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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
管理番号 1377161
審判番号 不服2020-909  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-01-23 
確定日 2021-08-11 
事件の表示 特願2018-509784「固体すすぎ補助製品におけるピリチオン防腐剤系」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 2日国際公開、WO2017/035006、平成30年 9月 6日国内公表、特表2018-525501〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年8月19日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年8月21日(US)米国〕を国際出願日とする特許出願であって、
平成31年4月22日付けの拒絶理由通知に対し、令和元年7月25日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、
令和元年9月13日付けの拒絶査定(謄本発送は、同年同月24日)に対し、令和2年1月23日付けで審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、
令和2年9月9日付けの当審による拒絶理由通知に対し、令和2年12月9日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?43に係る発明は、令和2年12月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?43に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下「本1発明」ともいう。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】0.70wt%?10wt%のピリチオン防腐剤であって、ピリチオンのアルカリ金属塩、ピリチオンのアミン塩、または酸形態のピリチオンを含む、ピリチオン防腐剤と、
ソルビン酸、安息香酸、フマル酸、クエン酸、クエン酸一ナトリウム又はこれらの組み合わせを含む、1wt%?15wt%の固体酸と、
尿素を含む、5wt%?40wt%の硬化剤と、
0.5wt%?75wt%の、一つ又は複数の非イオン性界面活性剤と、
を含む、固体すすぎ補助組成物であって、
前記非イオン性界面活性剤は、式R-O-(CH_(2)CH_(2)O)_(n)-Hを有し、式中、Rは、(C_(1)-C_(12))アルキル基であり、nは、1?100の範囲の整数である、一つ又は複数のアルコールエトキシレートと、エチレンオキシド-プロピレンオキシド(EO/PO)コポリマーとを含み、前記組成物は、固体濃縮物であり、前記固体濃縮物は、中性から酸性のpHを有する安定な使用水溶液を生じる、固体すすぎ補助組成物。」

第3 令和2年9月9日付けの拒絶理由通知の概要
令和2年9月9日付けの拒絶理由通知(以下「先の拒絶理由通知」という。)には、理由1及び2として、次の理由が示されている。
「理由1:この出願の請求項1?43に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1?3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由2:この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」

そして、その「記」には、その1.(1)に示される引用刊行物、及びその2.に示される記載不備が指摘されている。
『1.(1)引用刊行物…
刊行物1:特表2010-528148号公報(原審の文献3に同じ。)
刊行物2:特表2003-511474号公報
刊行物3:特開2014-181261号公報…
2.…本願明細書の発明の詳細な説明の記載によっては、例えば「1.5wt%?10wt%のナトリウムピリチオン防腐剤」以外のもの全てにまで、特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。』

第4 当審の判断
1.理由1(進歩性)について
(1)引用刊行物の記載事項
上記刊行物1には、次の記載がある。
摘記1a:請求項1
「【請求項1】硫酸ナトリウムと、
尿素と、
水と、
1つ又は複数のアルコールエトキシレートを含むシーティング剤と、
1つ又は複数のエチレンオキシド基を有するポリマー化合物を含む消泡剤成分と
を含む固形リンス助剤組成物であって、硫酸ナトリウムと尿素の総量が前記リンス助剤組成物を固形化するのに十分なものである、固形リンス助剤組成物。」

摘記1b:段落0043
「【0043】使用できる好適なシーティング剤のいくつかの具体例には、…アルコールエトキシレート組み合わせ物が含まれる。そのような組み合わせ物は、アルコールエトキシレートC_(10-12)、21モルEOと呼ばれ得る。…例えば、シーティング剤は、約90wt%の範囲のC_(10)アルコールエトキシレートと、約10wt%のC_(12)アルコールエトキシレートを含むことができる。そのようなアルコールエトキシレート混合物の1つの例は、商品名NOVEL II 1012-21でSasolから市販されている。…」

