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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1377126
審判番号 不服2020-10205  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-21 
確定日 2021-08-11 
事件の表示 特願2018-544231「多層液晶フィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月 8日国際公開、WO2018/043979、平成31年 4月 4日国内公表、特表2019-509515〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特願2018-544231号(以下「本件出願」という。)は、2017年(平成29年)8月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年8月31日 韓国)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和 元年 7月31日付け:拒絶理由通知書
令和 元年11月 6日 :手続補正書
令和 元年11月 6日 :意見書
令和 元年11月22日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 2月26日 :手続補正書
令和 2年 2月26日 :意見書
令和 2年 4月 3日付け:補正の却下の決定
令和 2年 4月 3日付け:拒絶査定
令和 2年 7月21日 :審判請求書

2 本願発明
令和2年2月26日にした手続補正は、令和2年4月3日付けで補正の却下の決定がなされている。したがって、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和元年11月6日にした手続補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの、次のものである。
「 第1液晶フィルム上に配向膜を形成する段階、前記配向膜の表面にコロナ処理する段階、及び、前記配向膜上に第2液晶フィルムを形成する段階を含み、
前記第1液晶フィルムは水平配向液晶フィルムであり、前記第2液晶フィルムは垂直配向液晶フィルムであり、前記配向膜は垂直配向膜であり、前記垂直配向膜は、前記水平配向液晶フィルム上に多官能アクリレート2重量%?15重量%、光開始剤0.2重量%?2重量%及び残部溶媒を含む垂直配向膜組成物を塗布して重合することで製造される、
又は、
前記第1液晶フィルムは垂直配向液晶フィルムであり、前記第2液晶フィルムは水平配向液晶フィルムであり、前記配向膜は水平配向膜であり、前記水平配向膜は、前記垂直配向液晶フィルム上に光配向膜物質を塗布して偏光された紫外線を照射することで製造される、
多層液晶フィルムの製造方法。」

第2 原査定の概要
本願発明に対して通知された原査定の拒絶の理由は、概略、本願発明は、本件出願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用文献1.特開2015-43073号公報
引用文献3.特開2003-262727号公報
引用文献4.特表2012-523581号公報
引用文献5.特開2007-86511号公報
(当合議体注:引用文献1及び引用文献3のそれぞれが主引用例である。)

第3 当合議体の判断
1 引用文献の記載及び引用発明3
(1) 引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由において引用された、特開2003-262727号公報(以下「引用文献3」という。)は、本件優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【特許請求の範囲】
…中略…
【請求項3】 長尺状の透明支持体の上方に、前記透明支持体の長手方向との角度が実質的に-15°であるラビング軸を有する第1の液晶配向膜を形成する工程と、前記第1の液晶配向膜上に円盤状液晶性化合物を含有する層を形成するとともに、前記円盤状液晶性化合物を前記ラビング軸に対して光軸が実質的に直交する方位で垂直配向させ、測定波長550nmにおける位相差が実質的にπである第1の光学異方性層を形成する工程と、前記透明支持体の上方に、前記透明支持体の長手方向との角度が実質的に15°であるラビング軸を有する第2の液晶配向膜を形成する工程と、前記第2の液晶配向膜上に棒状液晶性化合物を含有する層を形成するとともに、前記棒状液晶性化合物を前記第2の液晶配向膜の前記ラビング軸と実質的に平行する方位角で水平配向させ、測定波長550nmにおける位相差が実質的にπ/2である第2の光学異方性層を形成する工程とを含む位相差板の製造方法。


イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、反射型液晶表示装置、光ディスクの書き込み用のピックアップ、あるいは反射防止膜に利用されるλ/4板として有効な位相差板およびそれを用いた円偏光板ならびにこれらの製造方法に関する。特に本発明は、長尺状の透明支持体とその上に塗布によって形成される棒状液晶の重層構造からなる光学異方性層を有する位相差板およびそれを用いて偏光板とロールtoロールで貼り合せて製造可能な円偏光板、ならびにそれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】λ/4板は、非常に多くの用途を有しており、既に実際に使用されている。…中略…これに対し、液晶性化合物を含む光学的異方性層を少なくとも2層設けることによってより簡便に広帯域λ/4板を提供する方法が特開2001-4837号公報、同2001-21720号公報、同2000-206331号公報に開示されている。特に同一の液晶性分子を用いることが可能な特開2001-4837号公報の方法は製造コストの点からも魅力がある方法である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、液晶性化合物を含む光学的異方性層を積層して位相差板を製造する際、液晶性化合物の配向を制御することが重要となる。例えば、棒状液晶性化合物は、基板に対して水平配向させることにより、光学的異方性層を形成することができる。棒状液晶性化合物を含有する層を、ラビング処理を施された液晶配向膜上に形成すると、通常、棒状液晶性化合物はその長軸をラビング方向と一致させて水平配向する。しかし、本発明者が鋭意検討した結果、特開2001-4837号公報に開示されている液晶性分子層を形成する際に、ラビング軸と一致した方向に液晶分子が配向する通常の液晶配向膜を用いると、液晶配向の精度が低下するという問題があることが判明した。さらに棒状液晶性化合物の種類もしくは液晶組成物の組成によっては、多くの光学的欠陥が生じることが分かった。
【0004】本発明は前記諸問題に鑑みなされたものであって、広帯域(可視光波長域)において位相差板として機能するとともに、薄層化が可能であり、容易且つ安定的に製造可能な位相差板を提供することを課題とする。また、本発明は、広帯域(可視光波長域)において円偏光板として機能するとともに、薄層化が可能であり、容易且つ安定的に製造可能な円偏光板を提供することを課題とする。また、本発明は、広帯域(可視光波長域)において良好に機能するとともに、薄層化が可能である位相差板および円偏光板を、液晶性化合物分子の配向を安定的に制御することによって容易且つ安定的に製造し得る位相差板および円偏光板の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、棒状液晶および円盤状液晶に関する新規な液晶配向制御技術を提供することを課題とする。」

