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審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2018701011 審決 特許
令和1行ケ10067 審決取消請求事件 判例 特許
令和1行ケ10160 審決取消請求事件 判例 特許
無効2018800122 審決 特許
異議2019700557 審決 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23J
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23J
管理番号 1377822
異議申立番号 異議2021-700592  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-22 
確定日 2021-09-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6804323号発明「粒状大豆蛋白素材、粒状大豆蛋白素材を含む食品組成物、並びに粒状大豆蛋白素材又は粒状大豆蛋白素材を含む食品組成物を含有する加工食品及びこの加工食品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6804323号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6804323号は平成29年2月8日に出願され、令和2年12月4日に特許権の設定登録がなされ、同年12月23日にその特許公報が発行され、その後、請求項1?5に係る特許に対して、令和3年6月22日に特許異議申立人 不二製油株式会社(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件請求項1?5に係る発明
本件請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
膨潤・加熱後の硬さが4.0?6.5kgであり、吸水率が380?500%である、粒状大豆蛋白素材であって、前記粒状大豆蛋白素材中、目開き4mmの篩を通過するものの質量割合が75質量%以上であり、かつ目開き2.8mmを通過し、目開き1.18mmを通過しないものの割合が35質量%以上である、粒状大豆蛋白素材。
【請求項2】
請求項1記載の粒状大豆蛋白素材を含む食品組成物。
【請求項3】
請求項1記載の粒状大豆蛋白素材、又は請求項2記載の食品組成物を含有する加工食品。
【請求項4】
加工食品原材料と、請求項1記載の粒状大豆蛋白素材と、又は請求項2記載の食品組成物と、を混合する、加工食品の製造方法。
【請求項5】
加工食品原材料に、請求項1記載の粒状大豆蛋白素材を、又は請求項2記載の食品組成物を添加し、前記粒状大豆蛋白素材の使用量が、肉原材料100質量部に対して、乾燥状態において、1?30質量部となる、加工食品の食感改良方法。」

第3 異議申立ての理由についての検討
1 申立人の異議申立ての理由について
申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
甲第1号証:特開2012-205518号公報
甲第2号証:特開2014-97020号公報
甲第3号証:特開2014-143969号公報
甲第4号証:特開2013-78347号公報
甲第5号証:矢田英雄他,調理科学,8(2),1975,121-126
甲第6号証:坂田哲夫,調理食品と技術,19(3),2013,125-133
甲第7号証:特開2011-139684号公報
甲第8号証:特開2008-11727号公報
甲第9号証:「大豆たん白のご案内」、フジプロテインテクノロジー
株式会社 他2社、2009年5月、11?12頁
(以下、甲第1?9号証を「甲1」?「甲9」という。)

・申立ての理由1
本件発明1?5は、甲1に記載された発明及び甲2?9に記載された事項から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1?5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由2
本件発明の詳細な説明の実施例において、
(1) 具体的にどのようにエクストルーダーの運転条件を設定したのか記載がないから、本件発明に係る粒状大豆蛋白素材を製造するために、いかなる運転条件を採用すべきかを理解することができず、
(2) 原料組成が不明であるから、本件発明に係る粒状大豆蛋白素材を製造するために、原料組成について過度の試行錯誤を強いるものであるから、
本件発明の詳細な説明は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件発明1?5に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由3
本件請求項5に記載された「食感」の意味が不明であり、本件発明5は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものである。
よって、本件発明5に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

