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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1377621
審判番号 不服2020-15648  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-11-12 
確定日 2021-09-30 
事件の表示 特願2019-120614「絶縁電線及びケーブル」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 9月19日出願公開、特開2019-160811、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年6月17日に出願された(以下、この出願された日を「原出願の出願日」という。)特願2016-120682号の一部を平成30年3月9日に新たな出願とした特願2018-042459号の一部を、さらに令和元年6月28日に新たな出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 元年 6月28日 上申書の提出
令和 2年 6月15日付け 拒絶理由通知書
令和 2年 8月 4日 意見書の提出
令和 2年 8月17日付け 拒絶査定
令和 2年11月12日 審判請求書、手続補正書の提出
令和 3年 5月26日付け 令和2年11月12日の手続補正につい
ての補正の却下の決定、拒絶理由通知書
令和 3年 7月16日 意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和2年8月17日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

この出願の請求項1ないし5に係る発明は、その原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その原出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2007-161960号公報
2.特開2002-203434号公報
3.特開2014-179327号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2016-021360号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2008-277142号公報(周知技術を示す文献)

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由(令和3年5月26日付け拒絶理由)の概要は次のとおりである。

この出願の請求項1及び5に係る発明は、その原出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その原出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
A 特開2002-203434号公報(拒絶査定時の引用文献2である。)
B 特開2008-277142号公報(拒絶査定時の引用文献5である。)

第4 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明(以下、「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、令和3年7月16日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1及び2は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
導体と、前記導体の外周に設けられた、金属水酸化物を含有する難燃内層と、前記難燃内層の外周に設けられた水分浸入防止層とを備え、
前記水分浸入防止層の外周に設けられた難燃外層を備える絶縁電線であって、
前記難燃外層は、ベースポリマと金属水酸化物を含み、前記ベースポリマ100質量部に対して前記金属水酸化物を150質量部以上250質量部以下含有し、
前記水分浸入防止層が、膜厚10μm以上200μm以下の高密度高分子膜又は低密度高分子膜からなる絶縁電線。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁電線を備えたケーブル。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶理由に引用された引用文献1には、次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用の電線などに用いて有用な防鼠耐磨耗性難燃樹脂組成物及びこれを用いた防鼠絶縁電線に関するものである。」

「【0018】
本発明では、上記ホモPP系樹脂60?95質量部に対して、LDPEを5?40質量部の範囲で混合して、ベース樹脂100質量部を得ている。この理由は、LDPEの添加量が5質量部未満では、所望の柔軟化効果が得られず、逆に、40質量部を超えるようになると、ホモPP系樹脂量が相対的に減少するため、所望の剛性による良好な耐熱性、耐磨耗性などが得られなくなるからである。
【0019】
本発明で用いる難燃剤としては、金属水酸化物が挙げられ、特にシリコーン処理された金属水酸化物の使用が好ましい。シリコーン処理されたものの場合、シリコーン無処理のものに比較して、所望の難燃効果を得るにおいて、金属水酸化物の添加量が少なくて済む。このため、添加量の多いことによる弊害、例えば、機械的特性の低下などを抑制することができる。
【0020】
本発明では、この難燃剤を、ベース樹脂100質量部に対して、80?120質量部としてある。通常シリコーン無処理の金属水酸化物を難燃剤として用いた場合、所望の難燃性を得るためには、ベース樹脂100質量部に対して、120質量部を超える量を添加する必要がある。本発明の場合、金属水酸化物のシリコーン処理効果により、少な目の添加量で対応することができる。しかし、80質量部未満では、所望の難燃性が得られず、下限の添加量を80質量部とした。一方、添加量が多くなるほど、樹脂組成物の機械的特性などが低下するようになるから、その上限値を120質量部とした。
【0021】
この難燃剤の金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなどを挙げることができるが、水酸化マグネシウムの使用が好ましい。この水酸化マグネシウムのシリコーン処理された市販品としては、例えば、キスマ5P(商品名、協和化学社製)を挙げることができる。
【0022】
本発明で用いる防鼠剤としては、鼠が嫌う性質の材料であれば特に限定されないが、唐辛子の有効成分であるカプサイシン類、マイクロカプセル化したシクロヘキシミド、メルカプタンなどを挙げることができる。そして、その添加量は0.1質量部以上とする。しかし、鼠が噛み付かない程度で十分であるため、そんなに大量添加する必要もない。従って、上限値も10質量部程度よい。」

