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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1377059 |
審判番号 | 不服2020-13241 |
総通号数 | 262 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2020-09-23 |
確定日 | 2021-08-12 |
事件の表示 | 特願2017-188925「偏光板及び画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月11日出願公開、特開2018- 5252〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続等の経緯 特願2017-188925号(以下「本件出願」という。)は、平成28年2月22日に出願した特願2016-31295号の一部を平成29年9月28日に新たな特許出願としたものであって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和元年 6月24日提出:手続補正書 令和元年11月21日付け:拒絶理由通知書 令和2年 1月23日提出:意見書 令和2年 1月23日提出:手続補正書 令和2年 6月18日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。) 令和2年 9月23日提出:審判請求書 令和2年 9月23日提出:手続補正書 第2 令和2年9月23日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [結論] 令和2年9月23日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 (1)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の令和2年1月23日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。 「 フィルム状の偏光子と、前記偏光子に重なる複数の光学フィルムと、を備える偏光板であって、 前記偏光板の端面の鉛直度が、0.00以上0.35未満であり、 前記偏光板の表面の端部のうち前記端面に沿う部分における偏光解消部の幅が、0.00μm以上20μm以下であり、 前記偏光板の端面は、前記偏光板の外縁の端面であり、 前記偏光板の表面の端部のうち前記端面に沿う部分は、前記偏光板の前記外縁の前記端面に沿う部分である、 偏光板。」 (2)本件補正後の特許請求の範囲 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は当合議体が付与したものであり、補正箇所を示す。 「 フィルム状の偏光子と、前記偏光子に重なる複数の光学フィルムと、を備える偏光板であって、 前記偏光板の端面の鉛直度が、0.04以上0.35未満であり、 前記偏光板の表面の端部のうち前記端面に沿う部分における偏光解消部の幅が、0.00μm以上20μm以下であり、 前記偏光板の端面は、前記偏光板の外縁の端面であり、 前記偏光板の表面の端部のうち前記端面に沿う部分は、前記偏光板の前記外縁の前記端面に沿う部分である、 偏光板。」 2 補正の適否について 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するための必要な事項である「偏光板の端面の鉛直度」の下限について、本件出願の出願当初の明細書の【0024】等の記載に基づき、「0.00以上」を「0.04以上」に限定するものである。また、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野(【0001】)及び解決しようとする課題(【0004】?【0007】)が同一である。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定する要件を満たしているとともに、同条第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1)本件補正後発明 本件補正後発明は、上記「1」「(2)本件補正後の特許請求の範囲」に記載したとおりのものである。 (2)引用文献4及び引用発明 ア 引用文献4の記載事項 原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用され、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2010-277018号公報(以下、同じく「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付与したものである。 (ア)「 【技術分野】 【0001】 本発明は、液晶表示装置などの画像表示装置に用いられる偏光板、及びそれを用いた画像表示装置に関するものである。