2 申立ての理由1について
(1)甲1の記載事項
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着性材料と、ゼラチンもしくはその代替物、及び多孔質状粒状物を含み、ゼラチンもしくはその代替物が多孔質状粒状物の内部に含浸されていることを特徴とする練製品。
【請求項2】
多孔質状粒状物が組織状植物性たん白である請求項1記載の練製品。
【請求項3】
多孔質状粒状物の吸水倍率がその乾物重量に対して3重量倍以上である、請求項1記載の練製品。
【請求項4】
ゼラチンもしくはその代替物の溶液を予め多孔質状粒状物に含浸させた後、ゼラチンもしくはその代替物が含浸した多孔質状粒状物を結着性材料と混合して生地を調製する工程、及び、該生地を成型した後に加熱処理し、生地を凝固させる工程を含むことを特徴とする、練製品の製造法。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
…、本発明は製造加熱時及び冷蔵保存時のドリップの流出が少なく、且つ喫食時にジューシーで柔らかな食感を有する練製品を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題に対して鋭意検討した結果、ゼラチン若しくはゼラチン代替物の溶液を予め組織内部に含浸させた多孔質状粒状物を練製品の構成要素とし、練製品の生地中にゼラチン若しくはゼラチン代替物を局在化させることによって、製造加熱時及び冷蔵保存時にドリップの流出が少なく、且つ喫食時にジューシーで軟らかな食感を付与することを見出し、本発明を完成させるに至った。」

ウ 「【0017】
(多孔質状粒状物)
本発明の練製品は、上記ゼラチンもしくはその代替物が多孔質状粒状物の内部に含浸された状態で含まれていることが重要である。これによって多孔質状粒状物が練製品の製造加熱時に溶融するゼラチンを保持し、流出(ドリップ)による歩留まりの低下を防止することができると共に、喫食時にはゼラチンが体温により溶融してジューシーな食感を喫食者に感じさせることができる。
【0018】
本発明に使用する多孔質状粒状物は、粒状物であって粒状物の表面ないし内面が多孔質状のものであれば特に限定されないが、野菜のような天然物は含まれず、食品工業的に食品原料を多孔質状に加工した加工素材が包含される。例えば原料をエクストルーダー等の押出機を用いて加熱膨化させたようなものを使用できる。特に押出機で製造される場合は組織状植物性蛋白が好適に使用できる。その理由は植物性蛋白で製造されたものはその組織が強固であり、練り製品生地に混合した際に潰れ難く、潰れることによるゼラチン溶液の流出を防止することができるためである。
本発明に使用する多孔質状粒状物の粒度は、例えば乾燥状態で1?10mm程度のものを使用することができる。
【0019】
組織状植物性蛋白を使用する場合は市販のものを用いることができ、蛋白原料としては通常、丸大豆、脱脂大豆, 濃縮大豆蛋白, 分離大豆蛋白等の大豆蛋白素材が用いられ、その他にも落花生, 菜種, 綿実など油糧種子由来の蛋白、小麦, トウモロコシ等穀物由来の蛋白、大豆以外のエンドウ豆やヒヨコ豆等の豆類由来の蛋白等も用いられる。加熱ゲル形成性のある他の蛋白を併用したものでもよい。組織状蛋白の原料中の蛋白質含量は乾物換算で40?85%が一般的である。
【0020】
多孔質状粒状物は、その製法や種類によって吸水能力が様々であるが、吸水能力が大きいほど多くのゼラチン溶液を保持することができ、製品にジューシー感を付与することが出来るので好ましい。特に多孔質状粒状物の乾物重量に対して3重量倍以上、好ましくは4重量倍以上の吸水倍率を有するものがより好ましい。吸水能力が低すぎると、必要な添加量のゼラチン溶液をすべて吸水させるために多孔質状粒状物の添加量を増やす必要があり、その添加量が多くなりすぎると穀物臭などの多孔質状粒状物由来の臭いが増加する傾向となり、嗜好性が低下する場合がある。
そのため多孔質状粒状物の練製品中の含量は、通常は8重量%以下、好ましくは3?7重量%が適当である。
【0021】
なお多孔質状粒状物の吸水能力については以下の方法で測定することができる。
(吸水能力の測定法)
多孔質状粒状物30gを500mlビーカーにとり、450gの25℃の水を加え、10分放置後、30メッシュ(目開き500μm)の篩いを用い、1分間ざるで水切りした後の多孔質状粒状物の重量(W)を測定し、吸水倍率(X)を下記数式により算出した。
(式)X=(W-30)/30
【0022】
多孔質状粒状物にゼラチンもしくはその代替物の溶液を含浸させる方法は特に限定されない。例えば加熱溶解させたゼラチン溶液を多孔質状粒状物に吸水させ、冷蔵庫などで10℃以下に冷却し、ゼラチンを多孔質状粒状物に固定することで得られる。ゼラチンもしくはその代替物は低温でゲル化するため、冷却により多孔質状粒状物に取り込まれた状態でゲル化状態となる。
練製品中に分散している多孔質状粒状物の内部にゼラチンもしくはその代替物が含浸されているかどうかは、製品から多孔質状粒状物を収集し、ゼラチンもしくはその代替物を検出できるかどうかで確認することができるが、多孔質状粒状物の乾物あたりのゼラチンもしくはその代替物の含有量は66重量%以上が好ましい。
【0023】
ゼラチンもしくはその代替物が含浸した多孔質状粒状物は、その多孔質状の組織を残した状態で生地中に分散させることが重要であるため、生地の製造工程の後期に添加することが好ましい。具体的には、魚肉すり身や粉末状大豆蛋白等の結着性材料と水、その他の副原料を混合して中間生地を調製した後に、該多孔質状粒状物を混合し、最終的な練製品生地に仕上げることがより好ましい。
またゼラチンもしくはその代替物が含浸した多孔質状粒状物を生地に混合する際には、せん断力の少ない混練機の使用もしくは混練機の回転数を低くして混合(例えばカッターの場合刃の回転数が700rpm以下で混合)することが好ましい。」

