現在、審決メルマガは配信を一時停止させていただいております。再開まで今暫くお待ち下さい。

  • ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01F
管理番号 1377438
審判番号 不服2021-300  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-08 
確定日 2021-09-14 
事件の表示 特願2019-196179「コイル部品」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 2月18日出願公開、特開2021- 22717、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和1年)10月29日(パリ条約による優先権主張 2019年 6月 25日 (KR)大韓民国)の出願であって、その手続きの経緯は以下のとおりである。

令和 2年 6月26日付け:拒絶理由通知
令和 2年 8月27日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 9月11日付け:拒絶査定
令和 3年 1月 8日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年9月11日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
「本願の請求項1ないし13に係る発明は、以下の引用文献1、2に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項 1ないし13
・引用文献等 1、2

<引用文献等一覧>
1.特開2018-56505号公報
2.特開2013-247214号公報

第3 本願発明
本願の請求項1ないし12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明12」という。)は、令和3年1月8日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される、次のとおりの発明である(なお、下線部は補正箇所を示す。また、原査定における請求項8は削除されており、請求項9ないし13が、請求項8ないし12に繰り上がっている。)。

「 【請求項1】
コイル部が内設された本体と、
前記コイル部と接続された外部電極と、を含み、
前記本体は複数の金属磁性粒子を含み、
前記複数の金属磁性粒子のうち少なくとも一部の粒子の表面には複数の溝が形成され、前記複数の溝を連結する前記金属磁性粒子の表面は球面であり、
前記溝はデンドライト状であり、
前記金属磁性粒子の表面には結晶粒が存在しない、コイル部品。
【請求項2】
前記溝は、前記金属磁性粒子の表面において測定した幅が30nm?1μmである、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記複数の金属磁性粒子はD50が20?40μmである、請求項1または2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記金属磁性粒子は、前記複数の溝が形成された領域を除いて、全体的に球状である、請求項1から3のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記複数の溝のうち少なくとも一部はサイズが互いに異なる、請求項1から4のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記複数の溝のうちサイズが互いに異なるものは相似形である、請求項5に記載のコイル部品。
【請求項7】
前記複数の溝のうち少なくとも一部は形状が互いに異なる、請求項1から5のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記金属磁性粒子の表面には前記金属磁性粒子をなす金属の酸化物が存在しない、請求項1から7のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記金属磁性粒子の表面に形成されたコーティング層をさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項10】
前記金属磁性粒子はFe系合金を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のコイル部品。
【請求項11】
前記Fe系合金はFe含有量が75at%以上である、請求項10に記載のコイル部品。
【請求項12】
前記Fe系合金は、(Fe_((1-a))M^(1)a)_(100-b-c-d-e-f-g)M^(2)_(b)B_(c)P_(d)Cu_(e)M^(3)_(g)の組成式で表され、且つ、M^(1)は、Co及びNiのうち少なくとも一つの元素、M^(2)は、Nb、Mo、Zr、Ta、W、Hf、Ti、V、Cr、及びMnで構成される群より選択された少なくとも一つの元素、M^(3)は、C、Si、Al、Ga、及びGeで構成される群より選択された少なくとも一つの元素であり、a、b、c、d、e、gはそれぞれ、原子%を基準に、0≦a≦0.5、0<b≦3、7≦c≦11、0<d≦2、0.6≦e≦1.5、7≦g≦15である含有量条件を有する、請求項10または11に記載のコイル部品。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。以下同様。)
