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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1378470
審判番号 不服2020-12544  
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-09-08 
確定日 2021-09-29 
事件の表示 特願2018-105153「活性成分放出機能を有する水性組成物、及び反復利用可能なコンタクトレンズ製品」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月29日出願公開、特開2019-142833〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2018-105153号(以下「本件出願」という。)は、平成30年5月31日(パリ条約の例による優先権主張 平成30年2月22日 台湾)の出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和 元年 6月26日付け:拒絶理由通知書
令和 元年11月15日 :手続補正書、意見書
令和 2年 5月14日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和 2年 9月 8日 :審判請求書
令和 2年 9月 8日 :手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和2年9月8日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「 【請求項1】
緩衝液、
前記緩衝液に均一に分散され、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxypropyl methyl cellulose)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine)、及びキトサン(chitosan)からなる群から選ばれる少なくとも2つの結合剤、及び
前記結合剤により吸収されて前記緩衝液に保存され、ビタミン、植物性化学物質、成長因子、治療用化合物、天然誘導成分、生物活性成分及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも1つの活性成分を含む、活性成分放出機能を有する水性組成物。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
「 【請求項1】
コンタクトレンズを保存するために使用される水性組成物であって、
緩衝液、
前記緩衝液に均一に分散され、ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxypropyl methyl cellulose)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine)、及びキトサン(chitosan)からなる群から選ばれる少なくとも2つの結合剤、及び
前記結合剤により吸収されて前記緩衝液に保存され、ビタミン、植物性化学物質、成長因子、治療用化合物、天然誘導成分、生物活性成分及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも1つの活性成分を含み、前記活性成分が、前記緩衝液からコンタクトレンズ上に放出される、活性成分放出機能を有する水性組成物。」

2 本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1の、発明を特定するために必要な事項である「水性組成物」を、本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0014】の記載に基づいて、「コンタクトレンズを保存するために使用される」と用途を限定するとともに、発明を特定するために必要な事項である「活性成分」を、本件出願の願書に最初に添付した明細書の【0013】、【0014】等の記載に基づいて、「緩衝液からコンタクトレンズ上に放出される」という事項を付加することでその機能を限定して、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)とする補正事項を含むものである。
ここで、本件補正前の請求項1に係る発明と、本件補正後発明の産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は、同一である(本件出願の明細書の【0001】、【0007】?【0014】)。
そうしてみると、本件補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすものであり、また、同条第5項2号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする補正を含むものである。
そこで、本件補正後発明が特許法17条の2条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下検討する。

