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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1377820
異議申立番号 異議2021-700461  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-05-17 
確定日 2021-09-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6785357号発明「ルウの製造方法及びルウ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6785357号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6785357号の請求項1?8に係る特許についての出願は、令和1年10月3日の出願であって、令和2年10月28日にその特許権の設定登録がされ、同年11月18日にその特許公報が発行され、その後、令和3年5月17日に奥谷 宏邦(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?8に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明1」などと、また、これらを合わせて「本件発明」ということがある。)である。

「【請求項1】
ルウの製造方法であって、
塩及び/又は砂糖を粉砕し、粉砕原料を調製する工程、
第1の澱粉質原料と、油脂と、前記粉砕原料と、風味原料とを含む混合物を加熱処理して、溶融状のルウを調製する工程、及び、
前記溶融状のルウを固化する工程、
を含み、前記ルウ中の油脂の含有量が、前記ルウの全質量に対して26質量%以上であり、前記ルウの油脂量に対する水分量の質量比が、0.04?0.13である、ルウの製造方法。
【請求項2】
前記塩及び/又は前記砂糖を、第2の澱粉質原料と混合して粉砕する、請求項1に記載のルウの製造方法。
【請求項3】
前記粉砕工程が、前記第2の澱粉質原料と前記塩及び/又は前記砂糖とを湿熱処理する工程を含まない、請求項2に記載のルウの製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理工程が、65℃以上の温度で行われる、請求項1?3のいずれか一項に記載のルウの製造方法。
【請求項5】
前記粉砕工程が、前記塩及び前記砂糖を別個に粉砕する工程を含む、請求項1?4のいずれか一項に記載のルウの製造方法。
【請求項6】
前記塩を含む粉砕原料の75質量%以上が、目開き300μmの篩を通過し、及び/又は、前記砂糖を含む粉砕原料の25質量%以上が、目開き300μmの篩を通過する、請求項5に記載のルウの製造方法。
【請求項7】
第1の澱粉質原料と、
油脂と、
塩及び/又は砂糖を含む粉砕原料と、
風味原料と
を含む混合物の加熱処理物を含むルウであって、
前記塩を含む粉砕原料の75質量%以上が、目開き300μmの篩を通過し、及び/又は前記砂糖を含む粉砕原料の25質量%以上が、目開き300μmの篩を通過し、
前記ルウ中の油脂の含有量が、前記ルウの全質量に対して26質量%以上であり、
前記ルウの油脂量に対する水分量の質量比が、0.04?0.13であり、
固形ルウである、ルウ。
【請求項8】
前記ルウの粘度が、60℃において1500?10000mPa・sである、請求項7に記載のルウ。」

第3 特許異議申立人が申し立てた理由の概要
特許異議申立人が申し立てた理由の概要は次のとおりである。
[理由1]本件の請求項1?8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1?6号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1?8に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2008-271824公報(以下「甲1」という。下記甲各号証についても同様。)
甲第2号証:特開2003-325145公報
甲第3号証:特許第3670986号公報
甲第4号証:本同宏成、科学研究費助成事業 研究成果報告書、平成29年5月31日現在、チョコレート中の油脂移行経路の可視化
甲第5号証:仙台カレー屋挑戦記:カレーのブルーミング、[ONLINE]、2008年3月5日、URL;www.curry-shop.jp/archives/2008/03/post_111.php
甲第6号証:カレーのQ&A:全日本カレー工業共同組合、[ONLINE]、(公知日不明)、URL;www.curry.or.jp/qanda/index.html
甲第7号証:特願2019?182861号の審判請求書(写し)

[理由2]本件の請求項1?8に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。
よって、請求項1?8に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

理由2の具体的な理由の概要は次のとおりである。
(21)本件発明1の「塩及び/又は砂糖を粉砕し」について
本件発明1は、粉砕した「塩」と「砂糖」の両方を使用する場合、粉砕した「塩」のみを使用して「砂糖」を使用しない場合、粉砕した「砂糖」のみを使用して「塩」を使用しない場合を含むものであるが、実施例1?5はいずれも「粉砕した塩」と「粉砕した砂糖」の両方を使用したものである。
また、本件発明1では「塩」及び「砂糖」の粒子サイズについての限定はなされておらず、「塩」が、例えば「岩塩」のような大きな塊状であるような場合、通常の「精製塩」程度に粉砕したような場合であっても粉砕工程を経たものといえるが、実施例1?5では、粉砕原料(塩)は、特定の粒子サイズのものが使用されている。
ここで、「塩」及び「砂糖」の粒子サイズはブルーミング(油浮き)の発生に対して大きく影響するものと考えられるから、単に粉砕工程を経た塩や砂糖を使用すればよいというものではなく、その粒子サイズの特定が重要であり、粒子サイズが特定されていない場合に実施例1?5と同様のブルーミング(油浮き)抑制結果が得られるかは不明である。
したがって、粉砕した「塩」のみを使用して「砂糖」を使用しないもの、及び粉砕した「砂糖」のみを使用して「塩」を使用しないものを含む本件発明は、詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。また、粉砕した「塩」及び「砂糖」を使用する場合に、それらの粒子サイズが特定されていない本件発明1は、詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
本件発明2?6についても同様である。

(22)本件発明1の「ルウの油脂量に対する水分量の質量比が、0.04?0.13である」について
実施例1?5について、沈降分離や油浮きがなく、表面が平滑であった水分量と油脂量の質量比は最小が実施例2の0.043であり、最大が実施例4の0.125である一方、比較例2は水分量と油脂量の質量比が0.038であるが油浮きが認められており、比較例3は同質量比が0.143であり表面に凹凸が生じているところ、実施例2と比較例2との差は0.005であり、実施例4と比較例3との差は0.018である。このような僅かの質量比の違いであっても油浮きがや表面の平滑性に影響があることが示されているから、質量比が0.04の場合にも袖浮きが抑制されるかは定かではなく、質量比が0.13の場合にも表面の平滑性が維持されるかは定かではなくまた、実際に確認してみないとわからないといえる。
したがって、ルウの油脂量に対する水分量の質量比が、0.04?0.13の範囲で、油浮きを抑制し且つ表面の平滑性が維持されるかが確認されていない本件発明1は、詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
本件発明2?6についても同様である。
なお、この理由について、甲第8号証:特許第6785357号公報(本件特許公報)の「実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。」との記載について、限定されない根拠が示されておらず理由がない旨指摘している。

(23)本件発明2の「前記塩及び/又は前記砂糖」について
本件発明2は「前記塩及び/又は前記砂糖を、第2の澱粉質原料と混合して粉砕する」ものであるから、「塩」と「砂糖」を使用する場合であって「塩」と「砂糖」の両方を一緒に第2の澱粉質原料と混合して粉砕する場合のほか、「塩」のみを第2の澱粉質原料と混合して粉砕し「砂糖」を第2の澱粉質原料と混合せずに粉砕する場合、及び「砂糖」のみを第2の澱粉質原料と混合して粉砕し「塩」を第2の澱粉質原料と混合せずに粉砕する場合を含むものであるところ、実施例1?5は、「塩」及び「砂糖」のいずれもそれぞれ「第2の澱粉質原料」と共に粉砕したものを使用したものである。
この点、甲3には「食塩」及び「砂糖」は吸湿性粉体原料とされ、吸湿性粉休原料とは、高速粉砕機等で粉砕した場合に、熱をもつことで相互に結着してダマになったり、次工程へ移送する配管に付着したりする性質を有するものを意味するものとして定義される、と記載されているからそのような性質を有する「塩」又は「砂糖」のいずれか一方を第2の澱粉質原料と混合せずに粉砕した場合には相互に結着して粒子が大きくなったりダマになる等により、粒子サイズに多大な影響を与えるであろうことが容易に推察され、また、ルウ中の固体成分(塩、砂糖)の粒子サイズはブルーミング(袖浮き)の発生に大きな影響があるため「塩」又は「砂糖」のいずれか一方を第2の澱粉質原料と混合せずに粉砕した場合に実施例1?5と同様の結果が得られるかは定かではなく、実際に確認してみないとわからないといえる。
したがって、本件発明2は、詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
本件発明3?6についても同様である。

