• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する B22F
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する B22F
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する B22F
管理番号 1377017
審判番号 訂正2020-390113  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2020-12-17 
確定日 2021-06-10 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6346992号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6346992号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 1 経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第6346992号(以下、「本件特許」という。)は、2016年(平成28年)12月26日を国際出願日とする出願である特願2017-514584号の請求項1?5に係る発明について、平成30年6月1日に特許権の設定登録がされ、その後、令和2年12月17日に本件訂正審判が請求されたものである。

2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第6346992号の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものであり、請求人が求めている訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(審決注:下線部分は訂正箇所であり、請求人が訂正明細書及び訂正特許請求の範囲において示したとおりである。また、「…」は、記載の省略を表す。)。
(1)訂正事項1
本件の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0029】の【表1】の「単位面積当たりの酸素量(mg/m^(2))」の全値を、以下に添付の【表1】のように、10分の1の値に訂正する。

【表1】(訂正前)

【表1】(訂正後)

(2)訂正事項2
本件明細書の段落【0005】、【0025】の「単位表面積当りの酸素量が30mg/m^(2)以上100mg/m^(2)以下のアルミニウム系粉末」との記載を、「単位表面積当りの酸素量が3.0mg/m^(2)以上10.0mg/m^(2)以下のアルミニウム系粉末」と、10分の1の値に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の「単位表面積当りの酸素量が30mg/m^(2)以上100mg/m^(2)以下のアルミニウム系粉末」を、「単位表面積当りの酸素量が3.0mg/m^(2)以上10.0mg/m^(2)以下のアルミニウム系粉末」と、10分の1の値になるように訂正する。

3 本件明細書の記載事項
本件明細書には、次の記載がある。
「【0021】
《評価方法》…
(3) 酸素量の測定
不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法(堀場製作所社製 EMGA-920)により測定した。」
「【0025】
《評価結果》
(金属積層造形用粉末)
本実施形態の金属積層造形用粉末は、レーザー回折・散乱法で粒子径分布測定した場合の体積基準の50%粒子径が10μm以上100μm未満、比表面積が0.5m^(2)/g以下で、かつ、単位表面積当りの酸素量が30mg/m^(2)以上100mg/m^(2)以下のアルミニウム系粉末である。
【0026】
また、本実施形態の金属積層造形用粉末は、アルミニウム系粉末100g当りの水素量(Xml:標準状態)と比表面積(Ym^(2)/g)との関係、および、前記水素量(Xml:標準状態)と酸素量(Z重量%)との関係が、X/Y < 151、Z/X > 0.0022で示される。特に、X/Y ≦130、Z/X ≧0.003で示される。」
「【0029】
本発明に係る実施例1?6および比較例1?6のアルミニウム系合金粉末の製造および
その積層造形物と、その試験結果を、表1に示す。
【表1】



4 参考文献及びその記載事項
当審が職権で調査して引用する文献及びその記載事項は以下のとおりである。
参考文献1:特開2012-69438号公報
「【0025】
不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法による上記酸素濃度の測定は、以下のようにして行う。測定装置としては、例えば、株式会社堀場製作所製の酸素-窒素分析計(EMGA-920)を用いる。そして、不活性ガス中、触媒粒子をインパルス加熱及び融解することにより、当該粒子中の酸素原子を、一酸化炭素に変換する。そして、この一酸化炭素の濃度を、非分散型赤外線吸収法を用いて検出する。このようにして、触媒粒子が含んでいる酸素量を測定し、これを質量換算する。そして、得られた酸素の質量を、測定に供した触媒粒子の質量で除することにより、上記の酸素濃度を得る。」

5 参考文献の記載事項についての検討
上記4より、参考文献1によれば、株式会社堀場製作所製の酸素-窒素分析計(EMGA-920)により測定した、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法による酸素量は、試料が含んでいる酸素の質量を測定に供した試料の質量で除することにより得られる値であることが理解される。