3 独立特許要件違反についての判断
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された、特開2012-189993号公報(以下「引用文献1」という。)は、本件出願の優先権主張の日前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。
なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量パーセント濃度が1×10^(-5)%?3%のビタミンと、
重量パーセント濃度が5×10^(-3)%?1.0%の親水性高分子と、
重量パーセント濃度が1×10^(-3)?1%の界面活性剤と、
ホウ酸塩緩衝溶液又はリン酸塩緩衝溶液とを含むコンタクトレンズ用液体組成物。
【請求項2】
前記ビタミンは、重量パーセント濃度が0.01%?1%のビタミンAを含む請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
前記ビタミンは、重量パーセント濃度が0.01%?1.5%のビタミンB3を含む請求項1に記載の液体組成物。
【請求項4】
前記ビタミンは、重量パーセント濃度が0.01%?1.5%のビタミンB6を含む請求項1に記載の液体組成物。
【請求項5】
前記ビタミンは、重量パーセント濃度が0.01%?1.5%のビタミンB12を含む請求項1に記載の液体組成物。
【請求項6】
前記ビタミンは、重量パーセント濃度が0.01%?1%のビタミンEを含む請求項1に記載の液体組成物。
【請求項7】
前記親水性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びポリエチレングリコールからなる群から選ばれるものである請求項1に記載の液体組成物。
【請求項8】
前記親水性高分子は、重量パーセント濃度が0.01%?0.1%である請求項1に記載の液体組成物。
【請求項9】
前記界面活性剤は、TWEEN 80^(TM)及びGEROPON^(TM) SBFA-30の少なくとも1つを含み、且つ重量パーセント濃度が0.001%?0.08%である請求項1に記載の液体組成物。
【請求項10】
前記ホウ酸塩緩衝溶液は、ホウ酸と、ホウ酸ナトリウムと、塩化ナトリウムとを含む請求項1に記載の液体組成物。
【請求項11】
前記リン酸塩緩衝溶液は、リン酸水素ナトリウムと、リン酸二水素ナトリウムと、塩化ナトリウムとを含む請求項1に記載の液体組成物。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ用液体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の文明及び教育の普及や発展に伴って、近視罹患者が益々増えている。便利性及び習慣性を考慮した上で、コンタクトレンズを利用する率は、かなり高い。コンタクトレンズを使用する場合、必ず洗浄して手入れしなければならず、そうしなければコンタクトレンズ上の微生物又は汚染物によって眼球を傷つけてしまう可能性がある。
【0003】
コンタクトレンズの手入れ方法として、通常、界面活性剤を含有するコンタクトレンズ洗浄液を利用して、レンズを洗浄する。洗浄ステップの後、通常、レンズ上の残存物を除去するために、コンタクトレンズを溶液に浸す。また、手入れ方法として、レンズを消毒して、レンズ上にいる可能性のある微生物を除去することがある。従来のコンタクトレンズ保存液は、コンタクトレンズに対し、既に良好な洗浄及び抗菌効果の提供が可能となっている。
【0004】
しかしながら、コンタクトレンズを長時間装着すると、眼精疲労や不快感を引き起こしやすく、従来のコンタクトレンズ保存液では、前記問題を効果的に改善することができない。そのため、現在、コンタクトレンズ利用者の眼球の疲労感や不快感を解消できるコンタクトレンズ保存液が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一目的は、利用者がコンタクトレンズを使用する際に、眼球の疲労感を解消したり和らげたりすることを実現可能にすると同時に、コンタクトレンズの保湿機能を兼備するコンタクトレンズ用液体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態によると、前記コンタクトレンズ用液体組成物は、重量パーセント濃度が約1×10^(-5)%?約3%の1種以上のビタミンと、重量パーセント濃度が約5×10^(-3)%?約1.0%の1種以上の親水性高分子と、重量パーセント濃度が約1×10^(-3)%?約1%の1種以上の界面活性剤と、ホウ酸塩緩衝溶液又はリン酸塩緩衝溶液とを含む。
・・・省略・・・
【0010】
本発明の一実施例によると、親水性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びポリエチレングリコールからなる群から選ばれる。親水性高分子は、重量パーセント濃度が約0.01%?約0.1%である。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の記述をより詳細で完備なものにするように、以下に、本発明の実施態様と具体的な実施例に対して説明的な記述を提示するが、これは、本発明を実施・運用する具体的な実施例の唯一の形式ではない。有益になる場合、下記で開示された各実施例を、更に記載して説明せずに、互いに組み合わせたり取り替えたりすることができる。閲覧者が下記実施例を十分に理解できるように、以下の説明において、数多くの特定の細部について詳しく記述するが、これらの特定の細部がなくても、本発明の実施例を実行することができる。
