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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1377829
異議申立番号 異議2021-700522  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-05-28 
確定日 2021-09-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6796107号発明「セルロース含有樹脂組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6796107号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6796107号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成30年5月16日の出願であって、令和2年11月17日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年12月2日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和3年5月28日に特許異議申立人 野中 恵(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし8)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
(A)第一の脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01?100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程、
をこの順に含み、
第二の工程において、(C)カーボンブラックが、第二の脂肪族ポリアミドを含む樹脂と、該樹脂中に含まれた(C)カーボンブラックとのマスターバッチの形態で添加され、
第二の工程を、押出機による溶融混練で行う、樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
第一の脂肪族ポリアミドと第二の脂肪族ポリアミドとが同一の脂肪族ポリアミドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶融混合物がペレット形状である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第一の工程において、(A)脂肪族ポリアミドの原料であるモノマーと、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分の水分散液とを混合し、前記モノマーの重合反応を行うことによって前記溶融混合物を得る、請求項1?3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(A)第一の脂肪族ポリアミドが、ポリアミド6、ポリアミド66及びこれらの混合物からなる群より選ばれる、請求項1?4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(A)第一の脂肪族ポリアミドの末端アミノ基数が末端カルボキシ基数よりも大きい、請求項1?5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
(A)第一の脂肪族ポリアミドの末端アミノ基数が全末端基数の50%超である、請求項1?6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
(C)カーボンブラックのDBP吸油量が、50cm^(3)/100g以上、100cm^(3)/100g以下である、請求項1?7のいずれか一項に記載の方法。」

第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和3年5月28日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第6号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 証拠方法
甲第1号証:令和2年7月9日付け拒絶査定の謄本
甲第2号証:令和2年1月20日付け拒絶理由通知書
甲第3号証:特開2008-285649号公報
甲第4号証:特開2011-57977号公報
甲第5号証:特開2010-59366号公報
甲第6号証:特開2015-51631号公報
甲第7号証:令和2年4月3日提出の意見書
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

第4 当審の判断
特許異議申立人は、申立理由1の根拠として、甲1を提出するが、甲1はそもそも、例えば本件特許の出願前に頒布された刊行物でも電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものでもないので、甲1からは特許法第29条第1項各号に規定する発明を認定することはできない。そうすると、甲1に基づく申立理由1は理由がないことは明らかである。
なお、特許異議申立人は、本件特許発明1ないし8が甲1に示された特開2017-31246号公報(以下、「引用文献1」という。)から進歩性がないことを主張するとも解されることから、この点、以下職権で審理する。

1 主な証拠に記載された事項等
(1)引用文献1に記載された事項等
ア 引用文献1に記載された事項
当審において職権で調査した文献である引用文献1には、「発泡成形体」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。

・「【0058】
1.原料
本発明の実施例と比較例で用いた原料は以下のとおりである。
(1)セルロース繊維
(1.1)セリッシュKY100G
ダイセルファインケム社製、平均繊維径が125nmのセルロース繊維が10質量%含有されたもの」

・「【0072】
実施例1
セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY100Gを使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製した。
このセルロース繊維の水分散液70質量部と、ε-カプロラクタム100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合した。続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応をおこない、ポリアミド樹脂とセルロース繊維とを含有する樹脂組成物Aを得た。樹脂組成物Aを重合が終了した時点で払い出し、切断して、ペレットとし、95℃の熱水で精練をおこない、乾燥させた。
乾燥した樹脂組成物Aのペレットと、ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.3質量部であるカーボンブラックおよび0.4質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物とをドライブレンドして混合物を得た。
得られた混合物を、シャットオフノズルを搭載した射出成形機(JSW社製J35ELIII-F)に投入し、シリンダー途中から超臨界状態の窒素を混入させながら、コアバック射出成形をおこない、コア層とスキン層とから構成された鏡面加工発泡成形体を得た。シリンダー温度は250℃とした。また、金型は鏡面加工仕上げしたものを用いて、金型温度は60℃、試験片の流動末端までの充填時間は1.5秒、保圧条件は40MPa×1.0秒間とした。また、コアバック成形は、保圧した直後に、4.2mm/秒で設定発泡倍率2.5倍になるように射出成形機のダイプレートを後退させておこなった。」

