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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06Q
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06Q
管理番号 1378278
審判番号 不服2020-15127  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-10-30 
確定日 2021-10-15 
事件の表示 特願2017- 35462「作業予定範囲可視化装置および作業予定範囲可視化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月13日出願公開、特開2018-142146、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成29年2月27日の出願であって,令和2年2月20日付けで拒絶理由通知がされ,令和2年4月7日付けで手続補正がされ,令和2年9月4日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ,これに対し,令和2年10月30日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,令和3年6月10日付けで拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)がされ,令和3年7月15日付けで手続補正(以下,「本件補正」という。)がされたものである。


第2 原査定の概要

原査定の概要は次のとおりである。
この出願の請求項1?5に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1 特開2005-050098号公報
2 特開2010-108321号公報
3 特開2009-116806号公報


第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

理由1.(実施可能要件)この出願は,発明の詳細な説明の記載が,当業者が請求項1?4に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないため,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由2.(明確性)この出願は,特許請求の範囲の請求項5に係る発明が明確でないため,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


第4 本願発明

本願請求項1?5に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」?「本願発明5」という。)は,本件補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。なお,下線は補正箇所であり,審判請求人が付与した。

「【請求項1】
作業対象の設計データを記憶している設計データ記憶部と,
前記設計データに基づく作業工程データを記憶している工程データ記憶部と,
将来を含む期間である指定期間が一週間単位や1日単位,1時間単位,分単位の何れかで入力されて設定および変更できる指定部に接続された入力部と,
前記設計データ及び前記作業工程データのうち,前記指定期間より前に作業が完了した箇所である第1作業箇所,前記指定期間内に作業予定である第2作業箇所,及び,前記指定期間後に作業予定である第3作業箇所のそれぞれに該当するデータを抽出し,前記第1作業箇所,前記第2作業箇所,及び,前記第3作業箇所をそれぞれ区別して前記作業対象の図面を同一ウィンドウ又は同一紙面上に作成する図面作成部と,
を有する作業予定範囲可視化装置。
【請求項2】
前記指定部は,
前記第1作業箇所,前記第2作業箇所,及び,前記第3作業箇所のそれぞれに該当する色である第1作業色,第2作業色,及び,第3作業色を指定し,
前記図面作成部は,
前記第1作業箇所,前記第2作業箇所,及び,前記第3作業箇所をそれぞれ前記第1作業色,前記第2作業色,及び,前記第3作業色に着色して前記作業対象の図面を作成する
請求項1に記載の作業予定範囲可視化装置。
【請求項3】
前記設計データは3DCADデータである請求項1乃至請求項2のいずれか一項に記載の作業予定範囲可視化装置。
【請求項4】
前記作業工程データを変更する変更入力部を有する請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の作業予定範囲可視化装置。
【請求項5】
将来を含む期間である指定期間を指定部に接続された入力部から一週間単位や1日単位,1時間単位,分単位の何れかで入力して設定および変更できる入力工程と,
作業対象の設計データ,及び,前記設計データに基づく作業工程データのうち,前記指定部に入力された指定期間より前に作業が完了した箇所である第1作業箇所,前記指定期間内に作業予定である第2作業箇所,及び,前記指定期間後に作業予定である第3作業箇所のそれぞれに該当するデータを設計データ記憶部から抽出する抽出工程と,
前記第1作業箇所,前記第2作業箇所,及び,前記第3作業箇所のそれぞれに該当する前記データを視覚的に区別可能であるように前記作業対象の図面を図面作成部で同一ウィンドウ又は同一紙面上に作成する図面作成工程と,
を有する作業予定範囲可視化方法。


第5 引用文献,引用発明等

1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載されている事項
令和2年9月4日付けの原査定で引用された引用文献1には次の事項が記載されている。

ア 「【0001】
この発明は,コンピュータを使用して,受注段階で施主や工事関係者などに行うプレゼンテーションや施工管理段階で行う作業指示等の際に,建築工事の施工過程と進捗状況を時系列的に3次元の画像データで出力表示して目視で確認できる施工プロセス可視化方法に関する。」

