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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B67D 審判 全部申し立て 2項進歩性 B67D 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B67D |
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管理番号 | 1377816 |
異議申立番号 | 異議2020-700853 |
総通号数 | 262 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2021-10-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-11-04 |
確定日 | 2021-09-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6713228号発明「液体注出装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6713228号の請求項1?6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6713228号の請求項1?6に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成30年5月31日に出願され、令和2年6月5日にその特許権の設定登録がされ、令和2年6月24日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和 2年11月 4日 : 特許異議申立人 橋本 清(以下、「特許異議申立人」という。)による特許異議の申立て 令和 3年 3月10日付け: 取消理由通知書 令和 3年 5月 7日 : 特許権者 株式会社ニットク(以下、「特許権者」という。)による意見書の提出 第2 本件発明 特許第6713228号の請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 発泡液と原液とを同時に注出することが可能な液体注出装置において、 内部に、前記発泡液が流通する発泡液流路、及び、前記原液が流通する原液流路、が形成された注出部と、 前記発泡液流路に連通し前記発泡液を注出するための発泡液注出口部、及び、前記原液流路に連通し前記原液を注出するための原液注出口部、を有する注出ノズル部と、 を備え、 前記発泡液注出口部が、前記発泡液を一方向に注出するように案内するものであり、 前記原液注出口部が、前記原液を前記発泡液から遠ざかる方向に注出するように案内するものである液体注出装置。 【請求項2】 前記発泡液注出口部が前記発泡液を注出する方向と、前記原液注出口部が前記原液を注出する方向とのなす角度が、15?45°である請求項1記載の液体注出装置。 【請求項3】 前記原液注出口部が、下面視で、前記発泡液注出口部の中心を原点とする円周上に複数設けられている請求項1又は2に記載の液体注出装置。 【請求項4】 隣合う前記原液注出口部のうち、一方の前記原液注出口部の中心と前記発泡液注出口部の中心とを結ぶ線と、他方の前記原液注出口部の中心と前記発泡液注出口部の中心とを結ぶ線とのなす角度が、120°以上となる領域を1箇所設ける請求項3記載の液体注出装置。 【請求項5】 前記発泡液流路には、内側シリンダと、該内側シリンダの外側に配置された外側シリンダとが取り付けられており、 前記発泡液が、前記内側シリンダと前記外側シリンダとの間を流通して、前記発泡液注出口部から注出される請求項1?4のいずれか1項に記載の液体注出装置。 【請求項6】 前記注出ノズル部が、 前記発泡液注出口部が設けられた第1ノズル部と、 前記原液注出口部が設けられた第2ノズル部と、 からなり、 前記第2ノズル部が、前記第1ノズル部にOリングを介して取り付けられ、且つ、前記第1ノズル部に対して回動自在となっている請求項1?5のいずれか1項に記載の液体注出装置。 」 第3 取消理由の概要 当審が令和3年3月10日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 1.理由1(新規性)について 本件発明1は、甲第1号証(実公昭48-5188号公報)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 2.理由2(サポート要件)について 請求項1に係る特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 第4 甲各号証の記載 1.甲第1号証(実公昭48-5188号公報) (1)甲第1号証の記載 甲第1号証には以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下、同様である。)。 ア 「 本考案は液体供給用コツク装置に関する。 図に於て、1は液体供給装置、2はこの装置1のケース前面1aに突設したコツク本体を示す。3は水受け兼用のコツプ載置台で、前記コツク本体2直下の前記装置1前面に突設してなる。 4はコツク本体2への液体導入管、5は弁体で前記コツク本体2内を貫通する液通路6、6’を開閉し、金属芯材7にゴム8を被せてなり、コツク本体2の上方に向け末広がりの孔9に揺動自在に設け、その上端を外部に突出している。11は弁開閉用レバーで、前記コツク本体2に垂設しコツプにより押圧操作される。このレバー11はコツプ本体2の軸12に枢支してケース前面1aに対し前後方向に回動し、その先端には軸12に支持した弁体押板13が接している。14はコツク本体2に固定した板バネで、常時弁体5が液通路6を閉じる様弾発力が付与されている。15は液通路6の出口であり、例えばポストミツクスタイプの炭酸飲料の場合には上述弁構造が二個独立して並列にコツク本体2内に設けられその一方の通路(図示では6)が炭酸水、他方の通路(図示では6’)がシロツプ(糖蜜)用として用いられる。」(第1頁第1欄第23行?第2欄第6行) イ 「レバー11をバネ14に抗して押すと弁体5,5’は通路6,6’を 開く。」