摘記1c:段落0058?0060、0069及び0111
「【0058】[保存料]固形リンス助剤組成物はまた、有効量の保存料も含むことができる。多くの場合、固形リンス助剤組成物及び使用溶液における全体の酸性、及び/又は酸は、保存料及び安定化機能の役目を果たす。
【0059】本発明の固形リンス助剤組成物のいくつかの態様はまた、重硫酸ナトリウム及び有機酸を含む固形リンス助剤の酸性化のためのGRAS防腐系を含む。…特定のさらなる態様において、有効量の重硫酸ナトリウムと1つ又は複数の有機酸が、防腐系として固形リンス助剤組成物に含まれる。好適な有機酸には、ソルビン酸、安息香酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、クエン酸などが含まれる。一般に、追加の酸の有無にかかわらず、固形リンス助剤組成物の使用溶液が、pH4.0より低いものとする、多くの場合、pH3.0より低いものとする、そして、pH2.0より低いことさえあり得るpHを持つように、重硫酸ナトリウムの有効量が含まれる。
【0060】他の態様において、固形リンス助剤組成物は、先に記載の防腐系に加えて、又はその代わりに、殺菌剤/抗微生物薬を含む。好適な殺菌剤/抗微生物薬を以下に記載する。…
【0069】[殺菌剤/抗微生物薬]
リンス助剤は、殺菌剤を任意選択で含んでもよい。抗微生物薬としても知られる殺菌剤は、材料系、表面などの微生物汚染、及び劣化を予防するために固形機能性物質において使用される化学的組成物である。一般に、これらの材料は、フェノール類、ハロゲン化合物、四級アンモニウム化合物、金属誘導体、アミン、アルカノールアミン、ニトロ誘導体、アナリド(analides)、有機硫黄、及び硫黄-窒素化合物、並びに種々雑多な化合物を含めた特定のクラスに入る。…
【0111】…基材を洗浄した後に目に見えるフィルムの存在が特有の問題となる用途には、レストラン又は食器洗浄産業、洗車産業、及び硬質表面の掃除全般が含まれる。本発明によるリンス助剤で処理される食器洗浄産業における代表的な物品には、食卓用器具、カップ、グラス、食卓食器、及び調理道具が含まれる。」

摘記1d:段落0113?0115
「【0113】[実施例1:固形リンス助剤組成物]
本発明によるA?Fのそれぞれの製剤は、消泡剤(ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンブロックコポリマー)とシーティング剤(固形アルコールエトキシレート)、並びに有効な保存料として機能する十分な酸(ソルビン酸、安息香酸、及び重硫酸ナトリウム)と共に、固体生成のための組み合わせ物である硫酸ナトリウムと尿素を含む。実施例の製剤D及びFはまた、GRASでもあり、かつ生分解性でもある。…
【0114】【表1】

【0115】先の式で使用したアルコールエトキシレートは、Sasolから商品名NOVEL II 1012GB-21として入手可能な固形(C_(10)-C_(16))直鎖アルコールエトキシレートである。…PLURONIC 25R2は、BASF Wyandotteの商品名であり、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマーから成る。」

上記刊行物3には、次の記載がある。
摘記3a:請求項1、3及び7?8
「【請求項1】(i)含窒素化合物を含む抗微生物剤、
(ii)アルデヒド系香料、アルコール系香料、ラクトン系香料及びケトン系香料からなる群より選択される少なくとも1種の香料、並びに
(iii)有機酸及び/又はその塩
を含有することを特徴とする芳香性組成物。…
【請求項3】前記含窒素化合物が、…ナトリウムピリチオン…からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の芳香性組成物。…
【請求項7】前記有機酸がリンゴ酸及び/又はクエン酸である、請求項1?6のいずれかに記載の芳香性組成物。
【請求項8】トイレ用洗浄剤又は除菌スプレーである、請求項1?7のいずれかに記載の芳香性組成物。」

