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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02K
管理番号 1377166
審判番号 不服2020-15545  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-10 
確定日 2021-09-03 
事件の表示 特願2015-211685「ワニス処理装置、ワニス処理方法、及び、回転電機製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月18日出願公開、特開2017- 85774、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年10月28日の出願であって、令和元年7月18日付けの拒絶理由の通知に対し、令和元年11月21日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、令和2年3月17日付けで拒絶理由が通知され、令和2年5月15日に意見書が提出されたが、令和2年9月29日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対して令和2年11月10日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年9月29日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1-6に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2015-61491号公報
2.実願昭53-161802号(実開昭55-79231号)のマイクロフィルム

第3 本願発明
本願の請求項1-6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、令和元年11月21日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
回転電機の固定子又は回転子を形成させるべく用いられ、
前記固定子用のコア又は前記回転子用のコアに装着されたコイルに対してワニスによる被膜を形成させるためのワニス処理装置であって、
前記コイルに前記ワニスを供給するための供給部を備え、
該供給部が、前記コイルに当接される当接部材と、コイルに当接させた前記当接部材を通じて該コイルに前記ワニスを供給するワニス供給機構とを備え、
前記当接部材が、当接させた前記コイルの形状に応じて変形可能な柔軟性を有し、
前記コアの内側の中空部分が上下方向に貫通した状態で前記コアを回転させながら前記コイルに前記ワニスを供給するように構成されているワニス処理装置。
【請求項2】
前記当接部材が、複数の毛状体を束ねてなる刷毛部材である請求項1記載のワニス処理装置。
【請求項3】
回転電機の固定子又は回転子を形成させるべく、前記固定子用のコア又は前記回転子用のコアに装着されたコイルに対してワニスによる被膜を形成させるワニス処理方法であって、
前記コイルに前記ワニスを供給するための供給部を備えたワニス処理装置を用い、
前記供給部が前記コイルに当接される当接部材及び該当接部材に前記ワニスを供給するワニス供給機構を備え、
前記当接部材が当接させたコイルの形状に応じて変形可能な柔軟性を有しており、
コイルに当接させた前記当接部材に対して前記ワニス供給機構によってワニスを供給し、該ワニスを前記当接部材を通じて前記コイルに供給し、該コイルに供給した前記ワニスを硬化させて前記被膜を形成させ、
前記ワニスの供給では、前記コアの内側の中空部分が上下方向に貫通した状態で前記コアを回転させながら前記コイルに前記ワニスを供給するワニス処理方法。
【請求項4】
複数のスロットが前記コアに備えられ、前記コイルが前記スロットに収容されて前記コアに装着されており、
前記当接部材を通じて供給したワニスを、前記コアのスロット内壁面とコイルとの間の隙間に充填し、該充填したワニスを硬化させる請求項3記載のワニス処理方法。
【請求項5】
前記当接部材が、複数の毛状体を束ねてなる刷毛部材である請求項3又は4記載のワニス処理方法。
【請求項6】
回転電機の固定子又は回転子を形成させるべく、前記固定子用のコア又は前記回転子用のコアに装着されたコイルに対してワニスによる被膜を形成させるワニス処理が実施される回転電機製造方法であって、
請求項3乃至5の何れか1項に記載のワニス処理方法によって前記ワニス処理を実施する回転電機製造方法。」

第4 引用文献の記載及び引用発明
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。以下、同様である。)。

(1)「【背景技術】
【0002】
一般に、ステータコア及びステータコイルを備えるステータを製造するに際し、ステータコアのスロットに挿入されたステータコイル用の巻線に、ワニスが含浸され、硬化される。ワニスにより巻線をステータコアに固定するとともに、巻線間の確実な絶縁を図るためである。
【0003】
このような技術として、特許文献1には、ステータコイル用の巻線が設けられたステータコアを、回転軸線を水平にして回転させながら、ステータコアの両端部から突出した巻線のコイルエンド部分にワニスを滴下するものが記載されている。しかし、この場合、滴下したワニスが、ステータコアの端面に付着するおそれがある。付着したワニスは、硬化すると、除去するのは困難である。
【0004】
そこで、特許文献1に記載の装置においては、ワニスの滴下と並行して、滴下位置よりもステータコア側の巻線部分にエアブローを施すようにしている。これにより、ステータコアの方へ流れるワニスが吹き飛ばされるので、ステータコアの端面に対するワニスの付着が回避される。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1に記載の装置によれば、エアブローを施すための圧縮空気の供給手段やエアノズルが必要となるので、装置のコストが上昇する。また、エアブローにより吹き飛ばされたワニスがステータコアの端面に付着するおそれがある。このため、このエアブローは、ワニスの付着を回避するための対策として万全なものとはいえない。
【0007】
さらに、粘性の低いワニスがエアブローにより吹き飛ばされてしまうので、ワニスがステータコアのスロット内の巻線部分にまで含浸するのが困難となる。この結果、ステータコアに対する巻線の固定強度が低下するおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点に鑑み、ワニスを、ステータコアの端面に付着させることなく、ステータコアのスロット内の巻線部分にまで十分含浸させることができるステータ製造方法及びワニス滴下装置を提供することにある。」

