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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03F
管理番号 1377458
審判番号 不服2020-15147  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-30 
確定日 2021-08-26 
事件の表示 特願2018-553617「感光性エレメント、レジストパターンの形成方法、及び、プリント配線板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月 7日国際公開、WO2018/100730〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2018-553617号(以下「本件出願」という。)は,2016年(平成28年)12月2日を国際出願日とする出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
令和元年10月23日付け:拒絶理由通知書
令和2年 1月20日付け:意見書
令和2年 1月20日付け:手続補正書
令和2年 4月21日付け:拒絶理由通知書
令和2年 6月23日付け:意見書
令和2年 9月 7日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和2年10月30日付け:審判請求書
令和2年10月30日付け:手続補正書
令和3年 4月19日付け:上申書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年10月30日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の(令和2年1月20日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。
「 支持フィルムと,当該支持フィルム上に配置された感光層と,を備える感光性エレメントであって,
前記感光層が,バインダーポリマーと,エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物と,光重合開始剤と,を含有し,
前記支持フィルムの前記感光層側の表面における最大径2μm以上の欠陥の数が2mm^(2)あたり30個以下である,感光性エレメント。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線は補正箇所を示す。
「 支持フィルムと,当該支持フィルム上に配置された感光層と,を備える感光性エレメントであって,
前記感光層が,バインダーポリマーと,エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物と,光重合開始剤と,を含有し,
前記支持フィルムの前記感光層側の表面における最大径2μm以上の欠陥の数が2mm^(2)あたり30個以下である,感光性エレメント(支持フィルムと,該支持フィルム上に形成された感光性樹脂組成物からなる感光層と,を備える感光性エレメントであって,前記支持フィルムのヘーズが0.01?1.5%であり,前記感光層が,(A)カルボキシル基含有バインダーポリマーと,(B)分子内に重合可能なエチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物と,(C)光重合開始剤と,(D)密着性付与剤と,を含有し,且つ,前記(C)光重合開始剤として2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体を含有し,前記(D)密着性付与剤として(a)脂肪族カルボン酸化合物,及び/又は,分子内にカルボキシル基を2つ以上有するカルボン酸化合物を含有する,感光性エレメントを除く)。」

(3) 本件補正の内容
本件補正は,本件補正前の請求項1に係る発明の範囲から,前記下線を付した態様のものを除く補正である。また,本件補正前の請求項1に係る発明と本件補正後の請求項1に係る発明は,産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である(本件出願の明細書の【0001】及び【0008】)。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第3項の規定に適合するとともに,同条5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が,同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

2 独立特許要件についての判断
(1) 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2(特開2009-186780号公報)は,本件出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ,そこには,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持フィルムと,該支持フィルム上に形成された感光性樹脂組成物からなる感光層と,を備える感光性エレメントであって,
前記支持フィルムのヘーズが0.01?1.5%であり,
前記感光層が,(A)カルボキシル基含有バインダーポリマーと,(B)分子内に重合可能なエチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物と,(C)光重合開始剤と,(D)密着性付与剤と,を含有し,且つ,前記(C)光重合開始剤として2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体を含有し,前記(D)密着性付与剤として(a)脂肪族カルボン酸化合物,及び/又は,分子内にカルボキシル基を2つ以上有するカルボン酸化合物を含有する,感光性エレメント。
…省略…
【請求項3】
前記感光層の膜厚が3?30μmである,請求項1又は2に記載の感光性エレメント。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は,感光性エレメント,これを用いたレジストパターンの形成方法及びプリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,プリント配線板の製造分野及び金属の精密加工分野において,エッチング,めっき等に用いられるレジスト材料としては,感光性樹脂組成物からなる層(以下,「感光層」という),支持フィルム及び保護フィルムで構成される感光性エレメントが広く用いられている。
…省略…
【0006】
通常,感光性エレメントを用いてレジストを形成する際には,感光層を基板上にラミネートした後,支持フィルムを剥離することなく露光を行う。…省略…支持フィルム上に感光性樹脂組成物を均一な厚さで歩留り良く塗布するためには,支持フィルムにある程度の厚さ(一般に10μm?30μm)が要求される。また,支持フィルムの生産性を向上させるために,すなわち支持フィルムの巻き取り性等を向上させる目的で,一般的に支持フィルムには,無機又は有機微粒子を含有させている。そのため,従来の支持フィルムは,ヘーズ値が増大し,支持フィルムが含有する微粒子により,露光時に光散乱が起こり,感光性フィルムの高解像度化の要求に応えられない傾向にある。
…省略…
【0009】
一方,近年の高密度化するプリント配線板の製造方法における有用な工法としては,セミアディティブ工法がある。本工法でレジストに要求される特性としては,密着性,解像度,現像後のレジスト形状,柔軟性及びめっき後のはく離性が挙げられる。このセミアディティブ工法は高濃度の薬品溶液中で長時間電流を流す工程を有するため,細線部におけるレジストの密着性が低下し,めっきもぐりが発生するという問題があった。
【0010】
そこで,密着性を向上させる手段として,感光層に密着性付与剤を添加する方法が提案されている。
…省略…
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
…省略…
【0013】
さらに,本発明者らが検討した結果,特許文献9又は10に記載の手段においては,解像度や側面ギザ等のレジスト形状は改善されるものの,感光層の膜厚を薄膜化するに従い,また感光性樹脂組成物の解像度等の特性が向上するに従い,現像後のレジストの側面に1μm程度の穴(以下,「サイドウォールピット」という)が生じることが判明した。特にセミアディティブ工法の場合,現像後のレジスト形状がそのままめっきライン形状に転写されるため,サイドウォールピットはめっきラインの側面に突起物を発生させる原因となり,プリント配線板の製造歩留りを低下させる問題がある。
…省略…
【0018】
本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであり,優れた密着性及び解像度を有し,且つ,サイドウォールピットの発生を最小限に抑え,側面ギザのないレジストパターンが形成可能な感光性エレメント,これを用いたレジストパターンの形成方法及びプリント配線板の製造方法を提供することを目的とする。」