(24)本件発明3の「前記塩及び/又は前記砂糖」について
本件発明3は「前記粉砕工程が、前記第2の澱粉質原料と前記塩及び/又は前記砂糖とを湿熱処理する工程を含まない」ものであるから、「第2の澱粉質原料」と「塩」と「砂糖」の3つを混合して粉砕する際に湿熱処理する工程を含まない場合の他、「第2の澱粉質原料」と「塩」を粉砕する際には湿熱処理する工程を含まないが、「第2の澱粉質原料」と「砂糖」を粉砕する際には湿熱処理を含んでもよい場合、「第2の澱粉質原料」と「砂糖」を粉砕する際には湿熱処理する工程を含まないが、「第2の澱粉質原料」と「塩」を粉砕する際には湿熱処理を含んでもよい場合が含まれるものであるところ、実施例1?5では「コーンスターチと塩の混合物」又は「コーンスターチと砂糖の混合物」のいずれか一方について湿熱処理を含んでもよい場合については示されていないため、そのような湿熱処理をした場合にも油浮きを抑えつつ表面の平滑さを向上させた、外観の良好なルウを提供できるのかは不明であり、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
本件発明4?6についても同様である。

(25)本件発明6の「及び/又は」について
本件発明6は「前記粉砕工程が、前記塩及び前記砂糖を別個に粉砕する工程を含む」ものであり、本件発明5を引用するところ、本件発明5は「塩」と「砂糖」をそれぞれ別々に粉砕するものであるから、本件発明6においてもそれが前提となる。
そうとすれば、本件発明6は、「塩」と「砂糖」をそれぞれ別々に粉砕する場合において、塩を含む粉砕原料の75質量%以上が、目開き300μmの飾を通過するが、砂糖を含む粉砕原料の25質量%以上が、目開き300μmの飾を通過しない場合、及び、砂糖を含む粉砕原料の25質量%以上が、目開き300μmの飾を通過するが、塩を含む粉砕原料の75質量%以上が、目開き300μmの飾を通過しない場合が含まれることになる。
また、実施例1?5では、塩を含む粉砕原料の約90質量%以上が、目開き300μmの飾を通過するものであるのに対し、本件発明6は塩を含む粉砕原料の75質量%以上が、目開き300μmの飾を通過するものとされ、同様に、実施例1?5では、砂糖を含む粉砕原料の約40質量%以上が、目開き300μmの飾を通過する程度に粉砕されたものであるのに対し、本件発明6は砂糖を含む粉砕原料の25質量%以上が、目開き300μmの節を通過するものであるとされているところ、「75質量%以上」及び「25質量%以上」の根拠が示されておらず、その効果も不明である。
したがって、本件発明6は詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

(26)本件発明7の「塩及び/又は砂糖を含む粉砕原料」について
本件発明7の「粉砕原料」は「塩」を含み「砂糖」を含まない場合と、「砂糖」を含み「塩」を含まない場合があることを含むものとなっている。ルウ中の固体成分(塩、砂糖)のサイズはブルーミング(油浮き)の発生に対して大きく影響するものであるところ、実施例として、塩を含む粉砕原料の75質量%以上が、目開き300μmの飾を通過する場合であって、砂糖を含む粉砕原料の25質量%以上が、目開き300μmの飾を通過しないものである場合、及び、砂糖を含む粉砕原料の25質量%以上が、目開き300μmの飾を通過する場合であって塩を含む粉砕原料の75質星%以上が、目開き300μmの飾を通過しないものである場合については示されておらず、それらが実施例1?5と同様の結果が得られるかは定かではなく、実際に確認してみないとわからないものであり、また、「75質量%以上」及び「25質量%以上」とする根拠も示されていない。
したがって、本件発明7は詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
また、本件発明7を引用する本件発明8も同様である。

第4 当審の判断
当審は、本件発明1?8に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠により取り消すべきものではないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 理由1について
(1)甲各号証の記載事項及び引用発明
ア 甲各号証の記載事項
甲1:
1a)「【請求項1】
小麦粉及び/又はコーンスターチを水分含量が5質量%以下にまで乾燥してなるルウ用乾燥小麦粉及び/又は乾燥コーンスターチ。
・・・
【請求項5】
小麦粉及び/又はコーンスターチを水分含量が5質量%以下にまで気流乾燥、又は流動層乾燥した後、シフターによって粒度調製することを特徴とするルウ用乾燥小麦粉及び/又は乾燥コーンスターチの製造方法。
【請求項6】
小麦粉及び油脂を混合加熱し、これに粉体原料を加えて混合加熱して水分含量が1?5質量%のルウを製造する方法において、前記小麦粉として請求項1?5のいずれか1項記載のルウ用乾燥小麦粉を用いることを特徴とするルウの製造方法。」

1b)「【0016】
・・・更なる粉体原料としては、食塩、砂糖、粉乳、各種香辛料、オニオンパウダー、その他粉体の調味原料等がある。なお、食塩と砂糖は、予め粉砕処理しておく方が均一混合という点から好ましい。また、前記ペースト原料としては、肉類、魚介類、野菜類、果実類等の汁液やエキス、牛乳、チーズ等の乳原料、発酵調味料等、水分を比較的多く含有したものを用いる。これらを用いることで風味の改善効果が達成される。」

1c)「【実施例3】
【0019】
油(精製牛脂、精製豚脂)14質量部に対し水分が4質量%の乾燥小麦粉16質量部を加え120℃まで40分間加熱混合して小麦ルウを得た。
上記小麦ルウ30質量部に対し、油(精製牛脂、精製豚脂)20質量部、ペースト原料(チーズ、生クリーム、オニオンペースト、香料)5質量部、粉体調味原料として、粉乳、オニオンパウダー、酵母エキス、調味料の混合物20質量部、水分が4質量%の乾燥小麦粉4質量部、水分が6質量%の乾燥コーンスターチ6質量部、塩7質量部、砂糖8質量部を攪拌しながら順番に加え、品温80℃まで加熱混合し、その後、水分量が3.4質量%になるまで品温80℃で加熱混合してルウを得た。得られたルウを60℃にまで冷却して合成樹脂製の成形容器に充填後、冷凍庫で冷却固化させて容器入り固形ルウを得た。
得られた固形ルウを風味、色調、物性で評価し、その結果を表1に示す。
なお、水分量は常圧105℃加熱16時間乾燥法、風味は官能評価、色調は色差計(日本電色工業製SZ-Σ90)、物性は加熱混合攪拌機に備え付けてある攪拌負荷測定器を用いて測定した。上記官能評価による風味および色差計による色調は、前記固形ルウ54gを湯300gに溶解し、加熱沸騰させたもので評価および測定した。上記色調の欄に記載のLは明度を表わす指標で、値が大きい程明るい色、値が小さい程くらい色となる。aLは色度を表わす指標で、+aが赤方向、-aが緑方向を表わす。bLは色度を表わす指標で、+bが黄方向、-bが青方向を表わす。
(比較例1)
乾燥小麦粉水分量が8質量%を使用すること以外は、実施例3に従って行った。また、水分量、風味、色調、物性の測定は実施例3に記載の方法で行った。結果を表1に示す。
【表1】

表1の結果から明らかなように、実施例3は比較例1と比べて、加熱感が少なく、色の白いホワイトルウが得られた。また、加熱混合中のルウ物性もなめらかで、機械適性も良いものであった。
【実施例4】
【0020】
水分量が8質量%の乾燥小麦粉と水分量が4質量%の乾燥コーンスターチを使用すること以外は、実施例3に従って行った。結果を表2に示す。
【表2】

表2の結果から明らかなように、実施例4は比較例1と比べて、加熱感が若干少なく、色も若干白いホワイトルウが得られた。また、加熱混合中のルウ物性も若干なめらかで、機械適性も良いものであった。
【実施例5】
【0021】
水分量が4質量%の乾燥コーンスターチを使用すること以外は、実施例3に従って行った。結果を表3に示す。
【表3】

表3の結果から明らかなように、実施例5は比較例1、実施例3、4と比べて、加熱感が最も少なく、色も最も白いホワイトルウが得られた。また、加熱混合中のルウ物性もなめらかで、機械適性も良いものであった」

