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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02J
管理番号 1377051
審判番号 不服2020-1654  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-02-06 
確定日 2021-08-12 
事件の表示 特願2016-561306「リチウム硫黄(Li-S)電池の電気化学的充放電のための方法及びその方法を使用するデバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月22日国際公開、WO2015/157859、平成29年 6月 1日国内公表、特表2017-514435〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年4月14日の国際出願(優先権主張2014年4月15日 米国(以下「優先日」という。))であって、平成30年12月26日付け拒絶理由通知に対して平成31年3月27日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、令和1年6月20日付け拒絶理由通知に対して同年9月20日に意見書が提出されたが、同年10月10日付けで拒絶査定がなされた。これに対して令和2年2月6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和1年10月10日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1、2、4、5、7ないし9、12、13に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2010-40198号公報

第3 審判請求時の補正について
1 補正の内容
審判請求時の補正(以下、「本件補正」という。)は、平成31年3月27日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1、4に記載された、

「【請求項1】
Li-S電池またはセルの容量及びライフサイクルの改善を可能にする、Li-S電池またはセルの充放電のためのプロセスであって、前記プロセスは、充電ステップにおける、放電ステップにおける、または前記充電ステップ及び放電ステップ両方におけるパルス電流の使用を含み、
ここで、前記パルス電流が、第一の期間に電流方向に定電流を印加し、それに続く第二の期間に前記電流方向を反転することによって取得されるか、または
ここで、前記パルス電流が、第一の期間に定電流を印加し、それに続く期間に中断することによって取得される、プロセス。」

「【請求項4】
Li-S電池またはセルの容量及びライフサイクルの改善を可能にする、Li-S電池またはセルの充放電のためのプロセスであって、前記プロセスは、充電ステップ、放電ステップまたは前記充電ステップ及び放電ステップ両方における、パルス電流と定電流との組み合わせの使用を含み、
ここで、前記パルス電流が、第一の期間に電流方向に定電流を印加し、それに続く第二の期間に前記電流方向を反転することによって取得されるか、または
ここで、前記パルス電流が、第一の期間に定電流を印加し、それに続く期間に中断することによって取得される、プロセス。」

という発明を、令和2年2月6日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1、4に記載された、

「【請求項1】
Li-S電池またはセルの容量及びライフサイクルの改善を可能にする、Li-S電池またはセルの充放電のためのプロセスであって、前記プロセスは、充電ステップにおける、放電ステップにおける、または前記充電ステップ及び放電ステップの両方におけるパルス電流の使用を含み、
ここで、前記パルス電流が、第一の期間に電流方向に定電流を印加し、それに続く第二の期間に前記電流方向を反転することによって取得されるか、または
ここで、前記パルス電流が、第一の期間に定電流を印加し、それに続く期間に中断することによって取得される、プロセス。」

「【請求項4】
Li-S電池またはセルの容量及びライフサイクルの改善を可能にする、Li-S電池またはセルの充放電のためのプロセスであって、前記プロセスは、充電ステップ、放電ステップまたは前記充電ステップ及び放電ステップの両方における、パルス電流と定電流との組み合わせの使用を含み、
ここで、前記パルス電流が、第一の期間に電流方向に定電流を印加し、それに続く第二の期間に前記電流方向を反転することによって取得されるか、または
ここで、前記パルス電流が、第一の期間に定電流を印加し、それに続く期間に中断することによって取得される、プロセス。」

という発明に補正するものである。なお、下線は当審で付したものである。

2 補正の適否について
本件補正は、補正前の請求項1の「前記プロセスは、充電ステップにおける、放電ステップにおける、または前記充電ステップ及び放電ステップ両方におけるパルス電流の使用を含み」を「前記プロセスは、充電ステップにおける、放電ステップにおける、または前記充電ステップ及び放電ステップの両方におけるパルス電流の使用を含み」に、補正前の請求項4の「前記プロセスは、充電ステップ、放電ステップまたは前記充電ステップ及び放電ステップ両方における、パルス電流と定電流との組み合わせの使用を含み」を「前記プロセスは、充電ステップ、放電ステップまたは前記充電ステップ及び放電ステップの両方における、パルス電流と定電流との組み合わせの使用を含み」に補正することで誤記を訂正したものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項及び第4項に違反するところはない。
したがって、請求項1、4、及び請求項1、4を引用する請求項12、13に係る本件補正は適法になされたものである。

