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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61B
管理番号 1377414
審判番号 不服2021-8757  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-01 
確定日 2021-09-14 
事件の表示 特願2019-104631「眼疾患の生体力学的診断用の光学機器」拒絶査定不服審判事件〔令和元年9月5日出願公開、特開2019-147015、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は2015年(平成27年)2月2日を国際出願日とする特願2017-540579号の一部を、令和元年6月4日に新たな特許出願とした出願であって、令和元年6月4日に手続補正書及び上申書が提出され、令和2年5月15日付けで拒絶理由通知がなされ、同年8月18日に意見書及び手続補正書が提出され、令和3年2月24日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、同年7月1日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
本願請求項1?14に係る発明は、以下の本件遡及日(原出願である特願2017-540579号に係る国際出願日)前に引用文献2?5に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
引用文献2.国際公開第2007/034802号
引用文献3.国際公開第2012/149570号(周知技術を示す文献)
引用文献4.米国特許出願公開第2013/0149734号明細書(周知技術を示す文献)
引用文献5.米国特許出願公開第2014/0368792号明細書(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願請求項1?14に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明14」という。)は、令和2年8月18日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される発明である。

1 本願発明1
本願発明1は以下のとおりの方法の発明である(各構成単位冒頭の「1A」などは便宜のため当審にて付与した分説番号であり、以下外各構成単位について「構成1A」などという。以下同様。)。

「 【請求項1】
1A 眼疾患の生体力学的診断を実行するための方法であって、
1B 光学的出発点を共有する第1のサンプルビーム及び第2のサンプルビームを生成することと、
1C 生物組織サンプルにおける焦点位置に対して共焦点的な方法で、前記第1のサンプルビーム及び前記第2のサンプルビームを前記生物組織サンプルに伝搬することと、
1D 前記第1のサンプルビームによって前記焦点位置から後方散乱された第1の光子を含む第1の信号ビームを検出することであって、前記第1の信号ビームがブリルアン散乱検出器を用いて検出される、検出することと、
1E 前記第2のサンプルビームによって前記焦点位置から後方散乱された第2の光子を含む第2の信号ビームを検出することであって、前記第2の信号ビームが第二高調波発生(SHG)検出器を用いて検出される、検出することと、を含み、
1F 前記第1の信号ビームが前記焦点位置からのレイリー散乱光子及びブリルアン散乱光子を含み、及び前記第2の信号ビームが前記第2のサンプルビームの波長の半波長における光子を含み、
1G 該方法は更に、
前記第1の信号ビームから、前記焦点位置における前記生物組織サンプルの弾性力学的特性を決定することと、
1H 前記第1の信号ビームから、前記焦点位置における前記生物組織サンプルの粘弾性特性を決定することと、
1I 前記第2の信号ビームから、前記焦点位置における前記生物組織サンプルの形態構造の指標を決定することと、を含み、
1J 前記生物組織サンプルの、前記弾性力学的特性を決定すること、前記粘弾性特性を決定すること、及び前記形態構造の指標を決定することが同時に実行される、眼疾患の生体力学的診断を実行するための方法。」

2 本願発明8
(1)本願発明8
本願発明8は以下のとおりの、装置の発明である。

「 【請求項8】
8A 眼疾患の生体力学的診断を実行するための光学機器であって、
8B1 第1のサンプルビームを生成する第1の光源と、
8B2 第2のサンプルビームを生成する第2の光源と、
8C 組み合わせサンプルビームを生成するために、前記第1のサンプルビーム及び前記第2のサンプルビームを重ね合わせる第1の部分ミラーと、
8D 生物組織サンプルにおける焦点位置から前記第1のサンプルビームによって後方散乱された第1の光子を含む第1の信号ビームを受信する分光計を含むブリルアン散乱検出器と、
8E 前記第2のサンプルビームによって前記焦点位置から後方散乱された第2の光子を含む第2の信号ビームに敏感な光電陰極を含む第二高調波発生(SHG)検出器と、
8F 前記組み合わせサンプルビームを共焦点的な方法で前記焦点位置に伝搬し、且つ前記第1の信号ビーム及び前記第2の信号ビームを含む組み合わせ信号ビームを前記焦点位置から共焦点的な方法で伝搬する第2の部分ミラーと、を含んでおり、
8G 前記ブリルアン散乱検出器が、
前記第1の信号ビームから、前記焦点位置における前記生物組織サンプルの弾性力学的特性を決定し、且つ
8H 前記第1の信号ビームから、前記焦点位置における前記生物組織サンプルの粘弾性特性を決定するためのものであり、
8I 前記SHG検出器が、前記第2の信号ビームから、前記焦点位置における前記生物組織サンプルの形態構造の指標を決定するためのものであり、
8J 前記生物組織サンプルの、前記弾性力学的特性の決定、前記粘弾性特性の決定、及び前記形態構造の指標の決定が同時に行われる、眼疾患の生体力学的診断を実行するための光学機器。」

(2)本願発明1及び本願発明8の関係
本願発明8は、その構成8A、8B1?8C、8D,8E、8F、8G、8H、8I、8Jがそれぞれ本願発明1の構成1A、1B、1D、1E、1C、1G、1H、1I、1Jに対応し、本願発明1とカテゴリー表現が異なるだけの発明である。