(第1頁第2欄第21?22行) ウ 上記「ア」、「イ」の記載から、コツプにより弁開閉レバー11をバネ14に抗して押すと、弁体5,5’は、炭酸水の通路6とシロツプの通路6’を開くものである。レバー11を押したあと弁体5,5’のうち一方のみを開けたり、双方を時間差を持って開けたりするための特段の構成や制御については記載されていないし、その必要性についても記載や示唆は無く、弁体5,5’は同時に開くと解するのが自然であるから、液体供給装置1は、炭酸水とシロツプとを同時に注出することが可能であるといえる。 エ 上記「ア」、「イ」の記載及び第1図、第2図の図示内容から、液体供給装置1は、内部に、炭酸水が流通する炭酸水の通路6、及び、シロツプが流通するシロツプの通路6’、が形成された通路部分を備えると共に、前記炭酸水の通路6に連通し前記炭酸水を注出するための炭酸水の出口15、及び、前記シロツプの通路6’に連通し前記シロツプを注出するためのシロツプの出口、を有する出口部分を備えているといえる。 オ 第1図、第2図から、炭酸水の出口15は、炭酸水を一方向に注出するように案内するものであることが看取される。 (2)甲第1号証に記載されている発明 上記「ア」?「オ」によると、甲第1号証には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「炭酸水とシロツプとを同時に注出することが可能な液体供給装置1において、 内部に、前記炭酸水が流通する炭酸水の通路6、及び、前記シロツプが流通するシロツプの通路6’、が形成された通路部分と、 前記炭酸水の通路6に連通し前記炭酸水を注出するための炭酸水の出口15、及び、前記シロツプの通路6’に連通し前記シロツプを注出するためのシロツプの出口、を有する出口部分と、 を備え、 前記炭酸水の出口15が、前記炭酸水を一方向に注出するように案内するものである 液体供給装置1。」 2.甲第2号証(特開2003-160196号公報) (1)特許異議申立人が提出した甲第2号証には以下の事項が記載されている。 ア 「【0009】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、炭酸水と液体原料を混合した炭酸飲料は、飲料ノズル31gからカップに注がれる際の衝撃により飲料中に溶け込んでいる炭酸ガスが逃げようとして発泡現象を生じる。特に、高発泡性の液体原料を使用した炭酸飲料は過剰な発泡現象(以後フォーミングと記載する)が生じやすい。 【0010】このような炭酸水と液体原料をポストミックスバルブ31の飲料ノズル31gで混合して調理した炭酸飲料をカップ40に噴射して供給する飲料供給装置30では、高発泡性の液体原料を使用すると、カップ40に噴射したときの衝撃によってフォーミングが発生する。このフォーミングはカップ40から飲料をあふれさせて飲料を規定量注ぐことが困難になるだけでなく、炭酸ガス含有量(以後ガスボリュームと記載する)の低下した所謂気抜け飲料となってしまうため、これらの不都合をなくす努力が続けられてきた。」 イ 「【0017】図1は、本発明の第1の実施の形態に係る飲料を構成する液体原料と希釈水や炭酸水等の希釈液を供給する飲料供給装置1を示す構成図である。図1(イ)は正面方向から見た状態、図1(ロ)は側面方向から見た状態を示す。 【0018】液体原料を充填した液体原料タンク8に配設したシロップ管路9には液体原料の流量を調節するフローレギュレータ10と、後述する供給制御部100からの信号で飲料の供給をオン、オフする働きをするポストミックスバルブ11(飲料バルブ)が連通され、このポストミックスバルブ11には炭酸水管路23が連通される。供給制御部100がポストミックスバルブ11のソレノイド31cに信号を出力すると液体原料と炭酸水が飲料ノズル11hからカップ40に供給される。 【0019】図2は、本発明の第1の実施の形態に係るポストミックスバルブ11を示す構成の側断面図である。ポストミックスバルブ11は、液体原料バルブ31aと希釈液バルブ31bとソレノイド31cと液体原料吐出部31dと希釈液吐出部31eとOリング31fと、Oリング31fを介して希釈液吐出部31eに着脱自在に装着される飲料ノズル11hとから成り、また、飲料ノズル11hにはOリング11mが取り付けられ、このOリング11mを介して液体原料吐出部31dに装着される。このポストミックスバルブ11は、ポストミックスバルブ31の飲料ノズル31gを取り外して、Oリング11mを取り付けた飲料ノズル11hを装着したものである。 【0020】この飲料ノズル11hは、液体原料吐出部31dが吐出した液体原料をカップ40に供給するための液体原料通路11k(液体原料ノズル)と、希釈液吐出部31eが吐出した炭酸水をカップ40に供給するための炭酸水通路11i、11j(炭酸水ノズル)と、液体原料が流れる通路と炭酸水が流れる通路の2つの独立した通路を有し、液体原料吐出部31dが吐出した液体原料と希釈液吐出部31eが吐出した炭酸水はそれぞれの通路からカップ40に供給されるので、液体原料と炭酸水はカップ40に供給されるまで混合することがなく、また、液体原料と炭酸水がカップ40に供給される位置が離れているので、従来の液体原料と炭酸水を飲料ノズル31g内で混合した炭酸飲料をカップ40に供給するのに比べてフォーミングの発生を少なくすることができる。」 ウ 「【0023】このように、液体原料を供給する液体原料通路11kと炭酸水を供給する炭酸水通路11i、11jとを独立して設け、各々の通路から液体原料と炭酸水をカップ40に供給すると、液体原料と炭酸水はカップ40に供給されるまで混合することがなく、また、液体原料と炭酸水がカップ40に供給される位置が離れているので、従来の液体原料と炭酸水を飲料ノズル31g内で混合した炭酸飲料をカップ40に供給するのに比べて、カップ40に直接炭酸飲料が噴射されたときの衝撃によって発生するフォーミングがなくなるので、高発泡性の液体原料を使用した炭酸飲料を低発泡性の液体原料を使用した炭酸飲料と同じ時間で供給しても、フォーミングの発生を抑え、ガスボリュームの低下を起こさないようにできる。」 エ 「【0027】かかる状態で、飲料供給装置1にカップ40をセットし、例えば炭酸飲料を選択する飲料選択ボタン60を押すと、供給制御部100が飲料選択ボタン60の選択飲料に対応したソレノイド31cに信号を出力する。