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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1377797
異議申立番号 異議2019-700999  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-12-05 
確定日 2021-08-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6526359号発明「非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6526359号の特許請求の範囲を、令和 3年 1月27日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正することを認める。 特許第6526359号の請求項1?11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6526359号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?11に係る特許についての出願は、2018年(平成30年) 9月18日(優先権主張 平成30年 1月24日、日本国)を国際出願日とする特願2018-563743号(以下、「本願」という。)であって、令和 1年 5月17日にその特許権の設定登録がなされ、同年 6月 5日にその特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許について、令和 1年12月 5日付けで、特許異議申立人恒川朱美(以下、「申立人」という。)により、請求項1?11(全請求項)に係る本件特許に対して特許異議の申立て(以下、「異議申立」という。)がなされ、令和 2年 3月19日付けで取消理由が通知され、これに対して、特許権者により同年 5月18日に意見書が提出されるとともに、同日に訂正請求がなされ、同年 8月31日付けで訂正拒絶理由が通知され、これに対して、特許権者により同年10月 1日に意見書及び手続補正書が提出された。
さらに、本件特許に対して、同年11月25日付けで2回目の取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して、特許権者により令和 3年 1月27日に意見書が提出されるとともに、同日に訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、その後、申立人に対して訂正請求があった旨の通知がされたが、申立人からは意見書の提出がされなかった。

第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容
(1)訂正請求の趣旨
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、「特許第6526359号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?11について訂正することを求める」というものであり、その訂正の内容は下記(2)のとおりである(下線は訂正した箇所を表す。)。
なお、令和 2年 5月18日になされた訂正請求であって、同年10月 1日提出の手続補正書によって補正された訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。

(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の
「前記耐熱性多孔質層に占める前記硫酸バリウム粒子の体積割合が50体積%?90体積%であり、」を
「前記耐熱性多孔質層の空孔を除く体積に占める前記硫酸バリウム粒子の体積割合が50体積%?90体積%であり、」と訂正する。
請求項1を引用する請求項3?11も同様に訂正する。

イ 訂正事項2
請求項1について、本件訂正前の
「前記耐熱性多孔質層に含まれる前記硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満である、」を、
「前記耐熱性多孔質層に含まれる前記硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満であり、
前記耐熱性多孔質層の空孔率が30%?70%である、」と訂正する。
請求項1を引用する請求項3?11も同様に訂正する。

ウ 訂正事項3
請求項2について、本件訂正前の
「前記耐熱性多孔質層に占める前記硫酸バリウム粒子以外の無機粒子の体積割合が0体積%?5体積%であり、」を
「前記耐熱性多孔質層の空孔を除く体積に占める前記硫酸バリウム粒子以外の無機粒子の体積割合が0体積%?5体積%であり、」と訂正する。
請求項2を引用する請求項4?11も同様に訂正する。

エ 訂正事項4
請求項2について、本件訂正前の
「前記耐熱性多孔質層に含まれる前記硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満である、」を、
「前記耐熱性多孔質層に含まれる前記硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満であり、
前記耐熱性多孔質層の空孔率が30%?70%である、」と訂正する。
請求項2を引用する請求項4?11も同様に訂正する。

オ 訂正事項5
請求項3について、本件訂正前の
「前記耐熱性多孔質層に占める前記硫酸バリウム粒子以外の無機粒子の体積割合が0体積%?5体積%である、」を
「前記耐熱性多孔質層の空孔を除く体積に占める前記硫酸バリウム粒子以外の無機粒子の体積割合が0体積%?5体積%である、」と訂正する。
請求項3を引用する請求項4?11も同様に訂正する。

カ 訂正事項6
請求項9について、本件訂正前の
「前記耐熱性多孔質層の空孔率が30%?70%である、」を
「前記耐熱性多孔質層の空孔率が30%?60%である、」と訂正する。
請求項9を引用する請求項10?11も同様に訂正する。

2 本件訂正についての当審の判断
(1)訂正事項1、3、5について
ア 訂正の目的について
本件訂正前の請求項1に記載された「耐熱性多孔質層に占める前記硫酸バリウム粒子の体積割合」、同請求項2、3に記載された「前記耐熱性多孔質層に占める前記硫酸バリウム粒子以外の無機粒子の体積割合」(以下、これらを総称して「体積割合」という。)について、その定義及び算出方法が、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書」という。)に記載されておらず、空孔の体積を「体積割合」の計算に含めるか不明であった。
しかしながら、訂正事項1、3、5によって、空孔の体積を「体積割合」の計算に含めないことが明らかにされた。
したがって、訂正事項1、3、5は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
上記アのとおり、訂正事項1、3、5による訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
上記アで記載したように、「体積割合」の定義及び算出方法が本件明細書には明記されていないが、本件明細書の段落【0177】の表1で、例えば実施例1の「耐熱性多孔質層」における「無機粒子」の「含有割合[体積%]」と「空孔率」に注目すると、それぞれ、「61%」と「75%」であり、これらを足すと100%を超えてしまい、不合理であるので、体積割合(含有割合)の算出は、「耐熱性多孔質層」から「空孔」の部分を排除して、空孔を除くバインダ樹脂と無機粒子の体積から求めているものと認められることから、訂正事項1、3、5は本件明細書の記載から自明な事項である。
したがって、訂正事項1、3、5は、本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第5項の規定に適合する。

(2)訂正事項2、4について
ア 訂正の目的について
訂正事項2、4は、それぞれ、本件訂正前の請求項1、2に記載されていた「耐熱性多孔質層」について、その「空孔率」が「30%?70%」であることを新たに特定するものである。
したがって、訂正事項2、4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
上記アのとおり、訂正事項2、4による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
本件明細書には次の記載がある(下線は当審が付与した。)。
「【請求項9】
前記耐熱性多孔質層の空孔率が30%?70%である、請求項1?請求項8のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。」
「【0080】
耐熱性多孔質層の空孔率は、セパレータのイオン透過性の観点から、30%以上が好ましく、セパレータの熱寸法安定性の観点から、80%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、60%以下が更に好ましく、50%以下が更に好ましい。(以下省略)」
したがって、訂正事項2、4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正事項6について
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、本件訂正前の請求項9に「前記耐熱性多孔質層の空孔率」が「30%?70%である」と記載されていたものを「30%?60%である」として、「空孔率」をより狭い範囲に限定するものである。
したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正であるかについて
上記アのとおり、訂正事項6による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
本件明細書には次の記載がある(下線は当審が付与した。)。
「【0080】
耐熱性多孔質層の空孔率は、セパレータのイオン透過性の観点から、30%以上が好ましく、セパレータの熱寸法安定性の観点から、80%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、60%以下が更に好ましく、50%以下が更に好ましい。(以下省略)」
したがって、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(4)一群の請求項について
本件訂正によって、本件訂正前の請求項1を引用する請求項3?11が連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項1、3?11は一群の請求項である。
また、本件訂正によって、本件訂正前の請求項2を引用する請求項4?11が連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項2、4?11は一群の請求項である。
そして、本件訂正前の請求項1、3?11と、本件訂正前の請求項2、4?11は、請求項4?11が共通しているから、これら本件訂正前の請求項1?11は全体として一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、当該一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?11〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。

(5)独立して特許を受けることができるかについて
本件特許異議の申立ては、全請求項(請求項1?11)を対象に申し立てられたものであるから、本件訂正には、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件は課されない。

(6)小括
以上のとおりであるから、令和 3年 1月27日に特許権者によって請求された本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、請求項1?11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明11」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。なお、下線は訂正された箇所を表す。

「【請求項1】
多孔質基材と、
前記多孔質基材の片面又は両面に設けられた、バインダ樹脂及び硫酸バリウム粒子を含む耐熱性多孔質層と、を備え、
前記耐熱性多孔質層の空孔を除く体積に占める前記硫酸バリウム粒子の体積割合が50体積%?90体積%であり、
前記耐熱性多孔質層に含まれる前記硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満であり、
前記耐熱性多孔質層の空孔率が30%?70%である、非水系二次電池用セパレータ。
【請求項2】
多孔質基材と、
前記多孔質基材の片面又は両面に設けられた、バインダ樹脂及び硫酸バリウム粒子を含む耐熱性多孔質層と、を備え、
前記耐熱性多孔質層の単位面積当たりの質量が両面合計で1.0g/m^(2)?30.0g/m^(2)であり、
前記耐熱性多孔質層の空孔を除く体積に占める前記硫酸バリウム粒子以外の無機粒子の体積割合が0体積%?5体積%であり、
前記耐熱性多孔質層に含まれる前記硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満であり、
前記耐熱性多孔質層の空孔率が30%?70%である、非水系二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記耐熱性多孔質層の空孔を除く体積に占める前記硫酸バリウム粒子以外の無機粒子の体積割合が0体積%?5体積%である、請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記バインダ樹脂がポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む、請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項5】
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量が60万?300万である、請求項4に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項6】
前記バインダ樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、共重合ポリエーテルポリアミド、ポリイミド及びポリエーテルイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1?請求項5のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項7】
前記非水系二次電池用セパレータを135℃で1時間熱処理したときの面積収縮率が30%以下である、請求項1?請求項6のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項8】
前記非水系二次電池用セパレータを150℃で1時間熱処理したときの面積収縮率が45%以下である、請求項1?請求項7のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項9】
前記耐熱性多孔質層の空孔率が30%?60%である、請求項1?請求項8のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項10】
前記耐熱性多孔質層が前記多孔質基材の片面に設けられた、請求項1?請求項9のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項11】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された請求項1?請求項10のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータと、を備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池。」

