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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 D04H |
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管理番号 | 1376785 |
異議申立番号 | 異議2021-700323 |
総通号数 | 261 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-09-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-04-06 |
確定日 | 2021-08-24 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6778308号発明「親水性嵩高不織布」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6778308号の請求項1?10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許6778308号の請求項1?10に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)2月20日(優先権主張 2016年(平成28年)2月22日)を国際出願日として出願した特願2018-501677号の一部を令和元年10月3日に新たな特許出願としたものであって、令和2年10月13日にその特許権の設定登録がされ、令和2年10月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年4月6日に特許異議申立人岡林茂(以下「申立人」という。)が、本件特許異議の申立てを行った。 第2 本件発明 特許6778308号の請求項1?10に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1?10を総称して、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 捲縮数が5?45個/2.54cm(インチ)である熱可塑性長繊維からなる親水性嵩高不織布であって、該不織布表面における測定基準長さを100μmとしたときのX方向Y方向により規定する単位区画内での最大高さが、該不織布のZ方向無荷重時の高さ(厚み)に対し30%以上である区画の比率が、該不織布表面積20mm×20mmに相当する区画数40000当たり50%以上である不織布表面構造を有し、かつ、透水剤が含有されるか又は塗布されているものであることを特徴とする前記親水性嵩高不織布。 【請求項2】 前記親水性嵩高不織布のX線CTでの厚み方向の配向指数が0.43以下である、請求項1に記載の親水性嵩高不織布。 【請求項3】 前記親水性嵩高不織布の圧縮仕事量が0.20gf・cm/cm^(2)以上1.00gf・cm/cm^(2)以下である、請求項1又は2に記載の親水性嵩高不織布。 【請求項4】 前記熱可塑性繊維がサイドバイサイド型又は偏芯鞘芯型の複合繊維である、請求項1?3のいずれか1項に記載の親水性嵩高不織布。 【請求項5】 前記熱可塑性繊維がポリオレフィン系繊維である、請求項1?4のいずれか1項に記載の親水性嵩高不織布。 【請求項6】 前記透水材剤が、高級アルコール、高級脂肪酸、エチレンオキサイドを付加した非イオン系活性剤、アルキルフォスフェート塩、及びアニオン系活性剤からなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤である、請求項1?5のいずれか1項に記載の親水性嵩高不織布。 【請求項7】 前記透水剤が、ポリエーテル化合物、ポリエチレンエーテル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ポリエステル化合物、ポリアミド化合物、及びポリグリセリン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤である、請求項1?5のいずれか1項に記載の親水性嵩高不織布。 【請求項8】 前記複合繊維同士の交点が溶融し接着している、請求項4?7のいずれか1項に記載の親水性嵩高不織布。 【請求項9】 部分熱圧着されている、請求項1?8のいずれか1項に記載の親水性嵩高不織布。 【請求項10】 請求項1?9のいずれか1項に記載の親水性嵩高不織布を用いてなる衛生材料。」 第3 申立理由の概要 申立人は、主たる証拠として特開平10-5275号公報(以下「甲1」という。)及び従たる証拠として特開2015-134979号公報(以下「甲2」という。)、特開2008-169506号公報(以下「甲3」という。)、特開2016-41858号公報(以下「甲4」という。)