ソレノイド31cが動作すると、液体原料バルブ31aと希釈液バルブ31bがオン(開放)し、飲料選択ボタン60の選択飲料に対応した液体原料タンク8に収納している液体原料が液体原料通路11kから供給され、カーボネータ22内の炭酸水が炭酸水通路11jから供給されて、飲料選択ボタン60の選択飲料に対応した液体原料と炭酸水がカップ40内で混合されて炭酸飲料となる。」 オ 図2から、炭酸水ノズル11i、11jが、炭酸水を下方である一方向に供給するように案内するものであることが看取される。 カ 上記「エ」の記載によれば、ソレノイド31cが動作すると、液体原料バルブ31aと希釈液バルブ31bがオン(開放)することから、飲料供給装置1は炭酸水と液体原料とを同時に供給することが可能といえる。 キ 上記「イ」における段落【0019】の記載から、ポストミックスバルブ11は、内部に希釈液吐出部31e及び液体原料吐出部31dを備えているといえる。 ク 上記「イ」における段落【0020】の記載及び図2から、液体原料ノズル11kは、液体原料を炭酸水ノズル11i、11jから炭酸水が供給される位置に対して離れた位置から供給するように案内するものであるといえる。 (2)甲第2号証に記載されている発明 上記「ア」?「ク」によると、甲第2号証には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「炭酸水と液体原料とを同時に供給することが可能な飲料供給装置1において、 内部に、前記炭酸水を吐出する希釈液吐出部31e、及び、前記液体原料を吐出する液体原料吐出部31d、を備えたポストミックスバルブ11と、 前記希釈液吐出部31eが吐出した前記炭酸水をカップ40に供給するための炭酸水ノズル11i、11j、及び、前記液体原料吐出部31dが吐出した前記液体原料をカップ40に供給するための液体原料ノズル11k、を有する飲料ノズル11hと、 を備え、 前記炭酸水ノズル11i、11jが、前記炭酸水を一方向に供給するように案内するものであり、 前記液体原料ノズル11kが、前記液体原料を前記炭酸水ノズル11i、11jから前記炭酸水が供給される位置に対して離れた位置から供給するように案内するものである飲料供給装置1。」 3.甲第3号証(特開2015-64622号公報) (1)特許異議申立人が提出した甲第3号証には以下の事項が記載されている。 ア 「【0006】 本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、飲料ノズルからの飲料の吐出終了直後に、飲料ノズルから後だれが生じても、その後だれでカップの外面などが濡れるのを防止することができる飲料提供装置を提供することを目的とする。」 イ 「【0024】 図3は、飲料を吐出し、カップCに供給するノズルユニット24のうち、コールド飲料用の複数(本例では4つ)の飲料ノズル40を示しており、具体的には、炭酸水を吐出する炭酸水ノズル41、希釈用の冷水を吐出する希釈水ノズル42、互いに異なるシロップを吐出する2つのシロップノズル43、43を示している。これらの飲料ノズル40は、吐出する飲料に応じて、所定の径及びサイズを有する円筒状に形成されるとともに、下流端に飲料を吐出する吐出口40aを有している。また、各飲料ノズル40は、対応する飲料を搬送する搬送チューブ44が接続されるとともに、ノズルホルダ45を介して、所定の位置及び姿勢で設置されている。」 ウ 「【0026】 また、上記のように設置された各飲料ノズル40から吐出される飲料は、図3(a)及び(b)において一点鎖線で示すように、飲料供給位置のカップCに供給される。具体的には、炭酸水ノズル41及び希釈水ノズル42からそれぞれ吐出される炭酸水及び希釈水は、カップCの内側面に対し、鋭角を為すように当たり、一方、両シロップノズル43から吐出されるシロップは、カップCの内側面に対し、ほぼ直角を為すように当たる。これにより、炭酸水ノズル41及び希釈水ノズル42からそれぞれ吐出される炭酸水及び希釈水は、カップCの内側面に当たるとともに、その周方向に沿って一方向(本実施形態では反時計方向)に流れるように、カップCに供給される。」 エ 「【0028】 このステップ3では、カップ搬送装置23によって、カップCを飲料供給位置に搬送する。図5(a)は、カップCが飲料供給位置に搬送された状態を示している。同図に示すように、炭酸水ノズル41及び一方のシロップノズル43からそれぞれ、炭酸水及びシロップを吐出し、飲料供給位置に保持されたカップCに供給する(ステップ4)。この場合、炭酸水ノズル41から吐出し、カップCの内側面に当たった炭酸水は、反時計方向に回転するように供給され、これにより、カップC内で供給されたシロップと良好に攪拌される。」 オ 「【0029】 次いで、ステップ5において、飲料供給が終了したか否かを判別する。この判別結果がNOのときには、カップCへの飲料供給を継続する。一方、ステップ5の判別結果がYESで、飲料供給が終了したときには、その終了直後に、カップ搬送装置23によって、カップCを若干搬送し、図5(b)に示すように、後だれ液受取位置に移動させる。この後だれ液受取位置は、前述した飲料供給位置に対し、カップCを左方に所定距離、移動させた位置であり、図5(b)に示すように、所定の飲料ノズル40(本例では炭酸水ノズル41)の吐出口40aを通る鉛直線LがカップCの上面開口の周縁部の内側に位置するように設定されている。これにより、図5(c)に示すように、炭酸水ノズル41から後だれが生じた場合、その後だれ液Aは、カップCに受け取られる。」 カ 「【0032】 以上詳述したように、本実施形態によれば、飲料の販売時において、飲料ノズル40から吐出させた飲料を、飲料供給位置に保持されているカップCに供給し、その終了直後に、カップCを後だれ液受取位置に移動させる。これにより、飲料ノズル40からの飲料の吐出終了直後に、飲料ノズル40から後だれが生じても、その後だれ液AをカップCで受け取ることができ、カップCの外面や、カップホルダ31の把持アーム35などが濡れるのを防止することができる。これにより、カップCなどが濡れることによる不快感を購入者に与えることなく、飲料を販売することができる。」 