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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01F
管理番号 1377662
審判番号 不服2020-7751  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-05 
確定日 2021-09-08 
事件の表示 特願2018-544872「補正測定流量の決定」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月31日国際公開、WO2017/146717、平成31年 3月 7日国内公表、特表2019-506617〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)2月26日を国際出願日とする外国語特許出願であって、平成30年9月26日に翻訳文が提出され、令和元年8月16日付けの拒絶理由通知に対し、同年11月22日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、令和2年2月7日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ(原査定の謄本の送達日:同年2月18日)、これに対して、令和2年6月5日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1?15に係る発明は、令和元年11月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次に特定されるとおりである。
なお、請求項1については、令和元年11月22日付けの補正の前後でその記載に変更箇所はない。

「【請求項1】
補正測定流量を決定する方法であって、
第1の流量計で流量を測定するステップと、
第2の流量計で流量を測定するステップであって、前記第2の流量計は前記第1の流量計に直列に流体結合される、ステップと、
前記第1の流量計の前記測定流量を前記第2の流量計の前記測定流量を用いて補正するステップと
を含む方法。」


第3 原査定の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由は、次のとおりである。

本願発明は、下記の引用文献1又は引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1:特開昭63-308519号公報
引用文献2:特表2013-501933号公報


第4 当審の判断
1 引用文献2
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用する特表2013-501933号公報(上記引用文献2)には、図面とともに次の事項が記載されている。下線は当審が付した。

「【請求項1】
振動式フローメーターを動作させるための方法であって、
第一の振動式フローメーターからの第一のセンサー信号と、少なくとも第二の振動式フローメーターからの第二のセンサー信号とを受け取るステップと、
前記第一のセンサー信号から第一の流量を求め、前記第二のセンサー信号から第二の流量を求めるステップと、
前記第一の流量及び前記第二の流量に基づいて、前記第一の振動式フローメーターの差動ゼロオフセットを求めるステップと
を有する、方法。
【請求項2】
前記第一の振動式フローメーターからさらに後の第一のセンサー信号を受け取るステップと、
受信した、さらに後の第一のセンサー信号と求められた前記差動ゼロオフセットを用いて、補償済み流量を求めるステップとをさらに有する、請求項1に記載の方法。」

「【0019】
本発明のある実施形態によれば、メーター電子機器20は、ゼロオフセットと1つ以上の運転条件との間の相関関係を作成するように構成されうる。本発明のある実施形態によれば、メーター電子機器20はゼロオフセットのズレを補償するように構成されている。
本発明のある実施形態によれば、メーター電子機器20は、ゼロオフセットと1つ以上の測定可能な運転条件との間の相関関係に基づいてゼロオフセットのズレを補償しうる。
本発明の1つの実施形態によれば、ゼロオフセットは絶対零度オフセットである。本発明の他の実施形態によれば、ゼロオフセットは差動ゼロオフセットである。差動ゼロオフセットは、センサーの初期のゼロオフセットを2つ以上のセンサー間の差動誤差と組み合わせたものである。差動ゼロオフセットは、較正されるセンサー及び基準センサーを流れる流量を実質的に等しくするために必要となる場合もある。
換言すれば、上述の式(1)を参照すると、同一の流体流量が、較正されるセンサーと基準センサーとを流れる場合、これら2つのセンサーは、式(1)を各センサーについて用いて2つの質量流量を生成することができる。基準センサーの質量流量が較正されるメーターの質量流量と等しいと仮定すると、較正されるセンサーの差動ゼロオフセットを算出することができる。この方法により、較正されるセンサーについて、基準流量を反映した新たなゼロオフセットが求められる。この新たなゼロオフセットは実質的に差動オフセットである。このことは、式2及び式3に示されている。
【数3】


[当審注。
式(2)は、ドットの位置がm_(R)の上にあるべきところ、右辺の上にあるという誤記がある。正しくは、次式である。

]

