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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10B
管理番号 1377574
審判番号 不服2020-9416  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-06 
確定日 2021-09-09 
事件の表示 特願2017-125746「コークス炉の炉壁診断方法」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 1月17日出願公開、特開2019- 6940〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年6月28日の出願であって、令和2年1月22日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年3月10日に意見書及び手続補正書が提出され、同年3月30日付けで拒絶査定がなされ(謄本送達は同年4月7日)、これに対して、同年7月6日に拒絶査定不服の審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、令和3年2月10日付けで当審から拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年3月30日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の請求項1?3に係る発明は、令和3年3月30日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(請求項1?3に係る発明を、それぞれ「本願発明1」?「本願発明3」、まとめて「本願発明」ともいう。)。

「【請求項1】
コークス炉の炉体劣化を予測するコークス炉の炉壁診断方法であって、
コークス炉建設時の熱間寸法を基準寸法とし、
コークス炉の炭化室炉壁面の前記基準寸法に対する変位を光学機器によって測定して、炭化室炉壁面の前記基準寸法に対する凹凸を検出し、
コークス炉炭化室の炉壁における前記基準寸法に対して張り出している部位(凸の部位)のみを炉壁の体積変形量とし、
前記体積変形量が実績に基づいて設定された閾値を超える炭化室は、石炭の乾留で得られたコークスを押し出し機の押し出しラムで炭化室から押し出す際の押し出し負荷が高くなって、炭化室が稼働不可能になることを予測することを特徴とする、コークス炉の炉壁診断方法。
【請求項2】
コークス炉の炉体劣化を予測するコークス炉の炉壁診断方法であって、
コークス炉建設時の熱間寸法を基準寸法とし、
コークス炉の炭化室炉壁面の前記基準寸法に対する変位を光学機器によって測定して、炭化室炉壁面の前記基準寸法に対する凹凸を検出し、
コークス炉炭化室の炉壁における前記基準寸法に対して張り出している部位(凸の部位)のみを炉壁の体積変形量とし、
前記体積変形量と、該体積変形量と時間経過との近似直線関係式と、から、前記炉壁の将来の体積変形量を求め、
求めた将来の体積変形量が実績に基づいて設定された閾値を超える炭化室は、石炭の乾留で得られたコークスを押し出し機の押し出しラムで炭化室から押し出す際の押し出し負荷が高くなって、炭化室が稼働不可能になることを予測することを特徴とする、コークス炉の炉壁診断方法。
【請求項3】
同一炭化室の過去の測定点の前記体積変形量を時系列順にA_(1)、A_(2)、A_(3)、・・・、A_(n-1)、A_(n)とし、A_(1)-A_(2)間、A_(2)-A_(3)間、・・・、A_(n-1)-A_(n)間のそれぞれの測定点間における単位期間あたりの炉壁体積変形量の傾きを、それぞれB_(1)、B_(2)、・・・、B_(n-1)とし、
最新の測定点A_(n)から将来の測定点A_(n+1)までの期間で、B_(1)?B_(n-1)が同等の確率で起こると仮定し、
最新の測定点A_(n)から将来の測定点A_(n+1)に至るまでの期間をTとし、「(B_(1)+B_(2)+・・・+B_(n-1))×(T/(単位期間))×(1/(n-1))」で算出される値を最新の測定点A_(n)の体積変形量に加え、その値を、将来の測定点A_(n+1)における炉壁の体積変形量として、将来の測定点A_(n+1)における体積変形量を予測することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のコークス炉の炉壁診断方法。」

第3 令和3年2月10日付けの当審拒絶理由の内容
当審において通知した拒絶理由は、以下の理由1を含むものである。
1 (進歩性)この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物(第4 1)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 当審の判断
1 引用刊行物
刊行物1:特開2016-60867号公報(令和3年2月10日付けの拒絶理由通知書において引用された刊行物1)
刊行物2:特開2007-332382号公報(令和3年2月10日付けの拒絶理由通知書において引用された刊行物2)