第4 申立理由の概要
1 申立人は、証拠方法として、いずれも本願の優先日前に、日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記甲第1?6号証を提出して、以下の申立理由1?3により、本件訂正前の請求項1?11に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1、3、4、6?11に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(取消理由として一部採用)

(2)申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1?11に係る発明は、甲第1号証?甲第5号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。(取消理由として一部採用)

(3)申立理由3(サポート要件)
本件の特許請求の範囲の記載には不備があるから、本件訂正前の請求項1?11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。(取消理由として不採用)

2 証拠方法
甲第1号証:米国特許出願公開第2017/0338457号明細書
甲第2号証:特開2005-71978号公報
甲第3号証:特開2013-101954号公報
甲第4号証:特開2011-44419号公報
甲第5号証:特許第5282181号公報
甲第6号証:特開2017-134915号公報

なお、申立人が提出した、上記甲第1号証?甲第6号証をそれぞれ「甲1」?「甲6」ということがある。

第5 取消理由の概要
令和 2年 3月19日付けで通知された取消理由と、同年 5月18日に提出された意見書によって解消された下記理由1(2)を除いて上記取消理由と同内容の取消理由が再度通知された同年11月25日付けの取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。

1 本件発明の明確性について(職権で採用)
(1)「体積割合」について
ア 本件訂正前の請求項1には「前記耐熱性多孔質層に占める前記硫酸バリウム粒子の体積割合が50体積%?90体積%」と、同請求項2、3には「前記耐熱性多孔質層に占める前記硫酸バリウム粒子以外の無機粒子の体積割合が0体積%?5体積%」と記載されている。

イ 上記アに記載のように、「体積割合」とは、「耐熱性多孔質層に占める」、「硫酸バリウム粒子」または「硫酸バリウム粒子以外の無機粒子」の「体積割合」のことであると一応記載はされているが、本件明細書には、「体積割合」の定義及び算出方法が記載されていない。そのため、具体的な「体積割合」の算出方法として、「耐熱性多孔質層」に含まれる「空孔」の体積を「体積割合」の計算に含めるか否かが不明であり、「体積割合」を一義的に求めることができない。

ウ したがって、本件訂正前の請求項1、2、3に係る発明は、上記イの点で不明であるため、特許を受けようとする発明が明確ではない。また、本件訂正前の請求項1、2、3を引用する本件訂正前の請求項4?11に係る発明も、同様に明確でない。

(2)「全芳香族ポリアミド」について
本件訂正前の請求項6には、「前記バインダ樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、共重合ポリエーテルポリアミド、ポリイミド及びポリエーテルイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む」(下線は当審で付与した。)と記載されているところ、選ばれた1種が「全芳香族ポリアミド」であるとは、「芳香族ポリアミド」のあらゆる種類を含むという意味であるか、それ以外の意味であるか不明である。

2 甲1を主たる引用文献とする新規性進歩性について(申立理由1、2を一部採用)
(1)本件訂正前の請求項1と請求項1を引用する請求項3、4に係る発明は、甲1に記載された発明である。
(2)本件訂正前の請求項2と請求項2を引用する請求項4に係る発明は、甲1と甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件訂正前の請求項5に係る発明は、甲1に記載された発明と周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)本件訂正前の請求項6に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5)本件訂正前の請求項1を引用する請求項7、8に係る発明は、甲1に記載された発明である。また、本件訂正前の請求項2を引用する請求項7、8に係る発明は、甲1と甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6)本件訂正前の請求項10に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(7)本件訂正前の請求項11に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 当審の判断
1 取消理由について
1-1 取消理由1(1)(明確性)について
本件訂正前の請求項1に記載された「前記耐熱性多孔質層に占める前記硫酸バリウム粒子の体積割合が50体積%?90体積%」であることと、同請求項2、3に記載された「前記耐熱性多孔質層に占める前記硫酸バリウム粒子以外の無機粒子の体積割合が0体積%?5体積%」であることについて、本件明細書には、これら「体積割合」の定義及び算出方法が明記されていないため、「耐熱性多孔質層」に含まれる「空孔」の体積を「体積割合」の計算に含めるか否かが不明であり、「体積割合」を一義的に求めることができなかった。
しかしながら、本件訂正の訂正事項1、3、5によって、「体積割合」とは「耐熱性多孔質層の空孔を除く体積に占める前記硫酸バリウム粒子の体積割合」もしくは「耐熱性多孔質層の空孔を除く体積に占める前記硫酸バリウム粒子以外の無機粒子の体積割合」のことであり、「空孔」の体積を「体積割合」の計算に含めないことが明らかになった。
したがって、「体積割合」の算出方法に係る不明が解消された。

1-2 取消理由1(2)(明確性)について
本件訂正前の請求項6には、「前記バインダ樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、共重合ポリエーテルポリアミド、ポリイミド及びポリエーテルイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む」と記載されているところ、選ばれたバインダ樹脂が「全芳香族ポリアミド」であることについてその意味するところが不明であった。
しかしながら、令和 2年 5月18日に提出された意見書によって、「化学辞典(第2版)」(乙第1号証)と「プラスチック・機能性高分子材料辞典(初版)」(乙第2号証)を参照することにより、「芳香族ポリアミド」とは「主鎖にベンゼン環を有するポリアミドの総称」のことであるところ、「全芳香族ポリアミド」とは当該「芳香族ポリアミド」のうち「主鎖がベンゼン環とアミド結合のみから構成されている」ものをいうことが明らかとなった。
したがって、「全芳香族ポリアミド」に係る不明が解消された。

1-3 取消理由2(甲1を主たる引用例とする新規性進歩性)について
(1)甲1に記載された事項と発明
ア 甲1には、以下の事項が記載されている。(なお、「…」は記載の省略を表し、下線は当審が付したものである。以下同様。)
1ア 「BACKGROUND
[0003] A lithium-ion battery includes a cathode, an anode, diaphragm and electrolyte. Although the diaphragm is not involved in the electrochemical reaction in the lithium-ion battery, it is still an important component of the lithium-ion battery. The diaphragm of the prior art is generally a microporous polyolefin membrane. When the temperature increases, the microporous polyolefin membrane will shrink, which could cause a short circuit in the lithium-ion battery. Because the microporous polyolefin membrane has a hydrophobic surface, the microporous polyolefin membrane has poor wettability, which increases the internal resistance of the lithium-ion battery. Therefore, cycle performance, charge and discharge performance of thelithium-ion battery are negatively affected by a microporous polyolefin membrane diaphragm. Thus, the diaphragm of the lithium-ion battery plays an important role in the performance of the lithium-ion battery.

