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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16H
管理番号 1377193
審判番号 不服2020-17127  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-14 
確定日 2021-09-07 
事件の表示 特願2016-236080「減速装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月14日出願公開、特開2018- 91427、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本件に係る出願は、平成28年12月 5日の出願であって、令和 2年 3月12日付けで拒絶理由通知がされ、同年 5月14日に意見書が提出され、同年 9月10日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年12月14日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

2.原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
この出願の請求項1?5に係る発明は、以下の引用文献1?4に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2010-101447号公報
引用文献2:特開昭64-74320号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:仏国特許出願公開第811217号明細書(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2004-308716号公報

3.本願発明
本願の請求項1?5に係る発明(以下、「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、以下のとおりである。

【請求項1】
ケーシングと、前記ケーシングに設けられた内歯歯車と、前記内歯歯車と噛合う外歯歯車と、前記外歯歯車の自転成分または公転成分と同期するキャリヤ部材と、前記ケーシングと前記キャリヤ部材との間に配置された主軸受と、を備えた減速装置であって、
前記主軸受は、前記ケーシングおよび前記キャリヤ部材の一方に設けられた外輪と、前記ケーシングおよび前記キャリヤ部材の他方に設けられた内輪と、前記外輪と前記内輪との間に配置される複数のテーパころと、を有し、
前記複数のテーパころは、第1テーパころと、前記第1テーパころとは異なる転走面を転走する第2テーパころと、が周方向に交互に配置され、
前記内歯歯車と前記外歯歯車の噛合い部の少なくとも一部が、前記外輪における前記第1テーパころの転走面と前記内輪における前記第1テーパころの転走面の同一平面上における延長線の交点である第1交点と、前記外輪における前記第2テーパころの転走面と前記内輪における前記第2テーパころの転走面の同一平面上における延長線の交点である第2交点との間に位置することを特徴とする減速装置。
【請求項2】
前記内歯歯車と前記外歯歯車の噛合い部の全体が、前記第1交点と前記第2交点との間に位置することを特徴とする請求項1に記載の減速装置。
【請求項3】
前記外歯歯車を揺動させるカム軸を支持するカム軸受が、前記第1交点と前記第2交点の間に位置することを特徴とする請求項1または2に記載の減速装置。
【請求項4】
前記カム軸に設けられた駆動歯車と入力歯車の噛合い部が、第1交点と第2交点の間に位置することを特徴とする請求項3に記載の減速装置。
【請求項5】
当該減速装置の内部を封止するオイルシールが、前記第1交点と前記第2交点の間に位置することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の減速装置。

4.引用文献に記載された事項及び引用発明
(1)引用文献1に記載された事項及び引用発明1について
引用文献1には、以下の事項が記載されている。

ア「【技術分野】
【0001】
本発明は、回転検出器が付設された減速装置に関する。」

イ「【0013】
この減速装置G1は、いわゆる揺動内接噛合遊星歯車構造の減速部(減速機構部)32を有するもので、その減速部32の半径方向中央部に軸方向に貫通する中空部H1を有するホロー型減速装置である。
【0014】
この減速装置G1は、当該中空部H1を有する入力軸36と、該入力軸36と一体的に形成された偏心体38A、38Bと、該偏心体38A、38Bの外周にころ40A、40Bを介して揺動回転自在に組み込まれた外歯歯車42A、42Bと、該外歯歯車42A、42Bが内接噛合する内歯歯車44と、を備える。
【0015】
外歯歯車42A、42Bと内歯歯車44は僅少の歯数差(例えば1)を有している。
【0016】
内歯歯車44は、第2ケーシング46Bと一体化されて固定されている。又、外歯歯車42A、42Bの自転成分が内ピン45を介して該内ピン45と一体的な出力ブロック48から取り出されるようになっている。入力軸36は、一対の軸受54、55を介して第1ケーシング46A及び出力ブロック48に支持されている。
【0017】
出力ブロック48は、クロスローラ56を介して第3、第4ケーシング46C、46Dに支持されている。出力ブロック48と相手機械との連結は、第1プーリ64を介して図示せぬボルトが出力ブロック48のボルト孔48Aにねじ込まれることによって行なわれる。」