3 その他の発明
本願発明2?7は本願発明1を減縮した発明である。
本願発明9?14は本願発明8を減縮した発明である。

第4 引用文献、引用発明等

1 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)明細書の記載事項
「[0018]光源1は周波数差が制御された測定光と局発光を発生させ、光プローブ3を経由して測定光を測定対象物6に照射する。測定対象物が測定光を散乱することによって発生した散乱光は光プローブ3を経由し、局発光と結合されて光ヘテロダイン受光器2に導かれる。制御コンピュータ4は、散乱光のスペクトルを解析することにより、ブリルアン散乱成分の中心周波数と線幅を求める。ブリルアン散乱成分の中心周波数は弾性に、線幅は粘性に依存するので、この測定によって測定対象領域における弾性又は粘性についての情報が得られる。制御コンピュータ4はスペクトル解析によって得られた弾性及び/又は粘性の情報を画像情報として構築し、画像情報表示器5に出力する。」

「[0020]レーザ光源101及びレーザ光源102は、測定対象物のブリルアンゲイン線幅(典型的には約100MHz)よりも細い線幅の光を生成できるレーザ光源であり、それによって光源線幅の影響によりブリルアンゲインスペクトルが過大に評価されるのを防ぐことができる。局発光の周波数可変レーザ光源102は、ブリルアンゲイン線幅よりも細かい周波数精度を有する。このような光源としては、外部共振器として回折格子を有するレーザダイオードやファイバDFBレーザが好ましい。局発光の偏波状態は、従来良く知られた偏波スクランブラ106によってランダム化することが好ましい。それにより、光ヘテロダイン検出において散乱光と局発光の偏波の相対的な揺らぎによる干渉成分の揺らぎが検出性能に悪影響を及ぼすのを防ぐことができる。
・・・
[0022]周波数f_(1)の測定光を、光ファイバ10を経由して光プローブ3へ導き、レンズ301を通して出射し、測定対象物6の測定対象領域601に照射すると、測定対象物での光散乱によって散乱光304が発生する。この散乱光をレンズ301で捕獲して光ファイバ10へ結合し、光ヘテロダイン受光器2へ導く。
[0023]図2は、測定光、散乱光、及び局発光の周波数スペクトルを模式的に示す図である。図2(a)は測定光のスペクトル、図2(b)は散乱光のスペクトル、図2(c)は局発光のスペクトルを示している。光散乱に関しては例えばRobert W.Boyd,”Nonlinear Optics”,Academic Press(1992)Section7.1,7.3などに記載されている。散乱光は周波数f_(1)に弾性散乱成分を有し、f_(1)±f_(B)にブリルアン散乱成分を有し、f_(1)±f_(R)にラマン散乱成分を有する。弾性散乱成分は測定対象物内のエントロピー揺らぎによるレイリー散乱のほか、生体などでは屈折率不均一性による散乱に起因し、ブリルアン散乱は測定対象物内の弾性波に起因し、ラマン散乱は測定対象物内の分子振動に起因する。・・・。」

「[0026]従って、光波長、散乱角、屈折率についての情報を事前に取得し、ブリルアン散乱の周波数シフト又は線幅を測定することにより、測定対象領域における弾性又は粘性の情報が得られる。さらに複数の測定対象領域について弾性又は粘性を測定し、位置情報と対応付けることにより、弾性又は粘性の分布を画像化することができる。
なお、弾性又は粘性の代わりに、周波数シフト又は線幅を位置情報と対応付けることにより画像化してもよい。生体における硬さは組織の線維化などの病理学的情報と相関があるが、このような病理学的情報を得る際には弾性又は粘性の絶対値は必ずしも必須ではなく、周囲の健常領域との相対的な違いが分かれば足りる場合も多い。そのような場合には、周波数シフト又は線幅を画像化することはデータの処理を簡略化できる利点がある。
[0027]本発明の測定装置では、画像化に必要な位置情報を得るための機構を光プローブが有する。ガイドレーザ光光源8で発生させたガイド光は測定光と結合されて同じ光ファイバを伝搬し、光プローブ3を経由して測定対象領域601に照射される。図4に示すように、測定対象領域601に生じるガイド光のスポットを光プローブ3に備えられたカメラ302で撮影する。さらに、カメラで測定対象領域601の周辺を含む測定対象物の画像を撮影し、測定対象物の特徴部位602を基準としてガイド光のスポットの位置を測定する。それによって測定対象領域601の位置情報が得られる。測定対象物6の画像撮影では照明303を用いても良く、それによって、内視鏡下などの暗所で位置情報の取得が可能となる。さらに、光プローブ3を測定対象物の表面に沿って移動させながら測定を実施し、粘弾性測定結果と位置情報を対応付けることにより、分布情報を構築することができる。構築された弾性又は粘性の分布情報は、カメラで撮影した測定対象物の画像503に重ね合わせて色彩や濃淡で表現した弾性・粘性分布画像502として画像表示器501に表示される。この場合、測定対象物が動きを持つ場合でも、特徴の動きを検出することによって動きの影響を排除して測定を行うことができる。」

「[0037]より詳細には、測定対象に光損傷を生じさせない測定光のパワーとして、JIS6802Cに規定されている最大許容露光(MPE)を一つの目安とすることができる。図14は、JIS6802Cに規定されている角膜における眼のMPEを示す図である。・・・。」

