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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12Q
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12Q
管理番号 1377444
審判番号 不服2019-7074  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-30 
確定日 2021-08-26 
事件の表示 特願2017- 38119「診断および治療におけるR2R1/2」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月 3日出願公開、特開2017-131231〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年2月2日(パリ条約による優先権主張2011年2月3日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする特願2013-552287号の一部を特許法第44条第1項の規定により平成29年3月1日に新たな特許出願として分割したものであって、平成31年1月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、令和1年5月30日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。その後の当審における手続の経緯は以下のとおりである。

令和 2年 6月 2日付け 拒絶理由通知書
令和 2年12月 8日付け 意見書、手続補正書


第2 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は、令和2年12月 8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち本願の請求項1に係る発明は、請求項1に記載される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子と、試験オリゴヌクレオチドとを接触させ、R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子発現の調節を検出するステップを含む、
R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節し、かつ、癌の治療に潜在的に有用なオリゴヌクレオチドを同定または得る方法であって、
前記R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子が配列番号1、2、4、5、7、8、10および11によって示される配列からなる群より選ばれる配列またはそれらに対して少なくとも90%同一の配列によってコードされ、
前記方法が、R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子を含むように調整した細胞ベース系または無細胞系で行われる、前記方法。」(以下、「本願発明」という。)


第3 当審で通知した拒絶の理由
令和 2年 6月 2日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由2、3及び4の概要は、次のとおりのものである。

1 理由2(サポート要件違反)の概要
本願発明のR2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節し、かつ、癌の治療に潜在的に有用なオリゴヌクレオチドを同定または得る方法は、発明の詳細な説明に、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものとは認められないから、本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 理由3(実施可能要件違反)の概要
本願の発明の詳細な説明は、本願発明のR2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節し、かつ、癌の治療に潜在的に有用なオリゴヌクレオチドを同定または得る方法について、当業者が実施できる(使用することができる)程度に明確かつ十分に記載したものとは認められないから、本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

3 理由4(進歩性欠如)の概要
本願発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記4の引用例等に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4 引用例等
1:ファルマシア, 2008年, Vol.44, No.3, pp203-207
2:"RecName:Full=Protein FAM25." [30 Nov. 2010, online] retrived from NCBI Protein[retrived on 19 Jan. 2016.], accession no. Q8CF02
3:"RecName:Full=Protein FAM25." [11 Jan. 2011, online] retrived from NECBI Protein[retrived on 19 Jan. 2016.], accession no. Q5VTM1
4:"RecName:Full=UPF0574 protein C9orf169 homolog." [30 Nov. 2010, online] retrivedfrom NCBI Protein [retrived on 19 Jan. 2016.], accession no. Q9D1E4
5:"SubName:Full=Novel protein" [05 Oct. 2010, online] retrived from UniProtKB/TrEMBL[retrived on 19 Jan. 2016.], accession no. B8A4K4http://www.uniprot.org/uniprot/B8A4K4.txt?version=12


第4 当審の判断
1 理由2(サポート要件違反)及び理由3(実施可能要件違反)についての判断
(1)本願の発明の詳細な説明及び図面の記載事項
本願の発明の詳細な説明及び図面には、本願発明に係るR2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子に関して、または、当該遺伝子の発現を調節し、かつ、癌の治療に潜在的に有用なオリゴヌクレオチドを同定または得る方法に関して、次のとおりの事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。

ア 図面の簡単な説明
(ア)「【図16A】A?C:ヒトR2R^(1)およびR2R^(2)ホモログに対するsiRNAを示す図である。ヒトR2R^(1)ホモログ(単数または複数)は、FAM25A、FAM25B、FAM25C、FAM25D、FAM25E、FAM25GおよびFAM25HPで表される7つのヒトパラログを含むFAM25ファミリーを含む。これらは、2200001I15RikまたはRIKEN cDNA 2200001I15で表されるcDNA配列によってコードされるマウス配列のヒトホモログである。FAM25パラログの類似性は、異なるパラログの特異的RTqPCRを排除する。FAM25パラログはまた、Affymetrix Human Gene発現アレイ、例えばHT HG-U133またはHT HG-U219にも存在しない。我々は、FAM25ファミリーの示差的遺伝子発現の測定のために、RTqPCRプライマー-プローブセットHs04194072_m1(Applied Biosystems社)を選択した。Applied Biosystems社は、このプライマー-プローブセットが、異なるパラログ間で差異を生じないことを述べている。FAM25ファミリーに対して設計された3つのsiRNAを、PBEC(当審注 ヒト初代気管支上皮細胞の略)におけるHs04194072_m1発現をダウンレギュレートするその能力に関して選択した。我々は、これらのsiRNAを、それぞれnr18、20および22と番号を付けた。グラフ(a)は、PBECにおけるそれぞれのsiRNAの投与24時間後のFAM25(Hs04194072_m1)発現(PGK1に対して正規化)のダウンレギュレーションを示す。C9orf169に対して設計されたヒトR2R^(2)ホモログの2つのsiRNA(15および17とナンバリング)(それぞれ5および20nMの濃度で)を、PBECにおけるC9orf169発現をダウンレギュレートするそれらの能力に基づいて選択した。マイクロアレイ解析およびRTqPCRによってC9orf169発現を評価した。C9orf169に対するプローブは、Affymetrix HT HG-U219Human Gene Expression Arrayに存在する。グラフ(b)は、PBECにおける、それぞれのsiRNAの投与24時間後のC9orf169発現のダウンレギュレーション(マイクロアレイ解析によって評価)を示す。FAM25ファミリーまたはVEGFAに指向性を有するsiRNAの投与は、C9orf169発現に効果を示さなかった。R2R^(1)(ヒトFAM25ファミリー)およびR2R^(2)(ヒトC9orf169)に指向性を有するsiRNAはKRT14発現をダウンレギュレートし、これはVEGFAおよびVEGF^(165)に指向性を有するsiRNAの投与後の応答に類似した応答である。FAM25ファミリーおよびC9orf169のsiRNAによるノックダウンは、KRT14遺伝子発現(基底細胞マーカー)のダウンレギュレーションをもたらす。この応答は、C9orf169に指向性を有するsiRNAの投与後に最も顕著である。グラフ(c)は、PBECにおけるそれぞれのsiRNAの投与24時間後のKRT14発現(PGK1に対して正規化)のダウンレギュレーションを示す。比較のために、VEGFAおよびKRT14に指向性を有するsiRNAもまた含める。」
(当審注 【図16B】欄、【図16C】欄における記載は、【図16A】欄の記載と同様であるから摘記を省略する。)
(イ)「【図17】R2Rホモログの効果の概略図である。R2Rホモログの発現は、HIF1Aシグナル伝達(酸素耐性を付与する)(ボックス5)および特異的(PERP)抗アポトーシス経路(ボックス4)の同時調節をもたらす。これによって、無制限の増殖能を付与されることなく、丈夫な上皮細胞(ストレスに対する主要な防御バリアを有する)の(再)生成を可能にする。すなわち、特異的抗アポトーシス経路の調節は、全般的なアポトーシス耐性を’許容’するものではない。全般的なアポトーシス耐性は、細胞の不死化という危険な状況をもたらすであろう。この細胞は癌細胞へと発展する。この経路は、ヒトR2R^(1)ホモログ(FAM25ファミリー)およびヒトR2R^(2)ホモログ(C9orf169)のsiRNAによるノックダウンのマイクロアレイ解析に基づいて構築された。」
(ウ)「【図18A】R2Rホモログは、VEGFA-VEGF^(165)経路における’角化細胞の再生および分化’(ボックス1)ならびに’アポトーシス調節’(ボックス2)に必須である。’角化細胞の再生および分化’(ボックス1)におけるR2Rホモログによる遺伝子発現に対する効果は図18Aおよび18Bにおいて明らかである。’アポトーシス調節’(ボックス2)におけるR2Rホモログによる遺伝子発現に対する効果は図18Cにおいて明らかである。それらは、ボックス3、4および5の最終効果である。」
(当審注 【図18B】欄、【図18C】欄における記載は、【図18A】欄の記載と同様であるから摘記を省略する。)
(エ)「【図19A】A?B:細胞呼吸に対する効果(図17のボックス3参照)が高度に特異的であることを示す図である。R2RホモログのsiRNAによるノックダウンによって酸化的リン酸化はダウンレギュレートされるであろう。R2Rホモログの発現よって酸化的リン酸化はアップレギュレートされるであろう。我々は、ミトコンドリア型ATP5A1-ATPシンターゼ(H+輸送)の発現において、この効果を最も強く観察することができる(図19A)。R2Rホモログに指向性を有するsiRNAは、ATP5A1発現をダウンレギュレートするであろう。図19Bは、酸化的リン酸化経路の遺伝子発現における全体的な変化の中でのATP5A1の発現を示す。」
(当審注 【図19B】欄における記載は、【図19A】欄の記載と同様であるから摘記を省略する。)
(オ)「【図20】P53-P63シグナル伝達(図17のボックス4参照)に対するR2Rホモログの効果を示す図である。PERP(TP53アポトーシスエフェクター)は、ヒトR2RホモログのsiRNAによるノックダウンによってダウンレギュレートされる。PERPは上皮の完全性に本質的なp63-制御遺伝子(p63-Regulated Gene Essential for Epithelial Integrity)である。p63は重層上皮発生の主要な調節因子であり、この多面プログラムに特性を持たせるのに必要かつ十分である。最初にp53腫瘍抑制因子のアポトーシス関連標的として同定された4回膜貫通タンパク質であるPerpは、in vivoでのこの発生プログラムに明確に関与するp63の第1直接標的である。このことはRebecca A.Ihrie et al.in2005(Cell,Vol.120,843-856,March25,2005)(イタリック体は、この論文の抄録における著者を引用する)によって明らかにされた。グラフは、ヒトR2RホモログのsiRNAによるノックダウン後のPERP発現のダウンレギュレーションを明らかにしている。」
(カ)「【図21】FAM25 nr20(ヒトホモログR2R^(1)に指向性を有する)の投与後の、P53経路の遺伝子発現における全体的な変化の中の、PERPの発現の概要を示す図である。」
(キ)「【図22】FAM25 nr18(ヒトホモログR2R^(1)に指向性を有する)の投与後の、P53経路の遺伝子発現における全体的な変化の中の、PERPの発現の概要を示す図である。」
(ク)「【図23】C9orf169 nr15(ヒトホモログR2R^(2)に指向性を有する)の投与後の、P53経路の遺伝子発現における全体的な変化の中の、PERPの発現の概要を示す図である。」
(ケ)「【図24】C9orf169 nr17(ヒトホモログR2R^(2)に指向性を有する)の投与後の、P53経路の遺伝子発現における全体的な変化の中の、PERPの発現の概要を示す図である。」
(コ)「【図25A】A?C:HIF1Aの発現(図17のボックス5参照)が、ヒトR2Rホモログの発現によって厳格に調節される。ヒトR2RホモログのsiRNA媒介ノックダウンによって、HIF1A発現がダウンレギュレートされるであろう(図25A)。細胞呼吸(酸化的リン酸化)に対する下流のHIF1Aの効果は3に記載されている(図17細胞呼吸参照)。R2Rホモログは、‘PERP型p53-p63’およびHIF1A発現を駆動する。このように、HIF1Aで武装した‘丈夫な’上皮細胞は、VEGFA/VEGF^(165)の影響下で無制限の増殖能を獲得する恐れがあった。しかしながら、我々は、同時に、上皮細胞が不死状態に入るのを妨げられることを観察している。R2Rホモログの発現は、細胞を不死化する恐れのある遺伝子の発現のブレーキとして作用するであろう。このことは、抗アポトーシス遺伝子であるBCL2A1(図25B)(発現すると癌細胞における治療に抵抗性を付与する)の場合は大変明らかである。R2RホモログのsiRNAによるノックダウンはBCL2A1発現のアップレギュレーションをもたらす。R2Rホモログは、BCL2A1発現のブレーキとして作用する。R2Rホモログはまた、必要に応じて細胞がアポトーシスに入ることを可能にする遺伝子の発現を促進する。このことは、R2RホモログのsiRNAによるノックダウンによって明らかにされる。このノックダウンによって、肺腺癌における腫瘍抑制因子であるMAP2K4(図25C)のダウンレギュレーションが引き起こされるであろう。」
(当審注 【図25B】欄、【図25C】欄における記載は、【図25A】欄の記載と同様であるから摘記を省略する。)