ウ 「【0019】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明の位相差板は、透明支持体と、その上方に、垂直配向した円盤状液晶性化合物を含むとともに測定波長550nmにおける位相差が実質的にπである第1の光学異方性層と、水平配向した棒状液晶性化合物を含むとともに測定波長550nmにおける位相差が実質的にπ/2である第2の光学異方性層とを積層した構成である。また本発明の円偏光板は、本発明の位相差板の前記透明支持体の下方に偏光膜を備えた構成である。本発明の位相差板および円偏光板において、前記第1の光学異方性層と前記第2の光学異方性層との積層順については特に制限されず、どちらが透明支持体により近い構成であってもよい。
…中略…
【0022】図1は、本発明の位相差板の基本的な構成を示す模式図である。図1に示すように、基本的な位相差板は、長尺状の透明支持体(S)および第1の光学異方性層(A)に加えて、第2の光学異方性層(B)を有する。第1の光学異方性層(A)の位相差は実質的にπであり、第2の光学異方性層(B)の位相差は実質的にπ/2である。透明支持体(S)の長手方向(s)と第1の光学異方性層(A)の面内の遅相軸(a)との角度(α)は75゜である。第1の光学異方性層(A)の配向膜のラビング軸(ra)と遅相軸(a)とは直交している。また、第2の光学異方性層(B)の面内の遅相軸(b)と透明支持体(S)の長手方向(s)との角度(β)は15゜である。第2の光学異方性層(B)の配向膜のラビング軸(rb)と遅相軸(b)の方向は一致している。そして、第2の光学異方性層(B)の面内の遅相軸(b)と光学異方性層(A)の面内の遅相軸(a)との角度(γ)は60゜である。図1に示す第1の光学異方性層(A)および第2の光学異方性層(B)は、それぞれ円盤状液晶性分子(c1)および棒状液晶性分子(c2)を含む。円盤状液晶性分子(c1)は垂直に配向し、棒状液晶性分子(c2)は、水平に配向している。円盤状液晶性分子(c1)の円盤面と光学異方性層(A)の水平面の交線が、その遅相軸(a)に相当し、棒状液晶性分子(c2)の長軸方向が、光学異方性層(B)の面内の遅相軸(b)に相当する。
…中略…
【0024】以下、本発明の位相差板の製造に用いられる材料、およびその製造例について、詳細に説明する。なお、以下の説明では便宜のため、透明支持体上に、第1および第2の光学異方性層を順次積層した構成の位相差板の製造方法について説明するが、第1および第2の光学異方性層の積層の順番は逆であってもよい。
【0025】本発明の位相差板では、まず、透明支持体の上方に、第1の光学異方性層に含有される円盤状液晶性化合物を垂直配向させ、光軸の方位角を決定する第1の液晶配向膜を形成する。本発明では、前記第1の光学異方性層中の円盤状液晶性化合物を、ラビング処理された第1の液晶配向膜を用いて、垂直配向させているとともに、光学異方性層の光軸がラビング軸に対して実質的に直交する方位に前記円盤状液晶性化合物を配向させている。即ち、円盤状液晶性化合物は、前記第1の光学異方性層において、円盤面を前記光学異方性層の水平面に対して垂直にして、且つラビング軸に対して実質的に直交する方向に円盤面を向けて積み重なって配列している。円盤状液晶性化合物分子の光軸を透明支持体の長軸方向に対して45°より大きい角度で配向させる場合は、ラビング方向に対して直交方向に円盤状液晶性分子の光軸が並ぶような液晶配向膜(以下、直交液晶配向膜という)を用いることによって、安定的な配向が達成できる。
【0026】例えば、長尺状の透明支持体の表面に、後述する直交液晶配向膜の材料となる高分子の溶液を塗布し、乾燥して膜を形成した後、ラビング処理を施して直交液晶配向膜を形成することができる。ラビング処理は、前記膜の表面を紙や布で一定方向に、数回こすることにより実施することができる。本発明では、前記透明支持体の長手方向との角度が実質的に-15°である方向にラビング処理を行うことができる。即ち、ラビング軸と前記透明支持体の長手方向との角度が実質的に-15°となるようにラビング処理することができる。形成された直交液晶配向膜上に、円盤状液晶性化合物を含む塗布液を塗布し、前記円盤状液晶性化合物を配向させると、該液晶性分子は、前記直交液晶配向膜のラビング軸に対して実質的に90°をなす方向に配向する。即ち、前記円盤状液晶性化合物は、前記透明支持体の長手方向に対して75°の方向に円盤面を向けて積み重なって配向し、πの位相差を持つ第1の光学異方性層を形成することができる。
…中略…
【0110】次に、第2の液晶配向膜を形成するとともに、前記第2の液晶配向膜上に、第2の光学異方性液晶層を形成する。前記第2の液晶配向膜は、第2の光学異方性層中の棒状液晶性化合物を、水平配向させることが可能な液晶配向膜であれば、特にその材料およびその形成方法については制限はない。例えば、有機化合物(好ましくはポリマー)からなる膜をラビング処理する方法、無機化合物を斜方蒸着する方法、マイクログルーブを有する層の形成方法、またはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例、ω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積方法等、種々の方法により、種々の材料からなる液晶配向膜を形成することができる。さらに、電場の付与、磁場の付与または光照射により、配向機能が生じる液晶配向膜も知られている。
【0111】前記第2の液晶配向膜としては、ポリマーからなる膜をラビング処理することによって形成された液晶配向膜が特に好ましい。ラビング処理は、ポリマー層の表面を、紙や布で一定方向に、数回こすることにより実施する。例えば、前記第1の光学異方性層の表面に、高分子の溶液を塗布し、乾燥して膜を形成した後、ラビング処理を施して第2の液晶配向膜を形成することができる。本発明では、前記透明支持体の長手方向との角度が実質的に15°である方向にラビング処理を行うことによって、第2の液晶配向膜を形成することができる。即ち、ラビング軸と前記透明支持体の長手方向との角度が実質的に15°となるようにラビング処理して、第2の液晶配向膜を形成することができる。形成された第2の液晶配向膜直交液晶配向膜上に、棒状液晶性化合物を含む塗布液を塗布し、前記棒状液晶性化合物を配向させると、該液晶性分子は、前記液晶配向膜のラビング軸に対して実質的に平行な方向に配向する。即ち、前記棒状液晶性化合物は、前記透明支持体の長手方向に対して15°の方向に配向し、π/2の位相差を持つ第2の光学異方性層を形成することができる。
…中略…
【0246】前記第1および第2の光学異方性層の厚さは、0.1?10μmであることが好ましく、0.5?5μmであることがさらに好ましい。
…中略…
【0249】なお、説明の便宜のため、入射光を右円偏光とする位相差板の態様を示したが、左円偏光とする態様も本発明に含まれることはいうまでもない。
…中略…
【0284】
【発明の効果】本発明者によれば、長尺状の透明支持体上に配向膜を塗布し、透明支持体の長手方向に対して75゜または15゜の方向にラビング処理してから、液晶性分子を含む光学異方性層を形成することにより、短波長領域での広帯域性を付与したλ/4板を製造することが可能になり、反射型液晶表示装置に用いた場合に黒表示させても青味がかることなく、満足のいく画像を表示できるようになった。さらに、長尺状の透明支持体上に配向膜を塗布し、透明支持体の長手方向に対して-15゜または15゜の方向にラビング処理してから、液晶性分子を含む光学異方性層を形成することにより、偏光膜とロールツーロールで貼り合わせできる位相差板が得られ、偏光膜との貼り付けをロール状態で連続にできるため、円偏光板を簡単に製造できる。
【0285】即ち、本発明によれば、広帯域(可視光波長域)において位相差板として機能するとともに、薄層化が可能であり、容易且つ安定的に製造可能な位相差板を提供することができる。また、本発明によれば、広帯域(可視光波長域)において円偏光板として機能するとともに、薄層化が可能であり、容易且つ安定的に製造可能な円偏光板を提供することができる。また、本発明によれば、広帯域(可視光波長域)において良好に機能するとともに、薄層化が可能である位相差板および円偏光板を、液晶性化合物分子の配向を安定的に制御することによって容易且つ安定的に製造し得る位相差板および円偏光板の製造方法を提供することができる。


