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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A44B |
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管理番号 | 1377040 |
審判番号 | 不服2020-11566 |
総通号数 | 262 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-08-20 |
確定日 | 2021-08-31 |
事件の表示 | 特願2017-520937「プリント部材及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月28日国際公開、WO2016/065134、平成29年11月 9日国内公表、特表2017-533013、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2015年(平成27年)10月22日(パリ優先権による優先権主張外国庁受理2014年10月22日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成30年8月30日 :上申書及び手続補正書の提出 令和元年6月24日付け:拒絶理由通知書 令和元年12月13日 :意見書及び手続補正書の提出 令和2年4月13日付け:拒絶査定 令和2年8月20日 :審判請求書の提出、同時に手続補正書の提出(以下、当該手続補正書による補正を「本件補正」という。) 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 本願の請求項1-3に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明並びに引用文献2及び引用文献3によって例示される周知技術に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献1:独国特許出願公開第19806230号明細書 引用文献2:国際公開第2012/176533号(周知技術を示す文献) 引用文献3:特表2007-526149号公報(周知技術を示す文献) 第3 本件補正について 本件補正によって、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)である「第1のレーザー感応剤」が、「第1の金属酸化物レーザー感応剤」に補正された(以下、「本件補正事項」という。)。 ここで、本件補正事項は、願書に最初に添付した明細書の【0019】に「例示的な無機の第1のレーザー感応剤としては、1以上の金属酸化物、例えば結晶質(例えばルチル)二酸化チタン(TiO_(2))、酸化スズ、酸化インジウムスズ、及びそれらの組み合わせが挙げられる。」と記載されているから、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。 また、本件補正は、本件補正前の請求項1及び請求項2に記載された発明特定事項である「第1のレーザー感応剤」を限定するものであり、かつ、本件補正前の請求項1及び請求項2に記載された発明と、本件補正後の請求項1及び請求項2に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、以下「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1-3に係る発明は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 したがって、審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。 第4 本願発明 本願の請求項1-3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明3」という。)は、令和2年8月20日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 第1の有機ポリマー及び第1の金属酸化物レーザー感応剤を含む、フックアンドループメカニカルファスナーのフック部材と、 電磁放射線と前記第1の金属酸化物レーザー感応剤との相互作用により作製された、前記フック部材上の第1のレーザー誘導プリントとを含む物品。 【請求項2】 前記第1の金属酸化物レーザー感応剤が、前記フック部材の0.4重量%?8重量%である、請求項1に記載の物品。 【請求項3】 前記第1のレーザー誘導プリントが、グラフィック画像、基準マーク及び追跡番号のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の物品。」 第5 引用文献 1.引用文献1について (1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、日本語訳により記載すると、図面とともに以下の事項が記載されている。 ア.「この目的は、まず第一に、請求項1に記載の特徴を有するフックテープにおいて達成され、フック側にされたフックテープの印刷により視覚的な識別模様を形成し、印刷インキはフック間の谷部も覆う。これは、深さ方向に印刷されるため、耐久性をもたらす。これにより、独特で鮮明であるがぼやけていない書体等が得られる。フックヘッドを介して供給される塗料は、フックシャフト、フック基部及びフック間の谷部をさらに覆う。印刷色とフックテープの色とが大きく異なっていなくても、対応する多次元印刷が目立つことが分かる。もちろん、高コントラストのカラースキームが好ましい。他方、塗料は、面ファスナー効果が損なわない。塗料が深さ方向に流れ込むので、フック開口部等に注ぎ込まれることはない。フックテープが透明または半透明のプラスチックからなることも提案される。