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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C03C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
管理番号 1377803
異議申立番号 異議2019-700910  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-11-15 
確定日 2021-08-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6513837号発明「光学ガラス、光学素子及びプリフォーム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6513837号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6513837号の請求項1、5、6に係る特許を維持する。 特許第6513837号の請求項2?4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6513837号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成24年10月31日を出願日とする特願2012-241309号(以下、「原出願」という。)の一部を、平成28年11月30日に新たな特許出願とした特願2016-232176号の一部を、更に平成30年 1月19日に特願2018-7029号として新たな特許出願としたものであって、平成31年 4月19日にその請求項1?6に係る発明について特許権の設定登録がされ、令和 1年 5月15日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和 1年11月15日に特許異議申立人 星 正美(以下、「申立人」という。)により甲第1?2号証及び参考資料1を証拠方法として特許異議の申立てがされ、令和 2年 1月27日付けで当審より取消理由が通知され、同年 3月 2日に特許権者より意見書の提出期間の延長の上申書が提出され、同年 3月 5日付けで当審より意見書の提出期間の延長の通知書が通知され、指定期間内である同年 4月28日に特許権者より乙第1?5号証を添付して意見書の提出並びに訂正の請求がされ、同年 7月13日に申立人より意見書が提出され、同年 9月 7日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、指定期間内である同年11月 9日に特許権者より意見書の提出並びに訂正の請求がされ、同年12月23日に申立人より意見書が提出され、令和 3年 2月 2日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、同年 3月19日に特許権者より意見書の提出期間の延長の上申書が提出され、同年 3月23日付けで当審より意見書の提出期間の延長の通知書が通知され、指定期間内である同年 4月30日に特許権者より乙第6号証を添付して意見書の提出並びに訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年 5月 6日に特許権者より差し替えの乙第2号証を添付して上申書が提出され、同年 6月16日に申立人より意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項からなる(当審注:下線は訂正箇所を示す。)。
なお、令和 2年 4月28日の訂正請求及び同年11月 9日の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「P^(5+)の含有率が25.0?55.0%、」
と記載されているのを、
「P^(5+)の含有率が25.0?46.6%、」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項5?6も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「Al^(3+)の含有率が5.0?30.0%、」
と記載されているのを、
「Al^(3+)の含有率が8.8?30.0%、」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項5?6も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「Ba^(2+)の含有率が15.0%以上38.8%以下、」
と記載されているのを、
「Ba^(2+)の含有率が25.0%以上38.8%以下、」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項5?6も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「F^(-)の含有率が20.0?70.0%、」
と記載されているのを、
「F^(-)の含有率が24.5?60.0%、」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項5?6も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「O^(2-)の含有率が30.0?80.0%」
と記載されているのを、
「O^(2-)の含有率が40.0?75.5%、」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項5?6も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量が2.2?30.0%、」
と記載されているのを、
「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量が2.2?14.5%、」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項5?6も同様に訂正する。)。

(7)訂正事項7
訂正事項6により訂正した特許請求の範囲の請求項1の「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量が2.2?14.5%、」との記載の後に、
「Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))が1.0?2.62であり、」
との記載を追加する(請求項1の記載を引用する請求項5?6も同様に訂正する。)。

(8)訂正事項8
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「アルカリ土類金属の合計含有率(R^(2+):カチオン%)が40.0?60.0%であり、」
と記載されているのを、
「アルカリ土類金属の合計含有率(R^(2+):カチオン%)が40.0?53.6%であり、」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項5?6も同様に訂正する。)。

(9)訂正事項9
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「屈折率(nd)が1.50以上であり、」
と記載されているのを、
「屈折率(nd)が1.50以上1.584以下であり、」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項5?6も同様に訂正する。)。

(10)訂正事項10
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「60以上のアッベ数(νd)を有し、」
と記載されているのを、
「68.9以上85以下のアッベ数(νd)を有し、」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項5?6も同様に訂正する。)。

(11)訂正事項11
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における、線膨張係数の最大値(α_(max))が1500×10^(-7)K^(-1)以下である光学ガラス。」
と記載されているのを、
「ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における、線膨張係数の最大値(α_(max))が1100×10^(-7)K^(-1)以下である光学ガラス。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項5?6も同様に訂正する。)。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(15)訂正事項15
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「請求項1から4のいずれか記載の」
と記載されているのを、
「請求項1に記載の」
に訂正する。

(16)訂正事項16
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に
「請求項1から4のいずれか記載の」
と記載されているのを、
「請求項1に記載の」
に訂正する。

