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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
管理番号 1377207
審判番号 不服2018-14388  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-31 
確定日 2021-08-18 
事件の表示 特願2014-560387「分泌様免疫グロブリンを含む組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月12日国際公開、WO2013/132052、平成27年 4月13日国内公表、特表2015-510875〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年3月8日(パリ条約による優先権主張 2012年 3月 9日 (EP)欧州特許庁、2012年 5月16日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成29年 8月29日付け拒絶理由通知に応答して平成30年 2月27日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年 6月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月31日に拒絶査定不服審判請求がなされたものである。その後の当審における手続の経緯は、以下のとおりである。
平成30年12月11日付け 審判請求書の手続補正書
令和 2年 3月25日付け 拒絶理由通知書
令和 2年 9月29日付け 意見書

第2 本願発明
本願の請求項1?18に係る発明は、平成30年 2月27日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?18に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1、16?18に係る発明は、次のとおりのものである。
「【請求項1】(a)80%未満のJ鎖含有IgAおよび/またはJ鎖含有IgMを含む血液由来のタンパク質組成物を得る工程、
(b)工程(a)の組成物と分泌成分を混合する工程
を含む、インビトロにおいて分泌様免疫グロブリンを含む組成物を製造する方法。
【請求項16】請求項1?15のいずれかに記載の方法によって得ることができる、分泌様IgAおよび/もしくは分泌様IgMまたはそれらの組み合わせを含む組成物。
【請求項17】薬学的に許容される担体または賦形剤をさらに含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】医学的使用のための請求項16または17に記載の組成物。」

請求項16は、請求項1を引用しているが、引用形式で記載された請求項16に係る発明を独立形式で記載すると、以下のとおりとなる。(以下、「本願発明」という。)
「(a)80%未満のJ鎖含有IgAおよび/またはJ鎖含有IgMを含む血液由来のタンパク質組成物を得る工程、(b)工程(a)の組成物と分泌成分を混合する工程を含む、インビトロにおいて分泌様免疫グロブリンを含む組成物を製造する方法によって得ることができる、分泌様IgAおよび/もしくは分泌様IgMまたはそれらの組み合わせを含む組成物。」

第3 当審で通知した拒絶の理由
令和 2年 3月25日付けで当審が通知した拒絶理由の概要は、請求項16?18に係る発明は、本願優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、当該引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第4 引用文献の記載事項及び引用発明の認定
当審の拒絶理由で引用文献2として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物である米国特許第7597891号明細書(以下、「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている(英語で記載されているため、日本語訳で摘記する。下線は合議体による。)。

ア.「プールされた血漿から精製されたポリクローナルIgA-J鎖二量体、プールされた血漿から精製されたポリクローナルIgA-J鎖またはそれらの混合物を含む組成物であって、ポリクローナルIgA-J鎖二量体、ポリクローナルIgA-J鎖多量体またはそれらの混合物は、IgA-J鎖二量体またはIgA-J鎖多量体とモル比が1:1で、組換え分泌成分と結合されており、分泌二量体、多量体IgAを形成している、組成物。」(請求項1)

イ.「実施例1
ポリクローナルIgAは、プールされたヒト血漿から得られ、コーン冷エタノール分画で画分III沈殿物を製造される。さらに、IgAは、中性または弱酸性条件下でイオン交換媒体への吸着によって精製される。IgA-J鎖二量体、多量体は、精製される。その後、さらに、IgA-J鎖二量体、多量体は、穏やかな酸化条件下、好ましくは、分泌成分とIgA-J鎖二量体、多量体のモル比が1:1で、ジスルフィド結合により、組換え分泌成分に結合される。J鎖と分泌成分を有するIgAは、また精製される。」(第8欄第28行?第40行)

