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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01F
管理番号 1378413
審判番号 不服2020-17377  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-12-18 
確定日 2021-10-19 
事件の表示 特願2017-240004「積層型インダクタ部品」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月27日出願公開、特開2019-106516、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年12月14日の出願であって、令和2年2月14日付けで拒絶理由通知がされ、同年4月13日付けで意見書が提出され、同年9月15日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年12月18日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(令和2年9月15日付け拒絶査定)の拒絶理由の概要は次のとおりである。

(新規性)この出願の請求項1、8ないし9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(進歩性)この出願の請求項1、7ないし9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2017-076733号公報


第3 本願発明
本願請求項1ないし9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明9」という。)は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
互いに対向する第1側面及び第2側面と、前記第1側面及び第2側面とを接続する底面と、を有し、前記第1側面、前記第2側面及び前記底面に沿った積層方向に絶縁体層が複数積層された積層体と、
前記絶縁体層上に巻回されたコイル導体層を複数含み、前記積層方向と平行なコイル長を有する螺旋状のコイル導体と、
前記コイル導体の第1端と電気的に接続され、前記積層体内において前記第1側面及び前記底面から露出する第1外部導体と、
前記コイル導体の第2端と電気的に接続され、前記積層体内において前記第2側面及び前記底面から露出する第2外部導体と、
を備え、
前記第1外部導体及び前記第2外部導体の前記積層方向に沿った幅は、いずれも前記コイル長より短い、積層型インダクタ部品。
【請求項2】
請求項1に記載の積層型インダクタ部品において、
前記第1側面に直交する方向から見て、前記積層方向の前記第1端側における前記第1外部導体の端部は、前記第1端側の最外層となる前記コイル導体層の一部と重なっている、積層型インダクタ部品。
【請求項3】
請求項2に記載の積層型インダクタ部品において、
前記第1側面に直交する方向から見て、前記積層方向の前記第2端側における前記第1外部導体の端部は、前記第2端側の最外層となる前記コイル導体層の一部と重なっている、積層型インダクタ部品。
【請求項4】
請求項2に記載の積層型インダクタ部品において、
前記第1端と前記第1外部導体とを接続する引出電極をさらに備え、
前記引出電極は、前記第1外部導体側の厚さよりも前記第1端側の厚さの方が大きい、積層型インダクタ部品。
【請求項5】
請求項4に記載の積層型インダクタ部品において、
前記引出電極には、厚さが異なる段差が形成されている、積層型インダクタ部品。
【請求項6】
請求項4に記載の積層型インダクタ部品において、
前記引出電極の線幅が、前記コイル導体層の線幅より広い、積層型インダクタ部品。
【請求項7】
互いに対向する第1側面及び第2側面と、前記第1側面及び第2側面とを接続する底面と、を有し、前記第1側面、前記第2側面及び前記底面に沿った積層方向に絶縁体層が複数積層された積層体と、
前記絶縁体層上に巻回されたコイル導体層を複数含み、前記積層方向と平行なコイル長を有する螺旋状のコイル導体と、
前記コイル導体の第1端と電気的に接続され、前記積層体内において前記第1側面及び前記底面から露出する第1外部導体と、
前記コイル導体の第2端と電気的に接続され、前記積層体内において前記第2側面及び前記底面から露出する第2外部導体と、
を備え、
前記第1外部導体及び前記第2外部導体の前記積層方向における両端は、前記コイル導体の前記積層方向における両端よりも内側に位置している、積層型インダクタ部品。
【請求項8】
互いに対向する第1側面及び第2側面と、前記第1側面及び第2側面とを接続する底面と、を有し、前記第1側面、前記第2側面及び前記底面に沿った積層方向に絶縁体層が複数積層された積層体と、
前記絶縁体層上に巻回されたコイル導体層を複数含み、前記積層方向と平行なコイル長を有する螺旋状のコイル導体と、
前記コイル導体の第1端と電気的に接続され、前記積層体内において前記底面から露出する第1外部導体と、
前記コイル導体の第2端と電気的に接続され、前記積層体内において底面から露出する第2外部導体と、
を備え、
前記第1外部導体及び前記第2外部導体の前記積層方向に沿った幅は、いずれも前記コイル長より短い、積層型インダクタ部品。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の積層型インダクタ部品において、
前記第1外部導体を覆う金属層をさらに備え、
前記金属層の前記積層方向における両端は、前記底面内に位置している、積層型インダクタ部品。」


