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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
管理番号 1377753
異議申立番号 異議2020-700315  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-04-30 
確定日 2021-07-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6599973号発明「断層像撮影装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6599973号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6599973号の請求項1、3ないし6に係る特許を維持する。 特許第6599973号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6599973号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、2016年(平成28)年2月26日(優先権主張2015年(平成27年)2月27日、日本国)に国際出願され、令和元年10月11日にその特許権の設定登録がされ、令和元年10月30日に特許掲載公報が発行された。
その後の本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年 4月30日:特許異議申立人小林勝(以下「申立人」という。)
による請求項1?6に係る特許に対する特許異議の申立て
令和2年 7月22日付け:取消理由通知書
令和2年 9月23日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和2年11月13日:申立人による意見書の提出
令和2年12月11日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年 2月15日:特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年 4月 8日:申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)ないし(4)のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「被検眼眼底上に測定光を走査させて該被検眼眼底の断層像を撮影する断層像撮影手段と、
前記撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成する画像処理手段と、を備えることを特徴とする断層像撮影装置。」
と記載されているのを、
「被検眼眼底上に測定光を走査させて該被検眼眼底の断層像を撮影する断層像撮影手段と、
前記撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成する画像処理手段と、を備え、
前記断層像撮影手段が、第一のスキャン間隔で走査して被検眼眼底の断層像を撮影するとともに、前記第一のスキャン間隔よりも狭い第二のスキャン間隔で走査して被検眼眼底の断層像を撮影し、
前記画像処理手段が、前記第二のスキャン間隔で撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成するとともに、前記第一のスキャン間隔で撮影された断層像を用いて前記新たな断層画像の歪みを補正し、
前記新たな断層画像の走査方向の測定幅が、前記第一のスキャン間隔で走査して得られる断層画像の走査方向の測定幅に相当する画像の幅であり、かつ前記新たな断層画像のAスキャン画像間隔が、前記第一のスキャン間隔で走査して得られる断層画像のAスキャン画像間隔に相当することを特徴とする断層像撮影装置。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?6も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「前記画像処理手段が、前記第二のスキャン間隔で撮影された断層像の画像を構成するAスキャン画像をn個毎に走査方向に圧縮し、圧縮されたAスキャン画像のそれぞれを走査方向に結合して前記新たな断層画像を生成することを特徴とする、請求項2に記載の断層像撮影装置。」
と記載されているのを、
「前記画像処理手段が、前記第二のスキャン間隔で撮影された断層像の画像を構成するAスキャン画像をn個毎に走査方向に圧縮し、圧縮されたAスキャン画像のそれぞれを走査方向に結合して前記新たな断層画像を生成することを特徴とする、請求項1に記載の断層像撮影装置。」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に、
「前記第二のスキャン間隔が、前記第一のスキャン間隔の1/nであることを特徴とする、請求項2?5のいずれか1項に記載の断層像撮影装置。」
と記載されているのを、
「前記第二のスキャン間隔が、前記第一のスキャン間隔の1/nであることを特徴とする、請求項1、3、4及び5のいずれか1項に記載の断層像撮影装置。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る特許発明は、「断層像撮影装置」について、「被検眼眼底上に測定光を走査させて該被検眼眼底の断層像を撮影する断層像撮影手段」と、「前記撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成する画像処理手段」とを備えることを特定している。
これに対し、訂正後の請求項1は、「前記断層像撮影手段が、第一のスキャン間隔で走査して被検眼眼底の断層像を撮影するとともに、前記第一のスキャン間隔よりも狭い第二のスキャン間隔で走査して被検眼眼底の断層像を撮影し、前記画像処理手段が、前記第二のスキャン間隔で撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成するとともに、前記第一のスキャン間隔で撮影された断層像を用いて前記新たな断層画像の歪みを補正し」との記載と、「前記新たな断層画像の走査方向の測定幅が、前記第一のスキャン間隔で走査して得られる断層画像の走査方向の測定幅に相当する画像の幅であり、かつ前記新たな断層画像のAスキャン画像間隔が、前記第一のスキャン間隔で走査して得られる断層画像のAスキャン画像間隔に相当する」との記載により、「断層像撮影手段」及び「画像処理手段」の内容をより具体的に特定し、さらに限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、
(ア)訂正前の請求項2における「前記断層像撮影手段が、第一のスキャン間隔よりも狭い第二のスキャン間隔で走査して被検眼眼底の断層像を撮影し、前記画像処理手段が、前記第二のスキャン間隔で撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成し、」及び「前記新たな断層画像の走査方向の測定幅が、前記第一のスキャン間隔で走査して得られる断層画像の走査方向の測定幅に相当する画像の幅である」との記載、
(イ)本件特許明細書の段落【0036】における「この高密度のスキャン間隔P_(L)で取得されたBスキャン画像B3は、図2の(e)に示すようにX方向に圧縮されて、新たなBスキャン画像B4が生成される。所定のスキャン間隔P_(H)よりも1/nの幅のスキャン間隔P_(L)で取得されたBスキャン画像を走査方向(X方向)に圧縮するには、Aスキャン画像をn個毎に走査方向に圧縮し、圧縮されたAスキャン画像のそれぞれを走査方向に結合して新たな断層画像を生成する。本実施形態においては、スキャン間隔が1/2になったことによりBスキャン画像B3を構成するAスキャン画像の数は2倍になっているから、Bスキャン画像B3を構成するAスキャン画像A1?A40を2個毎にX方向に圧縮する。」との記載、
(ウ)本件特許明細書の段落【0039】における「このように水平方向に圧縮されたBスキャン画像B4のX方向の画像の幅は、所定の間隔幅P_(H)のスキャンで得られたBスキャン画像B1、B2の画像の幅と同じになっている。」との記載、
(エ)本件特許明細書の段落【0053】における「そこで、本実施形態においては、高密度スキャンを行う前及び/又は後に1回ないしは少数回、高密度スキャンする場所と同じ場所を高速スキャンすることにより歪みの発生する可能性の低い画像(以下基準画像)を取得しておき、高密度スキャンで得られた断層画像の歪みを、その基準画像を使用して補正するという方法を採用する。」との記載、
(オ)本件特許明細書の段落【0054】における「以下、基準画像を取得する過程を位置合わせスキャンと呼ぶ。この位置合わせスキャンのスキャン間隔は前述の第一のスキャン間隔でもよいが、短時間で断層画像を取得することが望まれる状況であるので、第一のスキャン間隔よりも広いスキャン間隔で断層画像を取得する、いわゆるドラフトスキャンのようなスキャン間隔でもよい。」との記載、
(カ)及び本件特許明細書の段落【0059】の「また高密度スキャンでの画像取得中に固視微動の影響で発生する断層画像の歪みは、その事前あるいは事後に、より高速でのスキャン(広いスキャン間隔)で得られる断層画像等を利用することにより、歪み補正が可能である。」との記載に基づくものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アの理由から明らかなように、訂正事項1は、断層像撮影装置の構成をさらに特定するものであり、「断層像撮影手段」及び「画像処理手段」の内容を具体的に特定するものであるため、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2-6の記載についても実質的に訂正するものであるが、上記アの理由から明らかなように、訂正後の請求項2-6に係る発明についても、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項2を削除するというものであるから、当該訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、請求項2を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、請求項2を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項2の記載を引用する記載であるところ、訂正事項1によって、請求項1の記載を引用する請求項2の記載内容を請求項1に取り込み、請求項1を新たに規定し直したことに伴い、請求項1の記載を引用する記載に書き換え、請求項の引用関係を整合させるものであるから、当該訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正である。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、訂正事項1によって請求項1を新たに規定し直したことに伴い、請求項1の記載を引用する記載に書き換えるものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、訂正事項1によって請求項1を新たに規定し直したことに伴い、請求項1の記載を引用する記載に書き換えるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項2の削除に伴い、請求項6が引用する請求項の番号を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記アのとおり、訂正事項4は、訂正前の請求項2の削除に伴い、請求項6が引用する請求項の番号を訂正するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アのとおり、訂正事項4は、訂正前の請求項2の削除に伴い、請求項6が引用する請求項の番号を訂正するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