イ 「【0017】
このコンピュータ10は,演算装置および制御装置から成る中央処理装置(CPU)12と,RAMなどの主記憶装置15と,ハードディスクドライブや光磁気ディスクドライブなどの読み書き可能な記憶媒体および駆動デバイスから成る記憶装置(以下,補助記憶装置と云う。)16と,モニタ14aやプリンタ14bなどの出力装置14と,キーボード13aやマウス13bなどの入力装置13とから構成される。
【0018】(省略)
【0019】
なお,前記補助記憶装置16には,オペレーティングシステム(OS)および本発明に係る施工プロセス可視化方法を実行するためのプログラムなどが記憶格納されている。また,3次元CADデータで成る建物モデルデータの他,本実施形態で作成される施工計画モデルデータ,工程データ,3次元施工プロセスデータ,属性関連データを記録格納するデータ領域を有している。」

ウ 「【0023】
<施工計画モデルデータの作成手順>
施工計画モデルデータは,基本的にCAD(Computer Aided design)であり,建物の各部材を必要に応じて複数組み合わせたユニット部材毎にグループ化すると共に,前記各部材及びユニット部材のCADデータ(以下,部材ユニットデータと云う。)に少なくとも建物の階又は節,工区,部位等の位置情報を前記工程データと関連付け可能にコード化された属性情報を付加して作成され,補助記憶装置16へ格納される。
【0024】
以下に,補助記憶装置16に格納された,前記属性情報の設定処理を行うのみで完成する段階まで予め作成済みの3次元CADデータで成る建物モデルデータをコンピュータで読み取り,当該建物モデルデータに前記属性情報を付加し施工計画モデルデータとして完成させる場合を例に,前記施工計画モデルデータの作成手順の処理内容を図3に示す流れ図に沿って説明する。
【0025】
先ず,ステップA1において,利用者が入力装置13を操作して,前記補助記憶装置16に格納されている任意の建物モデルデータを読み出し,前記コンピュータ10の主記憶装置15に読み込ませる。この建物モデルデータは,前記属性情報の骨格を司るディフォルト設定された基本情報が付加された状態にあり,CADの平面図形の処理機能を製図用途に応用し作成した建築工事にかかる建物の設計図データである。また,既にディフォルトされた基本情報に基づき,3次元図形処理機能により,3次元画像として立体的に建物を表示できるデータファイルでもある。」

エ 「【0028】
次にステップA2では,工程データの属性情報との関連付けを図るために,建物モデルデータに「階・節」の属性情報を付加する。具体的には,利用者が入力装置13を操作して,前記属性情報を設定する平面図の階を前記「階」ボタン21におけるドロップダウンメニュー内の一覧から選択し指定して,コンピュータ10に目的とする階の平面図を表示させて確認し,「階・節」の属性の関連付けを行う(図4参照)。もちろん,キーボード13aを操作して,前記「階」ボタンの表示枠21aへ直に階数を入力し,指定しても良い。」

オ 「【0034】
その後,上記したステップA2?ステップA5までの処理を建築工事を行う建物の全ての階について行うと,各部材又はユニット部材,即ち部材ユニットデータに,階・節,工区,部位(種別)により定義される属性情報がコード化された内容で付加され,施工計画モデルデータが完成する。つまり,前記施工計画モデルデータは,工程データと少なくとも階・節,工区,部位(分割,統合)の属性情報を一致させて関連付ける事が可能なデータ形式(コード化)である。施工計画モデルデータが有するデータは,図7の右側の施工計画モデルデータに示すように,前記共通属性(階・節,工区,部位)の他,通り芯(座標データ),部材データ(座標データ),部材断面データ,構造形式データ等の(各ステップで設定した)部材ユニットデータが付加されている。因みに,前記部材ユニットデータは,例えば図6に示した大梁ホの部材の場合,利用者が入力装置13を介して表示ウインドウ20とは別に属性表示ウインドウ29を表示させて内容を確認することができる。この属性表示ウインドウ29は,上記した分割処理画面,統合処理画面,工区設定画面など,何れの処理画面でも前記表示ウインドウ20とは別にモニタ14a上の画面上へ表示できる。
【0035】
<工程データの作成手順>
次にステップBにおいて,施工計画者又は工事関係者等の利用者により前記施工計画モデルに対応する工程データを作成する手順を説明する。
前記工程データは,例えば特開平10-205130号公報に開示されている工程情報を具えた工程データと同様の手法,手順により作成され,補助記憶装置16へ記憶格納される。この特開平10-205130号公報に開示される工程データのデータ構造は,工程表上の工程線に並記する作業名に対応した工程情報を具えた構造を採っている。なお,本発明における工程表の作業属性データは,前記特開平10-205130号公報における工程情報の項目に「部位」の項目を追加したものであり,当該作業属性データに含まれる情報の項目の中で少なくとも「階・節」,「工区」,「部位」の3つの位置情報の項目を属性情報として定義する。つまり,ステップAで設定した少なくとも階・節,工区,部位の属性情報と一致させて関連付け可能にコード化されたデータである。データ内容は,図7の左側の工程データに示すように,共通属性(階・節,工区,部位)の他,作業歩掛,作業名称,作業開始日,作業終了日等の作業属性データである。」