甲2:
2a)「【0015】処理後の風味原料組成物の水分量が15%を超える場合、風味原料組成物を加えたルウ中の水分量が多くなり、ルウの粘度が高くなり過ぎて充填不可能な物性となる。固形ルウの場合、トレイなどの容器に炊き上がったルウを流し込んだ後、冷却固化させて製品とする。
【0016】この際、ルウの粘度が高すぎるとトレイに流し込むことができなくなり、逆にルウの粘度が低すぎるとルウ中の粉体原料と油脂が分離して好ましくない。従ってルウの粘度は製造上重要である。一般的に、充填時のルウの粘度は3000?8000cps(BL型粘度計にて測定、No.3ローター使用、ローター回転数12rpm、ルウ温度55℃)が適当とされている。
【0017】このような適正な粘度を得るにはルウ中の水分値を6%以下とすることが必要であり、そのためには風味原料組成物の水分値を15%以下にする必要がある。フレーク状のルウを作成する際も一旦、容器に流し込み、冷却固化した後、フレーク状に削るので同様である。」

2b)「【0022】(比較例3)・・・冷却固化して即席カレールウを得た。冷却固化前のカレールウは粘度が非常に上昇(粘度計での測定は不可能)し、流動性のない物性になった為、手作業でトレイに充填し冷却した。出来上がったルウは表面に多く凹凸があり商品価値はなかった。」

甲3:
3a)「【請求項1】
小麦粉ルウからなるルウ製品を製造する方法において、少なくとも油脂、風味原料及び澱粉系原料を用い、原料中の澱粉系原料以外の高速粉砕機等で粉砕した場合に、熱をもつことで相互に結着してダマになったり、次工程へ移送する配管に付着したりする性質を有する吸湿性粉体原料を澱粉系原料と共に湿熱処理することなく粉砕することにより粉砕時の原料の発熱を回避して均一な粒度で加工適性の高い粉砕原料とし、これらの原料を65℃以上の温度で仕上げのために加熱処理することを特徴とするルウの製造方法。」

3b)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、澱粉系原料として、特定量の小麦粉及びコーンスターチを配合して製造されてなる食感及び風味の改質された新規なルウを製造する方法に関するものである。また、本発明は、小麦粉ルウ、及び粉体原料等を配合し、これを加熱混合してなるルウであって、吸湿性粉体原料が均質に配合されてなる均質で高品質のカレールウ等のルウを製造する方法に関するものであり、更に詳しくは、吸湿性粉体原料を澱粉系原料と共に粉砕した均一な粒度で加工適性が高い原料を用いることによって、粉体原料の沈降分離を回避して、製品中の粉体原料を均質化させることにより、従来製品と比べて、滑らかな粘度で優れた食感と風味を有するように改質された新しいタイプの高品質のルウを製造する方法に関するものである。
・・・
【0003】
しかし、上記粉体原料を均一に、しかも品質を損なうことなく、粉砕することは必ずしも容易ではなく、従来、そのような粉砕プロセスについて改善すべき種々の問題点があった。粉体原料を粉砕する場合、粉砕機としては、ロール式(発熱なし/粉砕量少)、高速粉砕機(回転式=発熱あり/粉砕量大)等がある。このうち、前者は、粉砕時に発熱がない利点をもつ反面、粉砕量が少ないので生産効率が悪く、また食塩、砂糖等の粉体原料は熱による風味品質への影響を受けにくい原料であるため、敢えてロール式粉砕機等で粉砕する必要はなく、他の粉砕量の大きい粉砕機等を採用して多量に連続粉砕することがルウの製造工程上望ましい。しかし、高速粉砕機を用いる場合は粉砕時に発熱しやすく、熱で粉砕適性が悪くなる恐れがあり、食塩を単独で粉砕すると、粉砕時あるいは粉砕後に結着しやすく、また移送配管やストックタンクに付着しやすいという問題がある。また、砂糖についても同様であり、単独で粉砕すると、発熱溶融して粉砕物がベタつき、上記と同様の問題がある。」

3c)「【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明は、小麦粉ルウからなるルウ製品を製造する方法において、少なくとも油脂、風味原料及び澱粉系原料を用い、原料中の澱粉系原料以外の高速粉砕機等で粉砕した場合に、熱をもつことで相互に結着してダマになったり、次工程へ移送する配管に付着したりする性質を有する吸湿性粉体原料を澱粉系原料と共に湿熱処理することなく粉砕することにより粉砕時の原料の発熱を回避して均一な粒度で加工適性の高い粉砕原料とし、これらの原料を65℃以上の温度で仕上げのために加熱処理することを特徴とするルウの製造方法、である。本発明は、吸湿性粉体原料として食塩及び/又は砂糖を用い、澱粉系原料としてコーンスターチのみを用いる上記のルウの製造方法、吸湿性粉体原料1部に対して0.01?2部の澱粉系原料の比率でこれらを混合して粉砕する前記のルウの製造方法、吸湿性粉体原料の粉砕前の中心粒径が、食塩で212?425μm、砂糖で425?550μmであり、澱粉系原料の粉砕前の中心粒径が、63?106μmである前記のルウの製造方法、粉砕処理により得られる吸湿性粉体原料の中心粒径が125?355μmである前記のルウの製造方法、を望ましい態様としている。本発明において、吸湿性粉体原料とは、ルウの原料の内、澱粉系原料以外の吸湿性粉体で、高速粉砕機等で粉砕した場合に、熱をもつことで相互に結着してダマになったり、次工程へ移送する配管に付着したりする性質を有するものを意味するものとして定義される。本発明において、吸湿性粉体原料は、澱粉系原料と明確に区別されるものである。」

3d)「【0013】
本発明においてルウは、前記澱粉系原料と他の基本原料である油脂及び風味原料等を用いて、常法により製造することができる。
油脂は、食用油脂であれば如何なるものでもよく、ルウ中に26?44%用いるのが良好な風味・粘度を達成する上で好ましい。
風味原料としては、乳製品、肉類・魚介類・野菜・果実等の汁液、エキス、ブイヨン、香辛料、カレーパウダー等の他の原料と共に加熱した場合に風味が引き立ついわゆる融合型の風味原料や、食塩、砂糖、オニオンパウダー等のパウダー品、調味料(アミノ酸等)等の単体で比較的高温の加熱で風味立ちする粉体原料を用いることができる。風味原料は、ルウ中に1?18%用いるのがこれらに由来する良好な風味を達成する上で好ましい。
【0014】
以上の原料の内、香辛料等の水不溶性原料は、粒子径が106μ以下、好ましくは53μ以下とするのが望ましい。
本発明においては、小麦粉及びコーンスターチを特定量含む構成とすることにより、ルウに滑らかな物性を付与することが可能となり、他の原料についてもこれを上記範囲で微粒子状に含むようにすることによって、ルウの舌触りと口どけを更に滑らかなものにすることが可能となる。
本発明においては、必須原料である澱粉系原料を、食塩、砂糖(グラニュー糖)等の吸湿性粉体原料を粉砕する場合のバインダーとして用いることが重要である。食塩、砂糖等は高速粉砕機等で粉砕した場合に、熱をもつことで相互に結着してダマになったり、次工程へ移送する配管に付着したりする問題がある。したがって、これらの原料を澱粉系原料と一緒に粉砕することで、上記の問題を回避し、均質で高品質の粉砕原料とすることができる。
この場合に、例えば、食塩については、食塩1重量部(以下、部と略称する)に対して澱粉系原料0.01?1部、砂糖については、砂糖1部に対して澱粉系原料0.1?2部の比率で各々両者を粉砕にかけることにより、粉砕による結着等の問題を回避して粉砕を好適に行うことができる。」

甲4:
4a)「また,チョコレート中の固体成分(カカオマス,砂糖)のサイズと移行速度に関係があることから,内部構造が油脂移行速度に大きく影響する.」(2頁目右欄3?6行)

4b)「(4)砂糖やカカオマスを粒子として含む市販のチョコレートおよび,ココアバターのみを固めたモデル油脂ブロックを用い,それぞれにシリコンオイルを移行させたときの移行速度を重量の経時変化から求めた.・・・これらの試料を用いて油脂移行速度を比較したところ,粒子を含まないモデル油脂ブロックの方が油脂移行速度は明らかに遅くなった.すなわち粒子の存在により油脂移行が促進されることが示唆された.」(3頁目左欄下から7行?右欄9行)