3 一群の請求項について
訂正前の請求項1?6において、請求項2?6は、それぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?6に対応する訂正後の請求項1?6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

4 独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項1?6について特許異議申立がされているので、訂正前の請求項1?6に係る訂正事項1?4に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

5 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び同第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6に係る発明(以下「本件訂正発明1ないし6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
被検眼眼底上に測定光を走査させて該被検眼眼底の断層像を撮影する断層像撮影手段と、
前記撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成する画像処理手段と、を備え、
前記断層像撮影手段が、第一のスキャン間隔で走査して被検眼眼底の断層像を撮影するとともに、前記第一のスキャン間隔よりも狭い第二のスキャン間隔で走査して被検眼眼底の断層像を撮影し、
前記画像処理手段が、前記第二のスキャン間隔で撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成するとともに、前記第一のスキャン間隔で撮影された断層像を用いて前記新たな断層画像の歪みを補正し、
前記新たな断層画像の走査方向の測定幅が、前記第一のスキャン間隔で走査して得られる断層画像の走査方向の測定幅に相当する画像の幅であり、かつ前記新たな断層画像のAスキャン画像間隔が、前記第一のスキャン間隔で走査して得られる断層画像のAスキャン画像間隔に相当することを特徴とする断層像撮影装置。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記画像処理手段が、前記第二のスキャン間隔で撮影された断層像の画像を構成するAスキャン画像をn個毎に走査方向に圧縮し、圧縮されたAスキャン画像のそれぞれを走査方向に結合して前記新たな断層画像を生成することを特徴とする、請求項1に記載の断層像撮影装置。
【請求項4】
前記圧縮されたAスキャン画像のそれぞれが、n個のAスキャン画像を走査方向に加算平均処理することによって生成されることを特徴とする、請求項3に記載の断層像撮影装置。
【請求項5】
前記圧縮されたAスキャン画像のそれぞれが、n個のAスキャン画像をフィルタ処理することによって生成されることを特徴とする、請求項3に記載の断層像撮影装置。
【請求項6】
前記第二のスキャン間隔が、前記第一のスキャン間隔の1/nであることを特徴とする、請求項1、3、4及び5のいずれか1項に記載の断層像撮影装置。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して、当審が令和2年12月11日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は次のとおりである。

(進歩性)本件の下記の請求項に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

・請求項1?6について
・引用文献
甲第1号証:特開2011-120655号公報
(以下「甲1」という。)
引用文献3:特許第4777362号公報
(甲第3号証の国際公開第2006/077107号のファミリー文献)

2 訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して、当審が令和2年7月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は次のとおりである。なお、この取消理由は、許異議申立書に記載した特許異議申立理由と同じである。

(新規性)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(進歩性)下記の請求項に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

・(新規性)(進歩性)について
・請求項1ないし6について
・引用文献 甲1

・請求項1について
・引用文献 甲第2号証:特開2014-18251号公報
(以下「甲2」という。)

第5 引用文献等について
1 甲1の記載事項、甲1発明
(1)甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付与した。以下、同様。
(甲1a)
「【0004】
はじめにオーバーサンプリング法について図9を参照しながら説明する。図9(a)は断層画像撮影装置において撮影された網膜の断層画像の一例を示す図である。図9(a)において、T_(i)は2次元断層画像(B-scan像)を表しており、A_(ij)は走査線(A-scan)を表している。図9(a)に示すように、2次元断層画像T_(i)は、同一平面上に位置する複数の走査線A_(ij)によって構成されている。
【0005】
図9(c)は、図9(a)に示す2次元断層画像T_(i)の撮影において、網膜に照射される近赤外光を、眼底表面から網膜の深度方向に向かって見た場合の照射分布の一例を示す図である。図9(c)においてA_(i1?Aim)に示す楕円は、近赤外光のビーム径を表している。
【0006】
一方、図9(b)は、断層像撮影装置において撮影された網膜の断層画像の一例であり、図9(a)と同じ撮影範囲を2倍の走査線数で撮影した場合の2次元断層画像T_(i)’を示す図である。また、図9(d)は、図9(b)に示す2次元断層画像T_(i)’の撮影において、網膜に照射される近赤外光を、眼底表面から網膜の深度方向に向かって見た場合の照射分布の一例を示す図である。図9(d)において、A_(i1?)A_(i2m)に示す楕円は、近赤外光のビーム径を表している。
【0007】
図9(a)、(b)からわかるように、撮影範囲が同じである場合、走査線数が増えるほど、2次元断層画像の解像度は上がる。また、図9(c)、(d)からわかるように、解像度を上げるために走査線数を増やすにあたっては、網膜に照射される近赤外光を、隣接するビーム同士でオーバーラップするように照射させる必要がある。
【0008】
そして、このように、隣接するビーム同士でオーバーラップするように照射させることで、解像度の高い2次元断層画像を生成する手法を、一般に、オーバーサンプリング法と呼んでいる。」
(甲1b)
「【0013】
一方、オーバーサンプリング法の場合、走査線数を増やし、オーバーラップの幅を広げることで、より高解像度の断層画像を生成することができる。しかしながら、走査線数が増えると、1枚の断層画像を撮影するのにかかる時間が増加し、眼球の固視微動や頭の動き等の影響を受けやすくなる。この結果、撮影された断層画像内に歪みが生じることとなる。」
(甲1c)
「【0022】
<画像処理システムの構成>
図1は、本実施形態に係る画像処理装置110を備える画像処理システム100の構成を示す図である。図1に示すように、画像処理システム100は、画像処理装置110が、インタフェースを介して断層画像撮影装置120及び眼底画像撮影装置130と接続されることにより構成されている。
【0023】
断層画像撮影装置120は、眼部の断層画像を撮影する装置であり、当該装置としては、例えば、タイムドメイン方式のOCTやフーリエドメイン方式のOCT等が挙げられる。なお、断層画像撮影装置120は既知の装置であるため、詳細な説明は省略し、ここでは、画像処理装置110からの指示により設定される、走査線数、撮影枚数等によって動作内容が変更される機能についてのみ説明を行う。
【0024】
図1において、ガルバノミラー121は、参照光の光路長を変更することで深度方向の撮影範囲を規定する。また、ガルバノミラー駆動部122は、ガルバノミラー121の回転数(深度方向の走査速度)を制御するとともに、ガルバノミラー121による近赤外光の照射位置を制御することで、平面方向の撮影範囲及び走査線数(平面方向の走査速度)を規定する。
【0025】
パラメータ設定部123は、ガルバノミラー駆動部122によるガルバノミラー121の動作制御に用いられる各種パラメータを、ガルバノミラー駆動部122に設定する。パラメータ設定部123により設定されるパラメータにより、断層画像撮影装置120による断層画像の撮影における撮影条件が決定される。具体的には、画像処理装置110からの指示により設定される走査線数、撮影枚数により、深度方向及び平面方向の走査速度が決定される。
【0026】
眼底画像撮影装置130は、眼部の眼底画像を撮影する装置であり、当該装置としては、例えば、眼底カメラやSLO等が挙げられる。
【0027】
画像処理装置110は、断層画像撮影装置120により撮影された断層画像を処理し、表示部117において表示される断層画像を生成する。画像処理装置110は、画像取得部111と、記憶部112と、第1の動き検出部113と、第2の動き検出部114と、決定部115と、画像作成部116と、表示部117とを備える。」
(甲1d)
「【0055】
<画像作成部116における断層画像生成処理の詳細>
次に、画像作成部116における断層画像生成処理の詳細について説明する。図5(a)は、オーバーサンプリング法により撮影された断層画像を処理し断層画像を生成する断層画像生成処理(同一断層画像上に位置する走査線の加算平均処理)を説明するための図である。
【0056】
図5(b)は、重ね合わせ法により撮影された複数の断層画像を処理し断層画像を生成する断層画像生成処理(異なる時刻に撮影された、異なる断層画像上に位置する走査線の加算平均処理)を説明するための図である。
【0057】
図5(c)は、オーバーサンプリング法及び重ね合わせ法の組み合わせにより撮影された断層画像を処理し断層画像を生成する断層画像生成処理(同一断層画像上及び異なる断層画像上に位置する走査線の加算平均処理)を説明するための図である。図5(d)は、断層画像生成処理により生成された断層画像を示す図である。以下、各処理の詳細について説明する。
【0058】
(1)オーバーサンプリング法で撮影された断層画像に基づく断層画像生成処理まず、図5(a)を用いて、オーバーサンプリング法で撮影した断層画像に基づく断層画像生成処理について説明する。ここでは、横方向解像度rxの2倍の解像度で撮影が行われた場合の例について説明する。
【0059】
図5(a)において、A_(i2j)’、A_(i2j+1’)は、各走査線を表している。なお、A_(i2j+1’は、)A_(i2j)’を撮影した1/f[s]後に撮影された走査線を示している。図5(d)は、各画素あたり、n個の画素を用いて加算平均処理を行うことにより生成された断層画像である。
【0060】
つまり、図5(d)において、A_(ij)は対応する走査線について加算平均処理を行うことにより算出された新たな走査線である。図5(a)の場合、A_(ij)は、A_(i2j)’、A_(i2j+1’)の走査線について加算平均処理を行うことにより算出される。なお、オーバーサンプリング法により撮影された断層画像についての断層画像生成処理の方法は、加算平均処理に限定されるものではなく、中央値算出処理、重み付加算平均処理などを用いてもよい。」


