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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B |
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管理番号 | 1377112 |
審判番号 | 不服2021-2484 |
総通号数 | 262 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2021-10-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-02-25 |
確定日 | 2021-09-02 |
事件の表示 | 特願2017- 33197「シース材およびケーブル」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月 6日出願公開、特開2018-139177、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成29年2月24日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和 2年 9月14日付け :拒絶理由通知書 令和 2年11月19日 :意見書、手続補正書の提出 令和 2年11月27日付け :拒絶査定(原査定) 令和 3年 2月25日 :審判請求書、手続補正書の提出 第2 原査定の概要 原査定(令和2年11月27日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 1.(進歩性)この出願の請求項1、2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.特開2016-095992号公報 第3 本願発明 本願請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」という。)は、令和3年2月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 導体に絶縁層が被覆された複数本の電線を撚り合せて形成されたコアと、 コアの周囲に設けられる外被層と、を備えるキャブタイヤケーブルにおいて、 前記外被層は、 ポリクロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレンから選択される少なくとも1種以上の塩素系ゴムと、 エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、これらの共重合体の変性物、および、これらの共重合体を構成する2種類のモノマーと他のモノマーとの三元共重合体から選択される少なくとも1種類以上のエチレン系コポリマとの混合物を有し、 更に補強剤としてカーボンブラックを含有するエラストマー樹脂組成物の架橋物よりなり、 前記外被層は、 前記外被層間の最大静止摩擦係数が1.0未満であり、 Aタイプデュロメータで測定される硬さが85未満であり、 前記塩素系ゴムと、前記エチレン系コポリマとの重量比が70:30?80:20である、キャブタイヤケーブル。 【請求項2】 請求項1記載のキャブタイヤケーブルにおいて、 前記塩素系ゴムは、塩素化ポリエチレンであり、前記エチレン系コポリマは、エチレン-酢酸ビニル共重合体である、キャブタイヤケーブル。」 第4 引用文献、引用発明 原査定の拒絶理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(当審注:下線は、参考のために当審で付与したものである。以下、同じ。) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、電線およびケーブルに関する。 【背景技術】 【0002】 建築物の屋内外配線や、分電盤、動力制御盤等の幹線として、例えば、架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル(以下、CV)が使用されている。CVは、電気特性に優れ、軽量で取り扱いが容易であることから、電力用ケーブルとして幅広く普及している。 ・・・中略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 電線・ケーブルは、太くなるほど、硬くなり、曲げることが困難となる。このため、電線・ケーブルの許容曲げ半径が大きくなる。許容曲げ半径の大きい電線・ケーブルは、配線スペースを広くとることが必要となるため、狭所での配線が困難となる可能性がある。また、硬い電線・ケーブルを極端に屈曲させた場合、屈曲箇所に欠陥が生じ、ケーブル性能を劣化させてしまう可能性がある。このような傾向は、電線・ケーブルが太くなるほど、また使用環境が低温であるほど、顕著となる。」 「【0011】 <本発明の第1実施形態> (1)電線 本発明の第1実施形態にかかる電線について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る電線の軸方向と直交する断面図である。 