「【0001】
本発明は、表面実装型のコイル部品に関する。
(中略)
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、コイル部品においては漏れ磁束の発生を防止又は抑制することが求められている。本発明の目的の一つは、漏れ磁束を低減することができる新規なコイル部品を提供することである。本発明のこれ以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。
(中略)
【0010】
本発明の一実施形態に係るコイル部品は、前記絶縁体本体の上面に設けられ、前記絶縁体本体よりも大きな透磁率を有するシールド層と、前記外部電極の下面を覆うように形成され、前記絶縁体本体よりも大きな透磁率を有するめっき層と、をさらに備える。本発明の一実施形態において、前記めっき層は、前記シールド層よりも厚く形成される。
【0011】
当該実施形態によれば、当該コイル導体を貫く磁束は、当該コイル部品の上面側ではシールド層を通るように誘導され、当該コイル部品の実装面側ではめっき層を通るように誘導される。このめっき層は、外部電極の下面(回路基板と対向する面)を覆うように、また、シールド層よりも厚く形成されるので、コイル部品を回路基板に半田付けする際の熱から外部電極を確実に保護できる。このように、上記実施形態によるコイル部品によれば、はんだの熱から外部電極を保護するめっき層を利用して漏れ磁束を低減させることができる。(中略)
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るコイル部品の斜視図であり、図2は、図1に示したコイル部品のI-I線に沿う断面図であり、図3は、図1のコイル部品のコイル導体を模式的に示すための分解斜視図であり、図4は、外部電極の一部を拡大して示す図1のコイル部品の拡大断面図である。
(中略)
【0019】
図示の実施形態におけるコイル部品1は、磁性材料から成る絶縁体本体10と、この絶縁体本体10に埋設された第1のコイル導体31及び第2のコイル導体32と、当該第1のコイル導体31の一端と電気的に接続された外部電極21と、当該第2のコイル導体32の一端と電気的に接続された外部電極22と、絶縁体本体10の上面に設けられたシールド層41と、を備える。絶縁体本体10は、第1の主面10a、第2の主面10b、第1の端面10c、第2の端面10d、第1の側面10e、及び第2の側面10fを有する。絶縁体本体10は、これらの6つの面によってその外面が画定される。第1の主面10aと第2の主面10bとは互いに対向し、第1の端面10cと第2の端面10dとは互いに対向し、第1の側面10eと第2の側面10fとは互いに対向している。図1において第1の主面10aは絶縁体本体10の上側にあるため、本明細書において第1の主面10aを「上面」と呼ぶことがある。同様に、第2の主面10bを「下面」と呼ぶことがある。コイル部品1は、第2の主面10bが回路基板(不図示)と対向するように配置されるので、本明細書において第2の主面10bを「実装面」と呼ぶこともある。また、コイル部品1の上下方向に言及する際には、図1の上下方向を基準とする。
(中略)
【0022】
本発明の一実施形態において、絶縁体本体10には、板状の絶縁基板11が埋め込まれている。第1のコイル導体31は、この絶縁基板11の上面に平面コイルとして設けられる。第2のコイル導体32は、この絶縁基板11の下面に平面コイルとして設けられる。第1のコイル導体31と第2のコイル導体32とは、スルーホール33により電気的に接続される。第1のコイル導体31、第2のコイル導体32、及びスルーホール33の表面は絶縁膜で被覆される。第1のコイル導体31及び第2のコイル導体32は、コイル軸CAの周りに複数回巻回された渦巻状の形状を有している。コイル軸CAは、コイル部品1の上下方向(T方向)に延伸する仮想的な軸線である。一実施形態において、コイル軸CAは、絶縁基板11(又はコイル部品1の下面及び上面)とほぼ直交する方向又は完全に直交する方向に延伸する。
(中略)
【0028】
本発明の一実施形態において、絶縁体本体10は、多数のフィラー粒子を分散させた樹脂から成る。本発明の他の実施形態において、絶縁体本体10は、フィラー粒子を含まない樹脂から成る。本発明の一実施形態において、絶縁体本体10に含まれる樹脂は、絶縁性に優れた熱硬化性の樹脂である。絶縁体本体10は、コイル部品1の厚みよりも外部電極21(又は外部電極22)の厚みだけ薄く形成される。よって、絶縁体本体10は、例えば、0.04mm?0.78mmの厚さを有するように形成される。
(中略)
【0030】