甲5:
5a)「ブルーミングとは、カレーのルーに含まれているターメリックの色素が油脂分に溶け込んで表面に浮き上がり、固まって緑色に見えることをいいます。夏の暑い時期や温度の高い室内に置いておくと油脂分が溶け、ブルーミングが起こるのですが、特に品質に問題はないので安心してください。シチューやハヤシライスのルーでもブルーミングが起こりますが、ターメリックは含まれていないため浮き上がった油脂分で表面は白っぽくなります。
ちなみにブルームは英語で「果実や葉の蝋粉(ロウ物質)」という意味で、元々はチョコレートでも砂糖の結晶が表面に残るシュガーブルーミングや、カカオバターの結晶が表面に現れるファットブルーミングの用語で使われていました。カレールーに起こる現象も同じような原理によるため、これが次第にカレーのルーにも当てはめて使用されるようになったということです。」(本文4?最終行)

甲6:
6a)「Q.カレールウの表面が白っぽくなっていることがありますが、どうしてですか?
白っぽく見える部分は、高温によってカレールウの表面に浮き出た食用油脂が、冷えて固まったもので、品質の劣化ではありませんので、安心してお召し上がりいただけます。これは、「ブルーミング」といって、チョコレートなどにもときどき見られる現象です。」(「カレーのQ&A」の2つめのQ&A)

甲7:
7a)「2.これに対して、引用文献1及び引用文献2には、ある種のルウの製造方法が記載されていますが、「塩及び/又は砂糖を粉砕し、粉砕原料を調製する工程」や、当該工程を経て製造されるルウについては、具体的には記載されていません。特に、ルウの油浮きを抑制しかつ表面の平滑さを向上するために、「塩及び/又は砂糖を粉砕し、粉砕原料を調製する工程」を採用することは引用文献1及び2には、記載も示唆もされていません。この点は、引用文献3及び引用文献4の記載を考慮しても同様です。
また、塩及び砂糖の粉砕処理に関して、引用文献1?3には、「予め粉砕処理しておく方が均一混合という点から好ましい」(引用文献1の段落0016)、「原料の沈降分離が極力回避された均質で高品質なものとなる」(引用文献2の段落0008)、「製造時及び製品における粉体原料の沈降分離を極力回避し、均質で高品質のルウを得ることができる」(引用文献3の段落0017)とは記載されていますが、油浮き抑制の効果については何も記載がされていません。そうすると、「塩及び/又は砂糖を粉砕し、粉砕原料を調製する工程」を含む方法で製造されたルウにおいては、粉砕処理が施されていない砂糖及び塩を含むルウと比較して、沈降分離が抑制されるだけでなく油浮きも抑制されるという本件発明の効果は、引用文献1?4の記載からは予測することのできない優れた効果です。」(「その4」の「2.」)

イ 引用発明
甲1には、ルウ用乾燥小麦粉及び/又は乾燥コーンスターチ並びにその製造方法についての記載があるところ(摘示1a?1c)、具体例である実施例3として固形ルウの製造方法が記載されている(摘示1c)。
したがって、甲1には、
「油(精製牛脂、精製豚脂)14質量部に対し水分が4質量%の乾燥小麦粉16質量部を加え120℃まで40分間加熱混合して得た小麦ルウ30質量部に対し、油(精製牛脂、精製豚脂)20質量部、ペースト原料(チーズ、生クリーム、オニオンペースト、香料)5質量部、粉体調味原料として、粉乳、オニオンパウダー、酵母エキス、調味料の混合物20質量部、水分が4質量%の乾燥小麦粉4質量部、水分が6質量%の乾燥コーンスターチ6質量部、塩7質量部、砂糖8質量部を攪拌しながら順番に加え、品温80℃まで加熱混合し、その後、水分量が3.4質量%になるまで品温80℃で加熱混合して得たルウを60℃にまで冷却して合成樹脂製の成形容器に充填後、冷凍庫で冷却固化させる容器入り固形ルウの製造方法」及び
「油(精製牛脂、精製豚脂)14質量部に対し水分が4質量%の乾燥小麦粉16質量部を加え120℃まで40分間加熱混合して得た小麦ルウ30質量部に対し、油(精製牛脂、精製豚脂)20質量部、ペースト原料(チーズ、生クリーム、オニオンペースト、香料)5質量部、粉体調味原料として、粉乳、オニオンパウダー、酵母エキス、調味料の混合物20質量部、水分が4質量%の乾燥小麦粉4質量部、水分が6質量%の乾燥コーンスターチ6質量部、塩7質量部、砂糖8質量部を攪拌しながら順番に加え、品温80℃まで加熱混合し、その後、水分量が3.4質量%になるまで品温80℃で加熱混合して得たルウを60℃にまで冷却して合成樹脂製の成形容器に充填後、冷凍庫で冷却固化させて得た容器入り固形ルウ」の発明(以下それぞれ「甲1発明1」及び「甲1発明2」という。)が記載されていると認める。

(2)判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1の「塩」、「砂糖」は、成分が塩及び砂糖である限りにおいて本件発明1の「塩及び/又は砂糖を粉砕し」た「粉砕原料」と一致する。
甲1発明1の「乾燥小麦粉」、「油(精製牛脂、精製豚脂)」は、それぞれ、本件発明1の「第1の澱粉質原料」、「油脂」に相当する。
本件発明1の「風味原料」について、本件明細書には、「【0014】本明細書に記載の「風味原料」とは、前記ルウに対して所望の風味を付与する原料であって、前記塩及び前記砂糖以外の原料のことをいう。前記風味原料としては、当技術分野で通常採用されるものを、特に制限されることなく使用することができる。前記風味原料は、例えば、水系原料、香辛料、オニオンパウダーなどの野菜パウダー、粉乳、クリーミングパウダー、カラメル、脱脂大豆、デキストリン、アミノ酸(調味料)、又はクエン酸などの有機酸などであってもよい。【0015】前記水系原料は、ある程度の水分を含有する食品原料のことをいい、固体、液状、又はペースト状であり得る。前記水系原料の水分量は、特に限定されないが、例えば、当該水系原料の全質量に対して約10質量%以上であってもよい。前記水系原料は、前記ルウを製造することができる限り特に限定されないが、例えば、果実(リンゴ、バナナ、チャツネ)のペースト又はエキス、畜肉(ビーフ、チキン、ポーク)のペースト又はエキス、野菜(オニオン、ガーリック)のペースト又はエキス、チーズ及び生クリームなどからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。【0016】前記香辛料としては、1種類の香辛料を単独で使用してもよく、複数種の香辛料を混合した混合香辛料を使用してもよい。前記香辛料としては、例えば、カレーパウダー、ガーリックパウダー、コリアンダー、クミン、キャラウェー、タイム、セージ、胡椒、唐辛子、マスタード、ターメリック、及びパプリカなどを使用してもよい。」との記載があることを考慮すれば、甲1発明1の「ペースト原料(チーズ、生クリーム、オニオンペースト、香料)」、「粉乳、オニオンパウダー」は本件発明1の「風味原料」に相当する。
甲1発明1の「品温80℃まで加熱混合し」、「品温80℃で加熱混合」することは、本件発明1の「加熱処理」することに相当する。
甲1発明1は品温80℃で加熱混合して得たルウを60℃にまで冷却して合成樹脂製の成形容器に充填後、冷凍庫で冷却固化させて容器入り固形ルウを製造するところ、冷却固化前の品温80℃での加熱混合について、甲1には「加熱混合中のルウ物性もなめらか」との記載もあるから(摘示1c、実施例3)、加熱混合して得たルウは溶融状であるといえる。
甲1発明1の固形ルウの油脂の含有量は、その原料組成からみて34質量%(14質量部+20質量部より)と計算されるところ、これは本件発明1の「前記ルウ中の油脂の含有量が、前記ルウの全質量に対して26質量%以上」であることに相当する。
甲1発明1の「水分量が3.4質量%」について、上述のとおり、甲1発明1の油脂の含有量は34質量%と計算されるから、ルウの油脂量に対する水分量の質量比は0.1と計算され、これは本件発明1の「前記ルウの油脂量に対する水分量の質量比が、0.04?0.13である」ことに相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明1とは、
「ルウの製造方法であって、
第1の澱粉質原料と、油脂と、塩及び/又は砂糖である原料と、風味原料とを含む混合物を加熱処理して、溶融状のルウを調製する工程、及び、
前記溶融状のルウを固化する工程、
を含み、前記ルウ中の油脂の含有量が、前記ルウの全質量に対して26質量%以上であり、前記ルウの油脂量に対する水分量の質量比が、0.04?0.13である、ルウの製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1は「塩及び/又は砂糖を粉砕し、粉砕原料を調製する工程」を有し、油脂、風味原料を含む混合物が、該粉砕原料を含むものであるのに対し、甲1発明1は、塩及び砂糖を粉砕し、粉砕原料を調製する工程を有しておらず、油脂、風味原料を含む混合物が、該粉砕原料を含むとしていない点

