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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1377836
異議申立番号 異議2021-700595  
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2021-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-22 
確定日 2021-09-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6805538号発明「シリカ粒子分散体及び表面処理シリカ粒子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6805538号の請求項1?9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6805538号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?9に係る特許についての出願は、平成28年 4月28日に出願され、令和 2年12月 8日にその特許権の設定登録がされ、同年12月23日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和 3年 6月22日に、特許異議申立人 本多 眞治(以下、「申立人」という。)により甲第1?3号証を証拠方法として特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明9」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理シリカ粒子と溶媒とを含むシリカ粒子分散体であって、
該表面処理シリカ粒子は、シリカ粒子表面の水酸基の少なくとも一部がフェニルアルコキシシラン由来の基で置換され、疎水化度が15?35%であり、
該溶媒は、比誘電率が5?30であり、
該分散体中の表面処理シリカ粒子濃度が、30?70質量%である
ことを特徴とするシリカ粒子分散体。
【請求項2】
表面処理シリカ粒子と溶媒とを含むシリカ粒子分散体であって、
該表面処理シリカ粒子は、シリカ粒子表面の水酸基の少なくとも一部がフェニルアルコキシシラン由来の基で置換され、疎水化度が15?35%であり、
該溶媒は、比誘電率が5?30であり、
該分散体は、下記の方法により測定される1000時間静置による沈降率が10%以下であることを特徴とするシリカ粒子分散体。
<沈降率の測定条件>
分散体50gを140mlのマヨネーズ瓶に秤量し、24?26℃で1000時間静置した後、分散体の高さ(c)と沈降物の高さ(d)とを測定し、下記数式より沈降率を算出する。
d/c×100(%)
【請求項3】
前記表面処理シリカ粒子は、150?210℃での気化水分量が600ppm以下である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のシリカ粒子分散体。
【請求項4】
前記分散体中の表面処理シリカ粒子濃度は、30?70質量%である
ことを特徴とする請求項2に記載のシリカ粒子分散体。
【請求項5】
1000時間静置による沈降率が10%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のシリカ粒子分散体。
【請求項6】
前記表面処理シリカ粒子は、平均SEM径が0.05?0.20μmである
ことを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載のシリカ粒子分散体。
【請求項7】
請求項1?6のいずれかに記載のシリカ粒子分散体を製造する方法であって、
該製造方法は、
シリカ粒子と表面処理剤とを混合する工程(I)と、
該工程(I)で得た混合物を120?250℃に加熱する工程(II)と、
溶媒に分散させる工程(III)とを含み、
該表面処理剤は、フェニルアルコキシシランを含む
ことを特徴とするシリカ粒子分散体の製造方法。
【請求項8】
請求項1?6のいずれかに記載のシリカ粒子分散体と、樹脂成分とを含む
ことを特徴とするシリカ含有樹脂組成物。
【請求項9】
フィルム状封止材料用樹脂組成物である
ことを特徴とする請求項8に記載のシリカ含有樹脂組成物。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 各甲号証
甲第1号証:特開2014-74905号公報
甲第2号証:特開昭46-1312号公報
甲第3号証:特開2005-54011号公報

2 特許法第29条第1項第3号(新規性)について
本件発明1、2、4?8は、甲第3号証に記載された発明であるから、本件発明1、2、4?8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

3 特許法第29条第2項について
本件発明1?9は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1?9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 各甲号証の記載事項及び各甲号証に記載された発明
(1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には以下(1a)?(1c)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)または(ii):
(i)重合性単量体およびシリカ粒子を含有する重合性単量体組成物を水系媒体中に加えて該重合性単量体組成物の粒子を形成し、該粒子中に含有される該重合性単量体を重合させてトナー粒子を製造する工程;
(ii)結着樹脂およびシリカ粒子ならびに該結着樹脂を溶解しうる有機溶媒を混合し、該シリカ粒子を分散させ、該有機溶媒に該結着樹脂を溶解させた樹脂溶解液を、水系媒体中に加えて樹脂溶解液の粒子を形成し、該粒子中に含有される該有機溶媒を除去してトナー粒子を製造する工程;
を含む製造方法によって製造されたトナー粒子を含有するトナーであって、
該シリカ粒子の体積平均粒径(Dv)が、50nm以上800nm以下であり、
該シリカ粒子を105℃から200℃に加熱した際の質量減少率が、0.60%以下であり、
該シリカ粒子の疎水化度が、5%以上40%未満である
ことを特徴とするトナー。
・・・

【請求項3】
前記シリカ粒子が、疎水化処理剤によって疎水化処理されている請求項1または2に記載のトナー。」

(1b)「【0028】
シリカ粒子の疎水化処理剤としては、例えば、
メチルトリクロロシラン、・・・などのクロロシラン類や、
テトラメトキシシラン、・・・フェニルトリメトキシシラン、・・・フェニルトリエトキシシラン、・・・などのアルコキシシラン類や、・・・上記脂肪酸と、亜鉛、鉄、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ナトリウム、リチウムなどの金属との塩などが挙げられる。これらの疎水化処理剤のうち、アルコキシシラン類、シラザン類、シリコーンオイル(特にはストレートシリコーンオイル)は、シリカ粒子に対する疎水化処理を実施しやすい点で好ましい。・・・」