ウ 「【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために,本発明は,支持フィルムと,該支持フィルム上に形成された感光性樹脂組成物からなる感光層と,を備える感光性エレメントであって,上記支持フィルムのヘーズが0.01?1.5%であり,上記感光層が,(A)カルボキシル基含有バインダーポリマーと,(B)分子内に重合可能なエチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物と,(C)光重合開始剤と,(D)密着性付与剤と,を含有し,且つ,上記(C)光重合開始剤として2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体を含有し,上記(D)密着性付与剤として(a)脂肪族カルボン酸化合物,及び/又は,分子内にカルボキシル基を2つ以上有するカルボン酸化合物を含有する,感光性エレメントを提供する。
【0020】
本発明者らは,(D)密着性付与剤として上記(a)脂肪族カルボン酸化合物,及び/又は,分子内にカルボキシル基を2つ以上有するカルボン酸化合物を感光層に含有させることにより,高解像のレジストパターンで問題となるサイドウォールピットの発生が低減されることを発見した。また,支持フィルムのヘーズを0.01?1.5%と十分に低減したことに加え,感光層が(C)光重合開始剤として2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体を含有し,且つ(D)密着性付与剤として上記(a)脂肪族カルボン酸化合物,及び/又は,分子内にカルボキシル基を2つ以上有するカルボン酸化合物を含有することで,レジストの側面ギザを改善するだけでなく,密着性及び解像度を共に高水準で達成できることを見出し,本発明を完成するに至った。
【0021】
また,本発明の感光性エレメントにおいて,上記感光層は,上記(D)密着性付与剤として(b)トリアゾール類,テトラゾール類及びイミダゾール類からなる群より選択される1種又は2種以上のヘテロ環化合物をさらに含有することが好ましい。これにより,より高い密着性を有するレジストパターンが形成可能となる。
【0022】
また,本発明の感光性エレメントにおいて,上記感光性樹脂組成物からなる上記感光層の膜厚は,3?30μmであることが好ましい。膜厚をこの範囲にすることで,現像後により高解像なレジストパターンが形成可能となる。
…省略…
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば,優れた密着性及び解像度を有し,且つ,サイドウォールピットの発生を最小限に抑え,側面ギザのないレジストパターンが形成可能な感光性エレメントを提供することができる。すなわち,かかる感光性エレメントによれば,その後のめっき処理等の工程においてめっきもぐり等が発生せず,高精細で且つ表面に突起物等を有さない良好なめっきライン形状を得ることができ,プリント配線板の製造歩留を向上することが可能となる。また,本発明は,上記本発明の感光性エレメントを用いたレジストパターンの形成方法及びプリント配線板の製造方法を提供することができる。」

