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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B23K
管理番号 1377813
異議申立番号 異議2021-700341  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-14 
確定日 2021-08-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6767506号発明「高信頼性鉛フリーはんだ合金」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6767506号の請求項1?32に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6767506号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?32(以下、それぞれ「本件特許請求項1」?「本件特許請求項32」という。)に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)5月2日に国際出願され、令和2年9月23日にその特許権の設定登録がされ、同年10月14日に特許掲載公報が発行され、その後、令和3年4月14日に、その請求項1?32(全請求項)に係る特許に対し、特許異議申立人である山下桂(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
なお、特許掲載公報のとおり、本件特許は、国際出願時のパリ条約による優先権主張が認められることなく特許されたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?32に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明32」といい、これらをまとめて「本件特許発明」ということがある。また、本件特許の願書に添付した明細書及び図面を「本件特許明細書」及び「本件特許図面」という。)は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1?32に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。

「 【請求項1】
鉛フリーはんだ合金であって、
8?15重量%のアンチモンと、
0.05?2重量%のビスマスと、
2.5?5重量%の銀と、
0.5?1.5重量%の銅と、
以下のうちの1つ以上と:
1重量%までのニッケル、
1重量%までのコバルト、
1重量%までのチタン、
1重量%までのマンガン、
1重量%までのゲルマニウム、
10重量%までのアルミニウム、
10重量%までのケイ素、
任意に以下のうちの1つ以上と:
5重量%までのインジウム、
1重量%までのクロム、
1重量%までの亜鉛、
1重量%までの砒素、
1重量%までの鉄、
1重量%までのリン、
1重量%までの金、
1重量%までのガリウム、
1重量%までのテルル、
1重量%までのセレン、
1重量%までのカルシウム、
1重量%までのバナジウム、
1重量%までのモリブデン、
1重量%までの白金、
1重量%までの希土類元素、
残部であるスズ及び不可避の不純物と、
を含むことを特徴とする鉛フリーはんだ合金。
【請求項2】
前記合金が、8.5?13重量%のアンチモンを含む請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項3】
前記合金が、0.08?2重量%のビスマスを含む請求項1から2のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項4】
前記合金が、2.5?4.2重量%の銀を含む請求項1から3のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項5】
前記合金が、0.001?1重量%のニッケルを含む請求項1から4のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項6】
前記合金が、0.001?1重量%のコバルトを含む請求項1から5のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項7】
前記合金が、0.001?1.0重量%のチタンを含む請求項1から6のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項8】
前記合金が、0.001?1.0重量%のマンガンを含む請求項1から7のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項9】
前記合金が、0.001?1.0重量%のゲルマニウムを含む請求項1から8のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項10】
前記合金が、0.001?1.0重量%のアルミニウムを含む請求項1から9のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項11】
前記合金が、0.001?10重量%のケイ素を含む請求項1から10のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項12】
前記合金が、9?11重量%のアンチモン、0.5?1.5重量%のビスマス、2.5?3.5重量%の銀、0.5?1.5重量%の銅、0.01?0.05重量%のニッケル、残部であるスズ、及び不可避の不純物を含む請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項13】
前記合金が、9?11重量%のアンチモン、0.5?1.5重量%のビスマス、3.5?4.5重量%の銀、0.5?1.5重量%の銅、0.01?0.05重量%のニッケル、残部であるスズ、及び不可避の不純物を含む請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項14】
前記合金が、9?11重量%のアンチモン、0.2?0.8重量%のビスマス、2.5?3.5重量%の銀、0.5?1.5重量%の銅、0.01?0.05重量%のニッケル、残部であるスズ、及び不可避の不純物を含む請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項15】
前記合金が、9?11重量%のアンチモン、0.2?0.8重量%のビスマス、2.5?3.5重量%の銀、0.5?1.5重量%の銅、0.01?0.05重量%のニッケル、0.005?0.07重量%のゲルマニウム、残部であるスズ、及び不可避の不純物を含む請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項16】
前記合金が、9?11重量%のアンチモン、0.1?0.4重量%のビスマス、2.5?3.5重量%の銀、0.5?1.5重量%の銅、0.01?0.05重量%のニッケル、残部であるスズ、及び不可避の不純物を含む請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項17】
前記合金が、9?11重量%のアンチモン、0.1?0.4重量%のビスマス、2.5?3.5重量%の銀、0.5?1.5重量%の銅、0.01?0.05重量%のニッケル、0.005?0.015重量%のゲルマニウム、残部であるスズ、及び不可避の不純物を含む請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項18】
前記合金が、9?11重量%のアンチモン、0.1?0.4重量%のビスマス、2.5?3.5重量%の銀、0.5?1.5重量%の銅、0.01?0.05重量%のニッケル、0.005?0.015重量%のマンガン、残部であるスズ、及び不可避の不純物を含む請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項19】
前記合金が、9?11重量%のアンチモン、0.1?0.4重量%のビスマス、2.5?3.5重量%の銀、0.5?1.5重量%の銅、0.01?0.05重量%のニッケル、0.005?0.015重量%のチタン、残部であるスズ、及び不可避の不純物を含む請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項20】
前記合金が、9?11重量%のアンチモン、0.1?0.4重量%のビスマス、2.5?3.5重量%の銀、0.5?1.5重量%の銅、0.01?0.05重量%のニッケル、0.01?0.08重量%のコバルト、残部であるスズ、及び不可避の不純物を含む請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項21】
前記合金が、9?11重量%のアンチモン、0.05?0.2重量%のビスマス、3.5?4.5重量%の銀、0.5?1.5重量%の銅、0.01?0.05重量%のニッケル、0.005?0.05重量%のコバルト、残部であるスズ、及び不可避の不純物を含む請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項22】
前記合金が、9?11重量%のアンチモン、0.05?0.2重量%のビスマス、2.5?3.5重量%の銀、0.5?1.5重量%の銅、0.1?0.05重量%のニッケル、0.005?0.05重量%のチタン、残部であるスズ、及び不可避の不純物を含む請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項23】
前記合金が、215℃以上の固相線温度を有する請求項1から22のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項24】
バー、スティック、固体又はフラックス入りワイヤ、ホイル又はストリップ、フィルム、プリフォーム、又は粉末又はペースト、又はボールグリッドアレイ接合部又はチップスケールパッケージにおける使用のためのはんだ球、又は他のプリフォームされたはんだ片、又はリフロー又は固化されたはんだ接合部の形態であるか、又は銅リボンなどのはんだ付け可能な材料に予め適用される請求項1から23のいずれかに記載のはんだ合金。
【請求項25】
ペーストの形態である請求項24に記載のはんだ合金。
【請求項26】
プリフォームの形態である請求項24に記載のはんだ合金。
【請求項27】
請求項1から26のいずれかに記載の合金を含むことを特徴とするはんだ接合部。
【請求項28】
請求項27に記載のはんだ接合部を含むことを特徴とする高輝度LED(HBLED)、モータ制御、太陽集光装置セル、RF回路、又はマイクロ波回路。
【請求項29】
はんだ接合部を形成する方法であって、
(i)接合される2つ以上のワークピースを提供することと、
(ii)請求項1から26のいずれかに記載のはんだ合金を提供することと、
(iii)前記はんだ合金を、前記接合すべきワークピースの近傍で加熱することとを含む方法。
【請求項30】
ダイ取付けはんだ付け、ウェーブはんだ付け、表面実装技術はんだ付け、熱界面はんだ付け、手はんだ付け、レーザ及びRF誘導はんだ付け、ソーラーモジュールに対するはんだ付け、LEDパッケージ基板のはんだ付け、及び再加工はんだ付けにおける、請求項1から26のいずれかに記載の合金の使用。
【請求項31】
電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、モータ駆動装置、電力インバーター、風力タービン、又はレール牽引システムを含む用途(これらに限定されない)のための電力モジュールに対するはんだ付けにおける、請求項1から26のいずれかに記載の合金の使用。
【請求項32】
220℃以上の温度に合金を加熱することを含むはんだ付け方法における、請求項1から26のいずれかに記載の合金の使用。」

第3 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、次の甲第1号証?甲第21号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、申立ての理由として、以下の理由1?3により、本件特許請求項1?32に係る特許は取り消されるべきものである旨を主張している。

甲第1号証:特許第5638174号公報
甲第2号証:国際公開第2016/179358号
(その翻訳として特表2018-518368号公報)
甲第3号証:特開2002-96191号公報
甲第4号証:特開2012-223784号公報
甲第5号証:国際公開第2016/179358号
甲第6号証:特開2005-153010号公報
甲第7号証:特開2007-237250号公報
甲第8号証:特開2007-237251号公報
甲第9号証:特開2015-20182号公報
甲第10号証:特開2016-113665号公報
甲第11号証:特開2011-235294号公報
甲第12号証:国際公開第2013/157572号
甲第13号証:国際公開第2014/024715号
甲第14号証:特許第5880766号公報
甲第15号証:特開2007-237249号公報
甲第16号証:特開2005-238328号公報
甲第17号証:国際公開第2007/029329号
甲第18号証:特開2007-75897号公報
甲第19号証:特表2008-521619号公報
甲第20号証:特開2014-36966号公報
甲第21号証:大阪地裁平成18年(ワ)第6162号、平成20年3月3日判決(無鉛はんだ合金事件)

1.理由1(サポート要件)
特許異議申立書3.(4.3)・理由1(理由1-1?1-5) 79?80頁
特許異議申立書3.(4.4)?(4.6) 81?93頁

(1)本件特許発明1?32については、以下の理由1-1?1-3のように、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許請求項1?32に係る特許は、同法第113条第4号に該当する。
・理由1-1
本件特許請求項1等におけるニッケル、コバルト、チタン、マンガン、ゲルマニウム(以下、「選択的必須添加元素」という)の含有量の範囲の記載は、下限を設定しないとともに、実施例で実証された含有量に対して著しく高い上限値を規定している。当該含有量の範囲は、課題を解決できない範囲を含む。
・理由1-2
本件特許請求項1等における選択的必須添加元素の含有量の範囲は、技術常識においてはんだ特性を損なうとされている高含有量の領域を含んでいる。当該領域については実施例のサポートもない。本件特許請求項1等における選択的必須添加元素の含有量の範囲は、本件特許発明の前記課題を解決できない範囲を含む。
・理由1-3
本件特許請求項1等は、アルミニウム及びケイ素の含有量の上限値を10重量%と特定しているところ、上限値付近について明細書によりサポートされているとはいえない。

(2)本件特許発明1?4、6?11、23?32については、以下の理由1-4のように、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許請求項1?4、6?11、23?32に係る特許は、同法第113条第4号に該当する。
・理由1-4
実施例の開示に基づけば、選択的必須添加元素のうちニッケルは課題解決に不可欠な構成である。ニッケルを含有することを必須としない本件特許請求項1および本件特許請求項2?4、6?11、23?32の記載には、本件特許発明の課題を解決するための手段が反映されていない。

(3)本件特許発明11、22については、以下の理由1-5のように、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許請求項11、22に係る特許は、同法第113条第4号に該当する。
・理由1-5
本件特許請求項11および本件特許請求項22は、実施例のデータが示されておらず明細書によりサポートされているとはいえない。

2.理由2(新規性)、理由3(進歩性)
特許異議申立書3.(4.3)・理由2,3 80?81頁
特許異議申立書3.(4.7) 93?123頁

(1)理由2-1(新規性)、理由3-1(進歩性)
本件特許発明1?6、12?14、24、25、27は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、仮にそうでないとしても、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件特許発明1?32は、甲1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許請求項1?32に係る特許は、特許法第113条第2号に該当する。

(2)理由2-2(新規性)、理由3-2(進歩性)
本件特許発明1?6、12?14、16、20、21、24?27は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、仮にそうでないとしても、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件特許発明1?32は、甲2に記載された発明及び周知常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許請求項1?32に係る特許は、特許法第113条第2号に該当する。

第4 当審の判断
当審は、以下に述べるとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許請求項1?32に係る特許を取り消すことはできないと判断した。

1.理由1(サポート要件)について
(1)サポート要件についての判断手法
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件特許発明に関するサポート要件判断
上記(1)の判断手法を踏まえ、本件特許発明に関する特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しているか否かについて検討する。

