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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12Q
管理番号 1377445
審判番号 不服2019-8123  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-06-18 
確定日 2021-08-26 
事件の表示 特願2015-507127「核酸サンプル調製」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月24日国際公開、WO2013/158686、平成27年 7月16日国内公表、特表2015-519886〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)4月16日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2012年4月16日 米国)を国際出願日とする特許出願であって、その手続の主な経緯は以下のとおりである。
平成29年 7月31日付け:拒絶理由通知書
平成29年11月 1日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 3月26日付け:拒絶理由通知書(最後)
平成30年 9月26日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 2月18日付け:平成30年9月26日に提出された
手続補正書についての補正の却下の
決定、拒絶査定
令和 1年 6月18日 :審判請求書の提出
令和 1年 7月29日 :審判請求書を対象とする手続補正書
の提出
令和 2年 8月20日付け:拒絶理由通知書
令和 2年11月20日 :手続補正書の提出
令和 2年11月24日 :意見書の提出
ここで、令和2年8月20日付け拒絶理由通知書は、平成31年2月18日付け補正の却下の決定を不適法と判断した上で、平成30年9月26日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?32の記載に基づいて審理を行い、通知されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1?33に係る発明は、令和2年11月20日に提出された手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?33に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
細胞を含む流体からナノ粒子を単離するデバイスであって、該デバイスは、
a.第一AC動電学的電場を確立することができる第一の電極のアレイであって、前記第一AC動電学的電場が、100mS/mより高い伝導度において複数の溶解するための細胞を濃縮することができる第一誘電泳動低電場領域である、第一の電極のアレイ、
b.第二AC動電学的電場を確立することができる第二の電極のアレイであって、前記第二AC動電学的電場がナノ粒子を濃縮し単離することができる誘電泳動高電場領域である、第二の電極のアレイ、
c.第一の電極のアレイから残留物質および溶解された細胞物質を洗い流す流体およびデバイスを含むリザーバー、および
d.熱要素
を含むデバイス。」


第3 当審の拒絶理由通知書の概要
令和2年8月20日付けで当審が通知した拒絶理由は、本願発明が、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特表2011-516867号公報


第4 引用文献の記載事項及び引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は当審による。)。
(1-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル流体中の生物材料を分離するためのサンプル処理装置であって、
前記サンプル流体を供給し、前記サンプル流体を電極アレイに導く少なくとも1つの入口と、
前記電極アレイから前記サンプル流体を受け取る少なくとも1つの出口とを含み、
前記電極アレイは、電極の少なくとも1つの小区画部が、電極の残りの小区画部と異なるように帯電することができることにより、異なるように帯電した前記電極によって、前記電極においての異なるように帯電した誘電泳動(DEP)力領域(force region)を構成し、前記異なるように帯電したDEP力領域によって、前記生物材料の分離を開始できるように形成された複数の電極を含む、サンプル処理装置。
【請求項2】
前記電極アレイは、
前記装置の前記入口と前記出口との間の平面領域に配列される複数の交流(AC)電極と、
前記AC電極に隣接して配列される複数の直流(DC)電極とを含む、請求項1に記載のサンプル処理装置。
…」

(1-2)「【0015】
本明細書はさらに、DEP、電気泳動および流体の力を組み合わせて臨床的に意義がある量の血液、血清、血漿または他のサンプルを比較的高イオン強度/導電率条件下でより直接的に解析できるように一定の規模で区切られた(x-y次元の)強固な電極アレイ、および戦略的に配置された(x-y-z次元の)補助電極構成体の使用を開示する。本明細書は、強固な電極構造体(たとえば白金、パラジウム、金など)を1種または複数種の多孔性材料(天然または合成の多孔性ヒドロゲル、膜、制御されたナノポア材料および薄層誘電体材料)の層で積層することで、電極上または電極近傍で起こる任意の電気化学(電界)反応、加熱および無秩序な流体の移動の作用を抑制しつつも、細胞、細菌、ウイルス、ナノ粒子、DNAおよび他の生体分子の効率的な分離が可能になることを開示する(図3?8)。…」