エ 「【実施例】
【0026】
以下、実施例等により本発明の実施形態をより具体的に記載する。
【0027】
<実施例1> 水産練製品(蒲鉾)
粉末ゼラチン10部と水40部を混合し60℃で加熱溶解したゼラチン溶液を多孔質状粒状物である組織状大豆蛋白「アペックス650」(不二製油(株) 吸水能力5?6重量倍)10部に吸水させ、5℃の冷蔵庫で2時間冷却し、ゼラチン含浸組織状大豆たん白を60部得た。このときの組織状大豆蛋白中のゼラチン含量は100重量%である。
このゼラチン含浸組織状大豆たん白を下記処方、製法で調製した魚肉すりみ生地(中間生地)200部に混合して得た蒲鉾生地(最終生地)を1個50gの小判状に成型し、成型生地を160℃の油中で2.5分加熱し、水産練製品である蒲鉾を得た(蒲鉾の脂質含量:約3%)。
【0028】
(魚肉すり身生地)
スケソウ二級すり身100部に、分離大豆蛋白「ニューフジプロSE」(不二製油(株)製):水:植物油脂が重量比で1:5:0.5の乳化組成物70部を加えてカッターで約4分間練り、これに食塩3部を加えて4?5分塩摺りし、さらに砂糖5部、MSG0.7部、タピオカ澱粉12部、延ばし水50部を加えて魚肉すり身生地を調製した。
【0029】
上記により得られた蒲鉾の加熱前及び加熱冷却後の重量、また冷蔵保存5日後の重量を測定し、歩留りを算出した。また、得られた蒲鉾を室温及び電子レンジで温め(75℃)、官能評価に供した。官能評価に関しては、嗜好パネラー10名により、テクスチャー(軟らかさ)、ジューシー感(室温、レンジ加熱後)、及び風味を評価対象として、10点満点の評点法で絶対評価をしてもらい、その平均点を算出して考察した。
なお、軟らかさについては個々のパネラーが自身の経験に基づいて最も軟らかいと考えるものを10点とし、最も硬いと考えるものを1点とした。ジューシー感については最もジューシーと考えるものを10点とし、ジューシーさが感じられないと考えるものを1点とした。風味については最も大豆臭が少ないと考えるものを10点とし、最も大豆臭が感じられると考えるものを1点とした。
【0030】
<参考例1> ゼラチン及び組織状大豆蛋白なし(コントロール品)
ゼラチン及び組織状大豆蛋白を添加せずに蒲鉾生地を調製した。生地作成後は、実施例1と同様に行った。
【0031】
<比較例1> ゼラチン粒状物の添加
粉末ゼラチン10部と水40部を混合し60℃で加熱溶解したゼラチン液を、5℃の冷蔵庫で冷却しゼラチンカードを調製した。そのゼラチンカードを3mm目でチョッパー挽きして得たゼラチン粒状物50部を実施例1の魚肉すりみ生地200部に粒が潰れないように混合し、蒲鉾生地を得た。その後は実施例1と同様に成型、加熱し、蒲鉾様食品を得た。
【0032】
<比較例2> ゼラチン粒状物及び組織状大豆蛋白の添加
比較例1で得たゼラチン粒状物50部と組織状大豆蛋白「アペックス650」10部を実施例1の魚肉すり身生地200部に粒が潰れないように混合し、蒲鉾生地を得た。その後は実施例1と同様に成型、加熱し、蒲鉾様食品を得た。
【0033】
<比較例3> ゼラチンカードの均一混合
比較例1で得たゼラチンカード50部を実施例1の魚肉すりみ生地200部にカッターで均一混合し、蒲鉾生地を得た。その後は実施例1と同様に成型、加熱し、蒲鉾様食品を得た。
【0034】
(表1)

