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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1378352
審判番号 不服2019-16228  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-12-02 
確定日 2021-09-24 
事件の表示 特願2016-545935「落下速度均一性、落下質量均一性及び落下編成を改善するための方法、システム及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月16日国際公開、WO2015/105587、平成29年 2月 2日国内公表、特表2017-503689〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年11月17日(パリ条約による優先権主張2014年1月10日米国)を国際出願日とする出願であって、平成30年8月16日付けで拒絶の理由が通知され、平成31年2月27日付けで意見書及び手続補正書が提出され、令和1年7月30日付けで拒絶査定がなされたのに対し、同年12月2日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、令和2年1月14日付けで審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし21に係る発明は、令和1年12月2日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項6に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「インクジェットモジュールを備え、該モジュールは、
流体の液滴を吐出するための複数の液滴吐出装置;及び
前記複数の液滴吐出装置に結合された制御回路;
を備え、動作中に、前記制御回路は、前記複数の液滴吐出装置に第1レベル及び第2レベルを有するマルチレベル波形を付与することにより前記複数の液滴吐出装置を駆動し、
前記マルチレベル波形の前記第2レベルは、少なくとも1つの補償パルスを有する第1区分、及び少なくとも1つの駆動パルスを有する第2区分を含み、そして、前記第1レベルは前記第1区分のない前記第2区分を含み、前記少なくとも1つの補償パルスは、前記複数の液滴吐出装置にわたる液滴パラメータの系統的変動を補償するために補償作用を有し、
前記制御回路は、複数の液滴吐出装置にわたる液滴吐出パラメータの分布を決定するようになっているとともに、
前記制御回路は、前記分布内の前記複数の液滴装置の第1及び第2のグループを識別するようになっており、
さらに、前記制御回路は、前記複数の液滴吐出装置の前記第1のグループと関連する入力画像データのピクセルが前記マルチレベル波形の前記第1レベルにマッピングされる間に、前記複数の液滴吐出装置の前記第2のグループと関連する入力画像データのピクセルを前記マルチレベル波形の前記第2レベルにマッピングするようになっている、プリントヘッド。」