ウ「【0026】
次に、この回転検出器付き減速装置G1の作用を説明する。
【0027】
入力軸36が回転すると、該入力軸36と一体的に形成された偏心体38A、38Bが回転する。偏心体38A、38Bが回転すると、ころ40A、40Bを介して該偏心体38A、38Bの外周に組み込まれた外歯歯車42A、42Bが揺動回転する。この実施形態では、内歯歯車44が第2ケーシング46Bと一体化することにより固定されている。そのため、外歯歯車42A、42Bの自由な回転が拘束され、該外歯歯車42A、42Bはほとんど揺動のみを行なうことになる。この結果、偏心体38A、38Bの回転に伴って外歯歯車42A、42Bと内歯歯車44との噛合位置が順次ずれていく現象が生じる。内歯歯車44と外歯歯車42A、42Bの歯数差は僅少(例えば1)に設定されているため、結局、入力軸36が1回転する毎に、外歯歯車42A、42Bはこの歯数差分だけ内歯歯車44に対して位相がずれる(自転する)ことになる。
【0028】
この外歯歯車42A、42Bの自転成分が内ピン45を介して出力ブロック48の回転として取り出される。」

エ「【0033】
次に、図3、図4を用いて本発明の他の実施形態の一例を示す。
【0034】
この例では、前述した減速装置G1にモータM1を接続するために、減速装置G1の前記第1ケーシング46A(図1)を平行軸歯車セット90を収容可能な形状の第5、第6ケーシング46E、46Fに取り替えたものである。即ち、この減速装置G2は、前記減速装置G1に平行軸歯車セット(前段減速部)90及びモータM1を追加したものである。
【0035】
モータM1は、第6ケーシング46Fに取付けられている。モータM1の軸方向から見たときに、該モータM1とエンコーダケース76は、大半が重なっている(図4参照)。この構成により、(もしエンコーダ62が存在しなくても)もともとデッドスペースとなってしまう空間にエンコーダ62を組み込むことができるため、エンコーダ62の存在によって装置が径方向に大きくなるのを極力防止できる。
【0036】
モータM1のモータ軸92にはキー94を介してスパーピニオン96が取付けられている。又、前記入力軸36には、ボルト98を介して該スパーピニオン96と噛合可能なスパーギヤ100が取付けられている。モータM1のモータ軸92の回転は、スパーピニオン96、スパーギヤ100を介して前記入力軸36に入力される。
【0037】
なお、減速装置G1の中空部H1と第1プーリ64の中空部H2には保護パイプ102が配設されている。保護パイプ102は、その一端部(図示の例では反負荷側端部)102Aが減速装置G2の第6ケーシング46Fにボルト103によって固定されており、他の一端部側(図示の例では第1プーリ64の中空部H2の内周相当位置)の外周にオイルシール104が配置されている。これにより、例えば図1の減速装置G1と比べ、オイルシール53を省略できており、且つ、オイルシール104は(オイルシール52に比べ)、低速の第1プーリ64の内周64Aと固定状態の保護パイプ102との間に設けられているため、回転ロスを低減できると共に、オイルシール104自体の寿命も延長できる。また、シール相対回転速度が小さいため、シール性も向上する。この構成は、付加した保護パイプ102及び第1プーリ64の内周を上手く利用したものである。又、中空部H1、H2内に保護パイプ102が配設されているため、該中空部H1、H2に例えば配線等を通す場合であっても、該配線の損傷を効果的に防止することができる。
【0038】
又、補助回転軸58と一体的に回転する第2プーリ67は、その最大径d7が、エンコーダケース76の最大径d3よりも小さい。汎用のエンコーダケース76は、大きさが定まっている場合が多い。一方、第2プーリ67の最大径d7は、プーリカバー75の補助軸周りの最小径d6の寸法に大きく影響する。このように第2プーリ67の最大径d7をエンコーダケースの76の最大径d3よりも小さく設定する(要するに、例えば、用いるエンコーダケース76が小さかったときは、それに合わせて第2プーリ67の最大径d7をそれよりも更に小さく設定する)ことにより、結果としてプーリカバー75の補助軸周りの最小径d6をエンコーダケース76の最大径d3よりも小さくすることが可能となり(或いは最小径d6が最大径d3よりあまり大きくはならないようにすることが可能となり)、装置全体の径方向の寸法を小さく抑えることができる。
【0039】
なお、上記実施形態においては、減速装置G1(G2)の中央部分に入力軸36が存在し、該入力軸36の外周に形成された偏心体38A、38Bによって外歯歯車42A、42Bが揺動するタイプの内接噛合遊星歯車機構の減速装置G1(G2)が採用されていたが、本発明においては、減速装置の具体的な構成は特に限定されない。又、モータから減速装置に動力を入力するための構成についても、特に上記実施形態の構成に限定されない。」

