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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
管理番号 1377777
異議申立番号 異議2020-700187  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-03-17 
確定日 2021-07-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6579292号発明「ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂水分散体、及びポリエステル樹脂水分散体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6579292号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正することを認める。 特許第6579292号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯及び証拠方法
1.手続の経緯
特許第6579292号(請求項の数14。以下、「本件特許」という。)は、平成30年11月27日(優先権主張:平成29年12月8日)を国際出願日とする特許出願(特願2019-513866号)に係るものであって、令和元年9月6日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和元年9月25日である。)。
その後、令和2年3月17日に、本件特許の請求項1?14に係る特許に対して、特許異議申立人である吉田真理奈(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
特許異議の申立て以降の手続の経緯は、以下のとおりである。

令和2年 6月25日付け 取消理由通知書
同年 8月24日 意見書(特許権者)
同年 9月17日 上申書(申立人)
同年11月30日付け 取消理由通知書<決定の予告>
令和3年 1月14日 応対記録の作成(特許権者との連絡)
同年 2月 4日 訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)
同年 3月 8日 意見書(申立人)
同年 6月17日 応対記録の作成(特許権者との連絡)

2.証拠方法
申立人が異議申立書に添付した証拠方法は、以下のとおりである。
・甲第1号証:国際公開2016/136652号
・甲第2号証:特開2008-239691号公報
・甲第3号証:特開2010-128212号公報

特許権者が令和3年2月5日に提出した意見書に添付した証拠は、以下のとおりである。
・参考資料1:有機合成化学 第33巻第8号(1975年)、650
?655頁
・参考資料2:実施例A-1に使用した樹脂No.1の解重合前後のゲル
浸透クロマトグラフィー(GPC)で得られた分析結果
・参考資料3:特許第3546978号公報

第2 訂正の適否
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1?5のとおりである。なお、下線は、訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「多価カルボン酸成分Z」、「多価アルコール成分Y」を、それぞれ、「脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸である2価のカルボン酸成分Z」、「脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコールまたは芳香族含有グリコールである2価のアルコール成分Y」に訂正する。

(2)訂正事項2
明細書の段落【0074】の「実施例A-2?A-6」、「ポリエステル樹脂No.2?11」を、それぞれ、「実施例A-2,A-4?A-6」、「ポリエステル樹脂No.2,4?11」に訂正する。

(3)訂正事項3
明細書の段落【0075】の表1である


」を



に訂正する。

(4)訂正事項4
明細書の段落【0079】の「実施例C-2?C-6」、「ポリエステル樹脂水分散体C-2?C-6」を、それぞれ、「実施例C-2,C-4?C-6」、「ポリエステル樹脂水分散体C-2,C-4?C-6」に訂正する。

(5)訂正事項5
明細書の段落【0081】の


」を


」に訂正する。

(6)一群の請求項について
訂正事項1は、訂正前の請求項1を対象とするものであるが、訂正前の請求項2?14は、請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?14は、一群の請求項に該当するものである。
したがって、訂正事項1は、請求項[1?14]の一群の請求項についてなされたものである。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更
の存否
(1)訂正事項1
訂正事項1は、本件明細書の【0015】に記載されていた「2価以上の多価カルボン酸成分Zとしては、芳香族多価カルボン酸、脂肪族多価カルボン酸または脂環族多価カルボン酸であることが好ましい。」に基づき、訂正前の「多価カルボン酸成分Z」を、好ましい多価カルボン酸である「脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸である2価のカルボン酸Z」に訂正し、同【0016】に記載されていた「2価以上の多価アルコール成分Yとしては、脂肪族グリコ-ル、脂環族グリコ-ル、エ-テル結合含有グリコ-ルまたは芳香族含有グリコールであることが好ましい。」に基づき、訂正前の「多価アルコール成分Y」を、好ましい多価グリコールである「脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコールまたは芳香族含有グリコールである2価のアルコール成分Y」に訂正するものである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。

(2)訂正事項2?5
訂正事項2,3は、訂正前の本件明細書の【0074】、【0075】に記載されていた実施例A-3を除くものであり、訂正事項4、5は、実施例A-3に製造される樹脂No.3を用いて得られる実施例C-3のポリエステル樹脂水分散体、水性接着剤を除くものである。
訂正事項2?5は、表1の実施例A-3においては、PE(ペンタエリスリトール)とINO(イノシトール)がW(多価アルコール)として使用されているところ、それぞれの価数が4と6であるにも関わらず、(q+r)には、それらの価数を上回る7.0と表示され、整合していないことに鑑み、実施例A-3及びこの実施例A-3を用いる実施例C-3を削除するものであり、特許法120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。
また、訂正事項2?5は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。
そして、訂正事項2?5は、訂正前の請求項1?14について請求されたものであることは明らかである。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とし、本件訂正請求による訂正事項2?5は、同法同条同項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とするものであり、かつ、いずれも同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合している。
したがって、特許請求の範囲、明細書を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおりに訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?14に係る発明は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
下記一般式(1)の化学構造で示され、
酸価が250?2,500eq/10^(6)g、
数平均分子量が2,000?50,000、であるポリエステル樹脂。
(X-O)_(r)-W-(O-(CO-Z-CO-O-Y-O)_(p)-X)_(q) ・・・(1)
但し、Wは(q+r)個の水酸基を有する多価アルコールの残基、(CO-Z-CO-O-Y-O)は脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸である2価のカルボン酸成分Zと脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコールまたは芳香族含有グリコールである2価のアルコール成分Yを重合成分とするポリエステル樹脂骨格、Xはカルボキシル基を2個以上有する多塩基酸の残基または水素である(ただし、(q+r)個のXが全て水素になることはない)。X、YおよびZはそれぞれ同一または異なっていてもよく、同一の繰り返し単位中においても同一または異なっていてもよい。pの平均値は3以上であり、qの平均値は0よりも大きく15以下であり、rの平均値は0以上15未満であり、(q+r)は3以上15以下である。
【請求項2】
前記一般式(1)におけるWが、ペンタエリスリトールの残基、ソルビトールの残基およびイノシトール残基からなる群より選ばれる1種以上の残基であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるXが、無水トリメリット酸、無水コハク酸および無水マレイン酸からなる群より選ばれるいずれか1種以上の残基であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載のポリエステル樹脂、塩基性化合物および水を含有するポリエステル樹脂水分散体。
【請求項5】
乳化剤を含有しないことを特徴とする請求項4に記載のポリエステル樹脂水分散体。
【請求項6】
有機溶剤を含有しないことを特徴とする請求項4または5に記載のポリエステル樹脂水分散体。
【請求項7】
請求項1?3のいずれかに記載のポリエステル樹脂と塩基性化合物と水とを、乳化剤および有機溶剤を加えることなく混合することによってポリエステル樹脂水分散体を得る工程を有する、ポリエステル樹脂水分散体の製造方法。
【請求項8】
さらに硬化剤を含有する請求項4?6のいずれかに記載のポリエステル樹脂水分散体。
【請求項9】
前記硬化剤が多価エポキシ化合物、オキサゾリン樹脂、カルボジイミド樹脂、イソシアネート化合物、メラミン樹脂および多価金属塩からなる群から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項8に記載のポリエステル樹脂水分散体。
【請求項10】
請求項8または9のポリエステル樹脂水分散体を含有する水性接着剤。
【請求項11】
請求項8または9のポリエステル樹脂水分散体を含有する水性塗料。
【請求項12】
請求項8または9のポリエステル樹脂水分散体と色材を含有する水性インキ。
【請求項13】
請求項1?3のいずれかに記載のポリエステル樹脂を含有する層(A層)とフィルム、シート、織布、不織布または紙からなる層(B層)を含有する積層体。
【請求項14】
請求項13に記載の積層体を構成要素として有する包装材料。」

以下、本件の請求項1?14に係る発明を、項番に従い、「本件訂正発明1」?「本件訂正発明14」という。また、本件訂正請求により訂正された明細書を「本件訂正明細書」、訂正前の特許権の設定登録時の明細書を「本件明細書」という。

第4 取消理由通知で示した取消理由について
1.令和2年11月30日付け取消理由通知<決定の予告>で示した取消
理由の概要

「第3 取消理由通知の概要
当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

(1)取消理由1
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。…
(2)取消理由2
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。」

「第4 当審の判断
当審は、本件発明1?14に係る特許は、取消理由で通知した理由1,2によって取り消すべきものと判断する。
その理由は以下のとおりである。」

(1)取消理由1(サポート要件違反)
「1 取消理由で通知した理由1(サポート要件)について
・請求項:1?14」

「(3)本件発明1について
ア.本件発明1が解決しようとする課題は、ポリ乳酸に比べ耐熱性が優れており、乳化剤および有機溶剤を使用することなく、水系エマルジョンを形成することのできる自己乳化機能を有するポリエステル樹脂を提供することであると解される…。

イ 本件明細書の段落【0073】には、ポリエステル樹脂No.1の製造…が記載され、さらに、同【0074】には、ポリエステル樹脂No.2?No.6の製造…が記載されている。そして、本件明細書の【表1】、【表2】には、各ポリエステル樹脂の組成、数平均分子量等が示されている…。

ウ しかしながら、これらの表では、各ポリエステル樹脂がどのような構造のものであるのか判然としない。すなわち、Wの組成比だけでは、本件発明1における一般式(1)の化学構造となっているのか判然としない。例えば、ポリエステル樹脂No.1について、上記製造方法により合成を行っているが、ペンタエリスリトールを仕込み撹拌した際に、ペンタエリスリトール1分子に対してポリエステル樹脂骨格が結合するのではなく、ペンタエリスリトールが何分子もポリエステル骨格に結合(「-W-ポリエステル骨格-W-」のような結合)していることもあり得るのであり、その場合には本件発明1における一般式(1)の化学構造にはならず、ポリエステル樹脂No.2?6についても同様である。
そうすると、実施例A-1?A-6は、本件発明1の具体例であるのか不明であり、上記課題を解決できるのか明らかではない。

エ 加えて…ポリエステル樹脂骨格部分に用いられている成分についても、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸の2価カルボン酸成分と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールの2価アルコール成分のみである。

オ そして、本件明細書の段落【0017】に、ポリエステル樹脂骨格部分における多価カルボン酸として、3官能以上の多価カルボン酸が多すぎるとポリエステル樹脂がゲル化してしまうことが記載されているように…架橋構造の多寡によりその物性は大きく変化するものであるにもかかわらず、本件明細書には、カルボン酸成分Zとアルコール成分Yの価数に制限なく、さらに、アルコール成分Yと多価アルコール残基Wの区別もなく本件発明1の課題が解決できることについては、何ら具体的な説明がなされておらず、また、そのようなことが、本件特許の出願時の技術常識であるともいえない。
そうすると、一般式(1)の化学構造における多価カルボン酸Zや多価アルコールYとして3価以上を包含し、アルコール成分Yと多価アルコール残基Wの区別もできない本件発明1は、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。

カ よって、本件発明1は、上記課題を解決できるのか明らかではない。
したがって、本件発明1は、本件発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本件発明1に係る特許は取り消すべきものである。

(4)本件発明2?14について
本件発明2?14は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり…本件発明1について述べたのと同じ理由により、発明の詳細な説明に記載したものとはいえず、本件発明2?14に係る特許は取り消すべきものである。」

(2)取消理由2(実施可能要件違反)
「2 取消理由で通知した理由2(実施可能要件)について
・請求項:1?14
…上記…のとおり、本件明細書から、本件発明1における一般式(1)の化学構造で示されるポリエステル樹脂をどのように製造することができるのか判然としない。
よって、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、本件発明1?14に係るポリエステル樹脂を製造し、使用することができるとはいえない。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1?14の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえず、本件発明1?14に係る特許は取り消すべきものである。」

2.取消理由についての判断
(1)取消理由1(サポート要件違反)
ア.本件訂正明細書の記載
(ア)「【0007】
…本発明が解決しようとする課題は、ポリ乳酸に比べ耐熱性が優れており、乳化剤および有機溶剤を使用することなく、水系エマルジョンを形成することのできる自己乳化機能を有するポリエステル樹脂を提供することにある。さらに、前記ポリエステル樹脂を含有する水分散体、水性接着剤および水性インキによって形成される積層体、包装材料並びに水分散体の製造方法を提供することにある。…
【0009】
本発明のポリエステル樹脂は、分子鎖中に高濃度のカルボキシル基を有するので、乳化剤および有機溶剤を使用することなしに塩基性化合物の水溶液と攪拌するだけで容易に水分散体を形成させることができる優れた水分散性を発揮する。また、本発明のポリエステル樹脂水分散体は、乳化剤を使用することなく調製できるので、接着性に優れる。さらに、本発明のポリエステル樹脂水分散体にカルボキシル基に対して反応性を有する硬化剤を配合することにより、接着性および耐水性に優れる接着層やインキを容易に得ることができる。さらに、本発明のポリエステル樹脂は、ポリ乳酸に比べ耐熱性が優れる。…
【0011】
本発明のポリエステル樹脂の酸価は、250eq/106g以上2500eq/106g以下であり、好ましくは300eq/106g以上2300eq/106g以下である。本発明のポリエステル樹脂の酸価は、主に分子鎖末端に含まれる多数のカルボキシル基に由来するものであり、別途有機溶剤および乳化剤を添加しなくても水分散体を形成することができるとの性質(以下、自己乳化性と称することがある)を発現し、また、粒子径の小さなエマルジョン粒子を形成することができるとの効果を発揮する。ポリエステル樹脂の酸価を前記下限値以上にすることで自己乳化性を発揮させることができ、また硬化塗膜の硬化性を向上させることができる。一方、前記上限値以下にすることで固形樹脂の状態でも加水分解しにくく保存安定性が良好となる。さらに本発明のポリエステル樹脂を用いた硬化塗膜の耐水性も良好となる。
【0012】
本発明のポリエステル樹脂の数平均分子量は、2,000以上50,000以下であり、好ましくは3,000以上45,000以下であり、より好ましくは4,000以上40,000以下である。数平均分子量を前記下限値以上とすることでポリエステル樹脂の凝集力が小さくなりすぎず接着性および耐水性が良好となる。一方、数平均分子量を前記上限値以下とすることでポリエステル樹脂の凝集力が大きくなりすぎず水分散性が良好となる。このため、一旦溶剤に溶解し水系に相転移させる方法だけでなく、直接、塩基化合物および水のみとの混合する方法で水分散体を調製した場合であっても粒子径が粗大とならず、粒子が沈殿することのない、水分散性が良好な水分散体を得ることができる。」

(イ)「【0013】
本発明のポリエステル樹脂において、前記(CO-Z-CO-O-Y-)は、2価以上の多価カルボン酸成分Zと、2価以上の多価アルコール成分Yからなる数種のモノマーを縮重合して得られるもの(以下、ポリエステル樹脂(A)ともいう。)であり、重合の方法としては、特に限定されることなく公知の方法が用いられる。
【0014】
上記ポリエステル樹脂(A)の縮重合を行う場合、重合触媒を用いても良い。重合触媒としては、例えば、チタン化合物(テトラ-n-ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、チタンオキシアセチルアセトネートなど)…などを挙げることができる。上記重合触媒は1種又は2種以上使用してもよい。重合の反応性の面からチタン化合物が好ましい。
【0015】
2価以上の多価カルボン酸成分Zとしては、芳香族多価カルボン酸、脂肪族多価カルボン酸または脂環族多価カルボン酸であることが好ましい。…
【0016】
2価以上の多価アルコール成分Yとしては、脂肪族グリコ-ル、脂環族グリコ-ル、エ-テル結合含有グリコ-ルまたは芳香族含有グリコールであることが好ましい。…
【0017】
本発明におけるポリエステル樹脂(A)を構成する3官能以上の多価カルボン酸としては、トリメリット酸…などをあげることができる。…ポリエステル樹脂(A)において、全多価カルボン酸成分を100モル%としたとき、3官能以上の多価カルボン酸は、10モル%以下であることが好ましく、より好ましくは8モル%以下であり、さらに好ましくは5モル%以下であり、0モル%でも差し支えない。多すぎるとポリエステル樹脂(A)がゲル化してしまうことがある。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂において、前記Wは、(q+r)価を有する有機基である。(q+r)は3以上であり、好ましくは4以上である。(q+r)を前記の値以上とすることでポリエステル樹脂のカルボキシル基数が少なくなりすぎず水分散が容易となる。また、(q+r)は15以下であり、好ましくは10以下であり、より好ましくは8以下である。(q+r)を前記の値以下とすることでポリエステル樹脂のカルボキシル基数が多くなりすぎず保存安定性が良好となる。…
【0020】
qの平均値とは、Wにおける(CO-Z-CO-O-Y-O)の付加数の平均値をいう。例えば、ポリエステル樹脂中、(CO-Z-CO-O-Y-O)の付加数が10個の化合物が50モル%、8個の化合物が30モル%、6個の化合物が20モル%のときのqの平均値は、8.6となる。計算式は以下の通りである。qの平均値=(10個×50モル%+8個×30モル%+6個×20モル%)/100モル%=8.6。…
【0022】
rの平均値とは、Wにおける(X-O)の付加数の平均値をいう。例えば、ポリエステル樹脂中、(X-O)の付加数が10個の化合物が50モル%、8個の化合物が30モル%、6個の化合物が20モル%のときのqの平均値は、8.6となる。計算式は以下の通りである。rの平均値=(10個×50モル%+8個×30モル%+6個×20モル%)/100モル%=8.6。
【0023】
Wとしては、特に限定されないが、水酸基を3個以上有する多価アルコール、およびその誘導体を挙げることができる。…これらのうち、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールは1級の水酸基を2個以上有し、さらに多数の水酸基を持つため、好ましい。Wに含まれる水酸基が多くなると、多分岐骨格を形成しやすくなるため、酸付加により多量のカルボキシル基を導入して酸価を高めることができる。そのため、樹脂強度と水分散性を兼備することが容易となり好ましい。…
【0031】
本発明のポリエステル樹脂は、特に限定されないが、例えば、2価以上の多価カルボン酸化合物からなるカルボン酸成分Zと、2価以上の多価アルコール化合物からなるグリコール成分Yとから得られるポリエステル樹脂(A)を、水酸基を3個以上有する多価アルコールWにより解重合反応をさせた後に、ポリエステル樹脂(A)の末端水酸基に多塩基酸Xを反応させて分子末端にカルボキシル基を導入することにより、製造することができる。」