【0012】 図1に示されているように、本実施形態に係る電線10は、導体110と、導体110の外周を覆うように設けられた絶縁体120と、絶縁体120の外周を覆うように設けられた電線シース130と、を有する。導体110の断面積は、例えば、150mm^(2)の±10%以内であり、すなわち、135mm^(2)以上165mm^(2)以下である。」 「【0026】 (ベース樹脂) 絶縁体120および電線シース130は、塩素化ポリエチレン(CPE)と、CPE以外のポリオレフィン系樹脂と、を含むベース樹脂を含む樹脂組成物からなる。 【0027】 ベース樹脂に含まれるCPE中の塩素量は、例えば30%以上45%以下であり、好ましくは、35%以上40%以下である。CPE中の塩素量が30%未満である場合、絶縁体および電線シースが所定の硬さよりも硬くなるとともに、電線の難燃性が低下する可能性がある。これに対して、本実施形態では、CPE中の塩素量が30%以上であることにより、絶縁体120および電線シース130を所定の硬さ以下となるように柔らかくすることができるとともに、電線10の難燃性を向上させることができる。さらに、CPE中の塩素量が35%以上であることにより、電線10の柔軟性および難燃性をさらに向上させることができる。一方、CPE中の塩素量が45%を超える場合、電線の耐熱性が不十分となる可能性がある。これに対して、本実施形態では、CPE中の塩素量が45%以下であることにより、電線10の耐熱性を向上させることができる。さらに、CPE中の塩素量が40%以下であることにより、電線10の耐熱性をさらに向上させることができる。 【0028】 ベース樹脂におけるCPEの含有量は、ベース樹脂の全体を100重量部としたとき、例えば20重量部以上60重量部以下である。CPEの含有量が20重量部未満である場合、電線の伸び特性(可とう性)が低下する傾向があり、また電線の難燃性が不十分となる可能性がある。これに対して、本実施形態では、CPEの含有量が20重量部以上であることにより、電線10の伸び特性を向上させるとともに、電線10の難燃性を向上させることができる。さらに、CPEの含有量は30重量部以上であることが好ましい。これにより、電線10の伸び特性および難燃性をさらに向上させることができる。一方、CPEの含有量が60重量部を超える場合、電線の耐熱性が不十分となる可能性がある。これに対して、本実施形態では、CPEの含有量が60重量部以下であることにより、電線10の耐熱性を向上させることができる。さらに、CPEの含有量は40重量部以下であることが好ましい。これにより、電線10の耐熱性をさらに向上させることができる。 【0029】 ベース樹脂のCPEとしては、単独のCPE、または2種以上混合したCPEを用いることができる。また、ベース樹脂のCPEとして、非晶性、反結晶性、または結晶性のいずれのCPEが用いられても良い。 【0030】 ベース樹脂は、上記した20重量部以上60重量部以下のCPEと、CPE以外のポリオレフィン系樹脂と、を合計で100重量部含む。すなわち、CPE以外のポリオレフィン系樹脂の含有量は、40重量部以上80重量部以下である。 【0031】 CPE以外のポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、直鎖状超低密度ポリエチレン(VLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-ブテン-ヘキセン三元共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、エチレン-オクテン共重合体(EOR)、エチレン共重合ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、ポリ-4-メチル-ペンテン-1、マレイン酸グラフト低密度ポリエチレン、水素添加スチレン-ブタジエン共重合体(H-SBR)、マレイン酸グラフト直鎖状低密度ポリエチレン、エチレンと炭素数が4以上20以下のα-オレフィンとの共重合体、エチレン-スチレン共重合体、マレイン酸グラフトエチレン-メチルアクリレート共重合体、マレイン酸グラフトエチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-無水マレイン酸共重合体、エチレン-エチルアクリレート-無水マレイン酸三元共重合体、ブテン-1を主成分とするエチレン-プロピレン-ブテン-1三元共重合体等が挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、1種類を単独で、または2種類以上を混合して用いることができる。 【0032】 好ましくは、ポリオレフィン系樹脂は、EVAである。EVAは結晶性の低いポリマであるため、電線10を柔らかくすることができる。さらに好ましくは、ポリオレフィン系樹脂は、VA量が25%以上35%以下のEVAである。