上記相違点1について検討する。
甲1には「更なる粉体原料としては、食塩、砂糖、粉乳、各種香辛料、オニオンパウダー、その他粉体の調味原料等がある。なお、食塩と砂糖は、予め粉砕処理しておく方が均一混合という点から好ましい。」との記載がある(摘示1b)。
また、甲3には、「本発明は、小麦粉ルウ、及び粉体原料等を配合し、これを加熱混合してなるルウであって、吸湿性粉体原料が均質に配合されてなる均質で高品質のカレールウ等のルウを製造する方法に関するものであり、更に詳しくは、吸湿性粉体原料を澱粉系原料と共に粉砕した均一な粒度で加工適性が高い原料を用いることによって、粉体原料の沈降分離を回避して、製品中の粉体原料を均質化させることにより、従来製品と比べて、滑らかな粘度で優れた食感と風味を有するように改質された新しいタイプの高品質のルウを製造する方法に関するものである。」(摘示3b)、「本発明においては、必須原料である澱粉系原料を、食塩、砂糖(グラニュー糖)等の吸湿性粉体原料を粉砕する場合のバインダーとして用いることが重要である。食塩、砂糖等は高速粉砕機等で粉砕した場合に、熱をもつことで相互に結着してダマになったり、次工程へ移送する配管に付着したりする問題がある。したがって、これらの原料を澱粉系原料と一緒に粉砕することで、上記の問題を回避し、均質で高品質の粉砕原料とすることができる。」(摘示3d)との記載があり、甲3に記載の技術は、ルウの製造方法に関する点で甲1に記載のものと共通する。
したがって、甲1及び甲3に記載の上記記載に基づいて、甲1発明1において、塩及び/又は砂糖を粉砕し、粉砕原料を調製する工程を採用すること、油脂、風味原料を含む混合物が、該粉砕原料を含むものとすることは当業者が容易になし得た事項である。

本件発明1が奏する効果について検討する。
本件発明1が奏する効果に関連して、本件明細書には、以下の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
カレー、シチュー、及びハヤシライスソースなどのソースを調理するための調理材料としてルウが用いられており、これまでにルウやソースの風味及び特性を向上するために、種々の研究が行われてきた。例えば、特許文献1及び特許文献2には、ルウの製造過程において、塩や砂糖がルウの中で沈降分離することを防ぐために、これらの原料を予め粉砕してから他の原料と配合することが記載されている。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ルウの製造方法は、澱粉質原料と、油脂と、塩や砂糖と、風味原料とを含む混合物を加熱処理して、溶融状のルウを調製する工程、及び、溶融状のルウを固化する工程を含む。このルウの製造において、塩や砂糖を粉砕すると製造過程におけるルウの中での沈降分離が抑制される一方、溶融状のルウの粘度が上昇して、容器に充填、固化後のルウの表面が凸凹になってしまうことがある。そこで、本発明は、表面の平滑さが向上したルウを製造することができる方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ルウ中の油脂量と水分量の比率を調整することで、粉砕した塩や砂糖を使用した場合であっても、油浮きを抑えつつ固化後の表面が平坦なルウを製造できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示すルウの製造方法及びルウを提供するものである。」

「【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、粉砕した塩や砂糖を使用したルウにおいて、ルウ中の油脂の含有量が、前記ルウの全質量に対して26質量%以上であり、かつ油脂量に対する水分量の質量比が約0.04?約0.13となるように油脂量及び水分量を調整することにより、製造されるルウにおいて、油浮きを抑えつつ表面の平滑さを向上することができる。したがって、外観の良好なルウを提供することが可能となる。」

「【0026】
【表1】


【0027】
塩及び砂糖を粉砕し、油脂量が20質量%であるルウを作製した場合には、塩や砂糖の沈降分離は発生せず、油浮きも発生しなかったが、固化した後のルウの表面が凸凹になってしまった(比較例1)。また、油脂量を40質量%(油脂量に対する水分量の質量比が0.038)としてルウを作製した場合には、ルウの表面の平滑さは向上したものの、原料の沈降分離や油浮きが発生した(比較例2)。
【0028】
これに対して、塩及び砂糖を粉砕しつつ、油脂量が26質量%以上であり、かつ油脂量に対する水分量の質量比が0.04?0.13となるように、油脂量及び水分量を調整してルウを作製した場合には、充填前粘度が低下し、表面の平坦なルウを作製することができた(実施例1?5)。
【0029】
一方、油脂量に対する水分量の質量比が高くなりすぎると、塩や砂糖の沈降分離は発生せず、油浮きも発生しなかったものの、固化した後のルウの表面が凸凹になってしまった(比較例3)。なお、粉砕処理を施さなかった塩及び砂糖を原料として使用した場合には、原料の沈降分離が発生し、かつ油浮きも発生してしまった(比較例4)。
【0030】
以上より、ルウ中の油脂量と水分量の比率を調整することで、粉砕した塩や砂糖を使用した場合であっても、固化後の表面が平坦で、かつ油浮きも抑制されたルウを製造できることが分かった。したがって、外観の良好なルウを提供することが可能となる。」

上記の本件明細書の記載から、本件発明1は、ルウの製造過程において塩や砂糖がルウの中で沈降分離することを防ぐためにこれらの原料を予め粉砕することは公知であったが、塩や砂糖を粉砕すると製造過程におけるルウの中での沈降分離が抑制される一方、溶融状のルウの粘度が上昇して、容器に充填、固化後のルウの表面が凸凹になってしまうことがあるため、ルウ中の油脂量と水分量の比率を調整することで、粉砕した塩や砂糖を使用した場合であっても、油浮きを抑えつつ固化後の表面が平坦なルウを製造できることを見出したことによりなされたものであり、本件発明1は、製造されるルウにおいて、粉砕した塩や砂糖を使用した場合であっても、油浮きを抑えつつ表面の平滑さを向上することができ、したがって、外観の良好なルウを提供することが可能となる、という効果を奏するものであるといえる。
これに対し、甲1には、食塩と砂糖を予め粉砕処理しておく方が均一混合という点から好ましいことが記載されており(摘示1b)、甲3には、吸湿性粉体原料を澱粉系原料と共に粉砕した均一な粒度で加工適性が高い原料を用いることによって、粉体原料の沈降分離を回避して、製品中の粉体原料を均質化させることにより、従来製品と比べて、滑らかな粘度で優れた食感と風味を有するように改質された新しいタイプの高品質のルウを製造すること(摘示3b)、必須原料である澱粉系原料を、食塩、砂糖(グラニュー糖)等の吸湿性粉体原料を粉砕する場合のバインダーとして用いることが重要であること、食塩、砂糖等は高速粉砕機等で粉砕した場合に、熱をもつことで相互に結着してダマになったり、次工程へ移送する配管に付着したりする問題があるため、これらの原料を澱粉系原料と一緒に粉砕することで、上記の問題を回避し、均質で高品質の粉砕原料とすることができること(摘示3c、3d(【0014】)。なお、この点に関し、特許異議申立書13頁15行の「0015」は「0014」の誤記と認める。)が記載されており、粉体原料の沈降分離の回避、粉体原料の均質化、食感と風味等についての記載ないし示唆がされているといえるが、甲1、甲3のいずれにも、製造されるルウにおいて、粉砕した塩や砂糖を使用した場合であっても、油浮きを抑えつつ表面の平滑さを向上し、外観の良好なルウを提供することが可能となることについての記載ないし示唆がされているとはいえない。
甲2には、ルウ中の水分量が多くなると、ルウの粘度が高くなること、冷却固化前のカレールウの粘度が非常に上昇したものについて、流動性のない物性になった為、手作業でトレイに充填し冷却したが、出来上がったルウは表面に多く凹凸があり商品価値はなかったことが(摘示2a、2b)、甲4には、チョコレート中の固体成分(カカオマス,砂糖)のサイズと移行速度に関係があることから、内部構造が油脂移行速度に大きく影響すること、粒子の存在により油脂移行が促進されることが示唆されたことが(摘示4a、4b)、甲5には、カレーにおいてもチョコレートと同様にブルーミングが起こることが(摘示5a)が、甲6には、カレールウの表面が白っぽくなっているのは、高温によってカレールウの表面に浮き出た食用油脂が冷えて固まったもので、これは「ブルーミング」といい、チョコレートなどにもときどき見られる現象であることが(摘示6a)、それぞれ記載されているが、これら記載をみても(なお、甲6は公知日が不明であるが、仮に本件特許の出願時に公知であるとして判断する。)、粘度が非常に上昇したカレールウを冷却固化したルウの表面に多く凹凸があったこと、ブルーミングがカレー、チョコレートの双方において見られる現象であること、チョコレートでは固体成分のサイズと油脂移行速度に関連があることなどが理解できるのみであって、製造されるルウにおいて、粉砕した塩や砂糖を使用した場合であっても、油浮きを抑えつつ表面の平滑さを向上し、外観の良好なルウを提供することが可能となることについての記載ないし示唆があるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1?6に記載された事項から予測し得ない顕著な効果を奏するといえる。