カ 「【0044】
以下,コンピュータ10が日時指定ボタン60に日付が入力されてから3次元表示ウインドウ60上に入力された日付における施工状況が3次元画像で表示するまでの処理内容を図12に示す流れ図に沿って説明する。
【0045】
先ず,ステップE1において,利用者により入力装置13を介して任意の日付が前記日時指定ボタン61の入力枠61aに入力されると,ステップE2で,コンピュータ10は3次元施工プロセスデータに含まれる施工計画モデルデータの部材ユニットデータについて,当該部材ユニットデータに関連付けされた(割付けられた)工程データの作業属性データに記録された作業の「開始日」を参照し,当該作業の「開始日」が前記任意の日付以降か否かを確認する。前記作業の「開始日」が前記任意の日付以降である場合(Yes)は,次のステップE3へ進む。一方,前記作業の「開始日」が前記任意の日付より前の場合(No)は,ステップE5へ進み,該当する部材ユニットデータにかかる部材又はユニット部材の3次元画像は表示しないとの判断を下す。その場合の工程表示は,図12の(B)のCase1のようになる。
【0046】
ステップE3では,コンピュータ10が当該ステップE3へ進んだ部材ユニットデータについて,当該ユニットデータに関連付けされた(割付けられた)作業属性データに記録された作業の「終了日」を参照し,前記任意の日付より前か否かを確認する。つまり,部材ユニット作業がすべて完了しているかどうかの確認をする。前記作業の「終了日」が前記任意の日付以降の場合(No)の場合は,ステップE4へ進む。一方,前記作業の「終了日」が前記任意の日付より前の場合(Yes)の場合は,ステップE6へ進み,該当する部材ユニットデータにかかる部材又はユニット部材の3次元画像を作業完了色又は作業完了模様で表示する。前記作業完了色又は作業完了模様とは,各部材又はユニット部材にかかる各工程の作業が完了していることを示すために設定された表示色又は模様である。工程表示は,図12の(B)のCase2のようになる。
【0047】
ステップE4では,コンピュータ10が当該ステップE4へ進んだ部材ユニットデータについて,当該部材ユニットデータに関連付けされた作業属性データに記録された作業の「開始日」と「終了日」を参照し,当該作業属性データに記録された作業が実際に進行中の作業なのか,それとも休止中の作業なのかを判断する。作業属性データに記録された作業が実際に進行中の作業の場合(Yes)は,ステップE8へ進み,該当する部材ユニットデータにかかる部材又はユニット部材の3次元画像を作業色又は作業模様で表示する。作業色又は作業模様とは,各部材又はユニット部材にかかる各工程の作業中であることを示すために設定された表示色又は模様である。その場合の工程表示は,図12の(B)のCase3のようになる。一方,作業属性データに記録された作業が休止中の作業の場合(No)は,ステップE7へ進み,該当する部材ユニットデータにかかる部材又はユニット部材の3次元画像を作業休止色又は作業休止模様で表示する。その場合の工程表示は,図12の(B)のCase4のようになる。因みに,作業休止色又は作業休止模様とは,直前に終了した作業の色で透明3D表示された表示色又は模様である。因みに,図11では,前記日時指定ボタン61の入力枠61aに「2002年2月1日」の日時を入力した場合に表示される施工状況の表示画面である。」

キ 【図11】


ク 【図12】


ケ 上記【0045】及び図12から,施工計画データの,対象となる全ての部材ユニットデータに対して,工程データの作業属性データに記録された作業の「開始日」を参照し,当該作業の「開始日」が前記任意の日付以降か否かの確認が行われるものである。

(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)から,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