2 刊行物の記載
(1)刊行物1の記載
刊行物1には、「コークス炉の炭化室の使用可能期間予測方法及びコークス炉の炭化室の補修方法」について以下の記載がある。

ア「【請求項1】
コークス炉の炭化室の使用可能期間を予測する方法であって、前記炭化室の内壁を調査することで、該内壁のうち、前記コークス炉の建造時の熱間寸法に基づいた初期位置よりも張り出している張出部分を特定し、該張出部分の初期位置と、前記炭化室に挿入される押出ラムのラムヘッドが前記張出部分に最も接近する位置での前記ラムヘッドと、の間隔sdを把握し、前記張出部分についての初期位置からの張出量wを複数回測定して、測定日時tと張出量wとからなるデータセットを複数把握し、前記データセットから導出される、前記測定日時tと前記張出量wとの関係式に基づいて、前記張出部分の張出量wが前記間隔sdとなる日時を算出して、前記使用可能期間を予測することを特徴とするコークス炉の炭化室の使用可能期間予測方法。・・・」
イ「【0002】
コークス炉では、炭化室に装入された石炭を乾留してコークスを製造する。炭化室の両側には窯口が設けられており、一方の窯口側には押出機が配置され、他方の窯口側にはガイド車が配置されている。石炭の乾留中は両側の窯口をコークス炉蓋で覆っておき、乾留後に該コークス炉蓋を開放して、一方の窯口から押出機の押出ラムを炭化室に挿入し、コークスを炭化室から押し出して他方の窯口からコークスをガイド車に排出している。
【0003】
近年、コークス炉の老朽化に伴い、コークス炉を構成する耐火物の一部が摩耗して変形したり、耐火物間の目地が広がるなどして、コークス炉の建造時には、平坦であった炭化室の内壁の一部が張り出してくる場合がある。コークス炉の操業において、張り出しが顕著な内壁部分を有する炭化室を使用していると、コークスが排出し難くなる押し詰まりが発生していた。押し詰まりが発生すると、単位時間当たりのコークスの生産量が悪化してしまう。また、その一部の張出量が更に大きくなると、押出ラムのラムヘッドがその一部に接触して、押出ラムによってコークスを排出できなくなる可能性がある。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、炭化室の内壁のうち、張出部分を把握し、該張出部分の補修が必要となる時期(日時)、すなわち、炭化室の使用可能期間をより正確に予測すること及び予測された使用可能期間に基づいて補修を行う方法を提供することである。」
ウ「【0015】
図2(a)に示す炭化室3においては、コークスの押し詰まりは生じないが、図2(b)に示す炭化室3においては、コークスの押し詰まりすなわち、押出ラム60によってコークスを排出できなくなる現象が、起こる可能性がある。図2(b)に示す炭化室3では、コークス炉1の老朽化に伴い、耐火物の一部が損耗して変形したり、耐火物の目地が広がるなどして、平坦であった炭化室の内壁3bの一部が張り出して、内壁3bに凸凹部が生じており、コークスが押し出される際、コークスが張出部分31に接触することでコークスを押出す際の抵抗が高くなるからである。また、張出部分31が更に張り出すと、ラムヘッド61がその一部に接触してしまい、接触部とその周辺の内壁3bを構成する耐火物積みの崩壊が起きたり、押出ラム60が機能しなくなったりする可能性がある。特に、耐火物積みの崩壊が起こると、その補修には長期間を要することが多いため、このような炉体損傷は避けなければならない。
【0016】
そこで、張出部分31に対して、耐火物の積み替えなどの補修を行う必要がある。本発明者は、コークス炉1の操業において、内壁3bの一部が張り出している炭化室3の内壁3bの凹凸状態に関するデータを測定しており、該データから、補修対象の張出部分31の位置及び補修すべき時期を予測する方法を鋭意検討して、本発明の完成に至った。補修すべき時期(日時)とは、その時期を予測する日時から、炭化室が使用可能である期間(補修までの期間)を意味するものであり、本発明は、補修すべき時期を予測する方法であるとともに、炭化室の使用可能期間を予測する方法であるといえる。
【0017】
本発明では、炭化室3の内壁3bの調査を行いつつ、調査結果に基づいて、炭化室3を補修すべき時期(使用限界日時)を算出する。まずは、内壁3bの調査工程を詳細に説明する。
【0018】
[内壁の調査]
炭化室3の内壁3bを調査することで、内壁3bのうち、コークス炉1の建造時の熱間寸法に基づいた初期位置より張り出している張出部分31を特定する。