(1-3)「【0017】
本発明を利用する本開示のシステム、装置、方法および技法は今回、従来のDEPによる分離の大部分が使用していたよりも高導電率(>100mS/m)のイオン強度条件下、低AC(DEP)周波数(<20kHz)および高電界強度(>20電圧 最大振幅(pk-pk))で細胞、ナノ粒子およびバイオマーカー物質の分離を可能にする。さらに具体的に言えば、…DEPの高電場領域でナノスケール(500nm?5nm)の分析物および物質の単離が可能であると同時に、電極間のDEPの低電場領域でより大きな物質(細胞、ミクロン粒子など)を単離することもできる。」

(1-4)「【0036】
本記述は次に、複雑なサンプル調製を行うのに使用できる本発明の新規の装置と共に、特定の分析物の分離および濃縮、さらにその後の分子診断解析および検出に結び付く連続および/またはパルス動電/誘電泳動(DEP)力、連続および/またはパルスDC電気泳動力、装置上(アレイ上)の微小電気泳動サイズ分離、および流体の制御(外部からのポンピングおよび/またはDC/AC動電による)の組み合わせを開示する。これには、…および(4)以下に限定されるものではないが、PCR、RCA、SDAならびに他のジェノタイピング、シーケンシングおよび遺伝子発現技法(どの技法もDEPによる分離が起こる同一チャンバー区画で行うことができる)など細胞、核、DNAおよびRNAのよく知られた分子解析方法の使用を含めることができる。」

(1-5)「【0038】
図27は、血液サンプルを装置に直接導入し、この場合は、非常に低濃度の高分子量(hmw)DNAおよび/またはRNAを、DEPを用いて無希釈の全血サンプルから分離するシームレスなサンプルの応答診断の第1のステップを示す 。…
【0039】
次に図28は、血液細胞(赤および白)を負の(DEP)低電場領域に移動させ、高分子量DNA(RNA)を正の(DEP)高電場領域に濃縮させる適切なAC周波数および電圧でDEP電界を印加するサンプルの応答診断工程の第2のステップを示す(図では、ドーム構造がDEPの高電界強度領域を表す)。
【0040】
図29は、単純な流体の洗浄により血液細胞をDEPアレイ装置から除去し、一方、高分子量DNA(RNA)はDEPの高電場領域に高度に濃縮された状態のままである第3のステップを示す。…」

(1-6)「【0043】
…図33は、装置に濃縮されている特定の分析物の同定に使用することができる分子解析方法を示す。こうした方法として、以下に限定されるものではないが、蛍光染色、蛍光イムノアッセイ、FISHおよびPCR、RCAおよびSDA法が挙げられる。…」

(1-7)「【0047】
…一般に、こうした装置およびシステムは、AC周波数範囲1000Hz?100mHz、1ボルトから2000ボルト最大振幅までの幅があってもよい電圧、DC電圧1ボルト?1000ボルト、流量10マイクロリットル/分から10ミリリットル/分、温度範囲1℃?100℃で作動可能である。図1及び図2にチャンバー装置を示す。…」

(1-8)「【0050】
…強固な電極(たとえば白金、パラジウムおよび金)を適切に組み立てて被覆すれば、分離工程での電気化学反応生成物の悪影響を抑制し、非常に高い電圧を印加できるため、分離時間を大きく改善することが可能である。…」

(1-9)「【0054】
今回の新規の装置は、強固な白金の平面並列電極アレイを使用する。この電極は直径がほぼ約1?1000ミクロン、離隔距離が10?5000ミクロンで、5?100ミクロン厚のヒドロゲル(アガロース、ポリアシルアミド)または多孔性膜層で被覆されている。…新規の装置の電極は、ワイヤーまたはロッドを含め純白金または純金材料で構成される。…」