[0012]A lithium-ion battery includes a cathode, an anode, the composite barium sulfate diaphragm disposed between the cathode and the anode, and a non-aqueous electrolyte permeated in the composite barium sulfate diaphragm.」

(当審訳:背景
[0003]リチウムイオン電池は、正極、負極、隔膜(ダイヤフラム)及び電解質を含む。隔膜は、リチウムイオン電池内の電気化学反応には関与しないが、リチウムイオン電池の重要な構成要素である。従来の隔膜は、一般にポリオレフィン微多孔膜である。温度が高くなると、ポリオレフィン微多孔膜は収縮するが、これは、リチウムイオン電池中の短絡を引き起こす可能性がある。ポリオレフィン微多孔膜は、疎水性表面を有するので、濡れ性に乏しく、リチウムイオン電池の内部抵抗を増大させる。したがって、ポリオレフィン微多孔膜の隔膜によって、リチウムイオン電池のサイクル特性、充放電性能は、負の影響を受ける。このように、リチウムイオン電池の隔膜は、リチウムイオン電池の性能において重要な役割を果たす。

[0012]リチウムイオン電池は、正極、負極、上記正極と負極の間に配置された複合硫酸バリウム隔膜、及び、上記複合硫酸バリウム隔膜中に浸透した非水電解液を含んでいる。)

1イ 「[0031] In step S4, the binder can be polyacrylonitrile, polyvinyl acetate,polyvinyl pyrrolidone, polyvinylidene fluoride or polyimide. The binder can be used to make the nano-barium sulfate modified with lithium carboxylate group better combine with the base membrane.」
(当審訳:[0031]ステップS4では、バインダは、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン、またはポリイミドとすることができる。これらバインダは、カルボン酸リチウム基で変成されたナノ硫酸バリウムを、基材膜とよりよく結合させることができる。)

1ウ 「[0039] It is to be understood that the coating layer can be located on either or both sides of the base membrane. The base membrane coated with the coating layer is dried at a temperature of 60℃. to 80℃. in vacuum for 12 hours to 24 hours to remove the remaining solvent in the coating layer. A thickness of the coating layer after drying can be in a range from about 2 μm to about 10 μm.」
(当審訳:[0039]コーティング層は、基材膜の片側または両側に配置することができることを理解されたい。コーティング層でコーティングされた基材膜は、12時間?24時間、真空中で、60℃から80℃の温度で乾燥させて、コーティング層に残っている溶媒を除去する。乾燥後のコーティング層の厚さは、約2μmから約10μmの範囲にすることができる。)

1エ 「EXAMPLE 2
[0049] 0.02 g of lithium stearate is dissolved in 100 ml of N, N-dimethylformamide to obtain lithium stearate solution. The lithium stearate solution is added to 100 ml, 0.5 mol/L of barium chloride solution, and homogeneously mixed for 20 minutes to 30 minutes to form the first solution. 100 ml, 0.5 mol/L of sodium sulfate aqueous solution having a pH of 8-9 adjusted by ammonia water is slowly added to the first solution to form the precipitate. After centrifugation, the precipitate is isolated. The precipitate is washed 3 to 4 times with deionized water. The washed precipitateis dried in a vacuum oven at a temperature of 80℃. to obtain the nano-barium sulfate modified with the lithium carboxylate group. The nano-barium sulfate modified with the lithium carboxylate group has a particlesize in a range from about 50 nm to about 80 nm.
[0050] 1 g of the nano-barium sulfate modified with the lithium carboxylate group is added to 10 ml of N-methylpyrrolidone solvent, and vigorously stirred for 3 hours to obtain the mixed solution. 0.116g of polyvinylidene fluoride is added to the mixed solution and stirred for 6 hours, to form the mixed slurry. The mixed slurry is uniformly coated on two sides of a Celgard-2325 film with a thickness of 25 μm, and dried in a vacuum oven at a temperature of 60℃. for about 24 hours to obtain the composite barium sulfate diaphragm.」
(当審訳:実施例2
[0049]0.02gのステアリン酸リチウムをN、N-ジメチルホルムアミド100mlに溶解させてステアリン酸リチウム溶液を得る。このステアリン酸リチウム溶液100mlを、塩化バリウム溶液(0.5mol/L)に加え、20分?30分間均一に混合して第1溶液を形成する。アンモニア水によってpH8?9に調整した0.5mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液100mlを、ゆっくりと第1の溶液に添加して、沈殿物を形成する。遠心分離後に沈殿物を分離する。沈殿物を脱イオン水で3?4回洗浄する。洗浄した沈殿物を、真空オーブン中で80℃の温度で乾燥し、カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウムを得ることができる。カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウムは、約50nm?約80nmの範囲の粒径を有する。
[0050]カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウム1gを、N-メチルピロリドン溶媒10mlに加え、激しく3時間撹拌して混合溶液を得る。ポリフッ化ビニリデン0.116gを前記混合溶液に加え、6時間撹拌して、混合スラリーを作成する。混合スラリーは厚さ25μmのセルガード(Celgard)2325フィルムの両面に均一に塗布し、真空オーブンに入れて60℃の温度で約24時間乾燥させ、上記複合硫酸バリウム隔膜を得る。)

1オ 「What is claimed is:
1. A composite barium sulfate diaphragm, comprising:
a base membrane; and
a coating layer coated on the base membrane, the coating layer comprising a nano-barium sulfate and binder, and a surface of the nano-barium sulfate being modified with a lithium carboxylate group.」
(当審訳:特許請求の範囲
1.基材膜、及び
上記基材膜上にコーティングされ、ナノ硫酸バリウム及びバインダを含み、ナノ硫酸バリウムの表面がカルボン酸リチウム基で変性されているコーティング層を含む、複合硫酸バリウム隔膜。)

1カ 「11 . A lithium-ion battery, comprising:
a cathode;
an anode;
a composite barium sulfate diaphragm disposed between the cathode and the anode;and
a non-aqueous electrolyte permeated in the composite barium sulfate diaphragm,the composite barium sulfate diaphragm comprising:
a base membrane; and
a coating layer coated on the base membrane, the coating layer comprising a nano-barium sulfate and a binder, and a surface of the nano-barium sulfate being modified with the lithium carboxylate group.」
(当審訳:11.陽極、
陰極、
前記陽極と陰極との間に配置された複合硫酸バリウム隔膜、及び、
上記複合硫酸バリウム隔膜に含浸させた非水電解質、
を含むリチウムイオン電池であって、
上記複合硫酸バリウム隔膜は、
基材膜、及び、
上記基材膜上にコーティングされたコーティング膜を含み、
上記コーティング層は、ナノ硫酸バリウム及びバインダを含み、前記ナノ硫酸バリウムの表面は、カルボン酸リチウム基で変性されている、リチウムイオン電池。)

イ 上記1アによれば、リチウムイオン電池は、正極、負極、複合硫酸バリウム隔膜及び電解質を含んでおり、上記複合硫酸バリウム隔膜は、リチウムイオン電池内の電気化学反応には関与せず、一般にはポリオレフィン微多孔膜であって、正極と負極の間に配置されており、非水電解液を含むものであるから、技術常識によれば、上記複合硫酸バリウム隔膜は、リチウムイオン電池においてセパレータとして機能するものであることが理解される。

ウ 上記1エによれば、実施例2の複合硫酸バリウム隔膜は、カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウム1gを、N-メチルピロリドン溶媒10mlに加えた混合溶液に、ポリフッ化ビニリデン0.116gを加えて作成された混合スラリーを、厚さ25μmのセルガード2325フィルムの両面に均一に塗布し、乾燥して得られたものである。

エ 上記ウの「セルガード2325フィルム」とは、甲6の段落【0089】の「多層構造を有するポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン製のセパレータ基材(セルガード社製、商品名「セルガード2325」、厚さ:18μm)」との記載を参照すると、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層構造からなるセパレータ用の基材であることが理解される。

オ 上記1イによれば、上記ウのポリフッ化ビニリデンは、ナノ硫酸バリウムを基材膜と結合させるためのバインダとして使用されるものである。また、上記1エの段落[0049]によれば、カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウムは、約50?80nmの範囲の粒径を有しており、粒径を有するということは粒子状の物質であるといえる。

カ 上記1オによれば、基材膜(セルガード2325フィルムが相当する。)上にコーティングされ、ナノ硫酸バリウム及びバインダを含み、ナノ硫酸バリウムの表面がカルボン酸リチウム基で変性されている層のことをコーティング層といっており、上記イ?オの検討と合わせると、実施例2の複合硫酸バリウム隔膜において、セルガード2325フィルムは基材膜であり、混合スラリーによってセルガード2325フィルム上に形成された層はコーティング層である。

キ 上記イ?カの検討を総合すれば、甲1には、実施例2に注目すると、次の複合硫酸バリウム隔膜が記載されているものと認められる(以下「甲1発明」という。)。

「リチウムイオン電池のセパレータとして機能する複合硫酸バリウム隔膜であって、
前記複合硫酸バリウム隔膜は、
ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層構造からなるセパレータ用の基材膜と、
前記基材膜の両面に配置されたコーティング層とを備えており、
前記コーティング層は、カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウム1gと、バインダであるポリフッ化ビニリデン0.116gを含む混合スラリーを塗布・乾燥して得られた層であり、
前記カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウムは、粒径が約50?80nmの範囲の粒子状の物質である、
複合硫酸バリウム隔膜。」

(2)本件発明1と甲1発明の対比
ア 甲1発明の「ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層構造からなるセパレータ用の基材膜」は、非水系二次電池のセパレータの基材膜として使用されるものであり、セパレータがイオンを透過させるための多孔質の膜であることは技術常識であるから、本件発明1の「多孔質基材」に相当する。