(1c)「【実施例】
【0103】
<シリカ粒子1の製造例>
撹拌機、滴下ロートおよび温度計を備えた3Lのガラス製反応器に、メタノール589.6g、水42.0g、28質量%アンモニア水47.1gを加えて混合した。得られた溶液を35℃となるように調整し、撹拌しながら、テトラメトキシシラン1100.0g(7.23mol)および5.4質量%アンモニア水395.2gを同時に添加し始めた。テトラメトキシシランは6時間かけて、アンモニア水は5時間かけて、それぞれを滴下した。滴下が終了した後、さらに0.5時間撹拌を継続して加水分解を行うことにより、親水性球状ゾルゲルシリカ微粒子のメタノール-水分散液を得た。次いで、ガラス製の反応器にエステルアダプターと冷却管とを取り付け、上記分散液を80℃、減圧下で十分乾燥させた。得られたシリカ粒子を、恒温槽にて400℃にて10分間加熱した。
【0104】
上記工程を複数回実施し、得られたシリカ粒子に対して、パルベライザー(ホソカワミクロン社製)にて解砕処理を行った。
【0105】
その後、表面処理工程として、まず、シリカ粒子500gを内容積1000mLのポリテトラフルオロエチレン内筒式ステンレスオートクレーブに仕込んだ。次いで、オートクレーブ内を窒素ガスで置換した。その後、オートクレーブ付属の撹拌羽を400rpmで回転させながら、3.5gのHMDS(ヘキサメチルジシラザン(表面処理剤))および1.0gの水を、二流体ノズルにて霧状にしてシリカ粒子に均一になるように吹き付けた。30分間撹拌した後、オートクレーブを密閉し、200℃で2時間加熱した。続いて、加熱したまま系中を減圧して脱アンモニア処理を行い、シリカ粒子1を得た。シリカ粒子1の各物性を表1に示す。
・・・
【0122】
<トナー1の製造例>
スチレン単量体100質量部に対して、C.I.Pigment Blue15:3を16.5質量部、ジ-t-ブチルサリチル酸のアルミニウム化合物(商品名:ボントロンE88、オリエント化学工業社製)を3.0質量部用意した。これらを、アトライター(三井鉱山社製)に導入し、半径1.25mmのジルコニアビーズ140質量部を用いて200rpmにて25℃で180分間撹拌を行い、マスターバッチ分散液1を調製した。
【0123】
一方、イオン交換水710質量部に0.1M-Na_(3)PO_(4)水溶液450質量部を投入し、60℃に加温した後、1.0M-CaCl_(2)水溶液67.7質量部を徐々に添加してリン酸カルシウム化合物を含む水系媒体を得た。
・マスターバッチ分散液1 40質量部
・スチレン単量体 28質量部
・n-ブチルアクリレート単量体 18質量部
・低分子量ポリスチレン(Mw:3,000、Mn:1,050、Tg:55℃) 20質量部
・炭化水素系ワックス(フィッシャートロプシュワックス、最大吸熱ピークのピーク温度:78℃、Mw:750) 9質量部
・荷電制御樹脂1 0.3質量部
・ポリエステル樹脂(テレフタル酸:イソフタル酸:プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA(2モル付加物):エチレンオキサイド変性ビスフェノールA(2モル付加物)=30:30:30:10の重縮合物、Mw:11,000、Mn:4,000、Tg:74℃) 5質量部
・シリカ粒子1 3質量部
上記材料を65℃に加温し、TK式ホモミキサー(特殊機化工業製)を用いて、5,000rpmにて均一に溶解させ、分散させた。これに、重合開始剤1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエートの70%トルエン溶液7.1質量部を溶解させ、重合性単量体組成物(トナー組成物)を調製した。」

イ 前記ア(1a)?(1c)によれば、甲第1号証には、疎水化度が5%以上40%未満である、疎水化処理剤によって疎水化処理されている「シリカ粒子」を含む「トナー」が記載されており、前記「シリカ粒子」は、撹拌機、滴下ロートおよび温度計を備えた3Lのガラス製反応器に、メタノール589.6g、水42.0g、28質量%アンモニア水47.1gを加えて混合し、得られた溶液を35℃となるように調整し、撹拌しながら、テトラメトキシシラン1100.0g(7.23mol)および5.4質量%アンモニア水395.2gを同時に添加し始め、テトラメトキシシランは6時間かけて、アンモニア水は5時間かけて、それぞれを滴下し、滴下が終了した後、さらに0.5時間撹拌を継続して加水分解を行うことにより、親水性球状ゾルゲルシリカ微粒子のメタノール-水分散液を得て、次いで、ガラス製の反応器にエステルアダプターと冷却管とを取り付け、前記分散液を80℃、減圧下で十分乾燥させ、得られたシリカ粒子を、恒温槽にて400℃にて10分間加熱し、前記工程を複数回実施し、得られたシリカ粒子に対して、パルベライザー(ホソカワミクロン社製)にて解砕処理を行い、その後、表面処理工程として、まず、シリカ粒子500gを内容積1000mLのポリテトラフルオロエチレン内筒式ステンレスオートクレーブに仕込み、次いで、オートクレーブ内を窒素ガスで置換し、その後、オートクレーブ付属の撹拌羽を400rpmで回転させながら、3.5gのHMDS(ヘキサメチルジシラザン(表面処理剤))および1.0gの水を、二流体ノズルにて霧状にしてシリカ粒子に均一になるように吹き付け、30分間撹拌した後、オートクレーブを密閉し、200℃で2時間加熱し、続いて、加熱したまま系中を減圧して脱アンモニア処理を行って、「シリカ粒子1」として得られたものである。
そして、前記「トナー」を製造する際には、スチレン単量体100質量部に対して、C.I.Pigment Blue15:3を16.5質量部、ジ-t-ブチルサリチル酸のアルミニウム化合物(商品名:ボントロンE88、オリエント化学工業社製)を3.0質量部用意し、これらを、アトライター(三井鉱山社製)に導入し、半径1.25mmのジルコニアビーズ140質量部を用いて200rpmにて25℃で180分間撹拌を行い、「マスターバッチ分散液1」を調製し、前記「マスターバッチ分散液1」 40質量部、スチレン単量体 28質量部、n-ブチルアクリレート単量体 18質量部、低分子量ポリスチレン(Mw:3,000、Mn:1,050、Tg:55℃) 20質量部、炭化水素系ワックス(フィッシャートロプシュワックス、最大吸熱ピークのピーク温度:78℃、Mw:750) 9質量部、荷電制御樹脂1 0.3質量部、ポリエステル樹脂(テレフタル酸:イソフタル酸:プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA(2モル付加物):エチレンオキサイド変性ビスフェノールA(2モル付加物)=30:30:30:10の重縮合物、Mw:11,000、Mn:4,000、Tg:74℃) 5質量部、「シリカ粒子1」 3質量部の材料を65℃に加温し、TK式ホモミキサー(特殊機化工業製)を用いて、5,000rpmにて均一に溶解させ、分散させ、これに、重合開始剤1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエートの70%トルエン溶液7.1質量部を溶解させ、重合性単量体組成物(トナー組成物)を調製するものであるが、前記「マスターバッチ分散液1」、スチレン単量体、n-ブチルアクリレート単量体、低分子量ポリスチレン、炭化水素系ワックス、荷電制御樹脂1、ポリエステル樹脂を混合後の液体成分に、「シリカ粒子1」等が分散しているものは、「分散体」といえるものである。