第4 引用文献1、引用発明等
1.原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明はコイル部品及びその製造方法に関し、特に、電源回路用として用いることが好適なコイル部品及びその製造方法に関する。・・・」

「【0026】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるコイル部品10の外観を示す斜視図である。また、図2はコイル部品10の分解斜視図であり、図3は図1に示すA-A線に沿った断面図である。
【0027】
本実施形態によるコイル部品10は電源回路用のインダクタとして用いることが可能な表面実装型のチップ部品であり、図1?図3に示すように、第1及び第2の磁性部材11,12と、これら磁性部材11,12に挟まれたコイル層20とを備える。」

「【0031】
コイル層20は、絶縁層31?35と導体層21?24が交互に積層された構成を有している。導体層21?24は、絶縁層32?34に形成されたスルーホールを介して互いに接続されることにより、コイルパターンを構成している。絶縁層31?35は、例えば樹脂からなり、少なくとも絶縁層32?34については非磁性材料が用いられる。最下層に位置する絶縁層31及び最上層に位置する絶縁層35については、磁性材料を用いても構わない。
・・・・・・
【0033】
導体層21は、磁性部材11の上面に絶縁層31を介して形成されている。導体層21には、ループ導体L1及び接続導体41が設けられている。ループ導体L1は、積層方向から見ると、一端L1aから他端L1bに向かって反時計回り(左回り)に巻回された約1ターンの導体である。ループ導体L1の一端L1aは、外部端子E1に接続される。接続導体41は、ループ導体L1とは独立して設けられている。
【0034】
導体層22は、導体層21の上方に絶縁層32を介して形成されている。導体層22には、ループ導体L2及び接続導体51,52が設けられている。ループ導体L2は、積層方向から見ると、一端L2aから他端L2bに向かって反時計回り(左回り)に巻回された約1ターンの導体である。ループ導体L2の一端L2aは、絶縁層32に設けられたスルーホールを介して、ループ導体L1の他端L1bに接続されている。接続導体51,52は、ループ導体L2とは独立して設けられている。
【0035】
導体層23は、導体層22の上方に絶縁層33を介して形成されている。導体層23には、ループ導体L3及び接続導体61,62が設けられている。ループ導体L3は、積層方向から見ると、一端L3aから他端L3bに向かって反時計回り(左回り)に巻回された約1ターンの導体である。ループ導体L3の一端L3aは、絶縁層33に設けられたスルーホールを介して、ループ導体L2の他端L2bに接続されている。接続導体61,62は、ループ導体L3とは独立して設けられている。
【0036】
導体層24は、導体層23の上方に絶縁層34を介して形成されている。導体層24には、ループ導体L4及び接続導体72が設けられている。ループ導体L4は、積層方向から見ると、一端L4aから他端L4bに向かって反時計回り(左回り)に巻回された約1ターンの導体である。ループ導体L4の一端L4aは、絶縁層34に設けられたスルーホールを介して、ループ導体L3の他端L3bに接続されている。ループ導体L4の他端L4bは、外部端子E2に接続される。接続導体72は、ループ導体L4とは独立して設けられている。
【0037】
これにより、ループ導体L1?L4によって約4ターンのコイルパターンが構成され、その一端L1aは外部端子E1に接続され、他端L4bは外部端子E2に接続される。・・・・
【0038】
接続導体52,62,72は、ループ導体L1の一端L1aと積層方向に重なる位置に設けられており、絶縁層32?34に設けられたスルーホールを介して相互に接続されている。該スルーホールは、積層方向から見てコイル層20の角部C1に相当する位置に設けられており、このため、接続導体52,62,72とループ導体L1の一端L1aは、コイル層20の角部C1に相当する位置において絶縁層32?34が介在することなく一体化されている。角部C1において絶縁層32?34に設けられたスルーホールは、当該角部C1を切り欠いた三角形であり、したがって、ループ導体L1の一端L1a及び接続導体52,62,72は、コイル層20の2つの側面(角部C1を構成する2つの側面S1,S2)において一体化されて露出している。そして、外部端子E1は、側面S1,S2に露出したループ導体L1の一端L1a及び接続導体52,62,72を覆うように設けられる。外部端子E1は、ループ導体L1の一端L1a及び接続導体52,62,72のみを覆い、その他の部分、特に、磁性部材11,12の側面を覆わない。また、最下層に位置する絶縁層31及び最上層に位置する絶縁層35についても、外部端子E1はこれらを覆わない。
【0039】
接続導体41,51,61は、ループ導体L4の他端L4bと積層方向に重なる位置に設けられており、絶縁層32?34に設けられたスルーホールを介して相互に接続されている。該スルーホールは、積層方向から見てコイル層20の角部C2に相当する位置に設けられており、このため、接続導体41,51,61とループ導体L4の他端L4bは、コイル層20の角部C2に相当する位置において絶縁層32?34が介在することなく一体化されている。角部C2において絶縁層32?34に設けられたスルーホールは、当該角部C2を切り欠いた三角形であり、したがって、ループ導体L4の他端L4b及び接続導体41,51,61は、コイル層20の2つの側面(角部C2を構成する2つの側面S1,S3)において一体化されて露出している。そして、外部端子E2は、側面S1,S3に露出したループ導体L4の他端L4b及び接続導体41,51,61を覆うように設けられる。外部端子E2は、ループ導体L4の他端L4b及び接続導体41,51,61のみを覆い、その他の部分、特に、磁性部材11,12の側面を覆わない。また、最下層に位置する絶縁層31及び最上層に位置する絶縁層35についても、外部端子E2はこれらを覆わない。
・・・・
【0042】
ここで、コイル層20の側面のうち、角部C1と角部C2の間に位置する側面を第1の側面S1とし、角部C1と角部C4の間に位置する側面を第2の側面S2とした場合、外部端子E1は、2つの側面S1,S2に形成される。また、角部C2と角部C3の間に位置する側面を第3の側面S3とした場合、外部端子E2は、2つの側面S1,S3に形成される。そして、図1に示す外部端子E1,E2の幅W2は、外部端子E1,E2の幅W1よりも長く(W1<W2)、且つ、外部端子E1,E2の幅W3よりも長い(W2>W3)。ここで、幅W1とは、外部端子E1,E2のうち、側面S1に形成された部分の積層方向に対して垂直な方向における幅である。幅W2とは、外部端子E1,E2のうち、側面S2,S3に形成された部分の積層方向に対して垂直な方向における幅である。幅W3とは、積層方向に対して垂直な方向における外部端子E1,E2の幅である。」





