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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1377279
審判番号 不服2020-14951  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-28 
確定日 2021-08-19 
事件の表示 特願2019-528281「固定子、電動機、駆動装置、圧縮機、空気調和装置および固定子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月10日国際公開、WO2019/008722〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)7月6日を国際出願日とする出願であって、令和元年6月7日に手続補正がされ、令和2年5月14日付けの拒絶理由通知に対し、令和2年7月9日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、令和2年9月9日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対して令和2年10月28日に拒絶査定不服審判の請求がされ、その審判の請求と同時に手続補正がされたものである。

第2 令和2年10月28日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年10月28日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
軸線を中心とする周方向に延在するヨーク部と、前記ヨーク部から前記軸線に向かう方向または前記軸線から離間する方向に延在する複数のティースと、前記複数のティースのうち前記周方向に隣り合う2つのティースの間に形成されたスロットとを有する固定子鉄心であって、複数の積層要素が前記軸線の方向に積層され、前記複数の積層要素のうち前記軸線の方向に隣り合う2つの積層要素の間に隙間を有する固定子鉄心と、
前記複数のティースの前記スロット側の面および前記ヨーク部の前記スロット側の面を覆い、前記隙間の前記スロット側を塞ぎ、且つ前記隙間に入り込む第2の絶縁部と、
前記複数のティースの前記スロット側および前記ヨーク部の前記スロット側に設けられ、前記第2の絶縁部を覆う第1の絶縁部と、
前記複数のティースのそれぞれに、前記第1の絶縁部および前記第2の絶縁部を介して巻き付けられた巻線と
を備えた固定子。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正前の、令和2年7月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
軸線を中心とする周方向に延在するヨーク部と、前記ヨーク部から前記軸線に向かう方向または前記軸線から離間する方向に延在する複数のティースと、前記複数のティースのうち前記周方向に隣り合う2つのティースの間に形成されたスロットとを有する固定子鉄心であって、複数の積層要素が前記軸線の方向に積層され、前記複数の積層要素のうち前記軸線の方向に隣り合う2つの積層要素の間に隙間を有する固定子鉄心と、
前記複数のティースの前記スロット側の面および前記ヨーク部の前記スロット側の面を覆い、前記隙間の前記スロット側を塞ぐ第2の絶縁部と、
前記複数のティースの前記スロット側および前記ヨーク部の前記スロット側に設けられ、前記第2の絶縁部を覆う第1の絶縁部と、
前記複数のティースのそれぞれに、前記第1の絶縁部および前記第2の絶縁部を介して巻き付けられた巻線と
を備えた固定子。」

2.補正の適否
本件補正後の請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1に係る発明(以下、「補正前発明」という。)を特定するために必要な事項である「前記隙間の前記スロット側を塞ぐ第2の絶縁部」について「前記隙間の前記スロット側を塞ぎ、且つ前記隙間に入り込む第2の絶縁部」と限定するものであって、補正前発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、この補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(1)の請求項1に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載及び引用発明
ア.引用文献1の記載
原査定(令和2年9月9日付け拒絶査定)の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2003-284277号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付与した。以下、同様である。)。

(ア)「【0006】本発明は上記の従来技術の課題に鑑みなされたもので、その目的はコイルで発生した熱がステータコアに伝わりやすく放熱性のよい回転電機とその製造方法の提供を目的とする。」

(イ)「【0014】モータ10は、図1,図2に示すようにステータ20,ロータ50,フレーム80,回転軸5,軸受け6,7,エンドブラケット3,4等から構成される。図1に示すように、ステータ20は複数のティース部22と円環状のヨーク部23を備えたステータコア21と、スロット部27内に所定の規則に従って配置したコイル30と、コイル30とステータコア21との絶縁材となる高熱伝導複合材40からなる。ステータコア21は、例えば厚さ0.35mm,0.5mmの薄い電磁鋼板を打ち抜き、所定枚数分を積層したものであり、かしめ又は溶接等により固定している。」

