• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2015800023 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部無効 特39条先願  A61K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1377021
審判番号 無効2020-800042  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-04-16 
確定日 2021-06-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5849946号発明「放出制御医薬組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5849946号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第5849946号(以下、「本件特許」という。)の請求項1、2に係る発明についての出願(特願2012-508290号)は、2011年3月28日(パリ条約による優先権主張 2010年3月29日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成27年12月11日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人から、令和2年4月16日提出の審判請求書によって、本件特許を無効とすることを求める旨の本件特許無効審判が請求された。以降の主な手続の経緯は次のとおりである。

令和2年 4月16日 :審判請求書及び甲第1?10号証の提出(請
求人)
同年 8月24日 :訂正請求書、答弁書及び乙第1?3号証の提
出(被請求人)
同年10月30日 :弁駁書及び甲第11?14号証の提出(請求
人)
同年11月 4日 :参加申請書の提出
(ニプロ株式会社、特許法第148条第1項
規定により請求人側に参加することを申請)
同年12月15日付け:参加許否の決定(参加を許可)
同年12月16日付け:審理事項通知書
令和3年 1月27日 :口頭審理陳述要領書及び甲第15?16号証
の提出(請求人)
同年 同月 同日 :口頭審理陳述要領書及び乙第4?5号証の提
出(被請求人)
同年 2月10日 :口頭審理に代わる口頭審尋
(TV会議で非公開)
同年 3月11日 :上申書(請求人)

第2 訂正請求について

1 訂正の内容

令和2年8月24日に提出された訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、請求項1、2について訂正しようとするものであって、その内容は次のとおりである。なお、下線は訂正箇所である。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に、
「1製剤当たり10mg以上200mg以下の(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩、及び、徐放性医薬組成物用担体を含有し、溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下であり、幾何学的に配置した薬物核および放出制御層からなる多層性製剤、複数のガムを組み合わせたゲル製剤、浸透圧ポンプ型製剤、膨潤性高分子を用いた製剤、水溶性高分子を用いたマトリクス製剤、コーティング膜による放出制御製剤、並びに、不溶性高分子を用いたマトリクス製剤からなる群より選択される、放出制御錠剤であって、
前記の幾何学的に配置した薬物核および放出制御層からなる多層性製剤が、薬物を含有する層及び放出制御層からなり、以下の構成:
a)層中5?90W/W%の水溶性高分子を含有する混合物又は粒剤を圧縮することにより製造される、環境流体との接触で膨張する性質を有する第一層(層1)、
b)第一層に隣接し、圧縮成形性に適した特性を有し、かつ予め決められた時間内に生理活性物質を放出するように設計された、水溶性高分子と他の賦形剤からなる、薬物を含有する第二層(層2)
からなる、二層からなる製剤、あるいは、
a)層中5?90W/W%の水溶性高分子を含有する混合物又は粒剤を圧縮することにより製造される、環境流体との接触で膨張する性質を有する第一層(層1)、
b)第一層に隣接し、圧縮成形性に適した特性を有し、かつ予め決められた時間内に生理活性物質を放出するように設計された、水溶性高分子と他の賦形剤からなる、薬物を含有する第二層(層2)、及び
c)一般的にゲル化及び/又は膨張し、次いで任意に崩壊する水溶性高分子を含み、かつ(層2)からの薬物の放出を制御する機能を有する、(層2)に隣接する第三層(層3)からなる、三層からなる製剤であり、
前記の複数のガムを組み合わせたゲル製剤が、少なくとも、薬物とガム基剤とを含有し、当該ガム基剤が、ヘテロ多糖ガム及び環境流体に呈される時に前記ヘテロ多糖ガムを橋かけ結合させることができるホモ多糖を含む徐放性賦形剤である製剤であり、
前記の浸透圧ポンプ型製剤が、薬物層とプッシュ層とからなる二層錠型圧縮コアに、半透膜をコーティングしてなる製剤であり、
前記の膨潤性高分子を用いた製剤が、水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーを含む製剤であり、
前記の水溶性高分子を用いたマトリクス製剤が、水溶性高分子に薬物が均一に分散している製剤であり、
前記のコーティング膜による放出制御製剤が、コーティング液の成分として、皮膜形成剤を含有する製剤であり、
前記の不溶性高分子を用いたマトリクス製剤が、水不溶性高分子に薬物が均一に分散している製剤である、前記放出制御錠剤。」
と記載されているのを、
「1製剤当たり10mg以上200mg以下の(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩、及び、徐放性医薬組成物用担体を含有する放出制御錠剤であって、溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下であり、
放出制御錠剤が、膨潤性高分子を用いた製剤または水溶性高分子を用いたマトリクス製剤であり、
前記の膨潤性高分子を用いた製剤が、水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーとしてポリアルキレンオキサイドを含む製剤であり、
前記の水溶性高分子を用いたマトリクス製剤が、ヒプロメロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースに薬物が均一に分散している製剤である、前記放出制御錠剤。」
に訂正する。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項2に、
「食餌の影響を低減するための、1製剤当たり10mg以上200mg以下の(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩、及び、徐放性医薬組成物用担体を含有する放出制御錠剤であって、溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下であり、幾何学的に配置した薬物核および放出制御層からなる多層性製剤、複数のガムを組み合わせたゲル製剤、浸透圧ポンプ型製剤、膨潤性高分子を用いた製剤、水溶性高分子を用いたマトリクス製剤、コーティング膜による放出制御製剤、並びに、不溶性高分子を用いたマトリクス製剤からなる群より選択され、
前記の幾何学的に配置した薬物核および放出制御層からなる多層性製剤が、薬物を含有する層及び放出制御層からなり、以下の構成:
a)層中5?90W/W%の水溶性高分子を含有する混合物又は粒剤を圧縮することにより製造される、環境流体との接触で膨張する性質を有する第一層(層1)、
b)第一層に隣接し、圧縮成形性に適した特性を有し、かつ予め決められた時間内に生理活性物質を放出するように設計された、水溶性高分子と他の賦形剤からなる、薬物を含有する第二層(層2)
からなる、二層からなる製剤、あるいは、
a)層中5?90W/W%の水溶性高分子を含有する混合物又は粒剤を圧縮することにより製造される、環境流体との接触で膨張する性質を有する第一層(層1)、
b)第一層に隣接し、圧縮成形性に適した特性を有し、かつ予め決められた時間内に生理活性物質を放出するように設計された、水溶性高分子と他の賦形剤からなる、薬物を含有する第二層(層2)、及び
c)一般的にゲル化及び/又は膨張し、次いで任意に崩壊する水溶性高分子を含み、かつ(層2)からの薬物の放出を制御する機能を有する、(層2)に隣接する第三層(層3)からなる、三層からなる製剤であり、
前記の複数のガムを組み合わせたゲル製剤が、少なくとも、薬物とガム基剤とを含有し、当該ガム基剤が、ヘテロ多糖ガム及び環境流体に呈される時に前記ヘテロ多糖ガムを橋かけ結合させることができるホモ多糖を含む徐放性賦形剤である製剤であり、
前記の浸透圧ポンプ型製剤が、薬物層とプッシュ層とからなる二層錠型圧縮コアに、半透膜をコーティングしてなる製剤であり、
前記の膨潤性高分子を用いた製剤が、水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーを含む製剤であり、
前記の水溶性高分子を用いたマトリクス製剤が、水溶性高分子に薬物が均一に分散している製剤であり、
前記のコーティング膜による放出制御製剤が、コーティング液の成分として、皮膜形成剤を含有する製剤であり、
前記の不溶性高分子を用いたマトリクス製剤が、水不溶性高分子に薬物が均一に分散している製剤である、前記放出制御錠剤。」
と記載されているのを、
「食餌の影響を低減するための、1製剤当たり10mg以上200mg以下の(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩、及び、徐放性医薬組成物用担体を含有する放出制御錠剤であって、溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下であり、
放出制御錠剤が、膨潤性高分子を用いた製剤または水溶性高分子を用いたマトリクス製剤であり、
前記の膨潤性高分子を用いた製剤が、水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーとしてポリエチレンオキサイドを含む製剤であり、
前記の水溶性高分子を用いたマトリクス製剤が、ヒプロメロースまたはヒドロキシプロピルセルロースに薬物が均一に分散している製剤である、前記放出制御錠剤。」
に訂正する。

2 訂正の適否の判断

(1)訂正事項1について

訂正事項1は、請求項1における「幾何学的に配置した薬物核および放出制御層からなる多層性製剤、複数のガムを組み合わせたゲル製剤、浸透圧ポンプ型製剤、膨潤性高分子を用いた製剤、水溶性高分子を用いたマトリクス製剤、コーティング膜による放出制御製剤、並びに、不溶性高分子を用いたマトリクス製剤からなる群」のうち、「幾何学的に配置した薬物核および放出制御層からなる多層性製剤、複数のガムを組み合わせたゲル製剤、浸透圧ポンプ型製剤」、「コーティング膜による放出制御製剤」、「不溶性高分子を用いたマトリクス製剤」を削除し、かつ、「膨潤性高分子を用いた製剤」に用いられる「水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマー」及び「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」に用いられる「水溶性高分子」について限定を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、「膨潤性高分子を用いた製剤」に用いられる「水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマー」として「ポリアルキレンオキサイド」を使用できることは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の【0111】?【0112】に、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」に用いられる「水溶性高分子」として「ヒプロメロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロース」を使用できることは、本件特許明細書等の【0118】?【0121】、【0166】?【0168】に記載されていることから、上記訂正は本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。

(2)訂正事項2について

訂正事項2は、請求項2における「幾何学的に配置した薬物核および放出制御層からなる多層性製剤、複数のガムを組み合わせたゲル製剤、浸透圧ポンプ型製剤、膨潤性高分子を用いた製剤、水溶性高分子を用いたマトリクス製剤、コーティング膜による放出制御製剤、並びに、不溶性高分子を用いたマトリクス製剤からなる群」のうち、「幾何学的に配置した薬物核および放出制御層からなる多層性製剤、複数のガムを組み合わせたゲル製剤、浸透圧ポンプ型製剤」、「コーティング膜による放出制御製剤」、「不溶性高分子を用いたマトリクス製剤」を削除し、かつ、「膨潤性高分子を用いた製剤」に用いられる「水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマー」及び「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」に用いられる「水溶性高分子」について限定を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、「膨潤性高分子を用いた製剤」」に用いられる「水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマー」として「ポリエチレンオキサイド」を使用できることは、本件特許明細書等の【0111】?【0112】、【0164】?【0165】に、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」に用いられる「水溶性高分子」として「ヒプロメロースまたはヒドロキシプロピルセルロース」を使用できることは、本件特許明細書等の【0118】?【0121】、【0166】?【0168】に記載されていることから、上記訂正は本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。

(3)独立特許要件について

全請求項に対して特許無効審判が請求されているので、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件に関する規定は適用されない。

(4)請求人の主張について

請求人は、本件訂正は、訂正後の請求項1、2に係る発明の製剤形態として、訂正前に含まれていなかった「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」を事後的に含めることとなるため、特許請求の範囲の減縮に該当しないし、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものにも該当するから、本件訂正は、訂正要件に違反するものである旨、主張している(弁駁書の第2頁第8行?第4頁第2行)。
しかし、訂正事項1、2は、上記(1)、(2)で説示したとおり、「放出制御錠剤」が採り得る製剤の形態の選択肢の一部を削除し、かつ、「膨潤性高分子を用いた製剤」に用いられる「水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマー」及び「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」に用いられる「水溶性高分子」について限定を加えるだけのものであるから、特許請求の範囲は減縮されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないといえる。請求項1、2に係る発明における「膨潤性高分子を用いた製剤、水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」という概念は、本件訂正の前後で変更されていないため、本件訂正によって、訂正前に含まれていなかった「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」を事後的に含めることとなるとはいえない。
なお、本件訂正前及び本件訂正後の請求項1、2における「膨潤性高分子を用いた製剤、水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」が、「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」とは異なるものであるといえる点は、以下の第7の3(3)で詳述する。
してみれば、請求人の上記主張は採用できない。

(5)小括

以上によれば、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明

上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1、2に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。なお、訂正後の請求項1、2に係る発明を、以下、順に「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」という。

「【請求項1】
1製剤当たり10mg以上200mg以下の(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩、及び、徐放性医薬組成物用担体を含有する放出制御錠剤であって、溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下であり、
放出制御錠剤が、膨潤性高分子を用いた製剤または水溶性高分子を用いたマトリクス製剤であり、
前記の膨潤性高分子を用いた製剤が、水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーとしてポリアルキレンオキサイドを含む製剤であり、
前記の水溶性高分子を用いたマトリクス製剤が、ヒプロメロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースに薬物が均一に分散している製剤である、前記放出制御錠剤。
【請求項2】
食餌の影響を低減するための、1製剤当たり10mg以上200mg以下の(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩、及び、徐放性医薬組成物用担体を含有する放出制御錠剤であって、溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下であり、
放出制御錠剤が、膨潤性高分子を用いた製剤または水溶性高分子を用いたマトリクス製剤であり、
前記の膨潤性高分子を用いた製剤が、水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーとしてポリエチレンオキサイドを含む製剤であり、
前記の水溶性高分子を用いたマトリクス製剤が、ヒプロメロースまたはヒドロキシプロピルセルロースに薬物が均一に分散している製剤である、前記放出制御錠剤。」

第4 請求人の主張及び証拠方法

請求人が提出した審判請求書、弁駁書、口頭審理陳述要領書及び上申書によれば、請求人は、「特許第5849946号発明の特許請求の範囲の請求項1?2に記載された発明についての特許を無効とする」、「審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された発明には、以下の無効理由1?7が存在する旨を主張し、証拠方法として甲第1?16号証(以下、番号順に「甲1」?「甲16」という。)を提出している。
なお、参加人は、具体的な主張はしていない。

[無効理由1](サポート要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件訂正発明1、2に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

[無効理由2](実施可能要件違反)
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件訂正発明1、2に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

[無効理由3](明確性要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件訂正発明1、2に係る特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

[無効理由4](先願)
本件訂正発明1、2は、甲7の請求項1?14に係る発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明1、2に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

[無効理由5](甲8に基づく新規性欠如)
本件訂正発明1、2は、甲8に記載された発明と同一の発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明1、2に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

[無効理由6](甲8に記載された発明に基づく進歩性欠如)
本件訂正発明1、2は、甲8に記載された発明、甲8、甲5、甲6、甲10に記載された事項に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明1、2に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

[無効理由7](甲6に記載された発明に基づく進歩性欠如)
本件訂正発明1、2は、甲6に記載された発明、甲6、甲5、甲8、甲10に記載された事項に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明1、2に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

[証拠方法]
・甲1:橋田充編、「経口投与製剤の設計と評価」、薬業時報社、1995年2月10日、第33頁、第35頁、第104頁、第293?294頁

・甲2:A.Dokoumetzidis et al.,‘IVIVC of controlled release formulations : Physiological-dynamical reasons for their failure’, Journal of Controlled Release, 2008年,Vol.129, p.76

・甲3:厚生省、「徐放性製剤(経口投与製剤)の設計及び評価に関するガイドラインについて」、薬審一第五号、1988年3月11日、第2?4頁

・甲4:井口定男ら編、「新製剤開発システム総合技術 基剤・添加物篇」、R&Dプランニング、1985年7月12日、第424?429頁

・甲5:迫和博、「新規持続吸収型経口徐放システム(OCAS^((R))(当審注:(R)は、○の中にRである。以下も同様。))の開発」、PHARM TECH JAPAN、1998年6月1日、第14巻、第6号、第85?98頁

・甲6:特許第3140465号公報

・甲7:特許第5625855号公報

・甲8:特許第3815496号公報

・甲9:緒方宏泰、「1.薬物動態学:吸収」、臨床薬理、1999年、第30巻、第3号、第617頁、第619頁

・甲10:特開2005-162736号公報

<以上、審判請求書に添付>

・甲11:高柳理早ら、「薬物と食物の相互作用 (2)薬物と食事の相互作用」、臨床栄養、1996年8月、第89巻、第2号、第203?209頁

・甲12:和田政裕、「薬物の吸収における食事の影響」、調剤と情報、2008年10月、第14巻、第11号、第63?67頁

・甲13:伊賀立二、「薬物と食物の相互作用 (1)薬の相互作用とは」、臨床栄養、1996年7月、第89巻、第1号、第73?79頁

・甲14:厚生労働省、「医薬品の臨床薬物動態試験について」、医薬審発第七九六号、2001年6月1日

<以上、弁駁書に添付>

・甲15:近藤啓ら、「経口コントロールドリリース製剤技術を用いた製品開発と最近の動向」、Drug Delivery System、2016年7月、第31巻、第3号、第210?218頁

・甲16:医薬品インタビューフォーム、「選択的β_(3)アドレナリン受容体作動性過活動膀胱治療剤 ミラベグロン錠 ベタニス^((R))錠25mg、ベタニス^((R))錠50mg」(第15版)、2019年12月、第1頁、第4頁

<以上、口頭審理陳述要領書に添付>

第5 被請求人の主張及び証拠方法

被請求人が提出した答弁書及び口頭審理陳述要領書によれば、被請求人は、「本件審判請求は成り立たない」、「審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、本件特許には上記無効理由1?7は存在しない旨を主張し、証拠方法として乙第1?5号証(以下、番号順に「乙1」?「乙5」という。)を提出している。

・乙1:ウェブページ「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」の出力物、2006年11月24日改正版、URL:http://www.nihs.go.jp/drug/be-guide/GL061124_BE.pdf

・乙2:「13197の化学商品」、化学工業日報社、1997年1月29日、第898頁

・乙3:粟津荘司ら編、「最新 薬剤学」(第7版)、廣川書店、1997年3月25日、目次v?x、第88?93頁

<以上、答弁書に添付>

・乙4:実験成績証明書、アステラス製薬株式会社製剤研究所、2021年1月26日作成

・乙5:医薬品インタビューフォーム、「選択的β_(3)アドレナリン受容体作動性過活動膀胱治療剤 ミラベグロン錠 ベタニス^((R))錠25mg、ベタニス^((R))錠50mg」(第15版)、2019年12月、第41?52頁、第78?79頁

<以上、口頭審理陳述要領書に添付>

第6 主な証拠の記載事項

甲1?3、甲5?8、甲10、乙1?3には、次のとおりの記載がある。なお、原文が外国語で記載されているものについては、訳文を示す。

甲1

(摘記甲1A)
「経口投与された薬物の吸収に影響を及ぼす生理的因子としては,消化管内のpH,消化管の運動性,消化管内分泌液(胆汁,消化液)など数々の因子があり^(6)),そしてこれらの因子の多くが,食餌により顕著に変化することが報告されている^(7))。したがって,食後に薬物を服用した場合には,こうした生理的要因の変化ならびに食物と薬物との相互作用などにより,吸収効率が変化することが考えられる。」(甲1、第104頁第27?31行)

(摘記甲1B)
「消化管内における製剤からの薬物の溶出は,消化管運動に付随した物理的な力,消化管内容物の量,構成成分,pH,表面張力,粘度などのさまざまな要因の影響を受ける。そのため,in vitro試験で,これらの要因の影響について検討しておく必要がある。」(甲1、第293頁第22?24行)

甲2

(摘記甲2A)
「生体内で重要なのは放出そのものではなく、吸収プロセス全体であるため、放出速度に影響を与えないが最終的な薬物動態プロファイルに影響を与える可能性のある要因が、制御放出製剤での生体外の結果とそこから予想される生体内の結果との間の変動性及び不一致に関与している[4]。」(甲2、第1頁左欄の下から2行目?右欄第4行)

甲3

(摘記甲3A)
「消化管内における製剤からの薬物の放出は、消化管運動に付随した物理的な力、消化管内容物の量、構成成分、pH、表面張力、粘度等の様々な要因の影響を受ける。従って、in vivoで放出速度に影響を及ぼし得る要因を、in vitroで充分に把握しておくため、できるだけ多くの条件下で放出速度を検討しておくことが必要である。」(甲3、「III 最終製剤について検討すべき事項 1 最終製剤の評価 (1)放出特性 1)放出特性の評価」の項の第一パラグラフ)