摘記3b:段落0045?0046、067及び0103
「【0045】ピリチオンは、1-ヒドロキシ-1,2-ジヒドロピリジン-2-チオンとも称される化合物である。ピリチオンの金属塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;亜鉛、銅等の2価の金属塩が挙げられる。…
【0046】これらのピリジン骨格を有する化合物の中でも、より優れた除菌作用を発揮させつつ、後述する有機酸と併用した場合に色調変化がより一層有効に抑制されるという観点から、好ましくはピリチオン及びその金属塩、更に好ましくはピリチオンの金属塩、特に好ましくはナトリウムピリチオンが挙げられる。…
【0067】本発明の芳香性組成物中の抗微生物剤(含窒素化合物)の含有量としては、所望の除菌作用が得られる程度であれば特に限定されないが、例えば0.01?30重量%、好ましくは1?30重量%、更に好ましくは10?30重量%が挙げられる。…
【0103】例えば、本発明の芳香性組成物を洗浄剤として使用する場合、当該洗浄剤として、具体的には、便器、浴室の床、バスタブ、タイル、ガラス、プラスチック製品等の硬質表面の洗浄剤が挙げられる。…」

摘記3c:段落0115?0116
「【0115】抗微生物剤としてナトリウムピリチオン(ホクサイドN38)を使用し、各種香料と有機酸(クエン酸又はリンゴ酸)とを組み合わせた処方の芳香性組成物について、色調変化の判定結果を下表4に示す。…
【0116】【表4】



(2)刊行物1に記載された発明
摘記1aの「硫酸ナトリウムと、尿素と、水と、1つ又は複数のアルコールエトキシレートを含むシーティング剤と、1つ又は複数のエチレンオキシド基を有するポリマー化合物を含む消泡剤成分とを含む固形リンス助剤組成物であって、硫酸ナトリウムと尿素の総量が前記リンス助剤組成物を固形化するのに十分なものである、固形リンス助剤組成物。」との記載、
摘記1bの「好適なシーティング剤の…アルコールエトキシレート組み合わせ物…は、アルコールエトキシレートC_(10-12)、21モルEOと呼ばれ…そのようなアルコールエトキシレート混合物の1つの例は、商品名NOVEL II 1012-21でSasolから市販されている。」との記載、
摘記1cの「特定のさらなる態様において、有効量の重硫酸ナトリウムと1つ又は複数の有機酸が、防腐系として固形リンス助剤組成物に含まれる。好適な有機酸には、ソルビン酸、安息香酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、クエン酸などが含まれる。…固形リンス助剤組成物の使用溶液が、pH4.0より低いものとする…重硫酸ナトリウムの有効量が含まれる」との記載、並びに
摘記1dの「発明によるA?Fのそれぞれの製剤は、消泡剤(ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンブロックコポリマー)とシーティング剤(固形アルコールエトキシレート)、並びに有効な保存料として機能する十分な酸(ソルビン酸、安息香酸、及び重硫酸ナトリウム)と共に、固体生成のための組み合わせ物である硫酸ナトリウムと尿素を含む。…使用したアルコールエトキシレートは、Sasolから商品名NOVEL II 1012GB-21…PLURONIC 25R2は、BASF Wyandotteの商品名であり、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマーから成る。」との記載、及び「表1」の「D」の処方成分の記載からみて、刊行物1には、
『固体生成のための組み合わせ物である硫酸ナトリウム10.00wt%と尿素26.00wt%と、水12.50wt%と、シーティング剤(C_(10-12)、21モルEOのアルコールエトキシレート)20.11wt%と、消泡剤(ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンブロックコポリマー)23.44wt%と、有効な保存料として機能する十分な酸(ソルビン酸0.50wt%、安息香酸0.50wt%、及び重硫酸ナトリウム6.67wt%)とを含む、固形リンス助剤組成物。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比
本願請求項1に係る発明(以下「本1発明」ともいう。)と刊1発明とを対比する。
刊1発明の「固体生成のための組み合わせ物である硫酸ナトリウム10.00wt%と尿素26.00wt%」は、10.0+26.0=36.0wt%と計算されるところ、刊行物1の段落0036の「リンス助剤組成物は、硫酸ナトリウムと尿素を伴う成分の化学反応により固体へと硬化する。」との記載、及び同段落0082の「硫酸ナトリウムと尿素に加えて…追加の硬化剤が…含まれてもよい。」との記載をも参酌するに、本1発明の「尿素を含む、5wt%?40wt%の硬化剤」に相当する。
刊1発明の「シーティング剤(C_(10-12)、21モルEOのアルコールエトキシレート)」は、本1発明の「式R-O-(CH_(2)CH_(2)O)_(n)-H」において、RがC_(10)ないしC_(12)のアルキル基であり、nが21モルのアルコールエトキシレートに該当するものであるから、本1発明の「式R-O-(CH_(2)CH_(2)O)_(n)-Hを有し、式中、Rは、(C_(1)-C_(12))アルキル基であり、nは、1?100の範囲の整数である、一つ又は複数のアルコールエトキシレート」の「非イオン性界面活性剤」に相当する。
刊1発明の「消泡剤(ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンブロックコポリマー)」は、本1発明の「エチレンオキシド-プロピレンオキシド(EO/PO)コポリマー」の「非イオン性界面活性剤」に相当する。
刊1発明の「シーティング剤(…)20.11wt%と、消泡剤(…)23.44wt%」は、20.11+23.44=43.55wt%と計算されるから、本1発明の「0.5wt%?75wt%の、一つ又は複数の非イオン性界面活性剤」に相当する。
刊1発明の「ソルビン酸0.50wt%、安息香酸0.50wt%」は、0.5+0.5=1wt%と計算されるから、本1発明の「ソルビン酸、安息香酸、フマル酸、クエン酸、クエン酸一ナトリウム又はこれらの組み合わせを含む、1wt%?15wt%の固体酸」に相当する。
刊1発明の「固形リンス助剤組成物」は、その「固形」との記載からみて「固体濃縮物」の形態にあることが明らかであり、なおかつ、摘記1dの「固形リンス助剤組成物の使用溶液が、pH4.0より低いものとする…重硫酸ナトリウムの有効量が含まれる」との記載からみて「重硫酸ナトリウム6.67wt%」を含む刊1発明の「固形リンス助剤組成物」を「使用溶液」とした場合のpHが酸性域にあることも明らかであるから、本1発明の「前記組成物は、固体濃縮物であり、前記固体濃縮物は、中性から酸性のpHを有する安定な使用水溶液を生じる、固体すすぎ補助組成物」に相当する。