第4 本願発明
令和2年2月6日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。なお、(A)?(C2)については、説明のために当審で付与したものである(以下、「構成A」等という。)。

「(A)Li-S電池またはセルの容量及びライフサイクルの改善を可能にする、Li-S電池またはセルの充放電のためのプロセスであって、
(B)前記プロセスは、充電ステップのみにおけるパルス電流の使用を含み、
(C1)ここで、前記パルス電流が、第一の期間に電流方向に定電流を印加し、それに続く第二の期間に前記電流方向を反転することによって取得されるか、または
(C2)ここで、前記パルス電流が、第一の期間に定電流を印加し、それに続く期間に中断することによって取得される、
(A)プロセス。」

第5 引用文献
1 引用文献1・引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-40198号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の技術事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質がリチウムイオン伝導性固体電解質からなる二次電池に対して充電や放電を行う二次電池充放電装置、この二次電池充放電装置を備えた電気機器、それら充電や放電の手順を示す二次電池充放電方法、及び、この二次電池充放電方法を実現するための二次電池充放電プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを動力源とする自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に用いられる高性能リチウム電池等の二次電池の需要が増加している。
使用される用途が広がるのに伴い、二次電池の更なる安全性の向上及び高性能化が要求されている。
【0003】
リチウム二次電池は、ニッケル-カドミウム二次電池等と比較して、作動電圧が高く、軽量であることから、高エネルギー密度の二次電池として注目されている。
このリチウム二次電池の負極活物質としては、リチウムを安定的かつ可逆的に脱・挿入することができるグラファイトなどの炭素質材料が主に使用されている。
しかし、炭素質材料を用いたリチウム二次電池のエネルギー密度は、負極活物質としてリチウム金属そのものを使用した二次電池のエネルギー密度よりも小さいという欠点がある。
【0004】
これに対し、リチウム金属を負極活物質として使用した場合には、充電に伴い負極近傍の電解液中でのリチウムイオン濃度が急激に低下し、そのために負極にリチウムの樹状析出物(デンドライト)が形成されることがある。
このようなデンドライトが形成されると、リチウムの溶解・析出反応が阻害され、サイクル特性が大きく劣化したり、電池内の短絡の発生の危険性が増大したりする。
【0005】
そこで、デンドライトの形成を抑制するための技術が提案されている。
すなわち、負極活物質として金属リチウムを用い、正極活物質として二酸化マンガンを用い、非水電解液として過塩素酸リチウムをプロピレンカーボネートに溶解した液を用い、この電池に対してパルス充電を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
このような提案技術によれば、パルスの休止時間の間に負極近傍のリチウムイオン濃度を回復させることができる。このため、リチウムイオンの濃度の電極近傍での急激な増加を抑制でき、デンドライトの形成を抑えることができる。
【特許文献1】特開平5-152002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、リチウム二次電池は、充電電流と充電電圧をともに管理する必要があることから、本来は、定電流定電圧充電方式を採用することが望ましい。
また、上述したパルス充電は、高周波側ではデンドライトの抑制効果が低く、低周波側では逆にサイクル寿命に影響を与えることから、パルス充電を常時使用することには、問題があった。
【0007】