【数4】


この式で、
【数5】


は基準質量流量であり、Δt_(0c)は較正されるセンサーの初期のゼロオフセットであり、Δt_(E)は差動誤差であり、Δt_(c)は較正されるセンサーの測定された時間遅れであり、FCFcは較正されるセンサーの流量較正係数である。
式(3)について、較正されるセンサーのゼロオフセットと差動誤差とを組み合わせることによりさらに簡単にすることができる。その結果、式(4)に示されている差動ゼロオフセットを定義する式が得られる。
【数6】


この式で、Δt_(D)は差異ゼロオフセットである。(当審注:「差動ゼロオフセット」の誤記と認める。)
【0020】
従って、較正されるセンサーの差動ゼロオフセットとは、ゼロ流量を基準とするという意味での絶対的なゼロオフセットのことではない。もっと正確にいえば、このゼロオフセットは、2つのセンサー間の差を考慮に入れているという意味での差動ゼロオフセットである。この差動オフセットが求められ、除去されると、対になったセンサーの示差測定法の性能が著しく向上されることとなる。運転条件が変わる場合の差動オフセットを求めることが必要となる場合もある。流量較正係数または初期のゼロオフセット値の如きある値が一定のままであると仮定することにより、式(4)を複数の方法でさらに簡略化することができることは理解されるべきである。従って、式(4)がどのような形態であるかによって本発明の技術範囲が限定されるべきではない。
いずれの実施形態であっても、本発明は、センサーを流れる流れを停止させることなくゼロオフセットのズレを補償することができる。有利なことに、本発明は、通常の使用中にセンサーを動作させながらゼロオフセットのズレを求めて補償することができる。」

「【0025】
図3は、本発明のある実施形態にかかるフローメーターシステム300を示すブロック図である。フローメーターシステム300は典型的な燃料効率システムとして示されているが、燃料はたんなる1例に過ぎず、このシステム300は他の流体にも同様に適用可能であることは理解されるべきである。従って、燃料の使用により本発明の技術範囲が限定されるべきではない。フローメーターシステム300は、燃料供給源301と、燃料供給導管302と、この燃料供給導管302に配置されている第一の振動式フローメーター10と、燃料流出口304と、燃料返還導管306と、燃料返還導管306に配置される第二の振動式フローメーター305とを備えている。通常、エンジンまたは他の燃料消費デバイスは、第一のフローメーター10と第二のフローメーター305との間に配置されているが、図面の複雑さを減らすため、このデバイスは図面から削除されている。図示されていないが、いうまでもなく、フローメーター10、305は通常1つ以上のメーター電子機器に接続されている。実施形態によっては、第一のフローメーター10及び第二のフローメーター305が同一のメーター電子機器に接続されている場合もある。本発明のある実施形態によれば、第一のフローメーター10及び第二のフローメーター305はコリオリフローメーターでる。しかしながら、これらのフローメーターは、コリオリフローメーターの測定能力を欠く他のタイプの振動式センサーであってもよい。従って、本発明はコリオリフローメーターに限定されるべきではない。
【0026】
使用時、燃料の如き流体を流体供給導管302を通じて第一のフローメーター10に供給することができる。第一のフローメーター10は、上述のように、流体流量を含むさまざまな流体パラメーターを算出することができる。その後、燃料は、第一のフローメーター10から流出し、燃料消費デバイスを通り、燃料流出口304または第二のフローメーター305のいずれかへと至る。たとえばエンジンが動作して燃料を消費している場合のように燃料が燃料流出口304から取り入れられている場合、第一の振動式フローメーター10から流出する燃料の一部分だけが第二の振動式フローメーター305へ流れていくことになる。従って、第一の振動式フローメーター10と第二の振動式フローメーター305とによって測定される流量は異なることになる。未使用の燃料は、第二の振動式フローメーター305を通り、図示されているような燃料供給源301へと戻ることができる。燃料効率システム300は1つの燃料流出口304と2つの振動式フローメーター10、305だけしか示していないものの、実施形態によっては、複数の燃料流出口があり、従って2を超える数の振動式フローメーターがある場合もあることは理解されるべきである。
本発明のある実施形態によれば、第一のフローメーター10と第二のフローメーター305とによって測定される流量の差は、流体流出口304から流出する燃料、すなわちエンジンによって消費される燃料の流量と実質的に等しい。従って、2つのフローメーター10、305間の測定流量の差は、図3に示されている構成に類似するほとんどの用途において関心の対象となる値である。従って、一方のメーターを基準メーターとしてセットし、流量が同一であると考えられる場合、すなわち流体が燃料流出口304から流出していない場合に、他方のメーターを基準メーターと一致させるように較正することができる。ほとんどの実施形態では、どちらのメーターを基準メーターとしてセットするかは重要なことではない。」