イ 発明を実施するための形態
(ア)「【0007】
本発明は、2つの遺伝子が組織の発生および癌の生物学に重要な役割を果たしているという発見に基づく。特に、本発明者らは、これら2つの遺伝子が肺細胞において発現され、肺上皮および内皮の後期分枝形態形成に必要であり、肺の微細な三次元構造の発生/維持を持続させることを見出した。これらの遺伝子は、扁平分化プログラムおよび前駆細胞(Krt14を発現する)細胞プールの発生/維持に必須である。さらに、本発明者らは、癌の生物学、特に、不死化および転移表現型(癌の進展および転移を含む)の獲得に関連するプロセスならびに心臓の発生におけるこれらの遺伝子の非常に重要な役割を同定した。
本発明者らは、これらの遺伝子のマウスおよびヒト型配列を突き止めた。それらの協調的発現および呼吸細胞再生遺伝子としての機能を考慮して、本発明者らは、これらの遺伝子をR2R^(1)およびR2R^(2)と命名した。簡単にするために、本明細書の大部分において用語“R2R^(1/2)”を用いるが、これはより長い句“R2R^(1)および/またはR2R^(2)”を表すものとする。
【0008】
従って、R2R^(1/2)というとき、ヒトおよびげっ歯類(マウス、ウサギ、モルモット、ラットなど)型などを含む、これらの遺伝子のすべての哺乳動物型を含むものとして理解されなければならない。さらにまた、これらの名称は、全R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の配列を含むことに加えて、本明細書に記載の遺伝子のいずれかの断片、部分、変異体、誘導体および/またはホモログ/オーソログもまた含むことが理解されなければならない。この点において、用語“R2R^(1)”は、2200001I15RikまたはRIKEN cDNA 2200001I15で示されるcDNA配列によってコードされるマウス配列ならびにFAM25A、FAM25B、FAM25C、FAM25D、FAM25E、FAM25GおよびFAM25HPで示される7つのヒトホモログを含むことが理解されなければならない。」
(イ)「【0021】
……例えば、R2R^(1/2)遺伝子および/またはR2R^(1/2)タンパク質は、例えば肺および/または心臓の疾患および/または状態ばかりでなく、癌、特に肺または心臓系の組織に影響を及ぼす癌の治療に使用することができる。
特定の実施形態において、本発明は、細胞移行事象、例えば、間葉上皮移行(MET)事象および、逆のプロセスである上皮間葉移行(EMT)に関与する事象の調節に使用するためのR2R^(1/2)遺伝子および/またはR2R^(1/2)タンパク質を提供することができる。」
(ウ)「【0025】
……R2R^(1/2)タンパク質および遺伝子は、上皮間葉移行および間葉上皮移行の番人(gatekeeper)として肺および心臓の形態形成事象に重要な役割を果たしている。従って、それらは、癌の生物学および癌治療に応用されることができる。例として、疾患、例えば限局性癌の癌転移へのトランスフォーメーションは、本明細書に記載の化合物を用いて治療することができる。」

ウ 概論
(ア)「【0055】
……基底細胞は、少なくとも近位気道の細胞集団の起源である。基底細胞はまた、ヘミデスモソームおよび局所接着結合を築くことによって強固な細胞間結合を生じさせる。基底細胞は、中間径フィラメントタンパク質KRT14およびKRT5によってそれらの細胞内構造を強化する。これらの2つのタンパク質は(ヘミ)デスモソームへ接着される。」
(イ)「【0057】
ヒトにおいて損傷を受けた肺の再生のためにVEGF^(165)タンパク質を使用することは魅力的ではあるが、VEGFAおよびVEGF^(165)は、この生物体における大変多様なプロセスの重要な調節因子である。故に、VEGFAまたはVEGF^(165)の投与は、副作用が多すぎるであろう。
マウスにおけるVegf^(164)およびヒトにおけるVEGF^(165)によって駆動される遺伝子発現プログラムにおいて、2つの新規遺伝子(R2R^(1)およびR2R^(2))を見出した。これらの新規遺伝子、それらの転写物および翻訳されたタンパク質は、基底および扁平遺伝子発現プログラムの遺伝子およびそれらの下流産物には関連しない。
これらの遺伝子が基底および扁平分化プログラムの重要なモジュレーターであることを明らかにするために実験を試みた。これらの実験の最も重要な発見の1つは、これらの遺伝子が細胞におけるHIF1αおよびPERP発現の重要なモジュレーターであることである。我々の実験において、R2R遺伝子は正の調節因子であり、この機構を妨害することによって、癌治療の治療の可能性が開かれる。」