(ウ)「【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0061】
なお、以下、特記のない場合、部は質量部を表す。また、本明細書中で採用した測定、評価方法は次の通りである。
【0062】
<樹脂組成>
ポリエステル樹脂試料を、重クロロホルムまたは重ジメチルスルホキシドに溶解し、VARIAN社製NMR装置400-MRを用いて、^(1)H-NMR分析および^(13)C-NMR分析を行ってその積分比より、樹脂組成を求め、質量%で表示した。
<(q+r)の値(Wの有機基価の平均値)>
(q+r)の値=Σ(t×u)/100
t:Wの有機基価の数(価)
u:W全成分を100モル%とした時の(q+r)価の有機基の含有量(モル%)
<qの平均値>
qの平均値=Σ(r_(q)×s_(q))/ 100
r_(q):(CO-Z-CO-O-Y-O)が付加したWの有機基価数(価)
s_(q):含有量(モル%)
<rの平均値>
rの平均値=Σ(r_(r)×s_(r))/ 100
r_(r):(X-O)が付加したWの有機基価数(価)
s_(r):含有量(モル%)
<pの平均値>
pの平均値=Σ(r_(p)×s_(p))/ 100
r_(p):(CO-Z-CO-O-Y-O)の繰り返し単位数(個)
s_(p):含有量(モル%)
【0063】
<数平均分子量>
ポリエステル樹脂試料を、樹脂濃度が0.5質量%程度となるようにテトラヒドロフランに溶解し、孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブレンフィルターで濾過したものを測定用試料として、テトラヒドロフランを移動相とし、示差屈折計を検出器とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により数平均分子量を測定した。流速は1mL/分、カラム温度は30℃とした。カラムには昭和電工製KF-802、804L、806Lを用いた。分子量標準には単分散ポリスチレンを使用した。
【0064】
<酸価>
ポリエステル樹脂試料0.8gを20mlのN,N-ジメチルホルミアミドに溶解し、フェノールフタレインを指示薬存在下、0.1Nのナトリウムメトキシドのメタノール溶液で滴定し、溶液が赤色に着色した点を中和点とし、ポリエステル樹脂106gあたりの当量(eq/106g)に換算して表示した。
【0065】
<保存安定性>
ポリエステル樹脂試料を50℃、60%RHで10日間保存した後、数平均分子量(Mn)を測定し、分子量変化を評価した。分子量変化は以下の式で求めた。
|10日間保存前のMn-10日間保存後のMn|/10日間保存前のMn
(判定)○:数平均分子量の変化が5%未満
△:数平均分子量の変化が5%以上10%未満
×:数平均分子量の変化が10%以上
【0066】
<水分散性の評価>
ポリエステル樹脂、塩基性化合物、および水を所定量添加した後、温度を60℃に保ち、400rpmで系を60?90分間撹拌し、目視で水分散性を判定した。
(判定)○:60分以内に未分散物が全くなく樹脂が完全に分散する。
△:60分超90分未満撹拌しても未分散物が存在する。
×:90分以上撹拌しても樹脂が全く分散しない。
【0067】
<水分散体の平均粒子径>
水分散体試料の体積粒子径基準の算術平均径を、HORIBA LB-500を用いて測定し、水分散体の平均粒子径として採用した。但し、水分散性が△または×のものについては、平均粒子径の測定を行わず、「-」と表示した。
【0068】
<水性接着剤の調製>
水分散体に対して、硬化剤として水溶性エポキシ樹脂(ソルビトール系ポリグリシジルエーテル)SR-SEP(阪本薬品工業(株)製)を表3に記載の比率で配合し、水性接着剤を調製した。
【0069】
<接着性評価用サンプルの調製>
厚さ25μmのPETフィルム(東洋紡(株)製)のコロナ処理面に、乾燥後の厚みが5μmとなるように水性接着剤を塗布し、80℃×5分間乾燥した。その接着層面に、別の厚さ25μmのPETフィルムのコロナ処理面を貼り合わせ、80℃で3kgf/cm^(2)の加圧下に30秒間プレスし、40℃で8時間熱処理して硬化させて、接着性評価用サンプルを得た(初期評価用)。
【0070】
<接着性の評価>
接着性評価用サンプルの剥離強度を測定し、接着性の評価とした。25℃において、引張速度300mm/minで180°剥離試験を行ない、剥離強度を測定した。実用的性能から考慮すると2N/cm以上が良好である。但し、水分散性が△または×のものについては、上澄み液部分を用いて水性接着剤を作製し、接着性評価用サンプル作製を試みたが、有効成分が少ないため、乾燥後厚みが5μmとなるように塗布が不可能であった。塗布可能量のみでサンプルを調製し剥離強度測定を行った所、剥離強度は0.1/cm以下であり、正確な測定ができないと判断し、「-」と表示した。
【0071】
<耐水性の評価>
前記接着性評価用サンプルを25℃の水中に5時間浸漬後、表面の水を十分に拭き取り、25℃において、引張速度300mm/minで180°剥離試験を行ない剥離強度を測定した。但し、水分散性が△または×のものについては、ほとんど接着性を示さなかったため、耐水性の測定を行わず、「-」と表示した。
【0072】
以下、実施例中の本文及び表に示した化合物の略号はそれぞれ以下の化合物を示す。
TMP:トリメチロールプロパン
PE:ペンタエリスリトール
DPE:ジペンタエリスリトール
INO:イノシトール
SOR:ソルビトール
NPG:ネオペンチルグリコール
T:テレフタル酸
I:イソフタル酸
SA:セバシン酸
AA:アジピン酸
EG:エチレングリコール
DEG:ジエチレングリコール
PG:プロピレングリコール
BD:ブタンジオール
TMA:無水トリメリット酸
SC:無水コハク酸
MA:無水マレイン酸
TEA:トリエチルアミン
DMEA:ジメチルエタノールアミン
TETA:トリエタノールアミン
AN:アンモニア水(28%)
NaHCO3:炭酸水素ナトリウム
【0073】
実施例A-1
ポリエステル樹脂No.1の製造
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した500mlガラスフラスコにセバシン酸68.7部、エチレングリコール31.7部を仕込み、窒素雰囲気2気圧加圧下、160℃から230℃まで3時間かけてエステル化反応を行った。放圧後テトラブチルチタネート0.01部を仕込み、次いで系内を徐々に減圧していき、30分かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下の真空下、260℃にて40分間重縮合反応を行った。その後、ペンタエリスリトール2.0部を仕込み、210℃で2時間撹拌した。次いで、無水トリメリット酸8.2部を仕込み、210℃で2時間攪拌した後、内容物を取り出し冷却した。得られたポリエステル樹脂No.1の組成、数平均分子量等を表1に示した。
【0074】
実施例A-2、A-4?A-6、比較例A-7?A-11
ポリエステル樹脂No.2、4?11の製造
ポリエステル樹脂No.1と同様にして、但し、仕込み原料およびその比率を変更してポリエステル樹脂No.2、4?11を合成し、ポリエステル樹脂No.1と同様の評価を行った。評価結果を表1?表2に示した。
【0075】
【表1】



【0076】
【表2】



【0077】
ポリエステル樹脂No.7は、数平均分子量が大きく、本発明の範囲外である。また、ポリエステル樹脂No.8は、数平均分子量およびpの平均値が小さく、本発明の範囲外である。ポリエステル樹脂No.9は、樹脂酸価が低く、本発明の範囲外である。ポリエステル樹脂No.10は、樹脂酸価が高く、本発明の範囲外である。樹脂No.10の保存安定性が劣るのは、酸価が高く吸水性が高いためと推測される。ポリエステル樹脂No.11は、本発明におけるポリエステル樹脂のWにあたる部位が2価の有機基であり、(q+r)の値が小さいため、本発明の範囲外である。
【0078】
実施例C-1
ポリエステル樹脂水分散体、水性接着剤の製造および評価
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した500mlガラスフラスコにポリエステル樹脂No.1を30部、AN9.0部、イオン交換水70部を仕込み、70℃に昇温し1時間撹拌した後、内容物を取り出し冷却し、ポリエステル樹脂水分散体1を製造した。得られた水分散体の粒子径を測定した。さらに、硬化剤を配合し、得られた塗膜の接着性と耐水性を評価した。結果を表3に示した。
【0079】
実施例C-2,C-4?C-6
実施例C-1と同様にして、但し、仕込み原料およびその比率を変更してポリエステル樹脂水分散体の製造を行ない、ポリエステル樹脂水分散体C-2,C-4?C-6を製造した。さらに、実施例C-1と同様に、ポリエステル樹脂水分散体C-2,C-4?C-6に硬化剤を配合し、得られた塗膜の接着性と耐水性を評価した。結果を表3に示した。いずれも高い水分散性を示し、また硬化塗膜は高い接着性及び耐水性を示した。
【0080】
比較例C-7?C-11
実施例1と同様にして、但し、仕込み原料およびその比率を変更してポリエステル樹脂水分散体の製造を試み、水分散体が得られたものについてはさらに、実施例C-1と同様に硬化剤を配合し、得られた塗膜の接着性と耐水性を評価した。結果を表4に示した。
【0081】
【表3】



【0082】
【表4】



【0083】
比較例C-7に使用したポリエステル樹脂No.7は、1時間攪拌後にはほとんど樹脂の分散が進んでおらず、さらに1時間攪拌を続けたがほとんど分散ができなかった。樹脂No.7は、樹脂の数平均分子量が大きく、本発明の範囲外である。樹脂の数平均分子量が大きいので樹脂の凝集性が大きくなり、分散が殆どできなかったものと推定される。
【0084】
比較例C-8は接着性および耐水性が不良であった。比較例C-8に使用した樹脂No.8は、樹脂の数平均分子量およびpの平均値が小さく、本発明の範囲外である。数平均分子量が小さいために凝集力が小さく接着性が不良であったものと推定される。
【0085】
比較例C-9は1時間攪拌後も未分散物が大量に存在し、さらに1時間攪拌を続けたが分散ができなかった。比較例C-9に使用した樹脂No.9は、樹脂の酸価が小さく、本発明の範囲外である。樹脂の酸価が小さいことから水分散性が低かったと推定される。
【0086】
比較例C-10は耐水性が不良であった。比較例C-10に使用した樹脂No.10は、樹脂の酸価が大きく、本発明の範囲外である。酸価に対して当量の硬化剤を配合しているが、すべてのカルボキシル基が反応しているとは言いがたく、未反応のカルボキシル基が多数残存しているために、耐水性が不良になったと推定される。
【0087】
比較例C-11に使用した樹脂No.11は、(q+r)の値が小さく本発明の範囲外である。一分子鎖中のカルボン酸数が少なく、水分散性が低くなったものと推定される。
【0088】
<塗料>
水性塗料(D-1)の製造例
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した500mlガラスフラスコにポリエステル樹脂No.1を100部、TEA18.9部、イオン交換水233部を仕込み、70℃に昇温し1時間撹拌した後、内容物を取り出し冷却し、100メッシュの濾布で濾過した濾液に、メラミン硬化剤(住友化学(株)製M-40W)を20部、イオン交換水150部、酸化チタン(石原産業(株)製CR-93)50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの10%ベンジルアルコール2.5部を添加し、ガラスビーズ型高速振とう機を用いて3時間振とうすることにより均一に分散し水性塗料(D-1)を得た。
【0089】
水性塗料(D-2)の製造例
水性塗料においてポリエステル樹脂No.1に替えてポリエステル樹脂No.2、TEA量を21.9部とした以外は水性塗料(D-1)と同様の配合、製造にて水性塗料(D-2)を得た。
上記水性塗料(D-1)、(D-2)を用いて塗膜性能試験を行った。なお塗板の作製、評価は以下の方法に従った。この結果を表5に示す。
【0090】
【表5】



【0091】
塗板の作製
溶融亜鉛メッキ鋼板に前記水性塗料(D-1)、(D-2)を塗装後、80℃、10分乾燥後、次いで140℃で30分間焼き付けを行い、塗装鋼板を得た。乾燥後の塗装層の膜厚は5μmとした。
【0092】
評価方法
1.光沢 GLOSS METER(東京電飾社製)を用いて、塗装鋼板の塗装面について、60度での反射を測定した。
◎:90以上
○:80以上90未満
△:50以上80未満
×:50未満
【0093】
2.耐沸水試験
塗装鋼板を沸水中に2時間浸漬したあとの塗膜外観(ブリスター発生状況)を評価した。
◎:ブリスターなし
○:ブリスター発生面積が0%を超えて10%未満
△:ブリスター発生面積が10以上50%未満
×:ブリスター発生面積が50%以上
【0094】
3.耐溶剤性
20℃の室内において、メチルエチルケトンをしみ込ませたガーゼにて塗装面に1kg/cm^(2)の荷重をかけ、5cmの長さの間を往復させた。下地が見えるまでの往復回数を記録した。50回の往復で下地が見えないものは>50と表示した。回数の大きいほど塗膜の硬化性が良好である。
【0095】
4.密着性
JISK-5400碁盤目-テープ法に準じて、試験板の塗膜表面にカッターナイフで素地に達するように、直行する縦横11本ずつの平行な直線を1mm間隔で引いて、1mm×1mmのマス目を100個作成した。その表面にセロハン粘着テープを密着させ、テープを急激に剥離した際のマス目の剥がれ程度を観察し下記基準で評価した。
◎:塗膜剥離が全く見られない。
○:塗膜がわずかに剥離したが、マス目は90個以上残存。
△:塗膜が剥離し、マス目の残存数は50個以上で90個未満。
×:塗膜が剥離し、マス目の残存数は50個未満。
【0096】
<インキ>
水性インキ(E-1)の製造例
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した2,000mlガラスフラスコにポリエステル樹脂No.1を100部、TEA18.9部、水233部を仕込み、70℃に昇温し1時間撹拌した後、30℃まで冷却した後、酸化鉄イエロー水分散体(大日精化工業(株)製MF-5050Yellow、固形分51%)19.6部、イオン交換水690.2部、2-プロパノール55部を加え、さらに1時間攪拌した後、内容物を取り出し、100メッシュの濾布で濾過して水性インキ(E-1)を得た。
【0097】
水性インキ(E-2)の製造例
水性塗料においてポリエステル樹脂No.1に替えてポリエステル樹脂No.2、TEA量を21.9部とした以外は水性インキ(E-1)と同様の配合、製造にて順次水性インキを得た。上記水性インキ(E-1)、(E-2)を用いてインキ塗膜性能試験を行った。なお評価サンプルの作製、評価は以下の方法に従った。この結果を表6に示す。
【0098】
【表6】



