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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06K
管理番号 1378316
審判番号 不服2021-359  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-08 
確定日 2021-10-12 
事件の表示 特願2015-225405「2次元マトリックスシンボルを復号するためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月 9日出願公開、特開2016-105276、請求項の数(20)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成27年11月18日(パリ条約による優先権主張2014年11月18日(以下,「優先日」)という。),米国)を出願日とする外国語書面出願であって,平成28年1月15日付けで翻訳文が提出され,令和1年12月12日付けで拒絶理由が通知され,令和2年5月14日付けで意見書が提出されたが,令和2年8月31日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,令和3年1月8日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和2年8月31日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-20に係る発明は,以下の引用文献1,2に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2012-033035号公報
2.特開2012-185725号公報

第3 本願発明
本願請求項1-20に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明20」という。)は,平成28年1月15日付けで提出された翻訳文の特許請求の範囲の請求項1-20に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
各々がモジュール値およびモジュール位置を有するデータモジュールを含み,且つデータセットを符号化する2次元マトリックスシンボル,を読み取るシステムであって,
前記2次元マトリックスシンボルの少なくとも一部分を含む画像を取得するように構成されたイメージングデバイスと,
前記イメージングデバイスに結合されデータ読み取りアルゴリズムを実行するプロセッサであって,前記データ読み取りアルゴリズムが,前記画像を受信し,固定パターンを使用することなく前記画像内の前記データモジュールの少なくとも一部分の位置を特定し,前記画像から前記モジュール位置のモデルを当てはめ,前記モデルを推定して予測モジュール位置をもたらし,前記予測モジュール位置にある前記画像からモジュール値を決定し,前記モジュール値からバイナリマトリックスを抽出する,プロセッサと,
前記プロセッサに結合され前記バイナリマトリックスを復号する復号アルゴリズムを実行するように構成されているバイナリマトリックス復号器と,
を備えるシステム。」

なお,本願発明2-20の概要は以下のとおりである。

本願発明2-9は,本願発明1を減縮した発明である。

本願発明10は,本願発明1に対応する方法の発明である。

本願発明11-17は,本願発明10を減縮した発明である。

本願発明18は,本願発明1の「2次元マトリックスシンボル,を読み取るシステム」の発明を「2次元マトリックスシンボルが復号可能であるか否かを判定するためのシステム」とするとともに,「データ読み取りアルゴリズム」が「周波数ドメイン解析を含む」ことを更に限定した発明である。

本願発明19-20は,本願発明18を減縮した発明である。

第4 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1(特開2012-033035号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0046】
以下に本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(1)二次元コードリーダ1の構成
まず,図1に基づき,二次元コードリーダ1の構成を説明する。図1は,二次元コードリーダ1の構成例を示すブロック図である。
二次元コードリーダ1は,図1に示すように,CPU(Central Processing Unit)60と,RAM(Random Access Memory)62と,ROM(Read Only Memory)64と,入出力インターフェース(I/F)66と,バス68とを含んで構成されるコンピュータシステムを備えている。CPU60,RAM62,ROM64およびI/F66は,バス68に接続されており,バス68を介してこれら接続デバイス間のデータの送受信を可能としている。
【0047】
二次元コードリーダ1は,さらに,I/F66を介して,記憶装置70と,表示装置72と,入力装置74と,カメラ76と,NIC(Network Interface Card)78とに接続されている。
CPU60は,ROM64または記憶装置70に予め記憶された各種専用のコンピュータプログラムをRAM62に読み込み,RAM62に読み込まれたプログラムに記述された命令に従って,各種リソースを駆使して,後述する二次元コードを利用した物品検出処理(以下,コード利用物品検出処理と称す)を実行する。」

「【0051】
入力装置74は,キーボード,マウス,操作ボタン,タッチ式の入力デバイス(タッチパネル等)などのヒューマンインターフェースデバイスであり,ユーザの操作に応じた入力を受け付ける。
カメラ76は,デジタルカメラ等の周知のカメラであり,所定の撮影領域を撮影して得られた画像を示す画像データを生成して順次I/F66を介してRAM62または記憶装置70に送信して,RAM62または記憶装置70に画像データを格納する。」

「【0054】
そして,本実施形態における二次元コードリーダ1は,複数の物品と該物品にそれぞれ付された1以上の二次元コードとが含まれた画像を示す画像データに基づき,その画像中の二次元コードを検出する処理と,検出した二次元コードにより示される情報を識別して取得する処理とを行う装置として構成されている。さらに,取得した識別情報に対応する物品のなかに検出対象として指定された物品が存在するか否かを判定し,検出対象の物品が存在する場合に,この物品に対応する二次元コードの領域を強調表示する加工を原画像に施し,該加工後の画像を表示する処理を行う装置として構成されている。
なお,本実施形態において,上記各処理は,入力装置74を介したユーザーの操作入力(指示情報)をトリガとして行われる一連の処理となる。
【0055】
(2)二次元コード100の構成
次に,図2に基づき,二次元コードリーダ1により読み取る二次元コード100について説明する。図2は,二次元コード100の構成例を示す図である。
本実施形態における二次元コード100は,図2に示すように,黒色のセパレータ110上に複数のセルC11?Cpq(2≦p,2≦q)が一定間隔で配列され,所定の情報が各セルの色および色の組み合わせによりコード化されたものである。つまり,この二次元コードは,セルそれぞれ,または,組み合わせに係るセル群それぞれが,そこに付された複数の色(多色),または,色の組み合わせパターンにより,数字や文字など複数種類の値(多値)を表現可能となっている。例えば,複数の二次元コードについて,それぞれ,色の組み合わせや,色の配列パターンを変えることによって,各二次元コードに固有のユニークな情報を付すことが可能である。」