「【0030】
〈実施例、比較例〉
表1?表2に示した配合からなる、本発明の防鼠耐磨耗性難燃樹脂組成物(実施例1?11)と、本発明の条件を欠く樹脂組成物(比較例1?9)により、サンプルの防鼠絶縁電線を製造した。なお、サンプルの絶縁電線は、外径φ0.9mmの導体上に厚さ0.2mmの絶縁体として、上記各組成物を押出被覆し(被覆外径φ1.3mm)、窒素雰囲気中で電子線照射を行った。電子線照射の強度は0.5Mradであった。また、表中の配合材料の数値は質量部数を示す。なお、用いたホモPP系樹脂はプライムポリマー社製のE111G(商品名)、LDPEは宇部興産社製のUBEC150(商品名)、難燃剤はシリコーン処理された金属水酸化物の水酸化マグネシウムである、キスマ5P(商品名、協和化学社製)、酸化防止剤はイルガノックス1010(商品名、チバスペシャルティ・ケミカルズ社製)、銅害防止剤はCDA-1(商品名、旭電化工業社製)、架橋助剤は25000ppmのHQを併用したTMPTである、NKエステルTMPT(商品名、新中村化学工業社製)である。」

「【0039】
【表1】



してみると、引用文献1には以下の発明が記載されていると認められる。

「導体上に、
ベース樹脂100重量部に対して、シリコーン処理した金属水酸化物を80?120質量部、および、カプサイシン類を0.1質量部以上添加した防鼠耐摩耗性難燃樹脂組成物を被覆した、
防鼠絶縁電線。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由、及び当審拒絶理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の記載がある。

「【請求項1】ケーブルシース上に防鼠層、遮水層、防鼠層を順次施してなることを特徴とする遮水防鼠ケーブル。」

「【0003】
【発明が解決しようとする課題】前述した従来技術;図2の防鼠ケーブルでは、防鼠層3が最外層に露出状態で設けられているため、防鼠剤の成分が、周囲の過酷な環境;水、熱等の影響を受けて経年変化または揮発し、防鼠効果が短い期間しか保持することができないという欠点があった。
【0004】本発明は、前述した従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、その課題;目的は,防鼠効果を長い期間保持可能な遮水防鼠ケーブルを提供することにある。」

「【0008】 図示したように、この実施例のケーブルは、撚り合わせコア1外周に施されるケーブルシース2上に、防鼠層3、遮水層4、防鼠層5を順次施して構成されたものである。
【0009】 防鼠層3,5は、ビニル等のコンパウンドに防鼠剤を練り込んだものを押し出し成形して形成される。防鼠剤としては、トウガラシの辛み成分であるカプサイシンや、ネズミ忌避成分であるナラマイシンがあげられる。
【0010】 遮水層は、遮水テープを縦添えし、ラップ面を接着させる構造とする。遮水テープとしては、アルミラミネートテープや鉛ラミネートテープがあげられる。可撓性を重視する場合に鉛ラミネートテープを使用する。
【0011】 このような構造の遮水防鼠ケーブルによれば、外側の防鼠層5は従来の防鼠層と同じ働きをする。遮水層4があるため、遮水効果が得られる。外側の防鼠層5及び遮水層4により、熱や水等の影響を低減できるので、内側にある防鼠層3は防鼠剤の変化や揮発を抑制することができ、防鼠効果を長期間保持することが可能となる。」