してみると、本1発明と刊1発明は『ソルビン酸、安息香酸、フマル酸、クエン酸、クエン酸一ナトリウム又はこれらの組み合わせを含む、1wt%?15wt%の固体酸と、尿素を含む、5wt%?40wt%の硬化剤と、0.5wt%?75wt%の、一つ又は複数の非イオン性界面活性剤と、を含む、固体すすぎ補助組成物であって、前記非イオン性界面活性剤は、式R-O-(CH_(2)CH_(2)O)_(n)-Hを有し、式中、Rは、(C_(1)-C_(12))アルキル基であり、nは、1?100の範囲の整数である、一つ又は複数のアルコールエトキシレートと、エチレンオキシド-プロピレンオキシド(EO/PO)コポリマーとを含み、前記組成物は、固体濃縮物であり、前記固体濃縮物は、中性から酸性のpHを有する安定な使用水溶液を生じる、固体すすぎ補助組成物。』という点において一致し、次の(α)の点において相違する。

(α)本1発明は「0.70wt%?10wt%のピリチオン防腐剤であって、ピリチオンのアルカリ金属塩、ピリチオンのアミン塩、または酸形態のピリチオンを含む、ピリチオン防腐剤」を含むのに対して、刊1発明は「ピリチオン防腐剤」を含むものではない点。