エ 結果/考察
(ア)「 【0070】
第3に、Affymetrixプローブ 1437019_at (RIKEN cDNA 2200001I15遺伝子)で表される遺伝子およびAffymetrixプローブ 1437145_s_at (RIKEN cDNA 2310002J15遺伝子)で表される遺伝子は、共に、野生型抗サイトケラチン4-5-6-8-10-13-18染色上皮細胞および野生型GS-IB_(4)結合細胞において、E16.5にアップレギュレートされていた。我々は、これら2つの遺伝子が(生物学的注釈を欠くが)、扁平および基底細胞転写プログラムとぴったり同時発現しているのを見出した。それらは、分化した気道細胞の産生および再生に重要な役割を果たしている(図6、図7、表1、表2)。配列決定したクローンから構築された最も長いコンティグから出発して、我々は、RIKEN cDNA 2200001I15遺伝子転写物のヒトホモログ(図8)およびRIKEN cDNA 2310002J15 遺伝子転写物のヒトホモログ(図10)を見出した。さらにまた、タンパク質配列のアラインメントによって、RIKEN cDNA 2200001I15 遺伝子の翻訳タンパク質のヒト相同タンパク質(図9)およびRIKEN cDNA 2310002J15 遺伝子の翻訳タンパク質のヒト相同タンパク質(図11)の存在が確認された。これらの遺伝子およびそれらのタンパク質生成物が呼吸器系における再生機能(regenerative function in the respiratory system)に関与するため、我々は、RIKEN cDNA 2200001I15遺伝子、転写物およびタンパク質の哺乳動物ホモログに対してR2R^(1)という名称を、RIKEN cDNA 2310002J15遺伝子、転写物およびタンパク質の哺乳動物ホモログに対してR2R^(2)という名称を提唱する。」
(イ)「 【0073】
FAM25ファミリーのダウンレギュレーションおよびC9orf169遺伝子発現のダウンレギュレーションによってKRT14の発現が低下することを我々は明らかにした。さらにまた、我々は、FAM25ファミリー(ヒトR2R^(1)ホモログ)およびC9orf169(ヒトR2R^(2)ホモログ)の発現がVEGFA/VEGF^(165)によってアップレギュレートされることを知っている。これらの遺伝子は、VEGFA/VEGF^(165)経路においてどのように作用するのであろうか。この経路におけるR2Rホモログの特異的役割を明らかにするために、R2RホモログのsiRNAによるノックダウンを用いることができる。実際、R2Rホモログの役割は、細胞におけるVEGFA/VEGF^(165)応答を調節することである。VEGFAおよびVEGF^(165)アイソフォームの基礎発現は肺上皮において高い。上皮の機能および構造は、その内皮カウンターパートよりもはるかに複雑である。従って、内皮において’発達させ増殖させる’典型的なVEGFA/VEGF^(165)効果は、内皮においてより精密化される必要がある。このことは、どのようにして実現されるだろうか。R2Rホモログの発現は、HIF1Aシグナル伝達(酸素耐性を付与する)および特異的(PERP)抗アポトーシス経路の同時調節をもたらす。これによって、無制限の増殖能を付与されることなく、丈夫な上皮細胞(ストレスに対する主要な防御バリアを有する)の(再)生成を可能にする。すなわち、特異的抗アポトーシス経路の調節は、全般的なアポトーシス耐性を’許容’するものではない。全般的なアポトーシス耐性は、細胞の不死化という危険な状況をもたらすであろう。この細胞は癌細胞へと発展する。」
(ウ)「【0075】
R2R^(1)およびR2R^(2)の機能的特徴
マウス胚において、中間径フィラメント遺伝子群のVEGF-A(マウスアイソフォームVegf^(164)=アイソフォームVEGF^(165))依存性発現が確認された。これらの中間径フィラメント遺伝子の発現は、肺間葉細胞における肺上皮細胞の分化および基底細胞プログラムの発達をもたらす。
さらにまた、中間径フィラメント遺伝子のVEGF-A(マウスアイソフォームVegf^(164)=アイソフォームVEGF^(165))依存性発現が、成人のヒト初代上皮細胞においても確認された。VEGF-AアイソフォームVEGF^(165)によるこれらの細胞の刺激は、中間径フィラメント遺伝子発現のアップレギュレーションをもたらす。これらの細胞における中間径フィラメント遺伝子発現は、アイソフォームVEGF^(165)特異的siRNAによってダウンレギュレートされる。要約すれば、中間径フィラメント遺伝子の発現は、気道の分化および再生のパラダイムとして役立つ。R2R^(1)およびR2R^(2)は、この発現プログラムにおいて特異的役割を果たす。
【0076】
R2R^(1)
R2R^(1)の発現は、マウスにおいてVEGF-A(マウスアイソフォームVegf^(164)=ヒトアイソフォームVEGF^(165))依存性である。肺の間葉細胞(GS-IB_(4)陽性染色細胞)は、基底上皮細胞遺伝子発現プログラムを獲得する。R2R^(1)の発現は間葉上皮移行(MET)に必須である。
METにおけるR2R^(1)の役割は、今回、肺よりも胚組織において確認された。心臓の心室中隔の完成はMETによって達成される。マウスにおいて、R2R^(1)は発生中の心室中隔において強く発現されており、VEGF-A(マウスアイソフォームVegf^(164)=ヒトアイソフォームVEGF^(165))依存性である。反対に、R2R^(1)発現は発生中の右室流出路においては見られない。この構造の発達はMET非依存性であることが知られている(図12参照)。
R2R^(1)は、間葉上皮移行のための、マウスおよびヒトにおける候補遺伝子である。この遺伝子の発現は、METにVEGF-A(マウスアイソフォームVegf^(164)=ヒトアイソフォームVEGF^(165))効果を生じさせる。METの逆のプロセスはEMT(上皮間葉移行)である。EMTは癌の進展および転移の本質的部分である。従って、R2R^(1)は、癌の生物学および治療において重要な役割を果たすことができる。
【0077】
さらにまた、in silico解析によって、R2R^(1)のタンパク質生成物はリボソームと相互作用するらしいことが明らかになった。科学的衝撃の他にも、R2R^(1)タンパク質構造とリボソームの相互作用は、癌の生物学およびMETの分野における薬物開発のための潜在的重要性を有する。
【0078】
R2R^(2)
R2R^(2)は、成人のヒト初代肺上皮細胞において大変強く発現されていることが見出された。in vitroでは、R2R^(1)の発現は経時的にアップレギュレートされ、VEGF-A(アイソフォームVEGF^(165))依存性であることが見出された。R2R^(2)タンパク質生成物は、成人肺上皮の正常な分化および維持にとって重要である(図13参照)。」

オ 図面
(ア)「

」(図16A)
(イ)「

」(図16B)
(当審注 図面の向きは当審が適宜調整した。以下同様。)
(ウ)「

」(図16C)
(エ)「

」(図17)
(オ)「

」(図18A)
(カ)「

」(図18B)
(キ)「

」(図18C)
(ク)「

」(図19A)
(ケ)「

」(図19B)
(コ)「

」(図20)
(サ)「

」(図21)
(シ)「

」(図22)
(ス)「

」(図23)
(セ)「

」(図24)
(ソ)「

」(図25A)
(タ)「

」(図25B)
(チ)「

」(図25C)
(ツ)「

」(図12)

(2)当審が指摘した具体的理由
ア 本願発明
本願発明は、上記第2のとおり、「R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子と、試験オリゴヌクレオチドとを接触させ、R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子発現の調節を検出するステップを含む、
R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節し、かつ、癌の治療に潜在的に有用なオリゴヌクレオチドを同定または得る方法」と記載されたものである。

イ 本願発明が解決しようとする課題
特許請求の範囲の記載によれば、本願発明が解決しようとする課題は、R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節し、かつ、癌の治療に潜在的に有用なオリゴヌクレオチドを同定または得る方法を提供することであると認められる。

ウ 判断
(ア)発明の詳細な説明について
発明の詳細な説明では、R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現をオリゴヌクレオチドにより調節することが癌の治療に有用であることについて、以下a?fの癌関連遺伝子等が挙げられ、これらのダウンレギュレートやアップレギュレート、相互作用等を介して発癌や癌抑制、癌のアポトーシスを促進または抑制し、そのためにR2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節するオリゴヌクレオチドが癌の治療に潜在的に有用であることを説明しようとしている。

a HIF1A(HIF1α)シグナル伝達(以下、「HIF1A」という。)(上記(1)ア(イ)、(コ)、ウ(イ)、エ(イ))
b 特異的(PERP)抗アポトーシス経路(以下、「PERP」という。)(上記(1)ア(イ)、(オ)、(コ)、ウ(イ)、エ(イ))
c 抗アポトーシス遺伝子であるBCL2A1(以下、「BCL2A1」という。)(上記(1)ア(コ))
d 肺腺癌における腫瘍抑制因子であるMAP2K4(以下、「MAP2K4」という。)(上記(1)ア(コ))
e 間葉上皮移行(MET)、上皮間葉移行(EMT)に関与する事象(以下、「MET、EMT」という。)(上記(1)イ(イ)、(ウ)、エ(ウ))
f リボソーム(上記(1)エ(ウ))

しかし、上記の説明しようとする事項が具体的にどの実験結果から導かれたものなのか明らかでない。さらに、発明の詳細な説明から、当該癌関連遺伝子等との関係で、「R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節」し得るオリゴヌクレオチドが「癌の治療に潜在的に有用」であると当業者が認識できるというためには、(あ)「R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節」することによって、当該癌関連遺伝子等が調節されること、及び、(い)当該癌関連遺伝子等の調節が発癌や癌抑制、癌のアポトーシスに寄与することを示す実験結果が開示されていることが求められる。
そこで、次の(イ)において各図からどのような実験結果が開示されているかを検討し、さらに、次の(ウ)において、(イ)の検討結果を踏まえれば、これら癌関連遺伝子等それぞれについて、上記(あ)及び(い)が開示されているといえるのか否かを検討する。