エ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
…省略…
【0030】
図1は,本発明の感光性エレメントの好適な一実施形態を示す模式断面図である。図1に示した感光性エレメント1は,支持フィルム10と,感光層20とで構成される。感光層20は支持フィルム10の第1の主面12上に設けられている。また,支持フィルム10は,第1の主面12とは反対側に第2の主面14を有している。
【0031】
(支持フィルム)
本発明の支持フィルム10のヘーズは,0.01?1.5%であり,0.01?1.3%であることがより好ましく,0.01?1.0%であることがさらに好ましく,0.01?0.8%であることが特に好ましく,0.01?0.6%であることが極めて好ましい。このヘーズが0.01%未満では製造容易性が劣る傾向があり,1.5%を超えると感度及び解像度が悪化し,レジストの側面ギザが発生する傾向がある。なお,本発明におけるヘーズは,JIS K7105に準拠して測定したものである。ここで,「ヘーズ」とは曇り度を意味し,JIS K7105に規定される方法に準拠して市販の曇り度計(濁度計)を用いて測定された値をいう。例えば,NDH-1001DP(日本電色工業(株)製,商品名)等の市販の濁度計などでヘーズの測定が可能である。
【0032】
支持フィルム10としては,感光層20を支持することができれば特に制限されないが,例えば,ポリエチレンテレフタレート,ポリプロピレン,ポリエチレン及びポリエステル等の樹脂材料を含むフィルムが挙げられ,これらの樹脂材料を2種以上含むフィルムを用いることもできる。樹脂材料としては,中でもポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0033】
支持フィルム10の厚みは特に制限されないが,5?40μmであることが好ましく,8?35μmであることがより好ましく,10?30μmであることがさらに好ましく,12?25μmであることが特に好ましい。厚さが5μm未満であると,感光性エレメント1から支持フィルム10を剥離する際に,支持フィルム10が破れやすくなる傾向がある。また,厚さが40μmを超えると,解像度が低下する傾向があると共に,廉価性に劣る傾向がある。
【0034】
また,支持フィルム10は,その製造方法については特に制限はなく,単層であっても多層であってもよい。例えば,2層からなる2層支持フィルムを用いる場合,二軸配向ポリエステルフィルムの一方の面に,微粒子を含有する樹脂層を積層してなる2層フィルムを支持フィルムとして使用し,上記微粒子を含有する樹脂層を形成した面とは反対側の面に感光層を形成することが好ましい。また,支持フィルムとして,3層からなる多層支持フィルム(例えば,A層/B層/A層)を用いることもできる。多層支持フィルムの構成は特に制限されないが,最外層(上記3層からなるものの場合はA層)はいずれも微粒子を含有する樹脂層であることが,フィルムの滑り性等の見地から好ましい。
…省略…
【0036】
上記微粒子の平均粒子径は,微粒子を含有する樹脂層の層厚の0.1?10倍であることが好ましく,0.2?5倍であることがより好ましい。平均粒子径が0.1倍未満では滑り性が劣る傾向があり,10倍を超えると感光層に特に凹凸が生じ易い傾向がある。
…省略…
【0039】
解像度の見地からは,上記微粒子を含有する樹脂層の層厚は0.01?5μmであることが好ましく,0.05?3μmであることがより好ましく,0.1?2μmであることがさらに好ましい。そして,最外層の中間層に対向しない面は,1.2以下の静摩擦係数を有することが好ましい。静摩擦係数が1.2を超えると,フィルム製造時及び感光性エレメント製造時にしわが入りやすく,また,静電気を生じ易くなるためごみが付着しやすくなる傾向がある。
…省略…
【0040】
,本発明の支持フィルム10は,支持フィルム10中に含まれる直径5μm以上の粒子及び凝集物(以下,単に「粒子等」という)が5個/mm^(2)以下のものであることが好ましく,3個/mm^(2)以下であることがより好ましく,1個/mm^(2)以下であることがさらに好ましい。この粒子等の数が5個/mm^(2)を超えると,露光及び現像後のレジストパターンの一部欠損(レジスト欠け)が生じ易くなる。そして,このような感光性エレメントをプリント配線板に使用すると,エッチング時のオープン不良発生や,めっき時のショート不良発生の一因になる可能性があり,プリント配線板の製造歩留りが低下する傾向がある。
【0041】
本発明者らは,上記特許文献9及び10には,平均粒径が0.01?5μm程度の無機又は有機微粒子を含有させた二層支持フィルムが明記されているものの,実際には,支持フィルム中に含まれる直径5μm以上20μm未満の粒子が多数(本発明者らの調査によれば,20個/mm^(2)以上)存在することを突き止めた。そして,高密度化が要求されているプリント配線板分野においてそのような支持フィルムを用いた場合には,露光時に照射した活性光線の光散乱が起こり,活性光線が感光層まで到達し難くなるため,現像後にレジストパターンの一部欠損(レジスト欠け)が製造歩留り低下に影響を及ぼす可能性がある。
…省略…
【0043】
なお,支持フィルム10中に含まれる直径5μm以上の粒子等を5個/mm^(2)以下とするために,上述した樹脂層が含有する微粒子の粒径は5μm未満であることが好ましい。そして,露光時の光散乱をより一層低減するために,微粒子の粒径に合わせて微粒子を含有する樹脂層の層厚を適宜調整することが好ましい。
【0044】
支持フィルム10は,市販の一般工業用フィルムの中から,感光性エレメント1の支持フィルムとして使用可能なものを入手し,適宜加工して用いてもよい。支持フィルム10として使用可能な市販の一般工業用フィルムとしては,例えば,ポリエチレンテレフタレートフィルムである「QS-48」(東レ(株)製,商品名),「HTF-01」(帝人デュポンフィルム(株)製,商品名),「A-1517」,「A2100-16」(以上,東洋紡績(株)製,商品名)及び「R-340G」(三菱化学ポリエステルフィルム(株)製,商品名)が挙げられる。中でも,支持フィルム中に含まれる直径5μm以上の粒子等を5個/mm^(2)以下とする観点からは,「QS-48」(東レ(株)製,商品名)が好ましい。
…省略…
【0046】
(感光層)
感光層20は感光性樹脂組成物からなる層である。感光層20を構成する感光性樹脂組成物は,(A)カルボキシル基含有バインダーポリマー(以下,場合により「(A)成分」という),(B)分子内に重合可能なエチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物(以下,場合により「(B)成分」という),(C)光重合開始剤(以下,場合により「(C)成分」という),及び,(D)密着性付与剤(以下,場合により「(D)成分」という)を含有し,且つ,(C)光重合開始剤として2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体を含有し,(D)密着性付与剤として(a)肪族カルボン酸化合物,及び/又は,分子内にカルボキシル基を2つ以上有するカルボン酸化合物(以下,場合により「(a)成分」という)を含有する。