内壁3bの調査とは、内壁3bの表面形状を測定することを意味し、特開2013-82909号公報に記載されているコークス炉炉壁形状診断方法によって、内壁3bの表面形状(凹凸、炭化室3の幅の変化)及びその高さを測定できる。内壁表面の一部分の初期位置は、コークス炉1の建造時の熱間寸法に基づいて得られる。調査して得られる内壁3bの表面形状に基づけば、初期位置よりも張り出している内壁3bの一部である張出部分31を特定できる。なお、初期位置よりも張り出している部分が複数存在している場合には、その複数の部分を、後述する張出量wの測定対象としてもよいが、最も張り出している部分を測定対象とすることが好ましい。最も張り出している張出部分31が、ラムヘッド61と早めに接触してしまうと想定されるからである。なお、炭化室の内壁3b表面には、カーボンが付着している場合がある。その場合、内壁3bに付着したカーボンを落として、耐火物表面の形状をより正確に測定し、その測定結果に基づいて後述する張出量wを決めることが好ましい。」
エ「【0021】
一定期間のうちに、特定した張出部分31の張出量wを複数回測定して、測定日時tと該張出量wとからなるデータセットを複数把握する。一定期間とは、コークス炉1の操業期間中の、半年、1年や5年などの比較的長期と考えられる任意の期間を意味する。張出量wとは、前述の通りに決められた測定対象の張出部分31の初期位置から、張出部分31における最も突出している部位の位置までの長手方向Lに沿った距離のことである。張出量wの測定も、特開2013-82909号公報に記載されているコークス炉炉壁形状診断方法による内壁3bの表面形状の測定で行うことができる。図2に示す1点鎖線は、張出部分31における最も突出している部位の位置を表しており、張出部分31の初期位置(図2に示す点線)から張出部分31における最も突出している部位までの、長手方向Lに沿った距離が、張出部分31の張出量wとなる。」
オ「【0023】
本発明者は、多くの炭化室について、長期間の張出量の測定を行った結果、以下の重要な知見を得た。
1)従来の知見では、煉瓦積みの崩壊発生と、張出量の関係は把握されておらず、どの程度の張出量まで操業が可能であるかは明確ではなかった。本発明者が調査したところ、実際に煉瓦積みの崩壊が起きた窯では、張出し部分の煉瓦表面がラムに接触する可能性があるところまで張出量が大きくなっていたことが確認された。すなわち、張出量がそれ以下の場合、コークス押し詰まりの可能性は増加したものの、煉瓦積みの崩壊は起こらず、操業は可能であることを見出した。・・・」
カ「【0025】
[補修すべき時期(使用限界日時)の算出]
前述の調査で把握したデータセットから測定日時tと張出量wとの関係式を導出する。図3は、ある炭化室の張出部分について測定した張出量wと測定日時tとの関係を示すグラフであり、縦軸Yは、ある炭化室3の内壁3bに存在していた張出部分31について測定された張出量w[mm]を表し、横軸Xは日付(測定日時t)を表している。横軸Xの測定時間tの値は、後述するように、張出量wと測定日時tとの関係式を算出することを目的として、測定した日付を、ある基準日からの経過日数の値に変換してある。基準日として1900年1月1日を採用し、1900年1月1日からの経過日数を記載してある。例えば、横軸Xの最小値である40600は、換算すると2011年2月26日を意味する。測定日での測定時刻は、例えば、午前10時などの、各日において同じ時刻とすることが好ましく、グラフにおける張出量wは、測定日の午前10時に測定したものである。また、グラフにおける太線は間隔sdを表し、この場合、間隔sdは60[mm]となっている。
【0026】
図3のグラフでは、2011年2月26日?2013年5月6日の期間において、測定した張出部分31の張出量wと測定日時tとの点が5個示してある。この5個のデータセットから、例えば最小自乗法などにより、張出量wを目的変数とし、測定日時tを説明変数とした近似曲線70を導出することができる。図3の近似曲線70は、直線による近似であるが、例えば2次曲線や他の関数形で近似してもよい。どの程度近似がうまくできているかは、決定係数R^(2)によって判定可能であり、決定係数が十分に高くなるような関数形を用いた近似曲線を採用することができる。近似曲線70の導出の際に得られる決定係数R^(2)(相関係数Rの2乗)は、図3の場合には0.9882となり、張出量wと測定日時tとには極めて強い相関があり、近似曲線70は、張出量wを正確に予測し得ると期待できる。
【0027】
この近似曲線70から求まる関係式に基づいて、張出部分31の張出量wが間隔sdとなる日時を算出する。図3のグラフの場合、張出量w(y)と測定日時t(x)との関係式は、近似曲線70からy=0.0239x-955.27と求まっており、このyに間隔sdの値60を代入すると、x(測定日時t)として42479という値(小数点切り捨て)が算出される。この値を日付に変換すると、2016年4月19日となり、2016年4月19日の測定時刻(午前10時)が、張出量wが間隔sdに到達すると予測される日時となる。」