EVA中のVA量が25%未満である場合、EVAが結晶性のポリエチレンに近づき、絶縁体および電線シースが所定の硬さよりも硬くなる可能性がある。これに対して、本実施形態では、EVA中のVA量が25%以上であることにより、EVAの結晶性を低下させ、絶縁体120および電線シース130を所定の硬さ以下となるように柔らかくすることができる。一方、EVA中のVA量が35%を超える場合、電線の強度および耐熱性が低下する可能性がある。これに対して、本実施形態では、EVA中のVA量が35%以下であることにより、電線10の強度および耐熱性が低下することを抑制することができる。」 「【0038】 (その他の添加剤) 絶縁体120および電線シース130を構成する樹脂組成物には、上記の材料以外にも、必要に応じて、酸化防止剤、金属不活性剤、架橋剤、架橋助剤、滑剤、無機充填剤、相溶化剤、着色剤等の添加剤を加えることができる。更に、樹脂組成物は、電子線などの放射線により架橋してもよい。 ・・・中略・・・ 【0048】 着色剤としては、例えば、カーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、ゴム用カーボンブラック(N900-N100:ASTM D1765-01)が挙げられる。 【0049】 その他の着色剤としては、例えば、カラーマスターバッチ等が挙げられる。 【0050】 以上のような樹脂組成物により、絶縁体120および電線シース130が構成される。例えば、絶縁体120を構成する樹脂組成物はカーボンブラック等の着色剤を含まず、電線シース130を構成する樹脂組成物はカーボンブラック等の着色剤を含む。本実施形態では、例えば、電線シース130を構成する樹脂組成物の組成は、カーボンブラック等の着色剤を除いて、絶縁体120を構成する樹脂組成物と同様の組成である。」 「【0058】 (3)本実施形態にかかる効果 本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。 【0059】 (a)本実施形態によれば、本発明者等の鋭意検討により、導体の断面積が135mm2以上165mm2以下である場合に、所定の撓み試験における撓み量が250mm以上であり、所定の低温曲げ試験においてひびや割れが生じない電線10が初めて実現された。電線10の撓み量が250mm以上であることにより、電線10の許容曲げ半径を小さくすることができ、狭所であっても電線10を屈曲させて布設することができる。また、低温曲げ試験においてひびや割れが生じないことにより、電線10の使用環境が低温であっても、電線10の性能を劣化させるような局所的な欠陥が生じることを抑制することができる。このように、本実施形態によれば、撓み性および低温曲げ特性を向上させた電線10を提供することができる。 【0060】 (b)本実施形態によれば、導体110は、直径が0.46mm以下の素線を34本以上撚り合せた子撚り線と、子撚り線を27本以上撚り合せた親撚り線と、を有し、導体110の外径は16.8mm以上20.6mm以下である。また、絶縁体120および電線シース130のショアA硬度は88以下である。導体110が上記構成を有するとともに、絶縁体120および電線シース130が上記硬さを有することにより、撓み試験および低温曲げ試験において所定の特性を満たすことができる。 【0061】 (c)本実施形態によれば、絶縁体120および電線シース130は、塩素量が30%以上45%以下である20重量部以上60重量部以下の塩素化ポリエチレン(CPE)と、塩素化ポリエチレン以外のポリオレフィン系樹脂と、を合計で100重量部含むベース樹脂を含む樹脂組成物からなる。 【0062】 ここで、架橋ポリエチレンからなる絶縁体とポリ塩化ビニルからなるシースとを有するこれまでのCVと比較すると、これまでのCVでは、上記した撓み試験および低温曲げ試験において所定の特性を満たすことは困難であり、同時に所望の難燃性、耐熱性、および伸び特性を満たすことはさらに困難となっていた。仮にCVにおける絶縁体および電線シースの組成を変えてCVを柔らかくさせた場合であっても、同時に難燃性、耐熱性および伸び特性を向上させることは困難であった。 【0063】 これに対して、本実施形態によれば、絶縁体120および電線シース130が上記したベース樹脂を含む樹脂組成物からなることにより、絶縁体120および電線シース130のショアA硬度を88以下とすることが可能となる。これにより、上記した導体110の構成と組み合わせることで、撓み試験および低温曲げ試験において所定の特性を満たすことができる。また、絶縁体120および電線シース130が上記したベース樹脂を含む樹脂組成物からなることにより、撓み性および低温曲げ特性を向上させるとともに、難燃性、耐熱性、および伸び特性をバランス良く向上させることができる。 【0064】 (d)本実施形態によれば、ベース樹脂に含まれるCPE以外のポリオレフィン系樹脂は、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)である。EVAは結晶性の低いポリマであるため、電線10を柔らかくすることができる。 