【0047】
また,感光層20を構成する感光性樹脂組成物は,上記(D)密着性付与剤として(b)トリアゾール類,テトラゾール類及びイミダゾール類からなる群より選択される1種又は2種以上のヘテロ環化合物(以下,場合により「(b)成分」という)をさらに含有することが好ましい。
…省略…
【0056】
(B)成分である分子内に重合可能なエチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物としては,例えば,多価アルコールにα,β-不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物,ビスフェノールA系(メタ)アクリレート化合物,グリシジル基含有化合物にα,β-不飽和カルボン酸を反応させて得られる化合物,ウレタン結合を有する(メタ)アクリレート化合物等のウレタンモノマー,γ-クロロ-β-ヒドロキシプロピル-β’-(メタ)アクリロイルオキシエチル-o-フタレート,β-ヒドロキシエチル-β’-(メタ)アクリロイルオキシエチル-o-フタレート,β-ヒドロキシプロピル-β’-(メタ)アクリロイルオキシエチル-o-フタレート,(メタ)アクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。
…省略…
【0097】
(C)光重合開始剤は,必須成分として2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体を含む。2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体としては,例えば,2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体…省略…等が挙げられる。これらの中でも,密着性及び感度をより向上させる観点から,2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体が好ましい。
…省略…
【0099】
なお,本発明における(C)成分の総量に対する2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体の含有割合は,70?100質量%であることが好ましく,85?100質量%であることがより好ましく,90?100質量%であることがさらに好ましく,93?100質量%であることが特に好ましい。2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体をこの割合で含有することにより,本発明の感光性エレメントはより優れた密着性及び感度を有するものとなる。
【0100】
また,(C)成分である光重合開始剤としては,上記2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体の他に,その他の光重合開始剤を用いてもよい。その他の光重合開始剤としては,例えば,芳香族ケトン類,p-アミノフェニルケトン類,キノン類,ベンゾインエーテル化合物,ベンゾイン化合物,ベンジル誘導体,アクリジン誘導体,クマリン系化合物,オキシムエステル類,N-アリール-α-アミノ酸化合物,脂肪族多官能チオール化合物,アシルホスフィンオキサイド類,チオキサントン類,3級アミン化合物類等が挙げられ,これら化合物を組み合わせて使用してもよい。
…省略…
【0116】
本発明の(C)光重合開始剤としては,2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体の他に,上記芳香族ケトン類を含有することが好ましく,中でもN,N’-テトラエチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン(ミヒラーケトン)を含有することが好ましい。
【0117】
(D)密着性付与剤は,必須成分として(a)脂肪族カルボン酸化合物,及び/又は,分子内にカルボキシル基を2つ以上有するカルボン酸化合物を含む。
…省略…
【0121】
(D)成分としては,(b)トリアゾール類,テトラゾール類及びイミダゾール類からなる群から選択される1種または2種以上のヘテロ環化合物をさらに含有することが好ましい。
…省略…
【0128】
(C)成分である光重合開始剤の含有量は,(A)成分及び(B)成分の総量100質量部に対して,0.1?20質量部であることが好ましく,0.15?10質量部であることがより好ましく,0.2?5質量部であることが特に好ましい。この含有量が0.1質量部未満では光感度が不十分となる傾向があり,20質量部を超えると,露光の際に感光性樹脂組成物の表面での光吸収が増大して内部の光硬化が不十分となる傾向がある。
【0129】
(D)成分である密着性付与剤の(a)成分の含有量は,(A)成分及び(B)成分の総量100質量部に対して,0.0005?1質量部であることが好ましく,0.001?0.7質量部であることがより好ましく,0.01?0.5質量部であることがさらに好ましく,0.05?0.3質量部であることが特に好ましい。(a)成分の含有量がこの範囲であると,金属表面とレジストとの密着性及び剥離性をバランスよく向上できる。
…省略…
【0135】
本発明の感光性エレメント1における感光層20は,上述の感光性樹脂組成物を支持フィルム10上に塗布し,溶剤を除去することにより形成することができる。
…省略…
【0136】
このようにして形成される感光層20の厚さは,乾燥後の厚さで3?30μmであることが好ましく,5?25μmであることがより好ましく,7?25μmであることがさらに好ましく,10?20μmであることが特に好ましい。この厚さが3μm未満であると,回路形成用基板に感光層を積層する際に不具合が発生しやすくなる,又はテンティング性が劣り,現像及びエッチング工程中でレジストが破損し,オープン不良の一因になる可能性があり,プリント配線板の製造歩留りが低下する傾向がある。一方,厚さが30μmを超えると,感光層20の解像度が悪化する,又はエッチング液の液まわりが悪化するため,サイドエッチングの影響が大きくなり,高密度なプリント配線板の製造が困難になる傾向がある。
…省略…
【0152】
(半導体パッケージ基板の製造方法)
本発明の感光性エレメント1は,リジット基板と,そのリジット基板上に形成された絶縁膜とを備えるパッケージ基板に用いることもできる。
…省略…
【0153】
このソルダーレジストは,基板にはんだ付けを施した後の配線の保護膜を兼ね,引張強度や伸び率等の物理特性及び耐熱衝撃性に優れているので,半導体パッケージ用の永久マスクとして有効である。」

