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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1378132
審判番号 不服2020-11594  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-08-20 
確定日 2021-09-15 
事件の表示 特願2018- 9428「多層半導体デバイス作製時の低温層転写方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 5月31日出願公開、特開2018- 85536〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年12月23日(パリ条約による優先権主張2012年12月28日:米国)を国際出願日とする出願(特願2015-550735号)の一部を平成30年1月24日に新たな特許出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年1月30日 :手続補正書の提出
平成30年9月25日付け :拒絶理由通知書
平成31年4月1日 :意見書,手続補正書の提出
令和元年9月10日付け :拒絶理由通知書
令和元年12月13日 :意見書,手続補正書の提出
令和2年4月15日付け :拒絶査定
令和2年8月20日 :審判請求書,手続補正書の提出
令和2年9月28日 :手続補正書の提出(方式)(審判請求書の請求の理由の補正)


第2 令和2年8月20日にされた手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
令和2年8月20日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
ア 本件補正は,本件補正前の請求項1?15を本件補正後の請求項1?14とする補正を含むものであって,本件補正前の請求項1及び本件補正後の請求項1は次のとおりである。(下線は補正箇所を示す。)

(ア)本件補正前の請求項1
「【請求項1】
接合構造体を作製する方法であって,
(a)単結晶シリコン基板の前面からヘリウムイオンを,注入エネルギーが20keVから40keVの範囲で,かつ全体のヘリウムイオン注入量が0.5×10^(16)個(ヘリウムイオン数)/cm^(2)から2×10^(16)個(ヘリウムイオン数)/cm^(2)の範囲で,注入するステップと,
単結晶シリコン基板は,一方がその前面で,他方がその後面である,ほぼ平行な2つの主面と,前面と後面を接続する周縁端部と,前面および後面の間にある中央面とを有し,
ヘリウムイオンは,前面から中央面に向かって測定したときに,約0.02ミクロン?1ミクロンの間の平均深度D_(1)まで注入され,
(b)単結晶シリコン基板の前面から水素イオンを,注入エネルギーが30keVから50keVの範囲で,かつ全体の水素イオン注入量が0.5×10^(16)個(水素イオン数)/cm^(2)から3×10^(16)個(水素イオン数)/cm^(2)の範囲で,注入するステップと,
水素イオンは,単結晶シリコン基板の前面から中央面に向かって測定したときに,約0.02ミクロン?1ミクロンの間の平均深度D_(2)まで注入され,
平均深度D_(1)および平均深度D_(2)は約1000オングストローム以内であり,
ステップ(c)の前に,前記ステップ(a)から前記ステップ(b)の順序で行われ,(c)単結晶シリコン基板内に剥離面を形成するために,約200℃?約350℃の温度で,約2時間?約10時間,単結晶シリコン基板をアニール処理するステップと,
剥離面は,平均深度D_(1)および平均深度D_(2)と等しい深度であるか,平均深度D_(1)と平均深度D_(2)との間の深度を有し,
(d)接合構造体を形成するために,剥離面を内在する単結晶シリコン基板の前面をキャリア基板に接合するステップと,
キャリア基板は,シリコン,サファイア,クォーツ,ガリウムヒ素,シリコンカーバイド,シリコンゲルマニウム,およびゲルマニウムからなる群から選択された材料で構成され,
(e)約150℃?約350℃の温度で約1時間?約5時間,接合構造体をアニール処理するステップとを有し,
前記ステップ(a)から前記ステップ(e)の順序で行うことを特徴とする方法。」

(イ)本件補正後の請求項1
「【請求項1】
接合構造体を作製する方法であって,
(a)単結晶シリコン基板の前面からヘリウムイオンを,注入エネルギーが20keVから40keVの範囲で,かつ全体のヘリウムイオン注入量が0.5×10^(16)個(ヘリウムイオン数)/cm^(2)から2×10^(16)個(ヘリウムイオン数)/cm^(2)の範囲で,注入するステップと,
単結晶シリコン基板は,一方がその前面で,他方がその後面である,ほぼ平行な2つの主面と,前面と後面を接続する周縁端部と,前面および後面の間にある中央面とを有し,
ヘリウムイオンは,前面から中央面に向かって測定したときに,約0.02ミクロン?1ミクロンの間の平均深度D_(1)まで注入され,
(b)単結晶シリコン基板の前面から水素イオンを,注入エネルギーが30keVから50keVの範囲で,かつ全体の水素イオン注入量が0.5×10^(16)個(水素イオン数)/cm^(2)から3×10^(16)個(水素イオン数)/cm^(2)の範囲で,注入するステップと,
水素イオンは,単結晶シリコン基板の前面から中央面に向かって測定したときに,約0.02ミクロン?1ミクロンの間の平均深度D_(2)まで注入され,
平均深度D_(1)および平均深度D_(2)は500オングストローム以内であり,
ステップ(c)の前に,前記ステップ(a)から前記ステップ(b)の順序で行われ,
(c)単結晶シリコン基板内に剥離面を形成するために,約200℃?約350℃の温度で,約2時間?約10時間,単結晶シリコン基板をアニール処理するステップと,
剥離面は,平均深度D_(1)および平均深度D_(2)と等しい深度であるか,平均深度D_(1)と平均深度D_(2)との間の深度を有し,
(d)接合構造体を形成するために,剥離面を内在する単結晶シリコン基板の前面をキャリア基板に接合するステップと,
キャリア基板は,シリコン,サファイア,クォーツ,ガリウムヒ素,シリコンカーバイド,シリコンゲルマニウム,およびゲルマニウムからなる群から選択された材料で構成され,
(e)約150℃?約350℃の温度で約1時間?約5時間,接合構造体をアニール処理するステップとを有し,
前記ステップ(a)から前記ステップ(e)の順序で行うことを特徴とする方法。」

イ そして,請求項1に対する本件補正は以下の補正事項をその内容とするものである。
(補正事項1)本件補正前の請求項1の「平均深度D_(1)および平均深度D_(2)は約1000オングストローム以内であり」を,本件補正後の請求項1の「平均深度D_(1)および平均深度D_(2)は500オングストローム以内であり」に補正すること。

ウ また,本件補正のうち,補正前の請求項2?15を補正後の2?14とする補正は,以下の補正事項を含むものである。
(補正事項2)本件補正前の請求項2の「平均深度D_(1)および平均深度D_(2)は約1000オングストローム以内であり」を,本件補正後の請求項2の「平均深度D_(1)および平均深度D_(2)は500オングストローム以内であり」に補正すること。
(補正事項3)本件補正前の請求項12を削除し,本件補正前の請求項13?15を本件補正後の請求項12?14とすること。

2.新規事項追加の有無及び補正目的の適否について
上記補正事項1?3について,新規事項追加の有無及び補正目的の適否を検討する。
ア 補正事項1は,補正前の請求項1の「1000オングストローム以内」を「500オングストローム以内」に限定するものであるから,特許請求の範囲の限定的減縮に該当する。そして,補正事項1は本願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面(以下「当初明細書等」という。)の段落0020の記載に基づくものである。

イ 補正事項2は,補正前の請求項2の「1000オングストローム以内」を「500オングストローム以内」に限定するものであるから,特許請求の範囲の限定的減縮に該当する。そして,補正事項2は当初明細書等の段落0020の記載に基づくものである。

ウ 補正事項3は,補正前の請求項12の削除を目的とするものに該当する。そして,補正事項3は当初明細書等に記載された事項の範囲内でしたものである。

以上ア?ウのとおり,上記補正事項1?3は,特許法17条の2第3項の規定に適合し,同法17条の2第5項1号及び2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

3.独立特許要件について
上記2.のとおり,請求項1に対する本件補正は特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含んでいる。そこで,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて,以下で更に検討する。

3.1 本件補正後の請求項1に係る発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明1」という。)は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1(上記1.(イ))に記載されたとおりのものである。

3.2 引用例の記載
(1)引用例1の記載
ア 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の原出願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった,国際公開第2010/137683号(以下「引用例1」という。)には,図1とともに次の記載がある。(下線は当審で付加。以下同じ。)