「[0048]図1では、第2の光診断手段として光コヒーレンストモグラフィ7を備える。これは測定対象物の弾性散乱係数の空間分布を測定する手段であり、良く知られているように、低コヒーレンス光源であるスーパールミネッセントダイオード701からの光をビームスプリッタ702によって測定対象物を照射する光と参照光に分け、測定対象物からの散乱光をレンズ705で集光しビームスプリッタ702で参照光と結合させてフォトダイオード704上で干渉させることにより、測定対象領域における局所的な弾性散乱係数を測定し、さらに参照光の光路長を可動鏡703で変化させることによって弾性散乱係数の深さ方向分布を行う。さらに光プローブ3を光軸に交わる方向へ移動させることにより横方向の分布を得ることができる。弾性散乱を測定する点は、ブリルアン散乱を測定する本発明との大きな違いである。光コヒーレンストモグラフィの測定光及び散乱光は、本発明の測定光及び散乱光と光ファイバ10の一部及び光プローブ3を光路として共有する。それにより、2つの光測定手段による測定結果の位置を対応付けることができる。このように第2の光測定手段を統合することにより、1つの位置において複数の物理量を診断することができる。1つの物理量だけでなく複数の物理量の組を測定することにより、擬陽性・擬陰性の誤判定の確率を低減し、疾患の診断精度を向上することができる。既存の光学的診断の情報と、本発明が新たに提供する弾性・粘性に関する情報を統合することにより、生体を測定対象物とした場合に、動脈硬化や腫瘍などの検出感度、判定精度を高めることができる。画像表示としては、個々の測定手段の測定結果だけでなくそれらを統合して疾患の有無や悪性度を診断した結果をも画像として表示することが好ましい。
[0049]なお、第2の測定手段としては、光コヒーレンストモグラフィ以外にも、測定対象物の色や吸光度を測定する画像撮影や、複屈折を測定する偏波光コヒーレンストモグラフィや、蛍光スペクトルを測定する蛍光画像撮影などの良く知られた測定手段を目的に合わせて用いても良い。統合の例としては、血管を測定対象とする場合に、血管壁の弾性だけでなく血管壁の内皮細胞層や平滑筋細胞層の厚さも併せて診断して結果を統合することにより、動脈硬化の検出感度を高め、生活習慣病の診断の早期化を図ることができる。また、腫瘍細胞と正常細胞の境界を含む組織を測定対象とする場合に、組織の弾性や粘性だけでなく光散乱の強弱、自家蛍光やバイオマーカーによる蛍光も併せて測定して結果を統合することにより、腫瘍組織と正常組織の判別精度を高め、腫瘍の切除術や放射線治療における腫瘍の残留や正常組織へのダメージなどの不具合を低減できる。
[0050]光プローブとしては、図4以外の構成も可能である。その例を図10に示す。図10に示す光プローブでは、測定光と散乱光は別の光路を通り、測定光は照射光伝送光ファイバ1001を通って光照射用レンズ311によって測定対象領域601に集光される。
散乱光は光捕獲用レンズ312で捕獲され、散乱光伝送光ファイバ1002に結合される。照射光伝送光ファイバ1001は図1における光源1、ガイドレーザ光光源8、及びスーパールミネッセントダイオード701に結合され、散乱光伝送光ファイバ1002は光ヘテロダイン受光器2及びフォトダイオード704に結合される。図10に示す光プローブでは、捕獲される散乱光が測定光に対してなす角が180゜よりも小さいため、光プローブ3から一定の距離をおいた位置からの散乱光を選択的に捕獲できる。そのため、光プローブ3と測定対象物6との間の距離を変えて測定を行うことにより、深さ方向の分布測定を行うことができる。図1に示すように、レール305,306に沿って光プローブ3を移動させながら散乱光の測定と移動量の測定を行うことにより、粘弾性の空間分布を測定することができる。」

(2)図面の記載事項
図1は次のとおりである。











(3)看取・認定事項

ア 図1から、光源1のレーザ光源101からの出射光を光プローブ3へ導く光ファイバ10と、光コヒーレンストモグラフィ7装置(OCT)のスーパールミネッセントダイオード701からの出射光を光プローブ3へ導く光ファイバ10とは、光プローブ3の手前で接合され、両光源からの出射光が該接合部位にて一つの光路に合波され、測定対象から光プローブ3へ入射した光は逆に前記接合部でブリルアン散乱を検出する光ヘテロダイン検出器2と、光コヒーレンストモグラフィの干渉光学系7とへ分波され、それぞれ光ファイバ10を介して導光されることが看取できる。

(4)引用発明2
したがって、引用文献2には次の発明(引用発明2)が記載されていると認められる(各構成単位冒頭の「1a」などは分説記号であり、以下当該構成単位を「構成1a」などという。また、各構成単位末尾の括弧内は引用元の記載箇所・認定事項を示す。)。