【0099】
<水性インキの分散安定性評価>
上記水性インキ(E-1)、(E-2)を、20℃、-5℃で2週間保存し、インキの外観変化を評価した。
◎:外観変化全くなし
○:外観変化殆どなし(攪拌で再分散できる沈降物が発生)
△:わずかに沈降物が発生(攪拌で再分散できないものが若干残る)
×:沈降物発生
【0100】
<耐水性評価用サンプルの調製>
厚さ25μmのPETフィルム(東洋紡(株)製)のコロナ処理面に、水性インキ(E-1)、(E-2)を各々乾燥後の厚みが2μmとなるように塗布し、80℃×30分間乾燥し、耐水性評価用サンプルとした。
【0101】
<耐水性の評価>
前記耐水性評価用サンプルを25℃のイオン交換水中に5時間浸漬後、表面の水を十分に拭き取り、外観変化を確認した。
◎:外観変化全くなし
○:外観変化殆どなし(塗膜と基材の界面のごく一部に水の浸入の形跡が
みられる)
△:塗膜の一部に水による膨潤がみられる。
×:全面剥離または溶解が起こった。」

イ.サポート要件違反の判断
(ア)本件訂正発明が解決しようとする課題
本件訂正明細書の【0007】によると、本件訂正発明が解決しようとする課題は、「ポリ乳酸に比べ耐熱性が優れており、乳化剤および有機溶剤を使用することなく、水系エマルジョンを形成することのできる自己乳化機能を有するポリエステル樹脂を提供すること」、さらに、「前記ポリエステル樹脂を含有する水分散体、水性接着剤および水性インキによって形成される積層体、包装材料並びに水分散体の製造方法を提供することにある」と認められる。

(イ)本件訂正明細書の実施例に記載されている事項
本件訂正明細書の表3には、実施例A-1?A-2、A-4?A-6に記載された製造方法により得られたポリエステル樹脂No.1?2、4?6(表1)が、良好な水分散性、接着性等を示すこと、表5には、ポリエステル樹脂No.1?2が、光沢等に優れる水性塗料を提供できること、表6には、ポリエステル樹脂No.1?2が、分散安定性等に優れる水性インキを提供できることが記載されている。
以上の表1、3、5、6の実験結果からすると、ポリエステル樹脂No.1?2、4?6は、上記(ア)で示した本件訂正発明の課題を解決できるものと認められる。

(ウ)ポリエステル樹脂No.1?2、4?6は本件訂正発明1の発明特定
事項を満たすか
本件訂正明細書の【0073】によると、ポリエステル樹脂No.1は、以下の(i)?(iv)の工程により製造されるものである。
(i)「セバシン酸68.7部、エチレングリコール31.7部を仕込み、
窒素雰囲気2気圧加圧下、160℃から230℃まで3時間かけて
エステル化反応」を行うこと
(ii)「0.3mmHg以下の真空下、260℃にて40分間重縮合反応
」を行うこと
(iii)「ペンタエリスリトール2.0部を仕込み、210℃で2時間撹
拌」すること
(iv)「無水トリメリット酸8.2部を仕込み、210℃で2時間攪拌」
すること

この製造工程について、【0031】には、「例えば、2価以上の多価カルボン酸化合物からなるカルボン酸成分Zと、2価以上の多価アルコール化合物からなるグリコール成分Yとから得られるポリエステル樹脂(A)を、水酸基を3個以上有する多価アルコールWにより解重合反応をさせた後に、ポリエステル樹脂(A)の末端水酸基に多塩基酸Xを反応させて分子末端にカルボキシル基を導入することにより、製造する」ことが記載されており、上記の(iii)の「ペンタエリスリトール2.0部を仕込み、210℃で2時間撹拌」する工程は、(i)、(ii)の工程で得られたセバシン酸とエチレングリコールからなるポリエステル樹脂を、ペンタエリスリトール(多価アルコール)により解重合する操作であると説明されている。

ここで、特許権者は、この本件訂正明細書の記載を補強するために、令和3年2月5日付け意見書において、「本件発明では、Wをポリエステル樹脂に十分量導人でき、かつ物性を発現するために必要な分子量の範囲に制御できる…方法として、「解重合反応」を採用しました(本件明細書の段落【0031】)。」(6頁下から3行?7頁1行)、「本件特許では、Wの-OH基と直鎖状ポリエステルA鎖中のエステル結合とが、エステル交換することにより、解重合反応が進行します。…解重合反応を利用した系では、元のポリエステル樹脂Aと比べて、生成する構造体の分子量は下がります。実際の解重合反応により分子量が下がっていることを示すデータを参考資料2として添付します。」(8頁13行?21行)、「一般的に、縮合反応/エステル化反応では、エステル結合生成とともに発生する副生成物を系外に除去することが反応の律速となるため、高温や真空条件を必要とします。…ポリエステル樹脂の製造方法として従来から知られる縮合反応/エステル化反応では、本件発明1の一般式(I)を有するポリエステル樹脂を得ることは困難であり…Wが複数個結合した構造が積極的に生成すると考えられます。…解重合反応を用いた系では、温度と時間で容易に反応の制御が可能であり、適切な反応温度と時間の反応条件において、本件発明1の一般式(I)を有するポリエステル樹脂を主に生成させることが可能です。」(11頁8行?12頁12行)と述べており、(ii)の工程の縮合反応/エステル化反応と(iii)の工程の解重合反応は、反応条件が異なり、(ii)の工程の条件、すなわち、高温や真空条件では、Wが複数個結合した構造が積極的に生成するものの、(iii)の工程の210℃で2時間撹拌する条件では、ポリエステル樹脂の分子量が下がる実験結果が得られており(参考資料2)、(iii)の工程の温度と時間で制御された解重合の操作によると、本件発明1の一般式(I)を有するポリエステル樹脂を主に生成することが可能であると説明している。



同じく、特許権者は、上記の本件訂正明細書の記載を補強するために、令和3年6月11日作成の応対記録に添付された回答書を提出して、本件訂正明細書の【0062】で説明されるように、NMRスペクトルチャートの各ピークとその積分値から、実施例A-1のポリエステル樹脂No.1の各構成成分の構成比(h)等を導き出せるとし(下記表)、下記表の構成比(h)より、pを算出すると、本件訂正明細書の表1に示される、5.7(pの平均値)になることを説明している(回答書の1頁12行?3頁下から9行)。



また、特許権者は、上記回答書において、ペンタエリスリトール(W)のqが1?4の構造体に由来するピークとその積分値から、各構造体の存在比等を導きだせるとし(下記表)、下記表の存在比よりq、rを算出すると、本件訂正明細書の表1に示される、2.8(qの平均値)、1.2(rの平均値)になると説明している(回答書の3頁下から8行?4頁4行)。



更に、特許権者は、上記回答書において、本件訂正明細書の表1に記載されたp、q、rの値と各構成成分のモル質量を用い、ベンタエリスリトールが1分子あたり1molと仮定して、ポリエステル樹脂No.1の分子量を計算すると、5944.00となり、本件訂正明細書の表1に記載されている数平均分子量6677に近い数値になることを説明している(回答書の4頁5行?5頁11行)。

以上からすると、本件訂正明細書の実施例A-1に記載された製造方法においては、【0031】に記載されているように、上記の(iii)の「ペンタエリスリトール2.0部を仕込み、210℃で2時間撹拌」する工程により、ポリエステル樹脂の解重合反応が生じていることが認められ、その結果、分子量が低減した、数平均分子量6677のポリエステル樹脂No.1が得られること、本件訂正明細書の【0062】に記載されているように、ポリエステル樹脂No.1のNMRスペクトルチャートよりp、q、rの値を導き出せることが、当業者に理解できる。
加えて、本件訂正明細書の表1に記載されたp、q、rの値と各構成成分のモル質量を用い、ベンタエリスリトールが1分子あたり1molと仮定して、ポリエステル樹脂No.1の分子量を計算すると、本件訂正明細書の表1に記載された数平均分子量に近い数値が得られるので、本件訂正明細書の記載に接した当業者は、ポリエステル樹脂No.1のみならず、ポリエステル樹脂No.2、4?6についても、各樹脂が、本件訂正発明1の一般式(I)で表される化学構造を主に含有し、本件訂正発明1の発明特定事項を満たしていることを理解できる。

(エ)アルコール成分Yと多価アルコール残基Wについて
本件訂正請求の訂正事項1(第2の1(1))より、特許請求の範囲の請求項1の「多価カルボン酸成分Z」、「多価アルコール成分Y」は、それぞれ、「脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸である2価のカルボン酸Z」、「脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコールまたは芳香族含有グリコールである2価のアルコール成分Y」に限定され、ゲル化の可能性がある、3価以上の多価カルボン酸Zと3価以上の多価アルコールYを使用する態様は、本件訂正発明1より削除された。
そのため、アルコール成分Yと多価アルコール残基Wに基づく、サポート要件違反の取消理由は、本件訂正請求により解消された。

(オ)本件訂正発明について
以上のとおり、本件訂正明細書の実施例に記載され、上記(ア)で示した課題を解決できることが裏付けられている、ポリエステル樹脂No.1?2、4?6は、本件訂正発明1の発明特定事項を満たすものである。
一方、本件訂正発明1の一般式(1)(化学式は略す。)で表されるポリエステル樹脂は、本件訂正細書の【0006】で、加水分解性が高く、180℃以上で熱劣化するとされているポリ乳酸とは化学構造が異なるものであるから、当該ポリエステル樹脂は、一定程度の耐熱性を備えたものと認められる。
加えて、本件訂正細書の【0011】、【0012】によると、当該ポリエステル樹脂は、酸価及び数平均分子量が一定の範囲に制御されているため、有機溶剤および乳化剤を添加しなくても水分散体を形成することができるとの性質(自己乳化性)を発現するとともに、良好な接着性および耐水性を示すものである。
そうすると、本件訂正発明1及び同発明を直接又は間接的に引用する本件訂正発明2?14は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が、上記の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。

(カ)申立人の主張
申立人は、令和3年3月9日付け意見書において、「実施例A-1において、解重合反応が進行していることを認識することはできます。しかしながら、解重合後のポリエステル樹脂の1分子中に存在するWが1つのみの構造であることを示す分析データ等が提示されていないことから、解重合後に、本件発明1の一般式(I)の前駆体 (X付加前)が主に生成し、副生成物が生成しても、わずかな量であることまでは認識することができません。」、「本件発明1の一般式(I)を有するポリエステル樹脂が混合物中にどの程度存在すれば、効果( 自己乳化機構)が得られるのか明らかではなく…実施例におけるポリエステル樹脂の水分散性が良好であったとしても、本件発明1の一般式(I)を有するポリエステル樹脂による効果なのか、副生成物や残存モノマー等の成分による効果なのか判断することができません。」と主張する。
しかし、上記(ウ)で示したように、本件訂正明細書の表1に記載された、NMRスペクトルチャートから得られるp、q、rの値と各構成成分のモル質量を用いて、ベンタエリスリトールが1分子あたり1molと仮定して、ポリエステル樹脂No.1の分子量を計算すると、本件訂正明細書の表1に記載された数平均分子量に近い数値が得られるので、本件訂正明細書の記載に接した当業者は、ポリエステル樹脂No.1?2、4?6が、本件訂正発明1の一般式(I)で表される化学構造を主に含有することを理解できる。
そして、このことから、実施例におけるポリエステル樹脂の水分散性が良好である効果が、一般式(I)で表されるポリエステル樹脂によるものであることを当業者は理解できるので、申立人の上記主張は理由がない。

(キ)小括
以上のとおり、本件訂正発明1?14は、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の実施例に記載された発明であり、ゲル化してしまう可能性がある3価以上の多価カルボン酸Zと3価以上の多価アルコールYを使用する態様を含むものでもないので、本件訂正発明1?14は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により、当業者が、本件訂正発明1?14の課題を解決できると認識できる範囲のものと認められる。
したがって、本件訂正発明1?14は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、<決定の予告>で示した取消理由1は、理由がない。

(2)取消理由2(実施可能要件違反)
本件訂正明細書の記載に接した当業者は、本件訂正明細書の実施例に記載されたポリエステル樹脂No.1?2、4?6が、本件訂正発明1の一般式(I)で表される化学構造を有し、本件訂正発明1の発明特定事項を満たすことを理解できるので(2(1)イ(ウ))、当該実施例に記載された製造方法の記載から、本件訂正発明1における一般式(1)の化学構造で表されるポリエステル樹脂は、本件訂正明細書の【0031】に記載された「2価以上の多価カルボン酸化合物からなるカルボン酸成分Zと、2価以上の多価アルコール化合物からなるグリコール成分Yとから得られるポリエステル樹脂(A)を、水酸基を3個以上有する多価アルコールWにより解重合反応をさせた後に、ポリエステル樹脂(A)の末端水酸基に多塩基酸Xを反応させて分子末端にカルボキシル基を導入する」方法により製造できることを理解できる。
したがって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件訂正発明1?14を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしており、<決定の予告>で示した取消理由2は、理由がない。

3.令和2年6月25日付け取消理由通知で示した取消理由について
令和2年6月25日付け取消理由通知で示した取消理由は、<決定の予告>で示した取消理由と同旨であるので、上記「2.取消理由についての判断」で示したものと同様の理由により、理由がない。

第5 取消理由通知において採用しなかった異議申立ての理由
1.申立人の異議申立ての理由について
申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
(1)申立理由1-1、2(甲第1号証を主引例とする新規性進歩性
違反)
本件発明1、3は、甲第1号証に記載の発明(甲1発明)との比較において相違はなく、また、もし仮に相違点があっても、甲1発明から当業者が容易に想到し得るものであり、本件発明1、3は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本件発明1、3に係る特許は、特許法第29条に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2)申立理由2-1、2(甲第2号証を主引例とする新規性進歩性
違反)
本件発明1、3?5は、甲第2号証に記載の発明(甲2発明)との比較において相違はなく、また、もし仮に相違点があっても、甲2発明から当業者が容易に想到し得るものであり、本件発明1、3?5は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本件発明1、3?5に係る特許は、特許法第29条に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)申立理由3-1、2(甲第3号証を主引例とする新規性進歩性
違反)
本件発明1、3?5は、甲第3号証に記載の発明(甲3発明)との比較において相違はなく、また、もし仮に相違点があっても、甲3発明から当業者が容易に想到し得るものであり、本件発明1、3?5は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本件発明1、3?5に係る特許は、特許法第29条に違反して特許されたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(4)申立理由4(サポート要件違反)
本件明細書の実施例における効果は、ポリエステル樹脂骨格の重合成分の多価アルコール成分として、鎖状の脂肪族アルコールの効果のみが実証されているに過ぎず、本件明細書の実施例の記載からは、鎖状の脂肪族アルコール以外の脂環族グリコールについて本願発明の効果を奏するか否かについて明らかでないから、多価アルコールについて、特に限定のない本件発明1?14は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

2.甲第1?3号証の記載事項及び各号証に記載された発明
(1)甲第1号証(国際公開2016/136652号)
ア.甲第1号証の記載事項
「[0174] <製造例9> <ポリエステル樹脂(a2-3)の合成>
冷却管、撹拌機および窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールA・PO2モル付加物556部、トリメチロールプロパン18部、3-メチル-1,5-ペンタンジオール94部、テレフタル酸265部、アジピン酸60部、フマル酸56部、縮合触媒としてチタニウムジイソプロポキシビストリエタノールアミネート0.6部、重合禁止剤としてtert-ブチルカテコール5部を入れ、180℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させた。さらに、0.5?2.5kPaの減圧下に10時間反応させた。次いで無水トリメリット酸34部を加え、常圧密閉下1時間反応後取り出し、ポリエステル樹脂(a2-3)を得た。
ポリエステル樹脂(a2-3)のピーク分子量は8,000、Tgは20℃、水酸基価は28、酸価は20.2、数平均分子量は2,900、重量平均分子量は9,100だった。」

イ.甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
甲第1号証の製造例9の記載からみて、甲第1号証には、「ビスフェノールA・PO2モル付加物、トリメチロールプロパン、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、テレフタル酸、アジピン酸、フマル酸を縮合反応させた反応物に、無水トリメリット酸を加えて反応させて得られる、酸価が20.2、数平均分子量が2,900であるポリエステル樹脂」(甲1発明)が記載されていると認められる。

(2)甲第2号証:特開2008-239691号公報
ア.甲第2号証の記載事項
「【0070】…
[ポリエステル樹脂製造例]
(ポリエステル樹脂「P-1」の製造例)
ドデカン二酸253.6g、エチレングリコール95.2g、トリメチロールプロパン0.7g、テトラ-n-ブチルチタネート0.11gを、攪拌機を備えた耐熱圧ガラス容器中に採り、235℃で3時間加熱してエステル化反応をおこなった。次いで系の圧力を徐々に減じて1時間後に13Paとした。3時間後に系を窒素ガスで常圧にし、無水トリメリット酸10.4gを添加し、1.5時間撹拌して解重合反応をおこない、ポリエステル樹脂「P-1」を得た。」