上記記載によれば、引用文献2には次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「遮水防鼠ケーブルにおいて、
撚り合わせコア1外周に施されるケーブルシース上に、防鼠層3、遮水層4、防鼠層5を順次施して構成し、
防鼠層3,5は、ビニル等のコンパウンドに防鼠剤を練り込んだものを押し出し成形して形成し、
遮水層4は、アルミラミネートテープや鉛ラミネートテープを縦添えし、ラップ面を接着させる構造とすることにより、
外側の防鼠層5及び遮水層4により水等の影響を低減でき、内側にある防鼠層3の防鼠効果を長期間保持することができるようにしたこと。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の記載がある。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周に、
水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム又は水酸化カルシウムのうち少なくとも1種以上からなる金属水酸化物の粒子を脂肪酸系材料で表面処理し、これをポリオレフィン系樹脂に添加してなる難燃性樹脂組成物であって、
前記ポリオレフィン系樹脂は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体を主成分とし、前記脂肪酸系材料は、脂肪酸金属塩からなり、
前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記金属水酸化物を150質量部以上300質量部以下添加し、
前記金属水酸化物の平均粒径が1μm以下であり、
前記金属水酸化物の粒子の表面が一部露出するように、前記脂肪酸金属塩を、前記金属水酸化物に対し0.3mass%以上1.5mass%以下の範囲で添加した難燃性樹脂組成物を被覆したことを特徴とする電線。
【請求項2】
導体に絶縁体を被覆した電線の外周に、
水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム又は水酸化カルシウムのうち少なくとも1種以上からなる金属水酸化物の粒子を脂肪酸系材料で表面処理し、これをポリオレフィン系樹脂に添加してなる難燃性樹脂組成物であって、
前記ポリオレフィン系樹脂は、エチレン-アクリル酸エチル共重合体を主成分とし、前記脂肪酸系材料は、脂肪酸金属塩からなり、
前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記金属水酸化物を150質量部以上300質量部以下添加し、
前記金属水酸化物の平均粒径が1μm以下であり、
前記金属水酸化物の粒子の表面が一部露出するように、前記脂肪酸金属塩を、前記金属水酸化物に対し0.3mass%以上1.5mass%以下の範囲で添加した難燃性樹脂組成物からなるシースを有することを特徴とするケーブル。
【請求項3】
前記脂肪酸金属塩は、ステアリン酸ナトリウム又はオレイン酸ナトリウムである請求項1に記載の電線。
【請求項4】
前記脂肪酸金属塩は、ステアリン酸ナトリウム又はオレイン酸ナトリウムである請求項2に記載のケーブル。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化合物を含まない難燃性樹脂組成物を用いた電線・ケーブルに関するものである。」

「【0037】
図1は、導体1に絶縁体2を被覆した電線10を示したものであり、絶縁体2に本発明の難燃性樹脂組成物を用いたものである。また、図2は、図1の電線10を介在4と共に撚り合わせ、押え巻きテープ5を施し、最外層をシース3として押出し被覆したケーブル20を示したものであり、絶縁体2及び、シース3に本発明の難燃性樹脂組成物を用いたものである。」

4 引用文献4について
原査定の拒絶理由に引用された引用文献4には、図面とともに次の記載がある。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の外周上に設けられる内層、および前記内層の外周上に設けられる外層を有する絶縁被覆層と、を備え、
前記内層が、
密度が0.864g/cm^(3)以上0.890g/cm^(3)以下、融点が90℃以下、かつメルトフローレートが1g/10分以上5g/10分以下である第1のエチレン-αオレフィン共重合体(a1)、および融点が55℃以上80℃以下、かつメルトフローレートが30g/10分以上である第2のエチレン-αオレフィン共重合体(a2)を比率50:50?90:10で含有するベースポリマ(A)を100質量部と、無機充填剤(B)を80質量部以上150質量部以下と、架橋剤(C)と、を含有するノンハロゲン樹脂組成物から形成され、
前記外層が、
融点が70℃以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体を含むエチレン-酢酸ビニル共重合体(d1)およびガラス転移点が-55℃以下である酸変性ポリオレフィン樹脂(d2)を比率70:30?99:1で含有するベースポリマ(D)を100質量部と、ノンハロゲン難燃剤(E)を100質量部以上250質量部以下と、を含有し、前記ベースポリマ(D)が、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体(d1)に由来する酢酸ビニル成分を25質量%以上50質量%以下含有する、ノンハロゲン難燃樹脂組成物から形成されている、絶縁電線。
【請求項2】
前記無機充填剤(B)の平均粒子径は、0.8μm以上2.5μm以下である、請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記融点が70℃以上であるエチレン-酢酸ビニル共重合体は、メルトフローレートが6g/10分以上である、請求項1又は2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記ノンハロゲン難燃剤(E)は、金属水酸化物である、請求項1?3のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記ノンハロゲン難燃剤(E)は、シラン処理又は脂肪酸処理されている、請求項1?4のいずれかに記載の絶縁電線。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線に関する。」