甲1の【0022】には、「画像処理システム100は、画像処理装置110が、インタフェースを介して断層画像撮影装置120及び眼底画像撮影装置130と接続されることにより構成され」ることが記載されている。

甲1の【0004】の記載から、「断層画像撮影装置において撮影された網膜の断層画像T_(i)は2次元断層画像(B-scan像)であり、同一平面上に位置する複数の走査線A_(ij)によって構成され」ることが読み取れる。

甲1の【0027】の記載から、「画像処理装置110は、画像作成部116と、表示部117とを備え」ることが読み取れる。

甲1の【0055】の記載から、「画像作成部116における断層画像生成処理は、オーバーサンプリング法により撮影された断層画像を処理し断層画像を生成するものであ」ることが読み取れる。

甲1の【0007】【0008】の記載から「オーバーサンプリング法は、網膜に照射される近赤外光を、隣接するビーム同士でオーバーラップするように照射させ、走査線数を増やし解像度の高い2次元断層画像を生成する手法であ」ることが読み取れる。

甲1の【0004】の「2次元断層画像T_(i)は、同一平面上に位置する複数の走査線A_(ij)によって構成され」るとの記載、及び【0058】ないし【0060】の記載から、「横方向解像度rxの2倍の解像度で撮影が行われた場合、A_(i2j)’の走査線と、A_(i2j)’を撮影した1/f[s]後に撮影されたA_(i2j+1’)の走査線について加算平均処理を行うことにより新たな走査線A_(ij)を算出し、同一平面上に位置する複数の走査線A_(ij)によって2次元断層画像T_(i)を構成する」ことが読み取れる。

(2)甲1発明
以上のことから、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「画像処理システム100は、画像処理装置110が、インタフェースを介して断層画像撮影装置120及び眼底画像撮影装置130と接続されることにより構成され、
断層画像撮影装置120において撮影された網膜の断層画像T_(i)は2次元断層画像(B-scan像)であり、同一平面上に位置する複数の走査線A_(ij)によって構成され、
画像処理装置110は、画像作成部116と、表示部117とを備え、
画像作成部116における断層画像生成処理は、オーバーサンプリング法により撮影された断層画像を処理し断層画像を生成するものであり、
オーバーサンプリング法は、網膜に照射される近赤外光を、隣接するビーム同士でオーバーラップするように照射させ、走査線数を増やし解像度の高い2次元断層画像を生成する手法であり、
横方向解像度rxの2倍の解像度で撮影が行われた場合、A_(i2j)’の走査線と、A_(i2j)’を撮影した1/f[s]後に撮影されたA_(i2j+1’)の走査線について加算平均処理を行うことにより新たな走査線Aijを算出し、同一平面上に位置する複数の走査線Aijによって2次元断層画像Tiを構成する
画像処理システム。」

