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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1378256
審判番号 不服2021-762  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-19 
確定日 2021-09-16 
事件の表示 特願2017- 57905「光学製品」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月11日出願公開、特開2018-159860〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2017-57905号(以下「本件出願」という。)は、平成29年3月23日を出願日とする特許出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和2年 8月 7日付け:拒絶理由通知書
令和2年 9月24日 :意見書
令和2年 9月24日 :手続補正書
令和2年10月20日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和3年 1月19日 :審判請求書
令和3年 1月19日 :手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年1月19日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の(令和2年9月24日にした手続補正後の)特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「基材と、
前記基材の表面に形成された、複数の低屈折率誘電体層及び複数の高屈折率誘電体層を交互に配置される状態で含む誘電体多層膜と、
を備えており、
前記誘電体多層膜における最も前記基材から遠い層である最外層として、金属イオン担持ゼオライトを含む誘電体層が配置されており、
前記誘電体多層膜における前記最外層以外の層は、前記金属イオン担持ゼオライトを含んでいない
ことを特徴とする光学製品。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
「基材と、
前記基材の表面に形成された、複数の低屈折率誘電体層及び複数の高屈折率誘電体層を交互に配置される状態で含む誘電体多層膜と、
を備えており、
前記誘電体多層膜における物理的に最も前記基材から遠い層である最外層として、金属イオン担持ゼオライトを含む誘電体を有する誘電体層が、前記金属イオン担持ゼオライトが前記誘電体に対して10重量%以上50重量%以下となる状態で配置されており、
前記誘電体多層膜における前記最外層以外の物理的な層は、前記金属イオン担持ゼオライトを含んでいない
ことを特徴とする光学製品。」

(3)本件補正の内容
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明の、発明を特定するために必要な事項である「最も前記基材から遠い層である最外層」について「物理的に最も前記基材から遠い層である最外層」という限定をし、「金属イオン担持ゼオライトを含む誘電体層」について「金属イオン担持ゼオライトを含む誘電体を有する誘電体層」という限定及び「前記金属イオン担持ゼオライトが前記誘電体に対して10重量%以上50重量%以下となる状態で配置されており」との限定をし、「最外層以外の層」について「最外層以外の物理的な層」との限定をするものである。また、この補正は、本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0014】?【0029】の記載に基づくものである。そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野(【0001】)及び解決しようとする課題(【0004】)は、同一である。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に適合するものであり、また、同条5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が、同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

2 独立特許要件についての判断
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1(特開平10-282307号公報)は、本件出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ディスプレイの表示画面の表面に設けられた偏光フィルムなどの上に適用される反射防止フィルムに関する。特に、可視光の反射防止性能に優れ、かつ電磁波遮蔽、帯電防止性さらには抗菌性や防カビ性に優れた反射防止フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】ディスプレイの多くは、室内外を問わず、外光が入射する環境下で使用されている。ディスプレイに入射した外光は、ディスプレイ内部において正反射され、光源の虚像をディスプレイの表示画面に再生する。このため、蛍光灯等が画面に映り、本来の表示画像が見えにくくなるなどの問題を生じさせる。また、本来の表示光に混合して表示品質を低下させる。
【0003】そこで、このような外光のディスプレイ内への入射を防止するため、表示画面に凹凸を設けて外光を乱反射させたり、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層させた反射防止フィルムを画面上に設けることがなされている。」