イ 甲1発明において、「硫酸バリウム」は「粒子状の物質」であり、「カルボン酸リチウム基で変性」されたとは、「硫酸バリウム」粒子の表面が「カルボン酸リチウム基」で修飾された状態であると解されるから、甲1発明の「カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウム」は、本件発明1の「硫酸バリウム粒子」に相当する。

ウ 甲1発明の「バインダであるポリフッ化ビニリデン」は、本件発明1の「バインダ樹脂」に相当する。

エ 上記イ、ウの検討を踏まえると、甲1発明の「カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウム1gと、バインダであるポリフッ化ビニリデン0.116gを含む混合スラリーを塗布・乾燥して得られた層」である「コーティング層」は、上記「ナノ硫酸バリウム」が本件発明1の「硫酸バリウム粒子」と同様に耐熱性の粒子であるといえるから、本件発明1の「バインダ樹脂及び硫酸バリウム粒子を含む耐熱性多孔質層」に相当する。

オ 甲1発明の「カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウムの粒径は約50?80nmの範囲である」ことは、50?80nmが0.050?0.080μmであり、0.01μm以上0.30μm未満の範囲に含まれることから、本件発明1の「前記耐熱性多孔質層に含まれる前記硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満である」ことに相当する。

カ 甲1発明の「複合硫酸バリウム隔膜」は、「リチウムイオン電池のセパレータとして機能する」ものであるから、本件発明1の「非水系二次電池用セパレータ」に相当する。

キ そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「多孔質基材と、
前記多孔質基材の両面に設けられた、バインダ樹脂及び硫酸バリウム粒子を含む耐熱性多孔質層と、を備え、
前記耐熱性多孔質層に含まれる前記硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満である、非水系二次電池用セパレータ。」の点。

<相違点1>
本件発明1では、「前記耐熱性多孔質層の空孔を除く体積に占める前記硫酸バリウム粒子の体積割合が50体積%?90体積%」であると特定されているが、甲1発明では、「コーティング層」の空孔を除く体積に占める「カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウム」の「体積割合」については特定されていない点。
<相違点2>
本件発明1では、「耐熱性多孔質層の空孔率が30%?70%である」と特定されているが、甲1発明では、「コーティング層」の「空孔率」については特定されていない点。

(3)相違点1についての判断
ア 甲1には、「コーティング層」の空孔を除く体積に占める「カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウム」の体積割合について記載されていないが、甲1に記載された事項及び周知の技術事項に基いて、上記体積割合を次のように見積もることができる。

イ 甲1発明の「コーティング層」に含まれる「ポリフッ化ビニリデン0.116g」の体積は、「ポリフッ化ビニリデン」の密度が1.78g/cm^(3)であるから(「高分子新素材便覧」(社団法人高分子学会編、丸善株式会社、平成7年3月10日第2刷発行)の403頁の表6.16を参照のこと。)、0.116÷1.78=0.0651cm^(3)と算出できる。

ウ 甲1発明の「コーティング層」に含まれる「カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウム1g」の体積を見積もるために、まず、変性されていない「ナノ硫酸バリウム1g」の体積を求めると、「硫酸バリウム」の密度が4.5g/cm^(3)であるから(岩波理化学辞典第4版、久保亮五他編、株式会社岩波書店、1994年7月18日第4版第9刷発行の「硫酸バリウム」の項を参照のこと。)、1÷4.5=0.222cm^(3)と算出できる。

エ ここで、甲1発明の「コーティング層」に含まれる「カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウム」は、甲1の上記1エの[0049]の製法によれば、0.5mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液100ml(硫酸ナトリウムが0.05mol含まれている)を、ゆっくりと第1の溶液(0.02gのステアリン酸リチウムを含む塩化バリウム溶液)に添加して得られる沈殿物であり、上記硫酸ナトリウム0.05molの全てが塩化バリウムと反応したと考えられるので、得られた硫酸バリウムは、硫酸ナトリウムと同モル量の0.05molとなり、硫酸バリウムのモル質量(233.43g/mol)を用いると、その質量は、233.43×0.05=11.67gと算出される。
また、この硫酸バリウムは、「カルボン酸リチウム基」で変性されているものであるところ、0.02gのステアリン酸リチウム(モル質量289.94g/mol)に含まれる、カルボン酸リチウム基(モル質量50.94g/mol)の質量は、0.02×50.94÷289.94=0.0035gと算出される。
してみると、甲1発明の「コーティング層」を形成するための「混合スラリー」に含まれる「カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウム」は、硫酸バリウム11.67gに対して、最大で0.0035gという極微量のカルボン酸リチウム基でその表面が変性されているに過ぎないから、その体積は、変性されていない「ナノ硫酸バリウム」の体積とほぼ同量の0.222cm^(3)と概算することができる。

オ したがって、甲1発明において、「カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウム1gと、バインダであるポリフッ化ビニリデン0.116gを含む混合スラリーを塗布・乾燥して得られた層」である「コーティング層」の空孔を除く体積における「カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウム」の体積割合は、0.222÷(0.222+0.0651)=0.773=77.3%と見積もることができる。

カ したがって、甲1発明において、「コーティング層」の空孔を除く体積に占める「カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウム」の体積割合を、上記オのとおり、「77.3%」と見積もることができるところ、この体積割合は本件発明1の「50体積%?90体積%」の範囲に含まれているので、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。

(4)相違点2についての判断
ア 次に相違点2について検討する。甲1には、「コーティング層」を含む「隔膜」が多孔質である旨の記載はある(上記1アの[0003]参照)ものの、「コーティング層」における「空孔率」については記載されておらず、また、「空孔率」を算出するための手がかりになるような記載もない。したがって、甲1発明において「空孔率」が「30%?70%である」ということはできず、相違点2は実質的な相違点である。
そこで、甲1発明の「コーティング層」における「空孔率」について検討するにあたり、甲5の記載を参照する。

イ 甲5には次の記載がある。
5ア 「【請求項1】
多孔質基材と、
前記多孔質基材の少なくとも一方の面に形成され、下記の(1)ポリフッ化ビニリデン系樹脂A及び(2)ポリフッ化ビニリデン系樹脂Bを含む接着性多孔質層と、
を備えた非水系二次電池用セパレータ。
(1)重量平均分子量が60万?250万のフッ化ビニリデン単独重合体と、フッ化ビニリデン由来の構成単位及びヘキサフロロプロピレン由来の構成単位を含み、かつ全構成単位に対するヘキサフロロプロピレン由来の構成単位の含有量が1.5mol%以下であり、重量平均分子量が60万?250万であるフッ化ビニリデン共重合体と、からなる群より選ばれるポリフッ化ビニリデン系樹脂A
(2)フッ化ビニリデン由来の構成単位及びヘキサフロロプロピレン由来の構成単位を含み、かつ全構成単位に対するヘキサフロロプロピレン由来の構成単位の含有量が1.5mol%を超えるフッ化ビニリデン共重合体より選ばれるポリフッ化ビニリデン系樹脂B」

5イ 「【0029】
以下、本発明の非水系二次電池用セパレータの各構成について説明する。
[多孔質基材]
本発明の非水系二次電池用セパレータは、多孔質基材の少なくとも一層を設けて構成されている。本発明における多孔質基材は、内部に空孔ないし空隙を有する基材を意味する。このような基材としては、微多孔膜や、不織布、紙状シート等の繊維状物からなる多孔性シート、あるいは、これら微多孔膜や多孔性シートに他の多孔性層を1層以上積層させた複合多孔質シート等が挙げられる。中でも特に、薄膜化及び高強度の観点において、微多孔膜が好ましい。

【0037】
複合多孔質シートとしては、微多孔膜や繊維状物からなる多孔性シートに、機能層を積層した構成を採用できる。このような複合多孔質シートは、機能層によってさらなる機能付加が可能となる点で好ましい。機能層としては、例えば耐熱性を付与するという観点では、耐熱性樹脂からなる多孔質層や、耐熱性樹脂および無機フィラーからなる多孔質層を採用できる。耐熱性樹脂としては、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルケトン及びポリエーテルイミドから選ばれる1種又は2種以上の耐熱性高分子が挙げられる。無機フィラーとしては、アルミナ等の金属酸化物や、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物等を好適に使用できる。
なお、複合化の手法としては、微多孔膜や多孔性シートに機能層を塗工する方法、微多孔膜や多孔性シートと機能層とを接着剤で接合する方法、微多孔膜や多孔性シートと機能層とを圧着又は熱圧着する方法等が挙げられる。
【0038】
多孔質基材の厚みは、良好な力学物性と内部抵抗を得る観点から、5μm?25μmの範囲が好適である。
多孔質基材のガーレ値(JIS P8117)は、電池の短絡防止や十分なイオン透過性を得る観点から、50秒/100cc?800秒/100ccの範囲が好適である。
多孔質基材の突刺強度は、製造歩留まりを向上させる観点から、300g以上が好適である。」