補助記憶装置16と,出力装置14と,入力装置13とから構成されるコンピュータ10であって(【0017】),
3次元CADデータで成る建物モデルデータ,施工計画モデルデータ,工程データを記録格納するデータ領域を有している補助記憶装置16と(【0019】),
建物モデルデータは,CADの平面図形の処理機能を製図用途に応用し作成した建築工事にかかる建物の設計図データであり(【0025】),施工計画モデルデータは,共通属性(階・節,工区,部位)の他,通り芯(座標データ),部材データ(座標データ),部材断面データ,構造形式データ等の(各ステップで設定した)部材ユニットデータが付加されたものであって,建物モデルデータに属性情報を付加したものであり,そして,建物の階又は節,工区,部位等の位置情報を工程データと関連付け可能にコード化された属性情報を付加したデータであり(【0023】【0024】【0034】【0035】),工程データは,共通属性(階・節,工区,部位)の他,作業歩掛,作業名称,作業開始日,作業終了日等の作業属性データを含み(【0035】),
ステップE1において,利用者により入力装置13を介して任意の日付が前記日時指定ボタン61の入力枠61aに入力されると,工程データの作業属性データに記録された作業の「開始日」を参照し,当該作業の「開始日」が前記任意の日付以降か否かを確認し(【0045】),
ステップE3では,前記作業の「終了日」が前記任意の日付より前の場合(Yes)の場合は,ステップE6へ進み,該当する部材ユニットデータにかかる部材又はユニット部材の3次元画像を作業完了色又は作業完了模様で表示し(【0046】),
ステップE4では,「開始日」と「終了日」を参照し,当該作業属性データに記録された作業が実際に進行中の作業なのか,それとも休止中の作業なのかを判断し,作業属性データに記録された作業が実際に進行中の作業の場合(Yes)は,ステップE8へ進み,該当する部材ユニットデータにかかる部材又はユニット部材の3次元画像を作業色又は作業模様で表示し,一方,作業属性データに記録された作業が休止中の作業の場合(No)は,ステップE7へ進み,該当する部材ユニットデータにかかる部材又はユニット部材の3次元画像を作業休止色又は作業休止模様で表示するものであって(【0047】),
施工計画モデルデータの,対象となる全ての部材ユニットデータに対して,工程データの作業属性データに記録された作業の「開始日」を参照し,当該作業の「開始日」が前記任意の日付以降か否かの確認が行われ(上記ケ)
施工状況を図11の表示画面のとおり表示する(【0047】【図11】),
コンピュータ10。

2 引用文献2について
(1)引用文献2に記載されている事項
令和2年9月4日付けの原査定で引用された引用文献2には次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は,プラント設備やビル設備建設など,足場を必要とする建設,据付状態の可視化システムに関わる。特に,構造,手順が複雑となる建設工程を3次元モデル上で検証,進捗確認をする技術に関わる。」