(イ)各図に示された実験結果の検討
a 図16C
この図には、中間径フィラメントタンパク質KRT14の発現が、R2R^(1)またはR2R^(2)遺伝子をノックダウンさせるためのsiRNAであるFAM25 nr18、同nr20、C9orf169nr15、同nr17によって下方調節されたことが開示されている。しかし、KRT14は、細胞内構造の強化や(ヘミ)デスモソームへの接着に寄与するものであることが明細書段落【0055】に記載(上記(1)ウ(ア))されているだけであるし、明細書の記載や本願出願時の技術常識を踏まえても、これが癌に関連しているということはできないから、この図から、「R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節」し得るオリゴヌクレオチドが「癌の治療に潜在的に有用」であることが具体的な実験結果によって裏付けられている、あるいは技術常識を踏まえれば当業者が裏付けられていると認識できるということはできない。
また、KRT14は、上記のとおり細胞内構造の強化や(ヘミ)デスモソームへの接着に寄与するものであり、肺の微細な三次元構造の発生や維持、ひいては呼吸や生命活動の維持に必要不可欠なものであるといえる。そのため、KRT14の調節をターゲットとした場合には、呼吸や生命活動の維持に有害であるから、癌治療に用いることができるということはできない。

b 図16A
この図は、ヒトR2R^(1)ホモログであるFAM25が、FAM25そのものをノックダウンするsiRNAであるFAM25 nr18、同nr20、同nr22によって下方調節されたということを開示するにすぎない。

c 図16B
図16Bの説明(上記(1)ア(ア))には、当該図は「PBECにおける、それぞれのsiRNAの投与24時間後のC9orf169発現のダウンレギュレーション(マイクロアレイ解析によって評価)を示す。……FAM25ファミリーおよびC9orf169のsiRNAによるノックダウンは、KRT14遺伝子発現(基底細胞マーカー)のダウンレギュレーションをもたらす。この応答は、C9orf169に指向性を有するsiRNAの投与後に最も顕著である。」と記載されている。
まず、上記aにおいて検討したとおり、KRT14は発癌や癌抑制、癌のアポトーシスに寄与するものであるとはいえない。
次に、この図は「C9orf169発現のダウンレギュレーション」がカラム内に記載された各siRNAによってなされたか否かということを説明するものにすぎない。すなわち、図の説明を踏まえると、カラム内の上から7?9番目、22?24番目のC9orf169に対するsiRNA15?17によって、他のsiRNAを用いる場合と比較して有意にC9orf169の発現がダウンレギュレーションされたことを開示するところ、これは、ヒトR2R^(2)ホモログであるC9orf169が、C9orf169そのものをノックダウンするsiRNAによって下方調節されたという開示にすぎない。

d 図17
図17の説明(上記(1)ア(イ))には、「R2Rホモログの効果の概略図である。R2Rホモログの発現は、HIF1Aシグナル伝達(酸素耐性を付与する)(ボックス5)および特異的(PERP)抗アポトーシス経路(ボックス4)の同時調節をもたらす。これによって、無制限の増殖能を付与されることなく、丈夫な上皮細胞(ストレスに対する主要な防御バリアを有する)の(再)生成を可能にする。」と記載されているが、この模式図の作成に用いられた元データがどれなのか把握することができない。さらに、R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子発現の上方または下方調節と、これら図中の各カラム(隣に1?5の数字が付されたカラム)の上方または下方調節とがどのような関係にあるのか明らかでないし、また、上記a?cで検討したように、若しくは、以下e?sで検討するように、この模式図のとおりのメカニズムであることを立証する実験データについて開示があるとはいえない。

e 図18A
図18Aの説明(上記(1)ア(ウ))には、「R2Rホモログは、VEGFA-VEGF^(165)経路における’角化細胞の再生および分化’(ボックス1)ならびに’アポトーシス調節’(ボックス2)に必須である。’角化細胞の再生および分化’(ボックス1)におけるR2Rホモログによる遺伝子発現に対する効果は図18Aおよび18Bにおいて明らかである。」と記載されている。
まず、Y軸の「有意性」は、一般的に「有意性」を示すp値ではないし、これが何を意味するのか定義や説明がないので、この「有意性」やその数字の大小が何を意味するのか明らかでない。
そして、この「有意性」やその数字の大小の意味するところが明らかでないから、図18AのX軸(横軸)に記載されたものとR2Rホモログによる遺伝子発現との関係が明らかでなく、この図の結果から「R2Rホモログは、VEGFA-VEGF165経路における’角化細胞の再生および分化’(ボックス1)ならびに’アポトーシス調節’(ボックス2)に必須である。’角化細胞の再生および分化’(ボックス1)におけるR2Rホモログによる遺伝子発現に対する効果は図18Aおよび18Bにおいて明らかである。」のように「必須である」、「効果は……明らかである」と結論づけることはできない。

f 図18B
図18Bの説明についても、上記の図18Aと同様の説明がなされているが、当該図を参酌しても、図18Aに対して指摘した点と同様の点が明らかでないから、上記eと同様に、当該説明のように結論づけることはできない。

g 図18C
図18Cの説明(上記(1)ア(ウ))には、「R2Rホモログは、VEGFA-VEGF^(165)経路における’角化細胞の再生および分化’(ボックス1)ならびに’アポトーシス調節’(ボックス2)に必須である。’角化細胞の再生および分化’(ボックス1)におけるR2Rホモログによる遺伝子発現に対する効果は図18Aおよび18Bにおいて明らかである。’アポトーシス調節’(ボックス2)におけるR2Rホモログによる遺伝子発現に対する効果は図18Cにおいて明らかである。それらは、ボックス3、4および5の最終効果である。」と記載されている。しかし、当該図を参酌しても、図18A, Bに対して指摘した点と同様の点が明らかでないから、当該記載のように結論づけることはできない。

h 図19A
図19Aの説明(上記(1)ア(エ))には、「A?B:細胞呼吸に対する効果(図17のボックス3参照)が高度に特異的であることを示す図である。R2RホモログのsiRNAによるノックダウンによって酸化的リン酸化はダウンレギュレートされるであろう。R2Rホモログの発現よって酸化的リン酸化はアップレギュレートされるであろう。我々は、ミトコンドリア型ATP5A1-ATPシンターゼ(H+輸送)の発現において、この効果を最も強く観察することができる(図19A)。R2Rホモログに指向性を有するsiRNAは、ATP5A1発現をダウンレギュレートするであろう。」と記載されている。しかし、当該図において、XY平面の各プロットと右カラムに記載されたプロットとの対応関係が明らかでないために、XY平面において、どれが対照実験のプロットでどれが上記のR2Rホモログに指向性を有するsiRNAを用いた実験のプロットなのか明らかでないから、この結果から、上記のR2Rホモログに指向性を有するsiRNAを用いた結果、ATP5A1発現がダウンレギュレートされたということはできない。
また、ミトコンドリア型ATP5A1-ATPシンターゼは細胞呼吸全般ひいては生命活動全般に関与する酵素であると解されるから、このような酵素をコードする遺伝子を癌治療のターゲットとした場合には副作用や有害作用が大きいために癌の治療に(たとえ潜在的であっても)有用であると判断することはできない。

i 図19B
図19Bの説明(上記(1)ア(エ))には、上記した図19Aの説明に加え、「図19Bは、酸化的リン酸化経路の遺伝子発現における全体的な変化の中でのATP5A1の発現を示す。」と記載されている。しかし、この図についても図18A?Cに対して指摘した点と同様の点が明らかでないから、当該記載のように結論づけることはできない。

j 図20
図20の説明(上記(1)ア(オ))には、「P53-P63シグナル伝達(図17のボックス4参照)に対するR2Rホモログの効果を示す図である。PERP(TP53アポトーシスエフェクター)は、ヒトR2RホモログのsiRNAによるノックダウンによってダウンレギュレートされる。……グラフは、ヒトR2RホモログのsiRNAによるノックダウン後のPERP発現のダウンレギュレーションを明らかにしている。」と記載されている。しかし、この図を参照しても、図19Aに対して指摘した点と同様の点が明らかでないから、当該記載のように結論づけることはできない。
さらに、当該図におけるプロットは、Y軸の値(log2強度)10近傍に集中しているところをみると、対照となる実験の結果とR2R^(1)またはR2R^(2)遺伝子に対するsiRNAを用いた実験の結果との間にそれほど差異がないということであるから、当該siRNAによってPERPの発現が制御されたということはできない。

k 図21
図21の説明(上記(1)ア(カ))には、「FAM25 nr20(ヒトホモログR2R^(1)に指向性を有する)の投与後の、P53経路の遺伝子発現における全体的な変化の中の、PERPの発現の概要を示す図である。」と記載されている。しかし、図18A?C、図19Bに対して指摘した点と同様の点が明らかでないから、当該記載のように結論づけることはできない。

l 図22
図22の説明(上記(1)ア(キ))には、「FAM25 nr18(ヒトホモログR2R^(1)に指向性を有する)の投与後の、P53経路の遺伝子発現における全体的な変化の中の、PERPの発現の概要を示す図である。」と記載されている。しかし、図18A?C、図19B、図21に対して指摘した点と同様の点が明らかでないから、当該記載のように結論づけることはできない。

m 図23
図23の説明(上記(1)ア(ク))には、「C9orf169 nr15(ヒトホモログR2R^(2)に指向性を有する)の投与後の、P53経路の遺伝子発現における全体的な変化の中の、PERPの発現の概要を示す図である。」と記載されている。しかし、図18A?C、図19B、図21,22に対して指摘した点と同様の点が明らかでないから、当該記載のように結論づけることはできない。

n 図24
図24の説明(上記(1)ア(ケ))には、「C9orf169 nr17(ヒトホモログR2R^(2)に指向性を有する)の投与後の、P53経路の遺伝子発現における全体的な変化の中の、PERPの発現の概要を示す図である。」と記載されている。しかし、図18A?C、図19B、図21?23に対して指摘した点と同様の点が明らかでないから、当該記載のように結論づけることはできない。