2.上記記載から次のことがいえる。

・段落【0001】によれば、コイル部品に関するものといえる。

・段落【0026】、及び図1から、「コイル部品10」は、側面S2を含む表面と側面S3を含む表面、及びこれらの2つの表面を接続する側面S1を含む表面を有していることが見てとれる。そして、さらに段落【0031】【0042】及び図2を参照すると、側面S2を含む表面と側面S3を含む表面、及びこれらの2つの表面を接続する側面S1を含む表面に沿った積層方向に、絶縁層31?35と導体層21?24が交互に積層されていることが見てとれる。

・段落【0033】ないし【0037】によれば、導体層21にはループ導体L1が設けられ、導体層22にはループ導体L2が設けられ、導体層23にはループ導体L3が設けられ、導体層24にはループ導体L4が設けられ、ループ導体L1?L4によって約4ターンのコイルパターンが構成されているといえる。

・段落【0038】によれば、ループ導体L1の一端L1a及び接続導体52,62,72は、コイル層20の2つの側面(角部C1を構成する2つの側面S1,S2)において一体化されて露出している。

・段落【0039】によれば、ループ導体L4の一端L4b及び接続導体41,51,61は、コイル層20の2つの側面(角部C2を構成する2つの側面S1,S3)において一体化されて露出している。

3.したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「側面S2を含む表面と側面S3を含む表面、及びこれらの2つの表面を接続する側面S1を含む表面を有し、
側面S2を含む表面と側面S3を含む表面、及びこれらの2つの表面を接続する側面S1を含む表面に沿った積層方向に、絶縁層31?35と導体層21?24が交互に積層され、
導体層21にはループ導体L1が設けられ、導体層22にはループ導体L2が設けられ、導体層23にはループ導体L3が設けられ、導体層24にはループ導体L4が設けられ、ループ導体L1?L4によって約4ターンのコイルパターンが構成され、
ループ導体L1の一端L1a及び接続導体52,62,72は、コイル層20の2つの側面(角部C1を構成する2つの側面S1,S2)において一体化されて露出し、
ループ導体L4の他端L4b及び接続導体41,51,61は、コイル層20の2つの側面(角部C2を構成する2つの側面S1,S3)において一体化されて露出した、
コイル部品。」