ウ 前記イによれば、甲第1号証には、
「撹拌機、滴下ロートおよび温度計を備えた3Lのガラス製反応器に、メタノール589.6g、水42.0g、28質量%アンモニア水47.1gを加えて混合し、得られた溶液を35℃となるように調整し、撹拌しながら、テトラメトキシシラン1100.0g(7.23mol)および5.4質量%アンモニア水395.2gを同時に添加し始め、テトラメトキシシランは6時間かけて、アンモニア水は5時間かけて、それぞれを滴下し、
滴下が終了した後、さらに0.5時間撹拌を継続して加水分解を行うことにより、親水性球状ゾルゲルシリカ微粒子のメタノール-水分散液を得て、
次いで、ガラス製の反応器にエステルアダプターと冷却管とを取り付け、前記分散液を80℃、減圧下で十分乾燥させ、得られたシリカ粒子を、恒温槽にて400℃にて10分間加熱し、
前記工程を複数回実施し、得られたシリカ粒子に対して、パルベライザー(ホソカワミクロン社製)にて解砕処理を行い、その後、表面処理工程として、まず、シリカ粒子500gを内容積1000mLのポリテトラフルオロエチレン内筒式ステンレスオートクレーブに仕込み、次いで、オートクレーブ内を窒素ガスで置換し、その後、オートクレーブ付属の撹拌羽を400rpmで回転させながら、3.5gのHMDS(ヘキサメチルジシラザン(表面処理剤))および1.0gの水を、二流体ノズルにて霧状にしてシリカ粒子に均一になるように吹き付け、30分間撹拌した後、オートクレーブを密閉し、200℃で2時間加熱し、続いて、加熱したまま系中を減圧して脱アンモニア処理を行って、シリカ粒子1を得た後、
スチレン単量体100質量部に対して、C.I.Pigment Blue15:3を16.5質量部、ジ-t-ブチルサリチル酸のアルミニウム化合物(商品名:ボントロンE88、オリエント化学工業社製)を3.0質量部用意し、これらを、アトライター(三井鉱山社製)に導入し、半径1.25mmのジルコニアビーズ140質量部を用いて200rpmにて25℃で180分間撹拌を行い、マスターバッチ分散液1を調製し、
前記マスターバッチ分散液1 40質量部、
スチレン単量体 28質量部、
n-ブチルアクリレート単量体 18質量部、
低分子量ポリスチレン(Mw:3,000、Mn:1,050、Tg:55℃) 20質量部、
炭化水素系ワックス(フィッシャートロプシュワックス、最大吸熱ピークのピーク温度:78℃、Mw:750) 9質量部、
荷電制御樹脂1 0.3質量部、
ポリエステル樹脂(テレフタル酸:イソフタル酸:プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA(2モル付加物):エチレンオキサイド変性ビスフェノールA(2モル付加物)=30:30:30:10の重縮合物、Mw:11,000、Mn:4,000、Tg:74℃) 5質量部、
シリカ粒子1 3質量部
の材料を65℃に加温し、TK式ホモミキサー(特殊機化工業製)を用いて、5,000rpmにて均一に溶解させ、分散させた、分散体。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
ア 甲第2号証には以下(2a)?(2c)の記載がある。
(2a)「2.特許請求の範囲
少なくとも10m^(2)/gの表面積をもちかつメタノール滴定試験によつて測定された疎水度が5?35の範囲の値を示す、オルガノシリコン化合物によつて表面処理されたシリカ粉末。」