「[0006] 本発明者は,SiGen法の低温処理の場合,機械的剥離時に基板が破壊することを見出し,その原因が弱化層の脆化(イオン注入層の元素の結合の脆化)が足りないと考えた。本発明は,ドナー基板のイオン注入層を予め脆化させ,ハンドル基板と貼り合わせた後の熱処理を低減化又は低温化することにより,熱処理中の破損を防止し,スムースに剥離でき,良質なSOI基板を製造することを目的とする。」
「[0007] 本発明者は,ハンドル基板と貼り合わせる前にナー基板(審決註:ドナー基板の誤記)のイオン注入層を加熱処理することにより脆化を促進すれば,ハンドル基板と貼り合わせた後の熱処理を低減化又は低温化できることを見出し,本発明に到達した。
本発明によれば,単結晶シリコン基板であるドナー基板の表面から,水素イオン又は希ガスイオンを注入してイオン注入層を設けるステップと,上記イオン注入層を有するドナー基板に第1の熱処理を施すステップと,上記第1の熱処理を施されたドナー基板のイオン注入された表面と,ハンドル基板の表面との双方もしくは片方に表面活性化処理を施すステップと,その後,上記ドナー基板のイオン注入された表面と,上記ハンドル基板の上記表面とを貼り合わせるステップと,貼り合わされた基板に第2の熱処理を施すステップと,上記第2の熱処理を施された貼り合わせ基板の上記イオン注入層に機械的衝撃を加えて該水素イオン注入層にそって剥離して上記ハンドル基板にシリコン薄膜を転写する剥離ステップとを含んでなるSOI基板の製造方法を提供できる。」
「[0010] ハンドル基板である絶縁性基板は,特に限定されないが,石英基板,サファイア基板,アルミナ基板,SiC基板,ホウ珪酸ガラス基板,及び結晶ガラス基板からなる群から選ばれる。
絶縁性基板の好ましい厚さは,特に限定されないが,SEMI等で規定されているシリコン基板の厚さに近いものが望ましい。これは半導体装置はこの厚さの基板を扱うように設定されていることが多いためである。この観点から好ましくは300?900μmである。
[0011] ドナー基板である単結晶シリコン基板としては,特に限定されないが,例えばチョクラルスキー法により育成された単結晶をスライスして得られたもので,例えば直径が100?300mm,導電型がP型またはN型,抵抗率が10Ω・cm程度のものが挙げられる。
単結晶シリコン基板の表面は,あらかじめ薄い絶縁膜を形成しておくことが好ましい。絶縁膜を通してイオン注入を行えば,注入イオンのチャネリングを抑制する効果が得られるからである。絶縁膜としては,好ましくは50?500nmの厚さを有するシリコン酸化膜が好ましい。これはあまり薄いと,膜厚の酸化膜厚の制御が難しく,またあまり厚いと時間が掛かりすぎるためである。シリコン酸化膜は,一般的な熱酸化法により形成することができる。
[0012] 以下,本発明の製造方法を図1に示す例に基づき説明するが,本発明はこれに限定されるものでない。
図1(a)の単結晶シリコン基板(ドナー基板)2は,オプションとして図1(b)に示すように,単結晶シリコン基板の表面にシリコン酸化膜3を形成させてもよい。図1(c)に示すように,単結晶シリコン基板(ドナー基板)2の表面から水素イオン又は希ガスイオンDを注入し,基板中にイオン注入層4を形成する。
[0013] イオン注入層4の形成方法は,特に限定されず,例えば,単結晶シリコン基板の表面から所望の深さにイオン注入層を形成できるような注入エネルギーで,所定の線量の水素イオン又は希ガスイオンを注入する。このときの条件として,例えば注入エネルギーは50?100keV,注入線量は2×10^(16)?1×10^(17)/cm^(2)とできる。注入される水素イオンとしては,2×10^(16)?1×10^(17)(atoms/cm^(2))のドーズ量の水素イオン(H^(+)),又は1×10^(16)?5×10^(16)(atoms/cm^(2))のドーズ量の水素分子イオン(H_(2)^(+))が好ましい。特に好ましくは,8.0×10^(16)(atoms/cm^(2))のドーズ量の水素イオン(H^(+)),又は4.0×10^(16)(atoms/cm^(2))のドーズ量の水素分子イオン(H_(2)^(+))である。
イオン注入された基板表面からイオン注入層までの深さは,絶縁性基板上に設けるシリコン薄膜の所望の厚さに依存するが,好ましくは300?500nm,更に好ましくは400nm程度である。また,イオン注入層の厚さは,機械衝撃によって容易に剥離できる厚さが良く,好ましくは200?400nm,更に好ましくは300nm程度である。
[0014] 図1(d)に示すように,イオン注入層4を設けた単結晶シリコン基板2を,ドナー基板1と貼り合わせる前に熱H1による熱処理(第1の熱処理)を行なう。第1の熱処理は,注入したガスイオンのガスが凝集して表面がふくらむブリスターやマクロバブルなどの基板表面の形状変化が発生しない温度を選択する。基板表面の形状変化が発生し,表面に凸凹が発生すると,貼り合わせ時に基板同士が密着できない部分が発生し,ボイドと呼ばれる薄膜の転写されない領域が発生するからである。第1の熱処理は,好ましくは150℃以上,より好ましくは200℃以上であり,好ましくは350℃以下,より好ましくは300℃以下であるが,基板表面の形状が変わらない範囲で出来るだけ高温が良い。たとえば,好ましくは150?350℃,より好ましくは150?300℃,さらに好ましくは200?300℃である。第1の熱処理の時間は,温度により変わるが,例えば1?24時間である。
[0015]
図1には示さないが,第1の熱処理後で貼り合わせの前に,単結晶シリコン基板2のイオン注入された表面と,ハンドル基板1の表面との双方もしくは片方に表面活性化処理を施す。表面活性化処理は,表面のOH基を増加させて活性化させる処理であり,例えばプラズマ処理,オゾン処理,又はこれらの組合せが挙げられ,好ましくはプラズマ処理である。
プラズマで処理をする場合,例えば,真空チャンバ中に単結晶シリコン基板及び/又はハンドル基板を載置し,プラズマ用ガスを導入した後,100W程度の高周波プラズマに5?10秒程度さらし,表面をプラズマ処理する。プラズマ用ガスとしては,単結晶シリコン基板を処理する場合,表面を酸化する場合には酸素ガスのプラズマ,酸化しない場合には水素ガス,アルゴンガス,又はこれらの混合ガスあるいは水素ガスとヘリウムガスの混合ガス等を挙げることができる。ハンドル基板を処理する場合は,いずれのガスでもよい。
オゾンで処理をする場合は,大気を導入したチャンバ中に単結晶シリコン基板及び/又はハンドル基板を載置し,窒素ガス,アルゴンガス等のプラズマ用ガスを導入した後,高周波プラズマを発生させ,大気中の酸素をオゾンに変換することで,表面をオゾン処理する。プラズマ処理とオゾン処理とはどちらか一方又は両方行なうことができる。
このプラズマ及び/又はオゾンで処理することにより,単結晶シリコン基板2及び/又はハンドル基板の表面の有機物が酸化して除去され,さらに表面のOH基が増加し,活性化する。処理は単結晶シリコン基板,ハンドル基板の両方ともに行なうのがより好ましいが,いずれか一方だけ行なってもよい。
[0016] 次に,図1(e)に示すように,単結晶シリコン基板2のイオン注入された表面とハンドル基板1の表面とを貼り合わせる。単結晶シリコン基板のイオン注入面または絶縁性基板の表面の少なくとも一方が活性化処理されているため,より強く接合できる。なお,単結晶シリコン基板2のシリコン酸化膜3は,ハンドル基板1と貼り合わせる前に,その酸化膜をエッチングや研磨等により,薄くあるいは除去してもよい。
[0017] 貼り合わせ後に,図1(f)に示すように熱H2による熱処理(第2の熱処理)を行なう。第2の熱処理により,単結晶シリコン基板2とハンドル基板1の結合が強化される。第2の熱処理は,貼り合わせ基板が熱膨率の差の影響(熱応力)で破損しない温度を選択する。第2の熱処理は,好ましくは150℃以上,より好ましくは200℃以上であり,好ましくは350℃以下,より好ましくは300℃以下,さらに好ましくは250℃以下である。たとえば,好ましくは150?350℃,より好ましくは150?300℃,さらに好ましくは150?250℃である。ハンドル基板が石英基板の場合(SOQの作製)は,好ましくは350℃以下,より好ましくは150?350℃,さらに好ましくは150?300℃である。ハンドル基板がサファイア基板の場合(SOSの作製)は,好ましくは300℃以下,より好ましくは150?300℃,さらに好ましくは150?200℃である。第2の熱処理の時間は,温度により変わるが,例えば1?24時間である。
[0018] 第2の熱処理後,図1(g)に示すように,貼り合わせ基板のイオン注入層4に機械的衝撃等の機械的力を加えてイオン注入層4にそって剥離し,シリコン薄膜2A(シリコン酸化膜が使用され,除去されていない場合はシリコン酸化膜3Aを有する)をハンドル基板1に転写する。
イオン注入層4に衝撃等を与えて機械的剥離を行なうので,加熱に伴う熱歪,ひび割れ,貼り合わせ面の剥離等が発生するおそれがない。剥離は,イオン注入層にそって貼り合わせ基板の一端から他端に向かうへき開によるものが好ましい。
イオン注入層に衝撃を与えるためには,例えば,ガスや液体等の流体のジェットを接合した基板の側面から連続的または断続的に吹き付ければよいが,衝撃により機械的剥離が生じる方法であれば特に限定はされない。 貼り合わせ基板の単結晶シリコン基板側に補強材を配置して機械的衝撃を加えることが好ましい。上記補強材としては,好ましくは,保護テープ,静電チャック及び真空チャックからなる群から選択される。単結晶シリコン基板側に割れ防止のために保護テープ5を単結晶シリコン基板側に貼り付けて剥離を行う方法や,または静電チャック又は真空チャックに単結晶シリコン基板側を密着させて剥離を行うことでより確実に剥離を行うことができる。
保護テープは,特に材質,厚さ等に限定されず,半導体製造工程で用いられるダイシングテープやBGテープ等が使用できる。静電チャックは,特に限定されず,炭化ケイ素や窒化アルミニウム等のセラミックス静電チャック等が挙げられる。真空チャックは,特に限定されず,多孔質ポリエチレン,アルミナ等の真空チャックが挙げられる。」
引用例1の図1として,以下の図面が示されている。


