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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08F
管理番号 1377831
異議申立番号 異議2021-700533  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-01 
確定日 2021-09-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6793704号発明「抗カビ・抗菌性基体、抗カビ・抗菌性組成物及び抗カビ・抗菌性基体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6793704号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6793704号の請求項1?2に係る特許についての出願は、平成30年11月16日の出願であって、令和2年11月12日にその特許権の設定登録がされ、同年12月2日にその特許公報が発行され、その後、令和3年6月1日に岩部 英臣(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?2に係る発明は、登録時の特許請求の範囲の請求項1?2の記載からみて、以下のとおりのもの(以下「本件発明1」などということがある。)と認める。

「【請求項1】
基材表面に、銅化合物及び還元力のある光重合開始剤を含み、光半導体を含まず、かつ脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まない電磁波硬化型樹脂からなるバインダの硬化物が固着し、前記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925?955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、前記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4?50であり、前記銅化合物の少なくとも一部は、前記バインダの硬化物の表面から露出していることを特徴とする抗カビ基体。
【請求項2】
前記光重合開始剤には、アルキルフェノン系の重合開始剤とベンゾフェノン系の重合開始剤を含み、アルキルフェノン系の重合開始剤とベンゾフェノン系の重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の重合開始剤/ベンゾフェノン系の重合開始剤=1/1?4/1である請求項1に記載の抗カビ基体。」

なお、請求項1には、「前記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4?50であり、」との記載に続いて、「前記導化合物」との記載があるが、「導化合物」の前に「導化合物」との記載はなく、技術的用語でもなく、特許請求の範囲の他の記載、本件特許明細書全体を通じて「銅化合物」との記載が使用されており、技術的にも、前後の文脈からも、「銅化合物」であることは明らかであるので、「導化合物」は、「銅化合物」の誤記であると認め、請求項1に係る発明を上記のように認定した。


第3 特許異議申立人が申し立てた理由の概要
特許異議申立人が申し立てた理由の概要は次のとおりである。
[理由1]本件の請求項1、2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2?7号証に記載の技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1、2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:国際公開第2014/080606号(以下「甲1」という。下記甲各号証についても同様。)
甲第2号証:米国特許出願公開第2013/0323642号明細書
甲第3号証:国際公開第2013/002151号
甲第4号証:特表2011-530400号公報
甲第5号証:特表2003-528975号公報
甲第6号証:特表2007-504291号公報
甲第7号証:特開平6-256052号公報

第4 当審の判断
当審は、本件発明1?2に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠により取り消すべきものではないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 理由1について
(1)甲各号証の記載事項及び引用発明
ア 甲各号証の記載事項
甲1:
1a)「[請求項1] 光半導体と、
前記光半導体100質量部に対して0.1?5質量部の銅化合物と、
前記光半導体100質量部に対して50?350質量部の活性エネルギー線硬化性樹脂と、
前記活性エネルギー線硬化性樹脂100質量部に対して0.1?20質量部の光重合開始剤と、
を含有し、
活性エネルギー線の照射により、前記活性エネルギー線硬化性樹脂の重合と前記光半導体の励起とを行うことにより作製されたことを特徴とする光半導体分散樹脂組成物。
・・・
[請求項4] 前記銅化合物が2価の化合物であることを特徴とする請求項3に記載の光半導体分散樹脂組成物の製造方法。
・・・
[請求項6] 基材と、
前記基材上に設けられ、請求項1又は2に記載の光半導体分散樹脂組成物を含有する被膜と、
を有することを特徴とする抗菌性部材。」

1b)「[0001] 本発明は、光半導体分散樹脂組成物及びその製造方法、並びに抗菌性部材に関する。詳細には、本発明は、抗菌性能が長期間持続しつつも安価な光半導体分散樹脂組成物及びその製造方法、並びに当該光半導体分散樹脂組成物を用いた抗菌性部材に関する。」

1c)「[0005] しかしながら、従来の抗菌性材料は、抗菌性能の持続性が不十分であり、また長期間の使用により変色してしまうという問題があった。また抗菌性材料として銀を用いた場合、材料コストが高くなるという問題もある。さらに金属等を多孔質担体に担持させる場合には、製造コストも増大するという問題があった。
[0006] 本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして本発明の目的は、抗菌性能が長期間持続しつつも変色を抑制し、さらに安価な光半導体分散樹脂組成物及びその製造方法、並びに抗菌性部材を提供することにある。」

1d)「[0015][光半導体分散樹脂組成物]
本発明の実施形態に係る光半導体分散樹脂組成物(以下、樹脂組成物ともいう。)は、光半導体及び銅化合物を含有する。さらに本実施形態に係る樹脂組成物は、光半導体及び銅化合物を分散させるマトリクスとして、活性エネルギー線硬化性樹脂及び光重合開始剤を含有する。」