第3 原査定の拒絶の理由

令和1年12月2日付けの手続補正書による補正前の各請求項に係る発明のうち、本願発明に対応するのは請求項7に係る発明であるところ、当該請求項7に対する原査定の拒絶の理由は、請求項7に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献2.特開2004-249686号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献2の記載
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用され、本願の優先日前である平成16年9月9日に頒布された刊行物である特開2004-249686号公報には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同じ。)。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種の液体を吐出可能な液体噴射装置、及び、この液体噴射装置における液体の吐出制御方法に関し、特に、噴射ヘッドの個体差に起因する吐出量ばらつきを調整するものに関する。
【0002】
【従来の技術】
液体噴射装置は液体を吐出(噴射)可能な噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を吐出する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンタやインクジェット式プロッタ等の画像記録装置がある。そして、最近では、極く少量の液体を所定の位置に精度良く着弾できるという特性を生かし、各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレー等のカラーフィルタを製造するディスプレー製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレーやFED(面発光ディスプレー)等の電極を形成する電極製造装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを吐出し、ディスプレー製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を吐出する。また、電極製造装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を吐出し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を吐出する。
【0003】
この種の液体噴射装置に用いられる噴射ヘッドでは、液滴の吐出量ばらつきが生じ得る。これは、圧力室やノズル開口等の液体流路に関し、この液体流路が極めて微細な形状に形成されていることによる。即ち、極く微細であるために、寸法ばらつきや取付公差が大きくならざるを得ず、これに起因して吐出量ばらつきが生じる。
【0004】
このような吐出量ばらつきは、液体噴射装置の性能を向上させる上で障害となり得る。例えば、上記の画像記録装置においては、インク滴の吐出量が相違することでドットの大きさが不揃いとなり、画像にざらつき感やムラが生じてしまう可能性があった。従って、液体噴射装置に求められる性能を向上させるためには、吐出量ばらつきを一層小さくすることが求められる。この場合において、液体噴射ヘッドを構成する各部品の寸法精度や部品同士の取付精度を高めることが考えられるが、圧力室等が極く微細な形状であるため現実的ではない。
そこで、圧力発生素子を駆動するための駆動信号を複数種類発生させ、液滴の吐出特性に応じて供給する駆動信号を切り替える構成が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。」
イ 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記した従来装置では、複数種類の駆動信号を発生可能な駆動信号発生手段を設ける必要がある。また、複数種類の駆動信号の中から1つの駆動信号を選択する波形選択部を制御対象毎に設ける必要がある。例えば、この波形選択部を、ノズル開口やノズル列毎に設ける必要がある。このため、装置構成が複雑化して設計の自由度が損なわれてしまうという問題があった。また、装置構成が複雑化することにより、装置のコストアップにつながってしまうという問題もあった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、液滴の吐出量ばらつきを簡単な構成で調整できる液体噴射装置、及びその液滴吐出制御方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、圧力発生素子の作動によって圧力室内の液体に圧力変動を生じさせ、該圧力変動を利用することでノズル開口から液滴を吐出可能な液体噴射ヘッドと、
液滴を吐出させるための吐出パルスを含んだ一連の駆動信号を発生可能な駆動信号発生手段と、
前記駆動信号の中から必要なパルスを選択して圧力発生素子に供給するパルス供給手段とを有する液体噴射装置において、
前記液体噴射ヘッドの個体差に起因する吐出液量の偏差情報を識別情報として記憶可能な識別情報記憶手段を設け、
前記駆動信号発生手段は、液滴を吐出させない程度の圧力変動を圧力室内の液体に生じさせてメニスカスを移動させる予備パルスを、前記吐出パルスに先立って発生し、
前記パルス供給手段は、前記識別情報に基づいて前記予備パルスの供給を制御することにより、液滴の吐出量を調整することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、圧力発生素子の作動によって圧力室内の液体に圧力変動を生じさせ、該圧力変動を利用することでノズル開口から液滴を吐出可能な液体噴射ヘッドと、
液滴を吐出させるための吐出パルスを含んだ一連の駆動信号を発生可能な駆動信号発生手段と、
前記駆動信号の中から必要なパルスを選択して圧力発生素子に供給するパルス供給手段とを有する液体噴射装置の液滴吐出制御方法において、
前記液体噴射ヘッドの個体差に起因する吐出液量の偏差情報を識別情報として識別情報記憶手段に記憶し、
液滴を吐出させない程度の圧力変動を圧力室内の液体に生じさせてメニスカスを移動させる予備パルスを、前記吐出パルスに先立って発生させ、
前記識別情報に基づいて前記予備パルスの圧力発生素子への供給を制御することにより液滴の吐出量を調整することを特徴とする。
【0010】
これらの発明によれば、駆動信号発生手段は予備パルスを吐出パルスに先立って発生し、パルス供給手段は識別情報記憶手段に記憶された識別情報に基づいて予備パルスの供給或いは非供給を選択する。ここで、予備パルスが圧力発生素子に供給されるとメニスカスが液滴吐出方向或いは引き込み方向に振動するため、吐出パルスの供給開始時点におけるメニスカスの状態(位置)に応じて液滴の吐出特性を制御することができる。
例えば、吐出パルスの供給開始時点において、メニスカスが定常状態よりも液滴吐出側に盛り上がっていた場合には、液滴の量は定常状態から吐出パルスを供給した場合よりも増加する。例えば、予備パルスを使用しなかった場合よりも吐出液量が増加する。反対に、吐出パルスの供給開始時点において、メニスカスが定常状態よりも圧力室側に引き込まれていた場合には、液滴の量は定常状態から吐出パルスを供給した場合よりも減少する。従って、予備パルスの供給を制御することで、吐出される液滴の量を制御することができる。
【0011】
このように、駆動信号に予備パルスを含め、識別情報に応じて予備パルスの供給を選択することで、液滴の吐出特性が調整できる。即ち、駆動信号発生手段及びパルス供給手段によって吐出特性の調整ができる。そして、これらの駆動信号発生手段及びパルス供給手段は既存の構成を流用できるので、装置構成の簡素化が図れる。」
ウ 「【0014】
また、上記発明において、前記液体噴射ヘッドは、複数のノズル開口を列設してなるノズル列を複数列備え、前記識別情報を複数のノズル列のそれぞれに対応させて設定し、前記パルス供給手段による予備パルスの供給制御を、ノズル列単位で行う構成が好ましい。また、前記識別情報を複数のノズル開口のそれぞれに対応させて設定し、前記パルス供給手段による予備パルスの供給制御を、ノズル開口単位で行う構成が好ましい。」
エ 「【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では液体噴射装置の一形態である画像記録装置、詳しくは、インクジェット式プリンタを例に挙げて説明することにする。
【0016】
図1は、このプリンタの電気的構成を説明するブロック図である。この図1に示すように、プリンタは、プリンタコントローラ1と、プリントエンジン2とを備えている。プリンタコントローラ1は、図示しないホストコンピュータ等からの印刷データ等を受信するインターフェース(外部I/F)3と、各種データの記憶等を行うRAM4と、各種データ処理のためのルーチン等を記憶したROM5と、CPU等からなる制御部6と、クロック信号(CK)を発生する発振回路7と、記録ヘッド8へ供給するための駆動信号(COM)を発生する駆動信号発生回路9と、搭載される記録ヘッド8の吐出インク量に関する情報や駆動電圧に関する情報を記憶可能な識別情報記憶部10と、印字データ(ドットパターンデータであり、噴射データの一種。)及び駆動信号等をプリントエンジン2に送信するためのインターフェース(内部I/F)11とを備えている。」
オ 「【0018】
制御部6は、データ展開手段として機能し、印刷データを印字データに展開する。この場合、制御部6は、受信バッファ内の印刷データを読み出して中間コードデータに変換し、この中間コードデータを中間バッファに記憶する。そして、制御部6は、中間バッファから読み出した中間コードデータを解析し、ROM5内のフォントデータやグラフィック関数等を参照して中間コードデータをドット毎の印字データに展開する。本実施形態では、この印字データを2ビットデータで構成している。この展開された印字データは出力バッファに記憶されて、一回の主走査に相当する1行分の印字データが得られると、この1行分の印字データ(SI)は内部I/F11を通じて記録ヘッド8にシリアル伝送される。そして、出力バッファから1行分の印字データが送信されると、中間バッファの内容が消去されて次の中間コードデータに対する変換が行われる。
【0019】
また、制御部6は、タイミング信号発生手段の一部を構成し、内部I/F11を通じて記録ヘッド8にラッチ信号(LAT)やチャンネル信号(CH)を供給する。これらのラッチ信号やチャンネル信号は、後述するように、駆動信号(COM)に含まれる駆動パルスの供給開始タイミングを規定する。
さらに、制御部6は、波形設定手段としても機能し、駆動信号発生回路9を制御することにより、この駆動信号発生回路9から発生される駆動信号の波形形状を設定する。
【0020】
上記の駆動信号発生回路9は、本発明における駆動信号発生手段の一種であり、制御部6による制御の下、複数の駆動パルス(DP1?DP3,SP1?SP2,OP,図6参照)を含んだ一連の駆動信号を記録周期T毎に繰り返し発生する。本実施形態の駆動信号発生回路9は、1種類の駆動信号を記録ヘッド8の各電気駆動系12(12A?12D)に供給する構成である。なお、この駆動信号については後で詳しく説明する。
【0021】
上記の識別情報記憶部10は、本発明の識別情報記憶手段の一種であり、プリンタに対する電源の供給が絶たれても記憶内容が保持可能な不揮発性の記憶素子が用いられる。例えば、EEPROMやフラッシュRAM、或いは、バックアップ電源に接続されたRAM等によって構成される。本実施形態では、この識別情報記憶部10に、波高値オフセット情報(Vpオフセット)、駆動電圧オフセット情報(Vhオフセット)、仮駆動電圧情報を記憶させている。
ここで、波高値オフセット情報は、ノズル列34(図4参照)毎の吐出インク量の偏差を示す情報である。この波高値オフセット情報は、本発明の識別情報の一種であって吐出量識別情報でもある。そして、この波高値オフセット情報は、記録ヘッド8の検査工程等によって付与される(後述する)。
【0022】
上記のプリントエンジン2は、ヘッド走査機構が備えるパルスモータ13と、紙送り機構が備える紙送りモータ14と、記録ヘッド8等から構成される。パルスモータ13は、記録ヘッド8を移動させる駆動源として機能する。即ち、このパルスモータ13を作動させることで、記録ヘッド8は記録紙の幅方向(つまり、主走査方向)に移動される。また、紙送りモータ14は、記録紙を紙送り方向(つまり、副走査方向)順次送り出すための駆動源として機能する。そして、これらのパルスモータ13と紙送りモータ14は互いに連携して動作し、記録ヘッド8の主走査に連動させて記録紙を順次送り出す。記録ヘッド8は、本発明の液体噴射ヘッドの一種であり、液体状のインクを吐出するものである。以下、この記録ヘッド8について詳細に説明する。
【0023】
まず、図2?図4を参照して記録ヘッド8の構造について説明する。図2に示すように、記録ヘッド8は、複数の圧電振動子21からなる振動子群22、固定板23、及び、フレキシブルケーブル24等をユニット化した振動子ユニット25と、この振動子ユニット25を収納可能なケース26と、ケース26の先端面に接合される流路ユニット27とを備えている。
【0024】
ケース26は、振動子ユニット25を収納するための収納空部28を形成した合成樹脂製のブロック状部材である。この収納空部28は、振動子ユニット25が丁度収まる程度の扁平な開口形状をしており、ケース26の高さ方向を貫通した状態に形成されている。上記の振動子ユニット25は、固定板23を収納空部28の壁面に接着することで収納空部28内に固定されている。そして、この接着状態で圧電振動子21の先端面部は、収納空部28における流路ユニット27側の開口に臨む。」
カ 「【0025】
振動子群22を構成する各圧電振動子21は、本発明の圧力発生素子の一種であり、電気機械変換素子の一種でもある。本実施形態の各圧電振動子21は、30μm?100μm程度の極めて細い幅の櫛歯状に設けられている。この振動子群22は、例えば、圧電体層と内部電極層とを交互に積層した一枚の圧電板を固定板23に接合した後、ワイヤーソー等の切断具によって圧電板を櫛歯状に切り分けることで作製される。そして、各圧電振動子21は、基端側部分が固定板23上に接合されており、自由端部を固定板23の縁よりも外側に突出させた片持ち梁の状態で取り付けられている。
【0026】
各圧電振動子21の自由端部は、圧電体層に加えられた電界に応じて、素子長手方向に伸縮する。そして、各圧電振動子21の先端面部は流路ユニット27の島部29に接合されているので、圧電振動子21が伸縮するとその圧電振動子21に接合された島部29が変位する。一方、各圧電振動子21の基端側部分の表面にはフレキシブルケーブル24が電気的に接続されている。そして、各圧電振動子21にはこのフレキシブルケーブル24を通じて駆動信号が供給される。」
キ 「【0027】
流路ユニット27は、図3にも示すように、流路形成基板30の一方の表面にノズルプレート31を接合し、このノズルプレート31とは反対側となる他方の表面に弾性板32を接合することで構成されている。
【0028】