オ「【図3】



カ 図3から、第3?4ケーシング46C?46Dにクロスローラ56の外輪が一体的に設けられており、出力ブロック48にクロスローラの内輪が一体的に設けられていることが看取できる。

摘記事項ア?オ及び認定事項カから、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(引用発明)
第2?第6ケーシング46B?46Fと、第2ケーシング46Bと一体化されて固定されており、外歯歯車42A、42Bが内接噛合する内歯歯車44と、外歯歯車42A、42Bの自転成分が内ピン45を介して回転として取り出される、該内ピン45と一体的な出力ブロック48と、出力ブロック48を第3、第4ケーシング46C、46Dに支持するクロスローラ56とを備え、第3、第4ケーシング46C、46Dに一体的に設けられた外輪と、出力ブロック48に一体的に設けられた内輪と、外輪と内輪との間に配置される複数のクロスローラ56とを有する、減速装置G1。

(2)引用文献2に記載された事項
引用文献2には、以下の事項が記載されている。

ア「この形式のころ軸受は多数の利点をもち、とくに、小型でまとまりが良く、組立が容易で、傾斜トルクに対する抵抗が大きく、すなわち、一方のリングを1つの直径まわりに他方のリングに対して回転させようとするトルクに対する抵抗が大きく、大きい軸方向および半径方向荷重に耐え、2つの部分でつくられたリングを構成する2つのリング半部の対向する1つまたは両方の表面の面合わせによってその間隙の調節が容易であり、ローラケージが不必要なことなどである。」(第3ページ左上欄第7行?第17行)

イ「発明が解決しようとする課題
しかし、これらの利点があるにもかかわらず、交差型ころ軸受は、ローラの案内という問題のために現在まで実用されてきていない。或る使用目的に対しては、ローラを案内するために外側リングのレースの1つと滑り接触しているローラの大底面の縁に過大な摩耗が起ることが知られている。また或る場合には、クラウン形状の面によって案内しても、ローラは傾いた姿勢をとり、かつ軸受を詰まらせることが知られている。
この発明の目的は、上記の諸欠点を克服し、とくにそのローラが摩耗や詰まりを起す危険を伴わずに案内される交差型テーパころ軸受を提供することである。」(第3ページ左上欄第18行?右上欄第12行)