1e)「[0016] 光半導体は、樹脂組成物に光触媒機能を付与するものである。つまり当該光半導体は、紫外線等の活性エネルギー線が照射されると活性酸素等の活性種を発生し、この活性酸素が有機物と接触することにより、有機物を酸化及び分解する。このように光半導体は、樹脂組成物に付着し、汚れや臭い成分の要因である有機物を分解及び除去することができるため、防汚・防臭の効果を付与するものである。
[0017] さらに光半導体は、活性エネルギー線の照射により生成した活性種により、銅化合物を抗菌活性の高い1価の状態で安定化させる作用を有する。つまり本実施形態の樹脂組成物では、光半導体及び銅化合物が活性エネルギー線硬化性樹脂中に分散している。そのため、光半導体から発生した活性種が、その近傍に存在する銅化合物と接触することにより、銅化合物中の銅原子を1価の状態に還元する。1価の銅は抗菌性が高いため、これを含有する本実施形態の樹脂組成物は、高い抗菌性を発揮することが可能となる。
[0018] 詳細は後述するが、本実施形態の樹脂組成物は、活性エネルギー線の照射により、活性エネルギー線硬化性樹脂の重合と共に光半導体の励起を行うことにより作製されたものである。つまり本実施形態では、活性エネルギー線硬化性樹脂の重合と光半導体の励起及び銅化合物の還元とを1ステップで行うため、製造コストを削減することが可能となる。また上記樹脂組成物において、還元された銅化合物は酸化され難く、例えば1価の状態を長期間維持することが可能である。
[0019] 活性エネルギー線の照射により活性種を発生する光半導体としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ルテニウム等を使用することができる。また光半導体としては、酸化ゲルマニウム、酸化鉛、酸化ガドリニウム、酸化銅、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ロジウム、酸化レニウム等も使用することができる。光半導体は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。上述の光半導体の中でも、結晶性がアナターゼ型の酸化チタンは光触媒機能が高く、また入手し易い点で特に好ましい。
[0020] 銅化合物としては、1価の銅化合物と比較し安定性に優れ、かつ、安価で豊富な2価の銅化合物を用いることが好ましい。つまり上述のように、本実施形態の樹脂組成物では、光半導体から発生した活性種が銅化合物中の銅原子と接触することにより、銅原子を還元する。そのため、安定性に優れ、かつ、安価な2価の銅化合物を使用した場合であっても、樹脂組成物中で銅原子を2価から1価に還元し、抗菌活性を発現させることができる。さらに後述するように、2価の銅化合物を使用することにより、樹脂組成物前駆体溶液を大気中かつ室温で容易に調製でき、さらに前駆体溶液の塗布も公知の手法により行うことができるため、製造コストも削減することが可能となる。
[0021] このような銅化合物としては、硫酸銅(II)、塩化銅(II)、硝酸銅(II)、酢酸銅(II)、リン酸銅及びハロゲン化銅(CuF_(2),CuBr_(2、)CuI_(2))からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
[0022] 本実施形態の樹脂組成物において、銅化合物の含有量は、光半導体100質量部に対して0.1?5質量部であり、更に1?3質量部が好ましい。
・・・
[0026] 上記光半導体及び銅化合物は、上述のように、樹脂組成物の母相である活性エネルギー線硬化性樹脂中に分散し、保持される。このような活性エネルギー線硬化性樹脂は、活性エネルギー線により重合するものであれば如何なるものも使用することができる。活性エネルギー線硬化性樹脂としては、多官能(メタ)アクリレートなどを使用することができる。具体的には、例えばペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のペンタエリスリトール類を使用することができる。また、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートも使用することができる。さらに、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等のメチロール類や、ビスフェノールAジエポキシアクリレート等のエポキシアクリレート類も使用することができる。この中でも活性エネルギー線硬化性樹脂としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
・・・
[0029] さらに本実施形態の樹脂組成物は、上記活性エネルギー線硬化性樹脂を重合させるための光重合開始剤を含有する。光重合開始剤としては、炭素数が14?18のベンゾイン化合物を使用することができ、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルを使用することができる。
[0030] また光重合開始剤としては、炭素数が8?18のアセトフェノン化合物を使用することができる。このようなアセトフェノン化合物としては、例えばアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノンを使用することができる。また、2-ヒドロキシ-2-メチル-フェニルプロパン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オンも使用することができる。
[0031] その他、光重合開始剤としては、炭素数が14?19のアントラキノン化合物を使用することができ、例えば2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、2-クロロアントラキノン、2-アミルアントラキノンを使用することができる。さらに炭素数が13?17のチオキサントン化合物を使用することができ、例えば2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントンを使用することができる。また炭素数が16?17のケタール化合物を使用することができ、例えばアセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールを使用することができる。さらに炭素数が13?21のベンゾフェノン化合物を使用することができ、例えばベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、4,4’-ビスメチルアミノベンゾフェノンを使用することができる。
[0032] また光重合開始剤としては、炭素数が22?28のホスフィンオキサイド化合物を使用することができる。ホスフィンオキサイド化合物としては、例えば2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイドを挙げることができる。また、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイドも挙げることができる。なお上記光重合開始剤は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
[0033] 上記光重合開始剤のうち、活性エネルギー線の照射後に黄変し難いとの観点から、アセトフェノン化合物及びホスフィンオキサイド化合物が好ましい。さらに好ましいのは、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-プロパン-1-オンである。また、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド及びビス-(2、6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイドも好ましい。上述の光重合開始剤の中でも特に好ましいのは、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンである。」

1f)「[0039][光半導体分散樹脂組成物の製造方法]
本実施形態の光半導体分散樹脂組成物の製造方法は、上記光半導体、銅化合物、活性エネルギー線硬化性樹脂及び光重合開始剤を液体分散媒に混合し、樹脂組成物前駆体溶液を調製する工程と、樹脂組成物前駆体溶液に活性エネルギー線を照射する工程とを有する。
・・・
[0050] 次に、上述のようにして得られた樹脂組成物前駆体溶液に活性エネルギー線を照射する。これにより上記光重合開始剤が開裂し、ラジカルとなって活性エネルギー線硬化性樹脂とラジカル反応を引き起こし、活性エネルギー線硬化性樹脂が重合し硬化する。
[0051] なお本実施形態では、樹脂組成物前駆体溶液に活性エネルギー線を照射することにより、活性エネルギー線硬化性樹脂の重合と共に光半導体の励起を行う。つまり上述のように、活性エネルギー線を照射することにより活性エネルギー線硬化性樹脂を重合させつつ光半導体を励起させ、活性種を発生させる。これにより、光半導体の近傍に配置された銅化合物を還元し、抗菌活性を発現させる。つまり本実施形態では、活性エネルギー線硬化性樹脂の重合と光半導体の励起及び銅化合物の還元とを1ステップで行うため、製造コストを削減することが可能となる。また、このような製造方法により得られた樹脂組成物において、還元された銅化合物は酸化され難く、例えば1価の状態を長期間維持することが可能となる。
[0052] 樹脂組成物前駆体溶液に照射する活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、X線、赤外線及び可視光線を用いることができる。これらの活性エネルギー線のうち、硬化性、樹脂の劣化抑制及び光半導体の励起の容易さ等の観点から、紫外線及び電子線が好適である。
・・・
[0057] このように、本実施形態に係る光半導体分散樹脂組成物の製造方法は、光半導体と、銅化合物と、活性エネルギー線硬化性樹脂と、光重合開始剤と、液体分散媒とを混合し、樹脂組成物前駆体溶液を調製する工程を有する。さらに前記製造方法は、樹脂組成物前駆体溶液に活性エネルギー線を照射することにより、活性エネルギー線硬化性樹脂の重合と前記光半導体の励起とを行う工程を有する。」

