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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C30B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C30B
管理番号 1377818
異議申立番号 異議2021-700448  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-05-11 
確定日 2021-09-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6784870号発明「半導体膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6784870号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第6784870号(以下、「本件特許」という。)は、2019年(令和1年)9月10日(優先権主張 平成31年4月24日(JP)日本国)を国際出願日とする出願であって、令和2年10月27日にその特許権の設定登録がされ、同年11月11日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和3年5月11日に特許異議申立人 人羅 俊実(以下「申立人」という。)は、請求項1?7に係る特許に対して特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
本件特許の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
α-Ga_(2)O_(3)、又はα-Ga_(2)O_(3)系固溶体で構成されるコランダム型結晶構造を有する半導体膜であって、前記半導体膜の少なくとも一方の表面の結晶欠陥密度が1.0×10^(6)/cm^(2)以下である、半導体膜。
【請求項2】
前記半導体膜の一方の表面(おもて面)の結晶欠陥密度に対する、前記半導体膜の前記表面に対向する表面(裏面)の結晶欠陥密度の比が、1.0を超える、請求項1に記載の半導体膜。
【請求項3】
前記半導体膜の少なくとも一方の表面における(104)面のX線ロッキングカーブ半値幅が500arcsec以下である、請求項1又は2に記載の半導体膜。
【請求項4】
前記半導体膜が、ドーパントとして14族元素を1.0×10^(16)?1.0×10^(21)/cm^(3)の割合で含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の半導体膜。
【請求項5】
前記半導体膜がc軸配向膜である、請求項1?4のいずれか一項に記載の半導体膜。
【請求項6】
25?400℃での熱膨張率が6?13ppm/Kである支持基板上に設けられる、請求項1?5のいずれか一項に記載の半導体膜。
【請求項7】
前記支持基板がCu-Mo複合材料で構成される、請求項6に記載の半導体膜。」

3 申立理由の概要
申立人が主張する申立理由は、概略、以下のとおりである。

(1)申立理由1
本件発明1、4、6は、その優先日前の特許出願であって、特許法第41条第1項の規定による優先権の主張の基礎とされ、同法第184条の15第2項の規定により読み替えて適用される同法第41条第3項の規定により、出願公開されたものとみなされる甲第1号証の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件発明に係る出願の発明者が上記特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件発明に係る出願の時において、その出願人が、上記特許出願の出願人と同一でもないから、本件発明1、4、6に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである(特許異議申立書第7頁第2行?第33行、第9頁第19行?第29行、第11頁第20行?第38行、第12頁第29行?第13頁第4行)。

(2)申立理由2
本件発明1、2は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明3?5は、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明6は、甲第2号証、甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明7は、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである(特許異議申立書第7頁第34行?第9頁第17行、第9頁第30行?第11頁第19行、第11頁第39行?第12頁第28行、第13頁第5行?第39行)。

<甲号証一覧>
甲第1号証:特願2018-121405号(国際公開第2020/004250号)
甲第2号証:Y. Oshima et al., “Epitaxial lateral overgrowth of α-Ga_(2)O_(3) by halide vapor phase epitaxy”, APL Materials, 2018年12月10日, Vol. 7, No. 2, p. 022503-1?022503-6
甲第3号証:金子健太郎、“コランダム構造酸化ガリウム系混晶薄膜の成長と物性”、京都大学博士論文、平成25年3月25日、p.20
甲第4号証:特開2016-157878号公報
甲第5号証:特開2019-14639号公報
甲第6号証:有川正、外2名、“銅-モリブデン系複合材料の機械的特性”、材料、1999年、第48巻、第3号、p.295?300

4 甲号証及び引用文献の記載内容について
(1)甲第1号証の記載内容及び引用発明
ア 甲第1号証の記載内容
甲第1号証(国際公開第2020/004250号)には、下記の事項が記載されている(当審注:下線は当審による。「…」は当審による省略を意味する。以下も同様。)。
なお、甲第1号証に係る特許出願の当初明細書等にも下記の事項と同様の事項が記載されている。