印刷を平面側で見ることもでき、少なくとも信号効果があるので、テープは、フック側から見て、記載内容等を確認できる。耐久性のある印刷は、スクリーン印刷プロセスを用いて経済的に実現することができる。」(第1欄第22-48行) イ.「図示のフックテープ1は、プラスチック押出成形法で製造することができる。それは、例えば、ポリプロピレンまたはポリエチレンからなる。それはフック2に対して一体のプラスチック部品として設計される。ループ要素(詳細には図示せず)との結合要素として示されたフック2の代わりに、マッシュルーム頭部のような形状でも実現することができる。」(第2欄第11-17行) ウ.「面ファスナーシステムを形成するこのフックテープ1の一部は、視覚的な識別模様を形成するように印刷されている。印刷は参照番号7で示されており、フックテープのフック側Iで行われている。印刷7は、フックテープ1の色と対照的な印刷からなり、主に、上下に配置された2つの振動する列と共に文字を書き込んだ線からなる。 印刷インキの塗布は、共通の高さ平面で底から間隔をおいて置いて終わっていてフックヘッド5を越えて行われ、谷部6も覆っている。この場合、フック2の広幅面も狭幅面も塗布されている。 このようにして達成される印刷7は、領域の大部分が谷底に位置するので、摩耗から保護される。これはいわば、深く多方向に進む塗装面がある。」(第2欄第45-62行) エ.「面ファスナーシステムで使用するための一体型プラスチック部品として設計されたフックテープ(1)であって、フックが一方の側(I)に形成され、他方の側(II)が平面状に形成され、フック(2)間に谷部(6)を有するフックテープ(2)であって、フック側(I)のフックテープ(1)の印刷(7)が視覚的な識別模様を形成するようになされ、印刷インキ(11)がフック(1)間の谷部(6)も覆うことを特徴とするフックテープ(1)。」(請求項1) (2)上記記載事項を整理すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。 「面ファスナーシステムで使用するための一体型プラスチック部品として設計されたフックテープであって、フックが一方の側に形成され、他方の側が平面状に形成され、フック間に谷部を有するフックテープであって、フック側のフックテープの印刷が視覚的な識別模様を形成するようになされ、印刷インキがフック間の谷部も覆い、印刷インキは塗布され、フックがループ要素との結合要素であり、プラスチック押出成形法で製造することができ、ポリプロピレンまたはポリエチレンからなるフックテープ。」 2.引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、以下の事項が記載されている。 ア.「[0001] 本発明は、各種プラスチックカード、特に接触式、及び非接触式ICカード等に用いられるカード用シートに関するものである。」 イ.「[0011] 本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、各種カード、特に接触式、及び非接触式ICカード等のプラスチックカードに用いられるカード用シートに関する。特に、高い透明性を有し、耐熱性と耐衝撃性に優れる。しかも上記したようなコアシート(白色)や各種プラスチックカードを構成する他のシートとの加熱融着性に優れる。更には、レーザー光エネルギー吸収体を含む組成物から形成されるカード用シートは、レーザー光エネルギー照射により、生地色と印字部とのコントラストが高く、鮮明な文字、記号、画像等をマーキングすることができる。更に、昇華型熱転写印刷が可能な薄膜を塗工後の乾燥工程、及び巻き取り工程においても、シートに“しわ”が入ったり、シートが伸びてしまったりすることがない、耐熱性を有するプラスチックカードに用いられるカード用シートを提供することにある。」 ウ.「[0040](レーザー光エネルギー吸収体) また、本発明においては、前記ポリマーアロイ100質量部に対して、レーザー光エネルギー吸収体を、0.0001?3質量部、好ましくは0.001?1質量部含有することが好適である。このようにレーザー光エネルギー吸収体を含有させ、レーザー光エネルギーを照射することにより、文字、記号、画像等をマーキングすることができる。なお、通常、レーザー光エネルギー吸収体を含有するカード用シートは、プラスチックカードにおけるオーバーシートとして用いられる。」 エ.「[0042] レーザー光エネルギー吸収体としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、金属酸化物、複合金属酸化物、金属硫化物、金属炭酸塩、金属ケイ酸塩,及び近赤外線吸収色素が挙げられる。」 3.引用文献3について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、以下の事項が記載されている。 ア.「【0001】 本発明は、ナノスケールのレーザー感受性金属酸化物を含有することによりレーザーマーキング可能及び/又はレーザー溶接可能である高透明性プラスチック材料、かかるプラスチック材料の製造方法並びにその使用に関する。」 イ.「【0003】 製造製品の印刻は、ほとんど全ての産業分野において次第に重要になりつつある。従って、例えば製造日、バッチ番号、有効期限、製品識別、バーコード、会社のロゴ等が施与されなければならない。慣用の印刻技術、例えば印刷、型押、スタンピング、ラベリングに対して、レーザーマーキングは明らかに早い。それというのも、それは非接触で機能し、より正確であり、かつ更なる技術を有さずに非平面の表面上に施与することができるからである。このレーザーマーキングは、材料の表面下で生じるので、これらは持続性、安定性を示し、かつ除去、変化又は偽造にさえも顕著に耐性を示す。他の媒質との接触、例えば液体容器及び栓の場合、これらの理由(プラスチックマトリックスが一定であるという自明の条件下で)から同様に重要ではない。製品識別の耐性及び持続性並びに汚染不含性は、例えば医薬品、食品及び飲料の包装の場合に非常に重要である。」 