1g)「[0061][実施例1]
まず、光半導体として、石原産業株式会社製の光触媒酸化チタンST-01を準備した。液体分散媒として、和光純薬工業株式会社製のイソプロピルアルコールを準備した。銅化合物として、和光純薬工業株式会社製の硫酸銅(II)(CuSO_(4))を準備した。活性エネルギー線硬化性樹脂として、DIC株式会社製のコーティング用UV硬化型樹脂V-6841(有効成分60%)を準備した。光重合開始剤として、BASFジャパン株式会社製のイルガキュア(登録商標)184(1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトン)を準備した。分散剤として、ビックケミー社製BYK(登録商標)-9077を準備した。
[0062] そして酸化チタン100質量部に対して、イソプロピルアルコール500質量部、硫酸銅(II)1質量部、UV硬化型樹脂167質量部、光重合開始剤1質量部、分散剤5質量部を混合し、十分に攪拌を行った。さらに攪拌の後に、株式会社シンマルエンタープライゼス製マルチラボを用い、分散メディアとして0.1mmアルミナビーズを用いて分散処理を行った。そして、酸化チタン及び硫酸銅(II)の平均粒子径(D50)が200nm以下に到達するまで分散処理を実施し、本例の樹脂組成物前駆体溶液を調製した。当該溶液の到達平均粒子径は150nmであった。なお当該溶液の平均粒子径は、大塚電子株式会社製ダイナミック光散乱光度計DLS-8000を用いて測定した。
[0063] 次に、得られた樹脂組成物前駆体溶液を、バーコーターを用いて、易接着処理ポリエステルフィルム(東洋紡株式会社製A4300)上に乾燥膜厚が5μmとなるように塗布を行った。そして、樹脂組成物前駆体溶液が付着した上記フィルムを100℃にて5分間乾燥を行った。
[0064] 乾燥処理を施した上記フィルムに対し、紫外線照射装置(フュージョンUVシステムズ社製)を用いて、照射強度200mW/cm^(2)、搬送速度15m/minの条件で紫外線を照射した(照射量400mJ/cm^(2))。このようにして、樹脂組成物前駆体を硬化させると同時に光半導体を励起させる処理を行い、本実施例の樹脂組成物を調製した。」

甲2(訳文で示す(図は除く。)。):
2a)「要約
本発明は、アルキンベースの基質、アジドベースの基質、Cu(II)塩および光誘導性還元剤を含む組成物を含む。本発明はさらに、光誘導性のCu(I)触媒によるアジド-アルキン付加環化クリック反応を使用して、所与のパターンの化学構造を固体基板の表面の一部に固定化する方法を含む。」(表紙、ABSTRACTの項)

2b)「[0024] 図1A?1Cを含む図1は、光触媒されたCuAAC反応の化学的性質を示している。図1Aを参照すると、銅触媒によるアジド-アルキン反応は、3つのステップで起こることが示されている。アルキン(a)はCu(I)と反応して、銅-アセチリド(b)を生成します。次に、この種はアジド(c)と反応して、付加環化生成物(d)を生成します。Cu(I)が再生され、トリアゾール生成物(e)が形成されると、この触媒サイクルが完了します。ラジカル媒介プロセスでは、Cu(I)はCu(II)の還元によって生成されます(反応R1)。Cu(I)が生成されると、Cu(I)は潜在的にCu(II)とCu(0)に不均化する可能性があり(反応D)、あるいはラジカル反応(反応R2)によってさらに還元されて金属の銅になることも予想されます。わかりやすくするために、存在するリガンドは省略されています。図1Bは、光誘起CCuAAC反応の開始スキームを示している。・・・」

2c)「[0046] 本明細書で使用される場合、「光誘導性還元剤」という用語は、所与の時間の還元剤の照射時に少なくとも1つの還元種を生成する分子を指す。一実施形態では、電磁照射は、紫外線、可視光、または赤外線の電磁放射を含む。別の実施形態では、少なくとも1つの還元剤は、遠元剤の照射に利用される所与の時間内に、Cu(II)塩を所与の程度までCu(I)種に還元することができる。非限定的な実施形態では、上記所与の程度は、(i)Cu(I)種に還元された反応系中のCu(II)塩の量と、(ii)還元前の反応系中のCu(II)塩の量との間の比率として計算される。」

2d)「[0071] 本発明は、アルキンベースの基質、アジドベースの基質、Cu(II)塩および光化学還元剤を含むシステムを照射することによって、CuAAC反応が光誘導され得るという予想外の発見に関する。システムヘの照射により、少なくとも1つの還元剤が生成され、生成された遠元剤はCu(II)塩と相互作用して、1,2,3-トリアゾールを形成するCuAAC反応を触媒するCu(I)種を局所的に生成する。・・・」

2e)「[0072]・・・この触媒作用は、従来の光重合プロセスでのラジカルまたはカルボカチオン種の生成と類似の方法で利用される、Cu(I)の光化学的生成を利用可能とし、CuAAC反応の空間的および時間的制御を可能にする。図1に示されるように、開裂型光開始剤を使用して、Cu(II)をCu(I)に還元するラジカルを生成することができる。一時的に生成されたCu(I)は、1,3-双極子付加環化反応を触媒し、Cu(0)に還元される前に、光誘導性アジド-アルキン付加環化反応(pCuAAC)を可能にします。不均化は、Cu(I)とラジカルの別の潜在的結果です。」

2f)「[0077] 本発明で熟慮された少なくとも1つのCu(II)塩は、Cu(II)を含む塩であり、たとえば、硫酸銅(II)、塩化銅(II)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(II)、過塩素酸銅(II)、硝酸銅(II)、水酸化銅(II)、酸化銅(II)、および水和物とそれらの混合物であるが、これらに限定されない。限定されるものではない水和物の例は、硫酸銅(II)五水和物、硝酸銅(II)水和物、硝酸銅(II)2.5H_(2)O、過塩素酸銅(II)六水和物、塩化銅(II)二水和物などである。
[0078] 本発明で熟慮された少なくとも1つの光誘導性還元剤は、所与の期間、所与の強度で所与の波長で該還元剤を照射すると、少なくとも1つの還元種を生成する分子である。当技術分野で知られているラジカル光開始剤、例えばベンゾインエーテルや、ベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノンなどのフェノン誘導体を使用することができる。一実施形態では、照射は、紫外線電磁放射(約10nmから約400nmの波長)、可視電磁放射(約400nmから約750nmの波長)、または赤外線電磁放射(約750nmから約300,000nmの放射波長)を含む。・・・」

2g)「[0080] 一実施形態では、少なくとも1つの還元剤は、所与の時間の組成物への照射時に、組成物の少なくとも1つのCu(II)塩を所与の程度までCu(I)種に還元することができる。別の実施形態では、上記所与の程度は、約0.01%から約5%である。さらに別の実施形態では、所与の程度は約5%から約10%である。さらに別の実施形態では、所与の程度は、約10%から約25%である。さらに別の実施形態では、所与の程度は、約25%から約50%である。さらに別の実施形態では、所与の程度は、約50%から約75%である。別の実施形態では、所与の程度は、約75%から約100%である。
[0081] 本発明内で熟慮された少なくとも1つの還元剤の非限定的な例は、以下のとおりである。
[0082] 1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(Irgacure 184; Ciba, Hawthorne, N.J.);」
[0083] 1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンとベンゾフェノンの1:1混合物(Irgacure 500; Ciba, Hawthorne, N.J.);」