更に詳細には急激な温度変化に対する耐久性に優れた薄型偏光板、及びそれを用いた画像表示装置に関するものである。 【背景技術】 …省略… 【0005】 ところで近年、携帯電話などのモバイル用途の画像表示装置においては、デザインの面や携帯性の面から、モジュール全体を薄くしてスリム化することが進みつつある。当然のことながら、そこに使用される偏光板についてもさらなる薄型軽量化が要望されている。 …省略… 【発明が解決しようとする課題】 【0013】 本発明の目的は、…(省略)…急激な温度変化を受けた後も、偏光子に実質的に亀裂がない、急激な温度変化に対する耐久性に優れた偏光板の提供を目的とする。本発明のもう一つの目的は、この偏光板を画像表示装置に適用することにある。 【課題を解決するための手段】 【0014】 前記目的を達成するため、本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子の片面に透明保護層が形成され、偏光子の他面には、粘着剤層が形成されているか、又は粘着剤層、透明高分子フィルム及び粘着剤層の順に形成されており、所望形状に切断加工された後、最も外側の粘着剤層を介して画像表示素子に貼り合わされて使用される偏光板であって、最も外側の粘着剤層をガラスに貼った状態で、温度-45℃で30分冷却し、次いで温度85℃で30分加熱する連続動作を1サイクルとして100サイクルの耐久試験を行ったとき、偏光板を形成する偏光子の端から内側に発生する亀裂が実質存在しない偏光板を提供するにある。」 (イ)「【発明を実施するための形態】 【0022】 以下、添付の図面も適宜参照しながら、本発明を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る偏光板の層構成の例を示す断面模式図である。図1を参照して、この実施形態に係る偏光板10は、偏光子1の片面に透明保護層2を形成し、偏光子1の他面には粘着剤層6を設けたものである。そしてその粘着剤層6は、23?80℃の温度範囲において0.15?10MPaの貯蔵弾性率を示すもので構成される。粘着剤層6の露出面には、セパレータ9を配置して、他の部材に貼り合わされるまで、その表面を仮着保護するのが通例である。 【0023】 図2は、本発明のもう一つの実施形態に係る偏光板の層構成の例を示す断面模式図である。図2を参照して、この実施形態に係る偏光板11は、偏光子1の片面に透明保護層2を形成し、偏光子1の他面には、粘着剤層7、透明高分子フィルム3、及び粘着剤層6をこの順に設けたものである。そしてその粘着剤層6は、23?80℃の温度範囲において0.15?10MPaの貯蔵弾性率を示すもので構成される。この場合も、粘着剤層6の露出面には、セパレータ9を配置して、他の部材に貼り合わされるまで、その表面を仮着保護するのが通例である。 …省略… 【0025】 [偏光子] 偏光子1は、入射する自然光から直線偏光を取り出す機能を有するフィルムであり、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向された偏光フィルムを用いることができる。 …省略… 【0028】 [透明保護層] 偏光子1の片面に設けられる透明保護層2は、適宜な透明フィルムで構成することができる。中でも、透明性や、光学特性の均一性、機械強度、熱安定性などに優れる樹脂からなるフィルムが好ましく用いられる。 …(省略)… 【0029】 [高分子フィルム又は位相差フィルム] 図2に示す形態で用いる高分子フィルム3は、上記透明保護層2を構成する樹脂として例示したような各種の樹脂で構成することができる。特に、この高分子フィルム3は、面内位相差を有し、位相差フィルムとしての機能を有するもので構成するのが有利である。 …省略… 【0038】 [粘着剤層の貯蔵弾性率] そして本発明では、偏光板の最も外側に配置され、画像表示素子に貼り合わされる粘着剤層6は、23?80℃の温度範囲において0.15?10MPaの貯蔵弾性率を示すもの、すなわち硬いもので構成するのが好ましい。 …省略… 【0043】 セパレータ9は、偏光板10、11を画像表示素子などに貼り合わせるまで、粘着剤層6の表面を仮着保護するものであって、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの透明樹脂からなるフィルムに、シリコーン系などの離型剤による処理を施したものが用いられる。 …省略… 【0045】 [他の光学層] 本発明の偏光板は、以上のように構成されるものであるが、透明保護層2の上には必要に応じて、他の光学機能を有する光学層を積層することができる。 【0046】 例えば、この偏光板を画像表示素子の表示面(視認側)に配置する場合には、透明保護層の上に、ハードコート層、反射防止層、防眩層などの表面処理層が設けられていてもよい。 …省略… 【0048】 一方、この偏光板を液晶セルの表示面と反対側(背面側)に配置する場合には、透明保護層2の上に、反射層、半透過反射層、光拡散層、集光板、輝度向上フィルムなどを積層することができる。 …省略… 【0055】 [偏光板の所望形状への切断加工] 図1或は図2に示すように、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光子の片面には透明保護層、偏光子の他面には、粘着剤層、粘着剤層の露出面にはセパレータが積層貼合されているか、又は粘着剤層、透明高分子フィルム及び粘着剤層、セパレータの順に積層貼合されてなる偏光板は、通常大面積の長尺シート形状より構成されており、液晶テレビ、パーソナルホン、車載用ナビゲーションシステム、液晶カラープロジェクター、ラップトップパソコン等に適用される画像表示素子に合わせて、所望形状に切断加工された後、最も外側の粘着剤層を介して画像表示素子に貼り合わされて使用されている。 …省略… 【0056】 本発明においては、かかる図1或いは図2に示すような偏光子の片方のみに透明保護層を有する薄型構造の偏光板の切断加工において、レーザーを用いることを特徴とするものである。該切断加工法を採用することにより、上記耐久性試験を行った後も、偏光板を形成する偏光子の端から内側に発生する亀裂が実質存在しない偏光板を提供することが可能となる。 【0057】 本発明におけるレーザーによる偏光板の切断加工とは、通常公知の赤外線レーザー光を用い、偏光板に照射することにより偏光板を切断する方法である。赤外線レーザーとしては、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、UVレーザーなど、公知の方法が使用可能であるが、作業性の点より炭酸ガスレーザーの適用が推奨される。 【0058】 切断速度は、切断加工する偏光板の厚さに依存するが、偏光板の厚さが70?500μmの範囲であれば、1m/分以上、好ましくは5?60m/分である。切断速度が1m/分未満では生産性に劣る傾向がある。また、赤外線レーザーの出力は、偏光子の厚さ、所望の切断速度などにもよるが、通常、10W?400Wの範囲内で使用される。本発明において使用するレーザー波長は、本発明が対象とする偏光子の片面にのみ透明保護層が形成された偏光板、特に薄型の偏光板の切断加工においては、レーザー波長が9.4μmのものを用いることが推奨される。かかるレーザー波長を用いて切断加工する場合には、例えば10.6μmのレーザー波長を用いて切断加工したものに比較し、偏光板の切断端面に溶融物が突起したり、溶融変形することなく、切断端面が美麗である。それゆえ、画像表示素子への貼合においても、偏光板を構成するセパレーターフィルムの剥離が容易であるとともに、貼合端面も美麗であり、貼合部の空気の巻き込みやはがれ等の問題を生起することもないので好ましい。 【0059】 [画像表示素子] 上記の如く所望形状に切断加工した本発明の偏光板は、各種画像表示素子に配置して、画像表示装置とすることができる。」 (ウ)図1 ![]() (エ)図2 ![]() イ 引用発明 引用文献4の【0022】、【0025】、【0028】、【0043】、【0056】、【0057】及び【0059】の記載からみて、引用文献4には、図1に対応する、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 「 偏光子の片面に透明保護層を形成し、偏光子の他面には粘着剤層を設け、粘着剤層の露出面には、セパレータを配置した偏光板であって、 偏光子は、入射する自然光から直線偏光を取り出す機能を有するフィルムであり、 偏光子の片面に設けられる透明保護層は、適宜な透明フィルムであり、 セパレータは、透明樹脂からなるフィルムであり、 偏光板の切断加工において、レーザーを用いることにより、耐久性試験を行った後も、偏光板を形成する偏光子の端から内側に発生する亀裂が実質存在しない偏光板を提供することが可能となり、 レーザーによる偏光板の切断加工は、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、UVレーザーなど、公知の方法が使用可能である、 所望形状に切断加工した偏光板。」 同様に、引用文献4には、図2に対応する、次の発明(以下「引用発明2」という。)も記載されている。 「 偏光子の片面に透明保護層を形成し、偏光子の他面には、粘着剤層、透明高分子フィルム及び粘着剤層をこの順に設け、粘着剤層の露出面には、セパレータを配置した偏光板であって、 偏光子は、入射する自然光から直線偏光を取り出す機能を有するフィルムであり、 偏光子の片面に設けられる透明保護層は、適宜な透明フィルムであり、 高分子フィルムは、位相差フィルムとしての機能を有し、 セパレータは、透明樹脂からなるフィルムであり、 偏光板の切断加工において、レーザーを用いることにより、耐久性試験を行った後も、偏光板を形成する偏光子の端から内側に発生する亀裂が実質存在しない偏光板を提供することが可能となり、 レーザーによる偏光板の切断加工は、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、UVレーザーなど、公知の方法が使用可能である、 所望形状に切断加工した偏光板。」 (3)対比 ア 引用発明1 本件補正後発明と引用発明1とを対比すると、以下のとおりとなる。 (ア)偏光子、光学フィルム、偏光板 引用発明1の「偏光板」は、「偏光子の片面に透明保護層を形成し、偏光子の他面には粘着剤層を設け、粘着剤層の露出面には、セパレータを配置した」ものである。 ここで、引用発明1の「偏光子」は、「入射する自然光から直線偏光を取り出す機能を有するフィルム」であるから、フィルム状のものである。 また、引用発明1の「透明保護層は、適宜な透明フィルムであり」、「セパレータは、透明樹脂からなるフィルム」であるから、いずれも、本件補正後発明でいう、偏光子に重なる光学フィルムといえる。 (当合議体注:本件出願の明細書の【0019】の記載からみて、引用発明1の「透明保護層」や「セパレータ」も、本件補正後発明でいう「光学フィルム」に該当する。) そうしてみると、引用発明1の「偏光子」、「透明保護層」、「セパレータ」及び「偏光板」は、それぞれ、本件補正後発明の「偏光子」、「光学フィルム」、「光学フィルム」及び「偏光板」に相当する。また、引用発明1の「偏光板」は、本件補正後発明の「偏光板」の「フィルム状の偏光子と、前記偏光子に重なる複数の光学フィルムと、を備える」との要件を満たす。 (イ)偏光板の端面、偏光板の表面の端部 引用発明1の「所望形状に切断加工した偏光板」は、「偏光板の切断加工において、レーザーを用いることにより、耐久性試験を行った後も、偏光板を形成する偏光子の端から内側に発生する亀裂が実質存在しない偏光板」である。 上記構成からみて、引用発明1の「所望形状に切断加工した偏光板」の端面は、偏光板の外縁の端面と考えるのが自然であり、また、「所望形状に切断加工した偏光板」の表面の端部のうち前記端面に沿う部分は、偏光板の外縁の前記端面に沿う部分であるといえる。 (当合議体注:このことは、引用文献4の図1からも確認できる。) そうしてみると、引用発明1の「偏光板」は、本件補正後発明の「偏光板の端面」における、「前記偏光板の外縁の端面であり」との要件及び「偏光板の表面の端部のうち前記端面に沿う部分は、前記偏光板の前記外縁の前記端面に沿う部分である」との要件を満たす。 イ 引用発明2 本件補正後発明と引用発明2を対比しても、同様である。 (4)一致点及び相違点 事案に鑑みて、引用発明1及び引用発明2を、以下、「引用発明」と総称する。 ア 一致点 本件補正後発明と引用発明は、次の構成で一致する。 「 フィルム状の偏光子と、前記偏光子に重なる複数の光学フィルムと、を備える偏光板であって、 前記偏光板の端面は、前記偏光板の外縁の端面であり、 前記偏光板の表面の端部のうち前記端面に沿う部分は、前記偏光板の前記外縁の前記端面に沿う部分である、 偏光板。」 イ 相違点 本件補正後発明と引用発明は、次の点で相違する。 (相違点) 「偏光板」について、本件補正後発明は、「前記偏光板の端面の鉛直度が、0.04以上0.35未満であり」、「前記偏光板の表面の端部のうち前記端面に沿う部分における偏光解消部の幅が、0.00μm以上20μm未満であり」という要件を満たすのに対して、引用発明は、これが明らかではない点。 (5)判断 引用文献4の【0058】の記載からみて、引用発明のレーザーによる偏光板の切断加工は、偏光板の切断端面を、溶融物の突起や溶融変形のない美麗なものとすることにより、画像表示素子への貼合において、セパレーターフィルムの剥離が容易であり、貼合部の空気の巻き込みやはがれ等の問題も生起しない偏光板を得ることを意図したものといえる。また、レーザー波長が10.6μmよりも短い9.4μmのものが推奨されていることからも理解できるとおり、偏光板の切断端面を、溶融物の突起や溶融変形のない美麗なものとするために、適切なレーザー波長を選択することは、当業者における創意工夫の範囲内であることが読み取れる。 ところで、本件出願前の当業者ならば、より美麗な切断端面が得られる、すなわち、加工表面状態の向上等が期待できる方法として、エキシマレーザーによる加工方法を周知技術として心得ている(偏光板に限ったとしても、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2(特開2007-25643号公報)の【0017】、及び同引用文献3(特開平11-183846号公報)の【0014】に、エキシマレーザーによる加工の例が記載されている。なお、引用文献2は空隙の加工であり、外縁の端面の加工ではないが、引用発明を前提としてエキシマレーザによる加工を採用する場合には、必然的に、外縁の端面の加工となる。)。 そうしてみると、当業者が、引用発明において、より美麗な切断端面を得ることを目的として、エキシマレーザーによる偏光板の切断加工を採用することは、容易に着想することができたものといえる。