ウ「第1図に示されるように、交差型テーパローラを有するころ軸受は、内側リング1と、内側リング1のまわりに同軸的に配置された外側リング2を含む。これらのリング1,2は2つのテーパ付きレース3,4および6,7をそれぞれ向き合わせて配置し、これらを合わせて各リング上に凹形のV形断面を構成している。リング2は2つのリング半部2aおよび2bからなり、その一方にはレース6を、また他方にはレース7を形成している。これらはころ軸受の軸線x’-xに対して垂直で、かつレース6および7の共通円形縁部8を通る軸受面P-P内で互いに向き合って固定されている。平面P-P面はリング1および2のすべての作用面に対する対称面である。この平面はO点で軸線x’-xと交差する。
概ね截頭円錐形で、すべてが同一の2組のローラ9aおよび9bが、両リング1,2間に配置されている。第1組のローラ9aは外側リング2のレース6の1つと内側リング1の軸方向にレース6と向き合ったレース4との間に配置された截頭円錐形の横側壁をもっている。第2組のローラ9bは第1組のローラ9aと1つ置きに、他の2つのレース3と7との間に配置された横側壁をもっている。
ローラ9aの截頭円錐形横側壁およびそれらの間に配置された2つの截頭円錐形レース4と6は、軸受の軸線x’-x上に位置する共通頂点Xに向って収れんする。換言すれば、又は、レース4と6およびローラ9aの横側壁を形成するすべての截頭円錐の頂点である。同様に、ローラ9bの截頭円錐形横側壁とそれらが介装されている2つの截頭円錐形レース3と7は、軸受の軸線x’-x上に位置する共通の頂点Yに向って収れんする。頂点XおよびYは、平面P-Pに関して互いに対称である。
各ローラ9aおよび9bの大底面のクラウン区域11は、外側リング2の対向するレース7または6と滑り係合する。この実施例では、クラウン区域11は、各ローラ9aまたは9bの大底面全体にわたって延びる。後述する滑り接触の幾何学的軌跡は参照文字Tであらわされている。」(第4ページ左下欄第3行?第5ページ左上欄第4行)

エ「この発明によれば、ローラ9aのクラウン区域11は、これらのローラの横側壁の共通頂点X上に中心を置く1つの共通の理想球形Sxに合致する。同様に、ローラ9bのクラウン区域11は、これらのローラの共通頂点Y上に中心を置く1つの共通の理想球形Syに合致する。
よって、第1A図に示されるように、横側壁とクラウン区域11間の、その環状縁部12に沿って軸方向断面で見て、各ローラ9aまたは9bのなす角度Gは90°である。
さらに、外側リング2の2つのレース6と7との間になす角度2Aは90°より小さい。従って、平面P-Pに関して対称であることを考えれば、各レース6または7は平面P-Pに対して45°より小さい角度をなす。
よって、構造上、レース6と当接する母面をもつ横側面を有するローラ9a(第1A図)を考えれば、その縁部12は、90°に等しい角度Gが角度2Aより大きいので、レース6と7間の縁部8とは接触状態にはならない。従って、接触区域Tはそれ自身、環状縁部12および8から離隔されている。
接触区域Tは、球面Sxはレース7の凹形截頭体と接するという事実、または球面Syはレース6の凹形截頭体と接するという事実から生ずる。この接線状態は円錐の截頭体の軸線x’-x上に中心を置く円に沿って起こる。ゆえに、接触区域(接線)Tは幾何学的に、これらの2つの円の部分である。これらの部分の或るものが第4図に示されている。
接線T上で、テーパ付きレース6または7の曲率半径は、球面SxおよびSyの半径半径に等しく、かつ頂点XまたはYのそれぞれの上に中心を置く。」(第5ページ左上欄第5行?右上欄第18行)

オ「第1図



カ「第3図



キ「第4図



(3)引用文献3に記載された事項
引用文献3には、以下の図面が記載されている。




(4)引用文献4に記載された事項
引用文献4には、以下の事項が記載されている。

ア「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、一般産業機械の回転軸やボールねじのボールねじ軸等を支承する軸受ユニットに関する。」

イ「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、クロスローラ軸受は、図10に示すように、転動体である円筒ころ12の自転中心軸12aが外輪21および内輪23の中心軸線に対して斜めに傾斜しているため、円筒ころ12と外輪21および内輪23との間にすべりが生じ易い。これに伴って円筒ころ12と外輪21および内輪23との間に大きな摩擦熱が発生するため、軸受トルクが大きくなり、使用回転速度が低いという問題がある。
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、高剛性化および省スペース化を図ることができ、クロスローラ軸受に比べ使用回転速度を高くすることのできる軸受ユニットを提供することを目的とする。」

