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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A23L |
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管理番号 | 1376773 |
異議申立番号 | 異議2021-700497 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-05-24 |
確定日 | 2021-08-12 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6792310号発明「不溶性食物繊維含有固形状組成物及びその製造法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6792310号の請求項1ないし24に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6792310号は2020年1月24日(優先権主張 2019年5月22日、日本国)を国際出願日として出願され、令和2年11月10日に特許権の設定登録がなされ、同年11月25日にその特許公報が発行され、その後、請求項1?24に係る特許に対して、令和3年5月21日に特許異議申立人 中水麻衣(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件請求項1?24に係る発明 本件請求項1?24に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?24に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 次の(1)から(5)を充足する、乾燥野菜類、乾燥穀類、乾燥豆類及び乾燥果実類から選ばれる1種以上の可食部及び/又は不溶性食物繊維局在部位の粉末を含有する固形状組成物。 (1)タンパク質を3質量%以上含有する (2)不溶性食物繊維を3質量%以上含有する (3)湿量基準水分が11質量%以下である (4)乾燥速度(105℃、5分間)が0.02g/s・m^(2)以上0.55g/s・m^(2)以下である (5)超音波処理を行った状態における固形状組成物水分散液中の粒子の50%積算径が5μm超600μm以下である 【請求項2】 乾燥野菜類、乾燥穀類、乾燥豆類及び乾燥果実類から選ばれる1種以上の可食部及び不溶性食物繊維局在部位を含有する、請求項1に記載の固形状組成物。 【請求項3】 超音波処理を行わない状態における固形状組成物水分散液中の粒子の最大粒子径が300μm以上である、請求項1又は2に記載の固形状組成物。 【請求項4】 乾燥豆類の可食部及び/又は不溶性食物繊維局在部位を5質量%以上含有する、請求項1?3のいずれか一項に記載の固形状組成物。 【請求項5】 乾燥豆類の種皮部分の粉末を含有する、請求項1?4のいずれか一項に記載の固形状組成物。 【請求項6】 さらに、全油脂分含量が60質量%未満である、請求項1?5のいずれか一項に記載の固形状組成物。 【請求項7】 乾燥野菜類、乾燥穀類及び乾燥果実類から選ばれる1種以上の可食部及び/又は不溶性食物繊維局在部位の含有量が、乾燥質量換算で10質量%以上である、請求項1?6のいずれか一項に記載の固形状組成物。 【請求項8】 さらに、固形状油脂を含有する、請求項1?7のいずれか一項に記載の固形状組成物。 【請求項9】 乾燥野菜類、乾燥穀類、乾燥豆類及び乾燥果実類から選ばれる1種以上の不溶性食物繊維局在部位の粉末を、固形状組成物全体に対して、乾燥質量換算で1質量%以上90質量%以下含有する、請求項1?8のいずれか一項に記載の固形状組成物。 【請求項10】 乾燥野菜類、乾燥穀類、乾燥豆類及び乾燥果実類から選ばれる1種以上の可食部と不溶性食物繊維局在部位が同一種類の植物由来である、請求項1?9のいずれか一項に記載の固形状組成物。 【請求項11】 乾燥野菜類、乾燥穀類、乾燥豆類及び乾燥果実類から選ばれる1種以上の可食部と不溶性食物繊維局在部位が同一個体由来である、請求項1?10のいずれか一項に記載の固形状組成物。 【請求項12】 乾燥野菜類が、カボチャ、ニンジン、キャベツ及びビーツから選ばれる1種以上である、請求項1?11のいずれか一項に記載の固形状組成物。 【請求項13】 グルテンを含有しない、請求項1?11のいずれか一項に記載の固形状組成物。 【請求項14】 乾燥穀類がコーンである、請求項1?11のいずれか一項に記載の固形状組成物。 【請求項15】 乾燥果実類が柑橘類である、請求項1?11のいずれか一項に記載の固形状組成物。 【請求項16】 人の摂食用途である、請求項1?15のいずれか一項に記載の固形状組成物。 