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審決分類 審判 一部申し立て 4項(134条6項)独立特許用件  C01G
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01G
審判 一部申し立て 2項進歩性  C01G
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C01G
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01G
管理番号 1377786
異議申立番号 異議2020-700672  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-09-07 
確定日 2021-07-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6665542号発明「ジルコニア粉末及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6665542号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。 特許第6665542号の請求項2?5に係る特許を維持する。 特許第6665542号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯等
1 本件特許異議申立に係る特許
本件特許異議申立に係る特許第6665542号は、特許権者である東ソー株式会社より、平成28年1月20日に特願2016-8468号として出願され、令和2年2月25日、発明の名称を「ジルコニア粉末及びその製造方法」、請求項の数を「9」として特許権の設定登録を受けたものである。
2 手続の経緯
本件特許異議申立における手続の経緯は、おおよそ次のとおりである。
令和2年9月 7日 特許異議申立人 清水真美子より特許異議の申
立て(対象請求項は1?5)
令和3年1月12日付 取消理由通知
同年3月 9日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
なお、令和3年3月9日に訂正の請求があったので、特許法第120条の5第5項の規定に基づき、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えたが、応答はなかった。

第2 訂正の適否についての判断
令和3年3月9日になされた訂正の請求(以下、その訂正を「本件訂正」という。)は、以下のとおり、適法になされたものと判断する。
1 訂正の内容
本件訂正は、一群の請求項を構成する請求項1?9を訂正の単位として請求されたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に従うものであるところ、その訂正の内容(訂正事項)は、次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径が70nm以上400nm以下である請求項1に記載のジルコニア粉末。」
とあるのを、独立形式に改め、
「電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径が70nm以上400nm以下であり、BET比表面積から求められる平均一次粒子径、に対する電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径の比が2.2以上4.0以下であるジルコニア粉末。」(当審注:下線を付した部分が訂正箇所である。以下、同じ。)
に訂正し、その結果として、請求項2を直接的又は間接的に引用する請求項3?9も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3における引用請求項を「請求項1又は2に記載の」から「請求項2に記載の」に訂正し、請求項4における引用請求項を「請求項1乃至3のいずれか一項に記載の」から「請求項2又は3に記載の」に訂正し、請求項5における引用請求項を「請求項1乃至4のいずれか一項に記載の」から「請求項2乃至4のいずれか一項に記載の」に訂正し、請求項6における引用請求項を「請求項1乃至5のいずれか一項に記載の」から「請求項2乃至5のいずれか一項に記載の」に訂正し、請求項9における引用請求項を「請求項1乃至5のいずれか一項に記載の」から「請求項2乃至5のいずれか一項に記載の」に訂正し、その結果として、請求項3?6を直接的又は間接的に引用する請求項7、8も同様に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用する記載であるところ、請求項1の記載を引用しないものとして、独立形式へ改める訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、また、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項1により削除した請求項1を引用しないように、引用請求項の中から請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)独立特許要件について
訂正事項2、3に係る訂正に伴い、訂正前の請求項6?9についても特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正がされたところ、これらの請求項は、特許異議の申立ての対象とはなっていないから、訂正後の請求項6?9に係る発明については、独立特許要件について検討する必要がある。
そこで検討するに、訂正前の請求項6?9に係る発明は、拒絶理由を発見しないとして特許されたものであり、また、訂正後の請求項6?9に係る発明は、下記「第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について」において検討した訂正後の請求項2に係る発明の帰趨からみて、新たな取消の理由が生じるものではないから、訂正後の請求項6?9に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるといえる。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1?9〕について訂正することを認める。