(ア)「[0015]本発明の結晶性酸化物膜は、コランダム構造の横方向成長領域および/またはコランダム構造のエピタキシャル層を含む結晶性酸化物膜であって、下記(1)?(7)のいずれかの特長を有している。…
[0016]本発明においては、前記結晶性酸化物膜が、…α-Ga_(2)O_(3)またはその混晶を主成分として含むのが最も好ましい。このような好ましい結晶性酸化物膜によれば、半導体装置により適しており、半導体特性により優れたものとなる。…」

(イ)「[0058](実施例1)

[0061]4.成膜
…得られた膜は、X線回折装置を用いて同定したところ、α-Ga_(2)O_(3)単結晶膜であった。また、得られた膜を顕微鏡にて断面形状を観察した。顕微鏡像を図14に示す。また、参考までに上面を観察した顕微鏡像を図15に示す。図14および図15から明らかなように、ファセット成長は特に確認できず、また、転位のない非常に良質な略c軸ELO膜が形成されていることがわかる。」

(ウ)「



イ 甲第1号証に係る特許出願の当初明細書等に記載された発明
上記ア(ウ)の図面の内容から、上記ア(イ)の記載における顕微鏡の測定条件は15kVかつ2000倍であることが理解される。また、上記ア(ア)の記載からすれば、上記ア(イ)の実施例1のα-Ga_(2)O_(3)単結晶膜は、コランダム構造の横方向成長領域及び/又はコランダム構造のエピタキシャル層を含む結晶性酸化物半導体膜であることは明らかである。
そうすると、上記アの記載から、甲第1号証に係る特許出願の当初明細書等には、実施例1に基づく発明として、以下の発明が記載されている。
「α-Ga_(2)O_(3)単結晶であり、コランダム構造の横方向成長領域及び/又はコランダム構造のエピタキシャル層を含み、15kVかつ2000倍の測定条件で顕微鏡によって観察すると転位のない非常に良質なものである結晶性酸化物半導体膜。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)甲第2号証の記載内容及び引用発明
ア 甲第2号証の記載内容
甲第2号証には、下記の事項が記載されている。
(ア)「Ga_(2)O_(3) has been reported to possess five different polymorphs; these are the α-, β-, δ-, ε-, and γ-phases.^(1) α-Ga_(2)O_(3), the target material studied in the present work, is one of the metastable phases of Ga_(2)O_(3) and crystalizes into the corundum structure. α-Ga_(2)O_(3) is a wide bandgap semiconductor, and the bandgap energy has been reported to be 5.2-5.3 eV.^(2,3)」(p. 022503-1の左欄第1行?第7行)
(当審訳:Ga_(2)O_(3)は5つの異なる多形を持っていると報告されている。これらは、α-、β-、δ-、ε-、and γ-相である。^(1)α-Ga_(2)O_(3)は、本研究で注目する材料であって、Ga_(2)O_(3)の準安定相の一つであり、コランダム構造に結晶化する。α-Ga_(2)O_(3)は広いバンドギャップを有する半導体であり、バンドギャップエネルギーは5.2?5.3eVと報告されている。^(2,3))

(イ)「In the present work, we demonstrate the ELO of α-Ga_(2)O_(3) by HVPE.
We used an HVPE-grown (0001) α-Ga_(2)O_(3) template (approximately 3-μm-thick) on sapphire as a seed substrate. Periodic masks were formed on the template layer, and α-Ga_(2)O_(3) was regrown by HVPE.」(p. 022503-2の左欄第30行?第36行)
(当審訳:本研究では、HVPEによるα-Ga_(2)O_(3)のELOを実際に行う。
種基板としてサファイアの上にHVPEによって(0001)面のα-Ga_(2)O_(3)のテンプレート(約3μmの厚み)を成長させたものを用いた。テンプレート層の上に周期的にマスクを形成し、α-Ga_(2)O_(3)をHVPEによって再成長させた。)