5ウ 「【0039】
[接着性多孔質層]
本発明の非水系二次電池用セパレータは、多孔質基材の片面又は両面に少なくとも一層の接着性多孔質層が設けられている。本発明における接着性多孔質層とは、接着性樹脂としてポリフッ化ビニリデン系樹脂を含んで構成されており、かつ内部に多数の微細孔を有し、これら微細孔が連結された構造をなして、一方の面から他方の面へと気体あるいは液体が通過可能とされている層を意味する。
【0040】
接着性多孔質層は、多孔質基材の片面又は両面にセパレータの最外層として設けられ、この接着性多孔質層によって電極と接着させることができる。すなわち、接着性多孔質層は、セパレータと電極とを重ねた状態で圧着あるいは熱プレスに供したときにセパレータを電極に接着させ得る層である。
セパレータを正極及び負極の両方と接着させた場合、サイクル寿命の観点から好ましいので、多孔質基材の一方面及び他方面の両方(基材表裏)に接着性多孔質層が設けられた態様が好ましい。
【0041】
本発明の非水系二次電池用セパレータが前記多孔質基材の片側のみに接着性多孔質層を有する場合、接着性多孔質層は正極又は負極のいずれかに接着される。また、本発明の非水系二次電池用セパレータが前記多孔質基材の両側に接着性多孔質層を有する場合、接着性多孔質層は正極及び負極の双方に接着される。接着性多孔質層は、多孔質基材の片面のみに設けるのみならず両面に設けることで、電池を作製したときのサイクル特性に優れる点で好ましい。接着性多孔質層が多孔質基材の両面にあることで、セパレータの両面が接着性多孔質層を介して両電極とよく接着するためである。
【0042】
本発明における接着性多孔質層は、イオン透過性の観点から多孔化された構造を有していることが好ましい。具体的には、空孔率が30%?60%であることが好ましい。接着性多孔質層の空孔率が60%以下であると、電極と接着させるためのプレス工程において多孔質構造を維持するための力学物性を確保しやすくなる。また、空孔率が60%以下であると、表面開孔率が小さくなり、ポリフッ化ビニリデン系樹脂部分が占める面積が増えるため、接着力を確保しやすくなる。一方、接着性多孔質層の空孔率が30%以上であると、良好なイオン透過性が得られ、電池特性も向上しやすくなる。」

ウ 上記イの記載を総合すれば、甲5には、次の非水系二次電池用セパレータが記載されているものと認められる(以下、「甲5セパレータ」という。)。

「多孔質基材と、その少なくとも一方の面に形成された接着性多孔質層とを備えた非水系二次電池用セパレータであって、
上記多孔質基材は、多孔性シートに機能層を積層した複合多孔質シートであり、上記機能層が耐熱性樹脂および無機フィラーからなるものであり、
上記接着性多孔質層は、2種類のポリフッ化ビニリデン系樹脂AとBを含み、その空孔率を30?60%としたものであって、セパレータと電極とを重ねた状態で圧着あるいは熱プレスに供したときにセパレータを電極に接着させ得る層であり、
上記接着性多孔質層は、空孔率を60%以下とすることにより、電極と接着させるための熱プレス工程において多孔質構造が維持しやすく、接着力が確保しやすくなり、空孔率を30%以上とすることにより、良好なイオン透過性が得られる非水系二次電池用セパレータ。」

エ 上記ウに記載した甲5セパレータにおいて、多孔質基材を構成する、耐熱性樹脂および無機フィラーからなる機能層は、樹脂と無機粒子を含むことから、甲1発明のコーティング層に相当するものであるといえるが、上記機能層自体の空孔率は明記されておらず不明である。
しかし、甲5セパレータにおいて、上記機能層と上記接着性多孔質層はいずれも樹脂を含む多孔性の層であり、いずれの層においても良好なイオン透過性と正極と負極の間隔を一定に保つ機械的強度が必要であることは明らかであるから、上記機能層の空孔率の下限値は、良好なイオン透過性を付与する観点から、上記接着性多孔質層と同様の30%程度とし、また、上記機能層の空孔率の上限値は、適切な機械的強度を付与する観点から、上記接着性多孔質層と同様の60%程度となし得るものであるといえる。
そして、甲1発明のコーティング層についても、セパレータの一部として機能するものであり、良好なイオン透過性と適切な機械的強度が得られることが好ましいといえるから、甲1発明のコーティング層における空孔率を、甲5の機能層や接着性多孔質層と同様の30?60%とすることは、当業者が容易になし得ることである。

オ しかしながら、本件発明1は、「耐熱性多孔質層の空孔率」を「30%?70%」とすることによって、150℃における面積収縮率を小さくし、スポット加熱により生じる穴の面積を小さくするという、耐熱性に優れたセパレータを提供することができるという当業者が予測できない格別の効果を奏するものであり(本件明細書の段落【0181】?【0186】参照のこと。)、「耐熱性多孔質層の空孔率」を「30%?70%」とすることにより耐熱性に優れた、すなわち、加熱しても収縮しにくく、スポット加熱試験に対しても生じる穴が小さい、セパレータとするという技術思想については、甲5に記載されていないし、その他の甲号証にも記載されていない。

カ したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすること、すなわち、「耐熱性多孔質層の空孔率」を「30%?70%」とすること自体は、上記エで検討したように、甲5の記載に基いて当業者が容易になし得ることであるといえたとしても、本件発明1は、「耐熱性多孔質層の空孔率」を「30%?70%」とすることによって、耐熱性に優れたセパレータとするという、甲5やその他いずれの甲号証にも記載されておらず、当業者であっても予測できない格別の効果を奏するものであるといえるから、本件発明1は、甲1発明と甲5やその他の甲号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

キ なお、申立人は、異議申立書の31頁の(ケ-1)において、甲1発明の認定の基礎となった実施例2に注目し、実施例2のセパレータが、粒子径50?80μmの硫酸バリウムとポリフッ化ビニリデンを含み、硫酸バリウムの体積割合が77%である点で、本件発明1の条件を満たしているから、空孔率についても、本件明細書の実施例1?16と同様の30?70%である蓋然性が高い、すなわち、上記相違点2は実質的な相違点ではない、と主張している。
しかしながら、本件明細書段落【0177】の【表1】と段落【0178】の【表2】を参照すると、実施例10?13は、空孔率30?70%を満たしているが、実施例1?9、14?16は空孔率が70%よりも大きいものであるから、上述のように、粒子径50?80μmの硫酸バリウムとポリフッ化ビニリデンを含み、硫酸バリウムの体積割合が77%となっており、空孔率以外の条件は満たしているにもかかわらず、空孔率30?70%の条件は満たさないケースがあることからすると、甲1の実施例2において、空孔率以外の本件発明1の条件を満たすからといって、必ずしも空孔率が30?70%となっているということはできないので、上記主張は採用できない。

(5)小括
上記(3)、(4)の検討から、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1発明と、甲5やその他甲号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)本件発明3について
ア 本件発明3は、本件発明1において、「前記耐熱性多孔質層の空孔を除く体積に占める前記硫酸バリウム粒子以外の無機粒子の体積割合が0体積%?5体積%である」ことを、さらに特定するものである。

イ 一方、甲1発明は、甲1の上記1エに記載された実施例2に基いて認定されているところ、当該実施例2の製造方法から見る限り、「コーティング層」に意図的に含有される無機粒子は「カルボン酸リチウム基で変性されたナノ硫酸バリウム」のみであり、それ以外の無機粒子は含まれていない。つまり、甲1発明において、「前記耐熱性多孔質層の空孔を除く体積に占める前記硫酸バリウム粒子以外の無機粒子の体積割合」は「0体積%」であり、また、仮に、不可避的不純物として他の無機粒子が含まれたとしても、極微少量にとどまるといえる。

ウ したがって、上記アの特定事項は、本件発明3と甲1発明の相違点とはならないから、本件発明3と甲1発明とを対比すると、上記(2)?(4)における検討と同様に、相違点2において相違しており、また、上記(4)における検討と同様に、相違点2に係る特定事項を備えた本件発明3は、甲5やその他いずれの甲号証にも記載のない、格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明3は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1発明と、甲5やその他甲号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(7)本件発明2について
ア 上記(2)、(6)と同様に対比を行うと、本件発明2と甲1発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「多孔質基材と、
前記多孔質基材の両面に設けられた、バインダ樹脂及び硫酸バリウム粒子を含む耐熱性多孔質層と、を備え、
前記耐熱性多孔質層の空孔を除く体積に占める前記硫酸バリウム粒子以外の無機粒子の体積割合が0体積%?5体積%であり、
前記耐熱性多孔質層に含まれる前記硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満である、非水系二次電池用セパレータ。」の点。