o 図25A
図25Aの説明(上記(1)ア(コ))には、「A?C:HIF1Aの発現(図17のボックス5参照)が、ヒトR2Rホモログの発現によって厳格に調節される。ヒトR2RホモログのsiRNA媒介ノックダウンによって、HIF1A発現がダウンレギュレートされるであろう(図25A)。細胞呼吸(酸化的リン酸化)に対する下流のHIF1Aの効果は3に記載されている(図17細胞呼吸参照)。R2Rホモログは、‘PERP型p53-p63’およびHIF1A発現を駆動する。このように、HIF1Aで武装した‘丈夫な’上皮細胞は、VEGFA/VEGF^(165)の影響下で無制限の増殖能を獲得する恐れがあった。しかしながら、我々は、同時に、上皮細胞が不死状態に入るのを妨げられることを観察している。」と記載されている。しかし、図19Aに対して指摘した点と同様に、当該図において、XY平面の各プロットと右カラムに記載されたプロットとの対応関係が明らかでないために、XY平面において、どれが対照実験のプロットでどれがR2R^(1)またはR2R^(2)遺伝子に対するsiRNAを用いた実験のプロットなのか明らかでないから、この結果から、R2R^(1)またはR2R^(2)遺伝子に対するsiRNAを用いた結果、HIF1A発現がダウンレギュレートされたということはできない。

p 図25B
図25Bの説明(上記1ア(コ))には、「R2Rホモログの発現は、細胞を不死化する恐れのある遺伝子の発現のブレーキとして作用するであろう。このことは、抗アポトーシス遺伝子であるBCL2A1(図25B)(発現すると癌細胞における治療に抵抗性を付与する)の場合は大変明らかである。R2RホモログのsiRNAによるノックダウンはBCL2A1発現のアップレギュレーションをもたらす。R2Rホモログは、BCL2A1発現のブレーキとして作用する。」と記載されている。しかし、図19A、25Aに対して指摘した点と同様に、当該図において、XY平面の各プロットと右カラムに記載されたプロットとの対応関係が明らかでないために、XY平面において、どれが対照実験のプロットでどれがR2R^(1)またはR2R^(2)遺伝子に対するsiRNAを用いた実験のプロットなのか明らかでないから、この結果から、R2R^(1)またはR2R^(2)遺伝子に対するsiRNAを用いた結果、BCL2A1発現がアップレギュレートされたということはできない。

q 図25C
図25Cの説明(上記(1)ア(コ))には、「R2Rホモログはまた、必要に応じて細胞がアポトーシスに入ることを可能にする遺伝子の発現を促進する。このことは、R2RホモログのsiRNAによるノックダウンによって明らかにされる。このノックダウンによって、肺腺癌における腫瘍抑制因子であるMAP2K4(図25C)のダウンレギュレーションが引き起こされるであろう。」と記載されている。しかし、図19A、25A,Bに対して指摘した点と同様に、当該図において、XY平面の各プロットと右カラムに記載されたプロットとの対応関係が明らかでないために、XY平面において、どれが対照実験のプロットでどれがR2R^(1)またはR2R^(2)遺伝子に対するsiRNAを用いた実験のプロットなのか明らかでないから、この結果から、R2R^(1)またはR2R^(2)遺伝子に対するsiRNAを用いた結果、MAP2K2発現がダウンレギュレートされたということはできない。
さらに、当該図におけるプロットは、Y軸の値(log_(2)強度)6近傍に集中しているところをみると、対照実験の結果とR2R^(1)またはR2R^(2)遺伝子に対するsiRNAを用いた実験の結果との間にそれほど差異がないということであるから、当該siRNAによってMAP2K4の発現が制御されたということはできない。

r 図12
明細書段落【0076】(上記(1)エ(ウ))において図12についての言及があるため、一応検討する。当該図を参照しても、「R2R^(1)は、間葉上皮移行のための、マウスおよびヒトにおける候補遺伝子である」(【0076】)ことやMETの逆のプロセスであるEMTにR2R^(1)遺伝子の発現が関与することがこの実験結果に裏付けられているということはできない。
そもそも、「心臓の心室中隔の完成はMETによって達成される。マウスにおいて、R2R^(1)は発生中の心室中隔において強く発現されており、VEGF-A(マウスアイソフォームVegf^(164)=ヒトアイソフォームVEGF^(165))依存性である。反対に、R2R^(1)発現は発生中の右室流出路においては見られない。この構造の発達はMET非依存性であることが知られている」(【0076】)からといって、この結果から、何故METやその逆のプロセスであるEMTとR2R^(1)の発現とが関連していると結論づけられるのかその根拠が明らかでない。

s その他の図
図1はE16.5におけるVegf+/+からの内皮細胞と上皮細胞の比較を示す図であり、図2はE12.5、E14.5およびE16.5において分離された胚の胸郭から切り出された凍結組織切片に免疫組織化学染色を行った図であり、図3は第1主構成要素(x軸上のPC1)および第2主構成要素(y軸上のPC2)を用いるスペクトルマップ分析の図であり、図4はVegf+/+遺伝子型およびVegf120/120遺伝子型からの上皮細胞の比較を示す図であり、図5は胎齢を通じた発現プロフィールがVegf+/+遺伝子型の内皮細胞とVegf120/120遺伝子型の内皮細胞との間で異なるかどうかを試験するための、各遺伝子の有意性をy軸に示すボルカノプロットであり、図6,7はR2R^(1/2)遺伝子が扁平および基底細胞転写プログラムとぴったり同時発現し、分化した気道細胞の産生および再生に重要な役割を果たしていることを説明するものであり、図8?11はヒトR2R^(1/2)遺伝子転写物または翻訳物とマウスR2R^(1/2)遺伝子転写物または翻訳物とのアライメントを示すものであり、図13はヒト成人初代肺上皮細胞における経時的(24?72時間)ヒトR2R^(2)ホモログ発現を示す図であり、図14A?CはVEGFAおよびVEGF^(165)発現のsiRNAによるノックダウンは、KRT14(基底細胞マーカー)発現のノックダウンをもたらすことを示す図であり、図15A?JはPBECにおけるVEGFAのsiRNAによるノックダウンによって、全般的遺伝子発現変化が引き起こされたことを示す図であるから、いずれの図を参照しても、R2R^(1)またはR2R^(2)遺伝子の発現を上方または下方に調節することで癌関連遺伝子等の発現の調節がなされることを裏付ける実験結果が開示されているということはできない。

(ウ)関連遺伝子等についての検討
上記(ア)に記載した癌関連遺伝子等それぞれについて、(あ)「R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節」することによって、当該癌関連遺伝子等が調節されること、及び、(い)当該癌関連遺伝子等の調節が発癌や癌抑制、癌のアポトーシスに寄与することを示す実験結果が開示されているといえるのか否かを検討する。

a HIF1A
上記(イ)oで検討したようにHIF1A発現がR2R^(1)またはR2R^(2)遺伝子に対するsiRNAを用いた結果、ダウンレギュレートまたはアップレギュレートされたということはできないから、HIF1Aについて上記(あ)が開示されているということはできない。加えて、いずれの図からもHIF1Aについて上記(い)が開示されているということはできない。
そうすると、HIF1Aとの関係で、「R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節」し得るオリゴヌクレオチドが「癌の治療に潜在的に有用」であることが具体的な実験結果によって裏付けられている、あるいは技術常識を踏まえれば当業者が裏付けられていると認識できるということはできない。
なお、図17(上記(1)エ(エ))は、ここでいう「機構」を図示したものであると解されるところ、上記(イ)dで検討したように、図17に図示された機構を裏付ける実験データが本件明細書や添付された図に開示されていると判断することはできない。

b PERP
上記(イ)j?nで検討したようにPERP発現がR2R^(1)またはR2R^(2)遺伝子に対するsiRNAを用いた結果、ダウンレギュレートまたはアップレギュレートされたということはできないから、PERPについて上記(あ)が開示されているということはできない。加えて、いずれの図からもPERPについて上記(い)が開示されているということはできない。
そうすると、PERPとの関係で、「R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節」し得るオリゴヌクレオチドが「癌の治療に潜在的に有用」であることが具体的な実験結果によって裏付けられている、あるいは技術常識を踏まえれば当業者が裏付けられていると認識できるということはできない。

c BCL2A1
上記(イ)pで検討したとおり、BCL2A1発現がR2R^(1)またはR2R^(2)遺伝子に対するsiRNAを用いた結果、ダウンレギュレートまたはアップレギュレートされたということはできないことから、BCL2A1について上記(あ)が開示されているということはできない。加えて、いずれの図からもBCL2A1について上記(い)が開示されているということはできない。
そうすると、BCL2A1との関係で、「R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節」し得るオリゴヌクレオチドが「癌の治療に潜在的に有用」であることが具体的な実験結果によって裏付けられている、あるいは技術常識を踏まえれば当業者が裏付けられていると認識できるということはできない。

d MAP2K4
上記(イ)qで検討したとおり、MAP2K4発現がR2R^(1)またはR2R^(2)遺伝子に対するsiRNAを用いた結果、ダウンレギュレートまたはアップレギュレートされたということはできないことから、MAP2K4について上記(あ)が開示されているということはできない。加えて、いずれの図からもMAP2K4について上記(い)が開示されているということはできない。
そうすると、MAP2K4との関係で、「R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節」し得るオリゴヌクレオチドが「癌の治療に潜在的に有用」であることが具体的な実験結果によって裏付けられている、あるいは技術常識を踏まえれば当業者が裏付けられていると認識できるということはできない。

e MET、EMT
上記(イ)rで検討したように、図12やその他の図、それらの説明文において、R2R^(1/2)遺伝子とEMTとの関連について当業者が認識できる程度に開示されていると判断することはできない。さらに、「R2R1は、間葉上皮移行のための、マウスおよびヒトにおける候補遺伝子である」(【0076】、上記(1)エ(ウ))ことやMETの逆のプロセスであるEMTにR2R1遺伝子の発現が関与することが図12の実験結果やその他の図から裏付けられていると判断することはできない。したがって、MET、EMTについて上記(あ)が開示されているということはできない。加えて、いずれの図からもMET、EMTについて上記(い)が開示されているということはできない。
そうすると、MET、EMTとの関係で、「R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節」し得るオリゴヌクレオチドが「癌の治療に潜在的に有用」であることが具体的な実験結果によって裏付けられている、あるいは技術常識を踏まえれば当業者が裏付けられていると認識できるということはできない。

f リボソーム
上記(1)エ(ウ)で摘記したとおり本願明細書には「in silico解析によって、R2R^(1)のタンパク質生成物はリボソームと相互作用するらしいことが明らかになった」と記載されているところ、いずれの図にも、当該「in silico解析」の結果が開示されていると判断することはできないから、R2R^(1)遺伝子のタンパク質生成物とリボソームとが相互作用することや当該相互作用と癌との関連について当業者が認識できるものであると判断することはできない。したがって、リボソームについて上記(あ)が開示されているということはできない。加えて、いずれの図からもリボソームについて上記(い)が開示されているということはできない。
そうすると、リボソームとの関係で、「R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節」し得るオリゴヌクレオチドが「癌の治療に潜在的に有用」であることが具体的な実験結果によって裏付けられている、あるいは技術常識を踏まえれば当業者が裏付けられていると認識できるということはできない。

