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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61M
管理番号 1378129
審判番号 不服2019-15869  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-11-26 
確定日 2021-09-15 
事件の表示 特願2018-518519「鼻腔洗浄カテーテル」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月20日国際公開、WO2017/063152、平成30年10月18日国内公表、特表2018-530391〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)10月14日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成31年 1月17日付け:拒絶理由通知
平成31年 4月19日 :意見書の提出
平成31年 4月19日 :手続補正書の提出
令和 1年 7月31日付け:拒絶査定
令和 1年11月26日 :審判請求
令和 2年10月 2日付け:拒絶理由通知
令和 2年12月24日 :意見書の提出
令和 2年12月24日 :手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「カテーテル本体と、該カテーテル本体の外側に連結されるコネクタを含み、シリンジを組み合わせて洗浄液を注入し、鼻腔と鼻咽頭を洗浄できる鼻腔洗浄カテーテルであって、該カテーテル本体が、シリコン、ラテックス、熱可塑性エラストマーのいずれか、またはその他柔軟で弾性を備えた材質で成り、患者が自ら鼻腔及び鼻咽頭に配置して操作可能であり、該カテーテル本体が封鎖端と、該封鎖端の反対側の開放端を備え、かつ該封鎖端近くに複数の側面孔が形成され、前記複数の側面孔の総面積が4.123mm^(2)以下であって、注入速度10cc/secとすることにより、前記側面孔から高さ30cm以上の水柱を噴出可能であることを特徴とする、鼻腔洗浄カテーテル。」

第3 拒絶の理由
令和2年10月2日付けで当審が通知した本願発明に係る拒絶理由は、次のとおりのものである。
本願発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2014-18655号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載事項、認定事項
(ア)引用文献1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。
ア 「【0001】
本発明は洗鼻装置に関し、特に携帯して自分で操作でき、組立て/分解が便利な鼻腔洗浄カテーテル装置に関する。」
イ 「【0012】
本発明の鼻腔洗浄カテーテル装置の第一実施例を示す図4に示すように、鼻腔洗浄カテーテル装置は、カテーテルユニット3、連接ユニット4、注射ユニット5からなる。
【0013】
該カテーテルユニット3は、カテーテル本体31、及び該カテーテル本体31上に形成する複数の開口部32を備える。
【0014】
該カテーテル本体31は、開放端311、及び該開放端311の反対側の封鎖端312を備える。
【0015】
しかも、該封鎖端312はわずかに湾曲状を呈し、これにより該カテーテル本体31は、曲がりながら、鼻腔の深い位置へと進入することができる。」
ウ 「【0018】
本発明の該カテーテル本体31の材質は、シリコンゴム或いはラテックスゴム等の軟質材料で、これにより湾曲した鼻腔中でスムーズに進行し、容易に前進することができる。」
エ 「【0020】
該連接ユニット4と該注射ユニット5を連接し、連接部41及び組合せ部42を備え、該連接部41の一端には、該開放端311と嵌めて接続する連接細管411を設置し、反対の他方端は該組合せ部42と連接する。」
オ 「【0027】
該複数の開口部32は、直径0.03cm以下の極細金属針を刺して形成し、各0.1cmから0.2cmを間隔として、該カテーテル管壁周面上を取り囲み開設する。
【0028】
該カテーテル本体31の全長は17cmで、前端の洗浄セクション315の長さ5cm、及び該鼻前庭E中に位置する伸入セクション314の長さ4cmを除いた、残り8cmの連接セクション313は、外にあって、使用者が手で操作するために用い、必要な時には、鼻咽頭部Iに深く入れ、粘液性鼻汁を洗浄することができる。
【0029】
実際の実施時には、使用者は、先ず、該カテーテル本体31の洗浄セクション315を、該上鼻腔F1或いは該中鼻腔G1中に挿入し、該注射シリンジ51中に洗浄液体を充填し、次に、該圧迫部品52を利用して、該注射シリンジ51中の洗浄液体を押し出す。
【0030】
これにより、該洗浄液体は、該カテーテル本体31の洗浄セクション315上の開口部32から噴出し、該カテーテル本体31に対して垂直に近い多角度の多重細小水柱を形成する。
【0031】
該カテーテル本体31に対して垂直に近いため、注射洗浄液の瞬間に、該カテーテル本体31は、前方へ、或いは後方へと移動しにくく、洗浄液は、瞬間的に鼻腔に充満し、最適な洗浄効果を達成することができる。
【0032】
該洗浄セクション315は、鼻腔の上鼻腔F1中に位置するため、噴出した水は、上鼻腔F1にたまった粘液性鼻汁或いはこびりつきを直接洗浄することができる。
【0033】
同様の原理で、該洗浄セクション315が、該中鼻腔G1或いは該下鼻腔H1中に位置する時には、噴出した水は、該中鼻腔G1及び該下鼻腔H1中にたまった粘液性鼻汁或いはこびりつきを直接洗浄することができる。」
カ 「【0037】
しかも、水柱は長さ30cmを超過するため、細い隙間を通り深いところまで到達するチャンスがあり、粘液性鼻汁或いは強く付着することによるつまり現象を改善することができる。
【0038】
さらに、水柱は30cmに達するが、同時に、多重の微小水柱として噴出するため、平均圧力は大きくなく、粘膜を損傷することはなく、該カテーテル本体31の封鎖端312は開口していないので、該カテーテル本体31を鼻咽頭部Iの深い位置へと進入しても呼吸もし難くならない。」
キ 「【図4】