(ウ)「【0016】フレーム80には、冷却用の水あるいは油といった冷却液を通す冷却液通路81を設けてあり、モータ駆動時におけるコイル30の発熱は、絶縁材の高熱伝導複合材40とステータコア21を介してフレーム内の冷却液通路81に伝達することとなる。」

(エ)「【0017】この高熱伝導複合材40を構成する高熱伝導樹脂41は、樹脂成分中に異方性構造が存在する熱硬化性樹脂で構成される。また、樹脂成分の熱伝導率が0.6W/m・K 以上の熱硬化性で構成されることが好ましい。」

(オ)「【0020】したがって、絶縁材の熱伝導率が高いのでコイル30で発生した熱は、フレーム80に伝わりやすい。すなわち、放熱性が優れており、高効率で小形なモータを実現できる。また、この高熱伝導複合材40は、基材42としてアラミド紙,PET,PPS等を配置し、その基材の両面に高熱伝導樹脂41を積層した構造としたプリプレグ材とすることができる。このように基材として樹脂本体よりも剛性の高い材料を用いることで、巻線時に絶縁材が受ける圧縮応力に対する強度が向上する。また、プリプレグ材としてステータコア21あるいはコイル30にセットすることもできるため、絶縁材の扱いが容易となり組立工数を削減できる。
【0021】図3に示したように、前述の高熱伝導複合材40をステータコア21のスロット面に接触するように配置し、成形型にて加圧して加熱硬化することで高熱伝導樹脂41とステータコア21が密着するため、打ち抜きのかえりやばりや積層ずれ等で発生する凹凸を高熱伝導樹脂41で埋めることができる。」

(カ)「【0022】図1のステータコア21はティース部22とヨーク部23が分割した構造である。この場合は、ティース部22とヨーク部23はそれぞれ打ち抜き積層固定されたものであり、コイル30をティース部22の外部で、あるいはティース部22に直接的に巻線することができる。このようにコアが分割しているため、ティース部22あるいはコイル30に、高熱伝導樹脂41を予め加圧しながら加熱硬化させ所定形状に成形することができる。よって、前述したように、空気層を削減することができる。」

(キ)記載事項(イ)及び図1-2の図示内容によると、ステータコア21が円環状のヨーク部23と複数のティース部22とスロット部27とを備え、円環状の前記ヨーク部23が、回転軸5の軸線を中心とする周方向に延在し、前記複数のティース部22が、前記ヨーク部23から前記軸線に向かう方向に延在し、前記スロット部27が、前記複数のティース部22のうち前記周方向に隣り合う2つのティース部22の間に形成されているといえる。

(ク)記載事項(イ)、(オ)及び図1-3の図示内容によると、ステータコア21は、所定枚数分の打ち抜きされた電磁鋼板を回転軸5の軸線の方向に積層したものであり、前記電磁鋼板の打ち抜きのかえりやばり等で発生する凹凸を有しているといえる。

(ケ)記載事項(ウ)、(オ)によると、絶縁材の高熱伝導複合材40は、ステータコア21のスロット面に接触するように配置される。そして、記載事項(ア)によると、引用文献1に記載の発明は、コイルで発生した熱をステータコアに伝わりやすくすることを目的としており、図1の図示内容によると、コイル30はスロット部27内のティース部22及びヨーク部23の近傍に位置するものであるから、上記目的を達成するために絶縁材の高熱伝導複合材40は、ステータコア21における複数のティース部22のスロット面及びステータコア21におけるヨーク部23のスロット面に接触するように配置されているといえる。また、記載事項(ウ)、(オ)、(カ)及び図1-3の図示内容によると、高熱伝導複合材40は、アラミド紙、PET、PPS等からなる基材42と、当該基材42の両面に積層された高熱伝導樹脂41とで構成されており、高熱伝導樹脂41を加圧して加熱硬化させることで高熱伝導樹脂41をステータコア21に密着させて、打ち抜きのかえりやばり等で発生する凹凸を高熱伝導樹脂41で埋めている。すると、高熱伝導複合材40の高熱伝導樹脂41は、ステータコア21における複数のティース部22のスロット面及びステータコア21におけるヨーク部23のスロット面に接触し、ステータコア21のスロット面に密着することで打ち抜きのかえりやばり等で発生する凹凸を埋めているといえる。