本件訂正前の請求項2?6は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?6は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
そして、本件訂正は、一群の請求項の全てについて行われるものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の請求項1の「光学ガラス」における「P^(5+)の含有率」の上限値を、「55.0%」から「46.6%」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書の【0075】【表1】の実施例5、6の「P^(5+)の含有率」が「46.6%」であることに基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の請求項1の「光学ガラス」における「Al^(3+)の含有率」の下限値を、「5.0%」から「8.8%」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書の【0075】【表1】の実施例5、6の「Al^(3+)の含有率」が「8.8%」であることに基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲の請求項1の「光学ガラス」における「Ba^(2+)の含有率」の下限値を、「15.0%」から「25.0%」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書の【0034】の「従って、Ba^(2+)の含有率は、好ましくは10.0%超、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは25.0%、さらに好ましくは30.0%、さらに好ましくは32.0%を下限としてもよい。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、特許請求の範囲の請求項1の「光学ガラス」における「F^(-)の含有率」の上限値及び下限値を、「20.0?70.0%」から「24.5?60.0%」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書の【0075】【表1】の実施例5、6の「F^(-)の含有率」が「24.5%」であること、及び、【0053】の「従って、F^(-)の含有率は、好ましくは70.0%、より好ましくは60.0%、より好ましくは50.0%、さらに好ましくは45.0%、さらに好ましくは38.0%を上限とする。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5による訂正は、特許請求の範囲の請求項1の「光学ガラス」における「O^(2-)の含有率」の上限値及び下限値を、「30.0?80.0%」から「40.0?75.5%」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項5による訂正は、願書に添付した明細書の【0075】【表1】の実施例5、6の「O^(2-)の含有率」が「75.5%」であること、及び、【0054】の「従って、O^(2-)の含有率は、好ましくは30.0%、より好ましくは40.0%、さらに好ましくは50.0%、さらに好ましくは55.0%、さらに好ましくは62.0%を下限とする。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6による訂正は、特許請求の範囲の請求項1の「光学ガラス」における「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量」の上限値を、「30.0%」から「14.5%」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項6による訂正は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1の「Mg^(2+)の含有率が0%を超え4.5%以下」及び「Sr^(2+)の含有率が0?10.0%」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(7)訂正事項7について
訂正事項7による訂正は、特許請求の範囲の請求項1の「光学ガラス」の組成を、「Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))が1.0?2.62」であるものに更に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項7による訂正は、願書に添付した明細書の【0036】の「従って、カチオン比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))は、好ましくは0.50、より好ましくは1.0、さらに好ましくは1.5、さらに好ましくは2.50を下限とする。」との記載、及び、【0075】【表1】の実施例1?6の「Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))」が「2.62」であることに基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(8)訂正事項8について
訂正事項8による訂正は、特許請求の範囲の請求項1の「光学ガラス」における「アルカリ土類金属の合計含有率(R^(2+):カチオン%)」の上限値を、「60.0%」から「53.6%」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項8による訂正は、願書に添付した明細書の【0075】【表1】の実施例1の「アルカリ土類金属の合計含有率(R^(2+):カチオン%)」が「53.6%」であることに基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(9)訂正事項9について
訂正事項9による訂正は、特許請求の範囲の請求項1の「光学ガラス」における「屈折率(nd)」の上限が特定されていなかったのを、「1.584以下」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項9による訂正は、願書に添付した明細書の【0075】【表1】の実施例5の「屈折率(nd)」が「1.584」であることに基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(10)訂正事項10について
訂正事項10による訂正は、特許請求の範囲の請求項1の「光学ガラス」における「アッベ数(νd)」が「60以上」であったのを、「68.9以上85以下」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項10による訂正は、願書に添付した明細書の【0063】の「また、本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)は、好ましくは60、より好ましくは65、さらに好ましくは68を下限とし、好ましくは90、より好ましくは85、さらに好ましくは80を上限とする。」との記載、及び、【0075】【表1】の実施例2、3、5の「アッベ数(νd)」が「68.9」であることに基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(11)訂正事項11について
訂正事項11による訂正は、特許請求の範囲の請求項1の「光学ガラス」における「ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における、線膨張係数の最大値(α_(max))」が「1500×10^(-7)K^(-1)以下」であったのを、「1100×10^(-7)K^(-1)以下」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項11による訂正は、願書に添付した明細書の【0061】の「従って、本発明の光学ガラスでは、ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における線膨張係数の最大値(α_(max))の上限は、好ましくは1500×10^(-7)K^(-1)、より好ましくは1300×10^(-7)K^(-1)、さらに好ましくは1100×10^(-7)K^(-11)、さらに好ましくは1015×10^(-7)K^(-1)とする。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(12)訂正事項12?14について
訂正事項12?14による訂正は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項2?4を削除するものであるから、いずれも、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項を追加するものではないこと、及び、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(13)訂正事項15?16について
訂正事項15?16による訂正は、それぞれ、訂正事項12?14による特許請求の範囲の請求項2?4の削除に合わせて、請求項5及び6における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項15?16による訂正が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

なお、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
前記第2に記載したとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1、5、6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明5」、「本件発明6」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、5、6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
カチオン%(モル%)表示で、
P^(5+)の含有率が25.0?46.6%、
Al^(3+)の含有率が8.8?30.0%、
Mg^(2+)の含有率が0%を超え4.5%以下、
Ca^(2+)の含有率が0%を超え13.0%以下、
Sr^(2+)の含有率が0?10.0%、
Ba^(2+)の含有率が25.0%以上38.8%以下、
Gd^(3+)の含有率が0?1.0%未満、
Zn^(2+)の含有率が0?2.0%(但し、Zn^(2+)を2.0%含有するものを除く)、
アニオン%(モル%)表示で、
F^(-)の含有率が24.5?60.0%、
O^(2-)の含有率が40.0?75.5%であり、
Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量が2.2?14.5%、
Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))が1.0?2.62であり、
アルカリ土類金属の合計含有率(R^(2+):カチオン%)が40.0?53.6%であり、
屈折率(nd)が1.50以上1.584以下であり、68.9以上85以下のアッベ数(νd)を有し、
ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における、線膨張係数の最大値(α_(max))が1100×10^(-7)K^(-1)以下である光学ガラス。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
請求項1に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項6】
請求項1に記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。」

第4 取消理由の概要
当審が令和 2年 1月27日付け、同年 9月 7日付け及び令和 3年 2月 2日付けで通知した取消理由をまとめると、その概要は以下のとおりである。
なお、本件特許異議申立てにおける、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)についての特許異議申立理由は、下記2(1)、(2)、(5)、(9)、(10)において、本件訂正前の請求項1?4に係る発明に対する特許法第29条第1項第3号(新規性)についての特許異議申立理由及び本件訂正前の請求項5?6に係る発明に対する特許法第29条第2項(進歩性)についての特許異議申立理由は、下記4において、それぞれ採用されている。
1 証拠方法
(1)各甲号証等
甲第1号証:特開昭57-123842号公報
甲第2号証:特開2009-256149号公報
参考資料1:光学ガラス一覧図(nd-νd ダイアグラム)
(http://www.ohara-inc.co.jp/jp/product/optical/dl/data/HP_nd-vd_201908.pdf)

(2)各乙号証
乙第1号証:平成28年(行ケ)第10189号審決取消請求事件判決,平成29年10月25日判決言渡
乙第2号証:実験報告書,令和 2年 4月10日,株式会社オハラ
乙第3号証:特開2008-137877号公報
乙第4号証:特開2010-42998号公報
乙第5号証:特開2012-144416号公報
乙第6号証:実験報告書,令和 3年 4月12日,株式会社オハラ
ただし、乙第2号証は令和 3年 5月 6日に提出された上申書に添付されたものに差し替えられたものである。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)について
(1)「P^(5+)の含有率」、「Al^(3+)の含有率」について
本件特許明細書の記載からは、「P^(5+)の含有率」及び「Al^(3+)の含有率」を本件訂正前の請求項1に特定される範囲にまで拡張することはできないので、本件訂正前の請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、本件訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?6に係る発明についても同様である。

(2)「Mg^(2+)の含有率」、「Ca^(2+)の含有率」、「Sr^(2+)の含有率」、「Ba^(2+)の含有率」について
本件特許明細書の記載からは、「Ca^(2+)の含有率」、「Mg^(2+)の含有率」、「Sr^(2+)の含有率」及び「Ba^(2+)の含有率」を本件訂正前の請求項1に特定される範囲にまで拡張することはできないので、本件訂正前の請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、本件訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?6に係る発明についても同様である。