【0035】
表1から明らかなように、本発明の方法によるゼラチン溶液含浸組織状大豆たん白を利用した蒲鉾(実施例1)は、歩留りが加熱冷却後、冷蔵5日後とも高く維持されており、かつ官能評価において軟らかさ、ジューシー感に優れた結果を示した。
一方、ゼラチン粒状物添加区(比較例1及び2)は加熱時と、特に冷蔵保存時に離水によってゼラチンが流出して歩留りが低下した。またゼラチンの流出によりジューシー感もやや低下した。
またゼラチンカードの均一混合区(比較例3)は歩留まりの低下はなかったものの、ゼラチンが生地に均一に分散してしまうためか、ジューシー感が得られなかった。
【0036】
<実施例2> イオタカラギーナン溶液含浸組織状蛋白の添加
ゼラチン代替物であるイオタカラギーナン1部と水49部を混合し、80℃で加熱溶解した溶液を組織状大豆蛋白「アペックス650」10部に吸水させ、5℃の冷蔵庫で2時間冷却し、イオタカラギーナン溶液含浸組織状大豆蛋白50部を得た。
その後、このカラギーナン含浸組織状大豆たん白を実施例1と同様に魚肉すり身生地200部に混合して蒲鉾生地を得、これを成型、加熱して蒲鉾様食品を得た。
【0037】
<比較例4> 寒天溶液含浸組織状蛋白の添加
粉末寒天0.5部と水49.5部を混合し98℃で加熱溶解した溶液を組織状大豆蛋白「アペックス650」10部に吸水させ、5℃の冷蔵庫で2時間冷却し、寒天溶液含浸組織状大豆蛋白を得た。その後、この寒天含浸組織状大豆たん白を実施例1と同様に魚肉すり身生地に混合して蒲鉾生地を得、これを成型、加熱して蒲鉾様食品を得た。
【0038】
(表2)