「【0060】
(3)CPU60による処理
以下に,CPU60がROM64または記憶装置70に記憶された専用のコンピュータプログラムに従って実行する各種処理の手順について順次説明する。
(3-1)コード利用物品検出処理
まず,二次元コードリーダ1が,カメラ76からの画像データを受信中において,入力装置74を介したユーザからの指示入力に応じて開始されるコード利用物品検出処理の処理手順を,図3に基づいて説明する。
(中略)
【0063】
本実施形態において,設定可能な上記検出モードには,原画像中に含まれる二次元コードの付された物品の中から,指定された物品を検出する物品検出モードと,出荷期限や消費期限の切れた物品を検出する期限管理モードとがある。
コード利用物品検出処理は,CPU60によって,専用のコンピュータプログラムを実行することで起動される処理であって,プログラムが実行されると,図3に示すように,まず,ステップS100へと移行する。
【0064】
ステップS100では,入力装置74を介して,ユーザからの指示入力があったか否かを判定し,指示入力があったと判定した場合(Yes)は,ステップS102に移行し,そうでない場合(No)は,入力されるまで判定処理を続行する。
ここで,物品検出モードが設定されている場合は,指示入力を行う前に,例えば,物品のシリアル番号,品名等の検出対象の物品の識別情報を設定する必要がある。この設定は,入力装置74を介して,ユーザが検出対象の商品を識別する情報を手入力してもよいし,物品リスト等を表示してユーザがその中から物品名等の識別情報を選択するようにしてもよい。
【0065】
(中略)
【0066】
なお,本実施形態において,指示入力は,表示装置72に表示されたカメラ76の撮影画像を見ながらユーザが入力装置74を介して行う処理となり,検出対象の物品は,指示入力の入力時に表示されていた撮影画像の中から検索されることになる。
ステップS102に移行した場合(Yes)は,RAM62または記憶装置70から,指示入力のあったタイミングに表示していた画像データまたは該画像データに加えて複数フレーム分の画像データを取得して,ステップS104に移行する。
【0067】
(中略)
【0068】
ステップS104では,二次元コードを特徴づける情報を規定したテンプレートを記憶装置70から読み出して,ステップS106に移行する。
ここでいうテンプレートは,候補領域を規定する領域規則,候補領域が有効か否かを判定する形状情報,二次元コードにおける特徴的なパターン,二次元コードにマークとして付けられる色(色数,色の種類)の着色規則などを示す情報である。
【0069】
これらのうち,「領域規則」とは,二次元コードの領域からなる候補領域を規定するものであればよく,例えば,二次元コードの外形形状に応じて,真円形の領域,楕円形の領域などの円形の領域,矩形の領域,三角形の領域などの多角形の領域,または,これらに類似する形状の領域などとなる。類似する形状としては,例えば,二次元コードの外形形状が矩形形状であれば,台形形状の領域などの矩形形状を角度を変えて見た(撮影した)場合の形状等となり,二次元コードの外形形状が真円形であれば,六角形や八角形の領域などの画質等によって真円形が崩れた場合の形状等が該当する。また,例えば,形状等は無視して,閉領域であれば何でも候補領域として抽出するといった規則でもよいし,エッジ成分の分布パターン(エッジ成分の分布状態,分布されているエッジ成分の配置など)が特定のパターンの領域を抽出するといった規則でもよい。ただ,以降の処理による候補領域が有効か否かの判定などに要する処理負担を軽減するためには,複数の項目を選択して規定したものとすることが望ましく,この場合,候補領域としての抽出数が少なくなる結果,処理負担の軽減に伴って処理時間の短縮が実現されることとなる。
【0070】
また,「形状情報」とは,「領域規則」に基づいて抽出された候補領域が有効か否かを判定する際に用いるもので,例えば,抽出された候補領域の外形形状が円形である場合における扁平率や,外形形状が多角形である場合における各辺の長さや各辺で形成される角度,外形形状が多角形である場合における各辺の長さの比率など二次元コードの形状(理想の形状)に係る情報となる。
【0071】
また,「特徴的なパターン」とは,例えば,二次元コードにおいてコード化のシンボルとなるセルの配置パターンや,二次元コードであることを識別するために配置された特定シンボルの配置パターンや,二次元コードであることを識別するために配置されたマークのパターンなどのことである。
例えば,図2に例示した二次元コード100であれば,上記特定セルC11?Cp1に付けられた色と,上記ヘッダー領域C11?C1qの各セルに付けられた複数の色との双方または一方により,二次元コードの領域を示す特徴的なパターンが形成されている。
【0072】
なお,この特徴的なパターンとしては,セパレータ110の領域もパターンに含ませる構成や,ヘッダー領域や特定セル等を設けずに,情報を示す領域(図2の例では特定セルC11?Cp1を除く2行目以降の領域)の各セルに付された複数の色やその組み合わせパターン,該複数の色の付されたセルの配置順等が特徴的なパターンを形成する構成など,別の構成により実現するものとしてもよい。
また,「着色規則」とは,二次元コードにおける複数のセルそれぞれに付すべき色の規則であり,該当セルにてコード化すべき情報,および,該当セルと隣接するセルに付された色に応じて決められるものである。
ステップS106では,以降の処理で参照する変数X,Yを初期化(0→X,1→Y)して,ステップS108に移行する。
【0073】
ステップS108では,ステップS102で取得した画像データに対してエッジ画像の生成処理を実行してエッジ画像データを生成し,ステップS110に移行する。なお,このエッジ画像生成処理における具体的な処理手順については後述する。
ステップS110では,ステップS108において生成されたエッジ画像データに基づいて,このエッジ画像から,二次元コードからなる候補領域それぞれの位置を特定して,ステップS112に移行する。ここでは,ステップS104にて読み出されたテンプレートにおける「領域規則」に基づいて,第Y番目のエッジ画像から,二次元コードからなる候補領域を規定する画像中の座標それぞれが特定される。
【0074】
本実施形態では,二次元コード100が図2に示す外形形状(矩形形状)であることから,「領域規則に従った領域」として,線形化された輪郭部によって閉領域となる矩形形状の領域を候補領域として全て特定する。また,この「領域規則に従った領域」には,領域規則に従った領域だけでなく,その領域として許容される誤差範囲のパラメータで形成された領域も含まれる。例えば,誤差範囲内であれば,矩形形状だけでなく,台形形状,平行四辺形状,菱形形状なども含まれる。
