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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B08B
管理番号 1377499
審判番号 不服2021-716  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-19 
確定日 2021-09-21 
事件の表示 特願2017-3277「超高圧水装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年7月19日出願公開、特開2018-111070、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年1月12日の出願であって、令和2年8月12日付け(発送日:令和2年8月17日)で拒絶理由通知がされ、令和2年9月15日に意見書が提出されたが、令和2年10月30日付け(発送日:令和2年11月4日)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対して令和3年1月19日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由の概要は次のとおりである。

(進歩性)本願の請求項1ないし5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項1ないし5
・引用文献等1及び2

<引用文献等一覧>
1.特開2015-6639号公報
2.特開2005-313008号公報

第3 本願発明
本願の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
建築構造物の表面に水やその他の液体を超高圧で噴き付ける超高圧水装置において、
水や液体を超高圧な状態で吐水手段に送り出す高圧ポンプと、
該高圧ポンプの駆動源であるモータと、
該高圧ポンプから送り出される超高圧な該液体の圧力を検知する圧力検知手段と、
該高圧ポンプから送り出される超高圧な該液体の所望圧力値を設定する複数の設定圧力入力手段と、
該圧力検知手段からの圧力情報及びいずれかの該設定圧力入力手段で設定された所望圧力値に基づき、該モータの回転周波数を徐々に上下させて制御する圧力制御手段と、
該設定圧力入力手段のいずれかを選択するかを切り換える設定圧力切換手段と、
該設定圧力切換手段の切り換えを遠隔操作で行う遠隔操作手段とを備え、
該所望圧力値を適宜切り換えて、該高圧ポンプの回転周波数を制御することにより、該高圧ポンプにより吐水される該液体の圧力を徐々に上下させて制御することを特徴とする超高圧水装置。
【請求項2】
前記モータに供給される電源電圧が低電圧のとき、前記圧力制御手段が該モータの回転周波数を徐々に下げて制御することを特徴とする請求項1記載の超高圧水装置。
【請求項3】
前記圧力検知手段が所定以上の高圧を検知したとき、前記圧力制御手段が該モータの回転周波数を徐々に下げて制御することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の超高圧水装置。
【請求項4】
前記圧力制御手段として、インバータを用いることを特徴とする請求項1?請求項3のいずれかに記載の超高圧水装置。
【請求項5】
前記遠隔操作手段が、
前記設定圧力切換手段に直接接続されて切り換えを行う無線親機と、
該設定圧力切換手段の切換情報を入力すると共に、入力された該切換情報を無線手段を介して該無線親機に送る無線子機とからなることを特徴とする請求項1?請求項4のいずれかに記載の超高圧水装置。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、「超高圧水装置」に関して、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下同様。)。

(1)「【請求項1】
建築構造物の表面に水やその他の液体を超高圧で噴き付ける超高圧水装置において、
水や液体を超高圧な状態で吐水手段に送り出す高圧ポンプと、
該高圧ポンプの駆動源であるモータと、
該高圧ポンプから送り出される超高圧な該液体の圧力を検知する圧力検知手段と、
該高圧ポンプから送り出される超高圧な該液体の所望圧力値を設定する設定圧力入力手段と、
該圧力検知手段からの圧力情報及び該設定圧力入力手段で設定された所望圧力値に基づき、該モータの回転周波数を制御する圧力制御手段とを備え、
該高圧ポンプの回転周波数を制御することにより、該高圧ポンプにより吐水される該液体の圧力を制御することを特徴とする超高圧水装置。」

(2)「【0017】
本発明に係る超高圧水装置1は、建築構造物の表面に水やその他の液体を超高圧で噴き付ける装置である。超高圧水装置1の用途としては、例えば、建築構造物の表面を削るという観点では、建築物や路面のタイルの下地処理のためのコンクリート目荒し、耐震補強のためのコンクリート目荒し、コンクリート打継、レイタンス除去等に用いることが可能である。また、剥がすという観点での用途としては、外壁やブロック等の各種壁面の塗装剥がし、舗装路の他院表示の剥離、船舶の汚れや船底付着物の助教除去等に用いることが可能である。さらに、洗う・磨くという観点での用途としては、アスファルトの清掃、インターロッキングの清掃、プールの清掃、工場の床やトンネル壁面の汚れの除去等に用いることが可能である。」