【請求項17】 動物性食材を含まない、請求項1?16のいずれか一項に記載の固形状組成物。 【請求項18】 糖質を水に溶かした状態で含有する食材の含有量が30質量%未満の生地組成物を加熱処理して得られる焼き菓子類である請求項1?17のいずれか一項に記載の固形状組成物。 【請求項19】 下記(i)及び(ii)の段階を含む、請求項1?18のいずれか一項に記載の固形状組成物の製造方法。 (i)乾燥野菜類、乾燥穀類、乾燥豆類及び乾燥果実類から選ばれる1種以上の可食部及び/又は不溶性食物繊維局在部位の粉末を含有する生地組成物を、不溶性食物繊維の含有率が5質量%以上、超音波処理を行った状態における生地組成物水分散液中の粒子の50%積算径が5μm超600μm以下、湿量基準水分を15質量%以上となるように調整する段階 (ii)前記(i)の生地組成物を加熱処理することで、湿量基準水分を4質量%以上低下させ、固形化する段階 【請求項20】 (i)において、生地組成物の乾燥速度を0.20g/s・m^(2)(105℃、5分間)以上に調整する、請求項19に記載の固形状組成物の製造方法。 【請求項21】 (i)において、乾燥野菜類、乾燥穀類、乾燥豆類及び乾燥果実類から選ばれる1種以上の可食部及び不溶性食物繊維局在部位を含有する、請求項19又は20に記載の固形状組成物の製造方法。 【請求項22】 (i)において、乾燥豆類の種皮部分の粉末を含有する、請求項19?21のいずれか一項に記載の固形状組成物の製造方法。 【請求項23】 (ii)において、乾燥速度が0.20g/s・m^(2)(105℃、5分間)未満となるまで加熱する、請求項19?22のいずれか一項に記載の固形状組成物の製造方法。 【請求項24】 (ii)において、乾燥速度が0.02g/s・m^(2)(105℃、5分間)以上0.55g/s・m^(2)以下となるまで加熱する、請求項19?23のいずれか一項に記載の固形状組成物の製造方法。」 第3 異議申立ての理由についての検討 1 申立人の異議申立ての理由について 申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。 甲第1号証:特開2014-140364号公報 甲第2号証:「【おからパウダー】サクサク。セサミおからクッキー」、平成31年3月1日 (以下、甲第1?2号証を「甲1」?「甲2」という。) ・申立ての理由1 (1)本件発明1?4、6?10、16、19、21、24は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1?4、6?10、16、19、21、24に係る特許は、同法同条第1項の規定に違反してされたものである。 (2)本件発明1?9、16、19、21、22、24は、甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1?9、16、19、21、22、24に係る特許は、同法同条第1項の規定に違反してされたものである。 よって、請求項1?10、16、19、21、22、24に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 ・申立ての理由2 (1)本件発明1?24は、甲1に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるから、請求項1?24に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (2)本件発明1?24は、甲2に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるから、請求項1?24に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 よって、請求項1?24に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 甲1に基づく申立ての理由1及び2について (1)甲1の記載事項 ア 「【請求項1】 不溶性食物繊維 4.0?12.0質量%、 タンパク質 10.0?30.0質量%、及び 脂質 8.0?15.0質量% を含有する焼き菓子であって、前記不溶性食物繊維が小麦ふすま由来の不溶性食物繊維を含む、焼き菓子。 … 【請求項6】 前記焼き菓子の含水率が3?20質量%である、請求項1?5のいずれか1項に記載の焼き菓子。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 クッキー、ビスケット、カロリーバーといった穀粉を主原料とする焼き菓子では、一般的に、噛み切った際の歯切れが良く、かつ、口中では咀嚼中にパサつかず、しっとりとして食べやすいものが好まれる。 