イ 「【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、外光を乱反射させる方法では、ディスプレイ上の画像がぼやけて見えるという問題がある。
【0005】また、反射防止フィルムを使用する場合、画像品質の点では乱反射させる方法に比して優れているが、ディスプレイ表面の帯電の問題や、ディスプレイを通して機器内部あるいは外部への電磁場の漏洩の問題があり、特に昨今の通信機器の発達に伴い、種々の機器への電磁波の影響が懸念されている。
【0006】これに対しては、反射防止フィルム(通常、反射防止フィルム内の高屈折率層)に、導電性をもたせることにより帯電防止を図ったり、電磁波遮蔽性を付与することがなされている。しかしながら、反射防止フィルムに所望の導電性を付与する抵抗値を任意に設定することは困難であり、所望の形態を付与することも困難である。これは、反射防止フィルムが光学膜であるために、その屈折率と膜厚の関数として、誘電率や抵抗値や形態が定まるためである。特に、高屈折率層は、一般に反射防止フィルム中に単層で含まれているため、その単一の層に所望の抵抗値と形態とを同時に付与することは困難となる。例えば、反射防止フィルムに帯電防止能を付与するためには、抵抗値1MΩ程度の導電性をもたせればよく、一方、電磁波遮蔽能を付与するためには、電磁波の周波数にもよるが、抵抗値200Ω以下程度の導電性が要求される。
【0007】また、ディスプレイは不特定多数の人により使用される場合も多いため、衛生面での安全性を確保することも問題となっている。
【0008】本発明は以上のような従来技術の課題を解決しようとするものであり、可視光の反射防止性能に優れ、かつ必要に応じて所望の電磁波遮蔽性や帯電防止性を付与することができ、さらには衛生面での安全性も向上させることのできる反射防止フィルムを提供することを目的とする。」

ウ 「【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記の目的を達成するため、請求項1記載の発明として、フィルム基材上に高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層した反射防止層を有する反射防止フィルムであって、反射防止層の高屈折率層又は低屈折率層が、光学的には単一層であるが、非光学的には2種以上の層からなることを特徴とする反射防止フィルムを提供する。
・・省略・・
【0017】請求項1記載の本発明の反射防止フィルムによれば、反射防止層の高屈折率層又は低屈折率層が、光学的には(即ち、光学的機能としては)単一層であるが、非光学的には2種以上の層から構成されている。このため、反射防止層の高屈折率層又は低屈折率層を構成する2種以上の層のそれぞれに独立的に、所定の屈折率と、反射防止層に必要とされる電磁波遮蔽性、帯電防止性、抗菌性、防カビ性等の諸特性の少なくとも1つの特性とが満たされるように、成分あるいは成分割合を設定することができる。したがって、反射防止層全体としては、所定の屈折率の高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層することにより優れた反射防止性能を有すると共に、電磁波遮蔽性、帯電防止性、抗菌性及び防カビ性等の当該反射防止層に必要とされる諸特性も同時に有するものとなる。」