(コ)記載事項(オ)及び図3の図示内容によると、高熱伝導複合材40を構成する基材42は、スロット面に接触する高熱伝導樹脂41を覆うように配置されている。また、上記(ケ)によると、高熱伝導樹脂41は複数のティース部22のスロット面及びヨーク部23のスロット面に接触するものであるから、高熱伝導樹脂41を覆う基材42も複数のティース部22のスロット側及びヨーク部23のスロット側に配置されるものである。すると、基材42は、複数のティース部22のスロット側及びヨーク部23のスロット側に配置され、スロット面に接触する高熱伝導樹脂41を覆っているといえる。

(サ)記載事項(イ)、(ウ)、(オ)、(カ)及び図1-2の図示内容によると、コイル30は、複数のティース部22のそれぞれに、高熱伝導複合材40を構成する基材42及び高熱伝導樹脂41を介して巻き付けられているといえる。

(シ)記載事項(イ)、(オ)によると、ステータ20は、ステータコア21と、基材42の両面に高熱伝導樹脂41を積層した高熱伝導複合材40と、コイル30と、からなるものといえる。

イ.引用発明
上記引用文献1の記載事項(ア)-(シ)及び図面の図示内容を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「回転軸5の軸線を中心とする周方向に延在するヨーク部23と、前記ヨーク部23から前記軸線に向かう方向に延在する複数のティース部22と、前記複数のティース部22のうち前記周方向に隣り合う2つのティース部22の間に形成されるスロット部27とを備えるステータコア21であって、所定枚数分の打ち抜きされた電磁鋼板が前記軸線の方向に積層され、前記電磁鋼板の打ち抜きのかえりやばり等で発生する凹凸を有するステータコア21と、
前記複数のティース部22のスロット面及び前記ヨーク部23のスロット面に接触し、前記ステータコア21のスロット面に密着することで打ち抜きのかえりやばり等で発生する凹凸を埋める高熱伝導樹脂41と、
前記複数のティース部22のスロット側及び前記ヨーク部23のスロット側に配置され、スロット面に接触する前記高熱伝導樹脂41を覆う基材42と、
前記複数のティース部22のそれぞれに、前記基材42及び前記高熱伝導樹脂41を介して巻き付けられたコイル30と
を備えたステータ20。」