「【0054】
(ノンハロゲン難燃剤(E))
ノンハロゲン難燃剤(E)としては、金属水酸化物などを用いることができる。金属水酸化物は、外層12bが加熱されたときに分解して脱水し、放出した水分により外層12bの温度を低下させ、その燃焼を抑制するものである。金属水酸化物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、およびこれらにニッケルが固溶した金属水酸化物を用いることができる。これらのノンハロゲン難燃剤(E)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムの少なくとも1種を用いることが好ましい。これらは、分解時の吸熱量が1500?1600J/gであり、水酸化カルシウムの吸熱量(1000J/g)よりも高いからである。」

5 引用文献5について
原査定の拒絶の理由、及び当審拒絶理由に引用された引用文献5には、図面とともに次の記載がある。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周に多層構造の絶縁体が被覆されており、
前記絶縁体の最外層は、難燃剤を含有する樹脂組成物よりなり、
前記絶縁体の最内層は、前記最外層よりも少量の難燃剤を含有しているか、難燃剤を含有していない樹脂組成物よりなることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
前記最外層は、前記最外層の樹脂成分100重量部に対して、前記難燃剤を30?250重量部含有していることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記最内層は、前記最内層の樹脂成分100重量部に対して、前記難燃剤を5?50重量部含有していることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記最内層の厚みは、前記絶縁体の厚みの1/2以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記絶縁体の厚みは、0.5mm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の絶縁電線を含むことを特徴とするワイヤーハーネス。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関し、さらに詳しくは、車両部品、電気・電子機器部品などに好適に用いられる絶縁電線およびワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車部品などの車両部品、電気・電子機器部品などの配線に用いられる絶縁電線としては、一般に、導体の外周に、ハロゲン系難燃剤を添加した塩化ビニル樹脂組成物を被覆したものが広く用いられてきた。
【0003】
しかしながら、この種の塩化ビニル樹脂組成物は、ハロゲン元素を含有しているため、車両の火災時や電気・電子機器の焼却廃棄時などの燃焼時に有害なハロゲン系ガスを大気中に放出し、環境汚染の原因になるという問題があった。
【0004】
そのため、地球環境への負荷を抑制するなどの観点から、近年では、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂などに、ノンハロゲン系難燃剤として水酸化マグネシウム等の金属水酸化物を添加した、いわゆるノンハロゲン系難燃性組成物への代替が進められている。
【0005】
例えば特許文献1には、エチル-アクリル酸エチル共重合体(EEA)やポリエチレン、エチレンプロピレンゴムなどの樹脂やゴムに難燃剤として水酸化マグネシウムを添加した難燃性組成物が被覆された絶縁電線が開示されている。」

「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、絶縁体への難燃剤の配合形態を工夫して、導体と絶縁体の密着性を高めることにより、十分な難燃性を維持したまま、耐摩耗性を向上させることが可能であるとの知見を得て、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る絶縁電線は、導体の外周に多層構造の絶縁体が被覆されており、前記絶縁体の最外層は、難燃剤を含有する樹脂組成物よりなり、前記絶縁体の最内層は、前記最外層よりも少量の難燃剤を含有しているか、難燃剤を含有していない樹脂組成物よりなることを要旨とするものである。
【0011】
この場合、前記最外層は、前記最外層の樹脂成分100重量部に対して、前記難燃剤を30?250重量部含有していることが望ましい。
【0012】
また、前記最内層は、前記最内層の樹脂成分100重量部に対して、前記難燃剤を5?50重量部含有していることが望ましい。
【0013】
そして、前記最内層の厚みは、前記絶縁体の厚みの1/2以下であることが望ましい。
【0014】
さらに、前記絶縁体の厚みは、0.5mm以下であることが望ましい。
【0015】
一方、本発明に係るワイヤーハーネスは、上記絶縁電線を含むことを要旨とするものである。」