【0039】
表2から、イオタカラギーナン溶液含浸組織状大豆たん白添加区(実施例2)はレンジ加熱時においてイオタカラギーナンが練製品内に溶け出して実施例1のゼラチンと同等のジューシー感が得られた。なお、室温で直接食した場合は実施例1のゼラチンほどのジューシー感は得られなかった。
一方、寒天溶液含浸組織状大豆たん白添加区(比較例4)は寒天の融点が高いためか、室温及びレンジ加熱時の何れにおいてもジューシー感が得られなかった。
それに対して、ゼラチン溶液含浸組織状大豆たん白添加区(実施例1)は、室温時及びレンジ加熱後の両条件においてジューシー感を呈しかつ軟らかい食感であり、好ましい品質であった。
【0040】
<実施例3> 吸水倍率の異なる組織状蛋白の使用(1)
粉末ゼラチン12.5部と水62.5部を混合し60℃で加熱溶解したゼラチン溶液75部を実施例1と同じ組織状大豆蛋白「アペックス650」(吸水倍率5重量倍)17部に吸水させ、5℃の冷蔵庫で2時間冷却し、ゼラチン溶液含浸組織状大豆蛋白92部を得た。このときの組織状大豆蛋白中のゼラチン含量は約73.5重量%である。その後、このゼラチン含浸組織状大豆たん白75部を実施例1と同様に魚肉すり身生地に混合して蒲鉾生地を得、これを成型、加熱して蒲鉾様食品を得た。
【0041】
<実施例4> 吸水倍率の異なる組織状蛋白の使用(2)
実施例3で得たゼラチン溶液75部を組織状大豆蛋白「ニューフジニック51」(不二製油(株)、吸水倍率4重量倍)18.8部に吸水させ、5℃の冷蔵庫で2時間冷却し、ゼラチン溶液含浸組織状大豆蛋白93.8部を得た。このときの組織状大豆蛋白中のゼラチン含量は約66.5重量%である。その後、このゼラチン含浸組織状大豆たん白を実施例1と同様に魚肉すり身生地に混合して蒲鉾生地を得、これを成型、加熱して蒲鉾様食品を得た。
【0042】
<実施例5> 吸水倍率の異なる組織状蛋白の使用(3)
実施例3で得たゼラチン溶液75部を組織状大豆蛋白「ベジテックス2000」(不二製油(株)、吸水倍率3重量倍)21.4部に吸水させ、5℃の冷蔵庫で2時間冷却し、ゼラチン溶液含浸組織状大豆蛋白96.4部を得た。このときの組織状大豆蛋白中のゼラチン含量は約58.4重量%である。その後、このゼラチン含浸組織状大豆たん白を実施例1と同様に魚肉すり身生地に混合して蒲鉾生地を得、これを成型、加熱して蒲鉾様食品を得た。
【0043】
(表3)

【0044】
表3から製品中に同量(約30%)のゼラチン溶液を添加する際、吸水倍率が3倍の吸水能力しかない組織状大豆蛋白を使用すると(実施例5)、組織状大豆蛋白の添加量が製品中8%を越え、大豆臭が強くなり風味が低下する傾向にあった。それに対し吸水倍率が4倍(実施例3)及び5倍(実施例2)の吸水能力を有する組織状大豆蛋白を使用したものは、風味面での問題が無く、好ましい品質であった。
【0045】
<実施例6> 畜肉練製品(ハンバーグ)
魚肉練製品の代わりに畜肉練製品でもゼラチンを含浸させた組織状大豆蛋白の添加が同様の効果を示すかどうかを調べた。
実施例1と同様にしてゼラチン含浸組織状大豆蛋白60部を得た。このゼラチン含浸組織状大豆たん白を下記処方、製法で調製した畜肉ハンバーグ生地200部に混合して得た生地を1個100gの小判状に成型し、200℃で蒸し加熱し、畜肉練製品であるハンバーグを得た。
【0046】
(畜肉ハンバーグ生地)
牛肉ミンチ(脂肪10%含有)60部と豚肉ミンチ(脂肪20%含有)60部に、分離大豆蛋白「ニューフジプロSE」(不二製油(株)製)4部、水16部を加えてミキサーで約2分間混合し、これに調味料、香辛料を併せて6部加え、さらに玉ねぎ40部、パン粉10部、馬鈴薯澱粉4部を混合して畜肉ハンバーグ生地を調製した。
【0047】
<参考例2> ゼラチン及び組織状大豆蛋白なし(コントロール品)
ゼラチン及び組織状大豆蛋白を添加せずに畜肉ハンバーグ生地を調製した。上記ハンバーグ生地に豚脂を上乗せ5部添加し、実施例6と同様に成型、加熱を行った。
【0048】
(表4)