イ.甲第2号証に記載された発明(甲2発明)
甲第2号証の【0070】の記載からみて、甲第2号証には、「ドデカン二酸、エチレングリコール、トリメチロールプロパンをエステル化反応した反応物に、無水トリメリット酸を添加して解重合反応を行って得られるポリエステル樹脂」(甲2発明)が記載されていると認められる。

(3)甲第3号証:特開2010-128212号公報
ア.甲第3号証の記載事項
「【0118】
製造例8
[ポリエステル樹脂の合成および樹脂粒子分散液の調製]
冷却管、撹拌機および窒素導入管の付いた反応槽中に、ネオペンチルグリコール7部(97.3モル部)、フェノールノボラック樹脂(平均重合度5.6)のEO5.6モル付加体1.5部(2.7モル部)、テレフタル酸ジ(1,2-プロピレングリコール)1019部(5322モル部)、イソフタル酸1部(8.9モル部)、およびシュウ酸チタニルカリウム塩(シュウ酸チタン酸カリウム)0.5部を入れ、180℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら12時間反応させた。次いで230℃まで徐々に昇温しながら、窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させ、さらに5?20mmHgの減圧下に反応させ、軟化点が98℃になった時点で冷却した。回収されたプロピレングリコールは124部(2404モル部)であった。次いで180℃まで冷却し、無水トリメリット酸85部(652.1モル部)を加え、密閉下2時間反応後、220℃、常圧で反応させ、軟化点が145℃になった時点で取り出し、室温まで冷却後、粉砕し粒子化した。これをポリエステル樹脂(A-6)とした。
ポリエステル樹脂(A-6)の、酸価は29、水酸基価は2、Mnは4300、Mpは6200、分子量1500以下の成分の量は1.3%、Tgは58℃、Tmは146℃であった。」

イ.甲第3号証に記載された発明(甲3発明)
甲第3号証の【0118】の記載からみて、甲第3号証には、「ネオペンチルグリコール、フェノールノボラック樹脂(平均重合度5.6)のEO5.6モル付加体、テレフタル酸ジ(1,2-プロピレングリコール)、イソフタル酸、およびシュウ酸チタニルカリウム塩を反応させた後、次いで、無水トリメリット酸を加えて、反応させた、酸価が29、Mnが4300であるポリエステル樹脂」(甲3発明)が記載されていると認められる。

3.申立理由の検討
(1)申立理由1-1、2(甲第1号証を主引例とする新規性進歩性
違反)
ア.本件訂正発明1と甲1発明の対比、検討
(ア)本件訂正発明1と甲1発明の対比
本件訂正発明1(前者)と甲1発明(後者)(2(1)イ)を対比する。
後者の「トリメチロールプロパン」は、前者の「多価アルコール」に相当する。
後者の「ビスフェノールA・PO2モル付加物」及び「3-メチル-1,5-ペンタンジオール」は、前者の「脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコールまたは芳香族含有グリコールである2価のアルコール成分Y」に相当する。
後者の「テレフタル酸」、「アジピン酸」、「フマル酸」は、前者の「脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸である2価のカルボン酸成分Z」に相当する。
後者の「無水トリメリット酸」は、前者の「カルボキシル基を2個以上有する多塩基酸」に相当し、後者は、「無水トリメリット酸」の反応を最後に行っているから、分子末端に酸が付加されている限りにおいて前者と一致する。
後者の「数平均分子量が2,900」は、前者の「数平均分子量が2,000?50,000」と一致する。

そうすると、両者は、「多価アルコールの残基と脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸である2価のカルボン酸成分と脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコールまたは芳香族含有グリコールである2価のアルコール成分を含み、分子末端にカルボキシル基を2個以上有する多塩基酸の残基を含む、数平均分子量が2,000?50,000であるポリエステル樹脂」で一致し、少なくとも、
前者では、ポリエステル樹脂が
「(X-O)_(r)-W-(O-(CO-Z-CO-O-Y-O)_(p)-X)_(q) ・・・(1)
但し、Wは(q+r)個の水酸基を有する多価アルコールの残基、(CO-Z-CO-O-Y-O)は脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸である2価のカルボン酸成分Zと脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコールまたは芳香族含有グリコールである2価のアルコール成分Yを菫合成分とするポリエステル樹脂骨格、Xはカルボキシル基を2個以上有する多塩基酸の残基または水素である(ただし、(q+r)個のXが全て水素になることはない)。X,YおよびZはそれぞれ同一または異なっていてもよく、同一の繰り返し単位中においても同一または異なっていてもよい。pの平均値は3以上であり、qの平均値は0よりも大きく15以下であり、rの平均値は0以上15未満であり、(q+r)は3以上15以下である。」という化学構造を有するのに対し、
後者では、ポリエステル樹脂の全体の化学構造が特定されていない点(相違点1)で相違している。

(イ)相違点1の検討
甲第1号証の製造例9には、「ビスフェノールA・PO2モル付加物556部、トリメチロールプロパン18部、3-メチル-1,5-ペンタンジオール94部、テレフタル酸265部、アジピン酸60部、フマル酸56部、縮合触媒としてチタニウムジイソプロポキシビストリエタノールアミネート0.6部、重合禁止剤としてtert-ブチルカテコール5部を入れ、180℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させた。さらに、0.5?2.5kPaの減圧下に10時間反応させた。次いで無水トリメリット酸34部を加え、常圧密閉下1時間反応後取り出し、ポリエステル樹脂(a2-3)を得た。」と記載されており、甲第1号証では、無水トリメリット酸(カルボキシル基を2個以上有する多塩基酸)と反応させる前に、トリメチロールプロパン(多価アルコール)、テレフタル酸、アジピン酸及びフマル酸(2価のカルボン酸成分)、ビスフェノールA・PO2モル付加物及び3-メチル-1,5-ペンタンジオール(2価のアルコール成分Y)を、縮合触媒の存在下で、高温減圧して反応を行っているものと認められる。
一方、本件訂正明細書の【0073】によると、本件訂正発明1のポリエステル樹脂は、例えば、実施例A-1に記載された以下の(i)?(iv)の工程により製造されるものであり、【0031】によると、下記の(iii)の工程は、(i)、(ii)の工程で得られたポリエステル樹脂を、多価アルコールにより解重合する操作であり、この操作を製造工程に組み込むことで、本件訂正発明1の一般式(I)で示される、多価アルコールを分子中に1つ有するポリエステル樹脂が、製造されるものと解される。

(i)「セバシン酸68.7部、エチレングリコール31.7部を仕込み、
窒素雰囲気2気圧加圧下、160℃から230℃まで3時間かけて エステル化反応」を行うこと
(ii)「0.3mmHg以下の真空下、260℃にて40分間重縮合反応
」を行うこと
(iii)「ペンタエリスリトール2.0部を仕込み、210℃で2時間撹
拌」すること
(iv)「無水トリメリット酸8.2部を仕込み、210℃で2時間攪拌」
すること

そうすると、甲1発明のポリエステル樹脂は、エステル化反応及び重縮合反応とは反応条件が異なるとされる、トリメチロールプロパン(多価アルコール)によるポリエステル樹脂の解重合の工程を行うことなく製造されているので、甲1発明のポリエステル樹脂が、トリメチロールプロパン(多価アルコール)を分子中に1つ有する、本件訂正発明1の一般式(1)の化学構造を有することは確認できない。
また、甲第1号証には、甲1発明のポリエステル樹脂が、分子中に1つのトリメチロールプロパン(多価アルコール)を有することを示唆する記載はないし、本件特許の甲第1号証に記載される製造方法や製造条件から、分子中に1つのトリメチロールプロパン(多価アルコール)を有するポリエステル樹脂が生成することを、当業者が、技術常識に基づき認識できたとも認められない。
したがって、相違点1は、本件訂正発明1と甲1発明を区別する、実質的な相違点といえる。
そして、甲第1?3号証の記載事項を参照しても、多価アルコールを、ポリエステル樹脂の分子中に1つだけ含有させることや多価アルコールをポリエステル樹脂の解重合で用いることを示唆する記載は見当たらないので、甲1発明に甲第1?3号証に記載されている技術的事項を組み合わせても、相違点1として挙げた、本件訂正発明1が備える発明特定事項に至ることが、当業者に容易に想到し得たとは認められない。

イ.本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正発明1の相違点で述べたものと同様の理由により、本件訂正発明3は、甲1発明と同一ではないか、甲1発明と甲第1?3号証に記載されている技術的事項を組み合わせても、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。

ウ.小括
以上のとおり、本件訂正発明1、3は、甲1発明、すなわち、甲第1号証に記載された発明とはいえず、甲1発明に基づき当業者が容易に想到し得たものともいえないので、申立理由1-1、2は、理由がない。

(2)申立理由2-1、2(甲第2号証を主引例とする新規性進歩性
違反)
ア.本件訂正発明1と甲2発明の対比、検討
(ア)本件訂正発明1と甲2発明の対比
本件訂正発明1(前者)と甲2発明(後者)(2(2)イ)を対比する。
後者の「トリメチロールプロパン」は、前者の「多価アルコール」に相当する。
後者の「エチレングリコール」は、前者の「脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコールまたは芳香族含有グリコールである2価のアルコール成分Y」に相当する。
後者の「ドデカン二酸」は、前者の「脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸である2価のカルボン酸成分Z」に相当する。
後者の「無水トリメリット酸」は、前者の「カルボキシル基を2個以上有する多塩基酸」に相当し、後者は、「無水トリメリット酸」を添加した解重合反応を最後に行っているから、分子末端に酸が付加されている限りにおいて前者と一致する。

そうすると、両者は、「多価アルコールの残基、脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸である2価のカルボン酸成分、脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコールまたは芳香族含有グリコールである2価のアルコール成分を含み、分子末端にカルボキシル基を2個以上有する多塩基酸の残基を含む、ポリエステル樹脂」で一致し、少なくとも、
前者では、ポリエステル樹脂が
「(X-O)_(r)-W-(O-(CO-Z-CO-O-Y-O)_(p)-X)_(q) ・・・(1)
但し、Wは(q+r)個の水酸基を有する多価アルコールの残基、(CO-Z-CO-O-Y-O)は脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸である2価のカルボン酸成分Zと脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコールまたは芳香族含有グリコールである2価のアルコール成分Yを菫合成分とするポリエステル樹脂骨格、Xはカルボキシル基を2個以上有する多塩基酸の残基または水素である(ただし、(q+r)個のXが全て水素になることはない)。X,YおよびZはそれぞれ同一または異なっていてもよく、同一の繰り返し単位中においても同一または異なっていてもよい。pの平均値は3以上であり、qの平均値は0よりも大きく15以下であり、rの平均値は0以上15未満であり、(q+r)は3以上15以下である。」という化学構造を有するのに対し、
後者では、ポリエステル樹脂の全体の化学構造が特定されていない点(相違点2)で相違している。

(イ)相違点2の検討
甲第2号証の【0070】には、ポリエステル樹脂「P-1」の製造例として、「ドデカン二酸253.6g、エチレングリコール95.2g、トリメチロールプロパン0.7g、テトラ-n-ブチルチタネート0.11gを、攪拌機を備えた耐熱圧ガラス容器中に採り、235℃で3時間加熱してエステル化反応をおこなった。次いで系の圧力を徐々に減じて1時間後に13Paとした。3時間後に系を窒素ガスで常圧にし、無水トリメリット酸10.4gを添加し、1.5時間撹拌して解重合反応をおこない、ポリエステル樹脂「P-1」を得た。」と記載されており、甲第2号証では、無水トリメリット酸(カルボキシル基を2個以上有する多塩基酸)による解重合反応の前に、トリメチロールプロパン(多価アルコール)、ドデカン二酸(2価のカルボン酸成分)、エチレングリコール(2価のアルコール成分Y)を、テトラ-n-ブチルチタネート(本件訂正明細書の【0014】によると縮重合触媒と認められる。)の存在下で、高温減圧して反応を行っているものと認められる。
一方、本件訂正明細書の【0073】、【0031】によると、本件訂正発明1のポリエステル樹脂は、例えば、実施例A-1に記載された工程により製造されるものであり、ポリエステル樹脂を、多価アルコールにより解重合する操作を組み込むことにより、本件訂正発明1の一般式(I)で示される、多価アルコールを分子中に1つ有するポリエステル樹脂を製造している(3(1)ア(イ))。
そうすると、甲2発明のポリエステル樹脂は、トリメチロールプロパン(多価アルコール)によるポリエステル樹脂の解重合の工程を行うことなく製造されているので、甲2発明のポリエステル樹脂が、トリメチロールプロパン(多価アルコール)を分子中に1つ有する、本件訂正発明1の一般式(1)の化学構造を有することは確認できない。
また、甲第2号証には、甲2発明のポリエステル樹脂が、分子中に1つのトリメチロールプロパン(多価アルコール)を有することを示唆する記載はないし、甲第2号証に記載される製造方法や製造条件から、分子中に1つのトリメチロールプロパン(多価アルコール)を有するポリエステル樹脂が生成することを、当業者が、技術常識に基づき認識できたとも認められない。
したがって、相違点2は、本件訂正発明1と甲2発明を区別する、実質的な相違点といえる。
そして、甲第1?3号証の記載事項を参照しても、多価アルコールを、ポリエステル樹脂の分子中に1つだけ含有させることや多価アルコールをポリエステル樹脂の解重合で用いることを示唆する記載は見当たらないので、甲2発明に甲第1?3号証に記載されている技術的事項を組み合わせても、相違点2として挙げた、本件訂正発明1が備える発明特定事項に至ることが、当業者に容易に想到し得たとは認められない。

イ.本件訂正発明3?5について
本件訂正発明3?5は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正発明1の相違点の検討で述べたものと同様の理由により、本件訂正発明3?5は、甲2発明と同一ではないか、甲2発明と甲第1?3号証に記載されている技術的事項を組み合わせても、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。

ウ.小括
以上のとおり、本件訂正発明1、3?5は、甲2発明、すなわち、甲第2号証に記載された発明とはいえず、甲2発明に基づき当業者が容易に想到し得たものともいえないので、申立理由2-1、2は、理由がない。

(3)申立理由3-1、2(甲第3号証を主引例とする新規性進歩性
違反)
ア.本件訂正発明1と甲3発明の対比、検討
(ア)本件訂正発明1と甲3発明の対比
本件訂正発明1(前者)と甲3発明(後者)(2(3)イ)を対比する。
後者の「フェノールノボラック樹脂(平均重合度5.6)のEO5.6モル付加体」は、前者の「多価アルコール」に相当する。
後者の「ネオペンチルグリコール」、「テレフタル酸ジ(1、2-プロピレングリコール)」は、前者の「脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコールまたは芳香族含有グリコールである2価のアルコール成分Y」に相当する。
後者の「イソフタル酸」は、前者の「脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸である2価のカルボン酸成分Z」に相当する。
後者の「無水トリメリット酸」は、前者の「カルボキシル基を2個以上有する多塩基酸」に相当し、後者は、「無水トリメリット酸」の反応を最後に行っているから、分子末端に酸が付加されている限りにおいて前者と一致する。
後者の「Mnが4300」は、前者の「数平均分子量が2,000?50,000」と一致する。

そうすると、両者は、「多価アルコールの残基、脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸である2価のカルボン酸成分、脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコールまたは芳香族含有グリコールである2価のアルコール成分を含み、分子末端にカルボキシル基を2個以上有する多塩基酸の残基を含む、数平均分子量が2,000?50,000であるポリエステル樹脂」で一致し、少なくとも、
前者では、ポリエステル樹脂が
「(X-O)_(r)-W-(O-(CO-Z-CO-O-Y-O)_(p)-X)_(q) ・・・(1)
但し、Wは(q+r)個の水酸基を有する多価アルコールの残基、(CO-Z-CO-O-Y-O)は脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸である2価のカルボン酸成分Zと脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコールまたは芳香族含有グリコールである2価のアルコール成分Yを菫合成分とするポリエステル樹脂骨格、Xはカルボキシル基を2個以上有する多塩基酸の残基または水素である(ただし、(q+r)個のXが全て水素になることはない)。X,YおよびZはそれぞれ同一または異なっていてもよく、同一の繰り返し単位中においても同一または異なっていてもよい。pの平均値は3以上であり、qの平均値は0よりも大きく15以下であり、rの平均値は0以上15未満であり、(q+r)は3以上15以下である。」という化学構造を有するのに対し、
後者では、ポリエステル樹脂の全体の化学構造が特定されていない点(相違点3)で相違している。