6 訂正の適否
以下、訂正事項1、訂正事項2及び訂正事項3について検討する。
(1)訂正の目的について
ア 訂正事項1について
請求人は、審判請求書において、訂正事項1は誤記の訂正を目的とするものであると主張しているので、この主張について検討する。
請求人は、審判請求書4頁の「(3)訂正の理由」の[訂正事項1]の「a 訂正の目的」において、上記3の段落【0025】?【0026】の記載より、本件特許の「単位表面積当りの酸素量(mg/m^(2))」は、粉末の「酸素量(Z重量%)」を粉末の「比表面積(Ym^(2)/g)」で除算して算出される値であり、単位を考慮すると、以下のように表されるものであることを説明している。
[単位表面積当りの酸素量(mg/m^(2))]
=(酸素量Z[重量%])/(比表面積Y[m^(2)/g])
=(Zmg/100mg)/(Y/1000[m^(2)/mg])
=(1000×Z/100×Y)[mg/m^(2)])
={(10×Z)/Y}[mg/m^(2)]

上記算出式の妥当性に関して考察する。
アルミニウム合金粉末a(g)について、
当該粉末中の酸素の質量Aは、上記5で検討した粉末酸素量の定義(粉末試料が含んでいる酸素の質量割合)に基づいて、
A=(Z/100)×a(g)=aZ/100(g)=10aZ(mg)
となる。また、当該粉末の表面積Bは、比表面積Yを用いて、
B=Y(m^(2)/g)×a(g)=aY(m^(2))
となるため、当該粉末の単位表面積あたりの酸素量Cは、
C=A(mg)/B(m^(2))=10aZ/aY=10Z/Y(mg/m^(2))
と算出できる。
以上の考察に基づくと、請求人が説明した「単位表面積当りの酸素量(mg/m^(2))」についてのZとYを用いた算出式は適切であるといえる。

そして、本件明細書全体の記載から、上記3の段落【0029】の【表1】の「単位面積当たりの酸素量(mg/m^(2))」は上記式中の「単位表面積当りの酸素量(mg/m^(2))」に該当し、同【表1】の「粉末比表面積Y[m^(2)/g]」は上記式中の「比表面積(Ym^(2)/g)」に該当する。
また、上記5における検討から、同【表1】の「粉末酸素量Z[%]」は、粉末の質量に対する粉末が含んでいる酸素の質量の割合であり、上記式中の「酸素量(Z重量%)」に該当する。
この算出式に従えば、同【表1】における実施例1の「比表面積(Ym^(2)/g)」は0.24、「酸素量(Z重量%)」は0.21であるから、「単位面積当たりの酸素量(mg/m^(2))」は、(10×0.21/0.24)=8.75≒8.8であり、同【表1】に記載された「88」は桁を誤った誤記であり、本来は10分の1の値であることが正しいことが理解できる。
実施例1と同様に計算すると、【表1】の「単位面積当たりの酸素量(mg/m^(2))」の全値は、測定値Y、Zから計算される値を10倍大きく記した誤記であり、当業者であれば10分の1の値が正しいことがわかる。
よって、訂正事項1は、誤記の訂正を目的とするものである。
以上より、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものである。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1における【表1】の訂正に対応したものであり、実質的に訂正事項1と同様のものであるから、上記アで検討した理由と同様の理由により、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものである。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項1における【表1】の訂正に対応したものであり、実質的に訂正事項1と同様のものであるから、上記アで検討した理由と同様の理由により、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、明細書中の明らかな誤記を本来の正しい記載に訂正するものにすぎず、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであるから、特許法第126条第5項に規定する要件を満たすものといえる。
また、訂正事項2及び訂正事項3も同様である。
よって、訂正事項1、訂正事項2及び訂正事項3は、特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、明細書中の明らかな誤記を本来の正しい記載に訂正するものであり、また、その正しい記載が自明な事項として定まるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
また、訂正事項2及び訂正事項3も同様である。
よって、訂正事項1、訂正事項2及び訂正事項3は、特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)独立特許要件について
本件訂正後の請求項1?5に係る発明については、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由は見いだせない。
よって、訂正事項1、訂正事項2及び訂正事項3は、特許法第126条第7項の規定に適合するものである。