(2)刊行物2の記載
ア「【0001】
本発明はコークス炉炭化室の診断方法に関するものであり、より詳細には、炭化室の炉壁への炭化物(カーボン)付着や炉壁の欠損、炉壁の変形・移動などによる広狭化などの炉壁状態や、コークスの製造回数の増加にともなう炭化室炉壁の劣化・老朽化等の状態を診断する方法に関するものである。」
イ「【0004】
上記課題を解決することのできた本発明とは、炉壁間距離測定手段を用いて、コークス炉炭化室の任意の高さにおける長さ方向複数位置の炉壁間距離を測定し、得られる実測炉壁間距離変位線に基づいて、実測炉壁間距離の平準化変位線を求めて、前記実測炉壁間距離変位線と前記平準化変位線とを比較し、および/または、炭化室長さ方向の設計炉壁間距離変位線と前記平準化変位線とを比較することにより、前記炭化室の炉壁状態を診断することを特徴とする。前記平準化変位線は、前記炉壁間距離の測定とともに、前記炉壁間距離測定手段に備えられた炉壁面観察デバイスを用いて、前記複数位置における炉壁面の表面変位を観察し、前記実測炉壁間距離変位線を均すことによって求めることが好ましい。前記実測炉壁間距離変位線と前記平準化変位線とを比較することにより炉壁のカーボン付着や欠損などの炉壁表面の変化による変位が分かり、前記炭化室長さ方向の設計炉壁間距離変位線と前記平準化変位線とを比較することにより、炉壁自体が移動・変形することによる炉幅の広狭化による変位がわかる。本発明によれば、炉壁間距離の全体の変位をこれらの2種類の変位に分離することによって、炭化室の炉壁状態を定量的に診断することができる。
【0005】
本発明は、炉壁間距離測定手段を用いて、コークス炉炭化室の任意の高さにおける長さ方向複数位置の炉壁間距離を測定し、得られる実測炉壁間距離変位線に基づいて、実測炉壁間距離の平準化変位線を求め、さらに、前記平準化変位線と前記実測炉壁間距離変位線とによって囲まれた面積の総和、および/または、炭化室長さ方向の設計炉壁間距離変位線と前記平準化変位線とによって囲まれた面積の総和を求めて、前記面積の総和に基づいて前記炭化室の炉壁状態を診断することを特徴とする。また、前記平準化変位線は、前記炉壁間距離の測定とともに、前記炉壁間距離測定手段に備えられた炉壁面観察デバイスを用いて、前記複数位置における炉壁面の表面変位を観察し、前記実測炉壁間距離変位線を均すことによって求めることが好ましい。前記面積の総和は、任意の高さにおける炭化室炉壁の全体の状態を指標するものであり、前記面積の総和を判断基準とすることにより、コークス炉に複数設置されている炭化室や、コークス製造回数の異なる炭化室の劣化状態について定量的な相対評価ができる。」

3 刊行物1に記載された発明
刊行物1の請求項1には、
「コークス炉の炭化室の使用可能期間を予測する方法であって、
前記炭化室の内壁を調査することで、該内壁のうち、前記コークス炉の建造時の熱間寸法に基づいた初期位置よりも張り出している張出部分を特定し、
該張出部分の初期位置と、前記炭化室に挿入される押出ラムのラムヘッドが前記張出部分に最も接近する位置での前記ラムヘッドと、の間隔sdを把握し、
前記張出部分についての初期位置からの張出量wを複数回測定して、測定日時tと張出量wとからなるデータセットを複数把握し、
前記データセットから導出される、前記測定日時tと前記張出量wとの関係式に基づいて、前記張出部分の張出量wが前記間隔sdとなる日時を算出して、前記使用可能期間を予測することを特徴とするコークス炉の炭化室の使用可能期間予測方法。」が記載されている。