【0075】
ステップS112では,ステップS110において,候補領域が特定されたか否かを判定し,特定されたと判定した場合(Yes)は,ステップS114に移行し,そうでない場合(No)は,ステップS140に移行する。
ステップS114に移行した場合は,ステップS110において特定された候補領域(座標情報)それぞれをリストに登録して,ステップS116に移行する。
【0076】
(中略)
【0077】
ステップS118に移行した場合は,リストに登録されている未処理の候補領域のうち,いずれか1の候補領域を選択して,ステップS120に移行する。
ステップS120では,ステップS118において選択された候補領域が有効なものであるか否かを判定する有効領域判定処理を実行して,ステップS122に移行する。なお,この有効領域判定処理における具体的な処理手順については後述する。
【0078】
ステップS122では,ステップS120の判定結果に基づき,ステップS118で選択した候補領域が,有効なものであるか否かを判定する。そして,有効なものであると判定した場合(Yes)は,ステップS124に移行し,そうでない場合(No)は,ステップS116に移行し,以降,別の候補領域について上記同様の処理を行う。
ステップS124に移行した場合は,直前に行われた上記ステップS110において特定された候補領域(新規候補領域)が,過去に行われた上記ステップS110において特定された候補領域(抽出済み候補領域)と同じであるか否かを判定する。
具体的に,新規候補領域が抽出済み候補領域に領域として所定割合以上重複している場合,または,新規候補領域および抽出済み候補領域の一方が他方に包摂されている場合に,新規候補領域が抽出済み候補領域と同じであると判定される。
【0079】
(中略)
【0081】
一方,ステップS124において新規候補領域が抽出済み候補領域と同じではないと判定された場合(No)は,ステップS126に移行する。
ステップS126に移行した場合は,この時点における新規候補領域を情報の識別に適したものとなるように補正して,ステップS128に移行する。
ここでは,新規候補領域における二次元コードの形状,角度が補正される。具体的には,例えば,処理対象の領域が斜めに配置されていた場合や,正方形になっていない歪んだ形状となっている場合に,そのようなズレを補正すべく回転や,座標軸に合わせた延長・短縮などが行われる。
【0082】
(中略)
【0084】
また,補正の必要が無い場合は,上記いずれの処理も行わずにステップS128に移行する。
ステップS128では,上記ステップS102において取得された画像データで示される原画像のうち,上記ステップS126において補正された候補領域に対応する対応領域に,二次元コードとしての特徴的なパターンが含まれているか否かを判定する。
【0085】
ここでは,ステップS126において補正された候補領域を単位領域(1以上のドットからなる領域)ずつ走査していき,そうして特定されたセル(特にヘッダー領域および特定セル)やマークのパターンが,上記ステップS104において読み出されたテンプレートにおける「特徴的なパターン」で規定されたセルの配置パターンやマークのパターンと一致しているか否かを判定する。そして,一致している場合は,コード領域に二次元コードとしての特徴的なパターンが含まれていると判定し,一致していない場合は,コード領域に二次元コードとしての特徴的なパターンが含まれていないと判定する。
【0086】
なお,この判定処理において,セルのパターンを特定する際の各セルの色の判定を行う際に,後述する色判定処理のアルゴリズムを適用することが可能である。
また,図2に例示した二次元コード100は,ヘッダー領域および特定セルの領域といったように,データ領域とは別に特別に設けられた領域を有しており,この領域が「特徴的なパターン」として抽出され判定が行われる構成となっているが,この構成に限らない。
【0087】
(中略)
【0089】
この場合は,例えば,計算結果の数値等が正しいパターンを示す数値となっているか否か等で判定を行うことになる。そのため,テンプレートにおける特徴的なパターンは,直接的なパターンだけではなく,間接的に正しいパターンを示す数値などの情報として設定される場合もある。
そして,ステップS128において,二次元コードとしての特徴的なパターンが含まれていないと判定した場合(No)は,ステップS116に移行し,以降,別のコード領域について上記同様の処理を行う。
【0090】
一方,ステップS128において,二次元コードとしての特徴的なパターンが含まれていると判定した場合(Yes)は,ステップS130に移行する。
ステップS130に移行した場合は,この時点における新規候補領域を二次元コードの領域として検出して,ステップS132に移行する。
この検出処理は,新規候補領域の座標情報に基づき,原画像から新規候補領域を切り出して(複製画像を生成して),記憶装置70に記憶する処理となる。
【0091】
ステップS132では,上記ステップS130において検出された二次元コードの領域につき,その二次元コードにおけるセルそれぞれに付された色を特定するための色判定処理を行って,ステップS134に移行する。
この色判定処理は,上記ステップS130において検出された二次元コードの領域を引数として実行され,この二次元コードにおけるセルそれぞれに付された色が戻り値となる。なお,この色判定処理における具体的な処理手順については後述する。
【0092】
ステップS134では,上記ステップS130において検出された二次元コードの領域につき,上記ステップS132において特定された色に基づいて,その二次元コードで示される情報を,セルCそれぞれに付された色およびその組み合わせに基づいて識別して,ステップS136に移行する。
ステップS136では,ステップS134において識別された情報を,RAM62または記憶装置70に格納して,ステップS138に移行する。
【0093】
(中略)
【0097】
さらに,ステップS142において,変数Yの値が変数nの値以上の値となっていると判定した場合(No)は,変数Xの値に関係なく,ステップS146に移行する。
ステップS146に移行した場合は,識別された二次元コードの情報に基づき,原画像中における指定物品を検出する物品検出処理を実行して,一連の処理を終了する。なお,この物品検出処理における具体的な処理手順については後述する。」