7 むすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
金属積層造形物、金属積層造形用のアルミニウム系粉末およびその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属積層造形に関する。
【背景技術】
【0002】
上記技術分野において、特許文献1には、アルミニウム粉末に任意で焼結助剤を加え、所定の分圧の水蒸気を含む窒素雰囲気で加熱し焼結する方法が開示されている。特許文献1では、この方法に金属積層造形技術を用いることにより相対密度の高い焼結体が得られることが記載されている。また、特許文献2には、造形物を熱間静水圧プレスにより緻密化して欠陥を除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】 特表2007-521389号公報(国際公開WO2003/066380)
【特許文献2】 特開2004-149826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記引用文献1に記載の技術では、欠陥を完全に除去することは難しく、また、水蒸気分圧が少し変化するだけで焼結体の相対密度が大きく低下するという問題がある。また、上記引用文献2に記載の方法では、工程が煩雑となりコストが掛かるため、実用化は非常に困難である。
本発明の目的は、上述の課題を解決する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る金属積層造形用粉末は、
レーザー回折・散乱法で粒子径分布測定した場合の体積基準の50%粒子径が10μm以上100μm未満、比表面積が0.5m^(2)/g以下で、かつ、単位表面積当りの酸素量が3.0mg/m^(2)以上10.0mg/m^(2)以下のアルミニウム系粉末であって、
前記アルミニウム系粉末100g当りの水素量(Xml:標準状態)と比表面積(Ym^(2)/g)との関係、および、前記水素量(Xml:標準状態)と酸素量(Z重量%)との関係が次式で示される。
X/Y ≦ 130
Z/X ≧ 0.003
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る金属積層造形用粉末の製造方法は、
上記金属積層造形用粉末の製造方法であって、
酸素量が制御された不活性ガス雰囲気中でガスアトマイズ法、または、回転円盤アトマイズ法により、アルミニウム系合金粉末を製造する工程と、
前記アルミニウム系合金粉末を、不活性ガス中で300℃?600℃で脱気する工程と、
を有する。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る金属積層造形物は、
上記金属積層造形用粉末を用いて、粉末床溶融結合方式による3次元積層造形装置により造形した金属積層造形物であって、
水素含有量が100g当り3ml以下(標準状態)、かつ、相対密度が99%以上である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アルミニウムを含む欠陥の無い健全な金属積層造形物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態について例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施の形態に記載されている構成要素は単なる例示であり、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。なお、本明細書において、「標準状態」とは0℃で1気圧の状態を示す。
【0010】
《前提技術》
アルミニウム系材料を用いた鋳造あるいは粉末冶金において、アルミニウム系材料に含まれる水素が欠陥を生じる原因となることが知られている。このため、アルミニウム合金を鋳造あるいは粉末冶金により作製する場合は、工程中に脱ガス処理を行い固溶水素あるいは表面水素(水等)を除去する方法が一般的に実施されている。しかしながら、アルミニウム系材料を金属積層造形に用いる場合、このような脱ガス工程を導入することは非常に難しい。例え導入できたとしても、脱ガスに非常に時間がかかり、生産効率を著しく低下させる結果となる。
【0011】
(課題)
本実施形態の課題は、アルミニウム系粉末を用いた金属積層造形における欠陥の生成機構について検討し、粉末に含まれる単位表面積当りの水素と酸素の量を制御することにより、脱ガス工程なしに、欠陥の無い造形物を得ることである。
【0012】