(3)「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量」について
本件特許明細書の記載からは、「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量」を本件訂正前の請求項1に特定される範囲にまで拡張することはできないので、本件訂正前の請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、本件訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?6に係る発明についても同様である。

(4)「アルカリ土類金属の合計含有率(R^(2+):カチオン%)」について
本件特許明細書の記載からは、「アルカリ土類金属の合計含有率(R^(2+):カチオン%)」を本件訂正前の請求項1に特定される範囲にまで拡張することはできないので、本件訂正前の請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、本件訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?6に係る発明についても同様である。

(5)「F^(-)の含有率」、「O^(2-)の含有率」について
本件特許明細書の記載からは、「F^(-)の含有率」、「O^(2-)の含有率」を本件訂正前の請求項1に特定される範囲にまで拡張することはできないので、本件訂正前の請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、本件訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?6に係る発明についても同様である。
また、令和 2年 4月30日の訂正請求による訂正後の請求項1に特定される、「F^(-)の含有率が20.0?70.0%」の範囲において、前記訂正後の請求項1の物性要件を満たす成分調整手段を認識できないから、「F^(-)の含有率」を前記訂正後の請求項1に特定される範囲にまで拡張することはできないので、前記訂正後の請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、前記訂正後の請求項1を引用する、前記訂正後の請求項5及び6に係る発明についても同様である。

(6)「Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))」について
本件特許明細書の記載からは、「Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))」を本件訂正前の請求項2に特定される範囲にまで拡張することはできないので、本件訂正前の請求項2に係る発明は発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、本件訂正前の請求項2を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の請求項3?6に係る発明についても同様である。

(7)「La^(3+)の含有率」、「Y^(3+)の含有率」、「Yb^(3+)の含有率」、「Li^(+)の含有率」、「Na^(+)の含有率」、「K^(+)の含有率」、「Si^(4+)の含有率」、「B^(3+)の含有率」、「Ti^(4+)の含有率」、「Nb^(5+)の含有率」、「W^(6+)の含有率」、「Zr^(4+)の含有率」、「Ta^(5+)の含有率」、「Ge^(4+)の含有率」、「Bi^(3+)の含有率」、「Te^(4+)の含有率」について
本件特許明細書の記載からは、「La^(3+)の含有率」、「Y^(3+)の含有率」、「Yb^(3+)の含有率」、「Li^(+)の含有率」、「Na^(+)の含有率」、「K^(+)の含有率」、「Si^(4+)の含有率」、「B^(3+)の含有率」、「Ti^(4+)の含有率」、「Nb^(5+)の含有率」、「W^(6+)の含有率」、「Zr^(4+)の含有率」、「Ta^(5+)の含有率」、「Ge^(4+)の含有率」、「Bi^(3+)の含有率」、「Te^(4+)の含有率」を、本件訂正前の請求項3に特定される範囲にまで拡張することはできないので、本件訂正前の請求項3に係る発明は発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、本件訂正前の請求項3を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の請求項4?6に係る発明についても同様である。

(8)「La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)及びYb^(3+)の合計含有率(Ln^(3+):カチオン%)」、「アルカリ金属の合計含有率(Rn^(+):カチオン%)」について
本件特許明細書の記載からは、「La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)及びYb^(3+)の合計含有率(Ln^(3+):カチオン%)」、「アルカリ金属の合計含有率(Rn^(+):カチオン%)」を本件訂正前の請求項4に特定される範囲にまで拡張することはできないので、本件訂正前の請求項4に係る発明は発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、本件訂正前の請求項4を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の請求項5?6に係る発明についても同様である。

(9)「線膨張係数の最大値(α_(max))」について
「ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における、線膨張係数の最大値(α_(max))が1500×10^(-7)K^(-1)以下である」との発明特定事項を有する本件訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえないから、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、本件訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?6に係る発明についても同様である。

(10)「屈折率(nd)」、「アッベ数(νd)」について
本件特許明細書の記載からは、本件訂正前の請求項1の、「屈折率(nd)」及び「アッベ数(νd)」の上限値が特定されない発明特定事項を満足する成分調整手段を認識できないから、「屈折率(nd)」及び「アッベ数(νd)」を本件訂正前の請求項1に特定される範囲にまで拡張することはできないので、本件訂正前の請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。
このことは、本件訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?6に係る発明についても同様である

3 特許法第36条第6項第2号(明確性要件違反)について
(1)「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量」について
本件訂正前の請求項1に係る発明において、「Mg^(2+)の含有率」の上限値の「4.5%」と「Sr^(2+)の含有率」の上限値の「10.0%」を合計しても「14.5%」にしかならず、「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量が2.2?30.0%」との発明特定事項と合致しないので、本件訂正前の請求項1に係る発明は明確でない。
このことは、本件訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用する本件訂正前の請求項2?6に係る発明についても同様である。

(2)「F^(-)の含有率」、「O^(2-)の含有率」について
令和 2年11月 9日の訂正請求による訂正後の請求項1の「F^(-)の含有率」と「O^(2-)の含有率」の発明特定事項が矛盾しているから、前記訂正後の請求項1に係る発明は明確でない。
このことは、前記訂正後の請求項1を引用する前記訂正後の請求項5?6に係る発明についても同様である。

4 特許法第29条第1項第3号(新規性)、第2項(進歩性)について
本件訂正前の請求項1?4に係る発明は甲第1号証に記載された発明である。
本件訂正前の請求項5?6に係る発明は甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第1項第3号(新規性)及び第2項(進歩性)について
本件訂正前の請求項1?4に係る発明は甲第1号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件訂正前の請求項5?6に係る発明は甲第1号証に記載された発明である。

2 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件違反)について
甲第1号証の実施例12には、本件訂正前の請求項1で特定される組成要件を全て満足する「光学ガラス」が記載されており、当該「光学ガラス」は「線膨張係数の最大値(α_(max))」も必然的に満足するはずであるが、仮に、甲第1号証の実施例12の「光学ガラス」が「線膨張係数の最大値(α_(max))」を満足しない場合、組成要件以外の何らかの特殊な追加的処理が必要になるはずであるところ、本件特許明細書には係る追加的処理は記載されていないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施できる程度に記載されていない。