「【0131】
(3-4)色判定処理
続いて,図3のステップS132である色判定処理の処理手順を図8に基づき説明する。
ここで,図8は,色判定処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
色判定処理が開始さると,図8に示すように,まず,ステップS400に移行して,図3のステップS130で検出された二次元コードの領域におけるセパレータ110の領域を特定(座標を特定)して,ステップS402に移行する。
【0132】
(中略)
【0133】
なお,図2に例示した構成の二次元コード100については,上記図3のステップS128において,既に,候補領域から,特徴的なパターンを識別済みであるので,識別済みの領域(例えば,ヘッダー領域および特定セルを含む領域)を切り離した残りの部分だけについて色判定処理を行うようにしてもよい。
ステップS402では,セパレータ110の座標情報に基づき,各セルの存在する領域を分割して,ステップS404に移行する。
【0134】
(中略)
【0147】
ステップS436に移行した場合は,変数apおよび変数xを初期化(0→ap,0→x)し,変数yをインクリメント(y+1→y)して,ステップS406に移行する。
一方,二次元コードの領域における全てのピクセルについて色判定が終了して,ステップS438に移行した場合は,RAM62または記憶装置70に記憶された各セルCの領域の各行のピクセルの色の判定結果に基づき,各セルCの色を判定して,ステップS440に移行する。」