、及び、特願2016-031353号の明細書(本件特許の優先権主張に係る特許出願。以下「甲5」という。)を提出し、請求項1?10に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?10に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。 第4 提出された証拠の記載及び引用発明 (1)甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。 ア.「【0027】親水性改良剤の付与方法をとしては、通常希釈した処理剤溶液を用いて、浸漬法、噴霧法、コーティング(ロールコーター、グラビアコーター、ダイ等)法等の既知の方法が採用でき、均一に付与後、熱風、熱ロールなどの乾燥手段を用いて乾燥する。以上の付与において、主にコーティング法で付与する場合には、特に高速での付与では布への浸透が均一である必要があり、その際一方の成分であるポリエーテル変成シリコーンが布への浸透性が弱いこと、また他方の成分であるポリエーテル化合物が布への浸透の温度依存性が強く影響することから、この浸透性を安定化させるために、該処理剤に、更に浸透性安定剤として、一般式Dで示されるアルキロールアミド化合物、あるいは同Eのアルキルアミノキシド化合物、あるいは同Fのアルキルアンモニウムホスフェート化合物等を各々10?40重量%、好ましくは15?30重量%含有させることができる。」 イ.「【0029】親水性改良剤を付与するポリオレフィン系繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維、あるいはポリオレフィン系樹脂を表面層とする芯-鞘繊維などで、通常の円形繊維のみでなく、捲縮繊維、異形繊維などの特殊形態の繊維も含まれ、単繊維に付与して後、繊維ウェブとしてもよく、繊維ウェブとした後付与してもよく、その繊維ウェブの形状も、平坦ウェブと捲縮ウェブの積層等種々の繊維ウェブを積層した不織布、表面層をポリオレフィン繊維ウェブとし、中心層を親水性ウェブ、異種ウェブとする特殊な不織布などが用いられる。付与に際しては、必要に応じて繊維ウェブの表裏に付着量に差をつけてもよい。」 上記記載事項を総合すると、甲1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。 「捲縮繊維の形態の繊維を含む、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維の繊維ウェブを表面層とし、中心層を親水性ウェブとする不織布であって、親水性改良剤がグラビアコーターによるコーティング法により付与されているものである、不織布。」 (2)甲2には、以下の事項が記載されている。 ア.「【0048】 〔実施例1〕 不織布の製造(A)で得られた不織布に、ポリエーテル化合物とポリエチレンエーテル変性シリコーンとの混合物からなる透水剤の1wt%水溶液を液温20℃、液粘度2.3mPa・sに調整し、塗布量が30wt%となるように、斜線柄120メッシュ、セル容積22cm^(3)/m^(2)のグラビアロールを用いて塗布し、次いで、120℃のシリンダードライヤーに通して乾燥させ巻き取った。巻取りは紙管を芯とし長尺巻取りを行なった。なお、使用したポリエーテル化合物及びポリエーテル変性シリコーンは下記の方法で得た。 ポリエーテル化合物は、グリセリンにプロピレンオキシドを反応させ、平均重合度50の付加物を得た。次いで、得られた付加物にエチレンオキシドを平均重合度15となるように付加重合した。これにステアリン酸を反応させ、ポリエーテル化合物を得た。 ポリエーテル変性シリコーンは、ジメチルヒドロキシポリシロキサンにメチルアルコールのエチレンオキシド反応物を付加して、シロキ酸の繰り返し数(Si)が22、エチレンオキシド付加シロキ酸の繰り返し数(SiE)が2、エチレンオキシドの繰り返し数(EO)が40のポリエチレンエーテル変性シリコーンを得た。」 (3)甲3には、以下の事項が記載されている。 ア.「【0009】 延伸処理される不織布は、強度および柔軟性を高めるために、部分熱圧着により接合一体化されるが、この部分熱圧着における熱圧着面積率、すなわち熱圧着域は強度保持と柔軟性の点から、5?50%が好ましく、より好ましくは5?20%である。部分熱圧着は、例えば超音波法により、または加熱したエンボス/フラットロール間にウェブを通して行うことができ、これによって、例えば、ピンポイント状、矩形状等の接合点であるエンボス模様が全面に散点された不織布を得ることができる。熱圧着処理により、繊維層は所謂融着接合し、一部はフィルム状の形状となる。そのため、後述の繊維嵩密集域とは異なり、繊維としての本来の形状は維持されなく、自由度もない。」 イ.「【0011】 さらに、本発明の表面層のスパンボンド繊維層の繊維には捲縮繊維を用いることがより好ましい。