イ 以上の摘記を整理すると,引用例1には以下の事項が記載されているものと理解できる。
a 単結晶シリコン基板(ドナー基板)2の表面から水素イオンを注入し,基板中にイオン注入層4を形成すること。(段落0012)
b イオン注入エネルギーは50?100keV,注入される水素イオンのドーズ量は,2×10^(16)?1×10^(17)(atoms/cm^(2))であること。(段落0013)
c イオン注入された基板表面からイオン注入層までの深さは,絶縁性基板上に設けるシリコン薄膜の所望の厚さに依存するが,好ましくは300?500nmであること。イオン注入層の厚さは,好ましくは200?400nmであること。(段落0013)
d ハンドル基板1と貼り合わせる前に単結晶シリコン基板(ドナー基板)2のイオン注入層4の脆化を促進するため,イオン注入層4を設けた単結晶シリコン基板2を,ハンドル基板1と貼り合わせる前に熱H1による熱処理(第1の熱処理)を行うこと。(段落0006,0007,0014)
なお,段落0016「単結晶シリコン基板2のイオン注入された表面とハンドル基板1の表面とを貼り合わせる」との記載,段落0017「単結晶シリコン基板2とハンドル基板1の結合」との記載及び図1から,段落0014の「単結晶シリコン基板2を,ドナー基板1と貼り合わせる前に」との記載において,「ドナー基板1」は「ハンドル基板1」の誤記と認められる。
e 上記dの熱処理(第1の熱処理)を,好ましくは150?350℃で1?24時間行うこと。(段落0014)
f 単結晶シリコン基板2のイオン注入された表面とハンドル基板1の表面とを貼り合わせること。(段落0016)
g ハンドル基板である絶縁性基板は,石英基板,サファイア基板,アルミナ基板,SiC基板,ホウ珪酸ガラス基板,及び結晶ガラス基板からなる群から選ばれること。(段落0010)
h 貼り合わせ後に,単結晶シリコン基板2とハンドル基板1の結合を強化するために熱H2による熱処理(第2の熱処理)を行うこと。第2の熱処理は,貼り合わせ基板が熱膨張率の差の影響(熱応力)で破損しない温度が選択され,たとえば,好ましくは150?350℃であること。熱処理時間は例えば1?24時間であること。

ウ 上記a?hの記載,及び,引用例1の段落0016の「単結晶シリコン基板2のイオン注入された表面とハンドル基板1の表面とを貼り合わせる」との記載,段落0017の「第2の熱処理により,単結晶シリコン基板2とハンドル基板1の結合が強化される。第2の熱処理は,貼り合わせ基板が熱膨率の差の影響(熱応力)で破損しない温度を選択する。」との記載,及び,段落0018の「貼り合わせ基板のイオン注入層4に機械的衝撃等の機械的力を加えてイオン注入層4にそって剥離し」との記載から,引用例1には,「貼り合わせ基板」の作製方法が記載されていると理解できる。
そうすると,引用例1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「単結晶シリコン基板2の表面から水素イオンを注入し,基板中にイオン注入層4を形成するステップであって,水素イオンの注入エネルギーは50?100keV,ドーズ量は,2×10^(16)?1×10^(17)(atoms/cm^(2))であり,イオン注入された基板表面からイオン注入層4までの深さは300?500nmであり,イオン注入層4の厚さは200?400nmであるステップと,
イオン注入層4の脆化を促進するために,イオン注入層4を設けた単結晶シリコン基板2をハンドル基板1と貼り合わせる前に第1の熱処理を行うステップであって,前記第1の熱処理を,好ましくは温度150?350℃で1?24時間行うステップと,
単結晶シリコン基板2のイオン注入された表面とハンドル基板1の表面とを貼り合わせるステップであって,ハンドル基板1である絶縁性基板は,石英基板,サファイア基板,アルミナ基板,SiC基板,ホウ珪酸ガラス基板,及び結晶ガラス基板からなる群から選ばれるステップと,
貼り合わせ後に,単結晶シリコン基板2とハンドル基板1の結合を強化するために第2の熱処理を行うステップであって,第2の熱処理は,貼り合わせ基板が熱膨張率の差の影響(熱応力)で破損しない温度が選択され,好ましくは温度150?350℃で1?24時間行われるステップと,
を含んでなる貼り合わせ基板の作製方法。」