なお、特許権者は、訂正後の請求項3?6、9について、「別の訂正単位とする求め」をしているが、これらの請求項は、訂正後の請求項2を直接的又は間接的に引用するものであり、もとより当該請求項2とは区分けして扱うことのできない請求項であるから、当該求めについては採用しない。

第3 特許請求の範囲の記載(本件発明)
上記第2のとおり、本件訂正は適法にされたものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項2?9に係る発明(以下、請求項の番号に合わせて「本件発明2」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項2?9に記載された事項により特定される、次のとおりのものとなった。
「 【請求項2】
電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径が70nm以上400nm以下であり、BET比表面積から求められる平均一次粒子径、に対する電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径の比が2.2以上4.0以下であるジルコニア粉末。
【請求項3】
BET比表面積が6m^(2)/g以上20m^(2)/g以下である請求項2に記載のジルコニア粉末。
【請求項4】
2mol%以上6mol%のイットリアを含有する請求項2又は3に記載のジルコニア粉末。
【請求項5】
アルミナを含む請求項2乃至4のいずれか一項に記載のジルコニア粉末。
【請求項6】
ジルコニウム塩水溶液を加水分解して平均ゾル粒子径が150nm以上400nm以下の水和ジルコニアゾルを含有する水和ジルコニアゾル水溶液を得る加水分解工程、該水和ジルコニアゾル水溶液中の未反応ジルコニウム含有率が1%以下とする洗浄工程、及び、洗浄工程後の水和ジルコニアを850℃以上1200℃以下で熱処理するか焼工程、を含む請求項2乃至5のいずれか一項に記載のジルコニア粉末の製造方法。
【請求項7】
前記洗浄工程と前記か焼工程との間に、水和ジルコニアとイットリア源とを混合するイットリア混合工程、を有する請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記洗浄工程後にアルミナ混合工程を有する請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項2乃至5のいずれか一項に記載のジルコニア粉末を使用するジルコニア焼結体の製造方法。」

第4 取消理由の概要
令和3年1月12日付けで当審が特許権者に通知した取消理由は、本件訂正前の請求項1に係る特許は、以下の理由により特許法第113条第2号に該当するため取り消すべきものである、というものである。
・取消理由1:(新規性欠如)本件訂正前の請求項1に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるから、その特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。
・取消理由2:(進歩性欠如)本件訂正前の請求項1に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。

第5 取消理由1、2(新規性欠如・進歩性欠如)についての当審の判断
新規性及び進歩性欠如に関する標記取消理由1、2は、本件訂正前の請求項1に対するものであったところ、当該請求項1は、上記本件訂正により削除されたので、当該取消理由には理由はなくなった。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 標記特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が、特許異議申立書において主張する特許異議申立理由のうち、当審が上記取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
(1)(新規性欠如)本件訂正前の請求項2に係る特許は、その出願日前に日本国内において頒布された甲第1号証(特開平10-212122号公報)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「申立理由1」という。)。
(2)(進歩性欠如)本件訂正前の請求項2に係る特許は、その出願日前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基いて、その出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「申立理由2」という。)。
(3)(サポート要件違反)本件訂正前の請求項1?5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備であるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである(以下、「申立理由3」という。)。
2 申立理由1、2(新規性欠如・進歩性欠如)についての当審の判断
(1)甲第1号証:特開平10-212122号公報(特許異議申立人が甲第1号証として提出した証拠)の記載事項
甲第1号証には、「ジルコニア微粉末及びその製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「【請求項1】BET比表面積が40m^(2)/g?200m^(2)/gであり、電子顕微鏡で測定される平均粒径が0.1μm以下であり、かつ、電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比が0.9以上である1次粒子からなることを特徴とするジルコニア微粉末。」