2 引用文献3の記載事項、技術事項
(1)引用文献3には、以下の事項が、図面とともに記載されている。
(引3a)
「【請求項1】
サンプルを横切る放射のビームを走査することによって、複数の横断方向の場所でサンプル内の長手方向光学散乱プロファイルを得るための光学コヒーレンス・トモグラフィ(OCT)システムであって、サンプルがOCTシステムに対して移動するOCTシステムにおいて、該OCTシステムとサンプルとの間の相対移動によって生じる、収集されるデータに関連する座標における不正確性を補正するための方法であって、
サンプルを横切る第1の複数の横断方向の場所で、第1の時間期間の間に第1の組の長手方向走査を全て獲得する工程と、
サンプルを横切る第2の複数の横断方向の場所で、全て第1の時間期間より長い第2の間期間の間に、該第1の組の長手方向走査より大きい第2の組の長手方向走査を獲得する工程であって、サンプル上の該第2の複数の横断方向の場所の少なくともいくつかは、サンプル上の該第1の複数の横断方向の場所の少なくともいくつかに実質的に対応する、前記獲得する工程と、
該走査の関連する光学散乱プロファイルが実質的に類似するかどうかの評価に基づき、前記第1の複数の走査の所定の走査に前記第2の複数の走査の所定の走査を一致させて、走査の対を規定する工程と、
該OCTシステムと、各一致する対に関連するサンプルとの間の変位を決定し、該変位を使用して該第2の組の走査の少なくともいくつかに関連する座標を調整して、該第2の組の走査を獲得する間に前記相対移動によって生じる不正確性を補正する工程と、を備える方法。」
(引3b)
「【0016】
この実施例に関するA走査の獲得は、投影300の水平方向の行に沿って進行される。トモグラム301は、これらの行の1つであり、この断面を含むA走査は、順次獲得される。トモグラム302は、連続する行から選択されるA走査からなり、完全な3次元ボリュームの獲得の持続期間の間にサンプルの動きを断面302内に見る。
【0017】
A走査のラスタに加えて、一連の指標A走査を獲得し、一連の指標A走査は、指標A走査の正面画像における積分された光学散乱からなる、より低い解像度の正面画像350で図3内に示される。好ましい実施形態は、現在のOCT技術によって100ミリ秒内に獲得されることができる指標A走査のほぼ32×32のグリッドを使用する。例示の目的のために、図3の実施例は、128個のA走査の30行からなる指標の組を使用し、このより大きな組は、より認識可能な正面画像350を生成し、一方、現在のOCT技術では獲得のために200ミリ秒未満を必要とする。
【0018】
指標A走査の組は、好ましくは、サンプルの拒絶されるべき動きが無いことを意味している、サンプルが実質的に静止しているのに十分な速さで獲得される。例えば、人間の目の網膜を撮像するとき、横断方向の光学解像度は、一般に5ミクロンより良くはない。「ふるえ」と呼ばれる目の高速の動きは、網膜の数ミクロンの明らかな動きだけを生じさせ、明らかな動きは、人間の目を、光学装置を介して確認されるような動きである。ふるえによる動きは、一般に分解可能ではなく、それらは拒絶されるべきとは考えられない。断続運動と呼ばれる痙攣状の目の回転は、100ミクロンの明らかな動きを引き起こすことがあり、それらは拒絶されるべきである。断続運動は、1秒当たりほぼ1回不規則に生じる。したがって、人間の目にOCTが適用されるとき、指標A走査の組は、拒絶されるべき動きを避けるために、1秒より有意に短い間に獲得されなければならない。200ミリ秒内の指標A走査の獲得は、本出願で好ましい。
【0019】
比較の目的のために、図3に示される画像情報の完全なラスタ走査は、256個のA走査の256個の行に対応する。現在の技術を使用して、このラスタ走査は、目が動く時間の間に実行するために、1秒から2秒のオーダで行われることができる。」
(引3c)
「【0023】
A走査が、OCTビームの幅のより近くで離間した場所で測定されるなら、1つの指標A走査と良好に相関する完全なデータの組の各行において1つのA走査が存在する可能性がある。指標の獲得とラスタ走査の獲得との間にxおよびyにおける目の動きがあるなら、最も高い相互相関を有するA走査の対は、OCTシステムの異なる組のスキャナ座標で獲得される2つのA走査からなる。走査座標における差異によって、指標の獲得とラスタにおける一致するA走査の獲得との間のサンプルの横断方向の変位が明らとなる。
【0024】
相互相関は、シフトtの関数である。X12(t)が最大化されるtの値によって、指標の獲得とラスタにおける一致するA走査の獲得との間のzに沿ったサンプルの長手方向変位が明らかとなる。このように、サンプルのx、y、およびzにおける変位は、ラスタ走査に沿ったいくつかの点で決定され、毎回、良好な一致は、ラスタにおけるA走査と指標の組におけるA走査との間で見出される。そのような一致間のサンプルの場所は、一致によって決定される点を介する、ラスタ走査の進行時間の関数として滑らかな曲線に適合することによって推定される。時間に対するサンプル変位の結果として生じる曲線を考慮すれば、A走査のラスタにおけるデータは、動きアーチファクトの無い3次元データを形成するためにシフトされかつ補間される。
【0025】
本明細書で説明される方法は、画像A走査の獲得の間のわずかな移動を正確に補正するために使用されるときに最も有効である。これは、目の断続運動などの突然な動きを補正するのにより良好に適する従来技術の方法と有利に組み合わされることができる。断続運動の補正により良好に適する1つの従来技術の方法は、その直接隣接するトモグラムと、A走査の画像の組における各トモグラムとの相互相関であり、この従来技術の方法は、トモグラム間の解剖学的特徴の連続性による。本明細書で説明される方法は、サンプル動きの粗い追跡と有利に組み合わされることもでき、粗い追跡は、所望の場所と実際の測定場所との間の全ての好ましくない変位を排除するのに十分に正確な追跡と比較して、具体化するのにより実際的であり得る。
【0026】
図4は、本明細書で記載される方法を使用する補正後の図3のデータを示す。画像A走査に含まれるデータは、必要に応じてシフトされかつ補間され、指標A走査に一致する各画像のA走査は、指標A走査が獲得される場所に対応する位置に直ちに出現する。正面投影400は、深さzに沿って積分されたこの補正されたデータの組における光学散乱から構築される。トモグラム401および402は、それぞれ断面インジケータ401aおよび402aによって示されるように投影400に関連して、この補正されたデータの組を介した断面である。指示450は、画像A走査の完全な組に対する指標の組350の場所範囲を示す。」
(引3d)
図3及び図4には、以下の図が記載されている。




(2)引用文献3に記載された技術事項
以上のことから、引用文献3には以下の技術事項が記載されていると認められる。

「OCTシステムとサンプルとの間の相対移動によって生じる、収集されるデータに関連する座標における不正確性を補正するため、サンプルを横切る第1の複数の横断方向の場所で、第1の時間期間の間に第1の組の長手方向走査を全て獲得し(128個のA走査の30行のラスタ走査を200ミリ秒未満で行う)、サンプルを横切る第2の複数の横断方向の場所で、全て第1の時間期間より長い第2の間期間の間に、該第1の組の長手方向走査より大きい第2の組の長手方向走査を獲得し(256個のA走査の256行のラスタ走査を1秒から2秒のオーダで行う)、該走査の関連する光学散乱プロファイルが実質的に類似するかどうかの評価に基づき、前記第1の複数の走査の所定の走査に前記第2の複数の走査の所定の走査を一致させて、走査の対を規定し、該OCTシステムと、各一致する対に関連するサンプルとの間の変位を決定し、該変位を使用して該第2の組の走査の少なくともいくつかに関連する座標を調整して、該第2の組の走査を獲得する間に前記相対移動によって生じる不正確性を補正すること。」

3 甲2の記載事項、甲2発明
(1)甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2a)
「【0031】
<実施例> 以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は、本実施例に係る眼科撮影装置1の一例について説明する図である。眼科撮影装置1は、例えば、被検眼の撮影を行い、撮影した画像を観察するために用いられる。なお、以下の説明においては、眼科撮影装置1として、被検眼の断層画像を取得する光コヒーレンストモグラフィーデバイス(OCTデバイス)を例に挙げて説明する。」
(甲2b)
「【0035】
眼科撮影装置1は眼科撮影部10と眼科解析部20とで構成される。眼科撮影部10は、例えば、干渉光学系を有し、断層像を取得するために用いられる。眼底解析部20は、眼科撮影部10によって撮影された眼底画像をモニタ上で観察するために用いられる。」
(甲2c)
「【0039】
眼科撮影部10は、例えば、光コヒーレンストモグラフィーデバイス(OCTデバイス)である。OCTデバイスは、光源から出射された光束を測定光と参照光に分割し、測定光束を被検眼眼底に導き、参照光を参照光学系に導いた後、前記眼底から反射された測定光と参照光との干渉状態を検出器により検出する。そして、検出器から出力される受光信号に基づいて画像処理により断層像を取得する。また、OCTデバイスに備えられた正面像撮像光学系によって、被検眼眼底の正面画像(正面像)を取得する。なお、正面像撮像光学系としては、レーザ走査型検眼光学系(Scanning Laser Opthalmoscope:SLO)、眼底カメラ光学系が挙げられる。また、測定光を二次元的に走査させ、XY各点について受光素子からの干渉信号のスペクトル強度を積算することによりOCT正面像を得るOCT正面像撮像光学系等も挙げられる。なお、断層像と眼底正面像は、マッチングされている。」
(甲2d)
「【0045】
ここで、眼科解析部20の画像変更機能(解像度変更)について説明する。制御部70は、眼科撮影装置1によって取得された画像の解像度と外部端末30のモニタ31の解像度とが異なる場合、眼科撮影部10で取得された断層画像の解像度を外部端末30のモニタ31の解像度へと変更する。なお、本実施形態において、解像度とは、被検眼の撮影画像を構成する画素(ドット)の数を意味し、通常、縦横の積(例えば、1024×768等)にて表される。」
(甲2e)
「【0051】
図4は、解像度変更前後の画像間の対応関係について説明する図である。画像Aは、解像度変更前の画像を示している。画像Bは、解像度変更後の画像を示している。例えば、画像Bは、画像Aの解像度をN/Mサイズに小さくした画像である。解像度変更後における画像の各位置の画素値は、解像度変更前の画像の画素値を参考に決定していく。すなわち、解像度変更前の画像上で、解像度変更後の所定位置に対応する位置の画素値を決定し、決定した画素値を解像度変更後の画像の所定位置の画素値として適用する。
【0052】
例えば、画像Aにおける所定の位置を(A',B')とする。また、画像Bにおいて、画像Aにおける所定位置(A',B')に対応する位置を(a,b)とする。このとき、画像Aの位置(A',B')は、画像Bの(a,b)によって以下のように示される。
【0053】
【数2】(省略)
これによって、(A',B')=(Ma/N,Mb/N)と表わされる。そして、画像Aにおける所定位置(A',B')の4つの近傍の画素より、画像Bにおける位置(a,b)の画素を決定することができる。すなわち、画像Aで求められたI(A',B')が画像BのI(a,b)となる。」
(甲2f)
「【0058】
制御部70は、レポート画像を作成後、入力された外部端末の解像度に画像データを変更する。すなわち、制御部70は、外部端末30のモニタ31の解像度に対応するように、画像データの解像度を小さく変更する。制御部70は、解像度の変更処理としては、解像度を小さくするとともに、バイリニア補間法によって、画素値を変更していく。」