ア.本件特許発明は、所定の組成からなるスズを主成分とした「鉛フリーはんだ合金」に関するものである。

イ.本件特許明細書【0009】の記載によれば、本件特許発明の課題は、「従来技術に関連する問題の少なくとも幾つかを解決すること、又は商業的に許容可能な代替物を提供すること」であると認められる。そして、本件特許明細書【0002】?【0004】の記載を参酌すると、従来技術に関連する問題について、具体的には、280?300℃以下のピークリフロー温度、良好な電気及び熱伝導性、及び良好な高温の機械的及び熱的性質、耐用年数、高い疲労寿命などの要求を幾つか満たす、高い動作温度で高融点の鉛フリーはんだを提供することが求められていたと、理解できる。

ウ.そして、本件特許明細書【0011】には、本件特許発明のスズを主成分とした「鉛フリーはんだ合金」に関し、
「8?15重量%のアンチモンと、
0.05?5重量%のビスマスと、
0.1?10重量%の銀と、
0.1?4重量%の銅と、
以下のうちの1つ以上と:
1重量%までのニッケル、
1重量%までのコバルト、
1重量%までのチタン、
1重量%までのマンガン、
1重量%までのゲルマニウム、
10重量%までのアルミニウム、
10重量%までのケイ素、
任意に以下のうちの1つ以上と:
5重量%までのインジウム、
1重量%までのクロム、
1重量%までの亜鉛、
1重量%までの砒素、
1重量%までの鉄、
1重量%までのリン、
1重量%までの金、
1重量%までのガリウム、
1重量%までのテルル、
1重量%までのセレン、
1重量%までのカルシウム、
1重量%までのバナジウム、
1重量%までのモリブデン、
1重量%までの白金、
1重量%までの希土類元素、
残部であるスズ及び不可避の不純物とを含む鉛フリーはんだ合金を提供する。
前記合金は、高融点、良好な高温機械的信頼性及び良好な耐熱疲労性の組合せを示すことができ、例えば、中及び高出力半導体デバイスなどの高動作温度用途に有利に使用することができる。」
と記載された上で、本件特許明細書【0033】?【0036】、【0039】?【0051】には、本件特許発明のスズを主成分とした「鉛フリーはんだ合金」が、【0011】に記載されるような所定範囲の割合の各元素を含むことが、どのような技術的意義を有するかにつき、それぞれ以下のような記載がある。

(ア)各々添加が必須とされる元素
a.8?15重量%のアンチモン:
「記載された量のアンチモンの存在は、スズとの固溶体の形成により、高温での合金の強度を改善するのに役立ち得る。」(【0033】)
b.0.05?5重量%のビスマス:
「記載された量のビスマスの存在は、スズとの固溶体の形成により、高温での合金の強度を改善するのに役立ち得る。ビスマスは、高温機械的性質を改善するように作用し得る。ビスマスはまた、濡れ広がり性を改善することができる。」(【0034】)
c.0.1?10重量%の銀:
「記載された量の銀の存在は、より高い熱疲労寿命に寄与し得る。更に、銀は、より良好な機械的特性に寄与する銀-スズ金属間化合物を形成し得る。銀はまた、濡れ広がり性を改善することができる。」(【0035】)
d.0.1?4重量%の銅:
「銅は、銅-スズ金属間化合物を形成し、金属間化合物の形成により機械的特性、例えば強度の向上に寄与し得る。更に、銅の存在は、銅の溶解を減少させることがあり、耐クリープ性を改善することもできる。」(【0036】)

(イ)少なくともいずれか1つの添加が必須とされる元素
a.1重量%までのニッケル:
「記載された量のニッケルの存在は、高温機械的特性を改善し得る合金の微細構造を変化させることがある。例えば、ニッケルの存在は、複雑な金属間化合物の形成及び微細構造修飾を容易にし、機械的特性を改善することができる。ニッケルはまた、基板/はんだ界面でのIMC成長を減少させることによって落下衝撃抵抗を上昇させることができる。」(【0039】)
b.1重量%までのコバルト:
「記載された量のコバルトの存在は、高温機械的特性を改善し得る合金の微細構造を変化させることがある。例えば、コバルトの存在は、複雑な金属間化合物の形成及び微細構造修飾を容易にし、高温クリープ及び高温引張特性などの機械的特性を改善することができる。コバルトは、基板/はんだ界面でのIMC成長を遅らせることができ、落下衝撃抵抗を上昇させることができる。」(【0040】)
c.1重量%までのチタン:
「記載された量のチタンの存在は、高温機械的特性を改善し得る合金の微細構造を変化させることがある。例えば、チタンの存在は、高温クリープ及び高温引張特性などの機械的特性を改善し得る複雑な金属間化合物及び微細構造改質の形成を促進することができる。チタンは、強度、界面反応、及び耐クリープ性を改善するのに役立ち得る。チタンはまた、基板/はんだ界面での銅の拡散を制御することによって落下衝撃性能を改善することができる。」(【0041】)
d.1重量%までのマンガン:
「記載された量のマンガンの存在は、高温機械的特性を改善し得る合金の微細構造を変化させことがある。例えば、マンガンの存在は、高温クリープ及び高温引張特性などの機械的特性を改善し得る複雑な金属間化合物の形成及び微細構造修飾を促進することができる。マンガンはまた、落下衝撃及び熱サイクル信頼性を改善することができる。」(【0042】)
e.1重量%までのゲルマニウム:
「記載された量のゲルマニウムの存在は、高温機械的特性を改善し得る合金の微細構造を変化させることがある。ゲルマニウムは、強度及び界面反応を改善するのに役立ち得る。ゲルマニウムは、脱酸剤としての役割も果たすことができる。ゲルマニウムは、濡れ性及び広がり性を改善することができる。」(【0043】)
f.10重量%までのアルミニウム:
「記載された量のアルミニウムの存在は、合金の熱伝導率及び電気伝導率を改善することができる。アルミニウムは、合金に添加される個々の元素の熱伝導率及び電気伝導率を上昇させ、より低い熱伝導率及び電気伝導率をもたらすより低い伝導率の金属間化合物の形成を妨げることができる。アルミニウムは、脱酸剤として役立ち得る。アルミニウムはまた、合金の濡れ性を改善することができる。」(【0044】)
g.10重量%までのケイ素:
「記載された量のケイ素の存在は、合金の熱伝導率及び電気伝導率を改善することができる。ケイ素は、合金に添加される個々の元素の熱伝導率及び電気伝導率を上昇させ、より低い熱伝導率及び電気伝導率をもたらすより低い伝導率の金属間化合物の形成を妨げることができる。」(【0045】)

(ウ)任意に添加される元素
a.1重量%までの金、1重量%までのクロム、1重量%までの亜鉛、1重量%までの鉄、1重量%までのテルル、1重量%までのセレン、1重量%までのモリブデン、及び1重量%までの白金
「このような元素は、脱酸剤として役立ち得る。このような元素は、強度及び界面反応を改善するのに役立ち得る。亜鉛の存在は、固溶体強化によって機械的特性を改善するように作用することができる。」(【0046】)
b.1重量%までのリン、1重量%までのカルシウム、及び1重量%までのバナジウム、
「このような元素は、脱酸剤として役立ち得る。そのような元素の存在は、合金の濡れ性を改善することができる。」(【0047】)
c.5重量%までのインジウム
「インジウムの存在は、固溶体強化により機械的特性を改善するように作用することができる。」(【0048】)
d.1重量%までの砒素
「砒素は、酸化剤として作用することができ、また、広がり性及び濡れ性も改善することができる。砒素はまた、合金強度及び界面反応を改善するように作用することができる。」(【0049】)
e.1重量%までのガリウム
「ガリウムの存在は、固溶体強化により機械的特性を改善するように作用することができる。ガリウムは、脱酸剤としても役立つことができる。ガリウムは、濡れ性及び広がり性を改善することができる」(【0050】)
f.1重量%までの希土類元素
「希土類は、広がり性及び濡れ性を改善するように作用することができる。セリウムは、この点で特に効果的であることが分かっている。」(【0051】)

エ.そして、
(ア)上記ウ.(ア)に挙げた「各々添加が必須とされる元素」はすべて、少なくとも高温での機械的特性に寄与する働きをする元素であり、
(イ)上記ウ.(イ)に挙げた「少なくともいずれか1つの添加が必須とされる元素」のうち、
a.ニッケル、コバルト、チタン、マンガン、及びゲルマニウムも、それぞれ少なくとも少なくとも高温での機械的特性に寄与する働きをする元素であり、
b.アルミニウム及びケイ素については、いずれも熱伝導率及び電気伝導率の上昇に寄与する働きをする元素であり、
(ウ)上記ウ.(ウ)に挙げた「任意に添加される元素」は、必要に応じて、さらに機械的特性、又は広がり性及び濡れ性を改善する働きをする元素であり、かつ、かかる元素が、上記(ア)及び(イ)の各元素の働きを阻害するような事情も特段見出せないから、
これら各添加元素は、上記ウ.で述べた本件特許明細書【0011】に記載されたスズを主成分とした「鉛フリーはんだ合金」が高い動作温度で高融点の鉛フリーはんだを提供する役割を果たすための役割を各々担うものとなっており、これらの元素を含む上記鉛フリーはんだは、上記イ.で述べた課題を解決するものと理解される。

オ.(ア)また、本件特許明細書【0015】において、「図3は、Sbを変化させたSn-Ag-Cu-Sb-Bi合金の固相線温度と液相線温度を示す。」と説明される本件特許図面【図3】には、



とのグラフが示され、【0117】には、図3について、「高い動作温度を有する合金を得るために7.5%超のSbが必要であり、280?300℃のピーク温度でリフローする。」と説明されている。
(イ)そうすると、上記ウ.(ア)a.において、「高温での合金の強度を改善するのに役立ち得る。」(【0033】)点において上記イ.の課題解決に寄与することを示した「8?15重量%のアンチモン」との「鉛フリーはんだ合金」の組成の技術的特徴は、上記(ア)により、さらに、「280?300℃のピーク温度でリフロー」し、かつ、「高い動作温度を有する」点においても、上記イ.の課題解決に寄与するものと理解される。

カ.(ア)また、本件特許明細書【0014】において、「図2は、Biを変化させたSn-Ag-Cu-Sb-Bi合金の固相線温度と液相線温度を示す。」と説明される本件特許図面【図2】には、



とのグラフが示され、【0117】には、図3について、「Sn-Ag-Cu-Sbに2重量%を超えるBiを添加すると、固相線温度が大幅に低下し、高い動作温度の用途で提案の合金の使用が更に妨げられる。」と説明されている。
(イ)また、
a.本件特許明細書【0019】において、「図7は、本発明に係る合金の室温引張強度に対するBiの効果を示す。」と説明される本件特許図面【図7】には、



とのグラフが示されており、
b.さらに、本件特許明細書【0020】において、「図8は、本発明に係る合金の高温引張強度に対するBiの効果を示す。」と説明される本件特許図面【図8】には、



とのグラフが示されており、
これらa.の図7及びb.の図8に関し、【0118】には、「合金の強度は、Sn-Ag-Cu-Sb-Biにより多くのビスマスを添加することによって上昇させることができる(図7及び図8)。」と説明されている。
(ウ)そうすると、上記ウ.(ア)b.において、少なくとも「高温での合金の強度を改善するのに役立ち得る。」(【0034】)点において上記イ.の課題解決に寄与することを示した「0.05?5重量%のビスマス」との「鉛フリーはんだ合金」の組成の技術的特徴は、上記(イ)により合金の強度を改善するのに寄与することが確認できるほか、上記(ア)により、かかる技術的特徴のうち「0.05?2重量%のビスマス」の範囲であれば、「高い動作温度を有する」点におおいて、上記イ.の課題解決に寄与するものと理解される。