上記記載事項ア.において、「プールされた血漿から精製されたポリクローナルIgA-J鎖二量体、プールされた血漿から精製されたポリクローナルIgA-J鎖またはそれらの混合物を含む組成物」(合議体注:「プールされた血漿から精製されたポリクローナルIgA-J鎖」は、「プールされた血漿から精製されたポリクローナルIgA-J鎖多量体」の誤記と認められる。)は、「ポリクローナルIgA-J鎖二量体、ポリクローナルIgA-J鎖多量体またはそれらの混合物は、・・・・・・、組換え分泌成分と結合されており、分泌二量体、多量体IgAを形成している」と記載されていることから、上記記載事項ア.中の「組成物」は、IgA-J鎖二量体、多量体と分泌成分が結合した、分泌二量体、多量体IgAを含む組成物であると認められる。
よって、上記記載事項ア.及びイ.によると、引用文献2には、「血漿からポリクローナルIgA-J鎖二量体、多量体を得る工程、当該ポリクローナルIgA-J鎖二量体、多量体と組換え分泌成分を結合する工程を含む、分泌二量体、多量体IgAを含む組成物を製造する方法によって得られる、分泌二量体、多量体IgAを含む組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ポリクローナルIgA-J鎖二量体、多量体」は、本願発明の「J鎖含有IgA」に相当し、引用発明の「血漿」は、本願発明の「血液」に相当し、引用発明の組換え分泌成分を結合することにより得られる「分泌二量体、多量体IgA」は、本願発明の分泌成分を混合することにより得られる「分泌様免疫グロブリン」、「分泌様IgA」に相当する。また、上記記載事項イ.に記載されている分泌二量体、多量体IgAを含む組成物を製造する方法が、インビトロにおいて行われていることは上記記載事項イ.の工程から明らかである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「(a)J鎖含有IgAを含む血液由来のタンパク質組成物を得る工程、(b)工程(a)の組成物と分泌成分を混合する工程を含む、インビトロにおいて分泌様免疫グロブリンを含む組成物を製造する方法によって得ることができる、分泌様IgAを含む組成物。」である点で一致し、本願発明は、分泌成分と混合されるJ鎖含有IgAを含むタンパク質組成物が80%未満のJ鎖含有IgAを含むタンパク質組成物であるのに対し、引用発明は、そのような含有量の特定がされていない点で一応相違する。

第6 当審の判断
以下、上記相違点について検討する。
本願発明は、「(a)80%未満のJ鎖含有IgAおよび/またはJ鎖含有IgMを含む血液由来のタンパク質組成物を得る工程、(b)工程(a)の組成物と分泌成分を混合する工程を含む、インビトロにおいて分泌様免疫グロブリンを含む組成物を製造する方法によって得ることができる、分泌様IgAおよび/もしくは分泌様IgMまたはそれらの組み合わせを含む組成物。」に係る発明であり、「を含む」と記載されていることから、インビトロにおいて分泌様免疫グロブリンを含む組成物を製造する方法が、工程(a)、(b)以外の精製などの工程も含み得る記載となっている。
また、本願発明は、「インビトロにおいて分泌様免疫グロブリンを含む組成物を製造する方法によって得ることができる、分泌様IgAおよび/もしくは分泌様IgMまたはそれらの組み合わせを含む組成物。」と記載されているように、「・・・・・・方法によって得ることができる、」、「分泌様IgAおよび/もしくは分泌様IgMまたはそれらの組み合わせを含む」と記載されているだけで、「分泌様IgAおよび/もしくは分泌様IgMまたはそれらの組み合わせ」以外に、引用発明には含まれていない特定の成分が含まれることが何ら特定して記載されているものでもない。
一方、本願明細書【0033】には、「本発明の別の態様は、本発明の方法によって得ることができる、分泌様IgAを含む組成物である。本発明のさらに別の態様は、本発明の方法によって得ることができる、分泌様IgMを含む組成物である。なおさらなる態様は、例えば、1:10と10:1の間、好ましくは1:5と5:1の間、より好ましくは1:2と2:1の間のモル比で、本発明の方法によって得ることができる、分泌様IgAと分泌様IgMを含む組成物である。本発明の別の態様において、組成物におけるIgAとIgMの合わせた含有量は、50%超、好ましくは60%超、より好ましくは70%超、さらにより好ましくは80%超、さらにより好ましくは90%超であり、最も好ましくは100%である。」と記載されており、本願発明の分泌様IgAおよび/もしくは分泌様IgMまたはそれらの組み合わせを含む組成物は、組成物における分泌様IgAおよび/もしくは分泌様IgMの含有量が、80%超、90%超、100%となるものも包含されており、このような組成物を得るためには、原料として80%未満の含有量のものを用いた場合には、工程(a)、(b)以外の工程、例えば、工程(a)の組成物と分泌成分を混合する工程により得られる組成物から、分泌様IgAおよび/もしくは分泌様IgMを精製する工程が必要となるものと認められる。
また、請求項18は、「医学的使用のための請求項16または17に記載の組成物。」であり、請求項16に記載の組成物が、医学的使用に耐え得る他の不純物を極力排除したものとするには、工程(a)、(b)以外の精製工程が必要となることは明らかである。
よって、本願発明の組成物は、工程(a)、(b)以外の工程、例えば、工程(a)の組成物と分泌成分を混合する工程により得られる組成物から、分泌様IgAを精製する工程により得られる組成物も含まれるものと認められ、そのような組成物は、引用発明の組成物と物として区別が付かないから、上記相違点は、実質的な相違点とはいえない。
また、そもそも引用発明のJ鎖含有IgAや分泌IgAを低い純度のまま提供することなどは、当業者が適宜行えることである。