ノズルプレート31は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル開口33を列状に開設したステンレス鋼製の薄いプレートである。本実施形態では、90dpiのピッチで90個のノズル開口33を列状に開設し、これらのノズル開口33によってノズル列34を構成する。そして、このノズル列34を、吐出可能なインクの種類(例えば色)に対応させて複数列形成する。例えば、図4中の左端に位置する第1ノズル列34Aから右端に位置する第4ノズル列34Dまでの合計4列のノズル列34を横並びに形成する。
【0029】
そして、本実施形態では、各ノズル列34から異なる色のインクを吐出可能に構成している。例えば、第1ノズル列34Aからはブラックインクを、第2ノズル列34Bからはシアンインクをそれぞれ吐出可能に構成している。また、第3ノズル列34Cからはマゼンタインクを、第4ノズル列34Dからはイエローインクをそれぞれ吐出可能に構成している。また、上記の振動子ユニット25は、これらのノズル列34毎に設けられている。即ち、例示した記録へッドは、4個の振動子ユニット25を有している。なお、ノズル列34及び振動子ユニット25の数は4に限らない。例えば、3以下であってもよいし、5以上であってもよい。
【0030】
流路形成基板30は、圧力室35となる空部やインク供給口36となる溝部、及び、リザーバ(共通インク室)37となる空部などを形成した板状の部材である。この流路形成基板30は、例えばシリコンウェハーをエッチング加工したり、金属板をプレス加工することによって作製される。上記の圧力室35は、ノズル開口33の列設方向(即ち、ノズル列方向)に対して直交する方向に細長い室であり、偏平な凹室で構成されている。そして、この圧力室35は、流路幅が圧力室35よりも狭いインク供給口36を通じてリザーバ37に連通されている。また、インク供給口36とは反対側の端部で圧力室35は、ノズル連通口38を通じてノズル開口33に連通している。従って、この記録へッドには、リザーバ37から圧力室35を通じてノズル開口33に至る一連のインク流路が、ノズル開口33に対応する複数形成される。」
ク 「【0032】
このような構成を有する記録ヘッド8では、圧電振動子21を放電して振動子長手方向に伸長させると、島部29がノズルプレート31側に押圧されて変位する。これにより、ダイヤフラム部の薄肉弾性部が変形して圧力室35が収縮する。一方、圧電振動子21を充電して振動子長手方向に収縮させると、島部29が戻り方向に変位する共に薄肉弾性部が変形して圧力室35が膨張する。そして、圧力室35の膨張や収縮を制御することで、圧力室35内のインク圧力を変動させることができ、ノズル開口33からインク滴を吐出させることができる。」
ケ 「【0033】
次に、記録ヘッド8の電気的構成について説明する。図1に示すように、記録ヘッド8は、ノズル列34に対応する数の電気駆動系12を備えている。本実施形態の記録ヘッド8は4列のノズル列34を有しているので、4つの電気駆動系12A?12Dが備えている。各電気駆動系12はいずれも同じ構成であり、例えば図5に示すように、第1シフトレジスタ51及び第2シフトレジスタ52からなるシフトレジスタ回路と、第1ラッチ回路53と第2ラッチ回路54とからなるラッチ回路と、デコーダ55と、制御ロジック56と、レベルシフタ57と、スイッチ回路58と、圧電振動子21とを備えている。そして、各シフトレジスタ51,52、各ラッチ回路53,54、デコーダ55、スイッチ回路58、及び、圧電振動子21は、それぞれ記録ヘッド8の各ノズル開口33に対応して複数設けられる。
【0034】
そして、この記録ヘッド8は、プリンタコントローラ1からの印字データ(SI)に基づいてインク滴を吐出する。具体的に説明すると、次の通りである。
【0035】
プリンタコントローラ1からの印字データは、発振回路7からのクロック信号(CK)に同期して、内部I/F11から第1シフトレジスタ51及び第2シフトレジスタ52にシリアル伝送される。この印字データは、上記したように2ビットのデータであり、本実施形態では、非記録、小ドット、中ドット、大ドットからなる4階調を表す階調情報によって構成されている。具体的には、非記録が階調情報[00]であり、小ドットが階調情報[01]であり、中ドットが階調情報[10]であり、大ドットが階調情報[11]である。なお、この印字データは、吐出される液滴の量を示す吐出量情報の一種でもある。
【0036】
この印字データは、各ノズル開口33毎に設定される。即ち、そのノズル列に属する全ノズル開口33の下位ビット(L)のデータが第1シフトレジスタ51に入力され、上位ビット(H)のデータが第2シフトレジスタ52に入力される。第1シフトレジスタ51には第1ラッチ回路53が電気的に接続され、第2シフトレジスタ52には第2ラッチ回路54が電気的に接続されている。そして、プリンタコントローラ1からのラッチ信号(LAT)が各ラッチ回路53,54に入力されると、第1ラッチ回路53は印字データの下位ビットのデータをラッチし、第2ラッチ回路54は印字データの上位ビットのデータをラッチする。このような動作をする第1シフトレジスタ51及び第1ラッチ回路53の組と、第2シフトレジスタ52及び第2ラッチ回路54の組は、それぞれが記憶回路を構成し、デコーダ55に入力される前の印字データを一時的に記憶する。
【0037】
各ラッチ回路53,54でラッチされた印字データはデコーダ55に入力される。このデコーダ55は翻訳手段として機能し、2ビットの印字データを翻訳してパルス選択情報を生成する。本実施形態のデコーダ55は、印字データと駆動パルスとの関係を規定する波形選択テーブルを備えており、この波形選択テーブルに基づいてパルス選択情報を生成する。パルス選択情報は、駆動信号(COM)を構成する各駆動パルス(DP1?DP3,SP1?SP2,OP,)に各ビットを対応させることで構成されている。このため、本実施形態では、6ビットのパルス選択情報が生成される。そして、各ビットの内容(例えば、[0],[1])に応じて圧電振動子21に対する駆動パルスの供給或いは非供給が選択される。なお、駆動パルスの供給制御については後で詳しく説明する。
【0038】
また、デコーダ55には、制御ロジック56からのタイミング信号も入力されている。この制御ロジック56は、制御部6と共にタイミング信号発生手段として機能しており、ラッチ信号(LAT)やチャンネル信号(CH)に基づいてタイミング信号を発生する。即ち、この制御ロジック56は、図6に示すように、ラッチ信号或いはチャンネル信号を受信する毎にタイミング信号(TIM)を発生する。
【0039】
デコーダ55によって翻訳されたパルス選択情報は、上位ビット側から順に、タイミング信号の受信タイミングが到来する毎に、レベルシフタ57に入力される。例えば、記録周期Tにおける最初のタイミング(期間T1の開始時)ではパルス選択情報の最上位ビットのデータがレベルシフタ57に入力され、2番目のタイミング(期間T2の開始時)ではパルス選択情報における2番目のビットのデータがレベルシフタ57に入力される。以下同様にデータが入力され、6番目のタイミング(期間T6の開始時)ではパルス選択情報における最下位ビットのデータがレベルシフタ57に入力される。このレベルシフタ57は、電圧増幅器として機能し、パルス選択情報が[1]の場合には、スイッチ回路58を駆動できる電圧、例えば数十ボルト程度の電圧に昇圧された電気信号を出力する。レベルシフタ57で昇圧された[1]のパルス選択情報は、スイッチ手段として機能するスイッチ回路58に供給される。このスイッチ回路58の入力側には、駆動信号発生回路9からの駆動信号(COM)が供給されており、スイッチ回路58の出力側には圧電振動子21が接続されている。
【0040】
そして、パルス選択情報は、スイッチ回路58の作動、つまり、駆動パルスの圧電振動子21への供給を制御する。例えば、スイッチ回路58に加わるパルス選択情報が[1]である期間中は、スイッチ回路58が接続状態になって駆動パルスが圧電振動子21に供給され、この駆動パルスに倣って圧電振動子21の電位レベルが変化する。一方、スイッチ回路58に加わるパルス選択情報が[0]の期間中は、レベルシフタ57からはスイッチ回路58を作動させるための電気信号が出力されない。このため、スイッチ回路58が切断状態になって圧電振動子21へは駆動パルスが供給されない。なお、圧電振動子21はコンデンサの様に振る舞うので、スイッチ回路58の切断状態において切断直前の電位を保持し続ける。
【0041】
そして、このような動作をする制御ロジック56、デコーダ55、レベルシフタ57、スイッチ回路58は、本発明におけるパルス供給手段の一種として機能し、印字データに基づき、駆動信号の中から駆動パルスを選択して圧電振動子21に供給する。」
コ 「【0042】
次に、駆動信号発生回路9(駆動信号発生手段の一種)が生成する駆動信号(COM)について説明する。
【0043】
図6に示すように、本実施形態の駆動信号発生回路9は、3つの吐出パルスDP1?DP3と、2つの予備パルスSP1,SP2と、1つの微振動パルスOPとを含む一連の駆動信号を発生する。即ち、記録周期Tを6つの期間T1?T6に区切り、1つの期間内に1つのパルスを発生させている。具体的には、第1期間T1では微振動パルスOPを発生し、第2期間T2では第1吐出パルスDP1を発生する。そして、第3期間T3では第1予備パルスSP1を発生し、第4期間T4では第2吐出パルスDP2を発生する。また、第5期間T5では第2予備パルスSP2を発生し、第6期間T6では第3吐出パルスDP3を発生する。
【0044】
上記の吐出パルスDP1?DP3は、インク滴を吐出させるためのパルスである。この吐出パルスDP1?DP3が圧電振動子21に供給されると、所定量のインク滴がノズル開口33から吐出される。上記の予備パルスSP1,SP2は、吐出パルスDP2,DP3によって吐出されるインク滴の量を調整するためのパルスであり、吐出パルスDP2,DP3に先立って発生される。上記の微振動パルスOPは、ノズル開口33付近のインク増粘を防止するためのパルスであり、インク滴を吐出させない場合に選択される。以下、これらの駆動パルスについて詳細に説明する。
【0045】
まず、吐出パルスDP1?DP3について説明する。本実施形態において、各吐出パルスDP1?DP3は、同一の波形形状とされている。具体的には、図7(a)に示すように、中間電位VM(基準電位の一種)から最大電位VHまでインク滴を吐出させない程度の一定勾配で電位を上昇させる膨張要素P1と、最大電位VHを所定時間保持する膨張ホールド要素P2と、最大電位VHから最低電位VLまで急勾配で電位を下降させる吐出要素P3と、最低電位VLを所定時間保持する制振ホールド要素P4と、最低電位VLから中間電位VMまで電位を上昇させる制振要素P5とを備える。
そして、吐出パルスDP1?DP3が圧電振動子21に供給されると、ノズル開口33からは、吐出パルスDP1?DP3が供給される毎に7pl(ピコリットル)前後のインク滴が吐出される。なお、「7pl前後」とは、流路形成基板30やノズルプレート31等の寸法ばらつきや取付公差によって、インク滴の吐出量等にばらつきが生じ得ることを意味している。」
サ 「【0046】
以下、吐出パルスDP1?DP3の供給に伴うインク滴の吐出について詳細に説明する。まず、膨張要素P1の供給によって圧力室35は、中間電位VMに対応する定常容積から最大電位VHに対応する最大容積まで膨張する。この圧力室35の膨張により、図7(b)に示すように、メニスカスの位置は定常状態([0]で示す位置)から圧力室35側([-]で示す方向)に引き込まれる。この圧力室35の膨張状態は、膨張ホールド要素P2の供給期間中に亘って維持される。この期間中においてメニスカスは自由振動し、移動方向が吐出側([+]で示す方向)に切り替わる。
次に、吐出要素P3が供給されて、圧力室35は、最大容積から最低電位VLに対応する最小容積まで急激に収縮し、圧力室35内のインクが加圧される。この加圧によってメニスカスは、吐出方向に急速に移動する。続いて、制振ホールド要素P4が供給され、圧力室35はこの制振ホールド要素P4の供給期間中に亘って収縮状態に維持される。その間メニスカスは、慣性力によって吐出要素P3の供給後も吐出側に移動し続ける。その結果、柱状となったメニスカスの先端部分がちぎれ、インク滴となって吐出する。また、先端部分がちぎれた反動により、残った部分は圧力室35側へ急速に移動する。
その後は、制振要素P5の供給によって圧力室35が定常容積まで膨張復帰する。この制振要素P5は、圧力室35側に引き込まれたメニスカスが反転して吐出側に移動するタイミングで供給されるので、メニスカスの吐出側への移動力を吸収するように作用する。その結果、メニスカスの振動が短時間で収束される。
【0047】
次に、予備パルスSP1,SP2について説明する。図8(a)に示すように、この予備パルスSP1,SP2は、中間電位VM(基準電位の一種)から予備最大電位VPまで一定の電位勾配で電位を上昇させる予備膨張要素P11(電位上昇要素の一種)と、予備最大電位VPを維持する予備ホールド要素P12(定電位要素の一種)と、予備最大電位VPから中間電位VMまで一定の電位勾配で電位を下降させる予備収縮要素P13(電位下降要素の一種)とを含む台形状のパルスである。そして、本実施形態では、予備膨張要素P11の電位勾配(登り傾斜の角度)を、予備収縮要素P13の電位勾配(下り傾斜の角度)よりも急峻に設定している。
【0048】
上記の予備パルスSP1,SP2が圧電振動子21に供給されると、インク滴を吐出させない程度の圧力変動が圧力室35内のインクに生じ、メニスカスが移動する。例えば、図8(b)に示すように、予備膨張要素P11が圧電振動子21に供給されると圧電振動子21が多少収縮して圧力室35が膨張し、メニスカスが圧力室35側に引き込まれる。この時、メニスカスの引き込み量は、予備膨張要素P11の印加電圧(電位差)及び電位勾配(発生時間)によって規定される。本実施形態では、この予備膨張要素P11の印加電圧、即ち、予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを吐出パルスDP1?DP3の駆動電圧Vh(最大電位VHと最低電位VLの電位差)を基準に定めている。具体的には、予備膨張要素P11の印加電圧を駆動電圧Vhの2.5%?25%以下の範囲で定めている。そして、この印加電圧の値は、予備パルスを使用しない状態におけるノズル列34毎のインク量に基づいて定められる。
【0049】
続いて、予備ホールド要素P12が圧電振動子21に供給される。これにより、圧電振動子21の収縮状態が維持され、圧力室35の膨張状態も維持される。そして、この期間中においてメニスカスは自由振動する。次に、予備収縮要素P13が供給されて圧電振動子21が伸長し、圧力室35が定常容積まで収縮する。ここで、圧力室35の収縮タイミングは、メニスカスの移動方向がインク滴の吐出方向に切り替わった後に設定される。従って、メニスカスは、圧力室35の収縮によって後押しされた状態となり、吐出方向へ円滑に移動する。その結果、予備収縮要素P13の供給終了後、圧力室35が定常容積で維持されている期間においてもメニスカスは自由振動し、吐出パルスDP2,DP3の供給開始時点において定常状態よりも盛り上がった状態になる。
【0050】