(エ)小括
以上のとおり、発明の詳細な説明及び図面は、当業者が「R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節」するオリゴヌクレオチドが「癌の治療に潜在的に有用」であることを認識できる程度に記載されたものと認めることはできないから、本件は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(オ)理由3(実施可能要件違反)についての判断
上記(2)(ア)?(エ)のとおり、本願出願日当時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に、本願発明に係る「R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節」するオリゴヌクレオチドが「癌の治療に潜在的に有用」であることを当業者が認識できるように記載されたものとは認められない。
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明に係る「R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節し、かつ、癌の治療に潜在的に有用なオリゴヌクレオチドを同定または得る」ための方法を使用することができる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められないから、本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3)請求人の主張に対して
令和2年12月 8日付け意見書において請求人がする主張及びそれに対する当審の判断は次のとおりである。

ア 請求人の主張
(ア)本件出願では、図面に示されたデータ(以下、「図面データ」ともいう」の全てを、文章として再現し、要約し、かつ説明したもの(以下、「説明文データ」ともいう)として確保した。図面の説明文に含まれる説明文データは、それ自体が真実かつ適切な「データ」であり、本質的に、十分に有効かつ独立したデータポイントである。拒絶理由通知書では、説明文データは無視されるか、又は、図面に対し劣る若しくは二次的なものとして扱われている。また、拒絶理由通知書では、実在の反論データ(説明文データの知見が誤っている、不正確である、又は信頼性に欠くことを示唆するデータ)ではなく、図面が不明確であるという理由に依拠して説明文データが拒絶されている。しかしながら、仮に図面が不明確であっても、このことによって説明文データの有効性を否定することはできない。本件明細書の段落0006の説明文データに記載された知見は、その有効性に疑義を呈する証拠が全く存在しない以上、実在の適切なデータであり、十分に有効なものとして扱われるべきである。以上の理由により、本件明細書の図面の説明欄に記載された事項(説明文データ)は、明瞭な図面による更なる裏付け必要としない真実かつ適切なデータと見做されるべきものである。(サポート要件全体における判断、上記(2)ウ(イ)g?q、(ウ)a?fにおける判断に対して)

(イ)拒絶理由通知書においてKRT14発現と癌との関連の存在が否定されているところ、KRT14の発現が癌に関連すること、KRT14が癌治療における潜在的な治療標的であることは、資料1(Proceedings of the American Association for Cancer Research Annual Meeting 2018; 2018 Apr 14-18; Chicago, IL. Philadelphia (PA): AACR; Cancer Res 2018;78(13 Suppl): Abstract nr 3067.)から把握できる。(上記(2)ウ(イ)aにおける判断に対して)

(ウ)拒絶理由通知書では、有意性の小ささに言及したうえで、「図18Bの実験で調節の対象とした「何らかの遺伝子」の発現と「TP53 腫瘍タンパク質p53」遺伝子の発現との間には偶然による誤差として済まされる程度の関係しかない」との認定がなされている。
しかし、統計学的有意性があるとする知見は、有意性の許容範囲(margin of significance)に関係なく、有意なものである。もし有意であると分類される可能性のある知見が、実際には許容誤差(error margin)の結果である場合、統計学的方法により、当該知見は有意であるとは見出されないはずである。(上記(2)ウ(イ)e?g、k?nにおける判断に対して)

(エ)拒絶理由通知書では、図に関する説明文データに記載された知見が正確ではないことを示唆する反証やデータは全く提示されていない。(上記(2)ウ(イ)h?j、o?qにおける判断に対して)

イ 判断
(ア)上記主張(ア)に対して
本願発明のような、特定の遺伝子の発現を調節することで疾患関連遺伝子等を制御し、疾患の改善・発症抑制に寄与し得るオリゴヌクレオチドを同定または取得する方法が属するバイオサイエンスの技術分野においては、オリゴヌクレオチドや遺伝子、当該遺伝子をコードする核酸の構造から、当該オリゴヌクレオチドを用いた場合の実験結果やその有用性を予測することが困難であるから、通常、実験データに基づいて、上記の実験結果や有用性に関する説明が発明の詳細な説明に開示されている必要がある。そして、実験データをどのように解釈すればよいか、どのように解釈すればどのような結論が導き出せるかについて、特段の説明がなくとも本願出願時における技術常識を参酌すれば当業者が理解できる場合であればともかくとして、そのような理解ができない場合には、実験データの解釈の仕方や当該解釈に基づいて特定の結論が導き出せることについての説明が発明の詳細な説明や意見書においてなされていなければ、特許を受けようとする発明のオリゴヌクレオチドが疾患の改善・発症抑制に寄与し得ると認識することはできないし、特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の記載において担保されているということも、特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の記載の範囲を超えていないということもできない。本願発明の場合、上記(2)ウ(イ)、(ウ)において指摘したように、図面のデータをみても発明の詳細な説明に開示された結論を導き出すことができるとは認められないし、どのような解釈を行うことで図面のデータから当該結論を導き出したのか理解することができないから、本願発明のR2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を調節するオリゴヌクレオチドが癌の治療に潜在的に有用であると認識することは依然としてできないし、特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の記載において担保されているということも、特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の記載の範囲を超えていないということもできない。
さらに、請求人は、「図面の説明文に含まれる説明文データは、それ自体が真実かつ適切な『データ』であり、本質的に、十分に有効かつ独立したデータポイントであ」るなどと主張していることについて検討する。審査官・合議体から、図面のデータをどのように解釈したら発明の詳細な説明に開示された結論が導き出せるのかについて疑義を示されたり、図面が不鮮明で読解ができないとの指摘を受けたりした場合には、出願人・請求人は、図面のデータを解釈する仕方やそれによって特定の結論が導き出せることを意見書で説明したり、カラーや鮮明な図面を特許庁に再度提出したりすることが採り得る対応として考えられる。にもかかわらず、本件請求人は、そのような対応を採らずに上記のような主張をするのみであるから、このような主張を受け入れることは到底できない。

(イ)上記主張(イ)に対して
資料1は、本願出願日である平成24年2月2日よりも6年も後の2018年4月に開催された、最新の知見が発表されることが通例である学会で発表された内容の要旨であり、2018年7月に公表されたものであるから、資料1に開示された、KRT14の発現が癌に関連すること、KRT14が癌治療における潜在的な治療標的であることが、本願出願時の技術常識であるということはできない。

(ウ)上記主張(ウ)に対して
まず、明細書において「有意性」の定義が何らなされていない。次に、有意性は、その値が1未満となるp値で示されることが一般的であるところ、図18B等で用いられている「有意性」は0?4あるいはそれ以上の数値で示されていることから、これが一般的な「有意性」を意味するものでないことは明らかである。そうすると、図18B等に示された「有意性」がどのような定義であり、何を意味しているのか本願出願時の技術常識を参照しても把握することができないのであるから、当該「有意性」の数値が例えば1程度であることが統計学的に有意であることを意味するといった解釈ができる根拠を見いだすことはできない。

(エ)上記主張(エ)に対して
当審は、上記(ア)に記載した理由から、本願に添付された図面のデータをどのように解釈したら発明の詳細な説明に開示された結論が導き出せるかについて疑義を示したのであり、この疑義に対する説明は、サポート要件、実施可能要件を充足するために要求されているのであるから、請求人の責任においてなされるべきことである。

(オ)小括
以上のとおりであるから、請求人の上記主張(ア)?(エ)はいずれも採用することはできない。

2 理由4(進歩性違反)についての判断
(1)本願の発明の詳細な説明および図面の記載事項
本願の発明の詳細な説明及び図面には、上記1(1)に摘記した内容に加えて、本願発明の配列番号1、2、4、5、7、8、10、11について次のとおりの事項が記載されている。