オ 「【実施例】
【0156】
…省略…
【0157】
[実施例1?18及び比較例1?5]
(感光性樹脂組成物の溶液の作製)
下記表1に示す各成分を配合して,感光性樹脂組成物の基本溶液を調製した。
【0158】
【表1】

【0159】
上記基本溶液に,(D)成分である密着性付与剤を下記表2?5に示すように必要に応じ添加し,感光性樹脂組成物の溶液を得た。
【0160】
(感光性エレメントの作製)
感光性エレメントの支持フィルムとして,表2?5に示すポリエチレンテレフタレート(以下,「PET」と表記する)フィルムを用意した。各PETフィルムのヘーズ及び5μm以上の粒子等の個数を測定した結果を表2?5に示す。
…省略…
【0163】
また,表2?5中,HTR-02^(*1)は,微粒子を含有する層を表裏に有する3層構造の二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポン(株)製,商品名)であり,QS-48^(*2)は,微粒子を含有する層を表裏に有する3層構造の二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製,商品名)であり,1-[N,N-ビス-(2-エチルヘキシル)]アミノメチルベンゾトリアゾール-5-カルボン酸^(*3)は,千代田化学(株)製のものである。
…省略…
【0171】
【表2】

【0172】
【表3】

【0173】
【表4】

【0174】
【表5】

【0175】
表2?5に示した結果から明らかなように,本発明の一実施形態である実施例1?18は,サイドウォールピットの発生数が少なく,密着性及び解像度が共に10μm以下を達成している。また,レジストパターンの側面ギザ性も良好である。これに対し,比較例1?5は,上記特性のうちいずれかが劣る結果となった。」

カ 図1




(2) 引用発明
引用文献2の【0019】?【0022】には,次の「感光性エレメント」の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 支持フィルムと,支持フィルム上に形成された感光性樹脂組成物からなる感光層と,を備える感光性エレメントであって,
支持フィルムのヘーズが0.01?1.5%であり,
感光層が,(A)カルボキシル基含有バインダーポリマーと,(B)分子内に重合可能なエチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物と,(C)光重合開始剤と,(D)密着性付与剤と,を含有し,(C)光重合開始剤として2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体を含有し,(D)密着性付与剤として(a)脂肪族カルボン酸化合物,及び/又は,分子内にカルボキシル基を2つ以上有するカルボン酸化合物を含有し,
感光層の膜厚は,3?30μmである,
感光性エレメント。」