また、刊行物1の【0018】には、請求項1に記載された「炭化室の内壁を調査すること」について、「内壁3bの調査とは、内壁3bの表面形状を測定することを意味し、特開2013-82909号公報に記載されているコークス炉炉壁形状診断方法によって、内壁3bの表面形状(凹凸、炭化室3の幅の変化)及びその高さを測定できる。」と記載されているところ、特開2013-82909号公報に記載されているコークス炉炉壁形状診断方法は「・・・蓋をとった炭化室の外側にレーザー式3次元形状測定装置を配置し、そのレーザー式3次元形状測定装置によって炭化室の窯口から斜めにレーザーを壁面に照射して、壁面の形状を点群として測定する工程を、炭化室の左右の壁面に対して独立して実施した後、・・・炉壁形状の診断を行うことを特徴とするコークス炉の炉壁形状診断方法。」(請求項1)であり、レーザーを壁面に照射して測定するものであるから、レーザー式3次元形状測定装置は光学機器といえ、刊行物1に記載の内壁の調査はレーザー式3次元形状測定装置(光学機器)によって、表面形状(凹凸、炭化室3の幅の変化)及びその高さを測定するものであるといえる。
また、刊行物1の【0003】には、コークス炉の老朽化によって、炭化室の内壁の一部が張り出してくる場合があることが記載されており、また、老朽化によって生じる、内壁の張り出しによって、コークスが排出しがたくなる押し詰まりが発生することが記載されている。
さらに、刊行物1の【0007】には、「炭化室の内壁のうち、張出部分を把握し、該張出部分の補修が必要となる時期(日時)、すなわち、炭化室の使用可能期間をより正確に予測すること」と記載されていることから、刊行物1の請求項1の「コークス炉の炭化室の使用可能期間予測方法」とは、炭化室の張出部分の補修が必要となる時期を予測する方法であるといえる。
そうすると、刊行物1の請求項1に記載されるコークス炉の炭化室の使用可能期間を予測するとは、コークス炉の操業において、コークスが排出し難くなる押し詰まりが発生し、コークスが排出できなくならないよう、補修が必要となる時期を予測することであると認められる。
さらに、刊行物1の【0023】には、「本発明者は、多くの炭化室について、長期間の張出量の測定を行った結果、以下の重要な知見を得た。1)従来の知見では、煉瓦積みの崩壊発生と、張出量の関係は把握されておらず、どの程度の張出量まで操業が可能であるかは明確ではなかった。本発明者が調査したところ、実際に煉瓦積みの崩壊が起きた窯では、張出し部分の煉瓦表面がラムに接触する可能性があるところまで張出量が大きくなっていたことが確認された。」と記載されている。
そうすると、刊行物1の請求項1に記載されるコークス炉の炭化室の使用可能期間の予測は、操業が可能であるかについて調査で得られた知見に基づき、行っているといえる。

してみれば、刊行物1には、
「コークス炉の炭化室の使用可能期間を予測する方法であって、
前記炭化室の内壁を光学機器によって、内壁の表面形状(凹凸、炭化室の幅の変化)及びその高さを測定することで、該内壁のうち、前記コークス炉の建造時の熱間寸法に基づいた初期位置よりも張り出している張出部分を特定し、
該張出部分の初期位置と、前記炭化室に挿入される押出ラムのラムヘッドが前記張出部分に最も接近する位置での前記ラムヘッドと、の間隔sdを把握し、
前記張出部分についての初期位置からの張出量wを複数回測定して、測定日時tと張出量wとからなるデータセットを複数把握し、
前記データセットから導出される、前記測定日時tと前記張出量wとの関係式に基づいて、前記張出部分の張出量wが前記間隔sdとなる日時を算出して、操業が可能であるかについて調査で得られた知見に基づき、コークス炉の操業において、コークス炉の老朽化によって生じる、内壁の張り出しによって、コークスが排出し難くなる押し詰まりが発生し、コークスが排出できなくならないよう、補修が必要となる時期を予測するコークス炉の炭化室の使用可能期間予測方法。」(引用発明1)が記載されていると認められる。