(3)「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のステータ製造方法は、複数のスロットが周方向に間隔を置いて設けられた環状のステータコアと、該ステータコアに設けられたステータコイルとを備えるステータを製造する方法であって、所定の長さ、幅及び厚さを有する導線片を成形してU字状セグメントを形成する成形工程と、前記ステータコイルを形成するために、複数の前記U字状セグメントを前記ステータコアの前記スロットに挿入する挿入工程と、前記挿入工程により前記スロットに挿入された前記U字状セグメントにワニスを滴下する滴下工程とを備え、前記U字状セグメントは、そのU字形の底部に相当するコイルエンド部と、該コイルエンド部両側の2つの脚部とを有し、前記コイルエンド部は、中央の頂部と、該頂部と前記各脚部との間の斜行部とを有し、前記挿入工程における前記U字状セグメントの挿入は、所定数の該U字状セグメントがその厚さ方向に重ねられて構成されたU字状セグメント束の状態で、又は該U字状セグメント束が構成されるようにして、該U字状セグメントの前記脚部を対応する前記スロットに挿入することにより行われ、前記滴下工程におけるワニスの滴下は、前記U字状セグメントの前記斜行部によって形成される前記U字状セグメント束毎の傾斜面に対して行われることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、滴下工程において、U字状セグメント束の傾斜面に滴下されるワニスは、重力及びその濡れ性により、該傾斜面を構成する斜行部を伝わってステータコアのスロット内に誘導される。このため、ワニスの滴下が適切な量で行われた場合、滴下されたワニスがステータコアの端面に落下して残留することはない。
【0011】
スロット内に誘導されたワニスは、U字状セグメントの脚部の間や、脚部とスロットの内壁との間に浸透する。したがって、ワニスを、ステータコアの端面に付着させることなく、ステータコイルのスロット内における巻線部分としての脚部にまで十分含浸させることができる。」

(4)「【0028】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。実施形態のステータ製造方法では、図1に示すステータ1が製造される。ステータ1は、複数のスロット2が周方向に等間隔で設けられた環状のステータコア3と、ステータコア3に設けられたステータコイル4とを備える。」

(5)「【0031】
また、このステータ製造方法は、ステータコア3のスロット2に挿入されたU字状セグメント束5の第1傾斜面6a及び第2傾斜面6b(図1参照)にワニスを滴下してスロット2内にワニスを供給する滴下工程(ステップS4)を備える。
【0032】
挿入工程(ステップS2)と滴下工程(ステップS4)との間には、U字状セグメント束5を構成するU字状セグメント7(図3参照)の対応する端部同士を接続してステータコイル4の巻線を形成する接続工程(ステップS3)が設けられる。滴下工程(ステップS4)の後には、滴下工程によるワニスの滴下が行われたステータ1のワークを加熱してスロット2内のワニスを硬化させる硬化工程(ステップS5)が設けられる。」

(6)「【0037】
U字状セグメント7の第1斜行部11aによって、U字状セグメント束5毎に第1傾斜面6aが形成される。U字状セグメント7の第2斜行部11bによって、U字状セグメント束5毎に第2傾斜面6bが形成される。」