(1-10)「【0076】
本明細書に記載の装置および技法を用いれば、分離操作により、少なくとも1種の生物材料を電極の小区画部の1つに保持しながら、サンプル流体の残りを装置から洗浄して、試薬をサンプル処理装置に導入し、続いてサンプル処理装置内に保持された生物材料種と導入した試薬を反応させることで「サンプルの応答」の結果を得ることができる。上述のように、試薬は、蛍光色素、抗体、または同種のものを含んでもよい。このサンプルの応答法を用いれば、上記のようにPCR操作および同種のものなど種々の作業を行うことができる。」

(1-11)「【0080】
DEP微小電極アレイ装置 本試験に使用した微小電極アレイ装置は、Nanogen(San Diego、CA、USA、NanoChip(登録商標)100Cartridge)から入手した。アレイの円形微小電極は直径が80μmで、白金製であった。このマイクロアレイは10μm厚の多孔性ポリアクリルアミドヒドロゲル層で被覆されている。マイクロアレイは、アレイ上にガラス窓で覆われた20μLのサンプルチャンバーを形成するマイクロ流体カートリッジに封入される。個々の微小電極の電気的接続部は、カートリッジの底部にピンで留められている(…)。9枚の微小電極の3×3サブセットだけを使用してDEPを行った。チェッカーボードアドレッシングパターン…内の9枚の微小電極
に交流(AC)電界を印加した。このチェッカーボードアドレッシングパターンにおいて、各微小電極は最近接電極と反対のバイアスを持つ。このパターンによる形成される非対称な電界分布に対応するコンピューターモデルは、既に考察されている[27]。このモデルでは、正のDEP電界の最大値(高電場領域)が微小電極(上)に存在し、負のDEP電界の最小値(低電場領域)が電極間の領域に存在することが示される。…」

(1-12)「



(1-13)「



(1-14)「



(1-15)「



2 引用発明
摘記事項(1-1)及び(1-3)からみて、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「サンプル流体中の生物材料を分離するためのサンプル処理装置であって、
前記サンプル流体を供給し、前記サンプル流体を交流(AC)電極アレイに導く少なくとも1つの入口と、
前記AC電極アレイから前記サンプル流体を受け取る少なくとも1つの出口とを含み、
前記AC電極アレイは、電極の少なくとも1つの小区画部が、電極の残りの小区画部と異なるように帯電することができることにより、異なるように帯電した前記AC電極によって、前記AC電極においての異なるように帯電した誘電泳動(DEP)力領域を構成し、前記異なるように帯電したDEP力領域によって、前記生物材料の分離を開始できるように形成された複数の電極を含む、サンプル処理装置であって、
高導電率(>100mS/m)のイオン強度条件下、低AC(DEP)周波数(<20kHz)および高電界強度(>20電圧 最大振幅(pk-pk))において、DEPの高電場領域でナノスケール(500nm?5nm)の分析物および物質の単離が可能であると同時に、電極間のDEPの低電場領域でより大きな物質(細胞、ミクロン粒子など)を単離することができるサンプル処理装置。」