(ウ)「No dislocation was found in the laterally grown areas (approximately 22 μm^(2) in total), and therefore, the dislocation density should be less than 5 × 10^(6) cm^(-2) in these areas.」(p. 022503-5の右欄第1行?第4行)
(当審訳:横方向に成長した領域(全体で約22μm^(2))に転位は見出されなかったので、転位密度はこれらの領域で5×10^(6)cm^(-2)未満であるべきである。)

(エ)「At the coalesced boundary just above the mask, we can see dislocation contrasts, which indicated that the crystal orientations of the adjacent islands were not completely the same. The number of dislocations at the boundary decreased with increasing thickness, and no dislocation was found at the top part. The crystal quality should be further improved if we carry out the ELO process twice with positioning the second mask so that the first windows areas are covered.」(p. 022503-5の左欄第12行?第19行)
(当審訳:マスクの上の合体した境界において、転位のコントラストが見られる。これは、隣接する島の結晶方位が完全に同じでないことを示している。境界における転位数は厚さの増加と共に減少し、最上部には転位は見られなかった。1回目の窓の領域を覆うように2回目のマスクを位置させるようにELOプロセスを2回行うと、結晶の品質はさらに改善されるはずである。)

イ 甲第2号証に記載された発明
上記ア(ウ)に記載される横方向に成長した領域を有するα-Ga_(2)O_(3)は、上記ア(ア)の記載からすれば、コランダム構造であり、半導体であることは明らかであり、上記ア(イ)の形成過程からいって、形状は膜であることは明らかである。
そうすると、上記アの記載から、甲第2号証には、以下の発明が記載されている。
「α-Ga_(2)O_(3)であり、コランダム構造を有し、ELOによって形成された横方向に成長した領域(全体で約22μm^(2))に転位は見出されず、これらの領域で転位密度は5×10^(6)cm^(-2)未満である半導体膜。」

(3)甲第3号証?甲第6号証の記載内容
ア 甲第3号証の記載内容
甲第3号証には、下記の事項が記載されている。



」(p.20)

イ 甲第4号証の記載内容
甲第4号証には、下記の事項が記載されている

(ア)「【0042】
5.結晶性酸化物半導体膜の形成
…得られた薄膜について、X線回折装置(リガク社製、Smartlab)を用いて測定したところ、α-Ga_(2)O_(3)であり、回転ドメインの含有率は0%であった。なお、得られた結晶性酸化物半導体膜のTEM像を図4に示し、バッファ層のTEM像を図5に示す。また、XRDデータを図6に示す。」

(イ)「【0046】
6.評価
上記5.で得られた結晶性酸化物半導体膜および比較例で得られたα-Ga_(2)O_(3)膜について、各物性を評価した。結果を下記表1に示す。なお、反りは、5mm間の両端の点を通る最短の直線と、凹または凸の頂点との最短の距離を測定した。また、表1中、「1010異相ピークの有無」は、1 0 10面の逆格子マッピングを測定し、基板と膜以外のピークの有無を確認した。また、回転ドメインの含有率等は、X線回折装置(リガク社製、Smartlab)を用いて測定した。なお、測定の条件は次の通りである。
【0047】
(X線測定条件)…
【0048】
【表1】



ウ 甲第5号証の記載内容
甲第5号証には、下記の事項が記載されている。

「【0038】
また、半導体基板1に生じる反り等を抑えるため、多結晶基板11は、単結晶Ga_(2)O_(3)系基板10の材料であるGa_(2)O_(3)系単結晶との熱膨張率の差が小さい材料からなることが好ましい。Ga_(2)O_(3)系単結晶([100]方向が5.3×10^(-6)/K、[010]方向が8.9×10^(-6)/K、[001]方向が8.2×10^(-6)/K)との熱膨張率の差が小さい多結晶材料としては、例えば、多結晶SiC(4.0×10^(-6)/K)、多結晶Al_(2)O_(3)(7.2×10^(-6)/K)、多結晶AlN(4.6×10^(-6)/K)が挙げられる。」

エ 甲第6号証の記載内容
甲第6号証には、下記の事項が記載されている。



」(p.295)