「1a 眼の角膜の弾性、粘性を診断するための方法であって([0018]、[0026]、[0037])
1b レーザ光源から出射される測定光と、低コヒーレンス光源であるスーパールミネッセントダイオードから出射される測定光とは、光ファイバの途中の点で合波することにより、光ファイバの一部及び光プローブを光路として共有し、([0020]、[0022]、[0048]、看取・認定事項ア)
1c 測定対象領域に光照射用レンズによって測定光を集光することと、([0022]、[0050])
1d レーザー光源からの測定光の測定対象物での光散乱によって発生した散乱光をレンズで捕獲して光りヘテロダイン受光器へ導き、ブリルアン散乱の周波数シフト又は線幅を測定し、([0022]、[0026])
1e スーパールミネッセントダイオードによる測定光による測定対象物からの散乱光をレンズで集光して、測定対象領域における局所的な弾性散乱係数を測定する光コヒーレンストモグラフィ測定を含み、([0048])
1f レーザー光源からの測定光の測定対象物からの散乱光は弾性散乱成分、ブリルアン散乱成分を有し、([0023])
1g レーザー光源からの測定光によるブリルアン散乱の周波数シフト又は線幅を測定することにより、測定対象領域における弾性の情報を得ることと、([0026])
1h 数シフト又は線幅を測定することにより、測定対象領域における粘性・粘弾性の情報を得ることと、([0026]、[0027])
1i スーパールミネッセントダイオードによる測定光を用いた光コヒーレンストモグラフィ測定によって弾性散乱係数の横方向・深さ方向の分布を測定し、([0048])
1j 測定対象物の弾性、粘性、粘弾性の分布情報、また、弾性散乱係数の分布情報を、光プローブ3を測定対象物の表面に沿って移動させながら測定を実施し、相互に位置情報を対応付けて得て、1つの位置において複数の物理量を診断する、方法。([0026]、[0048])」

2 引用文献3について
引用文献3には、図面と共に次の記載がある。

(1)明細書の記載

ア [0019]?[0020]の当審訳は次のとおり。

「発明の目的及び概要
[0019]上述した問題および/または欠点に対処及び/又は克服するために、システム、装置及び方法の例示的な実施形態は、情報を得ること、および生物学的組織の分析を行なうことのできるを提供することができる。例えば、例示的な方法および装置は、種々の生物学的組織の非侵襲的な生体内生体力学的および生物物理学的特徴付けを含む弾性及び粘度に限定されないが、例えば、高速光学的分光法および顕微鏡ブリルアン光散乱に基づいて、を介して、ヒトおよび動物の眼を含む)を達成することができる。本開示の特定の例示的な実施形態では、装置および方法は、生物学的組織(例えば、ヒトおよび他の動物の眼を含むがこれらに限らない)の固有の生体力学的特性についての情報は、例えば、眼の問題、研究、動物モデルを用いて治療の開発などの臨床的診断において広範囲の応用例に利用することができる非侵襲的に得るために提供することができる。
[0020]本開示の特定の例示的な実施形態によれば、スペクトル分析を実行し、例えば、a)サブ第2ブリルアンスペクトル取得、b)弾性散乱の60dBより大きい除去、およびc)サブGHz弾性感受性を含むinvivo組織特徴付けを容易にすることが可能である。例えば、共焦点顕微鏡を用いてそのような例示的な結果を達成するために、特定の例示的な特徴を有する例示的な分光計組み合わせることにより、インビボの眼組織、水晶体および角膜を特徴付け、例えば、マウス及びヒト患者において、ならびに動物およびヒトの皮膚組織中とすることが可能であることができる。また、このような例示的な実施形態を用いて、「弾性画像化」は、高空間分解能を達成することができる。例示的な実施形態によれば。本開示は、超音波技術に勝る利益が、有意に高い分解能及び感度を得ることができる。実際、顕微鏡的解像度で組織の弾性を非侵襲的に調べることが可能である。」

イ [0075]?[0076]の当審訳は次のとおり。

「[0075]図1Aの例示的なシステムは、ビーム・スプリッタ142を利用して第1及び第2の電磁放射線を反射及び透過する。ビームスプリッタ142は、信号生成および収集の効率の最適化のために、例えば、ある等しい50/50の分割比又は等しくない分割比を得る。ビームスプリッタ142は、広いスペクトル帯域幅を有するニュートラルスプリッタ又は多層コーティング、干渉、または回折に基づく二色性スプリッタであることができる。第2電磁放射線144の一部は、第2の構成1、0、の1つまたは複数の第2の電磁放射144の少なくとも一部分144を受け入れるように構成され得るに送信することができる。
[0076]図1Bは、本開示の別の例示的な実施形態に係る例示的なシステム/装置の図を示す。例えば、図1Bの例示的なシステム/構成は、第1の配置との間の光ファイバ160を使用することができる。100及びビームスキャナ140である。別の光ファイバ162も、第2の配置150にブリルアン散乱光を送達するために使用することができる。サンプルアームの光ファイバー160は、シングルモードファイバ、マルチモード、少数モード、または二重クラッドファイバーを使用することもできる。例えば、検出アーム内の光ファイバ162は、シングルモードまたは少数モード・ファイバであることができる。光ファイバ162は、共焦点ピンホールとして機能し、サンプル内のプローブ光の焦点から生成された第2の電磁放射の一部のみを選択的な収集を容易にすることができる。この例示的な共焦点の検出は、3次元分解能を有する空間分解されたブリルアン測定を容易にすることができる。共焦点検出は、当該技術分野において知られている。光ファイバ162の代わりに、ピンホールを用いているような空間フィルタを用いることができる。それは、ビーム経路に沿った様々な空気とガラスまたは空気/組織界面での光反射を最小化および/または軽減又は第2装置150に入るから極力反射光を防止することができる。」