第5 対比、判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「サンプル流体中の生物材料を分離するためのサンプル処理装置」は、摘記事項(1-3)のとおり、ナノスケール(500nm?5nm)の物質と、細胞などのより大きな物質とを分けて単離することができるものであるから、本願発明の「細胞を含む流体からナノ粒子を単離するデバイス」に相当する。
そして、引用発明の「AC電極アレイ」は、引用発明において、「電極の少なくとも1つの小区画部が、電極の残りの小区画部と異なるように帯電することができ」、「異なるように帯電した前記AC電極によって、前記AC電極においての異なるように帯電した誘電泳動(DEP)力領域を構成」するものであり、また、「高導電率(>100mS/m)のイオン強度条件下」において、「DEPの高電場領域でナノスケール(500nm?5nm)」の物質の単離が可能であると同時に、「電極間のDEPの低電場領域」で細胞などのより大きな物質を単離することができるものであるから、引用発明は、本願発明の「第一AC動電学的電場を確立することができる第一の電極のアレイであって、前記第一AC動電学的電場が、100mS/mより高い伝導度において複数の細胞を濃縮することができる第一誘電泳動低電場領域である、第一の電極のアレイ」及び「第二AC動電学的電場を確立することができる第二の電極のアレイであって、前記第二AC動電学的電場がナノ粒子を濃縮し単離することができる誘電泳動高電場領域である、第二の電極のアレイ」を備えているといえる。
以上からみて、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、一応、以下のとおりと認められる。
(一致点)「細胞を含む流体からナノ粒子を単離するデバイスであって、該デバイスは、
a.第一AC動電学的電場を確立することができる第一の電極のアレイであって、前記第一AC動電学的電場が、100mS/mより高い伝導度において複数の細胞を濃縮することができる第一誘電泳動低電場領域である、第一の電極のアレイ、
b.第二AC動電学的電場を確立することができる第二の電極のアレイであって、前記第二AC動電学的電場がナノ粒子を濃縮し単離することができる誘電泳動高電場領域である、第二の電極のアレイ、
を含むデバイス。」
(相違点1)第一誘電泳動低電場領域で濃縮する細胞について、本願発明は「溶解するための細胞」であると特定されているのに対し、引用発明はそのような特定はなされていない点。
(相違点2)本願発明は「第一の電極のアレイから残留物質および溶解された細胞物質を洗い流す流体およびデバイスを含むリザーバー」を含むものであるのに対し、引用発明はそのようなリザーバーを含むことは特定されていない点。
(相違点3)本願発明は「熱要素」を含むものであるのに対し、引用発明はそのような熱要素を含むことは特定されていない点。

2 判断
(1)相違点1について
本願明細書【0119】に「…他の実施形態において、細胞は直流電流を使用せずに溶解される。…当業者に知られている細胞の溶解の任意の方法も適切であり得、該方法は限定されないが化学溶解剤(例えば酸)、酵素的な溶解剤、熱、圧力、せん断力、超音波エネルギー、浸透圧ショック又はその組み合わせの適用を含む。リゾチームは酵素的な溶解剤の例である。」と記載されていることからみて、本願明細書に記載された発明において、細胞の溶解は、化学溶解剤や酵素的な溶解剤などにより行う態様も含まれており、このような態様には、ヒトがこれらの溶解剤を添加することにより行う場合も含まれているといえる。そうすると、本願発明においては、細胞について「溶解するための細胞」と特定されてはいるものの、この特定自体は、必ずしも本願発明のデバイスに、溶解剤を添加するための要素が存在することを規定するものとはならない。したがって、相違点1は、デバイス上の要素について、本願発明と引用発明との間に差異を生じさせるものとはならないから、相違点1は実質的な相違点とはいえない。