甲5

(摘記甲5A)
「製剤の消化管上部滞留時間は,ヒトにおいて5?8時間^(1))と比較的短時間であるため,有効血中濃度を長時間持続させることは困難である。したがって,従来の経口徐放化技術では,1日1回投与で24時間薬理効果を持続可能な薬物は限られており,より持続的な薬物吸収を可能とする新規な徐放技術が渇望されている。これまで主に,消化管移動制御による持続吸収化の研究が行なわれてきた。われわれは,徐放製剤の薬物吸収部位としてこれまで重要視されていなかった結腸に着目し研究を進め,新規な持続吸収型経口徐放システムOCASを開発した。本稿では,OCASの開発の経緯およびその有用性について述べる。」(甲5、第85頁右欄第3行?第86頁左欄第1行)

(摘記甲5B)
「3.Oral Controlled Absorption System(OCAS^((R)))の設計方針

Fig.2には,OCASおよび従来のハイドロゲル錠(CG)の消化管内におけるゲル形成および薬物放出の模式図を示す。CGは,水と接触すると錠剤表面部から“水の浸入→ゲル化(薬物を含むゲル層の形成)→ゲル層の溶解・浸食”を繰り返すことにより薬物を徐放化する。CGを経口投与した場合,多量の消化液が存在する消化管上部ではin vitroと同様の薬物放出が期待できるものの,結腸部では“水の浸入”が制限され薬物放出が著しく抑制されること,さらに利用されない部分は体外へ排出され生物学的利用率の低下につながっているものと推定される。
われわれは,ゲル形成速度を促進させることでこの欠点を解決できると考えた^(4))。すなわち,水分が多く存在する消化管上部滞留中にほぼ完全にゲル化させ,ゲル化した状態で結腸に移行すれば,“ゲル層の継続的な溶解・浸食”に伴い薬物放出が持続するとの仮説を立てた。結果として,持続的な薬物吸収および生物学的利用率の低下の抑制が期待できる。われわれはこのようなコンセプトのもとに新規経口徐放システムであるOral Controlled Absorption System(OCAS)の研究に着手した。OCASを設計するにあたっては,(1)(当審注:(1)は、○の中に1である。以下(2)、(3)、(4)、(5)も同様。)水の少ない結腸でも良好に薬物を放出可能であること,(2)過量放出の危険性が少ないこと,(3)安全な添加剤を使用すること,(4)処方・製法がシンプルであること,(5)擬0次放出を達成することを目標に研究を進めた。」(甲5、第87頁左欄第13行?右欄最下行)

(摘記甲5C)
「4.短時間で錠剤内部までゲル化する処方の検討

本検討においては,一定時間で錠剤がゲル化した部分の割合を「ゲル化率」と定義し,ゲル化を促進させる方法について検討した。…
ゲル化を促進させる方法として,多孔質な形状とする方法も考えられたが,製造の簡便化を期待して溶解性の高い添加剤を配合する方法について試みた。高分子としてポリエチレンオキサイド(PEO)を用い,溶解性の異なる各種添加剤を重量比1:1で配合したモデル錠を調製し,2時間湿潤させたときのゲル化率を測定した。Table 1に示すように,添加剤の水溶性とゲル化率は密接に関係した。
一般に経口剤の賦形剤として使用されるlactoseまたはmannitolをPEOに配合してもゲル化を促進させる効果がみられなかったのに対して,水溶性の高い添加剤を配合した場合では,ゲル化率が80%以上に著しく向上した。PEOが錠剤表面にゲルを形成するよりも,これらの添加剤の溶解速度が速く,錠剤内部まで水が浸入可能な通路が確保されたものと推定される。次にゲル形成促進剤PEG6000含量を変化させたときのゲル化率を測定した(Table 2)。湿潤2時間の場合,PEOに対するPEG6000配合量15%まではゲル形成促進剤の配合量が多いほどゲル化率は向上したが,PEG6000配合量15%以上ではゲル化率はほぼ一定の値を示し,いずれも80%以上のゲル化率を示した。以上の結果,水溶性の高い添加剤を一定量以上配合することがゲル形成を促進させる有効な手段であることが示された。例えば,絶食条件でイヌ消化管上部に錠剤が滞留する時間を2時間とすると,消化管上部で80%以上ゲル化させるためにはゲル形成促進剤を15%以上配合することが必要となる。

」(甲5、第88頁左欄第1行?第91頁左欄第1行)

(摘記甲5D)


7.イヌを用いたOCAS^((R))の有用性評価

次に,ゲル化の違いが結腸における薬物放出に及ぼす影響について検討した。本研究には,モデル薬物AAPおよびゲル形成高分子PEOからなるAAP-CG,およびゲル化を促進するためにPEG6000を添加したAAP-OCASの2種の徐放錠を用いた。Fig.4に示すように,2種の徐放錠は,ほぼ同様のin vitro溶出挙動を示すように処方設計した。また,いずれの製剤からの薬物放出もpHに影響されないことから2種の徐放錠からの薬物放出は消化管内pHの個体差に影響されないこと考えられる。」(甲5、第92頁右欄第7?16行)

(摘記甲5E)


2種の徐放錠をイヌに絶食下経口投与したときの個別の血漿中濃度推移をFig.6に,薬動力学的パラメータをTable 3に示す。2種の徐放錠はほぼ同様のin vitro溶出挙動および消化管移動を示したにもかかわらず,それらの投与時の血漿中濃度推移はそれぞれ異なった。特に,AAP-CGでは投与2時間以降の血漿中濃度のバラツキは大きく,これは胃排出の個体差に基づくものと推定される。
これに対し,AAP-OCAS投与時の血漿中濃度,AUCおよびMRTともに個体差が小さく,消化管移動の個体差の影響を受けにくいことが示唆された。さらに,Cmaxはほぼ同等であったにもかかわらず,AAP-OCAS投与時のAUCおよびMRTは約1.8倍まで増大した。Fig.7にはdeconvolutionにより算出した吸収挙動,解剖実験によるin vivoでの放出挙動をin vitro溶出試験結果と比較して示す。ゲル化率の低いAAP-CG投与では製剤が結腸に到達する2時間以降はin vitro溶出試験結果と比較してin vivoでの放出および吸収ともに抑制されていた。これに対して,ゲル化率の高いAAP-OCAS投与時ではin vitro溶出試験の結果とほぼ同等の吸収挙動およびin vivo放出速度を示した。すなわち,結腸においても薬物が良好に放出され,その結果,薬物吸収が持続したことがわかる。
以上の結果より,ハイドロゲル錠のゲル形成速度は,結腸における薬物放出性に大きく影響すること,およびゲル形成速度の向上は,消化管内における薬物放出の持続化に有効であることが示された。また,われわれの考案したOCASは消化管下部における薬物吸収の持続に有用であることが示された。」(甲5、第96頁左欄第4行?第97頁右欄第3行)

(摘記甲5F)
「8.OCASの応用

本技術の汎用性を確認するために,塩酸ニカルジピンへ適用した(Fig8,9)。溶出速度がほぼ同様でゲル化率の異なる2種の製剤を,イヌに絶食下経口投与したところ,ゲル形成能の高いOCAS処方とすることにより,投与2時間以降高い血漿中濃度を示し,AUCは4.4倍に増加した。結腸を有効に利活用することは,持続的薬物吸収および徐放化による生物学的利用率の低下抑制の手段として有効であることが示された。塩酸ニカルジピンは半減期が短く,中性pHでの溶解性が低いことから結腸での薬物放出性の低下は血漿中濃度に大きく反映する。したがって,AAPの場合よりOCAS適用の効果が顕著に現れたのであろう。
また,OCAS技術を適用した経口徐放製剤はすでに,ヒトにおいても持続的な薬物吸収を示すこと,および薬物吸収が食事の有無に影響されにくいことが確認されている。」(甲5、第97頁右欄第4?20行)

甲6

(摘記甲6A)
「【請求項1】(1)一種以上の薬物、(2)製剤全体に対し5乃至80重量%の、一種以上の、1gを溶解する水の量が5ml以下の溶解性を示す製剤内部に水を浸入させるための添加剤、および(3)1錠あたり70mg以上で、製剤全体に対し10乃至95重量%の、平均分子量が200万以上または1%水溶液25℃の粘度が1000cps以上のハイドロゲルを形成する高分子物質とを配合してなるゲル化率70%以上100%未満のハイドロゲル徐放性錠剤。
【請求項2】製剤内部に水を浸入させるための添加剤が、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、D-ソルビトール、キシリトール、白糖、無水マルトース、D-フルクトース、デキストラン、ブドウ糖、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、クエン酸、酒石酸、グリシン、β-アラニン、塩酸リジン、メグルミンからなる群より選択される一種または二種以上である請求項1記載のゲル化率70%以上100%未満のハイドロゲル徐放性錠剤。
【請求項3】ハイドロゲルを形成する高分子物質が、ポリエチレンオキサイド、ハイドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ハイドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマーからなる群より選択される一種または二種以上の高分子物質である請求項1または2に記載のゲル化率70%以上100%未満のハイドロゲル徐放性錠剤。」

(摘記甲6B)
「【0002】
【従来の技術】
従来、薬物の徐放化を行うことを目的として種々のハイドロゲル製剤が提唱されてきた。これらの一例として、例えば、特開昭62-120315号公報には薬物とハイドロゲル形成能のある水溶性高分子と腸溶性コーティング基剤を形成圧縮したものが、特開昭63-215620号公報には、薬物と水溶性高分子物質からなる核に水溶性高分子物質を基剤とする外層からなるハイドロゲル製剤、また特公昭40-2053号公報には、薬物とエチレンオキサイド高重合物、更に必要に応じて親水性物質等を含有する持続性製剤等が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの薬剤は、いずれも胃、小腸といった消化管上部に滞留している間に持続的な薬物の放出を行うことを目的としており、結腸等といった水分の少い消化管下部での薬物の放出を目的としてはいない。即ち、消化管内で下降しながら薬物が放出・吸収されていく徐放性製剤では、消化管上部での薬物の吸収性、放出性が生物学的利用能に大きな影響を与えるが、結腸においては、少ない水分量、老廃内容物等の影響により、従来、薬物放出は、困難と考えられており、薬物放出性についての研究は殆どされていなかった(日本薬剤学会第6年会講演要旨集(平成2年)、30頁、Pharm.Tech,Japan 8(1),(1992),41頁)。
更に、薬物自体の生物学的半減期も徐放性製剤を検討するに際し重要な因子となるが、薬物自体の半減期が短い薬物については、十分な徐放化は困難であると考えられてきた(月刊薬事 25(11),(1983),29頁)。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、薬物の徐放化研究において胃、小腸といった消化管上部に滞留中に、製剤内部まで水分を吸収し、ほぼ完全にゲル化した状態で消化管下部へ移行させることにより、水分の少ない結腸においても薬物を放出できることを見出し本発明を完成した。」

(摘記甲6C)
「【0005】
【発明の実施の形態】
本発明の徐放性製剤を更に詳細に説明すると以下の通りである。
本発明製剤に適用される一種以上の薬物としては、徐放化を目的とした薬物であれば、特に制限はない。
代表的な薬物としては、インドメタシン、ジクロフェナック、ジクロフェナックNa、コデイン、イブプロフェン、フェニルブタゾン、オキシフェンブタゾン、メピリゾール、アスピリン、エナンザミド、アセトアミノフェン、アミノピリン、フェナセチン、臭化ブチルスコポラミン、モルヒネ、エトミドリン、ペンタゾシン、フェノプロフェンカルシウム等の消炎、解熱、鎮痙または鎮痛薬、イソニアジド、塩酸エタンブトール等の抗結核薬、硝酸イソソルビド、ニトログリセリン、ニフェジピン、塩酸バルニジピン、塩酸ニカルジピン、ジピリダモール、アムリノン、塩酸インデノロール、塩酸ヒドララジン、メチルドーパ、フロセミド、スピロノラクトン、硝酸グアネチジン、レセルピン、塩酸アモルラロール等の循環器官用薬、塩酸クロルプロマジン、塩酸アミトリプチリン、ネモナプリド、ハロペリドール、塩酸モペロン、ペルフェナジン、ジアゼパム、ロラゼパム、クロルジアゼポキシド等の抗精神薬、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ジフェンヒドラミン等の抗ヒスタミン薬、硝酸チアミン、酢酸トコフェロール、シコチアミン、リン酸ピリドキサール、コバマミド、アスコルビン酸、ニコチン酸アミド等のビタミン薬、アロプリノール、コルヒチン、プロベネジド等の痛風薬、アモバルビタール、ブロムワレリル尿素、ミダゾラム、抱水クロラール等の催眠鎮静薬、フルオロウラシル、カルモフール、塩酸アクラルビシン、シクロホスファミド、チオテパ等の抗悪性腫瘍薬、フェニルプロパノールアミン、エフェドリン類等の抗うつ血薬、アセトヘキサミド、インシュリン、トルブタミド等の糖尿病薬、ヒドロクロロチアジド、ポリチアジド、トリアムテレン等の利尿薬、アミノフィリン、フマル酸フォルモテロール、テオフィリン等の気管支拡張薬、リン酸コデイン、ノスカピン、リン酸ジメモルファン、デキストロメトルファン等の鎮咳薬、硝酸キニジン、ジキトキシン、塩酸プロパフェノン、プロカインアミド等の抗不整脈薬、アミノ安息香酸エチル、リドカイン、塩酸ジブカイン等の表面麻酔薬、フェニトイン、エトスクシミド、プリミドン等の抗てんかん薬、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、ベタメタゾン等の合成副腎皮質ステロイド類、ファモチジン、塩酸ラニチジン、シメチジン、スクラルファート、スルピリド、テプレノン、プラウノトール等の消化器官用薬、インデロキサジン、イデベノン、塩酸チアプリド、塩酸ビフェメラン、ホパテン酸カルシウム等の中枢神経系用薬、プラバスタチンナトリウム等の高脂血症治療剤、塩酸アンピシリンフタリジル、セフォテタン、ジョサマイシン等の抗生物質等が挙げられる。これらの薬物の中で特に代表的なものは、塩酸ニカルジピンである。なお、生物学的半減期の短い薬物であってもよい。薬物の量は薬効を呈する量であれば如何程でもよいが、通常は製剤全体の85重量%以下、好ましくは80重量%以下である。

【0007】
次に、本発明製剤の製剤内部まで水を浸入させるための添加剤(以下、この製剤内部まで水を浸入させるための添加剤を親水性基剤という)としては、この親水性基剤1gが溶解するのに必要な水の量が20±5℃下で5ml以下、好ましくは4ml以下のものであり、水への溶解性が高い程、製剤中に水を浸入させる効果が高い。このような親水性基剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG;例えば、商品名PEG400,PEG1500,PEG4000,PEG6000,PEG20000日本油脂社製)、ポリビニルピロリドン(PVP;例えば、商品名PVP K30 BASF社製)のような水溶性の高い高分子や、D-ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール類、白糖、無水マルトース、D-フルクトース、デキストラン(例えばデキストラン40)、ブドウ糖等の糖類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(例えばプルロニックF68旭電化社製等)等の界面活性剤や塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等の塩類あるいはクエン酸、酒石酸等の有機酸、グリシン、β-アラニン、塩酸リジン等のアミノ酸類、メグルミル等のアミノ糖類である。
特に好ましいものとしては、PEG6000,PVP,D-ソルビトール等が挙げられる。
【0008】
この親水性基剤の割合は、薬物の特性(溶解性、治療効果等)並びにその含有量、親水性基剤の溶解性、ハイドロゲルを形成する高分子の特性、あるいは、投与時の患者の状態等種々の因子により左右されるが、製剤が消化管上部に滞留する間にほぼ完全にゲル化ができる程度の割合が好ましい。製剤が消化管上部に滞留する時間は、種によって異なり、又個体差もあるが、イヌでは投与後約2時間、ヒトでは、投与後約4?5時間である(Br.J.Clin.Pharmac.,(1988)26,435-443)。ヒトの場合であれば投与後4?5時間で製剤がはぼ完全にゲル化ができる程度の割合が好ましい。一般的には、製剤全体に対して、5?80重量%、好ましくは5?60重量%程度である。
親水性基剤の含量は、その含量が少いとゲル化が内部にまで進まず、結腸での放出が十分ではない。一方、含量が多すぎると短時間でゲル化が進むが、ゲルが崩れやすく、薬物の溶出が早まり、十分な徐放化が達成できない恐れがあり、又、基剤の量も多くなることから製剤自体が大型化する等の欠点を夫々有する。
【0009】
次にハイドロゲルを形成する高分子物質としては、本発明製剤がほぼ完全にゲル化された状態で、食物消化に伴う消化管の収縮運動に耐え、ある程度の形状を保ったまま消化管下部の結腸に移行し得る程度の、ゲル化時の粘度等の性状を有することが必要である。
本発明製剤に適用できるハイドロゲルを形成する高分子物質としては、ゲル化時の粘度が高いものが好ましい。例えば、1%水溶液(25℃)の粘度が1000cps以上を有するものが特に好ましい。
また、高分子物質の性状はその分子量に依存し、本発明製剤に適用可能なハイドロゲルを形成する高分子物質としてはより高分子量のものが好ましく、平均分子量200万以上更に好ましくは平均分子量400万以上のものが挙げられる。
このような高分子物質としては、例えば分子量200万以上のポリエチレンオキサイド(PEO)(例えば、商品名Polyox WSR-303(平均分子量:700万、粘度:7500-10000cps(1%水溶液25℃))、Polyox WSR Coagulant(平均分子量500万、粘度:5500-7500cps(同))、Polyox WSR-301(平均分子量:400万、粘度:1650-5500CPS(同))、Polyox WSR-N-60K(平均分子量:200万、粘度:2000-4000cps(2%水溶液25℃))いずれもユニオンカーバイド社製)、ハイドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(例えば商品名メトローズ90SH100000(粘度:4100-5600cps(1%水溶液20℃))、メトローズ90SH50000(粘度:2900-3900cps(同))、メトローズ90SH30000(粘度:25000-35000cps(2%水溶液20℃))いずれも信越化学社製)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)(例えば、商品名サンローズF-150MC(平均分子量:20万、粘度1200-1800cps(1%水溶液25℃))、サンローズF-1000MC(平均分子量:42万、粘度8000-12000cps(同))、サンローズF-300MC(平均分子量:30万、粘度2500-3000cps(同))日本製紙社製)、ハイドロキシエチルセルロース(HEC)(例えば、商品名 HECダイセルSE850(平均分子量:148万、粘度2400-3000cps(1%水溶液25℃))、HECダイセルSE900(平均分子量:156万、粘度4000-5000cps(同))ダイセル化学工業社製)、もしくはカルボキシビニルポリマー(例えばカーボポール940(平均分子量約250万)B.F.Goodrich Chemical社製)等が挙げられる。
好ましくは平均分子量200万以上のPEOである。長期間、例えば12時間以上の放出の持続を必要とする場合にはより高分子、好ましくは平均分子量400万以上もしくはより粘度の高い、好ましくは1%水溶液25℃の粘度が3000cps以上である高分子が好適なものとして挙げられる。
これらのハイドロゲルを形成する高分子物質は、一種もしくは二種以上を混合して用いることができる。又、二種以上の高分子物質からなり、全体として上記本発明に適する性状を有する混合物も本発明のハイドロゲルを形成する高分子物質として好適に用いることができる。」

(摘記甲6D)
「【0037】
【実施例】
以下に本発明製剤を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
AAP 100(重量部)
PEG6000 400
POLYOX303 300
アセトアミノフェン(AAP)及びPEG6000を80℃で溶融した後、冷却固化し、粉砕した。粉砕物とPOLYOX303を乳鉢中で混合し、オイルプレスを用いて、打錠圧1ton/杵で打錠し、直径9mm、一錠重量400mg(AAP 50mg含有)の錠剤を得た。
比較処方1
AAP 100(重量部)
POLYOX303 200
AAPとPOLYOX303を乳鉢中で混合し、オイルプレスを用いて、打錠圧1ton/杵で打錠し、直径8.5mm、一錠重量300mg(AAP 100mg含有)の錠剤を得た。
上記で得られた実施例1及び比較処方1につき以下の試験を行った。
(1)溶出試験1
試験液として日局崩壊試験法第2液を用い、日局溶出試験法第2法(パドル法)により試験を行った。各時間毎にサンプリングを行い、溶液中のAAPはUV法にて測定した(表9、図8)。
【0038】