キ 「【0033】 また、炭酸水ノズル41から吐出される炭酸水は、飲料供給位置に保持されたカップCに対し、その内側面に当たるとともに周方向に沿って一方向に流れるので、カップCに供給された炭酸水の勢いによって、シロップと炭酸水をカップC内で回転させながら、良好に攪拌でき、良質の炭酸飲料を販売することができる。さらに、炭酸水ノズル41の吐出口40aから吐出した炭酸水がカップCの内側面に当たるまでの距離が十分に確保され、その内側面に当たる炭酸水の角度が鋭角であるので、炭酸水がカップCの内側面に当たるときの衝撃を緩和しながら、カップCの内側面の周方向に沿って流れるように、炭酸水をカップCに供給することができる。これにより、炭酸水がカップCに供給される際の発泡を抑制でき、炭酸の効きの良い良質の炭酸飲料を販売することができる。」 ク 図3からは、2つのシロップノズル43から吐出されるシロップを示している一点鎖線同士がカップCの内側面付近で交わっていることが看取される。このことから、これら2本の一点鎖線が平行ではないことは理解できるが、これら2本の一点鎖線と、炭酸水ノズル41から吐出される炭酸水を示している一点鎖線との角度を正確に看取することはできない。 (2)甲第3号証に記載されている発明 上記「ア」?「ク」によると、甲第3号証には以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。 「飲料供給の終了直後に、カップCを若干搬送し、所定の飲料ノズル40(本例では炭酸水ノズル41)の吐出口40aを通る鉛直線LがカップCの上面開口の周縁部の内側に位置する、後だれ液受取位置に移動させ、炭酸水ノズル41から後だれが生じた場合、その後だれ液AをカップCで受け取ることで、飲料ノズルからの飲料の吐出終了直後に飲料ノズルから後だれが生じても、その後だれでカップの外面などが濡れるのを防止するとともに、炭酸水ノズル41の吐出口40aから吐出した炭酸水がカップCの内側面に当たる角度が鋭角であるので、炭酸水がカップCの内側面に当たるときの衝撃を緩和しながら、カップCの内側面の周方向に沿って流れるように、炭酸水をカップCに供給することにより、炭酸水がカップCに供給される際の発泡を抑制できる、飲料供給装置。」 4.甲第4号証(特開2011-251758号公報) (1)特許異議申立人が提出した甲第4号証には以下の事項が記載されている。 ア 「【0021】 以下、図面を参照しながら、本発明に係る飲料供給装置の飲料ノズルの好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。 (実施の形態1) 図1は、本発明の実施の形態1である飲料ディスペンサ(飲料供給装置)1の外観図である。」 イ 「【0025】 図3(a)は飲料ノズル20の正面図、図3(b)はその底面図、図4はその断面側面図である。飲料ノズル20は、希釈液(希釈水または炭酸水)を吐出する希釈液ノズル21と、希釈液ノズル21の周囲に複数配設されてシロップ(液体原料)を吐出するシロップノズル(液体原料ノズル)26と、希釈液ノズル21の希釈液吐出口24aに設けられた整流板25と、希釈液ノズル21およびシロップノズル26周囲を覆うように設けられたノズルカバー27と、から構成されている。 【0026】 希釈液ノズル21は、希釈水管路12および炭酸水管路13の終端部が接続されて希釈液吐出孔22aから希釈液を吐出する希釈液吐出部22と、希釈液吐出部22に取り付けられたOリング23を介して装着される希釈液吐出ノズル24と、から構成されている。 【0027】 整流板25は例えば十字の板状の形態をなし、希釈液吐出ノズル24の希釈液吐出口24aに装着され、希釈液吐出孔22aから吐出して希釈液吐出ノズル24から流下する希釈液の流れを安定させる。特に、希釈液吐出孔22aから吐出して希釈液吐出ノズル24から流れ落ちる希釈水(冷水)は左右方向にぶれて安定しない場合が多く、シロップノズル26から吐出したシロップとの空中衝突による混合が不安定となり、十分な混合が行われなくなるという不都合があるが、この整流板25を通過させることで希釈水の流れが安定するので、炭酸水に比べてノズルから吐出後の流れが左右にぶれて安定しない場合が多い希釈水の流れを安定させて確実にシロップと空中で衝突させることができるので、シロップと希釈液とを空中で衝突させて混合した飲料のブリックス(BRIX)を均一にすることができる。」 ウ 「【0030】 以上のように本発明によれば、シロップと希釈液とを混合した飲料を供給する飲料ディスペンサ1の飲料ノズル20であって、希釈液を吐出する希釈液ノズル21の周囲にシロップを吐出するシロップノズル26を複数配設し、シロップノズル26から吐出したシロップを希釈液ノズル21から吐出した希釈液に空中で衝突させて混合した飲料をカップCに流下させるようにしたことにより、全てのシロップノズル26と希釈液ノズル21との距離を同じにすることができるので、シロップと希釈液を均一に混ぜ合わせてカップCに供給して味ムラのない良質な飲料を供給可能とし、かつ、飲料がカップCに供給された際に生じる炭酸ガスの分離放出、過剰なフォーミングを抑えて良質な仕上がり状態で飲料を供給できる飲料ディスペンサ1の飲料ノズル20を提供することが可能となる。 」 5.甲第5号証(特開2016-30641号公報) (1)特許異議申立人が提出した甲第5号証には以下の事項が記載されている。 ア 「【0012】 バルブ本体1には、軸方向が飲料水供給装置及び炭酸水注出バルブの上下の向きと一致する円筒形状の円筒状空間部10が形成され、その内部には、前記供給弁に連通する直管状の飲料原液供給管5が下方に向かって伸びている。また、この円筒状空間部10の天面10aは、図1において右方から左方に向かって傾斜している。また、この円筒状空間部10の上方において、円筒状空間部10の接線方向から炭酸水通路3が開口されて、炭酸水導入空間部11が構成されている。炭酸水導入空間部11はこのように構成されているため、炭酸水がこの炭酸水導入空間部11に導かれると円を描くように供給される。」 イ 「【0013】 円筒状空間部10を構成する壁部分が樹脂成型品であるため、円筒状空間部10の内周壁面6の断面は、図3に示すように円筒状空間部10の軸線Lに対し下方に向かって角度αを有するテーパ面とされている。