従って、予備パルスSP1,SP2を吐出パルスDP2,DP3に先立って供給することで、吐出パルスDP2,DP3の供給開始時点におけるメニスカスの状態、即ち、定常状態に対する盛り上がりの度合いを制御できる。そして、メニスカスの盛り上がりを制御できることから、吐出パルスDP2,DP3の供給に伴う吐出インク量を変化させることができる。即ち、同じ波形形状の吐出パルスDP2,DP3を用いながらも、吐出されるインク量を予備パルスSP1,SP2の非使用時よりも増やすことができる。これは、メニスカスの盛り上がり状態の差がインク量の差になったことによる。例えば、図8(b)に示すように、予備パルスSP1,SP2の使用時におけるメニスカスの振幅(実線)は、予備パルスSP1,SP2の非使用時におけるメニスカスの振幅(一点鎖線)よりも大きくなる。そして、この振幅の差がインク滴の吐出量の差となって現れたものと考えられる。
【0051】
ところで、吐出パルスDP2,DP3の供給開始時点におけるメニスカスの状態は、予備膨張要素P11の印加電圧、言い換えれば、予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを変えることで調整することができる。例えば、図9(a)に示すように、予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを図8(a)の予備パルス(一点鎖線)の波高値Vpよりも△Vだけ上昇させた場合には、予備パルスSP1,SP2の供給に伴うメニスカスの振幅もその分だけ大きくなる。従って、吐出パルスDP1,DP2の供給開始時点において、メニスカスをその分だけ盛り上げることができる。
その結果、図9(b)に示すように、波高値Vpを標準よりも高めた予備パルスSP1,SP2を用いた場合のメニスカスの振幅(実線)は、標準の波高値Vpに設定した場合のメニスカスの振幅(一点鎖線)よりも大きくなる。そして、この振幅の差がインク滴の吐出量の差となって現れるため、波高値Vpを高めた予備パルスSP1,SP2を用いることでインク滴の吐出量を増やすことができる。」
シ 「【0054】
次に、上記プリンタにおけるインク滴の吐出制御(階調制御)について説明する。本実施形態において制御部6(波形設定手段)は、ノズル列34毎のインク吐出量に応じて予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを設定する。このため、インク吐出量から予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを設定する手順について以下説明する。
【0055】
制御部6は、識別情報記憶部10に記憶された波高値オフセット情報に基づいて予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを設定する。ここで、波高値オフセット情報の決定手順について説明する。
【0056】
この波高値オフセット情報は、上記したように、記録ヘッド8の検査工程等によって決定され、識別情報記憶部10に記憶されるものである。本実施形態において、予備パルスSP1,SP2の波高値Vpは吐出パルスDP1?DP3の駆動電圧Vh(波高値Vp)を基準に定められる。このため、まず、吐出パルスDP1?DP3の仮駆動電圧Vh´を決定する。ここでは、一記録周期Tで吐出される合計のインク量が20plとなるように、吐出パルスDP1?DP3の仮駆動電圧Vh´を決定する。
例えば、記録ヘッド8が有する全てのノズル開口33から規定数のインク滴を吐出させ、その重量を測定する。具体的には、吐出させたインク滴をシャーレ等の捕集容器にて捕集し、電子天秤等を用いて重量を測定する。そして、この測定したインク重量とインク滴の吐出回数との関係から一記録周期Tあたりの吐出インク重量を算出し、一記録周期Tあたりの吐出インク重量が20.0plとなった電圧値を仮駆動電圧Vh´に決定する。
なお、このようにして決定された仮駆動電圧Vh´は、識別情報記憶部10に記憶される。
【0057】
吐出パルスDP1?DP3の仮駆動電圧Vh´を決定したならば、初期重量比情報を決定する。ここでは、まず、各ノズル列34毎にインク滴を吐出させて吐出重量を測定する。この場合の測定手順は、吐出パルスDP1?DP3の仮駆動電圧Vh´を決定する場合と同様であり、測定対象のノズル列34に属する全てのノズル開口33から所定数のインク滴を吐出させて合計のインク重量を測定し、1滴あたりのインク重量を取得する。なお、この測定において、吐出パルスDP1?DP3の駆動電圧Vhは、先に決定した仮駆動電圧Vh´とする。
1滴当たりのインク重量を取得したならば、次式(1)に基づいて初期重量比を算出する。
【0058】
初期重量比=(対象列の測定重量/設計重量値×100)-100 … (1)
【0059】
例えば、図10(a)に示す記録ヘッド8では、第1ノズル列34Aの初期重量比が7.0%である。これは、インク滴の吐出重量が平均値(設計値)よりも7.0%多いノズル列34であることを意味する。また、第2ノズル列34B?第4ノズル列34Dの初期重量比は、それぞれ-2.0%,-5.0%,1.0%である。従って、第2ノズル列34Bの吐出重量は平均値よりも2.0%少なく、第3ノズル列34Cの吐出重量は平均値よりも5.0%少ない。また、第4ノズル列34Dの吐出重量は平均値よりも1.0%多い。
【0060】
初期重量比情報を求めたならば、波高値オフセット情報(Vpオフセット)を取得する。波高値オフセット情報を取得するにあたり、各ノズル列34を、初期重量比の最大値に近いグループと、最小値に近いグループとに分ける。図10(a)の例では、第1ノズル列34Aが最大値であり、第3ノズル列34Cが最小値である。そして、第2ノズル列34Bは最小値に近いので最小値グループに分類する。なお、第4ノズル列34は、最大値との差と最小値との差が等しいので、いずれのグループに分けることもできるが、便宜上何れかのグループに分類する。本実施形態では、最大値グループと最小値グループとに属するノズル列34の数を揃えるべく、第4ノズル列34を最大値グループに分類している。
【0061】
ノズル列34を分類したならば、グループ毎に初期重量比の平均値を算出する。そして、最小値グループ(当審注:「最小値グループ」は「最大値グループ」の誤記と認める。)の平均値から最小値グループの平均値を減算し、得られた値を最小値グループのノズル列34に与えるオフセット値とする。そして、このオフセット値が波高値オフセット情報となる。
図10(a)の例では、最大値グループの平均重量比が4.0%であり、最小値グループの平均重量比は-3.5%である。このため、第2ノズル列34Bの波高値オフセット情報、及び、第3ノズル列34Cの波高値オフセット情報の値は7.5%となる。また、第1ノズル列34Aの波高値オフセット情報、及び、第4ノズル列34Dの波高値オフセット情報の値は0.0%となる。
そして、これらの波高値オフセット情報が識別情報記憶部10に記憶される。
【0062】
なお、プリンタの動作時において、制御部6は、この波高値オフセット情報から予備パルスの波高値Vpを設定する。本実施形態では、オフセット値1%あたりのVp/Vh値を2.5%とし、最大値を25%(オフセット値で10%)としている。このため、制御部6は、7.5%の波高値オフセット情報に基づいて、予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを駆動電圧Vhの18.8%に設定する。
【0063】
波高値オフセット情報を決定したならば、駆動電圧オフセット情報(Vhオフセット)を設定する。この駆動電圧オフセット情報は、仮駆動電圧Vh´から実際の吐出パルスDP1?DP3に適用する駆動電圧Vhを求めるための情報である。
即ち、吐出インク量が少ないノズル列34に対して予備パルスSP1,SP2を使用することから、プリンタの動作時においてインク滴吐出量の平均値がその分だけ上昇することになる。このため、吐出パルスDP1?DP3の駆動電圧Vhを仮駆動電圧Vh´よりも低く設定し、記録ヘッド8全体での1記録周期Tあたりの吐出量が20plとなるように駆動電圧Vhを設定する必要がある。駆動電圧オフセット情報は、仮駆動電圧Vh´から駆動電圧Vhを求める際に、制御部6(波形設定手段)が使用する情報である。
【0064】
本実施形態では、この駆動信号オフセット情報を、インク滴の吐出量を測定することで設定している。即ち、予備パルスSP1,SP2を用いた状態でインク滴を吐出させて重量を測定し、規定量(例えば、一周期あたり20.0pl)のインク滴が吐出される駆動電圧値を取得する。そして、取得した駆動電圧値を仮駆動電圧値から算出するための補正係数を駆動信号オフセット情報として設定する。図10(a)の例では駆動信号オフセット情報は-3.8%となる。
【0065】
なお、波高値オフセット情報や駆動信号オフセット情報を、仮駆動電圧値に対する補正係数としたのは、実際の使用時においては、駆動電圧が使用環境の温度によっても変動するからである。即ち、温度の変動によっても駆動電圧が変動するので、仮駆動電圧値を基準とし、この仮駆動電圧に対して種々の補正をする構成の方が、駆動信号の波形形状を効率よく設定できることによる。
【0066】
そして、制御部6(波形設定手段)は、プリンタの動作時において、これらの仮駆動電圧情報、波高値オフセット情報、及び駆動信号オフセット情報を用いて駆動信号の波形形状を設定する。また、駆動信号発生回路9(駆動信号発生手段)は、制御部6に制御され、設定された波形形状の駆動信号を発生する。
【0067】
また、デコーダ55(翻訳手段)は、プリンタの動作時において、波高値オフセット情報に基づき、そのノズル列が予備パルスSP1,SP2を使用するか否かを判断する。例えば、波高値オフセット情報として0.0%が設定されたノズル列34A,34Dは予備パルスSP1,SP2を使用しないと判断し、波高値オフセット情報として7.5%が設定されたノズル列34B,34Cは予備パルスSP1,SP2を使用すると判断する。
【0068】
この判断結果に基づき、デコーダ55は、異なるパルス選択情報を生成する。即ち、予備パルスSP1,SP2を使用しないノズル列34A,34Dについては、予備パルスSP1,SP2の発生期間に対応するパルス選択情報を[0]に設定することで、予備パルスSP1,SP2を圧電振動子21に供給しないようにしている。これにより、インク滴を吐出させる場合には、吐出パルスDPのみが選択される。一方、予備パルスSP1,SP2を使用するノズル列34B、34Cについては、予備パルスSP1,SP2の発生期間に対応するパルス選択情報を[1]に設定することで、吐出パルスDPの供給に先立って予備パルスSP1,SP2を圧電振動子21に供給する。
【0069】
図6に基づいて、具体的に説明すると、予備パルスSP1,SP2を使用しない第1ノズル列34A及び第4ノズル列34D用のデコーダ55は、(b)に示すように、階調情報[00](微振動)に基づいて、パルス選択情報[100000]を生成し、階調情報[01](小ドット)に基づいて、パルス選択情報[000100]を生成する。また、階調情報[10](中ドット)に基づいて、パルス選択情報[010001]を生成し、階調情報[11](大ドット)に基づいて、パルス選択情報[010101]を生成する。
【0070】
これらのパルス選択情報により、微振動の階調情報に基づいて微振動パルスOPが選択され、圧電振動子21に供給される。また、小ドットの階調情報に基づいて第2吐出パルスDP2が選択され、圧電振動子21に供給される。さらに、中ドットの階調情報に基づいて第1吐出パルスDP1と第3吐出パルスDPとが圧電振動子21に供給され、大ドットの階調情報に基づいて第1吐出パルスDP1、第2吐出パルスDP2及び第3吐出パルスDPが圧電振動子21に供給される。
【0071】
一方、予備パルスSP1,SP2を使用する第2ノズル列34B及び第3ノズル列34C用のデコーダ55は、(c)に示すように、階調情報[00](微振動)に基づいて、パルス選択情報[100000]を生成し、階調情報[01](小ドット)に基づいて、パルス選択情報[001100]を生成する。また、階調情報[10](中ドット)に基づいて、パルス選択情報[010011]を生成し、階調情報[11](大ドット)に基づいて、パルス選択情報[011111]を生成する。
【0072】
これらのパルス選択情報により、小ドットの階調情報に基づき、第2吐出パルスDP2に先立って第1予備パルスSP1が選択され、圧電振動子21に供給される。この場合、第1予備パルスSP1によってメニスカスが予め加振されるので、単に第2吐出パルスDP2のみを供給した場合に比べてインク滴の吐出量を増やすことができる。さらに、この第1予備パルスSP1の波高値Vp及び第2吐出パルスDP2の駆動電圧Vhについては、上記したように適正化が図られているので、インク量の列間ばらつきを可及的に少なくすることができる。
【0073】
また、中ドットの階調情報に基づいて第1吐出パルスDP1、第2予備パルスSP2及び第3吐出パルスDP3が圧電振動子21に供給される。この場合にも第3吐出パルスDP3に先立って第2予備パルスSP2が選択され、圧電振動子21に供給される。従って、第2予備パルスSP2によってメニスカスが予め加振されるので、単に第3吐出パルスDP3のみを供給した場合に比べてインク滴の吐出量を増やすことができる。
【0074】
さらに、大ドットの階調情報に基づいて第1吐出パルスDP1?第3吐出パルスDP3と、第1予備パルスSP1及び第2予備パルスSP2とが圧電振動子21に供給される。この場合には、第1予備パルスSP1及び第2予備パルスSP2により、第2吐出パルスDP2及び第3吐出パルスDP3の吐出インク量が高められる。
【0075】
以上の補正を行うことにより、予備パルスSP1,SP2を使わない場合に比べてノズル列34間のばらつきを減少させることができた。図10(a)の例では、吐出インク量の最も多い第1ノズル列34Aは、補正後において重量比(補正重量比)が3.3%となった。また、吐出インク量の最も少ない第3ノズル列34Cは、補正重量比が-1.3%となった。さらに、第1ノズル列34Aは、補正重量比が1.8%となり、第4ノズル列34Dは補正後において重量比が-2.8%となった。その結果、予備パルスSP1,SP2を用いない場合には5.1%あった重量ばらつきが、予備パルスSP1,SP2を用いることにより2.7%にまで小さくなった。」
ス 「【0077】
このように、本実施形態では、駆動信号に予備パルスSP1,SP2を含ませ、波高値オフセット情報に基づいて予備パルスSP1,SP2の供給/非供給を制御しているので、一連の駆動信号を発生可能な駆動信号発生回路9と、この駆動信号から必要なパルスを選択して圧電振動子21に供給するパルス供給手段(制御ロジック56、デコーダ55、レベルシフタ57、スイッチ回路58)とを設ければ足りる。そして、これらの駆動信号発生回路9とパルス供給手段は既存の構成を用いて構成できるので、装置構成を簡素化できる。このため、装置の小型化が図れると共に、設計の自由度が増す。さらに、安価に構成することもできる。」
セ 「【0095】
また、上記実施形態においては、識別情報を複数のノズル列34のそれぞれに設定し、予備パルスSP1,SP2の供給制御をノズル列34単位で行うものについて説明したが、予備パルスSP1,SP2の供給制御をノズル開口単位で行うようにしてもよい。」