・「【0079】
【表1】

【0080】
実施例1?6の発泡成形体は、上記のように、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維が分散した樹脂組成物を、超臨界状態のガスを混入しながら射出成形をおこなって製造したため、発泡セルの平均セル径が10?300μmとなり、最大セル径と平均セル径の差が450μm以下であった。」

イ 引用文献1発明
引用文献1に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されていると認める。

「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY100G(ダイセルファインケム社製、平均繊維径が125nmのセルロース繊維が10質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製し、このセルロース繊維の水分散液70質量部と、ε-カプロラクタム100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応をおこない、ポリアミド樹脂と該ポリアミド樹脂100質量部に対して2.0質量部の平均繊維径が39nmのセルロース繊維とを含有する樹脂組成物Aを得、樹脂組成物Aを重合が終了した時点で払い出し、切断して、ペレットとし、95℃の熱水で精練をおこない、乾燥させ、
乾燥した樹脂組成物Aのペレットと、ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.3質量部であるカーボンブラックおよび0.4質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物とをドライブレンドして混合物を得る方法。」

(2)甲6に記載された事項等
ア 甲6に記載された事項
甲6には、「射出成形体およびその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。

・「【0054】
実施例1
セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が150nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製した。
このセルロース繊維の水分散液40質量部と、ε-カプロラクタム120質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合した。続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応を行った。重合が終了した時点で払い出し、切断して、ポリアミド樹脂とセルロース繊維とを含有するペレットを得た。得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させた。
得られたペレットと、ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.15質量部であるカーボンブラックおよび0.35質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物(合計0.5質量部)をドライブレンドして樹脂組成物を製造した。なお、このとき、ポリアミド樹脂と黒色色素混合物を溶融混練により予めマスターチップ化したものを使用した。
射出成形機(FANUC社製S-2000i)に樹脂組成物を投入し、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で、粒度が1000メッシュの研磨材により表面が研磨され、鏡面加工仕上げされた金型を使用して、射出成形を行い、成形体を得た。得られた射出成形体を用いて、L*値、鏡面光沢値、鉛筆硬度を測定した。また鉛筆硬度を測定した後の成形体表面(硬度Bの鉛筆で試験後の任意の1点を、日立ハイテクノロジーズ社製SU8020電界放射型走査電子顕微鏡を用いて撮影したもの)を図3に示す。」

・「【0073】
実施例1?11、比較例1?7で得られた射出成形体の特性値を測定した結果を表1に示す。
【0074】
【表1】


【0075】
実施例1?11で得られた成形体は、ポリアミド樹脂中に微細なセルロース繊維が凝集することなく均一に分散された組成物を用いたものであるため、平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維が含有され、本発明で規定する特性値を満足するものであった。」

イ 甲6発明
甲6に記載された事項を、特に実施例1に関して整理すると、甲6には次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認める。

「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が150nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製し、このセルロース繊維の水分散液40質量部と、ε-カプロラクタム120質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応を行い、重合が終了した時点で払い出し、切断して、ポリアミド樹脂と該ポリアミド樹脂100質量部に対して1質量部の平均繊維径が67nmのセルロース繊維とを含有するペレットを得、得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させ、得られたペレットと、ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.15質量部であるカーボンブラックおよび0.35質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物(合計0.5質量部)をドライブレンドして樹脂組成物を製造し、このとき、ポリアミド樹脂と黒色色素混合物を溶融混練により予めマスターチップ化したものを使用する方法。」

2 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
上述したとおり、甲1に基づく申立理由1は理由がない。
なお、以下、本件特許発明1ないし8が甲1に示された引用文献1から進歩性を有しないという理由についても職権で審理する。