エ 「【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態に係る反射防止フィルムの例を図面に示し、詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一又は同等の構成要素を表している。
【0019】図1は、本発明の一つの態様の反射防止フィルム1Aである。この反射防止フィルム1Aは、フィルム基材2、ハードコート層3、反射防止層4、防汚処理層5から構成されている。
【0020】ここで、反射防止層4は、光学的には高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層させた公知の反射防止層と同様に、高屈折率層41と低屈折率層42とが交互に積層した合計4層の所定の屈折率層からなっている。この場合、各高屈折率層41あるいは低屈折率層42は、所定の光学膜厚(n×d(式中、nは屈折率、dは距離))に設定することにより、所期の反射防止機能を発揮する。例えば、高屈折率層41を屈折率(n)1.85以上、低屈折率層42を屈折率(n)1.70以下、好ましくは1.60以下とする。高屈折率層41と低屈折率層42との層数は、図1には、高屈折率層41と低屈折率層42とをそれぞれ2層ずつ合計4層とした例を示したが、好ましくはそれぞれ2層以上とすることにより、波長領域470nmから650nmの範囲における反射率0.5%以下の領域を広げることができる。
【0021】この反射防止フィルム1Aでは、2つの高屈折率層41のうち上方の高屈折率層41が、光学的には単一層であるが、実際には、電磁波遮蔽性、帯電防止性、抗菌性及び防カビ性等の非光学的性質が異なる2層の高屈折率層41a、41bからなっていることを特徴としている。即ち、本発明において、高屈折率層41aと高屈折率層41bとは、光学的に等しい屈折率を有するように形成されるが、その形成成分や成分割合は、独立的に定めることができる。したがって、例えば、一方の高屈折率層41aは、反射防止層4に必要とされる電磁波遮蔽性が満たされるように成分ないしは成分割合を設定することができ、他方の高屈折率層41bには、反射防止層4に必要とされる帯電防止性が満たされるように、成分ないしは成分割合を設定することができる。さらにはいずれか一方の高屈折率層に、必要な抗菌性、防カビ性等の諸特性が満足されるよう、抗菌性材料や防カビ性材料を配合することもできる。
【0022】したがって、この反射防止フィルム1Aの反射防止層全体としては、所定の屈折率の高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層することにより優れた反射防止性能を有すると共に、電磁波遮蔽性、帯電防止性、抗菌性及び防カビ性等の非光学的諸特性についても優れた特性を同時に兼ね備えたものとなる。
【0023】高屈折率層41、41a、41bの形成材料としては、種々の誘電体や導電材料等を適宜選択して用いることができ、特に、誘電体としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化ハフニウム、酸化セリウム、酸化錫等を使用することができる。また、導電材料としては、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫及酸化インジウム-酸化錫(ITO)等を使用することができる。
【0024】また、高屈折率層41に抗菌性や防カビ性を付与する場合に使用する抗菌性材料又は防カビ性材料としては、限定されるものではない。一般には、銀イオンを含む化合物に抗菌性や防カビ性の効果を発揮するものが多く、例えば銀イオン交換型のゼオライト、リン酸チタン銀、リン酸ジルコニウム銀などがあり、これらは用途に応じて適時使用することができる。ただし、本発明においては、抗菌性材料や防カビ性材料を配合した高屈折率層41が、所定の屈折率あるいは透明性といった光学的特性を満たすことが必要とされるため、抗菌性材料あるいは防カビ性材料としては、複合酸化物ではなく、通常の酸化物を使用することが好ましい。例えば銀イオンを含まない化合物として、酸化亜鉛(屈折率n=-2.1)、ポリ酸((タングステン酸(屈折率n=-1.9)、モリブデン酸(屈折率n=1.68)等)、さらにはアルミニウムや鉄を少量ドープした酸化チタン(屈折率n=2.3)等を好ましく使用することができる。これらはいずれも、大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌に対して抗菌性を有する。また、酸化チタンはさらに防カビ性も有する。
【0025】一方、低屈折率層42の形成材料としては、二酸化珪素、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム等をあげることができる。また、後述するように低屈折率層42に抗菌性や防カビ性を付与する場合には、上述の高屈折率層42に抗菌性や防カビ性を付与する場合と同様の抗菌性材料や防カビ性材料を使用することができる。
【0026】以上の反射防止層4の各層の形成方法としては、フィルム基材2その他各層にダメージを与えることなく成膜することができる限り、任意の成膜方法を採用することができる。例えば、スパッタリング法や蒸着法等のPVD法を使用することができる。この場合、適時、反応性蒸着あるいはプラズマやイオンビーム等によるアシスト蒸着を施しても構わない。また、ガス組成を適当に変化させたCVD法も使用することができる。
【0027】本発明において、上述の反射防止層4以外の構成は、公知の反射防止フィルムと同様に構成することができるが、好ましくは、以下に説明するようにフィルム基材2、ハードコート層3及び防汚処理層5を設ける。
【0028】即ち、この反射防止フィルム1Aにおいて、フィルム基材2は、透明なプラスチックフィルムであれば良く、当該反射防止フィルムの目的に応じて適時、選択される。例えば、反射防止フィルムがディスプレイの表面で使用されるものである場合、フィルム基材2には複屈折のないことが要求されるため、その構成素材としては、例えば、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリエーテルスルホン、ポリメチルアクリレート等を挙げることができる。ポリエチレンテレフタレート等汎用性のあるフィルム素材から形成してもよい。その厚さは用途に応じて選定される。
【0029】ハードコート層3は、反射防止フィルムに所望の硬さを付与するため、必要に応じて設けられる。このハードコート層3としては、透明性があり、屈折率がフィルム基材2の屈折率nと等しいことが望ましいが、フィルム基材2の屈折率nに対し、±0.05以内であれば良い。ハードコート層3の厚さは、光学特性及び可撓性の点から10μm以下が好ましく、1?7μmがより好ましく、さらに3?7μmが好ましいが、反射防止フィルムに所期の硬さを付与できる限り、特に限定されない。
・・省略・・
【0033】以上、図1に示した反射防止フィルム1Aについて、本発明の態様を詳細に説明したが、本発明は、この他種々の態様をとることができる。例えば、図1では高屈折率層41の一つを光学的には単一層であるが、非光学的には異なる2層41a,41bから形成した例を示したが、図2に示す反射防止フィルム1Bのように、低屈折率層42の一つを光学的には単一層であるが、非光学的には異なる2層42a,42bから形成してもよく、それにより反射防止層4に所望の電磁波遮蔽性、帯電防止性、抗菌性、防カビ性等の諸特性を付与することができる。」