2h)「[0108] 一態様では、本発明は、式(I)の化合物を調製する方法を含む:

(I)
この方法は、以下のステップを含む。
[0109] (i)式(II)の化合物:
R-C≡C-H (II)
式(III)の化合物:
R_(1)-N_(3) (III)、
少なくとも1つのCu(II)塩、少なくとも1つの光誘導性還元剤を第1の混合物を生成するために混合し、・・・;(ii)第1の混合物の少なくとも一部を、第2の混合物を生成するために、所与の期間、所与の強度で所与の波長の電磁放射に曝露し、それにより、少なくとも1つのCu(II)塩が所与の程度までCu(I)種に還元される。」

2i)「

」(図1A)

2j)「

」(図1B)

甲3:
3a)「[請求項1] ルチル型酸化チタンの含有量が50モル%以上である酸化チタンと、
前記酸化チタンの表面に担持された一価銅化合物及び二価銅化合物と
を有する銅化合物担持酸化チタン光触媒。
・・・
[請求項6] ルチル型酸化チタンの含有量が50モル%以上である酸化チタンの表面に、一価銅化合物及び二価銅化合物を担持する銅化合物担持酸化チタン光触媒の製造方法。
・・・
[請求項8] ルチル型酸化チタンの含有量が50モル%以上である酸化チタンと、前記酸化チタンの表面に担持された二価銅化合物とを含む触媒前駆体に対して、光照射して前記二価銅化合物の一部を一価銅化合物に還元する工程を含む請求項6に記載の銅化合物担持酸化チタン光触媒の製造方法。」

3b)「[0029]<第2の製造例>
本製造例は、ルチル型酸化チタンの含有量が50モル%以上である酸化チタンと、前記酸化チタンの表面に担持された二価銅化合物とを含む触媒前駆体に対して、好ましくは窒素及びアルコールを含む雰囲気中で光照射して前記二価銅化合物の一部を一価銅化合物に還元する工程を含むものである。」

3c)「[0060]<実施例6>
蒸留水1000mLに50gのルチル型酸化チタン(F-10、昭和タイタニウム株式会社製、BET比表面積:12m^(2)/g)を懸濁させて、0.293gCuCl_(2)・2H_(2)O(関東化学株式会社製)を添加して、90℃に加熱し、攪拌しながら1h熱処理を行った。スラリーをろ過して、得られた粉体を純水で洗浄し、80℃乾燥し、ミキサーで解砕し、試料Aを得た。
上記試料AとBNを質量で1:1で混合したものをディスク成型器にて、厚さ0.5mmのペレットを作製した。テドラーバッグ内に、作製したペレットと、エタノール1gを染み込ませた濾紙とを入れ、テドラーバッグ内の雰囲気の窒素置換を行った。
次いで、次の手順により、反応容器の外から可視光線を照射すると共に、XANESスペクトル測定を蛍光法により行った。すなわち、30分間、可視光(100000ルクス)を照射しながら、窒素及びアルコール含有雰囲気下の銅化合物担持酸化チタンをXANES測定した後、光を遮断し、銅化合物担持酸化チタンをテドラーバッグから大気中に開放したサンプルをXANES測定(30分間)した。その結果を図5及び表2に示す。
また、上記試料A(BNとの混合なし)0.3gとエタノールを含ませた濾紙を500mLガラス容器に入れ、可視光(100000ルクス)を一晩照射した。これによって、酸化チタン表面にCu(I)を生成させた。その後、反応容器内を酸素と窒素との体積比が1:4である混合ガスで置換し、5.2μLの水(相対湿度50%相当(25℃))、5.1体積%アセトアルデヒド標準ガス(窒素との混合ガス、標準状態(25℃、1気圧))を5.0mL封入し(ガラス製反応容器内のアセトアルデヒド濃度を500体積ppmとする)、反応容器の外から可視光(100000ルクス)を照射した。1時間の照射によるCO_(2)の生成量を表2に示す。
[0061]<比較例5>
ルチル型酸化チタンに代えてアナターゼ型酸化チタン(FP-6、昭和タイタニウム株式会社製、BET比表面積:99m^(2)/g)を用いたこと以外は実施例6と同様の操作を行った。その結果を図6及び表2に示す。
[0062]<比較例6>
ルチル型酸化チタンに代えてブルッカイト型酸化チタン(NTB-01、昭和タイタニウム株式会社製、BET比表面積:160m^(2)/g)を用いたこと以外は実施例6と同様の操作を行った。その結果を図7及び表2に示す。
[0063]
[表2]



甲4:
4a)「【請求項1】
コーティング中に1または2以上の殺生物剤を分散し、
基板に殺生物剤を含むコーティングを塗布し、この際、前記コーティングは、塗布された際に、少なくともいくつかの個別の殺生物剤粒子がコーティングの表面を超えて広がるように塗布される、
工程を含む、基板上に抗菌面を提供する方法。
【請求項2】
前記基板が、ポリマーフィルムである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記コーティングが、硬化コーティングである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記コーティングが、架橋コーティングである、請求項1に記載の方法。
・・・
【請求項7】
ベースポリマーフィルム、
ベースポリマーフィルム表面の少なくとも一部のコーティング、および
コーティング中に分散された1または2以上の殺生物剤、この際、前記コーティングが前記フィルムに塗布された際に、少なくともいくつかの個別の殺生物剤粒子がコーティングの表面を超えて広がる、
を含む、抗菌フィルム
・・・
【請求項9】
前記コーティングが、架橋コーティングである、請求項7に記載の方法。」