(7)「【0057】
滴下工程(ステップS4)におけるU字状セグメント束5の第1傾斜面6a及び第2傾斜面6bに対するワニスの滴下は、図6に示すワニス滴下装置30を用いて行われる。図6に示すように、ワニス滴下装置30は、ステータ1のワーク31を支持して回転させる回転部32と、回転部32により回転されるワーク31に対し、ワニスを滴下するワニス滴下部33とを備える。ワーク31は、上述の接続工程(ステップS3)までの工程により、ステータコア3にステータコイル4を構成するコイル巻線4aが形成されたものである。
【0058】
ワニス滴下部33によるワニスの滴下は、U字状セグメント7をワニスによりステータコア3に固定するために行われる。また、このワニスにより、U字状セグメント7相互間の絶縁や、U字状セグメント7とステータコア3との間の絶縁が強化される。
【0059】
ワニス滴下部33は、U字状セグメント束5の第1傾斜面6a及び第2傾斜面6b毎にワニスが順次滴下されるように、回転部32により回転されるワーク31の回転速度に対応するタイミングでワニスを滴下するように構成される。すなわち、ワニス滴下部33は、U字状セグメント束5の第1傾斜面6a及び第2傾斜面6bにワニスを滴下するための第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bと、滴下されるワニスが収容されるワニスタンク35とを備える。
【0060】
ワニスタンク35と第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bとの間には、第1ポンプ36a及び第2ポンプ36bが設けられる。第1ポンプ36aは、ワニスタンク35から第1滴下ノズル34aにワニスを供給する。第2ポンプ36bは、ワニスタンク35から第2滴下ノズル34bにワニスを供給する。
【0061】
第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bは、回転部32により支持されたワーク31に対して、テーブル装置37により位置決めされる。テーブル装置37は、X軸方向に可動なXテーブル38と、Xテーブル38上でY軸方向に可動なYテーブル39と、Yテーブル39上でZ軸方向に可動なZテーブル40とを備える。第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bは、Zテーブル40により支持される。
【0062】
また、ワニス滴下部33は、第1ポンプ36a及び第2ポンプ36bの駆動を制御するポンプ制御部41を備える。ポンプ制御部41は、第1ポンプ36a及び第2ポンプ36bの駆動を制御することにより、第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bからのワニスの滴下量及び滴下タイミングを制御する。」

(8)「【0069】
かかる位置決めの後、テーブル制御部45によりワークテーブル42が回転され、ポンプ制御部41により第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bからワニスが滴下される。この回転と滴下は、第1滴下ノズル34aから各第1傾斜面6a上の第1滴下位置46aに1滴ずつワニスが滴下され、かつ第2滴下ノズル34bから各第2傾斜面6b上の第2滴下位置46bに1滴ずつワニスが滴下されるように行われる。」

(9)「【0076】
以上のように、本実施形態によれば、滴下工程(ステップS4)において、U字状セグメント束5の第1傾斜面6a及び第2傾斜面6bにワニスを滴下し、重力及びその濡れ性を利用して、ステータコア3のスロット2内に供給することができる。その際、ワニスの1回の滴下量を適切に設定することにより、滴下されるワニスがステータコア3の端面3bに落下して付着するのを防止することができる。」

(10)上記(5)、(7)、及び図6の図示内容によると、ワニス滴下装置30は、ワーク31に対してワニスを滴下し、このワニスによって、ステータコイル4となるU字状セグメント7相互間の絶縁や、U字状セグメント7とステータコア3との間の絶縁が強化されるから、ワニス滴下装置30は、ステータコア3に形成されたステータコイル4に対してワニスによる被膜を形成させるためのものであるといえる。

(11)上記(5)-(9)、及び図6の図示内容によると、ワニス滴下装置30はワニスを滴下するためのワニス滴下部33を備え、ワニス滴下部33は、ステータコイル4にワニスを滴下するように構成され、ワニス滴下部33が、ステータコイル4に1回の滴下量が適切に設定されたワニスを1滴ずつ滴下する第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bを備えているといえる。

(12)上記(7)及び図6の図示内容によると、ワニス滴下部33は、ワニスを収容するワニスタンク35と、ワニスタンク35から第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bにワニスを供給する第1ポンプ36a及び第2ポンプ36bと、第1ポンプ36a及び第2ポンプ36bの駆動を制御するポンプ制御部41とを備え、ポンプ制御部41の制御によって、第1ポンプ36a及び第2ポンプ36bが、ワニスタンク35から第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bを通じてステータコイル4にワニスを供給しているといえる。

(13)上記(4)及び図1の図示内容によると、ステータコア3は環状であるから、その内側に中空部分を有しているといえる。そして、上記(2)-(5)、及び図5、6の図示内容によると、ワニス滴下装置30は、テーブル制御部45によりワークテーブル42を回転させて、ステータコア3の内側の中空部分が上下方向に貫通した状態でステータコア3を回転させながらステータコイル4にワニスを滴下するように構成されているといえる。

(14)上記(5)、(7)、及び図2、6の図示内容によると、ステータ製造方法の滴下工程S4はワーク31に対してワニスを滴下し、硬化工程S5は滴下工程S4によるワニスの滴下が行われたワーク31を加熱してワニスを硬化させ、このワニスによって、ステータコイル4となるU字状セグメント7相互間の絶縁や、U字状セグメント7とステータコア3との間の絶縁が強化されるから、ステータ製造方法の滴下工程S4及び硬化工程S5は、ステータを製造するべく、ステータコア3に形成されたステータコイル4に対してワニスによる被膜を形成しているといえる。

(15)上記(7)によると、滴下工程S4におけるワニスの滴下は、ステータコイル4にワニスを滴下するためのワニス滴下部33を備えたワニス滴下装置30を用いているといえる。