【0065】 (e)本実施形態によれば、安定剤としてのハイドロタルサイトの含有量は、例えば、ベース樹脂を100重量部としたとき、3重量部以上30重量部以下である。ハイドロタルサイトの含有量が3重量部以上であることにより、電線10の耐熱性を向上させることができる。ハイドロタルサイトの含有量が30重量部以下であることにより、電線10の伸び特性を向上させることができる。」 「【0067】 <本発明の第2実施形態> 図3を用い、本発明の第2実施形態について説明する。図3は、本実施形態に係るケーブルの軸方向と直交する断面図である。 【0068】 本実施形態は、複数の電線によってケーブルが構成される点が第1実施形態と異なる。 以下、第1実施形態と異なる要素についてのみ説明し、第1実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。 【0069】 図3に示されているように、ケーブル20は、第1の実施形態と同様の構成を有する複数の電線12を有する。本実施形態の導体110は第1実施形態と同様の構成を有し、本実施形態の絶縁体120および電線シース130は第1実施形態と同様の樹脂組成物からなる。したがって、ケーブル20に用いられるそれぞれの電線12では、撓み試験における撓み量が250mm以上であり、低温曲げ試験においてひびおよび割れが生じない。 【0070】 本実施形態では、ケーブル20は、例えば、3本の電線12を有する。3本の電線12は、互いに撚り合わせられる。 【0071】 複数の電線12の外周を覆うように、介在240が設けられる。介在240は、例えば、電線12とともに撚り合わせられる紙等である。 【0072】 介在240の外周を覆うように、押え巻きテープ250が巻回される。押え巻きテープ250は、例えば、PET、ポリエチレン、布等からなる。なお、介在240および押さえ巻きテープ250は、使用しなくても良い。 【0073】 また、押え巻きテープ250の外周を覆うように、ケーブルシース260が設けられる。なお、本実施形態のケーブルシース260は、例えば、電線シース130と同様の樹脂組成物からなる。 【0074】 本実施形態によれば、ケーブル20が第1実施形態と同様の構成を有する複数の電線12を有することにより、撓み性および低温曲げ特性を向上させたケーブル20を提供することができる。」 「【0096】 (硬さ試験) 試料1?14において、絶縁体のシートサンプルと電線シースのシートサンプルとを重ねた状態で、JIS K6253に準拠して硬さ試験を行うことにより、ショアA硬度を求めた。」 「【0109】 表2において、CPEの含有量について、試料1?5、および試料6,7を比較する。CPEの含有量を60重量部超とした試料6では、耐熱性が不合格であった。一方、CPEの含有量を20重量部未満とした試料7では、伸び特性が低下する傾向を示し、また難燃性が不合格であった。したがって、CPEの含有量は20重量部以上60重量部以下であることが好ましいことが確認された。」 上記記載事項、特に下線部によれば、上記引用文献1には、第2実施形態について、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「導体110の外周を覆うように設けられた絶縁体120の外周を覆うように設けられた電線シース130とを有する3本の電線12は、互いに撚り合わせられ、3本の電線12の外周を覆うように、ケーブルシース260が設けられるケーブル20であって、 ケーブルシース260は、塩素化ポリエチレン(CPE)と、CPE以外のポリオレフィン系樹脂と、を含むベース樹脂を含む樹脂組成物からなり、ベース樹脂は、20重量部以上60重量部以下のCPEと、CPE以外のポリオレフィン系樹脂が40重量部以上80重量部以下であり、CPE以外のポリオレフィン系樹脂は、好ましくは、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)であり、 上記樹脂組成物には、上記の材料以外にも、必要に応じて、酸化防止剤、金属不活性剤、架橋剤、架橋助剤、滑剤、無機充填剤、相溶化剤、着色剤等の添加剤を加えることができ、樹脂組成物は、電子線などの放射線により架橋してもよく、着色剤としては、例えば、カーボンブラックが挙げられる、撓み性および低温曲げ特性を向上させたケーブル20。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 ア 本願発明1と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「互いに撚り合わせられ」た「導体110の外周を覆うように設けられた絶縁体120の外周を覆うように設けられた電線シース130とを有する3本の電線12」は、本願発明1の「導体に絶縁層が被覆された複数本の電線を撚り合せて形成されたコア」に相当するといえる。 (イ)引用発明の「3本の電線12の外周を覆う」ように設けられる「ケーブルシース260」は、本願発明1の「コアの周囲に設けられる外被層」に対応するといえる。 (ウ)引用発明の「塩素化ポリエチレン(CPE)」は、本願発明1の「ポリクロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレンから選択される少なくとも1種以上の塩素系ゴム」に含まれる「塩素化ポリエチレン」に相当する。 (エ)引用発明の「CPE以外のポリオレフィン系樹脂」が「エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)」である構成は、本願発明1の「エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、これらの共重合体の変性物、および、これらの共重合体を構成する2種類のモノマーと他のモノマーとの三元共重合体から選択される少なくとも1種類以上のエチレン系コポリマ」に含まれる「エチレン-酢酸ビニル共重合体」に相当する。 (オ)上記(ウ)、(エ)から、引用発明の「ケーブルシース260」が「塩素化ポリエチレン(CPE)と、CPE以外のポリオレフィン系樹脂と、を含むベース樹脂を含む樹脂組成物からなり」、「CPE以外のポリオレフィン系樹脂」が「エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)」であることから、引用発明と本願発明1とは、「前記外被層は、」「ポリクロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレンから選択される少なくとも1種以上の塩素系ゴムと、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、これらの共重合体の変性物、および、これらの共重合体を構成する2種類のモノマーと他のモノマーとの三元共重合体から選択される少なくとも1種類以上のエチレン系コポリマとの混合物」を有する点で一致するといえる。 (カ)引用発明の「上記樹脂組成物には、上記の材料以外にも、必要に応じて、酸化防止剤、金属不活性剤、架橋剤、架橋助剤、滑剤、無機充填剤、相溶化剤、着色剤等の添加剤を加えることができ、樹脂組成物は、電子線などの放射線により架橋してもよく、着色剤としては、例えば、カーボンブラックが挙げられる」構成は、本願発明1の「前記外被層は、」「更に補強剤としてカーボンブラックを含有するエラストマー樹脂組成物の架橋物」よりなる構成と「前記外被層は、」「更にカーボンブラックを含有するエラストマー樹脂組成物の架橋物」よりなる構成である点では共通するといえる。 (キ)引用発明の「ケーブル20」は、本願発明1の「キャブタイヤケーブル」と「ケーブル」である点では共通するといえる。 イ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 (一致点) 「導体に絶縁層が被覆された複数本の電線を撚り合せて形成されたコアと、 コアの周囲に設けられる外被層と、を備えるケーブルにおいて、 前記外被層は、 ポリクロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレンから選択される少なくとも1種以上の塩素系ゴムと、 エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、これらの共重合体の変性物、および、これらの共重合体を構成する2種類のモノマーと他のモノマーとの三元共重合体から選択される少なくとも1種類以上のエチレン系コポリマとの混合物を有し、 更にカーボンブラックを含有するエラストマー樹脂組成物の架橋物よりなる、 ケーブル。」 (相違点1) 本願発明1は、「キャブタイヤケーブル」であるのに対し、引用発明は「ケーブル」であり、そのような用途の特定はない点。 (相違点2) 本願発明1では、「前記外被層は、」「補強剤としてカーボンブラックを含有する」のに対し、引用発明では「ケーブルシース260」は、「着色剤として」「カーボンブラック」を加えている点。 (相違点3) 本願発明1は、「前記外被層は、」「前記塩素系ゴムと、前記エチレン系コポリマとの重量比が70:30?80:20」であるのに対し、引用発明では、ベース樹脂は、塩素化ポリエチレン(CPE)の含有量が20重量部以上60重量部以下であり、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)の含有量が40重量部以上80重量部以下(塩素化ポリエチレンとエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)との重量比が20:80?60:40)である点。 (相違点4) 本願発明1は、「前記外被層は、」「前記外被層間の最大静止摩擦係数が1.0未満であり、Aタイプデュロメータで測定される硬さが85未満」であるのに対し、引用発明では、電線シース130について、電線シース130間の最大静止摩擦係数、Aタイプデュロメータで測定される硬さについて特定されていない点。 (2)相違点についての判断 事案に鑑みて、「外被層」に係る上記相違点2?4について検討する。 ・相違点2について 本願発明1は、所定量のカーボンブラックを含有することにより、補強剤として機能させ、機械的強度を向上させるものであり(本願明細書段落【0039】)、機械特性を向上させること等により、ケーブル間の最大静止摩擦係数を1.0未満とすることができるものである(本願明細書段落【0053】)。 それに対して、引用文献1には、カーボンブラックについて着色剤として利用することを特定するのみであって、樹脂組成物にカーボンブラック等を補強剤として添加することは記載されておらず、示唆されてもいないので、引用発明において、「補強剤としてカーボンブラックを含有する」動機付けはない。 上記相違点2に係る本願発明1の構成は、本願の出願前に当該技術分野における周知技術であったともいえない。 そうすると、引用発明において、「補強剤としてカーボンブラックを含有する」ようにすること、すなわち、本願発明1の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 ・相違点3について 本願発明1は、「前記外被層」が、「前記塩素系ゴムと、前記エチレン系コポリマとの重量比が70:30?80:20」となることにより、ケーブルの滑性および機械特性を向上させるものである(本願明細書段落【0053】)。 それに対して、引用文献1の表1、表2には、ベース樹脂の塩素化ポリエチレン(CPE)の含有量が70重量部でエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)の含有量が30重量部とした試料6が記載されているが、引用文献1には、「CPEの含有量を60重量部超とした試料6では、耐熱性が不合格であった。」(【0109】)と記載されており、引用文献1に記載された資料6は耐熱性が不合格となったものであるから、引用発明の「ケーブル20」に採用することには動機付けがない。 加えて、引用文献1には、他に「前記塩素系ゴムと、前記エチレン系コポリマとの重量比が70:30?80:20」となるものは記載されておらず、また、「CEPの含有量は20重量部以上60重量部以下であることが好ましいことが確認された。」(【0109】)と記載されているのであるから、引用発明において、「塩素化ポリエチレンとエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)との重量比との重量比が70:30?80:20」となるようにすること、すなわち、本願発明1の相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 ・相違点4について 本願発明1は、上記相違点2、3に係る本願発明1の構成を備えることにより、「前記外被層は、」「前記外被層間の最大静止摩擦係数が1.0未満であり、Aタイプデュロメータで測定される硬さが85未満」となるものである。 引用文献1には、「また、絶縁体120および電線シース130のショアA硬度は88以下である。」(【0060】)、「(硬さ試験)試料1?14において、絶縁体のシートサンプルと電線シースのシートサンプルとを重ねた状態で、JIS K6253に準拠して硬さ試験を行うことにより、ショアA硬度を求めた。」(【0096】)と記載されているものの、電線シースやケーブルシースについて、シース間の最大静止摩擦係数、Aタイプデュロメータで測定される硬さについて何ら記載されておらず、示唆されてもいないので、引用発明において、ケーブルシースは、ケーブルシース間の最大静止摩擦係数が1.0未満であり、Aタイプデュロメータで測定される硬さが85未満にする動機付けはない。 したがって、相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2について 本願発明2も、本願発明1と同一の発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 第6 原査定について 本願発明1及び2は「前記外被層」が、「補強剤としてカーボンブラックを含有」し、「前記塩素系ゴムと、前記エチレン系コポリマとの重量比が70:30?80:20」であり、また「前記外被層間の最大静止摩擦係数が1.0未満であり、Aタイプデュロメータで測定される硬さが85未満」であるという事項を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。 したがって、原査定の理由を維持することはできない。 第7 むすび 以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。 他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2021-08-18 |
出願番号 | 特願2017-33197(P2017-33197) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01B)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 和田 財太 |
特許庁審判長 |
辻本 泰隆 |
特許庁審判官 |
小田 浩 ▲吉▼澤 雅博 |
発明の名称 | シース材およびケーブル |