以上のとおりであるから、本件発明1は甲1?6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

イ 本件発明2?6について
本件発明2?6はいずれも本件発明1を直接的・間接的に引用し、さらに技術的事項を限定した発明である。
したがって、本件発明1と同様に、本件発明2?6は、甲1?6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

ウ 本件発明7について
本件発明7と甲1発明2とを対比する。
本件発明1と甲1発明1との対比と同様に対比すると、両者は、
「第1の澱粉質原料と、
油脂と、
塩及び/又は砂糖を含む原料と、
風味原料と
を含む混合物の加熱処理物を含むルウであって、
前記ルウ中の油脂の含有量が、前記ルウの全質量に対して26質量%以上であり、
前記ルウの油脂量に対する水分量の質量比が、0.04?0.13であり、
固形ルウである、ルウ。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2>
ルウに含まれる「原料」について、本件発明1が「粉砕原料」であり、「前記塩を含む粉砕原料の75質量%以上が、目開き300μmの篩を通過し、及び/又は前記砂糖を含む粉砕原料の25質量%以上が、目開き300μmの篩を通過し」と特定しているのに対し、甲1発明2は、塩及び砂糖が粉砕されたものであること、塩を含む粉砕原料及び砂糖を含む粉砕原料の目開き300μmの篩の通過の重量割合を特定していない点

上記相違点2について検討するに、相違点2は塩及び/又は砂糖の粉砕に関するものである点で相違点1と同様の相違点であるから、その限りにおいて、その判断については上記相違点1の判断と同様である。
そして、本件発明7が奏する効果についても上記本件発明1について述べたのと同様である。
したがって、本件発明7は甲1?6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

エ 本件発明8について
本件発明8は本件発明7を引用し、さらに技術的事項を限定した発明である。
したがって、本件発明7と同様に、本件発明8は、甲1?6に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

オ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書(13?15頁の(d)及び(e)の項目)において、審判請求書(甲7)における、本件発明の効果は、引用文献1?4の記載からは予測することのできない優れた効果である旨の主張(摘示7a)について、塩及び/又は砂糖を粉砕したものを使用することは、例えば、甲1及び甲3に開示されているように、既に公知であり、そうとすれば、そのような工程を経て製造されたルウは、当然に沈降分離が抑制されるだけでなく油浮きも抑制されるという効果を奏することになる旨、甲2、4?6の記載から、ルウの水分量と塩や砂糖の粒子の大きさを調整することでルウの粘度とブルーミングを調製できることは当業者であれば容易想到である旨主張する。
しかし、塩及び/又は砂糖を粉砕したものを使用することが公知であったとしても、それによって沈降分離だけでなく油浮きも抑制されるという効果を奏するといえる技術的根拠が何ら示されておらず、そのような効果を奏することが出願時の技術常識であったともいえず、また、甲2、4?6の記載を参酌しても、製造されるルウにおいて、粉砕した塩や砂糖を使用した場合であっても、油浮きを抑えつつ表面の平滑さを向上し、外観の良好なルウを提供することが可能となることについての記載ないし示唆があるとはいえないことは上記アで述べたとおりであるから、本件発明は、甲1?6に記載された事項から予測し得ない顕著な効果を奏するといえ、上記主張を採用することはできない。

カ まとめ
以上のとおりであるから、理由1には理由がない。

(2)理由2について
ア 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
a)「【背景技術】
【0002】
カレー、シチュー、及びハヤシライスソースなどのソースを調理するための調理材料としてルウが用いられており、これまでにルウやソースの風味及び特性を向上するために、種々の研究が行われてきた。例えば、特許文献1及び特許文献2には、ルウの製造過程において、塩や砂糖がルウの中で沈降分離することを防ぐために、これらの原料を予め粉砕してから他の原料と配合することが記載されている。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ルウの製造方法は、澱粉質原料と、油脂と、塩や砂糖と、風味原料とを含む混合物を加熱処理して、溶融状のルウを調製する工程、及び、溶融状のルウを固化する工程を含む。このルウの製造において、塩や砂糖を粉砕すると製造過程におけるルウの中での沈降分離が抑制される一方、溶融状のルウの粘度が上昇して、容器に充填、固化後のルウの表面が凸凹になってしまうことがある。そこで、本発明は、表面の平滑さが向上したルウを製造することができる方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ルウ中の油脂量と水分量の比率を調整することで、粉砕した塩や砂糖を使用した場合であっても、油浮きを抑えつつ固化後の表面が平坦なルウを製造できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示すルウの製造方法及びルウを提供するものである。
・・・
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、粉砕した塩や砂糖を使用したルウにおいて、ルウ中の油脂の含有量が、前記ルウの全質量に対して26質量%以上であり、かつ油脂量に対する水分量の質量比が約0.04?約0.13となるように油脂量及び水分量を調整することにより、製造されるルウにおいて、油浮きを抑えつつ表面の平滑さを向上することができる。したがって、外観の良好なルウを提供することが可能となる。」