(3)対比
以下、本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア.引用発明の「回転軸5の軸線」及び「ヨーク部23」は、それぞれ本件補正発明の「軸線」及び「ヨーク部」に相当する。すると、引用発明の「回転軸5の軸線を中心とする周方向に延在するヨーク部23」は、本件補正発明の「軸線を中心とする周方向に延在するヨーク部」に相当する。
イ.引用発明の「複数のティース部22」は、本件補正発明の「複数のティース」に相当する。すると、引用発明の「前記ヨーク部23から前記軸線に向かう方向に延在する複数のティース部22」は、本件補正発明の「前記ヨーク部から前記軸線に向かう方向または前記軸線から離間する方向に延在する複数のティース」に相当する。
ウ.引用発明の「スロット部27」は、本件補正発明の「スロット」に相当する。すると、引用発明の「前記複数のティース部22のうち前記周方向に隣り合う2つのティース部22の間に形成されるスロット部27」は、本件補正発明の「前記複数のティースのうち前記周方向に隣り合う2つのティースの間に形成されたスロット」に相当する。
エ.引用発明の「所定枚数分」、「打ち抜きされた電磁鋼板」及び「ステータコア21」は、それぞれ本件補正発明の「複数」、「積層要素」及び「固定子鉄心」に相当する。すると、引用発明の「所定枚数分の打ち抜きされた電磁鋼板が前記軸線の方向に積層され」る「ステータコア21」は、本件補正発明の「複数の積層要素が前記軸線の方向に積層され」る「固定子鉄心」に相当する。
オ.引用発明の「前記複数のティース部22のスロット面」、「前記ヨーク部23のスロット面」及び「高熱伝導樹脂41」は、それぞれ本件補正発明の「前記複数のティースの前記スロット側の面」、「前記ヨーク部の前記スロット側の面」及び「第2の絶縁部」に相当する。また、引用発明の「高熱伝導樹脂41」は樹脂材料であるから、スロット面に接触することによってスロット面を覆っているといえる。すると、引用発明の「前記複数のティース部22のスロット面及び前記ヨーク部23のスロット面に接触」する「高熱伝導樹脂41」は、本件補正発明の「前記複数のティースの前記スロット側の面および前記ヨーク部の前記スロット側の面を覆」う「第2の絶縁部」に相当する。
カ.引用発明の「基材42」は、本件補正発明の「第1の絶縁部」に相当する。すると、引用発明の「前記複数のティース部22のスロット側及び前記ヨーク部23のスロット側に配置され、スロット面に接触する前記高熱伝導樹脂41を覆う基材42」は、本件補正発明の「前記複数のティースの前記スロット側および前記ヨーク部の前記スロット側に設けられ、前記第2の絶縁部を覆う第1の絶縁部」に相当する。
キ.引用発明の「コイル30」は、本件補正発明の「巻線」に相当する。すると、引用発明の「前記複数のティース部22のそれぞれに、前記基材42及び前記高熱伝導樹脂41を介して巻き付けられたコイル30」は、本件補正発明の「前記複数のティースのそれぞれに、前記第1の絶縁部および前記第2の絶縁部を介して巻き付けられた巻線」に相当する。
ク.引用発明の「ステータ20」は、本件補正発明の「固定子」に相当する。

ケ.したがって、本件補正発明と引用発明とは、
「軸線を中心とする周方向に延在するヨーク部と、前記ヨーク部から前記軸線に向かう方向または前記軸線から離間する方向に延在する複数のティースと、前記複数のティースのうち前記周方向に隣り合う2つのティースの間に形成されたスロットとを有する固定子鉄心であって、複数の積層要素が前記軸線の方向に積層される固定子鉄心と、
前記複数のティースの前記スロット側の面および前記ヨーク部の前記スロット側の面を覆う第2の絶縁部と、
前記複数のティースの前記スロット側および前記ヨーク部の前記スロット側に設けられ、前記第2の絶縁部を覆う第1の絶縁部と、
前記複数のティースのそれぞれに、前記第1の絶縁部および前記第2の絶縁部を介して巻き付けられた巻線と
を備えた固定子。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点]
固定子鉄心及び第2の絶縁部について、本件補正発明では、固定子鉄心が「前記複数の積層要素のうち前記軸線の方向に隣り合う2つの積層要素の間に隙間を有する」ものであり、第2の絶縁部が「前記隙間の前記スロット側を塞ぎ、且つ前記隙間に入り込む」のに対し、引用発明では、ステータコア21が所定枚数分の電磁鋼板のうち軸線の方向に隣り合う2つの電磁鋼板の間に隙間を有するものなのか不明であり、また、高熱伝導樹脂41が前記隙間のスロット側を塞ぎ、且つ前記隙間に入り込むものなのか明らかでない点。

