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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02F
管理番号 1377666
審判番号 不服2020-9382  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-07-03 
確定日 2021-09-08 
事件の表示 特願2017-522317「エレクトロクロミック装置及び当該装置を形成するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月14日国際公開、WO2016/007168、平成29年 7月27日国内公表、特表2017-520808〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)7月11日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成30年 4月23日付け:拒絶理由通知書
平成30年10月29日 :意見書、手続補正書の提出
平成31年 3月20日付け:拒絶理由通知書
令和 元年 9月26日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 2月25日付け:拒絶査定(原査定)
令和 2年 7月 3日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 8月 6日 :手続補正書(方式)の提出

第2 本願発明の認定
本願の請求項に係る発明は、令和2年7月3日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「 底部から頂部まで
基材;
下部透明導電体層;
第1エレクトロクロミック層;
イオン伝導体層;
第2エレクトロクロミック層;及び
上部透明導電体層
を備えるエレクトロクロミックデバイスであって、
(a)該第1エレクトロクロミック層が主エレクトロクロミック層であり、該第2エレクトロクロミック層が副エレクトロクロミック層である、又は(b)該第1エレクトロクロミック層が副エレクトロクロミック層であり、該第2エレクトロクロミック層が主エレクトロクロミック層であり、
該下部透明導電体層、該第1エレクトロクロミック層、該イオン伝導体層、該第2エレクトロクロミック層及び該上部透明導電体層の少なくとも1つが平坦化層であり、該平坦化層は、該平坦化層の下面と接触する下地層の上部表面粗さよりも小さい上部表面粗さを有し、
該平坦化層が得られた層の積層体内のフィルム粗さによって生じる光散乱及び曇りを低減し、
該平坦化層が該下地層の上部表面粗さの90%未満若しくは80%未満若しくは50%未満若しくは20%未満の上部表面粗さを有し、又は、該平坦化層の下面と接触する下地層の上部表面粗さが50nmよりも大きく、かつ、該平坦化層の上部表面粗さが50nm以下である、エレクトロクロミックデバイス。」

第3 引用文献の記載及び引用発明
1 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である米国特許第5900275号明細書(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は当審が付した。)

(1)「This invention relates to decreasing surface roughness of coatings deposited on glass or equivalent substrates with consequent improvement in optical quality by a reduction in haze. Specifically, the invention reduces the haze typically seen in commercially available doped tin oxide coatings on glass, and particularly those coated in deposition processes requiring high substrate temperatures.」(第1欄6行-12行)
(仮訳:本発明は、ガラスまたは同等の基板上に堆積されたコーティングの表面粗さを減少させ、その結果、ヘイズを減少させることによって光学的品質を改善することに関する。具体的には、本発明は、市販されている、ガラス上にドープされた酸化スズコーティング、特に高い基板温度を必要とする堆積プロセスでコーティングされたものに通常見られるヘイズを低減する。)

(2)「However, there are important advantages to using a solid-state, thin-film electrochromic device, instead of a solution phase electrochromic device. For example, the solid-state, thin-film electrochromic construction 1, shown schematically in FIG. 1, as typically applied fails to overcome the optical haze present in most commercially available tin oxide transparent electron conductors. The device shown in FIG. 1 typically consists of an electrochromic working electrode 10 and a counter electrode 20 which can function as either a sink or source of ions for use in coloring the electrochromic working electrode. Both the working and counter electrode are separated by an electrolyte 30 that is ion-conducting but electron-insulating. The two electrodes 10/20 and the electrolyte 30 are sandwiched between two electron conductor layers 40 deposited on substrates 50, which are glass. Layers 40 are connected to a power source 45. For economic reasons, it would be desirable to use high temperature deposited doped tin oxide coatings as conductive layers 40.」(第2欄24行-42行)
(仮訳:ただし、液相のエレクトロクロミックデバイスの代わりに、全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイスを使用することには重要な利点がある。例えば、通常適用されるような図1に概略的に示されている全固相型薄膜エレクトロクロミック構造1は、ほとんどの市販の酸化スズ透明導電体に存在する光学的ヘイズを克服することができない。図1に示される装置は、典型的には、エレクトロクロミック作用電極10、及び、エレクトロクロミック作用電極を着色する際に使用するためのイオンのシンクまたはソースのいずれかとして機能することができる対電極20からなる。作用電極と対電極の両方は、イオン伝導性であるが電子絶縁性である電解質30によって分離されている。2つの電極10/20および電解質30は、ガラスである基板50上に堆積された2つの導電層40の間に挟まれている。層40は電源45に接続されている。経済的な理由から、導電層40として高温堆積されたドープされた酸化スズコーティングを使用することが望ましい。)