また、図1に示すように円筒状空間部10には、飲料原液供給管5を軸心とするように円筒状コーン14が挿入されている。この円筒状コーン14は、円筒状の内コーン14aと円筒状の外コーン14bとを組み合わせて構成されている。つまり、外コーン14bの内側に、内コーン14aが同心円状に設けられている。そして、外コーン外周部14cと円筒状空間部10の内周壁面6とが接触している。外コーン14bは、内コーン14aよりも、軸方向の長さが長く形成されている。」 ウ 「【0016】 図6に示すように、外コーン孔14fの直径は内コーン14aの外周の直径よりも多少大きく形成されている。これにより、内コーン14aの外周壁面と外コーン14bの内周壁面との間に円筒形状の間隙20が形成される。また、図7に示すように、内コーン14aの外周壁面には、網目状の細溝14iが設けられている。図1に示すように、間隙20と、細溝14iとは、炭酸水注出バルブにおける減圧装置を構成している。 【0017】 次に、この発明の実施の形態1に係る炭酸水注出バルブの動作について説明する。 図1に示すように、バルブレバー2が押されてバルブ本体1内の炭酸水通路3及び飲料原液通路4を開閉する供給弁がそれぞれ開放されると、炭酸水通路3が炭酸水導入空間部11に対し接線方向に開口しているので、炭酸水が炭酸水導入空間部11内に円を描きながら静かに導入される。従って、この炭酸水の導入に際しては、炭酸水における炭酸ガスと水との結び付きを乱す動揺が抑制される。そして、炭酸水導入空間部11内に導入された炭酸水は、外コーンOリング9が設けられていることにより、円筒状コーン14の外コーン14bと円筒状空間部10の内周壁面6との間から漏出することはなく、また、内コーンOリング8が設けられていることにより、円筒状コーン14の内コーン14aと飲料原液供給管5との間から漏出することはない。したがって、炭酸水は炭酸水導入空間部11から間隙20へと導入される。 【0018】 炭酸水は、間隙20と、内コーン14aに設けられ間隙20に対向している細溝14iとを下方へ流動する。この環状の間隙20と細溝14iとからなる減圧通路を有する減圧装置では、図6に示すように、間隙20が円環状で且つ飲料水供給装置及び炭酸水注出バルブの上下方向にある程度の長さを有する形状をしており、細溝14iにより減圧通路の表面積が大きくなっているので、図1に示すように、減圧装置における炭酸水は、流速が遅くなり、長い時間をかけて流下し、ゆっくり静かに減圧されながら整流部15に流出する。従って、減圧装置における炭酸水の動揺は少なく、炭酸水における炭酸ガスと水との結び付きの乱れが軽減される。次いで、炭酸水は、円盤状の整流部15の半円状溝18に案内されてノズル22の嵌合孔23の内周壁面に沿って静かに炭酸飲料水吐出口25へ流下される。」 エ 「【0020】 このように、円筒状コーン14の内部に炭酸水導入空間部11から炭酸飲料水吐出口25までの間を連通する減圧通路を備える減圧装置を備え、減圧通路の壁面に細溝14iを備えることで、減圧通路の表面積が大きくなり、表面積の大きい減圧通路に炭酸水を流すことで、炭酸水がゆっくり静かに減圧されながら流出して確実に炭酸水を減圧することができるので、炭酸ガスボリュームの低下を防止することができる。」 6.甲第6号証(特開2006-16048号公報) (1)特許異議申立人が提出した甲第6号証には以下の事項が記載されている。 「【0020】 図7は本発明の実施の形態2を適用した飲料注出バルブ30の飲料注出部断面側面図を示している。飲料注出バルブ30は、弁を開放すると液体原料を通過させる液体原料弁31aと、同じく弁を開放すると希釈水を通過させる希釈水弁31bと、液体原料弁31aと希釈水弁31bを同時に開放させるソレノイド32と、希釈水弁31bと連通する希釈水吐出穴(図示せず)を下向きに設けた希釈水吐出部36と、希釈水吐出部36に取り付けたOリング39を介して装着される希釈水ノズル37と、希釈水ノズル37と一体的にその内部に設けられ、液体原料弁31aと連通する液体原料吐出穴(図示せず)を下向きに設けた液体原料吐出部34に装着される液体原料ノズル35と、からなる。なお、液体原料と希釈水とを通過させる弁を供給制御部100が出力する信号でソレノイド32を動作させて弁を開放する構成で説明したが、注出レバーを押し動かすと弁が開放する構成にしてもよい。 【0021】 液体原料ノズル35の下端部には溝38を設け、希釈水吐出部36から吐出する希釈水と液体原料吐出部34から吐出する液体原料を分離してノズルから流出させるようにしている。 供給制御部100からソレノイド32に信号が出力され、液体原料弁31aが開放すると液体原料が液体原料吐出部34から吐出する。同時に、希釈水弁31bが開放して希釈水が希釈水吐出部36から吐出する。このようにして液体原料吐出部34から吐出した液体原料は液体原料ノズル35内を下向きに加速された流れとなりカップCに注出される。同時に、希釈水吐出部36から吐出した希釈水は液体原料ノズル35で液体原料と分離された状態で希釈水ノズル37内を下向きに加速された流れとなりカップCに注出される。この下向きに加速されて流出した液体原料と希釈水とはカップC内で流動して混じり合うことにより、均一に混じり合った無糖飲料(例えば、烏龍茶)となる。 【0022】 このように、液体原料吐出部34で吐出した液体原料を注出する液体原料ノズル35を希釈水吐出部36で吐出した希釈水を注出する希釈水ノズル37の内部に設けたので、液体原料と希釈水とが一つの流れとなってカップCに注出され、さらに液体原料と希釈水とがノズル内で混じり合うことがないので、ノズルに残留した濃縮液体原料に雑菌が繁殖することがなくなり、附着した雑菌の繁殖を抑制することができる飲料注出バルブを提供することができる。また、液体原料ノズル35の下端部に溝38を設けたので、液体原料吐出部34で吐出する液体原料と希釈水吐出部36で吐出する希釈水とが確実に分離して注出されるので、ノズル部での液体原料と希釈水との混合を確実になくすことができる。」 第5 当審の判断 1.