エ 「【図1】



(2) 引用発明3
引用文献3の【0024】?【0249】には、「透明支持体上に、第1および第2の光学異方性層を順次積層した構成の位相差板の製造方法」(【0024】)として、以下の工程が記載されている。

ア 第1の液晶配向膜を形成する工程
引用文献3の【0025】には、「透明支持体の上方に、第1の光学異方性層に含有される円盤状液晶性化合物を垂直配向させ、光軸の方位角を決定する第1の液晶配向膜を形成」する工程が記載されている。

イ 第1の光学異方性層を形成する工程
引用文献3の【0026】には、「形成された直交液晶配向膜上に、円盤状液晶性化合物を含む塗布液を塗布し、前記円盤状液晶性化合物を配向させ」、「πの位相差を持つ第1の光学異方性層を形成する」工程が記載されている。
なお、ここでいう「直交液晶配向膜」とは、前記アで述べた「第1の液晶配向膜」のことである。

ウ 第2の液晶配向膜を形成する工程
引用文献3の【0111】には、「第1の光学異方性層の表面に、高分子の溶液を塗布し、乾燥して膜を形成した後、ラビング処理を施して第2の液晶配向膜を形成する」工程が記載されている。
ここで、上記「第2の液晶配向膜」は、「第2の光学異方性層中の棒状液晶性化合物を、水平配向させることが可能な液晶配向膜であ」る(【0110】)。

エ 第2の光学異方性層を形成する工程
引用文献3の【0110】には、「前記第2の液晶配向膜上に、第2の光学異方性液晶層を形成する」工程が記載されている。
なお、ここでいう「第2の光学異方性液晶層」とは、前記ウで述べた「第2の光学異方性層」のことである。

オ 上記ア?エから、引用文献3には、次の「位相差板の製造方法」の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されている。なお、用語を統一して記載した。
「 透明支持体上に、第1および第2の光学異方性層を順次積層した構成の位相差板の製造方法であって、
透明支持体の上方に、第1の光学異方性層に含有される円盤状液晶性化合物を垂直配向させ、光軸の方位角を決定する第1の液晶配向膜を形成する工程、
形成された直交液晶配向膜上に、円盤状液晶性化合物を含む塗布液を塗布し、前記円盤状液晶性化合物を配向させ、πの位相差を持つ第1の光学異方性層を形成する工程、
第1の光学異方性層の表面に、高分子の溶液を塗布し、乾燥して膜を形成した後、ラビング処理を施して第2の液晶配向膜を形成する工程、
第2の液晶配向膜上に、第2の光学異方性層を形成する工程を具備し、
第2の液晶配向膜は、第2の光学異方性層中の棒状液晶性化合物を、水平配向させることが可能な液晶配向膜である、
位相差板の製造方法。」

2 対比
本願発明と引用発明3を対比すると、以下のとおりである。
(1)第1液晶フィルム
引用発明3の「第1の光学異方性層」は、「円盤状液晶性化合物を垂直配向させ」たものである。
ここで、引用発明3の「第1の光学異方性層」は、その材料及び配向方向からみて、垂直配向液晶層である。また、「位相差板」の技術分野における技術常識を踏まえれば、引用発明3の「第1の光学異方性層」は、フィルムといえる程度の厚さのものである(当合議体注:引用文献3の【0246】の記載からも確認できる事項である。)。
してみると、引用発明3の「第1の光学異方性層」は、本願発明の「垂直配向液晶フィルムであり」とされる「第1液晶フィルム」に相当する。