「図1



「図2



「図3



「図8



したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「CPU60と,RAM62と,ROM64と,入出力インターフェース(I/F)66と,バス68とを含んで構成されるコンピュータシステムを備えた二次元コードリーダ1であって,(段落0046,図1)
二次元コードリーダ1は,I/F66を介してカメラ76と接続されており,(段落0047)
CPU60は,ROM64に予め記憶された各種専用のコンピュータプログラムをRAM62に読み込み,RAM62に読み込まれたプログラムに記述された命令に従って二次元コードを利用した物品検出処理(以下,コード利用物品検出処理と称す)を実行し,(段落0047)
カメラ76は,所定の撮影領域を撮影して得られた画像を示す画像データを生成して順次I/F66を介してRAM62に送信して,RAM62に画像データを格納し,(段落0051)
二次元コードリーダ1は,二次元コードが含まれた画像を示す画像データに基づき,その画像中の二次元コードを検出する処理を行う装置として構成されており,(段落0054)
二次元コード100は,黒色のセパレータ110上に複数のセルC11?Cpq(2≦p,2≦q)が一定間隔で配列され,所定の情報が各セルの色および色の組み合わせによりコード化されたものであり,この二次元コードは,セルそれぞれが,そこに付された複数の色(多色)により,数字や文字など複数種類の値(多値)を表現可能となっており,(段落0055,図2)
コード利用物品検出処理は,CPU60によって,専用のコンピュータプログラムを実行することで起動される処理であって,プログラムが実行されると,(段落0063,図3)
ユーザからの指示入力があったか否かを判定し,指示入力があったと判定した場合(Yes)は,(段落0064,図3のステップS100)
RAM62から,指示入力のあったタイミングに表示していた画像データを取得し,(段落0066,図3のステップS102)
二次元コードを特徴づける情報を規定したテンプレートを記憶装置70から読み出し,ここでいうテンプレートは,候補領域を規定する領域規則,候補領域が有効か否かを判定する形状情報,二次元コードにおける特徴的なパターン,二次元コードにマークとして付けられる色(色数,色の種類)の着色規則などを示す情報であり,(段落0068,図3のステップS104)
これらのうち,「領域規則」とは,二次元コードの領域からなる候補領域を規定するものであればよく,例えば,二次元コードの外形形状が矩形形状であれば,台形形状の領域などの矩形形状を角度を変えて見た(撮影した)場合の形状等となり,(段落0069,図2)
「形状情報」とは,「領域規則」に基づいて抽出された候補領域が有効か否かを判定する際に用いるものであり,(段落0070)
「特徴的なパターン」とは,二次元コードにおいてコード化のシンボルとなるセルの配置パターンや,二次元コードであることを識別するために配置された特定シンボルの配置パターンや,二次元コードであることを識別するために配置されたマークのパターンなどのことであり,二次元コード100であれば,上記特定セルC11?Cp1に付けられた色と,上記ヘッダー領域C11?C1qの各セルに付けられた複数の色との双方または一方により,二次元コードの領域を示す特徴的なパターンが形成されており,(段落0071,図2)
「着色規則」とは,二次元コードにおける複数のセルそれぞれに付すべき色の規則であり,該当セルにてコード化すべき情報,および,該当セルと隣接するセルに付された色に応じて決められるものであり,(段落0072)
ステップS102で取得した画像データに対してエッジ画像の生成処理を実行してエッジ画像データを生成し,生成されたエッジ画像データに基づいて,このエッジ画像から,二次元コードからなる候補領域それぞれの位置を特定し,ここでは,ステップS104にて読み出されたテンプレートにおける「領域規則」に基づいて,第Y番目のエッジ画像から,二次元コードからなる候補領域を規定する画像中の座標それぞれが特定され,(段落0073,図3のステップS108,ステップS110)
二次元コード100が矩形形状であることから,「領域規則に従った領域」として,線形化された輪郭部によって閉領域となる矩形形状の領域を候補領域として全て特定し,(段落0074,図2)
ステップS110において特定された候補領域(座標情報)それぞれをリストに登録し,(段落0075,図3のステップS114)
リストに登録されている未処理の候補領域のうち,いずれか1の候補領域を選択し,選択された候補領域が有効なものであるか否かを判定する有効領域判定処理を実行し,(段落0077,図3のステップS118,ステップS120)
判定結果に基づき,ステップS118で選択した候補領域が,有効なものであるか否かを判定し,有効なものであると判定した場合(Yes)は,(段落0078,図3のステップS122)
この時点における新規候補領域を情報の識別に適したものとなるように補正し,(段落0081,図3のステップS126)
上記ステップS102において取得された画像データで示される原画像のうち,上記ステップS126において補正された候補領域に対応する対応領域に,二次元コードとしての特徴的なパターンが含まれているか否かを判定し,(段落0084,図3のステップS128)
ここでは,ステップS126において補正された候補領域を単位領域(1以上のドットからなる領域)ずつ走査していき,そうして特定されたセル(特にヘッダー領域および特定セル)やマークのパターンが,上記ステップS104において読み出されたテンプレートにおける「特徴的なパターン」で規定されたセルの配置パターンやマークのパターンと一致しているか否かを判定し,一致している場合は,コード領域に二次元コードとしての特徴的なパターンが含まれていると判定し,一致していない場合は,コード領域に二次元コードとしての特徴的なパターンが含まれていないと判定し,(段落0085,図3のステップS128)
二次元コード100は,ヘッダー領域および特定セルの領域といったように,データ領域とは別に特別に設けられた領域を有しており,この領域が「特徴的なパターン」として抽出され判定が行われる構成となっており,(段落0086,図2)
二次元コードとしての特徴的なパターンが含まれていないと判定した場合(No)は,以降,別のコード領域について上記同様の処理を行い,(段落0089,図3のステップS128)
二次元コードとしての特徴的なパターンが含まれていると判定した場合(Yes)は,この時点における新規候補領域を二次元コードの領域として検出し,この検出処理は,新規候補領域の座標情報に基づき,原画像から新規候補領域を切り出して(複製画像を生成して),記憶装置70に記憶する処理となり,(段落0090,図3のステップS128,ステップS130)
検出された二次元コードの領域につき,その二次元コードにおけるセルそれぞれに付された色を特定するための色判定処理を行い,(段落0091,図3のステップS132)
上記ステップS130において検出された二次元コードの領域につき,上記ステップS132において特定された色に基づいて,その二次元コードで示される情報を,セルCそれぞれに付された色およびその組み合わせに基づいて識別し,識別された情報を,RAM62に格納し,(段落0092,図3のステップS134,ステップS136)
識別された二次元コードの情報に基づき,原画像中における指定物品を検出する物品検出処理を実行し,(段落0097,図3のステップS146)
上記ステップ132の色判定処理が開始されると,ステップS130で検出された二次元コードの領域におけるセパレータ110の領域を特定(座標を特定)し,(段落0131,図8のステップS400)
セパレータ110の座標情報に基づき,各セルの存在する領域を分割し,(段落0133,図8のステップS402)
各セルCの色を判定する,(段落0147,図8のステップS438)
二次元コードリーダ1。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2(特開2012-185725号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0035】
次に,マイコン系の構成概要を説明する。マイコン系は,増幅回路31,A/D変換回路33,メモリ35,アドレス発生回路36,同期信号発生回路38,制御回路40,トリガースイッチ14,操作スイッチ42,LED43,ブザー44,液晶表示器46,通信インタフェース48等から構成されている。このマイコン系は,その名の通り,マイコン(情報処理装置)として機能し得る制御回路40およびメモリ35を中心に構成されるもので,前述した光学系によって撮像された撮像対象物Rを示す画像信号をハードウェア的およびソフトウェア的に信号処理し得るものである。また制御回路40は,当該光学情報読み取り装置10の全体システムに関する制御も行っている。」

