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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A47C
管理番号 1378122
審判番号 不服2021-2326  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-02-22 
確定日 2021-10-05 
事件の表示 特願2016-146850号「スローダウン機構および折り畳み椅子」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月 1日出願公開、特開2018- 15170号、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 理 由
第1 手続きの経緯
本願は、平成28年7月27日に出願したものであって、その手続の概要は以下のとおりである。

令和 2年 4月13日付け:拒絶理由通知書
同年 6月 3日 :意見書、手続補正書の提出
同年11月19日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 3年 2月22日 :審判請求書、同時に手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項 1?4
・引用文献 1

・請求項 5
・引用文献 1、2

<刊行物等一覧>
引用文献1.特開2011-183878号公報
引用文献2.特開平11-146820号公報

第3 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明5」という。)は、令和3年2月22日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
支持体に対して支持軸で回転可能に支持された回転体が、該支持軸を下側にして起立した第1姿勢から下方の第2姿勢へ向けて姿勢変位する際に、回転体の姿勢変位を制御するスローダウン機構であって、
前記支持体または前記回転体の一方に設けられ、該支持体または該回転体の他方へ向けて前記支持軸の軸方向に突出する係合部と、
前記支持体または前記回転体の他方に、該回転体の第1姿勢から第2姿勢への姿勢変位に伴う前記係合部の相対的な移動経路に沿って設けられた受部と、
前記受部に設けられ、前記回転体の第1姿勢から第2姿勢への姿勢変位に伴う前記係合部の相対的な移動経路上に重なるように突出して、該係合部と当接可能な規制部と、
前記支持体または前記回転体の他方に、前記受部における前記規制部の突出方向と反対側に該規制部に対応する位置を含めて該受部に沿って空間があくように設けられ、前記係合部と規制部との当接に伴う該受部の弾性変形を許容する空間部とを備え、
前記空間部には、該空間部における前記規制部の位置に対応して、前記受部と該受部に対向する前記空間部の開口縁との間に、弾力性を有する弾性部材が挟まれて配置され、
前記弾性部材は、前記受部と別体である
ことを特徴とするスローダウン機構。
【請求項2】
前記係合部は、前記回転体に設けられ、
前記受部、前記規制部および前記空間部は、前記支持体における前記回転体の側面に相対する面をなす支持カバーの一部として形成されている請求項1記載のスローダウン機構。
【請求項3】
前記受部には、前記回転体の第1姿勢から第2姿勢への姿勢変位に伴う前記係合部の相対的な移動方向に離れて、複数の前記規制部が設けられ、
前記規制部は、前記回転体の第1姿勢から第2姿勢への姿勢変位に伴う前記係合部の相対的な移動経路の途中に配置され、
前記第1姿勢側の規制部と比べて前記係合部の移動経路との重なり量が大きくなるように突出する前記第2姿勢側の規制部を備えた請求項1または2記載のスローダウン機構。
【請求項4】
前記弾性部材は、丸柱状の棒状体であり、
前記弾性部材は、前記規制部に対応する位置に前記空間部を挟んで対向配置された保持片の間に挟まれて設置されている請求項1?3の何れか一項に記載のスローダウン機構。
【請求項5】
前記回転体としての座板の姿勢変位を制御する請求項1?4の何れか一項に記載のスローダウン機構を備えた
ことを特徴とする折り畳み椅子。」