4b)「【0022】
図1を参照にすると、基板3は抗菌コーティング2のベースとなる。前記コーティング2は、コーティング2中に埋め込まれた、または添加された殺生物粒子1を含む。前記コーティング2は、基板3の表面4を抗菌保護できる。図1に示されるように、粒子1の多くが、前記コーティングの厚さよりも大きい。前記粒子1は、粒子1の配向性に関らず、前記コーティング2の表面を超えて広がる。いくつかの粒子1は、コーティング2の厚さよりも小さくてもよく、その結果、全体がコーティングに埋め込まれうる。これは、表面を超えて広がる粒子1の比率に著しく影響を与えない限り、抗菌特性にマイナスの影響を与えるものではない。
【0023】
コーティング2、基板3、および殺生物粒子1の特定のタイプを変更し、それは当該技術分野で用いられる一般的なものの1つまたは組み合わせでありうる。コーティング2の特定の選択は、特定の(コーティングを塗布した最終製品を志向した)塗布および/または用いられる基板2のタイプ(下記により詳細に記載される)に依存しうる。いくつかの実施形態において、コーティング2は、硬化コーティングであり、好ましくは架橋することができる。架橋コーティング2を用いた場合、硬化または架橋の開始方法は、重要なものではなく、当該技術分野で一般的に用いられているいずれの方法も用いられうる。好ましい一実施形態において、前記コーティングは、適当な光開始剤を用いた紫外線により架橋される。他の方法において、前記コーティングは、基板にコーティングを塗布した後に熱硬化されうる。
・・・
【0025】
一般的に、前記コーティングは、基板に塗布され、殺生物粒子が分散されうる原料のいずれのタイプであってもよい。基板にコーティングした後、殺生物粒子が硬化したコーティングの表面を超えて広がるように、硬化、乾燥、またはセットされうる。」

4c)「【0029】
効果的な抗菌効果を提供するために、少なくともいくつかの殺生物粒子1の一部は、いくつかの粒子の表面が外気に接するコーティング2の表面を超えて広がっている。図2を参照すると、表面コーティング11を超えて広がる殺生物粒子1の個別の拡大図が示されている。前記表面11を超えて広がる粒子1は、大気圧下、外気水分12と相互作用しうる。細菌、かび、または真菌13が水分のフィルム表面と接触した状態になった場合、ナトリウムイオンと交換された銀イオンが細胞機能および細胞増殖と相互作用し、成長が抑制される。」

4d)「【0032】
他の殺生物剤も用いられうる。これらの別の殺生物剤は、単独、または組み合わせて用いられうる。これらはまた、イオン性銀、または例を挙げると、銅およびセリウム等の他の殺生物剤と組み合わせて用いられうる。」

甲5:
5a)「【請求項1】 抗菌性および抗ウィルス性のポリマー材料であって、イオンの銅の微視的粒子を有しており、該粒子が該ポリマー材料に封入され、かつその表面から突出している、ポリマー材料。
・・・
【請求項9】 抗菌性および抗ウィルス性のポリマー材料の製造方法であって、ポリマーのスラリーを製造し、該スラリーにイオンの銅の粉末を導入して該スラリー中に該粉末を分散し、次いで、該スラリーを押出成形して、該イオンの銅の粒子が封入され、かつその表面から突出しているポリマー材料を形成することを含む、製造方法。」

5b)「【0019】
本発明のポリマー材料はフィルム、繊維または糸の形態であってもよく、フィルムはそれ自身で使用され、並びに繊維および糸は農産物用包装材料に成形することができる。
【0020】
当該材料は、ほとんど全ての合成ポリマーから作ることができ、該ポリマーは、その液状スラリー状態の中に、アニオンの銅の粉(dust)の添加を許すであろう。幾つかの材料には、ポリアミド(ナイロン)、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン、サイラスティックラバーおよびラテックスが例示される。銅の粉が微粉末(例えば、1ミクロンと10ミクロンとの間の大きさ)に粉砕され、少量(例えば、ポリマー重量の0.25%と10%との間の量)でスラリーに導入されると、そのスラリーから引き続いて製造される製品は抗菌性および抗ウィルス性の両方を示すことが分かった。」

5c)「【0030】
実施例1-繊維の調製
2つのビーズ状の薬品を各160℃の別個の浴中で加熱することによって全500グラムのポリアミド2成分化合物を調製した。
次いで、2つの別個の成分を共に混合し、混合物をその色が均一に見えるまで15分間攪拌した。
該混合した化学品(chemistry)を再度2つの別個のポット中に分割した。一方のポットにはCuOとCu_(2)O粉末の混合物25グラムを添加し、1%混合物を得た。第二のポットにはCuOとCu_(2)Oの混合物6.25グラムを添加し、0.25%混合物を得た。両方の場合において、160℃の温度を維持した。化合物をその色が均一に見えるまで攪拌した。
2つの混合物を孔を有する紡糸口金を通過させた。紡糸口金は、直径が50と70ミクロンとの間の繊維を与えた(hield)。Cu++放出粉末を20ミクロン未満の粒子に粉砕したので紡糸口金の孔に障害物は観察されなかった。押し出された繊維を空冷し、円錐形に紡績した。
繊維を生物学的な活性について試験した。
任意の合成繊維を製造する通常の製造方法と該製造方法との間の差異は、原料へのCu++放出粉末の添加である。」

5d)「【0032】
実施例3
抗真菌感受性試験
感受性試験を以下の通りに行った:
該試験に使用した寒天処方物をNCCLS document M27-Aに従って選択し(RPMI(RPG))、0.165Mのモルホリンプロパンスルホン酸緩衝液(MOPS)でpH7.0に緩衝化した。
試験において、4.0mmの深さの寒天を含む90-mm-直径のプレートを使用した。Candida albicans、Cryptococcus neoformans、micrococcus、Tinea pedisおよびTinea curpusにおいて、接種物をそれぞれ24時間培養物および48時間培養物から調製し、対して、Aspergillus furnigatusおよびTrichophyton mentagrophytesにおいて、5日齢培養物を使用した。細胞懸濁液を滅菌0.85%NaCl中で調製し、0.5McFarland標準の濁度に調整した。寒天の全表面にわたって、細胞懸濁液中に浸漬した無毒スワブを3方向に寒天全面に渡って画線することによって寒天表面に接種した。
過剰量の水分を寒天に吸収させた後、表面を完全に乾燥し、3%?10%の範囲の濃度のChemtex/MTCで処理した繊維を各プレートに適用した。プレートを35℃でインキュベートし、24時間、48時間および7日間後に読み取った。処理した繊維の抗真菌活性は、繊維の下側および繊維の周囲で阻害領域が視認できた場合、陽性とみなした。
【0033】
抗菌感受性試験
感受性試験を以下の改変を伴って上記抗真菌活性に記載のように行った:Mueller-Hinton寒天(Difco、デトロイト、MI)を培地として使用した。pHを7.2?7.4に調整した。該研究に使用した細菌は、Escherichia coli、Staphylococcus aureus、brevubacterium、acinetobacterおよびmicrococcusであった。
【0034】
結果
3?10%の範囲の濃度で処理した繊維は、該繊維の下側および繊維の周囲に特徴的な阻害領域を示し、まさしく抗真菌および抗菌活性を示した。コントロール(未処理の繊維)は抗真菌または抗菌活性を示さなかった。」