(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用文献1発明を対比する。
引用文献1発明における「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY100G(ダイセルファインケム社製、平均繊維径が125nmのセルロース繊維が10質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製し、このセルロース繊維の水分散液70質量部と、ε-カプロラクタム100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応をおこない、ポリアミド樹脂と該ポリアミド樹脂100質量部に対して2.0質量部の平均繊維径が39nmのセルロース繊維とを含有する樹脂組成物Aを得、樹脂組成物Aを重合が終了した時点で払い出し、切断して、ペレットとし、95℃の熱水で精練をおこない、乾燥させ、乾燥した樹脂組成物Aのペレット」を構成する「ポリアミド樹脂」及び「平均繊維径が39nmのセルロース繊維」は、それぞれ本件特許発明1における「第一の脂肪族ポリアミド樹脂」及び「平均径が0.5μm以下のセルロース成分」に相当する。
引用文献1発明における「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY100G(ダイセルファインケム社製、平均繊維径が125nmのセルロース繊維が10質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製し、このセルロース繊維の水分散液70質量部と、ε-カプロラクタム100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応をおこない、ポリアミド樹脂と該ポリアミド樹脂100質量部に対して2.0質量部の平均繊維径が39nmのセルロース繊維とを含有する樹脂組成物Aを得、樹脂組成物Aを重合が終了した時点で払い出し、切断して、ペレットとし、95℃の熱水で精練をおこない、乾燥させ、乾燥した樹脂組成物Aのペレット」を得る工程は、本件特許発明1における「(A)第一の脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01?100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程」に相当する。
引用文献1発明における「混合物」は本件特許発明1における「樹脂組成物」に相当する。
引用文献1発明における「乾燥した樹脂組成物Aのペレット」と「ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.3質量部であるカーボンブラックおよび0.4質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物」とを「ドライブレンドして混合物を得る」工程は本件特許発明1における「前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程」であって「(C)カーボンブラックが、第二の脂肪族ポリアミドを含む樹脂と、該樹脂中に含まれた(C)カーボンブラックとのマスターバッチの形態で添加され」、「押出機による溶融混練」で行われる工程と、「前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを混合する第二の工程」という限りにおいて一致する。
引用文献1発明における「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY100G(ダイセルファインケム社製、平均繊維径が125nmのセルロース繊維が10質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製し、このセルロース繊維の水分散液70質量部と、ε-カプロラクタム100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応をおこない、ポリアミド樹脂と該ポリアミド樹脂100質量部に対して2.0質量部の平均繊維径が39nmのセルロース繊維とを含有する樹脂組成物Aを得、樹脂組成物Aを重合が終了した時点で払い出し、切断して、ペレットとし、95℃の熱水で精練をおこない、乾燥させ、乾燥した樹脂組成物Aのペレット」を得る工程及び「乾燥した樹脂組成物Aのペレット」と「ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.3質量部であるカーボンブラックおよび0.4質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物」とを「ドライブレンドして混合物を得る」工程は、引用文献1発明において、この順で行われることは明らかである。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(A)第一の脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01?100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを混合する第二の工程、
をこの順に含む、樹脂組成物の製造方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
「前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを混合する第二の工程」に関して、本件特許発明1においては「前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程」であって「(C)カーボンブラックが、第二の脂肪族ポリアミドを含む樹脂と、該樹脂中に含まれた(C)カーボンブラックとのマスターバッチの形態で添加され」、「押出機による溶融混練」で行われる工程と特定されているのに対し、引用文献1発明においては「乾燥した樹脂組成物Aのペレット」と「ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.3質量部であるカーボンブラックおよび0.4質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物」とを「ドライブレンドして混合物を得る」工程と特定されている点。