キ.そして、本件特許発明1は、上記ウ.の本件特許明細書【0011】に記載された「鉛フリーはんだ合金」の組成に関する技術的特徴をすべて満たすものであって、さらに、上記技術的特徴のうち、ビスマスと銀と銅の含有量に関しては、それぞれ本件特許明細書【0034】、【0035】、及び【0036】におけるこれら元素の含有量の好ましい範囲の上限値及び下限値に関する記載をもとに、「0.05?2重量%のビスマス」、「2.5?5重量%の銀」、及び「0.5?1.5重量%の銅」と、より範囲を限定した内容となっているところ、上記ウ.?カ.で検討した事項、並びに本件特許明細書及び本件特許図面における実施例1?100に関する記載など、その余の記載を参酌しても、そのような本件特許発明1により、課題を解決することができない、といえるような特段の事情も見出せない。

ク.以上を踏まえると、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件特許発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
また、本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明2?32についても、同様である。
したがって、本件特許発明1?32については、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものである。

(3)申立人の主張について
ア.申立人は、上記第3 1.(1)に挙げたように、
・理由1-1
本件特許請求項1等におけるニッケル、コバルト、チタン、マンガン、ゲルマニウム(以下、「選択的必須添加元素」という)の含有量の範囲の記載は、下限を設定しないとともに、実施例で実証された含有量に対して著しく高い上限値を規定している。当該含有量の範囲は、課題を解決できない範囲を含む。
・理由1-2
本件特許請求項1等における選択的必須添加元素の含有量の範囲は、技術常識においてはんだ特性を損なうとされている高含有量の領域を含んでいる。当該領域については実施例のサポートもない。本件特許請求項1等における選択的必須添加元素の含有量の範囲は、本件特許発明の前記課題を解決できない範囲を含む。
・理由1-3
本件特許請求項1等は、アルミニウム及びケイ素の含有量の上限値を10重量%と特定しているところ、上限値付近について明細書によりサポートされているとはいえない。
として、本件特許発明1?32については、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許請求項1?32に係る特許は、同法第113条第4号に該当する旨を主張する。

イ.また、申立人は、上記第3 1.(2)に挙げたように、
・理由1-4
実施例の開示に基づけば、選択的必須添加元素のうちニッケルは課題解決に不可欠な構成である。ニッケルを含有することを必須としない本件特許請求項1および本件特許請求項2?4、6?11、23?32の記載には、本件特許発明の課題を解決するための手段が反映されていない。
として、本件特許発明1?4、6?11、23?32については、以下の理由1-4のように、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許請求項1?4、6?11、23?32に係る特許は、同法第113条第4号に該当する旨を主張する。

ウ.さらに申立人は、上記第3 1.(3)に挙げたように、
・理由1-5
本件特許請求項11および本件特許請求項22は、実施例のデータが示されておらず明細書によりサポートされているとはいえない。
として、本件特許発明11、22については、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許請求項11、22に係る特許は、同法第113条第4号に該当する旨を主張する。

エ.しかしながら、実施例の記載を含む、本件明細書の記載を総合すれば、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件特許発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができることは、上記(2)のとおりである。
また、申立人による理由1-1?1-4の指摘は、単に課題を解決することのできない可能性があることを指摘するにとどまり、本件特許発明が、実際に課題を解決することができない具体的な根拠事実を示して主張するものではない。
さらに、本件特許請求項11及び22に記載された引用する本件特許発明の内容をさらに限定する技術的特徴は、それぞれ本件特許明細書【0045】及び【0059】に開示されており、本件特許発明11及び22が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないものともいえない。
よって、申立人の理由1-1?1?5の主張は、いずれも採用できない。

(4)まとめ
したがって、理由1(サポート要件)によっては、本件特許請求項1?32に係る特許を取り消すことはできない。

2.理由2(新規性)、理由3(進歩性)について
2-1.上記第3 2.(1)の理由2-1(新規性)、理由3-1(進歩性)について
(1)甲1の記載事項
特許異議申立書3.(4.2)(4.2.1) 29?39頁に述べられているとおり、本件特許の出願前に頒布された刊行物である、甲1(特許第5638174号公報)には、以下の事項が記載されている。
なお、下線は当審が付した(以下同じ。)。

「【請求項1】
スズ-銀-銅系のはんだ合金であって、
実質的に、スズ、銀、銅、ビスマス、ニッケル、コバルトおよびインジウムからなり、
前記はんだ合金の総量に対して、
前記銀の含有割合が、2質量%以上5質量%以下であり、
前記銅の含有割合が、0.1質量%以上1質量%以下であり、
前記ビスマスの含有割合が、0.5質量%以上4.8質量%以下であり、
前記ニッケルの含有割合が、0.01質量%以上0.15質量%以下であり、
前記コバルトの含有割合が、0.001質量%以上0.008質量%以下であり、
前記インジウムの含有割合が、6.2質量%を超過し10質量%以下であり、
前記スズの含有割合が、残余の割合である
ことを特徴とする、はんだ合金。
【請求項2】
さらにアンチモンを含有し、
前記はんだ合金の総量に対して、
前記アンチモンの含有割合が、0.4質量%以上10質量%以下である、請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項3】
スズ-銀-銅系のはんだ合金と、金属酸化物および/または金属窒化物とからなるはんだ組成物であって、
前記はんだ合金は、実質的に、スズ、銀、銅、ビスマス、ニッケル、コバルトおよびインジウムからなり、
前記はんだ組成物の総量に対して、
前記銀の含有割合が、2質量%以上5質量%以下であり、
前記銅の含有割合が、0.1質量%以上1質量%以下であり、
前記ビスマスの含有割合が、0.5質量%以上4.8質量%以下であり、
前記ニッケルの含有割合が、0.01質量%以上0.15質量%以下であり、
前記コバルトの含有割合が、0.001質量%以上0.008質量%以下であり、
前記インジウムの含有割合が、6.2質量%を超過し10質量%以下であり、
前記金属酸化物および/または金属窒化物の含有割合が、0質量%を超過し1.0質量%以下であり、
前記スズの含有割合が、残余の割合である
ことを特徴とする、はんだ組成物。
【請求項4】
さらにアンチモンを含有し、
前記はんだ組成物の総量に対して、
前記アンチモンの含有割合が、0.4質量%以上10質量%以下である、請求項3に記載のはんだ組成物。
【請求項5】
はんだ合金からなるはんだ粉末と、
フラックスと
を含有し、
前記はんだ合金は、スズ-銀-銅系のはんだ合金であって、
実質的に、スズ、銀、銅、ビスマス、ニッケル、コバルトおよびインジウムからなり、
前記はんだ合金の総量に対して、
前記銀の含有割合が、2質量%以上5質量%以下であり、
前記銅の含有割合が、0.1質量%以上1質量%以下であり、
前記ビスマスの含有割合が、0.5質量%以上4.8質量%以下であり、
前記ニッケルの含有割合が、0.01質量%以上0.15質量%以下であり、
前記コバルトの含有割合が、0.001質量%以上0.008質量%以下であり、
前記インジウムの含有割合が、6.2質量%を超過し10質量%以下であり、
前記スズの含有割合が、残余の割合である
ことを特徴とする、ソルダペースト。
【請求項6】
はんだ組成物からなるはんだ粉末と、
フラックスと
を含有し、
前記はんだ組成物は、スズ-銀-銅系のはんだ合金と、金属酸化物および/または金属窒化物とからなるはんだ組成物であって、
前記はんだ合金は、実質的に、スズ、銀、銅、ビスマス、ニッケル、コバルトおよびインジウムからなり、
前記はんだ組成物の総量に対して、
前記銀の含有割合が、2質量%以上5質量%以下であり、
前記銅の含有割合が、0.1質量%以上1質量%以下であり、
前記ビスマスの含有割合が、0.5質量%以上4.8質量%以下であり、
前記ニッケルの含有割合が、0.01質量%以上0.15質量%以下であり、
前記コバルトの含有割合が、0.001質量%以上0.008質量%以下であり、
前記インジウムの含有割合が、6.2質量%を超過し10質量%以下であり、
前記金属酸化物および/または金属窒化物の含有割合が、0質量%を超過し1.0質量%以下であり、
前記スズの含有割合が、残余の割合である
ことを特徴とする、ソルダペースト。
【請求項7】
ソルダペーストによるはんだ付部を備え、
前記ソルダペーストは、はんだ合金からなるはんだ粉末と、フラックスとを含有し、
前記はんだ合金は、スズ-銀-銅系のはんだ合金であって、
実質的に、スズ、銀、銅、ビスマス、ニッケル、コバルトおよびインジウムからなり、
前記はんだ合金の総量に対して、
前記銀の含有割合が、2質量%以上5質量%以下であり、
前記銅の含有割合が、0.1質量%以上1質量%以下であり、
前記ビスマスの含有割合が、0.5質量%以上4.8質量%以下であり、
前記ニッケルの含有割合が、0.01質量%以上0.15質量%以下であり、
前記コバルトの含有割合が、0.001質量%以上0.008質量%以下であり、
前記インジウムの含有割合が、6.2質量%を超過し10質量%以下であり、
前記スズの含有割合が、残余の割合である
ことを特徴とする、電子回路基板。
【請求項8】
ソルダペーストによるはんだ付部を備え、
前記ソルダペーストは、はんだ組成物からなるはんだ粉末と、フラックスとを含有し、
前記はんだ組成物は、スズ-銀-銅系のはんだ合金と、金属酸化物および/または金属窒化物とからなるはんだ組成物であって、
前記はんだ合金は、実質的に、スズ、銀、銅、ビスマス、ニッケル、コバルトおよびインジウムからなり、
前記はんだ組成物の総量に対して、
前記銀の含有割合が、2質量%以上5質量%以下であり、
前記銅の含有割合が、0.1質量%以上1質量%以下であり、
前記ビスマスの含有割合が、0.5質量%以上4.8質量%以下であり、
前記ニッケルの含有割合が、0.01質量%以上0.15質量%以下であり、
前記コバルトの含有割合が、0.001質量%以上0.008質量%以下であり、
前記インジウムの含有割合が、6.2質量%を超過し10質量%以下であり、
前記金属酸化物および/または金属窒化物の含有割合が、0質量%を超過し1.0質量%以下であり、
前記スズの含有割合が、残余の割合であることを特徴とする、電子回路基板。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ合金、はんだ組成物、ソルダペーストおよび電子回路基板に関し、詳しくは、はんだ合金およびはんだ組成物、それらはんだ合金および/またははんだ組成物を含有するソルダペースト、さらに、そのソルダペーストを用いて得られる電子回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、電気・電子機器などにおける金属接合では、ソルダペーストを用いたはんだ接合が採用されており、このようなソルダペーストには、従来、鉛を含有するはんだ合金が用いられる。
【0003】
しかしながら、近年、環境負荷の観点から、鉛の使用を抑制することが要求されており、そのため、鉛を含有しないはんだ合金(鉛フリーはんだ合金)の開発が進められている。
【0004】
このような鉛フリーはんだ合金としては、例えば、スズ-銅系合金、スズ-銀-銅系合金、スズ-ビスマス系合金、スズ-亜鉛系合金などがよく知られているが、とりわけ、スズ-銀-銅系合金は、強度などに優れるため、広く用いられている。」

「【0009】
本発明の目的は、優れた耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性を備えることができ、さらに、部品破壊を抑制することができるはんだ合金およびはんだ組成物、それらはんだ合金および/またははんだ組成物を含有するソルダペースト、さらに、そのソルダペーストを用いて得られる電子回路基板を提供することにある。」

「【発明の効果】
【0017】
本発明の一観点に係るはんだ合金およびはんだ組成物は、スズ、銀、銅、ビスマス、ニッケル、コバルトおよびインジウムからなるスズ-銀-銅系のはんだ合金において、インジウムの含有割合が調整されているため、優れた耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性を備えることができ、さらに、部品破壊を抑制することができる。
【0018】
そして、本発明の他の一観点に係るソルダペーストは、上記はんだ合金および/またははんだ組成物を含有するので、優れた耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性を備えることができ、さらに、部品破壊を抑制することができる。
【0019】
また、本発明のさらに他の一観点に係る電子回路基板は、はんだ付において、上記ソルダペーストが用いられるので、そのはんだ付部において、優れた耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性を備えることができ、さらに、部品破壊を抑制することができる。」

