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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1377336
審判番号 無効2019-800038  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-04-26 
確定日 2021-09-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第3531170号発明「止痒剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由
第1 手続の経緯

東レ 株式会社(以下「被請求人」という。)を出願人とし、1997年11月21日(優先権主張 平成8年11月25日(以下「本件優先日」という。))を国際出願日とし、発明の名称を「止痒剤」とする特許出願(特願平10-524506号)について、平成16年3月12日に、特許第3531170号として特許権の設定登録がなされた(請求項の数36、以下、この特許を「本件特許」といい、各請求項に係る発明を、請求項の順に「本件発明1」等といい、これらをまとめて「本件発明」という。)。
これに対して、沢井製薬 株式会社(以下「請求人」という。)から、平成31年4月26日に、本件発明1、6?9、20に係る特許を無効とすることについて、特許無効審判の請求がなされた。
本件審判の請求以降の主な手続の経緯は、次のとおりである。

平成31年 4月26日 審判請求書及び甲第1?10号証の提出
(請求人)
令和 1年 7月29日 審判事件答弁書及び乙第1?15号証の
提出(被請求人)
令和 1年 9月20日付け 審理事項通知(請求人宛て)
令和 1年 9月20日付け 審理事項通知(被請求人宛て)
令和 1年10月29日 口頭審理陳述要領書及び乙第16?19
号証の提出(被請求人)
令和 1年10月30日 口頭審理陳述要領書及び甲第11?17
号証の提出(請求人)
令和 1年11月13日 上申書及び乙第20?21号証の提出
(被請求人)
令和 1年11月13日 口頭審理
令和 1年11月19日 上申書(2)及び乙第22号証の提出
(被請求人)
令和 1年12月17日 上申書及び甲第18?24号証の提出
(請求人)

第2 本件発明

本件発明のうち、請求人が、その特許を無効とする審決を求めている本件発明1、6?9、20は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、6?9、20に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
下記一般式(I)

[式中、

は二重結合又は単結合を表し、R^(1)は炭素数1から5のアルキル、炭素数4から7のシクロアルキルアルキル、炭素数5から7のシクロアルケニルアルキル、炭素数6から12のアリール、炭素数7から13のアラルキル、炭素数4から7のアルケニル、アリル、炭素数1から5のフラン-2-イルアルキルまたは炭素数1から5のチオフェン-2-イルアルキルを表し、R^(2)は水素、ヒドロキシ、ニトロ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルキルまたは-NR^(9)R^(10)を表し、R^(9)は水素または炭素数1から5のアルキルを表し、R^(10)は水素、炭素数1から5のアルキルまたは-C(=O)R^(11)-を表し、R^(11)は、水素、フェニルまたは炭素数1から5のアルキルを表し、R^(3)は水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシまたは炭素数1から5のアルコキシを表し、Aは-XC(=Y)-、-XC(=Y)Z-、-X-または-XSO_(2)-(ここでX、Y、Zは各々独立してNR^(4)、SまたはOを表し、R^(4)は水素、炭素数1から5の直鎖もしくは分岐アルキルまたは炭素数6から12のアリールを表し、式中R^(4)は同一または異なっていてもよい)を表し、Bは原子価結合、炭素数1から14の直鎖または分岐アルキレン(ただし炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチルおよびフェノキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよく、1から3個のメチレン基がカルボニル基でおきかわっていてもよい)、2重結合および/または3重結合を1から3個含む炭素数2から14の直鎖もしくは分岐の非環状不飽和炭化水素(ただし炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチルおよびフェノキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよく、1から3個のメチレン基がカルボニル基でおきかわっていてもよい)、またはチオエーテル結合、エーテル結合および/もしくはアミノ結合を1から5個含む炭素数1から14の直鎖もしくは分岐の飽和もしくは不飽和炭化水素(ただしヘテロ原子は直接Aに結合することはなく、1から3個のメチレン基がカルボニル基でおきかわっていてもよい)を表し、R^(5)は水素または下記の基本骨格:

のいずれかを持つ有機基(ただし炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、イソチオシアナト、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、メチレンジオキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよい)を表し、R^(6)は水素、R^(7)は水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、もしくは、R^(6)とR^(7)は一緒になって-O-、-CH_(2)-、-S-を表し、R^(8)は水素、炭素数1から5のアルキルまたは炭素数1から5のアルカノイルを表す。また、一般式(I)は(+)体、(-)体、(±)体を含む]で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤。

【請求項6】
前記一般式(I)において、R^(1)がメチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、シクロプロピルメチル、アリル、ベンジルまたはフェネチルであり、R^(2)およびR^(3)が各々独立して水素、ヒドロキシ、アセトキシまたはメトキシであり、Aが-XC(=Y)-(ここで、XはNR^(4)を表し、YはOを表し、R4は炭素数1から5のアルキルを表す)であり、Bが-CH=CH-、-C≡C-、-CH_(2)O-、または-CH_(2)S-であり、R^(6)とR^(7)が一緒になって-O-であり、R^(8)が水素であるものである請求項1記載の止痒剤。

【請求項7】
前記一般式(I)において、R^(5)が水素または下記の基本骨格:

のいずれかを持つ有機基(ただし炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、イソチオシアナト、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、メチレンジオキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよい)で表されるものである請求項6記載の止痒剤。

【請求項8】
前記一般式(I)において、Bが-CH=CH-または-C≡C-のものである請求項6記載の止痒剤。

【請求項9】
前記一般式(I)において、R^(5)が水素または下記の基本骨格:

のいずれかを持つ有機基(ただし炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、イソチオシアナト、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、メチレンジオキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよい)で表されるものである請求項8記載の止痒剤。

【請求項20】
そう痒が皮膚疾患あるいは内蔵疾患に伴うものである、請求項1ないし19のいずれかに記載の止痒剤。」

第3 請求の趣旨、請求人の主張及び請求人が提出した証拠方法

1 請求の趣旨及び請求人が主張する無効理由の概要

請求人の請求の趣旨は、「特許第3531170号の請求項1、6ないし9、及び20に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」というものであり、請求人が主張する無効理由は、審判請求書、口頭審理陳述要領書、及び令和1年12月17日提出の上申書の記載からみて、概略、以下のとおりであると認める。

(1)無効理由1(進歩性:請求項1(本件発明1))
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第2号証ないし甲第9号証及び甲第12号証から導かれる本件優先日当時の技術水準・周知技術に基いて、本件優先日前に本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由2(進歩性:請求項6(本件発明6))
本件発明6は、甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第2号証ないし甲第9号証及び甲第12号証から導かれる本件優先日当時の技術水準・周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明6についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

(3)無効理由3(進歩性:請求項7(本件発明7))
本件発明7は、甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第2号証ないし甲第9号証及び甲第12号証から導かれる本件優先日当時の技術水準・周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明7についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

(4)無効理由4(進歩性:請求項8(本件発明8))
本件発明8は、甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第2号証ないし甲第9号証及び甲第12号証から導かれる本件優先日当時の技術水準・周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明8についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

(5)無効理由5(進歩性:請求項9(本件発明9))
本件発明9は、甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第2号証ないし甲第9号証及び甲第12号証から導かれる本件優先日当時の技術水準・周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明9についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

(6)無効理由6(進歩性:請求項20(本件発明20))
本件発明20は、甲第1号証に記載された発明、並びに、甲第2号証ないし甲第9号証及び甲第12号証から導かれる本件優先日当時の技術水準・周知技術、並びに、甲第10号証に記載された本件優先日当時の技術常識に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明20についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。

2 請求人が提出した証拠方法

請求人は、証拠方法として、以下の甲第1号証ないし甲第24号証(いずれも写し)を提出している。なお、本審決では、各甲号証を指して、番号順に「甲1」等ということがあり、甲号証と乙号証とが同じ文献である場合には、例えば「甲5(乙8)」等ということがある。

(1)審判請求書と同時に提出した証拠方法
甲第1号証 特許第2525552号公報
甲第2号証 特開2014-105174号公報
甲第3号証 再公表特許第2016/152965号
甲第4号証 DEBRA E. GMEREK AND A. COWAN,
"Role of Opioid Receptors in Bombesin-induced
Grooming",
Annals of the New York Academy of Sciences, 1988年,
Vol.525, p.291-300(抄訳添付)
甲第5号証 D. L. DEHAVEN-HUDKINS, K. M. KOMER, J. A. PETERSON,
B. J. MAVUNKEL AND W. J. RZESZOTARSKI,
"Opioid Agonist Properties of Two Oxime Derivatives
of Naltrexone, NPC831 and NPC836",
Pharmacology Biochemistry and Behavior, 1993年,
Vol.44, No.1, p.45-50(抄訳添付)
(当審注:乙第8号証と同じ文献)
甲第6号証 Alan Cowan and Debra E. Gmerek,
"In-vivo studies on kappa opioid receptors",
Trends in Pharmacological Sciences, 1986年, Vol.7,
No.2, p.69-72(抄訳添付)
(当審注:乙第20号証と同じ文献)
甲第7号証 A. Cowan, R.R. Ryan and H. Wheeler-Aceto,
"Defining the antipruritic potential of kappa
opioid agonists.",
The FASEB JOURNAL, 1995年, Vol.9, No.3, A98, 574
(抄訳添付)
甲第8号証 DEBRA E. GMEREK AND ALAN COWAN,
"An animal model for preclinical screening of
systemic antipruritic agents",
Journal of Pharmacological Methods, 1983年, Vol.10,
No.2, p.107-112(抄訳添付)
(当審注:乙第5号証と同じ文献)
甲第9号証 Yasushi Kuraishi, Tetsuro Nagasawa,Kazuko Hayashi,
Masamichi Satoh,
"Scratching behavior induced by pruritogenic but
not algesiogenic agents in mice",
European Journal of Pharmacology, 1995年, Vol.275,
p.229-233(抄訳添付)
(当審注:乙第2号証と同じ文献)
甲第10号証 「カラー図説 医学大事典」, 株式会社朝倉書店,
1985年6月, p.623-624

(2)口頭審理陳述要領書と同時に提出した証拠方法
甲第11号証 斎藤宏子, 野沢愛, 遠山早苗, 「企業における臨床試験と
情報支援」, 医学図書館, 1996年, 第43巻, 第4号,
p.431-441
甲第12号証 DEBRA E. GMEREK,ALAN COWAN,
"Bombesin-a central mediator of pruritus?",
British Journal of Dermatology, 1983年, Vol.109,
p.239(抄訳添付)
甲第13号証 山本光璋, 「痛みの測定」,
日本臨床麻酔学会誌, 1987年, 第7巻, 第2号, p.146-156
甲第14号証 山田勝士, 「オープンフィールドテスト」,
生体の科学, 1994年, 第45巻, 第5号, p.426-427
甲第15号証 宮崎浩, 山中宏, 「2 光学活性体の生理活性」,
光学異性体の分離〔季刊化学総説〕, 1989年, 第6巻,
p.16-29
甲第16号証 辻尚志, 「生活の中の光学異性体」,
化学と教育, 1995年, 第43巻, 第11号, p.691-694
甲第17号証 経口そう痒症改善剤 レミッチ^((R))OD錠2.5μg 添付文書
, 2017年9月改訂(第3版)
(当審注:「^((R))」は、^(R)の丸囲み文字を示す。)

(3)令和1年12月17日付け上申書と同時に提出した証拠方法
甲第18号証 「MR教育研修テキスト 基礎学術2 薬理学」,
株式会社ミクス, 1995年, p.24
甲第19号証 「グッドマン・ギルマン 薬理書 薬物治療の基礎と臨床
第8版 上巻」, 廣川書店, 1992年, p.37-55
甲第20号証 「岩波講座-分子生物科学5 情報の伝達と物質の動きI」
, 株式会社岩波書店, 1990年, p.16
甲第21号証 「新英和中辞典(携帯版)第二版」, 研究社, 1969年,
p.382頁, 「depressant」の項目
甲第22号証 金田孝道, 大河原章, 「▲そう▼痒性皮膚疾患に対する
Sch-10649 の使用経験(二重盲検法)」,
薬理と治療, 1975年, 第3巻, 第1号, p.162-166
(当審注:「▲そう▼」は、「やまいだれ」に「蚤」を
示す。)
甲第23号証 嶋崎匡, 「ラクレチンの皮膚疾患に対する治療効果」,
薬理と治療, 1977年, 第5巻, 第7号, p.263-268
甲第24号証 「生理学大系VI 感覚の生理学」, 株式会社医学書院,
1967年, p.582

第4 答弁の趣旨、被請求人の主張及び被請求人が提出した証拠方法

1 答弁の趣旨及び被請求人の答弁の概要

被請求人の答弁の趣旨は、「本件審判の請求は、成り立たない、審判費用は、請求人の負担とする、との審決を求める。」というものである。
そして、被請求人は、審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書、令和1年11月13日付け上申書、及び令和1年11月19日付け上申書(2)において、請求人が主張する上記無効理由1ないし6は、いずれも理由がない旨の主張をしていると認める。

2 被請求人が提出した証拠方法

被請求人は、証拠方法として、以下の乙第1号証ないし乙第22号証(いずれも写し)を提出している。なお、本審決では、各乙号証を指して、番号順に「乙1」等ということがあり、乙号証と甲号証とが同じ文献である場合には、甲号証の番号を先に記載し、例えば「甲9(乙2)」等ということがある。

(1)審判事件答弁書と同時に提出した証拠方法
乙第1号証 ROBERT C. BOLLES, "GROOMING BEHAVIOR IN THE RAT",
Journal of Comparative and Physiological Psychology,
1960年, Vol.53, No.3, p.306-310(抄訳添付)
乙第2号証 Yasushi Kuraishi, Tetsuro Nagasawa,Kazuko Hayashi,
Masamichi Satoh,
"Scratching behavior induced by pruritogenic but
not algesiogenic agents in mice",
European Journal of Pharmacology, 1995年, Vol.275,
p.229-233(抄訳添付)
(当審注:甲第9号証と同じ文献)
乙第3号証 THOMAS L. O'DONOHUE, V. JOHN MASSARI,CHRISTOPHER
J. PAZOLES, BIBIE M. CHRONWALL,CLIFFORD W. SHULTS,
REMI QUIRION, THOMAS N. CHASE,AND TERRY W. MOODY,
"A ROLE FOR BOMBESIN IN SENSORY PROCESSING IN THE
SPINAL CORD",
The Journal of Neuroscience, 1984年, Vol.4, No.12,
p.2956-2962(抄訳添付)
乙第4号証 Ruth A. Cridland and James L. Henry,
"Bombesin, neuromedin C and neuromedin B given
intrathecally facilitate the tail flick reflex in
the rat",
Brain Research, 1992年, Vol.584, p.163-168
(抄訳添付)
乙第5号証 DEBRA E. GMEREK AND ALAN COWAN,
"An animal model for preclinical screening of
systemic antipruritic agents",
Journal of Pharmacological Methods, 1983年, Vol.10,
No.2, p.107-112(抄訳添付)
(当審注:甲第8号証と同じ文献)
乙第6号証 Toru Kobayashi, Kazutaka Ikeda, Tomio Ichikawa,
Shunji Togashi & Toshiro Kumanishi,
"Effects of sigma ligands on the cloned μ-, δ-
and κ-opioid receptors co-expressed with G-protein-
activated K^(+) (GIRK) channel in Xenopus oocytes",
British Journal of Pharmacology, 1996年9月,
Vol.119, No.1, p.73-80(抄訳添付)
乙第7号証 Debra E. Gmerek and Alan Cowan,
"CLASSIFICATION OF OPIOIDS ON THE BASIS OF THEIR
ABILITY TO ANTAGONIZE BOMBESIN-INDUCED GROOMING
IN RATS",
Life Sciences, 1982年, Vol.31, No.s 20 & 21,
p.2229-2232(抄訳添付)
乙第8号証 D. L. DEHAVEN-HUDKINS, K. M. KOMER, J. A. PETERSON,
B. J. MAVUNKEL AND W. J. RZESZOTARSKI,
"Opioid Agonist Properties of Two Oxime Derivatives
of Naltrexone, NPC831 and NPC836",
Pharmacology Biochemistry and Behavior, 1993年,
Vol.44, No.1, p.45-50(抄訳添付)
(当審注:甲第5号証と同じ文献)
乙第9号証 Anne Jackson and Steven J. Cooper,
"Observational analysis of the effects of kappa
opioid agonists on open field behaviour in the rat",
Psychopharmacology, 1988年, Vol.94, p.248-253(抄訳
添付)
乙第10号証 KAREN RAYNOR, HAEYONG KONG, YAN CHEN, KAZUKI
YASUDA, LEI YU, GRAEME I. BELL, and TERRY REISINE,
"Pharmacological Characterization of the Cloned
κ-, δ-, and μ-Opioid Receptors",
Molecular Pharmacology, 1994年, Vol.45, No.2,
p.330-334(抄訳添付)
乙第11号証 Andrea Cappelli, Maurizio Anzini,Salvatore Vomero,
M. Cristina Menziani, Pier G. De Benedetti, Massimo
Sbacchi, Geoffrey D. Clarke, and Laura Mennuni,
"Synthesis, Biological Evaluation, and Quantitative
Receptor Docking Simulations of 2-[(Acylamino)ethyl]
-1,4-benzodiazepines as Novel Tifluadom-like Ligands
with High Affinity and Selectivity for κ-Opioid
Receptors",
Journal of Medicinal Chemistry, 1996年2月, Vol.39,
No.4, p.860-872(抄訳添付)
乙第12号証 Ronald F. Mucha and Albert Herz,
"Motivational properties of kappa and mu opioid
receptor agonists studied with place and taste
preference conditioning",
Psychopharmacology, 1985年, Vol.86, p.274-280
乙第13号証 Atul C. Pande, Robert E. Pyke, Martha Greiner,
Gilder L. Wideman, Ronald Benjamin, and Mark W.
Pierce,
"Analgesic Efficacy of Enadoline Versus Placebo or
Morphine in Postsurgical Pain",
Clinical Neuropharmacology, 1996年10月, Vol.19,
No.5, p.451-456
乙第14号証 DEBRA E. GMEREK, LINDA A. DYKSTRA and JAMES H. WOODS
, "Kappa Opioids in Rhesus Monkeys. III. Dependence
Associated with Chronic Administration",
The Journal of Pharmacology and Experimental
Therapeutics, 1987年, Vol.242, No.2, p.428-436(抄訳
添付)
乙第15号証 PAUL F. BRAIN, ROBERT SMOOTHY AND DAVID BENTON,
"An Ethological Analysis of the Effects of
Tifluadom on Social Encounters in Male Albino Mice",
Pharmacology Biochemistry & Behavior, 1985年,
Vol.23, p.979-985(抄訳添付)