第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明において、側面S2を含む表面と側面S3を含む表面を側面S1を含む表面が接続しているから、引用発明における「側面S2を含む表面」「側面S3を含む表面」、及び「側面S1を含む表面」が、それぞれ本願発明1の互いに対向する「第1側面」「第2側面」、及び「底面」に相当する。

イ 引用発明における「側面S2を含む表面と側面S3を含む表面、及びこれらの2つの表面を接続する側面S1を含む表面に沿った積層方向」は、本願発明における「前記第1側面、前記第2側面及び前記底面に沿った積層方向」に相当し、引用発明において当該方向に絶縁層31?35が積層されるから、当該絶縁層31?35が積層された構成は本願発明における「前記第1側面、前記第2側面及び前記底面に沿った積層方向に絶縁体層が複数積層された積層体」に相当する。

ウ 引用発明では「導体層21にはループ導体L1が設けられ、導体層22にはループ導体L2が設けられ、導体層23にはループ導体L3が設けられ、導体層24にはループ導体L4が設けられ、ループ導体L1?L4によって約4ターンのコイルパターンが構成され」ており、ここで「導体層21?24」は「絶縁層31?35」と交互に積層されているから、引用発明の「コイルパターン」は「絶縁層31?35」上に設けられた「ループ導体L1?L4」によって構成されているといえ、また、引用発明の「コイルパターン」におけるコイル長は「絶縁層31?35」の積層方向と平行になるのは明らかである。したがって、引用発明の「コイルパターン」は、本願発明1の「前記絶縁体層上に巻回されたコイル導体層を複数含み、前記積層方向と平行なコイル長を有する螺旋状のコイル導体」に相当する。

エ 引用発明では「ループ導体L1の一端L1a及び接続導体52,62,72は、コイル層20の2つの側面(角部C1を構成する2つの側面S1,S2)において一体化されて露出し」ているから、一体化された「ループ導体L1の一端L1a及び接続導体52,62,72」は「2つの側面S1,S2」から露出されており、また、「ループ導体L1の一端L1a」は「コイルパターン」に電気的に接続されていることは明らかである。そうしてみると、引用発明の「コイル層20の2つの側面(角部C1を構成する2つの側面S1,S2)において一体化されて露出し」た「ループ導体L1の一端L1a及び接続導体52,62,72」は、本願発明1の「前記コイル導体の第1端と電気的に接続され、前記積層体内において前記第1側面及び前記底面から露出する第1外部導体」に相当する。
同様に、引用発明の「コイル層20の2つの側面(角部C2を構成する2つの側面S1,S3)において一体化されて露出し」た「ループ導体L4の他端L4b及び接続導体41,51,61」は、本願発明1の「前記コイル導体の第2端と電気的に接続され、前記積層体内において前記第2側面及び前記底面から露出する第2外部導体」に相当する。

オ 本願発明1における「第1外部導体」に対応する引用発明の一体化された「ループ導体L1の一端L1a及び接続導体52,62,72」は、その一端を構成する「ループ導体L1の一端L1a」がコイルパターンの一方の端を形成する「ループ導体L1」と同一の導体層21上に設けられている。また、一体化された「ループ導体L1の一端L1a及び接続導体52,62,72」の他端を構成する「接続導体72」がコイルパターンの他方の端を形成する「ループ導体L4」と同一の導体層24上に設けられている。したがって、「ループ導体L1の一端L1a」と「接続導体72」の距離は、コイルパターンの両端を形成する「ループ導体L1」と「ループ導体L4」との距離に等しいといえる。ここで、「ループ導体L1の一端L1a」と「接続導体72」の距離は、一体化された「ループ導体L1の一端L1a及び接続導体52,62,72」の積層方向に沿った幅ということができ、本願発明1の「前記第1外部導体」の「前記積層方向に沿った幅」に相当し、また、引用発明の「ループ導体L1」と「ループ導体L4」との距離はコイルパターンの積層方向と平行なコイル長といえ、本願発明1の「コイル導体」の「コイル長」に相当する。
また、本願発明1における「第2外部導体」に対応する引用発明の一体化された「ループ導体L4の他端L4b及び接続導体41,51,61」は、その一端を構成する「接続導体41」がコイルパターンの一方の端を形成する「ループ導体L1」と同一の導体層21上に設けられている。また、その他端を構成する「ループ導体L4の一端L4b」がコイルパターンの他方の端を形成する「ループ導体L4」と同一の導体層24上に設けられている。したがって、「接続導体41」と「ループ導体L4の一端L4b」との距離は、コイルパターンの両端を形成する「ループ導体L1」と「ループ導体L4」との距離に等しいといえる。ここで、「接続導体41」と「ループ導体L4の一端L4b」との距離は、一体化された「ループ導体L4の一端L4b及び接続導体41,51,61」の積層方向に沿った幅ということができ、本願発明1の「前記第2外部導体」の「前記積層方向に沿った幅」に相当する。
そうしてみると、本願発明1は「前記第1外部導体及び前記第2外部導体の前記積層方向に沿った幅は、いずれも前記コイル長より短い」のに対して、引用発明では本願発明1の「コイル導体のコイル長」に相当する「ループ導体L1とループ導体L4との距離」と、本願発明1の「前記第1外部導体及び前記第2外部導体の前記積層方向に沿った幅」に相当する「ループ導体L1の一端L1aと接続導体72の距離」及び「接続導体41とループ導体L4の一端L4bとの距離」とが等しい点で相違しているといえる。