5 当審の判断
(1)申立理由1について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明を対比すると、両者は、
「α-Ga_(2)O_(3)、又はα-Ga_(2)O_(3)系固溶体で構成されるコランダム型結晶構造を有する半導体膜」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1は、「前記半導体膜の少なくとも一方の表面の結晶欠陥密度が1.0×10^(6)/cm^(2)以下である」のに対し、甲1発明は、15kVかつ2000倍の測定条件で顕微鏡によって観察すると転位のない非常に良質なものである点。

そこで、上記相違点1について検討する。
本件特許に係る明細書には、本件発明1の結晶欠陥及び結晶欠陥密度に関して、下記の事項が記載されている。

(ア)「【0013】
本発明のα-Ga_(2)O_(3)系半導体膜は、その少なくとも一方の表面の結晶欠陥密度が1.0×10^(6)/cm^(2)以下…である。このように結晶欠陥密度が著しく低い半導体膜は、絶縁破壊電界特性に優れ、パワー半導体の用途に適している。…また、このような結晶欠陥密度が低い半導体膜の表面上(又は内部)に機能層を形成する場合、機能層の内部に結晶欠陥が伝搬しないため好ましい。…また、本明細書において、結晶欠陥とは、貫通刃状転位、貫通らせん転位、貫通混合転位、及び基底面転位を指し、結晶欠陥密度は、各転位密度の合計のことである。なお、基底面転位は、半導体膜にオフ角がある場合に問題となるものであり、オフ角がない場合は半導体膜の表面まで露出しないため、問題とならない。…」

(イ)「【0015】
α-Ga_(2)O_(3)系半導体膜の結晶欠陥密度は、平面TEM観察(プランビュー)、又は断面TEM観察により評価することができる。例えば、半導体膜表面の平面TEM観察を実施する場合、一般的な透過型電子顕微鏡を用いて行うことができる。例えば、透過型電子顕微鏡として日立製H-90001UHR-Iを用いる場合、加速電圧300kVでTEM観察を行えばよい。TEM観察に用いる試験片は、半導体膜の一方の表面が含まれるようにサンプルを切り出し、測定視野50μm×50μmの範囲が観察できるようなものが好ましい。より具体的には、測定視野4.1μm×3.1μmの領域が8箇所以上観察可能で、測定視野周辺の厚さが150nmとなるようにイオンミリングによって加工すればよい。こうして得られた試験片表面の平面TEM像から結晶欠陥密度を評価することができる。…」

上記(ア)の記載によれば、本件発明1と甲1発明は転位密度が小さいものである点では共通するが、甲1発明における顕微鏡による観察は、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察であるか不明であり、仮に、そうであったとしても、上記(イ)の記載によれば、加速電圧等の測定条件は異なることから、甲1発明が15kVかつ2000倍の測定条件で顕微鏡によって観察すると転位のない非常に良質なものであるとしても、「前記半導体膜の少なくとも一方の表面の結晶欠陥密度が1.0×10^(6)/cm^(2)以下である」ことを満たすとまではいえないから、上記相違点1は実質的なものである。
また、「前記半導体膜の少なくとも一方の表面の結晶欠陥密度が1.0×10^(6)/cm^(2)以下である」ことが周知技術であることを示す証拠もなく、また、本件発明1は、上記(ア)の記載によれば、絶縁破壊電界特性に優れるという新たな効果を奏するものであるから、上記相違点1が課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。
よって、本件発明1は、甲1発明と同一ではない。

イ 本件発明4、6について
請求項4、6は請求項1を直接又は間接に引用するものであるから、本件発明4、6は本件発明1と事情は同じである。
よって、本件発明4、6は、甲1発明と同一ではない。

ウ 小活
以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。

(2)申立理由2について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲2発明を対比すると、両者は、
「α-Ga_(2)O_(3)、又はα-Ga_(2)O_(3)系固溶体で構成されるコランダム型結晶構造を有する半導体膜」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2>
本件発明1は、「前記半導体膜の少なくとも一方の表面の結晶欠陥密度が1.0×10^(6)/cm^(2)以下である」のに対し、甲2発明は、ELOによって形成された横方向に成長した領域(全体で約22μm^(2))に転位は見出されず、これらの領域で転位密度は5×10^(6)cm^(-2)未満である点。