取消理由通知に記載した取消理由について (1)特許法第29条第1項第3号について 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「炭酸水」は本件発明1における「発泡液」に相当し、以下同様に、「シロツプ」は「原液」に、「液体供給装置1」は「液体注出装置」に、「炭酸水の通路6」は「発泡液流路」に、「シロツプの通路6’」は「原液流路」に、「通路部分」は「注出部」に、「炭酸水の出口15」は「発泡液注出口部」に、「シロツプの出口」は「原液注出口部」に、「出口部分」は「注出ノズル部」に、それぞれ相当する。 したがって、本件発明1と甲1発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 <一致点> 「発泡液と原液とを同時に注出することが可能な液体注出装置において、 内部に、前記発泡液が流通する発泡液流路、及び、前記原液が流通する原液流路、が形成された注出部と、 前記発泡液流路に連通し前記発泡液を注出するための発泡液注出口部、及び、前記原液流路に連通し前記原液を注出するための原液注出口部、を有する注出ノズル部と、 を備え、 前記発泡液注出口部が、前記発泡液を一方向に注出するように案内するものである液体注出装置。」 <相違点1> 本件発明1では「原液注出口部が、原液を発泡液から遠ざかる方向に注出するように案内するものである」のに対し、甲1発明では、原液注出口部が原液を注出する方向が明らかではない点。 相違点1について検討する。 甲第1号証の第2図において、シロツプの通路6’は炭酸水の通路6に対して出口に向かって離れる方向に傾斜しているようにも見え、その結果、シロツプの出口は、シロツプを炭酸水から離れる方向に注出するように案内していると解する余地がある。 しかし、甲1発明の目的は、炭酸水とシロツプが高速で流れた状態で互いに混合しないように注出することでないことは明らかであるし、甲第1号証にシロツプの通路6’と炭酸水の通路6との角度に関する記載や、シロツプと炭酸水を注出する方向に関する記載は無い。したがって、甲第1号証の第2図におけるシロツプの出口の角度が、問題意識をもって正確に記載されているとは考えにくい。 そもそも、特許文献の図面は、発明の技術内容を説明する便宜のために描かれるものであるから、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない。 そして、原液を発泡液から遠ざかる方向に注出するように案内することが、本件出願当時の技術常識であると認定することのできる証拠は存しないから、甲第1号証の第2図における原液注出口部が、原液を発泡液から遠ざかる方向に注出するように案内していることを開示しているということはできない。 一方、本件発明1は相違点1に係る構成を備えることにより、発泡液及び原液が高速で流れた状態では互いに混合しにくくなり、炭酸ガスの分離を抑制することができるという特有の効果を奏する。 したがって、相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。 (2)特許法第36条第6項第1号について ア サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 イ 本件発明1の課題 本件発明1が解決しようとする課題は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】の記載によれば「発泡液と原液とを同時に注出することで、短時間で十分な量の発泡飲料を一定の配合割合で容器に注ぐことができ、且つ、炭酸ガスの分離も抑制することができる液体注出装置を提供すること」であり、段落【0008】の記載によれば「炭酸ガスの分離は、発泡液及び原液が、混合すること、及び、落下速度に近い高速で流れること、という2つの条件を満たした場合に発生し易くなる」としている。 ウ 本件発明1について (ア)請求項1の記載 本件発明1は、課題解決の手段として「発泡液注出口部が、発泡液を一方向に注出するように案内するものであり、原液注出口部が、原液を前記発泡液から遠ざかる方向に注出するように案内するものである」という構成を備えている。 (イ)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載 発明の詳細な説明の段落【0008】には「発泡液及び原液が高速で流れた状態では互いに極力混合しないように、発泡液注出口部が発泡液を一方向に注出するように案内するものとし、原液注出口部が原液を発泡液から遠ざかる方向に注出するように案内することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。」と記載されており、段落【0035】には「注出ノズル部30において、発泡液注出口部31aが発泡液を注出する方向D1と、原液注出口部32aが原液を注出する方向D2とのなす角度θ1が15?45°であることが好ましい。」、「角度θ1が15°未満であると、角度θ1が上記範囲内にある場合と比較して、発泡液及び原液を容器に注入する場合、発泡液及び原液が高速で流れた状態で互いに混合し易くなる傾向にある。そうすると、炭酸ガスの分離が生じ易い。」と記載されている。 (ウ)液体注出装置は概ね鉛直方向下向きに液体を落下させて注出するものであるところ、上記「イ」のとおり段落【0008】の記載によれば、「高速」とは「落下速度に近い速度」であるから、液体注出装置から注出されて落下している間の速度を、本件発明では「高速」と表現していると解される。 したがって、本件発明の課題を解決するためには、発泡液及び原液が高速で流れた状態、すなわち、液体注出装置から注出されて落下している間に、互いに極力混合しないようにすればよいことが理解できる。 そして、発泡液注出口部が発泡液を一方向に注出するように案内するものとし、原液注出口部が原液を発泡液から遠ざかる方向に注出するように案内することにより、上記課題を解決できることを見出し、注出ノズル部30において、発泡液注出口部31aが発泡液を注出する方向D1と、原液注出口部32aが原液を注出する方向D2とのなす角度θ1が15?45°であることが好ましいとしているが、技術常識に鑑みれば混合しやすさの度合は、15°を境界として急激に変化するものではなく、角度に応じて徐々に変化するものであると考えられる。