(4)判断
上記(α)の相違点について検討する。
刊行物1には「硫黄-窒素化合物」などの「殺菌剤/抗微生物薬」を更に含んでもよいと記載されており(段落0069)、刊行物3の「ピリチオンは、1-ヒドロキシ-1,2-ジヒドロピリジン-2-チオンとも称される化合物である」との記載にあるように(段落0045)、ピリチオンは「硫黄-窒素化合物」の一種である。
そして、刊行物3には「ガラス、プラスチック製品等の硬質表面の洗浄剤」の技術分野(段落0103)において使用される「抗微生物剤」として「有機酸と併用した場合」に「より優れた除菌作用を発揮」させるという観点から「ナトリウムピリチオン」が特に好ましいこと(段落0046等)が記載されている。
してみると、刊1発明は「食器洗浄」や「硬質表面の掃除」の技術分野(段落0111)に属し、刊行物3に記載の発明と同様な技術分野に属するという点において、刊1発明に刊行物3に記載の発明を組み合わせることには強い動機付けがあるというべきであり、なおかつ、刊行物1には「硫黄-窒素化合物」の「殺菌剤/抗微生物薬」を含んでもよいとされているから、有機酸と併用した場合に「より優れた除菌作用を発揮」できることで知られる「ナトリウムピリチオン」のような硫黄-窒素化合物を「殺菌剤/抗微生物薬」として、刊行物3に記載の「好ましくは1?30重量%」という量(摘記3b)の範囲で配合するようにしてみることは、当業者にとって通常の創作能力の発揮にすぎない。

次に、本1発明の効果について検討する。
本願明細書の段落0312の「

」という試験結果においては、抗菌成分として、ナトリウムピリチオン(40%)1.75部(有効成分量=1.75×0.40=0.7wt%)とクエン酸一ナトリウム9.9部を用い、尿素29.7部を用いた本1発明の範囲内のP12の配合物(配合比は、本願明細書の【表19】を参照。)が「条件付き合格」の評価になるのに対して、ナトリウムピリチオン(40%)3.5部と無水クエン酸9.9部を用い、尿素を用いない本1発明の範囲外のP16?P17の配合物(配合比は、本願明細書の【表20】を参照。)が「合格」の評価になること(本1発明の範囲内のものに比して、本1発明の範囲外のものの方が優れた性能を発揮していること)が示されている。
してみると、本願明細書の試験結果によっては、本1発明の広範なもの全て(例えば、ピリチオン防腐剤の含有量が0.70wt%程度のものや、ピリチオン防腐剤の種類が「ナトリウムピリチオン」以外のリチウムピリチオンやモノエタノールアミンピリチオンなどの場合のものなど)が、格別予想外の顕著な効果を奏するとは認められない。
また、刊行物3の記載にあるように、クエン酸などの有機酸とナトリウムピリチオンなどのピリチオン系化合物との組み合わせ使用が「優れた除菌作用を発揮」することは、本願優先日前の技術水準において硬質表面洗浄剤を含む消費者製品の技術分野の当業者の技術常識として普通に知られているといえるので、本1発明に格別予想外の効果があるとは認められない。
加えて、先の拒絶理由通知書の第9頁の『例えば、抗菌成分以外の組成を均等なものにした上で、…実験成績証明書を提出するなどの方法により、本1発明に予想外の効果があることを具体的に立証されたい。』との指摘に対して、本1発明に予想外の効果があることを具体的に立証する「実験成績証明書」等の提出もなされていないので、本1発明に格別予想外の効果があるとは認められない。

(5)審判請求人の主張について
令和2年12月9日付けの意見書の第2?3頁において、審判請求人は『引用文献3は、窒素成分、アルデヒド、アルコール、ラクトン及び/又はケトン系香料を一つの化合物中に一緒に含有する場合に、安定した色調を提供する組成物に関します。引用文献3は、色安定化剤として有機酸を利用することにより、この課題を解決しています。したがって、引用文献3の組成物は、必須成分として有機酸と香料のみを含みます。引用文献3の組成物は、任意に、抗菌剤としてピリチオンの金属塩(例えば、ピリチオンナトリウム、ピリチオン亜鉛、ピリチオン銅)を含みます。…引用文献1におけるピリチオン系防腐剤の記載の欠如、および引用文献2及び3におけるピリチオン系防腐剤に関する狭い教示では、当業者は、本願発明の「0.70wt%?10wt%のピリチオン防腐剤であって、ピリチオンのアルカリ金属塩、ピリチオンのアミン塩、または酸形態のピリチオンを含む、ピリチオン防腐剤」を含む固体すすぎ補助組成物に至ることは容易ではありません。』と主張する。
しかしながら、刊行物3に記載の発明は、その請求項1及び3(摘記3a)の記載にあるように「ナトリウムピリチオン」などの「含窒素化合物」を(i)の必須成分として含むものであり、また、本1発明が香料を含まないことを特定している訳ではないから、上記「引用文献3の組成物は、必須成分として有機酸と香料のみを含みます。」との主張は採用できず、
刊行物1に記載の発明は、その段落0069(摘記1c)の記載にあるように「硫黄-窒素化合物」の「殺菌剤/抗微生物薬」を含んでもよいとされるものであるから、上記「引用文献1におけるピリチオン系防腐剤の記載の欠如」との主張は採用できず、
刊行物3におけるピリチオン系防腐剤に関する記載は「ナトリウムピリチオン」などの抗微生物剤(含窒素化合物)の含有量として「1?30重量%」程度が好ましいという技術常識の一般水準の一例にすぎないので、上記「引用文献2及び3におけるピリチオン系防腐剤に関する狭い教示では、…本願発明…に至ることは容易ではありません」との主張は採用できない。