オ 「【0048】
【発明の効果】本発明によれば、可視光の反射防止性能に優れ、かつ必要に応じて所望の電磁波遮蔽性や帯電防止性を有し、さらには抗菌性や防カビ性等の衛生面での安全性も向上させた反射防止フィルムを得ることができる。」

カ 「【図1】

【図2】



(2)引用発明
ア 引用文献1の図2からは、「フィルム基材」、「ハードコート層」、「反射防止層」、「防汚処理層」がこの順に積層された「反射防止フィルム」が看取される。また、引用文献1の図2について、引用文献1の【0020】及び【0033】の記載と併せて考慮すると、「反射防止層」は「高屈折率層」と「低屈折率層」とが交互に積層した合計4層からなり、そのうち、最も「フィルム基材」から遠い「低屈折率層」が、「光学的には単一層であるが、非光学的性質が異なる2層」からなっていることが把握できる。
イ 引用文献1の【0021】には、非光学的性質が異なる2層の高屈折率層41a、41bのいずれか一方の高屈折率層に、必要な抗菌性、防カビ性等の諸特性が満足されるよう、抗菌性材料や防カビ性材料を配合する旨の記載があり、当該記載と引用文献1の【0025】及び【0033】の記載を併せて考慮すれば、引用文献1の図2に示される「反射防止フィルム」の態様においても必要な抗菌性、防カビ性等の諸特性が満足するように、「非光学的性質が異なる2層」の「低屈折率層」のうち、いずれか一方の「低屈折率層」に、抗菌性材料や防カビ性材料を配合する構成が把握できる。
ウ 引用文献1の【0024】及び【0025】の記載からは、「低屈折率層」に抗菌性や防カビ性を付与する場合に、「高屈折率層」に抗菌性や防カビ性を付与する場合と同様の抗菌性材料や防カビ性材料として、「銀イオンを含む化合物」を使用することができることが把握できる。
エ 引用文献1の【0017】、【0021】等の記載からは、必要な抗菌性、防カビ性等の諸特性が満足するように、「非光学的性質が異なる2層」のうち、いずれか一方の「低屈折率層」に、抗菌性材料や防カビ性材料を配合する一方で、「非光学的性質が異なる2層」のうち他方の「低屈折率層」及び「非光学的性質が異なる2層」以外の「屈折率層」については、抗菌性材料や防カビ性材料を含まない構成を把握することができる(なお、引用文献1の実施例からもそのことが把握できる。)。
オ そうしてみると、引用文献1には、次の「反射防止フィルム」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「フィルム基材、ハードコート層、反射防止層、防汚処理層がこの順に設けられており、
反射防止層は、高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層した合計4層の所定の屈折率層からなっており、
反射防止層のうち、最もフィルム基材から遠い低屈折率層は、光学的には単一層であるが、非光学的性質が異なる2層からなっており、必要な抗菌性、防カビ性等の諸特性が満足するために、非光学的性質が異なる2層のいずれか一方の低屈折率層に、抗菌性材料や防カビ性材料として銀イオンを含む化合物が配合され、
非光学的性質が異なる2層のうち他方の低屈折率層及び非光学的性質が異なる2層以外の屈折率層は、抗菌性材料や防カビ性材料として銀イオンを含む化合物を含んでいない
反射防止フィルム。」