【0039】
(2)ゲル形成試験
試験液として日局崩壊試験法第2液を用い、日局溶出試験法第2法(パドル法)によりパドル回転速度25rpmで試験を行った。各時間毎に錠剤を取り出し、ゲル化していない部分の直径(D obs)を測定した。D obsより、ゲル化率(G)を算出した(表10、図9)
【0040】

【0041】
(3)イヌ投与試験1
約20時間絶食した雄ビーグル犬(n=4)に実施例1の錠剤×2錠(AAP 100mg)および比較処方1(AAP 100mg)を水30mlとともに経口投与した。経時的に採血し、血漿中薬物濃度はHPLC/UV法で測定した(表11、図10)。吸収速度は、AAP 100mg水溶液i.v.投与時の血漿中薬物濃度データを重み関数としてDeconvolution法により算出した。実施例の錠剤投与後24時間後の吸収率を100とした(表12)。
【0042】


【0043】

【0044】
試験結果
in vitro溶出試験では比較処方1と実施例1は、ほぼ同様の溶出挙動を示した(図8、表9)が、水の浸入速度(ゲル化率)は大きく異なった(図9、表10)。これらの製剤をイヌに経口投与した結果、比較処方1投与時と比較して実施例1投与時の血漿中薬物濃度推移は明らかに持続的である(図10)。また、比較処方1投与時の血漿中薬物濃度時間曲線下面積(AUC)および平均体内滞留時間(MRT)のバラツキは大きく、これは消化管移動時間の個体差に基づくものと推定される(表11)。これに対し、実施例1投与時のAUCおよびMRTはバラツキが小さく、消化管移動速度の影響を受けにくいことが示唆された。さらに、吸収時間が持続することから、実施例1投与時の最高血漿中薬物濃度(C max)は比較処方1投与時とはぼ同等であったが、AUCは約1.8倍増大した。
Deconvolutionによる吸収挙動と溶出試験結果を比較した。比較処方1投与では製剤が消化管上部に滞留する約2時間はin vitro溶出結果と同様の吸収を示したが、2時間以降は顕著に吸収が抑制された(図11、表12)。イヌ絶食条件における製剤の消化管上部滞留時間は約2時間であり、消化管下部では薬物が溶出・吸収されにくいことが判る。これに対して、実施例1投与時はin vitro溶出試験の結果とはぼ同等の吸収を示した。すなわち、消化管上部と同様に、消化管下部においても薬物が良好に溶出・吸収されていることが明らかである(図12、表12)。
(4)イヌ解剖試験
約20時間絶食した雄ビーグル犬3頭を用いた。解剖する2、4及び6時間前に各種製剤を水30mlとともに経口投与した。解剖はペントバルビタールNa麻酔下、脱血後開腹し、製剤の消化管内の位置を調べた(表13)。尚、小腸部は5等分しそれぞれ上部より小腸1、2、3、4、5とした。
試験結果:
【0045】

【0046】
ゲル化率の低い比較処方1と親水性基剤を配合することによりゲル化率を向上させた実施例1は、in vivoにおいてはぼ同様な消化管移動を示すことが明らかとなった。投与2時間後では、両製剤とも1例は胃に滞留していたが、残りは小腸5および結腸に存在していた。したがって、これまでの知見通り、イヌ絶食条件下では製剤の消化管上部滞留時間は約2時間であることが示された。すなわち実施例1投与時、2時間以降に示された高い血中濃度は、製剤が消化管下部に存在していたにも関わらず、製剤から薬物が良好に溶出され、充分に吸収されたことに起因することが確認された。
【0047】
実施例2
Pd 160(重量部)
HCO-60 80
TC-5E 160
PEG6000 400
POLYOX303 240
塩酸ニカルジビン(Pd)、HCO-60、TC-5EおよびPEG6000を混合溶媒(ジクロロメタン・メタノール)に溶解し、スプレードライヤーを用いて、噴霧乾燥した。乾燥品とPOLYOX303を乳鉢中で混合し、オイルプレスを用いて、打錠圧1ton/杵で打錠し、直径9.0mm、一錠重量346.7mg(Pd 53.3mg含有)の錠剤を得た。

塩酸ニカルジピン(Pd)、Tween80およびCMECを混合溶媒(ジクロロメタン・メタノール)に溶解し、スプレードライヤーを用いて、噴霧乾燥した。乾燥品とPOLYOX303を混合し、オイルプレスを用いて、打錠圧0.8ton/杵で打錠し、直径8.0mm、一錠重量171.6mg(Pd 65mg含有)の錠剤(SR)を得た。別に、PdおよびTC-5Eを混合溶媒(ジクロロメタン・メタノール)に溶解し、ハイコーターを用いて、SR(Pd 65mg)に速放部(QR、Pd 15mg)をコートし、一錠重量194.1mgの比較処方2(Pd 80mg)を得た。
【0048】
上記で得られた実施例2及び比較処方2につき、以下の試験を行った。
(1)溶出試験
試験液として日局崩壊試験法第1液を用い、日局溶出試験法第2法(パドル法)によりパドル回転速度200rpmで試験を行った。各時間毎にサンプリングを行い、溶液中のPdはUV法にて測定した(表14)。
【0049】

【0050】
(2)ゲル形成試験
試験液として日局崩壊試験法第1液を用い、日局溶出試験法第2法(パドル法)によりパドル回転速度25rpmで試験を行った。2時間後に錠剤を取り出し、ゲル化していない部分の直径(D obs)を測定した。D obsより、ゲル化率(G)を算出した(表15)。
【0051】

【0052】
(3)イヌ投与試験
約20時間絶食した雄ビーグル犬(n=6)に実施例2の錠剤×3錠(Pd 160mg)および比較処方2の錠剤×2錠(Pd 160mg)を水30mlとともに経口投与した。経時的に採血し、血漿中薬物濃度はHPLC/UV法で測定した(表16、図13)。
【0053】

【0054】
試験結果
in vitro溶出試験では比較処方2(SR)と実施例2は、ほぼ同様の溶出挙動を示した(表14)が、水の浸入速度(ゲル化率)は大きく異なった(表15)。これらの製剤をイヌに経口投与した結果、比較処方2投与時と比較して実施例2投与時の血漿中薬物濃度推移は明らかに持続的である。比較処方2投与では製剤が消化管下部に移行する2時間以降は顕著に血漿中薬物濃度が減少しており、消化管下部では薬物が溶出・吸収されにくいことが判る。これに対して、実施例2投与時は消化管下部に移行する2時間以降も血漿中薬物濃度が持続しており、消化管下部で薬物が良好に溶出・吸収されていることが明らかである。さらに、吸収時間が持続することから、実施例2投与時のC maxは比較処方2投与時とほぼ同等であったが、AUCは約3.0倍増大した。」

(摘記甲6E)
「【第8図】

【第9図】

【第10図】

【第11図】

【第12図】

【第13図】



甲7

(摘記甲7A)
「【請求項1】
(1)(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩、(2)製剤全体の重量に対して5重量%以上75重量%以下の、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、D-マンニトール、D-ソルビトール、キシリトール、乳糖、白糖、無水マルトース、D-フルクトース、デキストラン、ブドウ糖、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル、クエン酸、酒石酸、グリシン、β-アラニン、塩酸リジン、およびメグルミンからなる群より選択される一種以上の、1gを溶解する水の量が10mL以下の溶解性を示す製剤内部に水を浸入させるための添加剤、および(3)ハイドロゲルを形成する高分子物質が、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびヒドロキシエチルセルロースからなる群より選択される一種または二種以上の平均分子量が10万以上、または5%水溶液25℃の粘度が12mPa・s以上の、ハイドロゲルを形成する高分子物質を含有してなり、1.5時間での製剤からの薬物溶出率が75%以下、かつ7時間での製剤からの薬物溶出率が75%以上100%以下である、経口投与用放出制御医薬組成物。
【請求項2】
製剤内部に水を浸入させるための添加剤が、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、D-マンニトール、乳糖、白糖、およびポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールからなる群より選択される一種または二種以上である、請求項1に記載の経口投与用放出制御医薬組成物。
【請求項3】
製剤内部に水を浸入させるための添加剤の量が製剤全体の重量に対して5重量%以上70重量%以下である、請求項1又は2に記載の経口投与用放出制御医薬組成物。
【請求項4】
ハイドロゲルを形成する高分子物質が、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびヒドロキシプロピルセルロースからなる群より選択される一種または二種以上である、請求項1?3のいずれか一項に記載の経口投与用放出制御医薬組成物。
【請求項5】
ハイドロゲルを形成する高分子物質の量が製剤全体の重量に対して1重量%以上70重量%以下である、請求項1?4のいずれか一項に経口投与用放出制御医薬組成物。
【請求項6】
更に抗酸化剤を含有してなる、請求項1?5のいずれか一項に記載の経口投与用放出制御医薬組成物。
【請求項7】
抗酸化剤がブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、およびアスコルビン酸ナトリウムからなる群より選択される一種または二種以上である、請求項6に記載の経口投与用放出制御医薬組成物。
【請求項8】
抗酸化剤がブチルヒドロキシトルエンである、請求項7に記載の経口投与用放出制御医薬組成物。
【請求項9】
抗酸化剤の配合量が0.025重量%以上0.25重量%以下である、請求項6?8のいずれか一項に記載の経口投与用放出制御医薬組成物。
【請求項10】
更に安定化剤を含有してなる、請求項1?9のいずれか一項に記載の経口投与用放出制御医薬組成物。
【請求項11】
安定化剤が黄色三二酸化鉄、赤色三二酸化鉄、および黒色酸化鉄からなる群より選択される一種または二種以上である、請求項10に記載の経口投与用放出制御医薬組成物。
【請求項12】
安定化剤が黄色三二酸化鉄及び/又は赤色三二酸化鉄である、請求項11に記載の経口投与用放出制御医薬組成物。
【請求項13】
安定化剤の配合量が0.05重量%以上1重量%以下である、請求項10?12のいずれか1項に記載の経口投与用放出制御医薬組成物。
【請求項14】
(1)(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩に、(2)製剤全体の重量に対して5重量%以上75重量%以下の、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、D-マンニトール、D-ソルビトール、キシリトール、乳糖、白糖、無水マルトース、D-フルクトース、デキストラン、ブドウ糖、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル、クエン酸、酒石酸、グリシン、β-アラニン、塩酸リジン、およびメグルミンからなる群より選択される一種以上の、1gを溶解する水の量が10mL以下の溶解性を示す製剤内部に水を浸入させるための添加剤を製剤全体に対し5%以上75%以下、および(3)ハイドロゲルを形成する高分子物質が、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびヒドロキシエチルセルロースからなる群より選択される一種または二種以上の平均分子量が10万以上、または5%水溶液25℃の粘度が12mPa・s以上であるハイドロゲルを形成する高分子物質を製剤全体の重量に対して1重量%以上70重量%以下を配合することを特徴とする、1.5時間での製剤からの薬物溶出率が75%以下、かつ7時間での製剤からの薬物溶出率が75%以上100%以下である、経口投与用放出制御医薬組成物の製造方法。」

甲8

(摘記甲8A)
「【請求項1】
(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリド又はその塩を有効成分とする過活動膀胱の治療剤。」

(摘記甲8B)
「実施例4(処方例)
経口剤の処方例

100mg錠
本発明の有効成分200.0g・乳糖399.0gをポリエチレン袋中で混合した。この混合物をサンプルミル(ホソカワミクロン製)で混合粉砕した。混合粉砕物450.0gとコーンスターチ60.1gを流動造粒コーティング装置(大川原製作所製)中で均一に混合した。これに10%ヒドロキシプロピルセルロース溶液192gを噴霧して造粒した。乾燥後・20メッシュの篩を通し、これにステアリン酸マグネシウム2.3gを加え、ロータリー打錠機(畑鉄工所)で?9.0mm x 10.8Rの臼杵を使用して1錠当たり350mgの錠剤とした。この錠剤をコーティング装置(フロイント産業製)中でヒドロキシプロピルメチルセルロース8.7g・ポリエチレングリコール6000 1.2g・酸化チタン4.8g及びタルク0.3gを含むコーティング液150gを噴霧し、1錠当たり15mgコートしたフィルムコート錠とした。」(第9頁の下から2行目?第10頁第38行)

甲10

(摘記甲10A)
「【請求項1】
タムスロシンまたはその製薬学的に許容される塩、および徐放性医薬組成物用担体を含有し、日本薬局方溶出試験法第二法(パドル法:200rpm)により試験を行うとき、溶出開始7時間後のタムスロシン溶出率が約20?約85%であることを特徴とする徐放性医薬組成物。
【請求項2】
溶出開始7時間後のタムスロシン溶出率が約20?約75%であることを特徴とする請求項1記載の徐放性医薬組成物。
【請求項3】
溶出開始7時間後のタムスロシン溶出率が約25?約65%であることを特徴とする請求項1または2記載の徐放性医薬組成物。」

(摘記甲10B)
「【請求項13】
徐放性ハイドロゲル形成性製剤である請求項1?12のいずれか1項に記載の徐放性医薬組成物。
【請求項14】
浸透圧ポンプ型製剤である請求項1?12のいずれか1項に記載の徐放性医薬組成物。
【請求項15】
複数のガムを組合せたゲル製剤である請求項1?12のいずれか1項に記載の徐放性医薬組成物。
【請求項16】
幾何学的に配置した薬物核及び放出制御層からなる多層錠製剤である請求項1?12のいずれか1項に記載の徐放性医薬組成物。
【請求項17】
膨潤性高分子を用いた胃内滞留製剤である請求項1?12のいずれか1項に記載の徐放性医薬組成物。
【請求項18】
水溶性高分子を用いたマトリックス製剤である請求項1?12のいずれか1項に記載の徐放性医薬組成物。」

(摘記甲10C)
「【0015】
本発明の徐放性医薬組成物は、現在医療の現場に提供されている塩酸タムスロシンを含有してなる経口徐放性製剤に比し、有効性は同等以上であり、かつ副作用(例えば起立性低血圧等)等の有害事象を減少させる。さらに、用量を増加することができ、食事摂取の制限がないという優れた効果を有するものである。したがって、本発明の徐放性医薬組成物は、塩酸タムスロシン含有経口徐放性製剤として有用性の高いものである。」

(摘記甲10D)
「【実施例】
【0107】
以下、実施例、試験例、実験例を挙げてさらに本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0108】
実施例A(徐放性ハイドロゲル形成性製剤)
実施例A-1
PEG6000 3.84部を水10.56部にマグネチックスターラーを用いて攪拌溶解した。マグネチックスターラーで攪拌下、この液に、予めハンマーミル(サンプルミル AP-S、1mmスクリーン使用、ホソカワミクロン社製)を用いて粉砕した塩酸タムスロシン 1.6部を懸濁(一部溶解)させて、噴霧液を調製した。PEG6000 56.16部、PEO(製品名POLYOX^(TM) WSR-303、Dow Chemical) 300部を流動層造粒機(FLOW COATER、フロイント社製)に仕込み、吸気温度25℃、噴霧速度5 g/min、スプレー/ドライのサイクルを20秒/40秒で、前記噴霧液を噴霧することにより整粒した。整粒後、この整粒物を吸気温度40℃で30分間乾燥した。この乾燥した整粒物361.6部にステアリン酸マグネシウム1.8部を添加し混合した後、この混合物をロータリー打錠機(HT P-22、畑鉄工所製)を用い、8.5 mmφの杵により打錠圧400 kgf/杵、錠剤重量181.7 mgで打錠し、本発明の放出制御製剤(錠剤)を得た。
【0109】
実施例A-2
PEG6000 3.84部を水10.56部にマグネチックスターラーを用いて攪拌溶解した。マグネチックスターラーで攪拌下、この液に、予めハンマーミル(サンプルミル AP-S、1mmスクリーン使用、ホソカワミクロン社製)を用いて粉砕した塩酸タムスロシン 1.6部を懸濁(一部溶解)させて、噴霧液を調製した。つぎに、PEG6000 76.16部、PEO(製品名POLYOX^(TM) WSR-303、Dow Chemical) 400部を流動層造粒機(FLOW COATER、フロイント社製)に仕込み、吸気温度25℃、噴霧速度5 g/min、スプレー/ドライのサイクルを20秒/40秒で、前記噴霧液を噴霧することにより整粒した。整粒後、この整粒物を吸気温度40℃で30分間乾燥した。この乾燥した整粒物 481.6部にステアリン酸マグネシウム2.4部を添加し混合した後、この混合物をロータリー打錠機(HT P-22、畑鉄工所製)を用い、9 mmφの杵により打錠圧400 kgf/杵、錠剤重量242 mgで打錠し、本発明の製剤(錠剤)を得た。
【0110】
実施例A-3
PEG6000 3.84部を水10.56部にマグネチックスターラーを用いて攪拌溶解した。マグネチックスターラーで攪拌下、この液に、予めハンマーミル(サンプルミル AP-S、1mmスクリーン使用、ホソカワミクロン社製)を用いて粉砕した塩酸タムスロシン 1.6部を懸濁(一部溶解)させて、噴霧液を調製した。つぎに、PEG6000 96.16部、PEO(製品名POLYOX^(TM) WSR-303、Dow Chemical) 500部を流動層造粒機(FLOW COATER、フロイント社製)に仕込み、吸気温度25℃、噴霧速度5 g/min、スプレー/ドライのサイクルを20秒/40秒で、前記噴霧液を噴霧することにより整粒した。整粒後、この整粒物を吸気温度40℃で30分間乾燥した。この乾燥した整粒物 601.6部にステアリン酸マグネシウム3部を添加し混合した後、この混合物をロータリー打錠機(HT P-22、畑鉄工所製)を用い、9.5 mmφの杵により打錠圧400 kgf/杵、錠剤重量302.3mgで打錠し、本発明の製剤(錠剤)を得た。
【0111】
実施例A-4
PEG6000 3.84部を水10.56部にマグネチックスターラーを用いて攪拌溶解した。マグネチックスターラーで攪拌下、この液に、予めハンマーミル(サンプルミル AP-S、1mmスクリーン使用、ホソカワミクロン社製)を用いて粉砕した塩酸タムスロシン 1.0部を懸濁(一部溶解)させて、噴霧液を調製した。PEG6000 76.16部、PEO(製品名POLYOX^(TM) WSR-303、Dow Chemical) 400部を流動層造粒機(FLOW COATER、フロイント社製)に仕込み、吸気温度25℃、噴霧速度5 g/min、スプレー/ドライのサイクルを20秒/40秒で、前記噴霧液を噴霧することにより整粒した。整粒後、この整粒物を吸気温度40℃で30分間乾燥した。この乾燥した整粒物481.0部にステアリン酸マグネシウム2.4部を添加し混合した後、この混合物をロータリー打錠機(HT P-22、畑鉄工所製)を用い、9 mmφの杵により打錠圧400 kgf/杵、錠剤重量241.7 mgで打錠し、本発明の放出制御製剤(錠剤)を得た。
【0112】
実施例A-5
PEG6000 3.84部を水10.56部にマグネチックスターラーを用いて攪拌溶解した。マグネチックスターラーで攪拌下、この液に、予めハンマーミル(サンプルミル AP-S、1mmスクリーン使用、ホソカワミクロン社製)を用いて粉砕した塩酸タムスロシン 2.0部を懸濁(一部溶解)させて、噴霧液を調製した。PEG6000 76.16部、PEO(製品名POLYOX^(TM) WSR-303、Dow Chemical) 400部を流動層造粒機(FLOW COATER、フロイント社製)に仕込み、吸気温度25℃、噴霧速度5 g/min、スプレー/ドライのサイクルを20秒/40秒で、前記噴霧液を噴霧することにより整粒した。整粒後、この整粒物を吸気温度40℃で30分間乾燥した。この乾燥した整粒物482.0部にステアリン酸マグネシウム2.4部を添加し混合した後、この混合物をロータリー打錠機(HT P-22、畑鉄工所製)を用い、9 mmφの杵により打錠圧400 kgf/杵、錠剤重量242.2 mgで打錠し、本発明の放出制御製剤(錠剤)を得た。
【0113】
実施例A-6
PEG6000 3.84部を水10.56部にマグネチックスターラーを用いて攪拌溶解した。マグネチックスターラーで攪拌下、この液に、予めハンマーミル(サンプルミル AP-S、1mmスクリーン使用、ホソカワミクロン社製)を用いて粉砕した塩酸タムスロシン 0.5部を懸濁(一部溶解)させて、噴霧液を調製した。つぎに、PEG6000 76.16部、PEO(製品名POLYOX^(TM) WSR-303、Dow Chemical) 400部を流動層造粒機(FLOW COATER、フロイント社製)に仕込み、吸気温度25℃、噴霧速度5 g/min、スプレー/ドライのサイクルを20秒/40秒で、前記噴霧液を噴霧することにより整粒した。整粒後、この整粒物を吸気温度40℃で30分間乾燥した。この乾燥した整粒物 480.5部にステアリン酸マグネシウム2.4部を添加し混合した後、この混合物をロータリー打錠機(HT P-22、畑鉄工所製)を用い、9 mmφの杵により打錠圧400 kgf/杵、錠剤重量241.5 mgで打錠し、本発明の製剤(錠剤)を得た。
【0114】
試験例A(溶出試験)
実施例A-1?A-5の各製剤からの薬物放出特性は日本薬局方溶出試験法第二法(パドル法)により評価する。試験液として精製水900mLを用い、シンカーは使用せず、パドル回転速度200rpmで行う。各時間毎にサンプリングを行い、サンプリング溶液中の塩酸タムスロシンをUV分光光度計(225nm)を備えたHPLCにて定量する。その結果を表1に示した。
【0115】
【表1】