4 対比・判断
(1)本願発明1について
本願発明1と引用発明1を対比する。
引用発明1の「コークス炉の操業において、コークス炉の老朽化によって生じる、内壁の張り出しによって、コークスが排出し難くなる押し詰まりが発生し、コークスが排出できなくならないよう、補修が必要となる時期を予測すること」について、コークス炉の操業とは、当然に石炭の乾留工程を含むものであるし、老朽化とは、古く、役に立たないものとなることを意味するのであるから、劣化の一種である。
そして、コークスが排出し難くなることとは、コークスを炭化室から押し出す際の押し出し負荷が高くなることであるし、炭化室の補修が必要となる時期を予測することとは、炭化室が使用不可(稼働不可能)となることを予測することでもある。
してみれば、引用発明1の「コークス炉の操業において、コークス炉の老朽化によって生じる、内壁の張り出しによって、コークスが排出し難くなる押し詰まりが発生し、コークスが排出できなくならないよう、補修が必要となる時期を予測すること」は、本願発明1の「コークス炉の炉体劣化を予測する」こと、及び「石炭の乾留で得られたコークスを押し出し機の押し出しラムで炭化室から押し出す際の押し出し負荷が高くなって、炭化室が稼働不可能になることを予測する」ことに相当する。

また、引用発明1の「内壁」は本願発明の1「炉壁面」に、引用発明1の「測定すること」は本願発明1の「検出」することにそれぞれ相当し、引用発明1の「コークス炉の建造時の熱間寸法に基づいた初期位置」は、本願発明1の「コークス炉建設時の熱間寸法を基準寸法とすること」と同様の内容を意味している。
してみれば、「前記炭化室の内壁を光学機器によって、内壁の表面形状(凹凸、炭化室の幅の変化)及びその高さを測定することで、該内壁のうち、前記コークス炉の建造時の熱間寸法に基づいた初期位置よりも張り出している張出部分を特定」することは、本願発明1の「コークス炉建設時の熱間寸法を基準寸法とし、コークス炉の炭化室炉壁面の前記基準寸法に対する変位を光学機器によって測定して、炭化室炉壁面の前記基準寸法に対する凹凸を検出」することに相当する。
また、引用発明1の「該張出部分の初期位置と、前記炭化室に挿入される押出ラムのラムヘッドが前記張出部分に最も接近する位置での前記ラムヘッドと、の間隔sdを把握し、
前記張出部分についての初期位置からの張出量wを複数回測定して、測定日時tと張出量wとからなるデータセットを複数把握し、
前記データセットから導出される、前記測定日時tと前記張出量wとの関係式に基づいて、前記張出部分の張出量wが前記間隔sdとなる日時を算出して、張出し部分の煉瓦表面がラムに接触する可能性があるところまで張出量が大きくなっていた炭化室は、コークス炉の操業において、コークス炉の老朽化によって生じる、内壁の張り出しによって、コークスが排出し難くなる押し詰まりが発生し、コークスが排出できなくならないよう、補修が必要となる時期を予測する」とは、初期位置からの張出量wに基づいて補修が必要となる時期を予測することであると言い換えることができ、当該張出量wは、刊行物1の【0021】の記載から、「張出部分31の初期位置(図2に示す点線)から張出部分31における最も突出している部位までの、長手方向Lに沿った距離が、張出部分31の張出量w」である。そして、引用発明1において、「補修が必要となる時期」は「張出部分の張出量wが間隔sdとなる日時」であって、当該「日時を算出して、前記使用可能期間を予測すること」は、本願発明1の「石炭の乾留で得られたコークスを押し出し機の押し出しラムで炭化室から押し出す際の押し出し負荷が高くなって、炭化室が稼働不可能になることを予測すること」に相当する。
また、引用発明1において、「前記データセットから導出される、前記測定日時tと前記張出量wとの関係式に基づいて、前記張出部分の張出量wが前記間隔sdとなる日時を算出して、操業が可能であるかについて調査で得られた知見に基づき、」予測することは、張出し部分の煉瓦表面がラムに接触する張出量を、補修が必要となるか否か、実績に基づいて閾値として設定しているといえるから、本願発明1の「コークス炉炭化室の炉壁における前記基準寸法に対して張り出している部位(凸の部位)のみを炉壁の体積変形量とし、前記体積変形量が実績に基づいて設定された閾値を超える炭化室は、石炭の乾留で得られたコークスを押し出し機の押し出しラムで炭化室から押し出す際の押し出し負荷が高くなって、炭化室が稼働不可能になることを予測すること」と引用発明1において、「前記データセットから導出される、前記測定日時tと前記張出量wとの関係式に基づいて、前記張出部分の張出量wが前記間隔sdとなる日時を算出して、操業が可能であるかについて調査で得られた知見に基づき、」予測することとは、「コークス炉炭化室の炉壁における前記基準寸法に対して張り出している部位(凸の部位)が実績に基づいて設定された閾値を超える炭化室は、石炭の乾留で得られたコークスを押し出し機の押し出しラムで炭化室から押し出す際の押し出し負荷が高くなって、炭化室が稼働不可能になることを予測する」である点で共通する。