さらに、内部短絡によりセル電圧が異常値に達した場合、従前の技術では、そのセルを電気的に切り離し、充電しないようにしていた。
ところが、そのセル自体は、二次電池としての機能を維持している場合があるため、そのセルの機能を活かして、モジュールの充電量を確保することが望まれていた。
【0008】
また、ユニットやモジュールの充放電の場合、セルの充電容量、充電電圧、放電容量、放電電圧等が設定値に達したら、これらの充電、又は放電を終了させる方法が取られていた。例えば充電の場合、一部のセルは満充電であるが、他のセルは十分に充電されていないことがあった。このことから、ユニットやモジュールの電池性能を維持するため、セル個々の性能ばらつきを低減する方法がとられている。例えば、各セルの電極活物質重量と、電極の厚さの精度を均一にする方法がとられていた。
ところが、それら方法を講じてもセル個々の性能ばらつきを完全に無くすことはできず、ユニットやモジュールの電池性能を維持するための新たな技術の提案が求められていた。
【0009】
本発明は、上記の事情にかんがみなされたものであり、リチウム二次電池のサイクル寿命への影響を抑えた充電を行うとともに、内部短絡が生じた場合でも、モジュールの充電量を確保して、ユニットやモジュールの電池性能の維持を可能とする二次電池充放電装置、電気機器、二次電池充放電方法及び二次電池充放電プログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するため、本発明の二次電池充放電装置は、リチウムイオン伝導性固体電解質を有する一又は二以上の二次電池と、これら二次電池の充電及び/又は放電を制御する制御手段とを備えた二次電池充放電装置であって、制御手段は、充電時の電圧及び/又は電流に異常が検出された二次電池に対し、パルス波及び/又は低電圧の充電電圧で充電を行う構成としてある。
【0011】
また、本発明の電気機器は、リチウムイオン伝導性固体電解質を有する一又は二以上の二次電池と、これら二次電池の充電及び/又は放電を制御する二次電池充放電装置と、二次電池から電力の供給を受ける負荷とを備えた電気機器であって、二次電池充放電装置が、特許請求の範囲の請求項1?請求項3のいずれかに記載の二次電池充放電装置からなる構成としてある。
【0012】
また、本発明の二次電池充放電制御方法は、リチウムイオン伝導性固体電解質を有する一又は二以上の二次電池の充電及び/又は放電を制御する二次電池充放電制御方法であって、二次電池に対して充電を行い、二次電池で発生した異常を検出し、電圧及び/又は電流の異常が検出された二次電池に対し、パルス波及び/又は低電圧の充電電圧で充電を行う方法としてある。
【0013】
また、本発明の二次電池充放電制御プログラムは、リチウムイオン伝導性固体電解質を有する一又は二以上の二次電池の充電及び/又は放電を制御する処理をコンピュータに実行させるための二次電池充放電制御プログラムであって、二次電池に対して充電を行う処理と、二次電池で発生した異常を検出する処理と、電圧及び/又は電流の異常が検出された二次電池に対し、パルス波及び/又は低電圧の充電電圧で充電を行う処理とをコンピュータに実行させる構成としてある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の二次電池充放電装置、電気機器、二次電池充放電方法及び二次電池充放電プログラムによれば、通常の充電時は、定電流定電圧充電方式を採用し、内部短絡等にもとづく電圧等の異常が検出されたときには、その二次電池(セル)に対しては、パルス波電圧又は低電圧の充電電圧で充電を行うことができる。これにより、パルス波電圧による充電が異常発生時にのみ行われるため、リチウム二次電池のサイクル寿命への影響を抑えることができる。
【0015】
また、内部短絡により電圧異常が発生した場合でも、その内部短絡が生じた二次電池については、パルス波電圧又は低電圧の充電電圧で充電を行うこととしたので、モジュールの充電量を確保できる。
さらに、各セルに性能ばらつきがある場合でも、異常が検出されたセルへの充電を可能にして、ユニットやモジュールの電池性能を維持することができる。」