【0116】
(結果及び考察)
ハイドロゲル形成基剤としてポリエチレンオキサイドを、親水性基剤としてPEGを用いることにより塩酸タムスロシンの持続的な薬物放出を示した。ポリエチレンオキサイドとPEGの配合量により溶出速度を制御可能であった。後記実験例に示すように、実施例A-2(またはA-4,5,6)を用いた臨床試験において、有効性は現行製剤と同等以上であり、かつ副作用については現行製剤に比し減少させる結果を得た。したがって、実施例A-2の溶出プロファイルを基に、変動を考慮した幅を設定した。徐放性ハイドロゲル形成性製剤の消化管内における薬物放出特性はパドル100回転(rpm)に近似するという知見が得られている。したがって、消化管内における薬物放出性を考慮し、実施例A-2の100回転(rpm)における溶出率も参考にして溶出率の幅を設定した。」

(摘記甲10E)
「【0205】
実験例2:連続投与における現行製剤と本発明製剤との比較
健康男性被験者に食事摂取前(絶食)あるいは食事摂取後、現行製剤(Omnic/Flomax(登録商標))または実施例A-2の製剤を、1日1回1人あたり0.4mgの投与量で少なくとも5日間に亘り繰り返し経口投与した。現行製剤投与の食事摂取前投与では7日目の投与後、食事摂取後投与では6日目の投与後、A-2製剤投与では食事摂取前および食事摂取後いずれも5日目の投与後に経時的採血を行い、血漿中タムスロシン濃度を測定した。最高血漿中タムスロシン濃度(C_(max))および投与後24時間における血漿中タムスロシン濃度(C_(24h))を決定し、C_(max)に対するC_(24h)の比(C_(24h)/C_(max))を算出し、表18に示した。
(結果及び考察)
【0206】
【表18】

【0207】
C_(max)は、現行製剤では食事摂取前投与で、食事摂取後投与に対して有意な上昇が認められた(p<0.01)が、A-2製剤では有意な食事の影響が見られなかった。また、現行製剤の食事摂取前投与ではC_(24h)/C_(max)比が食事摂取後に対して有意に低下した(p<0.01)が、A-2製剤投与時は食事条件によらず有意な差を認めなかった。さらに、現行製剤の食事摂取後のC_(24h)/C_(max)はA-2製剤投与時に比し小さかった。
以上の結果から、A-2製剤は食事の影響を受けない製剤であり、現行製剤に比しコンプライアンスを改善し、かつ副作用の発現頻度を低減し、さらに効果の持続が期待できるものと考えられる。したがって、製剤からの薬物放出を制御することは食事の影響を受けにくく、タムスロシン製剤の設計において有用であることが示された。」

乙1

(摘記乙1A)
「II. 生物学的同等性試験
1.試験法
絶食及び食後の単回投与で試験する.食後投与試験では,高脂肪食(900kcal以上,且つ,総エネルギーに対する脂質のエネルギーの占める割合いは35%以上)を20分以内に摂り,食後10分以内に製剤を投与する.…」(乙1、第14頁第19?23行)

乙2

(摘記乙2A)
「ポリエチレンオキサイド

概説 エチレンオキサイド分子を1万ないし数十万ほどに連結させて得られる高分子重合体でHO-(CH_(2)CH_(2)O)_(n)-CH_(2)CH_(2)OHの一般式の水溶性樹脂。前述分子式でn=0はエチレングリコール、nが200?300程度までを通常ポリエチレングリコール、これ以上をポリエチレンオキサイドという。」(乙2、第898頁、「ポリエチレンオキサイド」の「概説」の項、第1?6行)

乙3

(摘記乙3A)


」(乙3、第90頁、図2.54)

第7 当審合議体の判断

1 無効理由1(サポート要件違反)について

(1)判断の前提

特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、本件特許の特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するものといえるか否かを、上記観点で検討する。

(2)本件特許明細書及び図面の記載事項

本件特許明細書及び図面には、次のとおりの記載がある。

(摘記本件A)
「【0001】
本発明は、有効成分と配合成分を組み合わせ、有効成分の放出速度を制御することにより、通常錠で見られた食餌の影響の低減した放出制御医薬組成物に関する。
詳細には、本発明は、(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩、および、徐放性医薬組成物用担体を含有する医薬組成物において、有効成分の放出速度を制御することにより、食餌摂取による血中薬物濃度対時間曲線下面積(AUC)や最大血中薬物濃度(Cmax)の変動を低減した放出制御医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドは、アステラス製薬により創製され、インスリン分泌促進作用とインスリン感受性増強作用を併せ持ち、さらに選択的β3受容体刺激作用に基づく抗肥満作用及び抗高脂血症作用を有し、糖尿病の治療に有用な化合物であることが報告されている(例えば特許文献1参照)。
また、同化合物は、過活動膀胱の治療剤として使用することができ、例えば、前立腺肥大に伴う過活動膀胱の他、尿意切迫感、尿失禁や頻尿を伴う過活動膀胱の治療剤として有用であることが報告されている(例えば特許文献2参照)。
【0003】
(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドの通常製剤を使用して臨床試験を実施したところ、予想外にも食餌摂取の有無で、薬物動態データ(Pharmacokinetic data)が食餌の有無で大きく変化した。例えば、絶食下に比べ、飽食下でのCmaxの減少率が67%、AUCの減少率が47%であった。また、絶食時のCmaxは飽食時と比較して3倍も高かった。これは、食餌によって体内動態が変動する等が要因であり、食餌摂取の影響を回避した製剤の開発が要望される。」

(摘記本件B)
「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、通常製剤と有効性は同等以上であり、食餌摂取の制限が無い(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩を含有する放出制御医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドの消失半減期T_(1/2)は約18?24時間と長いことから、血中濃度を維持するための放出制御製剤は必ずしも必要とされない。前記臨床試験の結果に鑑み、製剤設計としては放出制御を付与するというより、食餌摂取等の影響を受けない程度に、製剤からの薬物放出速度をコントロールすることに着目して、鋭意検討した。
通常製剤(速放製剤)投与時の絶食/食後の血中濃度プロファイルより、食後における薬物吸収速度をデコンボリューション(deconvolution)法により算出したところ、およそ4時間まで持続的な吸収が予測された。この結果から、4時間以上の持続的薬物放出が可能な製剤であれば、製剤からの薬物放出が吸収の律速となるため、食餌の影響を低減し得るものと考察した。
薬物の放出速度をコントロールした3種類の製剤でヒト臨床試験を実施したところ、いずれの製剤も食餌の影響を低減できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
放出制御製剤は摂食の有無により、胃内での製剤滞留時間及び放出速度が変化することが一般的に知られており、その結果、血中濃度プロファイルも変化する可能性がある。ところが、驚くべきことに、本製剤では摂食の有無により血中濃度プロファイルの変化は少なかった。
本発明の特徴は、有効成分の放出速度を制御することにより、食餌摂取の影響を受けず、AUCまたはCmaxの変化の低減された放出制御医薬組成物を提供することにある。」

(摘記本件C)
「【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、食餌摂取の制限が無く、Cmax及びAUCの変化の低減された放出制御医薬組成物を提供することができる。
放出制御医薬組成物にすることにより、通常製剤は、絶食下に比べ、飽食下でのCmaxの減少率が67%であったのに対し、本発明の放出制御製剤は絶食下に比べ、飽食下でのCmaxの減少率が4%、10%と有意に食餌によるCmaxの低減を改善できた。
また、通常製剤は、絶食下に比べ、飽食下でのAUCの減少率が47%であったのに対し、本発明の放出制御製剤は絶食下に比べ、飽食下でのAUCの減少率が10%、-4%と有意に食餌によるAUCの低減を改善できた。」

(摘記本件D)
「【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の放出制御医薬組成物を説明する。
本明細書における「速放性製剤(通常製剤)」とは、米国薬局方溶出試験法(パドル法)により、適当な試験液900mL(例えばUSP buffer pH6.8)を用いてパドルの回転数100回転/分の条件で溶出試験を実施した場合の、試験開始30分後における製剤からの薬物溶出率が85%以上である製剤を意味する。または、日本薬局方溶出試験第2法で、適当な試験液(例えばpH6.8のMc.Ilvain緩衝液)900mLを用いて回転数50回転/分で実施した場合、30分での溶出率が85%以上である製剤を意味する。または、日本薬局方溶出試験法第二法(パドル法)により、試験液としてUSPリン酸緩衝液(pH6.8)900mLを用いてパドル回転速度200rpmの条件で溶出試験を実施した場合の、試験開始30分後における製剤からの薬物溶出率が85%以上である製剤を意味する。
【0013】
本明細書における「放出制御医薬組成物」とは、上記条件で試験開始30分後における製剤からの薬物溶出率が85%未満である製剤であり、食餌の影響を低減する程度に薬物の放出をコントロールした製剤である。
【0014】
本明細書における「食餌の影響の低減」とは、通常製剤のCmaxに対して、例えば10%以上に低減すること、他の態様として20%以上に低減すること、更なる態様として30%以上に低減することを意味する。または、絶食投与時と比べ、食後投与時におけるCmaxおよびAUCの減少率を、例えば10%以上に低減すること、他の態様として20%以上に低減すること、更なる態様として30%以上に低減することを意味する。
CmaxおよびAUCの減少率は、以下の式で表される。
Cmaxの減少率(%)=(絶食投与時のCmax-食後投与時のCmax)×100/絶食投与時のCmax
AUCの減少率(%)=(絶食投与時のAUC-食後投与時のAUC)×100/絶食投与時のAUC
【0015】
本明細書における「食餌の影響を低減した製剤」とは、上記条件で、溶出試験開始30分後の薬物溶出率が85%未満である製剤である。他の態様として、1.5時間での製剤からの薬物溶出率が75%以下である製剤である。他の態様として、1.5時間での製剤からの薬物溶出率が75%以下、かつ7時間での製剤からの薬物溶出率が75%以上100%以下である製剤である。
【0016】
本発明で用いられる(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリド(以下、化合物Aと略記することもある)は、以下の構造式で表される。
【化1】

【0017】
化合物Aは塩を有さないフリー体の態様以外に、他の態様として、酸と塩を形成する。かかる塩としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、炭酸、ピクリン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、グルタミン酸等との有機酸との酸付加塩を挙げることができる。
【0018】
化合物Aの投与量は症状、投与対象の年齢、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定されるが、通常経口投与の場合成人1日当たり0.01mg/kg以上100mg/kg以下であり、これを1回で、あるいは2?4回に分けて投与する。
化合物Aの配合量は、例えば、1製剤あたり1重量%以上70重量%以下、他の態様として、5重量%以上70重量%以下、更なる態様として5重量%以上50重量%以下である。または、1製剤あたり1mg以上500mg以下、他の態様として、10mg以上200mg以下である。」

(摘記本件E)
「【0019】
本発明において、化合物A又はその製薬学的に許容される塩とともに、放出制御医薬組成物に含有される徐放性医薬組成物用担体としては、特定の放出速度を達成することのできる担体又は製剤処方、あるいは製剤技術であれば特に制限されない。
かかる組成・成分を構成する担体(又は製剤処方、あるいは製剤技術)としては、以下に詳述するように、例えば、
(1)消化管上部の胃及び小腸滞留中に製剤がほぼ完全にゲル化し、消化管下部の結腸においても薬物の放出能を有する徐放性ハイドロゲル形成性製剤、
(2)幾何学的に配置した薬物核及び放出制御層からなる多層性製剤、
(3)複数のガムを組合せたゲル製剤、
(4)浸透圧ポンプ型製剤、
(5)膨潤性高分子を用いた製剤、
(6)水溶性高分子を用いたマトリクス製剤、
(7)コーティング膜による放出制御製剤、
(8)不溶性高分子を用いたマトリクス製剤
等が挙げられる。かかる製剤技術に関連する組成又は製剤技術は、すべて本願発明に取り込まれる。」

(摘記本件F)
「【0021】
(1)徐放性ハイドロゲル形成性製剤
用いられる徐放性医薬組成物用担体としては、製剤内部まで水を浸入させるための添加剤(ゲル化剤、ゲル化促進剤、親水性基剤とも云うが、本願明細書において以下『親水性基剤』と称する)と、ハイドロゲルを形成する高分子物質(以下、ハイドロゲル形成高分子物質と称する)を含む。
【0022】
本発明で用いられるハイドロゲルを形成する高分子物質は、薬物の血中濃度プロファイルが食餌摂取の有無の影響を受けない程度に、薬物の放出速度をコントロールすることが必要である。
ハイドロゲルを形成する高分子物質の分子量は、例えば、10万以上、他の態様として10万以上800万以下、更なる態様として10万以上500万以下、更に他の態様として10万以上200万以下である。または、ハイドロゲルを形成する高分子物質の粘度は、例えば5%水溶液25℃の粘度が12mPa・s以上、他の態様として5%水溶液25℃の粘度が12mPa・s以上、1%水溶液25℃の粘度が40000mPa・s以下、更なる態様として、2%水溶液25℃の粘度が400mPa・s以上1%水溶液25℃の粘度が7500mPa・s以下、更に他の態様として2%水溶液25℃の粘度が400mPa・s以上1%水溶液25℃の粘度が5500mPa・s以下である。
本発明の放出制御医薬組成物においては、ハイドロゲルを形成する高分子物質として用いられる高分子物質の粘度を調節することによって、該製剤からの薬物の放出期間を任意にコントロール可能である。
【0023】
本発明で用いられるハイドロゲル形成高分子物質としては、化合物Aの食餌の影響を低減する程度に放出をコントロールし得るものであれば特に制限されないが、例えば、ポリエチレンオキサイド、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、およびカルボキシビニルポリマーが挙げられる。他の態様として、ポリエチレンオキサイド、ヒプロメロース、およびヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。

【0032】
本発明医薬組成物の製剤内部まで水を浸入させるための添加剤(親水性基剤)としては、この親水性基剤1gが溶解するのに必要な水の量が20±5℃下で10mL以下、別の態様として6mL以下、更なる態様として5mL以下、更に他の態様として4mL以下のものであり、水への溶解性が高い程、製剤中に水を浸入させる効果が高い。
【0033】
このような親水性基剤としては、例えば、ポリエチレングリコール[PEG;例えば、商品名PEG400、PEG1500、PEG4000、PEG6000、PEG20000(日油社製)]、ポリビニルピロリドン[PVP;例えば、商品名PVP K30(BASF社製)]等の水溶性高分子;D-マンニトール、D-ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール類;乳糖、白糖、無水マルトース、D-フルクトース、デキストラン(例えばデキストラン40)、ブドウ糖等の糖類;ポリオキシエチレン硬化ひまし油[HCO;例えば、CremophorRH40(BASF社製)、HCO-40、HCO-60(日光ケミカルズ社製)]、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール[例えばプルロニックF68(アデカ社製等)]、ポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル[Tween;例えばTween80(関東化学社製)]等の界面活性剤;塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等の塩類;クエン酸、酒石酸等の有機酸;グリシン、β-アラニン、塩酸リジン等のアミノ酸類;メグルミン等のアミノ糖類を用いることができる。
他の態様として、PEG、PVP、D-マンニトール、D-ソルビトール、キシリトール、乳糖、白糖、無水マルトース、D-フルクトース、デキストラン、ブドウ糖、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、クエン酸、酒石酸、グリシン、β-アラニン、塩酸リジン、メグルミンを用いることが出来る。更なる態様として、PEG、PVP、D-マンニトール、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。」

(摘記本件G)
「【0108】
(5)膨潤性高分子を用いた製剤
本発明の放出制御医薬組成物の一態様である膨潤性高分子を用いた製剤は、水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーを含む放出制御製剤である。

【0110】
用いられる「水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマー」は、製薬学的に許容され、水の吸収時に寸法的に制限無く膨潤し、薬物を持続的に放出させるものであれば特に制限されない。かかるポリマーとしては、好ましくは重量分子量約4,500,000以上のポリマーであり、更に好ましくは重量分子量約4,500,000?約10,000,000のポリマーであり、重量分子量約5,000,000?約8,000,000のポリマーが特に好適である。

【0112】
更にかかるポリマーとして特に好ましいものは、ポリアルキレンオキサイド誘導体が挙げられるが、更に好ましいポリアルキレンオキサイドとしては、ポリエチレンオキサイドであり、非置換のエチレンオキサイドの線状ポリマーを意味する。好ましいポリエチレンオキサイドは、約900,000?約8,000,000の範囲内の重量平均分子量を有するものである。好ましい粘度範囲は、20℃ 2%の水溶液として、その粘度が約50?約2,000,000cpsの範囲内にあるものを含む。好ましいポリエチレンオキサイドは、ポリオックス(商品名:POLYOX)であり、グレードWSR Coagulant及びグレードWSR 303を挙げることができる。

【0117】
前述した各種成分の最適な組合せとしては、「水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマー」として重量平均分子量約2,000,000?約7,000,000の範囲内を有するポリエチレンオキサイドを全重量に対して約90?約97W/W%、及び「滑沢剤」としてステアリン酸マグネシウムを放出制御医薬組成物全重量に対して約2W/W%未満配合することが挙げられる。また、水溶性ポリマーを例えば2種配合する組合せとしては、約900,000?約7,000,000の範囲内の重量平均分子量を有するポリエチレンオキサイドと20℃ 2%の水溶液として、その粘度が約3?約10,000cpsを有するヒプロメロースを配合比約1:1の割合で各々約48W/W%配合することが挙げられる。
本製剤は、膨潤することにより胃内に滞留することが期待される。」

(摘記本件H)
「【0118】
(6)水溶性高分子を用いたマトリクス製剤
本発明の放出制御医薬組成物の一態様である水溶性高分子を用いたマトリクス製剤は、ヒプロメロース(HPMC)のような水溶性高分子に薬物が均一に分散している放出制御製剤である。

【0120】
水溶性高分子であるヒプロメロースは、水と接触すると水和し、マトリクス表面にハイドロゲル層を形成する。マトリクス表面に形成された薬物を含むゲル層が徐々に溶解・浸食することにより薬物を放出する。本発明のマトリクス製剤は、この水との接触、薬物を含むゲル層の形成、ゲル層の溶解・浸食を繰り返すことにより薬物を徐放する特徴を有する。
【0121】
本発明のマトリクス製剤は、水溶性高分子からなる徐放性賦形剤と他の不活性な希釈剤と生理活性物質が均一に分散する特徴を有する。用いられる水溶性高分子は環境流体に呈される時に、徐々にゲル化及び/又は浸食及び/又は溶解及び/又は崩壊するものであれば特に制限されない。かかる水溶性高分子としては、分子量が1,000?4,000,000のヒプロメロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、分子量が2,000?2,000,000のヒドロキシプロピルセルロース…が挙げられる。好ましくは分子量1,000?2,000,000のヒプロメロース又は、0.5%水溶液(25℃)が3,000?45,000cpsのカルボキシビニルポリマーであり、更に好ましくは分子量10,000?1,000,000のヒプロメロース又は0.5%水溶液の粘度(25℃)が4,000?40,000cpsのカルボキシビニルポリマーである。水溶性高分子の量としては製剤単位当たり10W/W%以上であり、好ましくは30W/W%以上であり、更に好ましくは70W/W%以上である。なお、上記水溶性高分子は、1種又はそれ以上を組合せて適宜適量添加することができる。」