(2)口頭審理陳述要領書と同時に提出した証拠方法
乙第16号証 British Journal of Pharmacology, 1996年9月,Vol.119,
No.1(目次)
(当審注:乙第6号証掲載誌の目次)
乙第17号証 Molecular Pharmacology, 1994年2月, Vol.45, No.2
(目次)
(当審注:乙第10号証掲載誌の目次)
乙第18号証 Journal of Medicinal Chemistry, 1996年2月, Vol.39,
No.4(目次)
(当審注:乙第11号証掲載誌の目次)
乙第19号証 Clinical Neuropharmacology, 1996年10月, Vol.19,
No.5(目次)
(当審注:乙第13号証掲載誌の目次)

(3)令和1年11月13日付け上申書と同時に提出した証拠方法
乙第20号証 Alan Cowan and Debra E. Gmerek,
"In-vivo studies on kappa opioid receptors",
Trends in Pharmacological Sciences, 1986年, Vol.7,
No.2, p.69-72(抄訳添付)
(当審注:甲第6号証と同じ文献)
乙第21号証 DEBRA E. GMEREK AND ALAN COWAN,
"A Study on the Shaking and Grooming Induced by
RX 336-M in Rats",
Pharmacology Biochemistry and Behavior, Vol.16,
1982年, p.929-932(抄訳添付)

(4)令和1年11月19日付け上申書(2)と同時に提出した証拠方法
乙第22号証 口頭審理被請求人意見陳述資料

第5 本件明細書の記載事項等

1 本件明細書の記載事項

本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)に記載された事項のうち、無効理由の判断に必要なものについて以下に摘記する。なお、引用箇所の表示は本件特許の特許掲載公報による。また、下線は当審合議体が付した。

(摘記ア)(7頁14欄35行?8頁15欄2行)
「技術分野
本発明は、各種の痒みを伴う疾患における痒みの治療に有用なオピオイドκ受容体作動性化合物およびこれを含んでなる止痒剤に関する。
背景技術
痒み(そう痒)は、皮膚特有の感覚で、炎症を伴う様々な皮膚疾患に多く見られるが、ある種の内科系疾患(悪性腫瘍、糖尿病、肝疾患、腎不全、腎透析、痛風、甲状腺疾患、血液疾患、鉄欠乏)や妊娠、寄生虫感染が原因となる場合や、ときには薬剤性や心因性で起きることもある。
痒みは主観的な感覚であるため数量的に客観的に評価することが難しく、痒みの発現メカニズムはまだ十分に解明されていない。
現在のところ、痒みを引き起こす刺激物質としては、ヒスタミン、サブスタンスP、ブラジキニン、プロテイナーゼ、プロスタグランジン、オピオイドペプチドなどが知られている。」

(摘記イ)(8頁15欄40行?同頁16欄2行)
「このようなそう痒の治療には、内服剤として抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤などが主に用いられ、また外用剤としては、抗ヒスタミン剤、副腎皮質ステロイド外用剤、非ステロイド系抗消炎剤、カンフル、メントール、フェノール、サリチル酸、タール、クロタミトン、カプサイシンなど保湿剤(尿素、ヒルドイド、ワセリンなど)が用いられる。しかし内服剤の場合、作用発現までに時間のかかることや、中枢神経抑制作用(眠気、倦怠感)、消化器系に対する障害などの副作用が問題となっている。一方、外用剤の場合では、止痒効果が十分でないことや特にステロイド外用剤では長期使用における副腎機能低下やリバウンドなどの副作用が問題となっている。

(摘記ウ)(8頁16欄3?28行)
「オピオイドと痒みについては、オピオイドが鎮痛作用を有する一方で痒みのケミカルメディエーターとしても機能することが知られていた。β-エンドルフィンやエンケファリンのような内因性オピオイドペプチドが痒みを起こすことが報告された(B. Fjeller Acta, Dermato-Venereol., 61(suppl.97),1-34, 1981)のを始めとして、モルヒネやオピオイド化合物を硬膜外や髄腔内に投与した場合も副作用として痒みが惹起されることが明らかとなった(J. H. Jaffe and W. R. Martin, Goodman and Gilman's Pharmacological Basis of Theraputics, Macmillan, New York, 1985)。その一方で、モルヒネの髄腔内投与によって惹起された痒みがモルヒネ拮抗薬であるナロキソンによって抑制されたこと(J.Bernstein et al.,J.Invest.Dermatol.,78,82-83,1982)や肝障害の胆汁鬱血患者で内因性オピオイドペプチドの上昇によって惹起された強い痒みが、オピオイド拮抗薬であるナルメフェンによって抑制されたこと(J. R. Thornton and M. S. Losowsky, Br. Med. J., 297, 1501-1504, 1988)も明らかとなり、統一的見解として、オピオイド系作動薬は痒みを惹起する作用があり、逆にその拮抗薬には止痒作用があるとされた。また最近でも、アトピー性皮膚炎の子供の血清中のβ-エンドルフィン濃度が健常児のそれより有意に高いことが見いだされ、オピオイド拮抗薬がアトピー性皮膚炎の痒みに有効であろうことが報告された(S. Georgala et al., J. Dermatol. Sci., 8, 125-128, 1994)。」

(摘記エ)(8頁16欄29?35行)
「このように、従来よりオピオイド系作動薬は痒みを惹起し、その拮抗薬が止痒剤としての可能性があるとされてきた。しかし、オピオイド系拮抗薬を止痒剤として応用することは現在までのところ実用化されていない。
本発明の目的は、上記の問題点を解決した止痒作用が極めて速くて強いオピオイドκ受容体作動薬およびこれを含んでなる止痒剤を提供することにある。」

(摘記オ)(8頁16欄41?50行)
「発明を実施するための最良の形態
オピオイド受容体には、μ、δ、およびκ受容体の存在が知られており、それぞれを選択的に刺激する内因性オピオイドペプチドが既に発見されている。即ち、先に述べたμおよびδ受容体作動薬として同定されたβ-エンドルフィンやエンケファリン、およびκ受容体作動性の内因性オピオイドペプチドとして同定されたダイノルフィンである。しかし、ダイノルフィン自体を含め、κ受容体作動薬の痒みに対する作用は何ら明らかにされておらず、本発明によって初めて明らかにされた。」

(摘記カ)(9頁17欄1行?10頁19欄3行)
「本発明でいうκ受容体作動薬はオピオイドκ受容体に作動性を示すものであればその化学構造的特異性にとらわれるものではないが、μおよびδ受容体よりもκ受容体に高選択性であることが好ましい。より具体的には、オピオイドκ受容体作動性を示すモルヒナン誘導体またはその薬理学的に許容される酸付加塩が挙げられ、中でも一般式(I)

[式中、・・・を含む]で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物またはその薬理学的に許容される酸付加塩であり、・・・」

(摘記キ)(12頁24欄35?37行)
「これら一般式(I)に示すκ受容体作動薬は、日本特許第2525552号に示される方法に従って製造することができる。」

(摘記ク)(44頁87欄20?33行)
「上記κ受容体作動薬の中で、一般式(I)・・・で表される物質に対する薬理学的に好ましい酸付加塩としては、・・・、中でも塩酸塩、・・・、酒石酸塩、・・・等が好まれるが、・・・これらに限られるものではない。」

(摘記ケ)(44頁87欄34?41行、同頁88欄30?33行)
「これらκ受容体作動薬は、医薬品用途にまで純化され、必要な安全性試験に合格した後、そのまま、または公知の薬理学的に許容される酸、担体、賦形剤などと混合した医薬組成物として、経口または非経口的に投与することができる。
経口剤として錠剤やカプセル剤も用いるが、皮膚疾患治療用としては外用剤が好ましい。・・・。
・・・
医薬組成物中のκ受容体作動薬の含量は特に限定されないが、経口剤では1服用あたり通常0.1μg?1000mg、外用剤では1回塗布あたり通常0.001ng/m^(2)?10mg/m^(2)となるように調製される。」

(摘記コ)(49頁97欄18行?同頁98欄21行)
「実施例9
選択的なκ受容体作動性オピオイド化合物である(-)-17-(シクロプロピルメチル)-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナン塩酸塩7

を生理食塩水に溶解し、40μg/ml濃度の水溶液を調製した。この水溶液を成人男子下肢に生じた蕁麻疹の発赤部位3か所に、薬物濃度 0.2μg/cm^(2)で塗布した。
その結果、塗布前、中等度の痒み(グレードとして++と設定)を感じていたが、塗布5分で痒みを全く感じなくなった(グレードとして-と設定)。痒みのない状態は約5時間持続した。」

(摘記サ)(49頁98欄22?47行)
「実施例10
女性アトピー性皮膚炎患者の腕および脚で強い痒み(グレードとして+++と設定)を感じる皮膚表面病巣に化合物7水溶液を塗布した。塗布部位は5ヶ所で、10cm^(2)に約50μl溶液で、塗布薬物濃度は 0.2μg/cm^(2)であった。また比較として、インドメタシン・クリーム(薬物濃度7.5mg/g)を同様に 75μg/cm^(2)で塗布した。
その結果、表5のように、全塗布部分において、化合物7水溶液では塗布後5分で痒みは完全になくなり、強力な止痒作用を有することが判明した。また、痒みのない状態は少なくとも3時間は持続した。一方、インドメタシン・クリームでは痒みが残る感じがあり、止痒作用は化合物7の方が優れていることが判明した。



(摘記シ)(50頁99欄26?49行、同頁100欄12?50行、
51頁102欄5行?52頁2行、52頁103欄末行?
53頁28行)
「実施例12
ddY系雄性マウスを日本SLCより4週齢で入荷し、予備飼育をした後5週齢で使用した。実験の前日にマウスの吻側背部をバリカンを用いて除毛した。各化合物は10%DMSOに溶解した。被験薬物あるいは溶媒のいずれかをマウスの吻側背部皮下に投与し、その30分後に生理食塩水に溶解したCompound48/80(100μg/site)を50μLの用量で除毛部位に皮内投与した。その後直ちに観察用ケージ(10x7x16cm)に入れ、以後30分間の行動を無人環境下にビデオカメラで撮影した。ビデオテープを再生し、マウスが後肢でCompound48/80投与部位の近傍を引っかく行動の回数をカウントした。1群8匹から10匹で実験を行った。
各被検化合物による引っかき行動の抑制率は下式で計算した。引っかき行動を減らす作用をもって被験化合物の止痒効果の指標とした。
引っかき行動抑制率(%)={1-(A-C/B-C)}x 100
A=被験薬物投与群の平均引っかき行動回数
B=被験薬物の代わりに溶媒を投与した群の平均引っかき行動回数
C=起痒剤の代わりに溶媒を投与した群の平均引っかき行動回数
被験化合物として、・・・、17-(シクロプロピルメチル)-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナン塩酸塩7、17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-(N-メチル-3-メトキシシンナムアミド)モルヒナン・酒石酸塩8、17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-(1,4-ジオキソ-4-メトキシ-トランス-2-ブテニル)-N-メチル]モルヒナン・メタンスルホン酸塩9、17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-(N-メチル-3,4-ジクロロフェニルアセタミド)モルヒナン・塩酸塩10、17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-(N-メチルシンナムアミド)モルヒナン・塩酸塩11、17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6α-(N-メチル-N'-ベンジルウレイド)モルヒナン・酒石酸塩12、17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-(N-メチルベンジルオキシカルバミド)モルヒナン・塩酸塩13、17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-(ベンジルオキシカルバミド)モルヒナン・塩酸塩14、17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6α-(N-メチルフェニルメタンスルホンアミド)モルヒナン・塩酸塩15、17-(シクロプロピルメチル)-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(4-ブロモ-2-チオフリル)アクリルアミド]モルヒナン・臭化水素酸塩16、17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-3-(フェニル)プロピオルアミド]モルヒナン・塩酸塩17、17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-3-(3-メチルフェニル)プロピオルアミド]モルヒナン・塩酸塩18、17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-3-(4-トリフルオロメチルフェニル)プロピオルアミド]モルヒナン・塩酸塩19、・・・を用いた。

・・・
結果を表6にまとめる。試験に用いた化合物は用いた用量で止痒効果を示した。



(摘記ス)(53頁105欄29行?同頁106欄33行)
「産業上の利用可能性
本発明の止痒剤は、オピオイドκ受容体作動薬を有効成分とすることを特徴とし、各種の痒みを伴う皮膚疾患、例えばアトピー性皮膚炎、神経性皮膚炎、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、自己感作性皮膚炎、毛虫皮膚炎、皮脂欠乏症、老人性皮膚そう痒、虫刺症、光線過敏症、蕁麻疹、痒疹、疱疹、膿痂疹、湿疹、白癬、苔癬、乾癬、疥癬、尋常性座瘡など、および、痒みを伴う内臓疾患、例えば悪性腫瘍、糖尿病、肝疾患、腎不全、腎透析、妊娠などの痒みの治療に有用である。」

2 本件明細書に記載された本件発明の技術的意義について

前記「1」に摘記した本件明細書の記載事項、及び本件請求項1、6?9、20の記載からみて、本件明細書には、本件発明の技術的意義について、概略、以下のことが記載されていると認められる。

(1)背景技術
痒み(そう痒)は、炎症を伴う様々な皮膚疾患に多く見られるが、ある種の内科系疾患が原因となる場合もある。痒みは、主観的な感覚であるため、数量的に客観的な評価が難しく、痒みの発現メカニズムは、まだ十分に解明されていない状況であった。痒みを引き起こす刺激物質としては、ヒスタミン、サブスタンスP、オピオイドペプチドなどが知られていた(摘記ア)。
そう痒の治療薬には、内服剤と外用剤があり、抗ヒスタミン剤などが主に用いられていたが、内服剤は作用発現までに時間を要し、外用剤は止痒効果が十分でなく、また、どちらも様々な副作用の問題もあった(摘記イ)。
オピオイドと痒みとの関係の統一的見解としては、オピオイド系作動薬は痒みを惹起する作用があり、逆に、その拮抗薬には止痒作用を有する可能性がある、とされていた(摘記ウ)。

(2)課題
従来、オピオイド系作動薬は、痒みを惹起し、その拮抗薬が止痒剤としての可能性があるとされてきたが、オピオイド系拮抗薬を止痒剤とすることは、まだ実用化されていなかったところ、本件発明の目的は、止痒作用が極めて速くて強いオピオイドκ受容体作動薬及びこれを含んでなる止痒剤を提供することにある(摘記エ)。

(3)解決手段・効果
κ受容体に高選択性であって、オピオイドκ受容体作動性である、一般式(I)(式は省略する。)で表されるモルヒナン誘導体又はその薬理学的に許容される酸付加塩を有効成分とする止痒剤を提供する(摘記オ、カ)。
一般式(I)に示されるκ受容体作動薬は、日本特許第2525552号(当審注:甲1である。)に示される方法に従って製造でき(摘記キ)、医薬組成物として、経口剤又は外用剤に調製される(摘記ケ)。
一般式(I)で表されるモルヒナン誘導体又はその薬理学的に許容される酸付加塩の具体例に該当する「化合物7」:
「(-)-17-(シクロプロピルメチル)-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナン塩酸塩7

」(摘記ク、コ)
を局所投与することにより、成人男子下肢に生じた蕁麻疹の中程度の痒み、及び、女性アトピー性皮膚炎患者の腕・脚の強い痒みを、短時間(5分)で完全に治癒し、痒みのない状態が数時間持続するという、優れた止痒効果が示された(摘記コ;実施例9、摘記サ;実施例10)。
また、「化合物7」及び一般式(I)で表されるモルヒナン誘導体に該当する他の化合物の酸付加塩(「化合物8」?「化合物19」)の、マウスの吻側背部の皮下への事前投与が、その後の起痒剤「Compound48/80」の吻側背部の除毛部位への皮内投与により発生する、マウスが後肢で「Compound48/80」投与部位の近傍を引っ掻く行動を抑制した(「化合物7」は用量0.005mg/kgで抑制率58%)という、動物モデルでの止痒効果も示された(摘記シ;実施例12)。

第6 当事者が提出した証拠の記載事項

請求人及び被請求人が提出した証拠のうち、無効理由の判断に必要なものについて、記載事項を摘記する。甲号証と乙号証とが同じ文献である場合には、例えば「甲5(乙8)の記載事項」等として、まとめて摘記する。甲1の化合物番号以外の箇所の各号証の摘記事項に付した下線は、当審合議体によるものである。

1 甲1の記載事項

本件優先日前(平成8年8月21日)に頒布された刊行物である甲1には、以下の事項が記載されている。

(摘記甲1a)(6頁12欄38行?7頁13欄17行)
「発明の開示
中枢で鎮痛作用に関与する受容体としてオピオイド受容体の存在が明らかにされ、さらにμ、δ、κの3タイプに分類できることが知られている。・・・。この内、κ-受容体またはδ-受容体に親和性を有するアゴニストは、強い鎮痛活性を有し、μ-受容体アゴニストであるモルヒネ等にみられる依存形成、呼吸抑制作用、平滑筋運動抑制作用などの臨床上問題となる重篤な副作用は示さないとされている。・・・。すなわち本発明の目的は、モルヒネ様の重篤な副作用を有さず、かつモルヒネ等と交差耐性を持たず、さらにσ受容体にまったく親和性を示さない、強い鎮痛活性を持つκ-受容体アゴニストまたはδ-受容体アゴニストを提供することにある。また、本発明のもうひとつの課題は、オピオイド作用薬が排尿に影響することを利用した有用な利尿剤を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、一般式(I)に示されるモルヒナン誘導体が、上記のすぐれた特徴を有する鎮痛作用、利尿作用を表す化合物であることを見出し、本発明を完成するにいたった。」

(摘記甲1b)(請求項1、19?20)
「【請求項1】
一般式(I)

〔式中、

は二重結合又は単結合を表し、R^(1)は炭素数1から5のアルキル、炭素数4から7のシクロアルキルアルキル、炭素数5から7のシクロアルケニルアルキル、炭素数6から12のアリール、炭素数7から13のアラルキル、炭素数4から7のアルケニル、アリル、炭素数1から5のフラン-2-イルアルキルまたは炭素数1から5のチオフェン-2-イルアルキルを表し、
R^(2)は水素、ヒドロキシ、ニトロ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルキル、または-NR^(9)R^(10)を表し、
R^(9)は水素、または炭素数1から5のアルキルを表し、
R^(10)は水素、炭素数1から5のアルキル、または-C(=O)R^(11)-を表し、
R^(11)は、水素、フェニル、または炭素数1から5のアルキルを表し、
R^(3)は水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、または炭素数1から5のアルコキシを表し、
Aは-XC(=Y)-,-XC(=Y)Z-,-X-,-XSO_(2)-、または-OC(OR^(4))R^(4)-(ここでX,Y、およびZは各々独立してNR^(4),SまたはOを表し、そしてR^(4)は水素、炭素数1から5の直鎖もしくは分岐アルキル、または炭素数6から12のアリールを表し、ここで式中R^(4)は同一または異なっていてもよい)を表し、
Bは原子価結合、炭素数1から14の直鎖または分岐アルキレン(ただし炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチルおよびフェノキシからなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基により置換されていてもよく、そして1から3個のメチレン基がカルボニル基でおきかわっていてもよい、ただしAに隣接するメチレン基がカルボニル基におきかわることはない)、2重結合および/または3重結合を1から3個含む炭素数2から14の直鎖または分岐の非環状不飽和炭化水素(ただし炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチルおよびフェノキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよく、そして1から3個のメチレン基がカルボニル基でおきかわっていてもよい)、あるいはチオエーテル結合、エーテル結合および/またはアミノ結合を1から5個含む炭素数1から14の直鎖または分岐の飽和または不飽和炭化水素(ただしヘテロ原子は直接Aに結合することはない)を表し、
R^(5)は水素または下記の基本骨格:

R^(5)が表す有機基
を持つ有機基(ただし炭素数1から5のアルキル、炭素数1から5のアルコキシ、炭素数1から5のアルカノイルオキシ、ヒドロキシ、弗素、塩素、臭素、ヨウ素、アミノ、ニトロ、シアノ、イソチオシアナト、トリフルオロメチルおよびメチレンジオキシからなる群から選ばれた少なくとも一種以上の置換基により置換されていてもよい)を表し、
R^(6)は水素を表わし、R^(7)は水素、ヒドロキシ、炭素数1から5のアルコキシ、または炭素数1から5のアルカノイルオキシを表わし、あるいはR^(6)とR^(7)は一緒になって-O-,CH_(2)-または-S-を表し、
R^(8)は水素、炭素数1から5のアルキル、または炭素数1から5のアルカノイルを表し、
また、一般式(I)は(+)体、(-)体、または(±)体である、
ただし、
1)R^(4)が水素である場合は、R^(5)は水素以外であり、かつBは原子価結合以外であり、
2)Aが-SC(=O)-,-OC(=O)-または-OSO_(2)-である場合は、R^(5)は水素以外であり、かつBは原子価結合以外であり、
3)Aが-X-(Xは前記定義に同じ)である場合は、R^(5)は水素以外であり、かつBは原子価結合以外である〕
で表されるモルヒナン誘導体、またはその薬理学的に許容される酸付加塩。」
「【請求項19】
有効成分として、請求項1記載のモルヒナン誘導体またはその薬理学的に許容される酸付加塩を含んで成る医薬組成物。
【請求項20】
請求項1記載のモルヒナン誘導体またはその薬理学的に許容される酸付加塩を有効成分として含んで成る鎮痛剤。
【請求項21】請求項1記載のモルヒナン誘導体またはその薬理学的に許容される酸付加塩を有効成分として含んで成る利尿剤。」

(摘記甲1c)(74頁148欄22?27行)
「一般式(I)で表される本発明の化合物は、in vitro、in vivoにおける薬理試験の結果、オピオイドκ-アゴニストとして強い鎮痛作用、利尿作用を有していることがわかり、有用な鎮痛剤、利尿剤として期待できることが明かとなった。また、κ-アゴニストの性質から血圧降下剤、鎮静剤としても利用が可能である。」

(摘記甲1d)(75頁150欄45行?76頁151欄22行)
「[実施例1]
17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14β-ジヒドロキシ-6α-メチルアミノモルヒナン4

ナルトレキソン(1.0g)とメチルアミン塩酸塩(0.99g、5当量)をメタノール(15ml)に溶かし、室温で20分間攪拌した。この反応液を、あらかじめメタノール(10ml)中、水素雰囲気下で活性化しておいた酸化白金(0.05g、5w%)に加え、常温、常圧で4時間水素添加した。触媒をセライトろ過で除き、溶媒を留去した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(20ml)を加え、クロロホルム(20ml×2)で抽出したのち、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。得られた暗赤紫色油状物をクロロホルム(2ml)に溶かし、酢酸エチル(4ml)を加えて表題化合物(0.83g、79%)を晶出させて得た。一部をとり、塩酸塩として各種スペクトルを測定した。」

(摘記甲1e)(78頁155欄5?15行)
「[実施例6]
17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14β-ジヒドロキシ-6β-メチルアミノモルヒナン10



(摘記甲1f)(82頁164欄1?33行)
「[実施例11]
17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14β-ジヒドロキシ-6α-(N-メチル-3,4-ジクロロフェニルアセトアミド)モルヒナン・塩酸塩1

実施例1で得られた17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14β-ジヒドロキシ-6α-メチルアミノモルヒナン4 8.9gをクロロホルム180mlに溶解し、トリエチルアミン10.4mlを加えた後、0℃にて3,4-ジクロロフェニルアセチルクロリド(市販のカルボン酸を定法により酸クロリドとした)10.4mlを滴下した。滴下終了後、室温にて1時間撹拌し、その後反応系内に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を150ml加え分液し、さらに水層は、クロロホルム100mlにて2回抽出した。有機層は無水硫酸ナトリウムにて乾燥後濃縮した。得られた残渣はメタノール140ml、クロロホルム14mlの混合溶媒に溶解し、室温にて炭酸カリウム1.7gを加え30分撹拌した。その後反応系内に水100ml、クロロホルム350mlを加え分液し、水層はクロロホルム80mlにて2回抽出した。得られた有機層は無水硫酸ナトリウムにて乾燥後濃縮した。得られた残渣を酢酸エチル/メタノール=2/1より再結晶し8.15gのフリー塩基体をえた。これをクロロホルム・メタノールの混合溶媒に溶解し、塩酸メタノールを加えpH3とした後濃縮し、クロロホルム・メタノール・エーテルより再沈殿して、表題化合物8.44gを得た。(収率58%)」

(摘記甲1g)(93頁186欄43?49行、94頁187欄3?4行、 同頁同欄13?14行、同頁同欄31?34行、同頁
188欄21行)
「[実施例45-63]
実施例11の手順に従うが、原料として17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14β-ジヒドロキシ-6α-メチルアミノモルヒナン4のかわりに17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14β-ジヒドロキシ-6β-メチルアミノモルヒナン10を用い、3,4-ジクロロフェニルアセチルクロリドのかわりに・・・・、トランス-3-(2-フリル)アクリロイルクロリド、・・・・を用いることによって、・・・・、17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナン・酒石酸塩61(収率91%)、・・・・が得られた。」

(摘記甲1h)(96頁191欄40行?同頁192欄19行)
「化合物61

mp 168-172℃
NMR(400MHz,DMSO-d_(6))
δ 0.20(2H,brs),0.52(2H,m),0.90(1H,m),1.2-1.4(3H,m),1.56(1H,d,J=13.2Hz),2.12(2H,m),2.24(1H,m),2.47(1H,m),2.5-2.8(3H,m),2.86(2H,s),3.08(1H,d,J=19.6Hz),3.10(1H,s),3.22(1H,m),3.60(0.7H,m),4.00(1H,s),4,19(0.3H,m),4.66(0.7H,d,J=8.3Hz),4.76(0.3H,d,J=8.3Hz),6.39(0.7H,d,J=15.6Hz),6.5-6.7(2H,m),6.74(0.7H,d,J=8.3Hz),6.89(0.3H,d,J=15.1Hz),7.00(0.3H,s),7.21(0.7H,d,J=15.6Hz),7.36(0.3H,d,J=15.1Hz),7.66(0.7H,s),7.72(0.3H,s),7.92(0.7H,s),8.03(0.3H,s)
IR(KBr)
ν 3370,1651,1599,1323,1158,1114cm^(-1).
Mass(FAB)
m/z 477(M+H)
元素分析値 C_(28 )H_(32 )N_(2) O_(5) ・0.5(C_(4)H_(6)O_(6))・0.2H_(2)Oとして
計算値:C,64.90;H,6.43;N,5.04
実測値:C,64.79;H,6.59;N,5.01」

(摘記甲1i)(101頁202欄40行?102頁203欄50行)
「[実施例68]
17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナン・塩酸塩78

17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3、14β-ジヒドロキシ-6β-(N-メチルアミノ)モルヒナン10・フタル酸塩21.12g(0.0404mol)を水110mlに溶解し、THF110mlと炭酸ナトリウム8.75g(0.0808mol)を加えた後、反応系をアルゴン置換した。その後、トランス-3-(3-フリル)アクリロイルクロリド6.96(0.04444mol)をTHF40mlに溶解して滴下した。30分撹拌後、メタノール40mlと3Nの水酸化ナトリウム水溶液54mlを加え1時間撹拌した。反応系に酢酸エチル350mlと飽和炭酸水素ナトリウム水溶液250mlを加えて分液し、水層は酢酸エチル100mlにて再抽出した。得られた有機層は飽和食塩水200mlで洗浄後、硫酸ナトリウムにて乾燥し濃縮した。残渣を酢酸エチル630mlに加熱溶解し、溶解後150mlを加熱留去し、静置して再結晶することで、表題化合物のフリー塩基を15.47g得た。このフリー体を9.03g採取し、エタノール90mlに懸濁させ、1N塩酸水を18.7ml加え濃縮乾燥することで表題化合物を9.72g得た。(収率80%)
mp 187℃(分解)
NMR(400MHz,DMSO-d_(6))
δ 0.42(1H,m),0.51(1H,m),0.60(1H,m),0.68(1H,m),1.07(1H,m),1.26(0.4H,m),1.32-1.50(3.6H,m),1.73(1H,br d,J=13.7Hz),2.13(1H,m),2.40-2.60(3H,m),2.88(1H,m),2.92(1.8H,s),3.06(1H,br d,J=13.18Hz),3.16(1.2H,s),3.59(0.6H,m),3.86(1H,m),4.19(0.4H,m),4.86(0.6H,d,J=7.8Hz),4.92(0.4H,d,J=7.8Hz),6.35(0.6H,d,J=15.6Hz),6.40(0.4H,br s),6.50(0.6H,br s),6.62(0.6H,s),6.64(0.4H,d,J=8.3Hz),6.71(1H,d,J=8.3Hz),6.85(0.6H,d,J=8.3Hz),6.90(0.4H,d,J=15.1Hz),6.99(0.4H,s),7.22(0.6H,d,J=15.6Hz),7.36(0.4H,d,J=15.1Hz),7.66(0.6H,s),7.72(0.4H,s),7.92(0.6H,s),8.03(0.4H,s),8.85(1H,br s),9.28(0.4H,s),9.68(0.6H,s)
IR(KBr)
ν 3376,1653,1506,1599,1410,1323,1158,1127,1033,872,799cm^(-1).
Mass(FAB)
m/z 477(M+H)
元素分析値 C_(28 )H_(32 )N_(2) O_(5) ・HCl・0.2H_(2)Oとして
計算値:C,65.10;H,6.52;N,5.42;Cl,6.86
実測値:C,65.11;H,6.63;N,5.60;Cl,6.80」

(摘記甲1j)(129頁258欄37行?130頁260欄8行)
「[実施例141]
マウス輸精管摘出標本を用いるオピオイド活性試験
ddy系雄性マウスを実験に供した。37℃に保温したKrebes-Henseleit溶液(NaCl 118nM;KCl 4.7mM;CaCl2 2.5mM;KH2PO4 1.1mM;NaHCO3 25mM;Glucose 11mM)を満たし、5%二酸化炭素、95%酸素を通気したマグヌス管に、動物より摘出した輸精管を懸垂した。電気刺激は上下の輪型の白金電極を介して、0.1Hz、5.0msで行なった。組織収縮はIsomeric trancsducerを用いてポリグラフ上に記録した。
はじめに、電気刺激による標本の収縮を50%抑制する濃度まで被験薬を累積的に添加し、IC_(50)値を算出した。その後栄養液で十分に洗浄し、収縮反応が安定した後に、μ拮抗薬であるナロキソン、またはδ拮抗薬であるNTI、またはκ拮抗薬であるnorBNIを添加し、約20分後にもう一度被験化合物を累積的に添加した。両者の効力差からKe値を以下の計算式で算出した。
Ke=[添加した拮抗薬濃度]/(IC_(50)比-1)
IC_(50)比=拮抗薬存在時のIC_(50)値/拮抗薬非存在時のIC_(50)値
表1に本発明の化合物の評価結果の一部を示した。いずれもナルトレキソン使用前後のIC_(50)値には大きな差はなく、μ受容体を介したアゴニスト活性は非常に弱いことがわかった。すなわち、・・・・、化合物・・・、61、・・・は、κ受容体に選択的なアゴニストである。



(摘記甲1k)(130頁260欄9行?131頁261欄43行)
「[実施例142]
酢酸ライジング法による鎮痛活性試験
5週齢のddY系マウスを実験に用いた。0.6%の酢酸水溶液を0.1ml/10g体重で腹腔内投与し、投与後10分後から10分間に起きたライジング反応の回数を指標に評価した。被験薬は酢酸投与の15分前に背部皮下に投与した。結果の一部を表2に示した。この試験で、化合物42、47、63、96はED_(50)がそれぞれ0.00136、0.00052、0.0011、0.00086mg/Kgと特に強い沈静活性を示した。



(摘記甲1l)(131頁261欄45行?同頁262欄34行)
「[実施例143]
利尿作用の評価
7-8週齢の雄性Wistarラットを実験開始1時間前より絶水状態にして用いた。ラットの下腹部を軽く刺激し、膀胱中にたまっている尿を排泄させた後、薬物を皮下投与した。30分後に20ml/kgの生理食塩水を強制経口投与した。薬物投与直後から動物を代謝ケージにいれ(2動物/1ケージ)、生理食塩水負荷後5時間の排尿量を測定した。薬効は、薬物非投与群の尿量を100としたとき、尿量を200および500にする投与量をそれぞれED_(200)、ED_(500)として表した。結果の一部を表3に示した。この試験で化合物22、24、42、43はED_(200)の値がそれぞれ、0.00095、0.00069、0.00085、0.00054mg/kgと非常に強い利尿作用を有していることがわかった。



(摘記甲1m)(131頁262欄36?44行)
「産業上の利用可能性
本発明の化合物は、in vitro、in vivoにおける活性試験の結果、κ-アゴニストとして強い鎮痛活性、利尿作用を有していることがわかり、有用な鎮痛剤、利尿剤として奇態できることが明かとなった。また、κ-アゴニストの性質から血圧降下剤、鎮静剤としても利用が可能である。」

2 甲2及び甲3の記載事項

甲2及び甲3は、いずれも本件優先日よりも後(平成26年6月9日及び平成30年1月11日)に公開された刊行物であるが、それぞれ以下の事項が記載されている。

(摘記甲2)(段落【0029】?【0030】)
「【0029】
【化2】

【0030】
上記構造式(II)で表される(-)-17-(シクロプロピルメチル)-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド」モルヒナン塩酸塩(一般名:ナルフラフィン塩酸塩、化合物1)の2.5μgを含む溶液をゼラチン皮膜の軟カプセルに封入し、経口剤とした。]

(摘記甲3)(段落【0026】?【0027】)
「【0026】
上記の低アルブミン血症の改善剤は、下記の式(II)で示される化合物である、(-)-17-(シクロプロピルメチル)-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナン又はその薬理学的に許容される酸付加塩が有効成分であることが最も好ましい。
【化3】

【0027】
(-)-17-(シクロプロピルメチル)-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナンの一般名は、ナルフラフィンである。」

3 甲4の記載事項

本件優先日前(1998年)に頒布された刊行物である甲4には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるため、和訳で摘記した。

(摘記甲4a)(291頁、表題)
「ボンベシン誘発グルーミングにおけるオピオイド受容体の役割」

(摘記甲4b)(291頁「INTRODUCTION」1?7行)
「序論
もともとカエルBombina bombinaの皮膚から単離されたテトラデカペプチドであるボンベシンは、他の種と同様にラットの中枢に注射されると用量相関的に過剰なグルーミングを誘発する。ラットの脳室内(i.c.v.)のボンベシンによって誘発されるグルーミングは、主に頭頸部に向けられた後肢引っ掻きからなるが、顔のグルーミング、体洗い、爪舐め及び噛みつき、前足の振戦、激しい震え、及びストレッチングも生じる。ボンベシン誘発グルーミング行動は、i.c.v.注射の数分以内に観察され、30?45分間継続する。」