「【0029】
図4には、本発明のある実施形態にかかる差動オフセット決定ルーチン213が示されている。本発明のある実施形態によれば、メーター電子機器20は、たとえば差動オフセット決定ルーチン213を実行するように構成されてもよい。差動オフセット決定ルーチン213は、センサーが設置された後、製造業者によって実行されてもよいしまたはユーザーによって実行されてもよい。
実施形態によっては、差動オフセット決定ルーチン213が図3に示されているような複数のフローメーターに対して用いられる場合には、ルーチン213は、流体流量がゼロであるときを含めて2つ以上のフローメーターを流れる流量が実質的に同一であるときに実行されるようになっている場合もある。差動オフセット決定ルーチン213は、2つ以上のフローメーター間の差動ゼロオフセットを較正するために実行されてもよい。従って、差動オフセット決定ルーチン213は、フローメーターを較正して正確な質量流量の絶対値を読み取る必要は必ずしもない。もっと正確にいえば、フローメーターは、2つのフローメーター間の差の読取値(differential reading)が正確であるように較正される場合がある。たとえば、試験器または同様のデバイスにより求められるような第一のフローメーター10を流れる実際の流量が2000kg/時間であり、流出口304から流出する流体の流量が1000kg/時間である場合、第二のフローメーター305と第一のフローメーター10との間の差が1000kg/時間に等しいことが望ましい。しかしながら、ほとんどの実施形態では、第二のフローメーター305が1020kg/時間を示すように較正され、第一のフローメーター10が2020kg/時間の流量を示す場合に条件を満たしていると考えられる。従って、各メーターを流れる流量の絶対値が正確でない場合であっても、それらの差である読取値が正確であるまたは少なくとも許容誤差範囲内にある。上記の値は例示のみを意図したものであって、本発明の技術範囲を限定すべきもの
ではないことは理解されるべきである。
【0030】
差動オフセット決定ルーチン213は、エンジンの如き流体消費デバイスがオフであるときに実行することができる。他の実施形態によっては、差動オフセット決定ルーチン213は、第一のフローメーター10及び第二のフローメーター305によって測定される流量が同一の測定値であると予想されるとき、たとえば漏電検出システムが漏洩を示していないと判断されたときに実行されるようになっている場合もある。従って、いうまでもなく、差動オフセット決定ルーチン213中、フローメーター10、305を流れる流量が必ずしもゼロ流量である必要はなく、ほとんどの実施形態では、ゼロ流量とはなっていない。
本発明のある実施形態によれば、差動オフセット決定ルーチン213は、振動式フローメーターの初期段階の較正の後に行なわれてもよいし、または、振動式フローメーターの初期段階での較正の一部であってもよい。差動オフセット決定ルーチン213は、振動式フローメーターのゼロオフセットと振動式フローメーターの1つ以上の運転条件との間の相関関係を求めるために用いられてもよい。ゼロオフセットは、絶対ゼロオフセットであってもよいし、または、上述されているような差動ゼロオフセットであってもよい。
差動オフセット決定ルーチン213はステップ401から開始され、このステップで、第一の振動式フローメーター10及び第二の振動式フローメーター305から1つ以上のセンサー信号を受け取ることができる。これらのセンサー信号は、たとえば第一の振動式フローメーター10のピックオフセンサー105、105'の如きピックオフセンサーによって受け取られてもよい。図3のように複数の振動式フローメーターが存在するので、流体がこれらのフローメーターを流れているとき、センサー信号が両方のフローメーターから受信されるようになっていてもよい。
【0031】
ステップ402では、受信されたセンサー信号は、第一の振動式フローメーター10によって求められるような第一の流量及び第二の振動式フローメーター305によって求められるような第二の流量を求めるように処理されてもよい。たとえば式(1)を用いて、第一の流量及び第二の流量を求めることができる。
ステップ403では、第一の振動式フローメーター10の差動ゼロオフセットを求めることができる。本発明のある実施形態によれば、たとえば式(4)を用いて差動ゼロオフセットを求めることができる。本発明のある実施形態によれば、当該求められるゼロオフセットは、初期段階で求められたゼロオフセットであってもよい。このことは、ゼロオフセット決定ルーチン213が、たとえば振動式フローメーターの初期段階の較正の一部として実行される場合に当てはまりうる。本発明の他の実施形態によれば、当該求められるゼロオフセットは、さらに後で求められるゼロオフセットであってもよい。さらに後で求められるゼロオフセットは、初期段階で求められるゼロオフセットと異なるものであってもよい。このことは、たとえば運転条件が初期段階のゼロオフセットが求められた時の運転条件とは異なる場合にとくに当てはまりうる。実施形態では、ルーチン213はステップ403の後に終了してもよい。他の実施形態によれば、ルーチン213は、ステップ404またはステップ406のいずれかに引き続き進みうる。
ステップ404では、1つ以上の現在の運転条件を求めることができる。1つ以上の現在の運転条件は、ステップ401で受け取られたセンサー信号を処理することにより求められてもよい。それに代えて、1つ以上の運転条件は、外部の温度センサー、粘度計などの如き外部入力から求められてもよい。1つ以上の運転条件は、温度、圧力、流体密度、センサー取付条件、ドライブ利得などのうちの1つ以上でありうる。1つの実施形態によれば、ドライブ利得は閾値と比較することができ、ドライブ利得がこの閾値を超えている場合、ステップ402で求められたゼロオフセットをエラーと考えることができ、格納しない。たとえば、このエラーは混入ガスに起因するものでありうる。運転条件のうちの1つが温度である場合、この温度はたとえばRTDを用いて求められてもよい。たとえば、この温度は、フローメーター温度であってもよいしまたはメーター電子機器温度であってもよい。本発明のある実施形態によれば、この温度は、第一のフローメーター10と第二のフローメーター305との間で実質的に同一であると仮定される。本発明の他の実施形態によれば、第一のフローメーター10と第二のフローメーター305との間の温度差が実質的に一定のままであると仮定される。」