(2)引用文献2の記載事項から認定できる事項

ア 上記(1)オの【0023】には、「…記録ヘッド8は、複数の圧電振動子21からなる振動子群22、固定板23、及び、フレキシブルケーブル24等をユニット化した振動子ユニット25と、この振動子ユニット25を収納可能なケース26と、ケース26の先端面に接合される流路ユニット27とを備えている。」と記載され、上記(1)キの【0027】には、「流路ユニット27」は、「流路形成基板30の一方の表面にノズルプレート31を接合し、このノズルプレート31とは反対側となる他方の表面に弾性板32を接合することで構成され」ていることが記載され、同【0028】には、「ノズルプレート31は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル開口33を列状に開設したステンレス鋼製の薄いプレートであ」り、「これらのノズル開口33によってノズル列34を構成する」ことが記載され、同【0030】には、「流路形成基板30は、圧力室35となる空部やインク供給口36となる溝部、及び、リザーバ(共通インク室)37となる空部などを形成した板状の部材である」ことが記載されているとともに、「リザーバ37から圧力室35を通じてノズル開口33に至る一連のインク流路が、ノズル開口33に対応する複数形成される」ことが記載され、上記(1)クの【0032】には、「圧電振動子21を放電して振動子長手方向に伸長させる」と、「圧力室35が収縮」する一方、「圧電振動子21を充電して振動子長手方向に収縮させる」と、「圧力室35が膨張」し、「圧力室35の膨張や収縮を制御することで、圧力室35内のインク圧力を変動させることができ、ノズル開口33からインク滴を吐出させることができる」と記載され、上記(1)ケの【0033】には、「圧電振動子21」は、「記録ヘッド8の各ノズル開口33に対応して複数設けられる」ことが記載されており、これらの記載からすれば、記録ヘッド8は、ノズル開口33からインク滴を吐出させるために、複数のノズル開口33と、複数のノズル開口33それぞれに対応して形成された複数のインク流路と、複数のノズル開口33それぞれに対応して設けられた複数の圧電振動子21とを備えているものであると認められる。

イ 上記(1)シの【0060】には、第2ノズル列34Bと第3ノズル列34Cを最小値グループに分類し、第1ノズル列34Aと第4ノズル列34Dを最大値グループに分類していること、及び、同【0061】には、第2ノズル列34Bと第3ノズル列34Cの波高値オフセット情報は、最大値グループの平均値から最小値グループの平均値を減算して得られた値である7.5%が記憶され、第1ノズル列34Aと第4ノズル列34Dの波高値オフセット情報は0.0%が記憶されることが記載されており、最大値グループである第1ノズル列34Aと第4ノズル列34Dに与えるオフセット値は「0.0%」であることから、0.0%が最大値グループのノズル列34に与えるオフセット値である波高値オフセット情報であると認められる。

ウ 上記(1)シの【0067】には、「波高値オフセット情報として7.5%が設定されたノズル列34B,34Cは予備パルスSP1,SP2を使用すると判断する。」と記載されているところ、「7.5%」は、上記アより、最大値グループの平均値から最小値グループの平均値を減算して得られた値であるから、デコーダ55は、波高値オフセット情報として最大値グループの平均値から最小値グループの平均値を減算して得られた値が設定されたノズル列は最小値グループに属するノズル列であって予備パルスSP1,SP2を使用すると判断するものであると認められる。

エ 上記(1)シの【0068】には、「この判断結果に基づき、デコーダ55は、異なるパルス選択情報を生成する。即ち、予備パルスSP1,SP2を使用しないノズル列34A,34Dについては、予備パルスSP1,SP2の発生期間に対応するパルス選択情報を[0]に設定することで、予備パルスSP1,SP2を圧電振動子21に供給しないようにしている。これにより、インク滴を吐出させる場合には、吐出パルスDPのみが選択される。」と記載されているところ、上記(1)ケの【0037】には、「パルス選択情報は、駆動信号(COM)を構成する各駆動パルス(DP1?DP3,SP1?SP2,OP,)に各ビットを対応させることで構成されている。」と、同【0040】には、「そして、パルス選択情報は、スイッチ回路58の作動、つまり、駆動パルスの圧電振動子21への供給を制御する。」と、パルス選択情報が、駆動信号を構成する駆動パルスの圧電振動子21への供給を制御するためのものであることが記載されていることからすれば、予備パルスSP1,SP2を使用しないノズル列34A,34Dにおいて、インク滴を吐出させる場合には、吐出パルスDPの供給に先立つ予備パルスSP1,SP2を圧電振動子21に供給しないような、予備パルスSP1,SP2の発生期間に対応するパルス選択情報を設定することで、予備パルスSP1,SP2を使用しない駆動信号をスイッチ回路58の作動により圧電振動子21に供給する制御を行うものであると認められる。

オ 上記(1)シの【0068】には、「この判断結果に基づき、デコーダ55は、異なるパルス選択情報を生成する。」及び「一方、予備パルスSP1,SP2を使用するノズル列34B、34Cについては、予備パルスSP1,SP2の発生期間に対応するパルス選択情報を[1]に設定することで、吐出パルスDPの供給に先立って予備パルスSP1,SP2を圧電振動子21に供給する。」と記載されているところ、上記エの説示と同様、上記(1)ケの【0037】及び【0040】には、パルス選択情報が、駆動信号を構成する各駆動パルスの圧電振動子21への供給を制御するためのものであることが記載されていることからすれば、予備パルスSP1,SP2を使用するノズル列34B,34Cにおいて、インク滴を吐出させる場合には、吐出パルスDPの供給に先立って予備パルスSP1,SP2を圧電振動子21に供給するような、予備パルスSP1,SP2の発生期間に対応するパルス選択情報を設定することで、予備パルスSP1,SP2を使用する駆動信号をスイッチ回路58の作動により圧電振動子21に供給する制御を行うものであると認められる。

カ 上記(1)ウの【0014】には、「また、前記識別情報を複数のノズル開口のそれぞれに対応させて設定し、前記パルス供給手段による予備パルスの供給制御を、ノズル開口単位で行う構成が好ましい。」と記載され、上記(1)セの【0095】には、「また、上記実施形態においては、識別情報を複数のノズル列34のそれぞれに設定し、予備パルスSP1,SP2の供給制御をノズル列34単位で行うものについて説明したが、予備パルスSP1,SP2の供給制御をノズル開口単位で行うようにしてもよい。」と記載されているとともに、上記(1)オの【0021】には、「この波高値オフセット情報は、本発明の識別情報の一種であって吐出量識別情報でもある。」と、波高値オフセット情報が識別情報の一種であることが記載されていることから、「ノズル列34」単位での波高値オフセット情報の記憶と、波高値オフセット情報を用いた予備パルスの供給制御を「ノズル開口33」単位での波高値オフセット情報の記憶と、波高値オフセット情報を用いた予備パルスの供給制御であると読み替えることができると認められる。