ウ「【0017】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明に係る軸受ユニットによれば、外側軌道溝および内側軌道溝の断面を略V字状に形成するとともに、転動体を円錐ころ状に形成し、かつ転動体の自転中心軸を外輪および内輪の円周方向に交互にクロスさせたことで、転動体の周面部が外側軌道溝および内側軌道溝の左右の溝面に交互に接触するので、一つの転がり軸受で両方向のアキシャル荷重とモーメント荷重を受けることができる。したがって、軸受ユニットの軸受として、二つのアンギュラ玉軸受や深溝玉軸受を組み合わせたものを使用しなくてもよいので、軸受剛性を高めることができると共に軸方向の省スパース化を図ることができる。さらに、クロスローラ軸受を使用した場合のように、円筒ころと外輪および内輪との間にすべりが発生することもないので、使用時の回転速度を高くすることができ、ボールねじ軸等の軸を支承することができる。
請求項2の発明に係る軸受ユニットによれば、転動体をその大径端面部が外側軌道溝の溝面に向くように外側軌道溝と内側軌道溝との間に設けたことで、転がり中の円錐ころと外輪および内輪との間の滑りをなくすことができる。」

エ「【図3】



5.当審の判断
5-1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

引用発明の「第2?第6ケーシング46B?46F」、「減速装置G1」は、本願発明1の「ケーシング」、「減速装置」に相当する。

引用発明の「内歯歯車44」は、「第2ケーシング46Bと一体化されて固定されており、外歯歯車42A、42Bが内接噛合する」ものであるから本願発明1の「内歯歯車」に相当し、同様に引用発明の「外歯歯車42A、42B」は、本願発明1の「外歯歯車」に相当する。

そして、引用発明の「第2ケーシング46Bと一体化されて固定されており、外歯歯車42A、42Bが内接噛合する内歯歯車44」は、本願発明1の「前記ケーシングに設けられた内歯歯車と、前記内歯歯車と噛合う外歯歯車」に一致する。

引用発明の「外歯歯車42A、42Bの自転成分が内ピン45を介して回転として取り出される、該内ピン45と一体的な出力ブロック48」は、「前記外歯歯車の自転成分と同期するキャリヤ部材」の限りにおいて、本願発明1の「前記外歯歯車の自転成分または公転成分と同期するキャリヤ部材」と一致する。

引用発明の「出力ブロック48を第3、第4ケーシング46C、46Dに支持するクロスローラ56」は、「クロスローラ56」が「第3、第4ケーシング46C、46Dに一体的に設けられた外輪と、出力ブロック48に一体的に設けられた内輪と」との間に「複数」配置されるものであるから、本願発明1の「前記ケーシングと前記キャリヤ部材との間に配置された主軸受」に相当する。

そして、引用発明の「第3、第4ケーシング46C、46Dに一体的に設けられた外輪と、出力ブロック48に一体的に設けられた内輪と、外輪と内輪との間に配置される複数のクロスローラ56」は、上記のとおり「外輪」、「内輪」及び「クロスローラ56」が「主軸受」を構成し、「外輪」が「第3、第4ケーシング46C、46Dに一体的に設けられ」、「内輪」が「出力ブロック48に一体的に設けられ」、「クロスローラ56」が「外輪と内輪との間」に「複数」配置されることから、「主軸受は、前記ケーシングに設けられた外輪と、前記キャリヤ部材に設けられた内輪と、前記外輪と前記内輪との間に配置される複数のころ」の限りにおいて本願発明1の「主軸受は、前記ケーシングおよび前記キャリヤ部材の一方に設けられた外輪と、前記ケーシングおよび前記キャリヤ部材の他方に設けられた内輪と、前記外輪と前記内輪との間に配置される複数のテーパころ」と一致する。