(2b)「シリカ表面をかように処理するための好ましい一方法は粉末シリカを式:(R)_(n)-Si-(L)_(4-n)(式中n=1,2または3,(R)はシリカ表面上のシラノール基に対して非反応性の疎水性基、そして(L)はシリカ表面上のシラノール基に対して反応性の基である)をもつ実質的に無水の単量体状シランと化学的に反応させることからなる。
基Lは低級アルコキシ基、塩素もしくは臭素原子またはアシル基を包含し得る。・・・特に好ましい基Lはエトキシ基であり、特に適当なシランは式(R)-Si-(OC_(2)H_(5))_(3)(式中Rは後記のごとき基である)をもつ化合物であることが認められた。
基Rは炭化水素基またはシリカに対して安定かつ不活性である原子または基、例えば塩素、トリフルオロメチル、アルキルまたはアリールエーテルのような原子または基で置換された炭化水素基であり得る。炭化水素基は通常1?20個の炭素原子を含むアルキル基もしくはアルケニル基、フエニル基、ベンジル基、トリル基、シクロペンチル基またはシクロヘキシル基であるだろう。」(3頁左上欄3行?右上欄15行)

(2c)「シリカが使用される種々の他の技術分野において、部分的に疎水性化されたシリカは有用であり、特に水性系及び非水性系が関係する用途において有用である。・・・
疎水性シリカは粉末のための流動化用添加剤として、すなわち貯蔵時の塊状化を防止しかつ貯蔵容器からの除去を容易にし、しかもその後の粉末の流動性を助長する添加剤として広く使用される。・・・
シリカはグリース製造のためのシリコーン油の増稠化に使用され、その表面の親水性/疎水性の度合いが重要であるので、本発明の処理されたシリカは従来技術によるシリカを超える改良をもたらす。シリコーン油/グリースの作動安定性(浸潤円錐針入度計によつて測定された)は本発明によつて部分的に疎水化されたシリカ5?30%を組成物に添加することによつて改善される。
・・・
多数の有機泡状体処方においては充填剤または増稠剤の使用が望ましいが、かゝる添加剤は泡末の安定性を損なわないものであることが必要であることは明らかである。したがつて合成ゴム(例えばポリウレタンゴム)または天然ゴム泡状体の製造のための泡状体処方は部分的に疎水化されたシリカの使用によつて改善される。
シリコーンゴム技術においては、シリカは充填剤として用いられるが、シランまたはシロキサンによつて変性されたシリカはゴム構造体中により容易に化学的に結合され得、したがつて改善された製品を与えるので好ましい。さらにプラスチツクフイルム、たとえば包装用フイルムにおけるブロツキング防止剤としておよび可塑化重合体たとえば可塑化ポリ塩化ビニルの電気抵抗性の改善用添加剤としても、本発明のシリカは有用である。」(5頁左上欄12行?6頁左上欄4行)

イ 前記ア(2a)?(2b)によれば、甲第2号証には、少なくとも10m^(2)/gの表面積をもちかつメタノール滴定試験によつて測定された疎水度が5?35の範囲の値を示す、オルガノシリコン化合物によつて表面処理された「シリカ粉末」が記載されている。
そして、前記「シリカ粉末」のシリカ表面を処理するための好ましい一方法は、粉末シリカを式:(R)_(n)-Si-(L)_(4-n)(式中n=1,2または3,(R)はシリカ表面上のシラノール基に対して非反応性の疎水性基、そして(L)はシリカ表面上のシラノール基に対して反応性の基である)をもつ実質的に無水の単量体状シランと化学的に反応させることからなるものであり、基Lは低級アルコキシ基、塩素もしくは臭素原子またはアシル基を包含し得るものであり、特に好ましい基Lはエトキシ基であり、特に適当なシランは式(R)-Si-(OC_(2)H_(5))_(3)(式中Rは後記のごとき基である)をもつ化合物であり、基Rは炭化水素基またはシリカに対して安定かつ不活性である原子または基、例えば塩素、トリフルオロメチル、アルキルまたはアリールエーテルのような原子または基で置換された炭化水素基であり得るものであり、炭化水素基は通常1?20個の炭素原子を含むアルキル基もしくはアルケニル基、フエニル基、ベンジル基、トリル基、シクロペンチル基またはシクロヘキシル基であるものである。

ウ 前記イによれば、甲第2号証には、
「少なくとも10m^(2)/gの表面積をもちかつメタノール滴定試験によつて測定された疎水度が5?35の範囲の値を示す、オルガノシリコン化合物によつて表面処理されたシリカ粉末であって、
前記シリカ粉末のシリカ表面を処理するための好ましい一方法は、粉末シリカを式:(R)_(n)-Si-(L)_(4-n)(式中n=1,2または3,(R)はシリカ表面上のシラノール基に対して非反応性の疎水性基、そして(L)はシリカ表面上のシラノール基に対して反応性の基である)をもつ実質的に無水の単量体状シランと化学的に反応させることからなるものであり、
基Lは低級アルコキシ基、塩素もしくは臭素原子またはアシル基を包含し得るものであり、特に好ましい基Lはエトキシ基であり、特に適当なシランは式(R)-Si-(OC_(2)H_(5))_(3)(式中Rは後記のごとき基である)をもつ化合物であり、
基Rは炭化水素基またはシリカに対して安定かつ不活性である原子または基、例えば塩素、トリフルオロメチル、アルキルまたはアリールエーテルのような原子または基で置換された炭化水素基であり得るものであり、炭化水素基は通常1?20個の炭素原子を含むアルキル基もしくはアルケニル基、フエニル基、ベンジル基、トリル基、シクロペンチル基またはシクロヘキシル基である、シリカ粉末。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

(3)甲第3号証の記載事項及び甲第3号証に記載された発明
ア 甲第3号証には以下(3a)?(3b)の記載がある。
(3a)「【請求項1】
孤立シラノール基を有する超微粉シリカに、末端がフェニル基であるシランカップリング剤を、その最小被覆面積から算出した被覆率が10?50%となる量を添加してから、孤立シラノール基に化学結合させたシランカップリング剤と化学結合をしていないシランカップリング剤とが混在する状態に処理した後、それを溶媒に分散させること特徴とする樹脂充填用超微粉シリカ分散スラリーの製造方法。」