(摘記甲4c)(297頁1?39行、同頁下2行?298頁2行、
298頁11?26行、同頁35?末行)
「考察
標準的な最大量以下のボンベシンによって誘発された過剰なグルーミング(引っ掻き)行動は、κタイプの受容体で活性を示すオピオイドによって用量相関的かつ立体選択的に減弱された。これらは、ベンゾモルファン鎮痛薬;内因性κ選択的オピオイドペプチドであるダイノルフィンA;κタイプのアゴニスト-アンタゴニスト混合鎮痛薬モルヒナンであるキソルファノール;及び利用可能な最もκ受容体選択的なオピオイドであるU-50,488、を含んでいた。これらのオピオイドが、自然なグルーミング行動を消失させない用量で、用量相関的にボンベシン誘発グルーミングを抑制することに注目することが重要である。
対照的に、アゴニスト効果がμ又はδタイプのオピオイド受容体によって媒介されると考えられる化合物は、グルーミング行動を完全に抑制しない用量ではボンベシン誘発引っ掻き行動に影響を与えることができなかった。これらの化合物のほとんどは、最終的にボンベシン誘発グルーミングを防いだが、それは用量相関的な効果ではなく、グルーミング行動もあわせて妨げられた。・・・。これらはプロトタイプのμ受容体アゴニストであるモルヒネ、プロトタイプのδ受容体アゴニストであるDPDPE、μタイプのアゴニスト-アンタゴニスト混合鎮痛剤であるナルブフィンを含んでいた。さらに、非オピオイド鎮痛薬ゾメピラクは、ボンベシン誘発グルーミングに対して目立った効果を示さなかった。
エチルケタゾシン、チフルアドム、及びU-50,488は、プロトタイプのκオピオイドアゴニストとしてボンベシン誘発グルーミングに影響する作用についてより徹底的に試験された。3つのすべての化合物は、ボンベシン誘発グルーミングを用量相関的かつ同じ様式で阻害した。・・・。ラットのテイルイマージョンテストにおいて、EKC、U-50,488、チフルアドムとの間に同様の効力関係が観察された。ラットのテールフリックテストにおいて、U-50,488はEKCより10倍効力が低いことがわかった。
・・・。チフルアドムの(-)-異性体は、ベンゾジアゼピン受容体に対して、ある程度の親和性を有し、この受容体を通してボンベシンを阻害する可能性があり、ジアゼパムも、非鎮静用量でボンベシン誘発性グルーミングを阻害する(未発表結果)。・・・。
・・・
ボンベシン誘発グルーミングを阻害するEKCの能力に対する耐性の発現は、立体選択性、ナロキソンによる可逆性、及び非オピオイド鎮痛薬ゾメピラックの効果の欠如と合わせて、オピオイド受容体が鎮痛薬によるボンベシン誘発引っ掻き行動の減弱を介することを示す。しかしながら、多種多様な化学的及び薬理学的特性を有する35種のオピオイド様化合物の試験に基づいて、κタイプの受容体がボンベシン誘発グルーミングに関連する唯一の既知のオピオイド受容体であることが明らかになった。したがって、μオピオイド受容体アゴニスト(・・・)、μタイプの混合アゴニスト-アンタゴニスト(・・・)、オピオイドアンタゴニスト(・・・)、μ-及びδ-受容体活性を有するペプチド(・・・)、及び化学的に関連した非オピオイド(・・・)は、この試験において非鎮静用量では効果がなかった。しかしながら、κタイプのオピオイド受容体に作用する試験をした全ての化合物は有効であった。さらに、モルヒネの複数回注射を受けたラットにおけるEKCに対する忍容性の欠如は、ボンベシン誘発引っ掻き行動に対するオピオイド結合のκ受容体特異性と一致している。
・・・
オピオイドがκ受容体を介してボンベシン誘発性の引っ掻き行動に作用することが確立されたので、引っ掻き行動におけるボンベシン及びオピオイドの役割について推測することができる。・・・。モルヒネ依存性アカゲザルへi.c.v.で与えられたボンベシンは、薬物投与を受けていないサルにおけるモルヒネの低用量投与後に観察されるものと類似しているがより激しい引っかき行動を生じる(参考文献5及び未発表結果)。低用量のモルヒネによる痒みは、ヒスタミンの放出によるものと考えられている。しかしながら、ヒスタミンがこの作用の唯一の原因であるかどうかは明らかではない。対照的に、κオピオイドの急性投与は引っ掻き行動を誘発しない。しかしながら、κオピオイドの長期投与後の禁断又はナロキソン誘発禁断行動は、顕著な反応として引っ掻き行動を含む。この行動、及びその行動の発生におけるボンベシンの考えうる役割については、さらに研究する必要がある。同様に、さまざまな種類のそう痒におけるボンベシンの役割とκオピオイドとの関連性についてもさらに調査する必要がある。例えば、κ受容体選択性を有するオピオイドは、大量のボンベシン様免疫反応性を生じることが知られている肺の小細胞癌によって引き起こされる痛み及び痒みの軽減のために選択される薬物クラスになるかもしれない。」

4 甲5(乙8)の記載事項

本件優先日前(1993年1月)に頒布された刊行物である甲5(乙8)には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるため、和訳で摘記した。

(摘記甲5(乙8)a)(45頁、表題)
「ナルトレキソンの2つのオキシム誘導体、NPC831及びNPC836のオピオイドアゴニスト特性」

(摘記甲5(乙8)b)(45頁左欄1行?同頁右欄9行;論文冒頭部分)
「オピオイド受容体には、μ、δ、及びκ(8、18、32)と命名された3つのサブタイプがあり、これらのサブタイプにより促進される生理機能は多くの研究の焦点とされてきた(18、24)。μサブタイプ、δサブタイプ、及びκサブタイプは、脊柱上部位及び/又は脊髄部位を通じて、熱的、化学的、及び圧刺激により測定される鎮痛を調節するよう作用する(15、21、23、25、30)。多幸感はμ-オピオイド受容体により媒介され、不快感はκ-オピオイド受容体により媒介される(22)。オピオイドアゴニストによって生じた呼吸抑制は、μ_(2)サブタイプ(17)により媒介され、δ-受容体はエンドトキシンショック及び出血性ショックにおいて役割を果たすと仮定されている(1)。κ-受容体におけるアゴニストは、抗痙攣特性(26、27)、利尿特性(13、28)、及び神経保護特性(2)を示す。最後に、摂食行動は、全ての3つのオピオイド受容体サブタイプにおいてアゴニスト作用により刺激される(9)。
食欲抑制特性を有するオピオイドアンタゴニストに関して研究する著者らの発見プログラムの一部として、ナルトレキソンの幾つかのオキシム誘導体を新規オピオイドアンタゴニストとして合成し(6、19)、様々なインビトロ及びインビボアッセイでアンタゴニスト特性について独自に試験した。興味深いことに、これらの化合物のうち2つ、6-[2-フェニルエチル]オキシイミノナルトレキソン(NPC831)及び6-[3-フェニルプロピル]オキシイミノナルトレキソン(NPC836)(図1)は、テールフリックアッセイ及び酢酸誘発ライジングアッセイにおいて強力な拮抗作用を示した。この論文で、著者らは、これらの化合物のオピオイド受容体サブタイプにおける結合プロファイル、化学的及び熱的痛みの測定におけるこれらの鎮痛効果、及びボンベシン誘発引っ掻き行動を阻止するこれらの能力、インビボでのκ-アゴニスト作用の測定(7)について述べる。」

(摘記甲5(乙8)c)(47頁左欄下14行?同頁右欄17行)
「ボンベシン引っ掻きテスト
ラットは、ポリエチレンチューブ製のカニューレをICVに埋め込まれた。埋め込み部位は、矢状縫合糸に対して外側に2mm、ブレグマに対して後方に1mmであった。カニューレチップは長さ3.5-4.0mmであり、45°の角度で切断された。手術後、ラットを個々に飼料及び水を自由に摂取させて収容し、少なくとも5日間回復させた。使用したテストの手順は、基本的に Gmerek と Cowan(7)のものだった。試験の30分前にラットに種々の用量の試験化合物を皮下注射し、全ての薬物を1ml/kgの蒸留水の容量で投与した。試験時に、各ラットに標準的な最大量以下のボンベシンを注射した(20秒にわたり3μl中に0.1μgをICVに投与)。1つのグループは、コントロール群として生理食塩水が注射された。ボンベシンの各注射後に薬物を洗い流すためにカニューレから1mlの生理食塩水の注射が行われた。4匹の動物は一度に観察され、注射は観察の各期間にわたり平衡させた。各ラットは20秒ごとに5回、合計30分間観察された。引っ掻き、舐め、洗いなど5秒以内に示されたグルーミング行動に対して、正のスコアが与えられ、最大可能スコアは90ポイントであった。以下のように、正のスコアの数をグルーミングのパーセント拮抗作用(%A)に換算した。

(薬物前処理ラットのスコア
-生理食塩水コントロール)
%A = 1 - ?????????????? × 100
(溶媒前処理ラットのスコア
-生理食塩水コントロール)

各薬物のA_(50)値は、最小二乗回帰分析によって対数用量反応曲線からの各群についての平均%A値から計算した。」

(摘記甲5(乙8)d)(47頁右欄18?27行)
「結果
2つのNPC化合物並びに対照薬剤のモルヒネ、ナルトレキソン及びU-50,488Hについての受容体結合データを表1に示す。概して、NPC831及びNPC836は、オピオイド受容体サブタイプと結合し置換するのは、ナルトレキソンと等効力であるか僅かに強力であった。しかしながら、NPC831及びNPC836のどちらもが、μサブタイプ、δサブタイプ、又はκサブタイプと結合して置換するのは、モルヒネ又はU-50,488Hよりも強力であった。U-50,488H及びモルヒネとは異なり、どちらのNPC化合物も受容体サブタイプに対して著しく選択的ではなかった。」

(摘記甲5(乙8)e)(48頁右欄8?13行)
「ボンベシン引っ掻きテストはκアゴニスト活性の測定法として提案されており(7)、これらの薬物の作用におけるκ受容体の関与をさらに特徴付けるためにここで利用された。図3はNPC831及びNPC836のデータであり、この分析においては、どちらの化合物もκアゴニスト活性を示した。」

(摘記甲5(乙8)f)(48頁右欄16行、49頁左欄4?12行)
「考察
・・・。
熱的及び化学的痛みの測定におけるNPC831及びNPC836のプロファイルは、μ-及びκ-受容体活性化作用のどちらとも一致していた。モルヒネと同様、NPC831及びNPC836は、ラットにおいてテールフリック応答を強力に阻害したが、κアゴニストのU-50,488Hは活性がなかった。他のオピオイドアゴニストと比較すると、フェンタニル[0.017mg/kg(21)]はより強力であり、モルヒネ(表2)及びブプレノルフィン[1.6mg/kg(4)]は、2つのNPC化合物とほぼ等効力であった。κ-アゴニストはこの手順に対し感受性でない(11、15、21、28)。」

(摘記甲5(乙8)g)(49頁左欄下1行?同頁右欄21行)
「ベンゾモルファン鎮痛薬である化合物のみがボンベシンのICV投与に対する引っ掻き反応に拮抗することができたため、ボンベシン誘発引っ掻き行動は、もともとベンゾモルファン選択的鎮痛薬の行動的測定法として提案された(7)。Gmerek と Cowan(7)は、彼らの元の報告で、他の非選択的オピオイドアゴニスト及びアンタゴニスト、μ及び/又はδ選択性を有する化合物、並びにδ選択性を有するベンゾモルファン化合物であるSKF10,047は、ボンベシンによって生じる引っ掻き行動の抑制作用がないことを示した。その後、この研究者らは研究を広げ、κ選択的非ベンゾモルファンアゴニストのチフルアドム及びU-50,488もボンベシンに対する反応を抑制することを確認した(3)。まとめると、彼らのデータは、ボンベシン引っ掻きテストが、in vivoにおけるκ-アゴニスト活性の新しい測定法であることを示唆していた。NPC化合物はいずれも、ボンベシン誘発引っ掻き行動を拮抗するのに強力であり、これらの薬物がin vivoにおいてκ-アゴニスト活性を有することを示唆している。NPC831のA_(50)値は、U-50,488Hのそれと同等であり、一方、NPC836は、この分析でのU-50,488Hより約20倍強力であった。 NPC 836は、この分析(3)でのベンゾモルファンであるエチルケトシクラゾシン又はブレマゾシンより約4倍強力であった。」

(摘記甲5(乙8)h)(49頁左欄下7?5行、参照文献3、7)
「3.Cowan, A.; Gmerek, D. E. In-vivo studies on kappa opioid
receptors. Trends Pharmacol. Sci. 7:69-72; 1986(当審注:
甲6(乙20)である。)
7.Gmerek, D. E.; Cowan, A. In vivo evidence for benzomorphan-
selective receptors in rats. J. Pharmacol. Exp. Ther. 230:
110-115; 1984」

5 甲6(乙20)の記載事項

本件優先日前(1986年2月)に頒布された刊行物である甲6(乙20)には、以下の事項が記載されているなお、英文であるため、和訳で摘記した。

(摘記甲6(乙20)a)(69頁、表題)
「κオピオイド受容体に関するin-vivo研究」

(摘記甲6(乙20)b)(69頁左上欄1?14行:要約)
「オピオイドの作用は、複数のタイプのオピオイド受容体によって媒介される。・・・。未来の鎮痛剤は、顕著なκ成分、ほんの少しのδ、ごく僅かなμを特徴とするだろうが、σは僅かさえも特徴としないであろう。・・・この論文では、Alan Cowan と Debra E. Gmerek が、生体内でのκ活性を検出及び特定するのに使用している試験の概観を示す。ラットのボンベシン引っ掻き行動試験に特に重点が置かれており、この試験は幾つかのκ選好薬剤が選択的に活性である新しい手法である。」

(摘記甲6(乙20)c)(69頁左下欄1行?同頁中央欄7行、同頁中央
欄14?26行)
「κアゴニストとして分類される化合物(例えば、チフルアドム、U-50488;U-50488は、trans-3,4-ジクロロ-N-メチル-N-[2-(1-ピロリジニル-シクロ-ヘキシル1]-ベンゼンアセトアミドである)は、通常、バイオアッセイと結合活性プロファイルに基づいて、従来のモルヒネ様アゴニスト又はμアゴニストよりも安全であると一般的に認識されている。・・・。要するに、κアゴニストは、化学構造の多様性、抗侵害受容、軽度の身体依存、呼吸や消化管通過に対する限定作用を呈するので、興味深いものである。・・・。不快と知覚変容が、最近報告された幾つかのκアゴニスト(例えば、ベンゾモルファン化合物である、ケタゾシン、及びMR2034、即ち、(-)-(1R,5R,9R,2"S)、5,9-ジメチル-2-テトラヒドロフルフリル-2'-ヒドロキシ-6,7-ベンゾモルファン)と関連付けられている。
ケタゾシンがκ受容体のプロトタイプアゴニストとして導入されたことを考えると、この化合物がヒトで不快な症状を引き起こしうるという所見は、概念的に重要である。κとσのオピオイド受容体間の交差反応は、潜在的な鎮痛剤としてのκアゴニストの商業的開発において明らかに大きな懸念である。・・・。
κ研究全体を通して鎮痛剤開発の重要な目標は、身体依存と望ましくない中枢効果の二つの脅威の間で及びそれらを越えて巧みに開発を進めることであった。多くのグループが、理想的なκ鎮痛剤は、得難いものではあるが、最終的に設計できると信じて、その難題を受け入れた。現時点では、チフルアドム及びU-50488タイプの完全かつ選択的なκアゴニストに関する臨床的な見解は、まだまとまっていない。」

(摘記甲6(乙20)d)(69頁右欄下11行?70頁左下欄6行、
70頁左下欄20行?同頁右欄下5行)
「ラットボンベシン引っ掻きテスト
ボンベシン引っ掻きテスト(・・・)は、κ受容体で活性を有する化合物の評価に使用することができる、それらのin-vivo試験に最近追加された。もともと1971年にカエルの皮膚から単離されたテトラデカペプチドであるボンベシンは、驚くほど多数のよく知られた内因性物質(例えば、プロラクチン、SP 及びバソプレシン)の1つであり、げっ歯類の中枢に投与されると、過剰な引っ掻き及び/又はグルーミングを引き起こす。これらの行動の理由はまだ確立されていない。・・・。モルヒネに対するボンベシンの耐性は、ラットにおいてボンベシンによって誘発された強力な引っ掻き行動を抑制するための試みにおいて多くのオピオイド及びオピオイドペプチドの試験を促進した。最初の結果は、幾つかのアゴニスト-アンタゴニスト混合/κアゴニストが立体選択的かつ用量相関的にボンベシン誘発引っ掻き行動を減弱することを明らかにした。これらの薬剤(全てベンゾモルファン)の例は、ブレマゾシン、シクラゾシン、エチルケタゾシン、ケタゾシン及び(-)ペンタゾシンであり、それらはラットにおいて動物の引っ掻き行動を打ち消す薬理学的効果を共有するようである。他の一般的に使用されているオピオイド(主にμ-アゴニスト)及びオピオイドペプチドは、行動的に抑鬱作用のない用量で試験したときボンベシンに対して効果がなかった。不活性化合物の例は、ブプレノルフィン、レボルファノール、メペリジン、メタドン、メトケミド及びβ-エンドルフィンであった。引っ掻きはハロペリドール、インドメタシン、リドカイン、ニューロテンシン及び幾つかの抗ヒスタミン薬/抗セロトニン薬の行動的に抑鬱作用のない用量によって実質的に影響されなかった。
(+)ナロキソンではなく、(-)ナロキソンがエチルケタゾシンの抗ボンベシン効果を減弱させたので、エチルケタゾシンによるボンベシン誘発引っ掻き行動の抑制は、立体特異的オピオイド結合部位が関わるようである。以下の観察は、μではなくκ結合部位を意味する。(1)モルヒネの複数回注射は、エチルケタゾシンがボンベシンを拮抗する能力に影響を及ぼさず、そして(2)μ-受容体がブプレノルフィンで遮断された場合、エチルケタゾシンは依然としてボンベシン誘発引っ掻き行動を拮抗した。
1つの不可解な結果は、活性薬のリスト(表II)にフェナゾシン(一般にin vivoでμアゴニストと見なされている)を含むことであった。抗ボンベシン効果を示す全ての化合物がベンゾモルファン(フェナゾシンを含む)であったため、κ-対ベンゾモルファン選択的結合部位の問題に取り組む必要があった。非ベンゾモルファンκ-アゴニスト(チフルアドム及びU-50488H)を用いた最近の実験は、これらの薬剤が試験方法において活性であり(表II)、ナロキソンによって用量相関的に拮抗され得ることを示した。ボンベシン引っ掻きテストは、表1に概説されているκ評価方法のリストへ追加するのに有用であると結論付けることができる。
本テストの追記として、このあまり一般的ではない評価基準-引っ掻き-とκ化合物の間には繋がりがあり、それは1970年代初頭まで遡ることに留意されたい。その当時、シクラゾシンやナロルフィンなどの直接的なκ受容体アゴニスト及びアンタゴニストを1ヶ月間併用投与されていたサルが、これらの薬剤を中止したとき、又はナロキソンを投与されたときに過剰に引っ掻いたことが分かった。ほぼ10年後に、κ選好的として分類された化合物である特定の架橋オリパビンの中止による引っ掻き行動も観察された。ミシガン大学の最近の研究はU-50488を突然中止された(モルヒネの中止ではない)アカゲザルもまた異常に高い引っ掻き発生率を示すことを示した。興味深いことに、この行動はチフルアドムによって抑制されるが、モルヒネによっては抑制されない。」

(摘記甲6(乙20)e)(71頁右欄3?33行)
「今後の動向
新しくてより良い鎮痛剤を発見することは簡単なことではない。少なくとも短期的には、理想的とはいえないオピオイドとそこそこの進歩で間に合わせる必要があるかもしれない。おそらく、中枢と末梢の両方の『非オピオイド』の痛み調節系にますます重点が置かれることで、学問の進歩に合わせて薬物の導入率がさらに高まるであろう。さしあたり、μ、κ、及びδ受容体でさまざまな活性をもつオピオイドが治験中である。ベンゼン-アセトアミド(U-62066;5α,7α,8β-(±)-3,4-ジクロロ-N)メチル-N(7-(1-ピロリジニル)-1-オキサスピロ-(4,5)デカ-8-イル)ベンゼン+アセトアミド)及びモルフィナン(キソルファノール)とは異なる化学分類の主要な化合物を評価することによって、臨床的鎮痛、自覚効果、抗侵害受容及び受容体活性のバランスの間の欠落している重要な関連性が得られるであろう。良くも悪くも、これらのような研究の結果は、鎮痛剤の研究者が得難い痛み止めを追求する過程に大きな影響を与えるであろう。」

6 甲7の記載事項

本件優先日前(1995年3月)に頒布された刊行物である甲7には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるため、和訳で摘記した。