本発明者らは、焼き菓子の生理機能を高めるために小麦ふすまを配合し、かつ、栄養バランスを改善するためにタンパク質の含有量を高めた焼き菓子について検討したところ、食べやすい焼き菓子を作成することは困難であることが判明した。 【0006】 本発明は、不溶性食物繊維及びタンパク質の配合量を共に高めた焼き菓子であって、不溶性食物繊維を豊富に含有しながらも、口中にパサつきを感じにくく、しっとりとした食感を有し、かつ、タンパク質を豊富に含有しながらも、生地の詰まりが緩和されてよりソフトな食感を有し、歯切れよく噛み切ることができる焼き菓子の提供に関する。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた。そして、特定量の脂質を含有する焼き菓子において、焼き菓子中の不溶性食物繊維及びタンパク質の含有量を特定の範囲にすることで、唾液吸収による口中のパサつきが抑えられ、しっとりとして食しやすく、さらに、生地の凝集が抑えられ、よりソフトな食感となって歯切れ良く噛み切ることができる焼き菓子に仕上がることを見い出した。しかも、当該焼き菓子は崩壊しにくく、また、生地の形態安定性(品質安定性)に優れていた。 本発明はこれらの知見に基づき完成させるに至った。」 ウ 「【0024】 本発明の焼き菓子の含水率は、保存性の観点から、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらにこのましい。また、食感の観点から、本発明の焼き菓子の含水率は3質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましくい。より具体的には、本発明の焼き菓子の含水率は、3?20質量%であることが好ましく、4?15質量%であることがより好ましく、5?10質量%であることがさらに好ましい。 本発明の焼き菓子の水分活性は、保存性の観点から、0.8以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましく、0.6以下であることがさらに好ましい。」 エ 「【0059】 [製造例] 焼き菓子の製造 下記表1に記載の配合量(単位:質量部)で各原料を混合して生地を調製し、この生地を焼成して、実施例1?13及び比較例1?6の焼き菓子を製造した。具体的な製造方法を以下に詳述する。 【0060】 ホバート社製のホバートミキサー N50 MIXERに、マーガリン(商品名:チェリカゴールドE(A)、花王社製)、還元水飴(商品名:スイートOL、物産フードサイエンス株式会社社製)、スクラロース(三栄源エフ・エフ・アイ社製)、膨張剤として炭酸アンモニウム(和光純薬工業社製)及び重曹(和光純薬工業社製)、食塩(塩事業センター製)を秤量して入れ、低速で30秒間ミキシングした後、中速でミキシンングを行った。 さらに低速で30秒間撹拌しながら、鶏卵の全卵を溶いたものを3分割して加えた。最初の卵の添加後、低速30秒間攪拌を行い、次いで2回目の卵を添加し、低速30秒間攪拌を行った。ミキサーの壁に付着した油をかき落とした後、卵を加え、低速30秒間攪拌後、さらに均一なクリーム状になるまで中速にて1分間攪拌した。 【0061】 続いて、小麦粉(商品名:バイオレット、日清製粉社製)、大豆タンパク質含有粉末(脱脂豆乳由来、商品名:プロリーナ700、不二製油社製)、カゼイン粉末(商品名:Calcium Caseinate 380、Fonterra社製)、ホエイパウダー(商品名:ミライ80、ミライ社製)、コーンスターチ(日本食品化工社製)を下記表1に記載された配合量で配合し、低速にて45秒間撹拌した。 【0062】 最後に、小麦ふすま(商品名:ウィートブランDF、日清ファルマ社製)を、下記表1に記載された配合量で配合し、低速にて45秒間撹拌した。 【0063】 上記で得られた生地を、長方形の焼型に詰め、剥離紙を敷いた天板にならべた。なお、焼型は金属製で、縦×横×高さ:70mm×20mm×15mmのものを用いた。 【0064】 続いて、下記の焼成条件において焼成を行った。 焼成温度:上火 180℃ / 下火 180℃ 焼成時間:12分間 焼成後の焼き菓子の含水率はいずれも4?7質量%の範囲内であった。 焼成後室温で1日経過後の焼き菓子について、上述した方法で不溶性食物繊維、タンパク質、及び脂質の含有量(単位:質量%)を測定した。結果を下記表1に示す。 また、焼成後室温で1日経過後の焼き菓子を用いて以下の試験を行った。」 「【0071】 【表1】 ![]() 【0072】 表1に示されるように、タンパク質の含有量と脂質の含有量が本発明で規定する範囲内であっても、不溶性食物繊維の含有量が本発明で規定するよりも低いと、堅くて噛み切りにくいと同時に食感も非常に堅かった。また、口中に強いパサつきを感じるとともに、形態安定性にも劣る結果となった(比較例1)。