(3b)「【0009】
本発明で用いられる末端にフェニル基を有するシランカップリング剤としては、γ-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどがあげられるが、好ましくはγ-フェニルアミノプロピルトリメトキシシランである。これらの一種以上を用いることによって、優れた沈降安定性、再分散性を実現できる。シランカップリング剤の添加量は、超微粉シリカの比表面積にもとづいて変量される。すなわち、本発明においては、超微粉シリカ表面の10?50%が被覆される量のシランカップリング剤を添加する。・・・
【0010】
超微粉シリカの被覆は、振動流動槽を用い、超微粉シリカを振動流動化させた状態でシランカップリング剤の液滴をミストスプレーで直接噴霧して混合する方法、シランカップリング剤の液滴をミストスプレーで超微粉シリカに直接噴霧した後、ボールミル、ヘンシェルミキサーなどを用いて混合してから放置する方法によって行うことができる。シランカップリング剤をあらかじめ水などで加水分解させてから噴霧する従来法は、本発明では好ましくない。
・・・
【0013】
ついで、シランカップリング剤で処理された超微粉シリカは、溶媒と混合さて本発明のシリカ分散スラリーとなる。溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル等の極性溶媒が用いられるが、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが好適である。溶媒量は、目的とするスラリー濃度に応じて適宜変量されるが、良好な沈降安定性を保つ点から、超微粉シリカ濃度が50?90質量%となる量が望ましい。超微粉シリカ濃度が50質量%未満では、長期間静置によって上澄み層が厚くなりスラリーが不均一となり、90質量%をこえると、もはやスラリー状態とは言えなくなる。」

イ 前記ア(3a)?(3b)によれば、甲第3号証には、孤立シラノール基を有する超微粉シリカに、末端がフェニル基であるシランカップリング剤を、その最小被覆面積から算出した被覆率が10?50%となる量を添加してから、孤立シラノール基に化学結合させたシランカップリング剤と化学結合をしていないシランカップリング剤とが混在する状態に処理した後、それを溶媒に分散させる、「樹脂充填用超微粉シリカ分散スラリーの製造方法」により製造された、「シリカ分散スラリー」が記載されているといえる。
また、前記「樹脂充填用超微粉シリカ分散スラリーの製造方法」において用いられる末端にフェニル基を有するシランカップリング剤としては、γ-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどがあげられるものであり、超微粉シリカの被覆は、振動流動槽を用い、超微粉シリカを振動流動化させた状態でシランカップリング剤の液滴をミストスプレーで直接噴霧して混合する方法、シランカップリング剤の液滴をミストスプレーで超微粉シリカに直接噴霧した後、ボールミル、ヘンシェルミキサーなどを用いて混合してから放置する方法によって行うことができるものであり、ついで、シランカップリング剤で処理された超微粉シリカは、溶媒と混合されて「シリカ分散スラリー」となるのであり、溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル等の極性溶媒が用いられるものであり、溶媒量は、良好な沈降安定性を保つ点から、超微粉シリカ濃度が50?90質量%となる量が望ましいものである。

ウ 前記イによれば、甲第3号証には、
「孤立シラノール基を有する超微粉シリカに、末端がフェニル基であるシランカップリング剤を、その最小被覆面積から算出した被覆率が10?50%となる量を添加してから、孤立シラノール基に化学結合させたシランカップリング剤と化学結合をしていないシランカップリング剤とが混在する状態に処理した後、それを溶媒に分散させる、樹脂充填用超微粉シリカ分散スラリーの製造方法により製造された、シリカ分散スラリーであって、
末端にフェニル基を有するシランカップリング剤としては、γ-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどがあげられるものであり、
超微粉シリカの被覆は、振動流動槽を用い、超微粉シリカを振動流動化させた状態でシランカップリング剤の液滴をミストスプレーで直接噴霧して混合する方法、シランカップリング剤の液滴をミストスプレーで超微粉シリカに直接噴霧した後、ボールミル、ヘンシェルミキサーなどを用いて混合してから放置する方法によって行うことができるものであり、
ついで、シランカップリング剤で処理された超微粉シリカは、溶媒と混合されてシリカ分散スラリーとなり、
溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル等の極性溶媒が用いられるものであり、溶媒量は、良好な沈降安定性を保つ点から、超微粉シリカ濃度が50?90質量%となる量が望ましい、シリカ分散スラリー。」の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

2 特許法第29条第1項第3号について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲3発明とを対比した場合、甲3発明における「シリカ分散スラリー」及び「シランカップリング剤で処理された超微粉シリカ」は、それぞれ、本件発明1における「シリカ粒子分散体」及び「表面処理シリカ粒子」に相当する。
そして、甲3発明における「表面処理シリカ粒子」は、「孤立シラノール基を有する超微粉シリカに、末端がフェニル基であるシランカップリング剤を、その最小被覆面積から算出した被覆率が10?50%となる量を添加」して製造されたものであるが、このときの「表面処理シリカ粒子」の「疎水化度」は明らかでないから、本件発明1と甲3発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点3:本件発明1は、「表面処理シリカ粒子」の「疎水化度が15?35%」であるのに対して、甲3発明は、「表面処理シリカ粒子」が、「孤立シラノール基を有する超微粉シリカに、末端がフェニル基であるシランカップリング剤を、その最小被覆面積から算出した被覆率が10?50%となる量を添加」して製造されたものである点。