(3)「SUMMARY OF THE INVENTIONIn the present invention, it has been found that the haze and/or surface roughness in a conductive tin oxide coating deposited on a substrate, particularly glass, can be reduced by applying to the tin oxide coating another solid-state coating in a particular way.」(第2欄55行-60行)
(仮訳:発明の概要 本発明において、基板、特にガラス上に堆積された導電性酸化スズコーティングのヘイズおよび/または表面粗さは、特定の方法で別の固相のコーティングを酸化スズコーティングに適用することによって低減できることが見出された。)

(4)「In addition to improving the optical quality of the conductive tin oxide oating on the substrate, the overlayer can also have other functionalities. For example, the overlayer can be electrochromic, electroluminescent, solar reflecting, dielectric, ferroelectric, conducting, semiconducting, insulating, or absorbing.」(第4欄28行-33行)
(仮訳:基板上の導電性酸化スズコーティングの光学的品質を改善することに加えて、被覆層は他の機能も有することができる。 例えば、被覆層は、エレクトロクロミック、エレクトロルミネセンス、太陽光反射、誘電体、強誘電体、導電性、半導体、絶縁性、または吸収性であり得る。)

(5)「For electrochromic coatings, the transition metal oxide ultimately formed must be electrochromically-active.」(第5欄21行-22行)
(仮訳:エレクトロクロミックコーティングの場合、最終的に形成される遷移金属酸化物はエレクトロクロミック活性でなければならない。)

(6)「Example 1A 10 ohms/square tin oxide-coated glass from Libby Owens Ford, Toledo, Ohio, supplied under the trade name TEC 10, with a haze factor of 5.0% was coated with an electrochromic coating of tungsten oxide as follows. ・・・(中略)・・・ The coating reduced the haze from 5.0 to 2.9%.」(第6欄60行-第7欄18行)
(仮訳:実施例1 オハイオ州トレドのリビーオーエンスフォードから商品名TEC10で供給される10オームスクエアの酸化スズでコーティングされたガラスは、5.0%のヘイズ値であり、以下のように酸化タングステンのエレクトロクロミックコーティングでコーティングされた。・・・(中略)・・・該コーティングにより、ヘイズ値が5.0%から2.9%に減少した。)

