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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1377128
審判番号 不服2020-13462  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-28 
確定日 2021-08-11 
事件の表示 特願2017-500345「薄い吸収体を有する極紫外線マスクブランク作製システム及びその製造システム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月14日国際公開、WO2016/007610、平成29年 8月 3日国内公表、特表2017-521713〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)7月8日(パリ条約による優先権主張2014年7月11日、アメリカ合衆国、2015年2月11日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。

平成31年 4月17日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 7月18日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年11月29日付け:拒絶理由通知書
令和 2年 2月28日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 5月14日付け:拒絶査定(原査定)
令和 2年 9月28日 :審判請求書の提出

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、令和2年2月28日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「 【請求項3】
極紫外線(EUV)マスクブランクシステムであって、
超低膨張基板と、
前記超低膨張基板の上の多層スタックと、
前記多層スタックの上の吸収層であって、80nm未満の厚さと、13.5nmの波長における極紫外線(EUV)光の2%未満の反射率を有する吸収層と
を備え、前記吸収層が、錫(Sn)、鉛(Pb)、ハフニウム(Hf)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、又はテルル(Te)の単層を含む、システム。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の請求項3に係る発明の拒絶の理由の概要は、この出願の請求項3に係る発明は、最先の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び周知技術、又は引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基いて、最先の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。



引用文献1.特開2007-114336号公報
引用文献2.特開2009-099931号公報
引用文献3.米国特許出願公開第2010/0167181号明細書
引用文献4.特表2012-503318号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 原査定の拒絶の理由で引用された最先の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付した。以下同様。)。
「【0001】
本発明は、極端紫外光などの短波長域の露光光を使用するリソグラフィー法において好ましく用いられる反射型マスクブランク用基板の製造方法、該基板を用いた反射型マスクブランク及び反射型マスクの製造方法に関する。」

「【0024】
次に、本発明の反射型マスクブランク用基板を用いた反射型マスクブランクの製造方法について説明する。
図1(a)は、本発明により得られる反射型マスクブランクの一実施の形態の断面図である。これによると、反射型マスクブランク10は、前述の基板(本発明による反射型マスクブランク用基板1)上に、多層反射膜2、バッファ膜3、吸収体膜4を順に有する構成である。低欠陥で高平滑な表面とされた基板上に多層反射膜とバッファ膜と吸収体膜を形成して反射型マスクブランクを製造するので、低欠陥でしかもマスクの反射面となる多層反射膜の表面粗さが小さく露光光反射率を高めた反射型マスクブランクを得ることができる。
【0025】
本発明では、基板1の材料としては、ガラスを主成分とするガラス基板である。ガラス基板は良好な平滑性と平坦度が得られ、特に反射型マスク用基板として好適である。ガラス基板材料としては、低熱膨張係数を有するアモルファスガラス(例えばSiO_(2)-TiO_(2)系ガラス等)、石英ガラス、β石英固溶体を析出した結晶化ガラス等が挙げられる。基板は研磨加工により0.15nmRms以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度を有していることが高反射率および転写精度を得るために好ましい。尚、本発明において平滑性を示す単位Rmsは、二乗平均平方根粗さであり、原子間力顕微鏡で測定することができる。又本発明における平坦度は、TIR(total indicated reading)で示される表面の反り(変形量)を示す値である。これは、基板表面を元に最小二乗法で定められる平面を焦平面としたとき、この焦平面より上にある基板表面の最も高い位置と、焦平面より下にある最も低い位置の高低差の絶対値である。平滑性は10μm角エリアでの平滑性、平坦度は142mm角エリアでの平坦度で示している。」