「【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一観点に係るはんだ合金は、スズ-銀-銅系のはんだ合金であって、必須成分として、スズ、銀、銅、ビスマス、ニッケル、コバルトおよびインジウムを含有している。換言すれば、はんだ合金は、実質的に、スズ、銀、銅、ビスマス、ニッケル、コバルトおよびインジウムからなる。なお、本明細書において、実質的とは、上記の各元素を必須成分とし、また、後述する任意成分を後述する割合で含有することを許容する意味である。
【0021】
このようなはんだ合金において、スズの含有割合は、後述する各成分の残余の割合であ って、各成分の配合量に応じて、適宜設定される。
【0022】
銀の含有割合は、はんだ合金の総量に対して、2質量%以上、好ましくは、2質量%を超過、より好ましくは、2.5質量%以上であり、5質量%以下、好ましくは、4質量%以下、より好ましくは、4質量%未満、さらに好ましくは、3.8質量%以下である。
【0023】
上記はんだ合金は、銀の含有割合を上記範囲に設定しているので、優れた耐侵食性、耐久性および耐クラック性を備えることができ、さらに、部品破壊を抑制することができる。
【0024】
一方、銀の含有割合が上記下限未満である場合には、耐久性に劣り、後述する銅による効果(耐侵食性)の発現を阻害する。また、銀の含有割合が上記上限を超過する場合には、耐クラック性などの機械特性が低下する。さらに、過剰の銀が、後述するコバルトの効果(耐久性)の発現を阻害する。加えて、部品破壊の抑制性能に劣る。
【0025】
銅の含有割合は、はんだ合金の総量に対して、0.1質量%以上、好ましくは、0.3質量%以上、より好ましくは、0.4質量%以上であり、1質量%以下、好ましくは、0.7質量%以下、より好ましくは、0.6質量%以下である。
【0026】
銅の含有割合が上記範囲であれば、優れた耐侵食性、耐久性および耐クラック性を備えることができ、さらに、部品破壊を抑制することができる。
【0027】
一方、銅の含有割合が上記下限未満である場合には、耐クラック性、耐久性に劣る。さらに、耐侵食性に劣り、銅喰われなどを生じる場合がある。すなわち、銅の含有割合が上記下限未満である場合には、そのはんだ合金を用いてはんだ付するときに、電子回路基板の銅パターンやスルーホールが、はんだ合金により溶解される場合(銅喰われ)がある。また、銅の含有割合が上記上限を超過する場合には、耐久性(とりわけ、耐冷熱疲労性)および耐クラック性に劣る。さらに、部品破壊の抑制性能に劣る。
【0028】
ビスマスの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、0.5質量%以上、好ましくは、0.8質量%以上、より好ましくは、1.2質量%以上、さらに好ましくは、1.8質量%以上、とりわけ好ましくは、2.2質量%以上であり、4.8質量%以下、好ましくは、4.2質量%以下、より好ましくは、3.5質量%以下、さらに好ましくは、3.0質量%以下である。
【0029】
ビスマスの含有割合が上記範囲であれば、優れた耐侵食性、耐久性および耐クラック性を備えることができ、さらに、部品破壊を抑制することができる。
【0030】
一方、ビスマスの含有割合が上記下限未満である場合には、耐久性に劣る。また、ビスマスの含有割合が上記上限を超過する場合は、部品破壊の抑制性能に劣る。さらに、耐クラック性および耐久性に劣る場合がある。
【0031】
ニッケルの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、0.01質量%以上、好ましくは、0.03質量%以上、より好ましくは、0.04質量%以上であり、0.15質量%以下、好ましくは、0.1質量%以下、より好ましくは、0.06質量%以下である。
【0032】
ニッケルの含有割合が上記範囲であれば、はんだの組織を微細化させることができ、耐クラック性および耐久性の向上を図ることができる。さらに、耐食性および部品破壊を抑制することができる。
【0033】
一方、ニッケルの含有割合が上記下限未満である場合には、耐侵食性および耐クラック性に劣り、さらに、組織の微細化を図ることができず、耐久性に劣る場合がある。また、ニッケルの含有割合が上記上限を超過する場合には、耐クラック性および部品破壊の抑制性能に劣る。さらに、耐久性に劣る場合がある。
【0034】
コバルトの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、0.001質量%以上、好ましくは、0.003質量%以上、より好ましくは、0.004質量%以上であり、0.008質量%以下、好ましくは、0.006質量%以下である。
【0035】
はんだ合金がコバルトを含有すると、はんだ合金から得られるソルダペーストにおいて、はんだ付界面に形成される金属間化合物層(例えば、Sn-Cu、Sn-Co、Sn-Cu-Coなど)が、厚くなり、熱の負荷や、熱変化による負荷によっても成長し難くなる。また、コバルトが、はんだ中に分散析出することにより、はんだを強化することができる。
【0036】
また、はんだ合金が上記割合でコバルトを含有する場合には、はんだの組織を微細化させることができ、優れた耐クラック性および耐久性の向上を図ることができる。さらに、優れた耐侵食性および部品破壊を抑制することができる。一方、コバルトの含有割合が上記下限未満である場合には、耐侵食性に劣り、さらに、組織の微細化を図ることができず、耐クラック性に劣る。加えて、耐久性に劣る場合がある。また、コバルトの含有割合が上記上限を超過する場合には、耐クラック性に劣り、部品破壊の抑制性能に劣る。さらに、耐久性に劣る場合がある。」

「【0040】
インジウムの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、6.2質量%を超過し、好ましくは、6.5質量%以上、より好ましくは、7.0質量%以上であり、10質量%以下、好ましくは、9.0質量%以下、より好ましくは、8.5質量%以下、とりわけ好ましくは、8.0質量%以下である。
【0041】
インジウムの含有割合が上記範囲であれば、優れた耐クラック性、耐久性および耐侵食性を確保することができ、さらには、はんだ付された部品の破壊を抑制することができる。」

「【0050】
また、上記はんだ合金は、任意成分として、さらに、アンチモンなどを含有することができる。
【0051】
アンチモンの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、例えば、0.4質量%以上、好ましくは、1.0質量%以上、より好ましくは、1.5質量%以上であり、例えば、10質量%以下、好ましくは、5.0質量%以下、より好ましくは、4.5質量%以下、さらに好ましくは、4.0質量%以下である。
【0052】
アンチモンの含有割合が上記範囲であれば、優れた耐侵食性、耐久性および耐クラック性を備えることができ、さらに、部品破壊を抑制することができる。一方、アンチモンの含有割合が上記下限未満である場合には、耐久性に劣る場合がある。また、アンチモンの含有割合が上記上限を超過する場合にも、耐久性に劣る場合がある。」

「【0055】
そして、このようなはんだ合金は、上記した各金属成分を溶融炉において溶融させ、均 一化するなど、公知の方法で合金化することにより得ることができる。
【0056】
なお、はんだ合金の製造に用いられる上記した各金属成分は、本発明の優れた効果を阻害しない範囲において、微量の不純物(不可避不純物)を含有することができる。
【0057】
不純物としては、例えば、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、金(Au)などが挙げられる。」

「【0059】
はんだ合金の融点が上記範囲であれば、ソルダペーストに用いた場合に、簡易かつ作業性よく金属接合することができる。」

「【0078】
そのため、このようなはんだ合金およびはんだ組成物は、好ましくは、ソルダペースト(ソルダペースト接合材)に含有される。
【0079】
具体的には、本発明の他の一観点に係るソルダペーストは、上記したはんだ合金および/またははんだ組成物と、フラックスとを含有している。」

「【0088】
また、本発明は、上記のソルダペーストによるはんだ付部を備える電子回路基板を含んでいる。
【0089】
すなわち、上記のソルダペーストは、例えば、電気・電子機器などの電子回路基板の電極と、電子部品とのはんだ付(金属接合)において、好適に用いられる。
【0090】
電子部品としては、特に制限されず、例えば、抵抗器、ダイオード、コンデンサ、トランジスタなどの公知の電子部品が挙げられる。
【0091】
そして、このような電子回路基板は、はんだ付において、上記ソルダペーストが用いられるので、そのはんだ付部において、優れた耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性を備えることができ、さらに、部品破壊を抑制することができる。」

(2)甲1に記載された発明
ア.甲1には、【0017】に記載されるとおり、「スズ、銀、銅、ビスマス、ニッケル、コバルトおよびインジウムからなるスズ-銀-銅系のはんだ合金において、インジウムの含有割合が調整されているため、優れた耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性を備えることができ、さらに、部品破壊を抑制することができる」「はんだ合金およびはんだ組成物」に関する発明が開示されている。そして、【0041】には、具体的にインジウムの含有割合が【0040】記載のとおり、「はんだ合金の総量に対して、6.2質量%を超過」する範囲であれば、上記発明のように、「優れた耐クラック性、耐久性および耐侵食性を確保することができ、さらには、はんだ付された部品の破壊を抑制することができる。」ことが説明されている。

イ.また、甲1には、【0050】に記載されるとおり、「上記はんだ合金は、任意成分として、さらに、アンチモンなどを含有することができる。」ことが開示されている。そして、【0052】には、具体的にアンチモンの含有割合が【0051】記載のとおり、「はんだ合金の総量に対して」「0.4質量%以上」で「10質量%以下」の範囲であれば、上記ア.の上記発明同様に、「優れた耐侵食性、耐久性および耐クラック性を備えることができ、さらに、部品破壊を抑制することができる。」ことが説明されている。

ウ.そして、上記ア.及びイ.を踏まえ、特に甲1の請求項1及び2の記載に着目すると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲1発明>
スズ-銀-銅系のはんだ合金であって、
実質的に、スズ、銀、銅、ビスマス、ニッケル、コバルト、インジウムおよびアンチモンからなり、
前記はんだ合金の総量に対して、
前記銀の含有割合が、2質量%以上5質量%以下であり、
前記銅の含有割合が、0.1質量%以上1質量%以下であり、
前記ビスマスの含有割合が、0.5質量%以上4.8質量%以下であり、
前記ニッケルの含有割合が、0.01質量%以上0.15質量%以下であり、
前記コバルトの含有割合が、0.001質量%以上0.008質量%以下であり、
前記インジウムの含有割合が、6.2質量%を超過し10質量%以下であり、
前記アンチモンの含有割合が、0.4質量%以上10質量%以下であり、
前記スズの含有割合が、残余の割合である、はんだ合金。

(3)本件特許発明1について
ア.対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における、実質的に、スズ、銀、銅、ビスマス、ニッケル、コバルト、インジウムおよびアンチモンからなる「スズ-銀-銅系のはんだ合金」は、鉛を含むものではないから、本件特許発明1の「鉛フリーはんだ合金」に相当する。

(イ)また、甲1発明の「スズ-銀-銅系のはんだ合金」を構成する銀、銅、ビスマス、ニッケル、コバルト、インジウム、アンチモン及びスズは、いずれも本件特許発明1の「鉛フリーはんだ合金」を構成する元素と一致する。

(ウ)また、本件特許発明1の「不可避の不純物」については、甲1発明の「スズ-銀-銅系のはんだ合金」にも、通常「不可避の不純物」が含まれると考えられるから、両者は「不可避の不純物」を含む点で一致する。

(エ)そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>
鉛フリーはんだ合金であって、
アンチモンと、ビスマスと、銀と、銅と、
以下のうちの1つ以上と:
ニッケル、コバルト、チタン、マンガン、ゲルマニウム、アルミニウム、ケイ素、
任意に以下のうちの1つ以上と:
インジウム、クロム、亜鉛、砒素、鉄、リン、金、ガリウム、テルル、セレン、カルシウム、バナジウム、モリブデン、白金、希土類元素、
残部であるスズ及び不可避の不純物と、
を含む鉛フリーはんだ合金。

<相違点1>
鉛フリーはんだ合金の組成について、本件特許発明1では、たとえば、インジウムが任意に含まれる場合には「5重量%まで」とされているなど、各構成元素が特定の含有割合の組み合わせとされているのに対し、甲1発明では、たとえば、インジウムの含有割合が、6.2質量%を超過し10質量%以下とされているなど、そのような組み合わせが示されていない点。