(摘記甲7a)(A98頁右中欄574番、表題)
「κオピオイドアゴニストの止痒ポテンシャルの定義付け」

(摘記甲7b)(A98頁右中欄574番、本文)
「痛みと痒みは、おそらく独立した感覚様式であり、特定のラットモデルでは、これらは同じクラスの薬物:κアゴニストによって減弱される。我々はここで、ラット足ホルマリンテスト(Psychopharmacol. 104:35,91)とボンベシン引っ掻きテスト(TIPS 7:69,86)においてκアゴニストであるエナドリン(中枢作用)と ICI 204448(ICI; 末梢選択性, Br, J. Pharmacol. 96:986,89)を比較した。ホルマリン誘発性(後期相)のフリンチングに対するエナドリンの皮下投与のA_(50)値は0.019(0.014-0.027)mg/kgだった。この臨床的に試験された鎮痛薬は、ボンベシンのi.c.v.内投与によって直ちに誘発された引っ掻き行動やグルーミングに対しても同等に優れていた(A_(50)=0.012mg/kg)。ICIは皮下注射によってホルマリンに対してA_(50)が6.9(3.5-12.9)mg/kgの活性を示した。対照的に、この末梢指向性化合物は止痒ポテンシャルを示さず、ボンベシンに対するA_(50)値は30mg/kg超を示した。
我々は、中枢作用性κアゴニストが、例えば、新世代の止痒薬として皮膚薬理学において治療的有用性を有し得ると結論する。」

7 甲8(乙5)の記載事項

本件優先日前(1983年9月)に頒布された刊行物である甲8(乙5)には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるため、和訳で摘記した。

(摘記甲8(乙5)a)(107頁、表題)
「全身性止痒薬の前臨床スクリーニングのための動物モデル」

(摘記甲8(乙5)b)(107頁、要約)
「全身投与できる信頼性の高い止痒薬は、現在のところ入手できない。これは、そのような化合物をスクリーニングするための動物モデルが殆どないためかもしれない。もともとカエルの皮膚から単離されたテトラデカペプチドであるボンベシンは、ラットの脳室内(i.c.v.)に投与すると、用量相関的に過剰な引っ掻き行動を誘発する。マイクロコンピュータの助けを借りて、我々は標準的な最大量以下のボンベシン(0.10μg、i.c.v.)によって誘発された引っ掻き行動を観察した。このシステムは、1)薬物誘発性行動抑制を評価するための高感度で新規な方法、及び、2)ボンベシンと潜在的なアンタゴニストの間の相互作用を定量化する手段を提供する。結果として、ボンベシン誘発グルーミングは、行動的に抑制しない投与量のメトジラジン、トリメプラジン、及びクロルプロマジンによって拮抗されるが、モルヒネ、ハロペリドール、ジフェンヒドラミン、ヒドロキシジン、メピラミン、シメチジン、またはシプロヘプタジンによっては拮抗されない。メトジラジン及びトリメプラジンは止痒薬として臨床的に使用されている。したがって、このモデルは、新規の全身性止痒薬、特にヒスタミン非依存性そう痒の治療に有効かもしれないものを評価する手段を提供する。」

(摘記甲8(乙5)c)(109頁13?16行)
「フェノチアジン骨格の化合物である、クロルプロマジン、メトジラジン、及びトリメプラジンは(図1)、ボンベシン誘導引っ掻き行動を用量相関的に減弱した(図2)。」

(摘記甲8(乙5)d)(111頁1?15行)
「この論文では、我々は、ラットにおけるi.c.v.投与したボンベシンと関連した引っ掻き行動と、止痒薬として臨床的に使われている幾つかの薬剤によるその拮抗作用に注目した。特に、そう痒に対して使用することが承認されている(・・・)2つの化合物、メトジラジン及びトリメプラジンは、行動的に抑制しない投与量でボンベシン誘発引っ掻き行動を減弱した。3つめのフェノチアジン系の抗ヒスタミン薬、クロルプロマジンも、このモデルにおいて有効であった。その他の抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン、メピラミン、ヒドロキシジン、シプロヘプタジン、及びシメチジン)は、少なくとも行動的に抑制しない投与量においてボンベシン誘発引っ掻き行動に対して感知される効果はなかった。そう痒症のいくつかのタイプは臨床的に認識されており、ヒスタミン遊離とは関係ない。様々な抗ヒスタミン薬を用いた著者らの研究は、ヒスタミンがボンベシン誘発引っ掻き行動に必ずしも関係しないことを示している。これとの関連で、ボンベシンは、スプラーグドーリーラットから得られたマスト細胞からヒスタミンを遊離しないことが最近分かった(Sydbom、1982)。」

(摘記甲8(乙5)e)(111頁37?38行)
「要約すると、我々は、全身性止痒薬の前臨床スクリーニングと発見に役立つかもしれない新しい動物モデルを説明した。」

8 甲9(乙2)の記載事項

本件優先日前(1995年)に頒布された刊行物である甲9(乙2)には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるため、和訳で摘記した。

(摘記甲9(乙2)a)(229頁、表題)
「マウスにおける発痛剤でなく起痒剤により誘導された引っ掻き行動」

(摘記甲9(乙2)b)(229頁、要約)
「我々は、マウスにおける起痒剤及び発痛剤による処置の行動面での効果を比較した。動物に、起痒剤として、compound48/80(3?100μg)、サブスタンスP(10?300μg)、及びヒスタミン(3?300μg)、並びに、発痛剤として、カプサイシン(30?100μg)、希釈したホルマリン(5mgのホルムアルデヒド)を、吻側の背部に皮下注射し、後足による注射部位の引っ掻き行動を計数した。compound48/80とサブスタンスPは、用量依存的に引っ掻き行動を誘発したが、ヒスタミン、カプサイシン及び希釈したホルマリンは、試験用量では有意な効果を示さなかった。これらの結果は、注射部位のcompound48/80及びサブスタンスPが誘発した引っ掻き行動は、痒みによるものであって、痛みによるものではない、ということを示唆している。このデータは、ヒスタミンがマウスに痒みを引き起こすという考えへの支持を与えるものではなかった。」

(摘記甲9(乙2)c)(229頁左欄1?同頁右欄16行)
「緒言
そう痒症は、皮膚疾患の主な不快な症状であり、慢性腎不全、肝内うっ滞症、及び糖尿病などの幾つかの内臓障害に併発するが、その発症機序は依然として不明である。そう痒症の生理機構及び病理学的機構を明らかにするために、我々には痒みの動物モデルが必要である。しかしながら、入手可能な信頼ある動物モデルはない(Woodward et al., 1985)。このことの1つの理由は、そう痒症に対する動物行動実験の難しさが原因かもしれない。例えば、痒みは引っ掻きたくなる強い願望に関連する感覚であるが、起痒剤であるcompound48/80を皮下(s.c.)注射された場合、マウスは後足を舐めるが引っ掻かず(未公表観察)、発痛剤であるホルマリンでの処置後と同様の行動反応である(Hunskaar et al., 1985)。そう痒症は、犬アレルギーにおける主要な症状である場合があるが(Woodward et al., 1985)、ヒスタミン及びcompound48/80の皮内注射は、痒み行動より、むしろ疼痛反応を引き起こす(Schwartzman, 1965)。ヒトは、くすぐったい刺激をチクチクする刺激と識別することができるが、多くの哺乳類は、同様な型通りな行動応答をする(McMahon and Koltzenburg, 1992 参照)。加えて、マウスは、グルーミング中に耳及び体の引っ掻き行動を示すが、これは痒みに関連した行動とは考え難い。
痒みは主観的感覚であり、動物は動物行動実験における痒みの測定に関する感覚的経験を説明しないので、痛覚刺激などの他の感覚刺激によるのではなく、起痒刺激だけによって誘発される、非処置動物では稀にしか観察されない痒み関連行動を使用すべきである。」

(摘記甲9(乙2)d)(230頁右欄下11?8行)
「サブスタンスP及びヒスタミンは、compound48/80と同様に、ヒトに痒みの感覚を引き起こす(・・・)。」

(摘記甲9(乙2)e)(231頁左欄下3?同頁右欄16行)
「4.考察
本研究の主な発見は、発痛剤ではなく、起痒剤を、マウスの背中の吻側部分に注射した場合、注射部位を後足で引っ掻く行動を誘発したことである。ヒト対象では、水疱基部上へのcompound48/80の500μg/mlの塗布(Armstrong et al., 1953)、0.3?10μg/mlの皮内注射(Fjellner and Haegermark, 1981)、及び10μg/mlの皮下(s.c)注射(Haegermarket al., 1978)は、その持続時間が比較的短い、例えば、数分の痒みの感覚を引き起こすことが分かった(Armstronget al., 1953)。本実験では、10?50μg(100?500μg/ml)の投与量におけるcompound48/80の皮下(s.c)注射は、投与量に依存してマウスの引っ掻き行動を引き起こした。これらの濃度は、ヒトの痒みを引き起こす濃度よりも高く、引っ掻き行動の持続時間は、ヒト対象の痒みの感覚の持続時間よりも長かった。」

(摘記甲9(乙2)f)(232頁右欄16?24行)
「要約すると、本結果は、compound48/80とサブスタンスPを注射した吻側背部の後足による引っ掻き行動は、そう痒や引っ掻きの衝動によるものかもしれないが、痛みによるものではないことを示唆する。このような疑似痒み行動は、痒み及び止痒薬に関する生理学的及び薬理学的研究にとって、有用な指標となるかもしれない。これらのデータは末梢に投与されたヒスタミンがマウスに痒みを生じるという考えへの支持を与えるものではなかった。」

9 甲10の記載事項

本件優先日前(1985年6月25日)に頒布された刊行物である甲10には、以下の事項が記載されている。

(摘記甲10)(623頁右欄下7?2行、624頁右欄16?21行)
「▲そう痒▼ prurit
皮膚がかゆくなること。▲そう▼痒は,皮膚科領域では非常に高い頻度でみられる症状である。多くの皮膚疾患の経過中に起こり,湿疹や扁平苔癬などは,かゆみそのものが疾患の本質的な特徴である。・・・。
・・・
病変が認められない健常な皮膚に▲そう▼痒が起こることがある。この場合は,内臓疾患と関係があり,・・・,糖尿病性皮膚▲そう▼痒症,・・・などがそれである。」
(当審注:「▲そう▼」は、「やまいだれ」に「蚤」を示す。)

10 甲12の記載事項

本件優先日前(1983年12月)に頒布された刊行物である甲12には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるため、和訳で摘記した。

(摘記甲12a)(239頁、表題)
「ボンベシン-そう痒の中枢メディエーター?」

(摘記甲12b)(239頁7?27行(記事全文))
「SIR, Bernsteinら(1982)は、内因性オピオイドペプチドが痒み感覚の中枢メディエーターであることを提唱している。我々は、もう一つの内因性神経ペプチドであるボンベシンがそう痒の中枢性媒介に関与している可能性を指摘したい。
ボンベシンは、もともとカエルの皮膚から単離されたテトラデカペプチドである(Anastasi, Erspamer & Bucci, 1971)。ボンベシン様免疫反応は、ヒトの腸(Polakら, 1976)、肺(Whartonら, 1978)及び脳脊髄液(Yamada、Takami & Gerner、1981)で確認されている。ボンベシンはヒトの肺の細胞のがんによっても大量に産生される(Moodyら, 1981)。興味深いことに、そう痒はしばしば肺がんと関連している(Cunliffe, 1979)。
我々は、ラットにおけるボンベシン(0.001-1.0 μg)の脳室内又は髄腔内(静脈内ではなく)投与が、後足での、顔、頭部及び頸部の激しい持続性(45?60分)の引っ掻き行動を誘発することを見出した。この引っ掻き行動は、ラットを抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン、ヒドロキシジン、メピラミン)で全身的に前処置した場合、顕著に影響されない。モルヒネ、ナロキソン、ハロペリドール及び局所麻酔薬リドカインも引っ掻き行動を減弱させなかった。フェノチアジン(クロルプロマジン、メトジラジン、トリメプラジン)及びベンゾモルファンクラスの鎮痛薬(例えば、エチルケトシクラゾシン、ペンタゾシン)は、用量依存的に引っ掻き行動に拮抗した。
他の幾つかのペプチドが実験的起痒剤として提案されている。例えば、ニューロテンシン、セクレチン、サブスタンスP及び血管作動性腸ポリペプチドは全て、ヒトにおいて皮内注射された場合に局所的な痒みを引き起こす。これらのペプチドはボンベシンとは異なり、肥満細胞からヒスタミンを放出する(Fjellner & Hoegermark, 1981; Sydbom, 1982)。
要約すると、我々は、そう痒、特に抗ヒスタミン薬及びナロキソンに耐性を示すそう痒の中枢媒介におけるボンベシンの潜在的役割に注意を呼びかける。」

11 甲22の記載事項

本件優先日前(1975年1月)に頒布された刊行物である甲22には、以下の事項が記載されている。

(摘記甲22)(162頁左欄2?8行)
「皮膚疾患の大多数は,▲そう▼痒を有するものである。眠りが妨げられるように激しくなくても,常に存在する痒みは患者にとってはなはだ不快なものであろう。こうした症状に対して,抗ヒスタミン剤,鎮静剤,精神安定剤などを使用するが,とくに抗ヒスタミン剤を用いることが多い。」
(当審注:「▲そう▼」は、「やまいだれ」に「蚤」を示す。)

12 甲23の記載事項

本件優先日前(1977年7月)に頒布された刊行物である甲23には、以下の事項が記載されている。

(摘記甲23)(263頁左欄1?13行)
「抗ヒスタミン剤(以下「抗ヒ剤」と略記)はヒスタミンの作用に拮抗する薬剤であり皮膚科ではもっとも賞用する薬剤の一つである。・・・。しかし実際には,臨床的には抗ヒ剤が▲そう▼痒性皮膚疾患に対する薬剤として第一に選択されている。これは抗ヒ剤が単なるヒスタミンに対する拮抗作用のみならず,抗セロトニン作用,抗コリン作用,抗痙攣作用など多種の作用を有しているためであり,特に中枢鎮静作用が止痒に有効なためである。」
(当審注:「▲そう▼」は、「やまいだれ」に「蚤」を示す。)

13 甲24の記載事項

本件優先日前(1967年10月)に頒布された刊行物である甲24には、以下の事項が記載されている。

(摘記甲24)(582頁7?18行)
「7.痒 覚
痒みは痛みとまったく異質の情感 affect を持ち,応答としても痛みでは逃避反射であるが,痒みでは掻爬反射をともない,痛みとは別種の感覚と日常体験は教えているが,多くの生理学の書籍は痛覚の亜種で,弱い痛覚の閾以下の興奮としている。ほかの見解もいろいろ出ているが通説として採り上げられているのは前者すなわち痛神経説である。その主な論拠はつぎに要約される。
(1)痒点は痛点に対応する。痛点を弱く,刺激毛あるいは電気刺激すると痒みを感じ,痒みの強く現れる部分には痛点が密に分布している。
(2)痛みの後反応として痒みが出るとき,C線維の放電が痛みに比して少頻度に残っている。
(3)脊髄において脊髄視床路を切断するとき触圧感を残して痛線維を切ることができるが,このとき痒覚も消失する。」

14 乙1の記載事項

本件優先日前(1960年)に頒布された刊行物である乙1には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるため、和訳で摘記した。

(摘記乙1a)(306頁、表題)
「ラットにおけるグルーミング行動」

(摘記乙1b)(306頁左欄1?23行、論文冒頭部分)
「動物の行動について一般的に教示するラットの研究が多数あるにも関わらず、我々はラットの行動自体について相対的に僅かしか知らない。例えば、グルーミングは、ラットの行動の重要な構成要素の一つであるが、その実施形態や目的、又は、これを支配する状況を含め、これについて、我々は殆ど何も知らない。
神経学的及び薬理学的な介入によってもたらされる、グルーミング行動における障害について、多数の散発的な略式の報告がある。しかし、これらの報告は、グルーミングの生理学上の根拠についてなんら評価を示唆するものではない。同様に、行動レベルにおいても、グルーミングを規則性をもって引き起こす、人為的に操作可能な固有の一連の刺激条件が存在するようには見受けられない。行動観察に代わる方法として、行動のコンテクスト、即ち直前の行動からの予測可能性の立場から行うものがある。本調査の目的は、行動、特に、グルーミング行動が、行動のコンテクストから予測可能となる範囲を確定することにある。」

(摘記乙1c)(310頁左欄下4行?同頁右欄下9行)
「要約
動物が異なる種類の行動に費やす時間量の正確な推定値を提供する、簡単な観察方法を述べた。この方法をグルーミング行動の記述分析に適用した。家庭用飼育ケージ環境下のオスの成熟ラットは、総覚醒時間の40%(1日に約3時間)をグルーミングに費やすことを発見した。これらの動物のグルーミングは、舐め、引っ掻き、及び顔洗い、といった典型的な形態で存在することを発見した。これらの各行動形態は、ある一定の他の行動形態の後に、著しく偏った高い頻度で発生することを発見した。実際、異なる行動形態が連続する順序関係、及び進行中の行動の継続には、先行する行動学的コンテクストから、後続の行動をかなり正確に予測可能とさせる、十分な一貫性が存在することを、情報の分析から示した。
グルーミングの発生を修正する人為的に操作可能な条件を実験的に見いだそうと試みる2件の実験を報告した。修正は見いだされたが、それらの本質は、あまりに複雑であり、刺激条件のコントロールの観点から単純な説明をもたらすことはできなかった。多くの場合には、グルーミングは、単純に、ちょうど一連の飲食又は探索行動が終了したために発生する、という仮説を提案した。」

15 乙3の記載事項

本件優先日前(1984年12月)に頒布された刊行物である乙3には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるため、和訳で摘記した。

(摘記乙3a)(2956頁、表題)
「脊髄の感覚処理におけるボンベシンの役割」

(摘記乙3b)(2956頁左欄1?2行)
「ボンベシン(BN)は、もともとカエル(Bombina bombina)皮膚から単離され配列決定されたテトラデカペプチドアミドである。」

(摘記乙3c)(2960頁左欄18?23行)
「別の仮説は、BNが脊髄と同様に脳における一次感覚の伝達に関与しているというものである。脳室内に投与されたBNは、顔部及び頚部の皮膚の疼痛刺激又はひりひりする刺激を模倣する二次頭部感覚神経の刺激により、グルーミング及び引っ掻き行動を引き起こす可能性がある。この仮説と一致して、ボンベシン-免疫反応ペプチド(・・・)及び受容体(・・・)は三叉脊髄核の膠様質中に存在することが最近発見された。三叉脊髄核は、SP(当審注:サブスタンスP。)及びSP受容体(・・・)も含む、これは顔及び頚からの一次感覚入力のプロセシングに関連すると思われる(・・・)。恐らく、SP及びエレドイシンはこの領域においてSP受容体上で相互作用して引っ掻き行動を誘発する可能性があり、ボンベシン、GRP、及びリトリンは、これらの後者のそれぞれがボンベシン受容体に対する作用物質であるので、三叉神経のボンベシン受容体と相互作用する可能性があるであろう(・・・)。」