(2)引用例2の記載
ア 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の原出願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平11-329996号公報(以下「引用例2」という。)には,次の記載がある。(以下において,[1][2]等の表記は○の中に数字1,2等の記入された記号(機種依存文字)を示す。)
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし,上記従来の薄い半導体材料フィルムの製造方法では,半導体基板に水素イオンを注入するときに,比較的多量の3.5×10^(16)?10×10^(16)/cm^(2)のドーズ量で注入しなければならず,イオン注入に比較的多くの時間を要し,そのためSOI基板の生産性が低下する不具合があった。本発明の目的は,少ないイオン注入量で効率的にイオン注入領域に気泡を発生させて半導体基板を上記イオン注入領域で分離でき,SOI基板の生産性を向上できるSOI基板の製造方法を提供することにある。」
「【0005】請求項2に係る発明は,請求項1に係る発明であって,水素ガスイオン,水素分子イオン,ヘリウムイオン及びシリコンイオンからなる群から選ばれた1種又は2種のイオンの注入量が0.5×10^(16)?3.5×10^(16)/cm^(2)であるSOI基板の製造方法である。請求項3に係る発明は,請求項1又は2に係る発明であって,注入するイオンが水素ガスイオン又は水素分子イオンとヘリウムイオンであるとき前記イオンの注入順序は前記ヘリウムイオンを注入した後に前記水素ガスイオン又は水素分子イオンを注入するSOI基板の製造方法である。この請求項2又は3に記載されたSOI基板の製造方法では,従来の水素ガスイオンを単独で注入したときのイオン注入量3.5×10^(16)?10×10^(16)/cm^(2)と比べて少ないイオンのトータル注入量で,イオン注入領域11aに気泡を発生させることができる。」
「【0006】
【発明の実施の形態】次に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように,本発明のSOI基板を製造するには,先ずシリコンウェーハからなる第1シリコン基板11を熱酸化により表面に酸化膜12を形成する(図1(a))。次いでこの第1基板11に水素イオン又はヘリウムイオンのいずれか一方又は双方のイオンを0.5×10^(16)?3.5×10^(16)/cm^(2)のドーズ量でイオン注入して,第1基板11内部にイオン注入領域11aを酸化膜12と平行に形成する(図1(b))。即ち,このイオン注入には,[1]水素ガスイオン,水素分子イオン,ヘリウムイオン又はシリコンイオンのいずれか1種のイオンを注入する方法,及び[2]ヘリウムイオンを注入後,水素ガスイオン,水素分子イオン又はシリコンイオンを注入する方法がある。ここで[1]の方法では上記イオンのいずれかを0.5×10^(16)?3.5×10^(16)/cm^(2)のドーズ量で注入し,[2]の方法ではヘリウムイオンを0.5×10^(16)?3.5×10^(16)/cm^(2)のドーズ量で注入した後,水素ガスイオン,水素分子イオン又はシリコンイオンを0.5×10^(16)?3.5×10^(16)/cm^(2)のドーズ量で注入することが好ましい。
【0007】次いで第1基板11を水素雰囲気中において400℃以下,好ましくは300?400℃の温度で熱処理する(図1(c))。400℃以下で熱処理するのは,400℃を超えると第2基板13に重ね合せる前に第1基板11がイオン注入領域11aのところで割れを生じる恐れがあるためである。次いで上記第1基板11と同一表面積を有し,支持基板となるシリコンウェーハからなる第2シリコン基板13を用意し(図1(d)),両基板11,13をRCA法により洗浄した後,第2基板13上に第1基板11を室温で重ね合せて密着させる(図1(e))。
【0008】次いで第1基板11を第2基板13に密着させたまま窒素雰囲気中で500?800℃,好ましくは500?600℃の温度範囲に昇温し,この温度範囲に5?30分間保持して薄膜分離熱処理を行う。これにより第1基板11がイオン注入領域11aのところで割れて上部の厚肉部11cと下部の薄いシリコン層11bに分離する(図1(f))。ここで,上記熱処理の温度を500?800℃に限定したのは,500℃未満では図1(c)で示した上記水素雰囲気中での熱処理によって第1基板11内に供給された水素による気泡内圧の上昇が十分でない不具合があり,800℃を越えると気泡の成長が進んで表面粗さが増大する不具合があるからである。次に温度を下げて,厚肉部11cを取除き(図1(g)),表面にシリコン層11bを有する第2基板13を酸素又は窒素雰囲気中で900?1200℃の範囲に昇温しこの温度範囲に30?120分間保持する熱処理を行う(図1(h))。この熱処理はシリコン層11bの第2基板13への貼合せを強固にする熱処理である。最後にシリコン層11bの分離面及び厚肉部11cの分離面をそれぞれ研磨(タッチポリッシング)して平滑化する(図1(i)及び図1(j))。これにより第2基板13はSOI基板となり,厚肉部11cは新たなシリコン基板として再びSOI基板の製造に使用できる。
【0009】
【実施例】次に本発明の具体的態様を示すために,本発明の実施例を比較例とともに説明する。
<実施例1>図1(a)に示すように,厚さ625μmのシリコンウェーハからなるシリコン基板11を熱酸化して表面に厚さ400nmの酸化膜12を形成した。このシリコン基板11に70keVの電圧を印加して水素ガスイオン(H^(+))を1×10^(16)/cm^(2)注入した(図1(b))。次いでこのシリコン基板11を水素ガス雰囲気中において350℃の温度で60分間熱処理した(図1(c))。この熱処理されたシリコン基板11を実施例1のシリコン基板とした。
【0010】<実施例2>水素ガスイオンの代りにヘリウムイオン(He^(+))を1×10^(16)/cm^(2)注入したことを除いては実質的に実施例1の方法を繰返して実施例2のシリコン基板を製造した。
【0011】<実施例3>シリコン基板11にヘリウムイオンを0.5×10^(16)/cm^(2)注入した後に,水素ガスイオンを0.5×10^(16)/cm^(2)注入したことを除いては実質的に実施例1の方法を繰返して実施例3のシリコン基板を製造した。」
「【0015】表1から明らかなように,実施例1?3ではブリスタが発生したのに対し,比較例1ではブリスタが発生しなかった。これは,実施例1?3ではイオン注入量が少なくても,イオン注入後の水素ガス雰囲気中での熱処理により水素が供給され,この水素がイオン注入領域11aのケイ素(Si)のダングリングボンドに結合し,後に第1基板11と第2基板を密着させて加熱処理する際に水素ガスの気泡を発生し,ブリスタを生じるためである。これに対し,比較例1ではイオン注入後の水素雰囲気中での熱処理が実施されないため,このようにイオン注入量が少ないと,ブリスタが発生しない。特に,実施例3では質量の重いヘリウムイオンを先に注入することで,相対的に軽い水素ガスイオンに比べて効果的にイオン注入領域11aが形成され,この後に注入された水素ガスイオンの注入分布幅をシャープにするため,イオンのトータル注入量が実施例1及び2よりも少ないが,ブリスタを生じる。」

イ 以上の摘記によれば,引用例2には次の技術的事項が記載されているものと理解できる。
a 第1シリコン基板11に,ヘリウムイオンを注入し,その後,水素ガスイオン(H^(+))を注入して基板内部にイオン注入領域を形成した後,第1シリコン基板11を水素雰囲気中で熱処理し,その後支持基板となる第2シリコン基板13に密着させること。(段落0006,0007)
b 上記aにおいて,ヘリウムイオンの注入量を0.5×10^(16)?3.5×10^(16)/cm^(2)とし,水素イオンの注入量を0.5×10^(16)?3.5×10^(16)/cm^(2)とすること。(段落0006)
c 上記aにおいて,水素雰囲気中での熱処理を好ましくは300?400℃の温度で行うこと。(段落0007)
d 上記aの実施例として,シリコン基板11にヘリウムイオンを0.5×10^(16)/cm^(2)注入した後に水素ガスイオンを0.5×10^(16)/cm^(2)注入し,その後,実施例1と同じく,水素ガス雰囲気中において350℃の温度で60分熱処理すること。(段落0009,0011)
e 質量の重いヘリウムイオンを先に注入することで,水素ガスイオンの注入分布幅をシャープにすることができること。また,従来の水素ガスイオンを単独で注入したときのイオンの注入量と比べて少ないイオンのトータル注入量で,イオン注入領域に気泡を発生させることができること。(段落0005,0015)

(3)引用例3の記載
ア 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の原出願の優先権主張日前に外国において頒布された刊行物である,米国特許出願公開第2011/0159665号明細書(以下「引用例3」という。)には,次の記載がある。(和訳は引用例3に対応する日本出願の公表公報である特表2013-516767号公報に基づき当審が作成。)

“[0017] The multi-layered crystalline structure of the present invention may be prepared by implanting ions into a donor structure comprising a device layer, a handle layer and an intervening layer, bonding the donor structure to a second structure to form a bonded structure, cleaving a portion or all of the handle layer and optionally a portion of the intervening layer from the device layer which remains bonded to the second structure and optionally etching a portion or all of the remaining handle layer and/or intervening layer from the device layer thereby exposing the device layer. In one embodiment, the first structure (referred to herein as the donor structure) is an SOI structure, and the second structure is a sapphire wafer.”
(和訳)
“[0017] 本発明の多層結晶構造体は,イオンをデバイス層とハンドル層と中間層とを含むドナー構造体内に注入し,ドナー構造体を第2構造体に結合して結合構造体を形成し,ハンドル層の一部分または全ておよび必要に応じて中間層の一部分を,第2構造体に結合したままのデバイス層から剥離し,および必要に応じて残っているハンドル層および /または中間層の一部分または全てを,デバイス層からエッチングし,従ってデバイス層を露出させることによって製造してよい。1つの実施形態では,第1構造体(以下,「ドナー構造体」と言う)は,SOI構造であり,および第2構造体は,サファイアウエハである。”

“[0029] Referring again to FIG. 1A, ions, such as hydrogen and/or helium ions, are implanted through the implantation surface 16 at a substantially uniform depth. In the exemplary embodiment, the ions are implanted through the implantation surface 16 and into the handle layer 20 to an implantation depth D1, wherein D1 is greater than the combined thickness of the device layer and the intervening layer. In another embodiment, however, the ions may be implanted through the implantation surface 16 and into the intervening layer 22 such that the ions do not reach the handle layer. It should be noted that in embodiments wherein a bonding layer is deposited on the implantation surface before the implantation takes place, the implantation depth, D1, may be increased to account for the added thickness of the bonding layer. The ion implantation defines a damage layer 24 in the layer in which the ions are implanted. In the exemplary embodiment, as shown in FIG. 1A, the ion implantation defines a damage layer 24 within the handle layer 20.”
(和訳)
“[0029]図1Aを再び参照すると,水素および/またはヘリウムイオンのようなイオンを,実質的に均一な深さにおいて注入表面16内に注入する。例示的な実施形態において,イオンを,注入深さD1まで注入表面16を通過しておよびハンドル層20内に注入し,D1は,デバイス層と中間層を組合せた厚さよりも大きい。しかしながら,別の実施形態において,イオンがハンドル層に到達しないように,イオンを,注入表面16を通過しておよび中間層22内に注入してよい。実施形態において,結合層を,注入を行う前に注入表面に堆積し,注入深さD1が,結合層の追加された厚さを占めるように増加してよいことに留意されたい。イオン注入は,イオンが注入されている層内の損傷層24を規定する。例示的な実施形態において,図1Aに示すように,イオン注入は,ハンドル層20内における損傷層24を規定する。”