本発明の一実施形態において、絶縁体本体10に用いられるフィラー粒子は、例えば、フェライト材料の粒子、金属磁性粒子、SiO_(2)やAl_(2)O_(3)などの無機材料粒子、又はガラス系粒子である。絶縁体本体10に用いられるフェライト材料の粒子は、例えば、Ni-Znフェライトの粒子又はNi-Zn-Cuフェライトの粒子である。絶縁体本体10に用いられる金属磁性粒子は、酸化されていない金属部分において磁性が発現する材料であり、例えば、酸化されていない金属粒子や合金粒子を含む粒子である。本発明に適用可能な金属磁性粒子には、例えば、Fe、合金系のFe-Si-Cr、Fe-Si-Al、もしくはFe-Ni、非晶質のFe-Si-Cr-B-CもしくはFe-Si-B-Cr、またはこれらの混合材料の粒子が含まれる。これらの粒子から得られる圧粉体も絶縁体本体10用の金属磁性粒子として用いることができる。さらに、これらの粒子または圧粉体の表面に熱処理して酸化膜を形成したものも絶縁体本体10用の金属磁性粒子として利用することができる。絶縁体本体10用の金属磁性粒子は、例えばアトマイズ法で製造される。また、絶縁体本体10用の金属磁性粒子は、アトマイズ法以外の公知の方法を用いて製造すること ができる。また、絶縁体本体10用の金属磁性粒子として市販されている金属磁性粒子を用いることもできる。市販の金属磁性粒子として、例えば、エプソンアトミックス(株)社製PF-20F、日本アトマイズ加工(株)社製SFR-FeSiAlがある。
【0031】
本発明の一実施形態に係るコイル部品1において、シールド層41は、絶縁体本体10よりも大きな透磁率を有する。例えば、シールド層41は、絶縁体本体10に比べて5倍以上、10倍以上、又は50倍以上の透磁率を有する。絶縁体本体10のコア部51を貫いた磁束はシールド層41内を通るように誘導されるので、コイル部品1の上面からの漏れ磁束の発生を防止できる。
(中略)
【0041】
本発明の一実施形態において、外部電極21は、図4に示すように、下地電極21aと、この下地電極21aを覆っている第1のめっき層21bと、この第1のめっき層21bを覆っている第2のめっき層21cと、を有する。同様に、外部電極22は、下地電極22aと、この下地電極22aを覆っている第1のめっき層22bと、この第1のめっき層22bを覆っている第2のめっき層22cと、を有する。下地電極21a及び下地電極22aは、コイル導体31及びコイル導体32とそれぞれ電気的に接続されている。
(中略)
【0043】
第1のめっき層21bは、下地電極21aを保護するために、下地電極21aの表面の全体を覆うように形成される。同様に、第1のめっき層22bは、下地電極22aを保護するために下地電極22aの表面の全体を覆うように形成される。本発明の一実施形態において、第1のめっき層21b及び第2のめっき層22bは、その厚みがシールド層41よりも厚くなるように形成される。、第1のめっき層21b及び第2のめっき層22bの厚みはそれぞれ、例えば1μm?20μmとすることができる。第1のめっき層21b及び第2のめっき層22bの厚みはそれぞれ1μm程度あれば、コイル部品1を回路基板にはんだ付けする際に下地電極21a及び下地電極22aを十分に保護することができる。第1のめっき層21b及び第2のめっき層22bの厚みは、経時変化に対する信頼性を考慮して2μm以上とすることもできる。また、コイル部品1が高温環境で用いられる場合や、コイル部品1に高い耐振動性が要求される場合には、第1のめっき層21b及び第2のめっき層22bの厚みを10μm?20μmとすることができる。
【0044】
第1のめっき層21b及び第2のめっき層22bは、絶縁体本体10よりも大きい透磁率を有するように形成される。本発明の一実施形態において、第1のめっき層21b及び第2のめっき層22bは、ニッケル(Ni)を含むニッケルめっき層である。第1のめっき層21b及び第2のめっき層22bをニッケルめっき層とすることにより、第1のめっき層21b及び第2のめっき層22bの比誘電率は約600となる。
(中略)
【0053】
本発明の一実施形態に係るコイル部品1によれば、コイル導体31及びコイル導体32を貫く磁束は、コイル部品1の上面側ではシールド層41を通るように誘導され、コイル部品1の実装面側では第1のめっき層21b及び第1のめっき層22bを通るように誘導される。第1のめっき層21b及び第1のめっき層22bは、下地電極21a及び下地電極22aの表面全体を覆うように形成され、また、シールド層41よりも厚く形成されるので、コイル部品1を回路基板(不図示)に半田付けする際の熱から下地電極21a及び下地電極22aを確実に保護できる。このように、本発明の一実施形態によるコイル部品1によれば、はんだの熱から下地電極21a及び下地電極22aを保護する第1のめっき層21b及び第1のめっき層22bを利用して漏れ磁束を低減させることができる。このように、コイル部品1の実装面側では、下地電極21a及び下地電極22aのために必要な第1のめっき層21b及び第1のめっき層22bによって漏れ磁束の発生を防止しており、この第1のめっき層21b及び第1のめっき層22b以外にコイル部品1の実装面側に追加的な層を設ける必要がない。よって、当該コイル部品1によれば、追加的な層が設けられる場合よりも低背に構成され得る。また、上述したように、本発明の一実施形態によるコイル部品1は、その幅方向の寸法がその厚さ方向の寸法よりも大きくなるように構成される。この場合、低背のコイル部品1において漏れ磁束の発生を防ぐことができる。」