「【0039】
ステップ406では、さらに後の第一のセンサー信号が第一の振動式フローメーター10から受け取られる。さらに後の第一のセンサー信号は、初期段階での第一のセンサー信号及び第二のセンサー信号の後に受け取られてもよい。たとえば、第一のセンサー信号及び第二のセンサー信号が、第一の振動式フローメーター10を流れる流量と第二の振動式フローメーター305を流れる流量とが実質的に同一であるときに受け取られ、さらに後の第一のセンサー信号が、エンジンが動作して燃料を消費しているときの如き第一のセンサーを流れる流量信号と第二のセンサーを流れる流量信号が同一でないとき受け取られるようになっていてもよい。
ステップ407では、補償済み流量が、さらに後で受け取られた第一のセンサー信号及びステップ403で求められた差動ゼロオフセットに基づいて求められてもよい。いうまでもなく、ステップ403で求められた差動ゼロオフセットは、第一の動式フローメーター10を流れる流量と第二の振動式フローメーター304を流れる流量とが再度実質的に同一となり、新たな差動ゼロオフセットを求めることができるまで用いられるようになっていてもよい。
有利なことには、差動オフセット決定ルーチン213は、運転条件を求め、運転条件をオフセット相関関係の前の運転条件と比較する必要はない。どちらかと言えば、差動ゼロ決定ルーチン216は、運転条件が、差動ゼロオフセットが最後に求められた時の運転条件と実質的に同一であると仮定する。」