逆に不溶性食物繊維の含有量を本発明の規定よりも高めると、脆く崩れやすかった(比較例2)。なお、比較例2の焼き菓子では、不溶性食物繊維の含有量を実測していないが、小麦ふすまの配合量から算出すれば、不溶性食物繊維の含有量は本発明の規定よりも多いことは明らかである。 また、不溶性食物繊維と脂質の含有量が本発明で規定する範囲内であっても、タンパク質の含有量が本発明の規定よりも多いと、やはり堅くて噛み切りにくいと同時に食感も非常に堅かった。また、口中に強いパサつきを感じるとともに、形態安定性にも劣る結果となった(比較例3)。逆にタンパク質の含有量が本発明で規定するよりも低いと、脆く崩れやすかった(比較例4)。 また、不溶性食物繊維とタンパク質の含有量が本発明で規定する範囲内であっても、脂質の含有量が本発明で規定するよりも低いと、堅くて噛み切りにくく、食感も非常に堅かった。また、口中に強いパサつきと感じると共に、形態安定性にも劣る結果となった(比較例5)。逆に脂質の含有量が本発明で規定するよりも高めると、脆く崩れやすくなった(比較例6)。 【0073】 これに対し実施例1?13の焼き菓子は、堅さ、生地の詰まり、しっとり感、形態安定性のいずれの評価項目においても良好な結果となった。」 (2)甲1に記載された発明 甲1の実施例及び比較例からみて、甲1には以下の「甲1発明」が記載されていると認められる。 「タンパク質含有量12.60?32.20質量%、不溶性食物繊維含有量3.40?10.50質量%の、小麦粉、大豆タンパク質、小麦ふすまを含有する焼き菓子」 (3)本件発明1 ア 本件発明1と甲1発明の対比 甲1発明における「タンパク質含有量12.60?32.20質量%」及び「不溶性食物繊維含有量3.40?10.50質量%」は、それぞれ本件発明1の(1)と(2)、すなわち「タンパク質を3質量%以上含有する」こと、及び「不溶性食物繊維を3質量%以上含有する」ことを満たす。 甲1発明における「小麦粉」及び「小麦ふすま」は、一般的な商品形態からみて、本件発明1の「乾燥穀類」に相当するものと解される。そして、本件発明1でいう「可食部及び/又は不溶性食物繊維局在部位の粉末」となっているものと認められる。 そして、甲1発明の「焼き菓子」は、本件発明1でいう「固形状組成物」に相当するものといえる。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致する。 「次の(1)から(2)を充足する、乾燥穀類の可食部及び/又は不溶性食物繊維局在部位の粉末を含有する固形状組成物。 (1)タンパク質を3質量%以上含有する (2)不溶性食物繊維を3質量%以上含有する」 そして、両者は次の点で相違する。 相違点: 本件発明1は 「(3)湿量基準水分が11質量%以下である (4)乾燥速度(105℃、5分間)が0.02g/s・m^(2)以上0.55g/s・m^(2)以下である (5)超音波処理を行った状態における固形状組成物水分散液中の粒子の50%積算径が5μm超600μm以下である」のに対し、 甲1発明は、「湿量基準水分」、「乾燥速度(105℃、5分間)」、「超音波処理を行った状態における固形状組成物水分散液中の粒子の50%積算径」のいずれにおいても明らかでない点。 イ 判断 上記相違点について検討する。 (ア)上記のとおり、甲1には、「湿量基準水分」、「乾燥速度(105℃、5分間)」、「超音波処理を行った状態における固形状組成物水分散液中の粒子の50%積算径」の三点についての明示はない。 申立人は甲1実施例3、4、比較例1を甲1【0059】?【0064】に記載の製造方法で製造し、得られたサンプルの「湿量基準水分」、「乾燥速度(105℃、5分間)」、「超音波処理を行った状態における固形状組成物水分散液中の粒子の50%積算径」を測定すると、本件発明のこれら三点の数値範囲を満たす旨主張する(申立書10頁18行?12頁11行、申立書10?12頁に記載された、測定結果は、測定日も、実験者も、測定結果報告の作成者も記載されていないもので、実験成績証明書とはいえないものの、一応検討した。)。 しかし、甲1の上記製造方法における焼成時間は12分、各サンプルの焼成時間は20?30分で一致しないし、甲1には、乾燥速度、粒子の50%積算径の測定条件の記載はない(申立人は[0064]に記載の含水率となるように焼き時間を調整したことや本件特許明細書[0053][0054]に記載の乾燥速度、超音波処理で行った固形状組成物水分散液中の粒子の50%積算径を測定したと申立書に記載している。)。 このため、各サンプルは甲1実施例及び比較例の再現とはいえず、甲1実施例及び比較例で得られたものが本件発明1のこれら三点の数値範囲を満たすものであることは確認できない。 