ペプチド比率の増加の一態様として記載しているものであるし、麦芽中にエンド型プロテアーゼその他のタンパク質分解酵素が含まれて、ペプチド比率に影響がある可能性があったからといって、当業者が飲料の調整に際して、本件特許発明実施のために、ペプチド比率を確認することは過度な試行錯誤とはいえず、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

3 異議申立理由4の判断のまとめ
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載について、請求項1?5,7に係る発明は、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえるので、異議申立理由4には、理由がない。

第5 むすび
したがって、請求項1?7に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-08-02 
出願番号 特願2016-179414(P2016-179414)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C12C)
P 1 651・ 537- Y (C12C)
P 1 651・ 113- Y (C12C)
P 1 651・ 536- Y (C12C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 福澤 洋光  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 瀬良 聡機
齊藤 真由美
登録日 2020-10-28 
登録番号 特許第6785102号(P6785102)
権利者 キリンホールディングス株式会社
発明の名称 低糖質ビールテイスト飲料  
代理人 横田 修孝  
代理人 榎 保孝  
代理人 大森 未知子  

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