「【0046】
(対応関係のデコード利用情報)次にデコード利用情報を説明する。デコード利用情報は,デコード処理の簡略化に利用することができる情報である。このデコード利用情報の具体例としては,(1)特徴パターンに対する情報コードQの相対的位置および大きさ(すなわち,情報コードの相対的な範囲),(2)情報コードQの種別,(3)情報コードQのセル数などがある。(2)がデコード処理の簡略化に利用できるのは,デコード処理のアルゴリズムを予め情報コードQの種別に対応したアルゴリズムとすることができるからである。(1),(3)がデコード処理の簡略化に利用できるのは,後述する図8に示すように,これら(1),(3)の情報は,通常デコード処理では,演算により求めている情報であることから,これらが対応関係から特定できれば,(1),(3)を求めるための演算を不要にできるからである。本実施形態では,上記(1)?(3)の3つのデコード利用情報が対応関係として記憶されているものとする。」

「【0050】
まず,ステップS1では,メモリ35から画像データを取得し,取得した画像データに対して前述の特徴検出処理を行って特徴部分を検出する。本実施形態では,このステップS1で取得する画像データは,全画素のデータではなく,全画素のデータから一定間隔で画素データを間引いた粗画像を取得する。また,粗画像におけるデータの間引き間隔は,複数種類設定されていてもよい。たとえば,間引き間隔は,1画素おき,3画素おきに設定されている。1画素おきの場合,全画素の画像データと比較してデータ量は半分になり,3画素おきの場合,データ量は1/4になる。複数種類の粗画像を用いる場合,特徴検出処理の種類に応じて,用いる粗画像を異ならせる。具体的には,比較的,高画質の画像が要求される特徴検出処理については,間引き間隔が狭い粗画像を用い,画質が粗くてもよい特徴検出処理については,間引き間隔が広い粗画像を用いる。なお,このステップS1は,特許請求の範囲の特徴部分検出手段に相当する処理である。」

「【0057】
続くステップS42では,ステップS41で検出した切り出しシンボルの位置および大きさに基づいてセルサイズを算出する。また,このステップS42では,さらに,算出したセルサイズと2つの切り出しシンボル間の距離とからセル数を算出する。続くステップ43では,ステップS41で検出したコードの位置と,ステップS42で検出したセルサイズ,セル数とから,各セルの位置(セル間の境界)を確定する。ステップS44では,ステップS43で位置を確定させた各セルの色を二値化する。ステップ45では,ステップS44で二値化した画像をデコード画像として用いてデコードを行う。そして,ステップS46にて誤り訂正を行う。」

「【0069】
図10は,第2実施形態における光学情報読み取り装置の照明器70を示す図である。第2実施形態の光学情報読み取り装置はこの照明器70を,第1実施形態の照明器21に代えて備えている。図10(B)は,照明器70を図1のA矢視方向から見た図であり,図10(A)は,(B)のC?C線断面図である。
【0070】
図10において,符号71で示すのはLEDである。図10には,作図の都合上,一部のLEDにしか符号を付していないが,同様の形状のものはいずれもLEDである。すなわち,照明器70は,複数のリング状に多数のLEDが配置された構成を有している。また,中心側ほど,LEDは紙面奥側(図10には図示しない受光センサ23側)に配置されている。また,同一のリング上のLED71は,互いに光の出射角度(受光中心軸Xに対する角度)が同一とされる一方,異なるリング間では,LED71からの光の出射角度が異なるように,それらLED71は向きが調整されている。
【0071】
そして,これら各LED71は,制御回路40が照明制御回路32を制御することで,個別に点灯制御可能となっている。よって,第2実施形態の光学情報読み取り装置は,照明光の出射角度を調整することができる。また,第2実施形態では,制御回路40は,特許請求の範囲の照明パターン設定手段としても機能する。」


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア(ア)引用発明の「二次元コード100」は,本願発明1の「2次元マトリックスシンボル」に相当するから,引用発明の二次元コード100を構成する「セル」は,本願発明1の「データモジュール」に相当する。
引用発明の二次元コード100の「セル」は,二次元コード100内において,「一定間隔で配列され」ているから,相対的な“位置”を有するものであり,各セルは,「そこに付された複数の色(多色)により,数字や文字など複数種類の値(多値)を表現可能」なものである。
したがって,引用発明の「セル」と本願発明1の「データモジュール」とは,「各々がモジュール値およびモジュール位置を有するデータモジュール」である点で一致する。

(イ)引用発明の「二次元コードで示される情報」は本願発明1の「2次元マトリックスシンボル」で「符号化」される「データセット」に相当するから,引用発明の「二次元コード」は,「その二次元コードで示される情報」を“符号化”したものである。
したがって,上記(ア)の検討も踏まえると,引用発明の「二次元コード」と本願発明1の「2次元マトリックスシンボル」とは,「各々がモジュール値およびモジュール位置を有するデータモジュールを含み,且つデータセットを符号化する2次元マトリックスシンボル」である点で一致する。