第6 取消理由及び取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
事案に鑑み、以下、前記第4の取消理由及び第5の取消理由で採用しなかった特許異議申立理由についてまとめて判断する。
1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)はじめに
ア 本件発明1は、「カチオン%(モル%)表示で、P^(5+)の含有率が25.0?46.6%、Al^(3+)の含有率が8.8?30.0%、Mg^(2+)の含有率が0%を超え4.5%以下、Ca^(2+)の含有率が0%を超え13.0%以下、Sr^(2+)の含有率が0?10.0%、Ba^(2+)の含有率が25.0%以上38.8%以下、Gd^(3+)の含有率が0?1.0%未満、Zn^(2+)の含有率が0?2.0%(但し、Zn^(2+)を2.0%含有するものを除く)、アニオン%(モル%)表示で、F^(-)の含有率が24.5?60.0%、O^(2-)の含有率が40.0?75.5%であり、Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量が2.2?14.5%、Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))が1.0?2.62であり、アルカリ土類金属の合計含有率(R^(2+):カチオン%)が40.0?53.6%であ」る、との発明特定事項(以下、「本件組成要件」という。)、及び、「屈折率(nd)が1.50以上1.584以下であり、68.9以上85以下のアッベ数(νd)を有し、ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における、線膨張係数の最大値(α_(max))が1100×10^(-7)K^(-1)以下である」、との発明特定事項(以下、「本件物性要件」という。)を有するものである。

イ 一方、本件特許明細書には、以下(a)?(c)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。「…」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(a)「【0004】
このようなプレス成形に用いられる光学ガラスとしての中でも特に、光学素子の薄型化や軽量化を図ることが可能な、高い屈折率(nd)と高いアッベ数(νd)を有するガラスの需要が非常に高まっている。このような高屈折率低分散ガラスとしては、例えば1.50以上の屈折率を有する光学ガラスとして、特許文献1?5に代表されるようなガラスが知られている。

【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1?5に記載の光学ガラスでは、プレス成形を行った際にガラスの割れやクラックが多く発生していた。ここで、プレス成形後に割れやクラックが発生したガラスは、もはや光学素子として用いることができない。そのため、プレス成形時における割れやクラックに低減された光学ガラスの開発が望まれている。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、所望の高い屈折率及びアッベ数を有しながらも、プレス成形時におけるガラスの割れやクラックを低減でき、ひいては光学素子の生産性を高めることが可能な光学ガラスと、これを用いたプリフォーム及び光学素子を提供することにある。」

(b)「【0061】
[物性]
本発明の光学ガラスでは、ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における線膨張係数の最大値(α_(max))は、1500×10^(-7)K^(-1)以下であることが好ましい。これにより、特に屈折率が高く薄型の光学素子を作製する場合であっても、ガラス転移点より高い温度に加熱してプレス成形を行ったときにガラスが割れ難くなるため、光学素子の生産性を高めることができる。このようにガラスが割れ難くなる理由として、例えば、ガラスを加熱して軟化させる際や、軟化したガラスをプレス成形して冷却する際に、ガラス内部の温度差によって、ガラス内部に線膨張係数の大きいガラス転移点以上の高温部と、線膨張係数の小さいガラス転移点以下の低温部に分かれたときに、高温部の熱膨張や熱収縮が小さくなることで、高温部の熱膨張や熱収縮によって低温部に掛かる力が小さくなることが挙げられる。
従って、本発明の光学ガラスでは、ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における線膨張係数の最大値(α_(max))の上限は、好ましくは1500×10^(-7)K^(-1)、より好ましくは1300×10^(-7)K^(-1)、さらに好ましくは1100×10^(-7)K^(-11)、さらに好ましくは1015×10^(-7)K^(-1)とする。…」

(c)「【実施例】
【0069】
本発明の光学ガラスである実施例1?6及び比較例のガラスの組成(カチオン%表示又はアニオン%表示のモル%で示す)、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、ガラス転移点(Tg)、屈伏点(At)及び線膨張係数の最大値(α_(max))、離型膜との接触角を表1に示す。…

【0075】
【表1】

【0076】
表1に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における線膨張係数の最大値(α_(max))の上限が1500×10^(-7)K^(-1)以下、より詳細には1020×10^(-7)K^(-1)以下であり、所望の範囲内であった。一方、比較例(No.A)のガラスは、線膨張係数の最大値(α_(max))の上限が1500×10^(-7)K^(-1)を上回っていた。…

【0081】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、アッベ数が所望の範囲内にありながらも、所望の高い屈折率を有しており、且つ、線膨張係数の最大値(α_(max))の上限が小さいことが明らかになった。
【0082】
さらに、本発明の実施例の光学ガラスに対してプレス成形を行い、レンズやプリズムの形状に加工した。その結果、実施例の光学ガラスをプレス成形したときに、比較例のガラスに比べて、成形後のガラスに割れが生じ難いことが明らかになった。そのため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例のガラスに比べて線膨張係数の最大値が小さいため、プレス成形後のガラスに割れが生じ難いことが推察される。」

ウ 前記イ(a)?(c)によれば、本件発明は、高屈折率低分散の「光学ガラス」では、プレス成形を行った際にガラスの割れやクラックが多く発生していた、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものであって、所望の高い屈折率及びアッベ数を有する高屈折率低分散の「光学ガラス」において、「線膨張係数の最大値(α_(max))」を「1100×10^(-7)K^(-1)以下」と小さくすることによって、プレス成形して冷却する際の高温部の熱膨張や熱収縮によって低温部に掛かる力が小さくなり、プレス成形後のガラスに割れが生じにくくなることで、本件課題を解決するものである。

エ 前記ア、ウによれば、本件発明は、「光学ガラス」を本件組成要件及び本件物性要件によって特定するものであり、そのうち、本件物性要件は、本件課題を、「屈折率(nd)が1.50以上1.584以下であり、68.9以上85以下のアッベ数(νd)を有し、ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における、線膨張係数の最大値(α_(max))が1100×10^(-7)K^(-1)以下である」という定数により定量的に表現するものであって、本件組成要件で特定される光学ガラスを、本件課題を解決できるものに限定するための要件ということができる。
そして、このような本件発明に係る特許請求の範囲の構成からすれば、その記載がサポート要件に適合するものといえるためには、本件組成要件で特定される「光学ガラス」が発明の詳細な説明に記載されていることに加えて、本件組成要件で特定される「光学ガラス」が高い蓋然性をもって本件物性要件を満たし得るものであることを、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載や示唆又は原出願の出願時の技術常識から当業者が認識できることが必要というべきである(乙第1号証33頁4行?14行)ので、以下、この観点に基づいて検討する。

(2)本件発明1について
(2-1)「屈折率(nd)」、「アッベ数(νd)」及び「線膨張係数の最大値(α_(max))」について
ア 前記(1)エによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件物性要件を満足する「光学ガラス」が本件課題を解決できることを理解するから、本件実施例の「屈折率(nd)」、「アッベ数(νd)」及び「線膨張係数の最大値(α_(max))」は、本件物性要件に特定される範囲にまで拡張できるというべきであり、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された発明というべきである。