(2)相違点2について
摘記事項(1-5)及び(1-12)?(1-14)からみて、引用文献1には、血液サンプル中の血液細胞及び高分子量DNAを、それぞれDEPの低電場領域及び高電場領域に濃縮させた後、単純な流体の洗浄により低電場領域の血液細胞を除去するとともに、高電場領域の高分子量DNAを濃縮された状態のままにすることが記載されている。そうすると、引用発明において、低電場領域に濃縮された細胞などを洗浄、除去するための流体を供給するためのデバイスを含むリザーバーを設けることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ここで、本願発明のリザーバーに含まれる「流体」は「溶解された細胞物質」を洗い流すことがさらに特定されている。しかし、本願明細書【0120】に「いくつかの実施形態において、…核酸の濃縮に続いて、該方法は核酸から随意に残留物質を洗い流す工程を含む。…『残留物質』は…プロセスの任意の工程を通して作製されたもの全てであり、限定されないが細胞溶解物(すなわち残留細胞物質)などを含む」と記載され、本願明細書【0121】に「残留物質は、例えば水、TBEバッファーなどの任意の適切な流体で洗い流される」と記載されていることからみて、本願明細書に記載された発明において、「溶解された細胞物質」を洗い流す「流体」は、水やTBEバッファーなど、細胞やDNAなどを含む系において本願優先日前から当業者が慣用しているものであるといえる。そうすると、本願発明のリザーバーに含まれる「流体」が「溶解された細胞物質」を洗い流すことがさらに特定されていることは、必ずしも本願発明の「流体」として特段のものを用いることを規定するものとはならず、流体としては、細胞やDNAなどを含む系において本願優先日前から当業者が慣用しているものを用いる態様が含まれているといえる。
そして、上で検討したとおり、引用発明において、低電場領域に濃縮された細胞などを洗浄、除去するための流体を供給するためのデバイスを含むリザーバーを設けることは当業者が容易に想到し得たことであるところ、当該「リザーバー」に含まれる「流体」は、細胞やDNAなどを含む系で用いられるのであるから、本願発明の「流体」と相違ないといえる。したがって、当該「リザーバー」についても、本願発明の「リザーバー」と相違ないことになる。
したがって、相違点2は、引用発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
摘記事項(1-4)、(1-6)、(1-10)及び(1-15)からみて、引用文献1には、DEPの高電場領域に濃縮されている高分子量DNAについて、当該濃縮されている場所においてPCRを行うことが記載されているから、引用文献1には、引用発明のサンプル処理装置上でPCRを行うことが示唆されているといえる。ここで、PCRを行うにあたり、温度を上下させることが必要なことは、本願優先日当時、当業者に周知のことであった。そうすると、引用発明に、温度を上下させるための熱要素を付加することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(4)請求人の主張について
ア 令和2年11月24日提出の意見書における請求人の主張について
請求人は、上記意見書において、要するに、本願発明は、本願発明の特定事項a?dで特定される技術的特徴a?dを具備する、細胞を含む流体からナノ粒子を単離するデバイスの発明であり、これらの技術的特徴a?dを具備することで、血液又は環境サンプルのような希釈された及び/又は複雑な流体からDNAを単離するために使用することができ、更に少量の出発原料より、高度に精製された核酸を得られ、多重且つハイスループットな操作に適する効果を奏するものであるところ、引用文献1は、本願発明の技術的特徴a及びcを開示も教示も示唆もしていないから、引用文献1に記載された発明は、上記した本願発明の特有な効果を奏することはできないと主張する。
そこで、上記主張を検討する。まず、前記1で検討したとおり、引用発明は、本願発明が具備する技術的特徴a及びbを有するものであるから、請求人の、引用文献1は本願発明の技術的特徴aを開示も教示も示唆もしていないとの主張は失当である。
次に、前記1で検討したとおり、本願発明が具備する技術的特徴cは、本願発明と引用発明との間の相違点2に相当するものである。そして、前記(2)で検討したとおり、引用発明において、低電場領域に濃縮された細胞などを洗浄、除去するための流体を供給するためのデバイスを含むリザーバーを設けることは当業者が容易に想到し得たことであり、また、当該「リザーバー」は本願発明の「リザーバー」と相違ないというべきものである。
さらに、本願発明の奏する効果について検討する。まず、請求人の主張する「血液又は環境サンプルのような希釈された及び/又は複雑な流体からDNAを単離するために使用することができる」という効果は、前記(2)で検討したとおり、摘記事項(1-5)及び(1-12)?(1-14)からみて、引用文献1には、血液サンプル中の血液細胞及び高分子量DNAを、それぞれDEPの低電場領域及び高電場領域に濃縮させた後、単純な流体の洗浄により低電場領域の血液細胞を除去するとともに、高電場領域の高分子量DNAを濃縮された状態のままにすることが記載されているから、引用発明も奏する効果であるといえる。
次に、請求人の主張する「少量の出発原料より、高度に精製された核酸を得られ、多重且つハイスループットな操作に適する」という効果について検討すると、摘記事項(1-7)に「一般に、こうした装置およびシステムは、…流量10マイクロリットル/分から10ミリリットル/分、…である。」とあり、また、摘記事項(1-9)に「今回の新規の装置は、強固な白金の平面並列電極アレイを使用する。この電極は直径がほぼ約1?1000ミクロン、離隔距離が10?5000ミクロンで、5?100ミクロン厚のヒドロゲル…または多孔性膜層で被覆されている」とあり、さらに、摘記事項(1-11)に「マイクロアレイは、アレイ上にガラス窓で覆われた20μLのサンプルチャンバーを形成するマイクロ流体カートリッジに封入される」とあるように、引用文献1に記載のサンプル処理装置の処理を行う部分の大きさはミクロン単位の大きさであるといえ、用いるサンプル量もμL単位のごく少量であるといえる。したがって、引用発明のサンプル処理装置において要する出発原料はごく少量であるといえ、また、引用発明は、そのようなごく少量の出発原料から核酸を高度に濃縮できるのであるから、請求人の主張する上記効果が格別のものであるとはいえない。
以上からみて、請求人の上記主張を採用することはできない。