したがって、発泡液を注出する方向D1と、原液を注出する方向D2とのなす角度θ1は15?45°であることが好ましいものの、15°未満であっても、発泡液注出口部が発泡液を一方向に注出するように案内するものとし、原液注出口部が原液を発泡液から遠ざかる方向に注出するように案内するものであれば、本件発明の課題を解決できないとまではいえない。 そうすると、本件発明1は発明の詳細な説明に記載した発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができるから、特許請求の範囲の記載についてサポート要件の違反はない。 よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。 (3)特許異議申立人の主張について ア 理由1(新規性)について 特許異議申立人は特許異議申立書において、甲第1号証の第2図拡大図を示し、炭酸水注出部口部15の流路の延びる方向及びシロップ注出口部15’の流路が延びる方向がなす角度θ1は、図面上の実測によれば5°であり、シロップ注出口部15’が、シロップを、炭酸水注出部口部15の流路の延びる方向とは先方側ほど互いに離れる方向に沿って流す流路を有することが看取できると主張している。(特許異議申立書10頁3行?11頁9行) しかし、上記「(1)」で検討したとおり、甲第1号証の第2図から角度を実測することによって、炭酸水注出部口部15の流路の延びる方向及びシロップ注出口部15’の流路が延びる方向がなす角度θ1を正確に看取することまではできない。 イ 理由2(サポート要件)について 特許異議申立人は特許異議申立書において、「例えば、原液注出口部が、発泡液注出口部から離れた位置に配されていることにより、原液を発泡液から遠ざかる方向に注出するように案内するものである場合であっても、各液体の注出速度(注出速度は時間的に変化することもある)、各液体の粘度、又は注出ノズル部の形状等によっては、原液注出口部から注出される原液が注出ノズル部の表面を滴って発泡液注出部側に向かうことで、原液及び発泡液が容器に注がれる前に互いに混合し得る。 そうすると、炭酸ガスの分離が促進されることとなり、上記課題を解決することができない。」(特許異議申立書36頁22行?29行)と主張している。 確かに、各液体の注出速度、液体の粘度、注出ノズル部の形状等が、発泡液及び原液が高速で流れた状態で互いに混合する度合に影響を与える可能性は否定し得ないが、本件発明の課題解決手段は、「発泡液注出口部が、発泡液を一方向に注出するように案内するものであり、原液注出口部が、原液を前記発泡液から遠ざかる方向に注出するように案内する」という技術思想であって、発泡飲料を提供する液体注出装置において一般的に想定される注出速度、液体の粘度、注出ノズル部の形状等であれば、当該技術思想によって、液体注出装置から注出されて落下している間に互いに極力混合しないようにするという一定程度の作用を奏すると考えられ、各液体の注出速度、液体の粘度、注出ノズル部の形状等を特定しなければ課題を解決できないとまではいえない。 よって、特許異議申立人のこれらの主張を採用することはできない。 2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は、特許異議申立書において、請求項1?2に係る発明は、甲第2号証及び甲第1号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるか、甲第2号証及び甲第3号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項3?4に係る発明は、甲第2号証、甲第1号証及び甲第4号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項5に係る発明は、甲第2号証、甲第1号証及び甲第5号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項6に係る発明は、甲第2号証、甲第1号証及び甲第6号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張する。 (1)本件発明1について 本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「炭酸水」は本件発明1における「発泡液」に相当し、以下同様に、「液体原料」は「原液」に、「供給」は「注出」に、「飲料供給装置1」は「液体注出装置」に、「炭酸水を吐出する希釈液吐出部31e」は「発泡液が流通する発泡液流路」に、「液体原料を吐出する液体原料吐出部31d」は「原液が流通する原液流路」に、「を備えた」という事項は「が形成された」という事項に、「ポストミックスバルブ11」は「注出部」に、「希釈液吐出部31eが吐出した炭酸水をカップ40に供給するための炭酸水ノズル11i、11j」は「発泡液流路に連通し発泡液を注出するための発泡液注出口部」に、「液体原料吐出部31dが吐出した液体原料をカップ40に供給するための液体原料ノズル11k」は「原液流路に連通し原液を注出するための原液注出口部」に、「飲料ノズル11h」は「注出ノズル部」に、それぞれ相当する。 したがって、本件発明1と甲2発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 <一致点> 「発泡液と原液とを同時に注出することが可能な液体注出装置において、 内部に、前記発泡液が流通する発泡液流路、及び、前記原液が流通する原液流路、が形成された注出部と、 前記発泡液流路に連通し前記発泡液を注出するための発泡液注出口部、及び、前記原液流路に連通し前記原液を注出するための原液注出口部、を有する注出ノズル部と、 を備え、 前記発泡液注出口部が、前記発泡液を一方向に注出するように案内するものであり、 前記原液注出口部が、前記原液を注出するように案内するものである液体注出装置。」 <相違点2> 原液注出口部に関し、本件発明1では、原液を「発泡液から遠ざかる方向に」注出するように案内するものであるのに対し、甲2発明では、「炭酸水ノズル11i、11jから炭酸水が供給される位置に対して離れた位置から」注出するように案内するものである点。 相違点2について検討する。 