b)「【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のルウの製造方法は、塩及び/又は砂糖を粉砕し、粉砕原料を調製する工程、第1の澱粉質原料と、油脂と、前記粉砕原料と、風味原料とを含む混合物を加熱処理して、溶融状のルウを調製する工程、及び、前記溶融状のルウを固化する工程を含んでいる。・・・
【0010】
本発明のルウの製造方法によって製造されるルウにおいて、水分量(A)の油脂量(B)に対する質量比(A/B)は、約0.04?約0.13であり、好ましくは約0.05?約0.12である。特定の理論に拘束されるものではないが、前記ルウの油脂量及び水分量が、このような範囲内であると、充填前のルウの粘度が適切な範囲に調整されるため、油浮きを抑制しつつ固化後の表面が平坦なルウを製造することができると考えられる。なお、前記ルウの油脂量は、前記油脂の含有量に対応しており、前記ルウの水分量は、主に原料中の水分に依存している。
・・・
【0012】
前記塩及び/又は前記砂糖を粉砕する工程は、当技術分野で通常採用される手段により適宜実施することができるが、例えば、高速粉砕機(HS-5型、西村機械社製)により粉砕してもよい。また、前記粉砕工程においては、前記塩及び前記砂糖を、同時に粉砕してもいいし、それぞれ別個に粉砕してもよい。そして、前記塩及び/又は前記砂糖の粉砕の程度は、前記ルウの中での沈降分離が抑制できる限り特に制限されない。例えば、前記塩については、それを含む粉砕原料の約75質量%以上、好ましくは約85質量%以上が目開き300μmの篩を通過するように(すなわち、目開き300μmの篩上に残る粉砕原料が約25質量%以下、好ましくは約15質量%以下となるように)粉砕してもよい。また、前記砂糖については、それを含む粉砕原料の約25質量%以上、好ましくは約35質量%以上が目開き300μmの篩を通過するように(すなわち、目開き300μmの篩上に残る粉砕原料が約75質量%以下、好ましくは約65質量%以下となるように)粉砕してもよい。
【0013】
ある態様では、前記塩及び/又は前記砂糖を、前記第1の澱粉質原料とは別に用意した第2の澱粉質原料と混合して粉砕する。前記第2の澱粉質原料は、前記第1の澱粉質原料と同じであってもいいし、異なってもよい。前記第2の澱粉質原料としては、粉砕時に粉砕機に付着しにくい澱粉質原料が好ましく、例えば、コーンスターチを採用してもよい。また、ある態様では、前記粉砕工程は、前記第2の澱粉質原料と前記塩及び/又は前記砂糖とを湿熱処理する工程を含まない。これらの態様では、前記粉砕原料の付着を抑えることができるため、前記粉砕原料を効率的に調製することが可能となる。
・・・
【0019】
また別の態様では、本発明は、前記第1の澱粉質原料と、前記油脂と、前記塩及び/又は前記砂糖を含む粉砕原料と、前記風味原料とを含む混合物の加熱処理物を含むルウに関している。本発明のルウにおいては、前記塩を含む粉砕原料の約75質量%以上、好ましくは約85質量%以上が、目開き300μmの篩を通過し(すなわち、前記塩を含む粉砕原料の約25質量%以下、好ましくは約15質量%以下が目開き300μmの篩上に残り)、及び/又は前記砂糖を含む粉砕原料の約25質量%以上、好ましくは約35質量%以上が、目開き300μmの篩を通過する(すなわち、前記砂糖を含む粉砕原料の約75質量%以下、好ましくは約65質量%以下が目開き300μmの篩上に残る)。
・・・
【実施例】
【0023】
〔製造例〕
塩10質量部とコーンスターチ1質量部とを混合し、高速粉砕機(HS-5型、西村機械社製)により1700rpmで粉砕して、粉砕原料(塩)を作製した。また、砂糖10質量部とコーンスターチ4質量部とを混合し、高速粉砕機により700rpmで粉砕して、粉砕原料(砂糖)を作製した。粉砕原料(塩)は、その約90質量%が目開き300μmの篩を通過する程度の粒径に粉砕されており、粉砕原料(砂糖)は、その約40質量%が目開き300μmの篩を通過する程度の粒径に粉砕されていた。
【0024】
小麦粉15質量部及び牛脂15質量部を加熱釜に投入して加熱撹拌し、常法により小麦粉ルウを作製した。この小麦粉ルウを、粉砕原料(塩)、粉砕原料(砂糖)、及び、後掲の表1に記載されている残りの原料(残りの油脂を含む)と混合して加熱処理して、溶融状のルウを作製した。この溶融状のルウを冷却して容器に充填し、更に冷却して固化することによって、実施例1?5及び比較例1?4のブロック状の固形ルウを作製した。
【0025】
上記加熱混合物を60℃まで冷却したときの充填前粘度をB型粘度計(成和産業株式会社製)によって測定し、作製したルウの水分量を常圧加熱乾燥法(乾燥温度:105℃、加熱時間:16時間)によって測定した。また、作製したルウにおける沈降分離の有無、表面の平滑さ、及び油浮きを、それぞれ5人のパネラーによる目視により評価した。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】


【0027】
塩及び砂糖を粉砕し、油脂量が20質量%であるルウを作製した場合には、塩や砂糖の沈降分離は発生せず、油浮きも発生しなかったが、固化した後のルウの表面が凸凹になってしまった(比較例1)。また、油脂量を40質量%(油脂量に対する水分量の質量比が0.038)としてルウを作製した場合には、ルウの表面の平滑さは向上したものの、原料の沈降分離や油浮きが発生した(比較例2)。
【0028】
これに対して、塩及び砂糖を粉砕しつつ、油脂量が26質量%以上であり、かつ油脂量に対する水分量の質量比が0.04?0.13となるように、油脂量及び水分量を調整してルウを作製した場合には、充填前粘度が低下し、表面の平坦なルウを作製することができた(実施例1?5)。
【0029】
一方、油脂量に対する水分量の質量比が高くなりすぎると、塩や砂糖の沈降分離は発生せず、油浮きも発生しなかったものの、固化した後のルウの表面が凸凹になってしまった(比較例3)。なお、粉砕処理を施さなかった塩及び砂糖を原料として使用した場合には、原料の沈降分離が発生し、かつ油浮きも発生してしまった(比較例4)。
【0030】
以上より、ルウ中の油脂量と水分量の比率を調整することで、粉砕した塩や砂糖を使用した場合であっても、固化後の表面が平坦で、かつ油浮きも抑制されたルウを製造できることが分かった。したがって、外観の良好なルウを提供することが可能となる。」

イ 判断
(ア)本件発明が解決しようとする課題
本件明細書及び特許請求の範囲の記載並びに出願時の技術常識からみて、本件発明1?6が解決しようとする課題は、「塩や砂糖を粉砕し製造過程におけるルウの中での沈降分離を抑制した場合であっても、表面の平滑さが向上したルウを製造することができる方法を提供すること」であり、本件発明7及び8が解決しようとする課題は、「塩や砂糖を粉砕し製造過程におけるルウの中での沈降分離を抑制した場合であっても、表面の平滑さが向上したルウを提供すること」であると認める。

(イ)理由21について
この理由は、概要、本件発明1は粉砕した塩と粉砕した砂糖のどちらか一方だけを使用する場合を含み、また、塩及び砂糖の粒子サイズが特定されていないが、かかる発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるというものである。
本件発明1は、塩や砂糖を粉砕すると製造過程におけるルウの中での沈降分離が抑制される一方、溶融状のルウの粘度が上昇して、容器に充填、固化後のルウの表面が凸凹になってしまうことがあるという従来技術の欠点を解消して、表面の平滑さが向上したルウを製造することができる方法を提供することを解決しようとする課題とし(【0004】)、粉砕した塩や砂糖を使用した場合であっても、油浮きを抑えつつ固化後の表面が平坦なルウを製造できることを見出し、本発明を完成させたものであり(【0005】)、本発明に従えば、粉砕した塩や砂糖を使用したルウにおいて、ルウ中の油脂の含有量が、前記ルウの全質量に対して26質量%以上であり、かつ油脂量に対する水分量の質量比が約0.04?約0.13となるように油脂量及び水分量を調整することにより、製造されるルウにおいて、油浮きを抑えつつ表面の平滑さを向上することができ、したがって、外観の良好なルウを提供することが可能となる(【0006】)から、本件発明1において、粉砕した塩、粉砕した砂糖が使用されることは発明の前提であるといえる。
発明の詳細な説明には、塩、砂糖について、専ら粉砕することが記載されており(【0007】、【0012】、【0013】、【0019】、実施例)、実施例では、粉砕した塩及び粉砕した砂糖を用いたルウについて沈降分離が発生せず、表面が平滑で、油浮きが発生しないことが具体的に示されている。
そして、塩及び砂糖はいわゆる調味料であって、それらの使用の有無は、目的とする食品の味に応じて適宜設定できることは技術常識であるところ、発明の詳細な説明には、粉砕した塩と粉砕した砂糖のどちらか一方のみを使用した場合に、沈降分離、表面の平滑さ、油浮きに関して上記したような効果が得られないという記載、示唆はなく、出願時の技術常識を参酌してもそのような効果が得られないということはできないから、粉砕した塩と粉砕した砂糖のどちらか一方のみを使用した場合においても、両方を使用した場合と同様の効果が得られるといえる。
また、粒子サイズについて、発明の詳細な説明には、塩及び/又は砂糖の粉砕の程度は、前記ルウの中での沈降分離が抑制できる限り特に制限されないこと、例えば、前記塩については、それを含む粉砕原料の約75質量%以上、好ましくは約85質量%以上が目開き300μmの篩を通過するように(すなわち、目開き300μmの篩上に残る粉砕原料が約25質量%以下、好ましくは約15質量%以下となるように)粉砕してもよく、前記砂糖については、それを含む粉砕原料の約25質量%以上、好ましくは約35質量%以上が目開き300μmの篩を通過するように(すなわち、目開き300μmの篩上に残る粉砕原料が約75質量%以下、好ましくは約65質量%以下となるように)粉砕してもよいことが記載されている(【0012】)。
さらに、発明の詳細な説明には、比較例1として油脂の含有量が本件発明1よりも少ないもの、比較例2及び3として油脂量に対する水分量の比が本件発明1の範囲を満たさないもの、比較例4として塩及び砂糖が粉砕されていないものについて、沈降分離、表面の平滑さ、油浮きの各項目のいずれかについて問題があるといえる結果が示されている。
かかる発明の詳細な説明の記載からは、塩、砂糖を粉砕することによって沈降分離が抑制でき、さらに、油脂量及び水分量を調整することにより、製造されるルウにおいて、油浮きを抑えつつ表面の平滑さを向上することができ、したがって、外観の良好なルウを提供することが可能となることが理解でき、また、好ましい粒子サイズの範囲が存在するものの、ルウ中での沈降分離が抑制できる限り特に制限されず、塩及び砂糖の粉砕の程度を制限しなくとも、当業者は本件発明1が上記課題を解決できると理解できるといえる。そして、粒子サイズが特定のものでないと本件発明1の上記課題が解決できないという技術的な根拠もない。
したがって、本件発明1は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
なお、特許異議申立人は甲4の固体成分のサイズと移行速度との関係についての記載を指摘するが、当該記載はチョコレートに関するものであり、ルウに関するものではないから、当該記載は上記判断を左右しない。
よって、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
本件発明2?6についても同様である。
したがって、理由21には理由がない。