イ.相違点1の検討
(ア)相違点1に関し、甲1発明の「スズ-銀-銅系のはんだ合金」組成は、特に銀、銅、ビスマス、インジウムおよびアンチモンが、以下の点で、本件特許発明1の「鉛フリーはんだ合金」組成において各構成元素の含有割合として特定される範囲を、少なくとも外れる部分を含んでいる。
なお、甲1発明の「質量%」は、本件特許発明1の「重量%」に実質等しい単位と判断される。

a.アンチモンの含有割合が、本件特許発明1では「8?15重量%」であるのに対し、甲1発明では「0.4質量%以上10質量%以下」であり、甲1発明には、本件特許発明1の範囲を外れる0.4質量%以上8質量%未満の範囲も含まれる点。

b.ビスマスの含有割合が、本件特許発明1では「0.05?2重量%」であるのに対し、甲1発明では、「0.5質量%以上4.8質量%以下」であり、甲1発明には、本件特許発明1の範囲を外れる2質量%超4.8質量%以下の範囲も含まれる点。

c.銀の含有割合が、本件特許発明1では「2.5?5重量%」であるのに対し、甲1発明では、「2質量%以上5質量%以下」であり、甲1発明には、本件特許発明1の範囲を外れる2質量%以上2.5質量%未満の範囲も含まれる点。

d.銅の含有割合が、本件特許発明1では「0.5?1.5重量%」であるのに対し、甲1発明では、「0.1質量%以上1質量%以下」であり、甲1発明には、本件特許発明1の範囲を外れる0.1質量%以上0.5質量%未満の範囲も含まれる点。

e.インジウムの含有割合が、本件特許発明1では「5重量%まで」であるのに対し、甲1発明では、「6.2質量%を超過し10質量%以下」であり、両者の範囲は全く重複もしていない点。

(イ)上記(ア)のe.として挙げたインジウムの含有割合に着目すると、本件特許発明1と甲1発明とで範囲が全く重複していないから、相違点1は実質的な相違点である。
また、甲1に記載された発明として、仮に甲1発明以外の発明を認定するとしても、甲1には、上記(2)ア.で述べたように、インジウムを「はんだ合金の総量に対して、6.2質量%を超過」する範囲にした組成の「スズ-銀-銅系のはんだ合金」の発明が記載されているにすぎず、インジウムの含有割合を本件特許発明1のように「5重量%まで」とする組成の「スズ-銀-銅系のはんだ合金」については、全く記載されていない。
そうすると、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。

(ウ)また、甲1発明の「スズ-銀-銅系のはんだ合金」の組成は、上記(2)ア.で述べたようにインジウムを「はんだ合金の総量に対して、6.2質量%を超過」する範囲にすることによって、「優れた耐クラック性、耐久性および耐侵食性を確保することができ、さらには、はんだ付された部品の破壊を抑制することができる。」ようにしたものであるから、この含有割合を「5重量%まで」に変更し、本件特許発明1のように各元素が特定の含有割合の組み合わせとなる鉛フリーはんだ合金を実現する動機は見出せない。
これは、甲1に記載された発明として、仮に甲1発明以外の発明を認定した場合においても同様である。
そうすると、当業者といえども、甲1に記載された発明に基いて、本件特許発明1のように各構成元素が特定の含有割合の組み合わせとなる鉛フリーはんだ合金を容易になし得たとはいえない。

(エ)さらに、甲2?20にも、甲1に記載された発明のインジウムの含有割合を「5重量%まで」に変更し、本件特許発明1のように各元素が特定の含有割合の組み合わせとなる鉛フリーはんだ合金を実現する動機は見出せない。
そうすると、当業者といえども、甲1に記載された発明及び甲2?20に記載された事項に基いて、本件特許発明1のように各構成元素が特定の含有割合の組み合わせとなる鉛フリーはんだ合金を容易になし得たとはいえない。

ウ.小括
そうすると、本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明及び甲2?20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)本件特許発明2?32について
本件特許発明2?32は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(3)で述べたとおり、本件特許発明1が、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明及び甲2?20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない以上、本件特許発明2?32についても同様に、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明及び甲2?20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1?6、12?14、24、25、27は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
また、本件特許発明1?32は、甲1に記載された発明及び甲2?20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、上記第3 2.(2)の理由2-1(新規性)、及び理由3-1(進歩性)によっては、本件特許請求項1?32に係る特許を取り消すことはできない。

2-2.上記第3 2.(2)の理由2-2(新規性)、理由3-2(進歩性)について
(1)甲2の記載事項
おおよそ特許異議申立書3.(4.2)(4.2.2) 41?58頁に述べられているとおり、本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲2(国際公開第2016/179358号)には、以下の事項が記載されている。
なお、甲2のページは、表紙を数えず、紙面下部に振られているページ番号によった。
また、甲2の訳文として、甲2のパテントファミリーである特表2018-518368号公報の対応記載を併せて記し、以下で甲2の記載を引用し記載箇所の表記をする際は、かかる訳文として用いる公報の段落番号にて代用する。

「1. A solder alloy, comprising:
2.5-4.5 wt.% of Ag;
0.6-2.0 wt.% of Cu;
2.5-9.0 wt.% of Sb; and
a remainder of Sn.
2. The solder alloy of claim 1, further comprising at least one of the following additives selected from:
0.1-2.5 wt.% of Bi,
0.1-4.5 wt.% of In; and
0.001-0.2 wt.% of Ni, or Co, or both.
3. The solder alloy of claim 1, wherein the solder alloy consists essentially of 3.0-4.0 wt.% of Ag, 0.6-1.2 wt.% of Cu, 5.0-6.0 wt.% of Sb, and the remainder of Sn.
4. The solder alloy of claim 2, wherein the solder alloy consists essentially of 3.0-4.0 wt.% of Ag, 0.6-1.2 wt.% of Cu, 5.0-6.0 wt.% of Sb, about 0.3 wt.% of Bi, and the remainder of Sn.
5. The solder alloy of claim 2, wherein the solder alloy consists essentially of 3.0-4.0 wt.% of Ag, 0.6-1.2 wt.% of Cu, 5.0-6.0 wt.% of Sb, 0.3-1.5 wt.% of In, and the remainder of Sn.
6. The solder alloy of claim 5, wherein the solder alloy consists essentially of about 3.8 wt.% of Ag, about 1.0 wt.% of Cu, about 5.5 wt.% of Sb, about 0.5 wt.% of In, and the remainder of Sn.
7. The solder alloy of claim 2, wherein the solder alloy consists essentially of 3.0-4.0 wt.% of Ag, 0.6-1.2 wt.% of Cu, 3.0-5.0 wt.% of Sb, 1.0-4.0 wt.% of In, about 0.5 wt.% of Bi, and the remainder of Sn.
8. A solder paste, consisting essentially of:
flux; and
a solder alloy powder comprising:
2.5-4.5 wt.% of Ag;
0.6-2.0 wt.% of Cu; 2.5-9.0 wt.% of Sb; and
a remainder of Sn.
9. The solder paste of claim 8, wherein the solder alloy powder further comprises at least one of the following additives selected from:
0.1-2.5 wt.% of Bi,
0.1-4.5 wt.% of In, and
0.001-0.2 wt.% of Ni, or Co, or both.
10. The solder paste of claim 8, wherein the solder alloy consists essentially of 3.0-4.0 wt.% of Ag, 0.6-1.2 wt.% of Cu, 5.0-6.0 wt.% of Sb, and the remainder of Sn.
11. The solder paste of claim 9, wherein the solder alloy powder consists essentially of 3.0- 4.0 wt.% of Ag, 0.6-1.2 wt.% of Cu, 5.0-6.0 wt.% of Sb, about 0.3 wt.% of Bi, and the remainder of Sn.
12. The solder paste of claim 9, wherein the solder alloy powder consists essentially of 3.0- 4.0 wt.% of Ag, 0.6-1.2 wt.% of Cu, 5.0-6.0 wt.% of Sb, 0.3-1.5 wt.% of In, and the remainder of Sn.
13. The solder alloy paste of claim 12, wherein the solder alloy powder consists essentially of about 3.8 wt.% of Ag, about 1.0 wt.% of Cu, about 5.5wt.% of Sb, about 0.5 wt.% of In, and the remainder of Sn.
14. The solder alloy paste of claim 9, wherein the solder alloy powder consists essentially of 3.0-4.0 wt.% of Ag, 0.6-1.2 wt.% of Cu, 3.0-5.0 wt.% of Sb, 1.0-4.0 wt.% of In, about 0.5 wt.% of Bi, and the remainder of Sn.
15. A solder joint formed by the process of:
applying a solder paste between a substrate and a device to form an assembly; and reflow soldering the assembly to form the solder joint; wherein the solder paste consists essentially of:
flux; and
a solder alloy powder comprising:
2.5-4.5 wt.% of Ag;
0.6-2.0 wt.% of Cu;
2.5-9.0 wt.% of Sb; and
a remainder of Sn.
16. The solder joint of claim 15, wherein the solder alloy powder further comprises at least one of the following additives selected from:
0.1-2.5 wt.% of Bi,
0.1-4.5 wt.% of In; and
0.001-0.2 wt.% of Ni, or Co, or both.
17. The solder joint of claim 15, wherein the solder alloy powder consists essentially of 3.0- 4.0 wt.% of Ag, 0.6-1.2 wt.% of Cu, 5.0-6.0 wt.% of Sb, and the remainder of Sn.
18. The solder joint of claim 16, wherein the solder alloy powder consists essentially of 3.0- 4.0 wt.% of Ag, 0.6-1.2 wt.% of Cu, 5.0-6.0 wt.% of Sb, about 0.3 wt.% of Bi, and the remainder of Sn.
19. The solder joint of claim 16, wherein the solder alloy powder consists essentially of 3.0-
4.0 wt.% of Ag, 0.6-1.2 wt.% of Cu, 5.0-6.0 wt.% of Sb, about 0.5 wt.% of In, and the remainder of Sn.
20. The solder joint of claim 16, wherein the solder alloy powder consists essentially of 3.0- 4.0 wt.% of Ag, 0.6-1.2 wt.% of Cu, 3.0-5.0 wt.% of Sb, 1.0-4.0 wt.% of In, about 0.5 wt.% of Bi, and the remainder of Sn.」(16頁3行?19頁6行)
[翻訳文]
「【請求項1】
2.5?4.5重量%のAg;
0.6?2.0重量%のCu;
2.5?9.0重量%のSb;および
残余のSnを含んでなる、はんだ合金。
【請求項2】
0.1?2.5重量%のBi、
0.1?4.5重量%のIn;および
0.001?0.2重量%のNiもしくはCo、またはそれらの両方から選択される添加物のうちの少なくとも1種を更に含む、請求項1に記載のはんだ合金。
【請求項3】
前記はんだ合金は本質的に、3.0?4.0重量%のAg、0.6?1.2重量%のCu、5.0?6.0重量%のSbおよび残余のSnからなる、請求項1に記載のはんだ合金 。
【請求項4】
前記はんだ合金は本質的に、3.0?4.0重量%のAg、0.6?1.2重量%のCu、5.0?6.0重量%のSb、約0.3重量%のBiおよび残余のSnからなる、請求項2に記載のはんだ合金。
【請求項5】
前記はんだ合金は本質的に、3.0?4.0重量%のAg、0.6?1.2重量%のCu、5.0?6.0重量%のSb、0.3?1.5重量%のInおよび残余のSnからなる、請求項2に記載のはんだ合金。
【請求項6】
前記はんだ合金は本質的に、約3.8重量%のAg、約1.0重量%のCu、約5.5重量%のSb、約0.5重量%のInおよび残余のSnからなる、請求項5に記載のはんだ合金。
【請求項7】
前記はんだ合金は本質的に、3.0?4.0重量%のAg、0.6?1.2重量%のCu、3.0?5.0重量%のSb、1.0?4.0重量%のIn、約0.5重量%のBiおよび残余のSnからなる、請求項2に記載のはんだ合金。
【請求項8】
本質的に、フラックス及びはんだ合金粉末からなるはんだペーストであって、
前記はんだ合金粉末は、 2.5?4.5重量%のAg;
0.6?2.0重量%のCu;
2.5?9.0重量%のSb;および
残余のSn
を含んでなる、ことを特徴とするはんだペースト。
【請求項9】
前記はんだ合金粉末が、
0.1?2.5重量%のBi、
0.1?4.5重量%のIn、および
0.001?0.2重量%のNiもしくはCo、またはそれらの両方から選択される添加物のうちの少なくとも1種を更に含む、請求項8に記載のはんだペースト。
【請求項10】
前記はんだ合金粉末が本質的に、3.0?4.0重量%のAg、0.6?1.2重量%のCu、5.0?6.0重量%のSbおよび残余のSnからなる、請求項8に記載のはんだペースト。
【請求項11】
前記はんだ合金粉末が本質的に、3.0?4.0重量%のAg、0.6?1.2重量%のCu、5.0?6.0重量%のSb、約0.3重量%のBiおよび残余のSnからなる、請求項9に記載のはんだペースト。
【請求項12】
前記はんだ合金粉末が本質的に、3.0?4.0重量%のAg、0.6?1.2重量%のCu、5.0?6.0重量%のSb、0.3?1.5重量%のInおよび残余のSnからなる、請求項9に記載のはんだペースト。
【請求項13】
前記はんだ合金粉末が本質的に、約3.8重量%のAg、約1.0重量%のCu、約5.5重量%のSb、約0.5重量%のInおよび残余のSnからなる、請求項12に記載のはんだ合金ペースト。
【請求項14】
前記はんだ合金粉末が本質的に、3.0?4.0重量%のAg、0.6?1.2重量%のCu、3.0?5.0重量%のSb、1.0?4.0重量%のIn、約0.5重量%のBiおよび残余のSnからなる、請求項9に記載のはんだ合金ペースト。
【請求項15】
はんだペーストを基材とデバイスとの間に塗布してアセンブリを形成すること、及び、前記アセンブリをリフローはんだ付けしてはんだ継手を形成すること、のプロセスを経て形成されるはんだ継手であって、
前記はんだペーストは本質的に、フラックス及びはんだ合金粉末からなり、
前記はんだ合金粉末は、
2.5?4.5重量%のAg;
0.6?2.0重量%のCu;
2.5?9.0重量%のSb;および
残余のSn
を含んでなる、ことを特徴とするはんだ継手。
【請求項16】
前記はんだ合金粉末が、
0.1?2.5重量%のBi、
0.1?4.5重量%のIn;および
0.001?0.2重量%のNiもしくはCo、またはそれらの両方
から選択される添加物のうちの少なくとも1種を更に含む、請求項15に記載のはんだ継手 。
【請求項17】
前記はんだ合金粉末が本質的に、3.0?4.0重量%のAg、0.6?1.2重量%のCu、5.0?6.0重量%のSbおよび残余のSnからなる、請求項15に記載のはんだ継手。
【請求項18】
前記はんだ合金粉末が本質的に、3.0?4.0重量%のAg、0.6?1.2重量%のCu、5.0?6.0重量%のSb、約0.3重量%のBiおよび残余のSnからなる、請求項16に記載のはんだ継手。
【請求項19】
前記はんだ合金粉末が本質的に、3.0?4.0重量%のAg、0.6?1.2重量%のCu、5.0?6.0重量%のSb、約0.5重量%のInおよび残余のSnからなる、請求項16に記載のはんだ継手。
【請求項20】
前記はんだ合金粉末が本質的に、3.0?4.0重量%のAg、0.6?1.2重量%のCu、3.0?5.0重量%のSb、1.0?4.0重量%のIn、約0.5重量%のBiおよび残余のSnからなる、請求項16に記載のはんだ継手。 」