「【0015】
建設対象のCADモデルは,CADモデル格納部101に記録されている。また,建設の工程データは,建設工程格納部102に記録されている。CAD-工程マッピング処理部103は,上記CADモデルと建設工程データの対応関係を求め,おのおのの関係の対応テーブルをCAD-工程マップテーブル格納部104に格納する。CAD-工程マッピング処理部103の実行と,CAD-工程マップテーブル格納部104へのテーブルの格納は,シミュレーションを実施する前処理として事前に実施しておくことが可能である。
【0016】
可視化システムを利用するユーザは,シミュレーション表示を行いたい日を指定するために,シミュレーション表示指定日格納部105に,表示指示日データを格納する。以降,可視化システムは,表示CADモデル作成処理部106,足場工程抽出処理部108,足場解体時CADモデル作成処理部110,仮想足場生成処理部112,足場表現色決定処理部114,表示処理部117の各処理を順次実行することで,シミュレーション画像を表示する。
【0017】
以下,全体の処理の概要を示す。データの詳細や,各処理部内のロジック詳細は後述する。
【0018】
まず,建設対象のCADモデルの表示を行うために,表示CADモデル作成処理部106は,シミュレーション表示指定日格納部105のデータと,CADモデル格納部101,CAD-工程マップテーブル格納部104,建設工程格納部102を参照することで,表示指定日に据え付けられているCADモデルと据付状態を抽出し,指定日の表示CADモデル格納部107に格納する。
【0019】
一方,足場の表示モデルを作成するために,まず,足場工程抽出処理部108で建設工程格納部102から,シミュレーション表示指定日格納部105の日を含む足場工程データを抽出し,足場工程格納部109に格納する。その後,足場解体時CADモデル作成処理部110で足場工程格納部109から足場解体開始日を求め,その日の建設対象のCADモデルを,CADモデル格納部101,CAD-工程マップテーブル格納部104,建設工程格納部102を参照し求め,結果を足場解体時CADモデル格納部111に格納する。仮想足場生成処理部112では,格納された足場解体時CADモデルを参照し,足場解体時CADモデルを建設するのに必要となる足場領域を求め,仮想足場モデルとして仮想足場モデル格納部113に格納する。
【0020】
仮想足場モデル格納部113に格納された仮想足場モデルの表現色を求めるために,足場表現色決定処理部114では,シミュレーション表示指定日と,足場工程格納部109の関係から,足場の完成度を求め,完成度に対応した足場の表現色を決定し,足場表現色格納部115に保持する。
【0021】
表示処理部117では,指定日の表示CADモデル格納部107と,各CADモデルの据付状態に対応した据付作業表現色テーブル格納部116を参照し,表示を行う。さらに,仮想足場モデル格納部113に格納された仮想足場モデルを,足場表現色格納部115に格納された足場表現色に従い表示を行う。
【0022】
これらの処理により,ユーザが指示した表示指定日に対応する建設状態のCADモデルと,CADモデルから想定した足場の建設作業状態を3次元上で合成して表示することが可能となる。」

(2)引用文献2に記載された発明
引用文献2には,次の技術的事項(以下,「技術的事項2」という。)が記載されている。

シミュレーション表示を行いたい日を指定すると,足場の表示モデルを作成するために,シミュレーション表示指定日を含む足場工程データを抽出し,完成度に応じた足場の表現色を決定し,ユーザが指示した表示指定日に対応する足場の建設作業状態を3次元上で合成して表示すること。

3 引用文献3について
(1)引用文献3に記載されている事項
令和2年9月4日付けの原査定で引用された引用文献3には次の事項が記載されている。

「【0011】
図1は,本実施形態に係るプロジェクト可視化装置の構成例を示す図である。
プロジェクト可視化装置1(進捗状況管理装置)は,設計データ101,状態管理データ102および状態間制約条件データ103を記憶している記憶部104と,設計データ状態対応部105,状態監視部106および状態変更部107を有する処理部108とを有している。さらに,プロジェクト可視化装置1には,出力装置109(表示部)および入力装置110(記憶部104)が接続されている。
【0012】
設計データ状態対応部105は,状態管理データ102と,設計データ101とを基に,工程の進捗状況に応じて設計データ101を強調表示させる機能を有する。状態監視部106は,状態管理データ102や,設計データ101の変化を監視する機能を有する。状態変更部107は,状態管理データ102などの状態属性変更の必要の有無を検出し,必要がある場合は,状態管理データ102などの状態属性を変更する機能を有する。」

「【0013】
図2は,本実施形態に係る設計データの構成例を示す図であり,(a)は,プラント設計図における3次元CAD(Computer Aided Design)のCADデータの例であり,(b)は,設計属性データの例である。
CADデータ201(部品データ)は,製品の形状や様々な製品属性を持つ3次元CADデータが好ましいが,製品の形状,部位の構成要素および位置関係が識別できるデータであれば,例えば2次元CAD図面や部品の構成表のデータでもよい。図2(a)に示すような,3次元のCADデータ201においては,例えば,配管ラインのモデルID,部品名称,該当する設計データ101が最新か否かを示す情報である最新フラグ,設計データ101の来歴を管理する来歴属性,製品の情報である製品属性を有する設計属性データ202が付随している。製品属性は,その製品の種別,配管型,呼径,肉厚,節点数,長さなどを有している。ここで,モデルとは,CADデータ201における各部品に相当する。
図2(b)において,最新フラグは,設計データ101のモデルID(部品ID)毎に,該当するモデルIDに対応する設計データ101が最新の場合,最新フラグを「1」とし,それ以外の場合は「0」としている。また,来歴属性には,来歴を表す番号を格納している。なお,図2(b)の来歴属性において,「Rev」は,Revisionの略であり,版数を意味する。なお,「Rev n+a」は,「Rev n」よりも新しい来歴であることを示す。
【0014】
図3は,本実施形態に係る状態管理データの構成例を示す図である。
状態管理データ102は,設計データ101のモデルIDに対する工程の進捗状況を管理しているデータであり,モデルID,部位名称,来歴変化属性および工程IDを有している。工程IDは,プロジェクトにおける各工程を識別するための番号であり,本実施形態では,「工程A」,「工程B」,・・・のように,アルファベットで識別することとする。状態管理データ102は,モデルIDに対し,工程毎(工程ID毎)に状態属性301(進捗状況のデータ)を有する。状態属性301は,例えば,図3に示すように,未着手(「未」),着手可能(「着」),着手中(「中」)および完了(「完」)の4つで表してもよいし,さらに詳細に着手中の進捗度を百分率の数値で表現してもよい(図3における数値)。
また,来歴変化属性は,設計データ101における版数が変更されたか否か意味しており,設計データ101に変更が加えられると,数値が「1」となり,変更が加えられないと「0」となる。」