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は、当審が付した。以下同様である。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
アームレスト4を、起立した格納姿勢と座席シート2の上面上方に位置する使用姿勢との間取付軸11中心に回動自在に背凭シート3に取付け、前記アームレスト4のアームレストフレーム12と前記背凭フレーム13の取付ブラケット15との間に、少なくとも、前記アームレスト4を格納姿勢に保持するガイド保持機構16を設け、ガイド保持機構16は、前記アームレストフレーム12に設けた前記取付軸11を中心とした円弧移動するガイドピン20と、該ガイドピン20が移動する取付ブラケット15に設けたガイド溝21とを有し、該ガイド溝21内には前記アームレスト4が格納姿勢のとき前記ガイドピン20の移動を規制して保持する移動規制手段30を設け、該移動規制手段30は、前記ガイド溝21内に嵌合する、前記ガイドピン20が当接すると弾性変形して保持する規制部位32を備えた嵌合部材31と、前記取付ブラケット15に取付ける外側取付部36を有して構成した車両用シート。
・・・
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記嵌合部材31の所定位置には、少なくとも、一つの前記規制部位32を設け、該規制部位32は前記ガイド溝21の他方側内周面25に向けて突き出る抵抗部33を有し、該抵抗部33の前記格納姿勢当接部22側の規制部位32には前記ガイド溝21の内周面に向けて前記ガイドピン20を押圧する押圧部35を形成し、前記抵抗部33と前記押圧部35の間に凹部34を形成した車両用シート。

【請求項4】請求項1または請求項2または請求項3において、前記取付ブラケット15に取付ける外側取付部36側の、前記ガイド溝21に嵌合する前記移動規制手段30の嵌合部材31の一部または全部には、前記外側取付部36側のガイド溝21の内周面に当接する当接部40を形成した車両用シート。