“[0030] In general, ions are implanted to an average depth that is sufficient to ensure a satisfactory transfer of the device layer 14 upon a subsequent bonding and cleaving process. Preferably, the implantation depth is minimized to decrease the amount of handle layer 20 and/or intervening layer transferred with the device layer. In general, the ions are implanted to a depth of at least about 200 Angstroms or even at least about 1 micron beneath the implantation surface depending on the thicknesses of the device layer and intervening layer. In some embodiments, the ions may be implanted to a depth of at least about 20 nm, typically at least about 90 nm, at least about 250 nm or even at least about 500 nm. It should be noted, however, that larger implantation depths may be used without departing from the scope of the present invention as they merely increase the amount of intervening layer and/or handle layer that will have to be removed after cleaving to reveal the device layer. As such, it may be preferable to implant the ions to a depth of from about 200 Angstroms to about 1 micron or even from about 20 nm to about 500 nm.“
(和訳)
“[0030] 一般に,イオンは,所定の平均厚さまで注入され,該平均深さは,次の結合および剥離プロセスの際にデバイス層14の満足な転写を確実にするのに充分である。好ましくは,注入深さは,デバイス層とともに転写されるハンドル層20および/または中間層の量を減少するように最小限にされる。概して,イオンを,少なくとも約200オングストロームまたはさらに少なくとも約1ミクロンの深さまで,デバイス層および中間層の厚さに依存して,注入表面の下に注入する。いくつかの実施形態において,イオンを,少なくとも約20nm,典型的には,少なくとも約90nm,少なくとも約250nmまたはさらに少なくとも約500nmの深さまで注入する。しかしながら,より大きな注入深さは,デバイス層を露出するために剥離した後に除去しなければならない中間層及び/又はハンドル層の量を単に増加させるだけなので,本発明の範囲から逸脱することなく用いられ得ることに留意されたい。そのため,イオンを,約200オングストローム?約1ミクロンまたはさらに約20nm?約500nmの深さまで注入することは好まれることがある。”

“[0033] In other embodiments, both hydrogen and helium ions are implanted. It should be noted that the implantation of both hydrogen and helium in combination may be done concurrently or sequentially with hydrogen being implanted prior to the helium or alternatively, with helium being implanted prior to the hydrogen. Preferably, the hydrogen and helium are implanted sequentially with the helium being implanted first using at least about 10 keV, at least about 20 keV, or at least about 30 keV, at least about 50 keV, at least about 80 KeV or even at least about 120 keV to implant helium at a dosage of at least about 5×10^(15) ions/cm^(2), at least about 1×10^(16) ions/cm^(2), at least about 5×10^(16) ions/cm^(2), or even at least about 1×10^(17) ions/cm^(2) and then implanting hydrogen at substantially the same depth as the helium using at least about 10 keV, at least about 20 keV, or at least about 30 keV, at least about 50 keV, at least about 80 KeV or even at least about 120 keV to implant hydrogen at a dosage of at least about 5×10^(15) ions/cm^(2), at least about 1×10^(16) ions/cm^(2), at least about 5×10^(16) ions/cm^(2), or even at least about 1×10^(17) ions/cm^(2). In one embodiment, for example, about 1×10^(16) He^(+) ions/cm^(2) are implanted using about 36 keV into the donor structure after which about 0.5×10^(16) H_(2)^(+) ions/cm^(2) are implanted at about 48 keV or alternatively about 1×10^(16)H^(+) ions/cm^(2) are implanted at about 24 keV are implanted into the donor structure. The specific amount of energy required to perform the implantation of the ions into the donor structure depends on type and form of ion(s) selected, the crystallographic structure of the material through which and into which the ions are being implanted and the desired implantation depth. It should be noted that the implantation may be carried out at any temperature suitable for such implantation. Typically, however, the implantation may be carried out at room temperature. It should be further noted that in this regard, the implantation temperature referred to is the global temperature and that localized temperature spikes may occur at the actual site of the ion beam due to the nature of ion implantation.“
(和訳)
“[0033]他の実施形態において,水素とヘリウムイオンの両方を注入する。水素とヘリウムの両方の組合せの注入を,同時に,またはヘリウムの前に水素を注入することにより,または代替的に水素の前にヘリウムを注入することにより連続して行ってよいことに留意されたい。まず,ヘリウムを,少なくとも約5×10^(15)イオン/cm^(2),少なくとも約1×10^(16)イオン/cm^(2),少なくとも約5×10^(16)イオン/cm^(2),またはさらに少なくとも約1×10^(17)イオン/cm^(2)の添加量において注入するように,少なくとも約10keV,少なくとも約20keV,または少なくとも約30keV,少なくとも約50keV,少なくとも約80keV,またはさらに少なくとも約120keVを用いてヘリウムを注入することにより,および次いで,少なくとも約10keV,少なくとも約20keV,または少なくとも約30keV,少なくとも約50keV,少なくとも約80keV,またはさらに少なくとも約120keVを用いて,水素を,少なくとも約5×10^(15)イオン/cm^(2),少なくとも約1×10^(16)イオン/cm^(2),少なくとも約5×10^(16)イオン/cm^(2),またはさらに少なくとも約1×10^(17)イオン/cm^(2)の添加量で注入して,水素を,ヘリウムと実質的に同じ深さまで注入することにより,好ましくは,水素およびヘリウムを連続して注入する。1つの実施形態において,例えば,約1×10^(16)のHe^(+)イオン/cm^(2)を,約36keVを用いてドナー構造体内に注入し,その後に,約48keVで注入される約0.5×10^(16)のH_(2)^(+)イオン/cm^(2)または代替的に,約24keVで注入される約1×10^(16)のH^(+)イオン/cm^(2)を,ドナー構造体内に注入する。後のイオンのドナー構造体内への注入を行うのに必要なエネルギーの特定量は,選択されるイオンの種類と形態,材料の結晶構造(イオンを,そこを通過しおよびその中に注入する)および所望の注入深さに依存する。注入を,このような注入に適した任意の温度において行ってよいことに留意されたい。しかしながら,典型的には,注入を室温で行ってよい。これに関して,言及された注入温度は大域的温度であること,および局所的な温度の急上昇が,イオン注入の性質に起因してイオンビームの行われる場所で生じ得ることに更に留意されたい。“

“[0034] After implantation is performed, the donor structure 10 may be thermally treated to begin the formation a cleave plane at the damage layer 24. For example, the donor structure may be thermally treated at a temperature of from about 150 ℃ to about 375 ℃ for a period of from about 1 hour to about 100 hours. In an alternative embodiment, as is described below, this thermal treatment may be combined with a thermal treatment performed after the bonding of the donor structure 10 to the second structure 26 so as to simultaneously strengthen the bond between the donor structure 10 and the second structure 26 and begin the formation of the cleave plane at the damage layer 24.”
(和訳)
“[0034]注入を行った後,ドナー構造体10を熱処理して,損傷層24における剥離面の形成を開始してよい。例えば,ドナー構造体を約150℃?約375℃の温度で約1時間?約100時間に亘って熱処理してよい。代替的な実施形態において,以下に示すように,この熱処理を,ドナー構造体10を第2構造体26に結合した後に行う熱処理と組合せてよく,同時に,ドナー構造体10と第2構造体26との間の結合を強化し,および損傷層24における剥離面を形成し始める。“

“[0036] Referring now to FIG. 1B, the second structure 26 comprises either a single wafer or a multi-layer wafer having a bonding surface 28. In the exemplary embodiment, as is shown in FIG. 1B, the second structure 26 is a single wafer. The second structure 26 may be comprised of a material selected from the group consisting of sapphire, quartz crystal, glass, silicon carbide, silicon, gallium nitride, aluminum nitride, gallium aluminum nitride, or any combination thereof. In one preferred embodiment, the second structure 26 comprises a sapphire wafer.“
(和訳)
“図1Bを参照すると,第2構造体26は,結合表面28を有する単一のウエハまたは多層ウエハを含む。例示的な実施形態において,図1Bに示すように,第2構造体26は単一のウエハである。第2構造体26は,サファイア,石英結晶,ガラス,シリコンカーバイド,シリコン,ゲルマニウムナイトライド,アルミニウムナイトライド,ガリウムアルミニウムナイトライド,またはそれらの任意の組合せから成る群から選択した材料から成ってよい。1つの実施形態において,第2構造体26は,サファイアウエハを含む。”