(ウ)引用発明の「二次元コードリーダ1」は,「CPU60と,RAM62と,ROM64と,入出力インターフェース(I/F)66と,バス68とを含んで構成されるコンピュータシステムを備えた」ものであり,「二次元コードが含まれた画像を示す画像データに基づき,その画像中の二次元コードを検出する処理を行う装置」であるから,本願発明1の「2次元マトリックスシンボル」「を読み取るシステム」に相当する。

(エ)上記(ア)?(ウ)の検討から,引用発明と本願発明1とは,「各々がモジュール値およびモジュール位置を有するデータモジュールを含み,且つデータセットを符号化する2次元マトリックスシンボル,を読み取るシステム」である点で一致する。

イ 引用発明の「カメラ76」は,I/F66を介して二次元コードリーダ1と接続されており,「所定の撮影領域を撮影して得られた画像を示す画像データを生成して順次I/F66を介してRAM62に送信し」,「二次元コードリーダ1は,二次元コードが含まれた画像を示す画像データに基づき,その画像中の二次元コードを検出する処理を行う」ものである。
したがって,引用発明の「カメラ76」は,本願発明1の「前記2次元マトリックスシンボルの少なくとも一部分を含む画像を取得するように構成されたイメージングデバイス」に相当する。

ウ(ア)引用発明の「CPU60」は,「コンピュータプログラムをRAM62に読み込み,RAM62に読み込まれたプログラムに記述された命令に従って二次元コードを利用した物品検出処理(以下,コード利用物品検出処理と称す)を実行」するものであるから,引用発明の「プログラム」は「二次元コード」を読み取る“アルゴリズム”を記述したものといえ,本願発明1の「データ読み取りアルゴリズム」に相当する。
したがって,引用発明の「CPU60」は,本願発明1の「データ読み取りアルゴリズムを実行するプロセッサ」に相当する。
また,引用発明の「二次元コードリーダ1は,I/F66を介してカメラ76と接続されて」いるから,「二次元コードリーダ1」を構成する「CPU60」は「カメラ76」と“結合され”ているといえる。
したがって,引用発明の「コンピュータプログラムをRAM62に読み込み,RAM62に読み込まれたプログラムに記述された命令に従って二次元コードを利用した物品検出処理(以下,コード利用物品検出処理と称す)を実行」する「CPU60」は,本願発明1の「前記イメージングデバイスに結合されデータ読み取りアルゴリズムを実行するプロセッサ」に相当する。

(イ)引用発明の「コード利用物品検出処理」は,「CPU60によって,専用のコンピュータプログラムを実行することで起動される処理であって,プログラムが実行されると」,「画像データを取得」する処理を実行するものである。
ここで,引用発明の「画像データを取得」することは,本願発明1の「画像を受信」することに相当する。
また,引用発明の「画像データを取得」する処理は,「CPU60」によって実行される「プログラム」が有する機能であるから,「プログラム」が「画像を受信」しているとみることができる。
したがって,上記(ア)の検討も踏まえると,引用発明の「CPU60」と本願発明1の「プロセッサ」とは,“前記データ読み取りアルゴリズムが,前記画像を受信”する点で共通している。

(ウ)引用発明では,色判定処理において,「ステップS130で検出された二次元コードの領域におけるセパレータ110の領域を特定(座標を特定)し」,「セパレータ110の座標情報に基づき,各セルの存在する領域を分割し」ているところ,上記ア(ア)の検討を踏まえると,引用発明の「二次元コードの領域における」「各セルの存在する領域」は,本願発明1の「画像内のデータモジュールの少なくとも一部分の位置」に相当するから,引用発明と本願発明1とは,“画像内のデータモジュールの少なくとも一部分の位置を特定し”ている点で共通している
したがって,上記(イ)の検討も踏まえると,引用発明の「CPU60」と本願発明1の「プロセッサ」とは,“データ読み取りアルゴリズム”が,“画像内のデータモジュールの少なくとも一部分の位置を特定し”ている点で共通している。

(エ)引用発明の「色判定処理」は,「二次元コードにおけるセルそれぞれに付された色を特定する」処理であるところ,「各セルの色」は,「所定の情報」が「コード化されたものであり」,「セルそれぞれ」は,「そこに付された複数の色(多色)により,数字や文字など複数種類の値(多値)を表現可能となって」いるものであるから,「色判定処理」において「色を特定する」ことは,当該「色」によって表現される「数字や文字など複数種類の値」を特定することにほかならない。
そうすると,引用発明の「色を特定する」ことは本願発明1の「モジュール値を決定」することに相当する。
また,引用発明が,カメラ76で撮影された「画像」から「色を特定」していることは明らかである。
したがって,上記(イ)の検討も踏まえると,引用発明の「CPU60」と本願発明1の「プロセッサ」とは,“データ読み取りアルゴリズム”が,“前記画像からモジュール値を決定し”ている点で共通している。

(オ)上記(ア)?(エ)の検討から,引用発明と本願発明1とは,“前記イメージングデバイスに結合されデータ読み取りアルゴリズムを実行するプロセッサであって,前記データ読み取りアルゴリズムが,前記画像を受信し,前記画像内の前記データモジュールの少なくとも一部分の位置を特定し,前記画像からモジュール値を決定する,プロセッサ”である点で共通する。