「【0029】
吸収体膜4の材料としては、露光光の吸収率が高く、吸収体膜の下側に位置する膜(本実施の形態ではバッファ膜であるが、バッファ膜を設けない構成では多層反射膜である。)とのエッチング選択比が十分大きいものが選択される。例えば、Taを主要な金属成分とする材料が好ましい。この場合、バッファ膜にCrを主成分とする材料を用いれば、エッチング選択比を大きく(10以上)取ることができる。Taを主要な金属元素とする材料は、通常金属または合金である。また、平滑性、平坦性の点から、アモルファス状または微結晶の構造を有しているものが好ましい。Taを主要な金属元素とする材料としては、TaとBを含む材料、TaとNを含む材料、TaとBとOを含む材料、TaとBとNを含む材料、TaとSiを含む材料、TaとSiとNを含む材料、TaとGeを含む材料、TaとGeとNを含む材料等を用いることができる。TaにBやSi,Ge等を加えることにより、アモルファス状の材料が容易に得られ、平滑性を向上させることができる。また、TaにNやOを加えれば、酸化に対する耐性が向上するため、経時的な安定性を向上させることができるという効果が得られる。
【0030】
他の吸収体膜の材料としては、Crを主成分とする材料(クロム、窒化クロム等)、タングステンを主成分とする材料(窒化タングステン等)、チタンを主成分とする材料(チタン、窒化チタン)等を用いることができる。
これらの吸収体膜は、通常のスパッタ法(DCスパッタ、RFスパッタ)、イオンビームスパッタ法等の成膜法で形成することが出来る。吸収体膜の膜厚は、露光光である例えばEUV光が十分に吸収できる厚みであればよいが、通常は30?100nm程度である。
また、上記バッファ膜3は、吸収体膜4に転写パターンを形成する際に、エッチング停止層として下層の多層反射膜を保護する機能を有し、本実施の形態では多層反射膜と吸収体膜との間に形成される。なお、バッファ膜は必要に応じて設ければよい。
バッファ膜の材料としては、吸収体膜とのエッチング選択比が大きい材料が選択される。バッファ膜と吸収体膜のエッチング選択比は5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは20以上である。更に、低応力で、平滑性に優れた材料が好ましく、とくに0.3nmRms以下の平滑性を有していることが好ましい。このような観点から、バッファ膜を形成する材料は、微結晶あるいはアモルファス構造であることが好ましい。
【0031】
一般に、吸収体膜の材料には、TaやTa合金等が良く用いられている。吸収体膜の材料にTa系の材料を用いた場合、バッファ膜としては、Crを含む材料を用いるのが好ましい。例えば、Cr単体や、Crに窒素、酸素、炭素の少なくとも1つの元素が添加された材料が挙げられる。具体的には、窒化クロム(CrN)等である。
一方、吸収体膜として、Cr単体や、Crを主成分とする材料を用いる場合には、バッファ膜には、Taを主成分とする材料、例えば、TaとBを含む材料や、TaとBとNを含む材料等を用いることができる。
このバッファ膜は、反射型マスク形成時には、マスクの反射率低下を防止するために、吸収体膜に形成されたパターンに従って、パターン状に除去してもよいが、バッファ膜に露光光の透過率の大きい材料を用い、膜厚を十分薄くすることが出来れば、パターン状に除去せずに、多層反射膜を覆うように残しておいてもよい。バッファ膜は、例えば、通常のスパッタ法(DCスパッタ、RFスパッタ)、イオンビームスパッタ法等の成膜法で形成することができる。バッファ膜の膜厚は、集束イオンビーム(Focussed Ion Beam:FIB)を用いた吸収体膜パターンの修正を行う場合には、20?60nm程度にするのが好ましいが、FIBを用いない場合には、5?15nm程度としてもよい。」

「【実施例】【0034】
次に、実施例により本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。
(実施例1)
基板として、外形152mm角、厚みが6.35mmの低熱膨張のSiO_(2)-TiO_(2)系のガラス基板を用意した。このガラス基板は、厚みの均一性が50nm以内になるように形状加工し、さらに機械研磨により、0.15nmRmsの平滑な表面と100nm以下の平坦度となるようにした。
続いて、フッ酸を0.2%添加したフッ酸水溶液を用いて基板の洗浄を行い、さらに純水によるリンスとIPA蒸気による乾燥を行った。
得られた基板表面を欠陥検査装置(レーザーテック社製 MAGICS M-1350)及び原子間力顕微鏡(AFM)を用いて検査したところ、大きさが約150nm以上の異物は存在していなかったが、高さが10nmで大きさが80nm程度の異物の存在が確認された。尚、上記フッ酸水溶液を用いた洗浄によって、基板主表面の表面粗さは0.18nmRmsに増加していた。
【0035】
次に、この基板を図3に示す装置を用いてイオンビーム照射を行った。この時、イオンビームの基板主表面に対する入射角度は約56度(図3の基板位置A)とし、イオンソースと基板中心との距離は約400mm、イオンソースのビーム電圧は300V、ビーム電流は300mAとし、基板は20rpmで回転させながら、減圧下(真空中)で30分間のイオンビーム照射を行った。イオンビーム照射による基板表面の除去(エッチング)厚みは178nmであった。そして、基板主表面の表面粗さは、イオンビーム照射前の0.18nmRmsから0.09nmRmsに減少していた。
【0036】
次に、上記基板上に、多層反射膜として、露光波長13?14nmの領域の反射膜として適したMoとSiからなる交互積層膜を形成した。成膜はイオンビームスパッタリング装置を用いて行ない、まずSiターゲットを用いて、Si膜を4.2nm成膜し、その後、Moターゲットを用いて、Mo膜を2.8nm成膜し、これを1周期として40周期積層した後、最後にSi膜を4nm成膜した。合計膜厚は、284nmである。
また、得られた多層反射膜表面の表面粗さを測定したところ、0.13nmRmsとなり、得られた多層反射膜に対し、13.5nmのEUV光を入射角6.0°で反射率を測定したところ、67.1%と高い反射率であった。尚、多層反射膜の欠陥評価は、イオンビーム照射前の基板上に存在していた高さが10nmで大きさが80nm程度の異物をAFMにより追跡して行ったが、多層反射膜上には、上記異物による欠陥は確認できなかった。
【0037】
次に、上記多層反射膜上に、窒化クロム(CrN:N=10at%)からなるバッファ膜を形成した。成膜は、DCマグネトロンスパッタリング装置により行い、膜厚は20nmとした。
次いで、上記バッファ膜上に、波長13?14nmの露光光に対する吸収体膜として、Taを主成分とし、BとNを含む膜を形成した。成膜方法は、Ta及びBを含むターゲットを用いて、Arに窒素を10%添加して、DCマグネトロンスパッタリング装置によって行った。膜厚は、露光光を十分に吸収できる厚さとして、70nmとした。成膜されたTaBN膜の組成比は、Taは0.8、Bは0.1、Nは0.1であった。
以上のようにして、本実施例の反射型マスクブランクが得られた。」