【請求項5】請求項4において、前記当接部40は前記規制部位32の前記外側取付部36側に設けた車両用シート。

【請求項6】請求項5において、前記規制部位32は、前記ガイド溝21内に嵌合させた前記嵌合部材31の上下両側に設けた車両用シート。」

「【0006】
請求項1の発明では、移動規制手段30は、ガイド溝21内に嵌合させた弾性変形する規制部位32を設けた嵌合部材31と外側取付部36とを有して構成しているので、構成が簡素であり、部品点数が少なく組立・取付を容易かつ確実にすることができ、弾性変形する規制部位32にガイドピン20が当接するので、ショックのない高級感溢れる操作感を提供でき、また、ガイドピン20は規制部位32の弾力によりガイド溝21に押し付けられ、振動に対する防振性を向上させて異音の発生を防止できる。 また、移動規制手段30は、嵌合部材31をガイド溝21に嵌合させているので、嵌合部材31はガイド溝21の内周面に当接することにより正確な位置決めがされ、しかも、内周面により支持されるので、ガイドピン20を確実に保持することができる。 また、規制部位32が弾性変形してガイドピン20を保持するので、確実に保持できる。 請求項2の発明では、ガイドピン20を移動規制手段30に当接させると、ショックのない高級感溢れる操作感を提供でき、振動による異音の発生を防止でき、また、ガイドピン20をガイド溝21の内周に当接させると、アームレスト4の支持強度を強固にできる。 請求項3の発明では、嵌合部材31に、少なくとも、ガイド溝21内の下部に規制部位32を位置させて構成し、規制部位32は抵抗部33および押圧部35と凹部34とを有しているので、確実にアームレスト4を格納姿勢に保持することができると共に、異音発生を防止できる。 請求項4の発明では、嵌合部材31の当接部40が外側取付部36側(後側内周面24)のガイド溝21の内周面に当接するので、規制部位32の位置決め精度を向上させることができ、しかも、ガイドピン20が係合すると、外側取付部36側(後側内周面24)のガイド溝21の内周面により当接部40を支持するので、ガイドピン20を確実に保持することができる。 請求項5の発明では、当接部40は規制部位32の外側取付部36側(後側内周面24)に設けているので、ガイドピン20の保持に最も有効な場所に設けることができる。 請求項6の発明では、使用姿勢でもアームレスト4を保持および異音の発生を防止できる。 請求項7の発明では、ガイドピン20が格納姿勢当接面22または使用姿勢当接部23に当接する前に屈曲部55の内周面56に当たるので、ショックを吸収して操作感を向上させると共に、アームレスト4の回動停止させたときの異音発生を抑制する。 請求項8の発明では、上下の屈曲部55の先端を連結部58により連結しているので、屈曲部55の位置合わせを容易にして、移動規制手段30の取付を容易にでき、また、連結部58は、ガイドピン20の規制部位32への係合離脱するときの屈曲部55の必要以上の弾性変形を抑制でき、ガイドピン20の係合保持の確実性を向上させることができる。
・・・
【0009】
前記アームレスト4は、任意形状のアームレストフレーム12の左右両側に前記取付軸11の左右両端を突出させ、取付軸11を前記背凭シート3の背凭フレーム13に設けた取付ブラケット15に回転自在に軸装する(理解を容易にするため、左右等の方向を示して説明するが、これにより構成が限定されることはない)。 アームレストフレーム12と取付ブラケット15の間には、アームレスト4の回動を案内しかつ所定高さ位置に保持するガイド保持機構16を設ける(図2)。
【0010】
ガイド保持機構16は、前記アームレストフレーム12に一対設けたガイドピン20を有して構成する。ガイドピン20は、取付ブラケット15の所定位置に形成したガイド溝21に係合(挿通)させる。ガイド溝21は取付軸11中心の略円弧形状に形成し、ガイド溝21の内周のうちの下部に格納姿勢当接面22を形成する(図3)。ガイド溝21の内周のうちの上部に使用姿勢当接面23を形成する。図7のように、ガイド溝21は、取付軸11中心の略円弧形状の一方側内周面(後側内周面)24と、他方側内周面(前側内周面)25を有する。
・・・
【0021】
即ち、ガイド溝21はガイドピン20の直径よりも幅広に開口させ、移動規制手段30は嵌合部材31をガイド溝21に嵌合させてもガイドピン20がガイド溝21内を移動可能にし、移動規制手段30の規制部位32はガイド溝21内に突出して移動するガイドピン20に当接して移動に抵抗を与える。 そのため、移動規制手段30の規制部位32以外の部分の嵌合部材31の前面と前側内周面25との間の間隔を大きくする退避面45としている。
【0022】
また、退避面45にはガイドピン20が接触しないので、退避面45の部分の嵌合部材31の後面(裏面)は後側内周面24に必ずしも接触させる必要はなく、隙間46を形成し、嵌合部材31のガイド溝21への嵌合作業を容易にしている。 なお、隙間46は、ガイドピン20の乗り越えるときの規制部位32の抵抗部33の弾性変形量を大きくさせる作用も期待でき、好適である。
・・・
【0043】
嵌合部材31の後側内周面24側の一部または全部には、ガイド溝21の後側内周面24に当接する当接部40を形成しているから、嵌合部材31は後側内周面24に当接する当接部40と移動規制手段30を取付ける取付具37により位置決めされる。
そのため、嵌合部材31の前面とガイド溝21の前側内周面25との間の間隔を設定どおりにでき、嵌合部材31が、ガイドピン20の乗り越えるときの抵抗感および乗り越えたときの操作感、ガイドピン20の保持のそれぞれの作動を確実にすることができる。
・・・
【0054】
次に、格納姿勢から前方に倒すと、操作力によりガイドピン20が移動規制手段30の規制部位32の抵抗部33を弾性変形させ、ガイドピン20は抵抗部33を乗り越えて、凹部34から離脱し、アームレスト4を座席シート2の上面上方所定位置に近づくと、ガイドピン20がガイド溝21内の上部にある移動規制手段30の規制部位32の抵抗部33に当接するので、ガイドピン20の移動に抵抗が与えられ、ガイドピン20が抵抗部33を乗り越えて、凹部34に嵌合して使用姿勢に保持される。」

また、図7(平成22年10月19日に提出された手続補正書の内容を示す公報18頁に図示される図7)は、以下のとおりである。

図7



(2)引用文献1の認定事項
上記(1)の摘示から、次のことが認定できる。
ア 上記【請求項1】の「使用姿勢との間取付軸11中心に回動自在に」が「使用姿勢との間を取付軸11中心に回動自在に」を意味することは明らかである。