イ 判断
そこで、検討する。
本件特許発明1は、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有することにより、「セルロース成分を含み、かつカーボンブラックで着色された樹脂組成物であって、当該樹脂組成物で構成される成形体に充分な機械的特性を与えつつ、実成形を問題なく行うのに充分な流動性及び熱安定性を有し、臭気が少なく、さらには、成形体に対して実用に耐えうる充分な物性安定性(特に耐候性)を与える樹脂組成物を提供する」(本件特許の発明の詳細な説明の【0012】)及び「(C)カーボンブラックを第二の工程で添加することは、耐候性、及び熱安定性(低線膨張係数)の点で有利である。また、上記のように、カーボンブラックの表面官能基とセルロース成分との接触を防止することが有利であるという理由から、(C)カーボンブラックを予め樹脂と溶融混練してマスターバッチの形態とし、当該マスターバッチを第二の工程で溶融混合物に添加して更に溶融混練する場合には、更に圧倒的に優れた特性を示すようになる。」(同【0051】)という効果を奏するものであるが、該効果、特に「臭気が少なく」という特性を「圧倒的に優れた」ものにするという効果は引用文献1発明が奏するものではないし、引用文献1及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測可能なものでもない。
したがって、本件特許発明1は、引用文献1発明並びに引用文献1及び他の証拠に記載された事項からみて当業者が予測できない格別顕著な効果を奏するものである。
そうすると、カーボンブラックをマスターバッチの形態で添加することや、添加剤を押出機による溶融混練により配合することが周知技術であったとしても、引用文献1発明において、引用文献1及び他の証拠に記載された事項を適用して、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

ウ まとめ
したがって、本件特許発明1は、引用文献1発明並びに引用文献1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明2ないし8について
本件特許発明2ないし8は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、引用文献1発明並びに引用文献1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 申立理由2(甲6を主引用文献とする進歩性)について
(1)対比
本件特許発明1と甲6発明を対比する。
甲6発明における「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が150nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製し、このセルロース繊維の水分散液40質量部と、ε-カプロラクタム120質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応を行い、重合が終了した時点で払い出し、切断して、ポリアミド樹脂と該ポリアミド樹脂100質量部に対して1質量部の平均繊維径が67nmのセルロース繊維とを含有するペレットを得、得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させ、得られたペレット」を構成する「ポリアミド樹脂」及び「平均繊維径が67nmのセルロース繊維」は、それぞれ本件特許発明1における「第一の脂肪族ポリアミド樹脂」及び「平均径が0.5μm以下のセルロース成分」に相当する。
甲6発明における「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が150nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製し、このセルロース繊維の水分散液40質量部と、ε-カプロラクタム120質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応を行い、重合が終了した時点で払い出し、切断して、ポリアミド樹脂と該ポリアミド樹脂100質量部に対して1質量部の平均繊維径が67nmのセルロース繊維とを含有するペレットを得、得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させ、得られたペレット」を得る工程は、本件特許発明1における「(A)第一の脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01?100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程」に相当する。
甲6発明における「乾燥させ、得られたペレット」と「ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.15質量部であるカーボンブラックおよび0.35質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物(合計0.5質量部)」を「ドライブレンドして樹脂組成物を製造し、なお、このとき、ポリアミド樹脂と黒色色素混合物を溶融混練により予めマスターチップ化したものを使用する」工程は本件特許発明1における「前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程」であって「(C)カーボンブラックが、第二の脂肪族ポリアミドを含む樹脂と、該樹脂中に含まれた(C)カーボンブラックとのマスターバッチの形態で添加され」、「押出機による溶融混練」で行われる工程と、「前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを混合する第二の工程」であって「(C)カーボンブラックが、第二の脂肪族ポリアミドを含む樹脂と、該樹脂中に含まれた(C)カーボンブラックとのマスターバッチの形態で添加され」る工程という限りにおいて一致する。
甲6発明における「セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が150nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製し、このセルロース繊維の水分散液40質量部と、ε-カプロラクタム120質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合し、続いて、この混合分散液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0MPaから0.7MPaの圧力まで昇圧し、そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応を行い、重合が終了した時点で払い出し、切断して、ポリアミド樹脂と該ポリアミド樹脂100質量部に対して1質量部の平均繊維径が67nmのセルロース繊維とを含有するペレットを得、得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させ、得られたペレット」を得る工程及び「乾燥させ、得られたペレット」と「ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.15質量部であるカーボンブラックおよび0.35質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物(合計0.5質量部)」を「ドライブレンドして樹脂組成物を製造し、なお、このとき、ポリアミド樹脂と黒色色素混合物を溶融混練により予めマスターチップ化したものを使用する」工程は、甲6発明にこの順で含まれることは明らかである。

したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「(A)第一の脂肪族ポリアミド100質量部と、(B)平均径が0.5μm以下のセルロース成分0.01?100質量部とを含む溶融混合物を製造する第一の工程、及び
前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを混合する第二の工程、
をこの順に含み、
第二の工程において、(C)カーボンブラックが、第二の脂肪族ポリアミドを含む樹脂と、該樹脂中に含まれた(C)カーボンブラックとのマスターバッチの形態で添加される、樹脂組成物の製造方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2>
「前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを混合する第二の工程」であって「(C)カーボンブラックが、第二の脂肪族ポリアミドを含む樹脂と、該樹脂中に含まれた(C)カーボンブラックとのマスターバッチの形態で添加され」る工程に関して、本件特許発明1においては「前記第一の工程で得られた溶融混合物と、(C)カーボンブラックとを溶融混合する第二の工程」であって「(C)カーボンブラックが、第二の脂肪族ポリアミドを含む樹脂と、該樹脂中に含まれた(C)カーボンブラックとのマスターバッチの形態で添加され」、「押出機による溶融混練」で行われる工程と特定されているのに対し、甲6発明においては「乾燥させ、得られたペレット」と「ポリアミド樹脂100質量部に対する量が0.15質量部であるカーボンブラックおよび0.35質量部であるニグロシンからなる黒色色素混合物(合計0.5質量部)」を「ドライブレンドして樹脂組成物を製造し、なお、このとき、ポリアミド樹脂と黒色色素混合物を溶融混練により予めマスターチップ化したものを使用する」工程と特定されている点。

(2)判断
そこで、検討する。
本件特許発明1は、上記2(1)イのとおり、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を有することにより、「セルロース成分を含み、かつカーボンブラックで着色された樹脂組成物であって、当該樹脂組成物で構成される成形体に充分な機械的特性を与えつつ、実成形を問題なく行うのに充分な流動性及び熱安定性を有し、臭気が少なく、さらには、成形体に対して実用に耐えうる充分な物性安定性(特に耐候性)を与える樹脂組成物を提供する」及び「(C)カーボンブラックを第二の工程で添加することは、耐候性、及び熱安定性(低線膨張係数)の点で有利である。また、上記のように、カーボンブラックの表面官能基とセルロース成分との接触を防止することが有利であるという理由から、(C)カーボンブラックを予め樹脂と溶融混練してマスターバッチの形態とし、当該マスターバッチを第二の工程で溶融混合物に添加して更に溶融混練する場合には、更に圧倒的に優れた特性を示すようになる。」という効果を奏するものであるが、該効果、特に「臭気が少なく」という特性を「圧倒的に優れた」ものにするという効果は甲6発明が奏するものではないし、甲6及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測可能なものでもない。
したがって、本件特許発明1は、甲6発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項からみて当業者が予測できない格別顕著な効果を奏するものである。
そうすると、カーボンブラックをマスターバッチの形態で添加することや、添加剤を押出機による溶融混練により配合することが周知技術であったとしても、甲6発明において、甲6及び他の証拠に記載された事項を適用して、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

(3)まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲6発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2021-08-27 
出願番号 特願2018-94741(P2018-94741)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 河内 浩志岩田 行剛  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 加藤 友也
相田 元
登録日 2020-11-17 
登録番号 特許第6796107号(P6796107)
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 セルロース含有樹脂組成物の製造方法  
代理人 三間 俊介  
代理人 齋藤 都子  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  
代理人 中村 和広  
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