捲縮繊維を用いると、得られる不織布を嵩高にし、風合いがよくなるだけでなく、伸縮特性が向上される。捲縮繊維としては、らせん状捲縮を有する連続フィラメントとして形成されているのが好ましく、捲縮数は2個以上/25mmが好ましい。捲縮繊維として、Y、V型などの異形断面糸や、複合型繊維でも良い。」 ウ.「【0014】 本発明の不織布において、部分熱圧着域とは異なる繊維高密集域とは、繊維が潰されることなく高度に密集した領域であり、表面に占めるその面積率が5?70%であることが好ましく、より好ましくは20?55%の範囲であり、特に好ましくは35?50%の範囲である。 【0015】 繊維高密集域の繊維構造は、熱圧着処理されたものとは異なり、繊維が潰されたり、融着することなく、繊維としての形状を維持し、繊維としての自由度を有する。従って、伸縮に対する追従性、回復性に優れた効果を発揮し、特に、繰返し伸縮に対し、繊維組織として優れた追従性を有する。該面積率が5%未満では、伸縮特性が向上するという効果があるとは言えず、70%を超えると伸長性の低減に伴い、弾性率が低減する。 【0016】 また、不織布の厚み方向への密集度は、全体の厚みに対して、繊維高密集域の厚みが80%以下にすることが伸縮特性の効果を得るのに好ましく、より好ましくは50%以下である。 【0017】 繊維高密集域の嵩密度は0.1g/cm^(3)?3.0g/cm^(3)の範囲が好ましい。3.0g/cm^(3)を超えると、熱圧着部の嵩密度に類似するレベルになり、0.1g/cm^(3)未満では、非熱圧着部と同じレベルとなる。」 第5 当審の判断 (1)本件発明1について ア.本件発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維」は、本件発明1の「熱可塑性繊維」に、同「ポリオレフィン繊維の繊維ウェブを表面層とし、中心層を親水性ウェブとする不織布」は、同「親水性不織布」に、同「親水性改良剤」は、同「透水剤」に、同「グラビアコーターによるコーティング法により付与」は、「塗布」に相当する。 そうすると、本件発明1と引用発明1とは、以下の<一致点>で一致し、<相違点>で相違する。 <一致点> 「捲縮繊維の形態の繊維を含む、熱可塑性繊維からなる親水性不織布であって、透水剤が塗布されているものである親水性不織布。」 <相違点> 本件発明1は、「捲縮数が5?45個/2.54cm(インチ)である熱可塑性長繊維からなる親水性嵩高不織布であって、該不織布表面における測定基準長さを100μmとしたときのX方向Y方向により規定する単位区画内での最大高さが、該不織布のZ方向無荷重時の高さ(厚み)に対し30%以上である区画の比率が、該不織布表面積20mm×20mmに相当する区画数40000当たり50%以上である不織布表面構造を有」するのに対し、引用発明1は、「捲縮繊維の形態の繊維を含む、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維の繊維ウェブを表面層とし、中心層を親水性ウェブとする不織布」であるものの、捲縮数が不明であり、熱可塑性繊維が長繊維であるか不明であり、親水性不織布が嵩高であるか不明であるし、「不織布表面における測定基準長さを100μmとしたときのX方向Y方向により規定する単位区画内での最大高さが、該不織布のZ方向無荷重時の高さ(厚み)に対し30%以上である区画の比率が、該不織布表面積20mm×20mmに相当する区画数40000当たり50%以上である不織布表面構造を有」するか否か、不明である点。 イ.上記<相違点>について検討する。 甲1には、捲縮数が「5?45個/2.54cm(インチ)」であり、熱可塑性繊維を「長繊維からなる」ものとし、親水性不織布を「嵩高」のものとすることは、記載も示唆もされていない。また、「不織布表面における測定基準長さを100μmとしたときのX方向Y方向により規定する単位区画内での最大高さが、該不織布のZ方向無荷重時の高さ(厚み)に対し30%以上である区画の比率が、該不織布表面積20mm×20mmに相当する区画数40000当たり50%以上である不織布表面構造」についても、記載も示唆もされていない。 さらに、甲2及び甲3にも、これらの事項は記載されていない。 よって、本件発明1の上記<相違点>に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。 ウ.したがって、本件発明1は、引用発明1及び甲2?3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。 (2)本件発明2?10について 本件発明2?10は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。 よって、上記(1)に示した理由と同様の理由により、本件発明2?10は、引用発明1及び甲2?5に記載された事項に基いて当業者が容易になし得るものではない。 (3)申立人の主張について ア.申立人は、特許異議申立書(12ページを参照。)において、「対象特許の請求項1の親水性嵩高不織布は、甲第1号証の段落[0035]に開示された不織布(B)に、甲第1号証の実施例2によって処理剤を与えることで容易に導出可能なものである。 具体的に、対象特許の実施例15に記載の不織布の製造方法は、甲第1号証の段落[0035]に開示された不織布(B)の製造方法によって製造された不織布(B)に、甲第1号証の実施例2によって処理剤を与える方法と実質的に同一である。さらに具体的に、不織布の原料と物性(MFRが38g/10分であるポリプロピレン)、ノズル形状(ハ型異型=V型異形)、紡糸温度(240℃)、圧着ロールの温度(135℃)と圧力(60kg/cm)、目付(25g/m^(2) vs. 20g/m^(2))、透水剤の種類(ポリエーテル変性シリコンとポリオキシアルキレンひまし油エーテルの混合物 vs. (PO)_(85)・(EO)_(20)のブロックポリエーテル化合物と、(Si_(22)、SiE_(2)、EO_(40))のポリエチレンエーテル変成シリコンと、脂肪酸金属塩としてラウリン酸カリウム塩との混合物)、透水剤の濃度(1wt%)と温度(20℃ vs.18℃)及びコーティング方式(グラビア法)が同一であるか、非常に類似している。」と主張している。 そこで、上記の点以外の点についても、本件特許(対象特許)の実施例15に記載の不織布の製造方法と、甲1の段落[0034]?[0035]に記載された不織布の製造方法とを比較し、その検討結果を以下に示す。 イ.「エンボスロール」について 本件特許の実施例15には、「エンボスロール(パターン仕様:直径0.425mm円形、千鳥配列、横ピッチ2.1mm、縦ピッチ1.1mm、圧着面積率6.3%)」と記載されており、エンボスロールのパターン仕様について詳細が開示されている。そして、本件特許の「エンボスロール」に対応して、甲1の段落[0034]には「彫刻ロール」が記載されているが、「彫刻ロール」のパターン仕様については、何ら開示されていない。「彫刻ロール」のパターン仕様は、それにより製造される不織布の表面構造に直接的な影響を及ぼすものであるから、前記パターン仕様が開示されていない甲1から、本件発明1の進歩性が否定されることに合理的な疑いはない。なお、その他の検討結果についても、以下に示す。 ウ.「繊維」について 本件特許の実施例15の長繊維不織布は、「ハ型異型ノズル」で紡糸して、「平均繊維径18.7μm」の長繊維ウェブを形成することにより得られる。一方、引用発明1の不織布は、甲1の[0035]の「V型異形紡糸孔」より紡糸して得られた、2.2デニールのポリプロピレン捲縮スパンボンド不織布である。繊維の断面が円形であると仮定して、ポリプロピレンの密度を0.9g/cm^(3)とし、甲1における繊維径R(m)とすると、以下の式を満たす。 π(R/2)^(2)×9000(m)×[0.9×10^(6)(g/m^(2))]=2.2(g) 上記式を、繊維径Rについて解くと、繊維径Rは、18.6μmとなり、本件特許の実施例15の「18.7μm」と異なる上、断面が「ハ型」と「V型」で異なる。 エ.「吐出量」について 本件特許の実施例15には、「吐出量が0.80g/分・holeで押出し」と記載されている。一方、甲1の段落[0034]には、「1300g/mm定量的に押出し、1540ホールの紡糸口金を用いてフィラメント群を紡出し」と記載されている。前記「1300g/mm」が、「1300g/min」の誤記であると仮定して計算すると、甲1における1ホール当たりの吐出量は、 1300/1540=0.84g/分・hole となり、本件特許の実施例15の「0.80g/分・hole」と異なる。 オ.よって、申立人の上記ア.の主張には理由がない。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-08-13 |
出願番号 | 特願2019-183146(P2019-183146) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(D04H)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 堀内 建吾 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
矢澤 周一郎 藤原 直欣 |
登録日 | 2020-10-13 |
登録番号 | 特許第6778308号(P6778308) |
権利者 | 旭化成株式会社 |
発明の名称 | 親水性嵩高不織布 |
代理人 | 齋藤 都子 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 中村 和広 |
代理人 | 三間 俊介 |