(2)図の記載

ア 図1Aは次のとおり。













イ 図1Bは次のとおり。



3 引用文献4について

(1)明細書の記載

ア [0007]?[0009]の当審訳は次のとおり。

「発明の概要
[0007]多光子顕微鏡を用いたイメージング、組織(例えば眼組織)のためのシステム、方法、および装置を提供する。一実施形態では、例えば、多光子顕微鏡法は、インタクトな眼における生体組織に使用することができる。画像化は、例えば、invivoまたはexvivoで行うことができる。
[0008]特定の一実装において、例えば、画像化は、多軸画像を検出するために走査することにより行われる。位置合わせ機構は、撮像すべき領域を位置決めするために使用される。位置合わせ機構は、例えば、分光光コヒーレンストモグラフィ又は共焦点反射率イメージング能力を含むことができる。
[0009]イメージングは、以下の画像形成技術の少なくとも2種を含むマルチモードの画像取得を用いてラベルなしに行うことができる2光子励起蛍光/蛍光、蛍光/蛍光寿命、第2高調波、第3高調波発生、コヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)分光法、広帯域またはmultiplexCARS(CARSまたはMCARS)、誘導ラマン散乱(SRS)、誘導放出、非線形吸収、顕微ラマン分光法等が挙げられる。」

イ [0036]?[0037]の当審訳は次のとおり。

「詳細な説明
[0036]システム、方法、及び組織イメージング、インビボ(例えば、インタクトな眼)またはexvivoイメージングの眼組織のような装置が提供される。眼組織の例が詳細に説明されるが、様々な画像モダリティは、眼の外側の組織を撮像するための用途を有する。また、眼の前眼房に小柱網の画像化は、単なる例として論じられている。また、角膜、結膜、シュレム管、コレクタチャネル、強膜、毛様体、虹彩、水晶体、網膜、脈絡膜、視神経、硝子体、眼房水、血管と同様に、これらの構造を取り囲む組織など、眼内の他の組織も、invivoまたはexvivoで画像化することができる。眼の組織の画像化は、診断目的のために、同一の画像形成レーザーの電力は、外科処置のために増加させることもできるし、あるいは、別個のレーザまたは他の手術用具は、レーザ光源に加えて使用され得る外科的手順の間、及び/又は、薬物送達を監視することができる。
[0037]1つの特定の実施形態では、組織画像化、多光子顕微鏡法(MPM)手法を用いて標識することなく生体内で実行することができる。」

ウ [0056]?[0057]第3文の当審訳は次のとおり。

「[0056]光学機器
[0057]異なる多光子顕微鏡法のイメージング・モダリティ(たとえば、TPEFとSHG)は、各モダリティの信号が個々に別個の波長で生じ、同じ光学セットアップを使用して同時に測定することができる。異なるイメージング・モダリティの別個の波長を分離するためにスペクトルフィルタリングを用いることができる。例えば、TPEF及びSHGの両方は、SHGの信号が独立した波長(励起波長のちょうど半分)で発生するため、同じ光学セットアップを用いて同時に測定することができ、スペクトルフィルタリングを使用して自己蛍光から分離することができる。 図3a、3bは、多光子(MP)撮像のためのデスキャン撮像システム30(図3A)及び非デスキャン撮像システム32(図3b)の概略例を示している。図3a,3bに示すそれぞれ30、32の装置は、励起光源34(例えば、レーザ光源など)からなる。いくつかの実施形態では、例えば、励起光源は、フェムト秒パルス赤外レーザ、チタン:サファイアモードロック発振器等(これらに限らない)を含む。一実施形態では、例えば、励起源は100フェムト秒、80MHz、700-1050nmのTi:サファイアレーザを含む。いくつかの実施形態では、フェムト秒レーザ励起光源がフェムト秒ファイバレーザを備えていてもよい。フェムト秒ファイバ・レーザは、例えば、単一モードファイバーサフェトム秒レーザとして、フォトニック結晶ファイバ、ステップインデックスコア、又は勾配屈折率フェムト秒ファイバ・レーザを含むことができる。
[0058]励起光36は、光学系38を介して試料48上に集束される。例えば図3a、3bに示す特定の実施形態では、励起光37は光学系38の2軸のガルバノ走査ミラー40を通過し、走査レンズ42およびシリンドリカルレンズ44によって、顕微鏡対物レンズ46の背面上に結像される。顕微鏡対物レンズ46は対物レンズの開口数に依存して光を焦点体積(例えば、200nm付近に軸方向及び横方向の1.0ミクロン)に集束させる。
[0059]図3a、3bに示されているシステムでは、生成された2光子信号50は、対物レンズ46を介して集光されて第1ダイクロイックミラーDM1(52)、ダイクロイックミラーDM2(54)、およびフィルタ56、58を用いて励起光から分離される。2光子信号は、その後、光電子増倍管(PMT)60、62の前部上に結像される。デスキャン検出システム30(図3A)では、多光子エミッションは、ガルバノミラーステージ40を介してリレーバックされて走査運動を相殺するように、出射された光は検出器60、62に静止している。非デスキャン検出(図3b)では、放射光は走査ミラーを通過する前にダイクロイックミラーを用いて分離され、光路内のミラーやレンズによる反射損失に関係する尊号の損失を大幅に低減する。2光子放出は、本実施の形態では、走査ミラーを介して返送されていないので、走査中、PMT上で放射光が移動する。しかし、PMTは、典型的には、検出領域が大きいため、こうした動きに鈍感である。単一光子共焦点イメージングとは異なり、焦点外の光を画像から除去するピンホールが必要がないので、非デスキャン検出が多光子イメージングには有用である。」