(摘記本件I)
「【0142】
《実施例1:徐放性ハイドロゲル形成性製剤の調製》
本実施例では、本発明の放出制御医薬組成物として、徐放性ハイドロゲル形成性製剤1A?1Cを調製した。
【0143】
実施例1A:
化合物A 400g、ポリエチレンオキサイド100g、ポリエチレングリコール291.2g、微粉砕したジブチルヒドロキシトルエン(BHT)(メルク社製、以下同じ)0.8g、およびステアリン酸マグネシウム8gを秤量し、混合器を用い混合した。混合物をローラーコンパクターミニ(フロイント社製、以下同じ)を用い圧縮成形後、整粒し、本発明の放出制御医薬組成物(顆粒)を得た。得られた顆粒をロータリー打錠機(畑鉄工製、以下同じ)にて打錠し、1錠400mgの本発明の放出制御医薬組成物(錠剤)を得た。得られた錠剤にハイコーター(フロイント社製、HCT-30、以下同じ)を用い、水に分散したフィルムコート剤(カラコン社製、Opadry、以下同じ)をコーティングし、本発明の放出制御医薬組成物(錠剤)を得た。
【0144】
実施例1B:
化合物A 400g、ポリエチレンオキサイド250g、ポリエチレングリコール190.7g、微粉砕したBHT 0.8g、およびステアリン酸マグネシウム8.5gを秤量し、混合器を用い混合した。混合物をローラーコンパクターミニを用い圧縮成形後、整粒し、本発明の放出制御医薬組成物(顆粒)を得た。得られた顆粒をロータリー打錠機にて打錠し、1錠425mgの本発明の放出制御医薬組成物(錠剤)を得た。得られた錠剤にハイコーターを用い、水に分散したフィルムコート剤をコーティングし、本発明の放出制御医薬組成物(錠剤)を得た。
【0145】
実施例1C:
解砕した化合物A 800g、ポリエチレンオキサイド1120g、ポリエチレングリコール1913.6g、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達社製、HPC-SL)120gを流動層造粒機GPCG-5(フロイント社製、以下同じ)に仕込み、精製水で造粒し、本発明の放出制御医薬組成物(顆粒)を得た。本発明の放出制御医薬組成物(顆粒)を整粒後、微粉砕したBHT 6.4gとステアリン酸マグネシウム40gを混合し、ロータリー打錠機で打錠し、1錠250mgの本発明の放出制御医薬組成物(錠剤)を得た。得られた錠剤をハイコーターを用いて、フィルムコート剤の水分散液を噴霧コーティングし、1錠当たり257.5mgの本発明の放出制御医薬組成物(錠剤)を得た。
【0146】
比較例1:
粉砕した化合物A 400gとD-マンニトール1200gを混合後、精製水320gを添加し攪拌造粒機(パウレック社製、VG-25)を用いて練合した。篩(目開き:850μm)にて篩過し、整粒し、流動層造粒機(フロイント社製、FLO-1)を用いて乾燥した。篩(目開き:500μm)にて篩過した後、1号カプセルに1カプセル当たり320mg充填し、化合物Aを80mg含む比較例の医薬組成物を得た。」

(摘記本件J)
「【0164】
《実施例5:膨潤性高分子を用いた製剤の調製》
本実施例(実施例5A?5C)では、本発明の放出制御医薬組成物として、表7に示す組成ユニットからなる、膨潤性高分子を用いた製剤5A?5Cを調製した。
具体的には、必要な量の化合物Aおよびポリエチレンオキサイド(DOW社製、各種Polyox)を秤取り、乳鉢及び乳棒を用いて均質化するまでよく混合した。これを臼に充填し、直径7 mmの杵を用い、オイルプレス打錠機にて、打錠圧は1000 kg/杵で圧縮成形した。
【0165】
【表7】



(摘記本件K)
「【0166】
《実施例6:水溶性高分子を用いたマトリクス製剤の調製》
本実施例(実施例6A?6N)では、本発明の放出制御医薬組成物として、表8及び表9に示す組成ユニットからなるマトリクス製剤6A?6Nを調製した。
具体的には、必要な量の化合物Aおよび各種添加剤〔ヒプロメロース(信越化学工業(株)製)又はヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達(株)製)〕を秤取り、乳鉢及び乳棒を用いて均質化するまでよく混合した。これを臼に充填し、オイルプレス打錠機にて、打錠圧は1000 kg/杵で圧縮成形した。
【0167】
【表8】

【0168】
【表9】



(摘記本件L)
「【0177】
《試験例1:徐放性ハイドロゲル形成性製剤の溶出試験》
実施例1A?1Cで調製した各製剤(フィルムコート剤をコーティングしたもの)からの薬物放出性は、日本薬局方溶出試験法第二法(パドル法)により評価した。試験液としてUSP リン酸緩衝液 pH 6.8 900 mLを用い、パドル回転速度 200 rpmで行った。各時間毎に試験液中の薬物濃度を測定し、薬物放出性を評価した。その結果を表14及び図1に示す。
【0178】
【表14】



(摘記本件M)
「【0183】
《試験例5:膨潤性高分子を用いた製剤の溶出試験》
実施例5A?5Cで調製した各製剤からの薬物放出性は、試験例1に記載の方法で評価した。その結果を表16及び図5に示す。
【0184】
【表16】



(摘記本件N)
「【0185】
《試験例6:水溶性高分子を用いたマトリクス製剤の溶出試験》
実施例6A?6Nで調製した各製剤からの薬物放出性は、試験例1に記載の方法で評価した。その結果を表17及び表18並びに図6及び図7に示す。
【0186】
【表17】

【0187】
【表18】



(摘記本件O)
「【0195】
《試験例10:徐放性ハイドロゲル形成性製剤のヒト薬物動態(PK)試験》
実施例1A又は1Bで調製した本発明の放出制御医薬組成物(化合物Aを200mg相当量含有する)を健常人に絶食条件(Fasted)または食後30分後(Fed)に投与し、血漿中に含まれる薬物濃度を測定した。一方、比較例1の医薬組成物(通常製剤)2カプセル(化合物Aを160mg相当量含有する)を健常人に絶食条件または食後30分後に投与し、血漿中に含まれる薬物濃度を測定した。
【0196】
実施例1Aで調製した本発明の放出制御医薬組成物における結果を図12に、実施例1Bで調製した本発明の放出制御医薬組成物における結果を図13に、それぞれ示す。
通常製剤は、絶食下に比べ、飽食下でのCmaxの低下率が67%、AUCの低下率が47%であった(絶食時Cmaxは飽食時の約3倍増加した)のに対し、本発明の放出制御医薬組成物(1A及び1B)は、絶食下に比べ、飽食下でのCmaxの低下率がそれぞれ4%および10%、AUCの低下率がそれぞれ10%および-4%と、有意に食餌によるCmaxやAUCの低減を改善できた。
また、本発明の放出制御医薬組成物投与後の最高血漿中濃度は、実施例1Aにおいては、絶食および食後条件においてそれぞれ、274 ng/mL、264 ng/mLであった。同様に実施例1Bにおいては、155 ng/mL、140 ng/mLであった。また、心拍数増加はいずれも13 bpm以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0197】
本発明によれば、有効成分の放出速度を制御することにより、食餌摂取の影響を受けず、AUCまたはCmaxの変化の低減された放出制御医薬組成物を提供することができる。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。」

(摘記本件P)
「【図1】



(摘記本件Q)
「【図5】



(摘記本件R)
「【図6】

【図7】



(摘記本件S)
「【図12】

【図13】



(3)本件訂正発明1、2が解決しようとする課題について

本件特許明細書【0006】(上記摘記本件B)の記載からみて、本件訂正発明1、2が解決しようとする課題は、「通常製剤と有効性は同等以上であり、食餌摂取の制限が無い(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩を含有する放出制御医薬組成物を提供すること」であると認められる。以下、「(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその塩」を「化合物A又はその塩」ということがある。

(4)本件訂正発明1について

ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された事項

上記(2)によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、概略、次の事項が記載されている。

(ア)(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリド(化合物A)は、糖尿病や過活動膀胱の治療剤として使用できることが報告されているところ、化合物Aの通常製剤を使用して臨床試験を実施したところ、予測外にも食餌摂取の有無で、薬物動態データが大きく変化し、例えば、絶食下に比べ、飽食下でのCmax(最大血中薬物濃度)の減少率が67%、AUC(血中薬物濃度対時間曲線下面積)の減少率が47%であり、また、絶食時のCmaxは飽食時と比較して3倍も高かった(上記摘記本件Aの【0001】?【0003】)。

(イ)本発明の課題は、通常製剤と有効性は同等以上であり、食餌摂取の制限が無い化合物A又はその塩を含有する放出制御医薬組成物を提供することにある(上記摘記本件Bの【0006】)。

(ウ)通常製剤(速放製剤)投与時の絶食/食後の血中濃度プロファイルより算出したところ、4時間以上の持続的薬物放出が可能な製剤であれば、製剤からの放出が吸収の律速となるため、食餌の影響を低減し得るものと考察した。放出制御製剤は摂食の有無により、胃内での製剤滞留時間及び放出速度が変化し、その結果、血中濃度プロファイルも変化する可能性があるが、驚くべきことに、本製剤では摂食の有無により血中濃度プロファイルの変化は少なかった(上記摘記本件Bの【0007】)。

(エ)本発明の特徴は、有効成分の放出速度を制御することにより、食餌摂取の影響を受けず、AUC又はCmaxの変化の低減された放出制御医薬組成物を提供することにある(上記摘記本件Bの【0007】)。

(オ)「速放性製剤(通常製剤)」とは、試験開始30分での溶出率が85%以上の製剤を意味し、「放出制御医薬組成物」とは、試験開始後30分での溶出率が85%未満であり、食餌の影響を低減する程度に薬物の放出をコントロールした製剤であり、本明細書における溶出率の試験は、pH6.8における日本薬局方溶出試験第二法による溶出試験を意味する(上記摘記本件Dの【0012】、【0013】)。

(カ)「食餌の影響の低減」とは、通常製剤のCmaxに対して、例えば10%以上に低減すること、又は、絶食投与時と比べ、食後投与時におけCmax及びAUCの減少率を、例えば10%以上に低減することであって、「食餌の影響を低減した製剤」とは、溶出試験開始30分後の薬物溶出率が85%未満であり、他の態様として、1.5時間時間での製剤からの薬物溶出率が75%以下、かつ7時間での製剤からの薬物溶出率が75%以上100%以下である製剤である(上記摘記本件Dの【0014】、【0015】)。

(キ)化合物A又はその塩とともに、放出制御医薬組成物に含有される徐放性医薬組成物用担体としては、特定の放出速度を達成することができる担体又は製剤処方、あるいは製剤技術であれば特に制限されず、(1)消化管上部の胃及び小腸滞留中に製剤がほぼ完全にゲル化し、消化管下部の結腸においても薬物の放出能を有する徐放性ハイドロゲル形成性製剤、(2)幾何学的に配置した薬物核及び放出制御層からなる多層性製剤、(3)複数のガムを組合せたゲル製剤、(4)浸透圧ポンプ型製剤、(5)膨潤性高分子を用いた製剤、(6)水溶性高分子を用いたマトリクス製剤、(7)コーティング膜による放出制御製剤、(8)不溶性高分子を用いたマトリクス製剤等が挙げられる(上記摘記本件Eの【0019】)。

(ク)化合物Aを1錠当たり50?200mg含有する上記(1)?(8)の各製剤(錠剤)を調製し(実施例1?8)、調製した各製剤の薬物放出特性を測定した(試験例1?8)。「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」を含む、上記(1)?(8)の各製剤(錠剤)について、「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」という規定を充足する製剤を得ることができた(上記摘記本件I?N、P?R)。

(ケ)通常製剤は、絶食下に比べ、飽食下でのCmaxの低下率が67%、AUCの低下率が47%であった(絶食時Cmaxは飽食時の約3倍増加した)のに対し、試験開始後1.5時間後の溶出率が54%、7時間後の溶出率が99%である、実施例1Aで調製した徐放性ハイドロゲル形成性製剤は、絶食下に比べ、飽食下でのCmaxの低下率が4%、AUCの低下率が0%と、有意に食餌によるCmaxやAUCの低減を改善できた(上記摘記本件O、Sの試験例10、【図12】)。

(コ)本発明によれば、有効成分の放出速度を制御することにより、食餌摂取の影響を受けず(食餌摂取の制限がなく)、AUC及び/又はCmaxの変化の低減された放出制御医薬組成物を提供することができる(上記摘記本件C、Oの【0010】、【0197】)。

イ 「通常製剤と有効性は同等以上」という課題について

本件訂正発明1に係る「放出制御錠剤」は、化合物A又はその塩を1製剤当たり10mg以上200mg以下含有し、且つ、「溶出試験開始」の「7時間後」には「75%以上100%以下」と、化合物A又はその塩の大半を溶出させるものである。
そうすると、本件訂正発明1に係る「放出制御錠剤」を投与すれば、化合物A又はその塩の薬理効果、すなわち、過活動膀胱等に対する治療効果が必然的に奏されることを当業者は理解できるといえる。
してみれば、本件訂正発明1に係る「放出制御錠剤」は、「通常製剤と同等以上の有効性」という課題を解決できるものである。

ウ 「食餌摂取の制限が無い」という課題について

(ア)上記ア(オ)、(カ)、(ケ)を踏まえると、本件特許明細書における「食餌摂取の制限が無い」とは、食餌摂取の制限を完全になくす場合に限られるものではなく、試験開始30分での溶出率が85%以上である通常製剤(速放製剤)に比べて、食餌の影響を低減させること、すなわち、通常製剤(速放製剤)に比べて、絶食時Cmaxを低減させるか、又は、絶食投与時と食後投与時におけるCmax及びAUCの減少率を低減することであると理解できる。

(イ)上記ア(ウ)?(キ)によれば、本件特許明細書には、有効成分の放出速度を制御すること、具体的には、溶出試験開始後30分後の薬物溶出率が85%以上である通常製剤(速放製剤)よりも、溶出試験開始30分後の薬物溶出率を下げて85%未満とすること、より具体的には、「1.5時間での薬物溶出率が75%以下、かつ7時間での製剤からの薬物溶出率が75%以上100%以下」(以下、「本件訂正発明の溶出率の規定」ということがある。)である製剤とすることにより、食餌摂取の影響を低減させ、通常製剤(速放製剤)に比べて、絶食時Cmaxを低減させるか、又は、絶食投与時と食後投与時におけるCmax及びAUCの減少率を低減したものとでき、さらに、「本件訂正発明の溶出率の規定」を充足する製剤であれば、上記ア(キ)において(1)?(8)として記載されたもののうち、いずれの製剤でも使用できることが理解できる。
そして、実際に、本件特許明細書の試験例10によれば、実施例1Aにおいて調製された、化合物Aを200mg含有する(当審注:換算による)「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」である錠剤は、試験開始後1.5時間後の溶出率が54%、7時間後の溶出率が99%と、「本件訂正発明の溶出率の規定」を充足するものであり、通常製剤(速放製剤)に比べて、絶食時Cmaxを低減させるか、又は、絶食投与時と食後投与時におけるCmax及びAUCの変化を低減したものとできたこと、すなわち、「食餌摂取の制限が無い」という課題を解決できたことが理解できる。

(ウ)本件特許明細書には、実施例5(上記摘記本件J、M、Qの実施例5B、5C)において、「本件訂正発明の溶出率の規定」を充足するとともに、化合物Aを50mg含有し、且つ、水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーとしてポリエチレンオキサイド を含む「膨潤性高分子を用いた製剤」である放出制御錠剤が、また、実施例6(上記摘記本件K、N、Rの実施例6A、6D?6F、6K、6L、6N)において、「本件訂正発明の溶出率の規定」を充足するとともに、ヒプロメロース又はヒドロキシプロピルセルロースに化合物A 100mgが均一に分散している「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」である放出制御錠剤が調製されたことが記載されている。
上記の実施例における「膨潤性高分子を用いた製剤」又は「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」である放出制御錠剤については、通常製剤と比較して、Cmax、AUCがどのようなものとなるのか具体的に確認していない。
しかしながら、上記(イ)のとおり、有効成分の放出速度を制御すること、より具体的には、「本件訂正発明の溶出率の規定」を充足する製剤とすることにより、「食餌摂取の制限が無い」という課題を解決でき、上記ア(キ)において(1)?(8)として記載されたもののうち、いずれの剤形でも使用できることが理解できるのであるから、実施例5及び6において調製された「本件訂正発明の溶出率の規定」を充足する「膨潤性高分子を用いた製剤」又は「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」であれば、試験例10で用いられた「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」と同様に、有意に食餌によるCmaxやAUCの低減を改善、すなわち、通常製剤(速放製剤)に比べて、絶食投与時と食後投与時におけるCmax及びAUCの減少率を低減したものとできること、すなわち、「食餌摂取の制限が無い」という課題を解決できることを認識することができる。
また、本件訂正発明1の「水溶性高分子」として記載される「ヒドロキシメチルセルロース」又は「ヒドロキシエチルセルロース」については、実施例の裏付けはないものの、これらを用いても、実施例6において調製したものと同様に、「本件訂正発明の溶出率の規定」を充足する「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」が調製でき、同様に、「食餌摂取の制限が無い」という課題を解決できることを認識することができる。

(エ)そして、試験例10で用いられた「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」以外の剤形である「膨潤性高分子を用いた製剤」又は「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」の場合には、「本件訂正発明の溶出率の規定」を充足しても、本件訂正発明1の課題が解決できないとする、本件出願時の技術常識も見いだせない。

エ 以上によれば、本件訂正発明1の「放出制御錠剤」は、本件出願時の技術常識に照らし、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。

(5)本件訂正発明2について

本件訂正発明2は、本件訂正発明1において「食餌の影響を低減するための」という用途を特定し、本件訂正発明1の「放出制御錠剤」をさらに限定したものである。
そうすると、本件訂正発明2に係る「放出制御錠剤」もまた、上記(4)での説示と同様に、「通常製剤と同等以上の有効性」及び「食餌摂取の制限が無い」という課題を解決できるものといえる。

(6)請求人の主張について

請求人は、次のア?エの理由から、本件訂正発明1、2について、当業者は、当該発明の「食餌摂取の制限が無い」という課題の解決を認識しえない旨、主張している。

ア(i)生体内におけるCmaxやAUCといった薬物動態(薬物吸収)は、甲1?甲3のとおり、溶出試験においては考慮されない、消化管内のpHをはじめとする種々の要因に影響されることは、本件出願時の技術常識であるから、ごく限定された条件(pH6.8)の溶出試験では、薬物の吸収を予期しえない(審判請求書の第12頁第4行?第16頁第16行、弁駁書の第4頁第8行?第5頁第1行、口頭審理陳述要領書の第2頁第3行?第3頁第23行)。

(ii)生体内における種々の要因が全く無いという仮定を行った場合ですら、本件訂正発明1、2における薬物溶出率の態様には、溶出試験開始後1.6時間で薬物溶出率が100%に達する態様も含まれることになり、このような態様では、胃から排出される前に薬物のほぼ全てが放出されてしまうことになり、食餌の影響を低減できるはずがない(審判請求書の第16頁第17行?第17頁第5行、弁駁書の第5頁第2?17行、第10頁第8行?第12頁第5行、口頭審理陳述要領書の第3頁第24行?第9頁第15行)。

(iii)今般の訂正により、製剤が特定のポリマーを用いた、膨潤性高分子又は水溶性高分子を用いた(均一に分散している)製剤に限定されたが、このような製剤の概念には、今般の訂正により削除された多層性製剤等や、訂正前から既に除外されていた徐放性ハイドロゲル形成性製剤が含まれるところ、製剤を構成する成分が同じであり、溶出試験において同様の挙動を示しても、製剤の形態が変われば、薬物動態や食餌摂取による影響が変わることは技術常識(甲4、甲11 )であるから、訂正後の製剤全般について、課題を解決できると認識することはできない(審判請求書の第17頁第6行?第20頁第17行、弁駁書の第5頁第18行?第8頁第2行)。

(iv)食餌の種類・量などにより、薬物の吸収に対する影響は変動し得るという技術常識(甲12、甲13 )に照らせば、どのような食餌を行ったか記載されてもいない、1人のデータにすぎない「試験例10」の結果からは、溶出条件の充足によって、あらゆる「食餌」において影響が無いと認識できるはずがない(審判請求書の第23頁第6?8行、弁駁書の第12頁第6行?第14頁第6行、口頭審理陳述要領書の第9頁第16行?第10頁第3行)。