(3)引用発明について
上記(1)及び(2)の事項から、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「プリンタコントローラ1とプリントエンジン2を備えているプリンタのプリントエンジン2に構成されている記録ヘッド8であって、
インク滴を吐出させるために、複数のノズル開口33と、複数のノズル開口33それぞれに対応して形成された複数のインク流路と、複数のノズル開口33それぞれに対応して設けられた複数の圧電振動子21とを備え、
第1シフトレジスタ51及び第2シフトレジスタ52からなるシフトレジスタ回路と、第1ラッチ回路53と第2ラッチ回路54とからなるラッチ回路と、デコーダ55と、制御ロジック56と、レベルシフタ57と、スイッチ回路58とを備え、
制御ロジック56、デコーダ55、レベルシフタ57、スイッチ回路58は、プリンタコントローラ1から第1シフトレジスタ51及び第2シフトレジスタ52にシリアル伝送され、各ラッチ回路53,54でラッチされた各ノズル開口33毎に設定される印字データに基づき、複数の駆動パルス(DP1?DP3,SP1?SP2,OP)を含んだ一連の駆動信号の中から駆動パルスを選択して圧電振動子21に供給するパルス供給手段の一種として機能し、
デコーダ55は、各ノズル開口33毎に設定される2ビットの印字データを翻訳して、駆動信号を構成する各駆動パルス(DP1?DP3,SP1?SP2,OP)に各ビットを対応させることで構成され、各駆動パルスの圧電振動子21への供給を制御するパルス選択情報を生成し、パルス選択情報の内容に応じて圧電振動子21に対する各駆動パルスの供給或いは非供給が選択され、
駆動信号は、第1期間T1では微振動パルスOPを発生し、第2期間T2では第1吐出パルスDP1を発生し、第3期間T3では第1予備パルスSP1を発生し、第4期間T4では第2吐出パルスDP2を発生し、第5期間T5では第2予備パルスSP2を発生し、第6期間T6では第3吐出パルスDP3を発生するものであり、
吐出パルスDP1?DP3は、インク滴を吐出させるためのパルスであり、この吐出パルスDP1?DP3が圧電振動子21に供給されると、所定量のインク滴がノズル開口33から吐出され、
予備パルスSP1,SP2は、吐出パルスDP2,DP3によって吐出されるインク滴の量を調整するためのパルスであり、吐出パルスDP1?DP3の駆動電圧Vhの2.5%?25%以下の範囲で定めている印加電圧が圧電振動子21に供給され、吐出パルスDP2,DP3に先立って発生され、
記録ヘッド8の検査工程等において、全てのノズル開口33から所定数のインク滴を吐出させて合計のインク重量を測定し、取得した1滴あたりのインク重量に基づいて初期重量比を算出し、各ノズル開口33を、初期重量比の最大値に近いグループと、最小値に近いグループとに分け、グループ毎に初期重量比の平均値を算出し、最大値グループの平均値から最小値グループの平均値を減算し、得られた値を最小値グループのノズル開口33に与えるオフセット値である波高値オフセット情報とするとともに、0.0%を最大値グループのノズル開口33に与えるオフセット値である波高値オフセット情報とし、これらの波高値オフセット情報が、プリンタコントローラ1が備えている識別情報記憶部10に記憶され、
デコーダ55は、プリンタの動作時において、波高値オフセット情報に基づき、波高値オフセット情報として0.0%が設定されたノズル開口33は最大値グループに属するノズル開口であって予備パルスSP1,SP2を使用しないと判断し、波高値オフセット情報として最大値グループの平均値から最小値グループの平均値を減算して得られた値が設定されたノズル開口33は最小値グループに属するノズル開口であって予備パルスSP1,SP2を使用すると判断し、
この判断結果に基づき、デコーダ55は、予備パルスSP1,SP2を使用しないノズル開口33については、吐出パルスDPの供給に先立つ予備パルスSP1,SP2を圧電振動子21に供給しないような、予備パルスSP1,SP2の発生期間に対応するパルス選択情報を設定することで、予備パルスSP1,SP2を使用しない駆動信号をスイッチ回路58の作動により圧電振動子21に供給し、予備パルスSP1,SP2を使用するノズル開口33については、吐出パルスDPの供給に先立って予備パルスSP1,SP2を圧電振動子21に供給するような、予備パルスSP1,SP2の発生期間に対応するパルス選択情報を設定することで、予備パルスSP1,SP2を使用する駆動信号をスイッチ回路58の作動により圧電振動子21に供給するよう、パルス選択情報を生成することにより、予備パルスSP1,SP2を使わない場合に比べてノズル開口33間のばらつきを減少させる、
記録ヘッド8。」

第5 当審における判断
1 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、以下のことがいえる。

(1)引用発明の「記録ヘッド8」は、「インク滴を吐出させるために、複数のノズル開口33と、複数のノズル開口33それぞれに対応して形成された複数のインク流路と、複数のノズル開口33それぞれに対応して設けられた複数の圧電振動子21とを備え」ているのであるから、一のノズル開口33と、一のノズル開口33に対応するインク流路及び圧電振動子とで、液滴の一種であるインク滴を吐出させるための装置を構成し、かつ、この装置を複数備えているといえるため、引用発明の「複数のノズル開口33と、複数のノズル開口33それぞれに対応して形成された複数のインク流路と、複数のノズル開口33それぞれに対応して設けられた複数の圧電振動子21」は、本願発明の「流体の液滴を吐出するための複数の液滴吐出装置」に相当する。

(2)引用発明は、「制御ロジック56、デコーダ55、レベルシフタ57、スイッチ回路58は、プリンタコントローラ1から第1シフトレジスタ51及び第2シフトレジスタ52にシリアル伝送され、各ラッチ回路53,54でラッチされた印字データに基づき、駆動信号の中から駆動パルスを選択して圧電振動子21に供給するパルス供給手段の一種として機能」するものであることからすれば、「第1シフトレジスタ51及び第2シフトレジスタ52からなるシフトレジスタ回路と、第1ラッチ回路53と第2ラッチ回路54とからなるラッチ回路と、デコーダ55と、制御ロジック56と、レベルシフタ57と、スイッチ回路58」は、複数のノズル開口33それぞれに対応して設けられた「圧電振動子21」と結合し、「圧電振動子21」に対する駆動パルスの供給制御を行うために機能していることは明らかであるから、上記(1)も踏まえれば、本願発明の「前記複数の液滴吐出装置に結合された制御回路」に相当する。

(3)引用発明は、「制御ロジック56、デコーダ55、レベルシフタ57、スイッチ回路58は、プリンタコントローラ1から第1シフトレジスタ51及び第2シフトレジスタ52にシリアル伝送され、各ラッチ回路53,54でラッチされた各ノズル開口33毎に設定される印字データに基づき、複数の駆動パルス(DP1?DP3,SP1?SP2,OP)を含んだ一連の駆動信号の中から駆動パルスを選択して圧電振動子21に供給するパルス供給手段の一種として機能」するものであるとともに、「デコーダ55は、プリンタの動作時において、波高値オフセット情報に基づき、波高値オフセット情報として0.0%が設定されたノズル開口33は最大値グループに属するノズル開口であって予備パルスSP1,SP2を使用しないと判断し、波高値オフセット情報として最大値グループの平均値から最小値グループの平均値を減算して得られた値が設定されたノズル開口33は最小値グループに属するノズル開口であって予備パルスSP1,SP2を使用すると判断し、この判断結果に基づき、デコーダ55は、予備パルスSP1,SP2を使用しないノズル開口33については、吐出パルスDPの供給に先立つ予備パルスSP1,SP2を圧電振動子21に供給しないような、予備パルスSP1,SP2の発生期間に対応するパルス選択情報を設定することで、予備パルスSP1,SP2を使用しない駆動信号をスイッチ回路58の作動により圧電振動子21に供給し、予備パルスSP1,SP2を使用するノズル開口33については、吐出パルスDPの供給に先立って予備パルスSP1,SP2を圧電振動子21に供給するような、予備パルスSP1,SP2の発生期間に対応するパルス選択情報を設定することで、予備パルスSP1,SP2を使用する駆動信号をスイッチ回路58の作動により圧電振動子21に供給するよう、パルス選択情報を生成する」という構成を有するものであるから、引用発明1の「パルス供給手段の一種として機能」する「制御ロジック56、デコーダ55、レベルシフタ57、スイッチ回路58」は、予備パルスSP1,SP2を使用しない、最大値グループに属するノズル開口については、「予備パルスSP1,SP2を使用しない駆動信号」を、予備パルスSP1,SP2を使用する、最小値グループに属するノズル開口については、「予備パルスSP1,SP2を使用する駆動信号」を、圧電振動子21に供給して圧電振動子を駆動させるものである。
また、引用発明は、「予備パルスSP1,SP2は、吐出パルスDP2,DP3によって吐出されるインク滴の量を調整するためのパルスであり、吐出パルスDP1?DP3の駆動電圧Vhの2.5%?25%以下の範囲で定めている印加電圧が圧電振動子21に供給され、吐出パルスDP2,DP3に先立って発生され」るものであるところ、吐出パルスが圧電振動子に供給する電圧と、予備パルスが圧電振動子に供給する電圧の大きさが異なるものであるとともに、駆動信号が「複数の駆動パルス(DP1?DP3,SP1?SP2,OP)」を含みうるものであることから、駆動信号が、複数の電圧値を含むマルチレベル波形であるといえるため、「予備パルスSP1,SP2を使用しない駆動信号」及び「予備パルスSP1,SP2を使用する駆動信号」が、いずれも所定のレベルを有するマルチレベル波形であるといえる。
よって、引用発明の「制御ロジック56、デコーダ55、レベルシフタ57、スイッチ回路58」は、本願発明の「動作中に、前記制御回路は、前記複数の液滴吐出装置に第1レベル及び第2レベルを有するマルチレベル波形を付与することにより前記複数の液滴吐出装置を駆動し、」という構成を有しているといえる。

(4)引用発明において、圧電振動子21に付与する駆動信号のうち、「予備パルスSP1,SP2を使用する駆動信号」は、第3期間T3で予備パルスSP1を、第5期間T5で予備パルスSP2をそれぞれ有し、第2期間T2で吐出パルスDP1を、第4期間T4で吐出パルスDP2を、第6期間T6で吐出パルスDP3をそれぞれ有するものであること、圧電振動子21に付与する駆動信号のうち、「予備パルスSP1,SP2を使用しない駆動信号」は、第2期間T2で吐出パルスDP1を、第4期間T4で吐出パルスDP2を、第6期間T6で吐出パルスDP3をそれぞれ有するものであるが、第3期間T3及び第5期間T5では圧電振動子21に付与する駆動信号はないこと、及び、「予備パルスSP1,SP2は、吐出パルスDP2,DP3によって吐出されるインク滴の量を調整するためのパルスであ」ることを踏まえれば、引用発明の「第3期間T3」及び「第5期間T5」は、いずれも本願発明の「第1区分」に相当し、引用発明の「第2期間T2」、「第4期間T4」及び「第6期間T6」は、いずれも本願発明の「第2区分」に相当する。