(6)理由1(進歩性)のまとめ
以上総括するに、本1発明は、刊行物1及び3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.理由2(サポート要件)について
(1)明細書のサポート要件の観点について
一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(…)が証明責任を負うと解するのが相当である。…当然のことながら,その数式の示す範囲が単なる憶測ではなく,実験結果に裏付けられたものであることを明らかにしなければならないという趣旨を含むものである。』とされているところ〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕、このような観点に基づいて、本願特許請求の範囲の記載がサポート要件に違反するものであるか否かを検討する。

(2)本願発明の解決しようとする課題
本願明細書の段落0005?0006の記載を含む発明の詳細な説明の全ての記載から見て、本1発明の解決しようとする課題は『固体すすぎ補助組成物およびそれを食器洗浄用に使用し、安全で持続可能な濃縮した配合物において、望ましい洗浄すすぎ性能を与える方法、並びに濃縮した固体組成物を取り扱うための個人用保護具を必要としないすすぎ補助組成物の提供』にあるものと認められる。

(3)ピリチオン防腐剤の種類の範囲について
本願明細書の段落0282?0351には、実施例1?10として「ナトリウムピリチオン」を用いた具体例が記載されているものの、例えば、リチウムピリチオンなどのアルカリ金属塩のピリチオンや、モノエタノールアミンなどのアミノ塩のピリチオンや、酸形態のピリチオンを用いた具体例が記載されておらず、これらナトリウムピリチオン以外のピリチオン防腐剤が、安全性や、持続可能性や、望ましい洗浄すすぎ性能などの点で「ナトリウムピリチオン」と同程度の有用性を示すことを裏付ける「試験結果」は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていない。
また、本願明細書の段落0064?0065には、
「【0064】ピリチオン防腐剤系
本発明によれば、固体すすぎ補助組成物は、有効な量のピリチオン防腐剤を含む。一態様において、ピリチオン防腐剤は、ピリチオン金属塩(例えば、亜鉛)を含み、さらに、ピリチオンのアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム)、ピリチオンのアミン塩または酸形態のピリチオンを含む。ピリチオンの適切なアミン塩としては、例えば、アンモニウムピリチオンまたはモノエタノールアミンピリチオンが挙げられる。
【0065】好ましい態様において、ピリチオン防腐剤は、ナトリウムピリチオンであり、商品名でSodium OmadineおよびSodium Pyrionと呼ばれてもよく、または化学名で、1-ヒドロキシ-2(1H)-ピリジンチオンナトリウム塩(15922-78-8)および2-ピリジンthio-1-オキシドナトリウム塩(3811-73-2)、ナトリウム 2-ピリジンチオール 1-オキシド、ナトリウム 1-ヒドロキシピリジン-2-チオンおよびナトリウム 2-メルカプトピリジン-N-オキシドと呼ばれてもよい。」との記載がなされ、好ましい態様におけるピリチオン防腐剤が「ナトリウムピリチオン」であることが記載されているが、例えば「リチウムピリチオン」等のナトリウムピリチオン以外のピリチオン防腐剤が「ナトリウムピリチオン」と同程度の有用性を示し得るといえる「作用機序」の説明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていない。
さらに、上記刊行物3の段落0045?0046(摘記3b)には、各種の「ピリチオン」の中でも「ナトリウムピリチオン」が「優れた除菌作用を発揮」する点で好ましいことが記載されているところ、例えば「酸形態のピリチオン」等のナトリウムピリチオン以外のピリチオン防腐剤の有用性が「ナトリウムピリチオン」と同程度の有用性を示し得るといえる「技術常識」の存在は見当たらない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載によっては、本願請求項1に記載された「ピリチオンのアルカリ金属塩、ピリチオンのアミン塩、または酸形態のピリチオンを含む、ピリチオン防腐剤」というピリチオン防腐剤の種類の広範な範囲について、ナトリウムピリチオン以外のもの全てにまで、特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(4)ピリチオン防腐剤の配合量の範囲について