(摘記乙3d)(2960頁右欄17?27行)
「要約すれば、BNは、脊髄の後角のラミナI及びIIにおける一次感覚求心路及び中枢神経の両方に含まれる。BN結合部位が後角に存在し、感覚刺激を示すBNの薬理作用を示すことができるので、後角がBN受容体を含むことをデータも示している。更なる研究は、BN-、SP-及びオピエート-を含有する、後角の神経間の正確な解剖学的及び生理学的関係並びに感覚刺激及び侵害刺激の神経伝達におけるこれらの役割を決定する必要があろう。」

16 乙4の記載事項

本件優先日前(1992年)に頒布された刊行物である乙4には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるため、和訳で摘記した。

(摘記乙4a)(163頁、表題)
「くも膜下腔内投与された、ボンベシン、ニューロメジンC及びニューロメジンBは、ラットのテールフリック反射を促進する」

(摘記乙4b)(164頁右欄下5?2行、165頁左欄20?25行)
「ボンベシン
図1に示されたように、ボンベシンのくも膜下腔内投与はテールフリック反射の亢進延長を引き起こした。・・・。
・・・
高投与量のボンベシン(0.65及び0.065nmol)で処置された動物の多くにおいて、試験期間全体を通して更なる行動反応が観察された。これらの反応は、尾への非侵害性の接触に対する反応における発声、自発的な発声及び周期的な不穏状態を誘発した。」

(摘記乙4c)(167頁右欄17?26行)
「テールフリック反射に対するこれらの効果に加えて、ボンベシン、ニューロメジンC及びニューロメジンBのくも膜下腔内投与は、侵害刺激の認知を示唆する行動反応を誘発し;これらの反応は、自発的な発声及び尾への非侵害性の接触に対する反応における発声を誘発した。この観察は、これらのペプチドが、運動機能に対して直接的又は間接的にありうる効果であるかに関わらず、侵害受容経路それ自体の伝達を促進する可能性があることを示唆している。」

(摘記乙4d)(167頁右欄下15?4行)
「ボンベシンが侵害受容刺激により活性化された神経細胞の発火を抑制する初期電気生理学的データを考慮すれば、これらのペプチドは脊髄侵害受容経路の脱抑制により間接的に侵害受容情報の伝達を促進する可能性があることが示唆される。すなわち、これらのペプチドは、侵害受容伝達を阻害する神経細胞を抑制し、これにより侵害受容情報の伝達を促進するかもしれない。この仮説は、ボンベシン及び関連ペプチドに対する後角神経細胞の電気生理反応特性がラット及びネコにおけるものと同じであることを想定する。」

17 乙6の記載事項

本件優先日前(1996年9月)に頒布された刊行物である乙6には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるため、和訳で摘記した。

(摘記乙6a(73頁、要約1?8行)
「1 オピオイド受容体と G-タンパク質活性化 K^(+)(GIRK)チャネルとの機能的カップリングの利点を得て、著者らは、クローン化されたμ-、δ-及びκ-オピオイド受容体mRNA並びにGIRK1 mRNAのそれぞれを同時注射されたゼノパス属卵母細胞内の内向きK^(+)電流レスポンスに対する様々な構造的及び薬理的分類のシグマ(σ)リガンド、(+)-N-アリルノルメタゾシン((+)-SKF10047)及び(+)-シクラゾシン、・・・、の効果を調査した。
2 (+)-SKF10047は、δ-及びκ-アゴニスト(それぞれEC_(50)値(μM)=0.618及び0.652)及びμ-アンタゴニスト(IC_(50)値(μM)=8.51)として作用した。」

(摘記乙6b)(77頁左欄下4行?同頁右欄4行、同頁右欄23?
29行)
「考察
本試験では、著者らは、ゼノパス属卵母細胞内のGIRK1チャネルで同時発現されたクローン化されたμ-、δ-及びκ-オピオイド受容体に対する様々な構造的及び薬理学的分類のリガンド、(+)-SKF10047、(+)-シクラゾシン、・・・の効果を実証した。(+)-SKF10047は、δ-及びκ-オピオイド受容体におけるアゴニストとして、及びμ-オピオイド受容体におけるアンタゴニストとして作用した。・・・。
・・・。本研究では、(+)-SKF10047は、ナノモル濃度においてさえδ-及びκ-オピオイド受容体を活性化し、マイクロモル濃度においてμ-オピオイド受容体を拮抗し、(+)-SKF10047によるδ-及びκ-オピオイド受容体の活性化はナロキソンにより完全には拮抗されなかった。」

18 乙7の記載事項

本件優先日前(1982年)に頒布された刊行物である乙7には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるため、和訳で摘記した。

(摘記乙7a)(2229頁、表題)
「ラットにおけるボンベシン-誘発グルーミングを拮抗する能力に基づいたオピオイドの分類」

(摘記乙7b)(2229頁、要約6?15行)
「ベンゾモルファンであるエチルケトシクラゾシン(0.25?0.5mg/kg、皮下注射)は、用量相関的に及び立体特異的にボンベシン-誘発グルーミングを減弱する。本研究で、著者らは、ボンベシン-誘発グルーミングに拮抗する能力に基づいて、27のオピオイドの分類を行った。その結果は、ベンゾモルファン構造は、本試験において活性に必須であることを示している。著者らの試験は、仮想のベンゾモルファン結合部位が薬理的受容体として機能的に活性であるという証拠を提供する。」

(摘記乙7c)(2229頁下15?11行)
「TRH(非公表観察)、ACTH(1-24)(6)及びサブスタンスP(7)により誘発されるグルーミングとは対照的に、ボンベシン-誘発グルーミング(B-G)は、モルヒネ(3?10mg/kg、皮下注射)によって拮抗されない。推定κ受容体アゴニストでありベンゾモルファンである、エチルケトシクラゾシン(EK、0.5mg/kg、皮下注射)はB-Gの有効なアンタゴニストである(8)。」

(摘記乙7d)(2229頁下10?6行)
「本試験では、B-Gの仲介における阻害性オピエート結合の証拠を集め、B-Gに拮抗する能力に基づいて27のオピオイドを分類した。試験する麻薬の用量を選択する過程において、行動抑鬱の濃度を決定するための新規かつ感度の高い方法を開発した。」

(摘記乙7e)(2230頁下18、14?11行)
「行動の測定法 ・・・。
・・・。前述(11, 12)のように、携帯マイクロコンピュータの助けを借り、グルーミング行動の任意の構成要素の発揮に付与する正のスコアによって、一度に4匹のラットの間欠モニタリングを行った。」

(摘記乙7f)(2231頁4?6行)
「SKF10,047の高投与量は、鎮静をもたらさないが、B-Gと競合し得る行動上興奮状態を引き起こす。」

(摘記乙7g)(2231頁「表1」(抜粋))
「表1
ボンベシン-誘発グルーミングを拮抗する能力に基づくオピオイドの分類
不活性オピオイド 用量 不活性オピオイド 用量
・・・ ・・・
・・・ SKF10,047 10
・・・ ・・・
ナロルフィン 50 ・・・
・・・
活性は、示された用量(mg/kg)でB-Gを有意に拮抗する能力を示す。・・・。」

(摘記乙7h)(2231頁9?10行)
「考察
B-Gを拮抗する能力に基づく27のオピオイドの分類の結果は、ベンゾモルファン構造が本試験において活性に必須であることを示している。」

(摘記乙7i)(2232頁13?18行)
「B-Gの拮抗作用を媒介する部位はベンゾモルファンに対して選択的であるようだが、μ(フェナゾシン)又はκ(ケトシクラゾシン)受容体におけるアゴニスト作用に対する特異性は示されない。μ、κ及びδ受容体アゴニスト(例えば、それぞれ、モルヒネ、ナロルフィン及びメトケファミド)及び推定δ受容体アゴニストであるICI154,129(14)は、本試験において、全て不活性としてグループ分けされることにも注意されたい。」

(摘記乙7j)(2232頁下6行)
「12.D.E. GMEREK and A. COWAN, Pharmac. Biochem. Behev. 16
929-932 (1982).」(当審注:乙21である。)

19 乙21の記載事項

本件優先日前(1982年)に頒布された刊行物である乙21には、以下の事項が記載されている。なお、英文であるため、和訳で摘記した。

(摘記乙21a)(929頁、表題)
「ラットにおけるRX 336-Mにより誘発される振動及びグルーミングの研究」

(摘記乙21b)(929頁右欄1、13?21行)
「方法
・・・
グルーミングは、携帯用マイクロコンピュータを用いて、20秒ごとに5秒間、間欠的な方法で採点された(21)。正のグルーミングスコアは、各ラットが5秒間のグルーミング(例えば、洗い、引っ掻き、噛み)のいずれかの要素を示した場合に与えられた。この方法では、各ラットについて90のグルーミングスコアがあり得た。これらの結果は、グルーミング行動発現の最大可能数の%として提示された(%MGE)。」

第7 無効理由についての当審の判断

当審合議体は、本件発明1、6?9、20に係る特許は、請求人が主張する理由及び証拠によっては、無効とすることはできないものと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 本件優先日当時の技術常識について

無効理由についての判断に先立ち、まず、甲4?9、12それぞれの記載から、当業者が本件優先日当時に把握し得る技術的事項について、要すれば他の証拠も参照しつつ確認した後に、それらの技術的事項を総合して把握し得る本件優先日当時の技術常識を検討する。その際、技術常識は時期により変化することから、公開時期が古い証拠から順に検討を行う。
なお、甲2及び甲3は、本件優先日より後に公開されたものであり、本件優先日当時の技術水準を示す証拠でもないため、検討の対象外とした。
また、各証拠において、「ボンベシン誘発グルーミング」や「ボンベシン誘発引っ掻き行動」等の異なる表現が用いられているが、同じことを指しているため、以下「ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動」と表記することがある。
同様に、各証拠において、「κタイプのアゴニスト」や「κアゴニスト」等の異なる表現が用いられているが、同じくオピオイドκ受容体への作動性を有する化合物(アゴニスト)のことを指しているため、以下「オピオイドκ受容体作動性化合物」と表記することがある。

(1)甲8(乙5)について

甲8(乙5)は、1983年9月に公開された、GmerekとCowanによる共著論文で、全身性止痒薬の前臨床スクリーニングの新たな動物モデルを提案するものであり(摘記甲8(乙5)a)、もともとカエルの皮膚から単離されたテトラデカペプチドであるボンベシンを、ラットの脳室内(i.c.v.)に投与することにより用量相関的に誘発される過剰な引っ掻き行動(以下「ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動」という。)が、フェノチアジン系の抗ヒスタミン薬であり、止痒薬である3つの化合物、即ち、メトジラジン、トリメプラジン、及びクロルプロマジンの投与により減弱された一方、その他の抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン、メピラミン、ヒドロキシジン、シプロヘプタジン、及びシメチジン)は、そのような効果がなかったことから、ヒスタミンがボンベシン誘発引っ掻き行動に必ずしも関係しないことが記載されており(同b?d)、この結果に基づき、この動物モデルは、新規の全身性止痒薬、特に、ヒスタミン非依存性のそう痒の治療に有効かもしれないものを評価する手段を提供することが記載されている(同b)。

甲8(乙5)には、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動が、如何なる原理や原因によって生じるのかについては、具体的な説明が記載されておらず、単に、フェノチアジン系という化学構造が共通する、止痒薬として使用される抗ヒスタミン薬である3つの化合物のみが、同行動を減弱した一方、フェノチアジン系以外の多くの抗ヒスタミン薬は、同行動を減弱しなかったことが示されているに留まるから、甲8(乙5)の記載からは、フェノチアジン構造を持つ一部の特定の抗ヒスタミン薬が、その抗ヒスタミン作用に基づかない、機序不明な何らかの作用により、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱した、ということは理解できる。
甲8(乙5)には、特定の共通構造を持つ僅か3つの抗ヒスタミン薬が、止痒薬として臨床的に使用されていることを根拠として、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動が、そう痒症状に基づく反応ではないかという推測が記載されているにすぎず、甲8(乙5)の最後に、「我々は、全身性止痒薬の前臨床スクリーニングと発見に役立つかもしれない新しい動物モデルを説明した。」(摘記甲8(乙5)d)と記載されていることからも、あくまでも推測又は仮説が提示されたものであると解される。
したがって、甲8(乙5)には、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動が、そう痒症状に基づくものであるという、仮説又は推測は記載されているものの、それが正しいものであると当業者が認識できるほどの実証的な事実が記載されているとは認められない。
また、甲8(乙5)には、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動とオピオイドκ受容体作動性化合物との関係について言及した記載は見いだせない。

(2)甲12について

甲12は、1983年に公開された、甲8(乙5)の著者と同じGmerekとCowanの共著による半頁ほどの短報で、ボンベシンがそう痒の中枢性媒介に関与している可能性が提示されているが、具体的な試験データは記載されておらず、試験結果の概要等が記載されたものであり(摘記甲12a、b)、その内容の一部(フェノチアジン化合物に関する事項)は、前記甲8(乙5)の記載内容と重複している。
甲12には、フェノチアジン化合物(クロルプロマジン、メトジラジン、トリメプラジン)、及びベンゾモルファンクラスの鎮痛薬(例えば、エチルケトシクラゾシン、ペンタゾシン)が、用量依存的にボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱したこと(摘記甲12同b)、また、他の文献を引用して、ボンベシンはヒトの肺の細胞のがんによっても大量に産生されること、そう痒はしばしば肺がんと関連していること、及び、実験的起痒剤として提案されている、ニューロテンシン、セクレチン、サブスタンスP等の幾つかのペプチドは、ヒトに皮内注射した場合に局所的な痒みを引き起こすが、ボンベシンとは異なり、肥満細胞からヒスタミンを放出することが記載されている(同b)。

甲12の記載によれば、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動の減弱は、抗ヒスタミン作用に基づくものではないと推定されることは理解できるが、鎮痛作用に基づくものである可能性があるとも解される。また、ボンベシンがヒトの肺の細胞のがんにより産生されること、及び、そう痒に肺がんが関連していることが知られていても、それから直ちにボンベシンがそう痒と関連するものであるとはいえない。
また、甲12は、表題に「ボンベシンがそう痒の中枢メディエーター?」と疑問符が付され、本文でも「ボンベシンがそう痒の中枢性媒介に関与している可能性を指摘したい」として、可能性を指摘するに留まっているから、そう痒とボンベシンとの関係については、単なる仮説や推測の域を出るものではない。

(3)甲6(乙20)について

甲6(乙20)は、1986年2月に公開された、甲8(乙5)と甲12の著者と同じGmerekとCowanによる共著論文であるが、そう痒に関する記載は見いだせず、鎮痛剤の開発の観点から、その手段の1つとして、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動の減弱を指標とした、オピオイドκ受容体作動性の化合物を検出し特定するための方法が提案されている(摘記甲6(乙20)b、c、e)。
甲6(乙20)には、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動の理由はまだ確立されていないこと(摘記甲6(乙20)d)、同行動は、オピオイドκ-(部分)アゴニストにより用量依存的に減弱され、そのようなオピオイドの例として、ブレマゾシン、シクラゾシン、エチルケタゾシン、ケタゾシン、及び(-)ペンタゾシンが挙げられること(同d)、その他のオピオイド(主にμ-アゴニスト)は、同行動の減弱には効果がなく、そのようなオピオイドの例として、ブプレノルフィン、レボルファノール、メペリジン、メタドン、メトケミド、及びβ-エンドルフィンが挙げられること(同d)、が記載されている。

しかしながら、甲6(乙20)において、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動の減弱に効果がなかったとして挙げられているオピオイドの全てのものについて、κ受容体に対するアゴニスト活性がないことが確認されているわけではない。
また、不可解な結果として、μアゴニストとされるフェナゾシンが、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動の減弱に活性があったことも記載されている(摘記甲6(乙20)d)。
そうすると、甲6(乙20)の記載からは、オピオイドκ受容体に対する(部分)作動性を有する幾つかの化合物が、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱したことは確認できるが、同行動の減弱の機序が、オピオイドκ受容体作動性によるものであると直ちに認識することはできないし、オピオイドκ受容体作動性化合物ならば、同行動を減弱できるものと、推認することもできない。また、甲6(乙20)の記載から、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動の減弱と鎮痛活性の関係については、示唆されているといえるが、そう痒との関係については、何ら言及がなされておらず不明である。

(4)甲4について

甲4は、1988年に公開された、同じくGmerekとCowanによる共著論文で、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動におけるオピオイド受容体の役割について報告するものであり(摘記甲4a)、鎮痛活性を有するオピオイド等のうち、オピオイドκ受容体に対して(部分)作動性がある幾つかの化合物(エチルケタゾシン、チフルアドム、U-50,488等)が、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動を用量相関的に減弱した一方、アゴニスト効果がμ又はδタイプのオピオイド受容体により媒介されるとされる幾つかの化合物については、グルーミング行動を完全に抑制しない用量では、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動に影響をしなかったことが記載されている(同c)。
また、甲4は、そう痒におけるボンベシンの役割とκオピオイドとの関連性について、さらに調査する必要があるとの前提で、κ受容体選択性を有するオピオイドは、大量のボンベシン様免疫反応性を生じる肺の小細胞癌により引き起こされる痛み及び痒みの軽減のために選択される薬物クラスになる可能性を示唆している(摘記甲4c)。

甲4において、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動の減弱を確認したオピオイドκ受容体作動性の化合物は数種に過ぎないし、同行動の減弱に効果がなかったとして挙げられているオピオイドの全てのものについて、κ受容体に対するアゴニスト活性がないことが確認されているわけでもないから、甲4の記載から、オピオイドκ受容体作動性化合物であれば、同行動を抑制できると認識することはできない。
また、甲4では、そう痒とボンベシンとオピオイドκ受容体との関係は、さらに調査を要し、未解明であることを前提として、肺小細胞癌による痛み及び痒みの軽減のためにκ受容体選択性オピオイドを用い得る可能性が言及されているに留まり、このような甲4の記載からは、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動がそう痒に起因するものであるとも、そう痒の治療に一般的にオピオイドκ受容体作動性化合物が有効であるとも、認識することはできない。