(3)対比
本件補正後発明と引用発明を対比する。
ア 基材
引用発明の「反射防止フィルム」は、「フィルム基材、ハードコート層、反射防止層、防汚処理層がこの順に設けられて」いる。
上記構成及び「フィルム基材」との文言からみて、引用発明の「フィルム基材」は、本件補正後発明の「基材」に相当する。

イ 誘電体多層膜
引用発明の「低屈折率層」及び「高屈折率層」は、「反射防止層」の反射防止機能を発揮させるために「交互に積層」されたものであり、「合計4層」となっていることから、「低屈折率層」及び「高屈折率層」はそれぞれ2層ずつ積層されている。また、その文言からみても「低屈折率層」の屈折率は、「高屈折率層」より低くなっているといえる(この点、引用文献1【0020】においても、例として高屈折率層の屈折率を1.85以上、低屈折率層の屈折率を1.70以下、好ましくは1.60以下とすることが記載されている。)。
そうしてみると、引用発明の「屈折率層」を構成する2層の「低屈折率層」と本件補正後発明の「複数の低屈折率誘電体層」は、「複数の低屈折率」「層」という点で共通する。同様に引用発明の「屈折率層」を構成する2層の「高屈折率層」と本件補正後発明の「複数の高屈折率誘電体層」は、「複数の高屈折率」「層」という点で共通する。
また、引用発明の「屈折率層」は、「高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層」されており、引用文献1【0026】の記載等より、各層は成膜されたものであることから「膜」になっているといえる。
そうすると、引用発明の「屈折率層」と本件補正後発明の「複数の低屈折率誘電体層」は、「多層膜」という点で共通する。

ウ 最外層
引用発明の「非光学的性質が異なる2層」のうち「フィルム基材」から遠い「層」(引用文献1図2の42bにあたる層)は、引用発明の「フィルム基材」及び「屈折率層」の層構成からみて、「屈折率層」において「フィルム基材」から最も遠い層である。
また、本件補正後発明でいう「最外層」とは、「前記誘電体多層膜における物理的に最も前記基材から遠い層」のことであり、引用発明の「防汚処理層5」はこれに該当しない。
そうしてみると、引用発明の「非光学的性質が異なる2層」のうち「フィルム基材」から遠い「層」は、本件補正後発明の「最外層」に相当する。

エ 最外層以外の物理的な層
引用発明の「非光学的性質が異なる2層」のうち「フィルム基材」に近い層(引用文献1図2の42aにあたる層)及び「非光学的性質が異なる2層以外の屈折率層」は、引用発明の「フィルム基材」及び「屈折率層」の層構成からみて、本件補正後発明の「最外層以外の物理的な層」に相当する。

オ 光学製品
引用発明の「反射防止フィルム」は、「反射防止」という光学的性質を有している。また、引用文献1【0001】に記載のように、引用発明の「反射防止フィルム」は「ディスプレイの表示画面の表面に設けられた偏光フィルムなどの上に適用される」ものであることから「製品」ということができる。そうしてみると、引用発明の「反射防止フィルム」は、本件補正後発明の「光学製品」に相当する。

(4)一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「基材と、
複数の低屈折率層及び複数の高屈折率層を交互に配置される状態で含む多層膜と、
を備えている、
光学製品。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する、又は一応相違する。
(相違点1)
「誘電体多層膜」が、本件補正後発明は、「基材の表面に形成され」ているのに対して、引用発明は、「フィルム基材」上に設けられた「ハードコート層」上に設けられている点。

(相違点2)
「誘電体多層膜」が、本件補正後発明は、「複数の低屈折率誘電体層及び複数の高屈折率誘電体層を交互に配置される状態で含む」のに対して、引用発明は、「低屈折率層」及び「高屈折率層」が誘電体層であるか特定されていない点。