(5)引用発明の「予備パルスSP1,SP2」は、「吐出パルスDP2,DP3によって吐出されるインク滴の量を調整するためのパルスであ」ること、及び、「予備パルスSP1,SP2を使わない場合に比べてノズル開口33間のばらつきを減少させる」ものであることから、引用発明の「予備パルスSP1,SP2」は、ノズル開口33間のばらつきを減少させる、すなわち、系統的変動の一つであるノズル開口33間のばらつきを補償するための補償作用を有していることは明らかである。
よって、引用発明の「予備パルスSP1,SP2」は、本願発明の「前記少なくとも1つの補償パルスは、前記複数の液滴吐出装置にわたる液滴パラメータの系統的変動を補償するために補償作用を有し、」という構成を有しているといえる。

(6)本願発明は、「前記マルチレベル波形の前記第2レベルは、少なくとも1つの補償パルスを有する第1区分、及び少なくとも1つの駆動パルスを有する第2区分を含み、そして、前記第1レベルは前記第1区分のない前記第2区分を含み、」という構成を含むものであるが、「前記第1レベルは前記第1区分のない前記第2区分を含み」との記載が、第1区分と第2区分の関係が明らかでなく不明瞭であるところ、本願明細書の【0022】、【0026】?【0027】、【0029】?【0034】の記載、及び、図5を考慮すると、当該記載は、「前記第1レベルは前記第1区分を含まず、前記第2区分を含み」を意味するものと認められることから、本願発明の上記構成は、第1レベルのマルチレベル波形が、第1区分の少なくとも1つの補償パルスを含まず、第2区分の少なくとも1つの駆動パルスを含み、第2レベルのマルチレベル波形が、第1区分の少なくとも1つの補償パルス及び第2区分の少なくとも1つの駆動パルスを含むものであることを意味していると認められる。
してみれば、引用発明における「予備パルスSP1,SP2を使用しない駆動信号」は、ノズル開口33間のばらつきを補償するための補償作用を有している予備パルスを含んでいないことから、本願発明の「第1レベル」の「マルチレベル波形」に相当し、引用発明における「予備パルスSP1,SP2を使用する駆動信号」は、ノズル開口33間のばらつきを補償するための補償作用を有している予備パルスを含んでいることから、本願発明の「第2レベル」の「マルチレベル波形」に相当するといえる。
よって、引用発明は、本願発明の「前記マルチレベル波形の前記第2レベルは、少なくとも1つの補償パルスを有する第1区分、及び少なくとも1つの駆動パルスを有する第2区分を含み、そして、前記第1レベルは前記第1区分のない前記第2区分を含み、」という構成を備えているものと認められる。

(7)引用発明は、「記録ヘッド8の検査工程等において、全てのノズル開口33から所定数のインク滴を吐出させて合計のインク重量を測定し、取得した1滴あたりのインク重量に基づいて初期重量比を算出し、各ノズル開口33を、初期重量比の最大値に近いグループと、最小値に近いグループとに分け、グループ毎に初期重量比の平均値を算出し、最大値グループの平均値から最小値グループの平均値を減算し、得られた値を最小値グループのノズル開口33に与えるオフセット値である波高値オフセット情報とするとともに、0.0%を最大値グループのノズル開口33に与えるオフセット値である波高値オフセット情報として、これらの波高値オフセット情報が、プリンタコントローラ1が備えている識別情報記憶部10に記憶」されているものであることから、1滴あたりのインク重量に基づいて設定され、各ノズル開口に与える、引用発明の「波高値オフセット情報」は、本願発明の「複数の液滴吐出装置にわたる液滴吐出パラメータの分布」を示す情報である点で一致する。

(8)引用発明の「デコーダ55」は、「プリンタの動作時において、波高値オフセット情報に基づき、波高値オフセット情報として0.0%が設定されたノズル開口33は最大値グループに属するノズル開口であって予備パルスSP1,SP2を使用しないと判断し、波高値オフセット情報として最大値グループの平均値から最小値グループの平均値を減算して得られた値が設定されたノズル開口33は最小値グループに属するノズル開口であって予備パルスSP1,SP2を使用すると判断し」ているのであるから、引用発明の「デコーダ55」は、波高値オフセット情報に基づいて、液滴の重量の分布内のノズル開口の「最大値グループ」及び「最小値グループ」を識別しているといえる。
してみれば、引用発明は、本願発明の「前記制御回路は、前記分布内の前記複数の液滴装置の第1及び第2のグループを識別するようになっており、」に相当する構成を備えているといえる。

(9)引用発明の「デコーダ55」は、「各ノズル開口33毎に設定される印字データを翻訳して、」「駆動信号を構成する各駆動パルス(DP1?DP3,SP1?SP2,OP)に各ビットを対応させることで構成され、駆動パルスの圧電振動子21への供給を制御するパルス選択情報を生成」するものであること、及び、上記(3)の説示を踏まえれば、引用発明が、「最大値グループ」のノズル開口であって、予備パルスSP1,SP2を使用しないノズル開口に設定された印字データを翻訳して、「予備パルスSP1,SP2を使用しない駆動信号を圧電振動子21に供給」するための「パルス選択情報」を生成するとともに、「最小値グループ」のノズル開口であって、予備パルスSP1,SP2を使用するノズル開口に設定された印字データを翻訳して、「予備パルスSP1,SP2を使用する駆動信号を圧電振動子21に供給」するための「パルス選択情報」を生成することは明らかである。
このとき、画像を形成するための印字データに基づいて吐出される、一のノズル開口からのインク滴が、形成される画像における一のピクセルであることがインクジェットプリンタに関する技術常識であることを踏まえれば、引用発明における、「最大値グループ」のノズル開口であって、予備パルスSP1,SP2を使用しないノズル開口に設定された印字データは、本願発明の「前記複数の液滴吐出装置の前記第1のグループと関連する入力画像データのピクセル」に相当し、引用発明における、「最小値グループ」のノズル開口であって、予備パルスSP1,SP2を使用するノズル開口に設定された印字データは、本願発明の「前記複数の液滴吐出装置の前記第2のグループと関連する入力画像データのピクセル」に相当するといえる。
そして、引用発明において、「最大値グループ」のノズル開口に設定された印字データを翻訳して、「予備パルスSP1,SP2を使用しない駆動信号」を圧電振動子21に供給するための「パルス選択情報」を生成することは、「最大値グループ」のノズル開口に設定された印字データが、「予備パルスSP1,SP2を使用しない駆動信号」にマッピングされるといえるとともに、「予備パルスSP1,SP2を使用する駆動信号」を圧電振動子21に供給するための「パルス選択情報」を生成することは、「最小値グループ」のノズル開口に設定された印字データが、「予備パルスSP1,SP2を使用する駆動信号」にマッピングされるといえる。
さらに、引用発明においてデコーダ55が行う、各ノズル開口33毎に設定される印字データに基づくパルス選択情報の生成は、ノズル開口が、いずれのグループに属しているかを区別せず、各ラッチ回路53,54でラッチされた各ノズル開口33毎に設定される印字データに基づいて実質的に同時に行われているものであることからすれば、「予備パルスSP1,SP2を使用しない駆動信号」を圧電振動子21に供給するための「パルス選択情報」を生成する「間に、」「予備パルスSP1,SP2を使用する駆動信号」を圧電振動子21に供給するための「パルス選択情報」を生成するようになっているともいえる。
以上からすれば、引用発明は、本願発明の「さらに、前記制御回路は、前記複数の液滴吐出装置の前記第1のグループと関連する入力画像データのピクセルが前記マルチレベル波形の前記第1レベルにマッピングされる間に、前記複数の液滴吐出装置の前記第2のグループと関連する入力画像データのピクセルを前記マルチレベル波形の前記第2レベルにマッピングするようになっている」という構成を備えているといえる。

(10)上記(1)ないし(9)から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致する。

[一致点]
「流体の液滴を吐出するための複数の液滴吐出装置;及び
前記複数の液滴吐出装置に結合された制御回路;
を備え、動作中に、前記制御回路は、前記複数の液滴吐出装置に第1レベル及び第2レベルを有するマルチレベル波形を付与することにより前記複数の液滴吐出装置を駆動し、
前記マルチレベル波形の前記第2レベルは、少なくとも1つの補償パルスを有する第1区分、及び少なくとも1つの駆動パルスを有する第2区分を含み、そして、前記第1レベルは前記第1区分のない前記第2区分を含み、前記少なくとも1つの補償パルスは、前記複数の液滴吐出装置にわたる液滴パラメータの系統的変動を補償するために補償作用を有し、
前記制御回路は、(複数の液滴吐出装置にわたる液滴吐出パラメータの)分布内の前記複数の液滴装置の第1及び第2のグループを識別するようになっており、
さらに、前記制御回路は、前記複数の液滴吐出装置の前記第1のグループと関連する入力画像データのピクセルが前記マルチレベル波形の前記第1レベルにマッピングされる間に、前記複数の液滴吐出装置の前記第2のグループと関連する入力画像データのピクセルを前記マルチレベル波形の前記第2レベルにマッピングするようになっている、プリントヘッド。」

(11)そして、本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明のプリントヘッドは、「インクジェットモジュールを備え、該モジュールは、」複数の液滴吐出装置と制御回路を備えているのに対し、引用発明の記録ヘッド8は、本願発明の複数の液滴吐出装置及び制御回路に相当する構成を備えているものであるが、「インクジェットモジュール」を備えているのか否か、及び、「インクジェットモジュール」に本願発明の複数の液滴吐出装置及び制御回路に相当する構成を備えているのか否かがいずれも定かでない点。

[相違点2]
本願発明は、「前記制御回路は、複数の液滴吐出装置にわたる液滴吐出パラメータの分布を決定する」ようになっているのに対し、引用発明の「波高値オフセット情報」は、本願発明の「複数の液滴吐出装置にわたる液滴吐出パラメータの分布」を示す情報といえるものの、「第1シフトレジスタ51及び第2シフトレジスタ52からなるシフトレジスタ回路と、第1ラッチ回路53と第2ラッチ回路54とからなるラッチ回路と、デコーダ55と、制御ロジック56と、レベルシフタ57と、スイッチ回路58」が、「波高値オフセット情報」を決定するものであるのか否かは定かでない点。