イ ここで、申立人は、令和 2年 7月13日提出の意見書(7頁2行?8頁15行)において、特許権者が令和 2年 4月30日に提出した意見書(20頁3行?16行)において依拠する前記「実施例5改変組成B」は、乙第2号証である実験報告書 株式会社オハラ 令和 2年 4月10日によって初めて提示されたものであり、本件特許明細書の開示内容ではないので、前記「実施例5改変組成B」に基づく主張は考慮されるべきではない旨、特許権者が提出した改変組織で達成されている「線膨張係数の最大値(α_(max))」は920×10^(-7)K^(-1)でしかなく、本件実施例を改変して得られる組成で達成できる「線膨張係数の最大値(α_(max))」は、最大でも920×10^(-7)K^(-1)でしかないことが強く推認され、仮に、乙第2号証の記載を考慮したとしても、当業者は、920×10^(-7)K^(-1)を超えて1100×10^(-7)K^(-1)の範囲まで、成形後のガラスに割れが生じ難いことが理解できないから、「線膨張係数の最大値(α_(max))」を本件物性要件まで拡張ないし一般化できるとはいえない旨を主張している。
また、申立人は、令和 3年 6月16日提出の意見書(3頁16行?6頁13行)において、乙第6号証の「実施例5改変組成A改(アッベ数81.01)」及び「実施例5改変組成A’改(アッベ数80.46)」は、アッベ数の上限値である85とは大きくかい離し、本件発明1の「68.9以上85以下のアッベ数(νd)を有」する、との発明特定事項をサポートしない旨、本件組成要件の範囲では「屈折率が1.50以上でアッベ数が82以上の光学ガラス」は得られないと解されるから、本件発明1は、組成要件を限定しながらも、係る組成要件では実現不可能な物性を有する「光学ガラス」を含むものであり、サポート要件を欠く旨、本件組成要件ではフッ素が60%の場合が低分散化(高アッベ数化)の限界であり、乙第6号証の「実施例5改変組成A改(アッベ数81.01)」、「実施例5改変組成A’改(アッベ数80.46)」が実現可能な上限値といえるので、本件発明1で特定されるアッベ数の範囲において本件物性要件を満足する成分調整手段を認識できないから、アッベ数を本件発明1の範囲まで拡張できないので、本件発明1が発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない旨を主張している。

ウ そこで、以下、前記イの主張について検討すると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件物性要件を満足する「光学ガラス」が本件課題を解決できることを理解することは前記アに記載のとおりであって、具体的には、「線膨張係数の最大値(α_(max))」を「1100×10^(-7)K^(-1)以下」とすることで、例えば1576×10^(-7)K^(-1)である比較例と比較して、成形後のガラスに割れが生じ難くなることを理解できるのであり、このことは、「実施例5改変組成B」等の改変組成のガラスによることなく、「実施例5」によっても裏付けられるものであるし、「実施例5改変組成B」等の、乙第2、6号証に記載される改変組成のガラスは、いずれも、組成及び物性が全て本件特許明細書に開示される範囲のものであり、本件発明の技術思想を超えるものではないから、これらの改変組成のガラスに基づく主張が不当であるともいえない。
また、本件発明においては、「線膨張係数の最大値(α_(max))」を小さくすることでガラスが割れ難くなると理解できることからみれば、仮に、本件実施例を改変して得られる組成で達成できる「線膨張係数の最大値(α_(max))」が、最大でも920×10^(-7)K^(-1)でしかないことが強く推認されるとしても、「線膨張係数の最大値(α_(max))」を「1100×10^(-7)K^(-1)以下」とすることで、例えば1576×10^(-7)K^(-1)である比較例と比較して、成形後のガラスに割れが生じ難くなり、本件課題を解決できることに変わりはないから、当業者は、920×10^(-7)K^(-1)を超えて1100×10^(-7)K^(-1)の範囲まで成形後のガラスに割れが生じ難いことを理解するので、本件実施例の「線膨張係数の最大値(α_(max))」は、本件物性要件まで拡張ないし一般化できるというべきである。
更に、仮に、乙第6号証の「実施例5改変組成A改(アッベ数81.01)」、「実施例5改変組成A’改(アッベ数80.46)」が、本件物性要件のアッベ数の上限値である85とは大きくかい離し、本件組成要件の範囲では「屈折率が1.50以上でアッベ数が82以上の光学ガラス」は得られないと解され、本件発明1での組成要件ではフッ素が60%の場合が低分散化(高アッベ数化)の限界であり、乙第6号証の「実施例5改変組成A改(アッベ数81.01)」、「実施例5改変組成A’改(アッベ数80.46)」が実現可能な上限値といえるとしても、本件物性要件を満足する「光学ガラス」が本件課題を解決できることに変わりはないから、本件実施例の「屈折率(nd)」及び「アッベ数(νd)」も、本件物性要件に特定される範囲にまで拡張できるというべきである。
よって、申立人の前記イの主張はいずれも採用できない。

エ 前記ア、ウによれば、本件物性要件は発明の詳細な説明に記載された事項といえる。

(2-2)「P^(5+)の含有率」、「Al^(3+)の含有率」について
ア 本件特許明細書の【0075】【表1】の実施例1?6(以下、「本件実施例」という。)における「P^(5+)の含有率」の最小値は35.7%(実施例1)であって、本件組成要件の「P^(5+)の含有率」の下限値とは10.7%の差があり、本件実施例における「Al^(3+)の含有率」の最大値は10.7%(実施例1)であって、本件組成要件の「Al^(3+)の含有率」の上限値とは19.3%の差があるものであるが、本件特許明細書の【0030】、【0031】によれば、「P^(5+)」は、ガラス形成成分であるため必須成分であり、「P^(5+)の含有率」の下限を25.0%とすることで、ガラスの耐失透性を高め、接触角を上昇させることができるものであり、「Al^(3+)」は、ガラスの微細構造の骨格形成に寄与することで耐失透性を高められる必須成分であるが、その含有率を30.0%以下とすることで、ガラスの線膨張係数の最大値を低くでき、且つ屈折率やアッベ数の低下を抑えられるものである。

イ そうすると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「P^(5+)の含有率」の下限を25.0%とし、「Al^(3+)の含有率」を30.0%以下とすることで、本件物性要件を満たす「光学ガラス」とできることを理解できるものであり、このことは、乙第6号証に記載される、「P^(5+)の含有率」が25.4%、「Al^(3+)の含有率」が30.0%、「屈折率(nd)」が1.515、「アッベ数(νd)」が81.01、「ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における、線膨張係数の最大値(α_(max))」(以下、「線膨張係数の最大値(α_(max))」という。)が997×10^(-7)K^(-1)である「実施例5改変組成A改」によっても高い蓋然性をもって裏付けられるものである。