してみると、本願発明1と引用発明とは、次の「一致点」で一致し、「相違点」で相違する。

(一致点)
ケーシングと、前記ケーシングに設けられた内歯歯車と、前記内歯歯車と噛合う外歯歯車と、前記外歯歯車の自転成分と同期するキャリヤ部材と、前記ケーシングと前記キャリヤ部材との間に配置された主軸受と、を備えた減速装置であって、
前記主軸受は、前記ケーシングに設けられた外輪と、前記キャリヤ部材に設けられた内輪と、前記外輪と前記内輪との間に配置される複数のころと、を有する減速装置。

(相違点)
本願発明1では、複数の「ころ」が「テーパころ」であって、「前記複数のテーパころは、第1テーパころと、前記第1テーパころとは異なる転走面を転走する第2テーパころと、が周方向に交互に配置され、
前記内歯歯車と前記外歯歯車の噛合い部の少なくとも一部が、前記外輪における前記第1テーパころの転走面と前記内輪における前記第1テーパころの転走面の同一平面上における延長線の交点である第1交点と、前記外輪における前記第2テーパころの転走面と前記内輪における前記第2テーパころの転走面の同一平面上における延長線の交点である第2交点との間に位置する」のに対して、引用発明では、クロスローラが「テーパころ」ではなく、上記の構成を備えない点。

(2)当審の判断
上記相違点について検討する。
クロスローラ軸受について、複数の「ころ」を「テーパころ」とし、複数の「テーパころ」を、第1のテーパころと、当該第1のテーパころとは異なる転走面を転走する第2のテーパころとが周方向に交互に配置されるよう構成することは、上記4.(2)?(4)に示したとおり引用文献2?4に記載されていることから、従来周知の軸受構造というべきである。

そして、引用発明のクロスローラによる軸受構造についても、4.(2)イに摘記したように「ローラを案内するために外側リングのレースの1つと滑り接触しているローラの大底面の縁に過大な摩耗が起ることが知られている」という課題があることは、その構造からみて自明であって、引用発明のクロスローラを、従来周知の複数のテーパころを、第1のテーパころと、当該第1のテーパころとは異なる転走面を転走する第2のテーパころとが周方向に交互に配置される構造とする動機付けがあったということができる。

しかしながら、引用発明のクロスローラによる軸受構造を従来周知の構造とする動機付けがあったとしても、減速装置として「前記内歯歯車と前記外歯歯車の噛合い部の少なくとも一部が、前記外輪における前記第1テーパころの転走面と前記内輪における前記第1テーパころの転走面の同一平面上における延長線の交点である第1交点と、前記外輪における前記第2テーパころの転走面と前記内輪における前記第2テーパころの転走面の同一平面上における延長線の交点である第2交点との間に位置する」ように構成することを示唆することは、引用文献2?4に記載されておらず、技術的にみて自明であると説明できるだけの合理的理由もない。

してみると、引用発明に従来周知のテーパころを用いたクロスローラ軸受の構造を組み合わせる動機付けがあったとしても、本願発明1は、当業者であっても引用発明及び従来周知の技術に基いて容易に発明をすることができた、ということはできない。

5-2 本願発明2?本願発明5について
本願発明2?本願発明5も、本願発明1の「前記内歯歯車と前記外歯歯車の噛合い部の少なくとも一部が、前記外輪における前記第1テーパころの転走面と前記内輪における前記第1テーパころの転走面の同一平面上における延長線の交点である第1交点と、前記外輪における前記第2テーパころの転走面と前記内輪における前記第2テーパころの転走面の同一平面上における延長線の交点である第2交点との間に位置する」と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び従来周知の技術に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明1?5は、当業者が引用発明及び従来周知の技術に基いて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2021-08-18 
出願番号 特願2016-236080(P2016-236080)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山尾 宗弘  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 杉山 健一
間中 耕治
発明の名称 減速装置  
代理人 小島 誠  

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