(3) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 感光性エレメント
引用発明の「感光性エレメント」は,「支持フィルムと,支持フィルム上に形成された感光性樹脂組成物からなる感光層と,を備える」ものである。
上記構成及び用語の意味からみて,引用発明の「支持フィルム」,「感光層」及び「感光性エレメント」は,それぞれ,本件補正後発明の「支持フィルム」,「感光層」及び「感光性エレメント」に相当する。また,引用発明の「感光性エレメント」は,本件補正後発明の「感光性エレメント」における,「支持フィルムと,当該支持フィルム上に配置された感光層と,を備える」という要件を満たす。

イ 感光層の組成
引用発明の「感光層」は,「(A)カルボキシル基含有バインダーポリマーと,(B)分子内に重合可能なエチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物と,(C)光重合開始剤と,(D)密着性付与剤と,を含有し」ている。
上記構成及び用語の意味からみて,引用発明の「カルボキシル基含有バインダーポリマー」,「光重合性化合物」及び「光重合開始剤」は,それぞれ,本件補正後発明の「バインダーポリマー」,「光重合性化合物」及び「光重合開始剤」に相当する。また,引用発明の「感光層」は,本件補正後発明の「感光層」における,「バインダーポリマーと,エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物と,光重合開始剤と,を含有し」という要件を満たす。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「 支持フィルムと,当該支持フィルム上に配置された感光層と,を備える感光性エレメントであって,
前記感光層が,バインダーポリマーと,エチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物と,光重合開始剤と,を含有する,
感光性エレメント。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
本件補正後発明の「感光性エレメント」は,「前記支持フィルムの前記感光層側の表面における最大径2μm以上の欠陥の数が2mm^(2)あたり30個以下である」という要件を満たすものであるのに対して,引用発明は,これが判らない点。

(相違点2)
本件補正後発明の「感光性エレメント」は,その範囲から,「支持フィルムと,該支持フィルム上に形成された感光性樹脂組成物からなる感光層と,を備える感光性エレメントであって,前記支持フィルムのヘーズが0.01?1.5%であり,前記感光層が,(A)カルボキシル基含有バインダーポリマーと,(B)分子内に重合可能なエチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物と,(C)光重合開始剤と,(D)密着性付与剤と,を含有し,且つ,前記(C)光重合開始剤として2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体を含有し,前記(D)密着性付与剤として(a)脂肪族カルボン酸化合物,及び/又は,分子内にカルボキシル基を2つ以上有するカルボン酸化合物を含有する,感光性エレメント」が除かれているのに対して,引用発明は,この除かれたものの範囲に含まれる点(以下,除かれたものを,「除かれた感光性エレメント」という場合がある。)。

(5) 判断
ア 相違点1について
引用発明の「支持フィルム」に関して,引用文献2の【0044】には,「支持フィルム10は,市販の一般工業用フィルムの中から,感光性エレメント1の支持フィルムとして使用可能なものを入手し,適宜加工して用いてもよい。」及び「中でも,支持フィルム中に含まれる直径5μm以上の粒子等を5個/mm^(2)以下とする観点からは,「QS-48」(東レ(株)製,商品名)が好ましい。」と記載されている。
そうしてみると,引用発明の「感光性エレメント」を具体化する当業者における,「支持フィルム」の第一選択肢は,「QS-48」ということになる。
ただし,上記記載からみて,「QS-48」は,引用発明が発明された当時の当業者が,引用発明の「支持フィルム」を「市販の一般工業用フィルム」の中から選択する際の第一選択肢にすぎない。そして,上記【0044】には,「QS-48」が好ましい理由が,「支持フィルム中に含まれる直径5μm以上の粒子等を5個/mm^(2)以下とする観点」であると記載されている。また,引用文献2の【0036】及び【0039】には,それぞれ「上記微粒子の平均粒子径は,微粒子を含有する樹脂層の層厚の0.1?10倍であることが好ましく,0.2?5倍であることがより好ましい。平均粒子径が0.1倍未満では滑り性が劣る傾向があり,10倍を超えると感光層に特に凹凸が生じ易い傾向がある。」及び「解像度の見地からは,上記微粒子を含有する樹脂層の層厚は0.01?5μmであることが好ましく,0.05?3μmであることがより好ましく,0.1?2μmであることがさらに好ましい。」という知見が記載されている。
そうしてみると,本件出願前の当業者(引用発明が発明された当時より良い製品を選択できる者)や,「支持フィルム」を自ら作製する当業者ならば,引用文献2に開示された上記の知見に基づいて,より良い「支持フィルム」を入手したり,作製するといえる。そして,引用文献2の【0036】及び【0039】の記載からは,[A]微粒子の平均粒子径が,微粒子を含有する樹脂層の層厚の0.1倍未満では滑り性が劣る傾向があること,[B]微粒子の平均粒子径が,微粒子を含有する樹脂層の層厚の10倍を超えると感光層に特に凹凸が生じ易い傾向があること,[C]微粒子を含有する樹脂層の層厚は0.1?2μmであることがさらに好ましいこと,を理解することができる。加えて,引用文献2の【0041】の下線部の記載に接した当業者は,上記感光層の凹凸が,径が小さい粒子よりも径が大きな粒子によってもたらされる傾向があることにも気付くといえる。
そうしてみると,フィルムの滑り性と感光層の凹凸の問題を考慮した当業者が,引用発明の「支持フィルム」として,例えば,1μmに鋭い粒子径分布のピークを有する微粒子を含有するものを採用し,その結果,相違点1に係る本件補正後発明の要件を満たす「感光性エレメント」に到ることは,引用文献2に記載された示唆に基づいた通常の創意工夫にとどまるものである。