甲6:
6a)「【請求項1】
親水性高分子スラリーを調製すること、酸化銅(I)及び酸化銅(II)を含むイオン性銅粉末混合物を該スラリー中へ分散すること、次いで、該スラリーを押し出すか又は成型して親水性高分子材料を形成することを含む、親水性高分子材料に抗ウイルス特性を付与する方法であって、Cu^(++)とCu^(+)の両方を放出する水不溶性粒子が該親水性高分子材料内に直接かつ完全に封入されている、方法。
・・・
【請求項4】
Cu^(++)とCu^(+)の両方を放出する水不溶性粒子の混合物を含むウイルスの不活化のための親水性高分子材料であって、該粒子が該親水性高分子材料内に直接かつ完全に封入され該親水性高分子材料中で主要な活性成分である、親水性高分子材料。
・・・
【請求項7】
前記親水性高分子材料が、ラテックス、ニトリル、アクリル、ポリビニルアルコール及びシラスチックゴムからなる群から選択される、請求項4に記載のウイルスの不活化のための親水性高分子材料。」

6b)「【0014】
示したように、本発明は、具体的には親水性高分子材料に抗ウイルス特性を付与することに関し、本発明の好ましい実施態様においては、該親水性高分子材料は、ラテックス、ニトリル、アクリル、ポリビニルアルコール及びシラスチックゴムからなる群から選択される。」

甲7:
7a)「【請求項1】 水硬性セメントと、この水硬性セメントの乾燥重量に対し0.5?10%の亜酸化銅粉末とを含有することを特徴とする、防藻・防カビ・防菌効果を有する水硬性セメント組成物。」

7b)「【0008】
【作用】本発明に用いられる亜酸化銅は、酸化第一銅Cu_(2 )Oを意味し、暗赤色または橙黄色粉末体である。亜酸化銅は、他の銅化合物とは異なり、セメントの凝結硬化を阻害しないというすぐれた特徴を有しているが、この特徴は、本発明者らにより初めて見出されたものである。」

7c)「【0018】しかし、本発明の水硬性セメント組成物においては、それが凝結硬化した後、セメント硬化物中の亜酸化銅は、徐々に酸化されて第二銅イオン(Cu2+)を放出し、すぐれた防藻、防カビ、防菌効果を発揮する。
【0019】
【実施例】本発明を下記実施例により更に説明する。
実施例1?8および比較例1?4
(防藻性)実施例1?8および比較例1?4の各々において、表1に記載の成分をボールミルを用いて混合粉砕し、平均粒径を約1μmに調整した。表1に記載の水硬性セメントを用い、配合比=水硬性セメント1:川砂2:水0.65において調製した。このセメントモルタルに上記粉体を、その混合比率が表1に記載のようになるように添加混練し、この混合物を円板体(直径:3cm、厚さ:0.5cm)に成形し放置して硬化させせた。各硬化体において、8以上のpHを有するものは、CO_(2)ガス中に放置して、そのpHを8.0に調整した。この硬化円板体を屋外に1年間暴露して、藻の発生状況を目視評価した。その結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】(防カビ性)また、上記硬化円板体の各々を、カビ抵抗性試験(JIS-Z-2911-1976)に供した。その結果、比較例1?4の円板体の全面にカビの発生が認められた。しかし、実施例1?8の円板体には、カビの発生は認められなかった。
【0022】(防菌性)前記実施例1?8および比較例1?4の各々の硬化円板体を粉砕し、そのpHをCO_(2)ガスにより8.0に調整し、これをハロー試験(AATCC TESTMETHOD 90-1977)に供した。その結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】上記実施例および比較例より明らかなように、本発明の組成物から得られたセメント硬化物は、すぐれた防藻・防カビ・防菌効果を示し、しかもその効果は耐久性の高いものである。」

イ 引用発明
甲1には、光半導体分散樹脂組成物及び抗菌性部材についての記載があるところ(摘示1a?1g)、請求項1、4及び6の記載からみて、甲1には、
「基材と、前記基材上に設けられ、光半導体と、前記光半導体100質量部に対して0.1?5質量部の2価の化合物である銅化合物と、前記光半導体100質量部に対して50?350質量部の活性エネルギー線硬化性樹脂と、前記活性エネルギー線硬化性樹脂100質量部に対して0.1?20質量部の光重合開始剤と、を含有し、活性エネルギー線の照射により、前記活性エネルギー線硬化性樹脂の重合と前記光半導体の励起とを行うことにより作製された光半導体分散樹脂組成物を含有する被膜と、を有する抗菌性部材」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

(2)判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「2価の化合物である銅化合物」は、本件発明1の「銅化合物」に相当する。
甲1発明の「光重合開始剤」は、光重合開始剤である限りにおいて、本件発明1の「還元力のある光重合開始剤」と共通している。
甲1発明の「活性エネルギー線硬化性樹脂」について、甲1には「樹脂組成物前駆体溶液に照射する活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、X線、赤外線及び可視光線を用いることができる」と記載されており(摘示1f[0052])、列記されている活性エネルギー線はいずれも電磁波に相当するものであるから、甲1発明の「活性エネルギー線硬化性樹脂」は、本件発明1の「電磁波硬化型樹脂」に相当する。
甲1発明は、光半導体、2価の化合物である銅化合物、活性エネルギー線硬化性樹脂、光重合開始剤を含有し、活性エネルギー線の照射により、前記活性エネルギー線硬化性樹脂の重合と前記光半導体の励起とを行うことにより作製されたことを特徴とする光半導体分散樹脂組成物を含有する被膜を有する抗菌性部材であるところ、当該樹脂組成物がバインダであり、硬化物であること、基材上に固着していることは技術常識から明らかであるから、甲1発明の「基材と、前記基材上に設けられ、」「光半導体と、」「銅化合物と、」「活性エネルギー線硬化性樹脂と、」「光重合開始剤と、を含有し、活性エネルギー線の照射により、前記活性エネルギー線硬化性樹脂の重合と前記光半導体の励起とを行うことにより作製されたことを特徴とする光半導体分散樹脂組成物を含有する被膜と、を有すること」は、本件発明1の「基材表面に」、「電磁波硬化型樹脂からなるバインダの硬化物が固着し」ていることに該当するといえる。
甲1発明は、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含むものではない。
甲1発明の抗菌性部材は、基材上に光半導体分散樹脂組成物を含有する被膜が設けられたものであって、基体であるといるから、その限りにおいて本件発明1の「抗カビ基体」と共通している。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「基材表面に、銅化合物及び光重合開始剤を含み、かつ脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まない電磁波硬化型樹脂からなるバインダの硬化物が固着していることを特徴とする基体。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
光重合開始剤について、本件発明1は「還元力のある」と特定しているのに対し、甲1発明はかかる特定をしていない点。