「【0029】
図12は,本実施形態に係る表示属性データの例を示す図である。
図12に示すように,表示属性データ1101では,工程IDに対し,状態属性に対する表示方法としての表示属性(表示方法データ)を記述する。ここでは,工程Aに関し,「未着手」の箇所は,「水色」で表示し,「着手可能」の箇所は,「茶色」で表示し,「着手中」の箇所は,「青色」で表示し,「完了」の箇所は,「桃色」で表示することとする。
【0030】
図13は,本実施形態に係る工程状態表示画面の例である。
図13において,工程状態の表示は,図12で示す表示属性データに基づいて行われるが,ここでは,色の区別をハッチングで区別することとする。
工程状態表示画面は,設計データ表示画面1102と,凡例表示画面1103とを有してなる。図13では,図12の工程Aに対応する工程として「スプール分割」を選択した例を示す。
設計データ表示画面1102において,例えば,符号1104などのような「未着手」の箇所は,凡例1108と同一の色で着色される。また,例えば,符号1105のような「着手可能」の箇所は,凡例1109と同一の色で着色される。さらに,符号1106のような「着手中」の箇所は,凡例1110と同一の色で着色され,符号1107のような「完了」の箇所は,凡例1111と同一の色で着色される。また,設計データ表示画面1102において,「スプール分割」に関わらない箇所は着色されない(例えば,符号1112)。」

(2)引用文献3に記載された発明
引用文献3には,次の技術的事項(以下,「技術的事項3」という。)が記載されている。

設計データ101のモデルIDに対する工程の進捗状況を管理しているデータである状態管理データ102が有する属性情報に基づく表示方法として,工程Aに関し,工程状態を,「未着手」の箇所は,「水色」で表示し,「着手可能」の箇所は,「茶色」で表示し,「着手中」の箇所は,「青色」で表示し,「完了」の箇所は,「桃色」で表示すること。


第6 当審の判断

1 請求項1について
(1)対比
ア 引用発明の「コンピュータ10」は,後述する相違点は別にして,本願発明1の「作業予定範囲可視化装置」に相当する。

イ 引用発明の,設計図データである「建物モデルデータ」に属性情報を付加した「施工計画モデルデータ」は,本願発明1の「作業対象の設計データ」に相当する。引用発明の「工程データ」は,建物モデルデータと共通の属性を有しており,作業開始日,作業終了日等の工程に関する情報を有する点で,本願発明1の「設計データに基づく作業工程データ」に相当する。そして,引用発明の補助記憶装置16には,施工計画モデルデータを記録格納するデータ領域と,工程データを記録するデータ領域とを有しており,これらのデータ領域は,それぞれ,本願発明1の「作業対象の設計データを記憶している設計データ記憶部」及び「前記設計データに基づく作業工程データを記憶している工程データ記憶部」に相当する。

ウ 引用発明の「任意の日付」は,本願発明1の「将来を含む期間である指定期間」と,「指定された時」で共通する。また,引用発明の「入力装置13」は,これを介して任意の日付の入力が入力でき,日付は1日単位であることは明らかである点で,本願発明1の「将来を含む期間である指定期間が一週間単位や1日単位,1時間単位,分単位の何れかで入力されて設定および変更できる指定部に接続された入力部」と,「日情報が1日単位で入力されて設定できる入力部」で共通する。