イ 「【0012】本明細書において、ジルコニア粉末に係わる「電子顕微鏡で測定される平均粒径」とは、電子顕微鏡写真により観察される個々の1次粒子の大きさを面積で読み取り、それを円形に換算して粒径を算出したものの平均値をいう。」
ウ 「【0014】「BET比表面積から求められる平均粒径」とは、粒径形状を球に換算してBET比表面積および理論密度から算出される直径をいう。」
エ 「【0021】また、本発明のジルコニア微粉末は、電子顕微鏡で測定される平均粒径が0.1μm以下でなければならない。ジルコニア粉末の平均粒径が0.1μmよりも大きくなると、三元触媒または助触媒との均一性が悪くなるため、上記のとおり、セリアの凝集抑制効果の低いものとなるからである。好ましい平均粒径は、0.01?0.08μmであり、さらに好ましくは0.03?0.07μmである。さらに、電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比が0.9以上でなければならない。平均粒径比が0.9以上であれば、1次粒子間の強固な焼結が実質上観測されない、高分散性の多孔質または緻密な1次粒子を形成している。この比が0.9よりも小さくなると、電子顕微鏡により1次粒子間のネックが多数観察され;このような硬い凝集粒子を多く含む粉末と三元触媒とを混合すると、上記のとおり、三元触媒または、助触媒との均一性が悪くなって、セリアの凝集抑制効果の低いものとなる。好ましい平均粒径比は0.9?20であり、さらに好ましくは2.2?14である。」
オ 「【0040】 実施例1
0.45mol/リットルのZrOCl_(2)水溶液を200時間煮沸して、平均粒径0.08μmの水和ジルコニアゾルを得た。この水和ジルコニアゾル含有液にアンモニア水を添加して水和ジルコニアゾルを凝集させたあとに、濾過して、水洗,乾燥させた。得られた水和ジルコニアゾルの乾燥粉を、350℃の温度で2時間焼成した。
【0041】
得られたジルコニア粉末は、BET比表面積が140m^(2)/gであり、電子顕微鏡の観察から1次粒子の平均粒径は0.08μmであり(即ち、平均粒径比=10)、1次粒子間の焼結がほとんどない、分散性のよい1次粒子を形成していることが確認された。
【0042】
実施例2
実施例1の焼成温度を500℃に設定した以外は、同様の条件で行った。得られたジルコニア粉末は、BET比表面積が64m^(2)/gであり、電子顕微鏡の観察から1次粒子の平均粒径は0.07μmであり(平均粒径比=4.2)、1次粒子間の焼結がほとんどない、分散性のよい1次粒子を形成していることが確認された。
【0043】
実施例3
0.04mol/リットルのZrOCl_(2)水溶液を100時間煮沸した以外は、実施例1と同様の条件で行った。
【0044】
得られたジルコニア粉末は、BET比表面積が73m^(2)/gであり、電子顕微鏡の観察から1次粒子の平均粒径は0.06μmであり(平均粒径比=4.1)、1次粒子間の焼結がほとんどない、分散性のよい1次粒子を形成していることが確認された。
【0045】
実施例4
0.02mol/リットルのZrOCl_(2)水溶液を100時間煮沸した以外は、実施例1と同様の条件で行った。
【0046】
得られたジルコニア粉末は、BET比表面積が59m^(2)/gであり、電子顕微鏡の観察から1次粒子の平均粒径は0.04μmであり(平均粒径比=2.2)、1次粒子間の焼結がほとんどない、分散性のよい1次粒子を形成していることが確認された。」
(2)甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
上記(1)オの記載によると、平均粒径比が2.2以上4.0以下の範囲内にある実施例は実施例4のみであることから、当該実施例4を、その諸数値に照らしながら、上記(1)アの請求項1の記載に沿って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「BET比表面積が59m^(2)/gであり、電子顕微鏡で測定される平均粒径が0.04μm(40nm)以下であり、かつ、電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比が2.2である1次粒子からなるジルコニア微粉末。」
(3)本件発明2の新規性進歩性についての判断
ア 甲1発明との対比
(ア)本件発明2と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「電子顕微鏡で測定される平均粒径/BET比表面積から求められる平均粒径の比」は、1次粒子に関するものであり、本件発明1における「BET比表面積から求められる平均一次粒子径、に対する電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径の比」に相当するから、本件発明2と甲1発明とは、「BET比表面積から求められる平均一次粒子径、に対する電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径の比が2.2であるジルコニア粉末」である点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。
・相違点:「電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径」に関し、本件発明2は、その数値を「70nm以上400nm以下」と特定しているのに対して、甲1発明は、「40nm」である点。
イ 相違点についての検討
上記相違点について検討する。
上記(1)エのとおり、甲第1号証の【0021】には、電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径は0.1μm以下(100nm以下)でなければならないことが記載されているから、かかる記載によれば、当該平均一次粒子径は、100nmを上限値とする範囲で変化させることが可能であるといえる。