ウ してみれば、本件実施例の「P^(5+)の含有率」及び「Al^(3+)の含有率」は本件組成要件に特定される範囲にまで拡張できるというべきである。

(2-3)「Mg^(2+)の含有率」、「Ca^(2+)の含有率」、「Sr^(2+)の含有率」、「Ba^(2+)の含有率」について
ア 本件実施例における「Mg^(2+)の含有率」の最小値は2.2%(実施例6)であって、本件組成要件の「Mg^(2+)の含有率」の下限値とは約2.2%の差があり、「Ca^(2+)の含有率」の最小値は8.6%(実施例4、5)、最大値は10.3%(実施例1)であって、本件組成要件の「Ca^(2+)の含有率」の下限値、上限値とは、それぞれ約8.6%、2.7%の差があり、「Ba^(2+)の含有率」の最小値は32.2%(実施例5、6)であって、本件組成要件の「Ba^(2+)の含有率」の下限値とは7.2%の差があり、また、本件実施例には「Sr^(2+)」を含有するものは記載されていない。
ここで、本件特許明細書の【0032】?【0035】によれば、「Mg^(2+)」は、0%超含有する場合に、ガラスの線膨張係数の最大値を低くでき、耐失透性を高められるものであり、「Ca^(2+)」は、0%超含有する場合に、ガラスの線膨張係数の最大値を小さくでき、耐失透性を高められる必須成分である一方で、その含有率を13.0%以下とすることで、「Ca^(2+)」の過剰な含有によるガラスの耐失透性や屈折率の低下を抑えられるものであり、「Ba^(2+)」は、25.0%以上含有する場合に、ガラスの耐失透性を高めながらも、線膨張係数の最大値を低くでき、低い分散性を維持し、かつ屈折率を高められるものであり、「Sr^(2+)」は、0%超含有する場合に、ガラスの線膨張係数の最大値を下げられ、ガラスの耐失透性を高められ、且つ屈折率の低下を抑えられる一方で、その含有率を10.0%以下とすることで、「Ca^(2+)」の含有量をより増加させても安定なガラスを得ることができ、また、「Sr^(2+)」の過剰な含有によるガラスの耐失透性や屈折率の低下を抑えられるものである。

イ そうすると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「Mg^(2+)の含有率」を0%を超えるものとし、「Ca^(2+)の含有率」を0%を超え13.0%以下とし、「Ba^(2+)の含有率」を25.0%以上とし、「Sr^(2+)の含有率」を0?10.0%以下とすることで、本件物性要件を満たす「光学ガラス」とできることを理解できるものであり、このことは、「Mg^(2+)の含有率」が0.001%である前記「実施例5改変組成A改」、乙第6号証に記載される、「Ca^(2+)の含有率」が0.001%、「屈折率(nd)」が1.513、「アッベ数(νd)」が80.46、「線膨張係数の最大値(α_(max))」が937×10^(-7)K^(-1)である「実施例5改変組成A’改」、乙第2号証に記載される、「Ca^(2+)の含有率」が13.0%、「Ba^(2+)の含有率」が25.0%、「屈折率(nd)」が1.5586、「アッベ数(νd)」が71.0、「線膨張係数の最大値(α_(max))」が905×10^(-7)K^(-1)である「実施例2改変組成A」、「Sr^(2+)の含有率」が9.8%、「Ba^(2+)の含有率」が25.0%、「屈折率(nd)」が1.5608、「アッベ数(νd)」が70.8、「線膨張係数の最大値(α_(max))」 が860×10^(-7)K^(-1)である「実施例2改変組成A’」によっても高い蓋然性をもって裏付けられるものである。

ウ してみれば、本件実施例の「Mg^(2+)の含有率」、「Ca^(2+)の含有率」、「Sr^(2+)の含有率」、「Ba^(2+)の含有率」は本件組成要件に特定される範囲にまで拡張できるというべきである。

(2-4)「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量」について
ア 本件実施例における「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量」の最大値は4.5%(実施例1)であって、本件組成要件の「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量」の上限値とは10%の差があるものである。
ここで、本件特許明細書の【0037】によれば、「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量」の上限を15.0%、更に好ましくは10.0%としたときに、ガラスの線膨張係数の最大値をより低くできるものである。

イ そうすると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量」の上限値を14.5%とすることで、本件物性要件を満たす「光学ガラス」とできることを理解できるものであり、このことは、「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量」が13.9%である前記「実施例2改変組成A’」によっても高い蓋然性をもって裏付けられるものである。

ウ してみれば、本件実施例の「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量」は本件組成要件に特定される範囲にまで拡張できるというべきである。

(2-5)「アルカリ土類金属の合計含有率(R^(2+):カチオン%)」について
ア 本件実施例における「アルカリ土類金属の合計含有率(R^(2+):カチオン%)」の最小値は44.6%(実施例5、6)であって、本件組成要件の「アルカリ土類金属の合計含有率(R^(2+):カチオン%)」の下限値とは4.6%の差があるものである。
ここで、本件特許明細書の【0038】によれば、「アルカリ土類金属の合計含有率(R^(2+):カチオン%)」の下限を40.0%としたときに、ガラスの線膨張係数の最大値を低くでき、かつより耐失透性の高いガラスを得ることができるものである。

イ そうすると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「アルカリ土類金属の合計含有率(R^(2+):カチオン%)」の下限値を40.0%とすることで、本件物性要件を満たす「光学ガラス」とできることを理解できるものであり、このことは、乙第2号証に記載される、「アルカリ土類金属の合計含有率(R^(2+):カチオン%)」が40.0%、「屈折率(nd)」が1.570、「アッベ数(νd)」が69.5、「線膨張係数の最大値(α_(max))」が920×10^(-7)K^(-1)である「実施例5改変組成B」によっても高い蓋然性をもって裏付けられるものである。

ウ してみれば、本件実施例の「アルカリ土類金属の合計含有率(R^(2+):カチオン%)」は本件組成要件に特定される範囲にまで拡張できるというべきである。

(2-6)「F^(-)の含有率」、「O^(2-)の含有率」について
ア 本件実施例における「F^(-)の含有率」の最大値は34.0%(実施例1)であって、本件組成要件の「F^(-)の含有率」の上限値とは26.0%の差があり、本件実施例における「O^(2-)の含有率」の最小値は66.0%(実施例1)であって、本件組成要件の「O^(2-)の含有率」の下限値とは26.0%の差があるものである。
ここで、本件特許明細書の【0053】によれば、「F^(-)」は、含有率の上限を好ましくは60.0%以下とすることで、ガラスの摩耗度の低下を抑えられるものであり、【0054】によれば、「O^(2-)」は、より好ましくは40.0%以上含有することで、ガラスの失透や、磨耗度の上昇を抑制できるものである。