甲1発明は上記「第4 1(2)」のとおりであり、甲3発明は上記「第4 3(2)」のとおりであるから、甲第1号証及び甲第3号証のいずれにも、原液注出口部が、原液を「発泡液から遠ざかる方向に」注出するように案内する点は記載されていないし、この点は本件出願前において周知技術であるともいえない。 そして、本件発明1は相違点2に係る構成を備えることによって、発泡液及び原液が高速で流れた状態では互いに極力混合しないようになり、炭酸ガスの分離を抑制することができるといった特有の効果を奏する。 したがって、本件発明1は、甲第2号証及び甲第1号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、また、甲第2号証及び甲第3号証に記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (2)本件発明2?6について 本件発明2?6は本件発明1を直接的又は間接的に引用する発明であるから、本件発明2?6と甲2発明とを対比すると、本件発明2?6は少なくとも相違点2において甲2発明と相違する。そして、原液注出口部が、原液を「発泡液から遠ざかる方向に」注出するように案内する点は、甲第4号証、甲第5号証及び、甲第6号証にも記載されていない。したがって、本件発明1と同様に本件発明2?6は、当業者であっても甲2発明、甲1発明、甲3発明、及び、甲第4号証から甲第6号証に記載の発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人は特許異議申立書において、甲第3号証の図5(a)拡大図を示し、「シロップノズル431は、炭酸水ノズル41が炭酸水を注出する一方向F1に対し、外側(シロップノズル432側)に角度θ2(図面上で実測すれば約7°である)で傾いた方向F2にシロップを注出するように案内するものである。シロップノズル431からF2の方向に注出されたシロップは、カップCの内側面に向かうほど、炭酸水ノズル41からF1の方向に注出された炭酸水との間の距離が大きくなり、炭酸水から遠ざかる。よって、シロップノズル431は、シロップを炭酸水から遠ざかる方向F2に注出するように案内するものである。」(特許異議申立書18頁14行?19頁6行)、「そうすると、甲第3号証に接した当業者であれば、炭酸水と液体原料とがカップに溜まる前に混合することを抑制できるという作用・効果を奏することを期待して、甲3発明を甲2発明に適用し、液体原料ノズルを、液体原料を炭酸水から遠ざかる方向に注出するように案内する構成とすることは、容易に想到し得るといえる。」(特許異議申立書22頁11行?15行)と主張している。 しかし、甲3発明の目的は、飲料ノズルからの飲料の吐出終了直後に、飲料ノズルから後だれが生じても、その後だれでカップの外面などが濡れるのを防止すること(段落【0006】参照)である。また、炭酸水がカップCの内側面に当たるときの衝撃を緩和しながら、カップCの内側面の周方向に沿って流れるように、炭酸水をカップCに供給することにより、炭酸水がカップCに供給される際の発泡を抑制すること(段落【0033】参照)も目的の一つと解されるが、炭酸水ノズル41の吐出口40aから吐出した炭酸水がカップCの内側面に当たる角度を鋭角にすることにより当該目的を達成しており、炭酸水とシロップが高速で流れた状態で互いに混合しないように注出することを目的としたものではないことは明らかである。そして、甲第3号証には、炭酸水ノズル41から吐出される炭酸水を示している一点鎖線と、シロップノズル43から吐出されるシロップを示している一点鎖線との相互関係に関する記載は無い。したがって、甲第3号証の図5おける一点鎖線の角度が、問題意識をもって正確に記載されているとは考えにくい。そもそも、特許文献の図面は、発明の技術内容を説明する便宜のために描かれるものであるから、設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限らない。したがって、甲第3号証の図5(a)から、シロップノズル431は、炭酸水ノズル41が炭酸水を注出する一方向F1に対し、外側(シロップノズル432側)に角度θ2(図面上で実測すれば約7°である)で傾いた方向F2にシロップを注出することまで看取することはできない。 そして、原液を発泡液から遠ざかる方向に注出するように案内することが、本件出願当時の技術常識であると認定することのできる証拠は存しないから、甲第3号証の図5におけるシロップノズル431は、シロップを炭酸水から遠ざかる方向F2に注出するように案内するものであることを開示しているということはできない。 仮に、甲第3号証の図5(a)から「シロップノズル431は、炭酸水ノズル41が炭酸水を注出する一方向F1に対し、外側(シロップノズル432側)に角度θ2(図面上で実測すれば約7°である)で傾いた方向F2にシロップを注出する」ことが看取されたとしても、炭酸水ノズル41の吐出口40aから吐出した炭酸水がカップCの内側面に当たる角度を鋭角にすることにより、炭酸水がカップCに供給される際の発泡を抑制するという目的は達成されており、当該角度θ2を約7°としている理由は不明であるから、当該角度θ2を、甲2発明に適用する動機がない。 よって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。 そして、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-08-25 |
出願番号 | 特願2018-105351(P2018-105351) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B67D)
P 1 651・ 113- Y (B67D) P 1 651・ 537- Y (B67D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 所村 陽一 |
特許庁審判長 |
窪田 治彦 |
特許庁審判官 |
木戸 優華 小川 恭司 |
登録日 | 2020-06-05 |
登録番号 | 特許第6713228号(P6713228) |
権利者 | 株式会社ニットク |
発明の名称 | 液体注出装置 |
代理人 | 阿部 綽勝 |
代理人 | 岡崎 紳吾 |
代理人 | 白崎 真二 |
代理人 | 勝木 俊晴 |