(イ)相違点3の検討
甲第3号証の【0118】には、製造例8[ポリエステル樹脂の合成および樹脂粒子分散液の調製]として、「ネオペンチルグリコール7部(97.3モル部)、フェノールノボラック樹脂(平均重合度5.6)のEO5.6モル付加体1.5部(2.7モル部)、テレフタル酸ジ(1,2-プロピレングリコール)1019部(5322モル部)、イソフタル酸1部(8.9モル部)、およびシュウ酸チタニルカリウム塩(シュウ酸チタン酸カリウム)0.5部を入れ、180℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら12時間反応させた。次いで230℃まで徐々に昇温しながら、窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させ、さらに5?20mmHgの減圧下に反応させ、軟化点が98℃になった時点で冷却した。回収されたプロピレングリコールは124部(2404モル部)であった。次いで180℃まで冷却し、無水トリメリット酸85部(652.1モル部)を加え、密閉下2時間反応後、220℃、常圧で反応させ、軟化点が145℃になった時点で取り出し、室温まで冷却後、粉砕し粒子化した。これをポリエステル樹脂(A-6)とした。」と記載されており、甲第3号証では、無水トリメリット酸(カルボキシル基を2個以上有する多塩基酸)との反応の前に、フェノールノボラック樹脂(平均重合度5.6)のEO5.6モル付加体(多価アルコール)、イソフタル酸(2価のカルボン酸成分)、ネオペンチルグリコール及びテレフタル酸ジ(1,2-プロピレングリコール)(2価のアルコール成分Y)を、シュウ酸チタニルカリウム塩(甲第3号証の【0023】?【0024】によるとエステル化触媒と認められる。)の存在下で、高温減圧して反応を行っているものと認められる。
一方、本件訂正明細書の【0073】、【0031】によると、本件訂正発明1のポリエステル樹脂は、例えば、実施例A-1に記載された工程により製造されるものであり、ポリエステル樹脂を、多価アルコールにより解重合する操作を組み込むことにより、本件訂正発明1の一般式(I)で示される、多価アルコールを分子中に1つ有するポリエステル樹脂を製造している(3(1)ア(イ))。
そうすると、甲3発明のポリエステル樹脂は、フェノールノボラック樹脂(平均重合度5.6)のEO5.6モル付加体(多価アルコール)によるポリエステル樹脂の解重合の工程を行うことなく製造されているので、甲3発明のポリエステル樹脂が、フェノールノボラック樹脂(平均重合度5.6)のEO5.6モル付加体(多価アルコール)を分子中に1つ有する、本件訂正発明1の一般式(1)の化学構造を有することは確認できない。
また、甲第3号証には、甲3発明のポリエステル樹脂が、分子中に1つのフェノールノボラック樹脂(平均重合度5.6)のEO5.6モル付加体(多価アルコール)を有することを示唆する記載はないし、甲第3号証に記載される製造方法や製造条件から、分子中に1つのフェノールノボラック樹脂(平均重合度5.6)のEO5.6モル付加体(多価アルコール)を有するポリエステル樹脂が生成することを、当業者が、技術常識に基づき認識できたとも認められない。
したがって、相違点3は、本件訂正発明1と甲3発明を区別する、実質的な相違点といえる。
そして、甲第1?3号証の記載事項を参照しても、多価アルコールを、ポリエステル樹脂の分子中に1つだけ含有させることや多価アルコールをポリエステル樹脂の解重合で用いることを示唆する記載は見当たらないので、甲3発明に甲第1?3号証に記載されている技術的事項を組み合わせても、相違点3として挙げた、本件訂正発明1が備える発明特定事項に至ることが、当業者に容易に想到し得たとは認められない。

イ.本件訂正発明3?5について
本件訂正発明3?5は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正発明1の相違点の検討で述べたものと同様の理由により、本件訂正発明3?5は、甲3発明と同一ではないか、甲3発明と甲第1?3号証に記載されている技術的事項を組み合わせても、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。

ウ.小括
以上のとおり、本件訂正発明1、3?5は、甲3発明、すなわち、甲第3号証に記載された発明とはいえず、甲3発明に基づき当業者が容易に想到し得たものともいえないので、申立理由3-1、2は、理由がない。

(4)申立理由4(サポート要件違反)
本件訂正明細書の【0073】?【0075】には、実施例A-1?A-2、A-4?A-6として、EG(エチレングリコール)、DEG(ジエチレングリコール)、PG(プロピレングリコール)、BD(ブタンジオール)を「2価のアルコール成分Y」として用いたポリエステル樹脂No.1?2、4?6(表1)が記載されている。
そして、本件訂正明細書の【0016】には、「2価以上の多価アルコール成分Yとしては、脂肪族グリコ-ル、脂環族グリコ-ル、エ-テル結合含有グリコ-ルまたは芳香族含有グリコールであることが好ましい。」との記載があるところ、ポリエステル樹脂の骨格に使用する2価のアルコール成分としては、鎖状の脂肪族グリコール以外に、脂環族グリコール等が使用できることは、本件特許の出願日における周知の技術的事項である(例えば、甲第1号証の[0027]?[0032]、甲第2号証の【0043】、甲第3号証の【0008】)。
また、本件訂正明細書の【0009】に「本発明のポリエステル樹脂は、分子鎖中に高濃度のカルボキシル基を有するので、乳化剤および有機溶剤を使用することなしに塩基性化合物の水溶液と攪拌するだけで容易に水分散体を形成させることができる優れた水分散性を発揮する。」、【0011】に「本発明のポリエステル樹脂の酸価は、主に分子鎖末端に含まれる多数のカルボキシル基に由来するものであり、別途有機溶剤および乳化剤を添加しなくても水分散体を形成することができるとの性質(以下、自己乳化性と称することがある)を発現し、また、粒子径の小さなエマルジョン粒子を形成することができるとの効果を発揮する。」と記載されていることに照らすと、ポリエステル樹脂を構成する「2価のアルコール成分Y」の化学構造が、本件訂正発明1?14の効果を左右するものとは解されない。
そうすると、本件訂正発明1?14において、脂環族グリコールを使用する場合でも、ポリエステル樹脂No.1?2、4?6による表1、3、5、6等に記載されるような効果を奏することを当業者は予測し得るから、本件訂正発明1?14は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、当業者が、本件訂正発明1?14の課題を解決できると認識できる範囲のものと認められる。
したがって、本件訂正発明1?14は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしているから、申立理由4は、理由がない。