イ 段落【0010】の「他方側内周面(前側内周面)25」との記載から、上記【請求項3】に記載の「他方側内周面25」が「前側内周面25」として特定できる。

ウ 上記【請求項4】の下線部の記載、段落【0006】の「請求項4の発明では、嵌合部材31の当接部40が外側取付部36側(後側内周面24)のガイド溝21の内周面に当接する」との記載及び図7から、嵌合部材31の一部には、ガイド溝21の後側内周面24に当接する当接部40が形成されることが特定できる。

エ 上記【請求項5】の下線部の記載、段落【0006】の「請求項5の発明では、当接部40は規制部位32の外側取付部36側(後側内周面24)に設けている」との記載及び図7から、当接部40は規制部位32の後側内周面24側に設けられていることが特定できる。

オ 図3から、ガイドピン20が、取付ブラケット15へ向けて取付軸11の軸方向に突出することが特定できる。

カ 図7から、嵌合部材31は、ガイド溝21に沿って設けられること、及び、隙間46は嵌合部31に沿って設けられることが特定できる。

キ 図7を踏まえ、段落【0021】の「嵌合部材31の前面と前側内周面25との間の間隔を大きくする退避面45としている。」が「嵌合部材31の前面を前側内周面25との間の間隔を大きくする退避面45としている。」を意味することは明らかである。

ク 段落【0054】の「格納姿勢から前方に倒す」ことが「アームレスト4を格納姿勢から前方に倒す」ことを意味していることは明らかである。

(3)引用発明1
上記(1)及び(2)から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「 アームレスト4を、起立した格納姿勢と座席シート2の上面上方に位置する使用姿勢との間を取付軸11中心に回動自在に背凭シート3に取付け、前記アームレスト4のアームレストフレーム12と前記背凭フレーム13の取付ブラケット15との間に、少なくとも、前記アームレスト4を格納姿勢に保持するガイド保持機構16を設け、ガイド保持機構16は、前記アームレストフレーム12に設けた前記取付軸11を中心とした円弧移動するガイドピン20と、該ガイドピン20が移動する取付ブラケット15に設けたガイド溝21とを有し、該ガイド溝21内には前記アームレスト4が格納姿勢のとき前記ガイドピン20の移動を規制して保持する移動規制手段30を設け、該移動規制手段30は、前記ガイド溝21内に嵌合する、前記ガイドピン20が当接すると弾性変形して保持する規制部位32を備えた嵌合部材31と、前記取付ブラケット15に取付ける外側取付部36を有して構成した車両用シートであって、
ガイド溝21は、取付軸11中心の略円弧形状の後側内周面24と、前側内周面25を有し、
前記嵌合部材31の所定位置には、少なくとも、一つの前記規制部位32を設け、該規制部位32は前記ガイド溝21の前側内周面25に向けて突き出る抵抗部33を有し、該抵抗部33の前記格納姿勢当接部22側の規制部位32には前記ガイド溝21の内周面に向けて前記ガイドピン20を押圧する押圧部35を形成し、前記抵抗部33と前記押圧部35の間に凹部34を形成し、
前記規制部位32は、前記ガイド溝21内に嵌合させた前記嵌合部材31の上下両側に設け、
嵌合部材31の後側内周面24側の一部には、ガイド溝21の後側内周面24に当接する当接部40を形成し、
当接部40は、規制部位32の後側内周面24側に設けられ、
取付軸11を取付ブラケット15に回転自在に軸装し、
ガイドピン20が、取付ブラケット15へ向けて取付軸11の軸方向に突出し、
嵌合部材31は、ガイド溝21に沿って設けられ、
移動規制手段30の規制部位32以外の部分の嵌合部材31の前面を前側内周面25との間の間隔を大きくする退避面45とし、
退避面45の部分の嵌合部材31の後面は隙間46を形成し、
隙間46は嵌合部31に沿って設けられ、
隙間46は、ガイドピン20の乗り越えるときの規制部位32の抵抗部33の弾性変形量を大きくさせる作用も期待でき、
アームレスト4を格納姿勢から前方に倒すと、操作力によりガイドピン20が移動規制手段30の規制部位32の抵抗部33を弾性変形させ、ガイドピン20は抵抗部33を乗り越えて座席シート2の上面上方所定位置に近づき、ガイドピン20がガイド溝21内の上部にある移動規制手段30の規制部位32の抵抗部33に当接するので、ガイドピン20の移動に抵抗が与えられる、
車両用シート。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2に記載された事項
引用文献2には、次の事項が記載されている。
「【0005】
【発明の実施の形態】以下本発明の室内ウォールチェアを図面に示す実施例に従い説明する。図1は本発明の室内ウォールチェアを示し、該室内ウォールチェアは室内壁(9)に固定された1対の側板(1)を有する。該側板(1)の内側下端には孔(3b)と突片(3c)を有する側板金具(3)が固定される。該側板金具(3)の孔(3b)に嵌入される軸(4b)を有する座板金具(4)が設けられる。該座板金具(4)は座板(2)の基部に固定され前記側板金具(3)の孔(3b)に嵌入される軸(4b)を有する。従って座板金具(4)の軸(4b)が側板金具(3)の孔(3b)に嵌入されて座板(2)は回動可能になっている。以上の室内ウォールチェアは不使用時には座板(2)が室内壁(9)に沿って立て起こされた状態Aになっている。次に使用時には座板(2)は軸(4b)を中心に回動され倒された状態Bにされる。この状態は側板金具(3)の突片(3c)が座板(2)の回動を停止し座る際の荷重も負担することになる。」