(相違点3)
「物理的に最も前記基材から遠い層である最外層」が、本件補正後発明は、「金属イオン担持ゼオライトを含む誘電体を有する誘電体層」となっており、「金属イオン担持ゼオライト」が「誘電体に対して10重量%以上50重量%以下となる状態で配置されて」いるのに対して、引用発明では、「抗菌性材料や防カビ性材料として銀イオンを含む化合物」が配合される層が「非光学的性質が異なる2層」のうち、「フィルム基材」から遠い層か「フィルム基材」に近い層か特定されておらず、また、「抗菌性材料」について「金属イオン担持ゼオライト」であること及びその量についての特定がない点。

(相違点4)
「誘電体多層膜」が、本件補正後発明では、「誘電体多層膜における前記最外層以外の物理的な層は、前記金属イオン担持ゼオライトを含んでいない」という要件を満たすものであるのに対して、引用発明では、「非光学的性質が異なる2層以外の屈折率層は、抗菌性材料や防カビ性材料として銀イオンを含む化合物を含んでいない」ものの、「非光学的性質が異なる2層」のうち「フィルム基材」に近い層について「抗菌性材料や防カビ性材料として銀イオンを含む化合物」を含んでいないかが、一応、明らかでない点。

(5)判断
ア 相違点1について
引用文献1には「ハードコート層3は、反射防止フィルムに所望の硬さを付与するため、必要に応じて設けられる。」と記載されており(【0029】)、当該記載に基づいて引用発明において「ハードコート層」を設けずに、「フィルム基材」の表面に「反射防止層」を形成するようにすることは当業者が適宜設計する事項にすぎない。

イ 相違点2について
引用文献1には高屈折率層の材料として誘電体が記載されており(【0023】)、低屈折率層の材料についても同様に誘電体が記載されている(【0025】)。また、複数の低屈折率誘電体層及び複数の高屈折率誘電体層を交互に配置された誘電体多層膜による反射防止層は文献を示すまでもなく周知慣用技術である。このような引用文献1の記載及び周知慣用技術を考慮すると、引用発明1の「低屈折率層」及び「高屈折率層」は、実質的に、反射防止層を構成するものとして誘電体からなっているといえる。したがって、相違点2については実質的な相違点とはいえない。仮に相違点であるとしても、引用発明における「低屈折率層」及び「高屈折率層」を、それぞれ「低屈折率誘電体層」、「高屈折率誘電体層」とすることは、上記引用文献1の記載及び周知慣用技術を踏まえれば、当業者が自然に採用する構成にすぎない。