【0049】
表4から、実施例6は参考例2に比べ脂質含量が低いにもかかわらず、室温及びレンジ加熱において同等以上のジューシー感を有していた。また、食感も軟らかく、好ましい品質であった。」

(2)甲2の記載事項
ア 「【0021】
(実施例1)
膨化植物性蛋白素材として不二製油(株)製の粒状大豆蛋白「ニューフジニック51」(10M(目開き1.70mm)?6M(3.35mm)の粒状大豆蛋白を67.9%含有。) 78.7gと、三菱商事フードテック(株)製の糖アルコール「アマルティシロップ」(含水率=25重量%)20.3g、小川香料(株)製の「ココナッツオイル GL56477」1gを、ケンウッドミキサーで混合した。」

(3)甲1及び甲2に記載された発明
甲1の実施例の記載からみて、甲1には以下の発明が記載されている。
なお、実施例4及び5の記載からは、各実施例に記載された「組織状大豆蛋白」が多孔質状粒状物か否か明らかでないが、甲1の請求項1及び2の「結着性材料と、ゼラチンもしくはその代替物、及び多孔質状粒状物を含み」「多孔質状粒状物が組織状植物性たん白である」との規定から、実施例で使用される「組織状大豆蛋白」は「多孔質状粒状物」に該当するものと解した。
・実施例4から
「多孔質状粒状物である組織状大豆蛋白「ニューフジニック51」(不二製油(株)、吸水倍率4重量倍)」(以下、「甲1a発明」という。)
・実施例1?3、6から
「多孔質状粒状物である組織状大豆蛋白「アペックス650」(不二製油(株) 吸水能力5?6重量倍)」(以下、「甲1b発明」という。)
・実施例5から
「多孔質状粒状物である組織状大豆蛋白「ベジテックス2000」(不二製油(株)、吸水倍率3重量倍)」(以下、「甲1c発明」という。)

甲2の実施例1の記載からみて、甲2には以下の発明が記載されている。
「不二製油(株)製の粒状大豆蛋白「ニューフジニック51」(10M(目開き1.70mm)?6M(3.35mm)の粒状大豆蛋白」(以下、「甲2発明」という。)

(4)本件発明1
ア 本件発明1と甲各発明の対比
甲1a?1cの各発明の「多孔質状粒状物である組織状大豆蛋白」や甲2発明の「粒状大豆蛋白」は、本件発明1でいう「粒状大豆蛋白素材」に相当するものと認められる。
そうすると、本件発明1と甲1a?1c及び2の各発明とは、「粒状大豆蛋白素材」という点で一致し、以下の点で相違する。

相違点:
本件発明1は、粒状大豆蛋白素材が
「膨潤・加熱後の硬さが4.0?6.5kg」、
「吸水率が380?500%」、
「粒状大豆蛋白素材中、目開き4mmの篩を通過するものの質量割合が75質量%以上であり、かつ目開き2.8mmを通過し、目開き1.18mmを通過しないものの割合が35質量%以上」であるのに対し、
甲2発明は、粒状大豆蛋白が
粒径が「10M(目開き1.70mm)?6M(3.35mm)」であり、
「膨潤・加熱後の硬さ」や「吸水率」は明らかでない点で、
甲1a?1cの各発明は、多孔質状粒状物である組織状大豆蛋白が
各篩を通過するものあるいはしないものの割合、及び「膨潤・加熱後の硬さ」や「吸水率」が明らかでない点で、それぞれ相違する。