(7)「Example 2A TEC 10 conductive SnO_(2) glass was coated with an overlayer of WO_(3) as described in Example 1; except that the withdrawal rate was adjusted to give a coating 1,200 angstroms thick. The WO_(3) overlayer improved the surface roughness of the TEC 10 substrate as examined using a Tencor Instruments ALPHA-STEP 200 surface profilometer with a 1.5-2.5 micron radius stylus. The arithmetic average surface roughness (RA) and a surface profile were obtained from the analysis and are shown in FIG. 3. Also shown in the figure is the RA factor and surface profile for a smooth microscope slide glass surface. The overlayer of WO_(3) reduced the RA factor from 70 angstroms to 25 angstroms, which is approaching the value of the smoother microscope slide of 15 angstroms. FIG. 2 shows scanning electron microscope (SEM) photos of the TEC 10 glass before and after overcoating with WO_(3).」(第7欄24行-40行)
(仮訳:実施例2 実施例1に記載されているように、TEC10の導電性SnO_(2)ガラスの上にWO_(3)をコーティングした。ただし、引き抜き速度を調整して、コーティングの厚さを1,200Åにした。半径1.5?2.5μmのスタイラスを備えた表面形状測定器(Tencor Instruments ALPHASTEP 200)を使用して調べたところ、WO_(3)の被覆層はTEC10基板の表面粗さを改善した。算術平均表面粗さ(RA)および表面プロファイルは、分析から得られ、図3に示されている。この図には、顕微鏡の滑らかなスライドガラスの表面のRA係数と表面プロファイルも示されている。WO_(3)の被覆層は、RA係数を70Åから25Åに減少させた。これは、顕微鏡の、15Åのより滑らかなスライドガラスの値に近づいている。図2は、WO_(3)でコーティングする前後のTEC10ガラスの走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示している。)

(8)図1は次のものである。

(9)図2Aは次のものである。

(10)図2Bは次のものである。

(11)図3は次のものである。

(12)実施例2(上記(7))には、「TEC10の導電性SnO_(2)ガラスの上にWO_(3)をコーティングし」、「WO_(3)の被覆層はTEC10基板の表面粗さを改善し」、「WO_(3)の被覆層は、RA係数を70Åから25Åに減少させた」構成が記載されているところ、上記(7)冒頭の「実施例1に記載されているように」との記載に照らせば、当該構成における「SnO_(2)」及び「コーティング」された「WO_(3)」は、実施例1(上記(6))と同様に、それぞれ、「SnO_(2)のコーティング」及び「エレクトロクロミックコーティング」であるといえるから、結局、実施例2には、「TEC10の導電性SnO_(2)」をコーティングした「ガラスの上にWO_(3)」の「エレクトロクロミックコーティングで」「コーティングし」、「WO_(3)の被覆層はTEC10基板の表面粗さを改善し」、「WO_(3)の被覆層は、RA係数を70Åから25Åに減少させた」構成が記載されているといえる。
ところで、図1に記載された「全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイス1」は「酸化スズ透明導電体に存在する光学的ヘイズを克服することができない」(上記(2))ものであるところ、「本発明において、基板、特にガラス上に堆積された導電性酸化スズコーティングのヘイズおよび/または表面粗さは、特定の方法で別の固相のコーティングを酸化スズコーティングに適用することによって低減できることが見出された」(上記(3))とされている。そうすると、引用文献1には、「ガラス上に堆積された導電性酸化スズコーティングのヘイズおよび/または表面粗さ」を、「特定の方法で別の固相のコーティングを酸化スズコーティングに適用することによって低減できる」ようにした、「全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイス」が記載されているといえる。
そして、実施例2に記載された上記構成も、「ガラス上に堆積された導電性酸化スズコーティングのヘイズおよび/または表面粗さ」を、「特定の方法で別の固相のコーティングを酸化スズコーティングに適用することによって低減できる」ようにしたものである。
よって、引用文献1には、実施例2に記載された上記構成、つまり、「TEC10の導電性SnO_(2)をコーティングしたガラスの上にWO_(3)のエレクトロクロミックコーティングでコーティングし、WO_(3)の被覆層はTEC10基板の表面粗さを改善し、WO_(3)の被覆層は、RA係数を70Åから25Åに減少させた構成」を備えた「全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイス」が記載されているといえる。

(13)上記(12)で認定した「全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイス」においては、「WO_(3)のエレクトロクロミックコーティング」は、上記(4)及び(5)によれば、「全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイス」の「エレクトロクロミック層」として機能するものといえる。