イ 本件訂正発明1、2には、「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」に相当する、吸収性が悪いポリエチレンオキサイドのみの製剤が含まれるのであるから(甲5、甲6)、課題を解決できない態様を含んでいると言える(審判請求書の第32頁第11行?第33頁第17行、弁駁書の第16頁第15行?第19頁第15行)。

ウ 試験例10で使用される「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」は、甲5、甲6に記載されるとおり、消化管下部の結腸での薬物の放出性を高めたもので、薬物吸収がヒトにおいて食事の有無に影響されにくいことが知られている特異な製剤であるため 、試験例10の結果は製剤の形態として「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」を選択すること(さらにはその中でも特定のコーティングを施した錠剤したもの )においてしか想定できない結果であると認識できる積極的事情がある(審判請求書の第20頁第18行?第32頁第10行、弁駁書の第8頁第3行?第10頁第5行、第14頁第7行?第16頁第14行、口頭審理陳述要領書の第10頁第4行?第11頁第23行)。

エ 請求項2における「食餌の影響を低減するため」との用途の規定が、万が一、課題解決手段の1つとして認定されるものとすれば、 請求項1に係る発明が課題を解決できないことがより一層明らかになる(審判請求書の第33頁第18行?最下行、弁駁書の第19頁第16?26行)。

上記アの主張について

本件訂正発明1、2の課題である「食餌摂取の制限が無い」とは、上記(4)ウで説示したとおり、「通常製剤」よりも、絶食時Cmaxを低減させるか、又は、絶食投与時と食後投与時におけるCmax及びAUCの減少率を低減することも指しており、あらゆる条件の生体内において、食餌によるCmaxやAUCの低下を完全に無くす場合に限られるものではない。
「食餌摂取の制限が無い」という課題が解決できるというためには、同1条件の生体内で、本件訂正発明1、2の「放出制御錠剤」と「通常製剤」とを対比した場合に、前者の方が絶食時Cmaxを低減させるか、又は、絶食投与時と食後投与時におけるCmax及びAUCの減少率を低減することを認識できれば足りるところ、同一の条件が揃った生体内では、徐放化されており、「本件訂正発明の溶出率の規定」を充足する本件訂正発明1、2の「放出制御錠剤」が、「通常製剤」よりも、絶食時Cmaxを低減させるか、又は、絶食投与時と食後投与時におけるCmax及びAUCの減少率を低減すると当業者が認識できることは、上記(4)ウで説示したとおりである。
したがって、pH、製剤の種類、食餌の種類等の種々の要因が、薬物動態(薬物吸収)に影響することや、胃から排出される前に薬物のほぼ全てが放出されてしまう態様を本件訂正発明1、2が包含する可能性があることは、上記の説示を左右するものではない。

上記イの主張について

甲5、甲6は、ポリエチレンオキサイドのみの製剤が、OCAS製剤(徐放性ハイドロゲル形成性製剤)に比べて吸収性が悪いことを記載しているだけであって、本件訂正発明1、2における「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」について、「通常製剤」(速放製剤)よりも、(i)絶食時Cmaxを低減させることができない、及び、(ii)絶食投与時と食後投与時におけるCmax及びAUCの減少率を低減することができないことを、記載しているわけではない。
したがって、甲5、甲6における上記記載は、本件訂正発明1、2が、「食事摂取の制限が無い」という課題を解決できないことを示すものではない。

上記ウの主張について

請求人が主張するように、試験例10のように、絶食及び食後条件における化合物Aの薬物動態が、非常に類似したものとなり、食餌の影響がほぼ無いような結果は、実施例1Aで調製した特定の製剤に特有のものと解することもできる。
しかしながら、本件訂正発明1、2の課題である「食餌摂取の制限が無い」とは、上記(4)ウで説示したとおり、「通常製剤」よりも、絶食時Cmaxを低減させるか、又は、絶食投与時と食後投与時におけるCmax及びAUCの減少率を低減することであると理解できるから、試験例10における実施例1Aで調製した製剤が特異な製剤であるという事情を考慮しても、当業者がそのような特異な製剤でしか、上記の課題を解決できないと当業者が認識するとする具体的な根拠に欠ける。

上記エの主張について

本件訂正発明1、2における課題解決手段は、化合物A又はその塩の放出速度を制御することである点は、上記(4)ウに説示したとおりであり、「食餌の影響を低減するための」という用途の規定が課題解決手段であるとする請求人の上記主張は、その前提において誤りがある。

以上のとおり、請求人の上記主張は、いずれも採用できない。

(7)小括

以上によれば、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
したがって、本件訂正発明1、2に係る特許は、無効理由1によって無効とすることはできない。

2 無効理由2(実施可能要件違反)について

(1)判断の前提

特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載について、いわゆる実施可能要件を規定したものである。そして、物の発明の場合、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たしているというためには、当業者が、本件特許の出願日当時の技術常識も踏まえて、その物を製造し、かつ、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならない。
そこで、上記観点に立って、検討を行う。

(2)判断

ア 本件訂正発明1について

本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項は、上記1(2)に摘示したとおりである。
そして、上記摘記本件Gのとおり、本件特許明細書には、「膨潤性高分子を用いた製剤」における「膨潤性高分子」として「ポリエチレンオキサイド」等の「ポリアルキレンオキサイド」を使用できることが記載され、上記摘記本件J、M、Qのとおり、「ポリエチレンオキサイド」を含む「膨潤性高分子を用いた製剤」として、1錠当たり50.0mgの化合物A及びポリエチレンオキサイドを含む製剤5A?5Cを調製したところ、製剤5B、5Cは、本件訂正発明1、2の「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」という規定を満たすものであったことが記載されている。
さらに、上記摘記本件Hのとおり、本件特許明細書には、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」における「水溶性高分子」として「ヒプロメロース」、「ヒドロキシメチルセルロース」、「ヒドロキシエチルセルロース、「ヒドロキシプロピルセルロース」等を使用できることが記載され、上記摘記本件K、N、Rのとおり、「ヒプロメロース」、「ヒドロキシプロピルセルロース」を含む「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」として、1錠当たり100.0mgの化合物A及びヒプロメロース又はヒドロキシプロピルセルロースを含む製剤6A?6Nを調製したところ、製剤6A、6D?6F、6K、6L、6Nは、本件訂正発明1、2の「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」という規定を満たすものであったことが記載されている。
そうすると、本件特許明細書には、本件訂正発明1である、
「1製剤当たり10mg以上200mg以下の(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩、及び、徐放性医薬組成物用担体を含有する放出制御錠剤であって、溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下であり、
放出制御錠剤が、膨潤性高分子を用いた製剤または水溶性高分子を用いたマトリクス製剤であり、
前記の膨潤性高分子を用いた製剤が、水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーとしてポリアルキレンオキサイドを含む製剤であり、
前記の水溶性高分子を用いたマトリクス製剤が、ヒプロメロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースに薬物が均一に分散している製剤である、前記放出制御錠剤」
を製造することができる程度の記載があるといえる。
また、上記「放出制御錠剤」は、化合物A又はその塩を含むものであるから、過活動膀胱等の疾患の治療において放出制御錠剤として使用できるものであることは明らかである。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明1の「放出制御錠剤」を製造し、かつ、これを使用することができる程度の記載があるといえる。

イ 本件訂正発明2について

本件訂正発明2は、本件訂正発明1に係る放出制御錠剤において「食餌の影響を低減するための」という用途を特定したものである。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、本件訂正発明1の放出制御錠剤を製造し、かつ、これを使用することができる程度の記載があるといえる点は、上記アで説示したとおりであり、また、本件訂正発明2が、「食餌の影響の無い」という課題を解決できることは、上記1(5)で説示したとおりであるから、本件訂正発明2の放出制御錠剤は、「食餌の影響を低減するための」という用途に使用することができるものといえる。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明2の「放出制御錠剤」を製造し、かつ、その物を使用することができる程度の記載があるといえる。

(3)請求人の主張について

請求人は、主に次の点を挙げたうえで、本件特許明細書の記載が実施可能要件に適合しないものである旨、主張している。

ア 本件特許明細書には、OCAS製剤(徐放性ハイドロゲル形成性製剤)によって課題が解決できることが記載されるのみであり、他の製剤によって課題が解決できることが明確かつ十分に記載されているとはいえない(審判請求書の第34頁第8?20行、弁駁書の第20頁第2?19行、口頭審理陳述要領書の第11頁第26行?第12頁第1行)。

イ 本件特許明細書の試験例10で使用される実施例1A、1Bの製剤は「ポリエチレンオキサイド」と「ポリエチレングリコール」を組み合わせてなるものであるが、両者はオキシエチレンを構造単位とするもので化学名としては区別がつかないうえ、実施例1A、1Bでは「ポリエチレンオキサイド」と「ポリエチレングリコール」の分子量や重合度に関する記載もないことから、当業者が試験例10を追試することができない(審判請求書の第34頁第21行?第35頁第14行、弁駁書の第20頁第20?27行、口頭審理陳述要領書の第12頁第2?9行)。

ウ 試験例10ではどのような「食餌」を用いて試験を行ったのかが明らかでない。仮に、試験例10で用いられた「食餌」が乙1に記載されるような「高脂肪食」であったとしても、試験例10の結果から実施例1A、1Bの製剤が総じて食餌に影響がないものであるとはいえない(審判請求書の第35頁第15?16行、弁駁書の第20頁第28行?第21頁第1行、口頭審理陳述要領書の第12頁第2?9行)。

そこで、上記ア?ウの主張について検討する。

上記アの主張について

本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、徐放性ハイドロゲル形成性製剤」(OCAS製剤)以外の製剤、すなわち、本件訂正発明1に係る「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」である放出制御錠剤についても、当業者がその物を製造し、かつ、その物を使用することができる程度に記載されており、また、食餌の影響を低減するための放出制御錠剤である本件訂正発明2についても同様であることは、上記(2)に説示したとおりである。

上記イの主張について

本件特許明細書の試験例10で使用される実施例1A、1Bの製剤は「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」であり、これは以下の3(3)でも後述するとおり、本件訂正発明1、2で特定される「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」とは異なるものである。
そうすると、「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」の製造に使用される成分の分子量や重合度が明示されていないからといって、本件訂正発明1、2が実施できないということにはならない。

上記ウの主張について

請求人の主張における「食餌に影響がない」とは、本件訂正発明2における発明特定事項である「食餌の影響を低減するための」という用途に対応するものであると解される。しかし、本件訂正発明2に係る放出制御錠剤を、「食餌の影響を低減するための」という用途に使用できることは、上記(2)イに説示したとおりである。
そして、食餌における、高脂肪食等の具体的な種類によって、その判断が左右されないことは、上記1(6)の「上記アの主張について」の項で説示したとおりである。

(4)小括

以上によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである。
したがって、本件訂正発明1、2に係る特許は、無効理由2によって無効とすることはできない。

3 無効理由3(明確性要件違反)について

(1)無効理由3の論旨

本件訂正発明1、2に係る無効理由3の論旨は、概略、次のア?ウのとおりのものである。

ア 本件訂正発明1、2における「水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマー」について、「高分子量」とは、何と比べて「高」いものであり、「高分子量」とはどの程度のものであるのかが定かでない(審判請求書の第36頁第1?9行、弁駁書の第21頁第2?10行)。

イ 「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」、「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」という各製剤の範囲が不明確であり、これらが互いに区別し得るものであるのかが定かでない。特に、本件訂正発明1、2の「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」に、「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」が含まれるのか否かが明確でない(審判請求書の第36頁第10?26行、弁駁書の第21頁第11行?第22頁第2行、口頭審理陳述要領書の第12頁第14行?第13頁第29行)。

ウ 本件訂正発明1、2の「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」は、ヒプロメロース等の水溶性高分子に「薬物が均一に分散している製剤」であると記載されているが、ここでいう「均一」の意味するところが明確でない(審判請求書の第36頁第27行?第37頁第1行、弁駁書の第22頁第3?24行)。

そこで、上記ア?ウの観点で、本件訂正発明1、2が明確性要件を満たすものであるか否かを、以下検討する。

(2)「高分子量」という記載について(上記(1)アについて)

本件特許明細書【0110】(上記摘記本件G)の記載によれば、本件訂正発明1、2の「水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマー」における「高分子量」とは、水の吸収時に膨潤することができる程度の分子量を意味することは明らかであり、当業者であればどの程度の分子量とすればよいか自明であるといえる。
してみれば、本件訂正発明1、2における「水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマー」との記載は、明確である。

(3)「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」、「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」の範囲と異同について(上記(1)イについて)

本件特許明細書には、「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」、「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」に関して、次の事項が記載されている。

ア 放出制御医薬組成物を構成する製剤技術としては、(1)消化管上部の胃及び小腸滞留中に製剤がほぼ完全にゲル化し、消化管下部の結腸においても薬物の放出能を有する徐放性ハイドロゲル形成性製剤、(2)幾何学的に配置した薬物核及び放出制御層からなる多層性製剤、(3)複数のガムを組合せたゲル製剤、(4)浸透圧ポンプ型製剤、(5)膨潤性高分子を用いた製剤、(6)水溶性高分子を用いたマトリクス製剤、(7)コーティング膜による放出制御製剤、(8)不溶性高分子を用いたマトリクス製剤等が挙げられること(上記摘記本件Eの【0019】)。

イ 「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」において用いられる徐放性医薬組成物用担体には、製剤内部まで水を浸入させるための添加剤(親水性基剤)と、ハイドロゲルを形成する高分子物質(ハイドロゲル形成高分子物質)が含まれること(上記摘記本件Fの【0021】)。

ウ 「膨潤性高分子を用いた製剤」は、水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーを含む放出制御製剤であり、膨潤することによって胃内に滞留することが期待されること(上記摘記本件Gの【0108】、【0117】)。

エ 「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」は、ヒプロメロース(HPMC)のような水溶性高分子に薬物が均一に分散している放出制御製剤であり、水溶性高分子であるヒプロメロースは、水と接触すると水和し、マトリクス表面にハイドロゲル層を形成し、マトリクス表面に形成された薬物を含むゲル層が徐々に溶解・浸食することにより薬物を放出すること(上記摘記本件Hの【0118】、【0120】)。

上記ア?エの記載に照らせば、「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」は、ハイドロゲル形成高分子物質に加えて、製剤内部まで水を浸入させるための親水性基剤を含み、消化管上部の胃及び小腸滞留中に製剤がほぼ完全にゲル化するものである一方、「膨潤性高分子を用いた製剤」及び「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」は、製剤内部まで水を浸入させるための親水性基剤を含まず、消化管上部の胃及び小腸滞留中に製剤がほぼ完全にゲル化するものではないと理解できる。そうすると、「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」と、「膨潤性高分子を用いた製剤」及び「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」とは、消化管上部での製剤のほぼ完全なゲル化と製剤内部まで水を浸入させるための親水性基剤の有無をもって、区別できるといえる。
さらに、「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」と「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」は、いずれもハイドロゲルを形成させるものである点においては共通するものの、前者が製剤内部まで水を浸入させるための親水性基剤を配合することで、消化管上部の胃及び小腸滞留中に製剤をほぼ完全にゲル化させるものであるのに対し、後者は製剤の表面でハイドロゲル層を形成し、これを溶解・浸食するものであることから、製剤がゲル化する体内部位や程度によっても、両者は異なるものであるといえる。
また、「膨潤性高分子を用いた製剤」は、「ポリアルキレンオキサイド」もしくは「ポリエチレンオキサイド」の膨潤によって胃内に滞留するものである一方、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」は、水と接触すると水和し、マトリクス表面に「ヒプロメロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロース」もしくは「ヒプロメロースまたはヒドロキシプロピルセルロース」によるハイドロゲル層を形成し、薬物を含むゲル層が徐々に溶解・浸食することにより薬物を放出させるものであることから、両者は異なる製剤である。
してみれば、本件訂正発明1、2における「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」との記載は、明確である。

(4)「薬物が均一に分散している製剤」について(上記(1)ウについて)

本件訂正発明1、2では、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」が「薬物が均一に分散している製剤」であると記載されている。
ここで、「マトリクス製剤」とは、上記摘記乙3Aに示されるとおり、高分子よりなるマトリックスに薬物が全体的に分散されたものとして、当業者に広く知られるものである。
上記(3)エに摘示した「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」に関する説明も踏まえると、本件訂正発明1、2の「薬物が均一に分散している」「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」とは、製剤の表面をゲル化させるに足りる程度の配合量、或いは、分子量の「水溶性高分子」よりなるマトリクスに、薬物が全体的に分散している製剤であり、「薬物が均一に分散している」「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」の意味するところは、当業者が明確に理解できるものといえる。
してみれば、本件訂正発明1、2における「薬物が均一に分散している製剤」との記載は、明確である。

(5)小括

以上によれば、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。
したがって、本件訂正発明1、2に係る特許は、無効理由3によって無効とすることはできない。

4 無効理由4(先願)について

(1)本件訂正発明1について

ア 甲7発明

上記摘記甲7Aのとおり、甲7の請求項1には、次のとおりの発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されている。

「(1)(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩、(2)製剤全体の重量に対して5重量%以上75重量%以下の、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、D-マンニトール、D-ソルビトール、キシリトール、乳糖、白糖、無水マルトース、D-フルクトース、デキストラン、ブドウ糖、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル、クエン酸、酒石酸、グリシン、β-アラニン、塩酸リジン、およびメグルミンからなる群より選択される一種以上の、1gを溶解する水の量が10mL以下の溶解性を示す製剤内部に水を浸入させるための添加剤、および(3)ハイドロゲルを形成する高分子物質が、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびヒドロキシエチルセルロースからなる群より選択される一種または二種以上の平均分子量が10万以上、または5%水溶液25℃の粘度が12mPa・s以上の、ハイドロゲルを形成する高分子物質を含有してなり、1.5時間での製剤からの薬物溶出率が75%以下、かつ7時間での製剤からの薬物溶出率が75%以上100%以下である、経口投与用放出制御医薬組成物。」

イ 本件訂正発明1と甲7発明との対比

本件訂正発明1と甲7発明とを対比する。
甲7発明の「ポリエチレンオキサイド」は、本件訂正発明1の「ポリアルキレンオキサイド」に相当する。
甲7発明の「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」、「ヒドロキシエチルセルロース」、「ヒドロキシプロピルセルロース」は、本件訂正発明1の「ヒプロメロース」、「ヒドロキシエチルセルロース」、「ヒドロキシプロピルセルロース」に相当する。
甲7発明の「医薬組成物」は、本件訂正発明1と同一の「薬物溶出率」にて「放出制御」するもの、すなわち、徐放性のものであるから、当然に「徐放性医薬組成物用担体」を含むといえる。
甲7発明の「経口投与用放出制御医薬組成物」と、本件訂正発明1の「放出制御錠剤」とは、放出制御製剤である点において共通する。

そうすると、本件訂正発明1と甲7発明とは、次の点において、一致及び相違するといえる。

<一致点1>
「(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩、及び、徐放性医薬組成物用担体を含有する放出制御製剤であって、溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下であり、
放出制御製剤が、ポリアルキレンオキサイド、ヒプロメロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースを含む製剤である、前記放出制御製剤。」

<相違点1>
本件訂正発明1は、「(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩」について、その含有量が「1製剤当たり10mg以上200mg以下」であり、またその製剤が「錠剤」であると特定しているのに対し、甲7発明は、そのような特定がない点。

<相違点2>
本件訂正発明1は、「放出制御錠剤」について、「膨潤性高分子を用いた製剤」または「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」であって、「膨潤性高分子を用いた製剤」は、「水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーとしてポリアルキレンオキサイドを含む製剤」であり、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」は、「ヒプロメロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースに薬物が均一に分散している製剤」であると特定しているのに対し、甲7発明は、「経口投与用放出制御医薬組成物」について、製剤全体の重量に対して5重量%以上75重量%以下の、ポリエチレングリコ-ル等の特定の群より選択される一種以上の「1gを溶解する水の量が10mL以下の溶解性を示す製剤内部に水を浸入させるための添加剤」及び「ハイドロゲルを形成する高分子物質」を含み、「ハイドロゲルを形成する高分子物質」が、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびヒドロキシエチルセルロースからなる群より選択される一種または二種以上の平均分子量が10万以上、または5%水溶液25℃の粘度が12mPa・s以上であると特定している点。