発明を実施するための形態
「【0009】
例示的なマウスR2R^(1)遺伝子転写物の配列を、以下の配列番号1に示す。
配列番号1
acactgacacggaccgaaggagtggaaaaagctttacctgtcactgtctgctgccatacgATGCTGGGAGGCCTGGGGAAGCTGGCGGCCGAGGGCCTGGCCCACCGCACAGAGAAAGCCACTGGGGGAGCAGTTCACGCAGTGGAAGAGGTGGTGAGCGAGGTGGTGGGCCACGCCAAGGAGGTTGGAGAGAAGACCATTAATGACGCCCTAAAGAAAGCCCAAGAATCAGGAGACAGGGTGGTGAAGGAGGTCACTGAGAAGGTCACCCACACCATCACTGATGCTGTTACCCATGCGGCAGAAGGCCTGGGAAGACTGGGACAGtgagcctgcctaccagcatggctggcccttcctgaaggtcaataaagagtgtgaaacgtgaaaaaaaaaaaaaaaataacaaaaaaaaaaaaaaaaaa
【0010】
この配列をコードする部分すなわちこの配列が翻訳される部分は下線部であり、ヌクレオチド約267個を含む。配列番号1のこの特定の部分を、配列番号2で示した。
翻訳されたこのヌクレオチド267個は、アミノ酸89個を含むタンパク質を生じさせ、これは以下の配列(配列番号3で示す)を有することは当業者には明らかであろう。
配列番号3
MLGGLGKLAAEGLAHRTEKATGGAVHAVEEVVSEVVGHAKEVGEKTINDALKKAQESGDRVVKEVTEKVTHTITDAVTHAAEGLGRLGQ
【0011】
さらに、本発明者らは、例示的なヒトR2R^(1)遺伝子転写物の全配列を突き止めた。これを、以下の配列番号4で示す。
配列番号4
actgtctgctgccacacgATGCTGGGAGGCCTGGGGAAGCTGGCTGCCGAAGGCCTGGCCCACCGCACCGAGAAGGCCACCGAGGGAGCCATTCATGCCGTGGAAGAAGTGGTGAAGGAGGTGGTGGGACACGCCAAGGAGACTGGAGAGAAAGCCATTGCTGAAGCCATAAAGAAAGCCCAAGAGTCAGGGGACAAAAAGATGAAGGAAATCACTGAGACAGTGACCAACACAGTCACAAATGCCATCACCCATGCAGCAGAGAGTCTGGACAAACTTGGACAGtgagtgcacctgctaccacggcccttccccagtctcaataaaaagccatgacatgtg
この配列をコードする部分すなわちこの配列が翻訳された部分は下線部であり、ヌクレオチド約267個を含む。配列番号4のこの特定の部分は、配列番号5で示した。
翻訳されたこのヌクレオチド267個は、アミノ酸89個を含むタンパク質を生じさせ、これは以下の配列(配列番号6で示される)を有することは当業者には明らかであろう。
配列番号6
MLGGLGKLAAEGLAHRTEKATEGAIHAVEEVVKEVVGHAKETGEKAIAEAIKKAQESGDKKMKEITETVTNTVTNAITHAAESLDKLGQ
【0012】
例示的なマウスR2R^(2)遺伝子転写物の配列を、以下の配列番号7で示す。
配列番号7
GtgactggctgctgtctctagttgttgaggcctcttgggatctyggcgctmacmccwtgctytagwgactccgatagctcccrmggctccagtgsasmcctcggkcggnggnagggaaaaggcacttgctggtagctctgctcacccgcactgggacctggagctggaggactaagaagacagacggctgctgcttgccacagcctggaccATGGACCCCCATGAGATGGTTGTGAAGAATCCATATGCCCACATCAGCATTCCTCGGGCTCACCTGCGCTCTGACCTGGGGCAGCAGTTAGAGGAGGTTCCTTCTTCATCTTCCTCCTCTGAGACTCAGCCTCTGCCTGCAGGAACATGTATCCCAGAGCCAGTGGGCCTCTTACAAACTACTGAAGCCCCTGGGCCCAAAGGTATCAAGGGCATCAAGGGTACTGCTCCTGAGCACGGCCAGCAGACCTGGCAGTCACCCTGCAATCCCTATAGCAGTGGGCAACGTCCATCGGGACTGACTTATGCTGGCCTGCCACCTGTAGGGCGTGGTGATGACATTGCCCACCACTGCTGCTGCTGCCCTTGCTGCTCCTGCTGCCACTGTCCTCGCTTCTGCCGTTGTCACAGCTGTTGTGTTATCTCCtagctgactattgaacctccagggctgtgcagcccaggttcctgctcaatgccaaagtgttgctggacatcaggagcagccgttgtcatgagcatcagccatttcctgccctgagcaggggagcctgtccaccagcgttcagctgtagccttctggaatagggttccagccactagccatgttggcaacaacagggacacccttcacgtcctgcaagactttggcaataaagcaggatgagcgttgctgnncctgntgaaaanaaamwaaawacwgccgttgtcacarcygttrtgttatctmmkagstgacwattgtaammtycagrgctgtrmagcccrggkksckgctcaatgccaaagtgttgmtgsmcmtcrggrgsrgccaagctttacgcggtacccgggattttttttgtacaaaaaggggccccctattagg
【0013】
この配列をコードする部分すなわちこの配列が翻訳される部分は下線部であり、ヌクレオチド約426個を含む。配列番号7のこの特定の部分は、配列番号8で示した。
翻訳されたこのヌクレオチド426個は、アミノ酸142個を含むタンパク質を生じさせ、これは以下の配列(配列番号9で示される)を有することは当業者には明らかであろう。
配列番号9
MDPHEMVVKNPYAHISIPRAHLRSDLGQQLEEVPSSSSSSETQPLPAGTCIPEPVGLLQTTEAPGPKGIKGIKGTAPEHGQQTWQSPCNPYSSGQRPSGLTYAGLPPVGRGDDIAHHCCCCPCCSCCHCPRFCRCHSCCVIS
【0014】
さらに、本発明者らは、例示的なヒトR2R^(2)遺伝子転写物の全配列を突き止めた。これは、以下の配列番号10に示した。
配列番号10
cttgaacccgggaggcagaggttgcagtgagccgagatcgcgcagctgcactccagcctgggcaacagagcaagactccatctcagaaaagaagcagaaagcctccaagagccaatggctctcaagcatcttggtctctgctaagaagaggctcagaggcttagaagccctgcctcgccggggctttgaggtgtgtgagcaatggctggggactgcaggcccgggaatctgagggcctcaccccacttcctttccagagccgtgacctcaggctcacctcctgccctcctctcaggcaagctgcagatgccctttagggcccaggccatgccccggatgtgaggggctgagtcactggtttggcagtgcccctcagagcccaggcctgggctgccacccacctgaggacgagggctgggccagctgtcgtgctccagttgctggggcctcttgggatcttgggaaccccatctctgagccccgccccATGGCCCCGCCCCTCCCAAGGAGGGAAAAGGCGGCTGCCAGTCGCTCAACTCAGGCACTGGGACCTAGAGCTCAGAAGACCGAGAGGACAGACTGCCGTGTTGCCACCACAGGCTGGACCATGGACCCCCAAGAGATGGTCGTCAAGAACCCATATGCCCACATCAGCATCCCCCGGGCTCACCTGCGGCCTGACCTGGGGCAGCAGTTAGAGGTGGCTTCCACCTGTTCCTCATCCTCGGAGATGCAGCCCCTGCCAGTGGGGCCCTGTGCCCCAGAGCCAACCCACCTCTTGCAGCCGACCGAGGTCCCAGGGCCCAAGGGCGCCAAGGGTAACCAGGGGGCTGCCCCCATCCAGAACCAGCAGGCCTGGCAGCAGCCTGGCAACCCCTACAGCAGCAGTCAGCGCCAGGCCGGACTGACCTACGCTGGCCCTCCGCCCGCGGGGCGCGGGGATGACATCGCCCACCACTGCTGCTGCTGCCCCTGCTGCCACTGCTGCCACTGCCCCCCCTTCTGCCGCTGCCACAGCTGCTGCTGCTGTGTCATCTCCtagcccagcccaccctgccagggccaggacccagacttcagcaaatgtggctcacacagtgccgggacatgccgggacatgcggggtggctgttgtcatgggcgtctgccccttcacaccaggcactggggctcagacccaccaggaaggtggccgttcagcccgagctcctgaaacggaatcccaggtcctggctggagagggacacccctgattaccttaaggcccaggcaataaagcagggtgatcttc
【0015】
この配列をコードする部分すなわちこの配列が翻訳される部分は下線部であり、ヌクレオチド約552個を含む。配列番号10のこの特定の部分は、配列番号11で示した。
翻訳されたこのヌクレオチド552個は、アミノ酸184個を含むタンパク質を生じさせ、これは以下の配列(配列番号12で示される)を有することは当業者には明らかであろう。
配列番号12
MAPPLPRREKAAASRSTQALGPRAQKTERTDCRVATTGWTMDPQEMVVKNPYAHISIPRAHLRPDLGQQLEVASTCSSSSEMQPLPVGPCAPEPTHLLQPTEVPGPKGAKGNQGAAPIQNQQAWQQPGNPYSSSQRQAGLTYAGPPPAGRGDDIAHHCCCCPCCHCCHCPPFCRCHSCCCCVIS
【0016】
このように、本発明は、配列番号1、2、4、5、7、8、10および11で表わされる配列によってコードされる遺伝子ならびにそれらの任意の断片、部分、変異体、バリアント、誘導体および/またはホモログ/オーソログに関する。一般的には、断片、部分、変異体、バリアント、誘導体および/またはホモログ/オーソログは機能しうるかまたは活性である。すなわち、それらは野生型R2R^(1/2)遺伝子の機能を保持する。」