(2)第1液晶フィルム上に配向膜を形成する段階
引用発明3は、「第1の光学異方性層の表面に、高分子の溶液を塗布し、乾燥して膜を形成した後、ラビング処理を施して第2の液晶配向膜を形成する工程」を具備する。
ここで、上記(1)で述べたとおり、引用発明3の「第1の光学異方性層」は、本願発明の「第1液晶フィルム」に相当する。
してみると、引用発明3の「第1の光学異方性層の表面に、高分子の溶液を塗布し、乾燥して膜を形成した後、ラビング処理を施して第2の液晶配向膜を形成する工程」は、本願発明の「第1液晶フィルム上に配向膜を形成する段階」に相当する。
また、引用発明3の「第2の液晶配向膜」は、「第2の光学異方性層中の棒状液晶性化合物を、水平配向させることが可能な液晶配向膜である」から、本願発明の「水平配向膜であり」とされる「配向膜」に相当する。

(3)前記配向膜上に第2液晶フィルムを形成する段階
引用発明3は、「第2の液晶配向膜上に、第2の光学異方性層を形成する工程を具備」する。また、引用発明3の「第2の液晶配向膜」は、「第2の光学異方性層中の棒状液晶性化合物を、水平配向させることが可能な液晶配向膜であ」る。
してみると、前記(1)と同様に対比することにより、引用発明3の「第2の光学異方性層」は、本願発明の「水平配向液晶フィルムであり」とされる「第2液晶フィルム」に相当する。
また、引用発明3の「第2の液晶配向膜上に、第2の光学異方性層を形成する工程」は、本願発明の「前記配向膜上に第2液晶フィルムを形成する段階」に相当する。

(4)多層液晶フィルムの製造方法
以上(1)?(3)の対比結果並びに引用発明及び本願発明の全体構成からみて、引用発明3の「位相差板」は、本願発明の「多層液晶フィルム」に相当する。また、引用発明3の「位相板の製造方法」と本願発明の「多層液晶フィルムの製造方法」は、「第1液晶フィルム上に配向膜を形成する段階」、「及び、前記配向膜上に第2液晶フィルムを形成する段階を含み」という点で共通する。

3 一致点及び相違点
(1)一致点
本願発明と引用発明3は、次の構成で一致する。
「 第1液晶フィルム上に配向膜を形成する段階、及び、前記配向膜上に第2液晶フィルムを形成する段階を含み、
前記第1液晶フィルムは垂直配向液晶フィルムであり、前記第2液晶フィルムは水平配向液晶フィルムであり、前記配向膜は水平配向膜である、
多層液晶フィルムの製造方法。」

(2)相違点
本願発明と引用発明3は、以下の点で相違する。
ア 相違点1
「水平配向膜」が、本願発明は、「前記垂直配向液晶フィルム上に光配向膜物質を塗布して偏光された紫外線を照射することで製造される」のに対し、引用発明3は、「第1の光学異方性層の表面に、高分子の溶液を塗布し、乾燥して膜を形成した後、ラビング処理を施」す工程で製造される点。

イ 相違点2
本願発明は、「前記配向膜の表面にコロナ処理する段階」「を含」むのに対し、引用発明3は、このような特定を有さない点。

4 判断
(1)相違点について
ア 相違点1について
引用文献3の【0110】には、「前記第2の液晶配向膜は、第2の光学異方性層中の棒状液晶性化合物を、水平配向させることが可能な液晶配向膜であれば、特にその材料およびその形成方法については制限はない」と記載されているとともに、「電場の付与、磁場の付与または光照射により、配向機能が生じる液晶配向膜も知られている」と記載されている(当合議体注:光配向膜物質や偏光された紫外線の照射による配向膜の製造については、特開2007-86511号公報(以下「引用文献5」という。)の【0065】や【0077】においても言及されているとおり、当業者に自明な手段である。)。そして、引用文献3の上記記載に接した当業者ならば、引用発明3の「ラビング処理を施して第2の液晶配向膜を形成する工程」と同等の工程として、相違点1に係る本願発明の方法により「第2の液晶配向膜を形成する工程」を理解することができる。
そうしてみると、引用発明3の「第2の液晶配向膜を形成する工程」を相違点2に係る本願発明の構成のものとすることは、引用文献3に記載された範囲内の事項にすぎない。