(2)図面の記載事項

ア 図3Aは次のとおり。



イ 図3Bは次のとおり。












(3)看取・認定事項

ア 引用文献4撮像法
上記(1)、(2)の記載事項から、引用文献4には、「レーザー光源34、少なくとも励起光光路に2軸のガルバノ走査ミラー40、走査レンズ42、シリンドリカルレンズ44、少なくとも放射光光路側にダイクロイックミラー52・54を設け、励起光は顕微鏡対物レンズ46の背面上に結像する、眼組織のSHGを含む多光子撮像方法」(以下「引用文献4撮像法」という。)が記載されていると認められる。

イ 引用文献4撮像光学系
上記(1)、(2)の記載事項から、引用文献4には、「レーザー光源34、少なくとも励起光光路に2軸のガルバノ走査ミラー40、走査レンズ42、シリンドリカルレンズ44、少なくとも放射光光路側にダイクロイックミラー52・54を設け、励起光は顕微鏡対物レンズ46の背面上に結像する、眼組織のSHGを含む多光子撮像装置」(以下「引用文献4撮像光学系という。)が記載されていると認められる。

4 引用文献5について

(1)明細書の記載

ア [0007]?[0008]の当審訳は次のとおり。

「[0007]多光子顕微鏡を用いたイメージング、組織(例えば眼組織)のためのシステム、方法、および装置を提供する。一実施形態では、例えば、多光子顕微鏡法は、インタクトな眼における生体組織に使用することができる。画像化は、例えば、invivoまたはexvivoで行うことができる。
[0008]特定の一実装において、例えば、画像化は、多軸画像を検出するために走査することにより行われる。位置合わせ機構は、撮像すべき領域を位置決めするために使用される。位置合わせ機構は、例えば、分光光コヒーレンストモグラフィ又は共焦点反射率イメージング能力を含むことができる。」

イ [0044]?[0045]の当審訳は次のとおり。

「[0044]ここで本発明のいくつかの態様を示す別例CSMヘッド200’の模式図である図3を参照する。CSMヘッド200’、システム10、1010について上述したブリルアン計測構成要素の態様、並びに角膜トポグラフィ測定構成要素および虹彩撮像構成部品を一体化することが有利である。システム10、1010の特徴に関連して、CSMヘッド200’、走査ガルバノミラー205’、ビームエキスパンダ260’、及び、共焦点結像レンズ210’のセットを含むことができる(例えば、Fθレンズ)。光源100、1100からの光は、CSMヘッド200’で受信され、走査ガルバノミラー205’のセットに向けられている。光は、CSMヘッド200’で受信される前に平行にすることができるか、又は代替的に、CSMヘッド200’、走査ガルバノミラー205’のセットに向けられた光をコリメートするための光学部品を含むことができる。走査ガルバノミラー205’のセットは、角膜の目標組織に対する光のX-Y方向の位置決めを制御するように構成されたプロセッサ(単数または複数)5に通信可能に結合される。走査ガルバノミラー205’の群からのコリメートされた光は、ビームエキスパンダ260’に向けられ、これはコリメートされた光を拡大する。拡大された平行光は、ビームエキスパンダ260’から共焦点結像レンズ210’に向けられ、これは光を角膜組織(すなわち、Z次元の距離)内の焦点面に集束させる。図3にさらに示すように、角膜組織によって散乱された光は、共焦点結像レンズ210’によって収集され、CSMヘッド200’の光学要素を通過し、分析のために分析システム300、1300に導かれる。測定された生体力学的性質の情報は、(1つまたは複数の)プロセッサ5によって決定され、生体力学的データ(例えば、粘弾性データ)としてメモリに記憶することができる。
[0045]角膜のトポグラフィに関連するシステムの特徴として、CSMヘッド200’は、複数の立体カメラ255A’?255D’を含み、角膜組織の画像を取り込むように構成されている。図4A?4Cに示すように、ステレオカメラ255A’?255D’が互いに90度の角度で共焦点結像レンズ210’の周囲に配置される。本発明のいくつかの代替態様にしたがって、より多くのまたはより少ない立体カメラ255A’?255D’を使用することができるであることを理解すべきである。立体カメラ255A’?255D’は角膜組織の及び眼1の画像を取得し、虹彩、角膜の前面および角膜の後面のための情報(例えば、高さマップ)を決定するために処理(例えば、プロセッサ(複数可)5を介して2以上の画像の間の視差を分析することによって)することができる。この角膜表面情報はさらに処理されて角膜パキメトリーを決定し、このようにして、眼1の角膜のトポグラフィを決定することができる。測定された角膜トポグラフィは、(1つまたは複数の)プロセッサ5によって決定され、角膜トポグラフィのデータとしてメモリに格納することができる。」