本願明細書の段落0312の「表19(酵母およびカビの計測数(Log CFU/mL))」の「試験結果」においては、抗菌成分として、ナトリウムピリチオン(40%)1.75部(有効成分量=1.75×0.40=0.7wt%)とクエン酸一ナトリウム9.9部を用い、尿素29.7部を用いた本1発明の範囲内のP12の配合物が「条件付き合格」の評価になることが示されている。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載によっては、本願請求項1に記載された「0.70wt%?10wt%のピリチオン防腐剤」というピリチオン防腐剤の配合量の広範な範囲について、その全範囲にまで、特許を受けようとする発明を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(5)審判請求人の主張について
令和2年12月9日付けの意見書の第3頁において、審判請求人は『実施例5等を参照すれば、0.70wt%のナトリウムピリチオンを含む固体すすぎ補助組成物(P11及びP12)もまた、固体すすぎ補助組成物としての有用性(種菌の数)を示しています(表16A及び18(原文中の番号。以下同じです。)等)。また、明細書段落0064には、ナトリウムピリチオン意外にも、アルカリ金属塩、ピリチオンのアミン塩、及び酸形態のピリチオンが好ましいピリチオンの形態として記載されています。これらの記載及び実施例から、当業者は補正後の本願発明が本願発明の課題である、改良された防腐効果を有し、濃縮された固体組成物を取り扱うための個人的保護具を必要としない固体すすぎ補助組成物を提供することができることを、合理的に期待することができます。』と主張する。
しかしながら、P12の配合物は、本願明細書の「表19(酵母およびカビの計測数(Log CFU/mL))」の「試験結果」にあるように「条件付き合格」の評価でしかないので、本1発明の広範な範囲のもの全てが「固体すすぎ補助組成物としての有用性」を示す範囲にあると認めることはできない。
また、本願明細書の段落0064?0065には「ナトリウムピリチオン」が「好ましい態様」の一つとして記載されているものの、それ以外の「ピリチオンのアルカリ金属塩、ピリチオンのアミン塩、または酸形態のピリチオンを含む、ピリチオン防腐剤」の全てが「ナトリウムピリチオン」と同程度の有用性を示すといえる「試験結果」や「作用機序」の記載や本願出願時の「技術常識」の存在が見当たらないので、本1発明の広範な範囲のもの全てが「固体すすぎ補助組成物としての有用性」を示す範囲にあると認めることはできない。
したがって、上記意見書の主張は採用できない。

(6)理由2(サポート要件)のまとめ
以上総括するに、本1発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないので、本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

3.むすび
以上のとおり、本1発明は、刊行物1及び3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるから、本願は特許法第49条第2号及び第4号の規定に該当し、その余のことを検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-02-24 
結審通知日 2021-03-02 
審決日 2021-03-24 
出願番号 特願2018-509784(P2018-509784)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C11D)
P 1 8・ 537- WZ (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 林 建二  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 古妻 泰一
木村 敏康
発明の名称 固体すすぎ補助製品におけるピリチオン防腐剤系  
代理人 三橋 真二  
代理人 南山 知広  
代理人 鶴田 準一  
代理人 青木 篤  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 高橋 正俊  
代理人 胡田 尚則  

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