“[0042] Referring now to FIG. 2, the donor structure 10 is bonded to the second structure 26 by bringing the implantation surface 16 of the device layer 14 and the bonding surface 28 of the second structure 26 together to form a bond interface 32. Generally speaking, wafer bonding may be achieved using essentially any technique known in the art, provided the energy employed to achieve formation of the bond interface is sufficient to ensure the integrity of the bond interface is sustained during subsequent processing, such as layer transfer by cleaving or separation. Typically, however, wafer bonding is achieved by contacting the surface of the device layer and the second structure at room temperature, followed by a low temperature anneal for a period of time sufficient to produce a bond interface having a bond strength greater than about 500 mJ/m^(2), about 750 mJ/m^(2), about 1000 mJ/m^(2), or more. To achieve such bond strength values, typically heating takes place at temperatures of at least about 200 ℃, 300 ℃, 400 ℃, or even 500 ℃ for a period of time of at least about 5 minutes, 30 minutes, 60 minutes, or even 300 minutes. As noted above, in one embodiment, this low temperature thermal anneal may be performed in addition to, or in place of, the thermal treatment of the donor structure 10 prior to bonding, which is described above. In an embodiment wherein the donor structure 10 is not thermally annealed prior to bonding, the low temperature thermal anneal of the bonded structure 30 facilitates both the strengthening of the bond interface as well as the formation of the cleave plane that is located along the damage layer 24.”
(和訳)
“[0042]図2を参照すると,デバイス層14の注入表面16と第2構造体26の結合表面28とを結合して,結合界面32を形成することにより,ドナー構造体10を,第2構造体26に結合する。一般的に言えば,結合界面の形成を達成するのに用いるエネルギーが,剥離または分離による層転写のような後の処理の間に結合界面の一体化が維持されることを確実にするのに充分である場合に,ウエハの結合は,任意の基本的な従来技術を用いて達成できる。しかしながら,典型的には,デバイス層と第2構造体との表面を室温で接触させ,次いで,約500mJ/m^(2),約750mJ/m^(2),約1000mJ/m^(2)以上またはそれより大きい結合強度を有する結合界面を形成するのに充分な時間に亘って低温熱アニールすることによって,ウエハの結合を達成する。このような結合強度の値を達成するように,典型的には,加熱を,少なくとも約200℃,約300℃,約400℃,またはさらに約500℃の温度で少なくとも約5分,約30分,約60分,またはさらに約300分の所定時間に亘って行う。上述したように,1つの実施形態において,この低温熱アニールを,結合前のドナー構造体10の前記熱処理に加えてまたは代わりに行ってよい。1つの実施形態において,ドナー構造体10は,結合前に熱アニールされず,結合構造体30の低温熱アニールは,結合界面の強化と,損傷層24に沿って位置した剥離面の形成との両方を容易にする。“

イ 以上の摘記によれば,引用例3には次の技術的事項が記載されていると理解できる。

a ドナー構造体内にイオンを注入して損傷層を規定した後,ドナー構造体を第2構造体に結合して結合構造体を形成する製造方法において,前記イオン注入を,ヘリウムイオンを注入して,次いで,水素イオンを注入して行うこと。(段落0017,0029,0033)
b 上記aのイオン注入において,ヘリウムイオンを少なくとも約5×10^(15)イオン/cm^(2),少なくとも約1×10^(16)イオン/cm^(2),少なくとも約5×10^(16)イオン/cm^(2),またはさらに少なくとも約1×10^(17)イオン/cm^(2)の添加量において注入し,水素イオンを,少なくとも約5×10^(15)イオン/cm^(2),少なくとも約1×10^(16)イオン/cm^(2),少なくとも約5×10^(16)イオン/cm^(2),またはさらに少なくとも約1×10^(17)イオン/cm^(2)の添加量で注入すること。(段落0033)
c 上記aのイオン注入において,イオンを,少なくとも約200オングストロームまたはさらに少なくとも約1ミクロンの深さまで,デバイス層および中間層の厚さに依存して,注入表面の下に注入すること。(段落0030)
d 上記aのイオン注入において,ヘリウム及び水素イオンを,少なくとも約10keV,少なくとも約20keV,または少なくとも約30keV,少なくとも約50keV,少なくとも約80keV,またはさらに少なくとも約120keVを用いて,水素を,ヘリウムと実質的に同じ深さに注入すること。(段落0033)
e 上記aのイオン注入の1つの実施形態として,例えば,約1×10^(16)のHe^(+)イオン/cm^(2)を,約36keVを用いてドナー構造体内に注入し,その後に,約24keVで注入される約1×10^(16)のH^(+)イオン/cm^(2)を,ドナー構造体内に注入すること。(段落0033)
f 上記aのイオン注入の後,例えば,ドナー構造体を約150℃?約375℃の温度で約1時間?約100時間に亘って熱処理して,損傷層24における剥離面の形成を行うこと。(段落0034)
g ドナー構造体を第2構造体に結合した後,少なくとも約200℃,約300℃,約400℃,またはさらに約500℃の温度で少なくとも約5分,約30分,約60分,またはさらに約300分の所定時間に亘って行うことで,約500mJ/m^(2),約750mJ/m^(2),約1000mJ/m^(2)以上またはそれより大きい結合強度を有する結合界面を形成すること。(段落0042)
h 第2構造体の材料は,サファイア,石英結晶,ガラス,シリコンカーバイド,シリコン,ゲルマニウムナイトライド,アルミニウムナイトライド,ガリウムアルミニウムナイトライド,またはそれらの任意の組合せから成る群から選択した材料であること。(段落0036)

(4)引用例4の記載
ア 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の原出願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である,特表2010-522426号公報(以下「引用例4」という。)には,次の記載がある。
「【0023】
図2に示すように,その後ドナー基板1に,内部に脆弱ゾーン12が形成されるように原子またはイオンの種を注入することができ,この脆弱ゾーン12は,「活性」層13と称される層13とこの基板の残余部14との間の境界を形成する。」
「【0028】
次に,レシーバ基板2の表面20を,直接結合によってドナー基板1の表面10に貼り付ける(図5参照)。」
「【0030】
結合を強化するための処理の後,図6に示すようにドナー基板1の残余部14が分離されて,活性層13がレシーバ基板2上へ転写されると共に,参照番号5が付されたハイブリッド基板が得られる。」
「【0042】
一般に,同時注入(co-implantation)を行うことも可能であり,基板の表面には異なる種が連続して衝突する。たとえば,最初にヘリウムの注入,その後にH^(+)イオンの注入を利用するのが好ましい。」

イ 以上の摘記によれば,引用例4には次の技術的事項が記載されていると理解できる。
・ドナー基板1にイオンの注入を行って脆弱ゾーン12を形成した後,レシーバ基板2をドナー基板1に直接結合によって貼り付けることを含むハイブリッド基板の製造方法において,最初にヘリウムを注入,その後にH^(+)イオンを注入すること。(段落0023,0028,0030,0042)

3-3 補正発明1と引用発明1の対比
補正発明1と引用発明1とを比較する。
ア 引用発明1の「単結晶シリコン基板2」は補正発明1の「単結晶シリコン基板」に相当し,両者はともに,「一方がその前面で,他方がその後面である,ほぼ平行な2つの主面と,前面と後面を接続する周縁端部と,前面および後面の間にある中央面とを有し」ている点で一致する。
イ 引用発明1における「単結晶シリコン基板2の表面から水素イオンを注入し,基板中にイオン注入層4を形成するステップ」は,補正発明1における「(b)単結晶シリコン基板の前面から水素イオンを」「注入するステップ」に相当する。
ウ 引用発明1における「イオン注入層4の脆化を促進するために,イオン注入層4を設けた単結晶シリコン基板2をハンドル基板1と貼り合わせる前に第1の熱処理を行うステップ」は,補正発明1における「(c)単結晶シリコン基板内に剥離面を形成するために,単結晶シリコン基板をアニール処理するステップ」に相当する。
エ 引用発明1における「単結晶シリコン基板2のイオン注入された表面とハンドル基板1の表面とを貼り合わせるステップ」は,補正発明1における「(d)接合構造体を形成するために,剥離面を内在する単結晶シリコン基板の前面をキャリア基板に接合するステップ」に相当する。
オ 引用発明1における「石英基板」,「サファイア基板」及び「SiC基板」が,補正発明1における「クォーツ」「サファイア」及び「シリコンカーバイド」にそれぞれ相当する。そうすると,補正発明1と引用発明1は,ともに「キャリア基板は,サファイア,クォーツ,シリコンカーバイド,からなる群から選択された材料で構成され」ている点で共通する。
カ 引用発明1における「貼り合わせ後に,単結晶シリコン基板2とハンドル基板1の結合を強化するために第2の熱処理を行うステップ」は,補正発明1における「(e)」「接合構造体をアニール処理するステップ」に相当する。
キ 補正発明1と引用発明1は,「前記ステップ(b)から前記ステップ(e)の順序で行う」点で共通する。
ク 引用発明1の「貼り合わせ基板」は補正発明1の「接合構造体」に相当するから,補正発明1と引用発明1は,ともに「接合構造体を作成する方法」である点で一致する。