ク 「【図7】


ケ 上記イ【0014】、エ【0020】より、連接ユニット4はカテーテル本体31に接続されると認められる。
コ 上記イ【0014】、オ【0027】、ク【図7】より、複数の開口部32は封鎖端312近くの管壁周面上に形成されていることが理解できる。

(イ)上記記載事項ア-ク及び認定事項ケ-コから、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる
a 引用文献1に記載された技術は、鼻腔洗浄カテーテル装置に関するものであり(ア【0001】)、特に、カテーテルユニット3及び連接ユニット4に関するものである(イ【0012】)。
b カテーテルユニット3及び連接ユニット4は、カテーテル本体31と、カテーテル本体31に接続される連接ユニット4を含み(イ【0012】、ケ)、注射ユニット5を組み合わせて洗浄液体を押し出して(オ【0029】)、鼻腔と鼻咽頭を洗浄できるカテーテルユニット3及び連接ユニット4である(オ【0028】、【0031】)。
c カテーテル本体31が、シリコンゴム或いはラテックスゴム等の軟質材料で成り(ウ【0018】)、使用者が鼻腔及び鼻咽頭に挿入可能である(オ【0028】-【0029】)。
d カテーテル本体31が、開放端311と、該開放端311の反対側の封鎖端312を備え(イ【0014】)、かつ封鎖端312近くの管壁周面上に複数の開口部32が形成されている(コ)。
e 開口部32から長さ30cm以上の水柱を噴出可能である(オ【0030】-【0033】、カ【0037】-【0038】)。

2 引用発明
上記1(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「カテーテル本体31と、該カテーテル本体31に接続される連接ユニット4を含み、注射ユニット5を組み合わせて洗浄液体を押し出して、鼻腔と鼻咽頭を洗浄できるカテーテルユニット3及び連接ユニット4であって、該カテーテル本体31が、シリコンゴム或いはラテックスゴム等の軟質材料で成り、使用者が鼻腔及び鼻咽頭に挿入可能であり、該カテーテル本体31が開放端311と、該開放端311の反対側の封鎖端312を備え、かつ該封鎖端312近くの管壁周面上に複数の開口部32が形成され、前記開口部32から長さ30cm以上の水柱を噴出可能である、カテーテルユニット3及び連接ユニット4。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「カテーテル本体31」は本願発明の「カテーテル本体」に相当し、以下同様に、「カテーテル本体31に接続される連接ユニット4」は「カテーテル本体の外側に連結されるコネクタ」に、「注射ユニット5」は「シリンジ」に、「洗浄液体」は「洗浄液」に、「洗浄液体を押し出して」は「洗浄液を注入し」に、「カテーテルユニット3及び連接ユニット4」は「鼻腔洗浄カテーテル」に、「シリコンゴム或いはラテックスゴム等の軟質材料」は「シリコン、ラテックス、熱可塑性エラストマーのいずれか、またはその他柔軟で弾性を備えた材質」に、「使用者」は「患者」に、「使用者が鼻腔及び鼻咽頭に挿入可能であり」は「患者が自ら鼻腔及び鼻咽頭に配置して操作可能であり」に、「開放端311」は「開放端」に、「封鎖端312」は「封鎖端」に、「封鎖端312近くの管壁周面上に複数の開口部32が形成され」は「封鎖端近くに複数の側面孔が形成され」に、「開口部32」は「側面孔」に、それぞれ相当する。また、「長さ30cm以上の水柱を噴出可能」とは、技術常識からみて、噴出する際の圧力を大気圧下での水柱の高さで表す(例えば、mmH_(2)O)ものであるから、引用発明の「長さ30cm以上の水柱」は本願発明の「高さ30cm以上の水柱」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「カテーテル本体と、該カテーテル本体の外側に連結されるコネクタを含み、シリンジを組み合わせて洗浄液を注入し、鼻腔と鼻咽頭を洗浄できる鼻腔洗浄カテーテルであって、該カテーテル本体が、シリコン、ラテックス、熱可塑性エラストマーのいずれか、またはその他柔軟で弾性を備えた材質で成り、患者が自ら鼻腔及び鼻咽頭に配置して操作可能であり、該カテーテル本体が封鎖端と、該封鎖端の反対側の開放端を備え、かつ該封鎖端近くに複数の側面孔が形成され、前記側面孔から高さ30cm以上の水柱を噴出可能である、鼻腔洗浄カテーテル。」
という点で一致し、以下の点で相違する。