第7 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和 2年 9月29日付け意見書において、「本願請求項16に記載の組成物は、請求項1?15のいずれかに記載の方法によって得ることができる、分泌様IgAおよび/もしくは分泌様IgMまたはそれらの組み合わせを含む組成物であることが特定されているところ、請求項1?15に記載された方法によって得ることができる、分泌様IgAおよび/もしくは分泌様IgMまたはそれらの組み合わせを含む組成物は、80%未満のJ鎖含有IgAおよび/またはJ鎖含有IgMを含む血液由来のタンパク質組成物と分泌成分を混合する工程により得られる組成物であり、80%未満のJ鎖含有IgAおよび/またはJ鎖含有IgMを含む血液由来のタンパク質組成物に由来する、J鎖含有IgAおよび/またはJ鎖含有IgM以外の成分を含むものです。
これに対し、引用文献2?4に記載された発明においては、上述のとおり、精製されたJ鎖含有IgAないしJ鎖含有IgMを分泌成分と混合することにより分泌様IgAもしくは分泌様IgMを得るものであり、また、引用文献1についても、6欄26?27行に「IgA-J鎖複合体は精製される」と記載され、次いで組換え分泌成分と結合させることが記載されており、従って、このようにして得られる生成物には、80%未満のJ鎖含有IgAおよび/またはJ鎖含有IgMを含む血液由来のタンパク質組成物に由来する、J鎖含有IgAおよび/またはJ鎖含有IgM以外の成分は含まれません。」と主張している。
しかしながら、上記第6で述べたように、本願発明の組成物は、工程(a)、(b)以外の工程、例えば、工程(a)の組成物と分泌成分を混合する工程により得られる組成物から、分泌様IgAを精製する工程により得られる組成物も含まれると認められる。そして、そのような分泌成分結合後に精製して得られる分泌様IgA組成物は、分泌成分結合前に精製したIgAを用いて得られる分泌様IgA組成物と、不純物が排除された分泌様IgA組成物である点で実質的に物として異ならない。
したがって、本願発明の組成物は、J鎖含有IgAおよび/またはJ鎖含有IgM以外の成分を含むものであるから、引用発明の組成物と同じ物ではないとの審判請求人の上記主張は採用できない。
さらに、本願明細書【0036】には、「組成物中のタンパク質は、製剤化される前に、例えば、透析/限外ろ過または他の標準的な方法を用いて濃縮され得る。さらに、組成物は、凍結乾燥され、次に、使用前に適切な溶液を用いて再構成されてもよい。」と記載されており、請求項16に記載の組成物に含まれる、請求項18に記載されている医学的使用のための組成物は、工程(a)、(b)以外の工程、例えば、「透析/限外ろ過または他の標準的な方法を用いて濃縮」する工程により得られる高い精製度合いのものも含まれるものと認められる。
したがって、審判請求人の上記主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおり、本願の請求項16に係る発明は、引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-03-11 
結審通知日 2021-03-16 
審決日 2021-03-30 
出願番号 特願2014-560387(P2014-560387)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C07K)
P 1 8・ 121- WZ (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田ノ上 拓自坂崎 恵美子  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 長井 啓子
高堀 栄二
発明の名称 分泌様免疫グロブリンを含む組成物  
代理人 竹林 則幸  
代理人 結田 純次  

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