第6 むすび
以上のとおり、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、本件訂正発明1?14に係る特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂水分散体、及びポリエステル樹脂水分散体の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は乳化剤および有機溶剤を使用することなく安定な水系エマルジョンを形成することのできる自己乳化機能を有するポリエステル樹脂、これを含有するポリエステル樹脂水分散体、及び水分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は塗料、コーティング剤および接着剤等に用いられる樹脂組成物の原料として広く使用されている。ポリエステル樹脂は一般に多価カルボン酸と多価アルコールから構成される。多価カルボン酸と多価アルコールの選択と組合せ、分子量の高低は自由にコントロールでき、得られるポリエステル樹脂は塗料用途や接着剤用途をはじめ、様々な用途で使用されている。
【0003】
使用形態としては、有機溶剤溶解品、水分散品として、基材に塗布して使用されることが一般的であるが、近年は環境問題や揮発性有機溶剤の排出抑制の観点から塗料、インキ、コーティング剤、接着剤、粘着剤、シール剤、プライマー及び繊維製品や紙製品等の各種処理剤が従来の有機溶剤系から水系化、ハイソリッド化、粉体化の方向に進みつつある。とりわけ水分散体による水系化は作業性の良さと作業環境改善の面から最も汎用的で有望視されている。
【0004】
ポリエステル樹脂を水分散化してバインダー成分として用いた例としては、特許文献1?4を挙げることができる。特許文献1では乳化剤により強制乳化された水分散体が用いられている。特許文献2、3ではスルホン酸金属塩基含有セグメントを分子中に有する共重合ポリエステルが示されており、乳化剤を添加しなくても安定な水系エマルジョンを形成することのできる自己乳化機能を有することが示されている。また特許文献4では、乳酸系ポリマーを多価カルボン酸もしくはその酸無水物と反応させ、塩基、水を添加し自己水分散性粒子を製造する製法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-13657号公報
【特許文献2】特公昭47-40873号公報
【特許文献3】特開昭57-40525号公報
【特許文献4】特開2014-139265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記背景技術について、本発明者らが検討したところ、以下のような課題があることが判明した。すなわち、特許文献1に開示されている発明においては、樹脂水分散体を作製する際に乳化剤を使用しているので、バインダー成分として使用する場合、乳化剤が樹脂と被着体の界面に残存し接着性を低減するといった課題がある。特許文献2に開示されている発明においては、乳化剤を使用することなく安定した水分散が得られており、バインダー成分として使用した場合、高い接着性を示すものの、水に対して優れた溶解性または分散性を付与するためには多量の上記親水性原料の使用を必要とし、得られた皮膜の耐水性は非常に劣ったものとなる。また特許文献3に開示されている発明においては、水分散体の製造工程で脱溶剤操作を行っており、揮発性有機溶剤排出抑制の観点では改善の余地がある。また特許文献4に開示されている発明においては、加水分解性が高いポリ乳酸系骨格を導入しているため、高い耐加水分解性が要求される用途には使えないといった課題があった。また、ポリ乳酸は180℃以上で熱劣化し分子量が低下するため、耐熱性の必要な用途に展開できないといった課題があった。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明が解決しようとする課題は、ポリ乳酸に比べ耐熱性が優れており、乳化剤および有機溶剤を使用することなく、水系エマルジョンを形成することのできる自己乳化機能を有するポリエステル樹脂を提供することにある。さらに、前記ポリエステル樹脂を含有する水分散体、水性接着剤および水性インキによって形成される積層体、包装材料並びに水分散体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
<1>
下記一般式(1)の化学構造で示され、
酸価が250?2,500eq/10^(6)g、
数平均分子量が2,000?50,000、であるポリエステル樹脂。
(X-O)_(r)-W-(O-(CO-Z-CO-O-Y-O)_(p)-X)_(q) ・・・(1)
但し、Wは(q+r)個の水酸基を有する多価アルコールの残基、(CO-Z-CO-O-Y-O)は多価カルボン酸成分Zと多価アルコール成分Yを重合成分とするポリエステル樹脂骨格、Xはカルボキシル基を2個以上有する多塩基酸の残基または水素である(ただし、(q+r)個のXが全て水素になることはない)。X,YおよびZはそれぞれ同一または異なっていてもよく、同一の繰り返し単位中においても同一または異なっていてもよい。pの平均値は3以上であり、qの平均値は0よりも大きく15以下であり、rの平均値は0以上15未満であり、(q+r)は3以上15以下である。
<2>
前記一般式(1)におけるWが、ペンタエリスリトールの残基、ソルビトールの残基おびイノシトール残基からなる群より選ばれる1種以上の残基であることを特徴とする<1>に記載のポリエステル樹脂。
<3>
前記一般式(1)におけるXが、無水トリメリット酸、無水コハク酸および無水マレイン酸からなる群より選ばれるいずれか1種以上の残基であることを特徴とする<1>または<2>に記載のポリエステル樹脂。
<4>
<1>?<3>のいずれかに記載のポリエステル樹脂、塩基性化合物および水を含有するポリエステル樹脂水分散体。
<5>
乳化剤を含有しないことを特徴とする<4>に記載のポリエステル樹脂水分散体。
<6>
有機溶剤を含有しないことを特徴とする<4>または<5>に記載のポリエステル樹脂水分散体。
<7>
<1>?<3>いずれかに記載のポリエステル樹脂と塩基性化合物と水とを、乳化剤および有機溶剤を加えることなく混合することによってポリエステル樹脂水分散体を得る工程を有する、ポリエステル樹脂水分散体の製造方法。
<8>
さらに硬化剤を含有する<4>?<6>のいずれかに記載のポリエステル樹脂水分散体。
<9>
前記硬化剤が多価エポキシ化合物、オキサゾリン樹脂、カルボジイミド樹脂、イソシアネート化合物、メラミン樹脂および多価金属塩からなる群から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする<8>に記載のポリエステル樹脂水分散体。
<10>
<8>または<9>のポリエステル樹脂水分散体を含有する水性接着剤。
<11>
<8>または<9>のポリエステル樹脂水分散体を含有する水性塗料。
<12>
<8>または<9>のポリエステル樹脂水分散体と色材を含有する水性インキ。
<13>
<1>?<3>のいずれかに記載のポリエステル樹脂を含有する層(A層)とフィルム、シート、織布、不織布または紙からなる層(B層)を含有する積層体。
<14>
<13>に記載の積層体を構成要素として有する包装材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリエステル樹脂は、分子鎖中に高濃度のカルボキシル基を有するので、乳化剤および有機溶剤を使用することなしに塩基性化合物の水溶液と攪拌するだけで容易に水分散体を形成させることができる優れた水分散性を発揮する。また、本発明のポリエステル樹脂水分散体は、乳化剤を使用することなく調製できるので、接着性に優れる。さらに、本発明のポリエステル樹脂水分散体にカルボキシル基に対して反応性を有する硬化剤を配合することにより、接着性および耐水性に優れる接着層やインキを容易に得ることができる。さらに、本発明のポリエステル樹脂は、ポリ乳酸に比べ耐熱性が優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
下記一般式(1)の化学構造で示され、
酸価が250?2,500eq/10^(6)g、
数平均分子量が2,000?50,000、であるポリエステル樹脂。
(X-O)_(r)-W-(O-(CO-Z-CO-O-Y-O)_(p)-X)_(q) ・・・(1)
但し、Wは(q+r)価の有機基、(CO-Z-CO-O-Y-O)は多価カルボン酸成分Zと多価アルコール成分Yを重合成分とするポリエステル樹脂骨格、Xはカルボキシル基を2個以上有する多塩基酸の残基または水素である(ただし、(q+r)個のXが全て水素になることはない)。X,YおよびZはそれぞれ同一または異なっていてもよく、同一の繰り返し単位中においても同一または異なっていてもよい。pの平均値は3以上であり、qの平均値は0よりも大きく15以下であり、rの平均値は0以上15未満であり、(q+r)は3以上15以下である。すなわち本発明のポリエステル樹脂は、末端がXで変性されたポリエステル樹脂である。
【0011】
本発明のポリエステル樹脂の酸価は、250eq/10^(6)g以上2500eq/10^(6)g以下であり、好ましくは300eq/10^(6)g以上2300eq/10^(6)g以下である。本発明のポリエステル樹脂の酸価は、主に分子鎖末端に含まれる多数のカルボキシル基に由来するものであり、別途有機溶剤および乳化剤を添加しなくても水分散体を形成することができるとの性質(以下、自己乳化性と称することがある)を発現し、また、粒子径の小さなエマルジョン粒子を形成することができるとの効果を発揮する。ポリエステル樹脂の酸価を前記下限値以上にすることで自己乳化性を発揮させることができ、また硬化塗膜の硬化性を向上させることができる。一方、前記上限値以下にすることで固形樹脂の状態でも加水分解しにくく保存安定性が良好となる。さらに本発明のポリエステル樹脂を用いた硬化塗膜の耐水性も良好となる。
【0012】
本発明のポリエステル樹脂の数平均分子量は、2,000以上50,000以下であり、好ましくは3,000以上45,000以下であり、より好ましくは4,000以上40,000以下である。数平均分子量を前記下限値以上とすることでポリエステル樹脂の凝集力が小さくなりすぎず接着性および耐水性が良好となる。一方、数平均分子量を前記上限値以下とすることでポリエステル樹脂の凝集力が大きくなりすぎず水分散性が良好となる。このため、一旦溶剤に溶解し水系に相転移させる方法だけでなく、直接、塩基化合物および水のみとの混合する方法で水分散体を調製した場合であっても粒子径が粗大とならず、粒子が沈殿することのない、水分散性が良好な水分散体を得ることができる。
【0013】
本発明のポリエステル樹脂において、前記(CO-Z-CO-O-Y-O)は、2価以上の多価カルボン酸成分Zと、2価以上の多価アルコール成分Yからなる数種のモノマーを縮重合して得られるもの(以下、ポリエステル樹脂(A)ともいう。)であり、重合の方法としては、特に限定されることなく公知の方法が用いられる。
【0014】
上記ポリエステル樹脂(A)の縮重合を行う場合、重合触媒を用いても良い。重合触媒としては、例えば、チタン化合物(テトラ-n-ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、チタンオキシアセチルアセトネートなど)、アンチモン化合物(トリブトキシアンチモン、三酸化アンチモンなど)、ゲルマニウム化合物(テトラ-n-ブトキシゲルマニウム、酸化ゲルマニウムなど)、亜鉛化合物(酢酸亜鉛など)、アルミニウム化合物(酢酸アルミニウム、アルミニウムアセチルアセテートなど)などを挙げることができる。上記重合触媒は1種又は2種以上使用してもよい。重合の反応性の面からチタン化合物が好ましい。
【0015】
2価以上の多価カルボン酸成分Zとしては、芳香族多価カルボン酸、脂肪族多価カルボン酸または脂環族多価カルボン酸であることが好ましい。脂環族多価カルボン酸の例としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸とその酸無水物などの脂環族ジカルボン酸を挙げることができる。脂肪族多価カルボン酸の例としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。芳香族多価カルボン酸の例としてはテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ジフェン酸、5-ヒドロキシイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸が例示できる。また、スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、5-(4-スルホフェノキシ)イソフタル酸、スルホテレフタル酸、および/またはそれらの金属塩、アンモニウム塩などのスルホン酸基又はスルホン酸塩基を有する芳香族ジカルボン酸等を挙げることができる。これらの中から、1種または2種以上を選択して使用できる。好ましくは芳香族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸であり、なかでもテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸またはセバシン酸が好ましい。
【0016】
2価以上の多価アルコール成分Yとしては、脂肪族グリコ-ル、脂環族グリコ-ル、エ-テル結合含有グリコ-ルまたは芳香族含有グリコールであることが好ましい。脂肪族グリコ-ルの例としては、エチレングリコ-ル、1,2-プロピレングリコ-ル、1,3-プロパンジオ-ル、1,4-ブタンジオ-ル、1,5-ペンタンジオ-ル、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコ-ル、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオ-ル、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオ-ル、2-エチル-2-ブチルプロパンジオール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、ジメチロールヘプタン、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオ-ル等を挙げることができる。脂環族グリコ-ルの例としては、1,4-シクロヘキサンジオ-ル、1,4-シクロヘキサンジメタノ-ル、トリシクロデカンジオ-ル、トリシクロデカンジメチロール、スピログリコ-ル、水素化ビスフェノ-ルAまたは水素化ビスフェノ-ルAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、等を挙げることができる。エーテル結合含有グリコ-ルの例としては、ジエチレングリコ-ル、トリエチレングリコ-ル、ジプロピレングリコ-ル、ポリエチレングリコ-ル、ポリプロピレングリコ-ル、ポリテトラメチレングリコ-ル、ネオペンチルグリコールエチレンオキサイド付加物またはネオペンチルグリコールプロピレンオキサイド付加物も必要により使用しうる。芳香族含有グリコールの例としてはパラキシレングリコ-ル、メタキシレングリコ-ル、オルトキシレングリコ-ル、1,4-フェニレングリコ-ル、1,4-フェニレングリコ-ルのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノ-ルA、ビスフェノ-ルAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物等の、ビスフェノ-ル類の2つのフェノ-ル性水酸基にエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドをそれぞれ1?数モル付加して得られるグリコ-ル類等を例示できる。これらの中から、1種または2種以上を選択して使用できる。好ましくは脂肪族グリコールまたはエーテル結合含有グリコールであり、なかでもエチレングリコール、1,4-ブタンジオールまたはジエチレングリコールが好ましい。ポリエステル樹脂(A)において、全多価アルコール成分を100モル%としたとき、脂肪族グリコールおよびエーテル結合含有グリコールの合計量が80モル%以上であることが好ましく、より好ましくは90モル%以上であり、さらに好ましくは95モル%以上であり、100モル%でも差し支えない。脂肪族グリコールおよびエーテル結合含有グリコールの合計量の含有量が少なすぎると水分散性および接着性が低下することがある。
【0017】
本発明におけるポリエステル樹脂(A)を構成する3官能以上の多価カルボン酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、メチルシクロへキセントリカルボン酸、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-(ヘキサフロロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2’-ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)などをあげることができる。また、本発明のポリエステル樹脂(A)を構成する3官能以上の多価アルコールとしては、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールペンタン、トリメチロールプロパンを挙げることができる。これらの中から、1種または2種以上を選択して使用できる。ポリエステル樹脂(A)において、全多価カルボン酸成分を100モル%としたとき、3官能以上の多価カルボン酸は、10モル%以下であることが好ましく、より好ましくは8モル%以下であり、さらに好ましくは5モル%以下であり、0モル%でも差し支えない。多すぎるとポリエステル樹脂(A)がゲル化してしまうことがある。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂において、前記Wは、(q+r)価を有する有機基である。(q+r)は3以上であり、好ましくは4以上である。(q+r)を前記の値以上とすることでポリエステル樹脂のカルボキシル基数が少なくなりすぎず水分散が容易となる。また、(q+r)は15以下であり、好ましくは10以下であり、より好ましくは8以下である。(q+r)を前記の値以下とすることでポリエステル樹脂のカルボキシル基数が多くなりすぎず保存安定性が良好となる。
【0019】
ポリエステル樹脂が2種以上の混合物の場合は、qはその混合物の平均値とする。qの平均値は0よりも大きいことが必要である。好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上であり、さらに好ましくは3以上であり、特に好ましくは4以上である。また15以下であり、好ましくは13以下であり、より好ましくは10以下であり、さらに好ましくは8以下であり、特に好ましくは6以下である。qの平均値を前記範囲にするためには、各ポリエステル樹脂のqが1以上の整数であることが好ましく、より好ましくは2以上であり、さらに好ましくは3以上であり、特に好ましくは4以上である。また、20以下であることが好ましく、より好ましくは18以下であり、さらに好ましくは15以下である。
【0020】
qの平均値とは、Wにおける(CO-Z-CO-O-Y-O)の付加数の平均値をいう。例えば、ポリエステル樹脂中、(CO-Z-CO-O-Y-O)の付加数が10個の化合物が50モル%、8個の化合物が30モル%、6個の化合物が20モル%のときのqの平均値は、8.6となる。計算式は以下の通りである。qの平均値=(10個×50モル%+8個×30モル%+6個×20モル%)/100モル%=8.6。
【0021】
ポリエステル樹脂が2種以上の混合物の場合は、rはその混合物の平均値とする。rの平均値は0以上であり、好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上であり、さらに好ましくは3以上である。また15未満であり、好ましくは13以下であり、より好ましくは10以下であり、さらに好ましくは8以下であり、特に好ましくは6以下である。rの平均値を前記範囲にするためには、各ポリエステル樹脂のrが0以上であることが好ましく、より好ましくは1以上であり、さらに好ましくは2以上である。また、20以下であることが好ましく、より好ましくは18以下であり、さらに好ましくは15以下である。
【0022】
rの平均値とは、Wにおける(X-O)の付加数の平均値をいう。例えば、ポリエステル樹脂中、(X-O)の付加数が10個の化合物が50モル%、8個の化合物が30モル%、6個の化合物が20モル%のときのqの平均値は、8.6となる。計算式は以下の通りである。rの平均値=(10個×50モル%+8個×30モル%+6個×20モル%)/100モル%=8.6。
【0023】
Wとしては、特に限定されないが、水酸基を3個以上有する多価アルコール、およびその誘導体を挙げることができる。水酸基を3個有する多価アルコールの例としては、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,3,5-シクロヘキサントリオール等を挙げることができる。また水酸基を4個以上有する多価アルコールの例としては、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ジグリセリン、ポリグリセリン、キシリトール、ソルビトール、グルコース、フルクトース、マンノース等を挙げることができる。これら多価アルコールを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのうち、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールは1級の水酸基を2個以上有し、さらに多数の水酸基を持つため、好ましい。Wに含まれる水酸基が多くなると、多分岐骨格を形成しやすくなるため、酸付加により多量のカルボキシル基を導入して酸価を高めることができる。そのため、樹脂強度と水分散性を兼備することが容易となり好ましい。
【0024】
Wとして、有機基価数の異なる2種以上の多価アルコールを用いた場合、その有機基価数Wの平均値を(q+r)とする。例えば、W100モル%中、Wとして、8価の有機基を30モル%、5価の有機基を50モル%、3価の有機基を20モル%としたときのWの有機基価の平均値は、5.5となる。計算式は以下の通りである。Wの有機基価の平均値=(8価×30モル%+5価×50モル%+3価×20モル%)/100モル%=5.5。すなわち、この場合の(q+r)は5.5となる。
【0025】
ポリエステル樹脂が2種以上の混合物の場合は、pはその混合物の平均値とする。本発明のポリエステル樹脂において、前記-(CO-Z-OC-O-Y-O)_(p)-におけるpの平均値は3以上であり、好ましくは4以上であり、より好ましくは5以上である。pの平均値を前記の値以上にすることでポリエステル樹脂の数平均分子量が小さくなりすぎるのを防ぐことができる。それによりポリエステル樹脂の凝集力を保ち、接着性および耐水性が良好となる。一方、pの平均値は50以下であることが好ましく、より好ましくは40以下であり、さらに好ましくは30以下である。pの平均値を前記の値以下とすることでポリエステル樹脂の数平均分子量が大きくなりすぎるのを防ぐことができる。それによりポリエステル樹脂の凝集力が大きくなりすぎるのを抑えるとともに、相対的にポリエステル樹脂中に含まれるXの濃度も確保することができる。これによりポリエステル樹脂の酸価も前記所定の範囲内にすることができ水分散性が良好となる。pの平均値を前記範囲にするためには、各ポリエステル樹脂のpは0以上の整数であることが好ましく、より好ましくは1以上であり、さらに好ましくは2以上であり、特に好ましくは3以上である。また、60以下であることが好ましく、より好ましくは50以下であり、さらに好ましくは40以下である。
【0026】
pの平均値とは、ポリエステル樹脂中、(CO-Z-CO-O-Y-O)の繰り返し単位の平均値をいう。例えば、ポリエステル樹脂100モル%中、(CO-Z-CO-O-Y-O)の繰り返し単位が10個の化合物が50モル%、8個の化合物が30モル%、6個の化合物が20モル%のときのpの平均値は、8.6となる。計算式は以下の通りである。pの平均値=(10個×50モル%+8個×30モル%+6個×20モル%)/100モル%=8.6。
【0027】
(CO-Z-CO-O-Y-O)の繰り返し単位は、1つの鎖に連続してもよいし、異なる鎖に分散していてもよい。例えば、(q+r)が4、pが15の場合、下記式(2)のように、q=3かつr=1の構造を有し、1つの鎖に(CO-Z-CO-O-Y-O)が15個連続してもよいし、下記式(3)のように、q=4かつr=0の構造を有し、4つの鎖にそれぞれ2個、3個、4個、6個の(CO-Z-CO-O-Y-O)が不均一に付加していてもよい。
【化1】