「【0023】
本発明に係る絶縁電線は、導体の外周に、多層構造を有する絶縁体が被覆されてなる。絶縁体の層構成は、2層以上であれば良く、特に限定されるものではない。一般的には、層数が多くなると製造工程が煩雑になるため、量産性を考慮すると、絶縁体は2層または3層であることが好ましい。
【0024】
絶縁体の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば自動車用途であれば、自動車用電線は軽量化・細径化される傾向にあり、自動車用途で細径電線に用いることができる観点からいえば、絶縁体の厚みは、0.5mm以下であることが好ましい。」

「【0026】
絶縁体が2層よりなる場合、最外層と最内層とで構成される。・・・」

「【0028】
最外層は、難燃性の観点から、樹脂成分100重量部に対して、難燃剤を30重量部以上含有していることが好ましい。より好ましくは、50重量部以上、さらに好ましくは、60重量部以上である。一方、十分な機械特性を得るためには、最外層の樹脂成分100重量部に対して、難燃剤を250重量部以下とすることが好ましい。より好ましくは、200重量部以下、さらに好ましくは、180重量部以下である。」

「【0039】
絶縁体形成材料に添加する難燃剤としては、ノンハロゲン系の難燃剤が良く、例えば、金属水酸化物などが好ましい。金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなどを例示することができる。好ましくは、水酸化マグネシウムである。水酸化マグネシウムとしては、いわゆる合成品でも良いし、天然鉱物を粉砕して得られる天然品でも良い。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明の「導体」は、本願発明1の「導体」に相当する。

イ 引用発明の「防鼠耐摩耗性難燃樹脂組成物」は、「シリコーン処理した金属水酸化物」を含むから、金属水酸化物を含有するものということができ、また、この「防鼠耐摩耗性難燃樹脂組成物」を被覆した層は、金属水酸化物を含有する層ということができる。
そうすると、引用発明の、導体上に「防鼠耐摩耗性難燃樹脂組成物」を被覆したことと、本願発明1の「前記導体の外周に設けられた、金属水酸化物を含有する難燃内層と、前記難燃内層の外周に設けられた水分浸入防止層とを備え、前記水分浸入防止層の外周に設けられた難燃外層を備える」ことは、「前記導体の外周に設けられた、金属水酸化物を含有する層を備える」点で共通する。