カ 引用発明の「コイル部品」は「絶縁層31?35と導体層21?24が交互に積層され」たものであるから本願発明1の「積層型インダクタ部品」に相当する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点が認められる。

(一致点)
「 互いに対向する第1側面及び第2側面と、前記第1側面及び第2側面とを接続する底面と、を有し、前記第1側面、前記第2側面及び前記底面に沿った積層方向に絶縁体層が複数積層された積層体と、
前記絶縁体層上に巻回されたコイル導体層を複数含み、前記積層方向と平行なコイル長を有する螺旋状のコイル導体と、
前記コイル導体の第1端と電気的に接続され、前記積層体内において前記第1側面及び前記底面から露出する第1外部導体と、
前記コイル導体の第2端と電気的に接続され、前記積層体内において前記第2側面及び前記底面から露出する第2外部導体と、
を備える、
積層型インダクタ部品。」

(相違点1)本願発明1は「前記第1外部導体及び前記第2外部導体の前記積層方向に沿った幅は、いずれも前記コイル長より短い」のに対して、引用発明において、上記幅に対応する長さは、コイル長に対応する長さと等しくなっている点。

(2)相違点1についての判断
ア 上記「(1)対比」の項で検討したように、引用発明の「ループ導体L1の一端L1a」は「接続導体52,62,72」と一体化されて露出し、引用発明の「ループ導体L4の一端L4b」は「接続導体41,51,61」と一体化されて露出している。そしてこれらの露出面はその表面に外部端子E1、E2を形成するためのものであるから、これらの露出面の幅を外部端子E1、E2の幅より短くすることは、外部端子とコイルパターンとの接続部における抵抗が大きくなるだけであって、当業者に動機付けられないことである。また、引用文献1には、「ループ導体L1の一端L1aと接続導体72の距離」及び「接続導体41とループ導体L4の一端L4bとの距離」を、「ループ導体L1」と「ループ導体L4」との距離(コイル長)に対して短く構成する旨の記載も示唆もなく、短く構成することが容易であることを示唆する公知技術も周知技術も存在しない。
したがって、当業者であっても本願発明1は引用発明から容易に想到できたものとはいえない。

イ また、本願発明1と引用発明は上記相違点1を有するから同一ということはできない。


2.本願発明7について
(1)対比
本願発明7と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
上記「第5」「1.」「(1)対比」の「ア」ないし「エ」、「カ」についてはこれを援用する。