よって、甲1発明における「湿量基準水分」、「乾燥速度(105℃、5分間)」、「超音波処理を行った状態における固形状組成物水分散液中の粒子の50%積算径」の三点はいずれも明らかでなく、本件発明1は甲1発明とはいえない。 (イ)また、甲1には「湿量基準水分」と関連すると解しうる「焼き菓子の含水率」についての記載があり(上記(1)ウ)、数値上は本件の「湿量基準水分」の要件を満たすかのように見受けられるが、上述のとおり、「乾燥速度(105℃、5分間)」や「超音波処理を行った状態における固形状組成物水分散液中の粒子の50%積算径」に関する技術的特徴については何ら言及がない。 このため、甲1の記載からは、甲1発明において、少なくとも「乾燥速度(105℃、5分間)」や「超音波処理を行った状態における固形状組成物水分散液中の粒子の50%積算径」を本件発明1のように調整することを想起することはできない。 よって、本件発明1は甲1発明から容易に発明することができたものとはいえない。 ウ まとめ したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとも、甲1に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。 (4)本件発明2?24 本件発明2?18は、本件発明1を更に限定するものであり、本件発明19は、本件発明1の固形状組成物の特定事項をすべて含んで引用する製造方法の発明であり、本件発明20?24は、本件発明19を更に限定するものである。したがって、本件発明1が甲1に記載された発明であるとも、甲1に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるともいえないことに鑑みると、本件発明2?24も甲1に記載された発明であるとも、甲1に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。 (5)まとめ よって、甲1に基づく申立ての理由1及び2には、理由がない。 3 甲2に基づく申立ての理由1及び2について (1)甲2の記載事項 ア 「【おからパウダー】サクサク。セサミおからクッキー」(表題) イ 「材料(24枚分) バター 50g 砂糖 30g 卵 1個 薄力粉 50g おからパウダー 30g 白いりごま 大さじ1」(「材料」の項) ウ 「作り方 下準備 バターと卵は室温に戻し、卵は溶きほぐす。 オーブンを170度に予熱する。 1 ボウルにバターを入れて泡立て器で練り混ぜ、砂糖を加えすり混 ぜる。 続いて溶き卵を2?3回に分けてよくすり混ぜる。 2 薄力粉とおからパウダー、白いりごまを加え、木べらで混ぜる。 まとまったら、20cm棒状にし、ラップで包んで冷蔵庫で30分以上 冷やす。 3 約7mmの厚さに切り、オーブンシートを敷いた天板に並べる。 170度に予熱したオーブンで12分焼く。」(「作り方」の項) (2)甲2に記載された発明 甲2の「材料」及び「作り方」の項からみて、甲2には以下の「甲2発明」が記載されていると認められる。 「バター50g、砂糖30g、卵1個、薄力粉50g、おからパウダー30g、白いりごま大さじ1を用い、170度に予熱したオーブンで12分焼いて作ったクッキー」 (3)本件発明1 ア 本件発明1と甲2発明の対比 甲2発明における「薄力粉」及び「おからパウダー」は、一般的な商品形態からみて、本件発明1の「乾燥穀類」及び「乾燥豆類」に相当するものと解される。そして、本件発明1でいう「可食部及び/又は不溶性食物繊維局在部位の粉末」となっているものと認められる。そして、得られた「セサミおからクッキー」は、「固形状組成物」といえる。 甲2発明において、「材料」の項において各材料の配合量についての記載はあるものの、「作り方」の項に沿って製造して得られた「セサミおからクッキー」は、その材料からみて、「タンパク質」及び「不溶性食物繊維」を含有することは推認できるものの、どの程度の「タンパク質」及び「不溶性食物繊維」を含有するかは、甲2のいずれの記載からも明らかでない。 また、甲2には、「湿量基準水分」、「乾燥速度(105℃、5分間)」、「超音波処理を行った状態における固形状組成物水分散液中の粒子の50%積算径」の三点について、何らの記載ないし示唆も存在しない。 そうすると、本件発明1と甲2発明とは、次の点で一致する。 「次の(1)から(2)を充足する、乾燥穀類、乾燥豆類から選ばれる1種以上の可食部及び/又は不溶性食物繊維局在部位の粉末を含有する固形状組成物。 (1)タンパク質を含有する (2)不溶性食物繊維を含有する」 そして、両者は次の点で相違する。 相違点1: 本件発明1は、タンパク質を「3質量%以上」、不溶性食物繊維を「3質量%以上」含有するものであるところ、甲2発明はこれらをどの程度含有するのか明らかでない点。 