<相違点3>
本件発明2では、「前記耐熱性多孔質層の単位面積当たりの質量が両面合計で1.0g/m^(2)?30.0g/m^(2)」であると特定されているが、甲1発明では、「単位面積当たりの質量が両面合計」でどれだけであるかについては特定されていない点。
<相違点4>
本件発明2では、「耐熱性多孔質層の空孔率が30%?70%である」と特定されているが、甲1発明では、「コーティング層」の「空孔率」については特定されていない点。

イ 上記相違点4は上記相違点2と同じであるから、上記(4)で検討したと同様の理由により、相違点4は、本件発明2と甲1発明の実質的な相違点であり、また、本件発明2は、相違点4に係る特定事項とすること、すなわち、「耐熱性多孔質層の空孔率」を「30%?70%」とすることによって、耐熱性に優れたセパレータとするという、甲5やその他いずれの甲号証にも記載がなく当業者が予測できない、格別の効果を奏するものであるから、本件発明2は、相違点3について検討するまでもなく、甲1発明と甲5やその他の甲号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(8)本件発明4?11について
本件発明4?11は、本件発明1?3を引用することにより本件発明1?3の特定事項を備えているので、上記(2)?(7)の検討と同様に、甲1発明とは、少なくとも、相違点2もしくは相違点4において相違している。したがって、本件発明4?11は、甲1に記載された発明ではない。
また、本件発明4?11は、本件発明1?3と同様に、「耐熱性多孔質層の空孔率」を「30%?70%」とすることによって、耐熱性に優れたセパレータとするという、甲5やその他いずれの甲号証にも記載がなく当業者が予測できない、格別の効果を奏するものであるから、本件発明4?11は、これら各発明における新たな特定事項について検討するまでもなく、甲1発明と甲5やその他の甲号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 取消理由として採用しなかった申立理由について
2-1 申立理由2のうち、甲2を主たる引用文献とする進歩性について
ア 甲2には次の記載がある。
2ア 「【請求項1】
熱可塑性樹脂中に、充填剤を含有する多孔質膜よりなる非水系電解液二次電池用セパレータであって、ASTM F316-86より定められる平均孔径dave(μm)と最大孔径dmax(μm)との比dave/dmaxが、0.6以上であることを特徴とする非水系電解液二次電池用セパレータ。」

2イ 「【0004】
リチウム二次電池で使用されるセパレータには、両極間のイオン伝導を妨げないこと、電解液を保持できること、電解液に対して耐性を有すること、などの要件を満たすことが求められ、主としてポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂からなる多孔質膜が用いられている。
【0005】
従来、これらの多孔質膜を製造する方法としては、例えば以下の手法が公知技術として知られている。
(1) 高分子材料に後工程で容易に抽出除去可能な可塑剤を加えて成形を行い、その後可塑剤を適当な溶媒で除去して多孔化する抽出法。
(2) 結晶性高分子材料を成形した後、構造的に弱い非晶部分を選択的に延伸して微細孔を形成する延伸法。
(3) 高分子材料に充填剤を加えて成形を行い、その後の延伸操作により高分子材料と充填剤との界面を剥離させて微細孔を形成する界面剥離法。」

2ウ 「【0092】
〔実施例1〕
<多孔質膜の製造>
市販のポリプロピレン1(ホモタイプ、日本ポリケム社製「FY6C」(MFR:2.4g/10min))25.9重量部とポリプロンピレン2(コポリマー、ダウケミカル社製「INSPiRE」(MFR:0.5g/10min))6.5重量部、硬化ひまし油〔豊国製油社製「HY-CASTOR OIL」分子量938〕2.6重量部、充填剤として市販の硫酸バリウム〔数基準平均粒径0.17μm、歪度2.91〕65重量部を配合して得られた樹脂組成物を、温度250℃で溶融成形して原反シートを得た。この原反シートの厚みは平均50μmであり、充填剤配合個数は表2に示す通りであった。次に、得られた原反シートを80℃でシート長手方向(MD)に4.5倍の延伸を行い、表2に示す膜厚、空孔率、ガーレー透気度、及び孔径の多孔質膜を得た。」

イ 甲2には、熱可塑性樹脂中に、充填剤を含有する多孔質膜よりなる非水系電解液二次電池用セパレータについて記載されており(上記2ア参照。)、実施例1のセパレータに注目すると、上記熱可塑性樹脂として2種のポリプロピレンを用い、上記充填剤として硫酸バリウムを配合して成形された原反シートを、MD方向に延伸を行うことによって形成されたセパレータが記載されている(上記2ウ参照。)。
ここで、甲2の実施例1のセパレータに注目すると、当該セパレータは、上記2イの【0005】の(3)の方法によって、ポリプロピレンと硫酸バリウムとの界面を剥離させて微細孔を形成したセパレータであると解される。
したがって、甲2には、次のセパレータが記載されているものと認められる(以下、「甲2発明」という。)。

「熱可塑性樹脂中に、充填剤を含有する多孔質膜よりなる非水系電解液二次電池用セパレータであって、
前記熱可塑性樹脂はポリプロピレンであり、
前記充填剤は硫酸バリウムであり、
前記ポリプロピレン中に前記硫酸バリウムを配合して原反シートを得た後、前記原反シートをMD方向に延伸することによって、ポリプロピレンと硫酸バリウムの界面を剥離させることにより微細孔を形成した、非水系電解液二次電池用セパレータ。」

ウ 本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明は、「ポリプロピレン」からなる「熱可塑性樹脂」と「硫酸バリウム」からなる「充填剤」よりなる、単一の「多孔質膜」であるから、本件発明1の「多孔質基材」に相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明は、「多孔質基材」を備えた「非水系二次電池用セパレータ」の点で一致しているが、甲2発明は、少なくとも、「多孔質基材の片面又は両面に設けられた、バインダ樹脂及び硫酸バリウム粒子を含む耐熱性多孔質層」を有していない点で本件発明1と相違している(以下、「相違点5」という。)。

エ 相違点5について検討する。
甲2には、「多孔質基材」である甲2発明のセパレータの片面又は両面に、「バインダ樹脂及び硫酸バリウム粒子を含む耐熱性多孔質層」を設けることについて、記載も示唆もされていない。
また、仮に、周知の技術に基いて、甲2発明のセパレータの片面又は両面に「耐熱性多孔質層」を設けることが容易になし得ることであったとしても、次の事項については、当業者が容易になし得ることであるとはいえない。
すなわち、甲2発明のセパレータにおいて、「ポリプロピレン」は「多孔質基材」を形成する主たる材料として使用されているから、当該「ポリプロピレン」を、「多孔質基材の片面又は両面に設けられた」「耐熱性多孔質層」を構成する「バインダ樹脂」として使用することについては、動機がなく、容易になし得ることであるとはいえない。
また、甲2発明のセパレータにおいて、「硫酸バリウム粒子」は、ポリプロピレンと硫酸バリウムの界面を剥離させることにより微細孔を形成するために「多孔質基材」内で使用されるものであるから、当該硫酸バリウム粒子を、「多孔質基材の片面又は両面に設けられた」「耐熱性多孔質層」を構成する無機粒子として使用することについては、動機がなく、容易になし得ることであるとはいえない。

オ したがって、本件発明1は、甲2発明のセパレータに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ また、本件発明2と甲2発明を対比すると、上記ウと同様の理由によって、本件発明2と甲2発明は、「多孔質基材」を備えた「非水系二次電池用セパレータ」の点で一致しているが、甲2発明は、少なくとも、「多孔質基材の片面又は両面に設けられた、バインダ樹脂及び硫酸バリウム粒子を含む耐熱性多孔質層」を有していない点で本件発明2と相違している(以下、「相違点6」という。)。
相違点6は相違点5と同じであるから、上記エと同様の理由によって、本件発明2は、甲2発明のセパレータに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

キ また、本件発明1又は2を引用することによって本件発明1又は2の特定事項を備えている、本件発明3?11についても、同様の理由で、甲2発明のセパレータに基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2-2 申立理由2のうち、甲4を主たる引用文献とする進歩性について
ア 甲4には次の記載がある。
4ア 「【請求項1】
正極、負極、有機電解液およびセパレータを有するリチウムイオン二次電池に用いられるセパレータであって、
融点が80?170℃である熱可塑性樹脂を主体とする微多孔膜からなる多孔質層(I)と、耐熱性微粒子を主体として含む多孔質層(II)とを有しており、
前記多孔質層(II)の厚みをA(μm)とし、前記多孔質層(II)の密度をB(g/cm^(3))としたとき、A×Bが3?24であり、
セパレータ全体の厚みが12?36μmであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータ。」