イ 以下、前記アの相違点3について検討すると、甲3発明において、「孤立シラノール基を有する超微粉シリカに、末端がフェニル基であるシランカップリング剤を、その最小被覆面積から算出した被覆率が10?50%となる量を添加」して製造された「表面処理シリカ粒子」の「疎水化度」が「15?35%」であることを明らかにする証拠は提出されておらず、そのような技術常識も存在しないから、甲3発明において、「表面処理シリカ粒子」の「疎水化度が15?35%」であるとはいえないので、前記相違点3は実質的な相違点である。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲3発明であるとはいえない。

(2)本件発明2について
前記(1)アと同様にして本件発明2と甲3発明とを対比した場合、本件発明2と甲3発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点3’:本件発明2は、「表面処理シリカ粒子」の「疎水化度が15?35%」であるのに対して、甲3発明は、「表面処理シリカ粒子」が、「孤立シラノール基を有する超微粉シリカに、末端がフェニル基であるシランカップリング剤を、その最小被覆面積から算出した被覆率が10?50%となる量を添加」して製造されたものである点。
そして、前記相違点3’は前記(1)アの相違点3と実質的に同じものであるから、前記(1)イに記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2も甲3発明であるとはいえない。

(3)本件発明4?8について
本件発明4?8は、いずれも、直接的又は間接的に本件発明1又は2を引用するものであるから、本件発明4?8と甲3発明とを対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも、前記(1)アの相違点3又は前記(2)の相違点3’の点で相違する。
そうすると、前記(1)イ又は(2)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明4?8も、甲3発明であるとはいえない。

(4)小括
よって、本件発明1、2及び4?8は、甲第3号証に記載された発明であるとはいえないから、前記第3の2の特許法第29条第1項第3号についての特許異議申立理由は理由がない。

3 特許法第29条第2項について
(1)甲第1号証を主引用例とする場合について
(1-1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比した場合、甲1発明における「分散体」及び「マスターバッチ分散液1」、スチレン単量体、n-ブチルアクリレート単量体、低分子量ポリスチレン、炭化水素系ワックス、荷電制御樹脂1、ポリエステル樹脂を混合後の液体成分は、それぞれ、本件発明1における「シリカ粒子分散体」及び「溶媒」に相当する。
そして、甲1発明における「溶媒」である「マスターバッチ分散液1」、スチレン単量体、n-ブチルアクリレート単量体、低分子量ポリスチレン、炭化水素系ワックス、荷電制御樹脂1、ポリエステル樹脂を混合後の液体成分の「比誘電率」は明らかでないから、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「溶媒」が、「比誘電率が5?30」の「溶媒」であるのに対して、甲1発明は、「溶媒」が、「マスターバッチ分散液1」、スチレン単量体、n-ブチルアクリレート単量体、低分子量ポリスチレン、炭化水素系ワックス、荷電制御樹脂1、ポリエステル樹脂を混合後の液体成分である点。

イ 以下、前記アの相違点1について検討すると、甲1発明における「溶媒」である「マスターバッチ分散液1」、スチレン単量体、n-ブチルアクリレート単量体、低分子量ポリスチレン、炭化水素系ワックス、荷電制御樹脂1、ポリエステル樹脂を混合後の液体成分の「比誘電率」が「5?30」であることを明らかにする証拠は提出されておらず、そのような技術常識も存在しないから、甲1発明における「溶媒」の「比誘電率が5?30」であるとはいえないので、前記相違点1は実質的な相違点である。
そして、甲1発明において、「溶媒」の「比誘電率」を「5?30」とする動機付けは存在しないのであって、このことは、甲第2?3号証の記載事項に左右されるものでもないから、甲1発明において、「溶媒」を「比誘電率が5?30」の「溶媒」として、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2?3号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2?3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(1-2)本件発明2について
前記(1-1)アと同様にして本件発明2と甲1発明とを対比した場合、本件発明2と甲1発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点1’:本件発明2は、「溶媒」が、「比誘電率が5?30」の「溶媒」であるのに対して、甲1発明は、「溶媒」が、「マスターバッチ分散液1」、スチレン単量体、n-ブチルアクリレート単量体、低分子量ポリスチレン、炭化水素系ワックス、荷電制御樹脂1、ポリエステル樹脂を混合後の液体成分である点。
そして、前記相違点1’は前記(1-1)アの相違点1と実質的に同じものであるから、前記(1-1)イに記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2も、甲1発明及び甲第2?3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(1-3)本件発明3?9について
本件発明3?9は、いずれも、直接的又は間接的に本件発明1又は2を引用するものであるから、本件発明3?9と甲1発明とを対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも、前記(1-1)アの相違点1又は前記(1-2)の相違点1’の点で相違する。
そうすると、前記(1-1)イ又は(1-2)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明3?9も、甲1発明及び甲第2?3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(1-4)まとめ
よって、本件発明1?9は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)甲第2号証を主引用例とする場合について
(2-1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明とを対比した場合、甲2発明における「オルガノシリコン化合物によつて表面処理されたシリカ粉末」は、本件発明1における「表面処理シリカ粒子」に相当する。
そして、甲2発明は、「オルガノシリコン化合物によつて表面処理されたシリカ粉末」に係るものであって、「シリカ粒子分散体」に係るものではなく、更に「溶媒」を含むものでもないから、本件発明1と甲2発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点2:本件発明1は、「表面処理シリカ粒子と溶媒とを含むシリカ粒子分散体」に係るものであって、「該溶媒は、比誘電率が5?30」であるのに対して、甲2発明は、「表面処理シリカ粒子」に係るものであって、更に「溶媒」を含むものでもない点。