【0014】
本発明は、ハードコンタクトレンズやソフトコンタクトレンズに使用可能なコンタクトレンズ用液体組成物を開示する。ソフトコンタクトレンズのレンズとしては、例えば、親水性ハイドロゲルレンズ、或いはシリコーン高分子軟性コンタクトレンズが挙げられる。
【0015】
通常の使用の場合、コンタクトレンズを、液体組成物と十分接触させるようにその中に浸す。その利用者がコンタクトレンズを使用したり、装着する場合、コンタクトレンズを液体組成物から取り出して、コンタクトレンズを眼球に装着する。コンタクトレンズが液体組成物に浸されている場合、液体組成物における成分がコンタクトレンズに付着したり吸着することがある。利用者がコンタクトレンズを眼球に装着すると、コンタクトレンズに付着したり吸着した成分は、眼球に入る。
【0016】
本発明の実施形態による液体組成物は、少なくとも、ビタミンと、親水性高分子と、界面活性剤と、少なくとも1つのホウ酸塩緩衝溶液又はリン酸塩緩衝溶液とを含む。
【0017】
ビタミンは、コンタクトレンズ利用者の眼球の疲労感を解消するのに有益である。液体組成物におけるビタミンは、コンタクトレンズに吸着したり付着して、利用者がコンタクトレンズを装着することに伴って眼球に入り、眼球組織に吸収される。前記ビタミンとしては、水溶性ビタミン、又は脂溶性ビタミンであってもよい。水溶性ビタミンとしては、例えば、ビタミンB群、脂溶性ビタミンとしては、例えば、ビタミンA又はビタミンEが挙げられる。
・・・省略・・・
【0022】
親水性高分子は、コンタクトレンズがより多くのビタミンを吸着するよう促すと同時に、眼球の涙液によって、コンタクトレンズ上のビタミンが急速に流失してしまうのを避けることができる。液体組成物におけるビタミンはコンタクトレンズに吸着することができるが、その吸着量は、一般的にわずかしかない。液体組成物における親水性高分子は、コンタクトレンズ上のビタミンの吸着量及び付着量を効果的に向上させることができる。具体的には、液体組成物における親水性高分子が、コンタクトレンズに吸着して、ビタミンと吸着作用を起こすことで、コンタクトレンズにおけるビタミンの吸着量を増加させる。また、親水性高分子は、コンタクトレンズの表面に吸着するビタミンを維持する助けをし、眼球からの涙液によって、ビタミンがコンタクトレンズから溶解し、除去されて、急速に流失してしまうことを避けることができる。特に、コンタクトレンズを装着する際、コンタクトレンズが眼球と接触する瞬間に、常に涙液の大量分泌が伴うので、コンタクトレンズに元来吸着しているビタミンを適宜に維持できなければ、ビタミンは、涙液中に急速に溶解して、涙液が眼球から離れることに伴い、眼球に吸収されなくなる。この点から見れば、本発明は、単にビタミンを添加するものではなく、ビタミンと親水性高分子との間の交互作用に関するものである。より明確には、本発明の実施形態に係る技術内容は、ビタミン、親水性高分子、コンタクトレンズ、眼球、涙液からなる生化学系に関し、つまり、この生化学系は、コンタクトレンズをかけることによって利用者の眼球にビタミンを効果的に吸収させるものである。
【0023】
親水性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール(Polyvinyl Alcohol;PVA)、ポリビニルピロリドン(Polyvinylpyrrolidone;PVP)、ヒアルロン酸(Hyaluronic acid;HA)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(Hydroxypropyl methylcellulose;HPMC)又はポリエチレングリコール(Polyethylene glycol;PEG)が挙げられる。一実施形態において、ポリビニルアルコール及びポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、約2000g/mol?約50000g/molであり、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒアルロン酸の重量平均分子量は、約50000g/mol?約350000g/molである。前記親水性高分子はコンタクトレンズの保湿も助ける。
【0024】
液体組成物における親水性高分子の濃度を、ビタミンの種類及び濃度によって調整することができる。一実施形態において、コンタクトレンズに十分にビタミンを吸着させるために、親水性高分子の重量パーセント濃度を約5×10^(-3)%?約0.5%、好ましくは約0.01%?約0.1%にする。
・・・省略・・・
【0027】
ホウ酸塩緩衝溶液又はリン酸塩緩衝溶液は、pH値が安定した環境を提供することに用いられる。例えば、ホウ酸塩緩衝溶液は、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、及び塩化ナトリウムを含んでもよい。リン酸塩緩衝溶液は、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、及び塩化ナトリウムを含んでもよい。また、前記液体組成物の浸透圧が、例えば、約200mOsm/Kg?約500mOsm/Kgのような適宜の範囲に維持するように、前記塩類緩衝溶液に、適量の塩化ナトリウムを含ませる。」