また、図1、2は以下のとおりである。

図1


図2



第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「取付軸11」は、本願発明1の「支持軸」に相当する。また、引用発明1の「背凭シート3」の「取付ブラケット15」及び「回動自在に背凭シート3に取付け」た「アームレスト4」は、それぞれ、本願発明1の「支持体」及び「回転体」に相当する。また、引用発明1の上記「アームレスト4」及び上記「取付ブラケット15」は、それぞれ、本願発明1の「前記支持体または前記回転体の一方」及び「前記支持体または前記回転体の他方」に相当するといえる。

イ 引用発明1において、「アームレスト4」が「座席シート2の上面上方に位置する使用姿勢」から「取付軸11中心に回動」した姿勢である「起立し」た「格納姿勢」では、「取付軸11」が下側に位置することは明らかである。そうすると、引用発明1の「起立した格納姿勢」及び「座席シート2の上面上方に位置する使用姿勢」は、それぞれ、本願発明1の「支持軸を下側にして起立した第1姿勢」及び「下方の第2姿勢」に相当する。

ウ 引用発明1の「アームレスト4」の「アームレストフレーム12」に「設け」られ、「取付ブラケット15へ向けて取付軸11の軸方向に突出」する「ガイドピン20」は、上記アも踏まえると本願発明1の「前記支持体または前記回転体の一方に設けられ、該支持体または該回転体の他方へ向けて前記支持軸の軸方向に突出する係合部」に相当する。

エ 引用発明1の「嵌合部材31」は「取付ブラケット15に設けたガイド溝」「内に嵌合する」ものであるから、「取付ブラケット15」に設けられているといえる。また、「嵌合部材31は、ガイド溝21に沿って設けられ」、該「ガイド溝21」は「ガイドピン20」が「移動する」ものであるから、「嵌合部材31」は「ガイドピン20」の移動経路に「沿って設けられ」ているといえる。そして、「アームレスト4を格納姿勢から前方に倒す」ことにより「アームレストフレーム12に設けた」「ガイドピン20」が「移動」することは明らかであり、「アームレスト4を格納姿勢から前方に倒すと」、「アームレスト4」が「格納姿勢」から「使用姿勢」へ変位することも明らかである。そうすると、引用発明1の係る構成を有する「嵌合部材31」は、上記ア?ウも踏まえると本願発明1の「前記支持体または前記回転体の他方に、該回転体の第1姿勢から第2姿勢への姿勢変位に伴う前記係合部の相対的な移動経路に沿って設けられた受部」に相当する。