(5)甲5(乙8)について

甲5(乙8)は、1993年1月に公開された、DEHA-VEN-HUDKINS らの論文で、「NPC831」及び「NPC836」というナルトレキソンの2つのオキシム誘導体のオピオイドアゴニスト特性に関するものであり(摘記甲5(乙8)a)、前記の甲8(乙5)、甲12、甲6(乙20)及び甲4の著者であるGmerekとCowanの共著による2つの先行論文(うち1つは甲6(乙20)である。)を引用し(同c、g、h)、GmerekとCowanが提案したボンベシン引っ掻きテストによるκアゴニスト活性の測定法を用いて、「NPC831」及び「NPC836」のκアゴニスト活性を確認することを、その内容として含むものである(同c?g)。
甲5(乙8)には、「NPC831」と「NPC836」のいずれもが、κ-、μ-及びδ-の3つ全ての受容体への結合活性を有し、選択性はなかったこと(摘記甲5(乙8)b、d)、鎮痛活性の2つの試験である「テールフリックアッセイ」及び「酢酸誘発ライジングアッセイ」の両方において、ともに強力な拮抗作用を示したことが、試験データとともに記載されている(同b)。
また、甲5(乙8)には、GmerekとCowanが提案したボンベシン引っ掻きテストについて、もともとベンゾモルファン選択的鎮痛薬の行動的測定法として提案され、その後、in vivoにおけるκ-アゴニスト活性の新しい測定法として示唆されたものであるとし、このボンベシン引っ掻きテストの結果に基づいて、「NPC831」と「NPC836」のいずれもが、κアゴニスト活性を示したと記載されている(摘記甲5(乙8)g、e)。

甲5(乙8)において、「NPC831」及び「NPC836」がκアゴニスト活性を示したとされている根拠は、両化合物がボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱したことに基づくものであり、同行動の減弱がκアゴニスト活性の指標となり得るという前提に立つものである。
しかしながら、「NPC831」及び「NPC836」は、κ受容体への結合活性があることは確認されているが、ボンベシン引っ掻きテストの結果以外に上記両化合物がκ受容体に対する作動性を有することは確認されていないから、甲5(乙8)の記載から、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動の抑制がオピオイドκ受容体作動作用に起因するという仮説が検証されたものであるとはいえない。
また、甲5(乙8)には、そう痒に関する記述は見いだせないため、甲5(乙8)の記載から、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動がそう痒に起因するものであると理解することもできない。

(6)甲7について

甲7は、1995年3月に公開された、Cowanらによる学会発表の要旨であり、κアゴニストであり中枢作用性の鎮痛薬であるエナドリンは、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動を顕著に抑制したのに対し、κアゴニストであるが末梢選択性のICI204448は、同様の効果が得られなかったことを根拠に、中枢作用性のκアゴニストが、新たな止痒薬として有用性があり得る旨が記載されている(摘記甲7b)。

甲7の記載から、κアゴニストであっても、末梢選択性の化合物は、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動を抑制しない場合があることは理解できるが、そもそも同行動がそう痒に起因することの根拠は何ら示されていないし、エナドリンの僅か1例のみでは、中枢作用性のκアゴニストならば同行動を抑制するものと認識することもできない。

(7)甲9(乙2)について

甲9(乙2)は、1995年に公開された、Kuraishiらの論文で、マウスがグルーミング中に示す引っ掻き行動は、痒みに関連した行動とは考え難いこと(摘記甲9(乙2)c)、ヒトに痒みの感覚を引き起こす起痒剤である「compound48/80」又は「サブスタンスP」を(同d)、マウスの吻側背部に皮下注射すると、用量依存的に後足による注射部位の引っ掻き行動を誘発したが、発痛剤(カプサイシン及び希釈ホルマリン)の皮下注射は、有意な効果を示さなかったこと(同b、e)、この引っ掻き行動は、痒みによるものであって、痛みによるものではないと考えられること(同b、f)、このような疑似痒み行動は、止痒薬に関する薬理学的研究にとって、有用な指標となり得ること(同f)、が記載されている。

甲9(乙2)の記載から、ヒトに対する起痒剤である「compound48/80」や「サブスタンスP」のマウスの吻側背部への皮下注射によって引き起こされる引っ掻き行動は、起痒刺激だけにより誘発されるものであることから、止痒薬の研究に利用可能なものと理解できるが、甲9(乙2)には、オピオイドκ受容体作動性化合物を止痒薬とすることを示唆する記載はなく、ボンベシン誘導グルーミング・引っ掻き行動とそう痒との関係を示唆する記載もない。

(8)本件優先日当時の「ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動」、
「そう痒」及び「オピオイドκ受容体作動性化合物」の関係の技術
常識について

ア 「ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動」と「そう痒」の関係
について

乙1によれば、飼育ケージ環境下のオスの成熟ラットは、総覚醒時間の40%(1日に約3時間)をグルーミングに費やし、このグルーミングには、引っ掻き等の行動が含まれるが、その原因は明らかでないとされている(摘記乙1c)。また、甲9(乙2)には、マウスのグルーミング中の引っ掻き行動は、痒みに関連した行動とは考え難いという見解が示されている(摘記甲9(乙2)c)。

甲8(乙5)等によれば、ボンベシンは、もともとカエル(Bombina bombina)の皮膚から単離されたテトラデカペプチドであって、動物に対し起痒剤として作用することが知られた化合物ではなく、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動は、このボンベシンをラットの脳室内(i.c.v.)に投与することにより誘発される過剰な引っ掻きを含む行動である(摘記甲8(乙5)b、摘記甲6(乙20)d、摘記甲4b、摘記甲12b)。
甲6(乙20)には、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動の原因は確立されていないことが記載されている(摘記甲6(乙20)d)。
また、甲8(乙5)等には、そう痒とボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動の関係を示す記述があるものの(摘記甲8(乙5)b、d、摘記甲12b、摘記甲4c、摘記甲7b)、既に前記(1)、(2)、(4)及び(6)で説示したとおり、同行動がそう痒に基づくものであることの根拠は明らかでなく、単に過剰な引っ掻きは痒みが原因である可能性があるという仮説又は推測に留まるものである。
さらに、乙3等によれば、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動は痛みに起因するものであることも示されているから(摘記乙3c、d、摘記乙4b?d)、同行動の原因を特定することはできない。
そのため、甲8(乙5)等に記載された種々の化合物の投与によるボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動の減弱(摘記甲8(乙5)d、摘記甲12b、摘記甲6(乙20)d、摘記甲4c、摘記甲5(乙8)e、摘記甲7b)は、鎮痛作用ないしそれ以外の機序不明な何らかの作用によるものである可能性も否定できず、止痒効果に基づくものかどうかは確定できない。

一方、甲9(乙2)には、起痒剤である「compound48/80」又は「サブスタンスP」(摘記甲9(乙2)d)を、マウスの吻側背部に皮下注射すると誘発される、後足による注射部位の引っ掻き行動は、発痛剤の皮下注射では同様の行動は生じないことから、この行動は、痒みによるものであり、痛みによるものではないと考えられることが記載されている(摘記甲9(乙2)b、e、f)。
ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動は、この甲9(乙2)に記載された起痒剤をマウスの吻側背部への皮下注射によって誘発される引っ掻き行動と、外形的には一見共通する「引っ掻き行動」が現れているとしても、両者では、その誘発のために投与する化合物の性質も投与の経路も異なっているから、両者の引っ掻き行動が同様の原理に基づくものであるかは不明であって、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動は、必ずしもそう痒に起因するものであるとはいえない。

したがって、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動はそう痒に起因するものであり、ある化合物の投与による同行動の減弱が止痒効果によるものであるという技術常識が、本件優先日当時に存在したとは認められない。

イ 「ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動」と「オピオイド
κ受容体作動性化合物」の関係について

甲4、6(乙20)、7、12には、オピオイドκ受容体に対して(部分)作動性を有する化合物がボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱した旨が記載され、それらの化合物として、甲4には、内因性κ選択的オピオイドペプチドの「ダイノルフィンA」、κタイプのアゴニスト-アンタゴニスト混合鎮痛薬モルヒナンの「キソルファノール」、κ受容体選択的オピオイドの「U-50,488」が記載され(摘記甲4c)、甲6(乙20)には、いずれもベンゾモルファンの「ブレマゾシン」、「シクラゾシン」、「エチルケタゾシン」、「ケタゾシン」及び「(-)ペンタゾシン」が記載され(摘記甲6(乙20)d)、甲7には、中枢作用κアゴニストの「エナドリン」が記載され(摘記甲7b)、甲12には、いずれもベンゾモルファン鎮痛薬の「エチルケトシクラゾシン」及び「ペンタゾシン」が記載されている(摘記甲12b)。

これに対して、例えば、乙6には「SKF10047」がオピオイドκ受容体作動作用を有することが記載され(摘記乙6b)、乙7には「ナロルフィン」がオピオイドκ受容体アゴニストであることが記載されているところ(摘記乙7i)、乙7には、「SKF10047」も「ナロルフィン」もボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動の抑制作用はなかったと記載されており(摘記乙7g、i)、実際にオピオイドκ受容体作動作用を有する化合物であっても、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱しないものが存在する。
また、甲4及び甲6(乙20)には、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動の減弱に効果がなかったとして、幾つかのオピオイドが挙げられているが(摘記甲4c、摘記甲6(乙20)d)、それら全てのものについてκ受容体に対するアゴニスト活性がないことを確認しているわけでもない。
さらに、甲6(乙20)には、μアゴニストとされる「フェナゾシン」がボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動の減弱に活性があったとも記載されている(摘記甲6(乙20)d)。

そうしてみると、オピオイドκ受容体に対して(部分)作動性を有する化合物であれば、一般的にボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱するものと推認することはできない。

したがって、オピオイドκ受容体作動性化合物であれば、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱できる、という技術常識が、本件優先日当時に存在したとは認められない。

ウ 「オピオイドκ受容体作動性化合物」と「そう痒」の関係について

前記「ア」及び「イ」の説示をまとめると、オピオイドκ受容体作動性化合物であればボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動を減弱できるとはいえないし、同行動の減弱が止痒効果によるものであるかも不明であって、実際にオピオイドκ受容体作動性化合物が止痒効果を奏することを確認したという例も見いだせないから、オピオイドκ受容体作動性化合物であれば、止痒効果を奏するという技術常識が、本件優先日当時に存在したとは認められない。

2 無効理由1について

(1)請求人が主張する無効理由1の要点

審判請求書、口頭審理陳述要領書、及び令和1年12月17日提出の上申書の記載からみて、請求人が主張する無効理由1の要点は、次のとおりであると認める。

ア 本件発明1の止痒剤の有効成分である一般式(I)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物と、甲1の請求項1に記載された発明(以下「請求人主張甲1発明」という。)である、一般式(I)で表されるモルヒナン誘導体またはその薬理学的に許容される酸付加塩(摘記甲1b)は、いずれも「17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナン」(後に一般名として「ナルフラフィン」と命名された化合物)を含んでいる点で、一致している。

イ 本件発明1の止痒剤の有効成分は、一般式(I)で表される「オピオイドκ受容体作動性化合物」とされているのに対し、請求人主張甲1発明は、一般式(I)で表される「モルヒナン誘導体」とされている点で、文言上は相違しているが、甲1には、一般式(I)の化合物がオピオイドκ-アゴニスト、即ち、オピオイドκ受容体作動性化合物であることが記載されていることなどから、この点は実質的な相違点ではない。

ウ 本件発明1と請求人主張甲1発明との実質的な相違点は、本件発明1が「止痒剤」という特定の用途の発明であるのに対し、請求人主張甲1発明は「モルヒナン誘導体」という化合物の発明である、という点のみである。

エ しかしながら、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動が、種々のオピオイドκ受容体作動性化合物を投与することによって抑制されることから、オピオイドκ受容体作動性化合物が、そう痒症状の治療に有効である可能性があることは、本件優先日当時の技術水準・周知技術であり(甲4?8、12)、また、ヒトに痒みを生じさせる起痒剤である compound48/80 及びサブスタンスPをマウスに投与して誘発される引っ掻き行動が、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動と同様に、痒みによるものであると考えられることも、本件優先日当時の技術水準・周知技術であった(甲9)。

オ そうすると、請求人主張甲1発明のモルヒナン誘導体も、オピオイドκ受容体作動性化合物であるから、そう痒症状の治療にオピオイドκ受容体作動性化合物が有効である可能性があるとする甲4?9、12から導かれる技術水準・周知技術を適用して、これを「止痒剤」という用途のものとすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

カ そして、本件明細書において、実質的にそう痒症状の改善効果が記載されているのは、実施例9?12であるが、既存のオピオイドκ受容体作動性化合物との効果の比較が示されていないから、本件発明1の止痒剤について顕著な効果が記載されているとはいえない。

(2)無効理由1についての当審の判断

ア 甲1に記載された発明(甲1発明)

前記「第6」の「1」によれば、甲1には、強い鎮痛活性を持つκ-受容体アゴニストを提供する、という課題を解決するために検討した結果(摘記甲1a)、次の一般式(I):

(当審注:可変基の定義は省略した。)
で表されるモルヒナン誘導体又はその薬理学的に許容される酸付加塩(摘記甲1b)が、オピオイドκ-アゴニストとして強い鎮痛作用等を有していることが見出されたことが記載され(摘記甲1a、摘記甲1c)、上記の一般式(I)で表されるモルヒナン誘導体又はその薬理学的に許容される酸付加塩の具体例として、
「17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナン・酒石酸塩61」(摘記甲1g、1h、1f、1d、1e。以下、この化合物を「化合物61」という。)、
及び、
「17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナン・塩酸塩78」(摘記甲1i。以下、この化合物を「化合物78」という。)、
を製造したことが記載されている。
上記の「化合物61」及び「化合物78」は、前者は酒石酸塩であり、後者は塩酸塩であるが、甲1には、上記両化合物を製造する過程の酸付加塩とする前の段階において、フリー塩基(フリー体)を得たことが記載されていると認められる(摘記甲1g、1f、1i)。
そして、上記の「化合物61」及び「化合物78」のフリー塩基(フリー体)は、その名称からみて、同じ「17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナン」という化合物であって、次の構造式で示されるものであると認められる(摘記甲1g、1h、1i)。

この化合物は、甲1に記載された上記一般式(I)で表されるモルヒナン誘導体において、式中の

が「単結合」を表し、R^(1)が「炭素数4のシクロアルキルアルキル」である「シクロプロピルメチル」を表し、R^(2)及びR^(3)が「ヒドロキシ」を表し、Aが「-XC(=Y)-」を表し(ここでXが「NR^(4)」を表し、Yが「O」を表し、R^(4)が「炭素数1の直鎖アルキル」である「メチル」を表す)、Bが「2重結合を1個含む炭素数2の直鎖の非環状不飽和炭化水素」である「-CH=CH-」を表し、R^(5)が

(ここでQは「O」を表す)を持つ有機基である「フラン-3-イル」表し、R^(6)とR^(7)が一緒になって「-O-」を表し、R^(8)が「水素」を表すものに該当する。

そうすると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

≪甲1発明≫
「17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナンであって、構造式:

で表される化合物。」

以下、本審決では、上記化合物のことを「化合物A」ということがある。
なお、この「化合物A」は、後に一般名として「ナルフラフィン」と命名されたものであると認められる(摘記甲2、摘記甲3)。

イ 対比

本件発明1と甲1発明とを対比する。

甲1発明の「化合物A」は、本件発明1における「一般式(I)のオピオイドκ受容体作動性化合物」において、式中の

が「単結合」を表し、R^(1)が「炭素数4のシクロアルキルアルキル」である「シクロプロピルメチル」を表し、R^(2)及びR^(3)が「ヒドロキシ」を表し、Aが「-XC(=Y)-」を表し(ここでXが「NR^(4)」を表し、Yが「O」を表し、R^(4)が「炭素数1の直鎖アルキル」である「メチル」を表す)、Bが「2重結合を1個含む炭素数2の直鎖の非環状不飽和炭化水素」である「-CH=CH-」を表し、R^(5)が

(ここでQは「O」を表す)を持つ有機基である「フラン-3-イル」表し、R^(6)とR^(7)が一緒になって「-O-」を表し、R^(8)が「水素」を表すものに該当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「17-シクロプロピルメチル-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナンであって、構造式:

で表される化合物」(「化合物A」)に係るものである点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1では、「化合物A」が「オピオイドκ受容体作動性」であるとされているのに対し、甲1発明では、そのような特定がされていない点。

<相違点2>
本件発明1は、「化合物A」を「有効成分」とする「止痒剤」であるのに対し、甲1発明は、「化合物A」をそのような用途とするものではない点。

ウ 相違点についての判断

(ア)相違点1について

甲1には、「化合物A」の酒石酸塩である「化合物61」について、実施例141の「マウス輸精管摘出標本を用いるオピオイド活性試験」により、κ受容体に選択的なアゴニスト、即ち、オピオイドκ受容体作動性化合物であることを確認した結果が記載されている(摘記甲1j。なお、実施例141における「いずれもナルトレキソン使用前後のIC_(50)値には大きな差はなく、」という記載中の「ナルトレキソン」は、その前の「μ拮抗薬であるナロキソン、・・・を添加し、」との記載及び(表1)の記載からみて、「ナロキソン」の明らかな誤記と認める。)。
そして、オピオイドκ受容体への作動活性(アゴニスト活性)は、オピオイドκ受容体と同受容体への作動性を有する化合物との立体構造的相互作用によって生じるという作用機序を考慮すれば、「化合物61」において、上記実施例141で確認されたオピオイド活性に主に寄与しているのは、モルヒナン誘導体であるフリー塩基(フリー体)の「化合物A」の構造部分であると解するのが自然であるから、甲1には、甲1発明の「化合物A」が「オピオイドκ受容体作動性」であることが記載されているといえる。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

(イ)相違点2について

甲1発明の「化合物A」は、前記(ア)にて説示したとおり、オピオイドκ受容体作動性化合物であり、甲1には、「化合物A」を、そのオピオイドκ受容体作動性に基づいて、鎮痛剤、利尿剤、血圧降下剤又は鎮静剤の用途のものとし得ることは記載されているが(摘記甲1c、k、l、m)、止痒剤の用途のものとすることを示唆するような記載は見いだせない。
また、前記「1」の(8)ウで認定したとおり、本件優先日当時にオピオイドκ受容体作動性化合物であれば止痒効果を奏するという技術常識が存在したとも認められない。
そうすると、甲1発明の「化合物A」について、これを有効成分とする止痒剤の用途のものとすることには、積極的な動機付けがあるとはいえず、当業者であっても容易になし得たことであるとはいえない。

エ 本件発明1の効果について

前記「ウ」(イ)で説示したとおり、本件発明1と甲1発明との相違点2に係る「止痒剤」という用途は、本件優先日当時における技術常識を考慮したとしても、甲1発明に適用することを当業者が容易になし得たことであるとはいえないが、本件発明1の効果についても、念のため検討する。