(14)上記(12)で認定した「全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイス」においては、「WO_(3)の被覆層は、RA係数を70Åから25Åに減少させた」ということであるから、「WO_(3)のエレクトロクロミックコーティング」の「RA係数」(ここで、「RA」は、上記(7)のとおり、「算術平均表面粗さ」を意味する。)が「25Å」であり、「コーティング」された「SnO_(2)」の「RA係数」が「70Å」であるといえる。
そうすると、「全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイス」においては、「WO_(3)のエレクトロクロミックコーティング」の算術平均表面粗さは、「コーティング」された「SnO_(2)」の算術平均表面粗さの約36%であるといえる。

(15)以上によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。(括弧書きは、参考までに、記載の根拠を示したものである。)

「TEC10の導電性SnO_(2)をコーティングしたガラスの上にWO_(3)のエレクトロクロミックコーティングでコーティングし、WO_(3)の被覆層はTEC10基板の表面粗さを改善し、WO_(3)の被覆層は、RA係数を70Åから25Åに減少させた構成を備えた全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイスであって、(上記(12))
WO_(3)のエレクトロクロミックコーティングは、全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイスのエレクトロクロミック層として機能し、(上記(13))
WO_(3)のエレクトロクロミックコーティングの算術平均表面粗さは、コーティングされたSnO_(2)の算術平均表面粗さの約36%であり、(上記(14))
コーティングの表面粗さを減少させ、その結果、ヘイズを減少させることによって光学的品質を改善する、(上記(1))
全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイス。」

第4 対比
本願発明と引用発明を対比する。

1 本願発明の「底部から頂部まで」「基材; 下部透明導電体層; 第1エレクトロクロミック層; イオン伝導体層; 第2エレクトロクロミック層;及び 上部透明導電体層を備えるエレクトロクロミックデバイスであって、」との特定事項について
引用発明は「TEC10の導電性SnO_(2)をコーティングしたガラスの上にWO_(3)のエレクトロクロミックコーティングでコーティングし」た「全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイス」であるところ、引用発明の「ガラス」、「コーティング」された「導電性SnO_(2)」及び「全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイス」は、それぞれ、本願発明の「基材」、「下部透明導電体層」及び「エレクトロクロミックデバイス」に相当する。
また、引用発明の「WO_(3)のエレクトロクロミックコーティング」は、「全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイスのエレクトロクロミック層として機能」するから、本願発明の「第1エレクトロクロミック層」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、「底部から頂部まで」「基材; 下部透明導電体層; 第1エレクトロクロミック層;」「を備えるエレクトロクロミックデバイス」である点で共通する。

2 本願発明の「(a)該第1エレクトロクロミック層が主エレクトロクロミック層であり、該第2エレクトロクロミック層が副エレクトロクロミック層である、又は(b)該第1エレクトロクロミック層が副エレクトロクロミック層であり、該第2エレクトロクロミック層が主エレクトロクロミック層であり、」との特定事項について
引用発明は、本願発明の上記特定事項を備えない。

3 本願発明の「該下部透明導電体層、該第1エレクトロクロミック層、該イオン伝導体層、該第2エレクトロクロミック層及び該上部透明導電体層の少なくとも1つが平坦化層であり、該平坦化層は、該平坦化層の下面と接触する下地層の上部表面粗さよりも小さい上部表面粗さを有し、」との特定事項について
引用発明は、「TEC10の導電性SnO_(2)をコーティングしたガラスの上にWO_(3)のエレクトロクロミックコーティングでコーティングし」たものであるから、「WO_(3)のエレクトロクロミックコーティング」からみると、その直下に、「コーティング」された「導電性SnO_(2)」が存在するといえる。そして、引用発明は、「WO_(3)のエレクトロクロミックコーティングの算術平均表面粗さは、コーティングされたSnO_(2)の算術平均表面粗さの約36%であ」って、「TEC10基板の表面粗さを改善」するものである。
そうすると、引用発明の「WO_(3)のエレクトロクロミックコーティング」は、その下面と接触する「コーティング」された「導電性SnO_(2)」の平坦化層として機能しているといえる。
よって、引用発明の「WO_(3)のエレクトロクロミックコーティング」及び「コーティング」された「導電性SnO_(2)」は、それぞれ、本願発明の「平坦化層」及び「下地層」に相当するといえる。
したがって、引用発明は、本願発明の上記特定事項のうち、「該下部透明導電体層、該第1エレクトロクロミック層」「の少なくとも1つが平坦化層であり、該平坦化層は、該平坦化層の下面と接触する下地層の上部表面粗さよりも小さい上部表面粗さを有し、」との特定事項を備える。