「【0046】
(充電処理(内部短絡・パルス充電))
次に、リチウムイオン二次電池の充電時における内部短絡時の他の処理手順について、図10を参照して説明する。
同図は、充電時における内部短絡時の他の処理手順を示すフローチャートである。
同図に示すように、充電の開始にあたっては、モジュール全体の充電(ステップ60)によって、各セルに対し、定電流で充電を行い、単セルの充電電圧が上限に達すると、今度は、充電電圧を一定にし、充電電流を低下させる(ステップ61)。
この定電流定電圧充電において、単セルでの内部短絡による電圧異常の発生を検出すると(ステップ62)、この単セルに対して単セルパルス充電処理を行う(ステップ63)。他の単セルに対しては、バイパス回路を介して充電を行う。
【0047】
その後、単セルの充電が所定の閾値(充電量の100%あるいは150%など)に達すると、この単セルの充電を終了する(単セル満充電、ステップ64)。
一つのユニットを構成する複数のセルの充電がすべて完了することにより、そのユニットの充電が完了する(単ユニット満充電、ステップ65)。そして、各ユニットの充電がすべて完了することにより、モジュールの充電が完了する(モジュール満充電、ステップ66)。
【0048】
なお、パルス充電に用いるパルス波としては、図11(i)?(iii)に示すものがある。
すなわち、同図(i)に示すように、所定間隔でパルス波を与えるものがある。
また、同図(ii)に示すように、パルス波の一部を0Aよりも小さい値を与えるものがある。この場合、0Aより大きい値では充電となり、0Aより小さい値では、放電となる。
さらに、同図(iii)に示すように、最小値が0Aよりも大きい値のパルス波を与えるものがある。」






・上記【0001】、【0009】、【0014】及び【0046】によれば、引用文献1記載の発明はリチウムイオン二次電池に対してパルス波電圧で充電を行う充放電方法に関するものである。
・上記【0004】及び【0005】によれば、リチウム金属を負極活物質として使用した場合には、充電に伴い負極近傍の電解液中でのリチウムイオン濃度が急激に低下し、そのために負極にリチウムの樹状析出物(デンドライト)が形成されることがあり、デンドライトの形成を抑制するために電池に対してパルス充電を行うことで、パルスの休止時間の間に負極近傍のリチウムイオン濃度を回復させることができる。
・上記【0006】、【0012】、【0014】及び【0046】によれば、パルス充電を常時使用するのではなく、通常の充電時には、定電流定電圧充電方式を採用し、内部短絡等にもとづく電圧等の異常が検出されたときには、その二次電池(セル)に対して、パルス波電圧で充電を行い、これにより、パルス波電圧による充電が異常発生時にのみ行われるため、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命への影響を抑えることができる。
・上記【0015】によれば、内部短絡により電圧異常が発生した場合でも、その内部短絡が生じた二次電池については、パルス波電圧で充電を行うこととしたので、モジュールの充電量を確保でき、さらに、各セルに性能ばらつきがある場合でも、異常が検出されたセルへの充電を可能にして、ユニットやモジュールの電池性能を維持することができる。
・上記【0048】によれば、パルス充電に用いるパルス波としては、所定間隔でパルス波を与えるものがあり、また、パルス波の一部を0Aよりも小さい値を与えるものがあり、この場合、0Aより大きい値では充電となり、0Aより小さい値では、放電となる。

したがって、上記記載事項及び図面を勘案すると上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「リチウムイオン二次電池に対してパルス波電圧で充電を行う充放電方法であって、
リチウム金属を負極活物質として使用した場合には、充電に伴い負極近傍の電解液中でのリチウムイオン濃度が急激に低下し、そのために負極にリチウムの樹状析出物(デンドライト)が形成されることがあり、デンドライトの形成を抑制するために電池に対してパルス充電を行うことで、パルスの休止時間の間に負極近傍のリチウムイオン濃度を回復させることができ、
パルス充電を常時使用するのではなく、通常の充電時には、定電流定電圧充電方式を採用し、内部短絡にもとづく電圧の異常が検出されたときには、その二次電池(セル)に対して、パルス波電圧で充電を行い、これにより、パルス波電圧による充電が異常発生時にのみ行われるため、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命への影響を抑えることができ、
内部短絡等により電圧異常等が発生した場合でも、その内部短絡が生じた二次電池については、パルス波電圧で充電を行うこととしたので、モジュールの充電量を確保でき、さらに、各セルに性能ばらつきがある場合でも、異常が検出されたセルへの充電を可能にして、ユニットやモジュールの電池性能を維持することができ、
パルス充電に用いるパルス波としては、所定間隔でパルス波を与えるものがあり、また、パルス波の一部を0Aよりも小さい値を与えるものがあり、この場合、0Aより大きい値では充電となり、0Aより小さい値では、放電となる、充放電方法。」