本件明細書の記載を、本件特許の請求項1の記載と併せみると、本件発明1の効果は、一般式(I)(式は省略する。)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤を提供することにあると認められる(摘記オ、カ)。
本件明細書には、前記「第5」の「2」の(3)で説示したとおり、
「(-)-17-(シクロプロピルメチル)-3,14β-ジヒドロキシ-4,5α-エポキシ-6β-[N-メチル-トランス-3-(3-フリル)アクリルアミド]モルヒナン塩酸塩7

」(「化合物7」)
を局所投与することにより、成人男子下肢に生じた蕁麻疹の中程度の痒み、及び、女性アトピー性皮膚炎患者の腕・脚の強い痒みを、いずれも短い時間(5分)で完全に治癒し、痒みのない状態が数時間持続するという、実際にヒトにおいて優れた止痒効果が得られたことを裏付ける試験結果が記載されている(摘記コ;実施例9、摘記サ;実施例10)。
また、本件明細書には、同じく前記「第5」の「2」の(3)で説示したとおり、上記「化合物7」だけでなく、「化合物8」?「化合物19」を、マウスの吻側背部の皮下に事前投与することにより、その後の起痒剤「Compound48/80」の吻側背部の除毛部位への皮内投与により発生するマウスが後肢で「Compound48/80」投与部位の近傍を引っ掻く行動を抑制した(「化合物7」では用量0.005mg/kgで抑制率58%)という、動物モデルでの止痒効果も示されている(摘記シ;実施例12)。
上記実施例9、10、12で用いられた被検薬物は、いずれも酸付加塩であるが、オピオイドκ受容体作動性は、オピオイドκ受容体と同受容体への作動性を有するとされる化合物との立体構造的相互作用によって生じるという作用機序を考慮すれば、上記「化合物7」?「化合物19」において、オピオイドκ受容体作動性に主に寄与しているのは、モルヒナン誘導体の構造部分であると解するのが自然であるから、それぞれ対応するフリー塩基(フリー体)においても、当然、同様の効果が期待されるといえる。
そうしてみると、本件明細書には、一般式(I)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする「止痒剤」に係る本件発明1の優れた止痒効果が記載されているといえる。

甲1には、甲1発明である「化合物A」の酒石酸塩(「化合物61」)について、オピオイドκ受容体に選択的なアゴニストであることを示した試験結果(摘記甲1j)に加えて、マウスを用いた「酢酸ライジング法による鎮痛活性試験」において、ED_(50)が 0.0044mg/kg の鎮痛活性を示したことが記載されているが(摘記甲1k)、前記「1」の(8)ウで認定したとおり、本件優先日当時にオピオイドκ受容体作動性化合物であれば止痒効果を奏するという技術常識が存在したとは認められないし、鎮痛活性を有する化合物であれば止痒活性も有するという技術常識が存在したともいえず、ある化合物のオピオイドκ受容体作動や鎮痛活性に基づいて、その化合物が止痒活性を奏するか否か、実際に、どの程度の止痒活性を示すかを予測することはできないから、本件発明1が奏した上記の優れた止痒効果は、甲1の記載、及び甲4?9、12の記載から把握し得る本件優先日当時の技術常識から、当業者が予測し得たものであるとはいえない。

(3)請求人の主張について

ア 「仮説・推論」に基づく動機付けについて

請求人は、令和1年12月17日提出の上申書において、幾つかの裁判例を引用して、仮に、実験等に基づかない科学的根拠のない仮説・推論に過ぎないものであったとしても、甲4?9、12からは一定の技術的思想が読み取れるから、これらの証拠の引用例の適格性には問題はない旨を主張している。

しかしながら、前記「1」で説示したとおり、仮説・推論に過ぎない事項であっても、引用例としての適格性は否定していないし、検討の対象としたうえで、本件優先日当時の技術常識の認定を行っているから、請求人の上記主張は、その前提を欠いており、失当である。

イ 化学構造の相違や作用機序との関係について

請求人は、令和1年12月17日提出の上申書において、副引用例である甲4?8に記載された化合物は、本件発明が対象とする化合物と化学構造を大きく異にするので、オピオイドκ受容体作動性化合物が止痒作用・効果を有するという公知技術・周知技術ではないとする認定は誤りである旨を主張している。

しかしながら、請求人の上記主張は、本件発明の化合物との化学構造の相違をもって、甲4?8に記載された事項が公知技術・周知技術ではないとの認定を行うことを前提とするものであるところ、本審決は、そのような認定を行っていない。
したがって、請求人の上記主張は、その前提を欠いており、失当である。

ウ 「鎮静作用」との関係について

請求人は、令和1年12月17日提出の上申書において、甲22に、そう痒症状に対して使用するものとして、抗ヒスタミン剤と並んで「鎮静剤」が記載されており(摘記甲22)、甲23に、そう痒性皮膚疾患に対する薬剤である抗ヒスタミン剤は「中枢鎮静作用が止痒に有効」であることが記載されている(摘記甲23)ことを根拠として、本件優先日当時には、そう痒の治療に「鎮静作用」を有する薬剤が用いられていたことが周知技術であったとし、甲1の実施例142において、κ受容体アゴニストを含む被験薬に鎮痛効果が認められたこと示した「強い沈静活性」(摘記甲1k)という記載の「沈静」は「鎮静」と同義であるとし、「鎮静作用」と「鎮痛作用」が近い作用であると理解でき、「鎮静作用」を有する薬剤がそう痒の治療に用いられていたことを考えると、κ受容体アゴニストによる「鎮痛作用」と「止痒作用」との近接性を推察することができるから、κ受容体アゴニスト作用と「鎮静作用」、「鎮痛作用」、「止痒作用(鎮静剤としての効果)」には、その作用機序において共通性又は関連性を有するといえること、また、病態の観点から「痒み」と「痛み」が異なるとしても、いずれもκアゴニストにより減弱され(摘記甲7b)、「鎮静作用」により抑制されるため、関連する疾患又は同じ薬物で治療できる疾患であることが示唆され、病態の作用機序として共通性又は関連性を有すると考えられる旨を主張している。

しかしながら、甲1の実施例142における「強い沈静活性」という記載については、「鎮痛活性試験」という項目内の記載であって、その直後に記載された(表2)にも、「酢酸ライジングによる鎮痛活性」と記載されていることから(摘記甲1k)、「強い鎮痛活性」の誤記であると考えられ、仮にそうでないとしても、そう痒症状の治療に用いられる抗ヒスタミン剤の「鎮静作用」と、鎮痛のために用いられるオピオイドが有する「鎮静作用」との間に作用機序の共通性や関連性が存在することが本件優先日当時の技術常識であったとはいえないし、また、「鎮静作用」を有するオピオイドならば、そう痒症状の治療に使用できるといった技術常識が存在したともいえないから、請求人の上記主張は、失当であり、採用できない。

エ ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動とそう痒症状に基づく
反応との関係について

請求人は、令和1年12月17日提出の上申書において、甲24に、痒みが「掻爬反射」をともなうことが記載されていること(摘記甲24)を根拠として、掻爬(引っ掻き)が痒みの反射行動であることは技術常識であると理解されるとし、ラットの一般行動としてのグルーミングや引っ掻き行動の行動原理が不明であったとしても、ボンベシン誘発グルーミング(引っ掻き行動)を観察した当業者であれば、通常、引っ掻き行動が痒みの反射反応により生じているという推論をすると考えられる旨を主張している。
また、請求人は、口頭審理陳述要領書において、本件明細書に記載された実施例12では、マウスに「Compound48/80」を投与することによって生じる引っかき行動(グルーミング)は、「痒み」によるものとされているが、仮に、一般行動としてのグルーミングの行動原理が不明であるならば、「Compound48/80」によって生じる引っかき行動(グルーミング)も行動原理が不明となってしまい、矛盾する旨を主張している。

しかしながら、前記「1」の(8)アで説示したとおり、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動モデルを提唱した著者自身が、その原因は確立されていないと述べているうえ(摘記甲6(乙20)d)、請求人は、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動が、何故に痒みの反射反応によって生じていると推論できるのか、その具体的な根拠を何ら提示していない。
一方、前記「1」の(7)及び(8)アで説示したとおり、甲9(乙2)には、ヒトに痒みの感覚を引き起こす起痒剤である「compound48/80」又は「サブスタンスP」(摘記甲9(乙2)d)を、マウスの吻側背部に皮下注射すると誘発される、後足による注射部位の引っ掻き行動は、発痛剤の皮下注射では同様の行動は生じないことから、この引っ掻き行動は、痒みによるものであり、痛みによるものではないと考えられ、止痒薬に関する薬理学的研究にとって、有用な指標となり得ることが記載されている(摘記甲9(乙2)b、e、f)。
本件明細書に記載された実施例12は、この知見に基づくものであると考えられるから、一般行動としてのグルーミングの行動原理が不明であることと何ら矛盾するものではない。
そして、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動は、上記の甲9(乙2)に記載された起痒剤をマウスの吻側背部への皮下注射により誘発される引っ掻き行動と、外形的には一見共通する「引っ掻き行動」が現れているとしても、そもそもボンベシンは起痒剤としての作用を有することが知られた化合物ではないし、ラットの脳室内(i.c.v.)に投与するという、投与経路も異なるものであるから、両者の引っ掻き行動が同様の原理に基づくものであるか否かは不明であり、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動は、必ずしもそう痒に起因するものであるとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は、失当であり、採用できない。

オ ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動と痛みの関係について

請求人は、口頭審理陳述要領書において、乙3に記載された、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動と痛みの関係は、単なる仮説の1つに過ぎない旨を主張しており、また、乙4も、ボンベシン投与と痛みの関係を記載しているが、甲4?8と比較すると、ボンベシンの投与経路と観察する反応が異なっているため、そもそも技術的に異なった文献であり、具体的には、乙4では、ボンベシンを、ラットの「くも膜下腔内」に投与し、鎮痛作用の確認方法として知られた「テールフリック反射」を確認しているのに対し、甲4?8では、ボンベシンを「脳室内」に投与し、グルーミングや引っ掻き行動を観察しているので、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動が、痛みに起因するものであるといえない旨を主張している。

しかしながら、乙3は、仮説であっても、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動が痛みに起因するものであることについて、具体的な機序等も挙げた理論的な説明を記載している(摘記乙3c、d)。これに対し、請求人は、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動が痒みに起因するものであることについて、何ら具体的な理由を示していない。
また、乙4では、「テールフリックテスト」において、ボンベシンの投与により痛みが生じることを確認しているのであるから(摘記乙4b?d)、ボンベシンの投与により痛みが生じるとの知見は、少なくとも一定の科学的根拠を伴っている。
そして、「脳室内投与」と「くも膜下腔内投与」は、いずれも同じ中枢性への投与であり、くも膜下腔内へ投与された物質は、循環する髄液を通じて脳室内へも作用することが科学的にも認められているから、かかる投与部位の違いはボンベシンの作用に影響を及ぼさないし、甲12にも、「我々は、ラットにおけるボンベシン(0.001-1.0 μg)の脳室内又は髄腔内(静脈内ではなく)投与が、後足での、顔、頭部及び頸部の激しい持続性(45?60分)の引っ掻き行動を誘発することを見出した。」(摘記甲12b)として、脳室内投与と髄腔内投与とは、互換的に記載されている。
したがって、請求人の上記主張は、失当である。

カ ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動に抑制効果を持たない
κ受容体アゴニストについて

請求人は、口頭審理陳述要領書において、乙7に記載されたボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動のスコアリングでは、いかなるグルーミング行動であっても行動自体が確認されればスコアリングされるが、例えば、甲5(乙8)では、そのようなスコアリング方法をとっておらず、乙7に記載のものは、behavioral depression(行動抑鬱)を決定するための独自のスコアリング方法であると考えられ、乙7は、異なる評価系(行動抑鬱)においてボンベシン誘発グルーミング抑制効果を示さない複数のオピオイドκ受容体作動性化合物が知られていたことを示しているにすぎず、痒みの評価系においてボンベシン誘発グルーミング抑制効果を示さない複数のオピオイドκ受容体作動性化合物が知られていたことを示したわけではない旨を主張している。

しかしながら、乙7に記載された試験は、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動に拮抗するという、ベンゾモルファン及びエチルケトシクラゾシンの能力に基づいて、27のオピオイド化合物を分類することを目的とする試験であるから(摘記乙7b)、乙7に記載されたスコアリング方法は、オピオイド化合物によるボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動の抑制効果を評価するためのものであって、行動抑鬱を評価するためのものではない。
請求人の主張は、試験するオピオイド化合物の最大用量を選択する過程において、行動抑鬱の濃度の決定方法(即ち、オピオイド化合物の最大用量の選択方法)を開発したことに関する記載(摘記乙7d)の曲解に基づくものであって、当該記載は、グルーミングのスコアリング方法とは全く無関係である。
また、乙7の試験におけるスコアリング方法は、同文献において引用されている文献12(摘記乙7j、乙21)に具体的に記載されているところ、その内容をみるに、甲5(乙8)に記載されたスコアリング方法(摘記甲5(乙8)c)と、全く同じ方法である(摘記乙21b)。
そして、乙7には、オピオイドκ受容体作動性化合物である「ナロルフィン」及び「SKF10,047」が、ボンベシン誘発グルーミング・引っ掻き行動に拮抗する能力において不活性であることが、明確に記載されている(摘記乙7g、i)。
したがって、請求人の上記主張は、失当である。

キ 本件発明の作用効果の顕著性について

請求人は、審判請求書及び口頭審理陳述要領書において、本件明細書に記載されている実施例9、10、12は、既存のκ受容体アゴニストとの効果が比較されたものでないから、高度な創作性を裏付ける顕著な効果の記載がない旨を主張している。

しかしながら、既存のオピオイドκ受容体作動性化合物が止痒作用・効果を有するという公知技術・周知技術が存在したとはいえないから、既存のオピオイドκ受容体作動性化合物との止痒効果の比較がなくとも、前記「エ」で説示したとおり、本件明細書には、本件発明1の優れた止痒効果が記載されているといえるし、そのような優れた効果は、当業者が予測し得たものとはいえない。
したがって、請求人の上記主張は、失当である。

(4)小括

以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲4?9、12の記載から把握し得る本件優先日当時の技術常識・周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 無効理由2?5について

前記「第3」の「1」の(2)?(5)に示したとおり、無効理由2?5は、それぞれ順に本件発明6?9に係る特許を対象としているが、それらの理由及び証拠は、いずれも無効理由1のものと共通している。
本件発明6は本件発明1を引用するものであり、本件発明7及び本件発明8は本件発明6を引用し、本件発明9は本件発明8を引用するものであることにより、本件発明6?9は、いずれも本件発明1を直接的に又は間接的に引用する関係にあるが、これらの発明は、止痒剤の有効成分が、本件発明1における一般式(I)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物であり、その式中の複数の可変基の選択肢が限定されていること以外は、本件発明1と発明特定事項が全て同じである。
本件発明6?9と甲1発明とを対比すると、本件発明6?9に係る止痒剤の有効成分である可変基の選択肢が限定された一般式(I)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物は、いずれも、その式中の、

が「単結合」を表し、R^(1)が「炭素数4のシクロアルキルアルキル」である「シクロプロピルメチル」を表し、R^(2)及びR^(3)が「ヒドロキシ」を表し、Aが「-XC(=Y)-」を表し(ここでXが「NR^(4)」を表し、Yが「O」を表し、R^(4)が「炭素数1の直鎖アルキル」である「メチル」を表す)、Bが「2重結合を1個含む炭素数2の直鎖の非環状不飽和炭化水素」である「-CH=CH-」を表し、R^(5)が

(ここでQは「O」を表す)を持つ有機基である「フラン-3-イル」表し、R^(6)とR^(7)が一緒になって「-O-」を表し、R^(8)が「水素」を表すものに該当する化合物、即ち、「化合物A」を含んでいるから、本件発明6?9と甲1発明との一致点及び相違点は、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点と全く同じである。

そして、前記「2」で説示したとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明、及び甲4?9、12の記載から把握し得る本件優先日当時の技術常識・周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、同様の理由によって、本件発明6?9も、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 無効理由6について

前記「第3」の「1」の(6)に示したとおり、無効理由6の概要は、本件発明20は、甲1に記載された発明、及び甲4?10、12から導かれる本件優先日当時の技術水準・周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
本件発明20は、本件発明1、6?9を択一的に引用するものであって、止痒剤の有効成分である一般式(I)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物は、引用する本件発明1、6?9と同じであるが、止痒剤の治療対象とするそう痒が「皮膚疾患あるいは内臓疾患に伴うもの」に限定されたものとなっている。
本件発明20と甲1発明とを、前記「2」の(2)のイ及び「2」の対比結果も併せて対比すると、両者の一致点は、前記「2」の(2)のイで認定した本件発明1と甲1発明との一致点と同じであり、両者の相違点は、前記「2」の(2)のイで認定した本件発明1と甲1発明との相違点1と同じ相違点1、及び、次の相違点2’である。
<相違点2’>
本件発明20は、「化合物A」を「有効成分」とする「そう痒が皮膚疾患あるいは内臓疾患に伴うものである止痒剤」であるのに対し、甲1発明は、「化合物A」をそのような用途とするものではない点。

相違点1が実質的な相違点でないことは、前記「2」の(2)のウ(ア)で説示したとおりであるから、相違点2’について検討する。
甲10の記載によれば、そう痒には、皮膚疾患の経過中に起こるものや、糖尿病性皮膚そう痒症等の内臓疾患に関連するものがあることは、一般的な医学知識であると認められる(摘記甲10)。
しかしながら、前記「2」の(2)のウ(イ)で説示したとおり、甲1発明を、治療対象とするそう痒に本件発明20のような限定のない本件発明1と甲1発明との相違点2に係る「止痒剤」という用途のものとすることが、甲4?9、12の記載から把握し得る本件優先日当時の技術常識・周知技術を考慮しても、当業者が容易になし得たとはいえないのであるから、甲1発明を、治療対象とするそう痒をさらに限定した「止痒剤」の用途のものとすることは、甲10に記載された技術常識・周知技術を併せて考慮しても、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。

したがって、本件発明20は、甲1に記載された発明、及び甲4?10、12の記載から把握し得る本件優先日当時の技術水準・周知技術に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第8 むすび

以上のとおり、本件発明1、6?9、20に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえず、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものであるとはいえない。
したがって、請求人が主張した理由及び証拠によっては、本件発明1、6?9、20に係る特許を、無効とすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2020-02-26 
結審通知日 2020-03-03 
審決日 2020-03-17 
出願番号 特願平10-524506
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 榎本 佳予子  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 井上 典之
渕野 留香
登録日 2004-03-12 
登録番号 特許第3531170号(P3531170)
発明の名称 止痒剤  
代理人 重冨 貴光  
代理人 長谷部 陽平  
代理人 皆川 量之  
代理人 小松 陽一郎  
代理人 原 悠介  
代理人 鷲見 健人  
代理人 千葉 あすか  
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