図1



図2




図4




引用文献1の上記記載から以下のことがいえる。
ア 段落【0001】によれば、引用文献1には、表面実装型のコイル部品が記載されている。

イ 段落【0019】によれば、コイル部品1は、磁性材料から成る絶縁体本体10と、この絶縁体本体10に埋設された第1のコイル導体31及び第2のコイル導体32と、当該第1のコイル導体31の一端と電気的に接続された外部電極21と、当該第2のコイル導体32の一端と電気的に接続された外部電極22と、絶縁体本体10の上面に設けられたシールド層41と、を備える。
また、段落【0031】によれば、シールド層41は、絶縁体本体10よりも大きな透磁率を有する。
よって、引用文献1に記載された表面実装型のコイル部品は、磁性材料から成る絶縁体本体10と、この絶縁体本体10に埋設された第1のコイル導体31及び第2のコイル導体32と、当該第1のコイル導体31の一端と電気的に接続された外部電極21と、当該第2のコイル導体32の一端と電気的に接続された外部電極22と、絶縁体本体10の上面に設けられ、絶縁体本体10よりも大きな透磁率を有するシールド層41と、を備えるコイル部品1を有するといえる。

ウ 段落【0022】によれば、第1のコイル導体31と第2のコイル導体32とは、電気的に接続される。

エ 段落【0028】によれば、絶縁体本体10は、多数のフィラー粒子を分散させた樹脂から成り、段落【0030】によれば、フィラー粒子は、Fe、合金系のFe-Si-Cr、Fe-Si-Al、もしくはFe-Ni、非晶質のFe-Si-Cr-B-CもしくはFe-Si-B-Cr、またはこれらの混合材料の粒子、又は、これらの粒子から得られる圧粉体の表面に熱処理して酸化膜を形成した金属磁性粒子である。

オ 段落【0041】、【0042】、【0043】によれば、外部電極21は、下地電極21aと、この下地電極21aを覆っている第1のめっき層21bとを有し、外部電極22は、下地電極22aと、この下地電極22aを覆っている第1のめっき層22bとを有し、第1のめっき層21b及び第2のめっき層22bは、その厚みがシールド層41よりも厚く、かつ、絶縁体本体10よりも大きい透磁率を有するように形成される。