イ 相違点2について
本件補正後発明において除かれた感光性エレメントは,引用文献2の特許請求の範囲の請求項1に記載されたものであるから,引用文献2に記載された発明の範囲内で創意工夫する当業者ならば,除かれた感光性エレメントの範囲内でのみ相違工夫を試みると考えられる。
しかしながら,引用発明の「ヘーズ」の構成に関して,引用文献2の【0031】には,「ヘーズが0.01%未満では製造容易性が劣る傾向があり,1.5%を超えると感度及び解像度が悪化し,レジストの側面ギザが発生する傾向がある。」と,その数値範囲の技術的意義が記載されている。また,感度,解像度及びレジストの側面ギザ(以下「感度等」という。)が,支持フィルムに含まれる微粒子の粒子径にも依存することは,技術的にみて明らかである。そうしてみると,例えば,前記アで述べた程度にまで微粒子の粒子径を小さくし,ヘーズが1.5%を超える場合において,感度等が許容範囲内に収まるかを確認すること(例:フィルムの滑り性と感光層の凹凸の問題の両立を図るため,微粒子の径を小さくしつつも分量を多くし,引用発明のヘーズを1.6%程度に変更すること)は,当業者が試みる範囲内の事項と考えられる。
また,引用文献2の【0006】には,「支持フィルム上に感光性樹脂組成物を均一な厚さで歩留り良く塗布するためには,支持フィルムにある程度の厚さ(一般に10μm?30μm)が要求される。また,支持フィルムの生産性を向上させるために,すなわち支持フィルムの巻き取り性等を向上させる目的で,一般的に支持フィルムには,無機又は有機微粒子を含有させている。そのため,従来の支持フィルムは,ヘーズ値が増大し,支持フィルムが含有する微粒子により,露光時に光散乱が起こり,感光性フィルムの高解像度化の要求に応えられない傾向にある。」と記載されている。当該記載から,当業者は,支持フィルムの厚さが,微粒子と同様にヘーズに影響を与えることを理解する(当合議体注:技術常識ともいえる。)。そうしてみると,例えば,フィルムの滑り性よりも,感光性樹脂組成物の塗布性に関心を寄せる当業者が,これらの問題と感光層の凹凸の問題の両立を図るため,微粒子の粒子径を小さくしつつ,支持フィルムの厚さをその分大きくして,ヘーズを1.6%程度に収めた上で,感度等が依然として許容範囲内に収まるかを確認してみることもまた,当業者が試みる範囲内の事項といえる。
あるいは,引用発明の「光重合開始剤」の構成に関して,引用文献2の【0099】には,「2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体をこの割合で含有することにより,本発明の感光性エレメントはより優れた密着性及び感度を有するものとなる。」と記載されている。また,除かれた感光性エレメントないし引用発明は,「(D)密着性付与剤として(a)脂肪族カルボン酸化合物,及び/又は,分子内にカルボキシル基を2つ以上有するカルボン酸化合物」を別途,含有する。そうしてみると,例えば,【0174】【表5】の比較例4のように「2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体」を他の「光重合開始剤」に替えつつ,代わりに「密着性付与剤」の分量を増やしたり,引用文献2の【0021】の下線部等の知見をも参考にして,密着性がどのように変わるか,その傾向を確認することは,当業者が試みる範囲内の事項と考えられる(引用文献2には,このような実験結果は記載されておらず,改善を試みる余地がある。)。
さらに,引用発明の「密着性付与剤」の構成に関して,引用文献2の【0020】には,「本発明者らは,(D)密着性付与剤として上記(a)脂肪族カルボン酸化合物,及び/又は,分子内にカルボキシル基を2つ以上有するカルボン酸化合物を感光層に含有させることにより,高解像のレジストパターンで問題となるサイドウォールピットの発生が低減されることを発見した。」と記載されている。また,引用文献2の【0013】の下線を付した記載からみて,サイドウォールピットは,引用発明の「感光性エレメント」を「セミアディティブ工法」の用途に用いる場合に特に問題になるものと理解される。そして,「(D)成分である密着性付与剤の(a)成分の含有量は,(A)成分及び(B)成分の総量100質量部に対して,0.0005」「質量部」(【0129】)であっても構わないのであるから,これを除いてみることは,「セミアディティブ工法」を念頭に置かない当業者が試みる範囲内の事項と考えられる。