イ 判断
上記相違点について検討する。
甲1及び甲2のいずれにおいても、甲1a?1cあるいは甲2のいずれかの発明を「膨潤・加熱後の硬さが4.0?6.5kg」並びに「吸水率が380?500%」に調整すること、各篩を通過するものあるいはしないものの割合を「粒状大豆蛋白素材中、目開き4mmの篩を通過するものの質量割合が75質量%以上であり、かつ目開き2.8mmを通過し、目開き1.18mmを通過しないものの割合が35質量%以上」に調整することについて、何ら記載ないし示唆はない。また、これらの調整を単なる設計変更とする根拠も見出せない。その余の甲各号証を参照しても同様である。
なお、申立人は、甲1の実施例4の「ニューフジニック51」が甲2の実施例1のものと同じである前提で、甲1に係る「組織状大豆蛋白」について「10M(目開き1.70mm)?6M(3.35mm)」との粒径が記載されている発明が認定できるとしている(例えば、申立書18頁24行?19頁9行)が、両者が全く同じものであるかは不明である。
そして、仮に同じであるとしても、上記判断に影響はない。
よって、本件発明1は、甲1a?1cあるいは甲2のいずれかの発明及び甲各号証に記載された事項から容易に発明することができたものとはいえず、甲1あるいは甲2に記載された発明及び甲1?9号証に記載された事項から容易に発明することができたものとはいえない。

(5)本件発明2?5
本件発明2?5は、本件発明1を引用する食品組成物、加工食品、加工食品の製造方法、加工食品の食感改良方法に係るものである。したがって、本件発明1が甲1あるいは甲2に記載された発明及び甲1?9号証に記載された事項から容易に発明することができたものとはいえないことに鑑みると、本件発明2?5も甲1あるいは甲2に記載された発明及び甲1?9号証に記載された事項から容易に発明することができたものとはいえない。

(6)まとめ
よって、甲1あるいは甲2に基づく申立ての理由1には、理由がない。

3 申立ての理由2について
(1)エクストルーダーの運転条件について
ア 申立人の主張
申立人は、申立書31頁8行?32頁4行において、以下のとおり主張する。
「硬さと吸水性の程度が特定され、かつ、膨化度が粒状大豆蛋白素材として妥当な範囲である粒状大豆蛋白素材が実施可能であるというためには、少なくとも、原料への添加水量、スクリューの回転速度、バレルの加熱温度を特定した製造条件の開示が必要である。
ところが、本件特許明細書の実施例では、原料への添加水量は30?40%、スクリューの回転速度は約200?900rpm、バレルの加熱温度は140?180℃といずれも広い範囲で示されている。また、加熱時の加圧も3?4MPa、加熱時間も30?90秒と、やはり広い範囲で示されている(本件特許明細書の段落[0042])。これらの条件の組み合わせは、仮に、回転数の選択肢が8通り、温度の選択肢が5通り、圧力の選択肢が2通り、加熱時間の選択肢が7通りと低めに見積もっても、560通りとなる。しかし、個別の実施例において、具体的にどのように運転条件を設定したのかの記載はない。
そのため、当業者は、本件特許発明1の粒状大豆蛋白素材を製造するために、いかなるエクストルーダーの運転条件を採用すべきかを理解することができない。」

イ 検討
本件発明は、上記主張で取り上げた本件実施例(【0042】)の「原料への添加水量は30?40%、スクリューの回転速度は約200?900rpm、バレルの加熱温度は140?180℃」、「加熱時の加圧も3?4MPa、加熱時間も30?90秒」という範囲で、実施例のように粒状大豆蛋白素材を得ているのであるから、当業者が適宜観察しながら調整しうることが理解できる。
よって、本件発明は実施可能であり、上記主張には理由がない。

(2)原料組成について
ア 申立人の主張
申立人は、申立書32頁5?20行において、以下のとおり主張する。
「本件特許明細書の実施例では、脱脂大豆粉を用いたとの記載しかなく、分離大豆蛋白や澱粉等の他の原料を用いたのか、用いたとすれば、どの程度の量を用いたのか不明である。
そのため、本件特許発明1の粒状大豆蛋白素材を製造するためには、エクストルーダーの運転条件を検討するだけでなく、原料組成についても検討しなければならず、当業者に過度の試行錯誤を強いるものである。」