ウ 判断

上記相違点1について検討するに、錠剤という剤形が、本件特許の優先日当時、当業者において広く知られるものであったとしても、1製剤当たりの化合物A又はその塩の含有量を「10mg以上200mg以下」という特定の範囲内のものとした上で、その剤形を「錠剤」とすることが、周知慣用技術の付加であるとまではいえない。
次に、上記相違点2について検討するに、甲7発明は、「1gを溶解する水の量が10mL以下の溶解性を示す製剤内部に水を浸入させるための添加剤」を必須成分とするものであることから、甲7発明の「経口投与用放出制御医薬組成物」は、本件特許明細書でいうところの「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」に当たるものといえる。そして、これが本件訂正発明1の「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」と異なるものである点は、上記3(3)で説示したとおりである。
してみれば、上記相違点1、2はいずれも実質的な相違点であり、本件訂正発明1は、甲7発明と実質的に同一のものとはいえない。
また、上記摘記甲7Aのとおり、甲7の請求項2?13に係る発明は、請求項1に係る発明を直接的又は間接的に引用するものであるが、これらの請求項に係る発明でも、化合物A又はその塩の含有量と「錠剤」という剤形は特定されておらず、「1gを溶解する水の量が10mL以下の溶解性を示す製剤内部に水を浸入させるための添加剤」は必須成分とされている。また、甲7の請求項14に係る発明は、請求項1に記載される錠剤の製造方法の発明である。そうすると、本件訂正発明1を甲7の請求項2?14に係る発明と対比しても、上記相違点1、2により、両発明が実質的に同一のものといえない点に変わりはない。

(2)本件訂正発明2について

ア 対比

本件訂正発明2と甲7発明とを対比する。
上記(1)イにおける検討を踏まえると、本件訂正発明2と甲7発明とは、次の点において、一致及び相違するといえる。

<一致点1’>
「(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩、及び、徐放性医薬組成物用担体を含有する放出制御製剤であって、溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下であり、
放出制御製剤が、ポリエチレンオキサイド、ヒプロメロースまたはヒドロキシプロピルセルロースを含む製剤である、前記放出制御製剤。」

<相違点1’>
本件訂正発明2は、「(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩」について、その含有量が「1製剤当たり10mg以上200mg以下」であり、またその製剤が「錠剤」であると特定しているのに対し、甲7発明は、そのような特定がない点。

<相違点2’>
本件訂正発明2は、「放出制御錠剤」について、「膨潤性高分子を用いた製剤」または「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」であって、「膨潤性高分子を用いた製剤」は、「水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーとしてポリエチレンオキサイドを含む製剤」であり、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」は、「ヒプロメロースまたはヒドロキシプロピルセルロースに薬物が均一に分散している製剤」であると特定しているのに対し、甲7発明は、「経口投与用放出制御医薬組成物」について、製剤全体の重量に対して5重量%以上75重量%以下の、ポリエチレングリコ-ル等の特定の群より選択される一種以上の「1gを溶解する水の量が10mL以下の溶解性を示す製剤内部に水を浸入させるための添加剤」及び「ハイドロゲルを形成する高分子物質」を含み、「ハイドロゲルを形成する高分子物質」が、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびヒドロキシエチルセルロースからなる群より選択される一種または二種以上の平均分子量が10万以上、または5%水溶液25℃の粘度が12mPa・s以上であると特定している点。

<相違点3>
本件訂正発明2は、「放出制御錠剤」について、「食餌の影響を低減するための」ものであると特定しているのに対し、甲7発明は、そのような特定がない点。

イ 判断

上記相違点1’、2’が、実質的な相違点である点は、上記(1)ウでの説示と同様である。
また、放出制御製剤を「食餌の影響を低減するための」ものとすることが、本件特許の優先日当時、当業者において広く知られた技術とはいえないことから、上記相違点3に係る本件訂正発明2の構成とすることは周知慣用技術の付加に当たらない。
してみれば、本件訂正発明2は、甲7発明と実質的に同一のものとはいえない。
また、本件訂正発明2を甲7の請求項2?14に係る発明と対比しても、上記相違点1’、2’により、両発明が実質的に同一のものといえない点は、上記(1)ウでの説示と同様である。さらに、本件訂正発明2を甲7の請求項2?14に係る発明と対比した場合においても、上記相違点3が実質的な相違点である点にも変わりはない。

(3)請求人の主張について

請求人は、次のア?ウの点を挙げたうえで、本件訂正発明1、2と甲7発明とが、実質的に同一である旨、主張している。

ア ミラベグロン(化合物A)製剤の形態として「錠剤」、「100mg」という配合量は、本件特許の出願日当時に周知慣用のものであり、甲7の実施例でも、200mg(【0085】)、80mg(【0081】)といった量でミラベグロン(化合物A)を含む錠剤を調製している(審判請求書の第39頁第8?15行、弁駁書の第23頁第2行?第24頁第13行)。

イ 本件訂正発明1、2の「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」が「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」を包含している場合、本件訂正発明1、2は、甲7の請求項1に記載される製剤を含む概念となる(弁駁書の第24頁第14行?第27頁第17行、口頭審理陳述要領書の第13頁第30行?第14頁第13行)。

ウ 本件訂正発明2の「食餌の影響を低減するための」という記載は、錠剤としての新たな用途を提供するものではないし、「経口投与用放出制御医薬組成物」が「食餌の影響を低減するため」のものであることは自明である(審判請求書の第39頁第16?20行)。

しかし、上記アの主張については、特許法第39条第1項の判断は、特許請求の範囲に記載された発明同士を対比することによって行われるものであるから、甲7の実施例において、相違点1、1’に係る「1製剤当たり10mg以上200mg以下」である「錠剤」が製造されているからといって、相違点1、1’が実質的な相違点ではないとはいえない。そして、本件特許の優先日前に、錠剤という剤形が当業者において広く知られるものであったとしても、1製剤当たりの化合物A又はその塩の含有量を「10mg以上200mg以下」という特定の範囲内のものとしたうえで、その剤形を「錠剤」とすることを開示しているのは甲8(上記摘記甲8B)のみであり、甲8の記載のみをもって、上記相違点1、1’に係る構成が、本件特許の優先日当時に周知慣用のものであったということまではできない。
さらに、上記イの主張は、本件訂正発明1、2の「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」が「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」を包含していることを前提とするものであるが、「膨潤性高分子を用いた製剤」及び「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」と、「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」とが、消化管上部での製剤のほぼ完全なゲル化と製剤内部まで水を浸入させるための親水性基剤の有無をもって、明確に区別可能なものであることは、上記3(3)でも説示したとおりであり、本件訂正発明1、2の「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」は、「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」を包含するものではない。そして、甲7発明の「経口投与用放出制御医薬組成物」は、「1gを溶解する水の量が10mL以下の溶解性を示す製剤内部に水を浸入させるための添加剤」、すなわち、製剤内部まで水を浸入させるための親水性基剤を含んでおり、本件特許明細書でいうところの「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」に当たるものであることから、本件訂正発明1、2の「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」とは異なるものといえる。
また、上記ウの主張については、本件訂正発明2の「食餌の影響を低減するための」という記載は、その記載ぶりからみて、用途を特定していると解するのが自然であることから、上記記載が錠剤としての新たな用途を提供するものでないとはいえない。また、錠剤を「食餌の影響を低減するための」のものとすることが自明であると結論づけるに足りる根拠も見いだせない。

(4)小括

以上によれば、本件訂正発明1、2は、甲7発明と実質的に同一のものではなく、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
したがって、本件訂正発明1、2に係る特許は、無効理由4によって無効とすることはできない。

5 無効理由5(甲8に記載された発明に基づく新規性欠如)について

(1)本件訂正発明1について

ア 甲8発明

上記摘記甲8A、甲8Bの記載からみて、甲8には、次のとおりの発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されているといえる。

「100.0mgの(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリド又はその塩と、199.5mgの乳糖と、40.0mgのコーンスターチと、9.0mgのヒドロキシプロピルセルロースと、1.5mgのステアリン酸マグネシウムとを含む錠剤を、8.7mgのヒドロキシプロピルメチルセルロース2910と、1.2mgのポリエチレングリコール6000と、4.8mgの酸化チタンと、0.3mgのタルクとを含むコーティング液にてコートした、フィルムコート錠剤。」

イ 本件訂正発明1と甲8発明との対比

本件訂正発明1と甲8発明とを対比する。
甲8発明の「(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリド又はその塩」は、本件訂正発明1の「(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩」に相当する。
甲8発明の「100.0mg」という化合物A又はその塩の配合量は、本件訂正発明1の「1製剤当たり10mg以上200mg以下」という範囲内の値である。
甲8発明の「ヒドロキシプロピルセルロース」は、本件訂正発明1の「ヒプロメロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロース」に相当する。
甲8発明の「フィルムコート錠剤」と本件訂正発明1の「放出制御錠剤」とは、「錠剤」である点において、共通する。

そうすると、本件訂正発明1と甲8発明とは、次の点において、一致及び相違するといえる。

<一致点2>
「1製剤当たり10mg以上200mg以下の(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩を含有する錠剤であって、
錠剤が、ヒプロメロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースを含む、前記錠剤。」

<相違点4>

本件訂正発明1は、「錠剤」について、「徐放性医薬組成物用担体」を含む「放出制御錠剤」であって、「水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーとしてポリアルキレンオキサイドを含む」「膨潤性高分子を用いた製剤」または「ヒプロメロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースに薬物が均一に分散している」「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」であると特定しているのに対し、甲8発明は、そのような特定のないフィルムコート錠剤である点。

<相違点5>
本件訂正発明1は、「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」であると特定しているのに対し、甲8発明は、そのような特定がない点。

ウ 判断

(ア)相違点4について

上記相違点4について検討する。
甲8発明の「錠剤」は、ヒドロキシプロピルセルロースを含むものではあるものの、これが錠剤中で占める割合は、350mg中9.0mg(約2.6重量%)ときわめて低く、これによって「薬物」が「均一」に「分散」する「マトリクス」が形成されているとはいえない。
本件訂正発明1の「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」は、上記3(3)にて説示したとおり、製剤の表面にハイドロゲル層を形成し、そのゲル層が徐々に溶解・浸食することにより薬物を放出するものであることも踏まえると、本件訂正発明1の「マトリクス製剤」における「水溶性高分子」の配合量や分子量は、上記本件摘記Hのとおり、製剤の表面にハイドロゲル層を形成し、そのゲル層を徐々に溶解・浸食させるに足りるものである必要があると理解できるところ、甲8発明の「錠剤」におけるヒドロキシプロピルセルロースの配合量は、本件特許明細書に開示される「マトリクス製剤」である「6G」?「6N」のいずれと比べても低く、その分子量も不明であることから、甲8発明のヒドロキシプロピルセルロースが、製剤の表面にハイドロゲル層を形成し、そのゲル層を徐々に溶解・浸食させるとはいえない。
また、甲8発明の「フィルムコート錠剤」は「ポリアルキレンオキサイド」を含むものではなく、本件訂正発明1の「膨潤性高分子を用いた製剤」に当たらないものであることは明らかである。
してみれば、甲8発明の「フィルムコート錠剤」が、「水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーとしてポリアルキレンオキサイドを含む」「膨潤性高分子を用いた製剤」または「ヒプロメロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースに薬物が均一に分散している」「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」であるとはいえず、上記相違点4は実質的な相違点である。

(イ)相違点5について

上記相違点5について検討する。
錠剤における化合物Aの溶出プロファイルは、錠剤に含まれる各成分の種類やその含有比、コーティングの有無や厚み、剤形等によっても影響を受けるものであり、甲8発明における化合物Aの溶出プロファイルは、その成分等からは、当業者が予測できない。
また、その他に、甲8には、甲8発明における化合物Aの溶出プロファイルについての記載や示唆は見いだせない。
したがって、甲8発明における化合物Aの溶出プロファイルが、相違点5に係る「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」であるとはいえない。
してみれば、上記相違点5は実質的な相違点である。

(2)本件訂正発明2について

ア 本件訂正発明2と甲8発明との対比

本件訂正発明2と甲8発明とを対比する。
上記(1)イにおける検討を踏まえると、本件訂正発明2と甲8発明とは、次の点において、一致及び相違するといえる。

<一致点2’>
「1製剤当たり10mg以上200mg以下の(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩を含有する錠剤であって、
錠剤が、ヒプロメロースまたはヒドロキシプロピルセルロースを含む、前記錠剤。」

<相違点4’>
本件訂正発明2は、「錠剤」について、「徐放性医薬組成物用担体」を含む「放出制御錠剤」であって、「水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーとしてポリエチレンオキサイドを含む」「膨潤性高分子を用いた製剤」または「ヒプロメロースまたはヒドロキシプロピルセルロースに薬物が均一に分散している」「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」であると特定しているのに対し、甲8発明は、そのような特定のないフィルムコート錠剤である点。

<相違点5’>
本件訂正発明2は、「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」であると特定しているのに対し、甲8発明は、そのような特定がない点。

<相違点6>
本件訂正発明2は、「放出制御錠剤」について、「食餌の影響を低減するための」ものであると特定しているのに対し、甲8発明は、そのような特定がない点。

イ 判断

上記(1)ウでの説示と同様に、上記相違点4’、5’は実質的な相違点である。
また、本件訂正発明2の「食餌の影響を低減するための」という特定は、「放出制御錠剤」の用途を限定するものであることから、そのような特定をしていない甲8発明は、上記相違点6においても、本件訂正発明2と実質的に相違するといえる。

(3)請求人の主張について

請求人は、次のア?ウの点を挙げたうえで、甲8発明の「フィルムコート錠剤」が本件訂正発明1、2の「薬物溶出率」についての規定を充足する蓋然性が高い旨を主張するとともに、次のエの点を挙げて、本件訂正発明1、2と甲8発明とが実質的に同一である旨を主張している。

ア 甲8発明におけるミラベグロン(化合物A)又はその塩とヒドロキシプロピルセルロースの配合割合は、本件特許明細書の実施例6「6N」のそれと酷似していること(審判請求書の第41頁第25行?最下行)。

イ 甲8発明の「フィルムコート錠」はコーティングを施したものであり、本件特許明細書【0019】に挙げられる「コーティング膜による放出制御製剤」に当たるものであること(審判請求書の第42頁第1?5行、口頭審理陳述要領書の第14頁第24行?最下行)。

ウ 甲8発明の「フィルムコート錠剤」は「乳糖」と「コーンスターチ」を含むものであるところ、「乳糖」は本件特許明細書【0033】に「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」を調製するための「親水性基剤」として挙げられる物質であることから、甲8発明では、「ヒドロキシプロピルセルロース」と親水性基剤としての「乳糖」で「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」が形成されている可能性が高いこと(弁駁書の第29頁第1?13行、口頭審理陳述要領書の第14頁第24行?最下行)。

エ 本件訂正発明2の「食餌の影響を低減するための」という記載は、錠剤としての新たな用途を提供するものではないし、仮に、そうでないとしても、経口錠が「食餌の影響を低減するための」のものであることは自明(当然)のことである(審判請求書の第42頁第11?14行)。

しかし、上記アの主張については、錠剤からの薬物の溶出プロファイルは、薬物と担体の配合割合のみならず、錠剤中に占める担体の割合や担体の分子量等の諸要因によっても変わり得る事項である。甲8発明の「錠剤」は、上記相違点4でも検討したように、本件訂正発明1の「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」に当たるものではなく、上記「6N」の錠剤とは剤形が異なるうえ、上記「6N」の錠剤には含まれていない成分(乳糖等)も多く含まれているから、ヒドロキシプロピルセルロースと化合物Aの配合割合が近似しているというだけでは、甲8発明と上記「6N」の錠剤との間で化合物Aの溶出プロファイルが近似しているとはいえない。
さらに、上記イの主張については、フィルムコート錠剤からの薬物プロファイルは、コーティング液に含まれる高分子の種類や配合量に加え、コートの厚み等の諸要因によっても変わり得る事項であるため、甲8発明の「錠剤」がコーティングを施した「フィルムコート錠剤」である点をもって、これが本件訂正発明1、2に規定される「薬物溶出率」を示すものである蓋然性が高いともいえない。
そして、上記ウの主張は、本件訂正発明1、2が「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」を包含するものであることを前提とするものであると理解できるところ、本件訂正発明1、2の「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」が、「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」とは異なるものである点は、上記3(3)で説示したとおりであり、請求人の上記ウの主張は、その前提において誤りがある。
また、上記エの主張については、本件訂正発明2の「食餌の影響を低減するための」という記載は、その記載ぶりからみて、用途を特定していると解するのが自然であることから、上記記載が錠剤としての新たな用途を提供するものでないとはいえない。また、錠剤を「食餌の影響を低減するための」のものとすることが自明であると結論づけるに足りる根拠も見いだせない。

(4)小括

以上によれば、本件訂正発明1、2は、甲8に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものとはいえない。
したがって、本件訂正発明1、2に係る特許は、無効理由5によって無効とすることはできない。

6 無効理由6(甲8に記載された発明に基づく進歩性欠如)について

(1)本件訂正発明1について

ア 相違点4について

本件訂正発明1と甲8発明との一致点及び相違点は、上記5(1)で説示したとおりである。そこで、まず上記相違点4について検討する。
甲8には、化合物A又はその塩の調製方法(第2頁第12行?第6頁最下行)、化合物A又はその塩によるラット摘出膀胱平滑筋弛緩作用試験、ラット律動的膀胱収縮測定試験、シクロフォスファミド誘発過活動膀胱モデルラットの排尿機能測定試験の結果(第7頁第4行?第9頁第45行)が記載されているが、化合物A又はその塩を含む製剤の成分組成については、実施例4に経口剤の処方例が一つ開示されるのみであり、製剤の表面にハイドロゲル層を形成するためのものとするとの記載も示唆もない。仮に、製剤の表面にハイドロゲル層を形成することが動機づけられるとしても、そのために上記経口剤に含まれるヒドロキシプロピルセルロースの配合量や分子量をどのように調節すべきかを教示する記載が甲8にあるわけではない。
してみれば、甲8発明の「錠剤」を、「ヒプロメロースまたはヒドロキシプロピルセルロースに薬物が均一に分散している」「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」とし、相違点4に係る本件訂正発明1の構成とすることが、容易になし得た事項であるとはいえない。
また、甲8には、フィルムコート錠剤にポリアルキレンオキサイドを配合することについての記載や示唆は一切ないことから、甲8発明において「フィルムコート錠剤」を「ポリアルキレンオキサイドを含む」「膨潤性高分子を用いた製剤」とする動機があるとはいえない。