「 Technical Field
The present disclosure relates generally to lead-free solder alloy compositions for use in electronics and, in particular, to lead-free solder preforms, solder powder, solder balls, solder pastes, and solder joints made of a lead-free solder alloy.」(1頁3?6行)
[翻訳文]
「【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、電子機器における使用のための鉛フリーはんだ(無鉛はんだ)合金組成、並びに、特に、鉛フリーはんだプリフォーム、はんだ粉末、はんだボール、はんだペースト、および鉛フリーはんだ合金で作製されたはんだ継手(solder joint、「はんだ接合」ともいう)に関する。」

「 Brief Summary of Embodiments
A SnAgCuSb-based Pb-free solder alloy is disclosed. The disclosed solder alloy is particularly suitable for, but not limited to, producing solder joints, in the form of solder preforms, solder balls, solder powder, or solder paste (a mixture of solder powder and flux), for harsh environment electronics. An additive selected from 0.1-2.5 wt.% of Bi and/or 0.1-4.5 wt.% of In may be included in the solder alloy.」(2頁6?11行)
[翻訳文]
「【発明の概要】
【0007】
SnAgCuSbベースのPbフリーはんだ合金が開示されている。開示されているはんだ合金は、過酷な環境の電子機器のためのはんだプリフォーム、はんだボール、はんだ粉末またははんだペースト(はんだ粉末およびフラックスの混合物)の形態でのはんだ継手(はんだ接合)の作製に特に適しているが、これらには限定されない。0.1?2.5重量%のBiおよび/または0.1?4.5重量%のInから選択される添加剤(添加物)が、はんだ合金に含まれてもよい。」

「 Detailed Description of the Embodiments
In accordance with various embodiments of the disclosed technology, a SnAgCuSb-based Pb-free solder alloy and solder joints comprising the solder alloy are disclosed. The disclosed solder alloy is particularly suitable for, but not limited to, producing solder joints, in the form of solder preforms, solder balls, solder powder, or solder paste (a mixture of solder powder and flux), for harsh environment electronics applications that require high reliability at higher service or operation temperatures such as 150 °C or higher.
In various embodiments, the solder alloy comprises 2.5-4.5 wt.% of Ag, 0.6-2.0 wt.% of Cu, 2.5-9.0 wt.% of Sb, and the remainder of Sn. In further embodiments, the solder alloy may additionally include at least one of the following additives selected from (a) 0.1-2.5 wt.% of Bi, (b) 0.1-4.5 wt.% of In, and (c) 0.001-0.2 wt.% of Ni, or Co, or both.
In a first set of embodiments, the solder alloy is a SnAgCuSbBi-system alloy comprising 2.5-4.5 wt.% of Ag, 0.6-2.0 wt.% of Cu, 2.5-9.0 wt.% of Sb, 0.1-2.5 wt.% of Bi, and a remainder of Sn. In particular implementations of these embodiments, the solder alloy consists essentially of 3.0-4.0 wt.% of Ag, 0.6-1.2 wt.% of Cu, 5.0-6.0 wt.% of Sb, about 0.3 wt.% of Bi, and the remainder of Sn. For example, the solder alloy may consist essentially of about 3.8 wt.% of Ag, about 1.0 wt.% of Cu, about 6.0 wt.% of Sb, about 0.3 wt.% of Bi, and the remainder of Sn.
In a second set of embodiments, the solder alloy is a SnAgCuSb-system alloy consisting essentially of 3.0-4.0 wt.% of Ag, 0.6-1.2 wt.% of Cu, 3.0-9.0 wt.% of Sb, and the remainder of Sn. In particular implementations of these embodiments, the Sb content may be 5.0-6.0 wt.%.
In a third set of embodiments, the solder alloy is a SnAgCuSbIn(Bi)-system alloy comprising: 2.5-4.5 wt.% of Ag, 0.6-2.0 wt.% of Cu, 2.5-9.0 wt.% of Sb, 0.1-4.5 wt.% of In, and the remainder of Sn. In one set of implementations of these embodiments, the solder alloy consists essentially of 3.0-4.0 wt.% of Ag, 0.6-1.2 wt.% of Cu, 3.0-5.0 wt.% of Sb, 1.0-4.0 wt.% of In, about 0.5 wt.% of Bi, and the remainder of Sn. In another set of implementations of these embodiments, the solder alloy consists essentially of 3.0-4.0 wt.% of Ag, 0.6-1.2 wt.% of Cu, 5.0-6.0 wt.% of Sb, about 0.5 wt.% of In, and the remainder of Sn.
As illustrated by the experimental results, summarized below, solder joints made of embodiments of the Pb-free solder alloys disclosed herein have a greater thermal fatigue resistance at thermal cycling and thermal shock testing compared to those made of the industry standard high-Pb solder alloy (Pb5Sn2.5Ag). Additionally, solder joints made of embodiments of the Pb-free solder alloys disclosed herein substantially outperformed a standard Pb-free commercial alloy Sn3.8Ag0.7Cu3.0Bil.4Sb0.15Ni (Innolot) in thermal fatigue resistance, in shear strength tests under a variety of conditions especially after thermal cycling tests.」(4頁17行?5頁23行)
[翻訳文]
「【0013】
[発明の詳細な説明]
開示される技術のさまざまな実施形態にしたがって、SnAgCuSbベースのPbフリーはんだ合金、および該はんだ合金を含むはんだ継手が開示される。開示されているはんだ合金は、150℃以上のような、より高い使用温度または動作温度で高信頼性を必要とする過酷な環境の電子機器用途のためのはんだプリフォーム、はんだボール、はんだ粉末またははんだペースト(はんだ粉末およびフラックスの混合物)の形態でのはんだ継手の作製に特に適しているが、これらには限定されない。
【0014】
さまざまな実施形態において、はんだ合金は、2.5?4.5重量%のAg、0.6?2.0重量%のCu、2.5?9.0重量%のSbおよび残余のSnを含む。別の実施形態において、はんだ合金は、(a)0.1?2.5重量%のBi、(b)0.1?4.5重量%のIn、および(c)0.001?0.2重量%のNiまたはCo、あるいは両方から選択される添加剤(添加物)のうちの少なくとも1つを追加的に含んでもよい。
【0015】
第1の組(セット)の実施形態において、はんだ合金は、2.5?4.5重量%のAg、0.6?2.0重量%のCu、2.5?9.0重量%のSb、0.1?2.5重量%のBiおよび残余のSnを含むSnAgCuSbBi系合金である。これらの実施形態の特定の実施において、はんだ合金は、実質的に、3.0?4.0重量%のAg、0.6?1.2重量%のCu、5.0?6.0重量%のSb、約0.3重量%のBiおよび残余のSnからなる。例えば、はんだ合金は、実質的に、約3.8重量%のAg、約1.0重量%のCu、約6.0重量%のSb、約0.3重量%のBiおよび残余のSnからなっていてもよい。
【0016】
第2の組(セット)の実施形態において、はんだ合金は、本質的に、3.0?4.0重量%のAg、0.6?1.2重量%のCu、3.0?9.0重量%のSbおよび残余のSnからなるSnAgCuSb系合金である。これらの実施形態の特定の実施において、Sb含有量が5.0?6.0重量%であってもよい。
【0017】
第3の組(セット)の実施形態において、はんだ合金は、2.5?4.5重量%のAg、0.6?2.0重量%のCu、2.5?9.0重量%のSb、0.1?4.5重量%のInおよび残余のSnを含むSnAgCuSbIn(Bi)系合金である。これらの実施形態のある組の実施において、はんだ合金は、本質的に、3.0?4.0重量%のAg、0.6?1.2重量%のCu、3.0?5.0重量%のSb、1.0?4.0重量%のIn、約0.5重量%のBiおよび残余のSnからなる。これらの実施形態の別の組の実施において、はんだ合金は、本質的に、3.0?4.0重量%のAg、0.6?1.2重量%のCu、5.0?6.0重量%のSb、約0.5重量%のInおよび残余のSnからなる。
【0018】
以下にまとめる実験結果によって示されるように、本明細書に開示のPbフリーはんだ合金の実施形態で作製されたはんだ継手は、熱サイクルおよび熱衝撃試験において、業界標準の高Pbはんだ合金(Pb5Sn2.5Ag)で作製されたはんだ継手と比べて、より高い耐熱疲労性を有する。さらに、本明細書に開示のPbフリーはんだ合金の実施形態で作製されたはんだ継手は、さまざまな条件下、特に熱サイクル試験後の耐熱疲労性試験、せん断強さ試験において、市販の標準的なPbフリー合金Sn3.8Ag0.7Cu3.0Bi1.4Sb0.15Ni(Innolot)よりも性能が大幅に優れていた。」