本実施形態のもう1つの課題は、アルミニウム系粉末が経時により吸湿し、積層造形物の密度が低下するという問題を解決することにある。例えば、積層造形後、造形に使用されなかった粉末を回収し再利用する場合、粉末が吸湿し初期の造形物密度が得られないという問題を解決する。
【0013】
《アルミニウム系合金粉末》
本実施形態のアルミニウム系合金粉末を得る方法は、次の2つの工程を有する。
(1)酸素量が制御された不活性ガス雰囲気中でガスアトマイズ法、より好ましくは回転円盤アトマイズ法により、アルミニウム系合金粉末を製造する。
(2)次に、製造されたアルミニウム系合金粉末を、不活性ガス中で300℃?600℃、より好ましくは400℃?500℃で脱気して、本実施形態のアルミニウム系合金粉末とする。
【0014】
(1:アルミニウム系合金粉末の製造)
本実施形態で使用するアルミニウム系合金材料は、Al-Si-Mg系合金であり、特に、純度99.7wt%のAl地金に、Si=10wt%、Mg=0.4wt%を添加し、加熱したAl-10wt%Si-0.4wt%Mgを合金溶湯として使用する。なお、アルミニウム系合金材料の合金組成については、Al-Si-Mg系合金に限るものではなく、展伸用合金(A1000系、A2000系、A3000系、A4000系、A5000系、A6000系、A7000系、A8000系)、鋳物用合金、または、ダイカスト用合金が好適に使用される。
【0015】
(ガスアドマイズ法の場合)
得られたAl-10wt%Si-0.4wt%Mg合金の900℃溶湯を直径2.2mmのノズルから噴出し、2.5MPaの高圧窒素で噴霧して、大気中で冷却されたアトマイズド粉体をサイクロンおよびバグフィルターで捕集する。または、酸素量1ppm以下に調整された窒素中で冷却されたアトマイズド粉体をサイクロンおよびバグフィルターで捕集する。なお、噴霧条件や噴霧雰囲気は、噴霧圧力が2.0?5.0MPaの範囲でよく、噴霧雰囲気は窒素、アルゴン、あるいは、ヘリウムであってもよい。
【0016】
サイクロンにて捕集したアトマイズド粉体のうち50%粒径が21μmの合金粉を遠心力型気流式分級機にかけてさらに分級し、7μm以下の粉体の大半を除去する。次に、目開き45μm(325mesh)の篩いを通過させて得られた粉体を、ブレンダーを用いて均一に混合し、本実施形態のAl-10wt%Si-0.4wt%Mg合金粉末を得る。なお、本実施形態のAl-10wt%Si-0.4wt%Mg合金粉末としては、目開き45μm(325mesh)の篩い上に残った粉末を回収した粉体を用いることもできる。すなわち、50%粒子径が10μm以上100μm未満であるのが望ましい。
【0017】
(回転円盤アトマイズ法の場合)
得られたAl-10wt%Si-0.4wt%Mg合金の1100℃溶湯を直径1.7mmのノズルから、直径4mの、酸素量0.01重量%に調整された窒素チャンバー内に設置された、20000rpmで回転する直径100mmのグラファイト製回転円盤上に噴出し、アルミニウム系粉末を得る。この時の噴出ノズルと回転円盤の距離は15mmである。得られたアルミニウム系粉末を捕集し、遠心力型気流式分級機にかけてさらに分級し、7μm以下の粉体の大半を除去する。次に、目開き45μm(325mesh)の篩いにかけて得られた粉体を、ブレンダーを用いて均一に混合し、本実施形態のAl-10wt%Si-0.4wt%Mg合金粉末を得る。
【0018】
(2:アルミニウム系合金粉末の脱気)
得られたアルミニウム系合金粉末を、不活性ガスであるアルゴン雰囲気中で、300℃?600℃、より好ましくは400℃?500℃で脱気する。加熱時間は、10時間ほどである。なお、不活性ガスとしては、窒素、あるいは、ヘリウムも使用できる。また、加熱時間は、1?100時間の間であればよい。
【0019】
《金属積層造形物》
ガスアトマイズ法、または、回転円盤アトマイズ法により製造され、さらに不活性ガス雰囲気で脱気された、本実施形態のアルミニウム系合金粉末を金属積層造形材料として、粉末床溶融結合方式による3次元積層造形装置により金属積層造形物を造形する。
【0020】
なお、3次元積層造形装置として、出力400W級のYbファイバーレーザー(ビームスポット径0.1mm)を搭載したEOS社製EOSINT M280を使用する例を示すが、本実施形態の金属積層造形物の特長は、積層造形方法により限定されるものではない。
【0021】
《評価方法》
アルミニウム系合金粉末およびその積層造形物の評価を、以下のようにして行なった。
(1)粒度分布測定
レーザー回折式粒度分布計(日機装社製 マイクロトラック MT-3300)にて、各実施例または各比較例の粉体を超音波で180秒分散させたのち、測定系内循環水に投入し測定した。
(2)比表面積の測定
BET法(マウンテック社製 Macsorb HM model-1210)により測定した。