(2)甲2発明
以上のことから、甲2には以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。なお、参考のため引用根拠となった段落番号を括弧内に示す。

「(【0035】)眼科撮影装置1は眼科撮影部10と眼科解析部20とで構成され、
(【0039】)眼底解析部20は、眼科撮影部10によって撮影された眼底画像をモニタ上で観察するために用いられ、
眼科撮影部10は、光コヒーレンストモグラフィーデバイス(OCTデバイス)であり、
OCTデバイスは、光源から出射された光束を測定光と参照光に分割し、測定光束を被検眼眼底に導き、参照光を参照光学系に導いた後、前記眼底から反射された測定光と参照光との干渉状態を検出器により検出し、検出器から出力される受光信号に基づいて画像処理により断層像を取得するものであり、
(【0045】)眼科解析部20の制御部70は、眼科撮影装置1によって取得された画像の解像度と外部端末30のモニタ31の解像度とが異なる場合、眼科撮影部10で取得された断層画像の解像度を外部端末30のモニタ31の解像度へと変更するものであり、
(【0058】)制御部70の解像度の変更処理としては、解像度を小さくするとともに、バイリニア補間法によって、画素値を変更していくものであり、
(【0051】?【0053】)解像度変更前の画像Aにおける所定の位置を(A',B')とし、解像度変更後の画像Bにおいて、画像Aにおける所定位置(A',B')に対応する位置を(a,b)とし、このとき、画像Aの位置(A',B')は、画像Bの(a,b)によって(A',B')=(Ma/N,Mb/N)と表わされ、そして、画像Aにおける所定位置(A',B')の4つの近傍の画素より、画像Bにおける位置(a,b)の画素を決定するものである、
(【0031】)眼科撮影装置1。」

第6 当審の判断
1 甲1を主たる引用例とした場合
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
(ア)本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
a 「網膜」は、「被検眼眼底」の組織であるから、甲1発明の「網膜」の「2次元断層画像T_(i)(B-scan像)」である「断層画像T_(i)」を「撮影」することは、本件訂正発明1の「被検眼眼底の断層像を撮影する」ことに相当する。
甲1発明の「網膜」の「2次元断層画像T_(i)(B-scan像)」を「撮影」する際の「網膜に照射される近赤外光」は、「scan」つまり走査されるものであるから、本件訂正発明1の「検眼眼底上に」「走査させ」る「測定光」に相当する。そして、甲1発明の「断層画像撮影装置120」は、「網膜」の「2次元断層画像T_(i)(B-scan像)」を「撮影」するのであるから、本件訂正発明1の「被検眼眼底上に測定光を走査させて該被検眼眼底の断層像を撮影する断層像撮影手段」であるといえる。

b 甲1発明の画像処理装置110の画像作成部116における断層画像生成処理は、隣同士(2つ)の走査線(A_(i2j)’、A_(i2j+1’))_(が)加算平均処理されることで新たな一つの走査線(A_(ij))となり、2次元断層画像を構成する処理であり、画像を構成する走査線の数を半分に圧縮し2次元断層画像を構成する処理であるといえるから、本件訂正発明1の「画像を走査方向に圧縮して断層画像を生成する画像処理」に相当する。
よって、甲1発明の「画像処理装置110」の「画像作成部116」は、本件訂正発明1の「前記撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成する画像処理手段」であるといえる。

c 甲1発明の「断層画像撮影装置120」と「画像処理装置110」が「接続されることにより構成され」る「画像処理装置110」は、本件訂正発明1の「断層像撮影手段」と「画像処理手段」とを備える「断層像撮影装置」に相当する。

d 「前記断層像撮影手段が、第一のスキャン間隔よりも狭い第二のスキャン間隔で走査して被検眼眼底の断層像を撮影」する点にいついて
甲1発明は、「オーバーサンプリング法により撮影」するものであり、「オーバーサンプリング法は、網膜に照射される近赤外光を、隣接するビーム同士でオーバーラップするように照射させ、走査線数を増やし解像度の高い2次元断層画像を生成する手法であ」る。そして、甲1発明では、「横方向解像度rxの2倍の解像度で撮影が行われ」る。
そして、甲1発明の「横方向解像度rxの2倍の解像度で撮影が行われ」ることは、通常(1倍)よりも2倍の解像度で撮影するものであるから、走査線の間隔は、通常の間隔(「第一のスキャン間隔」に相当。)よりも狭い間隔(「狭い第二のスキャン間隔」に相当。)であり、本件訂正発明1の「第一のスキャン間隔よりも狭い第二のスキャン間隔」に相当する。
よって、甲1発明の「オーバーサンプリング法により撮影」は、本件訂正発明1の「前記断層像撮影手段が、第一のスキャン間隔よりも狭い第二のスキャン間隔で走査して被検眼眼底の断層像を撮影」に相当する。

e 「前記画像処理手段が、前記第二のスキャン間隔で撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成」する点について
甲1発明は、「オーバーサンプリング法により撮影された断層画像を処理し断層画像を生成する」ものであり、「横方向解像度rxの2倍の解像度で撮影が行われた場合、A_(i2j)’の走査線と、A_(i2j)’を撮影した1/f[s]後に撮影されたA_(i2j+1)’の走査線について加算平均処理を行うことにより新たな走査線A_(ij)を算出し、同一平面上に位置する複数の走査線A_(ij)によって2次元断層画像T_(i)を構成する」。
ここで、「2倍の解像度」とは、2倍の数の走査線を意味し、「A_(i2j)’の走査線と、A_(i2j)’を撮影した1/f[s]後に撮影されたA_(i2j+1)’の走査線について加算平均処理を行う」ことは、隣同士の走査線(2つの走査線)が加算平均されて新たな1本の走査線になり、2倍の数の走査線で構成される2次元断層画像が、1倍の数の走査線で構成される新たな2次元断層画像となることを意味する。
よって、甲1発明の「オーバーサンプリング法により撮影された断層画像を処理し断層画像を生成」することは、本件訂正発明1の「前記画像処理手段が、前記第二のスキャン間隔で撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成」することに相当する。