上記アないしオによれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「磁性材料から成る絶縁体本体10と、この絶縁体本体10に埋設された第1のコイル導体31及び第2のコイル導体32と、当該第1のコイル導体31の一端と電気的に接続された外部電極21と、当該第2のコイル導体32の一端と電気的に接続された外部電極22と、絶縁体本体10の上面に設けられ、絶縁体本体10よりも大きな透磁率を有するシールド層41と、を備えるコイル部品1を有し、
第1のコイル導体31と第2のコイル導体32とは、電気的に接続され、
絶縁体本体10は、多数のフィラー粒子を分散させた樹脂から成り、
フィラー粒子は、Fe、合金系のFe-Si-Cr、Fe-Si-Al、もしくはFe-Ni、非晶質のFe-Si-Cr-B-CもしくはFe-Si-B-Cr、またはこれらの混合材料の粒子、又は、これらの粒子から得られる圧粉体の表面に熱処理して酸化膜を形成した金属磁性粒子であり、
外部電極21は、下地電極21aと、この下地電極21aを覆っている第1のめっき層21bとを有し、外部電極22は、下地電極22aと、この下地電極22aを覆っている第1のめっき層22bとを有し、第1のめっき層21b及び第2のめっき層22bは、その厚みがシールド層41よりも厚く、かつ、絶縁体本体10よりも大きい透磁率を有するように形成される、表面実装型のコイル部品。」

2 引用文献2について
当審の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2013-247214号公報)には、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)

「【0001】
本発明は軟磁性圧粉磁芯に関する。
(中略)
【0003】
軟磁性圧粉磁芯は、軟磁性材料の集合体であり、個々の絶縁コーティングされた微小な鉄粉を圧縮成形によって固定子や回転子などの部品形状に形成することができ、珪素鋼板などの鉄板に比べ、三次元の形状が形成できる点が利点であり、モータの小形化に利用される。
(中略)
【0006】
従来の手法では、軟磁性圧粉磁芯内部の空孔率に対する配慮がなされておらず、軟磁性圧粉磁芯の配合比が樹脂と原料粉末のみで規定されているため、樹脂量および軟磁性粉末量が一定であったとしても成形時の圧力等の違いにより空孔率が変化してしまい、軟磁性圧粉磁芯の磁気特性に影響があり、強度のばらつきや十分な強度が得られない等の問題が生じていた。軟磁性圧粉磁芯の強度が不十分であると、製造工程におけるハンドリングや圧粉磁芯に巻き線をコイルにする際、破損の原因となる。また、軟磁性圧粉磁芯をモータ等の回転機器に使用する際は、軟磁性圧粉磁芯に割れや欠け、軟磁性圧粉磁芯からの粉の脱落が発生する可能性がある。そこで、軟磁性圧粉磁芯は、製造工程でのハンドリング時や、モータとして動作する場合に固定子と回転子間に生じるトルク反力等、外部からの衝撃や振動などの外乱に耐えられる強度が必要とされる。また軟磁性圧粉磁芯は複雑な形状とされるため、形状維持が最も重要な課題となる。