イ 以下、前記アの相違点2について検討すると、前記1(2)ア(2c)の「シリカ粉末」の用途からみれば、甲2発明に係る「シリカ粉末」は、例えばグリース製造のためのシリコーン油の増稠化や、合成ゴムまたは天然ゴム泡状体の製造のための泡状体処方や、プラスチツクフイルム、たとえば包装用フイルムにおけるブロツキング防止剤としておよび可塑化重合体たとえば可塑化ポリ塩化ビニルの電気抵抗性の改善用添加剤として使用されるものであるが、甲第2号証には、このとき、「シリカ粉末」を「比誘電率が5?30」である「溶媒」に分散させることが記載も示唆もされるものではないし、このことが本件特許の出願時における周知技術または技術常識であったことを示す証拠もないので、前記相違点2は実質的な相違点である。
そして、甲2発明において、「表面処理シリカ粒子」を「比誘電率が5?30」である「溶媒」に分散させて「表面処理シリカ粒子と溶媒とを含むシリカ粒子分散体」とする動機付けは存在しないのであって、このことは、甲第1、3号証の記載事項に左右されるものでもない。
してみれば、甲2発明を、「表面処理シリカ粒子と溶媒とを含むシリカ粒子分散体」に係るものであって、「該溶媒は、比誘電率が5?30」である、との前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第1、3号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るものではない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び甲第1、3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-2)本件発明2について
前記(2-1)アと同様にして本件発明2と甲2発明とを対比した場合、本件発明2と甲2発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点2’:本件発明2は、「表面処理シリカ粒子と溶媒とを含むシリカ粒子分散体」に係るものであって、「該溶媒は、比誘電率が5?30」であるのに対して、甲2発明は、「表面処理シリカ粒子」に係るものであって、更に「溶媒」を含むものでもない点。
そして、前記相違点2’は、前記(2-1)アの相違点2と実質的に同じものであるから、前記(2-1)イに記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2も、甲2発明及び甲第1、3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-3)本件発明3?9について
本件発明3?9は、いずれも、直接的又は間接的に本件発明1又は2を引用するものであるから、本件発明3?9と甲2発明とを対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも、前記(2-1)アの相違点2又は前記(2-2)の相違点2’の点で相違する。
そうすると、前記(2-1)イ又は(2-2)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明3?9も、甲2発明及び甲第1、3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2-4)まとめ
よって、本件発明1?9は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)甲第3号証を主引用例とする場合について
(3-1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲3発明とを対比した場合、本件発明1と甲3発明とは、少なくとも前記2(1)アの相違点3で相違し、前記相違点3は実質的な相違点であることは、前記2(1)イに記載のとおりである。

イ そこで、以下、前記相違点3の容易想到性について検討すると、甲3発明には、「表面処理シリカ粒子」の「疎水化度」を特定しようとする動機付けはないし、このことは甲第1、2号証の記載に左右されるものではない。

ウ また、本件特許明細書には以下(a)の記載がある。
(a)「【0080】
調製例1
水6300gにメタノール2700gを投入した後、50℃に昇温した。50℃に保持した水とメタノール溶液にフェニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、信越シリコーンKBM-103)を90g投入し、50℃にて30分撹拌することによりフェニルトリメトキシシラン加水分解液(1)を調製した。
【0081】
調製例2?7
原料及びその投入量を表1のとおりに変更したこと以外は、調製例1と同様にして、表面処理剤の加水分解液(2)?(7)を各々調製した。なお、調製例7では、表面処理剤を2種併用した。表1中、HMDSとは、ヘキサメチルジシラザンを意味する。
【0082】
【表1】

【0083】
試験例1
水3000gに、比表面積47.0m^(2)/gのシリカ(堺化学工業社製、商品名「Sciqas 0.05μm」、平均SEM径:0.07?0.08μm)1000gと、調製例1で得た加水分解液(1)を全量投入し、撹拌羽根を使用し60分撹拌することによりシリカスラリーを調製した。シリカスラリーのpHは3.99であった。このシリカスラリーをスプレードライヤー(アシザワ・ニロアトマイザー社製、モービルマイナー型スプレードライヤー)を使用し、熱風入口温度300℃、熱風出口温度80℃で乾燥した後、ステンレス製のバットに充填し、130℃に設定した乾燥機で3時間熱をかけ、表面処理シリカ粒子(1)を得た。
得られた表面処理シリカ粒子(1)の物性を上述した方法にて測定又は評価した。結果を表3に示す。
【0084】
次に、140mlのマヨネーズ瓶に、表面処理シリカ粒子(1)42.0g、シクロヘキサノン28.0g、0.7mmΦガラスビーズ49.8gを秤量し、レッドデビル社製ペイントシェーカーで40分間分散した。分散後、ナイロンメッシュ(目開き25μm)でガラスビーズを分離し、シリカ粒子分散体(1)を得た。
得られたシリカ粒子分散体(1)の物性を上述した方法にて測定又は評価した。結果を表3に示す。
【0085】
試験例2?15
原料及び乾燥機の温度を表2のとおりに変更したこと以外は、試験例1と同様にして、表面処理シリカ粒子(2)?(15)を各々得た。得られた各表面処理シリカ粒子の物性を上述した方法にて測定又は評価した。結果を表3に示す。
次に、原料及び溶媒を表2のとおりに変更したこと以外は、試験例1と同様にして、シリカ粒子分散体(2)?(15)を各々得た。得られた各シリカ粒子分散体の物性を上述した方法にて測定又は評価した。結果を表3に示す。
なお、試験例7及び15で使用した原料シリカ粒子の詳細は以下のとおりである。
試験例7:堺化学工業社製、商品名「Sciqas 0.1μm」、比表面積:21.2m^(2)/g、平均SEM径:0.15μm
試験例15:堺化学工業社製、商品名「Sciqas 0.25μm」、比表面積:13.7m^(2)/g、平均SEM径:0.24μm
【0086】
【表2】