(16)上記(5)-(9)、及び図6の図示内容によると、ワニス滴下部33は、ステータコイル4に1回の滴下量が適切に設定されたワニスを1滴ずつ滴下する第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bを備えているといえる。

(17)上記(7)及び図6の図示内容によると、ワニス滴下部33は、ワニスを収容するワニスタンク35と、ワニスタンク35から第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bにワニスを供給する第1ポンプ36a及び第2ポンプ36bと、第1ポンプ36a及び第2ポンプ36bの駆動を制御するポンプ制御部41とを備え、ポンプ制御部41を制御することで、第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bに対して第1ポンプ36a及び第2ポンプ36bによってワニスタンク35からワニスを供給し、ワニスを第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bを通じてステータコイル4に供給しているといえる。

(18)上記(5)及び(7)によると、硬化工程S5では、ステータコイル4に滴下したワニスを硬化させて、ステータコイル4に対してワニスによる被膜を形成させるためのものであるといえる。

(19)上記(4)及び図1の図示内容によると、ステータコア3は環状であるから、その内側に中空部分を有しているといえる。そして、上記(5)-(8)、及び図5、6の図示内容によると、滴下工程S4のワニスの滴下では、テーブル制御部45によりワークテーブル42を回転させて、ステータコア3の内側の中空部分が上下方向に貫通した状態でステータコア3を回転させながらステータコイル4にワニスを滴下しているといえる。

引用文献1の上記(1)-(13)、及び図面の図示内容を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明A]
「ステータを製造するべく用いられ、
ステータコア3に形成されたステータコイル4に対してワニスによる被膜を形成させるためのワニス滴下装置30であって、
前記ステータコイル4に前記ワニスを滴下するためのワニス滴下部33を備え、
該ワニス滴下部33が、前記ステータコイル4に1回の滴下量が適切に設定された前記ワニスを1滴ずつ滴下する第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bと、前記第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bを通じて前記ステータコイル4に前記ワニスを供給する第1ポンプ36a及び第2ポンプ36bとを備え、
前記ステータコア3の内側の中空部分が上下方向に貫通した状態で前記ステータコア3を回転させながら前記ステータコイル4に前記ワニスを滴下するように構成されているワニス滴下装置30。」

また、引用文献1の上記(1)-(9)、(14)-(19)、及び図面の図示内容を総合すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明B」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明B]
「ステータを製造するべく、ステータコア3に形成されたステータコイル4に対してワニスによる被膜を形成させるステータ製造方法の滴下工程S4及び硬化工程S5であって、
前記ステータコイル4に前記ワニスを滴下するためのワニス滴下部33を備えたワニス滴下装置30を用い、
前記ワニス滴下部33が前記ステータコイル4に1回の滴下量が適切に設定された前記ワニスを1滴ずつ滴下する第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34b並びに前記第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bに前記ワニスを供給する第1ポンプ36a及び第2ポンプ36bを備え、
前記第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bに対して前記第1ポンプ36a及び第2ポンプ36bによってワニスを供給し、該ワニスを前記第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bを通じて前記ステータコイル4に供給し、該ステータコイル4に滴下した前記ワニスを硬化させて前記被膜を形成させ、
前記ワニスの滴下では、前記ステータコア3の内側の中空部分が上下方向に貫通した状態で前記ステータコア3を回転させながら前記ステータコイル4に前記ワニスを滴下するステータ製造方法の滴下工程S3及び硬化工程S4。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「本考案は可撓性を有する容器又はピストル型ハンドガンが装着された容器に塗装用刷毛が連結されていて、塗料などを刷毛内部に供給しながら連続的に均一な塗装を行なうことができ、塗装作業の能率向上、塗料などの歩留り向上及び作業環境の改善を図った簡便な塗装器具に関するものである。」(明細書第2ページ第17行-第3ページ第3行)

(2)「図面中、1は第1図に示す如く塗装用刷毛がストレート状であるストレート刷毛の刷毛ホルダー又は第2図に示す如く塗装用刷毛がアングル状を成しているアングル刷毛の刷毛ホルダーであり、このストレート状及びアングル状の刷毛ホルダー1はいずれもプラスチツク製又は金属製であり、塗料塗出側と反対側の端部には内周面に雌ネジが螺設された連結口1aが設けられ、塗料吐出側の端部にはほぼ中央部が突起したノズル部1bが設けられていて、このノズル部1bには連結口1aの底部からノズル部1bの先端に至る塗料通路孔1cが貫通して設けられている。2は自然毛、又は人工毛の刷毛であり、刷毛ホルダー1の突起したノズル部1bの外周面に取り付けられている。」(明細書第7ページ第8行-第8ページ第1行)