このため軟磁性圧粉磁芯の曲げ強度としては、安定して100MPa以上とすることが必要とされる。本発明は、かかる実情に鑑みて為されたものであり、その目的は、高密度の軟磁性圧粉磁芯であっても、軟磁性圧粉磁芯内部に存在する空孔部が大きくなるようにコントロールすることにより、十分に樹脂等を含浸しやすくなる構造体にすることにより、軟磁性圧粉磁芯の強度のバラツキがなく、安定して100MPa以上の強度を保持できる軟磁性圧粉磁芯を提供することである。
(中略)
【0010】
本発明に係る軟磁性圧粉磁芯における樹脂の含有量は、0.07wt%以上0.5wt%以下含まれることにより、軟磁性圧粉磁芯の機械的強度を大きく向上させることができる。軟磁性圧粉磁芯中の樹脂の含有量が、0.07wt%未満の場合、樹脂による軟磁性原料粉末粒子を結着させる効果が低減し、軟磁性圧粉磁芯の強度が100MPaより低くなり、強度ばらつきも生じる。また樹脂の含有量が0.5wt%を超える場合は、圧粉成形体を樹脂含浸した後の熱硬化の工程において、含浸した樹脂が軟磁性圧粉磁芯からしみだし、圧粉成形体の寸法精度が低下してしまう。
(中略)
【0022】
本発明にかかる軟磁性圧粉磁芯は、少なくとも無機酸化物層により絶縁コーティングされた原料粉末を圧縮成形し作製された軟磁性圧粉磁芯であって、該軟磁性圧粉磁芯は、軟磁性粉末粒子が占める粉体部、空孔部及び樹脂部で構成され、該樹脂の含有量が0.07wt%以上0.5wt%以下含有されている。図1は本発明に係る軟磁性圧粉磁芯の一実施形態における断面模式図であり、樹脂含浸後における粉体部1、空孔部2、樹脂部3との関係を示す。
(中略)
【0028】
上記軟磁性原料粉末は、絶縁コーティングされている必要がある。軟磁性原料粉末の表面の一部又は全部に絶縁コーティングをすることにより、軟磁性原料粉末に絶縁性を付与している。絶縁コーティングとしては、軟磁性粉末に絶縁性を付与するものであれば特に限定されず、例えば、リン酸鉄、ほう酸塩、硫酸鉄、硝酸鉄、酢酸鉄、炭酸鉄、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、及び酸化亜鉛からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。耐熱性の観点から、好ましい絶縁コーティングとしては、リン酸鉄、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、アルミナ、酸化クロム、酸化亜鉛等が挙げられ、これらの中でも、リン酸鉄がより好ましい。特に、リン酸鉄を含む絶縁コーティングは、軟磁性原料粉末の表面を、リン酸により処理することによって形成させることができる。
【0029】
リン酸を用いた表面処理では、軟磁性原料粉末に対して、所定量のリン酸を付与する。これにより、軟磁性原料粉末の表面が徐酸化されることにより形成された酸化鉄が溶解あるいは除去されるとともに、絶縁性に優れるリン酸鉄が軟磁性原料粉末の表面に形成される。なお「、リン酸」とは、無機酸であるオルトリン酸(H_(3)PO_(4))を指す。」