(3)酸素量の測定
不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法(堀場製作所社製 EMGA-920)により測定した。
(4)水素量の測定
粉末の水素量:ランズレー法により測定した。
積層造形物の水素量:LECOジャパン社製 RHEN602型により測定した。
【0022】
(3)サテライトを有する粒子比率の算出
走査型電子顕微鏡(日本電子社製 JSM-6510A)を用いて各実施例、または各比較例の粉体を試料台に粒子同士の重なりがないように固定し、500倍に拡大した像を電子的に複数の視野を撮影したのち、同一試料から複数の粒子を少なくとも100個観察し、サテライトをもつ粒子と、サテライトをもたない粒子のそれぞれの粒子数をカウントした。
視野の撮り方として、1視野に含まれる粒子の数が15以下になるように撮影した。視野の寸法としては、縦横が50%粒子径の4倍?12倍になるような大きさとした。粒子の重なりを極力減らして無作為抽出、すなわち、融着しているように見えるものなど、あいまいなものは全てサテライトとしてカウントした。
【0023】
(4)円形度
上記(3)と同様にして撮影された複数の視野を画像解析ソフト(キーエンス社製VHX-1000)にて100個以上の粒子の円形度Ψcを測定して平均円形度を評価した。
(5)5μm未満粒子の存在度の算出評価
上記(3)と同様にして撮影された複数の視野から100個以上の粒子を画像解析ソフト(キーエンス社製VHX-1000)にてHeywood径(円相当径)を算出し、5μm未満の粒子数、5μm以上10μm未満の粒子数、10μm以上の粒子数を求めた。以下の式により5μm未満粒子の存在度を算出した。この存在度が1.0以下の場合、流動性に優れる。
流動性の評価:
(直径が5μmより小さな粒子の個数×3)/(直径が10μm以上の大きな粒子の個数)
【0024】
(6)合金組成の測定
高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 iCAP 6500 DUOView)にて、加圧容器で加熱溶解した各実施例または各比較例の粉体を測定した。
(7) 造形物の特性
出力400W級のYbファイバーレーザー(ビームスポット径0.1mm)を搭載したEOS社製EOSINT M280で造形を行った。
直径8mm×高さ15mmの円柱を造形し、アルキメデス法によって、真密度に対する相対密度を測定した。
また、直径6mm×長さ38mmの円柱を造形し、そこから、平行部直径3.5mm、平行部長さ18mmのダンベル状に旋削して作製した。万能試験機(INSTRON M4206)を用いて引張り試験を行った。クロスヘッド速度は、1mm/minとした。
【0025】
《評価結果》
(金属積層造形用粉末)
本実施形態の金属積層造形用粉末は、レーザー回折・散乱法で粒子径分布測定した場合の体積基準の50%粒子径が10μm以上100μm未満、比表面積が0.5m^(2)/g以下で、かつ、単位表面積当りの酸素量が3.0mg/m^(2)以上10.0mg/m^(2)以下のアルミニウム系粉末である。
【0026】
また、本実施形態の金属積層造形用粉末は、アルミニウム系粉末100g当りの水素量(Xml:標準状態)と比表面積(Ym^(2)/g)との関係、および、前記水素量(Xml:標準状態)と酸素量(Z重量%)との関係が、X/Y < 151、Z/X > 0.0022で示される。特に、X/Y ≦ 130、Z/X ≧ 0.003で示される。
【0027】
(金属積層造形物)
上記金属積層造形用粉末を用いて、粉末床溶融結合方式による3次元積層造形装置により造形した本実施形態の金属積層造形物は、水素含有量が100g当り3ml(標準状態)以下、かつ、相対密度が99%以上である。
【0028】
《本実施形態の作用効果》
本実施形態のアルミニウム系粉末による金属積層造形用粉末によれば、下記のような顕著な効果が達成される。
(1)従来のアルミニウム系粉末では困難であった欠陥の無い健全な金属積層造形物が得られる。
(2)公知のアルミニウム系粉末では得られなかった流動性、敷き詰め性が発現されるので、積層造形工程において、均一なパウダーベッドが形成され、緻密な成型品が得られる。
(3)従来のアルミニウム系粉末では、酸素量および/または水素量が増加し積層造形物の密度が低下する問題があったが、本実施形態の金属積層造形用粉末は安定で、回収再利用する場合においても、密度の高い積層造形物が得られる。
【実施例】
【0029】
本発明に係る実施例1?6および比較例1?6のアルミニウム系合金粉末の製造およびその積層造形物と、その試験結果を、表1に示す。
【表1】