(3)「【0021】
送水ポンプ14から送られた液体は、フィルタB38を介して、高圧ポンプ32で加圧され、超高圧の液体として、吐水口30から吐水手段であるノズルガン6に送られ、ノズルガン6から吐水される。高圧ポンプ32の駆動は、駆動源であるモータ34で行われ、モータ34の運転(電源供給)は、超高圧水装置1の外部の電源8から供給される電力をインバータB40により制御しつつ行われる。
【0022】
高圧ポンプ32と吐水口30との間には、高圧ポンプ32から送り出される超高圧な液体の圧力を検知する圧力検知手段である圧力センサ36が設けられ、検知した圧力の値が圧力コントローラ42に送られる。圧力コントローラ42では、圧力センサ36が検知した圧力の値を、インバータB40が高圧ポンプ32の圧力の制御に期するデータとして、インバータB40に送る。
【0023】
また、超高圧水装置1には、高圧ポンプから吐出口30へ送り出される超高圧な液体の所望圧力値を設定する設定圧力入力手段である圧力ボリューム44が設けられ、圧力ボリューム44で入力された値が、インバータB40に送られる。
【0024】
インバータB40では、圧力センサ36で検知し圧力コントローラ42を介して受け取った圧力情報と、圧力ボリューム44で設定された所望圧力値に基づき、モータ34の回転周波数を制御する。このように、インバータB40が、圧力制御手段として高圧ポンプ32の回転周波数を制御することにより、高圧ポンプ32により吐水される液体の圧力を制御することになる。」

(4)「【0030】
さらに、インバータB40により、超高圧水装置1の起動にあたって、モータ34の初期電圧が瞬時に上がることを想定しつつゆっくり(静かに)回転するように制御することで、静かな立ち上がりが可能であると共に、消費電力を抑えることが可能となり、限られた電源8の電力量の中で複数の超高圧水装置1を稼働させることも可能となる。
【0031】
さらに、使用を終える場合、従来の装置では、徐々に圧力を下げることが困難であったことから、高圧の圧力がいつまでも抜けきらず安全に持ち運びが困難であるなど取り扱いが難しかったが、超高圧水装置1では、使用を終える場合に徐々にモータ34の回転周波数を落としていき、高圧ポンプ32の圧力を徐々に下げていくことができるため、圧力の高い状態がいつまでも続かず、超高圧水装置1の使用を終えた後に速やかに且つ安全に持ち運びができるようになる。」

したがって、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「建築構造物の表面に水やその他の液体を超高圧で噴き付ける超高圧水装置において、
水や液体を超高圧な状態で吐水手段に送り出す高圧ポンプと、
該高圧ポンプの駆動源であるモータと、
該高圧ポンプから送り出される超高圧な該液体の圧力を検知する圧力検知手段と、
該高圧ポンプから送り出される超高圧な該液体の所望圧力値を設定する設定圧力入力手段と、
該圧力検知手段からの圧力情報及び該設定圧力入力手段で設定された所望圧力値に基づき、該モータの回転周波数を制御する圧力制御手段とを備え、
圧力制御手段により、超高圧水装置の起動にあたって、モータをゆっくり回転するように制御し、超高圧水装置の使用を終える場合に徐々にモータの回転周波数を落としていき、高圧ポンプの圧力を徐々に下げていくことができ、
該高圧ポンプの回転周波数を制御することにより、該高圧ポンプにより吐水される該液体の圧力を制御する超高圧水装置。」

2 引用文献2について
本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであって、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、「高圧洗浄機」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明の高圧洗浄機であると、ユーザーが吐出装置を用いて高圧水を吐出する場合に、吐出装置に設けたリモコン操作手段によって洗浄機本体にあるブラシレスDCモータの回転数を無線によって操作することができるため、手元で高圧水の圧力を変化させることができる。また、吐出装置に送られてくる高圧水によって羽根車が回転し、この回転した力によって発電機によって電気が発電され、その電気を充電池に充電することによって、送信手段とリモコン操作手段を駆動するため、吐出装置にバッテリーなどを設ける必要がない。また、洗浄機本体では本体操作手段によって圧力の調整ができる。」

(2)「【0026】
吐出装置14には、モータ28の回転数を調整するためのリモコン操作回路42が設けられ、このリモコン操作回路42によって出力された速度指令信号を送信回路44を経て洗浄機本体12の受信回路40に送信する。受信回路40は、この受信した速度指令信号を制御回路32に出力する。リモコン操作回路42と送信回路44は、バッテリー46によって駆動する。リモコン操作回路42には、ユーザーがその圧力を調整するための圧力調整ダイヤル48が設けられている。
【0027】
(4)高圧洗浄機10の操作状態
高圧洗浄機10によって自動車を洗車する場合には、ユーザーは吸入口18に水道水を送るためのホースを接続し、洗浄機本体12には、家庭用の100Vの交流電源34を接続する。そして、ユーザーは吐出装置14を手に持ってノズル22を自動車の方向に向け、高圧水をノズル22の吐出口から噴出させ洗車を行う。レバー26を操作して吐出口の開閉状態を調整し、高圧水の噴出状態を調整することができる。また、高圧水の圧力を調整する場合には圧力調整ダイヤル48を操作して、モータ28の回転数を変化させ、高圧水の圧力を調整する。この場合に、吐出装置14と洗浄機本体12とは無線によって速度指令信号が送られているため、高圧ホース16に配線などを設ける必要がなく、水と電気による感電の危険を完全に防止することができる。また、洗浄機本体12にも本体操作回路38における圧力調整ダイヤル39が設けられているため、洗浄機本体12でも高圧水の圧力を調整することができる。」