しかしながら、甲1発明において、例えば、BET比表面積から求められる平均一次粒子径をそのままに、電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径を40nmから100nmへと変化させた場合、それに伴って「BET比表面積から求められる平均一次粒子径、に対する電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径の比」も、5.5(=100/(40/2.2))へと変化してしまうから、結果、本件発明2において特定された「2.2以上4.0以下」との数値範囲を逸脱するものとなってしまう。その上、そもそも電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径を変化させれば、BET比表面積から求められる平均一次粒子径の数値も影響を受けると解されるから、上記の比は定まらないと考えるのが合理的である。
さらに、(i)甲1発明のジルコニア微粉末は、甲第1号証の【0001】に記載されるように、「自動車等の排ガス浄化用三元触媒の添加成分等として使用される」ものであって、本件発明のジルコニア粉末のように、「ジルコニア焼結体の原料となる」ものではないこと、及び、(ii)本件発明は、「BET比表面積から求められる平均一次粒子径、に対する電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径の比」を「2.2以上4.0以下」とした上で、「電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径」を「70nm以上400nm以下」とすること、すなわち、両規定を充足することによりはじめて、「高い成形性を有し、なおかつ、より低い温度での焼結における高密度化が可能となる」(【0029】)という効果を奏するものであるのに対して、甲1発明にはそのような技術思想はなく、甲第1号証には、両規定を充足する動機付けとなる記載も見当たらないから、本件発明の上記効果は甲1発明に対する有利な効果と解することができること、を併せて勘案すれば、当業者といえども、甲1発明及び甲第1号証の記載に基いて、上記相違点に係る本件発明2の発明特定事項を容易に想到し得たとはいえない。
そして、上記(2)では、実施例4に注目して甲1発明を認定しているが、実施例4以外の実施例1?3などに注目して甲1発明を認定した場合についても同様である。
(4)小括
以上の検討のとおり、上記相違点は実質的なものである上、当該相違点に係る本件発明2の発明特定事項は容易想到の事項でもないから、本件発明2は、甲1発明に対して新規性及び進歩性を欠如するものとはいえない。
したがって、申立理由1、2に理由はない。
3 申立理由3(サポート要件違反)についての当審の判断
(1)申立理由3(サポート要件違反)についての具体的な指摘事項は、要するに、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、上記本件発明の課題解決に至るものとして認識できるのは、(i)機械粉砕されていない状態のジルコニア粉末のみ、あるいは、(ii)単斜晶率が10%以下であるジルコニア粉末のみであるから、そのことが特定されていないジルコニア粉末を含む本件発明全体にまで拡張ないし一般化して考えることはできない、というものである。
(2)当該申立理由3について検討する。
ア サポート要件の判断手法について
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。
イ サポート要件適合性の判断
発明の詳細な説明の【0009】の記載からみて、本件発明は、成形性及び焼結性のいずれもが優れたジルコニア粉末を提供することを課題の一つとしているといえる。
そして、発明の詳細な説明には、実施例1?12として、BET比表面積から求められる平均一次粒子径(D_(B))、に対する電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径(D_(T))の比(D_(T)/D_(B))が2.3?3.4であり、電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径(D_(T))が147?236nm以下であるジルコニア粉末が具体的に記載されており、【0068】?【0097】に開示されるジルコニア粉末の製造過程で機械粉砕を行っていないこと、単斜晶率が4?9%であること、成形体の密度や焼結体特性(焼結体密度、平均粒径、光透過率、曲げ強度)も具体的に示されているから、実施例1?12に記載されたジルコニア粉末であれば、当業者において、成形性及び焼結性の双方に優れ、本件発明の課題を解決できると認識できる。
さらに、発明の詳細な説明には、次の記載がある。
・「本発明おける「粉砕」とは、外的な力をジルコニア粉末に加え、一次粒子を分散させる処理であり、「解砕」とは、粉砕前のジルコニア粉末に対する粉砕後のジルコニア粉末の単斜晶率の増加率(以下、「単斜晶増加率」ともいう。)が5%以下となる粉砕が挙げられる。一方、「機械粉砕」とは単斜晶増加率が5%を超える粉砕である。」(【0026】)
・「本発明において、「BET比表面積から求められる平均粒子径(以下、「D_(B)」ともいう。)」は、JISR1626-1996に準じ、吸着物質を窒素(N_(2))としたBET法1点法により求められるジルコニア粉末のBET比表面積から以下の式より求められる値である。
D_(B)=6000/(S・ρ)
上記式において、D_(B)はBET比表面積から求められる平均粒子径(nm)、SはBET比表面積(m^(2)/g)、及び、ρは理論密度(g/cm^(3))である。
また、ρは以下の式より求めることができる。
ρ=5.8×f_(m)/100+6.1×(100-f_(m))/100
上記式において、ρは理論密度(g/cm^(3))、及び、f_(m)は後述する式より求まる単斜晶率(%)である。」(【0019】?【0022】)