<相違点2>
本件発明1は「光半導体を含まず、」と特定しているのに対し、甲1発明は「光半導体」を含有する点。

<相違点3>
本件発明1は「前記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925?955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、前記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4?50であ」ると特定しているのに対し、甲1発明はかかる特定をしていない点。

<相違点4>
本件発明1は「前記銅化合物の少なくとも一部は、前記バインダの硬化物の表面から露出している」と特定しているのに対し、甲1発明はかかる特定をしていない点。

<相違点5>
基体について、本件発明1は「抗カビ基体」特定しているのに対し、甲1発明は「抗菌性部材」である点。

事案に鑑み、本件発明及び甲1発明の作用機構に特に関係している相違点2及び3について検討する。
<相違点2>について
甲1発明は、光半導体を必須の構成成分とすることは甲1発明の内容から明らかである。すなわち、甲1発明は「光半導体と、・・・を含有」するとされ、甲1発明が含有するその他の成分である2価の化合物である銅化合物、活性エネルギー線硬化性樹脂の含有量は、光半導体100質量部に対するものとして定義され、また、同じく光重合開始剤は活性エネルギー線硬化性樹脂100質量部に対する含有量として特定されており、間接的に光半導体の含有量との関係が特定されているといえるから、これらの点から、光半導体が必須の構成成分であるといえる。
また、甲1には、「本発明は、抗菌性能が長期間持続しつつも安価な光半導体分散樹脂組成物及びその製造方法、並びに当該光半導体分散樹脂組成物を用いた抗菌性部材に関する。」(摘示1b[0001]。下線は当審が付与。以下同様。)、「そして本発明の目的は、抗菌性能が長期間持続しつつも変色を抑制し、さらに安価な光半導体分散樹脂組成物及びその製造方法、並びに抗菌性部材を提供することにある。」(摘示1c[0006])、「本発明の実施形態に係る光半導体分散樹脂組成物(以下、樹脂組成物ともいう。)は、光半導体及び銅化合物を含有する。」(摘示1d[0015])、「[0016] 光半導体は、樹脂組成物に光触媒機能を付与するものである。つまり当該光半導体は、紫外線等の活性エネルギー線が照射されると活性酸素等の活性種を発生し、この活性酸素が有機物と接触することにより、有機物を酸化及び分解する。このように光半導体は、樹脂組成物に付着し、汚れや臭い成分の要因である有機物を分解及び除去することができるため、防汚・防臭の効果を付与するものである。[0017] さらに光半導体は、活性エネルギー線の照射により生成した活性種により、銅化合物を抗菌活性の高い1価の状態で安定化させる作用を有する。つまり本実施形態の樹脂組成物では、光半導体及び銅化合物が活性エネルギー線硬化性樹脂中に分散している。そのため、光半導体から発生した活性種が、その近傍に存在する銅化合物と接触することにより、銅化合物中の銅原子を1価の状態に還元する。1価の銅は抗菌性が高いため、これを含有する本実施形態の樹脂組成物は、高い抗菌性を発揮することが可能となる。[0018] 詳細は後述するが、本実施形態の樹脂組成物は、活性エネルギー線の照射により、活性エネルギー線硬化性樹脂の重合と共に光半導体の励起を行うことにより作製されたものである。つまり本実施形態では、活性エネルギー線硬化性樹脂の重合と光半導体の励起及び銅化合物の還元とを1ステップで行うため、製造コストを削減することが可能となる。また上記樹脂組成物において、還元された銅化合物は酸化され難く、例えば1価の状態を長期間維持することが可能である。」(摘示1e)、「上記光半導体及び銅化合物は、上述のように、樹脂組成物の母相である活性エネルギー線硬化性樹脂中に分散し、保持される」(摘示1e[0026])と記載され、実施例においても光半導体が用いられている。
これら甲1の記載からは、甲1に記載の発明は、抗菌性能が長期間持続しつつも安価な光半導体分散樹脂組成物、その製造方法、該組成物を用いた抗菌性部材を提供することを目的とするところ、光半導体は、光触媒機能を付与するものであって、汚れや臭い成分の要因である有機物を分解及び除去する効果を有するものであり、銅化合物を抗菌活性の高い1価の状態で安定化させる作用を有するので、高い抗菌性を発揮することが可能となるものであり、実施態様では活性エネルギー線硬化性樹脂の重合と光半導体の励起及び銅化合物の還元とを1ステップで行うため、製造コストを削減することが可能となるものであるというものであるから、光半導体は、光触媒機能、銅化合物を抗菌活性の高い1価の状態で安定化させる作用を有し、安定な抗菌性を発揮させている以上、甲1に記載された発明の目的及び得ようとする効果及びそれに対応して採用した技術的手段からみて、甲1には光半導体を用いない部材とする発明や技術的事項は何ら記載も示唆もされていないという他ない。
甲2には、概要、光誘導性のCu(I)触媒によるアジド-アルキン付加環化クリック反応を使用して、所与のパターンの化学構造を固体基板の表面の一部に固定化する方法において、ベンゾインエーテルや、ベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノンなどのフェノン誘導体等のラジカル光開始剤を光誘導性還元剤として使用すること、該還元剤はCu(II)塩をCu(I)種に還元することができることが記載されている(摘示2a?2j)ものの、それらの記載から、甲1発明における光重合開始剤がCu(II)塩をCu(I)種に還元することができることが推認できるにとどまり、上述のとおり、甲1には、光半導体を用いない部材とすることは何ら記載も示唆もされていないだけでなく、甲1発明において、光半導体は、光触媒機能を付与するものであって、汚れや臭い成分の要因である有機物を分解及び除去する効果を有する必須の構成であるから、当該効果が得られることを前提とした甲1発明おいて、光半導体を用いないものに変更することは、阻害要因があるともいえ、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。
甲3には、酸化チタンと、酸化チタンの表面に担持された二価銅化合物とを含む触媒前駆体に対して、光照射して前記二価銅化合物の一部を一価銅化合物に還元することが(摘示3a?3c)、甲4には、コーティング中に1または2以上の殺生物剤を分散し、基板に殺生物剤を含むコーティングを塗布し、この際、前記コーティングは、塗布された際に、少なくともいくつかの個別の殺生物剤粒子がコーティングの表面を超えて広がるように塗布される、工程を含む、基板上に抗菌面を提供する方法が(摘示4a?4d)、甲5には、抗菌性および抗ウィルス性のポリマー材料であって、イオンの銅の微視的粒子を有しており、該粒子が該ポリマー材料に封入され、かつその表面から突出している、ポリマー材料が(摘示5a?5d)、甲6には、親水性高分子スラリーを調製すること、酸化銅(I)及び酸化銅(II)を含むイオン性銅粉末混合物を該スラリー中へ分散すること、次いで、該スラリーを押し出すか又は成型して親水性高分子材料を形成することを含む、親水性高分子材料に抗ウイルス特性を付与する方法であって、Cu^(++)とCu^(+)の両方を放出する水不溶性粒子が該親水性高分子材料内に直接かつ完全に封入されている、方法が(摘示6a?6b)、甲7には、水硬性セメントと、この水硬性セメントの乾燥重量に対し0.5?10%の亜酸化銅粉末とを含有することを特徴とする、防藻・防カビ・防菌効果を有する水硬性セメント組成物が(摘示7a?7c)記載されているに過ぎないから、これらの記載を参酌しても、甲1発明おいて光半導体を含まないとすることは、上述のとおり、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