【0030】
《実施例1?6のアルミニウム系合金粉末およびその積層造形物》
以下、本実施例1?6のアルミニウム系合金粉末の製造およびその積層造形物と、その試験結果を説明する。
【0031】
(実施例1)
純度99.7wt%のAl地金に、Si=10wt%、Mg=0.4wt%を添加し、加熱してAl-10wt%Si-0.4wt%Mg合金溶湯とした。得られた900℃溶湯を直径2.2mmのノズルから噴出し、2.5MPaの高圧窒素で噴霧して、大気中で冷却されたアトマイズド粉体をサイクロンおよびバグフィルターで捕集した。サイクロンにて捕集したアトマイズド粉体のうち50%粒径が21μmの合金粉を遠心力型気流式分級機にかけてさらに分級し、7μm以下の粉体の大半を除去した後、目開き45μm(325mesh)の篩いを通過させて得られた粉体を、ブレンダーを用いて均一に混合し、本実施例のAl-10wt%Si-0.4wt%Mg合金粉末を得た。さらに、得られた合金粉末をアルゴン雰囲気中において450℃で10時間加熱した。
この粉末の特性値およびこの粉末を用いて作製した造形物の相対密度と引張強度とを、表1に示す。
【0032】
(実施例2)
目開き45μmの篩上に残った粉末を回収した粉体を使用し、アルゴン雰囲気中での加熱温度を400℃にした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の粉末を得た。
この粉末の特性値およびこの粉末を用いて作製した造形物の相対密度と引張強度とを、表1に示す。
【0033】
(実施例3)
アルゴン雰囲気中での加熱温度を425℃にした以外は、実施例1と同様にして、実施例3の粉末を得た。
この粉末の特性値およびこの粉末を用いて作製した造形物の相対密度と引張強度とを、表1に示す。
【0034】
(実施例4)
純度99.7wt%のAl地金に、Si=10wt%、Mg=0.4wt%を添加し、加熱してAl-10wt%Si-0.4wt%Mg合金溶湯とした。得られた1100℃溶湯を直径1.7mmのノズルから、直径4mの、酸素量0.01重量%に調整された窒素チャンバー内に設置された、20000rpmで回転する直径100mmのグラファイト製回転円盤上に噴出し、アルミニウム系粉末を得た。この時の噴出ノズルと回転円盤の距離は15mmであった。得られたアルミニウム系粉末を捕集し、遠心力型気流式分級機にかけてさらに分級し、7μm以下の粉体の大半を除去した後、目開き45μm(325mesh)の篩いにかけて得られた粉体を、ブレンダーを用いて均一に混合し、本実施例のAl-10wt%Si-0.4wt%Mg合金粉末を得た。
この粉末の特性値およびこの粉末を用いて作製した造形物の相対密度と引張強度とを、表1に示す。
【0035】
(実施例5)
実施例4で得られたアルミニウム系粉末を450℃のアルゴン雰囲気中で10時間加熱した。
この粉末の特性値およびこの粉末を用いて作製した造形物の相対密度と引張強度とを、表1に示す。
【0036】
(実施例6)
純度99.7wt%のAl地金に、Si=10wt%、Mg=0.4wt%を添加し、加熱してAl-10wt%Si-0.4wt%Mg合金溶湯とした。得られた900℃溶湯を直径2.2mmのノズルから噴出し、2.5MPaの高圧窒素で噴霧して、酸素量1ppm以下に調整された窒素中で冷却されたアトマイズド粉体をサイクロンおよび、バグフィルターで捕集した。サイクロンにて捕集したアトマイズド粉体のうち50%粒径が21μmの合金粉を遠心力型気流式分級機にかけてさらに分級し、7μm以下の粉体の大半を除去した後、目開き45μm(325mesh)の篩いを通過させて得られた粉体を、ブレンダーを用いて均一に混合し、本実施例のAl-10wt%Si-0.4wt%Mg合金粉末を得た。さらに、得られた合金粉末をアルゴン雰囲気中において450℃で10時間加熱した。
この粉末の特性値およびこの粉末を用いて作製した造形物の相対密度と引張強度とを、表1に示す。
【0037】
《比較例1?6のアルミニウム系合金粉末およびその積層造形物》
以下、本実施例1?6のアルミニウム系合金粉末の製造およびその積層造形物と対比するために、比較例1?6のアルミニウム系合金粉末およびその積層造形物その試験結果を説明する。
【0038】
(比較例1)
アルゴン雰囲気中での加熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1のアルミニウム系粉末を得た。
この粉末の特性値およびこの粉末を用いて作製した造形物の相対密度と引張強度とを、表1に示す。
【0039】
(比較例2)
アルゴン雰囲気中での加熱処理を行わなかった以外は、実施例2と同様にして、比較例2のアルミニウム系粉末を得た。
この粉末の特性値およびこの粉末を用いて作製した造形物の相対密度と引張強度とを、表1に示す。
【0040】
(比較例3)
市販の比較的細かい金属積層造形用アルミニウム系粉末の特性値と、この粉末を用いて作製した造形物の相対密度と引張強度とを、表1に示す。
【0041】
(比較例4)
市販の比較的粗い金属積層造形用アルミニウム系粉末の特性値と、この粉末を用いて作製した造形物の相対密度と引張強度とを、表1に示す。
【0042】
(比較例5)
アルゴン雰囲気中での加熱処理を行わなかった以外は、実施例6と同様にして、比較例5のアルミニウム系粉末を得た。
この粉末の特性値と、この粉末を用いて作製した造形物の相対密度と引張強度とを、表1に示す。
【0043】
(比較例6)
空気中400℃で脱気処理を行った以外は、実施例1と同様にして、比較例6のアルミニウム系粉末を得た。
この粉末の特性値、この粉末を用いて作製した造形物の相対密度と引張強度とを、表1に示す。
【0044】
《安定性および再利用の検証》
上記実施例1-5、および、比較例1-6のアルミニウム合金粉末について、開放状態で常温1ヶ月保管後、積層造形を5回繰り返した後回収した粉末の水素量および酸素量を測定した。得られた結果を、表2に示す。
【表2】