2 引用発明
したがって、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「反射型マスクブランク用基板上に、多層反射膜、バッファ膜、吸収体膜を順に有する構成であり、
反射型マスクブランク用基板の材料としては、ガラスを主成分とするガラス基板であり、ガラス基板材料としては、低熱膨張係数を有するアモルファスガラス(例えばSiO_(2)-TiO_(2)系ガラス等)、石英ガラス、β石英固溶体を析出した結晶化ガラス等が挙げられ、
吸収体膜の材料としては、露光光の吸収率が高いものが選択され、Taを主要な金属成分とする材料、Crを主成分とする材料(クロム、窒化クロム等)、タングステンを主成分とする材料(窒化タングステン等)、チタンを主成分とする材料(チタン、窒化チタン)等を用いることができ、
吸収体膜の膜厚は、露光光であるEUV光が十分に吸収できる厚みであればよく、通常は30?100nm程度である
極端紫外光などの短波長域の露光光を使用するリソグラフィー法において好ましく用いられる反射型マスクブランク。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 引用発明の「極端紫外光などの短波長域の露光光を使用するリソグラフィー法において好ましく用いられる反射型マスクブランク」は、本願発明の「極紫外線(EUV)マスクブランクシステム」に、
引用発明の「『ガラスを主成分とするガラス基板であり、ガラス基板材料としては、低熱膨張係数を有するアモルファスガラス(例えばSiO_(2)-TiO_(2)系ガラス等)、石英ガラス、β石英固溶体を析出した結晶化ガラス等が』『材料として』『挙げられ』る『反射型マスクブランク用基板』」は、本願発明の「超低膨張基板」に、
引用発明の「『反射型マスクブランク用基板上』の『多層反射膜』」は、本願発明の「前記超低膨張基板の上の多層スタック」に、
それぞれ相当する。

2 引用発明は「反射型マスクブランク用基板上に、多層反射膜、バッファ膜、吸収体膜を順に有する構成」と特定されていることから、多層反射膜の上に吸収体膜を有するものである。
そうすると、引用発明の「反射型マスクブランク用基板上に、多層反射膜、バッファ膜、吸収体膜を順に有する構成であり、」「吸収体膜の膜厚は、露光光であるEUV光が十分に吸収できる厚みであればよく、通常は30?100nm程度である」と本願発明の「前記多層スタックの上の吸収層であって、80nm未満の厚さと、13.5nmの波長における極紫外線(EUV)光の2%未満の反射率を有する吸収層」は、「前記多層スタックの上の吸収層であって、30nm以上80nm未満の厚さを有する吸収層」である点で一致する。

3 以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

【一致点】
「極紫外線(EUV)マスクブランクシステムであって、
超低膨張基板と、
前記超低膨張基板の上の多層スタックと、
前記多層スタックの上の吸収層であって、30nm以上の80nm未満の厚さを有する吸収層と
を備える、システム。」

【相違点】
吸収層について、本願発明においては「13.5nmの波長 における極紫外線(EUV)光の2%未満の反射率を有」し、「錫(Sn)、鉛(Pb)、ハフニウム(Hf)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、又はテルル(Te)の単層を含む」のに対し、引用発明においては「吸収体膜の膜厚は、露光光であるEUV光が十分に吸収できる厚みであればよく」、「吸収体膜の材料としては、露光光の吸収率が高いものが選択され、Taを主要な金属成分とする材料、Crを主成分とする材料(クロム、窒化クロム等)、タングステンを主成分とする材料(窒化タングステン等)、チタンを主成分とする材料(チタン、窒化チタン)等を用いることができ」るものの、「13.5nmの波長における極紫外線(EUV)光の2%未満の反射率を有」するのか明らかでなく、「錫(Sn)、鉛(Pb)、ハフニウム(Hf)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、又はテルル(Te)の単層を含む」構成を備えていない点。