「 EXAMPLES
The chemical compositions of various embodiments of the disclosed SnAgCuSb-based Pb-free solder alloy (alloy nos. 1-5 and 7-21), an industry standard high-Pb solder alloy (alloy no. 6), and a Pb-free commercial alloy Sn3.8Ag0.7Cu3.0Bil.4Sb0.15Ni (Innolot, alloy no. 22) were measured with Inductively Coupled Plasma (ICP) analysis, as shown in FIGs. 1 and 2, which list chemical compositions by wt%. The melting behavior of the solder alloys was analyzed using Differential Scanning Calorimetry (DSC) with a heating and cooling rate of 10°C/min. DSC tests were performed in a TA Q2000 differential scanning calorimeter, scanning from room temperature to 350 °C. For each alloy, the sample was first scanned from ambient temperature up to 350°C, followed by cooling down to 20°C, then scanned again up to 350°C. The second heating thermograph was used to represent the melting behavior of alloys. The solidus and liquidus temperatures of solder alloys obtained from the DSC analyses are listed in the tables in Figs. 1 and 2.」(5頁24行?6頁5行)
[翻訳文]
「【実施例】
【0019】
[EXAMPLES(事例)]
化学組成を重量%で列挙した図1および図2に示す通り、開示されているSnAgCuSbベースのPbフリーはんだ合金(合金No.1?5および7?21)、業界標準の高Pbはんだ合金(合金No.6)および市販のPbフリー合金Sn3.8Ag0.7Cu3.0Bi1.4Sb0.15Ni(Innolot、合金No.22)のさまざまな実施形態の化学組成を誘導結合プラズマ(ICP)分析で測定した。はんだ合金の溶融挙動を、示差走査熱量測定法(DSC)を用いて10℃/minの加熱および冷却速度で分析した。DSC試験を、TA Q2000示差走査熱量計で室温から350℃まで走査して実施した。各合金について、サンプルをまず周囲温度から350℃まで走査し、続いて20℃まで冷却し、次いで再び350℃まで走査した。第2の加熱サーモグラフを用いて合金の溶融挙動を表した。DSC分析から得られるはんだ合金の固相線温度および液相線温度を図1および図2の表に一覧にした。」

「 Benefits of the Compositional Ranges of Alloys of the Present Disclosure
The benefits of the compositional range of alloys disclosed herein are described below. In the Sn-Ag-Cu alloy system, the ternary eutectic composition is approximately Sn3.7Ag0.9Cu, with a eutectic temperature of 217°C. Ag is a major strengthening element in the alloy by forming the Ag_(3)Sn intermetallic particles to act as dispersion strengthening phases. Ag also improves the wettability of solder alloys. For comprehensive considerations of alloys melting behavior, wetting, mechanical properties and thermal cycling reliability, the Ag content is preferred to be in the range of 2.5-4.5 wt%. When Ag is less than 2.5 wt%, mechanical properties and thermal cycling reliability performance of solder joints are not good enough for harsh environment electronics applications. When Ag is more than 4.5 wt%, the alloy's liquidus temperature is increased significantly, and soldering performance is adversely affected. In addition, the cost increase with higher Ag contents is not desired. Accordingly, in embodiments the Ag content is preferably in the range of 3.0-4.0 wt%.
As one of the major elements constituting the SnAgCuSb base alloy, Cu improves the alloy's mechanical properties by the formation of Cu_(6)Sn_(5) intermetallic particles in the solder matrix. It also greatly reduces the dissolution of Cu substrate metal or Cu pads. Based on observations of solder joint microstructure, it was found by the inventors that a higher Cu content in the solder can improve the reliability of solder joints especially with Ni substrate metal or surface finishes by promoting and stabilizing a (Cu,Ni)_(6)Sn_(5) intermetallic layer structure and preventing the (Cu,Ni)_(6)Sn_(5)/(Cu,Ni)_(3)Sn_(4) dual layer structure from formation at the solder joint interfaces. Furthermore, a higher Cu content in the solder can also suppress the occurrences of Ag_(3)Sn plates in solder joints with high Ag content (3 wt% or higher) by initiating the Cu_(6)Sn_(5)primary solidification instead of the Ag_(3)Sn primary solidification phase formation. When Cu is less than 0.6 wt%, the above-mentioned beneficial effects are not expected to be utilized. When Cu is more than 2.0 wt%, the alloys liquidus temperature becomes too high and the melting temperature range becomes too wide for reflow soldering, which affects the soldering performance adversely (e.g., increased voiding). In embodiments of the present disclosure, the Cu content is preferably in the range of 0.6-1.2 wt%.
In the present disclosure, Sb is found to be a key element improving the thermal fatigue resistance of solder joints made of the disclosed alloys in very severe thermal cycling or thermal shock testing conditions used in the present investigations. When the Sb content is less than 2.5 wt%, Sb is dissolved in the Sn matrix to form a Sn(Sb) solid solution as well as in the Ag_(3)Sn phase. As mentioned previously, with the addition of Sb >3 wt% in the solder alloys, the β-SnSb (Fig. 16) intermetallic phase is precipitated from the supersaturated Sn(Sb) solid solution, providing both solid-solution and precipitation strengthening to the SnAgCu alloy. Due to the characteristics and benign effects of the β-SnSb intermetallic precipitation strengthening mechanism, the SnAgCuSb alloys according to the present disclosure exhibit superior comprehensive mechanical properties (both high strength and high ductility), as shown in Fig. 8, as well as greatly improved solder joint reliability performance. However, the addition of Sb increases both the solidus and liquidus temperatures of the alloy. Furthermore, based on previous analyses, in order to avoid the complication of a coarse and brittle primary solidification phase of Sn_(3)Sb_(2), the Sb content according to the present disclosure should be below about 9 wt%. Sb content is more preferably in the range of 3.0-8.0 wt%. Based on the reliability test results in the present investigations, an optimum Sb content is about 5-6 wt% for SnAgCuSb alloys.
As additives to the SnAgCuSb alloys, both Bi and In can decrease the solidus and liquidus temperatures of the alloy. Bi also reduces the surface tension of liquid solders, and thus improves the alloys wettability. Unlike Sb, when Bi is more than 2.5 wt%, the Bi addition increases the alloys strengths, but reduces its ductility significantly, making solder joints brittle with decreased thermal fatigue resistance. In embodiments of the present disclosure, a Bi addition of 1.5 wt% or below is preferred for harsh environment electronics applications.
In addition to the beneficial effects of reducing the solidus and liquidus temperatures of the alloy, when In is added to the SnAgCuSb alloys in less than 4.5 wt%, In is mostly dissolved in the β-Sn matrix to provide a solid- solution strengthening effect. Thus, the alloys mechanical properties and solder joints thermal cycling reliability performance are further improved. Based on microstructure observations of solder joints subjected to severe temperature cycling tests, it was found by the inventors that In additions to the SnAgCuSb alloys can also strengthen grain boundaries and suppress the grain boundary damages at high temperatures, and delay the recrystallization process of solder joints during temperature cycling testing. As discussed previously, when In content is 5 wt% or higher, the alloys melting temperature range is larger than 15°C. In is also an alloying element prone to oxidation, especially in the form of fine solder powder for solder paste applications. It was found by the inventors that soldering performance is decreased (e.g., reduced wetting and increased voiding) with alloys of In additions higher than 4.5 wt%. Thus, In addition of 4.5 wt% or below is generally preferred in the present disclosure. A preferred In content in the alloy also depends on the Sb content. When Sb content is higher than 5.0 wt%, the In addition is preferred to be less than 3.0 wt% to avoid incipient melting phases in the alloy.
In the present disclosure, an amount of 0.001-0.2 wt.% of Ni, or Co, or both can be added to further improve the alloy's mechanical properties and solder joint reliability performance. When the total amount is higher than 0.2 wt%, the alloy's liquidus temperature is increased excessively. In addition, these elements are also prone to oxidation, and thus adversely affect soldering performance when the total addition is more than 0.2 wt%, especially in the form of fine solder powder for solder paste applications. Thus, the upper limit for these additions is 0.2 wt%. 」(11頁25行?14頁3行)
[翻訳文]
「【0040】
[本開示の合金の成分範囲の利益]
本明細書に開示の合金の成分範囲の利益を以下で説明する。Sn-Ag-Cu合金系では、三元共晶組成は約Sn3.7Ag0.9Cuであり、共晶温度は217℃である。Agは、Ag_(3)Sn金属間粒子を形成して分散強化相として作用する、合金中の主要な強化元素である。Agは、はんだ合金のぬれ性も向上させる。合金の溶融挙動、ぬれ性、機械的特性および熱サイクル信頼性を包括的に考慮すると、Ag含有量は、2.5?4.5重量%の範囲内であることが好ましい。Agが2.5重量%未満のとき、はんだ継手の機械的特性および熱サイクル信頼性性能は、過酷な環境の電子機器用途には十分ではない。Agが4.5重量%を超えるとき、合金の液相線温度が著しく上昇し、はんだ付け性能に悪影響を与える。加えて、より高いAg含有量に伴うコストの上昇は望ましくない。したがって、実施形態において、Ag含有量は、好ましくは3.0?4.0重量%の範囲内である。
【0041】
SnAgCuSbベース合金を構成する主要元素の1つとして、Cuは、はんだマトリックス中にCu6Sn5金属間化合物粒子を形成することにより、合金の機械的特性を向上させる。また、Cu基材金属またはCuパッドの溶解を大幅に低減する。はんだ継手のミクロ組織の観察に基づいて、はんだ中のCu含有量をより高くすると、(Cu,Ni)_(6)Sn_(5)金属間層構造を促進および安定化し、かつ(Cu,Ni)_(6)Sn_(5)/(Cu,Ni)_(3)Sn_(4)二重層構造がはんだ継手界面に形成されるのを防ぐことによって、特にNi基材金属または表面仕上げを有するはんだ継手の信頼性を向上させることができることが本発明者らによって明らかになった。さらに、はんだ中のCu含有量をより高くすると、Ag_(3)Snの一次凝固相の形成の代わりに、Cu_(6)Sn_(5)の一次凝固を開始することによって、高Ag含有量(3重量%以上)のはんだ継手におけるAg_(3)Snプレートの発生を抑制することもできる。Cuが0.6重量%未満のときは、前述の有益な効果の利用は期待できない。Cuが2.0重量%を超えるとき、合金の液相線温度が高くなり過ぎて、溶融温度範囲がリフローはんだ付けには広くなりすぎる。これは、はんだ付け性能に悪影響を及ぼす(例えばボイド(空所、隙間の類)の増加)。本開示の実施形態において、Cu含有量は、好ましくは0.6?1.2重量%の範囲内である。
【0042】
本開示において、Sbは、本調査で用いられる非常に厳しい熱サイクルまたは熱衝撃試験条件において、開示されている合金で作製されたはんだ継手の耐熱疲労性を改善する重要な元素であることが明らかである。Sb含有量が2.5重量%未満であるとき、SbはAg_(3)Sn相だけでなくSnマトリックスにも溶解し、Sn(Sb)固溶体を生成する。先述の通り、はんだ合金に3重量%を超えてSbを添加すると、β-SnSb(図16)金属間相が過飽和のSn(Sb)固溶体から析出し、固溶体および析出物強化の両方をSnAgCu合金にもたらす。β-SnSb金属間析出物強化機構の特性およびよい影響によって、本開示によるSnAgCuSb合金は、図8に示す通り、優れた広範な機械的特性(高強度および高延性の両方)ならびに大幅に改善されたはんだ継手の信頼性性能を示す。しかし、Sbの添加は、合金の固相線温度と液相線温度の両方を上昇させる。さらに、先の分析によれば、Sn_(3)Sb_(2)の粗くて脆い一次凝固相の併発を避けるために、本開示によるSb含有量は約9重量%未満であるべきである。Sb含有量は、より好ましくは3.0?8.0重量%の範囲内である。本調査の信頼性試験結果によれば、最適なSb含有量は、SnAgCuSb合金では約5?6重量%である。
【0043】
SnAgCuSb合金への添加剤(添加物)として、BiおよびInの両方が合金の固相線温度および液相線温度を低下させることができる。Biも液体はんだの表面張力を低下させ、したがって合金のぬれ性を向上させる。Sbとは異なり、Biが2.5重量%を超えると、Biの添加によって合金の強度は高くなるが、その延性を著しく低下させ、はんだ継手を脆くすると共に耐熱疲労性を低下させる。本開示の実施形態において、1.5重量%以下のBi添加が過酷な環境の電子機器用途には好ましい。
【0044】
合金の固相線温度および液相線温度を低下させる有益な効果に加えて、SnAgCuSb合金にInを4.5重量%未満添加すると、Inはβ-Snマトリックスにほとんど溶解して固溶体強化効果が得られる。したがって、合金の機械的特性およびはんだ継手の熱サイクル信頼性性能がさらに改善される。厳しい温度サイクル試験を行ったはんだ継手のミクロ組織観察に基づいて、SnAgCuSb合金にInを添加すると、温度サイクル試験中に粒界を強化し、高温での粒界損傷を抑制し、はんだ継手の再結晶過程を遅らせることができることが本発明者らによって明らかになった。先に議論した通り、In含有量が5重量%以上であるとき、合金の溶融温度範囲は15℃よりも高い。Inは、特にはんだペースト用途のための微細なはんだ粉末の形態で酸化しやすい合金元素でもある。4.5重量%を超えてInを添加した合金で、はんだ付け性能が低下すること(例えば、ぬれの低下およびボイドの増加)が本発明者らによって明らかになった。したがって、本開示において、4.5重量%以下のIn添加が一般に好ましい。合金中の好ましいIn含有量はSb含有量にも依存する。Sb含有量が5.0重量%を超えるとき、合金中の初期溶融段階を避けるために、In添加は3.0重量%未満であることが好ましい。
【0045】
本開示において、0.001?0.2重量%の量のNiまたはCo、あるいは両方を添加して、合金の機械的特性およびはんだ継手の信頼性性能をさらに改善することができる。総量が0.2重量%を超えると、合金の液相線温度が過度に上昇する。加えて、これらの元素も酸化されやすく、したがって、特にはんだペースト用途のための微細なはんだ粉末の形態で総添加量が0.2重量%を超えると、はんだ付け性能に悪影響を及ぼす。したがって、これらの添加量の上限は0.2重量%である。」