エ 「【0031】
以下、複数の代表的な実施例を列挙する。
・・・省略・・・
【0034】
実施例3
【表3】

【0035】
実施例4
【表4】



(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)によれば、引用文献1には、請求項1を引用する請求項7として、次の「コンタクトレンズ用液体組成物」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「重量パーセント濃度が1×10^(-5)%?3%のビタミンと、
重量パーセント濃度が5×10^(-3)%?1.0%の親水性高分子と、
重量パーセント濃度が1×10^(-3)?1%の界面活性剤と、
ホウ酸塩緩衝溶液又はリン酸塩緩衝溶液とを含み、
前記親水性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びポリエチレングリコールからなる群から選ばれるものであるコンタクトレンズ用液体組成物。」

(3)対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

ア 緩衝液
引用発明の「ホウ酸塩緩衝溶液又はリン酸塩緩衝溶液」は、その文言が意味するとおり、本件補正後発明の「緩衝液」に相当する。

イ 結合剤
引用発明の「親水性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒアルロン酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びポリエチレングリコールからなる群から選ばれるものである」。そして、引用発明の「ヒアルロン酸」及び「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」は、技術的にみて、ビタミン等の結合剤として機能するといえる。ここで、引用発明の「ヒアルロン酸」及び「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」は、その文言が意味するとおり、それぞれ本件補正後発明の「ヒアルロン酸(hyaluronic acid)」及び「ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxypropyl methyl cellulose)」に相当する。
以上によれば、引用発明の「親水性高分子」と、本件補正後発明の「結合剤」とは、「ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxypropyl methyl cellulose)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine)、及びキトサン(chitosan)からなる群から選ばれる少なくとも」「1つの結合剤」という点で共通する。
(当合議体注:引用文献1の【0022】の「液体組成物における親水性高分子は、コンタクトレンズ上のビタミンの吸着量及び付着量を効果的に向上させることができる。具体的には、液体組成物における親水性高分子が、コンタクトレンズに吸着して、ビタミンと吸着作用を起こすことで、コンタクトレンズにおけるビタミンの吸着量を増加させる。また、親水性高分子は、コンタクトレンズの表面に吸着するビタミンを維持する助けをし、眼球からの涙液によって、ビタミンがコンタクトレンズから溶解し、除去されて、急速に流失してしまうことを避けることができる。」との記載からも確認できる事項である。)

ウ 活性成分
上記イの吸着作用は、引用発明の「親水性高分子」による「ビタミン」の吸着作用とみることもできる。そうしてみると、引用発明の「ビタミン」は、「親水性高分子」により吸収されるものであるといえる。
また、引用発明の「ビタミン」は、引用発明の「液体組成物」に、「ホウ酸塩緩衝溶液又はリン酸塩緩衝溶液」及び「親水性高分子」とともに含まれるものであり、ビタミンと吸着した親水性高分子が、引用発明の「液体組成物」の主成分である「ホウ酸塩緩衝溶液又はリン酸塩緩衝溶液」に含まれることから、引用発明の「ビタミン」が「親水性高分子」により吸収されて「ホウ酸塩緩衝溶液又はリン酸塩緩衝溶液」に保存されているといえる。
さらに、引用発明の「ビタミン」は、その文言からみて、本件補正後発明の「ビタミン」に相当し、その機能からみて、「活性成分」ともいえる。
くわえて、引用発明の「ビタミン」は、引用文献1の【0022】に記載されているとおり、コンタクトレンズの表面に吸着されるものであるから、コンタクトレンズ上に放出されるものともいえる。
以上総合すると、引用発明の「ビタミン」と、本件補正後発明の「活性成分」とは、「前記結合剤により吸収されて緩衝液に保存され、ビタミン、植物性化学物質、成長因子、治療用化合物、天然誘導成分、生物活性成分及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも1つの活性成分を含み、前記活性成分が、緩衝液からコンタクトレンズ上に放出される」点で共通する。
(当合議体注:本件補正後発明の「活性成分が、前記緩衝液からコンタクトレンズ上に放出される」について、「緩衝液」は、「活性成分」及び「結合剤」とは別の構成(成分)であるから、「活性成分が、前記緩衝液からコンタクトレンズ上に放出される」との記載はその意味が必ずしも明確とはいえないが、「前記緩衝液」が、活性成分が保存されている(含まれている)緩衝液を意味するものと善解して、上記対比を行った。)