相違点
高さ30cm以上の水柱を噴出可能とする条件について、本願発明は、複数の側面孔の総面積が4.123mm^(2)以下であって、注入速度10cc/secとしたのに対し、引用発明は、開口部32の総面積、注入速度をそのように特定していない点。

第6 判断
上記相違点について、検討する。
水柱の高さは、開口部32からの噴出速度によって一義的に決まることは、本願明細書の【0035】にも記載されているとおり、当業者にとって自明な事項である。
具体的には、簡便に高さ30cm以上の水柱を噴出可能とするために、初等物理で習うエネルギー保存則を用いて噴出速度を求めることは、当業者にとって自明である。すなわち、運動エネルギー(1/2mv^(2)。mは物体の質量。vは物体の速度。)と位置エネルギー(mgh。gは重力加速度。hは物体の高さ。)の和は一定であることから、噴出時の洗浄液体のエネルギーE_(1)と最大高さに到達したときの洗浄液体のエネルギーE_(2)とは等しくなる。この場合、m_(1)を洗浄液体の質量、v_(1)を開口部32からの噴出速度とし、開口部の高さを0とすると、水柱の高さが30cm(0.3m)とは、洗浄液体が開口部32から30cmの高さで速度が一端0となることであるから、
E_(1)=1/2m_(1)v_(1)^(2)+m_(1)g×0
E_(2)=1/2m×0^(2)+m_(1)g×(0+0.3)
E1=E2
1/2m_(1)v_(1)^(2)=m_(1)g×0.3
1/2v_(1)^(2)=0.3g
そして、g=9.8m/s^(2)とすると、
v_(1)=√(0.6×9.8)
_( )=2.4248・・・(m/s)
=242.48・・・(cm/s)
となり、開口部32からの噴出速度が約2.42m/s以上であると、30cm以上の高さの水柱を噴出可能となることが分かる。
そして、開口部32からの噴出速度(cm/s)は、開口部32を通過する流量(cc/s=cm^(3)/s)を開口部32の総面積(cm^(2))で割ることで求められることも、当業者にとって自明なことである。
よって、引用発明においても、上記噴出速度となるように、開口部32を通過する流量、すなわち注入速度に応じて開口部32の総面積を決定することは、当業者が当然なし得ることである。
ここで、本願発明において、注入速度として10cc/secを選択することの技術的意義は、本願の発明の詳細な説明の【0035】に、取得容易性や操作性等を考慮して10ccのシリンジで洗浄液を注入するためであることが記載されている。しかしながら、【0035】にも記載されているとおり、注入操作は手動で行うものであり、人によってバラツキが多いものであるから、10ccのシリンジを用いることにより10cc/secの注入速度となる、というものではない。また、上記【0035】には、10ccのシリンジを用いた場合に、注入速度の中間値が10cc/secとなることが記載されているが、実験結果等の証拠や当該数値の取得条件等は、何ら開示されていない。
すなわち、注入速度として10cc/secを選択することと10ccのシリンジを用いることを直接的に関連づける証拠はなく、10ccのシリンジを用いた時に注入速度が10cc/sec程度になるであろうと仮定している程度のことといえる。よって、注入速度として10cc/secを選択することの技術的意義は認められない。
そして、引用発明においても、注射ユニット5として、取得容易性、携帯性、操作性を考慮した大きさの注射ユニット5を選択することは、当業者が通常行うべきことであり、その注射ユニット5による注入速度を適宜仮定して、その結果開口部32の総面積を決定することは、当業者が適宜なし得ることであり、その際注入速度として10cc/secと仮定することは、当業者が適宜選択し得る設計変更にすぎない。
その結果として、開口部32の総面積を、10(cc/s=cm^(3)/s)÷242.48・・・(cm/s)=0.04123・・・(cm^(2))=4.123・・・(mm^(2))以下とすることも、同様に当業者が適宜選択し得る設計変更にすぎない。

したがって、上記相違点に係る本願発明の構成は、引用発明に基いて当業者が容易に想到し得ることである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-03-31 
結審通知日 2021-04-06 
審決日 2021-04-27 
出願番号 特願2018-518519(P2018-518519)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川島 徹  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 倉橋 紀夫
宮崎 基樹
発明の名称 鼻腔洗浄カテーテル  
代理人 あいわ特許業務法人  
代理人 あいわ特許業務法人  
代理人 あいわ特許業務法人  
代理人 あいわ特許業務法人  

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