「【図3】



「【図4】



また、本願明細書の段落【0052】の第1の流量計5aと第2の流量計5bの直列の配置に関する記載事項を考慮すると、引用文献2の【図3】と段落【0025】、【0026】の記載から、第二の振動式フローメーター305は第一の振動式フローメーター10に直列に流体結合されていることが分かる。

(2)引用発明
上記(1)より、引用文献2には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

[引用発明]
「第一の振動式フローメーター10からの第一のセンサー信号と、少なくとも第二の振動式フローメーター305からの第二のセンサー信号とを受け取るステップ401と、(【請求項1】、【0030】、【図4】のステップ401)
前記第一のセンサー信号から第一の流量を求め、前記第二のセンサー信号から第二の流量を求めるステップ402と、(【請求項1】、【0031】、【図4】のステップ402)
前記第一の流量及び前記第二の流量に基づいて、前記第一の振動式フローメーターの差動ゼロオフセットを求めるステップ403と、(【請求項1】、【0031】、【図4】のステップ403)
前記第一の振動式フローメーター10からさらに後の第一のセンサー信号を受け取るステップ406と、(【請求項2】、【0039】、【図4】のステップ406)
受信した、さらに後の第一のセンサー信号と求められた前記差動ゼロオフセットを用いて、補償済み流量を求めるステップ407と、(【請求項2】、【0039】、【図4】のステップ407)
を有する、方法であって、
第二の振動式フローメーター305は第一の振動式フローメーター10に直列に流体結合され、(【0025】、【0026】、【図3】)
差動ゼロオフセットは、基準センサーの質量流量が較正されるメーターの質量流量と等しいと仮定すると、下記の式(4)を用いて求められる(【0019】、【0031】)方法。


この式で、Δt_(D)は差動ゼロオフセットであり、

は基準質量流量であり、Δtcは較正されるセンサーの測定された時間遅れであり、FCFcは較正されるセンサーの流量較正係数である。」

2 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明において「補償済み流量を求める」ことは、本願発明において「補正測定流量を決定する」ことに相当する。
また、引用発明の「第一の振動式フローメーター10」及び「第二の振動式フローメーター305」は、それぞれ本願発明の「第1の流量計」及び「第2の流量計」に相当し、引用発明の「第一の振動式フローメーター10からの第一のセンサー信号と、少なくとも第二の振動式フローメーター305からの第二のセンサー信号とを受け取るステップ401と、前記第一のセンサー信号から第一の流量を求め、前記第二のセンサー信号から第二の流量を求めるステップ402」は、本願発明の「第1の流量計で流量を測定するステップと、第2の流量計で流量を測定するステップ」に相当し、引用発明において「第二の振動式フローメーター305は第一の振動式フローメーター10に直列に流体結合され」ることは、本願発明において「前記第2の流量計は前記第1の流量計に直列に流体結合される」ことに相当する。
さらに、本願発明の「前記第1の流量計の前記測定流量を前記第2の流量計の前記測定流量を用いて補正するステップ」が、本願の請求項1を引用する請求項5、及び段落【0054】?【0056】の記載からみて、具体的には、第1の流量計5aと第2の流量計5bにより実質的に同時に測定される流量を用いて決定された推定ゼロ流動不安定性をメータ電子機器100内に格納し、これを使用して第1の流量計5aのその後の測定流量を補正するステップを含むことは明らかである。
一方、引用発明の「受信した、さらに後の第一のセンサー信号と求められた前記差動ゼロオフセットを用いて、補償済み流量を求めるステップ407」において、「さらに後の第一のセンサー信号」と共に用いられる「差動ゼロオフセット」が、ステップ403において「基準センサーの質量流量が較正されるメーターの質量流量と等しいと仮定」して「式(4)を用いて求められる」ものであるから、「さらに後の第一のセンサー信号を受け取るステップ406」よりも前にすでに取得されたものであることは明らかである。 そうすると、本願発明と引用発明の上記2つのステップは、「前記第1の流量計の前記測定流量を補正するステップ」である点で共通するといえる。