イ 検討
申立人が指摘するとおり、本件明細書【0017】には、粒状大豆蛋白素材の原料として、脱脂大豆以外の蛋白、澱粉、油脂などを加えることが許容されているところ、本件実施例においては、脱脂大豆のみが用いられている。
そして、「膨潤・加熱後の硬さが4.0?6.5kg」、「吸水率が380?500%」、「粒状大豆蛋白素材中、目開き4mmの篩を通過するものの質量割合が75質量%以上であり、かつ目開き2.8mmを通過し、目開き1.18mmを通過しないものの割合が35質量%以上」との条件を満たすことで実施できることが本件明細書の実施例に記載されており、他の成分を含ませるとしても、その際にこれらの条件を満たすことによって実施すればよいことが理解できる。
よって、本件発明は実施可能であり、上記主張には理由がない。

(3)まとめ
したがって、申立ての理由2には理由がない。

4 申立ての理由3について
(1)食感改良について
ア 申立人の主張
申立人は、申立書32頁21行?33頁6行において、以下のとおり主張する。
「『食感』という用語は、非常に漠としたものである。一般的に、粒状大豆蛋白素材は、加工食品に対して、ジューシーさ、肉粒感、繊維性、クリスピー感等の食感を用途に応じて付与することが知られているが…、構成Lの『食感』が、これらの内、いかなる加工食品に対して付与するいかなる食感を意味するのか不明である。」

イ 検討
請求項5の記載から、食感を改良する加工食品は、粒状大豆蛋白素材と肉原材料を含むものであるから、肉特有の食感であることは明らかである。
そして、肉特有の食感についても、本件明細書【0006】には「本発明において、「肉特有の食感に近い食感」とは、「肉の繊維のような適度な歯応えのある食感」をいう。」とある。
また、実施例(【0037】?【0038】)には
「(A)食感:肉の繊維・粒感
5:肉の繊維・粒感の歯ごたえがしっかりとある。
4:肉の繊維・粒感の歯ごたえがある。
3:肉の繊維・粒感の歯ごたえが少しある。
2:肉の繊維・粒感の歯ごたえがほぼない。
1:肉の繊維・粒感の歯ごたえがなく、悪い。」
「(B)食感:肉とのなじみ
5:大豆蛋白素材の歯ごたえが強すぎず、肉と大豆蛋白素材とのなじみがよく、食感に違和感がない。
4:大豆蛋白素材の歯ごたえが強すぎず、肉と大豆蛋白素材とのなじみがよく、食感にほぼ違和感がない。
3:大豆蛋白素材の歯ごたえが少し強いが、肉と大豆蛋白素材とのなじみがよく、やや違和感はあるが、許容できる範囲である。
2:大豆蛋白素材の歯ごたえが強く、肉と大豆とのなじみがあまりよくなく、違和感がある。
1:大豆蛋白素材の歯ごたえが強すぎて、肉と大豆とのなじみが悪く、違和感が強い。」
との測定基準が示されており、本件実施例では、この基準を用いて本件発明の課題が解決されることを確認している。
したがって、本件発明5における「食感」は明確であるといえる。

(2)まとめ
よって、申立ての理由3には理由がない。

5 まとめ
以上のことから、申立人が主張する申立ての理由にはいずれも理由がなく、これらの申立の理由によっては本件発明に係る特許を取り消すことはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由によっては、本件請求項1?5に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-08-27 
出願番号 特願2017-21694(P2017-21694)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23J)
P 1 651・ 536- Y (A23J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村松 宏紀  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 関 美祝
大熊 幸治
登録日 2020-12-04 
登録番号 特許第6804323号(P6804323)
権利者 昭和産業株式会社
発明の名称 粒状大豆蛋白素材、粒状大豆蛋白素材を含む食品組成物、並びに粒状大豆蛋白素材又は粒状大豆蛋白素材を含む食品組成物を含有する加工食品及びこの加工食品の製造方法  
代理人 渡邊 薫  
代理人 伏見 俊介  
代理人 及川 周  
代理人 内田 洋平  
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