<相違点3>について
甲1において、原料に含まれる2価の化合物である銅化合物が、活性エネルギー線の照射により、Cu(I)に還元されたことの記載にとどまり、2価の化合物である銅化合物が全体として、どのように変化したかは明らかでないし、活性エネルギー線の照射後のCu(II)の銅化合物に着目する記載はない。
したがって、抗菌性部材がCu(II)を含有するかどうかも明らかではない上、Cu(I)とCu(II)とのイオンの共存に着目していない甲1には、銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率をX線光電子分光分析法によって明らかにしようとすることについて記載も示唆もされていない。
さらに甲2?甲7には上記したとおりの記載があるところ、甲3及び甲6に、Cu(I)とCu(II)とのイオンの共存に関する記載はあるものの、これらの証拠を考慮しても、X線光電子分光分析法により、925?955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、前記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4?50とすることについては記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、敢えてX線光電子分光分析法により、925?955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、前記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4?50であると特定することには、動機付けがなく当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

そして、本件発明1は、上記発明特定事項全体によって、抗カビ・抗菌性に優れるという効果を奏するものである(本件明細書【0011】?【0012】、【0164】?【0165】等)。

してみると、相違点1、4及び5を検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明及び甲2?7に記載の技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2について
本件発明2は本件発明1を引用し、さらに技術的事項を限定した発明である。
したがって、本件発明1と同様に、本件発明2は甲1に記載された発明及び甲2?7に記載の技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書(27?32頁の相違点1に関する部分、32?34頁の相違点2に関する部分)において、以下のように主張している。

1)甲1の【0016】、【0017】、【0020】、【0029】の記載から、甲1に記載された発明における光半導体と光重合開始剤の機能を、a1:光半導体が、活性エネルギー線の照射により活性種を発生し、有機物を酸化及び分解する光触媒機能を付与する、a2:光半導体が、活性エネルギー線の照射により、銅化合物中の二価の銅を一価の銅に還元し、抗菌性を発揮させる、b1:光重合開始剤が、活性エネルギー線の照射により、活性エネルギー線硬化性樹脂を重合させる、と表すことができ、【0018】、【0051】、【0039】の記載から、a1、a2、b1の機能は活性エネルギー線のエネルギーを利用してそれぞれ別個に発揮されるものであるので、甲1に記載された発明は、a1及びa2の機能と、b1の機能と、が付加的に組み合わされた発明であると理解することができこと、さらに、甲2に「電磁波の照射により光重合開始剤がCu(II)をCu(I)に還元する」点が記載されていることから、甲1に記載された発明に甲2に記載の事項を組み合わせることで、a1、a2、b1の機能と光半導体及び光重合開始剤との関係を、A1:光半導体が、活性エネルギー線の照射により活性種を発生し、有機物を酸化及び分解する光触媒機能を付与する、B1:光重合開始剤が、活性エネルギー線の照射により、銅化合物中の二価の銅を一価の銅に還元し、抗菌性を発揮させる、B2:光重合開始剤が、活性エネルギー線の照射により、活性エネルギー線硬化性樹脂を重合させる、と整理することができ、A1の機能とB1及びB2の機能とは互いを必須とするものではないから、B1及びB2の機能だけを有する樹脂組成物についての技術的思想を当業者が導き出すことができ、したがって、甲1発明において光半導体を含まないものとすることは当業者が容易に想到できる。

2)本件発明1の「銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4?50であ」ると特定しているに点について、本件発明1は、当該数値範囲内であることにより当業者が予測できない顕著な効果(抗カビ)が得られるものではないから、数値範囲を単に設定しているにすぎず、当業者の通常の創作能力の発揮といえるから、容易に想到できる。

そこで検討する。
1)について
上記アで相違点2について検討したとおり、甲1の各記載事項を検討すると、甲1に記載された発明の目的及び得ようとする効果及びそれに対応して採用した技術的手段、すなわち、甲1に記載された発明は、光触媒を用いることを前提としており、光触媒が有する防汚・防臭の効果を期待し、活性エネルギー線硬化性樹脂の重合と光半導体の励起及び銅化合物の還元とが連携して、それらを1ステップで行うため、製造コストを削減することを前提とするものであることからみて、甲1には光半導体を用いない部材とする発明は何ら記載も示唆もされていないという他なく、異議申立人の甲1、甲2の各作用機能の記載を個別に捉えて付加的に組み合わされているとか、各機能が互いを必須とするものでないとの独自の整理に基づく、上記特許異議申立人の主張を採用することはできない。

2)について
上記アで相違点3について検討したとおりであり、そもそも甲1?7には、X線光電子分光分析法により、925?955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4?50とすることは記載も示唆もされておらず、技術常識でもない。
そして、上記範囲において、抗カビ・抗菌性能が高いことは本件明細書の【0031】、【0080】に一般的な記載があり、実施例には、試験例、比較例のものと比べて優れた抗カビ活性を有することが記載されており、そのような効果が、当業者が予測し得たものであるということもできない。
したがって、上記のとおり、「X線光電子分光分析法により、925?955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、同化合物注に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4?50とする」ことを特定することが単なる数値範囲の設定であって、当業者の通常の創作能力の発揮といえないから、当該比率を特定することが当業者が容易になし得た事項であるということはできない。

したがって、上記特許異議申立人の主張を採用することはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項1?2に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-08-27 
出願番号 特願2018-215710(P2018-215710)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高橋 直子  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 冨永 保
齊藤 真由美
登録日 2020-11-12 
登録番号 特許第6793704号(P6793704)
権利者 イビデン株式会社
発明の名称 抗カビ・抗菌性基体、抗カビ・抗菌性組成物及び抗カビ・抗菌性基体の製造方法  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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