f 「前記新たな断層画像の走査方向の測定幅が、前記第一のスキャン間隔で走査して得られる断層画像の走査方向の測定幅に相当する画像の幅であり、かつ前記新たな断層画像のAスキャン画像間隔が、前記第一のスキャン間隔で走査して得られる断層画像のAスキャン画像間隔に相当する」点について
甲1発明は、通常(1倍)よりも2倍の解像度で撮影(上記(d)参照。)し、撮影された断層画像を処理することで、2倍の数の走査線で構成される2次元断層画像が、1倍の数の走査線で構成される新たな2次元断層画像となるものである(上記(e)参照。)。
ここで、上記(d)の検討を踏まえると、通常の撮影における走査線の間隔は、「第一のスキャン間隔」に相当するものであり、上記(e)の検討を踏まえると、「新たな走査線Aijを算出し、同一平面上に位置する複数の走査線Aijによって」「構成」される「2次元断層画像Ti」は、1倍の数の走査線で構成されるものであるから、通常の撮影における断層画像の走査方向の測定幅となる。
よって、甲1発明において、「新たな走査線Aijを算出し、同一平面上に位置する複数の走査線Aijによって」「構成」した「2次元断層画像Ti」が通常の撮影における断層画像の走査方向の測定幅となることは、本件訂正発明1の「前記新たな断層画像の走査方向の測定幅が、前記第一のスキャン間隔で走査して得られる断層画像の走査方向の測定幅に相当する画像の幅であり、かつ前記新たな断層画像のAスキャン画像間隔が、前記第一のスキャン間隔で走査して得られる断層画像のAスキャン画像間隔に相当する」ことに相当する。

(イ)以上の相当関係から、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
(一致点1)
「被検眼眼底上に測定光を走査させて該被検眼眼底の断層像を撮影する断層像撮影手段と、
前記撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成する画像処理手段と、を備え、
前記断層像撮影手段が、前記第一のスキャン間隔よりも狭い第二のスキャン間隔で走査して被検眼眼底の断層像を撮影し、
前記画像処理手段が、前記第二のスキャン間隔で撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成し、
前記新たな断層画像の走査方向の測定幅が、前記第一のスキャン間隔で走査して得られる断層画像の走査方向の測定幅に相当する画像の幅であり、かつ前記新たな断層画像のAスキャン画像間隔が、前記第一のスキャン間隔で走査して得られる断層画像のAスキャン画像間隔に相当する、
断層像撮影装置。」

(相違点1)
本件訂正発明1は、「前記断層像撮影手段が、第一のスキャン間隔で走査して被検眼眼底の断層像を撮影するとともに」、「前記第一のスキャン間隔で撮影された断層像を用いて前記新たな断層画像の歪みを補正する」のに対し、甲1発明は、そのような補正をしていない点。

イ 判断
(ア)新規性について
上記のとおり、本件訂正発明1と甲1発明とは、相違点1を有するから、本件訂正発明1は、甲1発明ではない。

(イ)進歩性について
引用文献3には、以下の技術事項が記載されている(再掲)。
「OCTシステムとサンプルとの間の相対移動によって生じる、収集されるデータに関連する座標における不正確性を補正するため、
サンプルを横切る第1の複数の横断方向の場所で、第1の時間期間の間に第1の組の長手方向走査を全て獲得し(128個のA走査の30行のラスタ走査を200ミリ秒未満で行う)、
サンプルを横切る第2の複数の横断方向の場所で、全て第1の時間期間より長い第2の間期間の間に、該第1の組の長手方向走査より大きい第2の組の長手方向走査を獲得し(256個のA走査の256行のラスタ走査を1秒から2秒のオーダで行う)、
該走査の関連する光学散乱プロファイルが実質的に類似するかどうかの評価に基づき、前記第1の複数の走査の所定の走査に前記第2の複数の走査の所定の走査を一致させて、走査の対を規定し、
該OCTシステムと、各一致する対に関連するサンプルとの間の変位を決定し、該変位を使用して該第2の組の走査の少なくともいくつかに関連する座標を調整して、該第2の組の走査を獲得する間に前記相対移動によって生じる不正確性を補正すること。」

ここで、第1の組の30行の走査と第2の組の256行の走査において、それぞれの走査線の間隔は明記されてはいないが、引用文献3の段落0017には、30行からなる正面画像350は、より低い解像度であることが記載されており、引用文献3の図3図4の第1の組の30行の走査される面積(正面画像350、指示450)と第2の組の256行の走査される面積(投影300、投影400)の大きさの関係と、30行と256行の走査線の本数の関係(約8.5倍)とを考慮すると、第1の組の30行の走査線の間隔よりも第2の組の256行の走査線の間隔は狭いといえる。
そうすると、引用文献3に記載された「OCTシステムとサンプルとの間の相対移動によって生じる、収集されるデータに関連する座標における不正確性を補正するため」の技術事項は、「(第2の時間期間より短い)第1の時間期間の(第2の組の走査線の間隔より広い)第1の組の走査」と「(第1の時間期間より長い)第2の時間期間の(第1の組の走査線の間隔より狭い)第2の組の走査」を対比し変位を決定し、その変位を使用して第2の組の走査の相対移動によって生じる不正確性を補正することであるともいえる。