ウ.「【0015】 従って本発明の対象は、ナノスケールのレーザー感受性金属酸化物を含有することによりレーザーマーキング可能及び/又はレーザー溶接であることを特徴とする、高透明性プラスチック材料である。」 第6 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「ループ要素」及び「ループ要素との結合要素」である「フック」は、その機能、構成からみて、それぞれ本願発明1の「ループ」及び「フック」に相当し、引用発明1の「面ファスナーシステム」は、本願発明1の「フックアンドループファスナー」に相当するから、引用発明1の「面ファスナーシステムで使用するための一体型プラスチック部品として設計されたフックテープ」は、本願発明1の「フックアンドループメカニカルファスナーのフック部材」に相当する。 引用発明1の「フックテープ」が「ポリプロピレンまたはポリエチレン」からなることは、本件発明1の「フック部材」が「第1の有機ポリマー」「を含む」ことに相当する。 引用発明1の「印刷」と本願発明1の「第1のレーザー誘導プリント」とは、「第1のプリント」の限りで一致する。 ここで、「物品」とは「しなもの。もの。しろもの。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)を意味するから、引用発明1の「フックテープ」と「フックテープの印刷」とを含む「面ファスナーシステム」は、本願発明1の「物品」に一致する。 してみると、本願発明1と引用発明1とは、両者は、次の一致点で一致し、相違点で相違する。 [一致点] 「第1の有機ポリマーを含む、フックアンドループメカニカルファスナーのフック部材と、前記フック部材上の第1のプリントを含む物品。」 [相違点] 「第1のプリント」について、本願発明1は、「フック部材」が、「第1の金属酸化物レーザー感応剤を含」み、「電磁放射線と前記第1の金属酸化物レーザー感応剤との相互作用により作製された、前記フック部材上の第1のレーザー誘導プリント」であるのに対して、引用発明1の「フックテープ」は、「印刷インキ」が「塗布されて」いる点。 (2)判断 ア.上記相違点について検討する。 上記第5の1.(1)のア.及びウ.によれば、引用発明1の「塗布」による「印刷」は、「印刷インキ」が「フックテープ」の「フックヘッド」及び「フックシャフト、フック基部及びフック間の谷部をさらに覆う」ものであり、その結果、「耐久性のあ」るものとなり、「領域の大部分が谷底に位置するので、摩耗から保護され」ているものである。 つまり、引用発明1において、塗布によってフックテープに印刷された印刷インキは、摩耗から保護されており、十分に耐久性を有している。さらに、引用発明1において、塗布によるフックテープへの印刷について、耐久性に課題があるとは認識されておらず、前記課題は周知の課題でもない。 したがって、引用発明1において、印刷の手段を、塗布から他の手段に変更する動機付けがない。 イ.また、上記第5の2.及び3.によれば、引用文献2及び引用文献3は、本願発明1の記載ぶりに沿って記載すれば、有機ポリマー及び金属酸化物レーザー感応剤を含む部材に、電磁放射線と前記金属酸化物レーザー感応剤との相互作用によりレーザー誘導プリントを作製することが周知技術であることを例示するものであるところ、当該周知技術における電磁放射線と前記金属酸化物レーザー感応剤との相互作用と、引用発明1における「印刷インキ」が「フックヘッド」及び「フックシャフト、フック基部及びフック間の谷部をさらに覆う」という作用とは、別異のものである。 さらに、引用文献2及び引用文献3には、フックテープに対して印刷インキを塗布した印刷における課題及び当該課題の解決について記載されているわけではなく、レーザーマーキングの適用対象として、引用発明1のフックテープのような複雑な表面形状をしたものが記載されているわけでもない。 ウ.以上を総合すると、引用発明1と、引用文献2及び引用文献3に例示された上記周知技術とが、有機ポリマーからなる部材へのプリントという点で同一技術分野に属するとしても、引用発明1における印刷を上記周知技術へ置換することは、当業者が容易に想到し得たことではない。 よって、本願発明1は、当業者であっても引用発明1、及び引用文献2-3に例示された周知技術に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2.本願発明2-3について 本願発明2-3も、相違点に係る発明特定事項を有するものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1、及び引用文献2-3に例示された周知技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第7 原査定について 本件補正により、本願発明1-3は相違点に係る発明特定事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明、及び引用文献2-3に例示された周知技術に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第8 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-08-13 |
出願番号 | 特願2017-520937(P2017-520937) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A44B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 住永 知毅 |
特許庁審判長 |
石井 孝明 |
特許庁審判官 |
矢澤 周一郎 藤井 眞吾 |
発明の名称 | プリント部材及びその製造方法 |
代理人 | 野村 和歌子 |
代理人 | 赤澤 太朗 |
代理人 | 佃 誠玄 |
代理人 | 浅村 敬一 |