第5 対比
1 本願発明について
本願発明の構成C1、C2についてみると「C1、またはC2」と記載されており、表記上、構成C1、C2が択一的に選択されると解釈し得ることは明らかである。
そして、上記択一的に選択される構成C1、C2について、本願明細書には、独立した実施の形態が記載されており、構成B及びC1に対応する構成として、実施例5(【0042】、【0047】及び図4)に充電ステップ期間のみにパルス電流を印加することが記載されている。
また、構成Bの「充電ステップ期間のみ」の特定はないが、構成C2に関して、実施例8、9(【0045】、【0046】、【0047】及び図6)には、形成期(充電ステップ及び放電ステップ期間)において0.1C電流の印加に続く中断が記載されている。
これらの実施例は、互いに独立して把握することができ、かつ独立して動作し得るものといえるから、上記解釈は、本願明細書の記載とも整合するものである。

2 対比
本願発明について、上記「1 本願発明について」で記載した解釈に基づいて、引用発明との対比を行うこととする。
(1)本願発明の構成Aについて
・引用発明の「リチウムイオン二次電池」と本願発明の「Li-S電池」とは、引用文献1の「リチウムイオン伝導性固体電解質」に関する記載(【0010】等)、本願明細書の化学反応式や固体生成物の「リチウムイオン導電率」に関する記載(【0003】、【0004】)、及びこの分野の技術常識を考慮すると、「正負極間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う二次電池」である点で共通する。
・引用発明が「モジュールの充電量を確保でき」、「ユニットやモジュールの電池性能を維持する」ことは、異常が検出された電池(セル)への充電を行わなかった場合と比較して、モジュールやユニットを構成する電池(セル)の充電量、すなわち容量を改善するといえ、本願発明の「電池またはセルの容量」「の改善を可能にする」ことに相当する。
・引用発明がリチウムイオン二次電池の「サイクル寿命への影響を抑える」ることは、サイクル寿命が短くなるのを改善するといえ、本願発明の「ライフサイクルの改善を可能にする」ことに相当する。
そうすると、引用発明のリチウムイオン二次電池の充電方法と本願発明の構成Aとは、「正負極間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う二次電池またはセルの容量及びライフサイクルの改善を可能にする、前記二次電池またはセルの充放電のためのプロセス」である点で共通する。
ただし、正負極間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う二次電池に関して、本願発明は「Li-S電池」であるのに対して、引用発明は「リチウムイオン二次電池」である点で相違する。

(2)本願発明の構成Bについて
・引用発明が電圧異常等が発生した時に行う「パルス波電圧」による充電は、電流の波形が上記図11のようにパルス電流になることが明白であり、また放電時にパルス波を使用することの記載がないから、本願発明の「(B)前記プロセスは、充電ステップのみにおけるパルス電流の使用」に相当する。

(3)構成C1、C2について
ア 構成C1について
・引用発明のパルス充電におけるパルス波を「パルス波の一部を0Aよりも小さい値を与えるもの」とした場合には(図11(ii)に対応)、本願発明の「(C1)前記パルス電流が、第一の期間に電流方向に定電流を印加し、それに続く第二の期間に前記電流方向を反転することによって取得される」ことに相当する。
イ 構成C2について
・引用発明のパルス充電におけるパルス波を「所定間隔でパルス波を与えるもの」とした場合には(図11(i)に対応)、定電流を印加し、それに続く0Aの期間が中断といえ、本願発明の「(C2)前記パルス電流が、第一の期間に定電流を印加し、それに続く期間に中断することによって取得される」ことに相当する。
したがって、引用発明は、本願発明の構成C2に相当する構成を備えるものである