甲1の【0013】には、「一方、オーバーサンプリング法の場合、走査線数を増やし、オーバーラップの幅を広げることで、より高解像度の断層画像を生成することができる。しかしながら、走査線数が増えると、1枚の断層画像を撮影するのにかかる時間が増加し、眼球の固視微動や頭の動き等の影響を受けやすくなる。この結果、撮影された断層画像内に歪みが生じることとなる。」と記載されているように、甲1には、オーバーサンプリング法の場合、眼球の固視微動や頭の動き等の影響を受けやすくなるとの課題が記載されている。
そして、甲1発明は、オーバーサンプリング法により撮影された断層画像を処理し断層画像を生成するものであるから、眼球の固視微動や頭の動き等の影響を受けやすくなるとの課題を有するものであり、引用文献3に記載された「OCTシステムとサンプルとの間の相対移動によって生じる、収集されるデータに関連する座標における不正確性を補正するため」の技術事項を適用する動機付けがあるといえる。
してみると、甲1発明に引用文献3に記載された技術事項を適用し、走査線の間隔が狭い第2の組の走査であるオーバーサンプリング法により撮影された断層画像に対し、(第2の時間期間より短い)第1の時間期間の(第2の組の走査線の間隔より広い)第1の組の走査をし、第1組の走査と第2組の走査とを対比し変位を決定し、その変位を使用して、オーバーサンプリングの走査の相対移動によって生じる不正確性(歪み)を補正するようにすることは、当業者が容易に想到し得ることであるといえる。
しかしながら、甲1発明に引用文献3に記載された技術事項を適用した際に、歪み補正される対象は、甲1発明の「オーバーサンプリング法により撮影された断層画像」であって、オーバーサンプリング法により撮影された断層画像の走査線について加算平均処理を行い、新たな走査線Aijによって構成された2次元断層画像Ti(「新たな断層画像」に相当)に対するものではない。
よって、甲1発明に引用文献3に記載された技術事項を適用しても、相違点1に係る本件訂正発明1の「前記第一のスキャン間隔で撮影された断層像を用いて前記新たな断層画像の歪みを補正する」構成には到らない。
したがって、本件訂正発明1は、甲1発明及び引用文献3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件訂正発明3ないし6について
本件訂正発明3ないし6は、本件訂正発明1の全ての構成を含み、相違点1に係る本件訂正発明1の「前記第一のスキャン間隔で撮影された断層像を用いて前記新たな断層画像の歪みを補正する」構成を備える発明であるから、本件訂正発明1と同じ理由により、本件訂正発明3ないし6は、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び引用文献3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 甲2を主たる引用例とした場合
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
(ア)本件訂正発明1と甲2発明とを対比する。
a
甲2発明の眼底画像を撮影する「眼科撮影部10」は、「光コヒーレンストモグラフィーデバイス(OCTデバイス)」であり、断層像を取得するものである。
そして、断層像を取得するものであるから、被検眼眼底に導かれる測定光束が走査されることは明らかである。
よって、甲2発明の「眼科撮影部10」は、本件発明1の「被検眼眼底上に測定光を走査させて該被検眼眼底の断層像を撮影する断層像撮影手段」であるといえる。
b
甲2発明において、「眼科解析部20の制御部70は、眼科撮影装置1によって取得された画像の解像度と外部端末30のモニタ31の解像度とが異なる場合、眼科撮影部10で取得された断層画像の解像度を外部端末30のモニタ31の解像度へと変更するものであり、制御部70の解像度の変更処理としては、解像度を小さくするとともに、バイリニア補間法によって、画素値を変更していくものであり、解像度変更前の画像Aにおける所定の位置を(A',B')とし、解像度変更後の画像Bにおいて、画像Aにおける所定位置(A',B')に対応する位置を(a,b)とし、このとき、画像Aの位置(A',B')は、画像Bの(a,b)によって(A',B')=(Ma/N,Mb/N)と表わされ、そして、画像Aにおける所定位置(A',B')の4つの近傍の画素より、画像Bにおける位置(a,b)の画素を決定するものである」。
ここで、眼科撮影部10で取得された断層画像の解像度を変更する制御部70の解像度の変更処理は、解像度を小さくするとともに、バイリニア補間法によって、画素値を変更していくものであり、解像度変更前の画像Aの位置(A',B')は、解像度変更後の画像Bの(a,b)によって(A',B')=(Ma/N,Mb/N)と表わされるものであるから、解像度変更後の画像Bは、解像度変更前の画像Aを全体的にN/M倍に圧縮した画像であるといえる。
そして、甲2発明の「解像度変更前の画像A」「解像度変更後の画像B」は、それぞれ本件訂正発明1の「撮影された断層像の画像」「新たな断層画像」に相当し、甲2発明において、全体的に圧縮することは、画像の走査方向においても圧縮することを含むものである。
よって、甲2発明の「眼科解析部20の制御部70」は、本件訂正発明1の「前記撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成する画像処理手段」であるといえる。
c
甲2発明の「眼科撮影部10と眼科解析部20とで構成される」「眼科撮影装置1」は、本件訂正発明1の「断層像撮影手段」と「画像処理手段」とを備える「断層像撮影装置」に相当する。
d
してみると、本件訂正発明1と甲2発明は、
「被検眼眼底上に測定光を走査させて該被検眼眼底の断層像を撮影する断層像撮影手段と、
前記撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成する画像処理手段と、を備える断層像撮影装置」で一致し、以下の点で相違する。
(相違点2)
本件訂正発明1は「前記断層像撮影手段が、第一のスキャン間隔で走査して被検眼眼底の断層像を撮影するとともに、前記第一のスキャン間隔よりも狭い第二のスキャン間隔で走査して被検眼眼底の断層像を撮影し、
前記画像処理手段が、前記第二のスキャン間隔で撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成するとともに、前記第一のスキャン間隔で撮影された断層像を用いて前記新たな断層画像の歪みを補正し、
前記新たな断層画像の走査方向の測定幅が、前記第一のスキャン間隔で走査して得られる断層画像の走査方向の測定幅に相当する画像の幅であり、かつ前記新たな断層画像のAスキャン画像間隔が、前記第一のスキャン間隔で走査して得られる断層画像のAスキャン画像間隔に相当する」のに対し、甲2発明は、そのような歪み補正をしていない点。

イ 判断
(ア)新規性について
上記のとおり、本件訂正発明1と甲2発明とは、相違点2を有するから、本件訂正発明1は、甲2発明ではない。

(イ)進歩性について
甲2発明は「眼科撮影装置1によって取得された画像の解像度と外部端末30のモニタ31の解像度とが異なる場合、眼科撮影部10で取得された断層画像の解像度を外部端末30のモニタ31の解像度へと変更する」発明であり、解像度が異なるのはモニタの解像度であって、スキャン間隔の違いによるものではなく、異なるスキャン間隔で得られた画像による歪み補正の課題を有するものではない。
してみると、仮に、相違点2に係る歪み補正が周知技術であったとしても、甲2発明に、該周知技術を適用する動機付けはないから、本件訂正発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 申立人の主張について

1 令和3年4月8日付け意見書において、申立人は以下のとおり主張している。
「(2-1-2)訂正事項1について
訂正後の本件特許発明1は、「前記第一のスキャン間隔で撮影された断層像を用いて前記新たな断層画像の歪みを補正し、」という要件を有している。 本件特許発明の特許権者(以下、特許権者)は、・・・ これらの記載から、訂正後の本件特許発明1が有する上記要件における「歪み」の「補正」の対象となる「新たな断層画像」は、本件特許明細書に記載される「高密度スキャンで得られた断層画像」に相当する。そして、特許権者は、意見書において、当該「新たな断層画像」である「高密度スキャンで得られた断層画像」は、圧縮後の断層画像である旨主張している。 しかしながら、本件特許名声書の以下の段落【0027】、【0036】、【0050】、【0051】、【0056】、【0061】の記載によれば、上記段落【0053】に記載の歪み補正の対象となる「高密度スキャンで得られた断層画像」は、「高密度スキャンで得られた断層画像を走査方向に圧縮して生成した新たな断層画像」を意味するものではなく、高密度スキャンで得られた圧縮処理前の断層画像を意味するものであると解釈される。これは、高密度スキャンで得られた断層画像を圧縮して得られた新たな断層画像は、本件特許明細書の段落【0036】、【0050】に記載のように「『新たな』Bスキャン画像」として、「高密度スキャンで得られた断層画像」と区別して記載されていることからも明白である。・・・ このように、訂正後の本件特許発明1が有する上記条件に対する訂正の根拠とされる本件特許明細書の段落【0053】に記載されているのは、第二のスキャン間隔で撮影された圧縮処理「前」の断層像の画像に対して、第二のスキャン間隔で撮影された断層像を用いて歪み補正を行うことであり、本件特許明細書における上記に示した以外の箇所にも、第二のスキャン間隔で撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して生成された「新たな断層画像」に対して歪み補正を行うことは、記載も示唆もない。 すなわち、訂正後の本件特許発明1が有する「前記第一のスキャン間隔で撮影された断層像を用いて前記新たな断層画像の歪みを補正し、」という要件は、本件特許明細書に記載も示唆もされていない。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではなく、特許法第120条の5第9項の準用する同法第126条第5項に違反するものである。また、訂正後の本件特許発明1は、特許法第36条第6項第1号に違反していることが明らかであるから、特許法第113条第4号により取り消されるべきである。」(意見書2頁?6頁)