【化2】

【0028】
本発明のポリエステル樹脂において、前記Xはカルボキシル基を2個以上含む多塩基酸の残基または水素である。ただし、(q+r)個のXが全て水素になることはなく、少なくとも1つはカルボキシル基を2個以上含む多塩基酸の残基である。好ましくは(q+r)個のXのうち25%以上がカルボキシル基を2個以上含む多塩基酸の残基であり、より好ましくは50%以上がカルボキシル基を2個以上含む多塩基酸の残基であり、さらに好ましくは75%以上がカルボキシル基を2個以上含む多塩基酸の残基であり、特に好ましくは90%以上がカルボキシル基を2個以上含む多塩基酸の残基であり、全てのXがカルボキシル基を2個以上含む多塩基酸の残基であっても差し支えない。Xは前記Zとは異なるものであることが好ましい。
【0029】
前記多塩基酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸およびその酸無水物、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸およびその酸無水物、マレイン酸、フマル酸、テルペン-マレイン酸付加体等の不飽和ジカルボン酸およびその酸無水物、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,2-シクロヘキセンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸およびその酸無水物、トリメリット酸、メチルシクロへキセントリカルボン酸、などの3価以上のカルボン酸およびその酸無水物を挙げることができる。これらのうち、無水トリメリット酸、無水コハク酸または無水マレイン酸が好ましく、特に無水トリメリット酸は付加反応で容易に反応させることができ、かつ1分子あたりカルボキシル基を2個導入できるので、多量の酸価の導入が可能であり、水分散化に有利であるので好ましい。
【0030】
また、前記多塩基酸として、無水ピロメリット酸(PMDA)、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート(TMEG)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-(ヘキサフロロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2’-ビス[(ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BSAA)、グリセリントリスアンヒドロトリメリテート等の酸二無水物も使用することができる。特に、比較的低温で付加反応が可能で、凝集力が少なく水分散性の良好な、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート(TMEG)の使用が特に好ましい。前記多塩基酸を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
本発明のポリエステル樹脂は、特に限定されないが、例えば、2価以上の多価カルボン酸化合物からなるカルボン酸成分Zと、2価以上の多価アルコール化合物からなるグリコール成分Yとから得られるポリエステル樹脂(A)を、水酸基を3個以上有する多価アルコールWにより解重合反応をさせた後に、ポリエステル樹脂(A)の末端水酸基に多塩基酸Xを反応させて分子末端にカルボキシル基を導入することにより、製造することができる。
【0032】
多塩基酸無水物が重合系中に含まれる水との反応によって開環しないように、各原料はあらかじめ真空乾燥等を行なって含水率を下げてから使用することが好ましい。また重合中の水分の影響を避けるため、真空中、または不活性ガス雰囲気下で重合を行うことが好ましい。また、従来公知の酸付加触媒を使用することにより、重合速度を上げることができる。例えば、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン等のアミン類;テトラメチルアンモニウムクロライド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド等の四級アンモニウム塩;2-エチル-4-イミダゾール等のイミダゾール類;4-ジメチルアミノピリジン等のピリジン類;トリフェニルホスフィン等のホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムブロマイド等のホスホニウム塩;p-トルエンスルホン酸ナトリウム等のスルホニウム塩;p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸類;オクチル酸亜鉛等の有機金属塩等が挙げられるが、より好ましくは、アミン類、ピリジン類、ホスフィン類であり、特に4-ジメチルアミノピリジンを用いると重合速度を高くすることができる。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂を重合する際には、各種の酸化防止剤を添加することが有効である。重合温度が高い場合や重合時間が長い場合には、ポリエーテル等耐熱性の低いセグメントが共重合されていると酸化劣化を受けやすくなる場合があり、このような場合、酸化防止剤の添加が特に有効である。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ニトロ化合物系酸化防止剤、無機化合物系酸化防止剤など公知のものが例示できる。比較的耐熱性の高いフェノール系酸化防止剤が好ましく、得られるポリエステル樹脂100質量部に対して0.05質量部以上0.5質量部以下の添加量であることが好ましい。
【0034】
本発明のポリエステル樹脂は水分散性が良好なため、塩基性化合物の存在下、温水中で容易に水分散することができる。水分散体製造時の液温は30℃以上85℃以下が好ましく、より好ましくは40℃以上80℃以下であり、さらに好ましくは45℃以上75℃以下である。水温が低くても分散は進行するが、時間が掛かってしまう。水温の高い方が分散は早くなるが、水温が高すぎると、ポリエステルセグメントの加水分解速度が高くなる傾向にあり、本発明のポリエステル樹脂の数平均分子量が低下する傾向にある。
【0035】
本発明のポリエステル樹脂水分散体の製造方法において使用される塩基性化合物としては、アンモニア、有機アミン化合物、無機塩基性化合物等が上げられる。
【0036】
前記有機アミン化合物の具体例を挙げると、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、sec-ブチルアミン等のアルキルアミン類、3-エトキシプロピルアミン、プロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン等のアルコキシアミン類、N,N-ジエチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン等のモルホリン類である。これらの有機アミン化合物のうち、親水性の高いアルカノールアミン類、特にトリエタノールアミンを使用すると水分散性を向上させることができる。
【0037】
前記無機塩基性化合物の具体例を挙げると、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩、及び炭酸アンモニウム等を使用することができる。多価金属の塩基性化合物は、本発明のポリエステル樹脂中に含まれる複数のカルボキシル基と水に難溶性の塩を生成し、分散性を悪化させる可能性があるので、使用する場合は少量に限定することが好ましい。
【0038】
前記塩基性化合物は、本発明のポリエステル樹脂が有するカルボキシル基の少なくとも一部を中和し得る量を必要とし、具体的には本発明のポリエステル樹脂の酸価に対して0.5当量?1.0当量を添加することが望ましい。また、本発明のポリエステル樹脂の酸価に対して1.0当量未満の塩基性化合物を用いて水分散体を形成した後、前記塩基性化合物を追加添加して、最終的な塩基性化合物の添加量を酸価に対して0.5当量?1.0当量としても良い。このとき、水分散体のpHは6.5?7に調整することが、ポリエステルセグメントの加水分解を抑制する観点で、好ましい。塩基性化合物の添加比率が低すぎると水分散性が低くなる傾向にあり、高すぎると水分散体のpHが高くなりポリエステル樹脂が加水分解を起こす可能性がある。
【0039】
本発明のポリエステル樹脂の水分散体を製造するためには、乳化剤や有機溶剤を使用する必要はないが、必ずしも使用を排除するものでもない。各種ノニオン性乳化剤やアニオン性乳化剤の使用により、水分散体のさらなる安定化を図ることが可能となる場合がある。また、あらかじめ本発明のポリエステル樹脂を適当な有機溶剤に溶解したのち相転移させることにより、より安定な水分散体を得ることができる場合がある。
【0040】
ポリエステル樹脂水分散体における乳化剤の含有量は、ポリエステル樹脂100質量部に対して、10質量部以下であることが好ましく、より好ましくは5質量部以下であり、さらに好ましくは1質量部以下であり、0質量部でも差し支えない。また、ポリエステル樹脂水分散体における有機溶剤の含有量は、ポリエステル樹脂100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、より好ましくは20質量部以下であり、さらに好ましくは10質量部以下であり、0質量部でも差し支えない。
【0041】
本発明のポリエステル樹脂水分散体を接着剤として使用することができる。この際、カルボキシル基と反応する硬化剤を加えると、より接着力の高い接着剤を得ることができる。前記硬化剤としては、メラミン系、ベンゾグアナミン系等のアミノ樹脂、多価イソシアネート化合物、多価オキサゾリン化合物、多価エポキシ化合物、フェノール樹脂またはカルボジイミド化合物などの各種の硬化剤を使用することができる。特に、多価エポキシ化合物、多価オキサゾリン化合物はカルボキシル基との反応性が高く、低温での硬化が可能となり、また高い接着力を得ることができ、好ましい。なかでも多価エポキシ化合物が好ましい。また多価金属塩も硬化剤として使用することができる。
【0042】
これらの硬化剤を使用する場合、その含有量は本発明のポリエステル樹脂100質量部に対し、1?50質量部であることが好ましく、3?40質量部であることがより好ましく、5?30質量部であることがさらに好ましい。硬化剤の配合量が5質量部を下回ると硬化性が不足する傾向にあり、50質量部を超えると塗膜が硬くなりすぎる傾向にある。
【0043】
本発明の水性接着剤の硬化剤として適切な多価エポキシ化合物としては、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、アミノ基含有エポキシ樹脂、共重合型エポキシ樹脂等を挙げることができる。ノボラック型エポキシ樹脂の例としては、フェノール、クレゾール、アルキルフェノールなどのフェノール類とホルムアルデヒドとを酸性触媒下で反応させて得られるノボラック類に、エピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンを反応させて得られるものを挙げることができる。ビスフェノール型エポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどのビスフェノール類にエピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンを反応させて得られるものや、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルと前記ビスフェノール類の縮合物にエピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンを反応させて得られるものを挙げることができる。トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂の例としては、トリスフェノールメタン、トリスクレゾールメタン等とエピクロルヒドリン及び/又はメチルエピクロルヒドリンとを反応させて得られるものを挙げることができる。アミノ基含有エポキシ樹脂の例としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサノン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン等のグリシジルアミン系を挙げることができる。共重合型エポキシ樹脂の例としては、グリシジルメタクリレートとスチレンの共重合体、グリシジルメタクリレートとスチレンとメチルメタクリレートの共重合体、あるいは、グリシジルメタクリレートとシクロヘキシルマレイミドなどとの共重合体等を挙げることができる。
【0044】
本発明のポリエステル樹脂水分散体は自己乳化効果を持つため、水に溶けないエポキシ化合物も硬化剤として使用することができるが、水溶性エポキシ樹脂の方が使用しやすく好ましい。水溶性エポキシ樹脂の例としては、ポリエチレングリコール、グリセリン及びその誘導体、ソルビトール等の水溶性化合物の水酸基の一部をグリシジル基にしたものを挙げることができる。具体的には、ポリグリコールグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ソルビトール系ポリグリシジルエーテル等が挙げられる。市販の水溶性エポキシ樹脂としては、阪本薬品工業(株)製のSR-EGM、SR-8EG(ポリグリコールグリシジルエーテル)、SR-GLG(グリセリンポリグリシジルエーテル)、SR-SEP(ソルビトール系ポリグリシジルエーテル)、ナガセケミッテックス(株)製のデナコール(登録商標)EX-614、EX-512、EX-412等を挙げることができる。
【0045】
本発明の水性接着剤の硬化剤として適切な多価オキサゾリン化合物としては、市販のオキサゾリン化合物を使用することができ、日本触媒製エポクロス(登録商標)WS-500、WS-700、エポクロスK-2010E、エポクロスK-2020E等を使用することができる。
【0046】
本発明の水性接着剤の硬化剤として適切なカルボジイミド化合物としては、市販のカルボジイミド化合物を使用することができ、日清紡製カルボジライトV-02、V-04等を使用することができる。
【0047】
本発明の水性接着剤の硬化剤として適切な多価金属塩としては、カルシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩等を使用することができるが、特に塩化カルシウム、炭酸亜鉛アンモニウムが好ましい。
【0048】
本発明の水性接着剤の硬化剤として適切なフェノール樹脂としては、たとえばアルキル化フェノール類および/またはクレゾール類とホルムアルデヒドとの縮合物を挙げることができる。具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等のアルキル基でアルキル化されたアルキル化フェノール、p-tert-アミルフェノール、4、4′-sec-ブチリデンフェノール、p-tert-ブチルフェノール、o-クレゾール、,m-クレゾール、,p-クレゾール、p-シクロヘキシルフェノール、4,4′-イソプロピリデンフェノール、p-ノニルフェノール、p-オクチルフェノール、3-ペンタデシルフェノール、フェノール、フェニルo-クレゾール、p-フェニルフェノール、キシレノールなどとホルムアルデヒドとの縮合物を挙げることができる。
【0049】
本発明の水性接着剤の硬化剤として適切なアミノ樹脂としては、例えば尿素、メラミン、ベンゾグアナミンなどのホルムアルデヒド付加物、さらにこれらの化合物を炭素原子数が1?6のアルコールによりアルコキシ化したアルキルエーテル化合物を挙げることができる。具体的にはメトキシ化メチロール尿素、メトキシ化メチロール-N,N-エチレン尿素、メトキシ化メチロールジシアンジアミド、メトキシ化メチロールメラミン、メトキシ化メチロールベンゾグアナミン、ブトキシ化メチロールメラミン、ブトキシ化メチロールベンゾグアナミンなどが挙げられるが、好ましくはメトキシ化メチロールメラミン、ブトキシ化メチロールメラミンおよびメチロール化ベンゾグアナミンであり、それぞれ単独または併用して使用することができる。
【0050】
本発明の水性接着剤の硬化剤として適切な多価イソシアネート化合物としては、低分子化合物、高分子化合物のいずれでもよい。低分子化合物としては、たとえば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート化合物、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート化合物、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネートを挙げることができる。また、これらのイソシアネート化合物の3量体等を挙げることができる。また高分子化合物としては、複数の活性水素を有する化合物と前記低分子ポリイソシアネート化合物の過剰量とを反応させて得られる末端イソシアネート基含有化合物を挙げることができる。複数の活性水素を有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコール類、エチレンジアミン等の多価アミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の水酸基とアミノ基を有する化合物、ポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリアミド類等の活性水素含有ポリマーを挙げることができる。
【0051】
前記多価イソシアネート化合物はブロック化イソシアネートであってもよい。イソシアネートブロック化剤としては、例えばフェノール、チオフェノール、メチルチオフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール、ニトロフェノール、クロロフェノール等のフェノール類、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、エチレンクロルヒドリン、1,3-ジクロロ-2-プロパノールなどのハロゲン置換アルコール類、t-ブタノール、t-ペンタノールなどの第3級アルコール類、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム、β-プロピルラクタムなどのラクタム類が挙げられ、その他にも芳香族アミン類、イミド類、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル、マロン酸エチルエステルなどの活性メチレン化合物、メルカプタン類、イミン類、尿素類、ジアリール化合物類重亜硫酸ソーダなども挙げられる。ブロック化イソシアネートは上記イソシアネート化合物とイソシアネート化合物とイソシアネートブロック化剤とを従来公知の適宜の方法より付加反応させて得られる。
【0052】
本発明のポリエステル樹脂水分散体に、色材を配合することにより水性インキを得ることができ、さらにカルボキシル基に対して反応性を有する硬化剤を配合することによりインキの耐水性を向上させることができる。色材としては、公知の顔料、染料を配合することができる。本発明のポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂の酸価が大きいので各種顔料の分散性が大きく、高濃度の水性インキの作製が可能である。硬化剤としては、接着剤用途で例示したしたものを使用することができる。色材の含有量はポリエステル樹脂100質量部に対して、1?20質量部であることが好ましく、より好ましくは2?10質量部である。
【0053】
本発明のポリエステル樹脂水分散体に、各種顔料や添加剤を配合することにより水性塗料を得ることができ、さらにカルボキシル基に対して反応性を有する硬化剤を配合することにより塗装膜の耐水性を向上させることができる。顔料としては、公知の有機/無機の着色顔料、炭酸カルシウム、タルク等の体質顔料、鉛丹、亜酸化鉛等の防錆顔料、アルミニウム粉、硫化亜鉛(蛍光顔料)等の各種機能性顔料を配合することができる。また。添加剤としては、可塑剤、分散剤、沈降防止剤、乳化剤、増粘剤、消泡剤、防カビ剤、防腐剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、つや消し剤、帯電防止剤、導電剤、難燃剤等の塗料に一般的に使用される添加剤を配合することができる。本発明のポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂の酸価が大きいので各種顔料の分散性が大きく、高濃度の水性塗料の作製が可能である。硬化剤としては、接着剤用途で例示したしたものを使用することができる。顔料および添加剤の含有量は、ポリエステル樹脂100質量部に対して、それぞれ1?20質量部であることが好ましく、より好ましくは2?10質量部である。
【0054】
本発明の水分散体、水性接着剤、水性塗料、及び水性インキは、各種増粘剤を配合することにより、作業性に適した粘性、粘度に調整することができる。増粘剤添加による系の安定性から、メチルセルロース、ポリアルキレングリコール誘導体などのノニオン性のもの、ポリアクリル酸塩、アルギン酸塩などのアニオン性のものが好ましい。
【0055】
本発明の水分散体、水性接着剤、水性塗料、及び水性インキは、各種表面張力調整剤を使用することにより、塗布性をさらに向上することができる。表面張力調整剤としては、たとえば、アクリル系、ビニル系、シリコーン系、フッ素系の表面張力調整剤などが例示され、特に制限されるものではないが、接着性を損ないにくいことから、上記中でもアクリル系、ビニル系の表面張力調整剤が好ましい。表面張力調整剤の添加量が過剰であると接着強度を損なう傾向にあるので、ポリエステル樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下であることが好ましい。
【0056】
本発明により得られる水分散体は、水分散体の製造の際に、あるいは製造された水分散体に対して、表面平滑剤、消泡剤、酸化防止剤、分散剤、潤滑剤等の公知の添加剤を配合しても良い。
【0057】
本発明の水分散体、水性接着剤、水性塗料、及び水性インキは、各種紫外線吸収剤、酸化防止剤または光安定剤を添加することにより、さらに耐光性、耐酸化性を向上させることができる。紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤のエマルジョン、及び水溶液をポリエステル樹脂水分散体に添加することによっても耐候性は向上する。紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系等各種有機系のもの、酸化亜鉛等無機系のもののいずれも使用可能である。また、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、フェノチアジン、ニッケル化合物等一般的にポリマー用のもの各種が使用可能である。光安定剤もポリマー用のもの各種が使用可能であるが、ヒンダードアミン系のものが有効である。紫外線吸収剤、酸化防止剤または光安定剤の含有量は、ポリエステル樹脂100質量部に対して、それぞれ0.1?20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2?10質量部である。
【0058】
本発明のポリエステル樹脂を含有する層(A層)とフィルム、シート、織布、不織布および紙からなる群から選ばれる層(B層)とを積層し、積層体とすることができる。前記積層体は、例えば、フィルム、シート、織布、不織布および紙からなる群から選ばれる層(B層)に、本発明の水性接着剤および/または水性インキを塗布し乾燥させることにより容易に得ることができる。本発明の水性接着剤および水性インキは、各種原料からなるフィルム、シート、織布、不織布および紙と強い接着性を示すが、ポリ乳酸、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース、デンプン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩素化ポリオレフィン及びこれらの化学改質物質から作製されるフィルム、シートに対して特に高い接着力を示す。また、本発明のポリエステル樹脂を含有する水性接着剤および水性インキは、各種金属蒸着フィルムにも高い接着力を示すので、前記A層/金属蒸着層/B層の3層構造の積層体として用いることも有用である。金属蒸着層に使用する金属およびB層は特に限定されないが、特にアルミ蒸着フィルムと本発明のポリエステル樹脂水性接着剤および水性インキとの接着力が大きい。本発明のポリエステル樹脂水性接着剤および水性インキが、各種金属蒸着フィルムに対して高い接着力を示すのは、本発明のポリエステル樹脂が所定の酸価を有することの効果であると思われる。
【0059】
前記積層体は包装材料の構成要素として用いることができる。包装材料としては、特に限定されないが、食品、医療用途のものが挙げられる。
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0061】
なお、以下、特記のない場合、部は質量部を表す。また、本明細書中で採用した測定、評価方法は次の通りである。
【0062】
<樹脂組成>
ポリエステル樹脂試料を、重クロロホルムまたは重ジメチルスルホキシドに溶解し、VARIAN社製 NMR装置400-MRを用いて、^(1)H-NMR分析および^(13)C-NMR分析を行ってその積分比より、樹脂組成を求め、質量%で表示した。
<(q+r)の値(Wの有機基価の平均値)>
(q+r)の値=Σ(t×u)/100
t:Wの有機基価の数(価)
u:W全成分を100モル%とした時の(q+r)価の有機基の含有量(モル%)
<qの平均値>
qの平均値=Σ(r_(q)×s_(q))/100
r_(q):(CO-Z-CO-O-Y-O)が付加したWの有機基価数(価)
s_(q):含有量(モル%)
<rの平均値>
rの平均値=Σ(r_(r)×s_(r))/100
r_(r):(X-O)が付加したWの有機基価数(価)
s_(r):含有量(モル%)
<pの平均値>
pの平均値=Σ(r_(p)×s_(p))/100
r_(p):(CO-Z-CO-O-Y-O)の繰り返し単位数(個)
s_(p):含有量(モル%)
【0063】
<数平均分子量>
ポリエステル樹脂試料を、樹脂濃度が0.5質量%程度となるようにテトラヒドロフランに溶解し、孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブレンフィルターで濾過したものを測定用試料として、テトラヒドロフランを移動相とし、示差屈折計を検出器とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により数平均分子量を測定した。流速は1mL/分、カラム温度は30℃とした。カラムには昭和電工製KF-802、804L、806Lを用いた。分子量標準には単分散ポリスチレンを使用した。
【0064】
<酸価>
ポリエステル樹脂試料0.8gを20mlのN,N-ジメチルホルミアミドに溶解し、フェノールフタレインを指示薬存在下、0.1Nのナトリウムメトキシドのメタノール溶液で滴定し、溶液が赤色に着色した点を中和点とし、ポリエステル樹脂10^(6)gあたりの当量(eq/10^(6)g)に換算して表示した。
【0065】
<保存安定性>
ポリエステル樹脂試料を50℃、60%RHで10日間保存した後、数平均分子量(Mn)を測定し、分子量変化を評価した。分子量変化は以下の式で求めた。
10日間保存前のMn-10日間保存後のMn|/10日間保存前のMn
(判定)○:数平均分子量の変化が5%未満
△:数平均分子量の変化が5%以上10%未満
×:数平均分子量の変化が10%以上
【0066】
<水分散性の評価>
ポリエステル樹脂、塩基性化合物、および水を所定量添加した後、温度を60℃に保ち、400rpmで系を60?90分間撹拌し、目視で水分散性を判定した。
(判定)○:60分以内に未分散物が全くなく樹脂が完全に分散する。
△:60分超90分未満撹拌しても未分散物が存在する。
×:90分以上撹拌しても樹脂が全く分散しない。
【0067】
<水分散体の平均粒子径>
水分散体試料の体積粒子径基準の算術平均径を、HORIBA LB-500を用いて測定し、水分散体の平均粒子径として採用した。但し、水分散性が△または×のものについては、平均粒子径の測定を行わず、「-」と表示した。
【0068】
<水性接着剤の調製>
水分散体に対して、硬化剤として水溶性エポキシ樹脂(ソルビトール系ポリグリシジルエーテル)SR-SEP(阪本薬品工業(株)製)を表3に記載の比率で配合し、水性接着剤を調製した。
【0069】
<接着性評価用サンプルの調製>
厚さ25μmのPETフィルム(東洋紡(株)製)のコロナ処理面に、乾燥後の厚みが5μmとなるように水性接着剤を塗布し、80℃×5分間乾燥した。その接着層面に、別の厚さ25μmのPETフィルムのコロナ処理面を貼り合わせ、80℃で3kgf/cm^(2)の加圧下に30秒間プレスし、40℃で8時間熱処理して硬化させて、接着性評価用サンプルを得た(初期評価用)。
【0070】
<接着性の評価>
接着性評価用サンプルの剥離強度を測定し、接着性の評価とした。25℃において、引張速度300mm/minで180°剥離試験を行ない、剥離強度を測定した。実用的性能から考慮すると2N/cm以上が良好である。但し、水分散性が△または×のものについては、上澄み液部分を用いて水性接着剤を作製し、接着性評価用サンプル作製を試みたが、有効成分が少ないため、乾燥後厚みが5μmとなるように塗布が不可能であった。塗布可能量のみでサンプルを調製し剥離強度測定を行った所、剥離強度は0.1/cm以下であり、正確な測定ができないと判断し、「-」と表示した。
【0071】
<耐水性の評価>
前記接着性評価用サンプルを25℃の水中に5時間浸漬後、表面の水を十分に拭き取り、25℃において、引張速度300mm/minで180°剥離試験を行ない剥離強度を測定した。但し、水分散性が△または×のものについては、ほとんど接着性を示さなかったため、耐水性の測定を行わず、「-」と表示した。
【0072】
以下、実施例中の本文及び表に示した化合物の略号はそれぞれ以下の化合物を示す。
TMP:トリメチロールプロパン
PE:ペンタエリスリトール
DPE:ジペンタエリスリトール
INO:イノシトール
SOR:ソルビトール
NPG:ネオペンチルグリコール
T:テレフタル酸
I:イソフタル酸
SA:セバシン酸
AA:アジピン酸
EG:エチレングリコール
DEG:ジエチレングリコール
PG:プロピレングリコール
BD:ブタンジオール
TMA:無水トリメリット酸
SC:無水コハク酸
MA:無水マレイン酸
TEA:トリエチルアミン
DMEA:ジメチルエタノールアミン
TETA:トリエタノールアミン
AN:アンモニア水(28%)
NaHCO3:炭酸水素ナトリウム
【0073】
実施例A-1
ポリエステル樹脂No.1の製造
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した500mlガラスフラスコにセバシン酸68.7部、エチレングリコール31.7部を仕込み、窒素雰囲気2気圧加圧下、160℃から230℃まで3時間かけてエステル化反応を行った。放圧後テトラブチルチタネート0.01部を仕込み、次いで系内を徐々に減圧していき、30分かけて5mmHgまで減圧し、さらに0.3mmHg以下の真空下、260℃にて40分間重縮合反応を行った。その後、ペンタエリスリトール2.0部を仕込み、210℃で2時間撹拌した。次いで、無水トリメリット酸8.2部を仕込み、210℃で2時間攪拌した後、内容物を取り出し冷却した。得られたポリエステル樹脂No.1の組成、数平均分子量等を表1に示した。
【0074】
実施例A-2,A-4?A-6、比較例A-7?A-11
ポリエステル樹脂No.2,4?11の製造
ポリエステル樹脂No.1と同様にして、但し、仕込み原料およびその比率を変更してポリエステル樹脂No.2,4?11を合成し、ポリエステル樹脂No.1と同様の評価を行った。評価結果を表1?表2に示した。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
ポリエステル樹脂No.7は、数平均分子量が大きく、本発明の範囲外である。また、ポリエステル樹脂No.8は、数平均分子量およびpの平均値が小さく、本発明の範囲外である。ポリエステル樹脂No.9は、樹脂酸価が低く、本発明の範囲外である。ポリエステル樹脂No.10は、樹脂酸価が高く、本発明の範囲外である。樹脂No.10の保存安定性が劣るのは、酸価が高く吸水性が高いためと推測される。ポリエステル樹脂No.11は、本発明におけるポリエステル樹脂のWにあたる部位が2価の有機基であり、(q+r)の値が小さいため、本発明の範囲外である。
【0078】
実施例C-1
ポリエステル樹脂水分散体、水性接着剤の製造および評価
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した500mlガラスフラスコにポリエステル樹脂No.1を30部、AN9.0部、イオン交換水70部を仕込み、70℃に昇温し1時間撹拌した後、内容物を取り出し冷却し、ポリエステル樹脂水分散体1を製造した。得られた水分散体の粒子径を測定した。さらに、硬化剤を配合し、得られた塗膜の接着性と耐水性を評価した。結果を表3に示した。
【0079】
実施例C-2,C-4?C-6
実施例C-1と同様にして、但し、仕込み原料およびその比率を変更してポリエステル樹脂水分散体の製造を行ない、ポリエステル樹脂水分散体C-2,C-4?C-6を製造した。さらに、実施例C-1と同様に、ポリエステル樹脂水分散体C-2,C-4?C-6に硬化剤を配合し、得られた塗膜の接着性と耐水性を評価した。結果を表3に示した。いずれも高い水分散性を示し、また硬化塗膜は高い接着性及び耐水性を示した。
【0080】
比較例C-7?C-11
実施例1と同様にして、但し、仕込み原料およびその比率を変更してポリエステル樹脂水分散体の製造を試み、水分散体が得られたものについてはさらに、実施例C-1と同様に硬化剤を配合し、得られた塗膜の接着性と耐水性を評価した。結果を表4に示した。
【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
比較例C-7に使用したポリエステル樹脂No.7は、1時間攪拌後にはほとんど樹脂の分散が進んでおらず、さらに1時間攪拌を続けたがほとんど分散ができなかった。樹脂No.7は、樹脂の数平均分子量が大きく、本発明の範囲外である。樹脂の数平均分子量が大きいので樹脂の凝集性が大きくなり、分散が殆どできなかったものと推定される。
【0084】
比較例C-8は接着性および耐水性が不良であった。比較例C-8に使用した樹脂No.8は、樹脂の数平均分子量およびpの平均値が小さく、本発明の範囲外である。数平均分子量が小さいために凝集力が小さく接着性が不良であったものと推定される。
【0085】
比較例C-9は1時間攪拌後も未分散物が大量に存在し、さらに1時間攪拌を続けたが分散ができなかった。比較例C-9に使用した樹脂No.9は、樹脂の酸価が小さく、本発明の範囲外である。樹脂の酸価が小さいことから水分散性が低かったと推定される。
【0086】
比較例C-10は耐水性が不良であった。比較例C-10に使用した樹脂No.10は、樹脂の酸価が大きく、本発明の範囲外である。酸価に対して当量の硬化剤を配合しているが、すべてのカルボキシル基が反応しているとは言いがたく、未反応のカルボキシル基が多数残存しているために、耐水性が不良になったと推定される。
【0087】
比較例C-11に使用した樹脂No.11は、(q+r)の値が小さく本発明の範囲外である。一分子鎖中のカルボン酸数が少なく、水分散性が低くなったものと推定される。
【0088】
<塗料>
水性塗料(D-1)の製造例
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した500mlガラスフラスコにポリエステル樹脂No.1を100部、TEA18.9部、イオン交換水233部を仕込み、70℃に昇温し1時間撹拌した後、内容物を取り出し冷却し、100メッシュの濾布で濾過した濾液に、メラミン硬化剤(住友化学(株)製M-40W)を20部、イオン交換水150部、酸化チタン(石原産業(株)製CR-93)50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの10%ベンジルアルコール2.5部を添加し、ガラスビーズ型高速振とう機を用いて3時間振とうすることにより均一に分散し水性塗料(D-1)を得た。
【0089】
水性塗料(D-2)の製造例
水性塗料においてポリエステル樹脂No.1に替えてポリエステル樹脂No.2、TEA量を21.9部とした以外は水性塗料(D-1)と同様の配合、製造にて水性塗料(D-2)を得た。
上記水性塗料(D-1)、(D-2)を用いて塗膜性能試験を行った。なお塗板の作製、評価は以下の方法に従った。この結果を表5に示す。
【0090】
【表5】