【0087】
表2中、※1は、下記aをbで除した値(a/b)を意味する。
a:原料シリカ粒子の使用量100重量部に対する、表面処理剤の使用量(重量部)である。
b:原料シリカ粒子の比表面積(m^(2)/g)
【0088】
【表3】

【0089】
表3中、以下の略号はそれぞれ以下の化合物を意味する。
MEK:メチルエチルケトン
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
【0090】
上記例より、以下のことが確認された。
試験例1?11で得たシリカ粒子分散体は、フェニルアルコキシシランで表面処理されてなり、疎水化度が15?35%である表面処理シリカ粒子と、溶媒とを含むのに対し、試験例12?15で得たシリカ粒子分散体は、表面処理シリカ粒子の疎水化度が15%未満又は35%を超えており、かつ試験例13、14は、表面処理シリカ粒子を得る際にフェニルアルコキシシラン以外の表面処理剤を使用した例である。このような相違の下、シリカ粒子分散体の1000時間静置後の沈降度を比較すると、試験例12?15で得た分散体に対し、試験例1?11で得た分散体は、沈降度が著しく低い。従って、フェニルアルコキシシランにより表面処理されてなり、疎水化度が15?35%である表面処理シリカ粒子と、溶媒とを含む構成の分散体であると、シリカ粒子の沈降が充分に抑制され、保管や輸送が容易で、長期間安定して分散状態を維持できることが分かった。」

エ 前記ウ(a)の本件特許明細書の記載によれば、試験例1?11で得た「シリカ粒子分散体」は、フェニルアルコキシシランで表面処理されてなり、「疎水化度」が20?33%である「表面処理シリカ粒子」と、「溶媒」とを含むものであり、前記「疎水化度」は、本件発明1における「表面処理シリカ粒子」の「疎水化度」である「15?35%」に合致するのに対し、試験例12及び15で得た「シリカ粒子分散体」は、試験例1?11と同様に、フェニルアルコキシシランで表面処理されたものであるが、試験例12の「疎水化度」は13%であり、試験例15の「疎水化度」は36%であって、本件発明1における「表面処理シリカ粒子」の「疎水化度」である「15?35%」に僅かに合致しない。
そして、これらの「シリカ粒子分散体」の1000時間静置後の沈降度を比較すると、「表面処理シリカ粒子」の「疎水化度」が本件発明1における「表面処理シリカ粒子」の「疎水化度」である「15?35%」に合致する試験例1?11では、前記沈降度が1.5%?4.5%であるのに対して、「疎水化度」が本件発明1の「疎水化度」に僅かに合致しない試験例12及び試験例15の沈降度は、それぞれ13.1%及び18.5%であり、「疎水化度」が本件発明1の「疎水化度」に合致する試験例1?11の「シリカ粒子分散体」は、「疎水化度」が本件発明1の「疎水化度」と僅かに合致しない試験例12及び15の「シリカ粒子分散体」よりも沈降度が著しく低く、シリカ粒子の沈降が十分に抑制され、保管や輸送が容易で、長期間安定して分散状態を維持できるものであり、前記僅かな「疎水化度」の相違によって係る作用、効果を奏することは、甲第1?2号証の記載事項から当業者が予測し得るものではない。
すると、本件発明1は、「表面処理シリカ粒子」の「疎水化度を15?35%」とすることで、沈降度が著しく低く、シリカ粒子の沈降が十分に抑制され、保管や輸送が容易で、長期間安定して分散状態を維持できる、という甲第1?2号証の記載事項からは当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものといえる。

オ 前記イ、エによれば、甲3発明において、「表面処理シリカ粒子」の「疎水化度」を「15?35%」として、前記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び甲第1?2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3-2)本件発明2について
本件発明2と甲3発明とを対比した場合、本件発明2と甲3発明とは、少なくとも前記2(2)の相違点3’で相違し、前記相違点3’は前記2(1)アの相違点3と実質的に同じものであることは、前記2(2)に記載のとおりである。
してみれば、前記(3-1)イ、エ、オに記載したのと同様の理由により、甲3発明において、「表面処理シリカ粒子」の「疎水化度」を「15?35%」として、前記相違点3’に係る本件発明2の発明特定事項を有するものとすることを当業者が容易になし得るとはいえないので、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2も、甲3発明及び甲第1?2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3-3)本件発明3?9について
本件発明3?9は、いずれも、直接的又は間接的に本件発明1又は2を引用するものであるから、本件発明3?9と甲3発明とを対比した場合、いずれの場合であっても、少なくとも、前記2(1)アの相違点3又は前記2(2)の相違点3’の点で相違する。
そうすると、前記(3-1)イ、エ、オ又は(3-2)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明3?9も、甲3発明及び甲第1?2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3-4)まとめ
よって、本件発明1?9は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1?2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括
したがって、前記第3の3の特許法第29条第2項についての特許異議申立理由はいずれも理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるので、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-09-07 
出願番号 特願2016-91165(P2016-91165)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C01B)
P 1 651・ 121- Y (C01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 神野 将志村岡 一磨  
特許庁審判長 原 賢一
特許庁審判官 末松 佳記
金 公彦
登録日 2020-12-08 
登録番号 特許第6805538号(P6805538)
権利者 堺化学工業株式会社
発明の名称 シリカ粒子分散体及び表面処理シリカ粒子  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
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