4イ 「【0084】
<多孔質層(II)形成用スラリーの調製>
スラリーA:
粒状ジルコニア(化学式ZrO_(2)、密度5.8g/cm^(3)、平均粒径1μm)1000gに、イオン交換水1000gと粒状ジルコニア100質量部に対して1質量部のポリアクリル酸アンモニウム(分散剤)とを添加し、これを卓上ボールミルにて6日間分散を行って分散液を得た。
【0085】
前記の分散液に、バインダである自己架橋性のアクリル樹脂のエマルジョン(粒状ジルコニア100質量部に対して3質量部)を添加し、更に、増粘剤としてキサンタンガムを2g添加し、スリーワンモーターで1時間攪拌して分散させて、均一なスラリーAを得た。
・・・
【0087】
スラリーC:
粒状ジルコニアに代えて、粒状硫酸バリウム(化学式BaSO_(4)、密度4.5g/cm^(3)、平均粒径1μm)を用いた以外は、スラリーAと同様の手法でスラリーCを調製した。」

4ウ 「【0091】
実施例1
<セパレータの製造>
片面にコロナ放電処理を施した長尺のポリエチレン製微多孔膜(厚み10μm)のコロナ放電処理面に、前記スラリーAを、乾燥後の多孔質層(II)の厚みが2μmとなるように塗布し、乾燥してセパレータを製造した。
・・・
【0094】
<電池の組み立て>
前記のようにして得られた正極と負極とを、前記のセパレータを介して重ね合わせ、渦巻状に巻回して巻回構造の電極群とした。この電極群を直径14mm、高さ50mmの円筒状の電池ケース内に挿入し、有機電解液(エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを1:2の体積比で混合した溶媒に、LiPF_(6)を1.2mol/lの濃度で溶解させた溶液)を注入し、電池ケースの開口部を定法に従って封止してリチウムイオン二次電池を製造した。
【0095】
実施例2?5および比較例1、2
多孔質層(II)の形成に用いたスラリー、乾燥後の多孔質層(II)の厚み、および多孔質層(I)に用いたポリエチレン製微多孔膜の厚みを、表1に示す通りにした以外は、実施例1と同様にしてセパレータを製造し、これらのセパレータを用いた以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を製造した。」

4エ 「【0101】
【表1】



イ 甲4には、熱可塑性樹脂を主体とする微多孔膜からなる多孔質層(I)と、耐熱性微粒子を主体として含む多孔質層(II)とを有する、リチウムイオン二次電池に用いられるセパレータについて記載されており(上記4ア参照。)、【表1】の実施例3のセパレータに注目すると、バインダとして自己架橋性のアクリル樹脂と平均粒径1μmの粒状硫酸バリウムを含むスラリーCを(上記4イ参照。)、片面にコロナ放電処理を施した長尺のポリエチレン製微多孔膜に厚みAを4μmで塗布・乾燥して製造されたセパレータが記載されている(上記4ウ、4エ参照。)。
したがって、甲4には、実施例4に注目すると、次のセパレータが記載されているものと認められる(以下、「甲4発明」という。)

「熱可塑性樹脂を主体とする微多孔膜からなる多孔質層(I)と、耐熱性微粒子を主体として含む多孔質層(II)とを有する、リチウムイオン二次電池に用いられるセパレータであって、
前記多孔質層(I)は、片面にコロナ放電処理を施した長尺のポリエチレン製微多孔膜であり、
前記多孔質層(II)は、バインダとして自己架橋性のアクリル樹脂と平均粒径1μmの粒状硫酸バリウムを含むスラリーCを、前記多孔質層(I)のコロナ放電処理面に、厚みAを4μmで塗布・乾燥して製造されたものである、
セパレータ。」

ウ 本件発明1と甲4発明を対比する。
(ア) 甲4発明の「熱可塑性樹脂を主体とする微多孔膜からなる多孔質層(I)」は、本件発明1の「多孔質基材」に相当する。
(イ)甲4発明の「バインダとして自己架橋性のアクリル樹脂」、「粒状硫酸バリウム」は、それぞれ本件発明1の「バインダ樹脂」、「硫酸バリウム粒子」に相当する。
(ウ)甲4発明の「多孔質層(II)」は、上記(イ)の「バインダとして自己架橋性のアクリル樹脂」と「粒状硫酸バリウム」を含むものであるから、本件発明1の「耐熱性多孔質層」に相当する。
(エ)甲4発明の「リチウムイオン二次電池に用いられるセパレータ」は、本件発明1の「非水系二次電池用セパレータ」に相当する。
(オ)そうすると、本件発明1と甲4発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「多孔質基材と、
前記多孔質基材の片面に設けられた、バインダ樹脂及び硫酸バリウム粒子を含む耐熱性多孔質層と、を備えた、
非水系二次電池用セパレータ。」の点。

<相違点7>
「耐熱性多孔質層の空孔を除く体積に占める前記硫酸バリウム粒子の体積割合」が、本件発明1では「50体積%?90体積%」であるのに対して、甲4発明では不明である点。
<相違点8>
「耐熱性多孔質層に含まれる前記粒状硫酸バリウム」の粒径が、本件発明1では、「平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満」であるのに対して、甲4発明では、「平均粒径1μm」である点。
<相違点9>
「耐熱性多孔質層の空孔率」が、本件発明1では「30%?70%」であるのに対して、甲4発明では不明である点。

エ 事案に鑑みて、相違点8について検討する。
甲3には硫酸バリウムの粒径について次の記載がある。
3ア 「【0021】
本発明のセパレータにおける耐熱多孔質層は、前記の通り、耐熱性微粒子を主成分として含むことで、その耐熱性を確保している。本明細書でいう「耐熱性」とは、少なくとも150℃において変形などの形状変化が目視で確認されないことを意味している。耐熱性微粒子の有する耐熱性は、200℃以下で形状変化が生じないことが好ましく、300℃以下で形状変化が生じないことがより好ましく、500℃以下で形状変化が生じないことが更に好ましい。」

3イ 「【0023】
耐熱性微粒子は、前記例示のものを1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。耐熱性微粒子としては、前記例示のものの中でも、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、ベーマイト微粒子、チタニア微粒子、または硫酸バリウム微粒子がより好ましい。
【0024】
耐熱性微粒子の形態については特に制限はなく、球状、粒子状、板状など、いずれの形態であってもよい。
【0025】
耐熱性微粒子は、その一次粒子径の平均値(D50)が、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましい。通常、耐熱多孔質層は、耐熱性微粒子などを媒体(溶媒)に分散させた形態の組成物(耐熱多孔質層形成用組成物)を用いて形成されるが(詳しくは後述する。)、耐熱性微粒子の一次粒子径が前記程度であれば、耐熱性微粒子の表面積を小さくできるため、媒体中での耐熱性微粒子の凝集などを抑制して、耐熱性微粒子を媒体中に良好に分散させ得ることができ、より均質な耐熱多孔質層を形成できるようになる。また、耐熱性微粒子が大きすぎると、耐熱多孔質層の構造を、層内のLi(リチウム)イオンの運動が層の面方向において均一となるようにし難くなり、電池の充放電時においてLiイオンの運動の障壁となる虞がある。よって、耐熱性微粒子は、その一次粒子径の平均値(D50)が、3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。」

オ 甲3の上記エの記載によれば、セパレータの耐熱多孔質層に含まれる耐熱性微粒子は、硫酸バリウム微粒子がより好ましく、その一次粒子径の平均値(D50)が0.1μm以上とすることにより、耐熱性微粒子の凝集を抑制して均質な耐熱性多孔質を形成でき、2μm以下とすることにより、耐熱多孔質層の構造を面方向において均一にできることが記載されており(上記3イ参照。)、耐熱性とは、少なくとも150℃において変形などの形状変化が目視で確認されないことを意味している(上記3ア参照。)。
つまり、甲3には、硫酸バリウム微粒子の平均一次粒子径を0.1μm以上2μm以下とすることで、少なくとも150℃において変形などの形状変化が目視で確認されないものとすることができることが記載されている。

カ したがって、甲4発明において、「多孔質層(II)」に含まれる「平均粒径1μmの粒状硫酸バリウム」について、甲3の上記オの記載に基いて、0.1?2μmの平均一次粒子径とすることによって、150℃でも形状変形が確認できないものとすることは、当業者が容易になし得ることであるといえる。