したがって、引用文献2には次の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。

<引用文献2記載事項>
「ユーザーが吐出装置14を用いて高圧水を吐出する場合に、吐出装置14に設けた圧力調整ダイヤル48によって洗浄機本体12にあるモータ28の回転数を無線によって操作すること。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「超高圧水装置」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明1における「超高圧水装置」に相当し、以下同様に、「吐水手段」は「吐水手段」に、「高圧ポンプ」は「高圧ポンプ」に、「モータ」は「モータ」に、「圧力検知手段」は「圧力検知手段」に、「設定圧力入力手段」は「設定圧力入力手段」に、「圧力制御手段」は「圧力制御手段」にそれぞれ相当する。

引用発明の「圧力制御手段により、超高圧水装置の起動にあたって、モータをゆっくり回転するように制御し、超高圧水装置の使用を終える場合に徐々にモータの回転周波数を落としていき、高圧ポンプの圧力を徐々に下げていくことができ、該高圧ポンプの回転周波数を制御することにより、該高圧ポンプにより吐水される該液体の圧力を制御する」という事項に関して、モータをゆっくり回転することとは、モータの回転周波数を徐々に上げることであるから、当該事項は、モータの回転周波数を徐々に上下させて制御し、その結果、高圧ポンプにより吐水される液体の圧力を徐々に上下させて制御しているといえる。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「建築構造物の表面に水やその他の液体を超高圧で噴き付ける超高圧水装置において、
水や液体を超高圧な状態で吐水手段に送り出す高圧ポンプと、
該高圧ポンプの駆動源であるモータと、
該高圧ポンプから送り出される超高圧な該液体の圧力を検知する圧力検知手段と、
該圧力検知手段からの圧力情報及び該設定圧力入力手段で設定された所望圧力値に基づき、該モータの回転周波数を徐々に上下させて制御する圧力制御手段とを備え、
該高圧ポンプの回転周波数を制御することにより、該高圧ポンプにより吐水される該液体の圧力を徐々に上下させて制御する超高圧水装置。」

<相違点>
本願発明1は「該高圧ポンプから送り出される超高圧な該液体の所望圧力値を設定する複数の設定圧力入力手段」を備え、「圧力制御手段」は「いずれかの」該設定圧力入力手段で設定された所望圧力値に基づき、該モータの回転周波数を徐々に上下させて制御するものであり、「該設定圧力入力手段のいずれかを選択するかを切り換える設定圧力切換手段」と、「該設定圧力切換手段の切り換えを遠隔操作で行う遠隔操作手段」を備えて、「該所望圧力値を適宜切り換えて」いるのに対して、引用発明はそのような事項を備えていない点。

上記相違点について検討する。
本願の発明の詳細な説明の段落【0023】や【0027】を参酌すると、本願発明1の「複数の設定圧力入力手段」は、使用者が予めそれぞれの「設定圧力入力手段」で液体の所望圧力値を設定するものである。
そして、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項は、「複数の設定圧力入力手段」により、使用者が予めそれぞれの「設定圧力入力手段」で液体の所望圧力値を設定し、「設定圧力切換手段」で「設定圧力入力手段」を選択することで液体を所望圧力値で吐水するものであって、その切り換えを「遠隔操作手段」により行うことである。
一方、引用文献2記載事項には、当該事項は開示されていない。
したがって、引用発明に引用文献2記載事項を適用しても、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項とはならない。
そして、他に、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項を、当業者が容易に想到し得たとする証拠や根拠もない。
よって、本願発明1は、当業者が引用発明及び引用文献2記載事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2ないし5について
本願発明2ないし5は、本願発明1の発明特定事項を全て有し、さらに限定を付加したものである。
したがって、本願発明2ないし5は、本願発明1について述べたものと同様の理由により、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 小括
そうすると、本願発明1ないし5は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願発明1ないし5を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-09-02 
出願番号 特願2017-3277(P2017-3277)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B08B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 粟倉 裕二  
特許庁審判長 山本 信平
特許庁審判官 高島 壮基
佐々木 正章
発明の名称 超高圧水装置  
代理人 加藤 道幸  

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