4 本願発明の「該平坦化層が得られた層の積層体内のフィルム粗さによって生じる光散乱及び曇りを低減し、」との特定事項について
引用発明は、「WO_(3)のエレクトロクロミックコーティング」が、上記3のとおり、「平坦化層」といえるものであって、これにより、「コーティングの表面粗さを減少させ、その結果、ヘイズを減少させることによって光学的品質を改善する」ものであるから、本願発明のように「該平坦化層が得られた層の積層体内のフィルム粗さによって生じる光散乱及び曇りを低減」するものといえる。
よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を備える。

5 本願発明の「該平坦化層が該下地層の上部表面粗さの90%未満若しくは80%未満若しくは50%未満若しくは20%未満の上部表面粗さを有し、又は、該平坦化層の下面と接触する下地層の上部表面粗さが50nmよりも大きく、かつ、該平坦化層の上部表面粗さが50nm以下である、エレクトロクロミックデバイス。」との特定事項について
上記3で説示したように、引用発明の「WO_(3)のエレクトロクロミックコーティング」及び「コーティング」された「導電性SnO_(2)」は、それぞれ、本願発明の「平坦化層」及び「下地層」に相当し、引用発明は、「WO_(3)のエレクトロクロミックコーティングの算術平均表面粗さは、コーティングされたSnO_(2)の算術平均表面粗さの約36%」であり、「WO_(3)の被覆層」の「RA係数」は「25Å」である。
そして、本願発明の「表面粗さ」は、明細書の段落[0065]によれば「ピークから谷までの高さの絶対値の算術平均であるRa」「を含」むところ、これは、いわゆる算術平均粗さであるから、引用発明の「算術平均表面粗さ」(RA係数)は、本願発明の「表面粗さ」に相当する。
よって、引用発明は、本願発明の上記特定事項を備える。

6 以上1?5により、本願発明と引用発明は、下記の点で一致している。

[一致点]
「 底部から頂部まで
基材;
下部透明導電体層;
第1エレクトロクロミック層;
を備えるエレクトロクロミックデバイスであって、
該下部透明導電体層、該第1エレクトロクロミック層の少なくとも1つが平坦化層であり、該平坦化層は、該平坦化層の下面と接触する下地層の上部表面粗さよりも小さい上部表面粗さを有し、
該平坦化層が得られた層の積層体内のフィルム粗さによって生じる光散乱及び曇りを低減し、
該平坦化層が該下地層の上部表面粗さの90%未満若しくは80%未満若しくは50%未満若しくは20%未満の上部表面粗さを有し、又は、該平坦化層の下面と接触する下地層の上部表面粗さが50nmよりも大きく、かつ、該平坦化層の上部表面粗さが50nm以下である、エレクトロクロミックデバイス。」

他方、本願発明と引用発明は、次の点で相違する。

[相違点]
「エレクトロクロミックデバイス」の「底部から頂部まで」が、
本願発明は、「 基材; 下部透明導電体層; 第1エレクトロクロミック層; イオン伝導体層; 第2エレクトロクロミック層;及び 上部透明導電体層」を備えており、「(a)該第1エレクトロクロミック層が主エレクトロクロミック層であり、該第2エレクトロクロミック層が副エレクトロクロミック層である、又は(b)該第1エレクトロクロミック層が副エレクトロクロミック層であり、該第2エレクトロクロミック層が主エレクトロクロミック層であ」るのに対し、
引用発明は、「基材; 下部透明導電体層; 第1エレクトロクロミック層」に相当する構成を備えるが、その余の構成については特定がない点。