以上のア?クによれば,補正発明1と引用発明1の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
<一致点>
「接合構造体を作製する方法であって,
単結晶シリコン基板は,一方がその前面で,他方がその後面である,ほぼ平行な2つの主面と,前面と後面を接続する周縁端部と,前面および後面の間にある中央面とを有し
(b)単結晶シリコン基板の前面から水素イオンを注入するステップと,
(c)単結晶シリコン基板内に剥離面を形成するために,単結晶シリコン基板をアニール処理するステップと,
(d)接合構造体を形成するために,剥離面を内在する単結晶シリコン基板の前面をキャリア基板に接合するステップと,
キャリア基板は,サファイア,クォーツ,シリコンカーバイドからなる群から選択された材料で構成され,
(e)接合構造体をアニール処理するステップとを有し,
前記ステップ(b)から前記ステップ(e)の順序で行うことを特徴とする方法。」である点。
<相違点1>
補正発明1は「(a)単結晶シリコン基板の前面からヘリウムイオンを」「注入するステップ」を有し,「ステップ(c)の前に,前記ステップ(a)から前記ステップ(b)の順序で行われ」るのに対し,引用発明1は「水素イオンを注入し,基板中にイオン注入層4を形成するステップ」(ステップ(b)に相当)及び「第1の熱処理」(ステップ(c)に相当)を有しているものの,「(a)単結晶シリコン基板の前面からヘリウムイオンを」「注入するステップ」を有しておらず,「ステップ(c)の前に,前記ステップ(a)から前記ステップ(b)の順序」で行っていない点。
<相違点2>
補正発明1では「ヘリウムイオンを」「注入エネルギーが20keVから40keVの範囲で」注入するのに対し,引用発明1ではヘリウムイオンの注入エネルギーが特定されていない点。
<相違点3>
補正発明1では「全体のヘリウムイオン注入量が0.5×10^(16)個(ヘリウムイオン数)/cm^(2)から2×10^(16)個(ヘリウムイオン数)/cm^(2)の範囲で」ヘリウムイオンを注入するのに対し,引用発明1ではヘリウムイオン注入量が特定されていない点。
<相違点4>
補正発明1では「ヘリウムイオンは,前面から中央面に向かって測定したときに,約0.02ミクロン?1ミクロンの間の平均深度D_(1)まで注入され」るのに対し,引用発明1ではヘリウムイオン注入の平均深度が特定されていない点。
<相違点5>
補正発明1では,水素イオンの「注入エネルギーが30keVから50keVの範囲」であるのに対し,引用発明1ではそのように特定されていない点。
<相違点6>
補正発明1では,水素イオンの「全体の水素イオン注入量が0.5×10^(16)個(水素イオン数)/cm^(2)から3×10^(16)個(水素イオン数)/cm^(2)の範囲」であるのに対し,引用発明1ではそのように特定されていない点。
<相違点7>
補正発明1では,「水素イオンは,単結晶シリコン基板の前面から中央面に向かって測定したときに,約0.02ミクロン?1ミクロンの間の平均深度D_(2)まで注入され」るのに対し,引用発明1では水素イオン中の平均深度がそのように特定されていない点。
<相違点8>
補正発明1では「平均深度D_(1)および平均深度D_(2)は500オングストローム以内」であるのに対し,引用発明1ではヘリウムイオン注入及び水素イオン注入の平均深度の差がそのように特定されていない点。
<相違点9>
補正発明1では,ステップ(c)の「アニール処理」を「約200℃?約350℃の温度で,約2時間?約10時間」行うのに対し,引用発明1では「第1の熱処理」の条件がそのように特定されていない点。
<相違点10>
補正発明1では,「剥離面は,平均深度D_(1)および平均深度D_(2)と等しい深度であるか,平均深度D_(1)と平均深度D_(2)との間の深度を有し」ているのに対し,引用発明1では,剥離面の深度が特定されていない点。
<相違点11>
補正発明1では,キャリア基板の材料が「シリコン」「ガリウムヒ素」「シリコンゲルマニウム」及び「ゲルマニウム」から選択された材料を含むのに対し,引用発明1では,「ハンドル基板1」の材料としてそれらの材料を含むことは特定されていない点。
<相違点12>
補正発明1では,ステップ(e)の「接合構造体のアニール処理」を「約150℃?約350℃の温度で約1時間?約5時間」行うのに対し,引用発明1では「第2の熱処理」の条件がそのように特定されていない点。
<相違点13>
補正発明1では,「前記ステップ(a)から前記ステップ(e)の順序で行う」のに対し,引用発明1では,前記ステップ(b)から前記ステップ(e)の順序で行う点。

3.4 相違点についての判断
(1)相違点1,13について
事案に鑑み,はじめに相違点1,13についてまとめて検討する。
引用例2に記載された事項(上記3.2(2)イ,a),引用例3に記載された事項(上記3.2(3)イ,a)及び引用例4に記載された事項(上記3.2(4)イ)によれば,第1の基板にイオン注入層を形成した後第2の基板と貼り合わせる製造方法において,ヘリウムイオンを注入するステップの後,水素イオンを注入するステップを行ってイオン注入層を形成する技術(以下「ヘリウム/水素注入工程」ともいう。)は,当業者に周知の技術であったといえる。
加えて,引用例2には,当該周知技術を適用することで,水素ガスイオンの注入分布幅をシャープにすることができ,従来の水素ガスイオンを単独で注入したときのイオンの注入量と比べて少ないイオンのトータル注入量で,イオン注入領域に気泡を発生させることができることが記載されている(上記3.2(2)イ,e)。
そうすると,上記引用例2に記載された上記周知技術の効果を得るために,引用発明1において上記周知技術を採用すること,すなわち,引用発明1の水素イオン注入ステップを,ヘリウムイオンを注入した後,水素イオンを注入するステップに変更することは,当業者が容易に想到し得たことであるといえる。
よって,引用発明1において上記相違点1に係る構成とすることは,引用例2?4に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たことである。また,上記相違点13に係る構成とすることも,それに伴い自然となし得たことである。

(2)相違点3,6について
相違点3,6についてまとめて検討する。
引用例2(上記3.2(2)イ,b及びd)には,ヘリウム/水素注入工程におけるヘリウムイオンと水素イオンのドーズ量は,気泡を発生させるのに十分な量とすることが示唆され(段落0003,0005),具体的には,ヘリウムイオンの注入量を0.5×10^(16)?3.5×10^(16)/cm^(2)とし,水素イオンの注入量を0.5×10^(16)?3.5×10^(16)/cm^(2)とすることが記載されている(段落0006)。また,引用例2の実施例3では,ヘリウムイオンを0.5×10^(16)/cm^(2)注入した後に水素ガスイオンを0.5×10^(16)/cm^(2)注入することが記載されている。
引用例3(上記3.2(3)イ,b及びe)には,ヘリウム/水素注入工程におけるヘリウムイオンと水素イオンのドーズ量として,少なくとも約5×10^(15)イオン/cm^(2)から約1×10^(17)イオン/cm^(2)の所定の添加量で注入することが記載されている。また,1つの実施形態として,約1×10^(16)のHe^(+)イオン/cm^(2)と約1×10^(16)のH^(+)イオン/cm^(2)を,ドナー構造体内に注入することが記載されている(段落0033)。
以上によれば,上記周知のヘリウム/水素注入工程において,「ヘリウムイオンの注入量が0.5×10^(16)個(ヘリウムイオン数)/cm^(2)から2×10^(16)個(ヘリウムイオン数)/cm^(2)の範囲」,「水素イオン注入量が0.5×10^(16)個(水素イオン数)/cm^(2)から3×10^(16)個(水素イオン数)/cm^(2)の範囲」とすることは,引用例2及び引用例3に示された公知の範囲内で当業者が適宜設定し得ることであるといえる。また,そのような設定とすることの効果も,当業者の予測の範囲内である。
よって,引用発明1において上記相違点3,6に係る構成とすることは,引用例2,3に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たことである。