ウ 引用発明の「防鼠絶縁電線」は、絶縁性を有していると認められるから、本願発明1の「絶縁電線」に対応する。

エ そうすると、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

[一致点]
「導体と、前記導体の外周に設けられた、金属水酸化物を含有する層を備える、絶縁電線。」

[相違点]
本願発明1は、「導体」の外側に「金属水酸化物を含有する難燃内層と、前記難燃内層の外周に設けられた水分浸入防止層とを備え、 前記水分浸入防止層の外周に設けられた難燃外層を備える絶縁電線であって、 前記難燃外層は、ベースポリマと金属水酸化物を含み、前記ベースポリマ100質量部に対して前記金属水酸化物を150質量部以上250質量部以下含有し、 前記水分浸入防止層が、膜厚10μm以上200μm以下の高密度高分子膜又は低密度高分子膜からなる」層を備えるのに対して、引用発明は、対応する構成を備えていない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点について検討すると、上記相違点に係る構成は、上記引用文献2ないし5には記載されおらず、また原出願の出願前に周知であったともいえない。
なお、引用文献2記載事項にあるように、引用文献2には、
「遮水防鼠ケーブルにおいて、
撚り合わせコア1外周に施されるケーブルシース上に、防鼠層3、遮水層4、防鼠層5を順次施して構成し、
防鼠層3,5は、ビニル等のコンパウンドに防鼠剤を練り込んだものを押し出し成形して形成し、
遮水層4は、アルミラミネートテープや鉛ラミネートテープを縦添えし、ラップ面を接着させる構造とすることにより、
外側の防鼠層5及び遮水層4により水等の影響を低減でき、内側にある防鼠層3の防鼠効果を長期間保持することができるようにしたこと。」
が記載されているが、引用文献2に記載された「遮水防鼠ケーブル」の水分防止機能を有する層である「遮水層4」は、「アルミラミネートテープや鉛ラミネートテープを縦添えし、ラップ面を接着させる構造」であるから、本願発明1の「前記水分浸入防止層が、膜厚10μm以上200μm以下の高密度高分子膜又は低密度高分子膜からなる」ことは記載されていない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明、引用文献2ないし5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2は、本願発明1の「導体」の外側に「金属水酸化物を含有する難燃内層と、前記難燃内層の外周に設けられた水分浸入防止層とを備え、前記水分浸入防止層の外周に設けられた難燃外層を備える絶縁電線であって、前記難燃外層は、ベースポリマと金属水酸化物を含み、前記ベースポリマ100質量部に対して前記金属水酸化物を150質量部以上250質量部以下含有し、前記水分浸入防止層が、膜厚10μm以上200μm以下の高密度高分子膜又は低密度高分子膜からなる」構成を備えることと、同一の構成を備える「絶縁電線を備えたケーブル」であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2ないし5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定についての判断
令和3年7月16日付けの補正により、補正後の請求項1及び2は、「導体」の外側に「金属水酸化物を含有する難燃内層と、前記難燃内層の外周に設けられた水分浸入防止層とを備え、前記水分浸入防止層の外周に設けられた難燃外層を備える絶縁電線であって、前記難燃外層は、ベースポリマと金属水酸化物を含み、前記ベースポリマ100質量部に対して前記金属水酸化物を150質量部以上250質量部以下含有し、前記水分浸入防止層が、膜厚10μm以上200μm以下の高密度高分子膜又は低密度高分子膜からなる」構成を備えることとなった、
当該「導体」の外側に「金属水酸化物を含有する難燃内層と、前記難燃内層の外周に設けられた水分浸入防止層とを備え、前記水分浸入防止層の外周に設けられた難燃外層を備える絶縁電線であって、前記難燃外層は、ベースポリマと金属水酸化物を含み、前記ベースポリマ100質量部に対して前記金属水酸化物を150質量部以上250質量部以下含有し、前記水分浸入防止層が、膜厚10μm以上200μm以下の高密度高分子膜又は低密度高分子膜からなる」構成を備えることは、原査定における引用文献1ないし5には記載されておらず、原出願の出願前における周知技術であるともいえないので、本願発明1及び2は、当業者であっても、原査定における引用文献1ないし5に基づいて容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由について
上記第7で検討したように、相違点に係る本願発明1の構成は、当審拒絶理由で引用した引用文献2、5には記載されておらず、「導体」の外側に「金属水酸化物を含有する難燃内層と、前記難燃内層の外周に設けられた水分浸入防止層とを備え、前記水分浸入防止層の外周に設けられた難燃外層を備える絶縁電線であって、前記難燃外層は、ベースポリマと金属水酸化物を含み、前記ベースポリマ100質量部に対して前記金属水酸化物を150質量部以上250質量部以下含有し、前記水分浸入防止層が、膜厚10μm以上200μm以下の高密度高分子膜又は低密度高分子膜からなる」構成を備えることは、原出願の出願前における周知技術でもないので、本願発明1及び2は、当業者であっても、当審拒絶理由における引用文献2、5に基づいて容易に発明できたものではない。
したがって、当審拒絶理由は解消した。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2021-09-07 
出願番号 特願2019-120614(P2019-120614)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 ▲吉▼澤 雅博
小田 浩
発明の名称 絶縁電線及びケーブル  
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