第5 判断
1 相違点について
(1)引用発明の「WO_(3)のエレクトロクロミックコーティングは、全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイスのエレクトロクロミック層として機能」するものであるところ、エレクトロクロミックデバイスの技術分野において、酸化タングステンをいわゆる作用電極として機能させることは、例示するまでもなく技術常識である。
そして、引用文献1には、上記第3の1(2)及び図1のとおり、「全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイス1」として、下から順に「導電層40」、「対電極20」の層、「電解質30」の層、「作用電極10」の層及び「導電層40」を備える積層構造が記載されており、また、このような積層構造は、例示するまでもなく周知でもある。
そうすると、引用発明において、「WO_(3)のエレクトロクロミックコーティング」を作用電極として機能させつつ上記積層構造を採用することにより、引用発明の「全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイス」を、下から順に、「ガラス」、「コーティング」された「導電性SnO_(2)」、「WO_(3)のエレクトロクロミックコーティング」(作用電極)、イオン導電性の電解質の層、対電極の層及び導電層を備える積層構造とすることは、当業者であるなら適宜なし得たことである。
このようにして得られた構成においては、上記イオン導電性の電解質の層、上記対電極の層及び上記導電層は、それぞれ、本願発明の「イオン伝導体層」、「第2エレクトロクロミック層」及び「上部透明導電体層」に相当することになる。また、当該構成における「WO_(3)のエレクトロクロミックコーティング」(作用電極)と上記対電極の層は、作用電極はイオンが供給される(発色する)側の電極であって、対電極はイオンを供給する側の電極であるとの技術常識に照らせば、本願発明でいう「主エレクトロクロミック層」又は「副エレクトロクロミック層」の、それぞれ、一方と他方に相当するということができる。
よって、引用発明において、引用文献1に記載された技術的事項及び周知技術に基づいて、相違点に係る構成を得ることに格別の困難はない。

(2)本願発明の効果は、引用発明、引用文献1に記載された技術的事項及び技術常識から予測し得る程度のものであって格別なものということはできない。

(3)以上によれば、本願発明は、引用発明、引用文献1に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 請求人の主張について
請求人は審判請求書の「(4-2)本願発明と引用発明との対比」において、引用文献1には伝導性層を酸化スズ層で被覆することによって該伝導性層を平坦化する手段が開示され(実施例5、6等)、平坦化以外の機能的な目的を果たさない追加の層(上記酸化スズ層)を教示しているため、すでに複雑なデバイスがさらに複雑になるのに対し、本願発明は少なくとも5層(下部透明導電体層、第1エレクトロクロミック層、イオン伝導体層、第2エレクトロクロミック層、上部透明導電体層)から構成され、上記5層の機能層のうちの少なくとも1つが平坦化層であるから、層の数を最小限に保つことができ、デバイスの複雑化を防ぐことができる旨主張する。
上記主張について検討する。
引用発明は、実施例5、6ではなく実施例2に基づくものであって、引用発明に、引用文献1に記載された技術的事項及び技術常識を採用することにより得られる「全固相型薄膜エレクトロクロミックデバイス」は、当該デバイスの機能層である「WO_(3)のエレクトロクロミックコーティング」が平坦化層として機能するものであるから、本願発明と同様に、層の数を最小限に保つことができ、デバイスの複雑化を防ぐことができるものといえる。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

3 小括
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献1に記載された技術的事項及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。




 
別掲
 
審理終結日 2021-03-25 
結審通知日 2021-03-30 
審決日 2021-04-23 
出願番号 特願2017-522317(P2017-522317)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩村 貴  
特許庁審判長 山村 浩
特許庁審判官 佐藤 洋允
井上 博之
発明の名称 エレクトロクロミック装置及び当該装置を形成するための方法  
代理人 アクシス国際特許業務法人  
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