第6 判断
1 相違点について
(1)引用発明は「吸収体膜の材料としては、露光光の吸収率が高いものが選択され、Taを主要な金属成分とする材料、Crを主成分とする材料(クロム、窒化クロム等)、タングステンを主成分とする材料(窒化タングステン等)、チタンを主成分とする材料(チタン、窒化チタン)等」、「吸収体膜の膜厚は、露光光であるEUV光が十分に吸収できる厚みであればよく」と特定されており、吸収体膜の材料としては、複数例示され、露光光であるEUV光の吸収率が高いものを用いることが示唆されている。

(2)そして、EUVマスクブランクの吸収層として、EUV光に対して消衰係数が高く高吸収な材料を用いるようになすことは、周知の技術(必要ならば、引用文献2(特に、【0035】-【0039】の「逆に吸収体層4についてはEUV光に対してより吸収性の高い膜を採用することが高コントラスト化の為に求められるが、これを吸収体層4の薄膜化と同時に達成するためには既存の吸収体層4の材料よりも一層EUV光に対して高吸収となる材料が必要である。」、「SnOの消衰係数は、従来の吸収体層4のベース材料であるTaの消衰係数0.041と比較するとTaの消衰係数の約1.8倍大きくなっている。」等、図3参照。)、引用文献3(特に、[0030]の「The absorber layer pattern 340a preferably comprises a material having an extinction coefficient (k) to EUV higher than that of tantalum (Ta). 」参照。)、特開2011-176162号公報(特に、【0048】の「吸収層の材料としてはEUVの露光波長において消衰係数が大きいことが好ましい」参照。)等を参照されたい。)である。

(3)また、EUV光に対して消衰係数が高く高吸収な材料として、錫(Sn)、ハフニウム(Hf)、アンチモン(Sb)、又はテルル(Te)は周知(必要ならば、引用文献2(特に、図3から、SnO、Sb、Te、HfがEUVマスクブランクの吸収層の材料として検討されており、また使用可能であることが示唆されていることが読み取れる。)、特開2011-176162号公報(特に、【0048】の「吸収層の材料としてはEUVの露光波長において消衰係数が大きいことが好ましいことから、タンタル以外の材料としてハフニウムを用いてもよい。」との記載を参照。)、特開2004-6798号公報(特に、【0025】の「『吸収体層16』の『露光光吸収体としては、』『錫、アンチモン、テルル、』『ハフニウム』『から選ばれる少なくとも1種の物質で構成することが好ましい。』 」との記載を参照。)を参照されたい。)である。

上記周知のものとして例示した引用文献2の図3は以下のとおりである。


(4)さらに、引用発明は「吸収体膜の材料としては、露光光の吸収率が高いものが選択され、」「吸収体膜の膜厚は、露光光であるEUV光が十分に吸収できる厚みであればよく」と特定されていることからして、EUVが十分に吸収でき反射率を低くすることも示唆されているので、EUV光の反射率を2%未満とすることは適宜決定する事項にすぎない。
なお、本願の明細書を参照しても、吸収層として極紫外線(EUV)光の2%未満の反射率とすることに、臨界的意義があるとは解せない。
加えて、引用文献1の【0031】には、吸収体膜として、Cr単体を用いることについて記載されており、吸収体膜を、クロムの単層で構成することが示唆されているといえる。

(5)そうすると、引用発明において、吸収体膜の材料としては、露光光であるEUV光の吸収率が高いものを用いることとの上記示唆及び周知の技術を考慮し、吸収体膜の材料として、錫(Sn)、ハフニウム(Hf)、アンチモン(Sb)、又はテルル(Te)を選択し、吸収体膜が、当該材料の単層を含み、吸収体膜のEUV光の反射率を2%未満として、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。

2 効果について
そして、相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

3 まとめ
したがって、本願発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明することができたものである。

4 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において「このような吸収層の単層が、錫(Sn)、鉛(Pb)、ハフニウム(Hf)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、又はテルル(Te)の単層を含むようにすることは、引用文献1?3には開示も示唆もされておりません。」旨主張している。

しかしながら、上記1で検討したとおりである。
したがって、審判請求人の主張は採用することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、最先の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-02-26 
結審通知日 2021-03-02 
審決日 2021-03-23 
出願番号 特願2017-500345(P2017-500345)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷 潮  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 野村 伸雄
近藤 幸浩
発明の名称 薄い吸収体を有する極紫外線マスクブランク作製システム及びその製造システム  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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