そうすると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「正負極間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う二次電池またはセルの容量及びライフサイクルの改善を可能にする、前記二次電池またはセルの充放電のためのプロセスであって、
前記プロセスは、充電ステップのみにおけるパルス電流の使用を含み、
ここで、前記パルス電流が、第一の期間に電流方向に定電流を印加し、それに続く第二の期間に前記電流方向を反転することによって取得されるか、または
ここで、前記パルス電流が、第一の期間に定電流を印加し、それに続く期間に中断することによって取得される、
プロセス。」

<相違点>
正負極間をリチウムイオンが移動することで充放電を行う二次電池に関して、本願発明は「Li-S電池」であるのに対して、引用発明はリチウムイオン二次電池である点。

第6 当審の判断
上記相違点について判断する。
本願発明のプロセスにおける「Li-S電池またはセル」は、本願明細書【0001】の記載より、アノード、すなわち負極がリチウム系材料からなるものである。
ここで、リチウム硫黄(Li-S)電池は周知の技術事項であるところ、リチウム硫黄電池の負極において、デンドライト形成による短絡を防ぐことは周知の課題である(必要であれば、特開2013-219017号公報の【0029】、特開2004-172126号公報の【0023】等参照)。
そうすると、引用発明の充放電方法でパルス充電を行うリチウムイオン二次電池と、周知の技術事項であるリチウム硫黄電池とは、負極にリチウム系材料を用いることが共通しており、負極におけるデンドライト形成による短絡を防ぐという同じ課題を有するから、引用発明のパルス波電圧で充電を行う充放電方法にリチウム硫黄電池を適用して、パルスの休止時間の間に負極近傍のリチウムイオン濃度を回復させ、負極におけるデンドライトの形成を抑えるようにして、上記相違点に係る構成とすることは当業者が容易になし得ることである。
また、本願発明の効果も、引用文献1記載の発明、及び周知の技術事項から想到される構成から当業者が予想できる範囲のものである。

なお、請求人は、審判請求書において、本願発明と引用文献1とは、その解決しようとする課題が異なり、引用文献1から本願発明に到達するように動機付けられることがない。また、引用文献1を考慮しても、本願発明によって達成される効果は当業者が予想できなかったものであり、引用文献1は、リチウム二次電池の容量の改善に全く言及しておらず、ライフサイクルに関しても、引用文献1は、せいぜいリチウム二次電池のサイクル寿命への影響を抑制できることを教示しているだけであり、サイクル寿命が改善されることさえ期待できない旨主張している。
しかしながら、上記相違点についてで検討したとおり、引用発明の充放電方法でパルス充電を行うリチウムイオン二次電池と、周知の技術事項であるリチウム硫黄電池とは、負極にリチウム系材料を用いることが共通しており、デンドライト形成による短絡を防ぐという同じ課題を有するから、引用発明のパルス波電圧で充電を行う充放電方法にリチウム硫黄電池を適用する十分な動機付けはあるといえる。また、引用発明が「モジュールの充電量を確保でき」、「ユニットやモジュールの電池性能を維持する」ことは、異常が検出された電池(セル)への充電を行わなかった場合と比較して、モジュールやユニットを構成する電池(セル)の充電量、すなわち容量を改善するといえ、引用発明が「サイクル寿命への影響を抑える」ることは、サイクル寿命が短くなるのを改善するといえることも、上述したとおりである。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

第7 むすび
以上のとおりであって、本願の請求項2に係る発明は、上記引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項には言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-03-12 
結審通知日 2021-03-15 
審決日 2021-03-30 
出願番号 特願2016-561306(P2016-561306)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大手 昌也高橋 優斗佐藤 卓馬  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 五十嵐 努
小池 正彦
発明の名称 リチウム硫黄(Li-S)電池の電気化学的充放電のための方法及びその方法を使用するデバイス  
代理人 山本 健策  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  
代理人 石川 大輔  
代理人 飯田 貴敏  
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