エ 水性組成物
引用発明の「液体組成物」は、「ビタミンと、」「親水性高分子と、」「ホウ酸塩緩衝溶液又はリン酸塩緩衝溶液とを含」む「コンタクトレンズ用液体組成物」である。ここで、引用発明の「コンタクトレンズ用液体組成物」が、少なくともコンタクトレンズに使用される組成物を意味することは文言上明らかである。
そして、引用発明の「ビタミン」、「親水性高分子」及び「ホウ酸塩緩衝溶液又はリン酸塩緩衝溶液」についての対比は、上記ア?ウに示したとおりである。
また、引用文献1の【0022】には、「親水性高分子は、コンタクトレンズの表面に吸着するビタミンを維持する助けをし、眼球からの涙液によって、ビタミンがコンタクトレンズから溶解し、除去されて、急速に流失してしまうことを避けることができる。」と記載されている。この記載によれば、引用発明の「液体組成物」は、コンタクトレンズ上へビタミン(活性成分)を放出する機能を有しているといえる。
以上によれば、引用発明の「液体組成物」と、本願補正後発明の「組成物」とは、「コンタクトレンズに使用される組成物であって、」「緩衝液、」「結合剤、及び」「活性成分を含み、」「活性成分放出機能を有する」という点において共通する。

(4)一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「コンタクトレンズに使用される組成物であって、
緩衝液、
ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxypropyl methyl cellulose)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine)、及びキトサン(chitosan)からなる群から選ばれる少なくとも1つの結合剤、及び
前記結合剤により吸収されて前記緩衝液に保存され、ビタミン、植物性化学物質、成長因子、治療用化合物、天然誘導成分、生物活性成分及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる少なくとも1つの活性成分を含み、前記活性成分が、前記緩衝液からコンタクトレンズ上に放出される、活性成分放出機能を有する組成物。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違、または、一応相違する。
(相違点1)
「組成物」が、本件補正後発明では、「コンタクトレンズを保存するために使用される」のに対して、引用発明は、「コンタクトレンズ用」ではあるが、コンタクトレンズを保存するために使用されるものであるとは特定されていない点。

(相違点2)
「組成物」が、本件補正後発明は、「水性組成物」であるのに対して、引用発明では、「水性組成物」であるとは特定されていない点。

(相違点3)
「結合剤」が、本件補正後発明では、「緩衝液に均一に分散され」ているのに対して、引用発明では、そのように特定されていない点。

(相違点4)
「結合剤」が、本件補正後発明は、「ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxypropyl methyl cellulose)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine)、及びキトサン(chitosan)からなる群から選ばれる少なくとも2つの結合剤」であると特定されているのに対して、引用発明では、このように特定されていない点。

(5)判断
ア 相違点1について
引用文献1の【0004】には、「現在、コンタクトレンズ利用者の眼球の疲労感や不快感を解消できるコンタクトレンズ保存液が望まれている。」、【0015】には、「通常の使用の場合、コンタクトレンズを、液体組成物と十分接触させるようにその中に浸す。その利用者がコンタクトレンズを使用したり、装着する場合、コンタクトレンズを液体組成物から取り出して、コンタクトレンズを眼球に装着する。」と記載されている。
そうすると、引用発明の「液体組成物」は、コンタクトレンズを保存するために使用することに適したものといえる。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。
仮にそうでないとしても、当業者が、引用発明の「液体組成物」をコンタクトレンズを保存するのに適したものに調整しようとすることは引用文献1が示唆する範囲内の事項である。