オ 引用発明1の「抵抗部33」は、「アームレスト4を格納姿勢から前方に倒すと」「ガイドピン20」に「弾性変形させ」られるから、「アームレスト4」の「格納姿勢」から「使用姿勢」への変位に伴って「ガイドピン20」に当接可能なものである。また、引用発明1の「抵抗部33」は、「ガイドピン20」が「移動する」「ガイド溝21」の「内周面25に向けて突き出る」ものであるから、「ガイドピン20」の移動経路上に「突き出る」ものであるといえる。そして、引用発明1の「抵抗部33」は、「嵌合部材31」が「有す」るものである。そうすると、引用発明1のかかる構成を有する「抵抗部33」は、上記ア?エも踏まえると本願発明1の「前記受部に設けられ、前記回転体の第1姿勢から第2姿勢への姿勢変位に伴う前記係合部の相対的な移動経路上に重なるように突出して、該係合部と当接可能な規制部」に相当する。

カ 引用発明1の「取付ブラケット15に設けたガイド溝」「内に嵌合する」「嵌合部材31」の「後面」に「形成」された「隙間46」は、「取付ブラケット15」に設けられているといえる。また、引用発明1の「抵抗部33」は「ガイド溝21の前側内周面25に向けて突き出る」から、「嵌合部材31の後面」に「形成」される「隙間46」は、「抵抗部33」の「突き出る」方向と反対側に設けられるものである。そして、引用発明1の「隙間46」は「嵌合部31に沿って設けられ」る。さらに、引用発明1の「隙間46」は、「ガイドピン20の乗り越えるときの規制部位32の抵抗部33の弾性変形量を大きくさせる作用も期待でき」るものであるから、「ガイドピン20」の「抵抗部33」の当接に伴い、「嵌合部材31」の一部分である「規制部位32の抵抗部33」の「弾性変形」を許容するものといえる。ただし、引用発明1の「隙間46」は、「規制部位32以外の部分の嵌合部材31の前面」である「退避面45の部分」の「嵌合部材31の後面」に「形成」されている。そうすると、引用発明1のかかる構成を有する「隙間46」と本願発明1の「前記支持体または前記回転体の他方に、前記受部における前記規制部の突出方向と反対側に該規制部に対応する位置を含めて該受部に沿って空間があくように設けられ、前記係合部と規制部との当接に伴う該受部の弾性変形を許容する空間部」とは、上記ア及びウ?オも踏まえると「前記支持体または前記回転体の他方に、前記受部における前記規制部の突出方向と反対側に該受部に沿って空間があくように設けられ、前記係合部と規制部との当接に伴う該受部の弾性変形を許容する空間部」という点で共通する。

キ 引用発明1において、「アームレスト4を格納姿勢から前方に倒す」際、すなわち、「アームレスト4」が「格納姿勢」から「使用姿勢」へ変位する際には、「ガイドピン20が抵抗部33を乗り越えて座席シート2の上面上方所定位置に近づき、ガイドピン20がガイド溝21内の上部にある移動規制手段30の規制部位32の抵抗部33に当接するので、ガイドピン20の移動に抵抗が与えられる」。ここで、「ガイドピン20」が「ガイド溝21内の上部にある移動規制手段30の規制部位32の抵抗部33に当接」して「移動に抵抗が与えられる」と、「ガイドピン20」を「設けた」「アームレスト4」の「移動」の速度は低下するものと認められる。そうすると、引用発明1のかかる構成を有する「車両用シート」は、上記アも踏まえると本願発明1の「支持体に対して支持軸で回転可能に支持された回転体が、該支持軸を下側にして起立した第1姿勢から下方の第2姿勢へ向けて姿勢変位する際に、回転体の姿勢変位を制御するスローダウン機構」に相当するといえる。