エ 引用発明は,「利用者により入力装置13を介して任意の日付が前記日時指定ボタン61の入力枠61aに入力されると,工程データの作業属性データに記録された作業の「開始日」を参照し,当該作業の「開始日」が前記任意の日付以降か否かを確認」するものである。
そして,引用発明の,「前記作業の「終了日」が前記任意の日付より前の場合(Yes)の場合」の「該当する部材ユニットデータにかかる部材又はユニット部材」は,本願発明1の「前記指定期間より前に作業が完了した箇所である第1作業箇所」と,「前記設計データ及び前記作業工程データのうち,指定された時より前に作業が完了した箇所である第1作業箇所」で共通し,
引用発明の「「開始日」と「終了日」を参照し,当該作業属性データに記録された作業が実際に進行中の作業なのか,それとも休止中の作業なのかを判断し,作業属性データに記録された作業が実際に進行中の作業の場合(Yes)」の「該当する部材ユニットデータにかかる部材又はユニット部材」は,本願発明1の「前記指定期間内に作業予定である第2作業箇所」と,「指定された時に作業予定である第2作業箇所」で共通し,
引用発明の「一方,作業属性データに記録された作業が休止中の作業の場合(No)」は,作業が開始されていない場合を意味し,このときの「該当する部材ユニットデータにかかる部材又はユニット部材」は,本願発明1の「前記指定期間後に作業予定である第3作業箇所」と,「指定された時より後に作業予定である第3作業箇所」で共通する。
そして,引用発明の「施工計画モデルデータ」は,「通り芯(座標データ),部材データ(座標データ),部材断面データ,構造形式データ等の(各ステップで設定した)部材ユニットデータ」が付加されており,上述した表示を行うために,「施工計画モデルデータ」から部材ユニットデータを抽出することは明らかであるから,引用発明の当該部材ユニットデータを抽出することは,本願発明1の「前記設計データ及び前記作業工程データのうち,前記指定期間より前に作業が完了した箇所である第1作業箇所,前記指定期間内に作業予定である第2作業箇所,及び,前記指定期間後に作業予定である第3作業箇所のそれぞれに該当するデータを抽出」することと「前記設計データ及び前記作業工程データのうち,指定された時より前に作業が完了した箇所である第1作業箇所,指定された時に作業予定である第2作業箇所,及び,指定された時より後に作業予定である第3作業箇所のそれぞれに該当するデータを抽出」することで共通する。
さらに,引用発明は,対象となる全ての部材ユニットデータに対して,工程データの作業属性データに記録された作業の「開始日」を参照し,当該作業の「開始日」が前記任意の日付以降か否かの確認が行われることで,確認の対象となった全ての部材ユニットを「第1作業箇所」,「第2作業箇所」及び「第3作業箇所」等に分け,図11の表示画面のとおり表示するものであって,出力装置14にこれを表示するために,描画処理を行う手段を有することは明らかであるから,「同一」ウィンドウに作成するか不明である点で相違するものの,引用発明の当該描画処理を行う手段は,本願発明1の「前記第1作業箇所,前記第2作業箇所,及び,前記第3作業箇所をそれぞれ区別して」「ウィンドウ」「に作成する図面作成部」に相当する。

オ そうすると,本願発明1と引用発明とは,次の点で一致及び相違する。

<一致点>
作業対象の設計データを記憶している設計データ記憶部と,
前記設計データに基づく作業工程データを記憶している工程データ記憶部と,
日情報が1日単位で入力されて設定できる入力部と,
前記設計データ及び前記作業工程データのうち,指定された時より前に作業が完了した箇所である第1作業箇所,指定された時に作業予定である第2作業箇所,及び,指定された時より後に作業予定である第3作業箇所のそれぞれに該当するデータを抽出し,前記第1作業箇所,前記第2作業箇所,及び,前記第3作業箇所をそれぞれ区別してウィンドウに作成する図面作成部と,
を有する作業予定範囲可視化装置。