相違点2: 本件発明1は 「(3)湿量基準水分が11質量%以下である (4)乾燥速度(105℃、5分間)が0.02g/s・m^(2)以上0.55g/s・m^(2)以下である (5)超音波処理を行った状態における固形状組成物水分散液中の粒子の50%積算径が5μm超600μm以下である」のに対し、 甲2発明は、「湿量基準水分」、「乾燥速度(105℃、5分間)」、「超音波処理を行った状態における固形状組成物水分散液中の粒子の50%積算径」のいずれにおいても明らかでない点。 イ 判断 上記相違点1及び2について検討する。 (ア)上記のとおり、甲2には、「湿量基準水分」、「乾燥速度(105℃、5分間)」、「超音波処理を行った状態における固形状組成物水分散液中の粒子の50%積算径」の三点についての明示はない。 申立人は、甲2に記載された製造方法で製造した「セサミおからクッキー」を、本件明細書【0053】?【0054】に記載された方法に基づき測定したとき、本件発明1の「湿量基準水分」、「乾燥速度(105℃、5分間)」、「超音波処理を行った状態における固形状組成物水分散液中の粒子の50%積算径」の値を満たす旨主張する(申立書13頁1行?末行)。 しかし、甲2の記載からは、甲2発明の材料はどのようなものを使用したか明らかでない。このため、「タンパク質」及び「不溶性食物繊維」の各成分は、申立人が引用する「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」の値に沿うものか明らかでなく、申立人の主張の前提である各成分組成を計算できない。そうであれば、甲2発明において得られた「セサミおからクッキー」は、申立書13頁に記載されたものとなるのか明らかでない。更に、「湿量基準水分」、「乾燥速度(105℃、5分間)」、「超音波処理を行った状態における固形状組成物水分散液中の粒子の50%積算径」についても同様、本件発明1の範囲内となるのか明らかでない。 よって、本件発明1は甲2発明とはいえない。 (イ)また、甲2には「タンパク質」及び「不溶性食物繊維」の各成分の含有量、「湿量基準水分」、「乾燥速度(105℃、5分間)」、「超音波処理を行った状態における固形状組成物水分散液中の粒子の50%積算径」それぞれについて本件発明1程度に調整しうることに関する記載ないし示唆が存在しない。 このため、甲2の記載からは、甲2発明において、これらの値を本件発明1のように調整することを想起することはできない。 よって、本件発明1は甲2発明から容易に発明することができたものとはいえない。 ウ まとめ したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとも、甲2に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。 (4)本件発明2?24 本件発明2?18は、本件発明1を更に限定するものであり、本件発明19は、本件発明1の固形状組成物の特定事項をすべて含んで引用する製造方法の発明であり、本件発明20?24は、本件発明19を更に限定するものである。したがって、本件発明1が甲2に記載された発明であるとも、甲2に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるともいえないことに鑑みると、本件発明2?24も甲2に記載された発明であるとも、甲2に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるともいえない。 (5)まとめ よって、甲2に基づく申立ての理由1及び2には、理由がない。 4 まとめ 以上のことから、申立人が主張する申立ての理由にはいずれも理由がなく、これらの申立の理由によっては本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、異議申立ての理由によっては、本件請求項1?24に係る発明の特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-07-30 |
出願番号 | 特願2020-531793(P2020-531793) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(A23L)
P 1 651・ 113- Y (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 吉岡 沙織 |
特許庁審判長 |
瀬良 聡機 |
特許庁審判官 |
大熊 幸治 冨永 みどり |
登録日 | 2020-11-10 |
登録番号 | 特許第6792310号(P6792310) |
権利者 | 株式会社Mizkan Holdings |
発明の名称 | 不溶性食物繊維含有固形状組成物及びその製造法 |
代理人 | 特許業務法人アルガ特許事務所 |