引用文献2の上記記載から以下のことがいえる。
ア 段落【0001】によれば、引用文献2には、軟磁性圧粉磁芯が記載されている。

イ 段落【0022】によれば、軟磁性圧粉磁芯は、少なくとも無機酸化物層により絶縁コーティングされた原料粉末を圧縮成形し作製された軟磁性圧粉磁芯であって、該軟磁性圧粉磁芯は、軟磁性粉末粒子が占める粉体部、空孔部及び樹脂部で構成され、該樹脂の含有量が0.07wt%以上0.5wt%以下含有されている。

ウ 【0028】、【0029】によれば、軟磁性原料粉末の表面の一部又は全部に絶縁コーティングをすることにより、軟磁性原料粉末に絶縁性が付与され、リン酸を用いた表面処理では、軟磁性原料粉末に対して、所定量のリン酸が付与され、軟磁性原料粉末の表面が徐酸化されることにより形成された酸化鉄が溶解あるいは除去されるとともに、絶縁性に優れるリン酸鉄が軟磁性原料粉末の表面に形成される。

上記アないしウによれば、引用文献2には、次の技術事項(以下、「引用文献2に記載された技術事項」という。)が記載されている。

「少なくとも無機酸化物層により絶縁コーティングされた原料粉末を圧縮成形し作製された軟磁性圧粉磁芯であって、該軟磁性圧粉磁芯は、軟磁性粉末粒子が占める粉体部、空孔部及び樹脂部で構成され、該樹脂の含有量が0.07wt%以上0.5wt%以下含有されており、軟磁性原料粉末の表面の一部又は全部に絶縁コーティングをすることにより、軟磁性原料粉末に絶縁性が付与され、リン酸を用いた表面処理では、軟磁性原料粉末に対して、所定量のリン酸が付与され、軟磁性原料粉末の表面が徐酸化されることにより形成された酸化鉄が溶解あるいは除去されるとともに、絶縁性に優れるリン酸鉄が軟磁性原料粉末の表面に形成されること。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明において、「電気的に接続される」「第1のコイル導体31」及び「第2のコイル導体32」は、本願発明1の「コイル部」に相当する。
また、引用発明の「多数のフィラー粒子」は、「Fe、合金系のFe-Si-Cr、Fe-Si-Al、もしくはFe-Ni、非晶質のFe-Si-Cr-B-CもしくはFe-Si-B-Cr、またはこれらの混合材料の粒子、又は、これらの粒子から得られる圧粉体の表面に熱処理して酸化膜を形成した金属磁性粒子であ」ることから、本願発明1の「複数の金属磁性粒子」に相当する。
そして、引用発明における「第1のコイル導体31」及び「第2のコイル導体32」が「埋設され」「多数のフィラー粒子を分散させた樹脂から成」る「絶縁体本体10」は、本願発明の「コイル部が内設され」「複数の金属磁性粒子を含」む「本体」に相当する。

イ 引用発明の「外部電極21」は、「第1のコイル導体31の一端と電気的に接続」され、同「外部電極22」は、「第2のコイル導体32の一端と電気的に接続」されるから、本願発明1の「コイル部と接続された外部電極」に相当する。

ウ 本願発明1は「前記複数の金属磁性粒子のうち少なくとも一部の粒子の表面には複数の溝が形成され、前記複数の溝を連結する前記金属磁性粒子の表面は球面であり、前記溝はデンドライト状であり、前記金属磁性粒子の表面には結晶粒が存在しない」のに対し、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。

エ 引用発明の「表面実装型のコイル部品」は、本願発明1の「コイル部品」に相当する。

上記アないしエによれば、本願発明1と引用発明との一致点、相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「 コイル部が内設された本体と、
前記コイル部と接続された外部電極と、を含み、
前記本体は複数の金属磁性粒子を含む、コイル部品。」

(相違点)
本願発明1は、「前記複数の金属磁性粒子のうち少なくとも一部の粒子の表面には複数の溝が形成され、前記複数の溝を連結する前記金属磁性粒子の表面は球面であり、前記溝はデンドライト状であり、前記金属磁性粒子の表面には結晶粒が存在しない」のに対し、引用発明はその旨特定されていない点。

(2)相違点についての判断
ア 引用文献2には、無機酸化物層により絶縁コーティングされた原料粉末を圧縮成形し作製された軟磁性圧粉磁芯において、リン酸を用いた表面処理により、軟磁性原料粉末に対して、所定量のリン酸が付与され、軟磁性原料粉末の表面が徐酸化されることにより形成された酸化鉄が溶解あるいは除去されるとともに、絶縁性に優れるリン酸鉄が軟磁性原料粉末の表面に形成されるという技術事項が記載されているものの(「第4 2」を参照)、リン酸を用いた表面処理が施された軟磁性原料粉末の表面に「複数の溝」が形成されること、「溝」が「デンドライト状」であること、軟磁性原料粉末の表面に「結晶粒が存在しない」ことは記載も示唆もされていない。
仮に、軟磁性原料粉末の表面が徐酸化され、形成された酸化鉄が溶解あるいは除去されることにより「溝」が形成される蓋然性が高いとしても、その「溝」の形状が「デンドライト状」であるとする根拠も見いだせない。