キ しかしながら、本件発明1は、「硫酸バリウム粒子の平均一次粒径」を「0.01μm以上0.30μm未満」という、甲3に記載された好ましいとされる平均一次粒子径の範囲よりもさらに狭い特定の範囲にすることによって、耐熱性が高まること、具体的には、平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満である、表1の実施例1?13は、平均一次粒径が0.30μm以上である比較例1?2と対比して、135℃及び150℃における面積収縮率を小さくすることができるのみならず、260℃のハンダゴテを60秒間接触させるスポット加熱試験に対しても生じる穴が小さいという格別の効果を奏するものであり、「硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満」とすることにより耐熱性に優れた、すなわち、135℃及び150℃に加熱しても収縮しにくいのみならず、260℃のハンダゴテに接触しても穴が空きにくいセパレータとするという技術思想については、甲4や甲3に記載されていないし、その他の甲号証にも記載されていない。

ク したがって、本件発明1は、「硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満」とすることによって、耐熱性に優れたセパレータとすることができるという、甲4、甲3やその他いずれの甲号証にも記載のない、格別の効果を奏するものであるから、相違点7、9について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明と甲3やその他の甲号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、「耐熱性多孔質層に含まれる前記硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満」との特定事項を含む本件発明2や、本件発明1、2を引用する本件発明3?11についても、同様の理由によって、甲4発明と甲3やその他の甲号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2-3 申立理由3(サポート要件)について
ア 申立人は、異議申立書の40頁下から1行?42頁8行において、本件発明1について、
(ア)バインダ樹脂としてどのような樹脂を用いても本件発明の課題を解決できるだけの耐熱性が得られるとは考えられず、
(イ)多孔質基材としてどのような樹脂を用いても本件発明の課題を解決できるだけの耐熱性が得られるとは考えられないから、
実施例において開示された発明を、本件発明1の範囲にまで拡張乃至一般化できるとはいえず、
また、本件発明2について、
(ウ)「硫酸バリウム粒子の体積割合」が特定されていないため、当該「体積割合」が、本件発明1で特定された「50体積%?90体積%」の範囲外であるものも含まれることになるが、そのような「体積割合」が「50体積%?90体積%」の範囲外のものにまで、本件発明の課題を解決できるだけの耐熱性が得られるとは考えられないから、実施例において開示された発明を、本件発明2の範囲にまで拡張乃至一般化できるとはいえない、
と主張しているので、これらの主張について検討する。

イ 本件明細書には次の記載がある。
本1「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者が検討したところ、硫酸バリウム粒子を含有する多孔質層を多孔質基材上に備えたセパレータは、水酸化マグネシウム又はアルミナを含有する多孔質層を多孔質基材上に備えたセパレータに比較して、電解液又は電解質の分解によるガス発生を起しにくいことが分かった。したがって、硫酸バリウム粒子を含有する多孔質層の耐熱性をより向上させれば、電池の安全性に大いに寄与するセパレータを提供することができる。
【0006】
本開示の実施形態は、上記状況のもとになされた。
【0007】
本開示の実施形態は、電池内部におけるガス発生を抑制すると共に耐熱性に優れる非水系二次電池用セパレータを提供することを目的とし、これを解決することを課題とする。」

本2「【0023】
本開示のセパレータにおいて、耐熱性多孔質層に含まれる硫酸バリウム粒子の平均一次粒径は、耐熱性多孔質層の耐熱性を高める観点から、0.30μm未満である。硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.30μm未満であると、耐熱性多孔質層の耐熱性が高まる。この機序としては、硫酸バリウム粒子の粒径が小さいことにより、単位体積あたりの硫酸バリウム粒子の表面積(比表面積)が大きくなり、したがって、硫酸バリウム粒子とバインダ樹脂との接触点が多くなるので、高温に曝された際の耐熱性多孔質層の収縮が抑制されるものと考えられる。また、粒径の小さい硫酸バリウム粒子どうしが多数繋がることにより、高温に曝された際において、耐熱性多孔質層が破膜しにくくなると推測される。」

ウ 上記本1の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題とは、電池内部におけるガス発生を抑制すると共に耐熱性に優れる非水系二次電池用セパレータを提供することであると認められる。

エ そして、上記本1の段落【0005】によれば、硫酸バリウム粒子を含有したセパレータは、水酸化マグネシウムやアルミナを含有するセパレータよりも、電解液の分解によるガス発生を起こしにくいものとなるという、本件発明によってガス発生が抑制される機序を説明している。
また、上記本2の記載によれば、硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.30μm未満であると、硫酸バリウム粒子の表面積が大きくなり、硫酸バインダ粒子とバインダ樹脂との接触点が多くなるので、高温に曝された際の耐熱性多孔質層の収縮が抑制されるものと考えられるという、本件発明によって耐熱性が得られる機序を説明している。

オ 上記エの機序の説明によれば、本件発明のセパレータは、耐熱性多孔質層に硫酸バリウム粒子を含有させることにより、電池内部のガス発生が抑制することができるものとなっているといえるし、また、本件発明のセパレータは、硫酸バリウム粒子の平均一次粒径を所定の範囲とすることにより、バインダ樹脂の種類や、多孔質基材の樹脂の種類や、硫酸バリウム粒子の体積割合によらず、硫酸バインダ粒子とバインダ樹脂との接触点が多くなるので、セパレータの耐熱性が向上する効果が得られるものとなっていることが理解できる。

カ したがって、本件発明のセパレータは、耐熱性多孔質層に硫酸バリウム粒子を含有し、硫酸バリウム粒子の平均一次粒径を所定の範囲内のものとすることにより、上記ウの課題を解決し得るものであるといえるから、申立人の上記アの主張は採用できない。

第7 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は適法なものである。
そして、特許異議申立書に記載した申立理由、及び1回目及び2回目の取消理由通知書に記載した取消理由によっては、本件訂正後の請求項1?11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正後の請求項1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材と、
前記多孔質基材の片面又は両面に設けられた、バインダ樹脂及び硫酸バリウム粒子を含む耐熱性多孔質層と、を備え、
前記耐熱性多孔質層の空孔を除く体積に占める前記硫酸バリウム粒子の体積割合が50体積%?90体積%であり、
前記耐熱性多孔質層に含まれる前記硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満であり、
前記耐熱性多孔質層の空孔率が30%?70%である、
非水系二次電池用セパレータ。
【請求項2】
多孔質基材と、
前記多孔質基材の片面又は両面に設けられた、バインダ樹脂及び硫酸バリウム粒子を含む耐熱性多孔質層と、を備え、
前記耐熱性多孔質層の単位面積当たりの質量が両面合計で1.0g/m^(2)?30.0g/m^(2)であり、
前記耐熱性多孔質層の空孔を除く体積に占める前記硫酸バリウム粒子以外の無機粒子の体積割合が0体積%?5体積%であり、
前記耐熱性多孔質層に含まれる前記硫酸バリウム粒子の平均一次粒径が0.01μm以上0.30μm未満であり、
前記耐熱性多孔質層の空孔率が30%?70%である、
非水系二次電池用セパレータ。
【請求項3】
前記耐熱性多孔質層の空孔を除く体積に占める前記硫酸バリウム粒子以外の無機粒子の体積割合が0体積%?5体積%である、請求項1に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記バインダ樹脂がポリフッ化ビニリデン系樹脂を含む、請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項5】
前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量が60万?300万である、請求項4に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項6】
前記バインダ樹脂が、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリアクリルアミド、共重合ポリエーテルポリアミド、ポリイミド及びポリエーテルイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1?請求項5のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項7】
前記非水系二次電池用セパレータを135℃で1時間熱処理したときの面積収縮率が30%以下である、請求項1?請求項6のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項8】
前記非水系二次電池用セパレータを150℃で1時間熱処理したときの面積収縮率が45%以下である、請求項1?請求項7のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項9】
前記耐熱性多孔質層の空孔率が30%?60%である、請求項1?請求項8のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項10】
前記耐熱性多孔質層が前記多孔質基材の片面に設けられた、請求項1?請求項9のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータ。
【請求項11】
正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置された請求項1?請求項10のいずれか1項に記載の非水系二次電池用セパレータと、を備え、リチウムのドープ・脱ドープにより起電力を得る非水系二次電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-07-28 
出願番号 特願2018-563743(P2018-563743)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮田 透  
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 磯部 香
池渕 立
登録日 2019-05-17 
登録番号 特許第6526359号(P6526359)
権利者 帝人株式会社
発明の名称 非水系二次電池用セパレータ及び非水系二次電池  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  
代理人 福田 浩志  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  
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