(4)判断
ア.相違点について
以下、上記相違点について検討する。
(ア)本件補正発明の固定子鉄心が「前記複数の積層要素のうち前記軸線の方向に隣り合う2つの積層要素の間に隙間を有する」ものであり、第2の絶縁部が「前記隙間の前記スロット側を塞ぎ、且つ前記隙間に入り込む」との事項について、段落【0114】の「固定子鉄心10のスロット13側の面に、積層隙間102に連通する凹部104が形成され、第2の絶縁部3が凹部104を塞いでいるため、凹部104から積層隙間102への潤滑油および冷媒の侵入を抑制することができ、漏洩電流を効果的に抑制することができる。」との記載等を考慮すると、上記事項の「隙間」は「凹部104」も含むものと解され、上記事項は、固定子鉄心10のスロット13側の面に凹部104が形成され、第2の絶縁部3が凹部104に入り込むことを含むものと解される。
一方、引用発明の「電磁鋼板」の打ち抜きによって形成される“かえり”や“ばり”は、電磁鋼板の厚さ方向に形成されて、厚さ方向に直交する方向においてせん断面よりも内側に退避するものであるから、所定枚数分の電磁鋼板を軸線方向に積層したステータコア21には、そのスロット側の面に凹部が形成されているといえる。
そして、引用発明の「高熱伝導樹脂41」は、「前記ステータコア21のスロット面に密着することで打ち抜きのかえりやばり等で発生する凹凸を埋める」ものであり、引用発明の「高熱伝導樹脂41」も、ステータコア21のスロット側の面に形成される凹部に入り込んでいるといえるから、上記相違点は形式的な相違点であって、実質的な相違点であるとはいえない。
(イ)また、本件補正発明の固定子鉄心が「前記複数の積層要素のうち前記軸線の方向に隣り合う2つの積層要素の間に隙間を有する」ものであり、第2の絶縁部が「前記隙間の前記スロット側を塞ぎ、且つ前記隙間に入り込む」との事項について、段落【0121】の記載、図19等を考慮すると、上記事項の「隙間」は「積層隙間102」を意味するとも解され、上記事項は、第2の絶縁部3が凹部104に連通する積層隙間102に入り込むことを意味するとも解される。
一方、引用発明においても、電磁鋼板の打ち抜きによって生じる“かえり”や“ばり”が電磁鋼板の打ち抜き方向に形成されるから、所定枚数分の電磁鋼板を軸線方向に積層したステータコア21には、本件補正発明と同様の隙間(積層隙間)が形成されるものといえる。そして、引用発明の「高熱伝導樹脂41」は、ステータコア21のスロット面に密着することで打ち抜きのかえりやばり等で発生する凹凸を埋めるものであり、また、「空気層を削減する」ようにステータコア21のスロット面に加圧されながら埋め込まれるものであるから(上記(2)ア(カ)の段落【0022】を参照。)、当然、引用発明の「高熱伝導樹脂41」の一部は、“かえり”や“ばり”等を回り込んで、“かえり”や“ばり”等で発生する凹凸を越えてその内側の隙間(積層隙間)まで入り込んでいるといえる。そうすると、上記相違点は形式的な相違点であって、実質的な相違点であるとはいえない。仮に、上記相違点が実質的な相違点であったとしても、引用発明において、熱伝導率を向上させるために、電磁鋼板の打ち抜きのかえりやばり等で発生する凹凸に空隙が生じないように、熱伝導率の高い「高熱伝導樹脂41」を加圧し、加熱硬化させることは、当業者が容易に想到し得たものである。その際、「高熱伝導樹脂41」の一部は、“かえり”や“ばり”等を回り込んで、“かえり”や“ばり”等で発生する凹凸を越えてその内側の隙間(積層隙間)まで入り込むものといえる。

イ.本件補正発明の作用効果について
本件補正発明の作用効果については、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。