(2)図面の記載

ア 図1は次のとおり。


イ 図3は次のとおり。











第5 対比・判断

1 本願発明1について

(1)対比
本願発明1と引用発明2とを対比すると、次のことがいえる。

ア 構成1aの「眼の角膜の弾性、粘性」は眼疾患の判断指標ともなるパラメータであることが明らかであるから、これらを測定することは構成1Aの「眼疾患の生体力学的診断」に相当するといえる。

イ 構成1bの「レーザ光源から出射される測定光」、「低コヒーレンス光源であるスーパールミネッセントダイオードから出射される測定光」はそれぞれ、構成1Bの「第1のサンプルビーム」、「第2のサンプルビーム」に相当する。
また、構成1bで、両「測定光」が「合波」される「光ファイバの途中の点」より下流側では「光ファイバの一部及び光プローブを光路として共有」されることから、当該「点」の下流側からみて、両「測定光」が当該「点」から発していることと等価であるから、構成1bの両「測定光」が「光ファイバの途中の点で合波することにより、光ファイバの一部及び光プローブを光路として共有」することは、構成1Bの「光学的出発点を共有する」ことに相当するといえる。このことは、本願【0050】において、「SHGサンプルビーム130及びブリルアンサンプルビーム132の両方のための共通の光学的出発点としての役割」を両ビームを合成する「部分ミラー110-1」が担っている旨記載されていることと整合する。

ウ 構成1cの「測定対象領域に光照射用レンズによって測定光を集光すること」は、構成1Cの「生物組織サンプルにおける焦点位置に対して」「前記第1のサンプルビーム及び前記第2のサンプルビームを前記生物組織サンプルに伝搬すること」に相当する。

エ 構成1dの「レーザー光源からの測定光の測定対象物での光散乱によって発生した散乱光」、「ブリルアン散乱の周波数シフト又は線幅を測定」すること、はそれぞれ、構成1Dの「前記第1のサンプルビームによって前記焦点位置から後方散乱された第1の光子を含む第1の信号ビーム」、「ブリルアン散乱検出器を用いて検出」すること、に相当する。

オ 構成1eの「スーパールミネッセントダイオードによる測定光による測定対象物からの散乱光」は、構成1Eの「前記第2のサンプルビームによって前記焦点位置から後方散乱された第2の光子を含む第2の信号ビーム」に相当する。

カ 構成1fの「レーザー光源からの測定光の測定対象物からの散乱光」は構成1cで「測定対象領域に光照射用レンズによって測定光を集光すること」により生じた散乱光であるから、構成1Fの「前記第1の信号ビームが前記焦点位置から」の散乱光に相当する。
また、構成1fの「弾性散乱成分」、「ブリルアン散乱成分」はそれぞれ、構成1Fの「レーリー散乱光子」、「ブリルアン散乱光子」に相当する。

キ 構成1gの「測定対象領域における弾性の情報」は構成1Gの「生物組織サンプルの弾性力学的特性」に相当する。

ク 構成1hの「測定対象領域における粘性・粘弾性の情報」は構成1Hの「生物組織サンプルの粘弾性特性」に相当する。

ケ 構成1iの「光コヒーレンストモグラフィ測定によって弾性散乱係数の横方向・深さ方向の分布を測定」することは、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)が、眼科用のものも含め、弾性散乱の分布情報から組織の層厚、層構造、表面形状等の形態・構造情報を得る測定手法であるとの技術常識に照らし、構成1Iの「生物組織サンプルの形態構造の指標を決定すること」に相当する。

コ 構成1jの「測定対象物の弾性、粘性、粘弾性の分布情報、また、弾性散乱係数の分布情報」の「測定を実施」することは、構成1Jの「前記生物組織サンプルの、前記弾性力学的特性を決定すること、前記粘弾性特性を決定すること、及び前記形態構造の指標を決定すること」に相当する。

サ 一致点
以上のとおりであるから、両発明は次の点で一致するといえる。

「 【請求項1】
1A 眼疾患の生体力学的診断を実行するための方法であって、
1B 光学的出発点を共有する
第1のサンプルビーム及び
第2のサンプルビームを生成することと、
1C’ 生物組織サンプルにおける焦点位置に対して、前記第1のサンプルビーム及び前記第2のサンプルビームを前記生物組織サンプルに伝搬することと、
1D 前記第1のサンプルビームによって前記焦点位置から後方散乱された第1の光子を含む第1の信号ビームを検出することであって、前記第1の信号ビームがブリルアン散乱検出器を用いて検出される、検出することと、
1E’ 前記第2のサンプルビームによって前記焦点位置から後方散乱された第2の光子を含む第2の信号ビームを検出する、検出することと、を含み、
1F’ 前記第1の信号ビームが前記焦点位置からのレイリー散乱光子及びブリルアン散乱光子を含み、
1G 該方法は更に、
前記第1の信号ビームから、前記焦点位置における前記生物組織サンプルの弾性力学的特性を決定することと、
1H 前記第1の信号ビームから、前記焦点位置における前記生物組織サンプルの粘弾性特性を決定することと、
1I 前記第2の信号ビームから、前記焦点位置における前記生物組織サンプルの形態構造の指標を決定することと、を含み、
1J’ 前記生物組織サンプルの、前記弾性力学的特性を決定すること、前記粘弾性特性を決定すること、及び前記形態構造の指標を決定することが実行される、眼疾患の生体力学的診断を実行するための方法。」