2 判断
上記相違点について、以下、検討する。

(ア)[相違点1]について
上記1(1)ないし(2)で検討したとおり、引用発明の「記録ヘッド8」は、本願発明の「流体の液滴を吐出するための複数の液滴吐出装置;及び前記複数の液滴吐出装置に結合された制御回路」に相当する構成を備えているものである。
また、インクジェットヘッドが、モジュールを備え、前記モジュールが複数の液滴吐出装置と、制御回路とを備えるという技術は、本願の優先日前である平成25年10月10日に頒布された刊行物である特開2013-208782号公報(以下、「引用文献A」という。)の【0033】?【0034】、【0039】、【0049】?【0051】、【0054】?【0055】、図5(「ヘッドモジュール48A」、「複数のノズル150及び圧力室152等から構成される吐出素子」、「駆動電圧供給部90」が、それぞれ「モジュール」、「複数の液滴吐出装置」、「制御回路」に対応)、及び、本願の優先日前である平成24年6月21日に頒布された刊行物である特開2012-119347号公報(以下、「引用文献B」という。)の【0023】、【0067】、図1(「ハウジングHS」、「複数の圧電モジュール」、「制御回路基板」が、それぞれ「モジュール」、「複数の液滴吐出装置」、「制御回路」に対応)に示されるように、本願の優先日前における周知の技術(以下、「周知技術1」という。)であったと認められる。
そして、引用発明と上記周知技術1が、ともに複数の液滴吐出装置と制御回路を備えたプリントヘッドという同種の装置であることからすれば、引用発明において、「記録ヘッド8」の具体的な構造として、上記周知技術1を適用して、モジュールを備えるとともに、該モジュールに、複数のノズル開口に対応してそれぞれ設けられた、「リザーバ37から圧力室35を通じてノズル開口33に至る一連のインク流路」、及び、圧力室35内のインク圧力を変動させ、ノズル開口33からインク滴を吐出させるための「圧電振動子21」、並びに、「第1シフトレジスタ51及び第2シフトレジスタ52からなるシフトレジスタ回路と、第1ラッチ回路53と第2ラッチ回路54とからなるラッチ回路と、デコーダ55と、制御ロジック56と、レベルシフタ57と、スイッチ回路58」を備えるようにすることで、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)[相違点2]について
上記相違点2に係る本願発明の「前記制御回路は、複数の液滴吐出装置にわたる液滴吐出パラメータの分布を決定するようになっている」とは、制御回路がどのような動作をすることを指しているのか、明確には特定しがたいものの、本願明細書の【0015】の「制御回路及びコントローラ(例えば、外部コントローラ20、処理システム、等)の少なくとも1つは、液滴吐出装置にわたる液滴吐出パラメータの空間的分布を決定しそしてその液滴吐出パラメータの空間的分布に基づいてマルチレベル波形の画像ピクセルレベルをマッピングするためのマッピングを決定するように、インストラクションを実行するか又は動作を遂行する。それとは別に、異なる処理システムが、液滴吐出装置の空間的分布を与え、そして液滴吐出パラメータの空間的分布に基づいてマルチレベル波形の画像ピクセルレベルをマッピングするためのマッピングを決定する。」という記載を参酌すると、液滴吐出パラメータの分布が、外部のシステムから与えられるのではなくて、制御回路自体が液滴吐出パラメータの分布を記憶、保持していることを指していると解するのが相当である。
そして、引用発明の「波高値オフセット情報」は、複数の記録ヘッドにわたる、液滴吐出パラメータの分布を示す情報であるといえるとともに、引用発明は、「デコーダ55は、プリンタの動作時において、波高値オフセット情報に基づき」「パルス選択情報を生成する」ものであるため、本願発明を上述したように解した場合、実質的な上記相違点2は、本願発明が、制御回路自体が液滴吐出パラメータの分布を記憶、保持しているのに対し、引用発明は、「記録ヘッド8」の「第1シフトレジスタ51及び第2シフトレジスタ52からなるシフトレジスタ回路と、第1ラッチ回路53と第2ラッチ回路54とからなるラッチ回路と、デコーダ55と、制御ロジック56と、レベルシフタ57と、スイッチ回路58」ではなく、「プリンタコントローラ1」の「識別情報記憶部10」が波高値オフセット情報を記憶している点であるといえる。
このとき、液滴吐出装置において、液滴の吐出を制御するために必要な情報を、液滴吐出ヘッド側に記憶、保持するという技術は、上記引用文献Aの【0049】?【0051】、【0054】?【0074】、図5、図6(「ヘッドモジュール48A」に具備される「ヘッドモジュール情報記憶部92」が情報を記憶、保持)、及び、本願の優先日前である平成21年12月3日に頒布された刊行物である特開2009-279767号公報(以下、「引用文献C」という。)の【0004】、【0020】、【0026】、【0094】(「メモリIC45」が情報を記憶、保持)に示されるように、本願の優先日前における周知の技術(以下、「周知技術2」という。)であったと認められること、及び、引用発明と上記周知技術2は、いずれも液滴の吐出を制御するために必要な情報を記憶し、記憶した情報に基づいて液滴吐出ヘッドにおける液滴の吐出を制御するという同種の作用を奏するものであることからすれば、引用発明において、液滴の吐出を制御するために必要な情報である「波高値オフセット情報」を、「記録ヘッド8」の外部のプリンタコントローラ側に記憶・保持するか、上記周知技術2を適用して「記録ヘッド8」側に記憶・保持するかは、当業者が必要に応じて適宜選択し得る程度の設計的事項にすぎないから、引用発明において、上記周知技術2を適用することで、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(ウ)審判請求人の主張について
審判請求人は、令和2年1月14日付け手続補正書(方式)によって、
「引用文献2には、その要約に「駆動信号発生回路は、インク滴を吐出させない程度の圧力変動を圧力室内のインクに生じさせてメニスカスを移動させる予備パルスSP1,SP2を、吐出パルスDP2,DP3に先立って発生する。制御部は、識別情報記憶部に記憶された波高値オフセット情報に基づいて駆動信号の波形形状を設定する。」との記載があります。
とりわけ引用文献2には、「波高値オフセット情報として0.0 % が設定されたノズル列34 A ,34 D は予備パルスSP1,SP2 を使用しないと判断し、波高値オフセット情報として7.5 % が設定されたノズル列34B,34C は予備パルスSP 1,SP2 を使用すると判断する。」(引用文献2、段落番号[0067]ご参照)との開示があります。
これに対しまして、本件発明の補正後の請求項1におきましては、
「前記複数の液滴吐出装置の前記第1のグループに関連した入力画像データのピクセルが前記マルチレベルの第1レベルにマッピングされている間に、前記複数の液滴吐出装置の前記第2のグループに関連した入力画像データのピクセルを前記マルチレベルの第2レベルにマッピングし;
液滴吐出装置の前記第1のグループに対して前記第2区分における少なくとも1つの駆動パルスを有し、かつ前記第1区分の補償パルスを有していない前記単一のマルチレベル波形の前記第1レベルを使用して1つ以上の液滴を吐出すること、及び、液滴吐出装置の前記第2のグループに対して前記第2区分の少なくとも1つの駆動パルス及び前記第1区分の補償パルスを有する前記単一のマルチレベル波形の前記第2レベルを使用して1つ以上の液滴を吐出すること、を含むように前記単一のマルチレベル波形を前記複数の液滴吐出装置に付与する」ことを含むものであります。
引用文献2は上記構成要素及び、その前提となる「複数の液滴吐出装置にわたる前記液滴パラメータの前記分布内の前記複数の液滴装置の第1及び第2のグループを識別」する点につきまして、一切開示ないし示唆するところがありません。」と主張している。
しかしながら、
a 本願の請求項1に係る発明の「前記複数の液滴吐出装置の前記第1のグループに関連した入力画像データのピクセルが前記マルチレベルの第1レベルにマッピングされている間に、前記複数の液滴吐出装置の前記第2のグループに関連した入力画像データのピクセルを前記マルチレベルの第2レベルにマッピングし;」という構成要素に対応する本願発明の「さらに、前記制御回路は、前記複数の液滴吐出装置の前記第1のグループと関連する入力画像データのピクセルが前記マルチレベル波形の前記第1レベルにマッピングされる間に、前記複数の液滴吐出装置の前記第2のグループと関連する入力画像データのピクセルを前記マルチレベル波形の前記第2レベルにマッピングするようになっている、」については、上記1(9)で説示したとおり、引用発明に記載されているものであること
b 本願の請求項1に係る発明の「液滴吐出装置の前記第1のグループに対して前記第2区分における少なくとも1つの駆動パルスを有し、かつ前記第1区分の補償パルスを有していない前記単一のマルチレベル波形の前記第1レベルを使用して1つ以上の液滴を吐出すること、及び、液滴吐出装置の前記第2のグループに対して前記第2区分の少なくとも1つの駆動パルス及び前記第1区分の補償パルスを有する前記単一のマルチレベル波形の前記第2レベルを使用して1つ以上の液滴を吐出すること、を含むように前記単一のマルチレベル波形を前記複数の液滴吐出装置に付与する」という構成要素に対応する本願発明の「動作中に、前記制御回路は、前記複数の液滴吐出装置に第1レベル及び第2レベルを有するマルチレベル波形を付与することにより前記複数の液滴吐出装置を駆動し、前記マルチレベル波形の前記第2レベルは、少なくとも1つの補償パルスを有する第1区分、及び少なくとも1つの駆動パルスを有する第2区分を含み、そして、前記第1レベルは前記第1区分のない前記第2区分を含み、」については、上記1(3)及び(6)で説示したとおり、引用発明に記載されているものであること
c 審判請求人が主張する前提である「複数の液滴吐出装置にわたる前記液滴パラメータの前記分布内の前記複数の液滴装置の第1及び第2のグループを識別」する点については、上記1(8)で説示したとおり、引用発明に記載されているものであること
からすれば、審判請求人が引用文献2に一切開示ないし示唆するところがないと主張する点については、いずれも引用発明に記載されているといえることから、審判請求人の主張は採用できない。

(エ)小括
したがって、本願発明は、引用発明並びに上記周知技術1及び2に基いて、本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願の請求項6に係る発明は、引用文献2に記載された発明並びに上記周知技術1及び2に基いて、本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

 
別掲
 
審理終結日 2021-04-19 
結審通知日 2021-04-22 
審決日 2021-05-10 
出願番号 特願2016-545935(P2016-545935)
審決分類 P 1 8・ 55- Z (B41J)
P 1 8・ 537- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 536- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高松 大治  
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 古川 直樹
清水 康司
発明の名称 落下速度均一性、落下質量均一性及び落下編成を改善するための方法、システム及び装置  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 大塚 文昭  
代理人 上杉 浩  
代理人 須田 洋之  
代理人 近藤 直樹  
代理人 那須 威夫  
代理人 西島 孝喜  

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