(ウ)理由22について
発明の詳細な説明には、ルウ中の油脂量と水分量の比率を調整することで、粉砕した塩や砂糖を使用した場合であっても、油浮きを抑えつつ固化後の表面が平坦なルウを製造できることを見出したこと(【0005】)、ルウ中の油脂の含有量が、前記ルウの全質量に対して26質量%以上であり、かつ油脂量に対する水分量の質量比が約0.04?約0.13となるように油脂量及び水分量を調整することにより、製造されるルウにおいて、油浮きを抑えつつ表面の平滑さを向上することができること(【0006】)、ルウの油脂量及び水分量が、特定の範囲内であると、充填前のルウの粘度が適切な範囲に調整されるため、油浮きを抑制しつつ固化後の表面が平坦なルウを製造することができると考えられること(【0010】)が記載され、実施例1?5として、水分量と油脂量の質量比が0.043?0.125の範囲にあるものについて沈降分離がなく、表面が平滑であり、油浮きがないことが示されている一方で、比較例2及び3として、上記質量比が0.038及び0.143であるものについては沈降分離、表面の平滑さ、油浮きについて上記のような効果が奏されないことが示されている。
かかる発明の詳細な説明の記載からは、ルウ中の油脂の含有量が、前記ルウの全質量に対して26質量%以上であり、かつ油脂量に対する水分量の質量比が約0.04?約0.13となるように油脂量及び水分量を調整することにより、製造されるルウにおいて、粉砕した塩や砂糖を使用した場合であっても、油浮きを抑えつつ表面の平滑さを向上することができ、外観の良好なルウを提供することが可能となるといえる一方、油脂の含有量、油脂量に対する水分量の質量比が本件発明1の範囲外である場合には、かかる効果が奏されないことが理解できる。
そして、実施例において、本件発明1で特定される水分量と油脂量の質量比である0.04?0.13の全範囲における効果が示されていないとしても、下限及び上限の近傍であってその範囲内である0.043及び0.125において上記のとおりの効果が奏される一方で、同じく近傍であってその範囲外である0.038及び0.143においてかかる効果が奏されないことが具体的に示されていることに鑑みれば、程度の差こそあれ、本件発明1の全範囲において上記と同様の効果が奏されると当業者が理解できるといえ、したがって、本件発明1は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
してみると、本件発明1は発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
本件発明2?6についても同様である。
したがって、理由22には理由がない。

(エ)理由23について
本件発明2は「前記塩及び/又は前記砂糖を、第2の澱粉質原料と混合して粉砕する」とされているから、塩と砂糖のどちらか一方のみを第2の澱粉質原料と混合して粉砕し、他方は第2の澱粉質材料と混合せずに粉砕することを含むといえるところ、発明の詳細な説明には「ある態様では、前記塩及び/又は前記砂糖を、前記第1の澱粉質原料とは別に用意した第2の澱粉質原料と混合して粉砕する。・・・これらの態様では、前記粉砕原料の付着を抑えることができるため、前記粉砕原料を効率的に調製することが可能となる」(【0013】)との記載があることから、第2の澱粉質原料と混合して粉砕することは1つの態様であることが理解できる。
また、甲3には、食塩、砂糖等の吸湿性粉体は高速粉砕機等で粉砕した場合に、熱をもつことで相互に結着してダマになったり、次工程へ移送する配管に付着したりする問題があることが記載されているところ(摘示3a?3d)、ダマになった場合には、粒子サイズが大きくなり沈降分離等に影響するといえる。
しかし、上述のとおり、第2の澱粉質原料と混合して粉砕することは1つの態様に過ぎず、吸湿性粉体を高速粉砕機等で粉砕するとダマになる等の問題があることが知られていたとしても、本件発明2は、高速粉砕機等の熱をもつ粉砕を行うものに限られるものではなく、甲3の記載からは、たとえ塩等を単独で高速粉砕機で粉砕しても必ずダマになる等の問題が生じるとまではいえないから、塩、砂糖の一方を第2の澱粉質原料と混合せずとも、熱をもたない粉砕を行う等によって、沈降分離、表面の平滑さ、油浮きについて所期の効果を奏することができるといえ、本件発明2は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、本件発明2は発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
本件発明3?6についても同様である。
よって、理由23には理由がない。

(オ)理由24について
本件発明3は「前記粉砕工程が、前記第2の澱粉質原料と前記塩及び/又は前記砂糖とを湿熱処理する工程を含まない」ものであるから、塩と砂糖のどちらか一方のみについて、粉砕工程において湿熱処理する工程を含む場合を包含するといえる。
発明の詳細な説明には、「ある態様では、前記粉砕工程は、前記第2の澱粉質原料と前記塩及び/又は前記砂糖とを湿熱処理する工程を含まない。これらの態様では、前記粉砕原料の付着を抑えることができるため、前記粉砕原料を効率的に調製することが可能となる。」との記載があるから(【0013】)、湿熱処理する工程を含まないことは1つの態様に過ぎないといえる。
そして、かかる発明の詳細な説明の記載を参酌しても、湿熱処理と沈降分離、表面の平滑さ、油浮きとの関係は必ずしも明らかではないから、湿熱処理する工程を含むと沈降分離が抑制できず、表面が平滑とならず、油浮きを抑制できないということはできず、当業者は、本件発明3が塩と砂糖の一方について湿熱処理する工程を含む場合であっても、上記課題を解決できると認識できるといえる。
したがって、本件発明3は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
本件発明4?6についても同様である。
よって、理由24には理由がない。

(カ)理由25について
この理由は、塩及び砂糖の粒子サイズについてのものであるところ、粒子サイズについては上記(イ)において述べたのと同様に、好ましい粒子サイズの範囲が存在するものの、ルウ中での沈降分離が抑制できる限り特に制限されず、塩及び砂糖両方の粉砕の程度を制限しなくとも、当業者は本件発明6が上記課題を解決できると理解できるといえ、塩及び砂糖両方の粒子サイズが特定のものでないと本件発明6の上記課題が解決できないという技術的な根拠もない。
したがって、本件発明6は、当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
なお、発明の詳細な説明の「そして、前記塩及び/又は前記砂糖の粉砕の程度は、前記ルウの中での沈降分離が抑制できる限り特に制限されない。例えば、前記塩については、それを含む粉砕原料の約75質量%以上、好ましくは約85質量%以上が目開き300μmの篩を通過するように・・・粉砕してもよい。また、前記砂糖については、それを含む粉砕原料の約25質量%以上、好ましくは約35質量%以上が目開き300μmの篩を通過するように・・・粉砕してもよい。」との記載(【0012】)からみて、「75質量%以上」、「25質量%以上」との事項は、粉砕の一例であると解される。
したがって、本件発明6は発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
よって、理由25には理由がない。

(キ)理由26について
この理由も塩及び砂糖の粒子サイズについてのものであるところ、粒子サイズについては上記(イ)及び(カ)において述べたのと同様である。
したがって、本件発明7は発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
本件発明8についても同様である。
よって、理由26には理由がない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、理由2には理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項1?8に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-08-23 
出願番号 特願2019-182861(P2019-182861)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 澤田 浩平  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 冨永 保
齊藤 真由美
登録日 2020-10-28 
登録番号 特許第6785357号(P6785357)
権利者 ハウス食品株式会社
発明の名称 ルウの製造方法及びルウ  
代理人 須田 洋之  
代理人 市川 さつき  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 小松 邦光  
代理人 服部 博信  
代理人 山崎 一夫  
代理人 田中 伸一郎  
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