(3)相違点2,4,5,7について
相違点2,4,5,7についてまとめて検討する。
イオン注入の平均深度は,接合構造体から剥離させて転写したいシリコン層の厚みに応じて適宜設定する事項であり,イオン注入エネルギーは,そのように設定された平均深度を実現すべく,シリコン基板の厚みや表面の酸化膜の有無やその厚み,注入するイオン種等を勘案して設定する事項である。
一方,引用例3(上記3.2(3)イ,c及びe)には,周知のヘリウム/水素注入工程においてとり得る平均深度やイオン注入エネルギーが例示されており,具体的には,少なくとも約200オングストロームまたはさらに少なくとも約1ミクロンの深さまで注入すること,ヘリウム及び水素イオンを,少なくとも約10keV?約120keVの所定の注入エネルギーを用いることが記載されている。また,1つの実施形態として,He^(+)イオンを約36keVを用いてドナー構造体内に注入し,その後に,約24keVでH^(+)イオンをドナー構造体内に注入することが記載されている。
そうすると,引用例3に記載された上記公知の深度をふまえ,「ヘリウムイオンは,前面から中央面に向かって測定したときに,約0.02ミクロン?1ミクロンの間の平均深度D_(1)まで注入され」「水素イオンは,単結晶シリコン基板の前面から中央面に向かって測定したときに,約0.02ミクロン?1ミクロンの間の平均深度D_(2)まで注入され」た設定とすることは,必要に応じ当業者が適宜なし得たことであり,また,「ヘリウムイオンを」「注入エネルギーが20keVから40keVの範囲で」注入し,水素イオンを「注入エネルギーが30keVから50keVの範囲」で注入するように設定することも,当業者が適宜なし得たことである。また,そのような設定とすることの効果も,当業者の予測の範囲内である。
よって,引用発明1において上記相違点2,4,5,7に係る構成とすることは,引用例3に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たことである。

(4)相違点8について
引用例1の段落0018に記載のとおり,イオン注入層はその後機械的力を加えて剥離を行うための層であるから,注入イオンの深さは平均深度付近に狭く分布することが好ましいことは,技術的に明らかなことである。さらに,引用例3の段落0033には,ヘリウム/水素注入工程においてヘリウムイオンと水素イオンを実質的に同じ深さまで注入することが記載されている。
そうすると,周知のヘリウム/水素注入工程においてヘリウムイオンの平均深度D_(1)および水素イオンの平均深度D_(2)の差をなるべく小さくすることは,当業者が普通に行うことであり,その具体的な指標として,例えば「平均深度D_(1)および平均深度D_(2)は500オングストローム以内」と設定することも,格別の困難無くなし得たことであるといえる。また,そのように設定することの効果も,当業者の予測の範囲内である。
よって,引用発明1において上記相違点8に係る構成とすることは,引用例3に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たことである。

(5)相違点9について
引用発明1における「第1の熱処理」は,貼り合わせ前にイオン注入層を脆化するための熱処理である(引用例1の段落0006,0007,0014)。
一方,ヘリウム/水素注入工程の後,貼り合わせを行う前にイオン注入層が形成された基板を熱処理することは,引用例2(上記3.2(2)イ,c)や引用例3(上記3.2(3)イ,f)に記載された周知の技術であり,引用例3の段落0033には,当該熱処理により剥離面が形成されることも記載されている。また,当該熱処理の具体的条件として,引用例2には,300?400℃の温度で行うこと(段落0007),実施例として350℃で60分間熱処理すること(段落0009,0011)が記載され,引用例3には,約150℃?約375℃の温度で約1時間?約100時間に亘って熱処理することが記載されている(段落0034)。
そうすると,ヘリウム/水素注入工程の後,貼り合わせ工程を行う前にイオン注入層を脆化するための熱処理として,引用例2及び引用例3に示された範囲から所定の温度範囲及び時間を設定することは,必要な脆化の程度に応じ当業者が適宜なし得たことであり,「約200℃?約350℃の温度で,約2時間?約10時間」との設定とすることも,格別の困難無くなし得たことである。また,その効果も当業者の予測の範囲内である。
よって,引用発明1において上記相違点9に係る構成とすることは,引用例2及び引用例3に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たことである。

(6)相違点10について
引用発明1は,イオン注入層を熱処理により脆化した後,機械的力を加えてイオン注入層にそって剥離するものであり(引用例1の段落0007,0018),当該剥離において,より高濃度にイオン注入されて損傷した部分が剥離面となることは自明のことである。そして,上記周知の「ヘリウム/水素注入工程」によれば,ヘリウム注入の平均深度D_(1),水素注入の平均深度深度D_(2)のいずれか若しくはその間の深度において注入イオンの分布がピークとなることも,技術的に明らかなことである。
そうすると,引用発明1において「剥離面は,平均深度D_(1)および平均深度D_(2)と等しい深度であるか,平均深度D_(1)と平均深度D_(2)との間の深度を有し」とすることは,引用発明1に上記周知の「ヘリウム/水素注入工程」を適用して剥離を行うことで,自然になし得たことであるといえる。

(7)相違点11について
引用例2には,イオン注入がされたシリコン基板11をシリコンウェーハからなる第2シリコン基板13と重ね合わせて密着させることが記載され(段落0007),引用例3には,イオン注入層が形成されたドナー構造体10と結合する第2構造体26の材料として「サファイア」,「石英結晶」,「シリコンカーバイド」とともに「シリコン」が列記されているから(段落0036),引用発明1のハンドル基板1を「シリコン」で構成することは,引用例2,3の記載から容易になし得たことである。また,「ガリウムヒ素」,「シリコンゲルマニウム」及び「ゲルマニウム」は,いずれも周知の基板材料であるから,引用発明1のハンドル基板1をこれら周知の基板材料で構成することも,当業者が適宜なし得たことであるといえる。また,その効果も当業者の予測の範囲内である。
よって,引用発明1において相違点11に係る構成とすることは,引用例2,3に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たことである。

(8)相違点12について
引用発明1の「第2の熱処理」は,「貼り合わせ後に,単結晶シリコン基板2とハンドル基板1の結合を強化するため」の熱処理であって,「貼り合わせ基板が熱膨張率の差の影響(熱応力)で破損しない温度が選択され,好ましくは温度150?350℃で1?24時間行われる」ものである。また,引用例1の段落0016に「単結晶シリコン基板のイオン注入面または絶縁性基板の表面の少なくとも一方が活性化処理されているため,より強く接合できる。」と記載されているように,結合の強度は貼り合わせる表面の状態にも依存するものと理解できる。
引用例3(上記3.4(2)イ,g)には,貼り合わせ後に少なくとも約200℃?約500℃の温度で少なくとも約5分?約300分の所定時間にわたって熱処理を行うことで,約500mJ/m^(2),約750mJ/m^(2),約1000mJ/m^(2)以上またはそれより大きい結合強度を有する結合界面を形成することが記載されている。
以上によれば,貼り合わせ後の熱処理条件は,熱膨張率の影響や表面状態を勘案しつつ,必要な結合強度に応じて適宜設定されるものであるといえる。そのような選択の範囲として,「約150℃?約350℃の温度で約1時間?約5時間」と設定することは,当業者が適宜なし得たことである。また,その効果も当業者の予測の範囲内である。
よって,引用発明1において相違点12に係る構成とすることは,引用例3に記載された技術的事項から当業者が容易になし得たことである。

(8)小括
したがって,補正発明1は,引用発明1及び引用例2?4に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.5 独立特許要件についてのまとめ
上記3.4のとおり,補正発明1は引用発明1及び引用例2?4に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下の決定についてのまとめ
以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合しないものであるから,特許法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1.本願発明
令和2年8月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?15に係る発明は,令和元年12月13日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるものであり,その内の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,上記第2,1.アの(ア)に本件補正前の請求項1として摘記したとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1?15に係る発明は,本願の原出願の優先権主張の日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用例1に記載された発明及び引用例2?4に記載された技術的事項に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

1.国際公開第2010/137683号
2.特開平11-329996号公報
3.米国特許出願公開第2011/0159665号明細書
4.特表2010-522426号公報

3.引用例の記載
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1?4の記載は,上記第2の3.2に記載したとおりである。

4.対比・判断
上記第2の2.で検討したように,補正発明1は,本件補正前の請求項1について,上記第2の1.イに示した補正事項1の点を限定したものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをさらに限定したものである補正発明1が,上記第2の3.で示した理由のとおり,引用発明1及び引用例2?4に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.本願発明についての結論
上述のとおり,本願発明は,引用発明1及び引用例2?4に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


第4 結言
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶をすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。


 
別掲
 
審理終結日 2021-04-07 
結審通知日 2021-04-13 
審決日 2021-04-28 
出願番号 特願2018-9428(P2018-9428)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 靖史  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 小田 浩
小川 将之
発明の名称 多層半導体デバイス作製時の低温層転写方法  
代理人 中野 晴夫  
代理人 山田 卓二  
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