」(図1)
[翻訳文]
「【図1】





」(図2)
[翻訳文]
「【図2】



(2)甲2に記載された発明
ア.甲2には、「本明細書に開示のPbフリーはんだ合金の実施形態で作製されたはんだ継手」として、標準より「高い耐熱疲労性」のものが得られ、「熱サイクル試験後の耐熱疲労性試験、せん断強さ試験」も性能が大幅に優れるものが得られる(【0018】)ことが説明され、かつ、
「【請求項1】
2.5?4.5重量%のAg;
0.6?2.0重量%のCu;
2.5?9.0重量%のSb;および
残余のSnを含んでなる、はんだ合金。
【請求項2】
0.1?2.5重量%のBi、
0.1?4.5重量%のIn;および
0.001?0.2重量%のNiもしくはCo、またはそれらの両方から選択される添加物のうちの少なくとも1種を更に含む、請求項1に記載のはんだ合金。」
とされる請求項2に記載の「はんだ合金」の各構成元素の役割及び含有範囲の上限値及び下限値を定めた理由として、Ag(【0040】)、Cu(【0041】)、Sb(【0042】)、Bi(【0043】)、In(【0044】)、及びNiまたはCo(【0045】)についての説明が、それぞれ具体的になされている。

イ.特にSbの含有割合を請求項1に記載されているような範囲とする技術思想は、
「本開示において、Sbは、本調査で用いられる非常に厳しい熱サイクルまたは熱衝撃試験条件において、開示されている合金で作製されたはんだ継手の耐熱疲労性を改善する重要な元素であることが明らかである。Sb含有量が2.5重量%未満であるとき、SbはAg_(3)Sn相だけでなくSnマトリックスにも溶解し、Sn(Sb)固溶体を生成する。先述の通り、はんだ合金に3重量%を超えてSbを添加すると、β-SnSb(図16)金属間相が過飽和のSn(Sb)固溶体から析出し、固溶体および析出物強化の両方をSnAgCu合金にもたらす。β-SnSb金属間析出物強化機構の特性およびよい影響によって、本開示によるSnAgCuSb合金は、図8に示す通り、優れた広範な機械的特性(高強度および高延性の両方)ならびに大幅に改善されたはんだ継手の信頼性性能を示す。しかし、Sbの添加は、合金の固相線温度と液相線温度の両方を上昇させる。さらに、先の分析によれば、Sn_(3)Sb_(2)の粗くて脆い一次凝固相の併発を避けるために、本開示によるSb含有量は約9重量%未満であるべきである。Sb含有量は、より好ましくは3.0?8.0重量%の範囲内である。本調査の信頼性試験結果によれば、最適なSb含有量は、SnAgCuSb合金では約5?6重量%である。」(【0042】)
と、説明されるような理由による。
なお、ここでの下線は、甲2に記載された発明の「はんだ合金」におけるSbの添加量を決める際、特に考慮すべき事項について付している。

ウ.また、甲2には、その請求項2に記載された「はんだ合金」に対応する実施形態として、合金No.2「SB3503NiCo」(構成成分:3.54重量%のAg、1.04重量%のCu、3.46重量%のSb、0.29重量%のBi、0.05重量%のNi、0.05重量%のCo、残余分Sn 固相線温度:218.8℃ 液相線温度:226.0℃)が、図1に具体的に示されている。

エ.そして、上記ア.?ウ.を踏まえ、特に甲2の合金No.2「SB3503NiCo」の記載に着目すると、甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲2発明>
3.54重量%のAg;
1.04重量%のCu;
3.46重量%のSb;
0.29重量%のBi;
0.05重量%のNi;
0.05重量%のCo;および
残余のSn
を含んでなる、はんだ合金。

(3)本件特許発明1について
ア.対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明における「はんだ合金」は、実質的に鉛を含まない組成のものであり、本件特許発明1の「鉛フリーはんだ合金」に相当する。

(イ)また、甲2発明の「はんだ合金」を構成するAg、Cu、Sb、Bi、Ni及びCoは、いずれも本件特許発明1の「鉛フリーはんだ合金」を構成する元素と一致する。

(ウ)また、本件特許発明1の「不可避の不純物」については、甲2発明の「はんだ合金」にも、通常「不可避の不純物」が含まれると考えられるから、両者は「不可避の不純物」を含む点で一致する。

(エ)そうすると、本件特許発明1と甲2発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
鉛フリーはんだ合金であって、
アンチモンと、ビスマスと、銀と、銅と、
以下のうちの1つ以上と:
ニッケル、コバルト、チタン、マンガン、ゲルマニウム、アルミニウム、ケイ素、
任意に以下のうちの1つ以上と:
インジウム、クロム、亜鉛、砒素、鉄、リン、金、ガリウム、テルル、セレン、カルシウム、バナジウム、モリブデン、白金、希土類元素、
残部であるスズ及び不可避の不純物と、
を含む鉛フリーはんだ合金。

<相違点2>
鉛フリーはんだ合金の組成について、本件特許発明1では、各構成元素が特定の含有割合の組み合わせとされているのに対し、甲2発明では、そのような組み合わせが示されていない点。

イ.相違点2の検討
(ア)甲2発明の「はんだ合金」組成は、特にSbの含有割合が3.46重量%であって、本件特許発明1の「8?15重量%」というアンチモンの含有割合の範囲から外れているから、相違点2は実質的な相違点である。
また、甲2に記載された発明として、仮に甲2発明以外の発明を認定するとしても、甲2の請求項1,2に記載される「はんだ合金」組成のSbの含有割合「2.5?9.0重量%」なる範囲のうち、本件特許発明1の「鉛フリーはんだ合金」組成におけるアンチモンの「8?15重量%」と重複する「8?9重量%」なる含有割合範囲を満たしつつ、本件特許発明1のような各構成元素が特定の含有割合の組み合わせとなる「はんだ合金」組成は、以下の(イ)で述べる、アンチモンの含有に関する本件特許発明1と甲2に記載された発明との技術思想の相違や、実施例開示の具体的な組成を参酌すると、甲2において実質的に記載されているとはいえない。
そうすると、本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえない。

(イ)また、本件特許発明1の「鉛フリーはんだ合金」は、本件特許明細書の記載(【0033】,【0117】)を踏まえると、少なくとも「8重量%」の「アンチモン」を含む組成とすることによって、リフローする280?300℃のピーク温度近く(本件特許明細書【0117】で説明される図3の場合には、Sbを7.5%超とすることで液相線温度が262℃以上にできることが見て取れる。)にまで液相線温度を上げ、高い動作温度を実現しているものと解される。
その一方、「はんだ合金」組成に関し、甲2には、
a.上記(イ)で挙げたようにSbを7.5%超とする本件特許発明1のような技術思想は開示されておらず、かつ、
b.甲2の請求項1,2に記載される「はんだ合金」組成におけるSbの「2.5?9.0重量%」なる含有割合範囲の中でも、本件特許発明1の「鉛フリーはんだ合金」組成におけるアンチモンの「8?15重量%」と重複する「8?9重量%」なる範囲の「はんだ合金」を実現しようとする積極的な動機も、上記(2)イ.に示すとおりの技術思想(【0042】)の内容も含め、何らも開示されているとはいえない。
また仮に、甲2の請求項1等にSbの「2.5?9.0重量%」という含有割合が記載されている以上、甲2の記載から、本件特許発明1の「鉛フリーはんだ合金」組成におけるアンチモンの「8?15重量%」と重複する「8?9重量%」なるSbの含有割合範囲の「はんだ合金」を得ることまでは、当業者が容易になし得たといえる余地があったとしても、
c.本件特許発明1のように各構成元素が特定の含有割合の組み合わせとなる鉛フリーはんだ合金を実現する動機は何らも見出せない。
そうすると、甲2に記載された発明として、甲2発明を認定した場合においても、仮に甲2発明以外の発明を認定した場合においても同様に、当業者といえども、甲2に記載された発明に基いて、本件特許発明1のように各構成元素が特定の含有割合の組み合わせとなる鉛フリーはんだ合金を容易になし得たとはいえない。

(ウ)さらに、甲1、3?20にも、甲2に記載された発明の「はんだ合金」組成について、アンチモンの含有割合を「8?15重量%」とすることなど、本件特許発明1のように各構成元素が特定の含有割合の組み合わせとなる鉛フリーはんだ合金を実現する動機は見出せない。
そうすると、当業者といえども、甲2に記載された発明及び甲1、3?20に記載された事項に基いて、本件特許発明1のように各構成元素が特定の含有割合の組み合わせとなる鉛フリーはんだ合金を容易になし得たとはいえない。

ウ.小括
そうすると、本件特許発明2は、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明及び甲1、3?20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)本件特許発明2?32について
本件特許発明2?32は、本件特許発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(3)で述べたとおり、本件特許発明1が、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明及び甲1、3?20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない以上、本件特許発明2?32についても同様に、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明及び甲1、3?20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1?6、12?14、16,20、21、24?27は、甲2に記載された発明であるとはいえない。
また、本件特許発明1?32は、甲2に記載された発明及び甲1、3?20に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、上記第3 2.(2)の理由2-2(新規性)、及び理由3-2(進歩性)によっては、本件特許請求項1?32に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許請求項1?32に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許請求項1?32に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-08-16 
出願番号 特願2018-556486(P2018-556486)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B23K)
P 1 651・ 113- Y (B23K)
P 1 651・ 121- Y (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 橋本 憲一郎  
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 井上 猛
市川 篤
登録日 2020-09-23 
登録番号 特許第6767506号(P6767506)
権利者 アルファ・アセンブリー・ソリューションズ・インコーポレイテッド
発明の名称 高信頼性鉛フリーはんだ合金  
代理人 松田 奈緒子  
代理人 流 良広  
代理人 廣田 浩一  

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