エ 引用発明の「ステップS132において特定された色に基づいて,その二次元コードで示される情報を,セルCそれぞれに付された色およびその組み合わせに基づいて識別」することは,「各セルの色および色の組み合わせによりコード化された」「所定の情報」,すなわち,“符号化された情報”を“復号”することであるから,引用発明と本願発明1とは,“符号化された情報を復号する復号アルゴリズムを実行するように構成されている”点で共通する。
そして,上記ステップS132を実行する主体である「CPU60」は,“符号化された情報を復号する復号アルゴリズムを実行するように構成されている手段”であるといえるから,引用発明と本願発明1とは,“システム”が,“符号化された情報を復号する復号アルゴリズムを実行するように構成されている手段”を備えている点で共通する。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「各々がモジュール値およびモジュール位置を有するデータモジュールを含み,且つデータセットを符号化する2次元マトリックスシンボル,を読み取るシステムであって,
前記2次元マトリックスシンボルの少なくとも一部分を含む画像を取得するように構成されたイメージングデバイスと,
前記イメージングデバイスに結合されデータ読み取りアルゴリズムを実行するプロセッサであって,前記データ読み取りアルゴリズムが,前記画像を受信し,前記画像内の前記データモジュールの少なくとも一部分の位置を特定し,前記画像からモジュール値を決定する,プロセッサと,
符号化された情報を復号する復号アルゴリズムを実行するように構成されている手段と,
を備えるシステム。」

(相違点)
(相違点1)画像内のデータモジュールの位置を特定する際に,本願発明1は,「固定パターンを使用することなく」特定しているものであるのに対して,引用発明は,そのようなものではない点。

(相違点2)本願発明1は,「画像からモジュール位置のモデルを当てはめ,前記モデルを推定して予測モジュール位置をもたらし,前記予測モジュール位置にある前記画像からモジュール値を決定している」ものであるのに対して,引用発明は,画像からモジュール値を決定しているものの,モデルを推定して,予測モジュール位置をもたらすものではない点。

(相違点3)本願発明1は,「モジュール値からバイナリマトリックスを抽出」し,前記「バイナリマトリックス」を復号するものであるのに対して,引用発明は,バイナリマトリックスの構成が特定されていないものである点。

(相違点4)本願発明1は,「プロセッサに結合され」た「バイナリマトリックス復号器」が,バイナリマトリックスを復号する復号アルゴリズムを実行するように構成されているのに対して,引用発明は,CPU60が,符号化された情報を復号する復号アルゴリズムを実行するように構成されている点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
引用発明は,「ステップS102において取得された画像データで示される原画像のうち」,「ステップS126において補正された候補領域に対応する対応領域に,二次元コードとしての特徴的なパターンが含まれているか否かを判定し」,「二次元コードとしての特徴的なパターンが含まれていると判定した場合」に,「新規候補領域を二次元コードの領域として検出し」て,「検出された二次元コードの領域につ」いて「色判定処理」(画像内のデータモジュールの少なくとも一部分の位置を特定する処理)を実行するものである。
ここで,引用発明の「二次元コードとしての特徴的なパターン」とは,「二次元コードにおいてコード化のシンボルとなるセルの配置パターンや,二次元コードであることを識別するために配置された特定シンボルの配置パターンや,二次元コードであることを識別するために配置されたマークのパターン」などであり,これらの「特徴的なパターン」が含まれているか否かを判定するためには,これらの「特徴的なパターン」が特定の「固定されたパターン」でなければならないことは自明である。
そうすると,引用発明は,画像内のデータモジュールの位置を特定する際に,「固定パターンを使用する」ことを前提とした発明であって,「固定パターンを使用することなく」画像内のデータモジュールの位置を特定することは想定されていない。
そして,「固定パターンを使用することなく」画像内のデータモジュールの位置を特定することは,上記引用文献2にも記載されておらず,また,「固定パターンを使用することなく」画像内のデータモジュールの位置を特定することが,本願の優先日前に当該技術分野における周知技術であったともいえない。
したがって,上記相違点2-4について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2-9について
本願発明2-9は,本願発明1を減縮した発明であり,上記相違点1に係る構成と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明10について
本願発明10は,本願発明1に対応する方法の発明であり,本願発明1の上記相違点1に係る構成に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4.本願発明11-17について
本願発明11-17は,本願発明10を減縮した発明であり,上記相違点1に係る構成に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

5.本願発明18について
本願発明18は,本願発明1の「2次元マトリックスシンボル,を読み取るシステム」の発明を「2次元マトリックスシンボルが復号可能であるか否かを判定するためのシステム」とするとともに,「データ読み取りアルゴリズム」が「周波数ドメイン解析を含む」ことを更に限定した発明であり,本願発明1の上記相違点1に係る構成に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

6.本願発明19-20について
本願発明19-20は,本願発明18を減縮した発明であり,上記相違点1に係る構成に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明1-20は,当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2021-09-16 
出願番号 特願2015-225405(P2015-225405)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 梅沢 俊  
特許庁審判長 田中 秀人
特許庁審判官 須田 勝巳
塚田 肇
発明の名称 2次元マトリックスシンボルを復号するためのシステムおよび方法  
代理人 津田 俊明  
代理人 瀧野 文雄  

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