イ 相違点2について
引用文献1の【0034】及び【0035】には、「液体組成物」の成分と各成分の重量パーセント比が記載されており、各成分の重量パーセント比の値からみて、上記「液体組成物」の主成分は、「バランス物質」としての水であることが理解できる。
そうしてみると、引用発明の「液体組成物」としての水性組成物は、引用文献1に記載されているに等しい事項である。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。
仮にそうでないとしても、相違点2に係る本願補正後発明の構成は、引用文献1の上記記載に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。

ウ 相違点3について
引用発明における「親水性高分子」が、「ホウ酸塩緩衝溶液又はリン酸塩緩衝溶液」に均一に分散された状態で存在していることは、技術的にみて明らかといえる。
したがって、相違点3は実質的な相違点ではない。
仮にそうでないとしても、引用発明の「液体組成物」中に「親水性高分子」を均一に分散させることは、活性成分をコンタクトレンズ上に均一に放出するために当業者が当然考慮すべき事項である。

エ 相違点4について
コンタクトレンズの保存液に関する技術分野において、液体組成物中の高分子として、「ヒアルロン酸」や「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」等の同じような特性を有する材料を、組み合わせて用いてもよいことは、例えば、特開2007-39661号公報の【0038】?【0039】、特開2007-137817号公報の【0010】、【0030】、特開2007-264622号公報の【0012】、特開2017-14283号公報の【0043】等に記載されているように本件出願の優先権主張の日前に周知の技術である。
ここで、複数の結合剤を適宜組み合わせて保存液の機能の最適化を行うことは有益であるから、引用発明において、上記周知の技術を採用し、「ヒアルロン酸」及び「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」から選ばれる2つの親水性高分子を用いて、上記相違点4に係る構成を得ることは、当業者が容易に想到し得たものである。

(6)発明の効果について
本件出願の明細書の【0007】には、発明の効果として、「活性成分がコンタクトレンズに放出できる。また、この水性組成物は持続的に反復利用可能で、活性成分の効果を維持できる。」と記載されている。
しかしながら、このような効果は、引用発明が奏する効果である。

(7)請求人の主張について
請求人は、令和2年9月8日提出の審判請求書において、概略、本件発明とは異なる(コンタクトレンズへの吸着を阻害するという)技術思想に基づくものである引用文献3、6、7に記載された事項は、本件発明の進歩性を否定する上での周知技術にはなり得ない旨、主張している。

上記主張について検討する。
前記(5)エで述べたとおり、コンタクトレンズの技術分野において、同じような特性を有する材料を、組み合わせて用いてもよいことは、技術思想によらず周知の事項であり、原査定において認定した周知技術も、コンタクトレンズの吸着を阻害する等の具体的な技術思想には限定して認定したものではない。
また、本件補正後発明の「ヒアルロン酸(hyaluronic acid)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxypropyl methyl cellulose)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine)、及びキトサン(chitosan)からなる群から選ばれる」「結合剤」を、「少なくとも2つの結合剤」とすることの効果は、本件出願の明細書には記載されておらず、特段の効果は認められない。
以上のとおり、請求人の主張は採用できない。

(8)小括
本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正の却下の決定のむすび
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本件出願の優先権主張の日前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物、特開2012-189993号公報(引用文献1)に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用文献及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は、前記「第2」[理由]3(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、前記「第2」[理由]3で検討した、本件補正後発明から「コンタクトレンズを保存するために使用される水性組成物」、「活性成分が、緩衝液からコンタクトレンズ上に放出される」との限定を省いたものに相当する。そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに上記限定を付加したものに相当する、本件補正後発明が、前記第2の[理由]3(5)?(9)に記載したとおり、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1に係る発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2021-04-15 
結審通知日 2021-04-20 
審決日 2021-05-12 
出願番号 特願2018-105153(P2018-105153)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山▲崎▼ 和子  
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 井亀 諭
関根 洋之
発明の名称 活性成分放出機能を有する水性組成物、及び反復利用可能なコンタクトレンズ製品  
代理人 特許業務法人 エビス国際特許事務所  
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