イ そして、引用発明は、漏れ磁束の発生を防止又は抑制するという課題(引用文献1の段落【0008】を参照)を解決するために成されたものであるのに対し、引用文献2に記載された「軟磁性圧粉磁芯」は、従来の手法では、軟磁性圧粉磁芯の磁気特性に影響があり、強度のばらつきや十分な強度が得られない等の問題が生じ、また、曲げ強度としては、安定して100MPa以上とすることが必要とされるという課題(引用文献2の段落【0006】を参照)を解決するために成されたものであるから、引用発明と引用文献2に記載された技術事項とは解決しようとする課題も異なる。
さらに、引用文献1の段落【0011】、及び、【0053】の記載によれば、引用発明は、コイル導体31及びコイル導体32を貫く磁束を、コイル部品1の上面側ではシールド層41を通るように誘導させ、コイル部品1の実装面側では第1のめっき層21b及び第1のめっき層22bを通るように誘導させるものであるのに対し、引用文献2の段落【0010】の記載によれば、「軟磁性圧粉磁芯」は、軟磁性圧粉磁芯における樹脂の含有量は、0.07wt%以上0.5wt%以下含まれることにより、軟磁性圧粉磁芯の機械的強度を大きく向上させるものであるから、引用発明と引用文献2に記載された技術事項とは、作用、機能という観点からも異なる。
してみると、引用発明と引用文献2に記載された技術事項とは、課題、作用・機能が異なり、引用発明に引用文献2に記載された技術事項を適用する動機付けがあるとはいえない。

ウ 仮に、引用発明と引用文献2に記載された技術事項とが、絶縁膜を形成した金属磁性粒子を使用する点で共通するとしても、引用文献1には、「熱処理して酸化膜を形成」することに代えて他の絶縁膜を形成する処理を用いることは記載も示唆もされていない。
また、引用文献1の段落【0030】には、「樹脂」から成る「絶縁体本体10」に分散させる「多数のフィラー粒子」として、「酸化されていない金属粒子」と共に、「粒子または圧粉体の表面に熱処理して酸化膜を形成したもの」を挙げているが、引用発明の金属磁性粒子に熱処理酸化膜よりも絶縁性がより優れた絶縁膜を形成させる理由も見当たらない。
してみると、引用文献2に記載された技術事項に「リン酸を用いた表面処理では、・・・、軟磁性原料粉末の表面が徐酸化されることにより形成された酸化鉄が溶解あるいは除去されるとともに、絶縁性に優れるリン酸鉄が軟磁性原料粉末の表面に形成されること」が記載されているとしても、引用発明の「酸化膜」を形成する処理方法として、「熱処理」に代えて、あえて「除酸化により」「形成された酸化鉄」を「溶解あるいは除去」し、「絶縁性に優れるリン酸鉄」を形成する「リン酸を用いた表面処理」を採用することは、当業者に動機付けられないことである。

エ したがって、上記アないしウにより、相違点に係る構成は、当業者であっても容易になし得たこととはいえない。

(3)まとめ
よって、本願発明1は、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2ないし12について
本願発明2ないし12は、本願発明1に所与の限定を付した発明であるから、本願発明1について上記「1」で述べたのと同じ理由により、当業者であっても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
原査定では、「ここで、引用文献2には、Fe系軟磁性粉末に絶縁性を付与するための絶縁コーティングとして、「リン酸による表面処理」(段落[0028])により、リン酸鉄(「コーティング層」に相当。)を形成することが特に好ましいこと及び「当該リン酸による表面処理により、軟磁性原料粉末の表面が徐酸化されることにより形成された酸化鉄が溶解あるいは除去されるとともに絶縁性に優れるリン酸鉄が表面に形成される」(段落[0029])ことが記載されているから、引用文献1に記載された発明において、絶縁性に優れた絶縁膜を形成するために、「熱処理による酸化膜形成」に代えて、引用文献2に記載の上記「リン酸による表面処理」を行うことは、当業者ならば容易に想到し得るものである。」としている。
しかし、上記「第5(2)ア」で述べたように、引用発明に引用文献2に記載された技術事項を適用する動機付けがあるとはいえない。また、上記「第5(2)イ」で述べたように、引用発明に「リン酸を用いた表面処理」を採用することも、当業者に動機付けられない。
よって、引用文献1に記載された発明において、「熱処理による酸化膜形成」に代えて、引用文献2に記載の上記「リン酸による表面処理」を行うことは、当業者ならば容易に想到し得るものといえない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-08-25 
出願番号 特願2019-196179(P2019-196179)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐久 聖子森岡 俊行小池 秀介  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 須原 宏光
畑中 博幸
発明の名称 コイル部品  
代理人 龍華国際特許業務法人  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