したがって、本願発明1と引用発明1とは、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。
<一致点>
「 支持体に対して支持軸で回転可能に支持された回転体が、該支持軸を下側にして起立した第1姿勢から下方の第2姿勢へ向けて姿勢変位する際に、回転体の姿勢変位を制御するスローダウン機構であって、
前記支持体または前記回転体の一方に設けられ、該支持体または該回転体の他方へ向けて前記支持軸の軸方向に突出する係合部と、
前記支持体または前記回転体の他方に、該回転体の第1姿勢から第2姿勢への姿勢変位に伴う前記係合部の相対的な移動経路に沿って設けられた受部と、
前記受部に設けられ、前記回転体の第1姿勢から第2姿勢への姿勢変位に伴う前記係合部の相対的な移動経路上に重なるように突出して、該係合部と当接可能な規制部と、
前記支持体または前記回転体の他方に、前記受部における前記規制部の突出方向と反対側に該受部に沿って空間があくように設けられ、前記係合部と規制部との当接に伴う該受部の弾性変形を許容する空間部とを備える、
スローダウン機構。」

<相違点1>
上記「空間部」に関して、本願発明1では、「空間部」が、「規制部に対応する位置を含めて」「設けられ」るものであって、「前記空間部には、該空間部における前記規制部の位置に対応して、受部と該受部に対向する前記空間部の開口縁との間に、弾力性を有する弾性部材が挟まれて配置され、前記弾性部材は、前記受部と別体である」のに対して、引用発明1では、「隙間46」は、「移動規制手段30の規制部位32以外の部分の嵌合部材31の前面を前側内周面25との間の間隔を大きくする退避面45とし」た上で「退避面45の部分の嵌合部材31の後面」に「形成」されているものであって、「嵌合部材31の後側内周面24側の一部には、ガイド溝21の後側内周面24に当接する当接部40を形成し」、「当接部40は、規制部位32の後側内周面24側に設けられ」ている点。

(2)相違点についての判断
相違点1について検討する。
引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明1の構成を有するものとするためには、少なくとも、嵌合部材31における、抵抗部33を有する規制部位32の後側内周面24側に形成される当接部40の構成を削除することで当該抵抗部33を有する規制部位32の後側内周面24側にも隙間を形成するとともに、さらに、該隙間に別体の弾性部材を新たに設ける必要がある。しかしながら、引用文献1には、そのようにする動機付けの根拠となる事項は記載も示唆もされていない。
また、上記相違点1に係る本願発明1の構成は、引用文献2にも記載されておらず、また、その他に公知技術であるとする証拠はない。
さらに、当該構成が技術常識又は周知技術であると認めるに足る証拠もないことから、引用発明1において上記構成を採用することが設計的事項であるともいえない。
また、本願の段落【0027】の「弾性部材56は、得るべき抵抗との関係で調整される」との記載及び段落【0031】に「前記スローダウン機構は、係合部38との当接により規制部44,46から受部42にかかる力を、規制部44,46に対応して空間部48に配置された弾性部材56で弾力的に受けるので、座板24を適切に受け止めることができると共に、係合部38や規制部44,46や受部42をより破損し難くすることができる。特に、弾性部材56として受部42よりも弾性率が高いものを用いることで、樹脂製の受部42の撓み易さを補償して、係合部38と規制部44,46とが当接した際に適切な抵抗を与えることができる。」との記載からもわかるように、本願発明1は、上記相違点1に係る構成の「前記弾性部材は、前記受部と別体である」との構成により、「受部」を耐久性がある素材とするなどの自由度が高くなり、「弾性部材」の選択によって「係合部」に対する適当な抵抗の付与を担保することができるという有利な作用効果を奏するものである。
したがって、本願発明1は、当業者であっても、引用発明1に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2?5について
本願発明2?5は、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに本願請求項2?5において特定される発明特定事項により限定したものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

第6 原査定について
令和3年2月22日に提出された手続補正書による補正により、本願発明1?5は、上記相違点1に係る本願発明1の構成を有するものとなっている。
そのため、上記第5で述べたとおり、本願発明1は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえず、本願発明2?5は、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、原査定の理由によっては、本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。




 
審決日 2021-09-14 
出願番号 特願2016-146850(P2016-146850)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A47C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 畔津 圭介
八木 誠
発明の名称 スローダウン機構および折り畳み椅子  
代理人 多賀 久直  
代理人 多賀 久直  

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