イ 相違点2について
膜の表面をコロナ処理することにより、膜表面の親疎水性を制御し、塗布液のぬれ性や接着性を調整し得ることは、当業者における技術常識であり、配向膜の表面処理に限ってみても、引用文献5の【0074】に記載されている。
そして、引用発明3の「第2の液晶配向膜上に第2の光学異方性層を形成する工程」において、「第2の液晶配向膜」の表面をコロナ処理する工程を採用し、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、ぬれ性や接着性を考慮する当業者が容易になし得たことである。

(2) 本願発明の効果について
ア 本件出願の明細書の【0078】には、本願発明の効果として、「本出願は、液晶フィルムの薄型化を具現するだけでなく、液晶のコーティング性、液晶の配向性及び液晶フィルムの間の接着力を向上させ得る多層液晶フィルムの製造方法を提供することができる効果がある。」と記載されている。

イ しかしながら、引用文献3の【0285】には、引用発明3の効果として、「本発明によれば、広帯域(可視光波長域)において位相差板として機能するとともに、薄層化が可能であ」ることが記載されている。また、「接着力を向上させ得る」との効果は、前記(1)イで述べたとおり創意工夫する当業者が期待する効果に他ならない。


(3) 請求人の主張について
ア 請求人は、令和2年7月21日の審判請求書の4.C(B)「発明2について」において、「段落0073の記載に照らせば引用文献5の表面処理(コロナ処理)は、ラビングによる配向膜の分子構造の乱れを補修するために行われていることは明らかである。…中略…従って、引用文献3に引用文献5を適用した場合、配向膜はラビング膜となることは依然明らかである。」と主張している。

イ しかしながら、引用文献5は、【0065】や【0077】において、配向膜の配向処理として「ラビング処理」のみならず、「光配向」することにも言及しているから、引用文献5のコロナ放電処理は、「ラビング膜」のみを対象としたものではなく、「光配向」した配向膜に実施することも想定しているといえる。そして、引用発明3において、引用文献5に見られる、コロナ放電処理を行うことが、当業者が容易に想到し得ることであることは、上記(1)アで述べたとおりである。

(4)小括
本願発明は、引用文献3に記載された発明に基づいて、本件優先日前の当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 引用文献1を引用発明とした場合
(1)引用発明1
原査定の拒絶の理由において引用された、特開2015-43073号公報(以下、「引用文献1」という。)の実施例1の製造方法から把握される発明を引用発明(以下「引用発明1」という。)とする。

(2)相違点
本願発明と引用発明1を対比すると、本願発明と引用発明1は、以下の点で相違する。
ア 相違点3
本願発明は、「前記配向膜の表面にコロナ処理する段階」「を含」むのに対し、引用発明1は、このような特定を有さない点。

イ 相違点4
「垂直配向膜組成物」が、本願発明は、「多官能アクリレート2重量%?15重量%、光開始剤0.2重量%?2重量%及び残部溶媒を含む」ものであるのに対し、引用発明1は、引用文献1の【0176】において、「中間層(アクリル1)」として把握される組成である点。

(3)判断
ア 相違点3について
前記4(1)イで述べたのと同様の理由により、引用発明1において、「中間層」の表面をコロナ処理する工程を採用し、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点4について
特表2012-523581号公報(以下、「引用文献4」という。)の【0024】?【0028】には、「液晶配向膜組成物」について、「光硬化性樹脂バインダー」として、「アクリレート又はメタクリレート系の紫外線硬化型モノマー又はオリゴマーを使用」し、「液晶配向膜組成物の総重量を基準として」、「3?15重量%で配合されることがより好ましい」こと、「光開始剤0.1?5重量%」「を含む」ことが記載されている。
当該記載に接した当業者であれば、引用発明1において、相違点4に係る本願発明の構成とすることは、容易に想到し得たことである。

(4)小括
本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、本件優先日前の当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-03-04 
結審通知日 2021-03-09 
審決日 2021-03-24 
出願番号 特願2018-544231(P2018-544231)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 慎平  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 福村 拓
河原 正
発明の名称 多層液晶フィルムの製造方法  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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