ウ.請求人の主張について
審判請求人は、「引用文献1には、ステータコア21のスロット面に接触するように、高熱伝導樹脂41と基材42とからなる高熱伝導複合材40が配置されており、高熱伝導樹脂41がステータコア21に密着し、電磁鋼板の打ち抜きのかえり等で発生する凹凸を埋めることが開示されていますが(段落0021)、高熱伝導樹脂41が電磁鋼板の隙間に入り込むことは開示されていません。引用文献1の図3では、高熱伝導樹脂41がステータコア21のスロット面の凹凸を埋めていることは理解されますが、ステータコア21の電磁鋼板の隙間にまで入り込んでいることは示されていません。」(審判請求書の「[3]本願発明が特許されるべき理由 [3-3]特許法第29条第1項第3号および第2項の拒絶理由について [3-3-2]本願の請求項1に係る発明と引用発明との対比」)と主張している。
しかし、本件補正発明の「隙間に入り込む」が、第2の絶縁部3が積層隙間102に入り込むことを意味するとしても、上記ア.(イ)で検討したように、引用発明の「高熱伝導樹脂41」は、「ステータコア21のスロット面に密着することで打ち抜きのかえりやばり等で発生する凹凸を埋める」ものであり、また、ステータコア21のスロット面に加圧されながら埋め込まれるものであるから、引用発明の「高熱伝導樹脂41」の一部は、“かえり”や“ばり”等を回り込んで、“かえり”や“ばり”等で発生する凹凸を越えてその内側の隙間(積層隙間)まで入り込んでいるといえる。そうすると、引用発明の「高熱伝導樹脂41」は、「ステータコア21の電磁鋼板の隙間にまで入り込んでいることは示されてい」ないという請求人の上記主張を採用することはできない。
また、審判請求人は、「引用文献1の高熱伝導複合材40は、アラミド紙等の基材42の両面に熱硬化性樹脂からなる高熱伝導樹脂41を積層したプリプレグ材であり(段落0020)、このプリプレグ材をステータコア21のスロット面に接触するように配置して加熱硬化することで高熱伝導樹脂41をステータコア21に密着させています(段落0021)。この方法では、高熱伝導樹脂41がステータコア21のスロット面の凹凸を埋めることは可能であっても、高熱伝導樹脂41が電磁鋼板の隙間に入り込む構成は得られないものと考えられます。」(審判請求書の「[3]本願発明が特許されるべき理由 [3-3]特許法第29条第1項第3号および第2項の拒絶理由について [3-3-2]本願の請求項1に係る発明と引用発明との対比」)と主張している。
しかし、引用発明の「高熱伝導複合材40」がプリプレグ材であったとしても、高熱伝導複合材40をステータコア21のスロット面に接触するように配置し、高熱伝導複合材40を予め加圧しながら加熱硬化させることで(上記(2)ア(オ)の段落【0021】、(カ)の段落【0022】を参照。下線は当審で付与した。)、高熱伝導複合材40を構成する高熱伝導樹脂41は、ステータコア21のスロット面を塞ぐだけでなく、スロット面から内側の隙間まで入り込んでいるといえる(少なくとも、高熱伝導樹脂41は加圧されるから、せん断面よりも内側に入り込むものである。)。そうすると、引用発明の「高熱伝導樹脂41が電磁鋼板の隙間に入り込む構成は得られない」という請求人の上記主張を採用することはできない。

エ.まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明との間に実質的な相違点がなく、引用文献1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、又は本件補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
令和2年10月28日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、この出願の各請求項に係る発明は、令和2年7月9日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみてその請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2[理由]1.(2)」に記載のとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1、15に係る発明は、この出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、また、この出願の請求項1、15に係る発明は、この出願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2003-284277号公報

3.引用文献の記載及び引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、上記「第2[理由]2.(2)」に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は、上記「第2[理由]2.」で検討した本件補正発明から、第2絶縁部の「且つ前記隙間に入り込む」という限定を削除したものであり、その余の発明特定事項は本件補正発明と同じである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定したものに相当する本件補正発明が、上記「第2[理由]2.(3)、(4)」に記載したとおり、引用文献1に記載された発明であり、又は引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明であり、又は引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-06-09 
結審通知日 2021-06-15 
審決日 2021-06-30 
出願番号 特願2019-528281(P2019-528281)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H02K)
P 1 8・ 575- Z (H02K)
P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 島倉 理  
特許庁審判長 柿崎 拓
特許庁審判官 関口 哲生
神山 貴行
発明の名称 固定子、電動機、駆動装置、圧縮機、空気調和装置および固定子の製造方法  
代理人 山形 洋一  
代理人 前田 実  
代理人 篠原 昌彦  
代理人 佐藤 賢改  

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