(3)「このようにして塗装を行なうと、ノズル部1bの塗料通路孔1cの先端から刷毛2の内部に吐出された塗料などは刷毛2の内部から先端に向って円滑に供給され、しかも刷毛2の幅全体に浸透して供給されるため均一に塗装でき、また塗料の飛散あるいは滴下もなく、更に刷毛2が接着剤4により強固に接着され且つ刷毛押えカラー3で押え付けられているため塗装中に抜毛することもなく、能率良く塗装作業を行なうことができる。」(明細書第11ページ第6-14行)

(4)上記(2)及び(3)、第1及び2図の図示内容によると、引用文献2に記載の「刷毛ホルダー1」は、「刷毛2」を通じて塗装対象に塗料を供給するものであり、また、引用文献2に記載の「刷毛2」は、自然毛又は人工毛からなる刷毛であるから、「刷毛2」は当接させた塗装対象の形状に応じて変形可能な柔軟性を有するものであるといえる。

すると、上記(1)-(3)、及び第1-4図の図示内容によれば、引用文献2には、以下の事項(以下、「引用文献2記載の事項」という。)が記載されていると認められる。

[引用文献2記載の事項]
「容器に塗装用刷毛が連結された塗装用器具及び該塗装用器具を用いた塗装方法において、塗装用刷毛が、塗装対象に当接される刷毛2と、塗装対象に当接させた刷毛2を通じて塗装対象に塗料を供給する刷毛ホルダー1とを備え、刷毛2が、当接させた塗装対象の形状に応じて変形可能な柔軟性を有し、刷毛ホルダー1から刷毛2の幅全体に塗料を浸透させて供給することによって、均一に塗装を行うことを可能とする事項。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
以下、本願発明1と引用発明Aとを対比・判断する。

ア.引用発明Aの「ステータ」は、本願発明1の「回転電機の固定子」に相当する。すると、引用発明Aの「ステータを製造するべく用いられ」るという事項は、本願発明1の「回転電機の固定子又は回転子を形成させるべく用いられ」るという事項に相当する。
イ.引用発明Aの「ステータコア3」、「ステータコイル4」及び「ワニス滴下装置30」は、それぞれ本願発明1の「固定子用のコア」、「コイル」及び「ワニス処理装置」に相当する。また、引用発明Aの「形成された」との事項は、本願発明1の「装着された」との事項に相当する。すると、引用発明Aの「ステータコア3に形成されたステータコイル4に対してワニスによる被膜を形成させるためのワニス滴下装置30」は、本願発明1の「前記固定子用のコア又は前記回転子用のコアに装着されたコイルに対してワニスによる被膜を形成させるためのワニス処理装置」に相当する。
ウ.引用発明Aの「滴下する」及び「ワニス滴下部33」は、本願発明1の「供給する」及び「供給部」に相当する。すると、引用発明Aの「前記ステータコイル4に前記ワニスを滴下するためのワニス滴下部33」は、本願発明1の「前記コイルに前記ワニスを供給するための供給部」に相当する。
エ.引用発明Aの「第1ポンプ36a及び第2ポンプ36b」は、本願発明1の「ワニス供給機構」に相当する。また、引用発明Aの「前記ステータコイル4に1回の滴下量が適切に設定された前記ワニスを1滴ずつ滴下する第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34b」と本願発明1の「前記コイルに当接される当接部材」とは、「コイルにワニスを付着させる部材」である点で共通する。そうすると、引用発明Aの「ワニス滴下部33が、前記ステータコイル4に1回の滴下量が適切に設定された前記ワニスを1滴ずつ滴下する第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bと、前記第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bを通じて前記ステータコイル4に前記ワニスを供給する第1ポンプ36a及び第2ポンプ36bとを備え」るという事項と、本願発明1の「供給部が、前記コイルに当接される当接部材と、コイルに当接させた前記当接部材を通じて該コイルに前記ワニスを供給するワニス供給機構とを備え」るという事項とは、「供給部が、コイルにワニスを付着させる部材と、前記部材を通じて該コイルに前記ワニスを供給するワニス供給機構とを備え」る点において共通する。
オ.引用発明Aの「前記ステータコア3の内側の中空部分が上下方向に貫通した状態で前記ステータコア3を回転させながら前記ステータコイル4に前記ワニスを滴下する」との事項は、本願発明1の「前記コアの内側の中空部分が上下方向に貫通した状態で前記コアを回転させながら前記コイルに前記ワニスを供給する」との事項に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明Aとは、
「回転電機の固定子又は回転子を形成させるべく用いられ、
前記固定子用のコア又は前記回転子用のコアに装着されたコイルに対してワニスによる被膜を形成させるためのワニス処理装置であって、
前記コイルに前記ワニスを供給するための供給部を備え、
前記供給部が、コイルにワニスを付着させる部材と、前記部材を通じて該コイルに前記ワニスを供給するワニス供給機構とを備え、
前記コアの内側の中空部分が上下方向に貫通した状態で前記コアを回転させながら前記コイルに前記ワニスを供給するように構成されているワニス処理装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点A]
コイルにワニスを付着させる部材が、本願発明1では、「コイルに当接される当接部材」であって、「前記当接部材が、当接させた前記コイルの形状に応じて変形可能な柔軟性を有」するものであるのに対し、引用発明Aでは、「前記ステータコイル4に1回の滴下量が適切に設定された前記ワニスを1滴ずつ滴下する第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34b」である点。