2 申立人の主張に対する当審の判断
(1)発明の詳細な説明の記載について
「【0036】
この高密度のスキャン間隔PLで取得されたBスキャン画像B3は、図2の(e)に示すようにX方向に圧縮されて、新たなBスキャン画像B4が生成される。
・・・
【0039】
このように水平方向に圧縮されたBスキャン画像B4のX方向の画像の幅は、所定の間隔幅PHのスキャンで得られたBスキャン画像B1、B2の画像の幅と同じになっている。一方、Bスキャン画像B4は、高密度のBスキャン画像B3を水平方向に加算平均して得られるものであり、各画素が眼底の細かい部分を記録している。従って、各画素の加算平均も同様に細かい部分の加算平均値となっているので、Bスキャン画像B4はBスキャン画像B1、B2よりも細かい部分の再現性に優れた画像(精細な画像)となっている。
【0040】
上述のようにして得られたBスキャン画像B4は、Bスキャン画像B1、B2よりも精細な画像であるとともに、スペックルパタンが強調されて目立つようになるため、スペックルパタンを積極的に利用して断層画像からより詳細な眼底組織の状態に関する情報を得ようとするときに極めて有効である。
・・・
【0050】
本実施形態のように、狭いスキャン間隔PLで高密度スキャンにより得られたBスキャン画像B11を走査方向に圧縮して新たなBスキャン画像B12を生成して読影用画像とする場合
・・・
【0053】
一方で、本実施形態のように高密度スキャンを行うと、1回のスキャン時間が従来法に比べて長くなるので、その間の被検眼の固視微動の問題への対応方法が必要となる。具体的には、従来方法では固視微動の影響は、10枚のBスキャン画像を加算平均処理する場合において、それぞれの画像の位置ずれとして現れていたが、本実施形態では固視微動の影響がBスキャン画像中の歪みとなって現れる。このような歪みが発生した画像をそのまま用いると読影に支障があるため、適宜その歪みを補正することが望まれる。補正の方法の一つとしては、被検眼の視度情報によって推定される理想的断層像リファレンスモデルに倣って補正する方法もあるが、この方法を採用することにより逆にその被検眼特有の形状の状況を見誤る可能性も否定できない。そこで、本実施形態においては、高密度スキャンを行う前及び/又は後に1回ないしは少数回、高密度スキャンする場所と同じ場所を高速スキャンすることにより歪みの発生する可能性の低い画像(以下基準画像)を取得しておき、高密度スキャンで得られた断層画像の歪みを、その基準画像を使用して補正するという方法を採用する。
・・・
【0056】
位置合わせスキャンを実行して基準画像を取得、および高密度スキャンを実行して高精細の断層画像を取得できたら、基準画像と高精細の断層画像の位置合わせを行う。この位置合わせ方法としても様々な方法が採用可能である。第一の例としては、セグメンテーションラインのうち同一の1ないし複数の境界のセグメンテーションラインを元に実施することが考えられる。また第二の例としては、血管構造による断層画像の強弱パタンをもとに実施することが考えられる。この場合、走査方向(横方向)の倍率補正、走査速度不均一の補正が可能となる。さらに第三の例としては、同一の1ないし複数の画像の相関を元に実施することが考えられる。
【0057】
このように、位置合わせスキャンで得られた基準画像と高密度スキャンで得られた断層画像との間で位置合わせを行うことにより、高密度スキャン中に起きる固視微動の影響を極力少なくすることができる。」

(2)判断
申立人の主張は、歪み補正の対象となるのは、「高密度スキャンで得られた断層画像」であり「新たなBスキャン画像」とは区別される画像であることを前提とするものである。
しかしながら、
「【0036】
この高密度のスキャン間隔PLで取得されたBスキャン画像B3は、図2の(e)に示すようにX方向に圧縮されて、新たなBスキャン画像B4が生成される。」及び
「【0050】
本実施形態のように、狭いスキャン間隔PLで高密度スキャンにより得られたBスキャン画像B11を走査方向に圧縮して新たなBスキャン画像B12を生成して読影用画像とする場合」との記載は、
「高密度のスキャンで得られた断層画像」から二次的に(走査方向(X方向)に圧縮して)生成された「新たなBスキャン画像B4、B12」が「高密度のスキャンで得られた断層画像」であることを排除するものではない。

また、上記(1)の記載によれば、(【0053】)「本実施形態のように高密度スキャンを行うと、1回のスキャン時間が従来法に比べて長くなるので、・・・固視微動の影響がBスキャン画像中の歪みとなって現れる。」ことの解決手段は、(【0057】)「位置合わせスキャンで得られた基準画像と高密度スキャンで得られた断層画像との間で位置合わせを行うことにより、高密度スキャン中に起きる固視微動の影響を極力少なくする」ということであり、位置合わせの具体的構成は、(【0056】)「位置合わせスキャンを実行して基準画像を取得、および高密度スキャンを実行して高精細の断層画像を取得できたら、基準画像と高精細の断層画像の位置合わせを行う」というものである。
ここで、基準画像と位置合わせされる画像は、「高精細の断層画像」と記載されている。
そして、【0039】の「Bスキャン画像B4はBスキャン画像B1、B2よりも細かい部分の再現性に優れた画像(精細な画像)となっている。」との記載、及び【0036】の「高密度のスキャン間隔PLで取得されたBスキャン画像B3は、図2の(e)に示すようにX方向に圧縮されて、新たなBスキャン画像B4が生成される。」との記載を踏まえると、X方向に圧縮されて生成された「新たなBスキャン画像B4」は、「高精細の断層画像」といえるから、基準画像と位置合わせされる画像であるといえる。
してみると、「新たなBスキャン画像」は、基準画像と位置合わせされる画像、つまり、歪み補正の対象となる画像であるといえる。
以上のとおり、訂正後の本件特許発明1が有する「前記第一のスキャン間隔で撮影された断層像を用いて前記新たな断層画像の歪みを補正し、」という要件は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていた事項であるから、申立人の上記主張は採用することができない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、訂正された請求項1、3?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正された請求項1、3?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議の申立てについて、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼眼底上に測定光を走査させて該被検眼眼底の断層像を撮影する断層像撮影手段と、
前記撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成する画像処理手段と、を備え、
前記断層像撮影手段が、第一のスキャン間隔で走査して被検眼眼底の断層像を撮影するとともに、前記第一のスキャン間隔よりも狭い第二のスキャン間隔で走査して被検眼眼底の断層像を撮影し、
前記画像処理手段が、前記第二のスキャン間隔で撮影された断層像の画像を走査方向に圧縮して新たな断層画像を生成するとともに、前記第一のスキャン間隔で撮影された断層像を用いて前記新たな断層画像の歪みを補正し、
前記新たな断層画像の走査方向の測定幅が、前記第一のスキャン間隔で走査して得られる断層画像の走査方向の測定幅に相当する画像の幅であり、かつ前記新たな断層画像のAスキャン画像間隔が、前記第一のスキャン間隔で走査して得られる断層画像のAスキャン画像間隔に相当することを特徴とする断層像撮影装置。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記画像処理手段が、前記第二のスキャン間隔で撮影された断層像の画像を構成するAスキャン画像をn個毎に走査方向に圧縮し、圧縮されたAスキャン画像のそれぞれを走査方向に結合して前記新たな断層画像を生成することを特徴とする、請求項1に記載の断層像撮影装置。
【請求項4】
前記圧縮されたAスキャン画像のそれぞれが、n個のAスキャン画像を走査方向に加算平均処理することによって生成されることを特徴とする、請求項3に記載の断層像撮影装置。
【請求項5】
前記圧縮されたAスキャン画像のそれぞれが、n個のAスキャン画像をフィルタ処理することによって生成されることを特徴とする、請求項3に記載の断層像撮影装置。
【請求項6】
前記第二のスキャン間隔が、前記第一のスキャン間隔の1/nであることを特徴とする、請求項1、3、4及び5のいずれか1項に記載の断層像撮影装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-06-28 
出願番号 特願2017-502499(P2017-502499)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61B)
P 1 651・ 537- YAA (A61B)
P 1 651・ 121- YAA (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮川 哲伸  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 森 竜介
渡戸 正義
登録日 2019-10-11 
登録番号 特許第6599973号(P6599973)
権利者 興和株式会社
発明の名称 断層像撮影装置  
代理人 早川 裕司  
代理人 村雨 圭介  
代理人 加藤 卓  
代理人 加藤 卓  
代理人 早川 裕司  
代理人 村雨 圭介  

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