そこで、上記相違点2について検討する。
まず、本件発明1は、上記(1)ア(イ)の記載によれば、「測定視野4.1μm×3.1μmの領域が8箇所以上観察」したものであり、甲2発明は、全体で約22μm^(2)に転位は見出されないものであるから、測定視野が異なる以上、甲2発明が転位密度は5×10^(6)cm^(-2)未満であるとしても、「前記半導体膜の少なくとも一方の表面の結晶欠陥密度が1.0×10^(6)/cm^(2)以下である」ことを満たすとまではいえないから、上記相違点2は実質的なものである。
次に、上記相違点2に係る本件発明1の特定事項の容易想到性について検討すると、甲第2号証には、ELOプロセスを2回行うと、結晶の品質はさらに改善されること(上記4(2)ア(エ))は記載されているから、当該記載に基づき、甲2発明において、ELOプロセスを2回行って、結晶品質を向上させることが容易想到な事項であるとしても、結晶品質が向上することで、「前記半導体膜の少なくとも一方の表面の結晶欠陥密度が1.0×10^(6)/cm^(2)以下である」ことを満たすことを示す証拠はない。
また、甲第3号証には、上記4(3)アの図1.16において、α-Ga_(2)O_(3)とα-Cr_(2)O_(3)との格子定数の差がα-Ga_(2)O_(3)とα-Al_(2)O_(3)との格子定数の差より小さいことが図示されているが、この記載のみをもって、甲第2号証に記載されるHVPEによるα-Ga_(2)O_(3)のELOの際に使用される種基板(上記4(2)ア(イ))をα-Cr_(2)O_(3)の基板に置換する動機付けが生じるとはいえない。
さらに、仮に、上記種基板に代えて、α-Cr_(2)O_(3)の基板を用いたとしても、基板の置換のみで半導体膜が「前記半導体膜の少なくとも一方の表面の結晶欠陥密度が1.0×10^(6)/cm^(2)以下である」ことを満たすようになるといえるわけでもない。
したがって、甲2発明において、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項を考慮しても、「前記半導体膜の少なくとも一方の表面の結晶欠陥密度が1.0×10^(6)/cm^(2)以下である」ことを満たすようにすることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、本件発明1は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2について
請求項2は請求項1を引用するものであるから、本件発明2は本件発明1と事情は同じである。
よって、本件発明2は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明3?7について
請求項3?7は請求項1を直接又は間接に引用するものであるから、本件発明3?7と甲2発明を対比すると、両者は、少なくとも上記相違点2で相違する。
そして、甲第4号証には、上記4(3)イの記載事項があり、甲第5号証には、上記4(3)ウの記載事項があり、甲第6号証には、上記4(3)エの記載事項があるものの、「前記半導体膜の少なくとも一方の表面の結晶欠陥密度が1.0×10^(6)/cm^(2)以下である」ことについては何ら記載されていないから、上記アと同じく、甲2発明において、甲第2号証?甲第6号証に記載された技術的事項を考慮しても、「前記半導体膜の少なくとも一方の表面の結晶欠陥密度が1.0×10^(6)/cm^(2)以下である」ことを満たすようにすることは当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
よって、本件発明3?5は、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明6は、甲第2号証、甲第3号証及び甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明7は、甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 小活
以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。

6 むすび
以上のとおり、請求項1?7に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-08-24 
出願番号 特願2020-538732(P2020-538732)
審決分類 P 1 651・ 161- Y (C30B)
P 1 651・ 121- Y (C30B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲高▼橋 真由  
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 伊藤 真明
後藤 政博
登録日 2020-10-27 
登録番号 特許第6784870号(P6784870)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 半導体膜  
代理人 河内 亮  
代理人 加島 広基  
代理人 長谷川 悠  
代理人 高村 雅晴  

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