【0091】
塗板の作製
溶融亜鉛メッキ鋼板に前記水性塗料(D-1)、(D-2)を塗装後、80℃、10分乾燥後、次いで140℃で30分間焼き付けを行い、塗装鋼板を得た。乾燥後の塗装層の膜厚は5μmとした。
【0092】
評価方法
1.光沢 GLOSS METER(東京電飾社製)を用いて、塗装鋼板の塗装面について、60度での反射を測定した。
◎:90以上
○:80以上90未満
△:50以上80未満
×:50未満
【0093】
2.耐沸水試験
塗装鋼板を沸水中に2時間浸漬したあとの塗膜外観(ブリスター発生状況)を評価した。
◎:ブリスターなし
○:ブリスター発生面積が0%を超えて10%未満
△:ブリスター発生面積が10以上50%未満
×:ブリスター発生面積が50%以上
【0094】
3.耐溶剤性
20℃の室内において、メチルエチルケトンをしみ込ませたガーゼにて塗装面に1kg/cm^(2)の荷重をかけ、5cmの長さの間を往復させた。下地が見えるまでの往復回数を記録した。50回の往復で下地が見えないものは>50と表示した。回数の大きいほど塗膜の硬化性が良好である。
【0095】
4.密着性
JISK-5400碁盤目-テープ法に準じて、試験板の塗膜表面にカッターナイフで素地に達するように、直行する縦横11本ずつの平行な直線を1mm間隔で引いて、1mm×1mmのマス目を100個作成した。その表面にセロハン粘着テープを密着させ、テープを急激に剥離した際のマス目の剥がれ程度を観察し下記基準で評価した
◎:塗膜剥離が全く見られない。
○:塗膜がわずかに剥離したが、マス目は90個以上残存。
△:塗膜が剥離し、マス目の残存数は50個以上で90個未満。
×:塗膜が剥離し、マス目の残存数は50個未満。
【0096】
<インキ>
水性インキ(E-1)の製造例
温度計、攪拌機、リービッヒ冷却管を具備した2,000mlガラスフラスコにポリエステル樹脂No.1を100部、TEA18.9部、水233部を仕込み、70℃に昇温し1時間撹拌した後、30℃まで冷却した後、酸化鉄イエロー水分散体(大日精化工業(株)製MF-5050Yellow、固形分51%)19.6部、イオン交換水690.2部、2-プロパノール55部を加え、さらに1時間攪拌した後、内容物を取り出し、100メッシュの濾布で濾過して水性インキ(E-1)を得た。
【0097】
水性インキ(E-2)の製造例
水性塗料においてポリエステル樹脂No.1に替えてポリエステル樹脂No.2、TEA量を21.9部とした以外は水性インキ(E-1)と同様の配合、製造にて順次水性インキを得た。上記水性インキ(E-1)、(E-2)を用いてインキ塗膜性能試験を行った。なお評価サンプルの作製、評価は以下の方法に従った。この結果を表6に示す。
【0098】
【表6】

【0099】
<水性インキの分散安定性評価>
上記水性インキ(E-1)、(E-2)を、20℃、-5℃で2週間保存し、インキの外観変化を評価した。
◎:外観変化全くなし
○:外観変化殆どなし(攪拌で再分散できる沈降物が発生)
△:わずかに沈降物が発生(攪拌で再分散できないものが若干残る)
×:沈降物発生
【0100】
<耐水性評価用サンプルの調製>
厚さ25μmのPETフィルム(東洋紡(株)製)のコロナ処理面に、水性インキ(E-1)、(E-2)を各々乾燥後の厚みが2μmとなるように塗布し、80℃×30分間乾燥し、耐水性評価用サンプルとした。
【0101】
<耐水性の評価>
前記耐水性評価用サンプルを25℃のイオン交換水中に5時間浸漬後、表面の水を十分に拭き取り、外観変化を確認した。
◎:外観変化全くなし
○:外観変化殆どなし(塗膜と基材の界面のごく一部に水の浸入の形跡がみられる)
△:塗膜の一部に水による膨潤がみられる。
×:全面剥離または溶解が起こった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のポリエステル樹脂は、塩基性化合物と水のみにて容易に水分散が可能であり、環境にやさしい樹脂、水分散体を提供することができる。また硬化剤を配合することにより、接着性および耐水性の高い塗膜を提供することができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)の化学構造で示され、
酸価が250?2,500eq/10^(6)g、
数平均分子量が2,000?50,000、であるポリエステル樹脂。
(X-O)_(r)-W-(O-(CO-Z-CO-O-Y-O)_(p)-X)_(q) ・・・(1)
但し、Wは(q+r)個の水酸基を有する多価アルコールの残基、(CO-Z-CO-O-Y-O)は脂環族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸である2価のカルボン酸成分Zと脂肪族グリコ-ル、脂環族グリコ-ル、エ-テル結合含有グリコ-ルまたは芳香族含有グリコールである2価のアルコール成分Yを重合成分とするポリエステル樹脂骨格、Xはカルボキシル基を2個以上有する多塩基酸の残基または水素である(ただし、(q+r)個のXが全て水素になることはない)。X,YおよびZはそれぞれ同一または異なっていてもよく、同一の繰り返し単位中においても同一または異なっていてもよい。pの平均値は3以上であり、qの平均値は0よりも大きく15以下であり、rの平均値は0以上15未満であり、(q+r)は3以上15以下である。
【請求項2】
前記一般式(1)におけるWが、ペンタエリスリトールの残基、ソルビトールの残基およびイノシトール残基からなる群より選ばれる1種以上の残基であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるXが、無水トリメリット酸、無水コハク酸および無水マレイン酸からなる群より選ばれるいずれか1種以上の残基であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載のポリエステル樹脂、塩基性化合物および水を含有するポリエステル樹脂水分散体。
【請求項5】
乳化剤を含有しないことを特徴とする請求項4に記載のポリエステル樹脂水分散体。
【請求項6】
有機溶剤を含有しないことを特徴とする請求項4または5に記載のポリエステル樹脂水分散体。
【請求項7】
請求項1?3のいずれかに記載のポリエステル樹脂と塩基性化合物と水とを、乳化剤および有機溶剤を加えることなく混合することによってポリエステル樹脂水分散体を得る工程を有する、ポリエステル樹脂水分散体の製造方法。
【請求項8】
さらに硬化剤を含有する請求項4?6のいずれかに記載のポリエステル樹脂水分散体。
【請求項9】
前記硬化剤が多価エポキシ化合物、オキサゾリン樹脂、カルボジイミド樹脂、イソシアネート化合物、メラミン樹脂および多価金属塩からなる群から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項8に記載のポリエステル樹脂水分散体。
【請求項10】
請求項8または9のポリエステル樹脂水分散体を含有する水性接着剤。
【請求項11】
請求項8または9のポリエステル樹脂水分散体を含有する水性塗料。
【請求項12】
請求項8または9のポリエステル樹脂水分散体と色材を含有する水性インキ。
【請求項13】
請求項1?3のいずれかに記載のポリエステル樹脂を含有する層(A層)とフィルム、シート、織布、不織布または紙からなる層(B層)を含有する積層体。
【請求項14】
請求項13に記載の積層体を構成要素として有する包装材料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-07-02 
出願番号 特願2019-513866(P2019-513866)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08G)
P 1 651・ 536- YAA (C08G)
P 1 651・ 537- YAA (C08G)
P 1 651・ 113- YAA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松元 洋  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 近野 光知
福井 悟
登録日 2019-09-06 
登録番号 特許第6579292号(P6579292)
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂水分散体、及びポリエステル樹脂水分散体の製造方法  
代理人 風早 信昭  
代理人 風早 信昭  
代理人 浅野 典子  
代理人 浅野 典子  

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