イ 相違点5について

(ア)上記相違点5について検討する。
甲5には、薬物放出の著しい抑制と生物学的利用率の低下は、ゲル形成速度を促進させることで解決できるとのコンセプトのもとに新規経口徐放システムであるOral Controlled Absorption System(OCAS)の研究に着手したこと(上記摘記甲5B)、徐放製剤の薬物吸収部位としてこれまで重要視されていなかった結腸に着目し研究を進め、新規な持続吸収型経口徐放システムOCASを開発したこと(上記摘記甲5A)、高分子としてポリエチレンオキサイド(PEO)を用いて、水溶性の高い添加剤であるPEG6000を配合した場合には、ゲル化率が著しく向上すること(上記摘記甲5C)、モデル薬物AAP(甲5の第86頁左欄第8行の記載からみて、アセトアミノフェン)およびゲル形成高分子PEOからなるAAP-CG(従来のハイドロゲル錠)とゲル化を促進するためにPEG6000を添加したAAP-OCASの2種の徐放錠を調製し、イヌに絶食下経口投与したところ、AAP-CG投与では製剤が結腸に到達する2時間以降はin vitro溶出試験結果と比較してin vivoでの放出および吸収ともに抑制されていたのに対し、ゲル化率の高いAAP-OCAS投与時ではin vitro溶出試験の結果とほぼ同等の吸収挙動およびin vivo放出速度を示し、結腸においても薬物が良好に放出されていたこと(上記摘記甲5D、5E)、OCAS技術を適用した経口徐放製剤はすでに、ヒトにおいても持続的な薬物吸収を示すこと、および薬物吸収が食事の有無に影響されにくいことが確認されている(上記摘記甲5F)、との記載がなされている。
また、甲6には、(1)一種以上の薬物、(2)製剤全体に対し5乃至80重量%の、一種以上の、1gを溶解する水の量が5ml以下の溶解性を示す製剤内部に水を浸入させるための添加剤、および(3)1錠あたり70mg以上で、製剤全体に対し10乃至95重量%の、平均分子量が200万以上または1%水溶液25℃の粘度が1000cps以上のハイドロゲルを形成する高分子物質とを配合してなるゲル化率70%以上100%未満のハイドロゲル徐放性錠剤の発明が記載されるとともに(上記摘記甲6A)、半減期が短い薬物では十分な徐放化が困難であると考えられていたところ、胃、小腸といった消化管上部に滞留中に、製剤内部まで水分を吸収し、ほぼ完全にゲル化した状態で消化管下部へ移行させることにより、水分の少ない結腸においても薬物を放出できることを見出して、甲6記載の上記ハイドロゲル徐放性錠剤は完成されたものであること(上記摘記甲6B)、薬物、POLYOX303(ポリエチレンオキサイド)、PEG6000を配合した実施例1、2の錠剤と、PEG6000を含まない比較処方1、2を調製し、絶食下でイヌに経口投与したところ、比較処方1、2を投与した場合には、投与後2時間まではin vitro溶出結果と同様の吸収を示したが、2時間以降は吸収、血漿中薬物濃度が減少した一方、実施例1、2の錠剤は消化管下部においても薬物が良好に溶出・吸収されていたこと(上記摘記甲6D、6E)が記載されている。
さらに、甲10には、タムスロシンまたはその製薬学的に許容される塩、および徐放性医薬組成物用担体を含有し、日本薬局方溶出試験法第二法(パドル法:200rpm)により試験を行うとき、溶出開始7時間後のタムスロシン溶出率が約20?約85%であることを特徴とする徐放性医薬組成物の発明が記載されるとともに(上記摘記甲10A)、当該徐放性医薬組成物を徐放性ハイドロゲル形成性製剤とできること(上記摘記甲10B)、同文献に記載される徐放性医薬組成物は、塩酸タムスロシンの有害事象を減少させ、さらに用量を増加させることができ、食事摂取の制限が無いという優れた効果を有するものであること(上記摘記甲10C、摘記甲10E)、ハイドロゲル形成基剤としてポリエチレンオキサイドを、親水性基剤としてPEGを用いることにより塩酸タムスロシンの持続的な薬物放出が示され、ポリエチレンオキサイドとPEGの配合量により溶出速度を制御可能であったこと(上記摘記甲10D)が記載されている。
これらの甲号証の記載に照らせば、持続的な薬物放出(甲5、甲6、甲10)や食事の有無による影響の低減(甲5、甲10)は、薬物の製剤化に際して通常に求められる、自明な課題であり、ポリエチレンオキサイド等のハイドロゲルを形成する高分子物質に、PEG6000等の水溶性の高い添加剤を配合して調製される徐放性ハイドロゲル形成性製剤(OCAS製剤)は、ゲル化速度が速く、消化管下部でも良好に薬物が溶出・吸収されるため、持続的な薬物の吸収をもたらすものであって(甲5、甲6、甲10)、同製剤からの薬物吸収は食事の有無に影響されにくい(甲5、甲10)ことは、本件特許の優先日当時、当業者に広く知られる事項であったといえる。

(イ)しかし、甲5、甲6、甲10には、食餌の影響を低減させるために、「薬物溶出率」を「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」とすることは記載されていない。
より具体的には、甲6には、結腸等の消化管下部で持続的な薬物放出をもたらすハイドロゲル徐放性錠剤についての記載があるものの、食餌の影響を低減させるために、「薬物溶出率」を「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」とすることは記載されていないし、実施例においては、上記薬物溶出率を充足しないもの(実施例1)や、充足する蓋然性の高いもの(実施例2)の両方が記載されている。また、甲10に記載される徐放性ハイドロゲル形成性製剤も、上記摘記甲10Aの請求項2?3、上記摘記甲10Dの表1に見られるように、溶出試験開始7時間の時点における薬物溶出率が75%未満であることが示されている。してみると、甲5、甲6、甲10の記載から、「薬物溶出率」を「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」という技術的思想を導き出すことはできない。
加えて言えば、甲8発明は、徐放性ハイドロゲル形成性製剤ではなく、その剤形においても、甲5、甲6、甲10とは異なるものである。

(ウ)さらに、化合物A又はその塩を含む製剤における食餌の影響を低減させる手段として、「薬物溶出率」を「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」とすることが技術常識であったともいえない。

(エ)そうすると、甲5、甲6、甲10及び本件出願時の技術常識によれば、食餌の有無による影響の低減は自明な課題であるとしても、甲8発明において、その課題を解決するための手段として、化合物A又はその塩を含む製剤からの「薬物溶出率」を「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」とすることが当業者にとって容易であるとはいえない。
してみれば、甲8発明の「錠剤」において、化合物A又はその塩の「薬物溶出率」を、「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」とし、相違点5に係る本件訂正発明1の構成とすることが、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

ウ 効果について

相違点4及び5に係る発明特定事項を備える本件訂正発明1は、食餌の影響を低減できるという効果を奏する。

(2)本件訂正発明2について

本件訂正発明2と甲8発明との一致点及び相違点は、上記5(2)アで説示したとおりである。
そして、甲8発明、甲8、甲5、甲6、甲10の記載をもってしても、上記相違点4’、5’に係る本件訂正発明2の構成とすることが、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない点は、上記(1)ア、イでの説示と同様である。
したがって、上記相違点6について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、相違点4’、5’、6に係る発明特定事項を備える本件訂正発明2は、食餌の影響を低減できるという効果を奏する。

(3)請求人の主張について

請求人は、甲8発明において甲5、甲6、甲10に記載の技術を採用することは当業者が容易に想到し得たことであり、これらの文献に記載された担体を適用することで、必然的に「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」という規定は充足されるし、上記規定は短時間のうちに薬物を溶出してしまう態様も含む広範なものであるから、当該規定を充足するものは特段溶出試験を意識・考慮しなくても極めて容易に得られる旨、主張している(審判請求書の第46頁第11行?第48頁第16行、弁駁書の第31頁第16行?第32頁第2行)。
しかし、上記主張は、本件訂正発明1、2の「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」が「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」を包含することを前提とするものであるところ、本件訂正発明1、2の「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」が「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」を包含するものではない点は、上記3(3)で説示したとおりであり、請求人の上記主張は、その前提において誤りがある。

(4)小括

以上によれば、本件訂正発明1、2は、甲8に記載された発明、及び、甲8、甲5、甲6、甲10に記載された事項に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
したがって、本件訂正発明1、2に係る特許は、無効理由6によって無効とすることはできない。

7 無効理由7(甲6に記載された発明に基づく進歩性欠如)について

(1)本件訂正発明1について

ア 甲6発明

上記摘記甲6Aの記載からみて、甲6には次のとおりの発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されているといえる。

「(1)一種以上の薬物、(2)製剤全体に対し5乃至80重量%の、一種以上の、1gを溶解する水の量が5ml以下の溶解性を示す製剤内部に水を浸入させるための添加剤、および(3)1錠あたり70mg以上で、製剤全体に対し10乃至95重量%の、平均分子量が200万以上または1%水溶液25℃の粘度が1000cps以上である、ポリエチレンオキサイド、ハイドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ハイドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマーからなる群より選択される一種または二種以上の高分子物質である、ハイドロゲルを形成する高分子物質とを配合してなるゲル化率70%以上100%未満のハイドロゲル徐放性錠剤。」

イ 本件訂正発明1と甲6発明との対比

本件訂正発明1と甲6発明とを対比する。
甲6発明の「徐放性錠剤」は、本件訂正発明1の「放出制御錠剤」に相当する。
甲6発明の「ポリエチレンオキサイド」は、本件訂正発明1の「ポリアルキレンオキサイド」に相当する。
甲6発明の「ハイドロキシプロピルメチルセルロース」、「ハイドロキシエチルセルロース」は、本件訂正発明1の「ヒプロメロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロース」に相当する。
甲6発明の「錠剤」は「徐放性」のものであるから、当然に「徐放性医薬組成物用担体」を含むといえる。
甲6発明の「薬物」と本件訂正発明1の「R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩」とは、薬物である点において共通する。
そうすると、甲6発明と本件訂正発明1とは、次の点において、一致及び相違するといえる。

<一致点3>
「薬物、及び、徐放性医薬組成物用担体を含有する放出制御錠剤であって、
放出制御錠剤が、ポリアルキレンオキサイド、ヒプロメロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースを含む製剤である、前記放出制御錠剤。」

<相違点7>
本件訂正発明1は、「薬物」について、「1製剤当たり10mg以上200mg以下の(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩」を含むと特定しているのに対し、甲6発明は、薬物の種類やその含有量を特定していない点。

<相違点8>
本件訂正発明1は、「放出制御錠剤」について、「膨潤性高分子を用いた製剤」または「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」であって、「膨潤性高分子を用いた製剤」は、「水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーとしてポリアルキレンオキサイドを含む製剤」であり、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」は、「ヒプロメロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースに薬物が均一に分散している製剤」であると特定しているのに対し、甲6発明は、「ハイドロゲル徐放性錠剤」について、製剤全体に対し5乃至80重量%の、一種以上の、「1gを溶解する水の量が5ml以下の溶解性を示す製剤内部に水を浸入させるための添加剤」及び「ハイドロゲルを形成する高分子物質」を含み、前記「ハイドロゲルを形成する高分子物質」が平均分子量が200万以上または1%水溶液25℃の粘度が1000cps以上である、ポリエチレンオキサイド、ハイドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ハイドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマーからなる群より選択される一種または二種以上の高分子物質であると特定している点。

<相違点9>
本件訂正発明1は、「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」であると特定しているのに対し、甲6発明は、そのような特定がない点。

ウ 判断

(ア)相違点7について

上記相違点7について検討する。
上記摘記甲6B、甲6Cのとおり、甲6に記載されるハイドロゲル徐放性錠剤は、結腸等の消化管下部で持続的な薬物放出をもたらすことを目的とするものであって、薬物自体の半減期が短い薬物について十分な徐放化をするためのものであり、薬物として、インドメタシン等が例示されているが、化合物Aは記載されていない。
一方、甲8には、(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリド又はその塩、すなわち、化合物A又はその塩は、過活動膀胱の治療剤であり、これを経口剤に配合する場合には1製剤当たり100.0mgという用量を採用できることが記載されているものの(上記摘記甲8A、甲8B)、化合物A又はその塩が、半減期が短い薬物であること、又は、結腸等の消化管下部での持続的な薬物放出を要するものであることは記載されておらず、また、それが、本件特許の優先日当時、技術常識となっていたことを窺わせる根拠は見いだせない。
そうすると、甲6発明の「ハイドロゲル徐放性錠剤」における薬物として、甲8に記載される化合物A又はその塩を選択し、さらに、1製剤当たり100.0mg程度の量で配合することが、当業者が容易に想到し得た事項であったとはいえない。

(イ)相違点8について

上記相違点8について検討する。
甲6発明は、「一種以上の、1gを溶解する水の量が5ml以下の溶解性を示す製剤内部に水を浸入させるための添加剤」(製剤内部まで水を浸入させるための親水性基剤)を必須成分とし、「ゲル化率70%以上100%未満」の「ハイドロゲル徐放性錠剤」、すなわち、本件特許明細書でいうところの「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」とすることを要件とするものである。
そうすると、甲6発明を「一種以上の、1gを溶解する水の量が5ml以下の溶解性を示す製剤内部に水を浸入させるための添加剤」を含まないものとし、錠剤を「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」とは異なる「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」とすることを、当業者が動機づけられるとはいえず、上記相違点8に係る本件訂正発明1の構成とすることが、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

(ウ)相違点9について

上記相違点9について検討する。
甲6には、結腸等の消化管下部で持続的な薬物放出をもたらすハイドロゲル徐放性錠剤についての記載があるものの、食餌の影響を低減させるために、「薬物溶出率」を「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」とすることは記載されていないし、実施例においては、上記薬物溶出率を充足しないもの(実施例1:アセトアミノフェン)や、充足する蓋然性の高いもの(実施例2:塩酸ニカルジピン)の両方が記載されている。
また、甲5、甲8、甲10にも、食餌の影響を低減させるために、「薬物溶出率」を「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」とすることは記載されておらず、また、それが技術常識であったともいえない。
したがって、仮に、甲6発明の「ハイドロゲル徐放性錠剤」において、化合物A又はその塩を1製剤当たり100.0mg程度の量で配合することが当業者にとって容易であったとしても(相違点7)、上記相違点8に係る発明特定事項を満たさないうえ、必然的に「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」という本件訂正発明1の規定が充足されるとはいえないし、また、食餌の影響を低減させるために、上記の薬物溶出率とする動機づけがあるともいえない。

(エ)効果について

相違点7?9に係る発明特定事項を備える本件訂正発明1は、食餌の影響を低減できるという効果を奏する。

(2)本件訂正発明2について

ア 本件訂正発明2と甲6発明との対比

本件訂正発明2と甲6発明とを対比する。
上記(1)イにおける検討を踏まえると、本件訂正発明2と甲6発明とは、次の点において、一致及び相違するといえる。

<一致点3’>
「薬物、及び、徐放性医薬組成物用担体を含有する放出制御錠剤であって、
放出制御錠剤が、ポリエチレンオキサイド、ヒプロメロースまたはヒドロキシプロピルセルロースを含む製剤である、前記放出制御錠剤。」

<相違点7’>
本件訂正発明2は、「薬物」について、「1製剤当たり10mg以上200mg以下の(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩」を含むと特定しているのに対し、甲6発明は、薬物の種類やその含有量を特定していない点。

<相違点8’>
本件訂正発明2は、「放出制御錠剤」について、「膨潤性高分子を用いた製剤」または「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」であって、「膨潤性高分子を用いた製剤」は、「水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーとしてポリエチレンオキサイドを含む製剤」であり、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」は、「ヒプロメロースまたはヒドロキシプロピルセルロースに薬物が均一に分散している製剤」であると特定しているのに対し、甲6発明は、「ハイドロゲル徐放性錠剤」について、製剤全体に対し5乃至80重量%の、一種以上の、「1gを溶解する水の量が5ml以下の溶解性を示す製剤内部に水を浸入させるための添加剤」及び「ハイドロゲルを形成する高分子物質」を含み、前記「ハイドロゲルを形成する高分子物質」が平均分子量が200万以上または1%水溶液25℃の粘度が1000cps以上である、ポリエチレンオキサイド、ハイドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ハイドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマーからなる群より選択される一種または二種以上の高分子物質であると特定している点。

<相違点9’>
本件訂正発明2は、「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」であると特定しているのに対し、甲6発明は、そのような特定がない点。

<相違点10>
本件訂正発明2は、「放出制御錠剤」について、「食餌の影響を低減するための」ものであると特定しているのに対し、甲6発明は、そのような特定がない点。

イ 判断

甲6発明、甲6、甲5、甲8、甲10の記載をもってしても、上記相違点7’?9’に係る本件訂正発明2の構成とすることが、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない点は、上記(1)ウ(ア)?(ウ)での説示と同様である。
したがって、上記相違点10について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、相違点7’、8’、9’、10に係る発明特定事項を備える本件訂正発明2は、食餌の影響を低減できるという効果を奏する。

(3)請求人の主張について

請求人は、次のア、イの点を挙げたうえで、本件訂正発明1、2は甲6発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであり、効果を奏しない態様も含んでいる旨を主張している。

ア 甲6発明における「薬物」として、甲8に記載されるミラベグロン(化合物A)又はその塩を使用することは、当業者が容易に想到し得たことであり、甲6発明において、薬物としてミラベグロン(化合物A)又はその塩を使用すれば必然的に「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」という規定は充足される(審判請求書の第43頁第7?16行、弁駁書の第30頁第9行?第31頁第3行)。

イ 甲1、甲9の記載に照らせば、本件訂正発明1、2で特定される「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」という「薬物溶出率」は、胃から排出される前にほぼすべての薬物を溶出してしまうような態様も含むため、食餌の影響を無視し得ず、本件訂正発明1、2の全体において、食餌の影響を低減できるという効果は奏されない(審判請求書の第44頁第3行?第46頁第10行)。

しかし、上記アの主張は、「薬物」の種類と「薬物溶出率」の規定の有無のみを本件訂正発明1、2と甲6発明との相違点としていることからみて、本件訂正発明1、2の「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」が「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」を包含することを前提とするものと理解できるところ、本件訂正発明1、2の「膨潤性高分子を用いた製剤」、「水溶性高分子を用いたマトリクス製剤」が「徐放性ハイドロゲル形成性製剤」を包含するものではない点は、上記3(3)で説示したとおりである。
さらに言えば、甲6発明の「薬物」を化合物A又はその塩とすることで、必然的に「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」という規定が充足されるとはいえない点は、上記(1)ウ(ウ)で説示したとおりである。
そして、甲6、甲8、甲5、甲10をはじめ、他の甲号証を参照してみても、化合物A又はその塩の「薬物溶出率」を「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」とすることについての具体的な記載や示唆が見いだせない以上、化合物A又はその塩の「薬物溶出率」を、「溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下」とすることが、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
また、上記イの主張については、上記1において説示したとおり、本件訂正発明1、2は、食餌摂取の制限が無い、すなわち、通常製剤(速放製剤)に比べて食餌の影響を低減するという課題を解決できるものであるから、本件訂正発明1、2の全体にわたって、食餌の影響を低減できるという効果を奏するものである。

(4)小括

以上によれば、本件訂正発明1、2は、甲6に記載された発明、及び、甲6、甲5、甲8、甲10に記載された事項に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
したがって、本件訂正発明1、2に係る特許は、無効理由7によって無効とすることはできない。

第8 むすび

以上のとおり、本件訂正は適法であり、本件訂正後の請求項1、2に係る特許は、請求人が主張する無効理由1?7のいずれによっても無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、参加によって生じた費用を含めて、請求人及び参加人の負担とする。

よって、結論のとおり、審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1製剤当たり10mg以上200mg以下の(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩、及び、徐放性医薬組成物用担体を含有する放出制御錠剤であって、溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下であり、
放出制御錠剤が、膨潤性高分子を用いた製剤または水溶性高分子を用いたマトリクス製剤であり、
前記の膨潤性高分子を用いた製剤が、水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーとしてポリアルキレンオキサイドを含む製剤であり、
前記の水溶性高分子を用いたマトリクス製剤が、ヒプロメロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースに薬物が均一に分散している製剤である、前記放出制御錠剤。
【請求項2】
食餌の影響を低減するための、1製剤当たり10mg以上200mg以下の(R)-2-(2-アミノチアゾール-4-イル)-4’-[2-[(2-ヒドロキシ-2-フェニルエチル)アミノ]エチル]酢酸アニリドまたはその製薬学的に許容される塩、及び、徐放性医薬組成物用担体を含有する放出制御錠剤であって、溶出試験開始1.5時間後の薬物溶出率が75%以下であり、かつ7時間後の薬物溶出率が75%以上100%以下であり、
放出制御錠剤が、膨潤性高分子を用いた製剤または水溶性高分子を用いたマトリクス製剤であり、
前記の膨潤性高分子を用いた製剤が、水の吸収時に膨潤する高分子量の水溶性のポリマーとしてポリエチレンオキサイドを含む製剤であり、
前記の水溶性高分子を用いたマトリクス製剤が、ヒプロメロースまたはヒドロキシプロピルセルロースに薬物が均一に分散している製剤である、前記放出制御錠剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2021-03-24 
結審通知日 2021-03-29 
審決日 2021-04-27 
出願番号 特願2012-508290(P2012-508290)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (A61K)
P 1 113・ 537- YAA (A61K)
P 1 113・ 113- YAA (A61K)
P 1 113・ 536- YAA (A61K)
P 1 113・ 4- YAA (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩下 直人  
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 石井 裕美子
穴吹 智子
登録日 2015-12-11 
登録番号 特許第5849946号(P5849946)
発明の名称 放出制御医薬組成物  
代理人 中村 充利  
代理人 運 敬太  
代理人 末吉 剛  
代理人 勝又 政徳  
代理人 中村 充利  
代理人 末吉 剛  
代理人 森本 敏明  
代理人 岩谷 龍  
代理人 運 敬太  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