また、炭酸ガスレーザーよりも波長の短い(波長が紫外域にある)エキシマレーザーによれば、原理上、熱的なダメージをほぼ与えることなく偏光板を切断加工することができる(当合議体注:炭酸ガスレーザによる切断は、樹脂の熱による溶融を原理とするのに対し、エキシマレーザによる切断は、樹脂の化学結合の切断を原理とする。)。さらに、相違点に係る「前記偏光板の端面の鉛直度が、0.04以上0.35未満であり」、「前記偏光板の表面の端部のうち前記端面に沿う部分における偏光解消部の幅が、0.00μm以上20μm未満であり」という条件は、エキシマレーザーによる切断加工においては、非常に緩い条件と考えられる(当合議体注:集光の関係で、鉛直度が0.04を下回るとはいえない。)。 したがって、周知技術を心得た当業者が、引用発明におけるレーザーによる切断加工として、エキシマレーザーによる方法を採用することにより、上記相違点に係る本件補正後発明の構成を具備するものとすることは、容易に発明をすることができたことといえる。 (6)発明の効果について 本件補正後発明の効果について、本件出願の明細書の【0016】には、「本発明によれば、光漏れと光学フィルムの剥離とを抑制することができる偏光板、及び当該偏光板を含む画像表示装置が提供される。」と記載されている。 しかしながら、このような効果は、本件出願当時本件補正後発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものであるということができない。また、本件補正後発明の効果は、本件補正後発明の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるということもできない。 (7)審判請求人の主張について 審判請求人は、令和2年9月23日提出の審判請求書において、「本願請求項1に係る発明は、層間剥離及び光漏れという両課題を、端面の鉛直度及び偏光解消部の幅に基づいて解決するという着想に基づいてはじめて想到し得たものであり、単に美麗な切断端面をレーザーで形成するという抽象的な目的のために、本願請求項1に記載の鉛直度及び偏光解消部の幅其々の具体的数値範囲に想到することは、当業者といえども困難です。」と主張している。 しかしながら、上記(5)で述べたとおりであり、審判請求人の上記主張は、採用することができない。 (8)小括 したがって、本件補正後発明は、引用文献4の記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 3 補正却下の決定のむすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記「第2 令和2年9月23日にされた手続補正についての補正の却下の決定」[結論]のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、概略、本件出願の請求項1に係る発明(本願発明)は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(引用文献4)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 記 引用文献2:特開2007-25643号公報 引用文献3:特開平11-183846号公報 引用文献4:特開2010-277018号公報 (当合議体注:引用文献2及び引用文献3は周知技術を例示する文献である。) 3 引用文献及び引用発明 引用文献4の記載及び引用発明は、上記第2[理由]2(2)ア及びイに記載したとおりである。 4 対比及び判断 本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本件補正後発明から、上記第2[理由]1の補正事項に係る数値範囲を拡張したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定した本件補正後発明が、上記第2[理由]2に記載したとおり、引用文献4に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献4に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2021-05-27 |
結審通知日 | 2021-06-01 |
審決日 | 2021-06-25 |
出願番号 | 特願2017-188925(P2017-188925) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 池田 博一 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
井口 猶二 関根 洋之 |
発明の名称 | 偏光板及び画像表示装置 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 三上 敬史 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 阿部 寛 |
代理人 | 清水 義憲 |