してみると、本願発明1と引用発明1は、
「コークス炉の炉体劣化を予測するコークス炉の炉壁診断方法であって、
コークス炉建設時の熱間寸法を基準寸法とし、
コークス炉の炭化室炉壁面の前記基準寸法に対する変位を光学機器によって測定して、炭化室炉壁面の前記基準寸法に対する凹凸を検出し、
コークス炉炭化室の炉壁における前記基準寸法に対して張り出している部位(凸の部位)が実績に基づいて設定された閾値を超える炭化室は、石炭の乾留で得られたコークスを押し出し機の押し出しラムで炭化室から押し出す際の押し出し負荷が高くなって、炭化室が稼働不可能になることを予測する、コークス炉の炉壁診断方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)炭化室が稼働不可能となることの予測における「基準寸法に対して張り出している部位(凸の部位)」の「閾値」について、本願発明1が「炉壁の体積変形量」に基づくものであるのに対し、引用発明1は「張出量w」に基づくものである点

以下、上記相違点1について検討する。
上記凸の部位について、引用発明1においても、本願発明と同様に炭化室内で本願発明同様の温度で石炭を乾留させ、コークスを生成する工程を続けていることによって炭化室の炉壁の形状変化が起こるということであれば、本願発明における凸の部位の形状と、引用発明における凸の部位の形状は同様のものであると推測されるし、凸の部位は、通常底面積が大きいほど高さも高いと考えられるから、凸の部位の体積と高さとの間には相関があると考えられる。
してみれば、引用発明1において、張出部分についての初期位置からの張出量wに炭化室が稼働不可能となることの予測を、張出部分についての初期位置からの張出量wが実績に基づいて設定された閾値を超える炭化室」に対して行うのに換えて、張出部分についての初期位置からの体積変化量(基準寸法に対して張り出している部位の炉壁の体積変形量)が実績に基づいて設定された閾値を超える炭化室」に対して行うようになすことは当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎない。
また、本願発明1が引用発明1に比較して、格別顕著な作用効果を奏するものであるとは認めることができない。

そして、仮に、本願発明の炉壁の体積変化量が、特定の凸の部位だけでなく、全ての凸の部位の体積変化量の合計であると考えても、刊行物1の【0018】には、初期位置よりも張り出している部分が複数存在している場合には、その複数の部分を、張出量wの測定対象とすることが記載されている。
また、刊行物2には、引用発明1同様のコークス炉炭化室炉壁の劣化・老朽化等の状態を診断する方法(【0001】)であって、炉壁に向かってレーザー光線を照射し、炉壁からの反射レーザー光線を採取して、その反射時間差を前記炉間距離に変換する手段などの光学機器である炉壁間距離測定手段を用いて、コークス炉炭化室の任意の高さにおける長さ方向複数位置の炉壁間距離を測定し、得られる実測炉壁間距離変位線に基づいて、実測炉壁間距離の平準化変位線を求め、炭化室長さ方向の設計炉壁間距離変位線と前記平準化変位線とによって囲まれた面積の総和(当該面積は、任意の高さの全ての張出部分についての初期位置からの張出量wの総和といえる)を求めて、前記面積の総和に基づいて前記炭化室の炉壁状態を診断する方法(【0004】、【0005】)が記載されているところ、刊行物1に記載されるように、初期位置よりも張り出している全ての凸の部分を張出量wの測定対象とし、また、刊行物2に記載されるように、それら全ての凸の部位の張出量の総和を、コークス炉炭化室炉壁の劣化・老朽化等の状態を診断する際の基準とすることは、当業者の通常の創作能力の発揮であって格別の困難性は認められない。