(2)相違点についての判断
相違点Aについて検討する。
引用発明Aは、第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bからステータコイル4に1回の滴下量が適切に設定されたワニスを1滴ずつ滴下するものである。
引用文献1には、発明の課題として「ワニスを、ステータコアの端面に付着させることなく、ステータコアのスロット内の巻線部分にまで十分含浸させること」(段落【0008】)が記載されており、当該課題を解決するために、「前記滴下工程におけるワニスの滴下は、前記U字状セグメントの前記斜行部によって形成される前記U字状セグメント束毎の傾斜面に対して行われる」(段落【0009】)ものである。そして、このワニスの滴下によって「U字状セグメント束の傾斜面に滴下されるワニスは、重力及びその濡れ性により、該傾斜面を構成する斜行部を伝わってステータコアのスロット内に誘導され・・ワニスの滴下が適切な量で行われた場合、滴下されたワニスがステータコアの端面に落下して残留することはない」(段落【0010】)という発明の効果の記載を考慮すると、引用発明Aは、第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bからステータコイル4に「滴下する」ワニスの滴下量を適切に設定することによって、ステータコアの端面にワニスを付着させないようにするものである。他方、引用文献2に記載の「塗装用器具」は、刷毛2を塗装対象に当接させて塗料を“塗る”ものである。そして、ワニスを滴下する場合に、その滴下量を適切に設定するのと同様に、刷毛を当接させて塗料を塗る場合に、その塗布量を設定することはできず、また、「滴下」によりステータコイル4にワニスを付着できる範囲や精度と、塗ることによりコイルにワニスを付着できる範囲や精度とは、自ずと異なる。ここで、引用発明Aは、上記のように第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bからステータコイル4に「滴下する」ワニスの滴下量を適切に設定することによって課題を解決しているものである。すると、引用発明Aと引用文献2記載の事項とは、塗装方法に関して、一方が“滴下”するものであり、他方が“塗る”ものである点において両者は異なるものであり、引用発明Aに引用文献2記載の事項を適用すると、引用発明Aにおいてワニスの量を適切に調整することができなくなるから、引用発明Aにおいて、引用発明Aと塗装方法の異なる引用文献2記載の事項を適用することには、阻害要因があり、適用できるものとはいえない。
加えて、引用文献2には、塗装対象を回転電機のステータコイル又はロータコイルとする点は記載されておらず、引用文献2に記載の「塗装用刷毛」がステータコイル又はロータコイルにおける塗装に好適であることについて何ら示唆されていないから、引用発明Aのステータコアへのワニスの供給に際し、引用文献2記載の事項を採用することの動機付けがあるとはいえない。
また仮に、刷毛を塗装対象に当接させて塗料を“塗る”ことが本願出願前から周知の事項であったとしても、引用発明Aはワニスを「滴下する」ことを前提とする発明であるから、引用発明Aにおいて本願発明1の相違点Aにかかる発明特定事項とすることには阻害要因があり、前記周知の事項をもって、当業者が前記相違点Aに係る発明特定事項を容易に想到できるものとはいえない。

そうすると、引用発明Aにおいて、引用文献2記載の事項を検討しても、前記相違点Aに係る本願発明1の発明特定事項を得ることは、当業者にとって容易であるとはいえない。

そして、本願発明1は、前記相違点Aに係る事項を有することにより、ワニス処理において、作業性を良好なものにすることと、回転電気に対して電気的な信頼性を付与させることとの両立を図ることが可能になるという、特有の作用効果を奏するものである。

したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明A及び引用文献2記載の事項に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。