シ 相違点
両発明は次の各点で相違する。

(ア)相違点1(構成1C)
本願発明1が「第1のサンプルビーム及び前記第2のサンプルビーム」の「前記生物組織サンプル」への「伝搬」を「共焦点的な方法で」行うのに対し、引用発明2は「光照射用レンズによって測定光を集光」するにとどまり、共焦点的な方法を伴わない点。

(イ)相違点2(構成1B、1E、1F)
本願発明1の「第2の信号ビーム」が「前記第2の信号ビームが前記第2のサンプルビームの波長の半波長における光子を含み」、「第二高調波発生(SHG)検出器を用いて検出される」ものであるのに対し、引用発明2の「スーパールミネッセントダイオードによる照射光による測定対象物からの散乱光」に対しては、「測定対象領域における局所的な弾性散乱係数を測定する光コヒーレンストモグラフィ測定」がなされ、第2高調波に該当する「第2のサンプルビームの波長の半波長における光子を含」むとの特定も伴わず、よってまた、引用発明2の「スーパールミネッセントダイオードによる照射光」が「第2高調波」や「第2のサンプルビームの波長の半波長における光子を」発生させるものであるかも不明である点。

(ウ)相違点3(構成1J)
本願発明1が、「前記弾性力学的特性を決定すること、前記粘弾性特性を決定すること、及び前記形態構造の指標を決定すること」が「同時に実行される」ものであるのに対し、引用発明2の「測定対象物の弾性、粘性、粘弾性の分布情報、また、弾性散乱係数の分布情報」という複数のモダリティについて、その測定が「同時」に行われるかについては不明である点。

(2)相違点2についての判断
事情に鑑み、相違点2から先に検討する。

眼疾患診断に用いうる眼の光学診断方法として、眼に対し励起光を照射し、眼からの散乱光の第2高調波(SHG)を検出する多光子(2光子)撮像法は、上記「引用文献4撮像法」として、引用文献4に記載されている。そして、そのための上記「引用文献4撮像光学系」引用文献4に記載された2光子撮像法のための光学系は、対物光学系以外の部分に、レーザー光を空間走査するガルバノミラー対やレンズ、測定対象からの放射光を検出器へ分離するダイクロイックミラーを含むものである。
一方、引用発明2は、光源から光プローブ(対物光学系)、光プローブから検出器までの導光を合波・分波、往路・復路も含め光ファイバ10を介して行うものである。
また、引用発明2は、ブリルアン散乱の測定と共に、OCTの測定も共通の光ファイバ10及び光プローブ3を介して行うものである。
引用発明2に対し引用文献4撮像法を適用して相違点2の構成とする場合、それを付加的、または置換的(OCTの光学系との置換)何れで行うとしても、構成1Bの「光学的出発点を共有する」との構成を担保するためには、引用発明2の、少なくともブルリアン散乱の測定を行う光路を構成する光ファイバ10の中間部分に、引用文献4撮像光学系における光源光及び測定対象からの放射光を合波する必要がある。しかし、引用文献4撮像法・光学系は光ファイバを用いるものではなく、対物光学系背面への結像も必要とし、さらに、航路途中にダイクロイックミラーや走査レンズ、シリンドリカルレンズ、ガルバノミラーを用いた空間走査光学系を含むものであり、これらをすべて光ファイバを用いた光学系に置き換えることは、当業者にとって周知または自明のこととはいえず、引用文献2?5を参酌してもその容易想到性を導きうる記載は見いだせない。
また、仮に、引用文献4撮像法を光ファイバを用いるものに置き換え可能であるとしても、引用発明2に引用文献4撮像法を適用するにあたり、まず引用文献4撮像法を光ファイバを用いるものに変更した上で引用発明2の光ファイバへの合波を行う二段階の過程を要し、これはいわゆる「容易の容易」の論理立てであって、引用発明2に基づき,2つの段階を経て相違点2に係る本願発明1の構成に至ることは,格別な努力を要するものといえ,当業者にとって容易であったということはできない。

(3)小括
上記(2)のとおりであるから、上記相違点1、3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明2及び引用文献3?5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2?7について
本願発明2?7も、相違点2に係る本願発明1の構成1B、1E、1Fと同一の構成を備えるものであるから、上記1(2)、(3)と同じ理由により、当業者であっても、引用発明2及び引用文献3?5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明8について
本願発明8は、本願発明1に対応する装置の発明であり、相違点2に係る、本願発明1の構成1B、1Eに対応する構成8B、8Eを備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明2及び引用文献3?5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明9?14について
本願発明9?14も、本願発明8の構成8B、8Eと同一の構成を備えるものであるから、上記1(2)、(3)、3と同じ理由により、当業者であっても、引用発明2及び引用文献3?5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?14は、当業者が引用発明2及び引用文献3?5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-08-30 
出願番号 特願2019-104631(P2019-104631)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 ▲高▼見 重雄
樋口 宗彦
発明の名称 眼疾患の生体力学的診断用の光学機器  
代理人 胡田 尚則  
代理人 南山 知広  
代理人 鶴田 準一  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  

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