キ 本願発明7における「第1外部導体」に対応する引用発明の一体化された「ループ導体L1の一端L1a及び接続導体52,62,72」は、その一端を構成する「ループ導体L1の一端L1a」がコイルパターンの一方の端を形成する「ループ導体L1」と同一の導体層21上に設けられており、一体化された「ループ導体L1の一端L1a及び接続導体52,62,72」の他端を構成する「接続導体72」がコイルパターンの他方の端を形成する「ループ導体L4」と同一の導体層24上に設けられる。したがって、一体化された「ループ導体L1の一端L1a及び接続導体52,62,72」の積層方向における両側は、コイルパターンの積層方向における両側と、積層方向において同じ位置にあるといえる。
また、本願発明7における「第2外部導体」に対応する引用発明の一体化された「ループ導体L4の他端L4b及び接続導体41,51,61」は、その一端を構成する「接続導体41」がコイルパターンの一方の端を形成する「ループ導体L1」と同一の導体層21上に設けられ、その他端を構成する「ループ導体L4の一端L4b」がコイルパターンの他方の端を形成する「ループ導体L4」と同一の導体層24上に設けられる。したがって、一体化された「ループ導体L4の一端L4b及び接続導体41,51,61」の積層方向における両側は、コイルパターンの積層方向における両側と、積層方向において同じ位置にあるといえる。
そうしてみると、本願発明7は「前記第1外部導体及び前記第2外部導体の前記積層方向における両端は、前記コイル導体の前記積層方向における両端よりも内側に位置している」のに対して、引用発明では「ループ導体L1の一端L1a及び接続導体52,62,72」及び「ループ導体L4の他端L4b及び接続導体41,51,61」のそれぞれ積層方向における両端が、コイルパターンの積層方向における両側と、積層方向における同じ位置に設けられている点で相違しているといえる。

したがって、本願発明7と引用発明との間には、次の一致点、相違点が認められる。

(一致点)
「 互いに対向する第1側面及び第2側面と、前記第1側面及び第2側面とを接続する底面と、を有し、前記第1側面、前記第2側面及び前記底面に沿った積層方向に絶縁体層が複数積層された積層体と、
前記絶縁体層上に巻回されたコイル導体層を複数含み、前記積層方向と平行なコイル長を有する螺旋状のコイル導体と、
前記コイル導体の第1端と電気的に接続され、前記積層体内において前記第1側面及び前記底面から露出する第1外部導体と、
前記コイル導体の第2端と電気的に接続され、前記積層体内において前記第2側面及び前記底面から露出する第2外部導体と、
を備える、
積層型インダクタ部品。」

(相違点2)
本願発明7は「前記第1外部導体及び前記第2外部導体の前記積層方向における両端は、前記コイル導体の前記積層方向における両端よりも内側に位置している」のに対して、引用発明では積層方向における同じ位置に設けられている点。

(2)相違点2についての判断
ア 上記「(1)対比」の項で検討したように、引用発明の「ループ導体L1の一端L1a」は「接続導体52,62,72」と一体化されて露出し、引用発明の「ループ導体L4の一端L4b」は「接続導体41,51,61」と一体化されて露出している。そしてこれらの露出面はその表面に外部端子E1、E2を形成するためのものであるから、これらの露出面の幅を外部端子E1、E2の幅より短くすることは、外部端子とコイルパターンとの接続部における抵抗が大きくなるだけであって、当業者に動機付けられないことである。また、引用文献1には、「ループ導体L1の一端L1aと接続導体72の距離」及び「接続導体41とループ導体L4の一端L4bとの距離」を、「ループ導体L1」と「ループ導体L4」との距離(コイル長)に対して短く、内側に構成する旨の記載も示唆もなく、内側に構成することが容易であることを示唆する公知技術も周知技術も存在しない。
したがって、当業者であっても本願発明7は引用発明から容易に想到できたものとはいえない。

イ また、本願発明7と引用発明は上記相違点2を有するから同一ということはできない。

3.本願発明8について
本願発明8は、本願発明1について検討した上記「1.」で相違点1とした構成を含んでいるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても本願発明8は引用発明から容易に想到できたものとはいえず、また、同一ということもできない。

4.本願発明2ないし6、9について
本願発明2ないし6は、本願発明1の構成を全て含み、さらに構成を減縮した発明である。したがって、上記「1.」で相違点1とした構成を含んでいるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても本願発明2ないし6は引用発明から容易に想到できたものとはいえず、また、同一ということもできない。。
また、請求項9は直接的あるいは間接的に請求項1、7、8のいずれかを引用しており、本願発明9は、本願発明1、7、8の構成を全て含み、さらに構成を減縮した発明である。したがって、本願発明1、7、8と同様の理由により、当業者であっても本願発明9は引用発明から容易に想到できたものとはいえず、また、同一ということもできない。


第6 むすび
以上のとおり、請求項1ないし9に係る発明は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。また、請求項1ないし9に係る発明は引用発明と同一とはいえない。したがって、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2021-09-29 
出願番号 特願2017-240004(P2017-240004)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01F)
P 1 8・ 113- WY (H01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 健一  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 山本 章裕
永井 啓司
発明の名称 積層型インダクタ部品  
代理人 福井 宏司  

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