2.本願発明3について
(1)対比
以下、本願発明3と引用発明Bとを対比・判断する。
ア.引用発明Bの「ステータ」、「ステータコア3」、「ステータコイル4」及び「ステータ製造方法の滴下工程S3及び硬化工程S4」は、それぞれ本願発明3の「回転電機の固定子」、「固定子用のコア」、「コイル」、「ワニス処理方法」に相当する。また、引用発明Bの「形成された」との事項は、本願発明3の「装着された」との事項に相当する。すると、引用発明Bの「ステータを製造するべく、ステータコア3に形成されたステータコイル4に対してワニスによる被膜を形成させるステータ製造方法の滴下工程S4及び硬化工程S5」は、本願発明3の「回転電機の固定子又は回転子を形成させるべく、前記固定子用のコア又は前記回転子用のコアに装着されたコイルに対してワニスによる被膜を形成させるワニス処理方法」に相当する。
イ.引用発明Bの「滴下する」、「ワニス滴下部33」及び「ワニス滴下装置30」は、本願発明3の「供給する」、「供給部」及び「ワニス処理装置」に相当する。すると、引用発明Bの「前記ステータコイル4に前記ワニスを滴下するためのワニス滴下部33を備えたワニス滴下装置30を用い」るという事項は、本願発明3の「前記コイルに前記ワニスを供給するための供給部を備えたワニス処理装置を用い」るという事項に相当する。
ウ.引用発明Bの「第1ポンプ36a及び第2ポンプ36b」は、本願発明3の「ワニス供給機構」に相当する。また、引用発明Bの「前記ステータコイル4に1回の滴下量が適切に設定された前記ワニスを1滴ずつ滴下する第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34b」と本願発明3の「前記コイルに当接される当接部材」とは、「コイルにワニスを付着させる部材」である点で共通する。そうすると、引用発明Bの「前記ワニス滴下部33が前記ステータコイル4に1回の滴下量が適切に設定された前記ワニスを1滴ずつ滴下する第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34b並びに前記第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bに前記ワニスを供給する第1ポンプ36a及び第2ポンプ36bを備え」るという事項と、本願発明3の「前記供給部が前記コイルに当接される当接部材及び該当接部材に前記ワニスを供給するワニス供給機構を備え」るという事項とは、「前記供給部がコイルにワニスを付着させる部材及び該部材に前記ワニスを供給するワニス供給機構を備え」る点において共通する。
エ.引用発明Bの「前記第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bに対して前記第1ポンプ36a及び第2ポンプ36bによってワニスを供給し、該ワニスを前記第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bを通じて前記ステータコイル4に供給」するという事項と、本願発明3の「コイルに当接させた前記当接部材に対して前記ワニス供給機構によってワニスを供給し、該ワニスを前記当接部材を通じて前記コイルに供給」するという事項とは、「コイルにワニスを付着させる部材に対して前記ワニス供給機構によってワニスを供給し、該ワニスを前記部材を通じて前記コイルに供給」する点において共通する。
オ.引用発明Bの「前記ステータコイル4に滴下した前記ワニスを硬化させて前記被膜を形成させ」るという事項は、本願発明3の「該コイルに供給した前記ワニスを硬化させて前記被膜を形成させ」るという事項に相当する。
カ.引用発明Bの「前記ワニスの滴下では、前記ステータコア3の内側の中空部分が上下方向に貫通した状態で前記ステータコア3を回転させながら前記ステータコイル4に前記ワニスを滴下する」との事項は、本願発明3の「前記ワニスの供給では、前記コアの内側の中空部分が上下方向に貫通した状態で前記コアを回転させながら前記コイルに前記ワニスを供給する」との事項に相当する。

したがって、本願発明3と引用発明Bとは、
「回転電機の固定子又は回転子を形成させるべく、前記固定子用のコア又は前記回転子用のコアに装着されたコイルに対してワニスによる被膜を形成させるワニス処理方法であって、
前記コイルに前記ワニスを供給するための供給部を備えたワニス処理装置を用い、
前記供給部がコイルにワニスを付着させる部材及び該部材に前記ワニスを供給するワニス供給機構を備え、
コイルにワニスを付着させる部材に対して前記ワニス供給機構によってワニスを供給し、該ワニスを前記部材を通じて前記コイルに供給し、該コイルに供給した前記ワニスを硬化させて前記被膜を形成させ、
前記ワニスの供給では、前記コアの内側の中空部分が上下方向に貫通した状態で前記コアを回転させながら前記コイルに前記ワニスを供給するワニス処理方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点B]
コイルにワニスを付着させる部材が、本願発明3では、「コイルに当接される当接部材」であって、「前記当接部材が当接させたコイルの形状に応じて変形可能な柔軟性を有」するものであるのに対し、引用発明Bでは、「前記ステータコイル4に1回の滴下量が適切に設定された前記ワニスを1滴ずつ滴下する第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34b」である点。