イ 令和1年7月29日提出の、審判請求書を対象とする手続補正書における請求人の主張について
請求人は、上記手続補正書において、要するに、本願発明では、熱要素を有していることにより、「約20℃と約120℃の間の温度を達成し維持することができる」から、「血液又は環境サンプルのような希釈された及び/又は複雑な流体からDNAを単離する」ことができるところ、引用文献1には、(i)一定温度(等温条件)を維持する点、(ii)電極上でまたは電極近くで生じ得る電気化学(電気分解)反応、加温および無秩序な流動性の移動の影響の点、及び(iii)加温または熱要素を含む点について、一切記載されておらず教示も示唆もされていないと主張する。
まず、上記(iii)及び(i)の点について検討すると、前記(3)で検討したとおり、引用発明において、熱要素を採用することは当業者が容易に想到し得たことであり、また、当該熱要素を、サンプル流体中の生物材料に適した温度に制御するために用いることは当業者が当然想起できることである。さらにいえば、本願発明において、熱要素を用いて一定温度に保つことが特定されているわけではないから、上記(i)の点については、本願発明全体にわたって当てはまる主張ではなく、失当である。
次に、上記(ii)の点について検討すると、摘記事項(1-2)に「本明細書は、強固な電極構造体(たとえば白金、パラジウム、金など)を1種または複数種の多孔性材料(天然または合成の多孔性ヒドロゲル、膜、制御されたナノポア材料および薄層誘電体材料)の層で積層することで、電極上または電極近傍で起こる任意の電気化学(電界)反応、加熱および無秩序な流体の移動の作用を抑制しつつも、細胞、細菌、ウイルス、ナノ粒子、DNAおよび他の生体分子の効率的な分離が可能になることを開示する(図3?8)。」とあり、摘記事項(1-8)に「強固な電極(たとえば白金、パラジウムおよび金)を適切に組み立てて被覆すれば、分離工程での電気化学反応生成物の悪影響を抑制…することが可能である。」とあることから、引用文献1には、電極上または電極近傍で起こる任意の電気化学(電界)反応、加熱および無秩序な流体の移動の作用を抑制しつつ、DNAなどを効率的に分離できることが記載されているから、上記(ii)の点が引用文献1には記載も示唆もされていないという請求人の主張は失当である。
以上からみて、請求人の上記主張を採用することはできない。

(5)本願発明の効果について
本願明細書の記載を参酌しても、本願発明が、引用文献1の記載からでは予測できない顕著な効果を奏するとは推認できない。

(6)まとめ
以上からみて、本願発明は、引用発明、及び引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-03-30 
結審通知日 2021-03-31 
審決日 2021-04-13 
出願番号 特願2015-507127(P2015-507127)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池上 文緒  
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 大久保 智之
小暮 道明
発明の名称 核酸サンプル調製  
代理人 清原 義博  
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