<相違点>
(相違点1)
「指定された時」が,本願発明1では,「将来を含む期間である指定期間」であるのに対し,引用発明では,任意の日付である点。
このため,「指定された時より前」が,本願発明1では,「前記指定期間より前」であるのに対し,引用発明では,「前記作業の「終了日」が前記任意の日付より前の場合(Yes)の場合」である点で相違し,
「指定された時に」が,本願発明1では,「前記指定期間内」であるのに対し,引用発明では,「「開始日」と「終了日」を参照し,当該作業属性データに記録された作業が実際に進行中の作業なのか,それとも休止中の作業なのかを判断し,作業属性データに記録された作業が実際に進行中の作業の場合(Yes)」である点で相違し,
さらに,「指定された時より後」が,本願発明1では「前記指定期間後」であるのに対し,引用発明では,「作業属性データに記録された作業が休止中の作業の場合(No)」である点で相違する。

(相違点2)
「日情報が1日単位で入力されて設定できる入力部」が,本願発明1は,「将来を含む期間である指定期間が一週間単位や1日単位,1時間単位,分単位の何れかで入力されて設定および変更できる指定部に接続された入力部」であるのに対し,引用発明では,任意の日付を入力することのできる「入力部13」であって,「変更」できるか定かではなく,「指定部に接続された」ものであるかも定かではない点。

(相違点3)
本願発明1は,図面作成部が,前記第1作業箇所,前記第2作業箇所,及び,前記第3作業箇所をそれぞれ区別して前記作業対象の図面を「同一」ウィンドウ又は「同一紙面上」に作成するのに対し,引用発明は,描画処理を行う手段が,図面を「同一」ウィンドウ又は「同一紙面上」に作成するものであるか定かではない点。

(2)相違点の判断(相違点1について)
引用文献2には,上記「第5」2(2)のとおりの技術的事項2が記載されており,引用文献3には,上記「第5」3(2)のとおりの技術的事項3が記載されているものの,技術的事項2は,表示指定日という日を指定するものであって,指定された日における足場の完成度を求め,完成度に対応した足場の表現色を決定するものであって,「将来を含む期間である指定期間」とすることにより,当該期間前に処理済みの箇所,当該期間後に作業を予定している箇所,当該期間注に作業を予定している箇所を特定可能とすることは,記載も示唆もされていない。技術的事項3は,どのタイミングにおける工程状態の表示であるかの説明もなく,「将来を含む期間である指定期間」の記載も示唆もない。
このため,引用発明に,上記技術的事項2及び3を適用しても,上記相違点1の構成とすることは,当業者が容易になし得たとはいえない。
そして,本願発明1は,上記相違点1の構成とすることで,処理済箇所,未作業箇所であってある一定期間内に作業を予定している箇所,未作業箇所であってある一定期間後に作業を予定している箇所,を色分けして表示することができるという,特有の効果を奏するものである。


(3)小括
したがって,上記相違点2及び3について判断するまでもなく,本願発明1は,引用発明並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。

2 請求項2?4について
本願発明1を引用する本願発明2?4も,本願発明1の「作業予定範囲可視化装置」と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,引用発明並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。

3 請求項5について
本願発明5は,本願発明1に対応する方法の発明であり,本願発明1の「将来を含む期間である指定期間」に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,引用発明並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。


第7 原査定についての判断

令和3年7月15日付けで手続補正された請求項1?5は,それぞれ「作業予定範囲可視化装置」という構成を有するものとなっており,上記のとおり,本願発明1?5は,引用発明並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。
したがって,原査定を維持することはできない。


第8 当審拒絶理由について

令和3年6月10日付けの当審拒絶理由通知で指摘した記載不備は,令和3年7月15日提出の手続補正書でする補正により解消した。


第9 むすび

以上のとおり,本願発明1?5は,当業者が引用発明並びに引用文献2及び3に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。
また,本願の発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項第1号の規定する要件を満たし,本願の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たすものである。
したがって,原査定及び当審の拒絶の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-09-30 
出願番号 特願2017-35462(P2017-35462)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G06Q)
P 1 8・ 121- WY (G06Q)
最終処分 成立  
前審関与審査官 青柳 光代  
特許庁審判長 渡邊 聡
特許庁審判官 松田 直也
上田 智志
発明の名称 作業予定範囲可視化装置および作業予定範囲可視化方法  
代理人 寺脇 秀▲徳▼  
代理人 栗原 譲  
代理人 原 拓実  
代理人 原 拓実  
代理人 栗原 譲  
代理人 寺脇 秀▲徳▼  

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