(2)相違点についての判断
相違点Bについて検討する。
引用発明Bは、第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bからステータコイル4に1回の滴下量が適切に設定されたワニスを1滴ずつ滴下するものである。
引用文献1には、発明の課題として「ワニスを、ステータコアの端面に付着させることなく、ステータコアのスロット内の巻線部分にまで十分含浸させること」(段落【0008】)が記載されており、当該課題を解決するために、「前記滴下工程におけるワニスの滴下は、前記U字状セグメントの前記斜行部によって形成される前記U字状セグメント束毎の傾斜面に対して行われる」(段落【0009】)ものである。そして、このワニスの滴下によって「U字状セグメント束の傾斜面に滴下されるワニスは、重力及びその濡れ性により、該傾斜面を構成する斜行部を伝わってステータコアのスロット内に誘導され・・ワニスの滴下が適切な量で行われた場合、滴下されたワニスがステータコアの端面に落下して残留することはない」(段落【0010】)という発明の効果の記載を考慮すると、引用発明Bは、第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bからステータコイル4に「滴下する」ワニスの滴下量を適切に設定することによって、ステータコアの端面にワニスを付着させないようにするものである。他方、引用文献2に記載の「塗装方法」は、刷毛2を塗装対象に当接させて塗料を“塗る”ものである。そして、ワニスを滴下する場合に、その滴下量を適切に設定するのと同様に、刷毛を当接させて塗料を塗る場合に、その塗布量を設定することはできず、また、「滴下」によりステータコイル4にワニスを付着できる範囲や精度と、塗ることによりコイルにワニスを付着できる範囲や精度とは、自ずと異なる。ここで、引用発明Bは、上記のように第1滴下ノズル34a及び第2滴下ノズル34bからステータコイル4に「滴下する」ワニスの滴下量を適切に設定することによって課題を解決しているものである。すると、引用発明Bと引用文献2記載の事項とは、塗装方法に関して、一方が“滴下”するものであり、他方が“塗る”ものである点において両者は異なるものであり、引用発明Bに引用文献2記載の事項を適用すると、引用発明Bにおいてワニスの量を適切に調整することができなくなるから、引用発明Bにおいて、引用発明Bと塗装方法の異なる引用文献2記載の事項を適用することには、阻害要因があり、適用できるものとはいえない。
加えて、引用文献2には、塗装対象を回転電機のステータコイル又はロータコイルとする点は記載されておらず、引用文献2に記載の「塗装用刷毛」がステータコイル又はロータコイルにおける塗装に好適であることについて何ら示唆されていないから、引用発明Bのステータコアへのワニスの供給に際し、引用文献2記載の事項を採用することの動機付けがあるとはいえない。
また仮に、刷毛を塗装対象に当接させて塗料を“塗る”ことが本願出願前から周知の事項であったとしても、引用発明Bはワニスを「滴下する」ことを前提とする発明であるから、引用発明Bにおいて本願発明3の相違点Bにかかる発明特定事項とすることには阻害要因があり、前記周知の事項をもって、当業者が前記相違点Bに係る発明特定事項を容易に想到できるものとはいえない。

そうすると、引用発明Bにおいて、引用文献2記載の事項を検討しても、前記相違点Bに係る本願発明3の発明特定事項を得ることは、当業者にとって容易であるとはいえない。

そして、本願発明3は、前記相違点Bに係る事項を有することにより、ワニス処理において、作業性を良好なものにすることと、回転電気に対して電気的な信頼性を付与させることとの両立を図ることが可能になるという、特有の作用効果を奏するものである。

したがって、本願発明3は、当業者であっても、引用発明B及び引用文献2記載の事項に基づいて、容易に発明をすることができたものではない。

3.本願発明2、4-6について
請求項2は請求項1を引用するものであり、本願発明2も、本願発明1の前記相違点Aに係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、本願発明2は、当業者であっても、引用発明A及び引用文献2記載の事項に基いて、容易に発明をすることができたものではない。
また、請求項4-6は請求項3を引用するものであり、本願発明4-6も、本願発明3の前記相違点Bに係る発明特定事項を備えるものであるから、本願発明3と同じ理由により、本願発明4-6は、当業者であっても、引用発明B及び引用文献2記載の事項に基いて、容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1-2は、当業者が引用発明A及び引用文献2記載の事項に基いて、容易に発明をすることができたものではなく、本願発明3-6は、当業者が引用発明B及び引用文献2記載の事項に基いて、容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-08-18 
出願番号 特願2015-211685(P2015-211685)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 三島木 英宏  
特許庁審判長 柿崎 拓
特許庁審判官 神山 貴行
長馬 望
発明の名称 ワニス処理装置、ワニス処理方法、及び、回転電機製造方法  
代理人 藤本 昇  
代理人 中谷 寛昭  

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