・「本発明のジルコニア粉末は、D_(B)に対するD_(T)の比(以下、「D_(T)/D_(B)比」ともいう。)が2.2以上4.0以下である。D_(B)及びD_(T)はいずれも一次粒子径を表す指標である。D_(B)はジルコニア結晶子の状態を反映した値であり、一方、D_(T)はジルコニア結晶子の状態を反映しない見かけ上の値である。D_(T)/D_(B)比が本発明の範囲外のジルコニア粉末は、一次粒子同士の部分的な焼結、いわゆるネッキング、による粒子の凝集が過度に進行した粉末、又は、一次粒子同士が強固な物理的な力で凝集した凝集粉末となる。このようなジルコニア粉末を用いてジルコニア焼結体を得る場合は、機械粉砕により一次粒子を分散させる必要がある。しかしながら、機械粉砕はジルコニア粉末中に多量の単斜晶が生成するため、ジルコニア粉末は焼結性が低下する。これに対し、本発明のジルコニア粉末は上記のD_(T)/D_(B)比を満たすことで機械粉砕を必要としない。これにより、本発明のジルコニア粉末は単斜晶を多量に含むことによる焼結性の低下がないジルコニア粉末として供することができる。
本発明のジルコニア粉末は、上記のDT/DB比を満たした上で、DTが70nm以上400nm以以下、更には100nm以上300nm以下、また更には100nm以上250nm以下であることが好ましい。DTが上記の範囲を満たすことで適度な焼結速度を有する粉末となる。このようなDT及びDT/DB比を満たすことで、高い成形性を有し、なおかつ、より低い温度での焼結における高密度化が可能となる。」(【0028】、【0029】)
これらの記載によると、ジルコニア粉末のD_(T)/D_(B)比が2.2以上4.0以下であれば、一次粒子同士の部分的な焼結(ネッキング)による粒子の凝集が生じることはなく、単斜晶増加率が5%を超える粉砕である機械粉砕を必要としないことを理解することができる。
また、上記式「D_(B)=6000/(S・ρ)」の右辺における理論密度ρ(g/cm^(3))は、上述のとおり、式「ρ=5.8×f_(m)/100+6.1×(100-f_(m))/100」により算出されるものであって、このf_(m)は単斜晶率(%)であることから、D_(T)/D_(B)比は、単斜晶率をも考慮した値であるといえる。
これらのことを併せ考えると、D_(T)/D_(B)比が2.2以上4.0以下に特定されたジルコニア粉末であれば、上記実施例1?12と同様に、本件発明の課題を解決できることを当業者であれば認識することができるといえる。
そして、本件発明は、D_(T)/D_(B)比が2.2以上4.0以下であることを発明特定事項として有しているのであるから、上記発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照らして、当業者において本件発明の課題を解決できると認識することができる範囲内のものであるということができる。
したがって、上記アの判断手法に従えば、本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。
(3)小括
以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。

第7 むすび
以上の検討のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項2?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項2?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
更に、本件特許の特許請求の範囲の請求項1は、本件訂正により削除され、当該請求項1に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径が70nm以上400nm以下であり、BET比表面積から求められる平均一次粒子径、に対する電子顕微鏡で測定される平均一次粒子径の比が2.2以上4.0以下であるジルコニア粉末。
【請求項3】
BET比表面積が6m^(2)/g以上20m^(2)/g以下である請求項2に記載のジルコニア粉末。
【請求項4】
2mol%以上6mol%のイットリアを含有する請求項2又は3に記載のジルコニア粉末。
【請求項5】
アルミナを含む請求項2乃至4のいずれか一項に記載のジルコニア粉末。
【請求項6】
ジルコニウム塩水溶液を加水分解して平均ゾル粒子径が150nm以上400nm以下の水和ジルコニアゾルを含有する水和ジルコニアゾル水溶液を得る加水分解工程、該水和ジルコニアゾル水溶液中の未反応ジルコニウム含有率が1%以下とする洗浄工程、及び、洗浄工程後の水和ジルコニアを850℃以上1200℃以下で熱処理するか焼工程、を含む請求項2乃至5のいずれか一項に記載のジルコニア粉末の製造方法。
【請求項7】
前記洗浄工程と前記か焼工程との間に、水和ジルコニアとイットリア源とを混合するイットリア混合工程、を有する請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記洗浄工程後にアルミナ混合工程を有する請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項2乃至5のいずれか一項に記載のジルコニア粉末を使用するジルコニア焼結体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-07-13 
出願番号 特願2016-8468(P2016-8468)
審決分類 P 1 652・ 537- YAA (C01G)
P 1 652・ 856- YAA (C01G)
P 1 652・ 113- YAA (C01G)
P 1 652・ 121- YAA (C01G)
P 1 652・ 851- YAA (C01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森坂 英昭  
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 後藤 政博
末松 佳記
登録日 2020-02-25 
登録番号 特許第6665542号(P6665542)
権利者 東ソー株式会社
発明の名称 ジルコニア粉末及びその製造方法  
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