以上勘案すると,引用発明を,除かれた感光エレメントの要件を満たさないものとすることは,本件出願前の当業者が試みる範囲内のものである。

(6) 発明の効果について
本件補正後発明の効果に関して,本件出願の明細書の【0017】には,「本発明によれば,レジストの欠損の発生を抑制することが可能な感光性エレメントを提供することができる。」及び「本発明によれば,高解像度露光機を使用した場合であっても,レジストの欠損の発生を抑制することが可能であり,良好なレジスト形成性が得られる。」と記載されている。
しかしながら,このような効果は,引用発明も奏する効果である。

(7) 請求人の主張について
請求人は,審判請求書(4)(II)(B)において,「引用文献2では,感光性エレメントが「支持フィルムと,該支持フィルム上に形成された感光性樹脂組成物からなる感光層と,を備える感光性エレメントであって,前記支持フィルムのヘーズが0.01?1.5%であり,前記感光層が,(A)カルボキシル基含有バインダーポリマーと,(B)分子内に重合可能なエチレン性不飽和結合を有する光重合性化合物と,(C)光重合開始剤と,(D)密着性付与剤と,を含有し,且つ,前記(C)光重合開始剤として2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体を含有し,前記(D)密着性付与剤として(a)脂肪族カルボン酸化合物,及び/又は,分子内にカルボキシル基を2つ以上有するカルボン酸化合物を含有する」ことが引用発明2における必須の事項として記載されており(請求項1,段落[0019]等),当該記載に伴い,引用発明2の具体例を示す実施例においては,このような必須事項を満たす感光性エレメントが用いられているに過ぎません(段落[0156]以降)。このような引用文献2では,上述の必須事項を満たす感光性エレメントを用いることが前提とされていることから,引用発明2として,上述の必須事項を満たすことのない感光性エレメントを用いることについて記載も示唆もありません。そして,引用文献2を参照した当業者であれば,上述の必須事項を満たす感光性エレメントを用いることが通常であり,引用発明2の具体例を示す実施例において効果が実証された感光性エレメントに代えて,上述の必須事項を満たすことのない感光性エレメントを用いることは当業者といえども困難です。」と主張する。
しかしながら,前記(5)イで述べたとおりである。

引用文献2の【0019】?【0022】に記載された「感光性エレメント」の発明に替えて,引用文献2の請求項1を引用する請求項3に係る「感光性エレメント」の発明を引用発明としても,判断は同様である。

(9) 小括
本件補正後発明は,引用文献2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 補正の却下の決定のむすび
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり,本件補正は却下されたので,本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,前記「第2」[理由]1(1)に記載された事項によって特定されるとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,本願発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献2(特開2009-186780号公報)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を含むものである。

3 引用文献の記載及び引用発明
引用文献2の記載及び引用発明は,前記「第2」[理由]2(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本件補正後発明は,本願発明の範囲から一部の態様を除いたもの(前記「第2」[理由]1(2)において下線を付した態様のものを除いてなる,いわゆる「除くクレーム」形式で記載された発明)である。すなわち,本願発明と本件補正後発明は,一部の態様が除かれている以外の点では同一である。また,本件補正後発明は,前記「第2」[理由]2(3)?(8)で述べたとおり,引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうしてみると,本願発明も,引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-06-21 
結審通知日 2021-06-22 
審決日 2021-07-09 
出願番号 特願2018-553617(P2018-553617)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川口 真隆  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 河原 正
早川 貴之
発明の名称 感光性エレメント、レジストパターンの形成方法、及び、プリント配線板の製造方法  
代理人 古下 智也  
代理人 阿部 寛  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 吉住 和之  
代理人 平野 裕之  

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