そうすると、本願発明と引用発明は、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。

[一致点]
「補正測定流量を決定する方法であって、
第1の流量計で流量を測定するステップと、
第2の流量計で流量を測定するステップであって、前記第2の流量計は前記第1の流量計に直列に流体結合される、ステップと、
前記第1の流量計の前記測定流量を補正するステップと
を含む方法。」

[相違点]
本願発明においては、「前記第1の流量計の前記測定流量を補正するステップ」が、「前記第1の流量計の前記測定流量を前記第2の流量計の前記測定流量を用いて補正するステップ」であるのに対して、引用発明では、「受信した、さらに後の第一のセンサー信号と求められた前記差動ゼロオフセットを用いて、補償済み流量を求めるステップ407」であり、差動ゼロオフセットは、次式


を用いて求められる点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
引用発明は「差動ゼロオフセットを用いて、補償済み流量を求める」ものであるところ、差異ゼロオフセットΔt_(D)は次の式(4)を用いて求められるとされている。

ここで、引用発明において、「受信した、さらに後の第一のセンサー信号と求められた前記差動ゼロオフセットを用いて、補償済み流量を求める」ことは、「補償済み流量」をM(・)とすると、次の式によりM(・)を求めることを意味する。
M(・)=FCF_(c)(Δt_(measured)-Δt_(D))
ここで、Δt_(measured)は、第一の振動式フローセンサー10において測定された時間遅れであり、「後の第一のセンサー信号」から得られるものである。
この式の右辺第2項に上記(4)式を当てはめると、次式のとおり、右辺には、基準質量流量(m_(R)(・))を含む項が出現する。
M(・)=FCF_(c)(Δt_(measured)-Δtc)+ m_(R)(・)
すなわち、差動ゼロオフセットを用いて、「補償済み流量」であるM(・)を求めることと、第一の振動式フローセンサー10で測定された流量を、第二の振動式フローメーター305を基準センサーとした場合の第二の振動式フローセンサー305で測定される流量(基準質量流量)を用いて補正することとは、等価である。
そして、上記の単純な初等代数学を用いた式変形は、当業者には自明のことにすぎない。
してみれば、引用発明において、「差動ゼロオフセットを用いて、補償済み流量を求める」というステップの代わりに、第二の振動式フローセンサー305で測定される流量を用いて、補償済み流量を求めるように構成することは、当業者ならば容易になし得たことであり、上記相違点に係る本願発明の構成を得ることに格別の困難性はない。
そして、本願発明の奏する効果は、引用発明から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

(3)請求人の主張について
ア 審判請求書において、請求人は次のとおり主張している。下線は当審が付した。

「(5) 引用文献2に係る発明との差
拒絶査定では、「引用文献2に記載のゼロオフセットは段落0017の数式1から流量と比例関係にある。」と指摘された。
しかし、引用文献2の明細書[0017]には、様々な流れ測定値が、流量に比例するゼロオフセットによって影響を受けるので、ゼロオフセットの影響を修正する内容が記載されている。これは、第1の流量計5aによる流量測定値を第2の流量計5bの流量測定値によって補正している本願の内容とは異なると解する。
即ち、引用文献1にも引用文献2にも、記載されているのは、流量計に関するパラメータが流量から演算して求められる内容であり、第1の流量計5aによる流量測定値を第2の流量計5bの流量測定値によって補正している本願の内容とは異なると解する。」

イ しかしながら、引用発明は、2つのセンサー間の差を考慮に入れた「差動ゼロオフセット」を用いて補償済み流量を求める方法であって、ゼロ流量を基準とするという意味での絶対的な「ゼロオフセット」を用いるものではない。(引用文献2の段落【0020】を参照。)
引用文献2の段落【0017】で述べられているのは初期の「ゼロオフセット」であるから、引用発明の「差動ゼロオフセット」とは異なるものであり、上記【0017】の記載から本願発明が引用発明と相違すると考えることはできない。
したがって、請求人の上記主張アを採用することはできない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-03-31 
結審通知日 2021-04-06 
審決日 2021-04-19 
出願番号 特願2018-544872(P2018-544872)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大森 努  
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 中塚 直樹
濱野 隆
発明の名称 補正測定流量の決定  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  

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