イ そうすると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「F^(-)の含有率」の上限を60.0%とし、「O^(2-)の含有率」の下限を40.0%とすることで、本件物性要件を満たす「光学ガラス」とできることを理解できるものであり、このことは、「F^(-)の含有率」が60.0%、「O^(2-)の含有率」が40.0%である前記「実施例5改変組成A改」によっても高い蓋然性をもって裏付けられるものである。

ウ してみれば、本件実施例の「F^(-)の含有率」及び「O^(2-)の含有率」は本件組成要件に特定される範囲にまで拡張できるというべきである。

(2-7)「Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))」について
ア 本件実施例における「Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))」の値は2.62のみであって、本件組成要件の「Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))」の下限値とは1.62の差があるものである。
ここで、本件特許明細書の【0036】によれば、「Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))」の下限を1.0としたときに、線膨張係数の最大値を下げる作用が強いBa^(2+)によってガラスの線膨張係数の最大値をより低くできるものである。

イ そうすると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、「Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))」の下限値を1.0%とすることで、本件物性要件を満たす「光学ガラス」とできることを理解できるものであり、このことは、「Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))」が1.08である前記「実施例2改変組成A」によっても高い蓋然性をもって裏付けられるものである。

ウ してみれば、本件実施例の「Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))」は本件組成要件に特定される範囲にまで拡張できるというべきである。

(2-8)小括
前記(2-1)?(2-7)で検討したとおりであるから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された発明というべきである。
そして、このことは、本件発明1を引用する本件発明5及び6についても同様であるので、前記第4の2(1)?(6)、(9)及び(10)の取消理由は理由がない。

(3)請求項3及び4について
本件訂正により請求項3及び4は削除されたので、前記第4の2(7)及び(8)の取消理由は理由がない。

(4)小括
したがって、前記第4の2の取消理由はいずれも理由がない。

2 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について
(1)「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量」について
本件発明1は「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量が2.2?14.5%」との発明特定事項を有するものであり、前記発明特定事項は、「Mg^(2+)の含有率が0%を超え4.5%以下」、「Sr^(2+)の含有率が0?10.0%」との発明特定事項と合致するから、本件発明1の「Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量」は明確であるというべきである。

(2)「F^(-)の含有率」、「O^(2-)の含有率」について
本件発明1は「F^(-)の含有率が24.5?60.0%、O^(2-)の含有率が40.0?75.5%であり」との発明特定事項を有するものであり、「F^(-)の含有率」と「O^(2-)の含有率」の発明特定事項に矛盾はないから、本件発明1の「F^(-)の含有率」及び「O^(2-)の含有率」は明確であるというべきである。

(3)小括
したがって、本件発明1は明確であるというべきであり、このことは、本件発明1を引用する本件発明5及び6についても同様であるので、前記第4の3(1)、(2)の取消理由はいずれも理由がない。

3 特許法第29条第1項第3号(新規性)、第2項(進歩性)について
(1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には、以下(1a)?(1c)の記載がある。
(1a)「2.特許請求の範囲
重量パーセントで下記の組成を有する弗化物燐酸塩光学ガラス
(a) メタ燐酸塩として
Al(PO_(3))_(3) 13.0?39.0
Mg(PO_(3))_(2) 0?24.0
Ca(PO_(3))_(2) 1.0?20.0
Ba(PO_(3))_(2) 5.0?19.0
(メタ燐酸塩の総量は31?49重量パーセント)
(b) 弗化物として
MgF_(2) 2.0?13.0
SrF_(2) 0?20.0
BaF_(2) 1.0?33.0
AlF_(3) 0?8.0
YF_(3) 0?8.0
(弗化物の総量は19?47重量パーセント)
(c) 酸化物として
BaO 10.0?36.0
Y_(2)O_(3)及び/又はYb_(2)O_(3) 1.5?12.0
ZnO 0?6.0
pbO 0?29.0
Nb_(2)O_(5) 0?22.0
(酸化物の総量は20?42重量パーセント)。」(特許請求の範囲)

(1b)「本発明による光学ガラスの実施例の組成(重量パーセントで表示する。)屈折率(n^(d))、アッベ数(νd)および部分分散比(n^(d)-n^(c)/n_(F)-n^(c))をそれぞれ表1に示す。」(5頁右上欄1行?4行)

(1c)「

」(5頁左下欄?右下欄)

イ 前記ア(1a)によれば、甲第1号証には「弗化物燐酸塩光学ガラス」に係る発明が記載されており、前記ア(1b)、(1c)の実施例12の「弗化物燐酸塩光学ガラス」に注目すれば、甲第1号証には以下の発明が記載されているといえる。
「重量パーセントで、
Al(PO_(3))_(3):22.10、Ca(PO_(3))_(2):2.21、Ba(PO_(3))_(2):13.18、MgF_(2):2.00、BaF_(2):24.56、AlF_(3):4.70、BaO:27.99、Y_(2)O_(3:)3.78の組成を有し、
屈折率n^(d)が1.59442、アッベ数νdが67.63である、弗化物燐酸塩光学ガラス。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)対比・判断
(2-1)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明に係る「弗化物燐酸塩光学ガラス」は、本件発明1に係る「光学ガラス」に相当する。

(イ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「光学ガラス」の点で一致し、以下の点で相違している。
相違点1:本件発明1は、本件組成要件に係る発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は、「重量パーセントで、Al(PO_(3))_(3):22.10、Ca(PO_(3))_(2):2.21、Ba(PO_(3))_(2):13.18、MgF_(2):2.00、BaF_(2):24.56、AlF_(3):4.70、BaO:27.99、Y_(2)O_(3:)3.78の組成を有」する点。

相違点2:本件発明1は、本件物性要件に係る発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は、「屈折率n^(d)が1.59442、アッベ数νdが67.63」であり、「線膨張係数の最大値(α_(max))」が明らかでない点。

イ 判断
(ア)まず、前記ア(イ)の相違点1について検討すると、甲1発明の組成をカチオン%(モル%)及びアニオン%(モル%)に換算すると、P^(5+):38.33%、Al^(3+):14.76%、Mg^(2+):3.39%、Ca^(2+):1.18%、Sr^(2+):0.00%、Ba^(2+):38.80%、Gd^(3+):0.00%、Zn^(2+):0.00%、Y^(3+):3.54%、F^(-):27.85%、O^(2-):72.14%であるので、これに基づいて「Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))」を算出すると、Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+))=38.80/(3.39+1.18+0.00)=38.80/4.57=8.49であって、本件組成要件の「Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))が1.0?2.62であ」る、との発明特定事項と合致しない。
したがって、前記相違点1は実質的な相違点であるから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。