ウ 相違点3、4について
相違点3、4は、抗菌性材料を含む層に関するものであり、互いに関連するため、相違点3、4について併せて検討する。
表面近傍に抗菌部材を設けて外表面に細菌等が繁殖しないようにすることは抗菌性を備える光学部材の技術分野において周知な技術課題である(例えば、特開平11-86757号公報(原査定の拒絶の理由において引用された引用文献2)【0014】、特開平11-101901号公報(原査定の拒絶の理由において引用された引用文献4)【0023】参照。)。また、抗菌材料として金属イオン担持ゼオライトを用いることは周知な事項である(例えば、特開2016-33109号公報(原査定の拒絶の理由において引用された引用文献3)【0027】、猪俣崇,“真空蒸着法を用いた抗菌薄膜の作製”,2017年<第64回>応用物理学会春季学術講演会[講演予稿集],2017年 3月 1日,p.05-165(以下、「周知例1」という。)及び猪俣崇,“15a-P5-3 第64回応用物理学会春季学術講演会(パシフィコ横浜) 真空蒸着法を用いた抗菌薄膜の作製”,[online],2017年 3月 6日,[令和3年3月2日検索]<URL:http://www.kisankinzoku.co.jp/library/5a1cedfff98bae3950510a95/5acd5546d3bc58633338f58d.pdf>(以下、「周知例2」という。)参照。)。引用文献1にも、「銀イオンを含む化合物」として、銀イオン交換型のゼオライトが例示されている(【0024】)。
そして、これらの周知な技術課題及び周知な事項を知得している当業者にとって、引用発明の「抗菌性材料や防カビ性材料として銀イオンを含む化合物」が配合される層として「非光学的性質が異なる2層」のうち、より表面に近い層である「フィルム基材」から遠い層とし、「抗菌性材料」として「金属イオン担持ゼオライト」とすることは、通常の創意工夫の範囲内の事項にすぎない。
また、「金属イオン担持ゼオライト」の量について、上記周知例1及び周知例2には、それぞれ、「Agイオンを担持したゼオライトを任意の割合で添加することで作製した。・・抗菌薄膜の光学特性の評価・・抗菌効果の評価は・・行った。」、「SiO_(2)に添加する抗菌ゼオライト量を10?20wt%とする」と記載されている。そして、これらの記載に基づいて、「金属イオン担持ゼオライト」の量を本件補正後発明の相違点3に係る数値範囲内とすることは、「反射防止フィルム」としての光学特性や抗菌性能を考慮して当業者が適宜設計する事項にすぎない。
さらに、引用発明は、「非光学的性質が異なる2層のいずれか一方の低屈折率層に、抗菌性材料や防カビ性材料として銀イオンを含む化合物が配合され」ているところ、上記のように、「抗菌性材料や防カビ性材料として銀イオンを含む化合物」が配合される層として「非光学的性質が異なる2層」のうち、「フィルム基材」から遠い層とすることにより、「フィルム基材」に近い層については「抗菌性材料や防カビ性材料として銀イオンを含む化合物」を含んでいないことになる。そうすると、引用発明に上記のような設計変更をしたものは、相違点4にかかる本件補正後発明の要件を満たすことになる。

(6)発明の効果について
本件補正後発明の効果について、本件出願の明細書の【0006】には、「本発明の主な効果は、反射防止等の光学機能を有しながら、抗菌性を呈する光学製品を提供することができる」と記載され、【0038】には「金属イオン担持ゼオライトは、有機系抗菌材より熱に強く経時変化の少ない無機系抗菌材であるから、有機系抗菌材を含有する光学製品より長期間安定して抗菌作用を発揮する。・・光学製品のなるべく表面に近い箇所に抗菌材含有層が配置されることとなり、光学製品が抗菌性に優れたものとなる。・・誘電体多層膜の最外層のみに金属イオン担持ゼオライト含有層が配置されれば、金属イオン担持ゼオライトの含有による透過率増加等の光学性能への影響が限定されたものとなる。」と記載されている。
しかしながら、このような効果は、引用発明及び周知の事項から当業者が予測できる範囲内のものにすぎない。

(7)請求人の主張について
令和3年1月19日付け審判請求書において、請求人は、(1)「引用文献1のフィルムでは、物理的な最外層への抗菌性材料の配置の特定はなされていない。」、(2)「金属イオン担持ゼオライトの割合の特定は、何れの引用文献においても、なされていない。」と主張する。
しかしながら、これらの点は上記(5)で既に述べたとおりであるから請求人の主張は、採用できない。

(8)小括
本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 補正の却下の決定のむすび
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載された事項によって特定されるとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1(特開平10-282307号公報)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用文献の記載及び引用発明
引用文献1の記載並びに引用発明は、前記「第2」[理由]2(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から、前記「第2」[理由]1(3)で述べた限定を除いたものである。また、本願発明の構成を全て具備し、これにさらに限定を付したものに相当する本件補正後発明は、前記「第2」[理由]2(3)?(8)で述べたとおり、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2021-06-21 
結審通知日 2021-06-22 
審決日 2021-07-28 
出願番号 特願2017-57905(P2017-57905)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 説志  
特許庁審判長 榎本 吉孝
特許庁審判官 早川 貴之
関根 洋之
発明の名称 光学製品  
代理人 園田 清隆  
代理人 石田 喜樹  

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