(2)審判請求人の主張について
ア 請求人は、令和3年3月30日に提出された意見書において、「刊行物1においては、『張出量wが間隔sdと一致すること』、即ち、『張出部分がラムヘッドと接触することを予測すること』が目的」であると主張する。
しかしながら、刊行物1には、「図2(b)に示す炭化室3においては、コークスの押し詰まりすなわち、押出ラム60によってコークスを排出できなくなる現象が、起こる可能性がある。・・・コークス炉1の老朽化に伴い、耐火物の一部が損耗して変形したり、耐火物の目地が広がるなどして、平坦であった炭化室の内壁3bの一部が張り出して、内壁3bに凸凹部が生じており、コークスが押し出される際、コークスが張出部分31に接触することでコークスを押出す際の抵抗が高くなるからである。」(【0015】)、「本発明者が調査したところ、実際に煉瓦積みの崩壊が起きた窯では、張出し部分の煉瓦表面がラムに接触する可能性があるところまで張出量が大きくなっていたことが確認された。」(【0023】)と記載されているように、煉瓦積みの崩壊と張出量との増加傾向の関係に基づいてコークス炉の炭化室の使用可能期間を予測する方法であって、「張出部分がラムヘッドと接触することを予測すること」が目的でないことは明らかである。

イ 請求人は、令和3年3月30日に提出された意見書において、「補正後の本願請求項1及び請求項2に係る発明では、全ての張り出し部位(凸の部位)の体積変化量を炉壁の体積変形量として求めるので(本願明細書の図3などを参照)、刊行物1よりも精度良く炭化室の稼働不可能を予測することができます。」と主張する。
しかしながら、刊行物1においては、「この近似曲線70から求まる関係式に基づいて、張出部分31の張出量wが間隔sdとなる日時を算出する。図3のグラフの場合、張出量w(y)と測定日時t(x)との関係式は、近似曲線70からy=0.0239x-955.27と求まっており」(2(1)カ【0027】)と記載され、張出量wの近似曲線70は日数についての一次関数であることが記載されている。
一方、本願の発明の詳細な説明には、「図4の『y=0.0026x-3.466』なる式は、yが炉壁の体積変形量(m^(3))で、xが時間の経過(月単位)であり、2014年4月1日を第1回目の測定日とし、その後に行った2回の測定結果とを合わせた合計3回の測定結果に基づいて求めた近似直線である。」(【0040】)と記載され、体積変化量の近似曲線は月数についての一次関数であることが記載されている。
そうすると、本願発明1は、1月単位で稼働不可能を予測するものも含まれるといえ、1日単位で稼働不可能を予測する引用発明1と比較して、本願発明1がより精度よく稼働不可能を予測するものであるとは認めることができない。
したがって、発明の詳細な説明には、本願発明が刊行物1よりも精度良く炭化室の稼働不可能を予測できることは何ら実証していないといえるから、「精度良く予測することが実現される」との主張は採用できない。

ウ 請求人は、令和3年3月30日に提出された意見書において、「補正後の本願請求項1、2に係る発明は、『体積変形量が実績に基づいて設定された閾値を超える炭化室は、石炭の乾留で得られたコークスを押し出し機の押し出しラムで炭化室から押し出す際の押し出し負荷が高くなって、炭化室が稼働不可能になることを予測する』という点で刊行物1、2とは構成が異なり、また、この構成を刊行物1、2は示唆しておらず、更に、この構成によって、『体積変形量に基づいて炉体劣化を予測するので、炉壁煉瓦間のゆるみに起因するコークス炉の劣化を精度良く予測することが実現される』という、刊行物1、2が有していない顕著な効果を備えており、刊行物1、2に対して十分に進歩性を有していると考えます。」と主張する。
しかしながら、炉壁の体積変形量が直ちに炉壁煉瓦間のゆるみに起因するコークス炉の劣化を示す指標であるという技術常識は見当たらないことから、炉壁煉瓦間のゆるみに起因するコークス炉の劣化を予測することは、請求項の記載で特定されていないといえ、当該主張は請求項の記載に基づくものでないから採用できない。

(3) むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、その出願前日本国内又は外国において頒布された上記刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 まとめ
本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願発明2及び3について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2021-06-09 
結審通知日 2021-06-15 
審決日 2021-07-21 
出願番号 特願2017-125746(P2017-125746)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C10B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 川端 修
亀ヶ谷 明久
発明の名称 コークス炉の炉壁診断方法  
代理人 熊坂 晃  
代理人 森 和弘  
代理人 磯村 哲朗  
代理人 坂井 哲也  
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