(イ)また、甲第1号証には、「Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))」について記載も示唆もされておらず、甲1発明において、「Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))」を「1.0?2.62」とする動機付けは存在しないものであり、このことは、甲第2号証の記載事項に左右されるものでもない。
そうすると、甲1発明において、「光学ガラス」を、本件組成要件についての前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1を、甲1発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-2)本件発明5?6について
(ア)本件発明1を引用する本件発明5?6と甲1発明とを対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも前記(2-1)ア(イ)の相違点1の点で相違する。
そして、前記相違点1は実質的な相違点であることは前記(2-1)イ(ア)に記載のとおりであるから、本件発明5?6が甲1発明であるとはいえない。

(イ)更に、前記(2-1)イ(イ)に記載したのと同様の理由により、本件発明1を引用する本件発明5?6も、そのほかの相違点について検討するまでもなく、甲1発明及び甲第2号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2-3)令和 3年 6月16日提出の意見書における申立人の主張について
ア 申立人は、令和 3年 6月16日提出の意見書(6頁14行?8頁6行)において、特許権者は、乙第2号証、乙第6号証のように、明細書に記載のない後出しの追加製造例に基づいてサポート要件の充足を主張しており、明細書に記載された数値範囲であれば、実施例とのかい離が大きくても本件特許明細書に記載されているに等しい事項であるとの前提で、本件特許明細書に記載されていない製造例によるサポート要件の充足を主張しているが、そうであれば、甲第1号証についても同様に、明細書に記載された数値範囲であれば、実施例はなくても「明細書に記載されているに等しい事項」であると認定すべきであり、甲第1号証に具体的に開示された「光学ガラス」のカチオン組成、アニオン組成、アッベ数、屈折率の最大値、最小値、平均値から本件組成要件を満足するガラスを導出することは可能であり、本件組成要件を満足する「光学ガラス」は本件物性要件も満足するので、本件発明1は、甲第1号証に記載されているに等しい事項である旨を主張している。

イ 以下、前記アの主張について検討すると、乙第2、6号証に記載される改変組成のガラスは、いずれも、組成要件及び物性要件が全て本件特許明細書に開示される範囲内のものであり、本件発明の技術思想を超えるものではないから、これらの改変組成のガラスに基づく主張が不当であるとはいえないことは、前記1(2)(2-1)ウに記載のとおりである。
一方、甲第1号証には、高屈折率低分散の「光学ガラス」では、プレス成形を行った際にガラスの割れやクラックが多く発生していた、という課題を解決するために、「光学ガラス」を本件物性要件を満足するものとする、という技術思想は記載も示唆もされていないし、そのような技術常識も存在しない。
すると、前記課題を解決するために、甲第1号証に具体的に記載される「光学ガラス」の組成を調節して、物性要件を本件物性要件に合致させることは、甲第1号証に記載される技術思想を超えるものにほかならず、甲第1号証に記載されているに等しい事項であるとはいえないから、甲第1号証の明細書に記載された数値範囲であれば、実施例はなくても「明細書に記載されているに等しい事項」であると認定すべきであるとはいえず、本件発明1が、甲第1号証に記載されているに等しい事項であるともいえないので、申立人の前記アの主張は採用できない。

(2-4)小括
したがって、本件発明1、5及び6に係る特許は、特許法第29条第1項及び第2項に違反して特許されたものではないので、前記第4の4の取消理由及び第5の1の特許異議申立理由はいずれも理由がない。

4 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について
本件発明1と前記実施例12に注目した甲1発明とを対比すると、前記相違点1の点で相違することは、前記3(2)(2-1)ア(イ)に記載のとおりであるから、前記実施例12に、本件発明1で特定される本件組成要件を満足する「光学ガラス」が記載されるものではなく、前記実施例12の「光学ガラス」が「線膨張係数の最大値(α_(max))」を満足しない場合であっても、組成要件以外の何らかの特殊な追加的処理が必要になるものではない。
そして、本件実施例には、本件組成要件及び本件物性要件を満たす「光学ガラス」の製造方法が記載されているから、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて本件発明を実施できるので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するというべきであるから、前記第5の2の特許異議申立理由は理由がない。

第7 むすび
以上のとおりであるので、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1、5、6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、5、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2?4は、本件訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項2?4に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン%(モル%)表示で、
P^(5+)の含有率が25.0?46.6%、
Al^(3+)の含有率が8.8?30.0%、
Mg^(2+)の含有率が0%を超え4.5%以下、
Ca^(2+)の含有率が0%を超え13.0%以下、
Sr^(2+)の含有率が0?10.0%、
Ba^(2+)の含有率が25.0%以上38.8%以下、
Gd^(3+)の含有率が0?1.0%未満、
Zn^(2+)の含有率が0?2.0%(但し、Zn^(2+)を2.0%含有するものを除く)、
アニオン%(モル%)表示で、
F^(-)の含有率が24.5?60.0%、
O^(2-)の含有率が40.0?75.5%であり、
Mg^(2+)含有率及びSr^(2+)含有率の合計量が2.2?14.5%、
Sr^(2+)含有率、Ca^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の合計に対するBa^(2+)含有率の比(Ba^(2+)/(Mg^(2+)+Ca^(2+)+Sr^(2+)))が1.0?2.62であり、
アルカリ土類金属の合計含有率(R^(2+):カチオン%)が40.0?53.6%であり、
屈折率(nd)が1.50以上1.584以下であり、68.9以上85以下のアッベ数(νd)を有し、
ガラス転移点(Tg)と屈伏点(At)との間の温度範囲における、線膨張係数の最大値(α_(max))が1100×10^(-7)K^(-1)以下である光学ガラス。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
請求項1に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項6】
請求項1に記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-07-27 
出願番号 特願2018-7029(P2018-7029)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C03C)
P 1 651・ 121- YAA (C03C)
P 1 651・ 537- YAA (C03C)
P 1 651・ 851- YAA (C03C)
P 1 651・ 536- YAA (C03C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 和瀬田 芳正  
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 末松 佳記
金 公彦
登録日 2019-04-19 
登録番号 特許第6513837号(P6513837)
権利者 株式会社オハラ
発明の名称 光学ガラス、光学素子及びプリフォーム  
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