【0045】
表2より、本実施例の開放状態で保管してもアルミニウム合金粉末は水素量および酸素量の変化が少なく、経時・回収後に再度積層造形しても造形物の密度が低下しないのに対し、比較例でZ/X値が0.0022を下回る粉末、特にZ/X値が0.003を下回る粉末については、積層造形物の密度低下が著しい。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー回折・散乱法で粒子径分布測定した場合の体積基準の50%粒子径が10μm以上100μm未満、比表面積が0.5m^(2)/g以下で、かつ、単位表面積当りの酸素量が3.0mg/m^(2)以上10.0mg/m^(2)以下のアルミニウム系粉末であって、
前記アルミニウム系粉末100g当りの水素量(Xml:標準状態)と比表面積(Ym^(2)/g)との関係、および、前記水素量(Xml:標準状態)と酸素量(Z重量%)との関係が次式で示される、金属積層造形用粉末。
X/Y ≦ 130
Z/X ≧ 0.003
【請求項2】
請求項1に記載の金属積層造形用粉末の製造方法であって、
酸素量が制御された不活性ガス雰囲気中でガスアトマイズ法、または、回転円盤アトマイズ法により、アルミニウム系合金粉末を製造する工程と、
前記アルミニウム系合金粉末を、不活性ガス中で300℃?600℃で脱気する工程と、
を有する金属積層造形用粉末の製造方法。
【請求項3】
前記脱気する工程において、前記アルミニウム系合金粉末を、不活性ガス中で400℃?500℃で脱気する、請求項2に記載の金属積層造形用粉末の製造方法。
【請求項4】
前記脱気する工程において、前記アルミニウム系合金粉末を、不活性ガス中で1?100時間、好ましくは10時間にわたり脱気する、請求項2または3に記載の金属積層造形用粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の金属積層造形用粉末を用いて、粉末床溶融結合方式による3次元積層造形装置により造形した金属積層造形物であって、
水素含有量が100g当り3ml以下(標準状態)、かつ、相対密度が99%以上である、金属積層造形物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2021-05-12 
結審通知日 2021-05-17 
審決日 2021-05-31 
出願番号 特願2017-514584(P2017-514584)
審決分類 P 1 41・ 856- Y (B22F)
P 1 41・ 855- Y (B22F)
P 1 41・ 852- Y (B22F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 川村 裕二  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 磯部 香
亀ヶ谷 明久
登録日 2018-06-01 
登録番号 特許第6346992号(P6346992)
発明の名称 金属積層造形物、金属積層造形用のアルミニウム系粉末およびその製造方法  
代理人 加藤 卓士  
代理人 加藤 卓士  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