(2)引用例等の記載事項
令和 2年 6月 2日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由4において引用された、本願出願日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例1?5には、それぞれ次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。

ア 引用例1
ゲノムワイドSiRNAを利用したがん標的遺伝子の探索
「これまでの例(当審注 がん標的遺伝子の探索例)は, まず初めにがん化に至るシグナル伝達系を明らかにし, その中から分子機能の理解を元に標的候補分子を絞り, その後に個別にターゲットとしての妥当性を確認する手法である. しかしながら, 一度に扱える標的の数に限りがあるとともに, 機能未知の遺伝子に対してはアプローチ方法がないのが問題点であった. これに対して, 急速なsiRNAテクノロジーの進歩は、標的遺伝子の探索方法にパラダイムシフトをもたらしている. siRNAのノックダウン効果の増強, 細胞への導入効率の向上が進み, 細胞レベルにおいて標的遺伝子の阻害効果をハイスループットに調べることが可能となった. これにより, ヒトのゲノム上に存在する約20,000の遺伝子に対してデザインされたsiRNAアレイを用いたゲノム規模での分子機能の解明が進められている. この手法は抗がん剤開発をはじめとする医薬品開発においても用いられ, 目的とする疾患に対して最適の効果を持つ標的分子をゲノム全般から探すことが可能な新展開を迎えている. 」(205頁右欄6行?206頁左欄4行)

イ 引用例2
「ORIGIN
1 mlgglgklaa eglahrteka tegavhavee vvsevvghak evgekainda lkkaqesgdr
61 vvkevtekvt htitdavtha aeglgrlgq 」

ウ 引用例3
「ORIGIN
1 mlgglgklaa eglahrteka tegaihavee vvkevvghak etgekaiaea ikkaqesgdk
61 kmkeitetvt ntvtnaitha aesldklgq」

エ 引用例4
「ORIGIN
1 mdphemvvkn pyahisipra hlrsdlgqql eevpssssss etqplpagtc ipepvgllqt
61 teapgpkgik gikgtapehg qqtwqspcnp yssgqrpsgl tyaglppvgr gddiahhccc
121 cpccscchcp rfcrchsccv is」

オ 引用例5
「SQ SEQUENCE 184 AA; 19663 MW; 64CD6A9F072A2FCF CRC64;
MAPPLPRREK AAASRSTQAL GPRAQKTERT DCRVATTGWT MDPQEMVVKN PYAHISIPRA
HLRPDLGQQL EVASTCSSSS EMQPLPVGPC APEPTHLLQP TEVPGPKGAK GNQGAAPIQN
QQAWQQPGNP YSSSQRQAGL TYAGPPPAGR GDDIAHHCCC CPCCHCCHCP PFCRCHSCCC
CVIS」

(3)引用発明
引用例1には、上記(2)アのとおり、急速なsiRNAテクノロジーの進歩によって標的遺伝子の探索方法にパラダイムシフトが生じ、siRNAのノックダウン効果の増強、細胞への導入効率の向上が進み、細胞レベルにおいて標的遺伝子の阻害効果をハイスループットに調べることが可能になったことから、従来の手法ではアプローチ方法がなかった機能未知の遺伝子も探索対象として、がんなどの疾患に対して最適な効果を持つ標的分子をゲノム全般から探すことが可能となったこと、この手法を用いて抗がん剤開発が行われていることが記載されているといえる。そうすると、引用例1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「siRNAを、細胞へ導入し、細胞レベルにおいて標的遺伝子の阻害効果を調べ、がんに対して最適の効果を持つ標的分子をゲノム全般から探す、抗がん剤開発をする方法。」(以下、「引用発明1」という。)

(4)対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「siRNA」は本願発明の「試験オリゴヌクレオチド」に相当し、引用発明1の「siRNAを、細胞へ導入し、細胞レベルにおいて標的遺伝子の阻害効果を調べ」は本願発明の「遺伝子と、試験オリゴヌクレオチドとを接触させ、……遺伝子発現の調節を検出するステップ」に相当し、引用発明1の「標的遺伝子の阻害効果を調べ、がんに対して最適の効果を持つ標的分子をゲノム全般から探す、抗がん剤開発をする方法」は本願発明の「遺伝子の発現を調節し、かつ、癌の治療に潜在的に有用なオリゴヌクレオチドを同定または得る方法」に相当し、引用発明1の「siRNAを、細胞へ導入し、細胞レベルにおいて標的遺伝子の阻害効果を調べ……抗がん剤開発をする方法」は本願発明の「方法が、遺伝子を含むように調整した細胞ベース系……で行われる」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明1とは「遺伝子と、試験オリゴヌクレオチドとを接触させ、遺伝子発現の調節を検出するステップを含む、
遺伝子の発現を調節し、かつ、癌の治療に潜在的に有用なオリゴヌクレオチドを同定または得る方法であって、
前記方法が、遺伝子を含むように調整した細胞ベース系で行われる、前記方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)発現が調節される遺伝子が本願発明では「配列番号1、2、4、5、7、8、10および11によって示される配列からなる群より選ばれる配列またはそれらに対して少なくとも90%同一の配列によってコードされ」る「R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子」であるのに対して、引用発明1では単なる「標的遺伝子」である点。

(5)判断
相違点1について検討する。引用発明1は、がんに対して最適の効果を持つ標的分子をゲノム全般から探すことが記載されており、ここでいう「標的分子」とは標的遺伝子をコードする核酸を含む、標的となる生体分子全般を意味するといえる。そして、上記(3)のように、引用発明1の抗がん剤開発をする方法は、機能未知の遺伝子を含むゲノム全般を探索対象とすることが可能である。
引用例2には本件配列番号3のアミノ酸配列と97%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドが記載されていること(上記(2)イ)、引用例3には本件配列番号6のアミノ酸配列と100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドが記載されていること(上記(2)ウ)、引用例4には本件配列番号9のアミノ酸配列と100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドが記載されていること(上記(2)エ)、引用例5には本件配列番号12のアミノ酸配列と100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチドが記載されていること(上記(2)オ)、本願明細書段落【0010】、【0011】、【0013】、【0015】の記載(上記(1))によると、本願配列番号3,6,9,12のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドはそれぞれ本願配列番号2,5,8,11で示されるものであること、ポリペプチドが知られていれば、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも知られているか技術常識に基づき当業者が把握できることから、本願配列番号3,6,9,12の配列と少なくとも90%同一の配列を有するポリペプチドやこれをコードする本願配列番号2,5,8,11の配列と少なくとも90%同一の配列を有するポリヌクレオチド(遺伝子)は当業者に知られていたと認められる。そして、「R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子」という名称は請求人が独自に命名したものであり、当該ポリヌクレオチドを「R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子」と呼ぶか否かによってポリヌクレオチド自体が相違するものとはならないことは明らかである。そうすると、たとえ当該ポリヌクレオチドの機能が未知であったとしても、引用発明1の方法は、機能未知の遺伝子を含むゲノム全般に対してアプローチできる、がんに対して最適の効果を持つ標的分子を探す方法であるから、引用発明1において、引用例2-5に開示された当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(遺伝子)を含め、多くの公知のポリヌクレオチドを標的遺伝子とすることは、当業者が容易に想到することである。
また、上記1(2)において詳述したとおり、本願明細書の開示を参酌しても、R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現の調節を検出することで、癌の治療に潜在的に有用なオリゴヌクレオチドを同定または得ることが可能であると判断できるだけの根拠を見いだすことは依然としてできないことから、これによって格別顕著な効果を奏すると判断することはできない。
したがって、本願発明は、引用発明1及び引用例2-5に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)請求人の主張に対して
令和2年12月 8日付け意見書において請求人がする主張及びそれに対する当審の判断は次のとおりである。

ア 請求人の主張
本願明細書は、R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現の調節を検出することで癌の治療に潜在的に有用なオリゴヌクレオチドを同定できるとの判断を可能にする根拠となる多くの説明文データを記載している。本願発明の要旨は、癌に対する試験薬剤の効果を確立するための一般的方法を提供することではなく、R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子が、癌関連経路に関与しているという知見に基づいている。R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現を促進して治療耐性癌に有効な薬剤の開発促進にとって本件発明のスクリーニング方法が重要である限りにおいて、その効果は格別顕著なものである。

イ 主張に対する判断
上記1(2)に記載したように、本願明細書及び図面に開示された実験結果をみても、R2R^(1)および/またはR2R^(2)遺伝子の発現の調節を検出することで癌の治療に潜在的に有用なオリゴヌクレオチドを同定できると認識することはできないから、請求人の上記主張を採用することはできない。


第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、第29条第2項の規定により特許を受けることができず、また、本願の発明の詳細な説明の記載は、第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲
 
審理終結日 2021-03-30 
結審通知日 2021-04-01 
審決日 2021-04-13 
出願番号 特願2017-38119(P2017-38119)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12Q)
P 1 8・ 536- WZ (C12Q)
P 1 8・ 537- WZ (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 戸来 幸男  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 大久保 智之
長井 啓子
発明の名称 診断および治療におけるR2R1/2  
代理人 服部 博信  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 星野 貴光  
代理人 山崎 一夫  
代理人 星野 貴光  
代理人 服部 博信  
代理人 山崎 一夫  
代理人 須田 洋之  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 須田 洋之  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
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